(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】トリウム吸着材、その製造方法、それを用いた被験水溶液からトリウムを抽出する方法、および、トリウム含有鉱石からトリウムを回収する方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/12 20060101AFI20241125BHJP
【FI】
G21F9/12 501B
(21)【出願番号】P 2021084671
(22)【出願日】2021-05-19
【審査請求日】2024-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】エル サフティ シェリフ
(72)【発明者】
【氏名】シェナシェン アルコダリ エスマイエル モハメド
(72)【発明者】
【氏名】ハサニエン ゴマア アブディエン ゴマア
(72)【発明者】
【氏名】エルサフティ アブドゥラ レダ アブドゥラ
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/090086(WO,A1)
【文献】特表2017-503741(JP,A)
【文献】特開2016-183061(JP,A)
【文献】特開2004-330005(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022345(WO,A1)
【文献】特表2018-530418(JP,A)
【文献】特表2015-535736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポーラスシリカからなるスポンジ状凝集体を備え、
前記凝集体は、ミクロ細孔、メソ細孔およびマクロ細孔を備えた階層構造を有し、
前記凝集体は、150m
2/g以上200m
2/g以下の範囲のBET法比表面積を有し、0.18cm
3/g以上0.3cm
3/g以下の範囲の細孔容積を有し、
前記凝集体は、10μm以上70μm以下の範囲の粒径の粒子であり、
前記凝集体は、長手方向に配列した細長の溝を有し、
トリウムを選択的に吸着または遊離する、トリウム吸着材。
【請求項2】
前記ポーラスシリカの表面および細孔は、少なくとも式1~式3のいずれかで表されるキレート化合物で修飾されている、請求項1に記載のトリウム吸着材。
【化1】
ここで、Lは、2価の基であり、*は前記ポーラスシリカとの結合部位を表す。
【請求項3】
前記ポーラスシリカに対する前記キレート化合物の質量比は、0.1以上0.5以下の範囲である、請求項2に記載のトリウム吸着材。
【請求項4】
前記ポーラスシリカに対する前記キレート化合物の質量比は、0.15以上0.25以下の範囲である、請求項3に記載のトリウム吸着材。
【請求項5】
前記ポーラスシリカは、少なくとも、ケイ素(Si)、酸素(O)、炭素(C)およびリン(P)、必要に応じて窒素(N)およびM元素(第1族元素または第2族元素)を含有し、合計を100質量%としたとき、それぞれの元素の質量パーセント濃度は、
40≦Si≦45
47≦O≦52
1≦C≦5、
0.5≦P≦2、
0≦N≦2、および、
0≦M≦5
を満たす、請求項2~4のいずれかに記載のトリウム吸着材。
【請求項6】
前記ポーラスシリカの表面および細孔は、式4~式6のいずれかで表されるキレート化合物でさらに修飾されている、請求項2~5のいずれかに記載のトリウム吸着材。
【化2】
ここで、Lは、2価の基であり、…は前記ポーラスシリカと水素結合しているか、または、ファン・デル・ワールス力による結合を表す。
【請求項7】
前記Lは、置換基を有するまたは有しない、炭素数1~20のアルキレン基である、請求項2または6に記載のトリウム吸着材。
【請求項8】
麦わらから得られた植物由来シリカ源をアルカリ溶液に添加し、植物由来シリカ溶液を調製することと、
前記植物由来シリカ溶液に臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)を添加し、原料混合溶液を得ることと、
前記原料混合溶液を水熱合成し、前記植物由来シリカ源からのシリカと前記臭化セチルトリメチルアンモニウムとからなる反応物を析出させることと、
前記反応物を焼成し、前記臭化セチルトリメチルアンモニウムを除去することと
を包含する、請求項1~7のいずれかに記載のトリウム吸着材を製造する方法。
【請求項9】
前記植物由来シリカ溶液を調製することは、前記植物由来シリカ源が添加されたアルカリ溶液を55℃以上65℃未満の温度範囲で還流することを包含する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記原料混合溶液を得ることは、前記植物由来シリカ溶液中の前記植物由来シリカ
源に対する前記臭化セチルトリメチルアンモニウムの質量比が0.1以上0.4以下の範囲となるよう、前記臭化セチルトリメチルアンモニウムを添加する、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記水熱合成することは、前記反応物に酸を添加し、洗浄、乾燥させることを包含する、請求項8~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記反応物を焼成することは、前記反応物を、200℃以上800℃以下の温度範囲で2時間以上24時間以下の時間、焼成する、請求項8~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記反応物を焼成することによって得られた焼成物と、式7または式8で表されるキレート化合物とを混合することをさらに包含する、請求項8~12のいずれかに記載の方法。
【化3】
ここで、Lは、2価の基である。
【請求項14】
前記混合することは、前記焼成物に対する前記キレート化合物の質量比が0.1以上0.5以下となるよう、前記キレート化合物を混合する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記混合することに続いて、前記混合後の生成物を洗浄し、乾燥することをさらに包含する、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
植物由来シリカ溶液を調製することに先立って、前記植物由来シリカ源を調製することをさらに包含し、前記調製することは、
前記麦わらを洗浄し、乾燥することと、
前記乾燥した麦わらを0.25M以上0.5M以下の範囲の濃度の酸で処理し、65℃以上75℃未満の温度範囲で1時間以上10時間以下の時間還流することと、
前記酸を洗浄し、5時間以上10時間以下の時間、80℃以上110℃以下の温度範囲で乾燥することと、
前記乾燥された麦わらを、600℃以上800℃以下の温度範囲で、5時間以上12時間以下の時間焼成し、脱炭酸することと
をさらに包含する、請求項8~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
被験水溶液からトリウムを抽出する方法であって、
請求項1~7のいずれかに記載のトリウム吸着材と、前記被験水溶液とを接触させ、前記被験水溶液中のトリウムを吸着させること
を包含する、方法。
【請求項18】
トリウム含有鉱石からトリウムを回収する方法であって、
前記トリウム含有鉱石を塩酸、硝酸および硫酸からなる群から選択される酸溶液に添加し
、トリウム含有溶液を調製することと、
請求項1~7のいずれかに記載のトリウム吸着材と
前記トリウム含有溶液とを接触させ、前記トリウム吸着材に前記トリウム含有溶液中のトリウムを吸着させることと、
前記トリウム含有溶液からトリウムが抽出された処理水を排出することと、
前記トリウムが吸着したトリウム吸着材を硫酸、塩酸および硝酸からなる群から選択される酸と接触させ、吸着したトリウムを遊離することと
を包含する、方法。
【請求項19】
前記トリウム含有溶液のpHは、4以上6以下の範囲である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記吸着させることは、前記トリウム吸着材と前記トリウム含有溶液とを30分以上100分以下の時間接触させる、請求項18または19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポーラスシリカを用いたトリウム吸着材、その製造方法、それを用いた被験水溶液からトリウムを抽出する方法、および、トリウム含有鉱石からトリウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクチノイド元素であるトリウムは、放射性を有し、4価イオンとして溶液や固体中で安定な状態を有するため、その化合物は毒性が低いとされる。しかしながら、地質鉱石、核燃料廃棄物等の採掘過程でトリウムイオンが飲料水や地下水に移動し、環境問題を悪化させる可能性がある。また、大量のトリウムへの被爆は、肝臓、脾臓等に沈殿するため、人体への影響が懸念される。これに伴い、トリウムを選択的に抽出する方法が求められている。
