(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】2段階熱応答性の組成物、硬化物、硬化物の製造方法、及び、異方性部材
(51)【国際特許分類】
C08G 59/40 20060101AFI20241125BHJP
C08G 59/22 20060101ALI20241125BHJP
C08G 59/56 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
C08G59/40
C08G59/22
C08G59/56
(21)【出願番号】P 2021006100
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-11-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「データ駆動型分子設計を基点とする超複合材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】内藤 昌信
(72)【発明者】
【氏名】フー ウェイスン
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-512762(JP,A)
【文献】特表2013-535552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で表される第1の硬化剤と、式2で表される特定化合物と、式3で表される第2の硬化剤と、を含む2段階熱応答性の組成物。
【化1】
(式1中、pは2以上の整数であり、qは0以上の整数であり、L
1はp+q価の基であり、R
1は、水素原子、又は、1価の有機基である。)
【化2】
(式2中、L
2はジスルフィド基を含む2価の基であり、L
3はr+s+1価の基であり、sは1以上の整数であり、rは0以上の整数であり、R
2は水素原子、又は、1価の有機基である。)
【化3】
(式3中、L
4はt+u価の基を表し、L
5は単結合、又は、2価の基を表し、tは2以上の整数を表し、uは0以上の整数を表し、R
3は水素原子、又は、1価の有機基を表す。)
【請求項2】
請求項
1に記載の組成物を硬化させた硬化物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物を硬化させて硬化物を製造する方法であって、
前記特定化合物を表す式2中のアミノ基(反応性基A)と、前記第1の硬化剤を表す式1中のグリシジル基(基a)とが結合する反応の活性化エネルギーをE
1
とし、
前記特定化合物を表す式2中のジスルフィド基(解離性基C)が解離する反応の活性化エネルギーをE
2
とし、
前記ジスルフィド基(解離性基C)を解離させ、生じた反応性基Bと、前記第2の硬化剤を表す式3中のアリル基(基b)とが結合する反応の活性化エネルギーをE
3
としたとき、
E
1
、E
2
、及びE
3
は、
E
1
<E
3
、かつ、E
2
<E
3
の関係を満たし、
前記製造方法は、
前記組成物に、前記E
1に相当する熱エネルギーを付与して、前記特定化合物と、前記第1の硬化剤とを反応させることと、
前記反応の生成物に前記E
3に相当する熱エネルギーを付与して、前記解離性基Cの解離によって生じた前記反応性基Bと、前記第2の硬化剤の基bとを反応させて、硬化物を得ることと、
を含む、硬化物の製造方法。
【請求項4】
請求項
2に記載の硬化物を含む異方性部材であって、
所定の方向に沿ってフーリエ変換赤外分光光度-全反射測定法で走査測定したとき、C=C結合に由来するシグナルの強度に対する、-CH
2-S-CH
2-結合のCH
2に由来するシグナルのシグナル強度の比が、前記方向に沿って漸増する、異方性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2段階熱応答性の組成物、硬化物、硬化物の製造方法、及び、異方性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱や光の刺激で可逆的にトポロジーが変化する「ビトリマー」と呼ばれる化合物が知られている。
特許文献1には、「ポリマーが非可鍛性状態を該ポリマーに与える共有結合交換反応率を示す、転移温度を下回る低い温度範囲;およびポリマーが可鍛性状態を該ポリマーに与える共有結合交換反応率を示す、該転移温度を上回る高い温度範囲を含む温度範囲への曝露により、非可鍛性状態と可鍛性状態との間でおよび可鍛性状態と非可鍛性状態との間で少なくとも1サイクルの転移を繰り返すことができるポリイミンポリマー。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献に記載されたポリイミンポリマーは、一旦硬化した後であっても、熱エネルギーの付与により軟化して、再成形可能であるという特徴を有しているものの、逆に言えば、熱硬化性樹脂が有しているような、熱に対する安定性を損なっているという課題があった。
【0005】
そこで、本発明は、付与される熱エネルギーが所定量以下なら、可逆的な軟化と硬化とを繰り返し可能な性質を示し、付与される熱エネルギーが所定量を超えると、不可逆的な硬化反応が可能である(以下、「2段階熱応答性を有する」ともいう。)組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、硬化物、及び、異方性部材を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0007】
[1] 反応性基Aを分子内に2つ以上有し、かつ、熱エネルギーの付与により解離して、生成する2つの末端のそれぞれに上記反応性基Aとは異なる反応性基Bを生成可能な解離性基Cを分子内に1つ以上有する特定化合物と、上記反応性基Aと反応し得る基aを分子内に2つ以上有する第1の硬化剤と、上記反応性基Bと反応し得る基bを分子内に2つ以上有する第2の硬化剤と、を含み、上記反応性基Aと上記基aとが結合する反応の活性化エネルギーをE1とし、上記解離性基Cが解離する反応の活性化エネルギーをE2とし、上記解離性基Cを解離させ、生じた上記反応性基Bと上記基bとが結合する反応の活性化エネルギーをE3としたとき、E1<E3、かつ、E2<E3が成り立つ、2段階熱応答性の組成物。
[2] 上記解離性基Cが、ジスルフィド基であり、上記基bが、アリル基である、[1]に記載の組成物。
[3] 上記第2の硬化剤は、上記基bを分子内に2~6個有する、[1]または[2]に記載の組成物。
