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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】光周波数コムの周波数制御装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/01 20060101AFI20241125BHJP
【FI】
G02F1/01 B
G02F1/01 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021037633
(22)【出願日】2021-03-09
(65)【公開番号】P2022137910
(43)【公開日】2022-09-22
【審査請求日】2024-02-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「マイクロ光周波数コムの新規制御技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】久世 直也
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-336154(JP,A)
【文献】国際公開第2020/076402(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0215919(US,A1)
【文献】KUSE, N. et al.,Continuous Scanning of a Dissipative Kerr-Microresonator Soliton Comb by Pound-Drever-Hall Locking,2019 Conference on Lasers and Electro-Optics (CLEO), 2019年5月5日,DOI: 10.1364/CLEO_SI.2019.SF2I.5
【文献】LIU, Junqiu et al.,Monolithic piezoelectric control of soliton microcombs,Nature,2020年07月15日,Vol. 583, No. 7816,p.385-390,DOI: 10.1038/s41586-020-2465-8
【文献】YU, Mengjie et al.,Microresonator-based high-resolution gas spectroscopy,Optics Letters,2017年10月25日,Vol. 42, No. 21,p.4442,DOI: 10.1364/OL.42.004442
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 1/39
H01S 3/10
H04B 10/00 -10/90
H04J 14/00 -14/08
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソリトン状態を維持しながらコムモード周波数掃引を行うための光周波数コム周波数制御装置であって、
連続波である励起光を照射するレーザ光源装置と、
ソリトン状態を維持するための周波数差に等しい変調周波数で変調信号を発振するRF発振器と、
前記RF発振器の前記変調信号によって駆動され、前記励起光の高周波側に前記変調周波数だけシフトした上側サイドバンド及び前記励起光の低周波側に前記変調周波数だけシフトした下側サイドバンドを生成する位相変調器と、
ソリトンコムを発生可能であって、前記励起光及び前記上側サイドバンドが結合する微小共振器と、
前記微小共振器のコムモード周波数を制御する信号制御装置と、
前記微小共振器からの透過光を検出して電気信号に変換する光検出器と、
前記電気信号と、前記変調信号とからエラー信号を生成する混合器と、
前記エラー信号からフィードバック信号を生成するループフィルタと、
前記信号制御装置による前記微小共振器の前記コムモード周波数の時間変化を示すフィードフォワード信号を生成するフィードフォワード信号発振器と、
前記フィードバック信号と、前記フィードフォワード信号とに基づいて前記励起光の発振周波数を制御するレーザ制御装置と
を備えた光周波数コム周波数制御装置。
【請求項2】
前記フィードフォワード信号は、前記信号制御装置による前記微小共振器の前記コムモード周波数の時間変化を予め計測することによって算出されたことを特徴とする請求項1に記載の光周波数コム周波数制御装置。
【請求項3】
前記微小共振器は、基板上に形成され、三次非線形光学効果を有する媒質により構成されるリング形状の導波路から成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の光周波数コム周波数制御装置。
