(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】熱電素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/851 20230101AFI20241125BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20241125BHJP
【FI】
H10N10/851
H10N10/01
(21)【出願番号】P 2020155900
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】398032289
【氏名又は名称】株式会社テックスイージー
(74)【代理人】
【識別番号】100111084
【氏名又は名称】藤野 義昭
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆秀
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-152691(JP,A)
【文献】特開2019-036623(JP,A)
【文献】特開2019-012828(JP,A)
【文献】国際公開第2019/170826(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/851
H10N 10/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムシリサイドで構成される熱電素子であって、
ドーパントとしてリチウムを含有しており、
再結晶領域と通常焼結領域と
を備え
、
前記再結晶領域は、n型の熱電特性を示し、
前記通常焼結領域は、p型の熱電特性を示す
ことを特徴とする熱電素子。
【請求項2】
前記再結晶領域及び前記通常焼結領域は、隣接するように配置されている
ことを特徴とする請求項
1に記載の熱電素子。
【請求項3】
前記再結晶領域は、一方の端部側に配置されており、前記通常焼結領域は、他方の端部側に配置されている
ことを特徴とする請求項1
又2に記載の熱電素子。
【請求項4】
前記再結晶領域側の端部が低温端となり、
前記通常焼結領域側の端部が高温端となる
ことを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載の熱電素子。
【請求項5】
前記熱電素子は、柱状の形状を有する
ことを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載の熱電素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の熱電素子の製造方法であって、
ドーパントとしてリチウムを含有するMg
2Si系熱電材料を用意する工程と、
前記Mg
2Si系熱電材料を焼結する焼結工程と
を備え、
前記焼結工程において、焼結前に、前記Mg
2Si系熱電材料の周囲に絶縁層を設け、前記Mg
2Si系熱電材料の周囲に前記絶縁層を設けた状態で焼結を行う
ことを特徴とする熱電素子の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁層は、窒化ホウ素で構成される
ことを特徴とする請求項
6に記載の熱電素子の製造方法。
【請求項8】
前記焼結工程で得られた焼結体の加工を行う加工工程を更に備え、当該加工工程において、前記焼結体が有する再結晶領域及び通常焼結領域の両方を含むように熱電素子を切り出す
ことを特徴とする請求項
6又は
7に記載の熱電素子の製造方法。
【請求項9】
前記Mg
2Si系熱電材料を用意する工程は、
Mg
2Si系熱電材料の合成に使用される原料に、ドーパントとしてリチウムを添加するリチウム添加工程と、
前記リチウム添加工程でリチウムが添加された原料に対して熱処理を行って、Mg
2Si系熱電材料を合成する合成工程と
を備えることを特徴とする請求項
6~
8のいずれか一項に記載の熱電素子の製造方法。
【請求項10】
前記原料は、マグネシウム及びケイ素である
ことを特徴とする請求項
9に記載の熱電素子の製造方法。
【請求項11】
前記Mg
2Si系熱電材料の合成に使用される原料を加圧成形する成形工程を更に備え、
前記合成工程は、前記成形工程で成形された合成用成形体に対して熱処理を行って、Mg
2Si系熱電材料を合成する
ことを特徴とする請求項
9又は
10に記載の熱電素子の製造方法。
【請求項12】
ドーパントのリチウム源として、リチウム化合物を使用する