[4] E1<E2<E3の関係を満たす、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 上記反応性基A、及び、基aの一方が、グリシジル基であり、他方がアミノ基である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 上記第1の硬化剤が、後述する式1で表される化合物である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] 上記特定化合物が、後述する式2で表される化合物である、[6]に記載の組成物。
[8] 上記第2の硬化剤が、後述する式3で表される化合物である、[7]記載の組成物。
[9] 後述する式1で表される第1の硬化剤と、後述する式2で表される特定化合物と、後述する式3で表される第2の硬化剤と、を含む2段階熱応答性の組成物。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の組成物を硬化させた硬化物。
[11] [1]~[8]のいずれかに記載の組成物に、上記E1に相当する熱エネルギーを付与して、上記特定化合物と、上記第1の硬化剤とを反応させることと、上記反応の生成物に上記E3に相当する熱エネルギーを付与して、上記解離性基Cの解離によって生じた上記反応性基Bと、上記第2の硬化剤の基bとを反応させて、硬化物を得ることと、を含む、硬化物の製造方法。
[12] [10]に記載の硬化物を含む異方性部材であって、所定の方向に沿ってフーリエ変換赤外分光光度-全反射測定法で走査測定したとき、C=C結合に由来するシグナルの強度に対する、-CH2-S-CH2-結合のCH2に由来するシグナルのシグナル強度の比が、上記方向に沿って漸増する、異方性部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、2段階熱応答性の組成物を提供することができる。また、本発明によれば、硬化物、硬化物の製造方法、及び、異方性部材を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本組成物の熱応答の特徴を説明するための模式図である。
【
図2】DP-eneとDP-CSCのATR-FTIRスペクトルである。
【
図3】DP-Eneの2時間の等温DSCプロファイルである。
【
図4】DP-Eneを一旦180℃で硬化させたあと、再度同じ測定方法で測定したDSCプロフェイルを比較したものである。
【
図5】試験片のサーマルカメラ(Seek Thermal scanner)映像の平面模式図(スケッチ)である。
【
図6】試験片の熱流方向の各位置における弾性率を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[組成物]
本組成物は、反応性基Aを分子内に2つ以上有し、かつ、熱エネルギーの付与により解離して、生成する2つの末端のそれぞれに上記反応性基Aとは異なる反応性基Bを生成可能な解離性基Cを分子内に1つ以上有する特定化合物と、上記反応性基Aと反応し得る基aを分子内に2つ以上有する第1の硬化剤と、上記反応性基Bと反応し得る基bを分子内に2つ以上有する第2の硬化剤と、を含み、上記反応性基Aと上記基aとが結合する反応(以下、「第1の硬化反応」ともいう。)の活性化エネルギーをE1とし、上記解離性基Cが解離する反応(以下「解離反応」ともいう。)の活性化エネルギーをE2とし、上記解離性基Cを解離させ、生じた上記反応性基Bと上記基bとが結合する反応(以下、「第2の硬化反応」ともいう。)の活性化エネルギーをE3としたとき、E1<E3、かつ、E2<E3が成り立つ、2段階熱応答性の組成物である。
【0012】
特許文献1に記載の樹脂は、「可鍛性状態と非可鍛性状態」を繰り返すことはできたが、「非可鍛性状態」は可逆的な硬化状態であり、本明細書でいう不可逆的な硬化反応が起こった状態とは異なる。
【0013】
図1は、本組成物の熱応答の特徴を説明するための模式図である。
図1(I)は本組成物を示している。本組成物は、特定化合物、第1の硬化剤、及び、第2の硬化剤を含んでいる。
図1(I)において、特定化合物(
図1中では符号「1」が付与されている)は、反応性基Aを分子内に2個有し、解離性基Cを分子内に1個有している。
また、第1の硬化剤(符号「2」)は、基aを分子内に2個有している。また、第2の硬化剤(符号「3」)は、基bを分子内に2個有している。
【0014】
なお、本発明の組成物において、特定化合物は、反応性基Aを分子内に3個以上有してもよく、解離性基を分子内に2個以上有していてもよい。また、第1の硬化剤、及び、第2の硬化剤は、それぞれ、基a、及び、基bをそれぞれ分子内に3個以上有していてもよい。
【0015】
図1(I)の組成物に熱エネルギーを付与すると、特定化合物の反応性基Aと、第1の硬化剤の基aとが反応し、結合する。
図1(II)は、A-a結合が形成され、特定化合物が第1の硬化剤で架橋されてポリマー化し、プレポリマーが形成された状態を示している。この反応を、以下「第1硬化反応」ともいう。また、第1硬化反応により得られるプレポリマーを含む生成物を「仮硬化物」ともいう。
【0016】
なお、
図1(II)では、反応性基Aの1個に対して、基aの1個が反応する形態が示されているが、本組成物における第1硬化反応の形態は上記に制限されず、例えば、1個の反応性基Aに対して、基aが2つ以上結合する形態であってもよいし、その逆であってもよい。この第1硬化反応の活性化エネルギーは、E
1である。なお、活性化エネルギーはアレニウスプロットから実験的に求めてもよいし、文献値を用いてもよい。
【0017】
また、
図1(I)に熱エネルギーを付与すると、特定化合物が有する解離性基Cが解離し、2つの末端を生成し、その末端には、反応性基Bを2つ生成する(
図1(III))。
図1(III)では、第1硬化反応が起こった後に解離性基Cの解離反応が起こるかのように記載されているが、これは説明上の模式的なもので、実際には連続して、又は、並行して起こる。また、解離反応が起こった後に、第1硬化反応が起こる形態でもよい。
【0018】
解離反応が起こるとプレポリマーの分子量は一旦低下するため、仮硬化物の流動性は上がる。すなわち、第1硬化反応によって硬化したプレポリマーを含む仮硬化物は、加熱により再び軟化する。なお解離反応は可逆的な反応であるため、仮硬化物を冷却すると再び硬化する。仮硬化物は、加熱と冷却により軟化と硬化を繰り返すことができる、熱可塑性樹脂の様な応答を示す。