【0003】
一方、メソポーラスシリカを使ってストロンチウムイオン、セシウムイオンを吸着する技術が開発されている(例えば、特許文献1および2を参照)。しかしながら、これらのメソポーラスシリカは、トリウムを選択的に吸着できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-17919号公報
【文献】特開2013-40852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ポーラスシリカを用いたトリウムを選択的に吸着するトリウム吸着材、その製造方法、それを用いた被験水溶液からトリウムを抽出する方法、および、トリウム含有鉱石からトリウムを回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるトリウム吸着材は、ポーラスシリカからなるスポンジ状凝集体を備え、前記凝集体は、ミクロ細孔、メソ細孔およびマクロ細孔を備えた階層構造を有し、前記凝集体は、150m
2/g以上200m
2/g以下の範囲のBET法比表面積を有し、0.18cm
3/g以上0.3cm
3/g以下の範囲の細孔容積を有し、前記凝集体は、10μm以上70μm以下の範囲の粒径の粒子であり、前記凝集体は、長手方向に配列した細長の溝を有し、トリウムを選択的に吸着または遊離し、これにより上記課題を解決する。
前記ポーラスシリカの表面および細孔は、少なくとも式1~式3のいずれかで表されるキレート化合物で修飾されていてもよい。
【化1】
ここで、Lは、2価の基であり、*は前記ポーラスシリカとの結合部位を表す。
前記ポーラスシリカに対する前記キレート化合物の質量比は、0.1以上0.5以下の範囲であってもよい。
前記ポーラスシリカに対する前記キレート化合物の質量比は、0.15以上0.25以下の範囲であってもよい。
前記ポーラスシリカは、少なくとも、ケイ素(Si)、酸素(O)、炭素(C)およびリン(P)、必要に応じて窒素(N)およびM元素(第1族元素または第2族元素)を含有し、合計を100質量%としたとき、それぞれの元素の質量パーセント濃度は、
40≦Si≦45
47≦O≦52
1≦C≦5、
0.5≦P≦2、
0≦N≦2、および、
0≦M≦5
を満たしてもよい。
前記ポーラスシリカの表面および細孔は、式4~式6のいずれかで表されるキレート化合物でさらに修飾されていてもよい。
【化2】
ここで、Lは、2価の基であり、…は前記ポーラスシリカと水素結合しているか、または、ファン・デル・ワールス力による結合を表す。
前記Lは、置換基を有するまたは有しない、炭素数1~20のアルキレン基であってもよい。
本発明による上記トリウム吸着材を製造する方法は、麦わらから得られた植物由来シリカ源をアルカリ溶液に添加し、植物由来シリカ溶液を調製することと、前記植物由来シリカ溶液に臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)を添加し、原料混合溶液を得ることと、前記原料混合溶液を水熱合成し、前記植物由来シリカ源からのシリカと前記臭化セチルトリメチルアンモニウムとからなる反応物を析出させることと、前記反応物を焼成し、前記臭化セチルトリメチルアンモニウムを除去することとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記植物由来シリカ溶液を調製することは、前記植物由来シリカ源が添加されたアルカリ溶液を55℃以上65℃未満の温度範囲で還流することを包含してもよい。
前記原料混合溶液を得ることは、前記植物由来シリカ溶液中の前記植物由来シリカに対する前記臭化セチルトリメチルアンモニウムの質量比が0.1以上0.4以下の範囲となるよう、前記臭化セチルトリメチルアンモニウムを添加してもよい。
前記水熱合成することは、前記反応物に酸を添加し、洗浄、乾燥させることを包含してもよい。
前記反応物を焼成することは、前記反応物を、200℃以上800℃以下の温度範囲で2時間以上24時間以下の時間、焼成してもよい。
前記反応物を焼成することによって得られた焼成物と、式7または式8で表されるキレート化合物とを混合することをさらに包含してもよい。
【化3】
ここで、Lは、2価の基である。
前記混合することは、前記焼成物に対する前記キレート化合物の質量比が0.1以上0.5以下となるよう、前記キレート化合物を混合してもよい。
前記混合することに続いて、前記混合後の生成物を洗浄し、乾燥することをさらに包含してもよい。
植物由来シリカ溶液を調製することに先立って、前記植物由来シリカ源を調製することをさらに包含し、前記調製することは、前記麦わらを洗浄し、乾燥することと、前記乾燥した麦わらを0.25M以上0.5M以下の範囲の濃度の酸で処理し、65℃以上75℃未満の温度範囲で1時間以上10時間以下の時間還流することと、前記酸を洗浄し、5時間以上10時間以下の時間、80℃以上110℃以下の温度範囲で乾燥することと、前記乾燥された麦わらを、600℃以上800℃以下の温度範囲で、5時間以上12時間以下の時間焼成し、脱炭酸することとをさらに包含してもよい。
本発明による被験水溶液からトリウムを抽出する方法は、上記トリウム吸着材と、前記被験水溶液とを接触させ、前記被験水溶液中のトリウムを吸着させることを包含し、これにより上記課題を解決する。
本発明によるトリウム含有鉱石からトリウムを回収する方法は、前記トリウム含有鉱石を塩酸、硝酸および硫酸からなる群から選択される酸溶液に添加し、前記トリウム含有溶液を調製することと、上記トリウム吸着材とトリウム含有溶液とを接触させ、前記トリウム吸着材に前記トリウム含有溶液中のトリウムを吸着させることと、前記トリウム含有溶液からトリウムが抽出された処理水を排出することと、前記トリウムが吸着したトリウム吸着材を硫酸、塩酸および硝酸からなる群から選択される酸と接触させ、吸着したトリウムを遊離することとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記トリウム含有溶液のpHは、4以上6以下の範囲であってもよい。
前記吸着させることは、前記トリウム吸着材と前記トリウム含有溶液とを30分以上100分以下の時間接触させてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明のトリウム吸着材は、ポーラスシリカからなる凝集体を備える。ポーラスシリカは、ミクロ細孔、メソ細孔およびマクロ細孔を備えた階層構造を有し、150m2/g以上200m2/g以下の範囲のBET法比表面積を有し、0.18cm3/g以上0.3cm3/g以下の範囲の細孔容積を有する。さらに、凝集体は、10μm以上70μm以下の範囲の粒径を有し、内部に長手方向に配列した細長の溝を有する。これにより、本発明のトリウム吸着材は、トリウムを選択的に吸着または遊離できるので、人体の健康維持や環境の浄化に有利である。本発明のトリウム吸着材はカラム充填材として適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】キレート化合物が修飾した本発明のトリウム吸着材を用いた吸着メカニズムを示す模式図
【
図4】本発明のトリウム吸着材を製造する工程を示すフローチャート
【
図5】本発明の別のトリウム吸着材を製造する工程を示すフローチャート
【
図6】本発明のトリウム吸着材を用いたトリウム吸着カラムを示す模式図
【
図7】本発明のトリウム吸着材を用い被験水溶液からトリウムを吸着する工程を示すフローチャート
【
図8】本発明のトリウム吸着材を用い、トリウム含有鉱石からトリウムを抽出し、回収する工程を示すフローチャート
【
図9】ECRからのトリウム浸出の各種条件依存性を示す図
【
図10】例1の試料のSEM像およびHR-TEM像を示す図
【
図11】例1および例2の試料のXRDパターンを示す図
【
図12】例1および例2の試料の窒素吸脱着等温線(A)およびTG-DTA曲線(B)を示す図
【
図13】例1および例2の試料のFTIRスペクトルを示す図
【
図14】トリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験後の例2の試料のXRDパターンを示す図
【
図15】トリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験後の例2の試料のFTIRスペクトル
【
図16】例1および例2の試料についてトリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験の結果を示す図
【
図17】例1および例2の試料についてトリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験の結果を示す図
【
図18】例1および例2の試料について種々のイオンを含有するトリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験の結果を示す図
【