ことを特徴とする請求項
6~
11のいずれか一項に記載の熱電素子の製造方法。
【請求項13】
前記焼結工程では、放電プラズマ焼結法による加圧焼結を行う
ことを特徴とする請求項
6~
12のいずれか一項に記載の熱電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電素子及びその製造方法、特に、Mg2Si系熱電素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱電発電用の熱電変換モジュールが知られている。このような熱電変換モジュールは、一般に、板状に並べられた複数のπ型熱電素子(n型熱電素子及びp型熱電素子の一端を金属電極で接合したもの)と、複数のπ型熱電素子を電気的に接続するための複数の金属電極と、複数のπ型熱電素子及び複数の金属電極を挟持する一対の絶縁基板(例えば、セラミック基板)とによって構成されている。
【0003】
熱電発電用の熱電変換モジュールにおいては、高温面(高温側絶縁基板)と低温面(低温側絶縁基板)との間に所定(例えば、300℃程度)の温度差を与えることによって発電が行われる。
【0004】
このように熱電発電用の熱電変換モジュールは、n型熱電素子及びp型熱電素子によって構成されると共に、各熱電素子の両端に大きな温度差が与えられて使用されることから、熱電変換モジュールを構成するn型熱電素子及びp型熱電素子については、両者の熱膨張率が同程度であることが望ましい。そのためには、例えば、n型熱電素子及びp型熱電素子を、同種の熱電材料で構成するようにすればよい。
【0005】
一方、従来より、マグネシウムシリサイド(Mg2Si)に各種ドーパントを含有させることで熱電特性を向上させたマグネシウムシリサイド(Mg2Si)系熱電材料が知られており、Mg2Si系熱電材料を使用した熱電素子は、比較的高い熱電性能(発電性能)を有することが知られている。
【0006】
しかしながら、従来のMg2Si系熱電素子は、n型のもの(負のゼーベック係数を有するもの)が多い一方で、p型のもの(正のゼーベック係数を有するもの)は少なく、特に、大気中での熱安定性に優れたp型のものは知られていなかった。
【0007】
なお、特開2011-29632号公報には、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であり、実質的にドーパントを含まないマグネシウム-ケイ素複合材料、及び、ドーパントを原子量比で0.10~2.00at%含有するマグネシウム-ケイ素複合材料が開示されており、ドーパントとしてSbを含む場合、高温における耐久性に優れた熱電変換材料を得ることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、p型の熱電特性(正のゼーベック係数)を有すると共に、高い熱安定性を有するMg2Si系熱電素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る熱電素子は、マグネシウムシリサイドで構成される熱電素子であって、ドーパントとしてリチウムを含有しており、再結晶領域と通常焼結領域とを備えることを特徴とする。
【0011】
この場合において、前記再結晶領域は、n型の熱電特性を示し、前記通常焼結領域は、p型の熱電特性を示すようにしてもよい。
【0012】
また、以上の場合において、前記再結晶領域及び前記通常焼結領域は、隣接するように配置されているようにしてもよい。
【0013】
また、以上の場合において、前記再結晶領域は、一方の端部側に配置されており、前記通常焼結領域は、他方の端部側に配置されているようにしてもよい。
【0014】
また、以上の場合において、前記再結晶領域側の端部が低温端となり、前記通常焼結領域側の端部が高温端となるようにしてもよい。
【0015】
また、以上の場合において、前記熱電素子は、柱状(例えば、直方体状)の形状を有するようにしてもよい。
【0016】
本発明に係る熱電素子の製造方法は、ドーパントとしてリチウムを含有するMg2Si系熱電材料を用意する工程と、前記Mg2Si系熱電材料を焼結する焼結工程とを備え、前記焼結工程において、焼結前に、前記Mg2Si系熱電材料の周囲に絶縁層を設け、前記Mg2Si系熱電材料の周囲に前記絶縁層を設けた状態で焼結を行うことを特徴とする。
【0017】
この場合において、前記絶縁層は、窒化ホウ素で構成されるようにしてもよい。
【0018】