【0019】
図1(III)は、熱エネルギーの付与によって解離性基Cが解離し、反応性基B(図中、記号「4」が付与されている)が生成した状態を示している。
本組成物の特徴点の一つは、
図1(III)の状態の軟化した組成物に更に熱エネルギーを付与すると、第2の硬化剤が有する基bと反応性基Bとの結合が生じて硬化する(以下、「第2硬化反応」ともいう)点である。これによって、プレポリマーが有していた解離性基が新たな架橋点となって3次元網目構造のポリマーネットワークが形成される。なお、第2硬化反応によって得られる生成物を以下、「硬化物」ともいう。
第2硬化反応は、解離性基Cの解離と、解離により生じた基bと反応性基Bとの結合の2つの反応を含むことになる。
【0020】
図1(IV)はB-b結合により形成されたポリマーネットワークを表している。この状態になると、解離性基Cは新たな架橋点を構成しており、第2硬化反応後の組成物(組成物の硬化物)を加熱しても軟化しない。
【0021】
図1においては、第1硬化反応の活性化エネルギーをE
1、解離反応の活性化エネルギーをE
2、第2硬化反応(解離~結合形成)の活性化エネルギーE
3としたとき、E
1<E
2<E
3が成り立つ。そのため、付与する熱エネルギーを調整することによって、第1硬化反応による仮硬化物の形成、解離反応による仮硬化物の軟化、更に冷却による再硬化と、第2硬化反応による不可逆的な硬化とを段階的に起こさせることができる。
なお、本組成物においては、少なくともE
1<E
3、及び、E
2<E
3が成り立てばよい。すなわち、第1硬化反応、及び、解離反応の活性化エネルギーに比べて、第2硬化反応の活性化エネルギーの方が大きければよい。
【0022】
本組成物においては、第1硬化反応を起こさせてプレポリマーを形成した場合でも、エネルギーの付与量がE3に満たない場合には、第2硬化反応が進行しにくい。一方で、第1硬化反応により、プレポリマーは3次元ポリマーネットワークを有しているため、エラストマー様の力学特性を有する(例えば、後述する実施例、特に表1に記載のとおりである。)。
【0023】
更に、プレポリマーは、活性化エネルギーE2(<E3)である解離反応を起こすため、第2硬化反応がおこらない(すなわち、解離性基Cが解離したとしても、基bと反応性基Bとの結合が起こらない)程度(<E3)に加熱することで、解離反応のみを起こし、プレポリマーの分子量を下げて流動性を上げることができる。これにより、第1硬化反応により一旦硬化した後も、再加熱で軟化させ、成形加工等を行うことができる。
【0024】
更に、一旦E3を超える条件で加熱すれば、解離反応で生じた反応性基Bが第2の硬化剤の基bと反応するため、組成物は不可逆的に硬化し、熱に対する安定性が向上する。言い換えれば、加熱により軟化するということがない。
【0025】
本組成物は上記のような機序により2段階熱応答性を発現するものと予測される。以下では、組成物の各成分について詳述する。
【0026】
本発明の実施形態に係る組成物は、反応性基Aを分子内に2つ以上有し、かつ、熱エネルギーの付与により解離して、生成する2つの末端のそれぞれに上記反応性基Aとは異なる反応性基Bを生成可能な解離性基Cを分子内に1つ有する特定化合物を含む。
【0027】
特定化合物が有する反応性基Aとしては特に制限されず、後述する第1の硬化剤との反応の活性化エネルギーE1と、第2の硬化剤との反応の活性化エネルギーE3との関係がE1<E3となるように選択すればよく、公知の反応性基を採用可能である。
【0028】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、反応性基Aは、グリシジル基、及び、第1級アミノ基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基が好ましい。
【0029】
特定化合物が有する解離性基Cとしては特に制限されず、解離反応の活性化エネルギーE2と、第2硬化反応の活性がエネルギーE3との関係がE2<E3となるように選択すればよく、公知の解離性基を採用可能である。
【0030】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、解離性基Cは、ジスルフィド基(-S-S-)であることが好ましい。
【0031】
組成物中における特定化合物の含有量としては特に制限されず、第2の硬化剤が有する反応性基Bとの関係で、反応性基Bの1モルに対して、解離性基が0.4~0.7モルとなる(解離して生ずる基bで言えば、0.8~1.4モルとなる)よう、調整されることが好ましい。
なお、組成物が特定化合物を2種以上含有する場合には、その合計含有量が上記範囲内となるよう調整されることが好ましい。
【0032】
本組成物は、反応性基Aと反応し得る基aを分子内に2つ以上有する第1の硬化剤を含む。基aは、反応性基Aの種類に応じて選択すればよく、公知の置換基を用いることができる。なかでもより優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、基aとしては、アミノ基、及び、グリシジル基からなる群より選択される少なくとも1種の基であることが好ましい。なお、基aは、反応性基A、及び、基bとは異なる基を意味する。
【0033】
本組成物中における第1の硬化剤の含有量としては特に制限されないが、反応性基Aと基aがアミノ基とグリシジル基の組合せである場合には、特定化合物が有する反応性基Aとの関係で、反応性基Aの1モルに対して、基aの0.8~1.4モルとなるよう、調整されることが好ましい。
【0034】
本組成物は、解離性基Cが解離して生じた反応性基Bと反応し得る基bを分子内に2つ以上有する第2の硬化剤を含む。解離性基Cがジスルフィド基(結合)である場合、基bは、アリル基が好ましい。
第2の硬化剤の1分子中における基bの数は特に制限されないが、2~6個が好ましく、3~6個がより好ましく、4~6個が更に好ましい。基bの個数が3~6個であると、第2硬化反応により得られる硬化物はより優れた機械特性を有しやすい。また、仮硬化物よりも硬化物の方がより硬くなりやすい。
本組成物中における第2の硬化剤の含有量としては特に制限されず、すでに説明した組成物中の特定化合物の含有量(すなわち、解離性基の量)に応じて適宜調整されればよい。
【0035】
<組成物の好適形態>