【請求項4】
前記微小共振器にマイクロヒーターが設置され、前記信号制御装置は、前記マイクロヒーターに流す電流を制御することによって前記コムモード周波数を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光周波数コム周波数制御装置。
【請求項5】
ソリトン状態を維持しながらコムモード周波数の掃引を行うための光周波数コム周波数制御方法であって、
微小共振器の前記コムモード周波数を制御するための入力信号の制御を開始するステップと、
レーザ光源装置からの励起光及び、位相変調器において変調されることにより高周波側にfPDHだけシフトした前記励起光の上側サイドバンドが、前記微小共振器に結合され、透過した透過光が、電気信号として検出されるステップと、
前記検出された透過光が変調信号と混合され、エラー信号が生成されるステップと、
ループフィルタによって、フィードバック信号が生成されるステップと、
前記入力信号の制御に関する情報に基づきフィードフォワード信号が生成されるステップと、
前記フィードフォワード信号及び前記フィードバック信号に基づき、
エラー信号がゼロとなるように前記レーザ光源装置の発振周波数の調整を行うステップと
を備えることを特徴とする光周波数コム周波数制御方法。
【請求項6】
前記入力信号の制御を開始するステップは、前記微小共振器に設置されたマイクロヒーターに入力される電流の制御を開始するステップを含むことを特徴とする請求項5に記載の光周波数コム周波数制御方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光周波数コムの周波数制御装置及び方法に関し、特に、ソリトンを維持するための光周波数コムの周波数制御装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光周波数コムは、離散的かつ等間隔に並んだ櫛(コム)状のスペクトルを有する超短パルスモード同期レーザの一種である。光周波数コムの中でもマイクロスケールの微小共振器を使用してコム状のスペクトルを発生させるマイクロコムは、高いQ値を有し、チップ集積が可能である。モードロック状態にあるマイクロコムはソリトンコムと呼ばれ、低ノイズで高コヒーレントな超短パルスを生成する(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
ソリトンコムのコム間隔(100GHz-1THz)は、モードロックファイバレーザ等の従来の光周波数コムのコム間隔(100MHz-1GHz)と比較して広く、従来の光周波数コムでは困難であった各コムモードの分離が可能であり、各コムモードを複数のCWレーザとして使用することが出来る。
【0004】
ソリトンコムのコムモード間の周波数は、従来の光周波数コムと同様、コムモードの周波数シフトによってカバーすることが可能である(非特許文献2乃至4参照)。非特許文献2に開示されている方法によれば、微小共振器の上にマイクロヒーターを設置し、微小共振器の温度を変化させることによりコムモードの周波数をシフトさせることが可能である。非特許文献3には、微小共振器に圧電素子を組み込み、圧電素子に電圧を印加することで圧電素子に歪を生じさせることによりコムモードの周波数をシフトさせる方法が開示されている。非特許文献4には、電気光学変調器(Electro Optical Modulator:EOM)を使用して光周波数コムを発生させる方法が開示されている。非特許文献4において開示されている方法によれば、EOMに変調を加えることによりコムモードの周波数をシフトさせることが可能である。
【0005】
ソリトンコムの状態を維持するためには、CWレーザの周波数と微小共振器の複数の共鳴周波数のうちの1つとの間の周波数差を所定の範囲内に維持する必要がある。非特許文献5において、Pound-Drever-Hall(PDH)ロッキングを用いて、CWレーザの周波数と微小共振器の複数の共鳴周波数のうちの1つとの間の周波数差を一定に保つ方法が開示されている。非特許文献5に開示されている方法によれば、微小共振器の上にマイクロヒーターを設置し、ソリトンコムの状態を維持しながら、コムモードの周波数をシフトさせることが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】T.Herr,et al.,Nature Photonics,8,pp.145-152(2014)
【文献】C.Joshi,et al.,Optics Letters,41,pp.2565-2568(2016)
【文献】J.Liu,et al.,Nature,583,pp.385-390(2020)