また、以上の場合において、前記焼結工程で得られた焼結体の加工を行う加工工程を更に備え、当該加工工程において、前記焼結体が有する再結晶領域及び通常焼結領域の両方を含むように熱電素子を切り出すようにしてもよい。
【0019】
また、以上の場合において、前記Mg2Si系熱電材料を用意する工程は、Mg2Si系熱電材料の合成に使用される原料に、ドーパントとしてリチウムを添加するリチウム添加工程と、前記リチウム添加工程でリチウムが添加された原料に対して熱処理を行って、Mg2Si系熱電材料を合成する合成工程とを備えるようにしてもよい。
【0020】
この場合において、前記原料は、マグネシウム及びケイ素であるようにしてもよい。
【0021】
また、以上の場合において、前記Mg2Si系熱電材料の合成に使用される原料を加圧成形する成形工程を更に備え、前記合成工程は、前記成形工程で成形された合成用成形体に対して熱処理を行って、Mg2Si系熱電材料を合成するようにしてもよい。
【0022】
また、以上の場合において、ドーパントのリチウム源として、リチウム化合物(例えば、炭酸リチウム又は酢酸リチウム)を使用するようにしてもよい。
【0023】
また、以上の場合において、前記焼結工程では、放電プラズマ焼結法による加圧焼結を行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、p型の熱電特性(正のゼーベック係数)を有すると共に、高い熱安定性を有する熱電素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明による熱電素子の製造方法を説明するための図である。
【
図2】焼結工程において使用される焼結治具の構成を説明するための断面図である。
【
図3】焼結工程によって得られる焼結体の構成を説明するための図である。
【
図4】加工工程における加工方法を説明するための図である。
【
図5】実施例1の焼結体の写真(図面代用写真)である。
【
図7】各熱電素子の熱耐久性の評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0027】
本発明による熱電素子の製造方法は、Mg2Si系熱電素子を製造するものであって、ドーパントとしてリチウム(Li)を使用するものである。
【0028】
図1は、本発明による熱電素子の製造方法を説明するための図である。本実施形態においては、最初の秤量工程において、ドーパントとしてのリチウムの添加が行われる。また、本実施形態においては、化学的に活性である純リチウムと比較して、化学的に安定で、取り扱いが容易な炭酸リチウム(Li
2CO
3)をドーパントのリチウム源として使用する。
【0029】
同図に示すように、まず、原料の秤量を行う(S1)。例えば、主原料となるマグネシウム(Mg)粉末及びケイ素(Si)粉末と、ドーパントのリチウム源としての炭酸リチウム(Li2CO3)粉末の秤量を行う。
【0030】
次に、秤量工程S1において秤量された原料粉末が均一になるように、原料粉末の混合を行う(S2)。例えば、混合機等を使用して、原料粉末の混合を行う。
【0031】
次に、混合工程S2で均一に混合された原料粉末を加圧成形することで合成用成形体を作製する(S3)。例えば、適当な面圧(例えば、12MPa程度)で冷間一軸プレス加工を行うことで、合成用成形体を作製する。
【0032】
次に、成形工程S3で作製された合成用成形体に対して熱処理を行うことで、Mg2Si系熱電材料を合成する(S4)。例えば、合成用成形体を半密閉可能な容器(例えば、炭素製容器)内に収容した上で、電気炉内に入れて、アルゴン(Ar)雰囲気中、650℃~800℃(例えば、700℃)の温度に1~4時間程度保持することで、Mg2Si系熱電材料を合成する。
【0033】
次に、合成工程S4で合成されたMg2Si系熱電材料を粉砕する(S5)。例えば、自動乳鉢やボールミル等によって、所望の粒径(例えば、38μm以下)になるように粉砕する。
【0034】
次に、粉砕工程S5で粉砕されたMg
2Si系熱電材料の焼結を行う(S6)。本実施形態においては、放電プラズマ焼結法(SPS)による加圧焼結を行う。更に、本実施形態においては、焼結工程S6において特定の焼結方法を採用することにより、焼結時に、Mg
2Si系熱電材料の一部が再結晶することとなり、最終的に得られる焼結体には、再結晶した領域(再結晶領域)と、再結晶していない領域(通常焼結領域)とが含まれることになる(
図5参照)。焼結工程S6における焼結方法の詳細については後述する。
【0035】
