(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】牽引システム及びこれに備えられる牽引装置
(51)【国際特許分類】
A61B 18/22 20060101AFI20241125BHJP
A61N 5/067 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
A61B18/22
A61N5/067
(21)【出願番号】P 2021067824
(22)【出願日】2021-04-13
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】592042543
【氏名又は名称】株式会社ユニタック
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179729
【氏名又は名称】金井 一美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一哲
(72)【発明者】
【氏名】廣井 和正
【審査官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0038106(US,A1)
【文献】特開2005-253983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/22
A61N 5/067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下肢静脈瘤治療に用いられるレーザ装置と、このレーザ装置が備える光ファイバを牽引するための牽引装置からなる牽引システムであって、
前記レーザ装置は、レーザ光源と、少なくとも前記レーザ光源の動作を制御する制御部と、前記レーザ光源及び前記制御部が収容される本体と、前記レーザ光源から放出されたレーザ光を伝送する前記光ファイバを備え、
前記牽引装置は、前記本体と一体または別体に設けられ、
前記光ファイバを牽引駆動する駆動部と、
前記光ファイバの牽引に伴って前記光ファイバに発生する負荷を反映する負荷信号を発生する負荷信号発生部と、
前記制御部と前記駆動部を通信可能に接続するとともに、前記負荷信号発生部と前記制御部を通信可能に接続する通信部と、
前記駆動部及び前記負荷信号発生部を収容し、かつ前記光ファイバを挿通させる筐体を備え、
前記駆動部は、前記光ファイバを挟んで摩擦移動させる駆動ローラ及び従動ローラと、前記駆動ローラの軸部に取り付けられ、前記駆動ローラを回動させるモータを備え、
前記制御部は、
前記モータを駆動するための駆動信号を発生し、前記通信部を介して前記モータへ前記駆動信号を送信する
とともに、前記駆動信号を検知部へ送信するモータドライバと、
前記通信部を介して取得した前記負荷信号
、及び
、前記駆動信号に基づいて、前記負荷を検知する
前記検知部を備え、
前記駆動信号は、この駆動信号そのものであり、
前記検知部が検知した前記負荷に基づいて、前記モータドライバに前記モータの駆動を停止させるための第1の停止信号を伝達することを特徴とする牽引システム。
【請求項2】
前記モータは、ステッピングモータであり、
前記負荷信号発生部は、前記従動ローラの軸部に取り付けられるエンコーダであり、
前記負荷信号は、前記エンコーダが前記従動ローラの回動に伴って出力するパルス信号であり、
前記検知部は、前記パルス信号のタイミング
と、前記駆動信号のタイミングとの比
較から推定される前記ステッピングモータの脱調を、前記負荷として検知することを特徴とする請求項1に記載の牽引システム。
【請求項3】
下肢静脈瘤治療に用いられるレーザ装置と、このレーザ装置が備える光ファイバを牽引するための牽引装置からなる牽引システムであって、
前記レーザ装置は、レーザ光源と、少なくとも前記レーザ光源の動作を制御する制御部と、前記レーザ光源及び前記制御部が収容される本体と、前記レーザ光源から放出されたレーザ光を伝送する前記光ファイバを備え、
前記牽引装置は、前記本体と一体または別体に設けられ、
前記光ファイバを牽引駆動する駆動部と、
前記光ファイバの牽引に伴って前記光ファイバに発生する負荷を反映する負荷信号を発生する負荷信号発生部と、
前記制御部と前記駆動部を通信可能に接続するとともに、前記負荷信号発生部と前記制御部を通信可能に接続する通信部と、
前記駆動部及び前記負荷信号発生部を収容し、かつ前記光ファイバを挿通させる筐体を備え、
前記駆動部は、前記光ファイバを挟んで摩擦移動させる駆動ローラ及び従動ローラと、前記駆動ローラの軸部に取り付けられ、前記駆動ローラを回動させるモータを備え、
前記制御部は、
前記モータを駆動するための駆動信号を発生し、前記通信部を介して前記モータへ前記駆動信号を送信するモータドライバと、
前記通信部を介して取得した前記負荷信
号に基づいて、前記負荷を検知する検知部を備え、
前記駆動信号は、この駆動信号そのものであり、
前記検知部が検知した前記負荷に基づいて、前記モータドライバに前記モータの駆動を停止させるための第1の停止信号を伝達することを特徴とする牽引システム。
【請求項4】
前記負荷信号発生部は、前記従動ローラの軸部に取り付けられるエンコーダと、前記駆動ローラと、前記モータの間において、前記駆動ローラの前記軸部と同軸をなす前記モータの軸部に取り付けられるトルククラッチであり、
前記負荷信号は、前記エンコーダが前記従動ローラの回動に伴って出力するパルス信号であり、
前記検知部は、前記トルククラッチの空転に伴う前記パルス信号の停止を、前記負荷として検知することを特徴とする請求項
3に記載の牽引システム。
【請求項5】
下肢静脈瘤治療に用いられるレーザ装置と、このレーザ装置が備える光ファイバを牽引するための牽引装置からなる牽引システムであって、
前記レーザ装置は、レーザ光源と、少なくとも前記レーザ光源の動作を制御する制御部と、前記レーザ光源及び前記制御部が収容される本体と、前記レーザ光源から放出されたレーザ光を伝送する前記光ファイバを備え、
前記牽引装置は、前記本体と一体または別体に設けられ、
前記光ファイバを牽引駆動する駆動部と、
前記光ファイバの牽引に伴って前記光ファイバに発生する負荷を反映する負荷信号を発生する負荷信号発生部と、
前記制御部と前記駆動部を通信可能に接続するとともに、前記負荷信号発生部と前記制御部を通信可能に接続する通信部と、
前記駆動部及び前記負荷信号発生部を収容し、かつ前記光ファイバを挿通させる筐体を備え、
前記駆動部は、前記光ファイバを挟んで摩擦移動させる駆動ローラ及び従動ローラと、前記駆動ローラの軸部に取り付けられ、前記駆動ローラを回動させるモータを備え、
前記負荷信号発生部は、前記従動ローラの軸部に取り付けられるエンコーダであり、
前記負荷信号は、前記エンコーダが前記従動ローラの回動に伴って出力するパルス信号の、所定の第1の設定時間内における第1のパルス数であり、
前記制御部は、
前記モータを駆動するための駆動信号を発生し、前記通信部を介して前記モータへ前記駆動信号を送信するモータドライバと、
前記モータドライバが制御する前記駆動信号の第1の駆動電流又は第1の駆動電圧を計測して第1の計測値を得る第1の計測部と、
前記第1のパルス数に対応する前記第1の計測値から、前記第1の駆動電流又は前記第1の駆動電圧の予め設定された初期値を減算して変動値を演算する第1の演算部と、
前記変動値を、前記負荷として検知する検知部を備え、
前記駆動信号は、この駆動信号そのものであり、
前記検知部が検知した前記負荷に基づいて、前記モータドライバに前記モータの駆動を停止させるための第1の停止信号を伝達することを特徴とする牽引システム。
【請求項6】
前記牽引装置は、前記駆動部を収容し、かつ前記筐体に対して移動可能な牽引ユニットを備え、
前記牽引ユニットは、支持部と、この支持部に立設され、前記光ファイバが挿通される第1及び第2の挿通孔がそれぞれ形成された第1及び第2の壁面を有し、
前記支持部は、前記駆動部を固定支持し、
前記負荷信号発生部は、前記牽引ユニットの周囲に設けられ、
前記負荷信号は、前記負荷信号発生部が、前記負荷の発生に伴って発生する前記牽引ユニットの位置変化を検出した検出値であり、
前記検知部は、前記検出値、又は前記検出値に対して所定の換算係数を乗算して得られる換算値を前記負荷として検知することを特徴とする請求項