図19】例1および例2の試料について種々のイオンを含有するトリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験の別の結果を示す図
【
図20】バッチ方式によってトリウムが吸着した例1および例2の試料を用いた遊離(脱離)試験の結果を示す図
【
図21】例1および例2の試料についてトリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着脱着繰り返し試験の結果を示す図
【
図22】例1および例2の試料についてトリウム標準溶液を用いたカラム方式トリウム吸着試験の結果を示す図
【
図23】カラム方式によってトリウムが吸着した例1および例2の試料を用いた遊離(脱離)試験の結果を示す図
【
図24】例1および例2の試料についてトリウム標準溶液を用いたカラム方式トリウム吸着脱着繰り返し試験の結果を示す図
【
図25】例2の試料についてECR含有鉱石によるトリウム含有溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験の結果を示す図
【
図26】例1および例2の試料についてECR含有鉱石によるトリウム含有溶液を用いたバッチ方式およびカラム方式のトリウム吸着脱着試験の結果を示す図
【
図27】例1~例7の試料についてECR含有鉱石によるトリウム含有溶液を用いたバッチ方式のトリウム吸着試験の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0010】
図1は、本発明のトリウム吸着材を示す模式図である。
【0011】
本発明のトリウム吸着材は、ポーラスシリカ110からなるスポンジ状凝集体100を備える。凝集体100は、ミクロ細孔(細孔径:0.5nm以上2nm未満)、メソ細孔(細孔径:2nm以上50nm未満)およびマクロ細孔(細孔径:50nm以上10μm以下)を備えた階層構造を有する。このような種々のサイズの細孔を有することにより、階層的な構造となり、トリウムの取り込み、拡散、吸着を促進できる。本願発明者らは、特に、凝集体100が、150m2/g以上200m2/g以下の範囲のBET法比表面積を有し、0.18cm3/g以上0.3cm3/g以下の範囲の細孔容積を有しており、10μm以上70μm以下の範囲の粒径を有する粒子において、トリウムを選択的に吸着または遊離し、トリウム吸着材として機能することを見出した。特に、凝集体100は、長手方向に配列した細長の溝を備えるので、溝を介してメソ細孔やチャネルにトリウムを吸着できる。
【0012】
本発明において対象とするトリウム(Th)は、天然に存在するものの他に、炉内で核反応により生成するものいずれであってもよい。天然に存在する同位体トリウムは、主として232Thであるが、230Th、234Th(ウラン系列の中間壊変生成物)、227Th、231Th(アクチニウム系列の中間壊変生成物)、228Th(トリウム系列の中間壊変生成物)がある。トリウムは半減期が長く、放射能を有する。232トリウムが中性子を吸収すると、233トリウムとなり、これがベータ崩壊し、233プラトアクチニウム、次いで、233ウランとなる。
【0013】
また、被処理対象(例えば被験液とも呼ぶ)中で、トリウム種は、Th(II)、Th(III)、Th(IV)の3種類の酸化状態をとり、Th4+が安定であり、二酸化トリウム、フッ化トリウム、水酸化トリウム、硝酸トリウム、炭酸トリウムなどの化合物がある。以降では、同位体および各種酸化状態のイオンを含めて、簡単のため、単にトリウムと称する。
【0014】
凝集体100が、ミクロ細孔(0.5nm以上2nm未満の径)、メソ細孔(2nm以上50nm未満の径)およびマクロ細孔(50nm以上10μm以下の径)を有することは、窒素吸脱着等温線に基づくNLDFT法(Non-Local Density Functional Theory;非局在密度汎関数法)によって判定できる。簡易的には、吸脱着等温線がIUPACのI型と、II型またはIII型と、IV型またはV型との混合状態であればよい。本願明細書では、凝集体がミクロ細孔、メソ細孔およびマクロ細孔を有することを、階層構造を有するという。
【0015】
凝集体100において、2nm以上50nm未満のメソ細孔は、主にトリウムを吸着し、保持する空間として機能するが、好ましくは、メソ細孔の細孔容積が、0.2cm3/g以上0.3cm3/g以下の範囲を有する。メソ細孔は、トリウムに対する活性サイトとなり、トリウムの補足を促進し得、トリウムを効率的に吸着できる。
【0016】
凝集体100は、10μm以上70μm以下の範囲の粒径を有する粒子であり、好ましくは、50μm以上70μm以下の範囲の粒径を有する粒子である。また、長手方向に配列した細長の溝は、好ましくは、250nm以上2μm以下の長さを有する。この配列した溝がメソ細孔やチャネルと結合し、トリウムの吸着を促進し得る。細長の溝は、より好ましくは、1μm以上2μm以下の長さを有する。粒径および溝の長さは、電子顕微鏡画像を基にしてImage J(ver. 1.51n;オープンソースでパブリックドメインの画像処理ソフトウェア)によって測定された値である。
【0017】
図2は、本発明の別のトリウム吸着材を示す模式図である。
図3は、キレート化合物が修飾した本発明のトリウム吸着材を用いた吸着メカニズムを示す模式図である。
【0018】
本発明のトリウム吸着材は、好ましくは、ポーラスシリカの表面および細孔が1式~3式で表されるキレート化合物210で修飾された粒子の凝集体を備えてよい。1式~3式で表されるキレート化合物210は、ポーラスシリカと化学結合している。
【0019】
【0020】
ここで、Lは、2価の基であり、*はポーラスシリカとの結合部位を表す。
Lは、2価の基としては特に制限されないが、ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基が挙げられる。ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基としては、例えば、アルキレン基(炭素数1~20個が好ましい)、シクロアルキレン基(炭素数3~20個が好ましい)、アルケニレン基(炭素数2~20個が好ましい)、アルキニレン基(炭素数2~20個が好ましい)、及び、これらの組み合わせ、並びに、上記と-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、および、-NR-(Rは水素原子又は1価の有機基を表す)との組み合わせ等が挙げられる。
【0021】
中でも、Lは、好ましくは、炭素数1~15のアルキレン基である。これにより、ポーラスシリカへのキレート化合物210の修飾が促進する。さらに好ましくは、炭素数1~10のアルキレン基である。これにより、ポーラスシリカにより多くのキレート化合物210を修飾させることができるので、より多くのトリウムを吸着できる。なおさらに好ましくは、炭素数1~2のアルキレン基である。
【0022】
また、本発明のトリウム吸着材は、ポーラスシリカの表面および細孔が4式~6式で表されるキレート化合物210で修飾された粒子の凝集体を備えてもよい。すなわち、キレート化合物210は、上述の化学結合に加えて、水素結合またはファン・デル・ワールス力によってメソポーラスシリカ110と結合してもよい。
【0023】
【0024】
Lは、2価の基であり、OH横の“…”はポーラスシリカと水素結合しているか、または、ファン・デル・ワールス力による結合を表す。Lは、上述したとおりであるため説明を省略する。
【0025】
なお、キレート化合物210は、化学結合、水素結合またはファン・デル・ワールス力のいずれか、または、任意の組み合わせでポーラスシリカに修飾されてよい。
【0026】
図2に示すように、キレート化合物210は、メソポーラスシリカ110の外表面に修飾してもよく、内部細孔に修飾してもよく、その両方であってもよい。
【0027】
図3では、キレート化合物210がトリウムを吸着している様子を模式的に示すが、キレート化合物210が有するホスホリル基またはカルボキシル基がトリウムを選択的に吸着・遊離できる。この結果、
図2に示すトリウム吸着材は、
図1に示すトリウム吸着材に比べてより多くトリウムを吸着できる。
【0028】
このようなキレート化合物210としては例示的には以下のものが挙げられる。これらはポーラスシリカへの修飾が容易であり、トリウムを選択的に吸着できる。
【0029】
【0030】
【0031】
キレート化合物210が修飾されている場合、凝集体200は、好ましくは、150m2/g以上170m2/g以下の範囲のBET法比表面積を有し、0.2cm3/g以上0.25cm3/g以下の範囲の細孔容積を有する。キレート化合物210が修飾されることによって、比表面積および細孔容積はわずかながら減少するが、キレート化合物210それ自身によるトリウムの吸着能により、トリウムの吸着効率は向上し得る。
【0032】