次に、焼結工程S6で得られた焼結体を、所定の形状になるように加工する(S7)。例えば、複数の直方体状素子が得られるように、焼結体をワイヤカッター等の切断装置で切断する。この際、本実施形態においては、各熱電素子に、再結晶領域と通常焼結領域の両方が含まれるように、焼結体の切断を行う。
【0036】
以上のような工程S1~S7を経て製造された熱電素子は、全体としてp型の熱電特性(正のゼーベック係数)を有すると共に、高い熱安定性を有することになる。
【0037】
次に、焼結工程S6における焼結方法の詳細について説明する。
【0038】
図2は、焼結工程S6における焼結方法を説明するための図である。より具体的には、同図は、焼結工程において使用される焼結治具の構成を説明するための断面図を示している。
【0039】
同図に示すように、焼結治具200は、円筒状の炭素製ダイス211と、円柱状の一対の炭素製パンチ212,213とを備えており、円筒状のダイス211と、ダイス211の貫通孔に上下から挿入された円柱状のパンチ212,213とによって構成される円柱状の空間内に、Mg2Si系熱電材料201が充填されている。
【0040】
また、同図に示すように、焼結治具200は、ダイス211の内周面に沿うように配置された円筒状のカーボンペーパー221と、各パンチ212,213とMg2Si系熱電材料201との間に配置された円板状のカーボンペーパー222,223とを備える。
【0041】
カーボンペーパー221~223は、Mg2Si系熱電材料201が、ダイス211及びパンチ212,213に付着するのを防止するためのものである。各カーボンペーパー221~223は、例えば、シート状のカーボンペーパーを所定の形状に切断等することにより作製される。
【0042】
更に、同図に示すように、円筒状カーボンペーパー221の内側(パンチ212,213及びMg2Si系熱電材料201と接する側)と、円板状カーボンペーパー222,223の外側(パンチ212,213と接する側)には、BN塗布層231~233が形成されている。
【0043】
BN塗布層231~233は、ダイス211及びパンチ212,213と、Mg2Si系熱電材料201とを電気的に絶縁をするための絶縁層であって、本実施形態においては、各カーボンペーパー221~223に窒化ホウ素を塗布することによって形成されている。BN塗布層231~233は、一定の電気的絶縁が得られるように、一定の厚み(例えば、100μm以上の厚み)を有するように形成される。BN塗布層231~233の厚みに応じて、再結晶領域の大きさが変わることとなり、例えば、BN塗布層231~233の厚みを増すと、再結晶領域が拡大することになる。
【0044】
次に、
図2に示した焼結治具200の準備手順について説明する。
【0045】
まず、円筒状カーボンペーパー221及び円板状カーボンペーパー222,223を構成するカーボンペーパーの片面にBN塗布層231~233を形成する。BN塗布層231~233の形成は、例えば、カーボンペーパーの片面に、BNスプレー(ファインケミカルジャパン株式会社製)を塗布することで行われる。
【0046】
次に、円筒状カーボンペーパー221を構成するカーボンペーパーを、BN塗布層231が形成された面が内側(パンチ212,213側)にくるようにダイス211に設置した上で、下パンチ213を挿入する。
【0047】
次に、下側の円板状カーボンペーパー223を構成するカーボンペーパーを、BN塗布層233が形成された面が外側(パンチ213側)にくるように下側パンチ213上に設置した上で、Mg2Si系熱電材料201を充填する。
【0048】
次に、上側の円板状カーボンペーパー222を構成するカーボンペーパーを、BN塗布層232が形成された面が外側(パンチ212側)にくるようにMg2Si系熱電材料201の上に設置した上で、上パンチ212を挿入する。
【0049】
以上のようにして、焼結工程S6において使用される焼結治具200の準備が完了する。
【0050】
以上のような構成を有する焼結治具を使用して、Mg2Si系熱電材料の周囲にBN塗布層(絶縁層)を設けた状態で、放電プラズマ焼結法(SPS)による加圧焼結を行うことにより、一部に再結晶した領域(再結晶領域)を有する焼結体が得られることになる。
【0051】
図3は、焼結工程S6によって得られる焼結体の構成を説明するための図である。同図(a)は平面図を示し、同図(b)は正面図を示し、同図(c)は底面図を示す。
【0052】
同図に示した例においては、焼結体300は、背の低い円柱状の形状を有しており、再結晶領域310と通常焼結領域320とによって構成されている。なお、同図(及び