より優れた本発明の効果を有する点で、組成物は、特定化合物として、以下の式2で表される化合物(「特定化合物1」ともいう。)と、式1で表される第1の硬化剤(「硬化剤1」ともいう。)と、式3で表される第2の硬化剤(「硬化剤2」ともいう。)とを含むことが好ましい。特定化合物1、硬化剤1、及び、硬化剤2を含む組成物を、以下、特定組成物という。
【0036】
(硬化剤1)
硬化剤1は、以下の式1で表される化合物である。
【0037】
【0038】
式1中、pは2以上の整数であり、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下が特に好ましい。より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点では、pは2が好ましい。
【0039】
式1中、qは、0以上の整数である、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下が特に好ましく、2以下が最も好ましい。より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点では、qは0が好ましい。
【0040】
式1中、R1は水素原子、又は、1価の有機基である。有機基としては、グリシジル基、アミノ基、及び、アリル基のいずれとも異なる基が好ましく、より具体的には、環状又は鎖状のアルキル基、アリール基、又は、これらの複数の組合せが好ましく、中でも、炭素数が1~4個のアルキル基が好ましい。より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、R1としては、水素原子、又は、炭素数が1~3個のアルキル基が好ましい。
【0041】
式1中、L1はp+q価の基である。
L1が2価の基である場合、例えば、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-NR20-(R20は水素原子又は1価の有機基を表す)、-N=、アルキレン基(炭素数は1~20個が好ましく、環状、及び、鎖状を含む)、アルケニレン基(炭素数2~20個が好ましく、環状、及び、鎖状を含む)、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、ポリ(オキシアルキレン)基、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。
なお、環状のアルキレン基、及び、環状アルケニレン基、並びに、アリーレン基、及び、ヘテロアリーレン基の環はそれぞれ縮合環を形成していてもよい。
【0042】
このうち、アリーレン基としては、例えば、1,2-フェニレン基、1,2-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、1,8-ナフチレン基、1,2-アントリレン基、2,3-アントリレン基、1,2-フェナントリレン基、3,4-フェナントリレン基、及び、9,10-フェナントリレン基等が挙げられ、いずれも置換基を有していてもよい。
【0043】
また、ヘテロアリーレン基としては、例えば、フラン、チオフェン、ピロール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、チアジアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール、イソインドール、インドリジン、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、及び、キノキサリン等から任意の水素原子を2つ除いた基が挙げられる。
【0044】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、L1の2価の基としては、-O-、鎖状又は環状のアルキレン基、アリーレン基、ポリ(オキシアルキレン)、又は、これらの組合せが好ましい。
【0045】
また、L
1が3価以上の基である場合には、特に制限されないが、例えば、(3a)~(3d)で表される基が挙げられる。
【化2】
【0046】
式3a中、Q3は3価の基を表す。T3は単結合又は2価の基を表し、3個のT3は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
Q3としては、第3級アミノ基、3価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Q3の具体例としては、グリセリン残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、シアヌル酸残基、キサンチン残基、及び、シクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
なお、T3の2価の基としては特に制限されないが、すでに説明したL1の2価の基と同様の基が挙げられ、なかでも、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキレン基が好ましい。
【0047】
式3b中、Q4は4価の基を表す。T4は単結合又は2価の基を表し、4個のT4は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Q4としては、4価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Q4の具体例としては、ペンタエリスリトール残基、グリコールウリル残基、及び、ジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
なお、T4の2価の基としては特に制限されないが、すでに説明したL1の2価の基と同様の基が挙げられ、なかでも、-O-、炭素数1~5のアルキレン基、又は、これらの組合せが好ましい。
【0048】
式3c中、Q5は5価の基を表す。T5は単結合又は2価の基を表し、5個のT5は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Q5としては、5価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Q5の具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及び、シクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
なお、T5の2価の基としては特に制限されないが、すでに説明したL1の2価の基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0049】