本発明のトリウム吸着材は、好ましくは、ポーラスシリカに対するキレート化合物の質量比が0.1以上0.5以下の範囲を満たす。これにより、上記比表面積および細孔容積を維持しつつ、トリウムを効率的に吸着できる。
【0033】
本発明のトリウム吸着材は、より好ましくは、ポーラスシリカに対するキレート化合物の質量比が0.15以上0.25以下の範囲を満たす。これにより、上記比表面積および細孔容積を維持しつつ、トリウムをより効率的に吸着できる。
【0034】
キレート化合物210で修飾された本発明のトリウム吸着材において、好ましくは、ポーラスシリカは、少なくとも、ケイ素(Si)、酸素(O)、炭素(C)およびリン(P)、必要に応じて窒素(N)およびM元素(第1族元素または第2族元素)を含有し、合計を100質量%としたとき、それぞれの元素の質量パーセント濃度は、
40≦Si≦45
47≦O≦52
1≦C≦5、
0.5≦P≦2、
0≦N≦2、および、
0≦M≦5
を満たす。これにより、トリウムをより効率的に吸着できる。
【0035】
キレート化合物210で修飾された本発明のトリウム吸着材において、より好ましくは、それぞれの元素の質量パーセント濃度が、
42≦Si≦44
48≦O≦51
1.5≦C≦3、
0.5≦P≦2、および、
0≦M≦5
を満たす。これにより、トリウムをより効率的に吸着できる。
【0036】
キレート化合物210で修飾された本発明のトリウム吸着材において、ポーラスシリカは、上記元素に加えて第1族元素または第2族元素をさらに含有してもよい。この場合も、合計を100質量%としたときの含有量は、好ましくは、2.5質量%以上5質量%以下を満たせばよい。第1族元素または第2族元素の中でも、ナトリウムおよびカリウムが好ましい。これらの元素であれば、トリウムの吸着効率を低減させない。
【0037】
次に
図1に示す本発明のトリウム吸着材を製造する方法について説明する。
図4は、本発明のトリウム吸着材を製造する工程を示すフローチャートである。
【0038】
本発明の製造方法はゾルゲル法を用いる。各工程について説明する。
ステップS410:麦わらから得られた植物由来シリカ源をアルカリ溶液に添加し、植物由来シリカ溶液を調製する。植物由来シリカ溶液はゾルゲル溶液と呼んでもよい。これにより植物由来シリカ源は、加水分解され、シラノールが形成される。本発明では麦わらから得られた植物由来シリカ源を使用することにより、特異な構造、性状および特性を有するトリウム吸着材を製造できるため、低コストであり、環境にやさしい。
【0039】
アルカリ溶液は、例えば、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等)の水酸化物やテトラアルキルアンモニウムの水酸化物、あるいは、アルカリ土類金属(カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ユーロピウム等)の水酸化物の強アルカリであってよい。溶媒には、水、エタノール、メタノール等のアルコールを用いてよい。
【0040】
ステップS410の植物由来シリカ溶液を調製するステップに先立って、植物由来シリカ源を麦わらから調製してもよい。詳細には、麦わらを洗浄し、乾燥(例えば、90℃)する。乾燥した麦わらを酸(例えば、0.25Mより大きく0.5M以下の塩酸)で処理し、65℃以上75℃未満の温度範囲で1時間以上10時間以下の時間還流する。冷却後、酸を洗浄し、5時間以上10時間以下の時間、乾燥(例えば、80℃以上110℃以下)する。その後、焼成(例えば、600℃以上800℃以下の時間、5時間以上12時間以下)によって、脱炭酸され、植物由来シリカ源が得られる。
【0041】
ステップS410において、植物由来シリカ溶液を調製することは、植物由来シリカ源が添加されたアルカリ溶液を55℃以上65℃未満の温度範囲で還流してよい。これにより、加水分解が促進する。
【0042】
ステップS420:植物由来シリカ溶液に臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)を添加し、原料混合溶液を得る。原料混合溶液は、植物由来シリカ溶液と比較して十分粘度が高く、湿潤ゾルと呼んでもよい。これにより、形成されたシラノールが縮重合によってシロキサン結合が形成される。さらに、シロキサン結合は、CTABの界面活性剤によって秩序的な階層構造を有したスポンジ状の凝集体に再構築される。
【0043】
ステップS420において、好ましくは、植物由来シリカ溶液中の植物由来シリカに対するCTABの質量比が0.1以上0.4以下の範囲を満たす。これにより、階層構造を有するスポンジ状の凝集体への再構築が促進する。
【0044】
ステップS430:原料混合溶液を水熱合成する。これにより植物由来シリカ源からのシリカとCTABとからなる反応物が析出する。水熱合成は、オートクレーブ等の密閉容器中で原料混合溶液を高温高圧の熱水の存在下で行われる反応である。例示的には、水熱合成は、100℃以上150℃以下の温度範囲で1時間以上24時間以下の範囲で行われる。
【0045】
ステップS430において、好ましくは、水熱合成後の反応溶液に酸を添加し、中性にしてよい。酸には、塩酸、硫酸、硝酸等を用いてよい。また、得られた反応物を洗浄し、乾燥させてよい。
【0046】
ステップS440:ステップS430で得られた反応物を焼成し、CTABを除去する。これにより、CTABが除去され、秩序的な階層構造を維持したスポンジ状の凝集体であるポーラスシリカが得られる。焼成は、CTABが除去される条件であれば、特に制限はないが、好ましくは、200℃以上800℃以下の温度範囲で2時間以上24時間以下の時間、焼成する。これにより、CTABが除去される。さらに好ましくは、焼成は、450℃以上650℃以下の温度範囲で6時間以上10時間以下の時間、焼成する。このようにして、
図1に示すポーラスシリカからなる、ミクロ細孔、メソ細孔およびマクロ細孔を備えた階層構造を有するスポンジ状の凝集体からなるトリウム吸着材が得られる。
【0047】
次に
図2に示す本発明の別のトリウム吸着材を製造する方法について説明する。
図5は、本発明の別のトリウム吸着材を製造する工程を示すフローチャートである。
【0048】
別のトリウム吸着材は、
図4のステップS440に続いて行われる。
ステップS510:ステップS440で得られた焼成物と、式7または式8で表されるキレート化合物とを混合する。これによりポーラスシリカの表面や細孔にキレート化合物が修飾される。
【0049】
【0050】
Lは、2価の基であり、上述した通りであるため説明を省略する。
【0051】
このようなキレート化合物としては例示的には以下のものが挙げられる。これらはポーラスシリカへの修飾が容易であり、トリウムを選択的に吸着できる。
【0052】
【0053】
ステップS510において、焼成物(すなわち、
図1で示すポーラスシリカ)に対するキレート化合物の質量比は、好ましくは、0.1以上0.5以下満たす。これにより、キレート化合物は、焼成物の比表面積および細孔容積を維持しつつ、表面や細孔へ修飾し得る。
【0054】
ステップS510において、キレート化合物を直接添加してもよいが、例えば、トルエンやヘキサン等の非プロトン性提供性溶媒と混合し、溶解させてもよい。また、混合は、室温(20~30℃)以上50℃以下の温度範囲で1時間以上24時間の間攪拌すればよい。
【0055】
ステップS520:混合後の生成物を洗浄、乾燥する。洗浄は、エタノール等のアルコールと水とを用いて複数回行ってよい。これにより、未反応のキレート化合物を除去できる。乾燥は、50℃以上100℃以下の温度範囲で1時間以上24時間以下の間行えばよい。このようにして、
図2に示す表面や細孔が修飾されたポーラスシリカからなるトリウム吸着材が得られる。
【0056】
次に、本発明のトリウム吸着剤を用いた用途について説明する。本発明のトリウム吸着材は、バッチ方式、カラム方式のいずれにも採用できる。ここでは、カラム方式に採用した場合を説明する。
【0057】
図6は、本発明のトリウム吸着材を用いたトリウム吸着カラムを示す模式図である。
【0058】
本発明のトリウム吸着カラム600は、吸着材610を有する。吸着材610は、
図1および
図2を参照して説明した本発明のトリウム吸着材100である。吸着材610は、容器(図示せず)に充填されている。
【0059】
また、トリウム吸着カラム600は、
図6に示すように、トップフィルター620、ボトムフィルター630、および、カラム接続部640、650をさらに有していてもよい。トリウム吸着カラム600は、トップフィルター620側とボトムフィルター630側にそれぞれ開口を有しており、一方の開口から他方の開口へとトリウムを含有する溶液(トリウム含有溶液)を通液することで、トリウム含有溶液がトリウム吸着材610に接触する。これにより、トリウム含有溶液中のトリウムが吸着される。なお、吸着カラムを吸着塔と呼んでもよい。
【0060】