図4)においては、再結晶領域310にはハッチング(平行斜線)を付してある。
【0053】
再結晶領域310は、焼結時に、Mg2Si系熱電材料が再結晶することで形成される領域であって、n型の熱電特性を示す領域であり、本実施形態においては、同図に示すように、焼結体300の中央部分に形成されている。再結晶領域310は、焼結体300より径の小さい円柱状の形状を有しており、焼結体300の上面から底面まで連続的に形成されている。
【0054】
通常焼結領域320は、焼結時に、Mg2Si系熱電材料が通常の焼結をすることにより形成される領域であって、p型の熱電特性を示す領域であり、本実施形態においては、同図に示すように、再結晶領域310の周囲に形成されている。
【0055】
以上のような構成を有する焼結体は、加工工程S7において適宜切断されて熱電素子として使用されることになるが、本実施形態においては、各熱電素子に、再結晶領域310と通常焼結領域320の両方が含まれるように、焼結体の切断が行われる。
【0056】
次に、加工工程S7における加工方法の詳細について説明する。
【0057】
図4は、加工工程S7における加工方法を説明するための図である。
【0058】
同図(a)は、焼結体400の平面図を示しており、切断箇所が二点鎖線で示されている。また、同図(a)においては、後述する実施例において採用した切断箇所の寸法が示されている。一方、同図(b)~(e)は、同図(a)に示した切断箇所で切断した結果得られる各熱電素子の形状を示す図であり、同図(b)は正面図を示し、同図(c)は右側面図を示し、同図(d)は背面図を示し、同図(e)は底面図を示す。
【0059】
同図に示した例においては、一つの焼結体400から、同じ形状を有する複数(具体的には、四つ)の熱電素子を切り出すようにしており、各熱電素子430は、柱状(具体的には、直方体状)の形状を有するように、切り出される。
【0060】
更に、同図に示した例においては、各熱電素子430は、再結晶領域410及び通常焼結領域420の大きさがほぼ同じ、すなわち、両領域のサイズ比(体積比)がほぼ1:1となるように切り出される。
【0061】
加工工程S7において、以上のような加工処理を行うことにより、再結晶領域410と通常焼結領域420の両方を含む熱電素子430が得られることになる。
【0062】
同図(b)~(d)に示すように、加工後の各熱電素子430においては、再結晶領域410は、一方(同図における下側)の端部側に配置され、通常焼結領域420は、他方(同図における上側)の端部側に配置されることになる。すなわち、再結晶領域410及び通常焼結領域420は、一方の端部から他方の端部に向かって隣接して並ぶように配置されることになる。
【0063】
前述したように、再結晶領域410は、n型の熱電特性を示し、通常焼結領域420は、p型の熱電特性を示す。熱電素子430は、n型の熱電特性を示す再結晶領域410と、p型の熱電特性を示す通常焼結領域432とを備えることにより、素子全体としては、p型の熱電特性を示すと共に、高い熱安定性が得られるようにしている。
【0064】
以上のような構成を有する熱電素子430を熱電発電に利用する際は、通常、p型熱電素子としてより高い熱電性能が得られるよう、再結晶領域410側の端部431が低温端、通常焼結領域420側の端部432が高温端として使用されることになる。再結晶領域410側の端部431を低温端、通常焼結領域420側の端部432を高温端として使用することにより、n型の熱電特性を示す再結晶領域410の影響を相対的に抑えることが可能となる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、当然のことながら、本発明の実施形態は上記のものに限られない。例えば、上述した実施形態においては、ドーパントのリチウム源として、炭酸リチウムを使用していたが、ドーパントのリチウム源として、純リチウムや、他のリチウム化合物(例えば、酢酸リチウム(C2H3LiO2))を使用することも考えられる。
【0066】
また、上述した実施形態においては、最初の秤量工程において、ドーパントとしてのリチウムの添加を行うようにしていたが、他のタイミング(例えば、粉砕工程と焼結工程との間)で添加するようにすることも考えられる。
【0067】
また、上述した実施形態においては、再結晶領域と通常焼結領域との大きさ(体積)がほぼ同じとなるように焼結体の切断(素子の切り出し)を行うようにしてたが、再結晶領域と通常焼結領域との大きさ(体積)が異なるように焼結体の切断(素子の切り出し)を行うようにすることも考えられる。