【文献】C.Wang,et al.,Nature,562,pp.101-104(2018)
【文献】N.Kuse,et al.,Optics Letters,45,pp.927-930(2020)
【文献】Xu.Yi,et al.,Optics Letters,41,pp2037-2040(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献5に開示されている方法によれば、フィードバックを構成する系の位相遅延、フィードバック回路による位相遅延によって、スキャン速度が遅く、かつスキャン範囲が制限される。
【0008】
上記問題点を鑑み、本発明は、フィードバックとフィードフォワードを組み合わせ、既知の制御信号をフィードフォワードによって補償し、ランダムな小さい変動をフィードバックによって抑制することにより、高速、かつ広範囲のコムモード掃引を可能にする光周波数コムの周波数制御装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、ソリトン状態を維持しながらコムモード周波数掃引を行うための光周波数コム周波数制御装置であって、連続波である励起光を照射するレーザ光源装置と、ソリトン状態を維持するための周波数差に等しい変調周波数で変調信号を発振するRF発振器と、RF発振器の変調信号によって駆動され、励起光の高周波側に変調周波数だけシフトした上側サイドバンド及び励起光の低周波側に変調周波数だけシフトした下側サイドバンドを生成する位相変調器と、ソリトンコムを発生可能であって、励起光及び前記上側サイドバンドが結合する微小共振器と、微小共振器のコムモード周波数を制御する信号制御装置と、微小共振器からの透過光を検出して電気信号に変換する光検出器と、電気信号と変調信号とからエラー信号を生成する混合器と、フィードバック信号を生成するループフィルタと、信号制御装置による微小共振器のコムモード周波数の時間変化を示すフィードフォワード電気信号を生成するフィードフォワード信号発振器と、エラー信号と、フィードフォワード信号とに基づいて励起光の発振周波数を制御するレーザ制御装置とを備えることを要旨とする。
【0010】
本発明の第1の態様において、フィードフォワード信号は、信号制御装置による微小共振器のコムモード周波数の時間変化を予め計測することによって算出されてもよい。
【0011】
本発明の第1の態様において、微小共振器は、基板上に形成され、三次非線形光学効果を有する媒質により成るリング形状の導波路から構成されてもよい。
【0012】
本発明の第1の態様において、微小共振器にマイクロヒーターが設置され、信号制御装置は、マイクロヒーターに流す電流を制御することによってコムモード周波数を制御してもよい。
【0013】
本発明の第2の態様は、ソリトン状態を維持しながらコムモード周波数の掃引を行うための光周波数コム周波数制御方法であって、微小共振器のコムモード周波数を制御するための入力信号の制御を開始するステップと、レーザ光源装置からの励起光及び励起光が位相変調器において変調され、励起光の高周波側にfPDHだけシフトした上側サイドバンドが、微小共振器に結合され、透過した透過光が、電気信号として検出されるステップと、検出された透過光が変調信号と混合され、エラー信号が生成されるステップと、ループフィルタによって、フィードバック信号が生成されるステップと、入力信号の制御に関する情報に基づきフィードフォワード信号が生成されるステップと、フィードフォワード信号及びフィードバック信号に基づき、エラー信号がゼロとなるようにレーザ光源装置の発振周波数の調整を行うステップとを備えることを要旨とする。
【0014】
本発明の第2の態様において、入力信号の制御を開始するステップは、微小共振器に設置されたマイクロヒーターに入力される電流の制御を開始するステップを含んでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フィードバックとフィードフォワードを組み合わせ、既知の制御信号をフィードフォワードによって補償し、ランダムな小さい変動をフィードバックによって抑制することにより、高速、かつ広範囲のコムモード掃引を可能にする光周波数コムの周波数制御装置及び方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る光周波数コムの周波数制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
図2】本実施形態に係る周波数制御装置を構成する微小共振器及びマイクロヒーターの一例の模式図であり、図2(a)は断面模式図、図2(b)は上面模式図である。
図3】周波数領域における光周波数コムのスペクトルと励起光との関係を示すグラフである。