式3d中、Q6は6価の基を表す。T6は単結合又は2価の基を表し、6個のT6は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Q6としては、6価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Q6の具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
なお、T6の2価の基としては特に制限されないが、すでに説明したL1の2価の基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0050】
なお、L1が7価以上の基である場合には、式3a~式3dで表した基を組み合わせた基を用いることができる。
【0051】
硬化剤1は、公知の方法で合成することもできるし、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、共栄社化学の「エポライト」シリーズ、四日市合成の「エポゴーセー」シリーズ、ナガセケムテックスの「デナコール」シリーズ、三菱ケミカルの「jER」シリーズ、三洋化成の「グリシエールPP」、昭和電工の「ショウフリー」シリーズ、新日本理化学の「リカレジン」シリーズ、及び、日本材料技研の「ノンハライト」シリーズ等が使用できる。
【0052】
硬化剤1としては、例えば、以下の化合物も使用できる。
【0053】
【0054】
組成物中における硬化剤1の含有量としては特に制限されないが、組成物中における、後述する式2で表される化合物が有する第1級アミノ基の含有量のモル基準含有量に対する、グリシジル基の含有量の含有量比(グリシジル基/アミノ基)が、1~4となるよう調整されることが好ましく、1.5~2.5となるよう調整されることがより好ましく、1.8~2.2となるよう調整されることが更に好ましい。
なお、組成物は、硬化剤1の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が2種以上の硬化剤1を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0055】
(特定化合物1)
特定化合物1は以下の式2で表される化合物である。式2で表される化合物は1分子中に2個以上の第1級アミノ基を有しており、硬化剤1が有するグリシジル基と反応して架橋構造を形成する(第1硬化反応)。
【0056】
また、特定化合物1は、分子内に解離性基を有しており、硬化剤1との第1硬化反応後でも、所定の熱エネルギー付与されると解離反応が進行する。これによってプレポリマーの分子量が下がり、仮硬化物は、加熱により再び軟化する。
【0057】
【0058】
式2中、L2はジスルフィド基(-S-S-)を含む2価の基である。L2としては、ジスルフィド基、又は、ジスルフィド基とL1の2価の基として説明した基とを組合せた基が挙げられ、ジスルフィド基が好ましい。
【0059】
L3はr+s+1価の基であり、2価の基が好ましい。L3の例としては、L2の2価の基、及び、3価以上の基としてすでに説明した基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0060】
R2は水素原子、又は1価の有機基であり、1価の有機基としては、R1の1価の有機基として説明した基が挙げられ、好適形態も同様である。R2としては、水素原子、又は、炭素数が1~3個のアルキル基が好ましい。
【0061】
rは、0以上の整数を表し、8以下が好ましく、6以下がより好ましく、4以下が更に好ましく、2以下が特に好ましい。より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点では、rは0が好ましい。
【0062】
sは、1以上の整数を表し、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下が特に好ましくい。より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点では、sは1が好ましい。
【0063】
特定化合物1としては、例えば以下の式で表される化合物が挙げられる。
【0064】
【0065】
組成物中における特定化合物1の含有量としては特に制限されないが、第1級アミノ基の含有量のモル基準含有量に対する、すでに説明した化合物が有するグリシジル基の含有量の含有量比(グリシジル基/アミノ基)が、1~4となるよう調整されることが好ましく、1.5~2.5となるよう調整されることがより好ましく、1.8~2.2となるよう調整されることが更に好ましい。
なお、組成物は、特定化合物1の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上の特定化合物1を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0066】
(硬化剤2)
硬化剤2は以下の式3で表される化合物である。式3で表される化合物は分子内に2つ以上のアリル基を有しており、プレポリマーの分子鎖中に導入された特定化合物1に由来するジスルフィド結合が解離して発生したチイルラジカルと結合し、組成物を熱的に不可逆に硬化させる(第2硬化反応)。
【0067】
【0068】
式3中、tは2以上の整数を表し、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましい。より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点では、tは4が好ましい。
uは0以上の整数を表し、8以下が好ましく、6以下がより好ましく、4以下が更に好ましく、2以下が特に好ましい。より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点では、uは0が好ましい。
【0069】
L4はu+t価の基を表し、その形態は、L1の2価の基、及び、3価以上の基と同様であり、好適形態も同様である。
L5は単結合、又は2価の基であり、2価の基としては、L1の2価の基と同様であり、好適形態も同様である。
【0070】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、L5の2価の基は、*-L6-O-**で表される基が好ましい。*は、L4との結合位置であり、**は他方の結合位置であり、L6は、2価の基であり、その形態は、L2の2価の基と同様である。言い換えれば、硬化剤3としては、アリルエーテル基を分子内に2つ以上有する化合物が好ましい。