3に記載の牽引システム。
【請求項7】
前記制御部は、
前記レーザ光の放出と、前記光ファイバの牽引をそれぞれ開始させた状態において、前記エンコーダが前記従動ローラの回動に伴って出力する前記パルス信号の第2のパルス数(個)を計測し、計測した前記第2のパルス数(個)を前記光ファイバの牽引開始時から積算して第2の計測値(個)を得る第2の計測部と、
前記光ファイバの牽引距離(cm)を演算する第2の演算部を備え、
前記牽引距離(cm)が、予め設定された前記光ファイバの最大牽引距離(cm)に到達するときに、前記モータドライバに前記モータの駆動を停止させるための第2の停止信号を伝達し、
前記牽引距離(cm)は、この牽引距離をL
1(cm)、前記第2の計測値をN
2(個)、前記従動ローラの1回転当たりに出力される第1の設計パルス数をN
D1(個)、前記従動ローラの第1の半径をR
1(cm)とすると、以下の式(1)で求められることを特徴とする請求項2
、請求項4及び請求項5のいずれか1項に記載の牽引システム。
【数1】
【請求項8】
前記本体は、治療部位に対する前記レーザ光の照射エネルギー密度(J/cm)を調整するための調整因子を入力する入力部を備え、
前記調整因子は、前記照射エネルギー密度の目標値(J/cm)と、前記レーザ光のパワー(J/s)であり、
前記制御部は、
前記レーザ光の放出と、前記光ファイバの牽引をそれぞれ開始させた状態において、前記エンコーダが前記従動ローラの回動に伴って出力する前記パルス信号の、所定の第2の設定時間(s)内における第3のパルス数(個)を計測して第3の計測値(個)を得る第3の計測部と、
前記目標値(J/cm)を前記パワー(J/s)で除算した目標速度(s/cm)に対応する前記第2の設定時間(s)内における目標パルス数(個)と、前記第3の計測値(個)との比率を演算する第3の演算部を備え、
前記第3の計測値(個)を調整して前記比率が1に等しくなるように、前記モータドライバに前記駆動信号の第2の駆動電流又は第2の駆動電圧を制御させるための制御信号を伝達し、
前記目標パルス数(個)は、この目標パルス数をN(個)、前記第2の設定時間をT
2(s)、前記目標速度をV(s/cm)、前記従動ローラの1回転当たりに出力される第2の設計パルス数をN
D2(個)、前記従動ローラの第2の半径をR
2(cm)とすると、以下の式(2)で求められることを特徴とする請求項2
、請求項4及び請求項5のいずれか1項に記載の牽引システム。
【数2】
【請求項9】
請求項1乃至請求項
8のいずれか1項に記載の牽引システムに備えられることを特徴とする牽引装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下肢静脈瘤治療に用いられるレーザ装置が備える光ファイバを牽引するための牽引システム及びこれに備えられる牽引装置に係り、特に、治療部位へレーザ光を出射する直前に光ファイバのたるみを自動的に取り去ることができる牽引システム及びこれに備えられる牽引装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下肢静脈瘤治療では、下肢静脈内に光ファイバを挿入し、レーザ光を出射するその先端を目的位置まで到達させた後、光ファイバを徐々に引き戻しながら静脈瘤へレーザ光を照射して焼灼し、閉塞させる方法が採られている。しかし、光ファイバの引き戻しは医師が手動で行っていたことから、照射中の引き戻し速度を一定に維持することが容易でなかった。そのため、静脈瘤に与えるレーザ光のエネルギー密度が不均等になる場合があった。
このような課題を解決するため、光ファイバを一定速度で引き戻すことを目的とした牽引装置に関する技術が開発されており、それに関してすでにいくつかの発明が開示されている。
【0003】
特許文献1には、「エネルギー供給装置の位置合わせに有用な医療装置及び方法」という名称で、静脈の内腔の全長に沿ってエネルギーを均等に供給するための医療装置に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明は、先端部に光放出部分を有する光ファイバを含むエネルギー供給装置と、このエネルギー供給装置に接続されたエネルギー発生器と、エネルギー発生器に係号する位置合わせ装置を備え、エネルギー発生器は治療部位内での光放出部分の配置や、エネルギー発生器から光放出部分に供給されるエネルギーを制御可能なメインプロセッサを含み、位置合わせ装置はメインプロセッサによって制御されることを特徴とする。
このような特徴を有する発明においては、位置合わせ装置がメインプロセッサによって制御されるため、エネルギー供給装置の光ファイバを連続的または増分的に移動させることができる。また、その際のエネルギーも制御されることから、光ファイバが供給するエネルギーを静脈の内腔の全長に沿って均等に供給することができる。
したがって、特許文献1に開示された発明によれば、治療部位に供給するレーザ光のエネルギーの過不足を防止できる。
【0004】
また、特許文献2には、「血管腔内治療装置」という名称で、レーザ光のパワー密度や光ファイバのプルバックスピードを調整可能な血管腔内治療装置に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、レーザ放射線源と、光ファイバと、温度センサと、パワーコントロールモジュールと、プルバックスピードコントローラによって駆動されているプルバックアクチュエータとで構成されることを特徴とする。
このような特徴を有する発明においては、プルバックスピードコントローラは血管を通るファイバを引き抜くためにプルバックアクチュエータをコントロールし、レーザ放射線源はコントロールモジュールから受け取ったコントロールシグナルに従って、レーザーパワーを決定する。
よって、特許文献2に開示された発明によれば、パワー密度と光ファイバのプルバックスピードを腔内の治療中に調整することが可能である。したがって、静脈壁の穿孔を生じさせるホットスポット又は組織の過熱の発生を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-253983号公報
【文献】特許第6505814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、医師によって、レーザ光を最初に出射するときに、光ファイバの当初の先端位置の周囲で静脈や組織が過剰に焼灼されるおそれがあるとの課題が指摘された。これは、先端を静脈内の目的位置に到達させた状態の光ファイバが下肢に挿入されていない部分で弛んでいると、レーザ光の照射と光ファイバの牽引とを同時に開始したときに、レーザ光は照射されるものの、光ファイバの先端の位置がしばらく変化しないためである。
そこで、これを回避するためには、光ファイバがレーザ光を出射する前に、光ファイバの先端の位置をずらさないようにしつつ、この光ファイバを適切な長さだけ引っ張って、下肢に挿入されていない部分の弛みを確実に取り去る必要がある。また、光ファイバを手動で引っ張る場合では、すべての医師が上記の適切な長さを正確に認識することは困難であるから、牽引装置において光ファイバの弛みを機械的に検知し、検知した弛みを牽引動作に反映させる必要もある。
これに対し、特許文献1及び特許文献2にそれぞれ開示された発明においては、上記課題の明確な開示や、示唆がなされていない。そのため、特許文献1及び特許文献2にそれぞれ開示された発明では、上記課題を解決するための手段は想到されていないから、この課題を解決することができない。