【実施例】
【0068】
次に、本発明による熱電素子及びその製造方法の実施例について説明する。
【0069】
まず、以下のようにして、ドーパント元素としてリチウムが添加されたマグネシウムシリサイドで構成される熱電素子を、添加するリチウムの量、及び、リチウム源となるリチウム化合物の種類を変えて、複数種作製した。
【0070】
《実施例1》
まず、化学量論比がMg1.96Si1Li0.04となるように、純度99.5%、粒径180μmのマグネシウム(Mg)粉末(株式会社高純度化学研究所製)、純度99.9%、粒径150μmのケイ素(Si)粉末(株式会社高純度化学研究所製)、及び、純度99%、粒径10μm程度の炭酸リチウム(Li2CO3)粉末(純度99%、粒径300μmの炭酸リチウム粉末(株式会社高純度化学研究所製)を予め粉砕したもの)の秤量を行った。
【0071】
次に、原料粉末が均一になるように乳鉢内で混合した上で、原料粉末を30φの超鋼ダイス内に収容し、プレス機(エヌピーエーシステム株式会社製、NT-50H)によって、12MPaの圧力でプレス加工を行い、30φ×10mmの円柱状の合成用成形体を得た。
【0072】
次に、得られた合成用成形体を、半密閉可能な蓋付き炭素製容器内に収容した上で、電気炉内に入れ、アルゴン雰囲気中、温度700℃にて1時間、熱処理を行い、Mg2Si系熱電材料の団粒体を得た。
【0073】
次に、得られた団粒体を、乳鉢で1mm以下に粗粉砕した上で、自動乳鉢によって、粒径38μm以下となるように微粉砕を行った。
【0074】
次に、得られたMg
2Si系熱電材料粉末を、
図2に示したような焼結治具内に充填した。より具体的には、まず、厚み0.2mmのカーボンシート(株式会社エヌジェーエス製)を所定形状に切断することで、円筒状カーボンペーパー221及び円板状カーボンペーパー222,223を構成するカーボンペーパーを用意した。次に、円筒状カーボンペーパー221及び円板状カーボンペーパー222,223を構成するカーボンペーパーの片面に、BNスプレー(ファインケミカルジャパン株式会社製)を塗布することで、厚み100μm程度のBN塗布層231~233を形成した。次に、円筒状カーボンペーパー221を構成するカーボンペーパーを、BN塗布層231が形成された面が内側にくるように、30φ用のカーボンダイス211に設置した上で、下カーボンパンチ213を挿入した。次に、下側の円板状カーボンペーパー223を構成するカーボンペーパーを、BN塗布層233が形成された面が外側(下側)にくるように下カーボンパンチ213上に設置した上で、Mg
2Si系熱電材料粉末201を充填した。次に、上側の円板状カーボンペーパー222を構成するカーボンペーパーを、BN塗布層232が形成された面が外側(上側)にくるようにMg
2Si系熱電材料201の上に設置した上で、上カーボンパンチ212を挿入した。
【0075】
以上のようにして用意した焼結治具を、放電プラズマ焼結装置(株式会社シンターランド製、LABOX-1575)内に入れて、焼結温度850℃、焼結時間5分、真空度6Paの条件で焼結を行い、焼結体(30φ高さ3mm)を得た。
【0076】
図5は、得られた焼結体の写真を示す。同図に示すように、中央部分は、再結晶したような模様を呈している。なお、後述する実施例2~4についても、同様に、中央部分に再結晶したような模様が確認できた。一方、後述する比較例1~5についてはいずれも、再結晶したような模様は確認できなかった。
【0077】
次に、得られた焼結体をマイクロカッター(株式会社マルトー製、MC-201N)を使用して切断し、中央部付近の再結晶領域及び外周部付近の通常焼結領域それぞれから、6mm×2mm×3mmの直方体状焼結体片を切り出した。すなわち、再結晶領域のみからなる焼結体片と、通常焼結領域のみからなる焼結体片を得た。
【0078】
各焼結体片について、X線回折装置(株式会社リガク製、MiniFlex)を使って、XRD分析を行ったところ、再結晶領域のみからなる焼結体片のX線回折パターンでは、通常焼結領域のみからなる焼結体片のX線回折パターンと比較して、回折線の欠けが見られ、再結晶領域については、通常焼結領域と比較して、結晶方位が揃っていることが確認できた。
【0079】
次に、得られた各焼結体片の熱電特性を測定した。まず、各焼結体片の一端をヒータで加熱しながら、各焼結体片の両端の温度差及び出力電圧の測定を行い、測定結果に基づいて、ゼーベック係数を算出した。また、4探針法によって、比抵抗の測定を行った。