トップフィルター620は、トリウム吸着材610が通液の際に液中で飛散することを防ぐ。また、ボトムフィルター630は、トリウム吸着材610が容器(図示せず)から流出することを防ぐ。カラム接続部640、650は、浄化システムの配管など、トリウム吸着カラム600に通液する液体を供給または排出するための配管と接続する機能をもつ。
【0061】
次に、
図6のトリウム吸着カラム600を用い、被験水溶液からトリウムを抽出する方法を説明する。
図7は、本発明のトリウム吸着材を用い被験水溶液からトリウムを吸着する工程を示すフローチャートである。
【0062】
ステップS710:トリウム吸着材と被験水溶液とを接触させる。例えば、
図6のトリウム吸着カラム600において、被験水溶液を、カラム接続部640、650およびトップフィルター620を介して通液する。被験水溶液がトリウムを含有していれば、被験水溶液中のトリウムがトリウム吸着材に選択的に吸着される。
【0063】
好ましくは、被験水溶液のpHを4以上6以下となるように調整するとよい。pHの調整には、公知の酸や塩基を使用してよい。pHの調整により、トリウムの吸着が促進する。より好ましくは、被験水溶液のpHを4以上5以下となるように調整するとよい。これにより、トリウム吸着材の活性部位でTh(IV)とH3O+との静電反発を抑制するとともに、[Th(OH)2]2+や[Th2(OH)2]6+等の水酸化物の生成が抑制され、吸着能を維持できる。
【0064】
好ましくは、ステップS710における接触時間は、30分以上である。これにより、トリウムの吸着が促進する。上限は特にないが、100分であってよい。これ以上接触させても、吸着量に変化は見られない。また、攪拌しながら接触させるとよい。効率の観点から接触時間は50分以上70分以下であればよい。
【0065】
ステップS710における接触温度は、室温であってもよいが、60℃以上80℃以下の温度範囲に加熱することにより、吸着効率が促進し得る。
【0066】
図示しないが、ステップS710に続いて、被験水溶液からトリウムが抽出された処理水を排出する。例えば、
図6のトリウム吸着カラム600において、処理水を、ボトムフィルター630を介して排出すればよい。
【0067】
トリウムが吸着したトリウム吸着材は、硫酸、塩酸、硝酸等の酸と接触させることにより、吸着したトリウムを遊離させることができる。これにより、トリウム吸着材は再利用可能となる。遊離効率の観点から塩酸が好ましい。
【0068】
好ましくは、トリウムが吸着したトリウム吸着材に濃度0.05M以上0.5M以下の塩酸等の酸を40分以上120分以下接触させればよい。これにより、吸着したトリウムを遊離させることができる。さらに好ましくは、トリウムが吸着したトリウム吸着材に濃度0.1M以上0.4M以下の塩酸等の酸を40分以上80分以下接触させればよい。これにより、吸着したトリウムを効率的に遊離させることができる。
【0069】
図8は、本発明のトリウム吸着材を用い、トリウム含有鉱石からトリウムを抽出し、回収する工程を示すフローチャートである。
【0070】
ステップS810:トリウム含有鉱石を塩酸、硝酸および硫酸からなる群から選択される酸溶液に添加し、トリウム含有溶液を調製する。これにより、トリウム含有量が低い鉱石であっても、トリウム含有鉱石中のトリウムを浸出させることができる。酸溶液中の酸の濃度(M)は、好ましくは、トリウム含有鉱石1gに対して1.5M以上3M以下の範囲を満たす。この範囲であれば、トリウムを効果的に浸出させることができる。
【0071】
トリウム含有溶液の調製において、トリウム含有鉱石と酸とを混合し、攪拌すればよいが、好ましくは、60分以上120分以下の時間攪拌するとよい。これにより浸出効率が増大する。さらに好ましくは、攪拌において、加熱すると浸出効率が増大し、加熱温度は60℃以上80℃以下の温度範囲が好ましい。
【0072】
トリウム含有溶液の調製において、トリウム含有鉱石(1g)に対する酸の量(mL)は、好ましくは、10mL以上40mL以下の範囲である。この範囲であれば、トリウムの浸出が促進する。
【0073】
ステップS820:トリウム吸着材とトリウム含有溶液とを接触させる。例えば、
図6のトリウム吸着カラム600において、トリウム含有溶液を、カラム接続部640、650およびトップフィルター620を介して通液する。
【0074】
好ましくは、トリウム含有溶液のpHを4以上6以下となるように調整するとよい。pHの調整には、公知の酸や塩基を使用してよい。pHの調整により、トリウムの吸着が促進する。より好ましくは、トリウム含有溶液のpHを4以上5以下となるように調整するとよい。これにより、トリウム吸着材の活性部位でTh(IV)とH3O+との静電反発を抑制するとともに、[Th(OH)2]2+や[Th2(OH)2]6+等の水酸化物の生成が抑制され、吸着能を維持できる。
【0075】
好ましくは、ステップS820における接触時間は、50分以上である。これにより、トリウムの吸着が促進する。上限は特にないが、100分であってよい。これ以上接触させても、吸着量に変化は見られない。また、攪拌しながら接触させるとよい。このようにして、本発明のトリウム吸着材を用いれば、トリウム含有鉱石から抽出したトリウムを吸着できる。
【0076】
ステップS830:トリウム含有溶液からトリウムが抽出された処理水を排出する。例えば、
図6のトリウム吸着カラム600において、処理水を、ボトムフィルター630を介して排出すればよい。
【0077】
ステップS840:トリウムが吸着したトリウム吸着材を硫酸、塩酸および硝酸からなる群から選択される酸と接触させ、吸着したトリウムを遊離する。これにより、トリウム吸着材は再利用可能となる。遊離効率の観点から塩酸が好ましい。
【0078】
好ましくは、トリウムが吸着したトリウム吸着材に濃度0.05M以上0.5M以下の塩酸等の酸を40分以上120分以下接触させればよい。これにより、吸着したトリウムを遊離させることができる。さらに好ましくは、トリウムが吸着したトリウム吸着材に濃度0.1M以上0.4M以下の塩酸等の酸を40分以上80分以下接触させればよい。これにより、吸着したトリウムを効率的に遊離させることができる。
【0079】
次に、具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0080】
[植物由来シリカ源の調製]
麦わら(エジプトの北部で収集)を水道水で洗浄し、不純物を除去した後、90℃で24時間、乾燥させた。次いで、乾燥させた麦わらを0.5Mの塩酸(HCl)中、70℃で4時間還流させた。冷却後、塩酸処理した麦わらをろ過し、残渣をミリQ水で洗浄し、酸を除去した。その後、残渣を100℃で12時間乾燥させた。乾燥体を700℃で7時間焼成し、白色の植物由来シリカ源を得た。
【0081】
[評価に使用した装置等]
試料のモルフォロジを電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM、日本電子株式会社製、JSM-6500F)および高解像度透過型電子顕微鏡像(HRTEM)を撮影した。SEM観察時の加速電圧は20kVであった。TEM観察時の加速電圧は200kVであった。18-kW回折計を用いて広角X線回折(Bruker製、D8 Advance)を測定し、試料を同定した。全自動ガス吸着装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、BELSORP36)を用いて試料の窒素吸脱着等温線(77K)を測定した。等温線から細孔径、細孔容積およびBET法による比表面積を求めた。示差熱・熱重量同時測定装置(株式会社島津製作所製、TG-60)を用いて熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行った。フーリエ変換赤外分光高度計(FTIR、株式会社島津製作所製、FTIR Prestage-21)を用いて、赤外領域の吸収スペクトルを調べた。
【0082】
Perkin Elmer lambda 3bダブルビームUV可視プログラム可能分光光度計を備えた誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS、Perkin Elmer製、Elan-6000)を用いて、トリウム吸着前後のトリウム量を測定した。高純度ゲルマニウム(HPGe)EG&G オルテックモデル装置(GMX60P4)を用い、直接γ線計数法を行った。
【0083】
[トリウム吸着脱離試験]
トリウム吸脱着試験は、カラム式およびバッチ式で行った。
使用するガラスを5%硝酸およびミリQ水で洗浄した。すべての試験は3回行った。
【0084】
カラム式は次のように行った。固定垂直ガラスカラム(長さ12.5cm、直径1.0cm)にプラスチックネットとポリエチレンウールとを置き、その上にトリウム吸着材を配置させた。カラムを用いて、被験液の流量の影響、トリウム吸着材の用量、トリウム濃度について調べた。吸着前後のトリウム量をICP-MSにより測定した。
【0085】
吸着量(qe、mg/g)と吸着効率(Ads.%)とは以下の式から算出した。
qe=(C0-Ce)(V/w) (1)