【0007】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、光ファイバの弛みを機械的に検知して自動的に除去し、当初の光ファイバ先端位置の周囲における静脈等の過剰な焼灼を防止可能な牽引システム及びこれに備えられる牽引装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1の発明は、下肢静脈瘤治療に用いられるレーザ装置と、このレーザ装置が備える光ファイバを牽引するための牽引装置からなる牽引システムであって、レーザ装置は、レーザ光源と、少なくともレーザ光源の動作を制御する制御部と、レーザ光源及び制御部が収容される本体と、レーザ光源から放出されたレーザ光を伝送する光ファイバを備え、牽引装置は、本体と一体または別体に設けられ、光ファイバを牽引駆動する駆動部と、光ファイバの牽引に伴って光ファイバに発生する負荷を反映する負荷信号を発生する負荷信号発生部と、制御部と駆動部を通信可能に接続するとともに、負荷信号発生部と制御部を通信可能に接続する通信部と、駆動部及び負荷信号発生部を収容し、かつ光ファイバを挿通させる筐体を備え、駆動部は、光ファイバを挟んで摩擦移動させる駆動ローラ及び従動ローラと、駆動ローラの軸部に取り付けられ、駆動ローラを回動させるモータを備え、制御部は、モータを駆動するための駆動信号を発生し、通信部を介してモータへ駆動信号を送信するモータドライバと、通信部を介して取得した負荷信号及び/又は駆動信号に基づいて、負荷を検知する検知部を備え、検知部が検知した負荷に基づいて、モータドライバにモータの駆動を停止させるための第1の停止信号を伝達することを特徴とする。
【0009】
このような構成の発明において、レーザ装置の本体では、モータドライバが制御部によって制御されることにより、駆動信号を発生する。そして、発生した駆動信号が伝達部を介して駆動部のモータに伝達されることにより、駆動ローラが回動する。
また、駆動ローラの周面と従動ローラの周面は対向して配置されるとともに、これらの周面の間に光ファイバが挟まれているため、駆動ローラを回動させることにより、光ファイバを摩擦移動させることができる。
【0010】
そして、牽引装置では、負荷信号発生部として、例えば、光ファイバの張力や弛みを直接検知する張力センサや弛みセンサ、またはこの張力変化等に起因して発生する物理量の変化を検知して、光ファイバの弛みの有無を間接的に推定する機械要素やセンサが考えられる。
このようなセンサ等によって検知され、かつ出力された負荷信号は、光ファイバの負荷を反映するものである。よって、レーザ光の放出前に、モータが駆動して光ファイバが引き戻される方向へ牽引されている最中に、例えば負荷信号が通信部を介して検知部に送信されると、制御部がモータドライバにモータの駆動を停止させるための第1の停止信号を伝達する。すなわち、光ファイバに負荷が発生、または負荷の大きさが当初の大きさから一定以上変化するまでは、光ファイバの牽引が継続される。
なお、「通信部を介して受信した負荷信号」とは、負荷信号そのもののほか、この負荷信号から演算又は抽出される物理量や、負荷信号から推定される特徴といった、負荷信号と関連する負荷信号関連因子も含まれる。「駆動信号」とは、駆動信号そのものである。
さらに、制御部によって、モータの駆動と、レーザ光源の動作がともに制御されることから、光ファイバの牽引と、レーザ光源から放出されたレーザ光のパワーの制御を同時に行うことができる。
【0011】
次に、第2の発明は、第1の発明において、モータは、ステッピングモータであり、負荷信号発生部は、従動ローラの軸部に取り付けられるエンコーダであり、負荷信号は、エンコーダが従動ローラの回動に伴って出力するパルス信号であり、検知部は、パルス信号のタイミング及び駆動信号のタイミングとの比較、又はパルス信号のタイミングから推定されるステッピングモータの脱調を、負荷として検知することを特徴とする。
【0012】
このような構成の第2の発明においては、第1の発明の作用に加えて、光ファイバの弛みが解消され、この光ファイバに負荷が発生すると、駆動ローラは駆動信号を受けてそのまま負荷発生前の回動速度を持続しようとする。しかし、実際には光ファイバの移動が停止するため、従動ローラの回動速度も遅くなってくる。
すると、駆動信号のタイミングと、エンコーダが従動ローラの回動に伴って出力するパルス信号のタイミングが一致しなかったり、パルス信号が途切れたりするといった現象が起こる。このような現象の発生により、ステッピングモータの脱調が発生したと推定され、さらに光ファイバの弛みが除去されたと判断される。
よって、上記の現象が発生すると、検知部が光ファイバに負荷が発生したとして検知する。これにより、制御部は、モータドライバに第1の停止信号を伝達し、モータの駆動を停止させる。
【0013】
さらに、第3の発明は、第1の発明において、負荷信号発生部は、従動ローラの軸部に取り付けられるエンコーダと、駆動ローラと、モータの間において、駆動ローラの軸部と同軸をなすモータの軸部に取り付けられるトルククラッチであり、負荷信号は、エンコーダが従動ローラの回動に伴って出力するパルス信号であり、検知部は、トルククラッチの空転に伴うパルス信号の停止を、負荷として検知することを特徴とする。
このような構成の第3の発明において、第1の発明の作用に加えて、光ファイバの弛みが解消されると、駆動ローラと光ファイバとの摩擦が増加する。これによって、トルククラッチに加わるトルクの大きさがその許容トルクの大きさ以上になると、トルククラッチが空転し、モータの駆動が駆動ローラへ伝達されることが遮断される。すると、光ファイバの移動が停止するから、従動ローラの回動が停止し、その結果エンコーダからのパルスも停止することになる。
検知部は、このようなパルスの停止を、光ファイバに負荷が発生したとして検知する。
【0014】
そして、第4の発明は、第1の発明において、負荷信号発生部は、従動ローラの軸部に取り付けられるエンコーダであり、負荷信号は、エンコーダが従動ローラの回動に伴って出力するパルス信号の、所定の第1の設定時間内における第1のパルス数であり、制御部は、モータドライバが制御する駆動信号の第1の駆動電流又は第1の駆動電圧を計測して第1の計測値を得る第1の計測部と、第1のパルス数に対応する第1の計測値から、第1の駆動電流又は第1の駆動電圧の予め設定された初期値を減算して変動値を演算する第1の演算部を備え、検知部は、変動値を、負荷として検知することを特徴とする。
【0015】
このような構成の第4の発明においては、第1の発明の作用に加えて、例えば、光ファイバを定速で牽引するように、モータの回動数を一定に設定しておくとき、すなわち、モータに対する駆動信号の第1の駆動電流又は第1の駆動電圧を所定の初期値に設定しておくとき、光ファイバの弛みが解消されて負荷が増加すると、モータの回動数が減少する。これにより、第1の駆動電流又は第1の駆動電圧も初期値から異なる値へと変動する。
また、第1の駆動電流又は第1の駆動電圧の変動の大きさは、負荷の増加量に依存することから、第1の駆動電流又は第1の駆動電圧の第1の計測値を計測し、さらにこの第1の計測値から初期値を差し引いて得た変動値によって、負荷の発生が検知されることになる。
【0016】
続いて、第5の発明は、第1の発明において、牽引装置は、駆動部を収容し、かつ筐体に対して移動可能な牽引ユニットを備え、牽引ユニットは、支持部と、この支持部に立設され、光ファイバが挿通される第1及び第2の挿通孔がそれぞれ形成された第1及び第2の壁面を有し、支持部は、駆動部を固定支持し、負荷信号発生部は、牽引ユニットの周囲に設けられ、負荷信号は、負荷信号発生部が、負荷の発生に伴って発生する牽引ユニットの位置変化を検出した検出値であり、検知部は、検出値、又は検出値に対して所定の換算係数を乗算して得られる換算値を負荷として検知することを特徴とする。
【0017】
このような構成の第5の発明においては、負荷信号発生部として、例えば、変位センサ、ひずみセンサ、圧力センサが使用される。
上記構成の発明においては、第1の発明の作用に加えて、牽引ユニットが牽引装置の筐体に対して移動可能であり、かつ牽引ユニットの支持部が駆動部を固定支持しているものの、光ファイバに負荷が発生していない場合では、光ファイバは滑らかに移動するが、牽引ユニットが牽引装置の筐体に対して移動しない。
これに対し、光ファイバに負荷が発生すると、支持部が駆動部を固定支持していることから、牽引装置は、光ファイバが移動しなくなる代わりに、光ファイバを引き戻そうとする牽引方向と逆の方向に引っ張られる。よって、牽引ユニットは、光ファイバの先端方向に向かってその位置を変化させることから、負荷信号発生部がその際の牽引ユニットの位置変化を検出した検出値を負荷信号として発生する。この検出値により、検知部によって、負荷の発生が検知されることになる。なお、検知部は、検出値に対して所定の換算係数を乗算して得られる換算値を負荷として検知してもよい。