図4】従来のPDHロッキングによる、光周波数コムの周波数制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
図5】共鳴周波数及びレーザ光源装置の発振周波数の時間変化を説明するグラフである。
図6】本実施形態に係る光周波数コムの周波数制御装置において、実際の計測によって得られたエラー信号の時間変化を示すグラフである。
図7】本実施形態に係る光周波数コムの周波数制御装置において、レーザ光源装置の発振周波数の制御時間に対するシフト量を示すグラフである。
図8】本実施形態に係る光周波数コムの周波数制御方法の、励起光発振からソリトン状態となるまでの一連の流れを説明するフローチャートである。
図9】本実施形態に係る光周波数コムの周波数制御方法の、コムモード周波数をシフトさせる際の一連の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。実施形態に係る図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0018】
又、実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、各構成要素の構成や配置、レイアウト等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
(実施形態)
本発明の実施形態に係る光周波数コムの周波数制御装置を図面を参照しながら説明する。図1に本発明の実施形態に係る光周波数コムの周波数制御装置の構成の一例を示す。図1に示すように、本実施形態に係る光周波数コムの周波数制御装置10は、レーザ光源装置101、位相変調器102、微小共振器103、マイクロヒーター104、光検出器105、混合器106、RF発振器107、ループフィルタ108、フィードフォワード信号発振器109、加算器110、レーザ制御装置111から構成される。マイクロヒーター104は図示していない電極に接続され、更に図示していない信号制御装置に接続されている。
【0020】
本実施形態において、微小共振器103は、基板上に形成されたリング形状の導波路である。図2(a)に微小共振器103の断面図、図2(b)に上面図を示す。図2(a)は図2(b)に示す破線a-a’における断面図である。図2(a)に示すように、微小共振器103は、基板201上に形成されている。微小共振器103、及び基板201上にクラッド層202が形成されており、クラッド層202を挟んだ微小共振器103上にマイクロヒーター104が設置されている。
【0021】
微小共振器103は、例えば窒化ケイ素(Si)、五酸化タンタル(Ta)、窒化ガリウム(GaN)、又は窒化ガリウムアルミニウム(AlGaN)等の、3次非線形光学効果を有する媒質から構成される。基板201は、例えば、酸化アルミニウム(Al)、又は二酸化ケイ素(SiO)等から構成される。クラッド層204は、例えばSiOから構成される。マイクロヒーター104は、例えばチタン(Ti)又はプラチナ(Pt)等の金属である。
【0022】
マイクロヒーター104は、図示していない電極を介して図示していない信号制御装置に接続されている。マイクロヒーター104に流す電流を制御することによって微小共振器103の温度を制御する。微小共振器103を構成する媒質の屈折率の温度依存性により、微小共振器103の温度を変化させることによって微小共振器103の屈折率を変化させ、よって微小共振器103の共鳴周波数、即ちコムモード周波数を変化させる。マイクロヒーター104に流す電流は、信号制御装置によって制御される。
【0023】
なお、本実施形態において、微小共振器は基板上に形成されたリング形状の導波路であるとしたが、ソリトンコムを発生することが出来、かつコムモード掃引が出来る微小共振器であればよく、基板上に形成されたリング形状の導波路に限定されない。また、本実施形態において、マイクロヒーターにより微小共振器のコムモード周波数の制御を行ったが、コムモード周波数の制御を行う装置への信号と、コムモード周波数の経時的変化との対応関係があらかじめ得られるのであれば、コムモード周波数の制御はマイクロヒーターによるものでなくても構わない。圧電素子によりコムモード周波数の制御を行う場合、圧電素子に印加する電圧を制御することにより圧電素子に生じる歪を制御する。圧電素子に生じる歪により共振器長を変化させ、よってコムモード周波数を変化させる。圧電素子に印加する電圧は信号制御装置によって制御可能である。同様に、電気光学変調器によりコムモード周波数の制御を行う場合、電気光学変調器を変調する電圧によってコムモード周波数を変化させる。電気光学変調器を変調する電圧は信号制御装置によって制御可能である。
【0024】