Ads.%={(C0-Ce)/C0}×100 (2)
ここで、C0およびCeは初期および平衡時の濃度[Th(IV)、mg/L]であり、Vは被験液の体積(L)であり、wはトリウム吸着材の質量(g)である。
【0086】
次いで、トリウムが吸着したトリウム吸着材が充填されたカラムに酸を流し、トリウムの脱離(遊離)を行った。遊離効率(E.%)は、E.%=(CE/CA)×100の式を用いて算出した。ここで、CEおよびCAは、遊離したトリウム濃度および吸着したトリウム濃度である。
【0087】
バッチ式は次のように行った。被験液(後述するトリウム標準溶液)20mLとトリウム吸着材20mgとを攪拌しながら混合した。トリウム標準溶液中のトリウム濃度およびpH、混合時間、ならびに、混合温度を変化させ、トリウム吸着量および吸着効率を調べた。カラム式と同様に、トリウムが吸着したトリウム吸着材に硫酸を流し、トリウムの脱離を行った。トリウム吸着量、吸着効率および遊離効率の算出は、上述したとおりであるため説明を省略する。
【0088】
[被験液]
トリウム吸脱着試験に用いる被験液として種々の濃度のトリウム標準溶液を用いた。
【0089】
さらに、トリウム吸脱着試験に用いる被験液としてトリウム含有鉱石からトリウムが浸出したトリウム含有溶液を次のようにして調製した。
エジプト産カタクラサイト(ECR)をエジプトの南東砂漠に位置するAbu Rushied地方から採取し、200メッシュ(約0.075mm)まで粉砕した。ECRの元素分析を行い、酸化物量を測定した。結果を表1に示す。表1中の“REE”は希土類元素を示す。さらに、HPGe分光計を用いた測定によれば、ECRは、619.3Bq/Kgの232Th同位体を含有した。
【0090】
【0091】
粉砕したECR1gを、種々の温度、種々の時間、塩酸溶液(0.1M~4M)、塩酸溶液の体積に添加・攪拌し、トリウムを浸出させた。浸出効率(L%)を次の式から算出した。これらの結果を
図9に示す。
L%=(C
L/C
S)×100 (3)
ここで、C
L(Bq/Kg)およびC
S(Bq/Kg)は、平衡状態と初期状態とにおける酸溶液中のトリウム濃度である。
【0092】
図9は、ECRからのトリウム浸出の各種条件依存性を示す図である。
【0093】
図9(A)は、浸出効率の塩酸濃度依存性を示す。いずれも、ECR1gを種々の濃度の塩酸(0.1M~0.4M、10mL)に添加し、室温(25℃±2)で60分間攪拌させた結果である。
図9(A)によれば、1gのトリウム含有鉱石に対して、1.5M以上3M以下の塩酸を用いることが有効であることが示された。
【0094】
図9(B)は、浸出効率の時間依存性を示す。いずれも、ECR1gを2Mの塩酸(10mL)に添加し、室温(25℃±2)で5分~180分間攪拌させた結果である。
図9(B)によれば、60分以上の浸出時間において、60%近い高い浸出効率を示した。浸出時間の上限は120分であればよい。
【0095】
図9(C)は、浸出効率の塩酸溶液量依存性を示す。いずれも、ECR1gを種々の量の塩酸(2M、2mL~50mL)に添加し、室温(25℃±2)で60分間攪拌させた結果である。
図9(C)によれば、10mL以上の塩酸を使用すると、高い浸出効率を示した。このことから、ECR1gに対して10mL以上40mL以下の酸溶液を用いることが好ましい。
【0096】
図9(D)は、浸出効率の温度依存性を示す。いずれも、ECR1gを塩酸(2M、10mL)に添加し、種々の温度(25℃~80℃)で60分間攪拌させた結果である。
図9(D)によれば、60℃以上80℃以下の範囲であれば、80%以上の高い浸出効率となることが分かった。
【0097】
以上の結果を踏まえて、後述するEGR含有鉱石を用いたトリウム含有溶液は、ECR1gを10mLの塩酸(2M)に添加し、80℃±2に加熱し、60分攪拌させることによって調製した。このとき、トリウム含有鉱石から99.5%のトリウムが抽出された。
【0098】
[例1]
例1では、植物由来シリカ源と界面活性剤として臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB、シグマアルドリッチ製)とを用い、ポーラスシリカからなるトリウム吸着材を表2に示す条件で製造した。
【0099】
植物由来シリカ源(2.5g)をアルカリ溶液として2.5Mの水酸化ナトリウム(20mL)に添加し、60℃で、5~7時間、還流させ、溶解させ、植物由来シリカ溶液を調製した(
図4のステップS410)。植物由来シリカ溶液をろ過し、沸騰させたミリQ水(10mL)で洗浄し、冷却した。これに臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB、0.5g)を添加し、1時間攪拌し、原料混合溶液を得た(
図4のステップS420)。原料混合溶液は、植物由来シリカ溶液と比べて粘度が高いゾルであった。
【0100】
原料混合溶液をテフロン(登録商標)製のオートクレーブに移し、水熱合成し、シリカとCTABとからなる反応物を析出させた(
図4のステップS430)。水熱合成の条件は、昇温速度10℃/分で130℃まで昇温し、10時間保持であった。得られた反応溶液に50%硫酸を攪拌しながら滴下し、反応溶液のpHを8にした。得られた反応物を沸騰させたミリQ水で洗浄し、アルカリを除去し、70℃で12時間乾燥させた。
【0101】
乾燥させた反応物を550℃で8時間焼成し、CTABを除去した(
図4のステップS440)。このようにしてポーラスシリカを得た。このようにして得られた試料を例1の試料またはHOMSと呼ぶ。
【0102】
得られた例1の試料のSEM像、HRTEM像、元素分析、XRD回折、TG-DTA曲線、FTIRスペクトル、BET法比表面積および細孔容積の結果を、
図10~
図13および表4~表5に示す。
【0103】
得られた例1の試料について、バッチ方式およびカラム方式を適宜採用し、トリウムの吸着効率および遊離効率を測定した。これらの結果を
図16~
図27に示す。
【0104】
[例2]
例2では、例1で得たポーラスシリカの表面および細孔に、表3で示すキレート化合物(3-ホスホノプロピオン酸(PPA、シグマアルドリッチ製))を修飾した。
【0105】
具体的には、ドライトルエン(20mL)にPPA(0.2g)を溶解させ、これに例1の試料(1g)を添加し、室温(25℃)で5時間攪拌した(
図5のステップS510)。次いで、混合物をろ過し、無水エタノールおよびミリQ水で3回洗浄し、未反応のPPAを除去した。生成物をオーブンで70℃、12時間乾燥し、脱水させた(
図5のステップS520)。このようにして得られた試料を例2の試料またはHOMS-Lと呼ぶ。
【0106】
例1の試料と同様に、例2の試料のSEM像、HRTEM像、元素分析、XRD回折、TG-DTA曲線、FTIRスペクトル、BET法比表面積および細孔容積の結果を、
図11~
図13および表4~表5に示す。
【0107】
例1の試料と同様に、例2の試料について、バッチ方式およびカラム方式を適宜採用しトリウムの吸着効率および遊離効率を測定した。また、トリウム吸着後の例2の試料のXRDパターンおよびFTIRスペクトルを測定した。これらの結果を
図14~
図27に示す。
【0108】
[例3~例7]
例3~例7では、例2と同様にして、例1で得たポーラスシリカの表面および細孔に、表3で示すキレート化合物を修飾し、トリウムの吸着および遊離を確認した。このようにして得られた試料を例3~例7の試料またはHOMS-L1~HOMS-L5と呼ぶ。
【0109】
以上の例1~例7の試料の合成条件を、簡単のため、表2および表3に示し、結果をまとめて説明する。
【0110】
【0111】
【0112】
図10は、例1の試料のSEM像およびHR-TEM像を示す図である。
【0113】
図10(A)は、例1の試料のSEM像であり、
図10(B)および
図10(C)は、例1の試料のHR-TEM像である。例1の試料は、10μm以上70μm以下の範囲の粒径の粒子からなり、スポンジ状の凝集体であった。
図10(A)のbおよびcに示されるように、例1の試料は、長手方向に配列した細長の溝を備え、250nm以上2μm以下の長さを有した。
【0114】
図10(B)によれば、凝集体の外表面は、直径200nm~250nmの穴を多数有した。
図10(C)によれば、凝集体の内表面も、直径200nm~250nmの連通する穴を有した。このことからも、例1の試料は、スポンジ状の凝集体であることが分かった。また、例2~例7の試料も同様の様態を示した。
【0115】
表4は、例1および例2の試料の元素分析の結果を示す。
【0116】
【0117】
表4によれば、キレート化合物で修飾した例2の試料は、ケイ素(Si)、酸素(O)、炭素(C)およびリン(P)を含有し、質量パーセント濃度で、
42≦Si≦44
48≦O≦51
1.5≦C≦3、および、
0.5≦P≦2
を満たすことが分かった。例3~例7の試料も同様の組成を有した。
【0118】
図11は、例1および例2の試料のXRDパターンを示す図である。