【0018】
第6の発明は、第2乃至第4のいずれかの発明において、制御部は、レーザ光の放出と、光ファイバの牽引をそれぞれ開始させた状態において、エンコーダが従動ローラの回動に伴って出力するパルス信号の第2のパルス数(個)を計測し、計測した第2のパルス数(個)を光ファイバの牽引開始時から積算して第2の計測値(個)を得る第2の計測部と、光ファイバの牽引距離(cm)を演算する第2の演算部を備え、牽引距離(cm)が、予め設定された光ファイバの最大牽引距離(cm)に到達するときに、モータドライバにモータの駆動を停止させるための第2の停止信号を伝達し、牽引距離(cm)は、この牽引距離をL1(cm)、第2の計測値をN2(個)、従動ローラの1回転当たりに出力される第1の設計パルス数をND1(個)、従動ローラの第1の半径をR1(cm)とすると、以下の式(1)で求められることを特徴とする。
【0019】
【0020】
このような構成の発明は、光ファイバの弛みを除去した後の、レーザ光の放出と、光ファイバの牽引が開始された状態において、牽引を開始した当初からの牽引距離が、予め設定された光ファイバの最大牽引距離に到達すると同時に、光ファイバの牽引を停止させるものである。
また、牽引を停止させるための指標として、エンコーダが従動ローラの回動に伴って出力するパルス信号の第2のパルス数が用いられる。なお、具体的には、最大牽引距離とは、治療部位の血管長である。
上記構成の発明においては、第2乃至第4のいずれかの発明の作用に加えて、牽引距離が、予め設定された光ファイバの最大牽引距離に到達するときに、制御部がモータドライバにモータの駆動を停止させることから、予定された治療部位の治療を終了した後に、光ファイバが牽引され続けることが防止される。
【0021】
そして、第7の発明は、第2乃至第5のいずれかの発明において、本体は、治療部位に対するレーザ光の照射エネルギー密度(J/cm)を調整するための調整因子を入力する入力部を備え、調整因子は、照射エネルギー密度の目標値(J/cm)と、レーザ光のパワー(J/s)であり、制御部は、レーザ光の放出と、光ファイバの牽引をそれぞれ開始させた状態において、エンコーダが従動ローラの回動に伴って出力するパルス信号の、所定の第2の設定時間(s)内における第3のパルス数(個)を計測して第3の計測値(個)を得る第3の計測部と、目標値(J/cm)をパワー(J/s)で除算した目標速度(s/cm)に対応する第2の設定時間(s)内における目標パルス数(個)と、第3の計測値(個)との比率を演算する第3の演算部を備え、第3の計測値(個)を調整して比率が1に等しくなるように、モータドライバに駆動信号の第2の駆動電流又は第2の駆動電圧を制御させるための制御信号を伝達し、目標パルス数(個)は、この目標パルス数をN(個)、第2の設定時間をT2(s)、目標速度をV(s/cm)、従動ローラの1回転当たりに出力される第2の設計パルス数をND2(個)、従動ローラの第2の半径をR2(cm)とすると、以下の式(2)で求められることを特徴とする。
【0022】
【0023】
このような構成の発明は、光ファイバの弛みを除去した後であってレーザ光の放出と、光ファイバの牽引がそれぞれ開始された途中において、レーザ光の照射エネルギー密度を当初から変更したいときに、変更後の目標とする照射エネルギー密度となるように、光ファイバの牽引速度を自動的に調整するものである。
また、牽引を停止させるための指標として、エンコーダが従動ローラの回動に伴って出力するパルス信号の、所定の設定時間当たりの第3のパルス数が用いられる。なお、牽引速度とは、設定時間を、この設定時間内に従動ローラが回動した回動距離で除算した値であって、この回動距離は設定時間当たりの第3のパルス数に正比例する。すなわち、牽引速度は設定時間内の第3のパルス数に反比例するから、設定時間当たりの第3のパルス数を調整することで牽引速度を増減することができる。
【0024】
上記構成の発明においては、第2乃至第5のいずれかの発明の作用に加えて、入力部を介して照射エネルギー密度の目標値とレーザ光のパワーを入力すると、第3の演算部が、目標値をパワーで除算した目標速度を演算し、さらに目標速度に対応する目標パルス数を、式(2)を用いて演算する。
また、エンコーダが出力する設定時間当たりの第3のパルス数は、モータドライバが発生する第2の駆動電流又は第2の駆動電圧を調整することによって、変化させることができる。これは、第2の駆動電流等が変化すると駆動ローラの設定時間当たりの回動数が変化し、さらに従動ローラの設定時間当たりの回動数が変化することによる。
したがって、制御部が、モータドライバに駆動信号の第2の駆動電流又は第2の駆動電圧を制御させるための制御信号を伝達することで、牽引速度が自動的に調整される。
【0025】
さらに、第8の発明は、第1乃至第7のいずれかの牽引システムに備えられることを特徴とする牽引装置である。
このような構成の発明においては、光ファイバの牽引時に発生した負荷が、負荷信号発生部によって検出され、通信部を介してレーザ装置の制御部へ送信される。よって、牽引装置がレーザ装置の本体と組み合わされることで、第1乃至第7のいずれかの牽引システムが発揮する作用と同様の作用が発揮される。
【発明の効果】
【0026】
第1の発明によれば、光ファイバに負荷が発生するまでは牽引が継続されるため、光ファイバの弛みを自動的に除去することができる。さらに、弛み除去と同時に光ファイバの牽引も停止されるため、最初にレーザ光を出射することによる、光ファイバ先端位置の周囲での過剰な焼灼を防止することができる。
また、第1の発明によれば、光ファイバの牽引と、レーザ光源から放出されたレーザ光のパワーの制御を同時に行うことができるため、治療部位に対するレーザ光の照射エネルギー密度を変化させることが可能である。
【0027】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、ステッピングモータの脱調現象を利用して、光ファイバに発生する負荷を精度よく検知可能である。さらに、第2の発明は、ステッピングモータと、エンコーダ等からなる簡易な構成でありながら、上記のように精度よく負荷を検知可能なため、費用対効果が良好である。
【0028】
第3の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、トルククラッチの空転を利用して、光ファイバに発生する負荷を精度よく検知可能である。また、許容トルクが可変のトルククラッチを採用することによって、負荷検知の感度を容易に調整できる。
【0029】
第4の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、負荷の増加量によって変動する第1の駆動電流又は第1の駆動電圧を利用して、光ファイバに発生する負荷を精度よく検知可能である。また、第1の駆動電流等は、第1の計測部において計測することのみで得られることから、簡易な構成を実現でき、製造コストを抑制可能である。
【0030】
第5の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、負荷信号発生部が牽引ユニットの位置変化を計測することで、光ファイバに発生する負荷を精度よく検知可能である。
【0031】
第6の発明によれば、第2乃至第4のいずれかの発明の効果に加えて、予定された治療部位の治療を終了した後に、光ファイバが牽引され続けることが防止されるため、光ファイバの挿入箇所から、レーザ光を出射中の光ファイバが抜去されてしまうことを防止できる。
【0032】
第7の発明によれば、第2乃至第5のいずれかの発明の効果に加えて、術者が入力部から照射エネルギー密度の目標値とレーザ光のパワーを入力することのみによって、牽引速度が自動的に調整される。よって、例えば、牽引中に特定の部位のみで照射エネルギー密度を高めたい場合に、容易にこれを実現することができる。したがって、第7の発明によれば、操作性が良好であるとともに、治療成績を向上させることができる。
【0033】
第8の発明によれば、牽引装置によって、従来技術では不可能であった光ファイバの弛みを検出できる。よって、牽引装置がレーザ装置の本体と組み合わされることで、弛みを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】実施例1に係る牽引装置システムの構成図である。