図2(a)及び図2(b)に示すように、微小共振器103から距離dだけ離して、導波路203が形成されている。微小共振器103と導波路203は互いに光学的に結合している。レーザ光源装置101から照射された励起光112は、位相変調器102を介し、導波路203を伝搬して微小共振器103に結合される。
【0025】
レーザ光源装置101から照射された励起光112と微小共振器103の複数の共鳴周波数のうちの1つとの間の周波数差を所定の範囲fout内に維持すると、微小共振器103からソリトンコムが発生する。図3に、周波数領域における光周波数コムのスペクトルと、励起光112の周波数の関係を示す。マイクロヒーター104に流す電流を制御することによって微小共振器103の共鳴周波数をシフトさせ、それと同時にレーザ光源装置101から照射された励起光112の周波数を、周波数差を所定の範囲内に維持しながらシフトさせれば、ソリトン状態を維持しながらソリトンコムの各コムモード周波数をシフトさせることが出来る。
【0026】
レーザ光源装置101から連続波である励起光112を照射する。レーザ光源装置101から照射された励起光112は、位相変調器102において変調される。位相変調器102は、変調信号116の変調周波数がfPDHであるRF発振器107によって駆動されており、位相変調器102によって、励起光112の高周波側および低周波側にfPDHだけシフトしたサイドバンドが生成される。励起光112の高周波側にfPDHだけシフトしたサイドバンドは上側サイドバンド、低周波側にfPDHだけシフトしたサイドバンドは下側サイドバンドと呼ばれる。励起光及び上側サイドバンドは、変調励起光113として、微小共振器103に結合される。ここで、変調周波数fPDHは、周波数差foutに一致させる。
【0027】
変調励起光113が微小共振器103に結合され、透過した透過光114を、光検出器105によって電気信号として検出する。光検出器105は、例えばフォトダイオードであって、透過光114の強度を検出する。光検出器105で検出された透過光信号115は、RF発振器107の変調信号116と混合器106において混合されてエラー信号117が生成される。さらに、ループフィルタ108によって、フィードバック信号118が生成される。エラー信号117は、変調励起光113の上側サイドバンドが微小共振器103に結合される際の位相変化成分を含み、ソリトン状態であるとき(すなわちfPDH = fout)の上側サイドバンドの位相変化成分はゼロとなることから、レーザ制御装置111において、エラー信号117がゼロとなるようにレーザ光源装置101の励起光112の発振周波数の調整を行う。
【0028】
従来の、PDHロッキングを用いてCWレーザの周波数と微小共振器の共鳴周波数との間の周波数差を一定に保つ方法は、上記の手順によって得られたエラー信号に基づいたフィードバックのみを用いたものである(非特許文献5参照)。図4に、従来のPDHロッキングによる光周波数コムの周波数制御装置40の構成の一例を示す。図1に示す、本実施形態に係る光周波数コムの周波数制御装置10の構成と比較すると、従来の方法では、ループフィルタ108においてエラー信号を生成したのち、レーザ光源装置401においてエラー信号に基づいたフィードバックのみによってレーザ光源装置101の励起光112の発振周波数の調整を行っていた。しかしながら、従来のフィードバックのみによる周波数制御では、フィードバックを構成する系の位相遅延、フィードバック回路による位相遅延等により、制御速度、制御範囲が限定される。
【0029】
本実施形態においては、予め予測される周波数の変動をフィードフォワードとして補償し、比較的小さいランダムな変動をエラー信号に基づいたフィードバックによって抑制することにより、レーザ光源装置101の励起光112の発振周波数の調整を行う。図1においては、ループフィルタ108によって生成されたフィードバック信号118とともに、フィードフォワード信号発振器109からフィードフォワード信号119をレーザ制御装置111に送信する。レーザ制御装置111において、フィードフォワード信号119及びフィードバック信号118に基づき、エラー信号117がゼロとなるように励起光112の発振周波数の調整を行う。
【0030】
本実施形態においては、マイクロヒーター104に流す電流を調整することにより微小共振器103の温度を制御し、ソリトンコムの各コムモード周波数をシフトさせることから、マイクロヒーター104への入力信号に対する各コムモード周波数の時間変化を予め計測し、レーザ光源装置101の励起光112の発振周波数の変動を予測する。したがって、マイクロヒーター104への入力信号と、コムモード周波数の経時的変化との対応関係のテーブルを用意しておくことで、マイクロヒーター104への入力信号に基づいて、フィードフォワード信号を決定することが出来る。