【0071】
式3で表される化合物としては、例えば以下の式で表される化合物が挙げられる。
【0072】
【0073】
硬化剤2としては、より簡便に合成でき、1分子中の反応性基の数の調整も容易である点で以下の式4で表される化合物が好ましい。
【化8】
【0074】
式4中、Zは1又は2を表し、2が好ましい。R4は水素原子、又は、1価の有機基であり、R1の1価の有機基と同義であり、好適形態も同様である。
yは2以上の整数を表し、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましい。L7は、y価の基であり、L1の2価、又は、3価以上の基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、yは4が好ましい。
【0075】
組成物中における硬化剤2の含有量としては特に制限されないが、組成物中における、特定化合物1が有するジスルフィド基(ジスルフィド結合)のモル基準の含有量に対する、硬化剤2が有するアリル基のモル基準の含有量の含有量比(アリル基/ジスルフィド基)が1~4であることが好ましく、1.5~3がより好ましく、1.8~2.2となるよう調整されることが好ましい。なお、組成物は、硬化剤3の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上の硬化剤2を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0076】
<組成物の製造方法>
本組成物の製造方法としては特に制限されず、それぞれ調製された特定化合物、第1の硬化剤、及び、第2の硬化剤を混合すればよい。なお、混合の際に、更に溶媒を添加してもよい。溶媒としては特に制限されず、例えば、炭素数が1~6個のアルコール、及び、テトラヒドロフラン等の非プロトン性極性溶媒等を用いればよい。
【0077】
溶媒を用いて特定化合物、第1の硬化剤、及び、第2の硬化剤を混合した場合、混合後に溶媒を除去することが好ましい。溶媒の除去の方法としては特に制限されないが、減圧して、必要に応じて加熱することが好ましい。
【0078】
<硬化物>
本組成物は、2段階熱応答性を有しているため、加熱の程度を制御することで、仮硬化物、及び、硬化物を得ることができる。
【0079】
特定組成物の場合、第1硬化反応の際の温度は特に制限されないが、室温~120℃が好ましく、時間は1~48時間が好ましい。硬化は段階的に行ってもよく、例えば、室温で1~24時間硬化させた後、温度を上げて(例えば80~120℃)更に1~24時間硬化させてもよい。
【0080】
上記により、硬化剤1が有するグリシジル基と、特定化合物1が有するアミノ基とが反応して結合し、プレポリマーが生成される。
【0081】
硬化物は、組成物を加熱して、第1硬化反応と、第2硬化反応を進行させて得られる硬化物である。典型的には、仮硬化物を再加熱することで得られるが、第1硬化反応と第2硬化反応を同時、又は、連続的に進行させて、組成物から直接、硬化物を製造してもよい。
【0082】
仮硬化物を再加熱すると、熱エネルギーを付与されたプレポリマーにおいては、特定化合物1に由来して分子内に組み込まれたジスルフィド結合の解離が起こる。ジスルフィド結合が解離すると、プレポリマーの分子量が低下し、仮硬化物は再度軟化する。
【0083】
このジスルフィド結合の解離は可逆反応であるため、第2硬化反応が完成しない程度(すなわち、解離して生じたチイルラジカルとアリル基との結合が生じない程度)の加熱であれば、再度冷却すれば再び仮硬化物は硬化する。すなわち、加熱と冷却によって、仮硬化物の硬さを調整できる。
ジスルフィド結合の解離を起こさせるための加熱の温度としては特に制限されないが、室温~180℃が好ましい。
【0084】
仮硬化物を更に加熱すると、チイルラジカルと第2の硬化剤のアリル基とが反応し、架橋構造が形成される。これにより硬化物が形成される。この反応は熱的に不可逆である為、第2硬化反応を経て硬化した本硬化物はその後の加熱により軟化せず、従来のビトリマーが有していなかった熱的な安定性を有する。
【0085】
第2硬化反応を完成させるための温度としては特に制限されないが、180℃以上が好ましく、250℃以下が好ましい。なお、第1硬化反応により得られた仮硬化物を、第2硬化反応が起こる温度まで加熱した場合、ジスルフィド結合の解離と、生成したチイルラジカルとアリル基との反応が起こる。
【0086】
[異方性部材]
本発明の実施形態に係る異方性部材は、所定の方向に沿ってフーリエ変換赤外分光光度-全反射測定法で走査測定したとき、C=C結合に由来するシグナル(931cm-1)の強度(IC=C)に対する、-C-S-C-のCH2結合に由来するシグナル(1022cm-1)のシグナル強度(ICS)の比(ICS/IC=C)が、上記方向に沿って漸増する、異方性部材である。
【0087】
本発明の実施形態に係る組成物によれば、第1硬化反応によって、分子内に解離性基(例えば、ジスルフィド基)を有するプレポリマーを含む仮硬化物が得られる。これに対して更に熱エネルギーを付与すると、解離性基が解離し、第2硬化反応によって、ポリマーネットワーク形成され、硬化物が得られる。
このとき、第2の硬化剤のアリル基由来のIC=Cが低下し、一方で、チイルラジカルとアリル基の反応によって、新たに-C-S-C-結合が生成し、ICSは増加する。
【0088】
すなわち、第1硬化反応の活性化エネルギーはE1であり、第2硬化反応の活性化エネルギーはE3であり、これらの間にはE1<E3の関係が成り立つため、E1を超えて、E3未満となる熱エネルギーを付与すると、そのエネルギーが付与された範囲(領域)は、プレポリマーが形成されて硬化するものの(仮硬化物)、解離性基を起点とするポリマーネットワークが形成されず、いわば、完全には硬化されない領域となる。
【0089】
従って、組成物を成形し、一旦仮硬化物を形成した後、仮硬化物を部分的に更に加熱する、又は、温度勾配をつけて全体を更に加熱することで、第2硬化反応による硬化状態の分布を容易に制御できる。これにより、典型的には、部材中に機械特性が異なる領域(仮硬化物/硬化物)を設けることができ、異方性部材が製造できる。
【0090】
特定組成物を例に、製造方法を更に説明する。