【
図2】実施例1に係る牽引装置システムに備えられる牽引装置の構成図である。
【
図3】実施例1の第1の変形例に係る牽引装置システムに備えられる牽引装置の構成図である。
【
図4】実施例1の第2の変形例に係る牽引装置システムに備えられる牽引装置の構成図である。
【
図5】(a)及び(b)は、それぞれ実施例1の第3及び第4の変形例に係る牽引装置システムを構成する制御部の構成図である。
【
図6】実施例2に係る牽引装置システムに備えられる牽引装置の構成図である。
【
図7】(a)及び(b)は、それぞれ実施例2の第1及び第2の変形例に係る牽引装置システムに備えられる牽引装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0035】
本発明の第1の実施の形態に係る牽引システムについて、
図1及び
図2を用いて詳細に説明する。
図1は、実施例1に係る牽引システムの構成図である。
図2は、実施例1に係る牽引装置システムに備えられる牽引装置の構成図である。
図1に示すように、実施例1に係る牽引システム100は、下肢静脈瘤治療に用いられるレーザ装置50と、このレーザ装置50が備える光ファイバ54を牽引するための牽引装置1からなる牽引システムである。
レーザ装置50は、レーザ光源51と、少なくともレーザ光源51の動作を制御する制御部52と、レーザ光源51及び制御部52が収容される本体53と、レーザ光源51から放出されたレーザ光を伝送し、その先端54aからレーザ光を出射する光ファイバ54と、ケーブル55を介して制御部52と通信可能に接続されるフットスイッチ56を備える。
【0036】
次に、牽引装置1は、光ファイバ54を牽引駆動する駆動部2と、光ファイバ54の牽引に伴ってこの光ファイバ54に発生する負荷を反映する負荷信号を発生する負荷信号発生部3と、制御部52と駆動部2を通信可能に接続するとともに、負荷信号発生部3と制御部52を通信可能に接続する通信部4と、駆動部2及び負荷信号発生部3を収容し、かつ光ファイバ54を挿通させる筐体5を備える。また、牽引装置1は、レーザ装置50の本体53と別体に設けられている。
【0037】
さらに、
図2に示すように、駆動部2は、光ファイバ54を挟んで摩擦移動させる駆動ローラ6及び従動ローラ7と、同様に光ファイバ54を挟んで摩擦移動させる一対の従動ローラ8,9と、駆動ローラ6の軸部6aを支持し、駆動ローラ6を回動させるステッピングモータ10を備える。なお、ステッピングモータ10の軸部10aは駆動ローラ6の軸部6aと同軸をなしている。また、駆動ローラ6及び従動ローラ7~9は、いずれもゴム材からなる。
次に、ステッピングモータ10は、図示しない筐体5内の固定用部材によって固定支持されている。同様に、従動ローラ7の軸部7a及び従動ローラ8,9の軸部8a,9aは、いずれも上記固定用部材に回動可能に取り付けられている。
さらに、駆動部2は、駆動ローラ6の軸部6a及び従動ローラ8の軸部8aにそれぞれ取り付けられるギヤ11a,11bと、このギヤ11a,11bに懸架される無端ベルト12を備える。このギヤ11a,11bと、無端ベルト12は、光ファイバ54に対する駆動ローラ6及び従動ローラ7~9の接触面積を増し、光ファイバ54の送り出し効率を増加するために設けられる。
【0038】
そして、負荷信号発生部3は、具体的には、従動ローラ7の軸部7aに取り付けられるエンコーダ13である。よって、負荷信号発生部3が検出する負荷信号は、エンコーダ13が従動ローラ7の回動に伴って出力するパルス信号である。
さらに、通信部4は、制御部52に設けられる後述するモータドライバ52aとステッピングモータ10を通信可能に接続する一方の通信部4aと、エンコーダ13と制御部52に設けられる検知部52bを通信可能に接続する他方の通信部4bからなる。具体的には、一方の通信部4aと、他方の通信部4bは、1本の通信ケーブルとしてまとめられている。
【0039】
一方、レーザ装置50の制御部52は、モータドライバ52aと、検知部52bを備える。
このうち、モータドライバ52aは、ステッピングモータ10を駆動するための駆動信号を発生し、一方の通信部4aを介してステッピングモータ10へ駆動信号を送信する。
また、検知部52bは、他方の通信部4bを介して取得した、エンコーダ13が発生した負荷信号、及びモータドライバ52aが発生した駆動信号に基づいて、光ファイバ54に発生する負荷を検知する。
さらに、本体53は、レーザ装置50の動作を操作するための入力部53aを備える。よって、制御部52は、レーザ光源51を含むレーザ装置50のすべての動作のほか、牽引装置1の動作を制御する。
【0040】
上記構成の牽引装置1においては、モータドライバ52aが駆動信号を発生すると、この駆動信号が一方の通信部4aを介してステッピングモータ10に伝達され、駆動ローラ6の軸部6aが回動する。なお、駆動信号によって、軸部6aの単位時間当たりの回動数を調整可能な駆動電流又は駆動電圧が決定される。
また、駆動ローラ6の周面6bと従動ローラ7の周面7bは対向して配置されるとともに、周面6bと、周面7bとの間に光ファイバ54が挟まれているため、軸部6aを回動させることにより光ファイバ54を摩擦移動させることができる。なお、周面6b,7bと光ファイバ54との間にそれぞれ発生する摩擦力は、周面6bと、周面8bの隙間の大きさ、周面6b,7bの材質や形状に依存している。
【0041】
続いて、牽引システム100の作用を、下肢静脈瘤に対するレーザ治療の手順に沿って説明する。手順として、医師がまず光ファイバ54のレーザ光を放出する先端54aを、挿入部位(例えば患者の膝裏部)に留置したシースや、このシースから挿入されたカテーテルを介して対象静脈へ挿入し、先端54aが挿入部位よりも近位方向にある照射開始部位に到達するまで、光ファイバ54を押し進める。先端54aが照射開始部位に到達したとき、挿入部位から牽引装置1の駆動部2までの間では、光ファイバ54に弛みが発生している。
次に、医師が、先端54aが照射開始部位からずれないように、挿入部位において光ファイバ54を押さえた状態でフットスイッチ56を踏むと、制御部52により、レーザ光源51がレーザ光を出射しない状態で、ステッピングモータ10が駆動を開始する。これにより、光ファイバ54が引き戻される。なお、制御部52は、検知部52bが光ファイバ54の負荷を一度も検知しないうちは、フットスイッチ56を踏んでもレーザ光源51がレーザ光を出射することがないように設計されている。
また、このときの光ファイバ54に発生する負荷L1は、光ファイバ54が弛んでいるため、極めて小さい。よって、駆動ローラ6と従動ローラ7の単位時間当たりの各回動数は、ステッピングモータ10が駆動を開始した当初からそれぞれほぼ変化しない。そのため、後述するステッピングモータ10の脱調現象が発生しないから、検知部52bは負荷を検知しない。
【0042】
しかし、牽引装置1が牽引を続けると、医師が挿入部位において光ファイバ54を押さえたままであるため、光ファイバ54の弛みが除去されて余長がなくなる。その結果、負荷L1は、急に増加して最大負荷L2となる。
このとき、駆動ローラ6は駆動信号を受けてそのまま負荷L2発生前の回動速度を持続しようとするが、実際には光ファイバ54の移動が停止するため、従動ローラ7の回動速度も遅くなってくる。
すると、駆動信号のタイミングと、エンコーダ13が従動ローラ7の回動に伴って出力するパルス信号のタイミングが一致しなかったり、パルス信号が途切れたりするといった現象が起こる。また、駆動信号に関する情報は、制御部52によって検知部52bへ伝達され、エンコーダ13が出力するパルス信号に関する情報は、他方の通信部4bと、制御部52を介して検知部52bへ伝達される。なお、このような現象の発生により、ステッピングモータ10の脱調が発生したと推定され、さらに光ファイバ54の弛みが除去されたと判断することができる。
【0043】
よって、検知部52bは、モータドライバ52aが発生した駆動信号と、負荷信号発生部3が発生したパルス信号に基づいて、負荷を検知する。詳細には、検知部52bが、モータドライバ52aから伝達された駆動信号のタイミングと、エンコーダ13が出力するパルス信号のタイミングとの比較、又はパルス信号のタイミングから推定されるステッピングモータ10の脱調を、光ファイバ54の負荷として検知する。