【0031】
さらに、この対応関係のテーブルに関する情報をフィードフォワード信号発振器109及び信号制御装置に記憶しておき、信号制御装置は、対応関係のテーブルに基づき、所望するコムモード掃引を行うためのマイクロヒーター104への入力信号の制御を行ってもよい。この対応関係のテーブルは、例えば掃引範囲、掃引ステップ、掃引速度等のコムモード掃引の条件に応じて、複数用意することが出来、複数の対応関係のテーブルのそれぞれに対して、フィードフォワード信号が決定される。信号御装置は、マイクロヒーター104への入力信号の制御を開始する際、フィードフォワード信号発振器109にマイクロヒーター104への入力信号の制御に関する情報を送信し、フィードフォワード信号発振器109は、信号制御装置から送信された入力信号の制御に関する情報に基づき、フィードフォワード信号を決定する。入力信号の制御に関する情報は、複数の対応関係のテーブルのいずれかを指定する情報であってもよく、また対応関係のテーブルを含む情報であってもよい。
【0032】
図5(a)に、マイクロヒーター104へ信号を入力したときの共鳴周波数、及びレーザ光源装置101の発振周波数の時間変化の一例を示す。共鳴周波数及び発振周波数の予め予測される時間変化が図5(a)に示す破線で表されるとして、フィードフォワードによって補償したときの共鳴周波数及び発振周波数の時間変化を図5(b)に示す。図5(b)に示すランダムな変動をフィードバックによって抑制する。フィードバックによる周波数制御においては、エラー信号の生成に伴う系の長さによる位相遅延や、ループフィルタを通過する際の位相遅延が生じるため、コムモード掃引を行う際、発振周波数の調整量が大きくなると、フィードバック系が発振し、ソリトンコムの存在条件(fPDH = fout)を満たすことが困難になる。したがって、コムモードの周波数掃引量と周波数掃引速度に制限が生じる。本実施形態に係るフィードフォワードとフィードバックを組み合わせた周波数制御によれば、高速、かつ広範囲のコムモード掃引が可能となる。
【0033】
図6に、本実施形態に係る光周波数コムの周波数制御装置において、実際の計測によって得られたエラー信号の時間変化の一例を示す。図6に示す、正弦波状に変化しているエラー信号(エラー信号A)は、フィードバックのみによってレーザ光源装置101の発振周波数の調整を行ったときのエラー信号であり、周期的な変化が補償され、ランダムな変動のみが観られる直線的な帯状のエラー信号(エラー信号B)は、フィードフォワードとフィードバックを組み合わせて発振周波数の調整を行ったときのエラー信号である。
【0034】
図7に、本実施形態に係る光周波数コムの周波数制御装置において、レーザ光源装置の発振周波数の制御時間に対するシフト量を示す。本実施形態に係る光周波数コムの周波数制御によれば、図6に示すマイクロコムのコムモード掃引が実現されている。
【0035】
本実施形態において、エラー信号117は、微小共振器103を透過した透過光114を、光検出器105によって検出した透過光信号115と、RF発振器107の変調信号116を混合して生成され、レーザ制御装置111において、エラー信号117がゼロとなるようにレーザ光源装置101の励起光112の発振周波数の調整が行われる。上記のように、透過光信号と115と変調信号116を混合して得られる信号をエラー信号とするエラー信号の取得方法の代わりに、ソリトンコムのパワーをエラー信号とするエラー信号の取得方法を採用することもできる(非特許文献6参照)。ソリトンコムのパワーをエラー信号とする方法において、ソリトンコムのパワーは共鳴周波数と励起光の周波数差に比例するため、エラー信号に基づいて励起光の発信周波数の調整を行うことができる。
【0036】
図8及び図9に示すフローチャートを参照しながら、本実施形態に係る光周波数コムの周波数制御方法の一例を説明する。図8に示すフローチャートは、レーザ光源装置101から励起光112を発振したのち、微小共振器103から発生する光周波数コムがソリトン状態となるまでの一連の流れを示している。図8において、マイクロヒーター104への入力信号の制御は開始されておらず、図4に示す従来の方法と同様、エラー信号に基づいたフィードバックのみによってレーザ光源装置101の励起光112の発振周波数の調整を行う。図9に示すフローチャートは、微小共振器103から発生する光周波数コムがソリトン状態となったのち、マイクロヒーター104への入力信号の制御によってソリトンコムのコムモード周波数をシフトさせる際の一連の流れを示している。図9において、フィードバックに加えてフィードフォワードによる励起光112の発振周波数の調整を行う。
【0037】
