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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】植生マットの設置方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 20/00 20180101AFI20241125BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20241125BHJP
   A01G 24/46 20180101ALI20241125BHJP
【FI】
A01G20/00
E02D17/20 102B
A01G24/46
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020204948
(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公開番号】P2022092253
(43)【公開日】2022-06-22
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000231431
【氏名又は名称】日本植生株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 ひとみ
(72)【発明者】
【氏名】戸来 義仁
(72)【発明者】
【氏名】竹内 政典
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0250780(US,A1)
【文献】特開2013-085536(JP,A)
【文献】特開2007-262879(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0982542(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 20/00
E02D 17/20
A01G 24/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的種の種子を備えた植生部の上方に、網状に形成され、平面視で前記目的種が成長可能な空間部を有する人工芝を積層した植生マットの設置方法であって、
前記人工芝の網目が平面視において等高線に対して斜め方向に延びる斜め部分を有するように植生マットを法面に設置し、
長尺の肥料袋を、前記植生部に保持させてある、又は、前記植生部と前記人工芝の間に配置してあり、肥料袋が法面の等高線に沿うように植生マットを法面に設置する植生マットの設置方法。
【請求項2】
前記植生部と前記人工芝とは、前記目的種の成長を利用することなく一体化する請求項1に記載の植生マットの設置方法
【請求項3】
前記植生マットが、前記目的種の発芽貫通を可能とし、前記目的種よりも葉幅の広い競合種の埋土種子の発芽貫通を抑制する貫通抑制部材を備える請求項1または2に記載の植生マットの設置方法
【請求項4】
前記植生マットが、全体として可撓性を有し、ロール状に巻き取り可能である請求項1~3の何れか一項に記載の植生マットの設置方法
【請求項5】
目的種の種子を備えた植生部の上方に、網状に形成され、平面視で前記目的種が成長可能な空間部を有する人工芝を積層し、前記目的種には、トールフェスクまたはバミューダグラスの少なくとも一方を含む植生マットの設置方法であって、
前記人工芝の網目が平面視において等高線に対して斜め方向に延びる斜め部分を有するように植生マットを法面に設置し、
長尺の肥料袋を、前記植生部に保持させてある、又は、前記植生部と前記人工芝の間に配置してあり、肥料袋が法面の等高線に沿うように植生マットを法面に設置する植生マットの設置方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、緑化のために法面等に敷設して用いられる植生マットの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された植生マットは、意図的な播種等を行う第1植生領域で生育の早い芝等を成長させ、第1植生領域に囲まれ意図的な播種等を行わない第2植生領域では飛来種子や埋土種子を発芽・生育させることで、その土地に生息する自然植生植物による緑化を行い、自然景観の保護及び復旧を図ろうとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5855597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記植生マットでは、第1植生領域に播種を行って芝等を生育させる場合、施工直後は第1植生領域、第2植生領域のいずれも緑で覆われていない状態になり得るため、その時点では必ずしも景観向上を図れない。