まず、特定組成物を調製し、成形する。成形の方法としては特に制限されないが、例えば、溶媒を含む特定組成物をモールドに注入し、溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。
【0091】
次に、第1硬化反応によって、プレポリマーを形成させる。これには、例えば、室温~120℃で1~48時間保持すればよい。これによって、硬化剤1が有するグリシジル基と特定化合物1が有するアミノ基とが結合し、プレポリマーが形成され、仮硬化物が得られる。
【0092】
次に、部材中の所定の領域に対して、更に熱エネルギーを付与する。例えば、後述する実施例(
図5)のように、平板状の部材の一部に第2硬化反応を進行するのに十分な熱エネルギーを付与する。例えば、180~250℃に加熱し、1~5時間程度保持すればよい。
【0093】
上記のように処理することにより、十分な量の熱エネルギーが付与された領域では、第2硬化反応が十分進行して硬化物が得られ、それ以外の領域では、上記と比較すると、第2硬化反応の進行が抑制された領域が生ずる。
上記は、すなわち、部材中に、ジスルフィド-エン反応により生じた-C-S-C-結合がリッチな領域(高強度領域、硬化物をより多く含む領域)と、アリル基がリッチな領域(高柔軟性領域、仮硬化物をより多く含む領域)とが存在することを意味する。
【0094】
この第2硬化反応の進行は、フーリエ変換赤外分光光度-全反射測定法(FTIR-ATR)において、C=Cに由来するシグナル強度に対する、-C-S-C-のCH2に由来するシグナル強度のシグナル強度の比によって評価できる。すなわち、第2硬化反応が進行した領域では、上記シグナル強度比(ICS/IC=C)はより大きくなり、一方、第2硬化反応の進行が抑制された領域では、上記シグナル強度比はより小さくなる。
【0095】
本発明の実施形態に係る異方性部材は、ICS/IC=Cを走査測定したとき、ある方向に沿って上記シグナル強度の比が漸増する材料である。
走査測定とは、材料上の少なくとも2点において測定することを意味し、直線状の3点以上で測定することが好ましい。
漸増とは、少なくとも2点間における上記シグナル強度の比に差があることを意味し、例えば、POSA、POSB、POSCの3点で測定したとき、ICS/IC=Cが、例えばPOSA<POSB<POSCとなることを意味する。
【0096】
走査測定の結果、上記シグナル強度の比が漸増する場合、第2硬化反応の進行度合いが異なる領域が部材中に存在することを意味し、これは、部材中に力学特性が異なる領域が存在する、すなわち、異方性部材であることを意味する。
本組成物によれば、上記のとおり、簡単な加熱のコントロールによって異方性部材を製造可能であり、得られる異方性部材における力学特性の分布の制御も容易である。このような異方性部材は、高強度と柔軟性(靭性)とを併せ持ち、例えば、多方向の動きを実現するためのアクチュエーター素子、及び、ロボット技術の開発に応用できる。
【実施例】
【0097】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱ない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0098】
(「RP-Ene」の合成)
p-キシレンジアミン(10.00g、73.4mmol、1.0当量)と、アリルグリシジルエーテル(67.20g、588mmol、8当量)を40mLのメタノールに溶解した。室温で8時間撹拌した後、メタノール、及び、未反応のアリルグリシジルエーテルを真空下で蒸発させ、20mLのテトラヒドロフラン(THF)を加えた。次に、THF中の粗生成物をヘキサンに沈殿させ、3時間静置した。上記により、黄色の透明な低粘度の化合物を得ることができた。(収率:97%)。この生成物(構造を下記に示した。)を「RP-Ene」と称し、精製することなく次のステップで使用した。
【0099】
【0100】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6,δ):7.22(s,4H,Ar-H),5.84(m,4H,-CH=CH2),5.24(m,4H,-CH=CH2),5.12(m,4H,-CH=CH2),4.57(dd,4H),3.89(m,8H),3.71(m,4H),3.62(m,4H),3.31(m,4H),3.23(m,4H),2.53(m,4H),2.38(m,4H).
【0101】
(組成物「DP-Ene」の調製)
乾燥した丸底フラスコ中で、シスタミン二塩酸塩(20.00g、88.8mmol)、水酸化ナトリウム(7.11g、177.7mmol)を30.77mLの蒸留水に溶解し、混合物を室温で1時間撹拌した。次に、混合物から蒸発によって水を除去し、次に乾燥した残留物を61.52mLのジクロロメタンに再溶解した。沈殿物を濾別した後、無水硫酸マグネシウムを液体に加えて乾燥させた。硫酸マグネシウムの粉末を濾過し、溶媒を真空中で蒸発させることにより、黄色の油状のシスタミン(12.20g、収率:61%)を得た。
【0102】
次に、シスタミン(10.00g、65.0mmol、特定化合物に該当)、DGEBA(28.77g、84.5mmol、第1の硬化剤に該当、三菱ケミカル製)、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル(22.75g、45.5mmol、PEGDGE、第1の硬化剤に該当、シグマアルドリッチ製)、RP-Ene(19.25g、32.5mmol、第2の硬化剤に該当)、及び60mLのメタノールを加え、室温で攪拌した。室温で完全に混合して組成物を得た。更に、メタノールをロータリーエバポレーターで蒸発させ、組成物「DP-Ene」を得た。Dp-Eneの成分は下記式のとおりである。
なお、PEGDGEの数平均分子量は500である。
【0103】
【0104】
次に、組成物をポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)型に容易に注いだ。これを室温で8時間硬化させた後、120℃で2時間真空中で更に硬化させてアミン/エポキシ反応を完了させた。示差走査熱量測定(DSC)によって残留発熱ピークは確認されず、エポキシ/アミン基の完全な反応が保証された。上記反応は、第1硬化反応であり、これにより、シスタミンの第1級アミノ基と、PEGDGE、及び、DGEBAのグリシジル基とが結合したプレポリマーが得られた。
【0105】
(DP-CSCの調製)