【0119】
例1および例2の試料は、2<2θ<2.5の範囲にブロードなピークを有し、それぞれ、4.1nmおよび4.019nmの面間隔d100を有した。このことは、例1および例2の試料は、メソスケール領域の空隙を有することを示唆する。なお、面間隔の減少は、例2の試料の表面にキレート化合物が修飾されていることを示唆する。広角XRDパターンにおける2θ=30°および43°のブロードなピークは、非晶質シリカに起因する。例3~例7の試料のXRDパターンも、例2のそれと同様であった。
【0120】
図12は、例1および例2の試料の窒素吸脱着等温線(A)およびTG-DTA曲線(B)を示す図である。
【0121】
図12(A)によれば、窒素吸脱着等温線は、IUPACのI型、II型およびIV型の混合を示し、ミクロ細孔、メソ細孔およびマクロ細孔を有し、例1および例2の試料は階層構造を有することがわかった。挿入図に示すように、非局所密度汎関数(NLDFT)を用いて細孔サイズの分布を算出したところ、4.78nmにピークを有した。また、例1および例2の試料において、細孔は類似性と規則性を有することが分かった。図示しないが、例3~例7の試料も同様の窒素吸脱着等温線を示した。
【0122】
表5は、例1および例2の試料のBET法比表面積および細孔容積を示す。
【0123】
【0124】
表5に示すように、表面にキレート化合物を修飾することによって、BET法比表面積および細孔容積のいずれも小さくなった。例2~例7の試料も、250m2/g以上170m2/g以下の範囲のBET法比表面積を有し、0.2cm3/g以上0.25cm3/g以下の範囲の細孔容積を有することを確認した。
【0125】
図12(B)によれば、例1の試料は、90℃~420℃の間で2.61質量%の質量損失を示した。これは、残留する溶媒、水分子の蒸発、ならびに、CTAB界面活性剤に基づく。一方、例2の試料は、27℃~600℃の間で2段階にわたり合計5.6質量%の質量損失を示した。27℃~200℃の間の2.28質量%の第1の質量損失は、物理的に吸着した水やエタノール等の蒸発に基づく。200℃~600℃の間の3.22質量%の第2の質量損失は、CTAB、キレート化合物、シラノール等の有機基の分解に基づく。
【0126】
例1および例2の試料の質量損失が小さいことから、例1および例2の試料は、高温の厳しい環境下における耐久性に優れていることが分かった。
【0127】
図13は、例1および例2の試料のFTIRスペクトルを示す図である。
【0128】
いずれのスペクトルにおいても、次に述べる特徴を示した。3550cm-1および1646cm-1におけるブロードなバンドは、シラノール基(Si-OH)および表面に物理的に吸着した水分子(H-O-H)による伸縮、逆対称伸縮、変角するOH基に基づく。1078cm-1、797cm-1および456cm-1のピークは、Si-O-SiおよびO-Si-Oの伸縮運動に基づく。
【0129】
一方、例2の試料のFTIRスペクトルは、例1の試料のそれと異なり、1653cm-1および958cm-1に小さなバンドを有した。これらは、それぞれ、表面および細孔に修飾させたキレート化合物(ここではPPA)による変角HO-P=Oおよび伸縮P-Oに基づく。3460cm-1のブロードなバンドは、キレート化合物のOH基を示し、1880cm-1の小さなピークは、キレート化合物のC=O基を示す。図示しないが、例3~例7の試料も同様のFTIRスペクトルを示した。
【0130】
以上の結果から、例1~例7の試料は、ポーラスシリカからなるスポンジ状の凝集体を備え、150m2/g以上200m2/g以下の範囲のBET法比表面積を有し、0.18cm3/g以上0.3cm3/g以下の範囲の細孔容積を有することが示された。さらに、凝集体は、10μm以上70μm以下の範囲の粒径の粒子であり、ミクロ細孔、メソ細孔およびマクロ細孔を備えた階層構造を有することが示された。凝集体は、長手方向に配列した細長の溝を有した。例2~例7の試料の表面および細孔は、特定のキレート化合物で修飾されていることが示された。
【0131】
図14は、トリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験後の例2の試料のXRDパターンを示す図である。
【0132】
図14には、吸着試験前の例1および例2の試料のXRDパターンを併せて示す。
図14によれば、吸着試験後の例2の試料も、吸着試験前の試料と同様のXRDパターンを示し、2<2θ<2.5の範囲にブロードなピークを有し、4.018nmの面間隔d
100を有した。
【0133】
図15は、トリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験後の例2の試料のFTIRスペクトルを示す。
【0134】
図15によれば、吸着試験後の例2の試料のFTIRスペクトルは、
図13を参照して説明したバンドに加えて、802cm
-1および623cm
-1にO=Th=OおよびTh=O伸縮結合、ならびに、463cm
-1にTh-O結合のバンドを示した。図示しないが、吸着試験後の例1の試料も同様のスペクトルを示した。
【0135】
以上の結果より、例1および例2の試料は、トリウム吸着材として機能することが分かり、吸着によっても化学的にも物理的にも安定していることが分かった。
【0136】
図16は、例1および例2の試料についてトリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験の結果を示す図である。
図17は、例1および例2の試料についてトリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験の結果を示す図である。
【0137】
図16(A)は、トリウム標準溶液20mL(100mg/L)と例1および例2の試料20mgとを、25±2℃で30分間混合した際のトリウム吸着量(吸着効率)のpH依存性を示す。pHの調整には、HClおよびNaOHを用いた。
【0138】
図16(A)によれば、例1および例2の試料は、pH4以上6以下の範囲で80%を超える高い吸着量を示し、特にpH4以上5以下が好ましいことが分かった。
【0139】
図16(B)は、pH4のトリウム標準溶液20mL(100mg/L)と例1および例2の試料20mgとを、25±2℃で混合した際のトリウム吸着量の混合時間依存性を示す。
図16(B)によれば、接触時間が30分以上において、いずれの試料も90%を超える高い吸着量を示した。
【0140】
図16(C)は、pH4のトリウム標準溶液20mL(100mg/L)と例1および例2の試料5mg~100mgとを、25±2℃で、60分間混合した際のトリウム吸着量のドーズ量依存性を示す。
【0141】
図16(C)によれば、試料の質量増加に伴いトリウム吸着量の増加を示したが、20mgを超える試料を用いても、トリウム吸着量はそれ以上変化しなかった。これは、試料中の活性サイトが、[Th(OH)
2]
2+や[Th
2(OH)
2]
6+等の不溶で安定な水酸化物によって干渉されるためと考える。
【0142】
図17(A)は、pH4のトリウム標準溶液20mL(100mg/L)と例1および例2の試料20mgとを、種々の温度で60分間混合した際のトリウム吸着量の温度依存性を示す。
図17(A)によれば、例1の試料は、温度の上昇に伴いトリウム吸着量の増大を示すが、いずれの試料も室温において90%を超える高いトリウム吸着量を示した。特に、キレート化合物で修飾されていない場合は、60℃以上80℃以下の温度範囲に加熱するとよい。
【0143】
図17(B)は、吸着量q
eとトリウム含有溶液中のトリウム濃度C
0との関係を示した図である。
図17(B)によれば、トリウム含有溶液中のトリウム濃度が所定濃度を超えると、吸着量が飽和することが分かった。
【0144】
さらに、
図16および
図17によれば、表面および細孔にキレート化合物を修飾させた例2の試料は、表面修飾のない例1の試料に比べて、高い吸着量および高い吸着効率を示し、優れたトリウム吸着材料であることが分かった。
【0145】
図18は、例1および例2の試料について種々のイオンを含有するトリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験の結果を示す図である。
【0146】
pH4のトリウム標準溶液20mL(100mg/L)は、Th4+イオンと同濃度で、Cr3+、Cu2+、Ni2+、Zn2+、Zr4+、Ba2+、Sr2+、V3+、Pb2+、希土類イオン(REE)をさらに含有した。このようなトリウム標準溶液と例1および例2の試料20mgとを、25±2℃、60分間混合した際の、各イオンの吸着量を調べた。
【0147】
図18によれば、例1および例2の試料は、Cr
3+、Cu
2+、Ni
2+、Zn
2+、Zr
4+、Ba
2+、Sr
2+、V
3+、Pb
2+、希土類イオン(REE)もわずかながら吸着するものの、トリウムイオン(Th
4+)を選択的に吸着することが分かった。
【0148】