また、第1植生領域に播種する代わりに植物を貼り付けるようにした場合は、その貼り付けのための手間やコストが余分に必要となる。
【0005】
さらに、上記植生マットでは、埋土種子や飛来種子に頼る第2植生領域における緑化の早期化を図ることは実質的に困難であり、埋土種子の存在量や飛来種子の捕捉量、土壌の性状(pH値、窒素リン酸カリの肥料分布、土壌硬度等)、降雨量、気温等の影響によっては、第2植生領域の十分な緑化が果たされるより前に第1植生領域の植物が衰退してしまう恐れもある。
【0006】
その上、上記植生マットでは、仮に第1植生領域、第2植生領域の両方で植物が十分に生育しても、植物の種類によっては季節の変化に伴いその全体が枯れたような色合いになり、折角向上させた景観を維持できなくなる恐れもある。
【0007】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、施工直後から季節を問わず例えば緑色の景観を作り出した後、それを一定程度維持し続けることが容易な植生マットの設置方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る植生マットの設置方法は、目的種の種子を備えた植生部の上方に、網状に形成され、平面視で目的種が成長可能な空間部を有する人工芝を積層した植生マットの設置方法であって、前記人工芝の網目が平面視において等高線に対して斜め方向に延びる斜め部分を有するように植生マットを法面に設置し、長尺の肥料袋を、前記植生部に保持させてある、又は、前記植生部と前記人工芝の間に配置してあり、肥料袋が法面の等高線に沿うように植生マットを法面に設置する(請求項1)。
【0009】
前記植生部と前記人工芝とは、前記目的種の成長を利用することなく一体化してもよい(請求項2)。
【0010】
上記植生マットが、前記目的種の発芽貫通を可能とし、前記目的種よりも葉幅の広い競合種の埋土種子の発芽貫通を抑制する貫通抑制部材を備えてもよい(請求項3)。
【0011】
上記植生マットが、全体として可撓性を有し、ロール状に巻き取り可能であるとしてもよい(請求項4)。
【0012】
本発明に係る植生マットの設置方法が、目的種の種子を備えた植生部の上方に、網状に形成され、平面視で目的種が成長可能な空間部を有する人工芝を積層し、前記目的種には、トールフェスクまたはバミューダグラスの少なくとも一方を含む植生マットの設置方法であって、前記人工芝の網目が平面視において等高線に対して斜め方向に延びる斜め部分を有するように植生マットを法面に設置し、長尺の肥料袋を、前記植生部に保持させてある、又は、前記植生部と前記人工芝の間に配置してあり、肥料袋が法面の等高線に沿うように植生マットを法面に設置してもよい(請求項5)。
【発明の効果】
【0013】
本願発明では、施工直後から季節を問わず例えば緑色の景観を作り出した後、それを一定程度維持し続けることが容易な植生マットの設置方法が得られる。
【0014】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の植生マットでは、植生部により、目的種(導入種子)の生育を図ることができる。
【0015】
また、本発明の植生マットでは、人工芝によって、施工直後からある程度緑を形成することができ、裸地が目立たなくなる、急こう配、強酸性、強アルカリ性、乾燥地といった悪条件を備えた場所にも施工可能であり、植生マットによって育成する植物に生えムラが生じても人工芝によって希薄化される、季節を問わず緑を維持できる、というように、外観の向上を大いに図ることができる。
【0016】
つまり、本発明の植生マットは、植生部、人工芝といった簡易な構成を採用しながら、施工直後から季節を問わず例えば緑色の景観を作り出した後、それを一定程度維持し続けることを容易とするものである。