得られたDp-Eneを180℃で2時間加熱し、プレポリマーからはチイルラジカルが生じ、RP-Eneのアリル基との間で、ジスルフィド-エンクリック反応により架橋し、硬化物(DP-CSC)が生成した。上記は、解離反応、及び、第2硬化反応に対応する。
なお、この系における第1硬化反応(アミン-エポキシ)の活性化エネルギーは、約55kJ/molであり、解離反応(ジスルフィドの解離)の活性化エネルギーは約50kJ/molであり、第2硬化反応の活性化エネルギーは約61kJ/molである。
【0106】
(ATR-FTIR測定)
図2はDP-EneとDP-CSCのATR-FTIRスペクトルである。
図1から、DP-EneのATR-FTIRスペクトルにC=C(931cm
-1)の伸縮振動の特徴的なピークがある一方、第2硬化反応後のDP-CSCでは、C=Cの強度は消失し、1022cm
-1に新しいピークが現れた。これは、チオエステル結合(-CSC-)の-CH
2-の伸縮振動に起因し、ジスルフィド-エン反応の発生と一致した。また、結果は掲載していないがXPSスペクトルにも同様の傾向が確認された。すなわち、XPS-C1sでのCS/CN(284.7eV)の出現に対応して、C=C(284.2eV)の結合エネルギーが減少し、RP-Eneのアリル基が消費され、ジスルフィドの解離に続いてCS結合が形成されたことが明らかになった。
【0107】
・測定条件
装置:JASCO FT-IR6100分光計
測定方法:固体フィルムサンプルを保持ステージに直接取り付けて測定した。
【0108】
(DMA測定)
次に、DP-EneとDP-CSCについて以下の条件でDMA(Ddynamic Mechanical Analysis)測定を行ったところ、DP-Eneのtanδのピークが15℃であるのに対し、DP-CSCのピークは43℃に上昇した。これは、プレポリマーがジスルフィド-エンクリック反応によって、ゴム状態から、ガラス状態へと転移した(硬化した)ことを示している。
【0109】
・測定条件
装置:Netzsch DMA-242E
サンプル:長方形の試験片(10mm×4.8mm×1mm)
測定方法3℃/分の加熱速度で-90~120℃に加熱し、周波数を1Hzに設定して、貯蔵弾性率、tanδを測定した。
【0110】
(応力-ひずみ試験)
DP-EneとDP-CSCの応力ひずみ挙動を、以下の方法により測定した。表1はその結果である。以下の結果から、DP-Eneは降伏点を有さず、破断に至るまで弾性変形を示すエラストマーとしての性質を有していることがわかる。一方で、DP-CSCは明確な降伏点(その時点の伸びは約5%)と、その後の塑性変形を示し、典型的な塑性材料(plastic material)としての特徴を有していることがわかる。
【0111】
【0112】
上記表において、「Tensile strength」は引張強度、「Young modulus」はヤング率、「Elongation at break」は破断伸び、「Yield point」は降伏点を表す。
【0113】
・測定条件
装置:AG-X Plus Shimazu
測定条件:クロスヘッド速度100mm/minで、湿度制御をせず室温で測定した。
【0114】
(DSC測定)
図3は下記の条件で測定したDP-Eneの2時間の等温DSCプロファイルである。加熱温度が180℃を超える場合にのみ発熱ピークが現れることから、180℃を超える温度で、ジスルフィド-エンクリック反応が活性化して、硬化することがわかった。
図4は、一旦180℃で硬化させたあと、再度同じ測定方法で測定したDSCプロフェイルを比較したものであり、2回目の測定では、発熱反応は検出されなかった。つまり、第2硬化反応の後は、熱的な安定性が向上することが確かめられた。
【0115】
・測定条件
装置:液体窒素クーラーを備えた島津DSC-60Plus
測定方法:約5mgのサンプルを穴の開いた蓋付きのアルミニウムパンの中に入れ、アルミナ粉末を参照標準として使用した。50mL/minの流量で窒素雰囲気下で実行された。2時間の等温線プロファイル(温度:120、140、160、180、190、及び、200℃)で実行された。
【0116】
(異方性部材の製造と力学特性)
平板状のDP-Eneを準備し、一方の端部を局所的に200℃に加熱して、2時間保持した。熱拡散により、試験片の温度分布は約140~200℃の範囲となった。
図5は2時間経過後の試験片のサーマルカメラ(Seek Thermal scanner)映像の平面模式図(スケッチ)である。試験片の一方端が200℃に加熱され、熱流方向に沿って温度が低下し、他方端は140℃程度となっていた。
【0117】
図6は、上記試験片の熱流方向の各位置における弾性率を下記の方法により測定した結果である。
図6によると、温度が低下する方向(横軸左から右に200℃、180℃、160℃、及び、140℃である。)に沿って大きく変化することがわかった。なお、
図6の縦軸は常用対数であり、具体的には、140℃の位置では、0.02GPa、200℃の位置では、5.08GPa、となっており、熱流方向に沿って弾性率が漸増することがわかった。すなわち、上記は異方性部材であることがわかった。
【0118】
・測定条件
装置:球円錐形のダイヤモンド圧子を備えた島津DUH-W201S動的超微小硬度計
測定:室温で、負荷を0.5mNとし、弾性率を測定した。
【0119】
また、
図7はリバウンドテストの結果である。
図7は、試験片の側面写真であり、「I」領域は、約200℃で加熱された領域で、「III」領域は約140℃で加熱された領域、「II」はその中間である。
【0120】
ここに、室温で、直径10mmのガラス球を落下させ、反発高さをfastcam-mini高速カメラで記録した。その結果、I領域にて最も大きなリバウンド距離が発生し、加熱温度勾配に沿って、このリバウンド距離は漸増することがわかった。
【0121】
上記の結果から、本組成物を用いると、第2硬化反応の加熱温度分布によって、架橋状態を制御し、異方性部材を製造できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本組成物は2段階熱応答性を有しているため、第1硬化反応後の組成物に対して、温度勾配を与えて第2硬化反応の進行の程度を制御することで、材料の硬さを簡単に制御することができる。すなわち、機械的強度の異方性を有する異方性部材を製造することができる。このような異方性部材は、高強度と柔軟性(靭性)とを併せ持ち、例えば、多方向の動きを実現するためのアクチュエーター素子、及び、ロボット技術の開発に応用できる。