【0080】
その結果、再結晶領域のみからなる焼結体片のゼーベック係数及び比抵抗はそれぞれ、-50μV/K及び70μΩmであった。一方、通常焼結領域のみからなる焼結体片のゼーベック係数及び比抵抗はそれぞれ、290μV/K及び195μΩmであった。すなわち、再結晶領域は、n型の熱電特性を示し、通常焼結領域は、p型の熱電特性を示すことが確認できた。更に、両者のゼーベック係数の絶対値を比較すると、p型の熱電特性を示す通常焼結領域の方が、n型の熱電特性を示す再結晶領域と比較して、5倍以上と充分に大きくなっている。
【0081】
次に、上述の方法により再度、焼結体を作製し、作製した焼結体(30φ高さ3mm)を、上記マイクロカッターを使用して
図4に示すように切断し、10mm×5mm×3mmの直方体状焼結体片を切り出して、最終的な熱電素子とした。
【0082】
《実施例2》
まず、化学量論比がMg1.98Si1Li0.02となるように、上記マグネシウム(Mg)粉末、上記ケイ素(Si)粉末、及び、上記炭酸リチウム(Li2CO3)粉末の秤量を行った。
【0083】
以下、前述した実施例1と同様にして、熱電素子を作製した。
【0084】
《実施例3》
まず、化学量論比がMg1.99Si1Li0.01となるように、上記マグネシウム(Mg)粉末、上記ケイ素(Si)粉末、及び、上記炭酸リチウム(Li2CO3)粉末の秤量を行った。
【0085】
以下、前述した実施例1と同様にして、熱電素子を作製した。
【0086】
《実施例4》
まず、化学量論比がMg1.99Si1Li0.01となるように、上記マグネシウム(Mg)粉末、上記ケイ素(Si)粉末、及び、純度99.5%、粒径10μm程度の酢酸リチウム(C2H3LiO2))粉末(純度99.5%、粒径180μmの酢酸リチウム粉末(関東化学株式会社製)を予め粉砕したもの)の秤量を行った。
【0087】
以下、前述した実施例1と同様にして、熱電素子を作製した。
【0088】
また、以下のようにして、上記実施例1~4で使用したものとは異なる焼結治具を使用して複数種の熱電素子を作製した。
【0089】
《比較例1》
焼結治具の準備においてBNスプレーを塗布していない円筒状カーボンペーパー221及び円板状カーボンペーパー222,223を使用したこと、すなわち、BN塗布層231~233(絶縁層)が形成されていない焼結治具を使って焼結工程を行ったこと以外は、前述した実施例1と同様にして、熱電素子を作製した。
【0090】
《比較例2》
焼結治具の準備においてBNスプレーを塗布していない円筒状カーボンペーパー221及び円板状カーボンペーパー222,223を使用したこと、すなわち、BN塗布層231~233(絶縁層)が形成されていない焼結治具を使って焼結工程を行ったこと以外は、前述した実施例2と同様にして、熱電素子を作製した。
【0091】
《比較例3》
焼結治具の準備においてBNスプレーを塗布していない円筒状カーボンペーパー221及び円板状カーボンペーパー222,223を使用したこと、すなわち、BN塗布層231~233(絶縁層)が形成されていない焼結治具を使って焼結工程を行ったこと以外は、前述した実施例3と同様にして、熱電素子を作製した。
【0092】
《比較例4》
焼結治具の準備においてBNスプレーを塗布していない円筒状カーボンペーパー221及び円板状カーボンペーパー222,223を使用したこと、すなわち、BN塗布層231~233(絶縁層)が形成されていない焼結治具を使って焼結工程を行ったこと以外は、前述した実施例4と同様にして、熱電素子を作製した。
【0093】
また、以下のようにして、リチウムが添加されていないマグネシウムシリサイドで構成される熱電素子を、上記比較例1~4と同様に、BN塗布層231~233(絶縁層)が形成されていない焼結治具を使用して作製した。
【0094】
《比較例5》
まず、化学量論比がMg2Si1となるように、上記マグネシウム(Mg)粉末(株式会社高純度化学研究所製)、及び、上記ケイ素(Si)粉末の秤量を行った。
【0095】
以下、前述した比較例1と同様にして、熱電素子を作製した。
【0096】
次に、以下のようにして、各熱電素子の評価を行った。
【0097】
まず、各熱電素子の一端(外周側)をヒータで加熱しながら、各熱電素子の両端の温度差及び出力電圧の測定を行い、測定結果に基づいて、ゼーベック係数を算出した。また、4探針法によって、比抵抗の測定を行った。更に、得られたゼーベック係数及び比抵抗に基づいて、パワーファクター(出力因子)を算出した。