次いで、検知部52bは負荷の発生を制御部52に伝達する。そして、制御部52は、伝達された負荷に基づいて、モータドライバ52aにステッピングモータ10の駆動を停止させるための第1の停止信号を伝達する。すなわち、光ファイバ54に負荷が発生するまでは、その牽引が継続される。
【0044】
以上説明したように、牽引システム100によれば、ステッピングモータ10の脱調現象を利用して、検知部52bが光ファイバ54に発生する負荷を精度よく検知可能である。また、光ファイバ54に負荷が発生するまでは、その牽引が継続されるため、光ファイバ54の弛みを自動的に除去することができる。また、負荷の検知は機械的に行われるため、医師の手技に依存することがない。そのため、弛みを過不足なく、かつ再現性よく除去することができる。さらに、弛み除去と同時に光ファイバ54の牽引も停止されるため、最初にレーザ光を出射することによる、光ファイバ54の先端54a位置の周囲での過剰な焼灼を防止することができる。
【0045】
次に、実施例1の第1の変形例に係る牽引システムについて、
図3を用いて説明する。
図3は、実施例1の第1の変形例に係る牽引装置システムに備えられる牽引装置の構成図である。なお、
図1及び
図2で示した構成要素については、
図3においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図3に示すように、実施例1の第1の変形例に係る牽引システム100Aにおいては、牽引システム100を構成する牽引装置1の代わりに、牽引装置1Aを備える。さらに、牽引装置1Aは、牽引装置1が備える負荷信号発生部3及びステッピングモータ10の代わりに、それぞれ負荷信号発生部14及びモータ15を備える。
このうち、負荷信号発生部14は、牽引装置1と同様のエンコーダ13と、駆動ローラ6と、モータ15の間において、駆動ローラ6の軸部6aと同軸をなすモータ15の軸部15aに取り付けられるトルククラッチ16である。
また、モータ15は、ステッピングモータ以外のモータである。これ以外の実施例1の第1の変形例に係る牽引システム100A及び牽引装置1Aの各構成は、実施例1に係る牽引システム100及び牽引装置1の各構成と同様である。
【0046】
上記のうち、トルククラッチ16は、加わるトルクの大きさがその許容トルクの大きさ以上になると空転するという動作特性を有する。
また、トルククラッチ16の許容トルクは、可変であって、光ファイバ54の弛みが除去されたときに、光ファイバ54に発生する最大負荷L2と同程度になるように設定されている。
よって、牽引することによって当初の軽い負荷L1が最大負荷L2に達すると、トルククラッチ16が空転し、駆動ローラ6へ伝達するためのモータ15の駆動が遮断されることになる。その結果、駆動ローラ6は回動を停止し、さらに従動ローラ7の回動も停止するから、エンコーダ13もパルス信号を出力しなくなる。このように、負荷信号発生部14が検出する負荷信号は、牽引装置1と同様に、エンコーダ13が従動ローラ7の回動に伴って出力するパルス信号である。
【0047】
また、上記のトルククラッチ16の空転に伴うエンコーダ13からのパルス信号の停止は、検知部52bが光ファイバ54に発生した負荷として検知し、制御部52へ伝達する。
したがって、牽引システム100Aによれば、トルククラッチ16の空転を利用して、光ファイバ54に発生する負荷を精度よく検知可能である。
なお、制御部52が、モータ15の駆動を停止させると、トルククラッチ16がモータ15の駆動を遮断した状態は解除される。これ以外の実施例1の第1の変形例に係る牽引システム100Aの作用及び効果と、牽引装置1Aの作用及び効果は、実施例1に係る牽引システム100の作用及び効果と、牽引装置1の作用及び効果とそれぞれ同様である。
【0048】
次に、実施例1の第2の変形例に係る牽引システムについて、
図4を用いて説明する。
図4は、実施例1の第2の変形例に係る牽引装置システムに備えられる牽引装置の構成図である。なお、
図1乃至
図3で示した構成要素については、
図4においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図4に示すように、実施例1の第2の変形例に係る牽引システム100Bにおいては、牽引システム100を構成する牽引装置1と、制御部52の代わりに、牽引装置1Bと、制御部52Bをそれぞれ備える。さらに、牽引装置1Bは、牽引装置1が備えるステッピングモータ10の代わりに、モータ17を備える。このモータ17は、ステッピングモータ以外の直流モータである。
また、負荷信号は、エンコーダ13が従動ローラ7の回動に伴って出力するパルス信号の、所定の第1の設定時間T
1(s)内における第1のパルス数である。詳細には、負荷信号は、第1の設定時間T
1(s)内における第1のパルス信号の積算値(個)、またはこの積算値(個)を第1の設定時間T
1(s)で除した第1のパルス率(個/s)である。
【0049】
一方、制御部52Bは、モータドライバ52a及び検知部52bに加えて、第1の計測部52cと、第1の演算部52dを備える。
このうち、第1の計測部52cは、モータドライバ52aが制御する駆動信号の第1の駆動電流又は第1の駆動電圧を計測して第1の計測値を得る。なお、第1の計測部52cは、第1の演算部52dと通信可能である。
また、第1の演算部52dは、第1のパルス数に対応する第1の計測値から、第1の駆動電流又は第1の駆動電圧の予め設定された初期値を減算して変動値を演算する。
そして、検知部52bは、第1の演算部52dが演算した変動値を、光ファイバ54に発生した負荷として検知する。そして、検知部52bは、負荷の発生を制御部52に伝達する。これ以外の実施例1の第2の変形例に係る牽引システム100B及び牽引装置1Bの各の構成は、実施例1に係る牽引システム100及び牽引装置1の各構成と同様である。
【0050】
次に、第1の計測部52cと、第1の演算部52dの作用について、詳細に説明する。まず、モータ17は、弛みを有している光ファイバ54を定速で牽引するよう、第1の駆動電流又は第1の駆動電圧の予め設定された初期値に基づいて、定速で回動するように設定されている。しかし、モータ17は直流モータであるため、光ファイバ54の負荷が増加すると、回動速度が減少する。よって、エンコーダ13が出力する第1の設定時間T1(s)内における第1のパルス数も減少する。
なお、負荷が増加すると、第1の駆動電流の大きさも比例して増加する。また、第1の設定時間T1(s)内における第1のパルス数は、第1の駆動電圧の大きさと比例する。よって、第1の駆動電圧の大きさは、負荷の増加に反比例して減少する。したがって、第1の駆動電流の変動値、または第1の駆動電圧の変動値がそれぞれゼロでない場合に、負荷が増加したことを検知することができる。
【0051】
よって、牽引によって軽い負荷L1が最大負荷L2に達すると、第1の駆動電流の変動値、または第1の駆動電圧の変動値がゼロでなくなるから、前述したように、検知部52bは、第1の演算部52dから伝達された変動値を、負荷として検知する。
したがって、牽引システム100Bによれば、負荷の増加量によって変動する第1の駆動電流又は第1の駆動電圧を利用して、光ファイバ54に発生する負荷を精度よく検知可能である。これ以外の実施例1の第2の変形例に係る牽引システム100Bの作用及び効果と、牽引装置1Bの作用及び効果は、実施例1に係る牽引システム100の作用及び効果と、牽引装置1の作用及び効果とそれぞれ同様である。
【0052】
続いて、実施例1の第3及び第4の変形例に係る牽引システムについて、
図5を用いて説明する。
図5(a)及び
図5(b)は、それぞれ実施例1の第3及び第4の変形例に係る牽引装置システムを構成する制御部の構成図である。なお、
図1乃至
図4で示した構成要素については、
図5においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図5(a)に示すように、実施例1の第3の変形例に係る牽引システム100Cにおいては、牽引システム100を構成する制御部52の代わりに、制御部52Cを備える。