【0017】
請求項1に係る発明の植生マットでは、人工芝の網目が平面視において等高線に対して斜め方向に延びる斜め部分を有し、法面の表層を水が法肩側から法尻側に向かって流れる際、この人工芝の網目を伝いながら流下していくことで、流速の低減、水量の分散が行われ、水みちが発生しづらくなる。斯かる効果は、集中豪雨や、湧水等、まとまった水量を処理する際、特に有効である。
【0018】
目的種にとっては競合種が成長しない方が、自身の成長に有利に働くところ、請求項3に係る発明の植生マットでは、貫通抑制部材によって競合種の成長を押さえることができる。しかも、目的種は貫通抑制部材を貫通可能であるので、貫通抑制部材が目的種の生育を阻害することもない。
【0019】
請求項4に係る発明の植生マットでは、製品としての保管性、輸送性、現場への搬入性、施工性をいずれも容易に向上させることができる。
【0020】
特に、請求項5に係る発明の植生マットのように、目的種をトールフェスク(冬の寒さに強い品種)、バミューダグラス(夏の暑さに強い品種)とした場合、これらはいずれも比較的成長の早いいわゆる洋芝であり、まずはこれら目的種を安定的に成長させることが法面の早期緑化、早期安定につながるため、施工直後は競合種の成長を少しでも抑制するのが合理的であるところ、本発明では、目的種の安定的な成長、ひいてはこれによる早期緑化、早期安定化をより確実に達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態に係る植生マットの分解斜視図である。
図2】(A)~(C)は、上記植生マットの試験に用いた本例の第2の植生マット、本例の第1の植生マット、対照例の植生マットをそれぞれ敷設した試験区2、試験区1、対照区の状況を示す写真である。
図3】(A)及び(B)は、前記本例の第2の植生マットの構造及び寸法を示す写真である。
図4】前記試験の施工6か月後の各区の状況を示す写真である。
図5】前記試験の施工8か月後の各区の状況を示す写真である。
図6】前記試験の施工10か月後の各区の状況を示す写真である。
図7】本発明の変形例に係る植生マットの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0023】
本例の植生マットは、図1に示す各部材を一体化して得られ、例えば法面に敷設した状態で用いるものである。すなわち、植生マットは、図1に示すように、目的種の種子(導入種子)1を備えた植生部2の上方に、網状に形成され、平面視で目的種が成長可能な空間部3を有する人工芝4を積層するものである。
【0024】
目的種としては、例えば、冬場の寒さに強いトールフェスク、夏場の暑さに強いバミューダグラスのほか、クリーピングレッドフェスク、バヒアグラス、キクユグラス、レッドトップ、ベントグラス、センチピードグラス、ケンタッキーブルーグラス、ローズグラス、ノシバ等の単子葉類を挙げることができる。
【0025】
競合種としては、例えば、アカメガシワ、ウツギ、ヤシャブシ、キリ、クサギ、ヤマハンノキ、コナラ、ニセアカシア等の双子葉類を挙げることができる。
【0026】
図1に示すように、植生部2は、地側(設置の際、地に向けられる側)から順に、導入種子1、薄綿(または不織布)シート6、ネット(例えばポリエチレン製)7を有する。導入種子1は薄綿シート6の下(地)側に接着剤(水溶性糊材等)で接着され、薄綿シート6とネット7の間には導入種子1は保持されておらず、両者6,7は接着剤(水溶性糊材等)で接着されている。
【0027】
ここで、薄綿(不織布)シート6は、例えば10~50g/mの目付を有するもの、ネット7は、例えば10~20mm×15~25mmの目合いを有するラッセル編み(鎖編み)のものとすることができる。
【0028】
なお、ネット7に平織りやカラミ織りではなくラッセル編みを採用した場合、伸縮性が良好で、目合いを押し広げることができるので、貫通した植物の茎が太く育つことが可能となる、一箇所の切断が連覇しにくい、といったメリットも得られる
【0029】