【0098】
図6は、各熱電素子の評価結果を示す表である。同図において、αは、ゼーベック係数(単位:μV/K)、ρは、比抵抗(単位:μΩm)、PFは、パワーファクター(単位:μW/mK
2)を表している。
【0099】
まず、ゼーベック係数αに着目すると、同図に示すように、実施例1~4及び比較例1~4のいずれもが、プラスの値となっており、p型の熱電素子(p型半導体素子)となっていることがわかる。一方、比較例5については、マイナスの値となっており、n型の熱電素子(n型半導体素子)となっていることがわかる。
【0100】
また、比抵抗ρについては、同図に示すように、実施例1~4及び比較例1~4をそれぞれ比較すると(実施例1と比較例1、実施例2と比較例2等、リチウム添加量及びリチウム源が同一のもの同士を比較すると)、実施例1~4の方が、比抵抗が低くなっている。すなわち、BN塗布層231~233(絶縁層)が形成された焼結治具を使った方が、比抵抗が低くなっている。
【0101】
また、パワーファクターPFに着目すると、同図に示すように、実施例1でもっとも大きなパワーファクターを得られている。実施例1と比較例1とを比較すると、両者のゼーベック係数は同程度であるが、実施例1の比抵抗は、比較例1の比抵抗と比較して、非常に小さく(1/10以下に)なっており、その結果、比較例1と比較して、非常に大きな(10倍以上の)パワーファクターが得られている。
【0102】
更に、実施例1~4及び比較例1~4に関して、以下のようにして、熱耐久性の評価を行った、
【0103】
まず、各熱電素子を、電気炉内に入れて、大気中、温度350℃にて一定時間(24時間及び48時間)、熱処理を行った。その後、室温まで自然冷却させた後、上述した方法と同様の方法によって、ゼーベック係数の算出、比抵抗の測定、及び、パワーファクターの算出を行った。
【0104】
図7は、各熱電素子の熱耐久性の評価結果を示す表である。同図において、αは、ゼーベック係数(単位:μV/K)、ρは、比抵抗(単位:μΩm)、PFは、パワーファクター(単位:μW/mK
2)を表している。
【0105】
同図に示すように、実施例1~4についてはいずれも、大気中350℃で、48時間、熱処理がされた場合であっても、ゼーベック係数及び比抵抗共に、大きな変化を示しておらず、安定したp型の熱電特性を有していることが確認できた。一方、比較例1~4についてはいずれも、ゼーベック係数はさほど大きな変化を示していないが、比抵抗については熱処理時間が増えるに従って増加している。その結果、実施例1~4及び比較例1~4をそれぞれ比較すると、48時間の熱処理後のパワーファクターについては、比較例1~4の方が低い値になっている。
【0106】
なお、実施例1~4において、再結晶領域が形成されたのは、Mg2Si系熱電材料の周囲にBN塗布層(絶縁層)を設けた状態で放電プラズマ焼結法による加圧焼結を行うことにより、通常の(絶縁層を設けない)放電プラズマ焼結法による加圧焼結の場合と比較して、焼結時におけるMg2Si系熱電材料の温度が高くなり、その結果、Mg2Si系熱電材料の一部が溶融したことに起因しているものと考えられる。なお、BN塗布層の厚みを大きくすると、再結晶領域が外周側に向かって拡大し、通常焼結領域が縮小することが確認されている。
【0107】
また、各熱電素子の評価を行う際、各熱電素子の外周側の端部、すなわち、実施例1~4の場合、通常焼結領域側の端部をヒータで加熱するようにしていたが、これは、p型の熱電特性を示す通常焼結領域においてより大きな温度差が得られるようにするためである。なお、実施例1~4については、各熱電素子の再結晶領域側の端部を加熱した場合についても評価を行っており、両者を比較すると、通常焼結領域側の端部を高温端(再結晶領域側の端部を低温端)とした場合の方が、再結晶領域側の端部を高温端(通常焼結領域側の端部を低温端)とした場合と比較して、相対的に高い熱電性能(パワーファクター)が得られることを確認している。
【符号の説明】
【0108】
S1 秤量工程
S2 混合工程
S3 成形工程
S4 合成工程
S5 粉砕工程
S6 焼結工程
S7 加工工程
200 焼結治具
201 Mg2Si系熱電材料
211 ダイス
212,213 パンチ
221 円筒状カーボンペーパー
222,223 円板状カーボンペーパー
231~233 BN塗布層
300 焼結体
310 再結晶領域
320 通常焼結領域
400 焼結体
410 再結晶領域
420 通常焼結領域
430 熱電素子
431,432 端部