この制御部52Cは、実施例1に係る牽引装置1が備える制御部52に、第2の計測部52eと、第2の演算部52fが追加されたものである。その目的は、光ファイバ54の牽引を開始した当初からの牽引距離(cm)が、予め設定された光ファイバ54の最大牽引距離に到達すると同時に、光ファイバ54の牽引を停止させることである。なお、最大牽引距離とは、下肢における光ファイバ54の挿入位置から、光ファイバ54の先端54aを到達させる目標位置までの光ファイバ54の長さであって、具体的には、治療部位の血管長である。
【0053】
このうち、第2の計測部52eは、レーザ光の放出と、光ファイバ54の牽引をそれぞれ開始させた状態において、エンコーダ13が従動ローラ7の回動に伴って出力するパルス信号の第2のパルス数(個)を計測する。さらに、第2の計測部52eは、計測した第2のパルス数(個)を光ファイバ54の牽引開始時から積算して第2の計測値(個)を得る。
なお、光ファイバ54の牽引をそれぞれ開始させた状態での光ファイバ54に発生する負荷L3は最大負荷L2よりも小さいことから、従動ローラ7の回動速度が遅くなることはない。したがって、前述のような、ステッピングモータ10の脱調は発生しない。
【0054】
また、第2の演算部52fは、光ファイバ54が牽引されて実際に移動する牽引距離L1(cm)を演算する。この牽引距離L1(cm)は、第2の計測部52eが計測した第2の計測値をN2(個)、従動ローラ7の1回転当たりに出力される第1の設計パルス数をND1(個)、従動ローラ7の第1の半径をR1(cm)とすると、以下の式(1)で求められる。なお、第1の設計パルス数をND1とは、詳細には、エンコーダ13を構成するエンコーダディスク(図示せず)の1回転当たりに出力される既知のパルス数である。
すなわち、式(1)は、従動ローラ7が牽引当初から回転した回転数(回)に、従動ローラ7の円周長さ(cm)を乗算した値を表している。これ以外の実施例1の第3の変形例に係る牽引システム100Cの構成は、実施例1に係る牽引システム100の構成と同様である。
【0055】
【0056】
よって、制御部52Cにおいては、牽引距離L1(cm)が、予め設定された光ファイバ54の最大牽引距離(cm)に到達するときに、モータドライバ52aにステッピングモータ10の駆動を停止させるための第2の停止信号を伝達する。よって、予定された治療部位の治療を終了した後に、光ファイバ54が牽引され続けることが防止される。
したがって、牽引システム100Cによれば、光ファイバ54の挿入箇所から、レーザ光を出射中の光ファイバ54が抜去されてしまうことを防止できる。そのため、レーザ光が患者や周囲の医療従事者に照射されたり、挿入箇所に留置されている光ファイバ挿入案内用のシースが誤って焼灼されたりするおそれがなくなる。これ以外の実施例1の第3の変形例に係る牽引システム100Cの作用及び効果は、実施例1に係る牽引システム100の作用及び効果と同様である。
【0057】
次に、
図5(b)に示すように、実施例1の第4の変形例に係る牽引システム100Dにおいては、牽引システム100を構成する制御部52の代わりに、制御部52Dを備える。
また、レーザ装置50の本体53に設けられる入力部53aは、レーザ装置50の本体53に治療部位に対するレーザ光の照射エネルギー密度(J/cm)を調整するための調整因子を入力可能である。この調整因子は、照射エネルギー密度の目標値(J/cm)と、レーザ光のパワー(J/s)である。
【0058】
さらに、制御部52Dは、実施例1に係る牽引装置1が備える制御部52に、第3の計測部52gと、第3の演算部52hが追加されたものである。その目的は、光ファイバ54の弛みを除去した後であって、レーザ光の放出と、光ファイバ54の牽引がそれぞれ開始された途中において、レーザ光の照射エネルギー密度を当初から変更したいときに、変更後の目標とする照射エネルギー密度となるように、光ファイバ54の牽引速度を自動的に調整することである。
【0059】
このうち、第3の計測部52gは、レーザ光の放出と、光ファイバ54の牽引をそれぞれ開始させた状態において、エンコーダ13が従動ローラ7の回動に伴って出力するパルス信号の、所定の第2の設定時間(s)内における第3のパルス数(個)を計測して第3の計測値(個)を得る。
なお、牽引システム100Dにおいても、牽引システム100Cと同様に、光ファイバ54の牽引を開始させた状態で、ステッピングモータ10の脱調は発生しない。
【0060】
また、第3の演算部52hは、目標値(J/cm)をパワー(J/s)で除算した目標速度(s/cm)に対応する第2の設定時間(s)内における目標パルス数(個)と、第3の計測値(個)との比率Kを演算する。
なお、照射エネルギー密度の目標パルス数(個)は、この目標パルス数をN(個)、第2の設定時間をT2(s)、目標速度をV(s/cm)、従動ローラ7の1回転当たりに出力される第2の設計パルス数をND2(個)、従動ローラ7の第2の半径をR2(cm)とすると、以下の式(2)で求められる。なお、第2の設計パルス数をND2とは、第1の設計パルス数ND1と同一の既知のパルス数である。これ以外の実施例1の第4の変形例に係る牽引システム100Dの構成は、実施例1に係る牽引システム100の構成と同様である。
【0061】
【数2】
また、式(2)は、以下の式(3)を変形して求められる。
【0062】
【0063】
よって、制御部52Dにおいては、第3の計測値(個)を調整して比率Kが1に等しくなるように、モータドライバ52aに駆動信号の第2の駆動電流又は第2の駆動電圧を制御させるための制御信号を伝達する。よって、牽引速度が自動的に調整される。
したがって、牽引システム100Dによれば、術者が入力部53aから照射エネルギー密度の目標値とレーザ光のパワーを入力することのみによって、牽引速度が自動的に調整される。よって、例えば、牽引中に特定の部位のみで照射エネルギー密度を高めたい場合に、容易にこれを実現することができる。したがって、牽引システム100Dによれば、操作性が良好であるとともに、治療成績を向上させることができる。これ以外の実施例1の第4の変形例に係る牽引システム100Dの作用及び効果は、実施例1に係る牽引システム100の作用及び効果と同様である。
【実施例2】
【0064】
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る牽引システムについて、
図6を用いて詳細に説明する。
図6は、実施例2に係る牽引装置システムに備えられる牽引装置の構成図である。なお、
図1乃至
図5で示した構成要素については、
図6においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図6に示すように、実施例2に係る牽引システム101においては、牽引システム100を構成する牽引装置1の代わりに、牽引装置1Cを備える。
この牽引装置1Cは、牽引装置1が備えるステッピングモータ10の代わりにモータ18を備えるとともに、牽引ユニット19を備える。この牽引ユニット19は、駆動部2、すなわち駆動ローラ6及び従動ローラ7~9と、モータ18と、ギヤ11a,11bと、無端ベルト12を収容する。なお、モータ18は、ステッピングモータ以外のモータである。
【0065】
さらに、牽引ユニット19は、板状の支持部20と、この支持部20に立設される第1の壁面21a及び第2の壁面21bと、第1の壁面21aと、第2の壁面21bをそれぞれ接続する第3の壁面21c及び第3の壁面21dからなる箱状の容器体である。また、第3の壁面21c及び第4の壁面21dの外周面には、牽引ユニット19が光ファイバ54の牽引方向(図中X方向)に沿ってのみ移動するように、筐体5の内面5aに固着された長尺のガイドレール22,22が設けられる。
このうち、支持部20は、ガイドレール22,22で挟まれた状態で内面5aに対して移動可能に載置されており、さらに駆動部2の従動ローラ7~9を回動可能に固定支持し、かつモータ18を固定支持する。よって、牽引ユニット19は、駆動部2とともに筐体5に対して移動可能である。
また、第1の壁面21a及び第2の壁面21bは、光ファイバ54が挿通される第1の挿通孔23a及び第2の挿通孔23bがそれぞれ形成される。
【0066】