また、図1に示すように、ネット7には、その長手方向に間隔をおいて複数の肥料袋8が装着される。この装着は、例えばネット7を全体にわたって又は部分的に2重のネットで構成し、この2重ネット(2重ネット部分)の間にネット7の短手方向に延びる長尺の肥料袋8を収容保持する収容部(袋状部等)9を形成し、そこに肥料袋8を収容する、といった手段により容易に行える。
【0030】
肥料袋8には、肥料の他に、土壌改良材、保水材等を収容してもよく、導入種子1を収容してもよい。
【0031】
一方、本例の人工芝4には、例えば、網状の基材(複数の切欠き部分を設けて網状を呈するように構成された基布や、網状に編まれたロープ等)に、多数のパイルを植設等し、基材から少なくとも一部が突出するパイルが芝葉を模すように構成したものを用いることができる。
【0032】
人工芝4の素材には、ポリプロピレン、ポリエチレンのほか、比較的耐候性に優れるアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂を利用することができる。ここで、人工芝4全体ないし人工芝4において特に紫外線に晒される部分(本例ではパイル)は、耐候性が高く、とりわけ紫外線劣化に強いことが好ましいのであり、パイルを太くしてある、パイルを高密度に束ねてある、パイル層が上下に厚い、といった条件を高レベルに満足するものほど、紫外線劣化抑制の点で有効である。なお、例えば紫外線劣化抑制の点で人工芝4に不安がある場合は、パイルの素材に耐候剤を混合する、パイル表面に耐候剤を塗布する、といった処理を行うようにしてもよい。
【0033】
人工芝4の色は、景観上、広く緑色系が望ましいが、施工場所によっては茶色、その他周囲の景観に合う色合いを選択することができる。もちろん、これに限らず、例えば、人工芝4のパイルに、季節(温度)変化によって色が変化する染料を混合、塗布等しておいてもよい。
【0034】
人工芝4(の基材)の網目は、矩形、菱形、ハチの巣状、その他多角形、円形等でもよい。いずれにしても、人工芝4は、全体として略網状を呈し、その網目が目的種の成長を可能とする大きさの空間部3を形成するものであればよく、具体的な人工芝4(の基材)の網目のサイズ(目合い)としては、縦横3~30cm×3~30cm、望ましくは8~20cm×8~20cmとすることが考えられる。なお、植生マットの敷設によって落石防止をも図る場合は、現場法面の石の大きさ等も考慮して最適な目合いの人工芝4を選定すればよい。
【0035】
また、植生マットを法面に設置する場合、人工芝4(の基材)の網目の形状の如何にかかわらず、その網目が平面視において等高線に対して斜め方向(等高線に平行でなく直交もしない方向)に延びる斜め部分を有するように法面に設置するのが好ましい。なぜなら、人工芝4の網目が平面視において等高線に対して斜め方向に延びる斜め部分を有すると、法面の表層を水が法肩側から法尻側に向かって流れる際、この人工芝4の網目を伝いながら流下していくことで、流速の低減、水量の分散が行われ、水みちが発生しづらくなるからである。斯かる効果は、集中豪雨や、湧水等、まとまった水量を処理する際、特に有効であり、本例では図1中の部分拡大図に示すように人工芝4(の基材)の網目を六角形状にしてあるので、植生マットをいかなる向きに設置しても、人工芝4の網目は上記斜め部分を必ず有することとなる。
【0036】
人工芝4の嵩高(人工芝4の上下の厚み)は、1~7cm、望ましくは2~5cmとすることが考えられる。人工芝4の嵩高を1cm以上とすることにより、人工芝4による飛来種子の捕捉効果および景観上の緑色を生む効果が確実に得られる。また、人工芝4の嵩高を7cm以下とすることにより、網目内部への斜め方向からの日光の照射を許容し、植物の成長に十分な光量を確保することが容易となる。
【0037】
そして、人工芝4には、ショートパイル人工芝やロングパイル人工芝等、種々の人工芝を採用可能であり、例えば、野芝、高麗芝等の日本に自生する日本芝の他、トールフェスク、バミューダグラス等の西洋芝等を模した人工芝4を用いるようにしてもよい。
【0038】
なお、本例の植生マットは、予め工場等で完成し、その状態で搬送して現場では敷設するのみとしてもよいし、未完成のまま搬送され、現場で完成させるようにしてもよく、現場で完成させる場合には、完成と同時に敷設が完了するようにしてもよい。
【0039】