図19は、例1および例2の試料について種々のイオンを含有するトリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験の別の結果を示す図である。
【0149】
Th
4+イオンと同濃度で、Cr
3+、Cu
2+、Ni
2+、Zn
2+、Zr
4+、Ba
2+、Sr
2+、V
3+、Pb
2+、希土類イオン(REE)をそれぞれ含有するトリウム標準溶液(pH4、20mL、100mg/L)を調製した。
図19(A)は、各トリウム標準溶液と例1および例2の試料20mgとを、25±2℃、60分間混合した際のトリウムイオンの吸着量を示す。
図19(A)によれば、いずれの試料も90%以上のトリウムを選択的に吸着した。
【0150】
G1~G7の種類のトリウム標準溶液(pH4、20ml、100mg/L)を調製した。各イオンの含有量は同量であった。
G1(Th4+、Cr3+、Ca2+)
G2(Th4+、Cu2+、Mg2+)
G3(Th4+、Ni2+、Zn2+)
G4(Th4+、Zr4+、Ba2+)G5(Th4+、Pb2+、Sr2+、V3+)、G6(Th4+、Cu2+、Ni2+、希土類イオン)
G7(Th4+、Cr3+、Ba2+、Zr4+、Pb2+)
【0151】
図19(B)は、G1~G7のトリウム標準溶液と例1および例2の試料20mgとを、25±2℃、60分間混合した際のトリウムイオンの吸着量を示す。
図19(B)によれば、いずれの試料も90%以上のトリウムを選択的に吸着した。
【0152】
図20は、バッチ方式によってトリウムが吸着した例1および例2の試料を用いた遊離(脱離)試験の結果を示す図である。
【0153】
図20(A)は、トリウム吸着試験後の例1および例2の試料0.1gを種々の濃度の塩酸10mLに添加し、25±2℃で30分間の間で接触させた結果である。
図20(A)によれば、0.1M以上0.4M以下の濃度を有する塩酸を用いれば、効率的にトリウムを遊離させることができることが分かった。
【0154】
図20(B)は、トリウム吸着試験後の例1および例2の試料0.1gを0.1Mの塩酸10mLに添加し、25±2℃で5分~150分間の間で接触させた結果である。
図20(B)によれば、40分以上80分以下の時間を用いれば、効率的にトリウムを遊離させることができることが分かった。
【0155】
図21は、例1および例2の試料についてトリウム標準溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着脱着繰り返し試験の結果を示す図である。
【0156】
吸着条件は、pH4のトリウム標準溶液10mL(100mg/L)と例1および例2の試料20mgとを、25±2℃で60分間混合させた。脱着条件は、0.1Mの塩酸10mLと例1および例2の試料0.1gとを、25±2℃で45分間混合させた。
【0157】
図21によれば、例1および例2の試料のトリウム吸着効率およびトリウム遊離効率は、繰り返し回数の増大に伴い、わずかながら低下するものの、10回を超えてもなお高い効率を示した。
【0158】
この結果から、例1および例2の試料は、再利用可能なトリウム吸着材であることが示された。
【0159】
図22は、例1および例2の試料についてトリウム標準溶液を用いたカラム方式トリウム吸着試験の結果を示す図である。
【0160】
図22(A)および(B)は、それぞれ、例1および例2の試料(2g)にトリウム標準溶液(pH4、100mg/L)を種々の速度で通液した際のC
eff/C
0の通液量依存性を示す。C
0は、トリウム標準溶液中の初期トリウム濃度であり、C
effは、トリウム標準溶液から除去されたトリウム濃度である。
【0161】
図22(C)および(D)は、それぞれ、種々の用量の例1および例2の試料にトリウム標準溶液(pH4、100mg/L)を4mL/分で通液した際のC
eff/C
0の通液量依存性を示す。
図22(E)および(D)は、それぞれ、例1および例2の試料(2g)に、種々の濃度のトリウム標準溶液(pH4)を4mL/分で通液した際のC
eff/C
0の通液量依存性を示す。
【0162】
図22によれば、例1および例2の試料をトリウム吸着材のカラムに用いれば、被験液の通液量、被験液の通液速度、被験液中のトリウム濃度、および、カラムに充填するドーズ量の調整によって、被験液中のトリウムをすべて吸着させることができることが示された。
【0163】
図23は、カラム方式によってトリウムが吸着した例1および例2の試料を用いた遊離(脱離)試験の結果を示す図である。
【0164】
図23(A)は、トリウム吸着試験後の例1および例2の試料2gに0.2Mの種々の酸を0.5mL/分の通液速度で通液した際のトリウム遊離濃度の通液量依存性を示す。
図23(A)によれば、いずれの酸を用いてもトリウムを遊離させることができるが、特に、塩酸を用いれば、効率的にトリウムを遊離させることができることが分かった。
【0165】
図23(B)は、トリウム吸着試験後の例1および例2の試料2gに種々の濃度の塩酸を0.5mL/分の通液速度で通液した際のトリウム遊離濃度の通液量依存性を示す。
図23(B)によれば、特に、0.1M以上0.4M以下の濃度の塩酸を用いれば、効率的にトリウムを遊離させることができることが分かった。
【0166】
図24は、例1および例2の試料についてトリウム標準溶液を用いたカラム方式トリウム吸着脱着繰り返し試験の結果を示す図である。
【0167】
吸着条件は、例1および例2の試料(2g)にトリウム標準溶液(pH4、100mg/L)1500mLを4mL/分の通液速度で通液させた。脱着条件は、例1および例2の試料(1g)に0.2Mの塩酸40mLを0.5mL/分の通液速度で通液させた。
【0168】
図24によれば、例1および例2の試料のトリウム吸着効率およびトリウム遊離効率は、繰り返し回数の増大に伴い、わずかながら低下するものの、10回を超えてもなお高い効率を示した。
【0169】
以上より、例1および例2の試料は、繰り返し利用可能なトリウムを選択的に吸着するトリウム吸着材として機能することが示された。特に、キレート化合物で修飾することによって、より優れたトリウム吸着材となることが示された。本発明によるトリウム吸着材は、バッチ方式およびカラム方式のいずれにも適用できることが示された。
【0170】
図25は、例2の試料についてECR含有鉱石によるトリウム含有溶液を用いたバッチ方式トリウム吸着試験の結果を示す図である。
【0171】
図25には、吸着試験後および遊離試験後の例2の試料のγ線スペクトルが示される。
図25によれば、例2の試料は、ECR含有鉱石から浸出した232Thの同位体種や他の放射性物質を吸着したことが分かる。また、カウント数は、トリウム吸着・除去の分野で使用するに匹敵する値であった。
【0172】
図26は、例1および例2の試料についてECR含有鉱石によるトリウム含有溶液を用いたバッチ方式およびカラム方式のトリウム吸着脱着試験の結果を示す図である。
【0173】
バッチ方式の吸着条件は、トリウム含有溶液10mL(pH4)と例1および例2の試料20mgとを、25±2℃で60分間混合させた。バッチ方式の脱着条件は、0.1Mの塩酸10mLと例1および例2の試料0.1gとを、25±2℃で45分間混合させた。カラム方式の吸着条件は、例1および例2の試料(2g)にトリウム含有溶液1000mL(pH4)を4mL/分の通液速度で通液させた。カラム方式の脱着条件は、例1および例2の試料(1g)に0.2Mの塩酸40mLを0.5mL/分の通液速度で通液させた。吸着試験後の例1および例2の試料をICP-MS分析した。
【0174】
図26に示すように、本発明のトリウム吸着材を使用すれば、カラム方式であってもバッチ方式であっても、実際の鉱石から浸出した232Th同位体を、70%を超える高い吸着効率で吸着できることが示された。
【0175】
図27は、例1~例7の試料についてECR含有鉱石によるトリウム含有溶液を用いたバッチ方式のトリウム吸着試験の結果を示す図である。
【0176】
バッチ方式の吸着条件は、トリウム含有溶液10mL(pH4)と例1~例7の試料20mgとを、25±2℃で60分間混合させた。
図27には、
図26に示した例1および例2の試料の結果も併せて示す。
【0177】
図27によれば、いずれの試料もトリウムを吸着するトリウム吸着材として機能することが分かった。特に、キレート化合物で修飾することによって、より優れたトリウム吸着材となることが示された。上述した式7および式8で修飾するキレート化合物が有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明のトリウム吸着材は、トリウムを選択的に吸着し、遊離できるため、トリウムを除去・回収する各種装置、方法に適用される。
【符号の説明】
【0179】
100 凝集体
110 ポーラスシリカ
210 キレート化合物
600 トリウム吸着カラム
610 吸着材
620 トップフィルター
630 ボトムフィルター
640、650 カラム接続部