図8のフローチャートに示す、光周波数コムがソリトン状態となるまでの流れを説明する。ステップS801において、レーザ光源装置101から励起光112を照射する。
【0038】
ステップS802において、レーザ光源装置101から照射された励起光112は、位相変調器102において変調され、励起光112の高周波側および低周波側にfPDHだけシフトした上側サイドバンド及び下側サイドバンドが生成される。
【0039】
ステップS803において、励起光及び上側サイドバンドが、変調励起光113として、微小共振器103に結合される。
【0040】
ステップS804において、微小共振器103に結合され、透過した透過光114が、光検出器105によって電気信号として検出される。
【0041】
ステップS805において、光検出器105で検出された透過光信号115がRF発振器107の変調信号116と混合器106において混合され、エラー信号117が生成される。
【0042】
ステップS806において、ループフィルタ108によって、フィードバック信号118が生成される。
【0043】
ステップS807において、レーザ制御装置111において、エラー信号がゼロとなるように励起光112の発振周波数の調整を行う。fPDH = foutとなり、微小共振器103から発生する光周波数コムがソリトン状態となる。
【0044】
図9のフローチャートに示す、マイクロヒーター104への入力信号の制御によってソリトンコムのコムモード周波数をシフトさせる際の流れを説明する。ステップS901において、信号制御装置は、マイクロヒーター104への入力信号の制御を開始し、フィードフォワード信号発振器109にマイクロヒーター104への入力信号の制御に関する情報を送信する。
【0045】
ステップS902において、フィードフォワード信号発振器109において、信号制御装置から送信された入力信号の制御に関する情報に基づきフィードフォワード信号119が生成される。
【0046】
ステップS903において、励起光及び上側サイドバンドが微小共振器103に結合されたのち、透過した透過光114が、光検出器105によって電気信号として検出される。ここで、ステップS901においてマイクロヒーター104への入力信号の制御が開始されたため、ステップS903における微小共振器103の温度、即ち微小共振器103の共鳴周波数は図9のフロー開始時点での共鳴周波数から調整されている。
【0047】
ステップS904において、透過光信号115が変調信号116と混合器106において混合され、エラー信号117が生成される。
【0048】
ステップS905において、ループフィルタ108によって、フィードバック信号118が生成される。
【0049】
ステップS906において、レーザ制御装置111において、フィードフォワード信号119及びフィードバック信号118に基づき、エラー信号117がゼロとなるように励起光112の発振周波数の調整を行う。fPDH = foutとなり、微小共振器103から発生する光周波数コムはソリトン状態を維持したまま、信号制御装置によるマイクロヒーター104への入力信号の制御に応じて、コムモード周波数がシフトされる。
【0050】
図9に示すフローチャートは、ソリトンコムのコムモード周波数を1回の掃引ステップ分シフトさせる際の手順を示している。ソリトンコムのコムモード周波数を複数の掃引ステップにより所定の周波数範囲にわたってシフトさせる場合、ステップS901からステップS906の手順を掃引ステップの回数だけ繰り返し行う。ステップS901において、信号制御装置によってフィードフォワード信号発振器109に送信された入力信号の制御に関する情報が、マイクロヒーター104への入力信号と、コムモード周波数の経時的変化との対応関係のテーブルに関する情報を含む場合、対応関係のテーブルに対応するコムモード掃引の条件に従って、ステップS901からステップS906の手順を繰り返し行うことが出来る。
【0051】
以上、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0052】
10 光周波数コムの周波数制御装置
101 レーザ光源装置
102 位相変調器
103 微小共振器
104 マイクロヒーター
105 光検出器
106 混合器
107 RF発振器
108 ループフィルタ
109 フィードフォワード信号発振器
110 加算器
111、401 レーザ制御装置
112 励起光
113 変調励起光
114 透過光
115 透過光信号
116 変調信号
117 エラー信号
118 フィードバック信号
119 フィードフォワード信号
201 基板
202 クラッド層
203 導波路
40 従来の光周波数コムの周波数制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9