ここで、植生部2及び人工芝4を工場等で予め一体化して植生マットを完成させておく場合、その一体化の手段としては、接着剤(例えば糊材)を用いた接着、熱圧着、留め具(タグピン、ステープラー等)、挟持具(Cリング等)、結束具(縫製糸、針金)等を用いることが考えられる。また、植生部2及び人工芝4を一体化しない状態で現場に搬入し、それらを現場で一体化して植生マットを構築する場合は、例えばアンカーピン(図示していない)を適宜に打設して植生部2及び人工芝4を個別に法面に固定してもよいし、植生部2の上に人工芝4を重ねた状態でアンカーピン(図示していない)を適宜に打設して両者2,4をまとめて固定してもよく、あるいは、アンカーピンを打設して植生部2を法面に固定した後、人工芝4は植生部2に結束等により連結してもよい。
【0040】
いずれにしても、肥料袋8が等高線に沿うように植生マットを法面に設置するのが好ましい。ここで、予め工場等で一体化し、全体として可撓性を持たせた植生マットをロール状に巻いた状態で搬送し、これを法面に敷設する際に法肩から法尻に向かって展開するのが植生マットの搬送及び設置の簡略化を図る上で合理的である。そして、例えば肥料袋8が等高線と直交する方向(植生マットの長手方向)に延びる植生マットでは、これをロール状に巻き取り、上記のように展開することはできない(あるいは困難化する)が、肥料袋8が等高線に沿って(植生マットの短手方向に)延びる植生マットでは、これをロール状に巻き取り、上記のように展開することが容易となる。
【0041】
以上の構成を有する本例の植生マットでは、植生部2により、目的種(導入種子1)の生育を図ることができ、しかも、肥料袋8から供給される肥料等により、目的種の生育の確実化を図ることができる。
【0042】
また、本例の植生マットでは、人工芝4によって、施工直後からある程度緑を形成することができ、裸地が目立たなくなる、急こう配、強酸性、強アルカリ性、乾燥地といった悪条件を備えた場所にも施工可能であり、植生マットによって育成する植物に生えムラが生じても人工芝4によって希薄化される、季節を問わず緑を維持できる、というように、外観の向上大いに図ることができる。
【0043】
すなわち、本例の植生マットは、植生部2、人工芝4といった簡易な構成を採用しながら、施工直後から季節を問わず例えば緑色の景観を作り出した後、それを一定程度維持し続けることが容易なものである。
【0044】
しかも、本例の植生マットでは、人工芝4のパイルにより雨滴衝撃が緩和され、表層浸食や初期の表層崩壊防止効果が生まれる。
【0045】
さらに、本例の植生マットでは、人工芝4による保水効果、乾燥防止効果、保温性向上に伴う凍上抑制効果による目的種の発芽、成長の促進を図ることもできる。
【0046】
加えて、本例の防草緑化マットでは、植生部2が人工芝4で覆われるため、食害や掘り起こしなどの獣害を受けにくいという利点もある。
【0047】
次に、本例の植生マットと比較例とを用い、景観性等について行った試験とその結果について説明する。
【0048】
試験は、トールフェスク及びバミューダグラスを含む目的種の種子1を備え、人工芝4を持たない対照例(比較例)の植生マット、比較例の植生マットの上に網目が疎な人工芝4を一体化させた本例の第1の植生マット、比較例の植生マットの上に網目が密な人工芝4を一体化させた本例の第2の植生マット、の3種類の植生マットを法面に敷設し、それぞれ敷設した区域を、図2(C)、(B)、(A)に示すように、対照区、試験区1、試験区2として、約10か月間、各区域における平均群落高さ及び植被率を経過観察した。なお、試験区1、試験区2の植被率は、網目状に形成された空間部3内における植生の状態を評価した。
【0049】
ここで、試験区2に敷設した本例の第2の植生マットを地山側(下側)から見た写真を図3(A)及び(B)に示す。これらに示すように、第2の植生マットの人工芝4の網状の基材の網目の縦幅(網目内側における最長幅)は55mm、横幅(網目内側における最短幅)は30mm、人工芝4の厚み(上下幅)は40mmであった。また、写真は無いが、試験区1に敷設した本例の第2の植生マットの上記縦幅は110mm、上記横幅は60mm、人工芝4の厚みは40mmであった。
【0050】
上記試験につき、施工6か月後の状態を表1及び図4、施工8か月後を表2及び図5、施工10か月後を表3及び図6にそれぞれ示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