さらに、牽引装置1Cにおいては、牽引装置1が備える負荷信号発生部3(すなわち、エンコーダ13)の代わりに、負荷信号発生部24を備える。この負荷信号発生部24は、牽引ユニット19の周囲に設けられるセンサである。詳細には、負荷信号発生部24は、筐体5と第1の壁面21aとの隙間に介設されるコイルばね24a,24aと、第4の壁面21dの外周面に固着される変位センサ24bであって、筐体5と第1の壁面21aとの間隔Dの変位を検出する。この変位センサ24bは、具体的には、光学式である。
【0067】
上記構成の牽引装置1Cにおいては、光ファイバ54が駆動部2の駆動によってX方向へ牽引されている際に、負荷L1が最大負荷L2へ増加すると、牽引ユニット19は、光ファイバ54が停止することでX方向とは逆の方向へ引っ張られる。すると、コイルばね24a,24aの長さがいずれも短縮する。その結果、変位センサ24bが、その変位に応じた大きさの信号を発生する。なお、コイルばね24a,24aは、その伸長力が最大負荷L2となった際の牽引ユニット19の圧縮力よりも弱いものが選択される。
よって、負荷信号は、変位センサ24bが、負荷の発生に伴って発生する間隔Dの変位を検出した検出値であって、この検出値は他方の通信部4bを介して検知部52bへ伝達される。
また、検知部52bは、この検出値に対して所定の換算係数を乗算して得られる換算値を光ファイバ54の負荷として検知する。なお、換算係数は、予め予備実験で求められ、上記の乗算は図示しない制御部52の演算部において演算される。
【0068】
したがって、牽引システム101によれば、間隔Dの変位を検出することで、光ファイバ54に発生する負荷を精度よく検知可能である。また、検知部52bは、間隔Dの変化を示す換算値を、負荷の強さを反映する数値として検知するから、例えば、換算値を牽引装置1Cの保守管理に役立てることができる。これ以外の実施例2に係る牽引システム101の作用及び効果は、実施例1に係る牽引システム100の作用及び効果と同様である。
【0069】
次に、実施例2の第1及び第2の変形例に係る牽引システムについて、
図7を用いて説明する。
図7(a)及び
図7(b)は、それぞれ実施例2の第1及び第2の変形例に係る牽引装置システムに備えられる牽引装置の構成図である。なお、
図1乃至
図6で示した構成要素については、
図7においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図7(a)に示すように、実施例2の第1の変形例に係る牽引システム101Aにおいては、牽引システム101を構成する牽引装置1Cの代わりに、牽引装置1Dを備える。さらに、牽引装置1Dは、牽引装置1Cが備える負荷信号発生部24の代わりに、負荷信号発生部25を備える。
負荷信号発生部25は、第1の壁面21aの外周面と固定されるとともに、両端が固定部材25b,25bを介して第3の壁面21c及び第4の壁面21dの各内周面にそれぞれ固定される固定板25aと、この固定板25aに固着されるひずみゲージ25cである。
【0070】
上記構成の牽引装置1Dにおいては、牽引装置1Cと同様に、光ファイバ54に発生する負荷L1が最大負荷L2へ増加すると、牽引ユニット19は、X方向とは逆の方向へ引っ張られる。すると、固定板25aにひずみが発生し、ひずみゲージ25cがひずみ量に応じた大きさの信号を発生する。
よって、負荷信号は、ひずみゲージ25cが、固定板25aのひずみ量を検出した検出値であって、この検出値は他方の通信部4bを介して検知部52bへ伝達される。検知部52bは、この検出値に対して所定の換算係数を乗算して得られる換算値を光ファイバ54の負荷として検知する。
したがって、牽引システム101Aによれば、固定板25aのひずみを検出することで、光ファイバ54に発生する負荷を精度よく検知可能である。これ以外の実施例2の第1の変形例に係る牽引システム101Aの作用及び効果は、実施例1に係る牽引システム100の作用及び効果と同様である。
【0071】
また、
図7(b)に示すように、実施例2の第2の変形例に係る牽引システム101Bにおいては、牽引システム101を構成する牽引装置1Cの代わりに、牽引装置1Eを備える。さらに、牽引装置1Eは、牽引装置1Cが備える負荷信号発生部24の代わりに、負荷信号発生部26を備える。
負荷信号発生部26は、エアバッグ26aと、このエアバッグ26a内の空気圧を検知する圧力センサ26bである。
【0072】
上記構成の牽引装置1Eにおいては、牽引装置1Cと同様に、光ファイバ54に発生する負荷L1が最大負荷L2へ増加すると、牽引ユニット19は、X方向とは逆の方向へ引っ張られる。すると、エアバッグ26aが筐体5へ押し付けられ、圧力センサ26bがエアバッグ26a内の空気圧、すなわち光ファイバ54に発生する負荷に応じた大きさの信号を発生する。
よって、負荷信号は、圧力センサ26bが、上記空気圧を検出した検出値であって、この検出値は他方の通信部4bを介して検知部52bへ伝達される。そして、検知部52bが圧力センサ26bによる検出値に対して所定の換算係数を乗算して得られる換算値を負荷として検知する。
したがって、牽引システム101Bによれば、エアバッグ26a内の空気圧を検出することで、光ファイバ54に発生する負荷を精度よく検知可能である。これ以外の実施例2の第2の変形例に係る牽引システム101Bの作用及び効果は、実施例1に係る牽引システム100の作用及び効果と同様である。
【0073】
なお、本発明の牽引システム及び牽引装置の構造は、実施例に示すものに限定されない。例えば、実施例1,2に係る牽引システムを構成する牽引装置は、レーザ装置50の本体53と一体に設けられてもよい。この場合の通信部4として、通信ケーブルのほか、レーザ装置50の内部インターフェースが利用される。また、実施例1に係る牽引システム100C,100Dをそれぞれ構成する牽引装置1の代わりに、エンコーダ13を備える牽引装置1A,1Bが用いられてもよい。この場合、トルククラッチ16の許容トルクと、検知部が検知する第1の駆動電流又は第1の駆動電圧の変動値の閾値は、最大負荷L2は検知するものの、光ファイバ54の牽引をそれぞれ開始させた状態での負荷L3を検出しない程度に調整されるとよい。
さらに、実施例2に係る牽引システム101の牽引装置1Cにおいて、変位センサ24bは、磁気スケール式、近接センサ式、超音波センサ式、作動トランス式、磁気検出式等であってもよく、種類を問わない。そして、実施例2の第2の変形例に係る牽引システム101Bの牽引装置1Eにおいて、エアバッグ26aの代わりに液体バッグが用いられてもよく、この場合圧力センサ26bは、水圧センサが用いられる。このほか、用いられる圧力センサ26bは、感圧導電性エラストマーセンサ、静電容量式圧力センサ等であってもよく、種類を問わない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、下肢静脈瘤治療に用いられる光ファイバの牽引システム及びこれに備えられる牽引装置として適用可能である。
【符号の説明】
【0075】
100,100A~100D,101,101A,101B…牽引システム 1,1A~1E…牽引装置 2…駆動部 3,14,24~26…負荷信号発生部 4…通信部 4a…一方の通信部 4b…他方の通信部 5…筐体 5a…内面 6…駆動ローラ 7~9…従動ローラ 6a~9a…軸部 6b,7b…周面 10…ステッピングモータ 10a…軸部 11a,11b…ギヤ 12…無端ベルト 13…エンコーダ 15,17,18…モータ 15a…軸部 16…トルククラッチ 19…牽引ユニット 20…支持部 21a~21d…第1の壁面~第4の壁面 22…ガイドレール 23a…第1の挿通孔 23b…第2の挿通孔 24a…コイルばね 24b…変位センサ 25a…固定板 25b…固定部材 25c…ひずみゲージ 26a…エアバッグ 26b…圧力センサ 50…レーザ装置 51…レーザ光源 52,52B~52D…制御部 52a…モータドライバ 52b…検知部 52c…第1の計測部 52d…第1の演算部 52e…第2の計測部 52f…第2の演算部 52g…第3の計測部 52h…第3の演算部 53…本体 53a…入力部 54…光ファイバ 54a…先端 55…ケーブル 56…フットスイッチ