図4図6から、人工芝4を持たない対照例の植生マットより、人工芝4を用いる本例の第2、第1の植生マットの方が常にリターを多く捕捉している様子が分かる。加えて、表1~表3を通して、人工芝4を持たない対照例の植生マットより、人工芝4を用いる本例の第2、第1の植生マットの方が、平均群落高さが高く、植被率も高いことから、本例の植生マットでは、植物の生育に優れることが把握される。加えて、今回の試験では、対照区、試験区1,2いずれにおいてもシカによる食害を受けていたが、対照区では全体に地際におよぶ食害を受け、引き抜かれた株も見られたが、試験区1,2の食害痕は人工芝4の高さに留まるものであったことから、本例の植生マットには、食害軽減効果があることも判明した。
【0055】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0056】
図7に示すように、植生部2と人工芝4の間に、目的種の発芽貫通を可能とし、目的種よりも葉幅の広い競合種の埋土種子の発芽貫通を抑制する貫通抑制部材5を備えるようにしてもよい。なお、貫通抑制部材5と植生部2、人工芝4と一体化は、例えば上述した植生部2と人工芝4との一体化と同様に行える。
【0057】
貫通抑制部材5は、1~3mm×1~3mm、望ましくは1.5~2mm×1.5~2mmの目合いを有するメッシュ状の部材であり、その材質は、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリエチレン等とすることが考えられる。
【0058】
このように、貫通抑制部材5がメッシュ状部材であれば、その目合いを適宜に設定することにより、目的種の通過を可能とし、目的種より葉幅の広い競合種の貫通を抑制する、といったことが容易に実現可能となる。そして斯かる効果は、貫通抑制部材に目ずれの起こらない(高耐久性の)メッシュ状部材を用いることにより、通芽しようとする競合種(樹木や径の太い雑草等)にストレスを与え、肥大成長を抑制することができるので、より確実なものとなる。
【0059】
目的種にとっては競合種が成長しない方が、自身の成長に有利に働くところ、図7に示す例では、貫通抑制部材5によって競合種の成長を押さえることができる。しかも、目的種は貫通抑制部材5を貫通可能であるので、貫通抑制部材5が目的種の生育を阻害することもない。
【0060】
特に、目的種をトールフェスク(冬の寒さに強い品種)、バミューダグラス(夏の暑さに強い品種)とした場合、これらはいずれも比較的成長の早いいわゆる洋芝であり、まずはこれら目的種を安定的に成長させることが法面の早期緑化、早期安定につながるため、施工直後は競合種の成長を少しでも抑制するのが合理的であるところ、図7の例では、目的種の安定的な成長、ひいてはこれによる早期緑化、早期安定化をより確実に達成することが可能となる。
【0061】
加えて、図7の例では、まず人工芝4と貫通抑制部材5という2部材の材質そのものの強度により、施工直後から法面の安定効果を生むことができる。
【0062】
なお、貫通抑制部材5はメッシュ状に限らず、例えば不織布によって貫通抑制部材5を構成してもよい。
【0063】
図1図7の例において、植生部2のネット7を省略し、植生部2の薄綿シート6を人工芝4または貫通抑制部材5に直接接合(接着等)するようにしてもよい。
【0064】
図1図7の例において、上述した肥料袋8、貫通抑制部材5の色は、人工芝4同様、景観上、広く緑色系が望ましいが、施工場所によっては茶色、その他周囲の景観に合う色合い等を選択することができる。
【0065】
図1図7の例において、肥料袋8を設けなくしてもよい。また、肥料袋8を備える場合は植生部2に保持させず、植生部2と人工芝4の間(図7の例では、植生部2と貫通抑制部材5の間や貫通抑制部材5と人工芝4の間)に配置してもよい。
【0066】
なお、上記変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0067】
1 目的種の種子(導入種子)
2 植生部
3 空間部
4 人工芝
5 貫通抑制部材
6 薄綿シート
7 ネット
8 肥料袋
9 収容部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7