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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】塩の製造方法および塩の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01D 3/06 20060101AFI20241125BHJP
【FI】
C01D3/06 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021134594
(22)【出願日】2021-08-20
(65)【公開番号】P2023028720
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2024-07-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515334957
【氏名又は名称】有限会社エバ・グリーン
(74)【代理人】
【識別番号】100192496
【弁理士】
【氏名又は名称】西平 守秀
(72)【発明者】
【氏名】大山 盛久
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第96/26899(WO,A1)
【文献】特開昭63-190601(JP,A)
【文献】特開平3-65258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D 3/06
B03D 1/00
B01D 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯槽された状態の海水に対し、その内部で第1の泡を所定期間発生させた後、さらに前記第1の泡よりもその泡径が大きい第2の泡を発生させる第1の工程と、
前記第1の工程の実行中、前記海水の内部で前記第2の泡が発生している状態で、前記海水の上澄み液および/または前記海水の表面上に発生する泡を除去する第2の工程と、
前記第1の工程および前記第2の工程の実行後、残った前記海水を、過熱水蒸気が充満される空間内に噴射して前記過熱水蒸気に触れさせ、前記海水内の水分を除去させる第3の工程と、を含む、
塩の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程で、前記第2の泡はその泡径が1mm以上のmmオーダである泡を含んで発生される、
請求項1に記載の塩の製造方法。
【請求項3】
前記第3の工程で、前記過熱水蒸気の温度が200度から300度の範囲に設定される、
請求項1または2に記載の塩の製造方法。
【請求項4】
前記空間内は、無酸素の状態で前記過熱水蒸気が充満される、
請求項1~3のいずれか1つに記載の塩の製造方法。
【請求項5】
前記第3の工程の後、析出された塩に対しコロナ放電処理を施す第4の工程を、さらに含む、
請求項1~4のいずれか1つに記載の塩の製造方法。
【請求項6】
貯槽された状態の海水に対し、その内部で第1の泡を所定期間発生させた後、さらに前記第1の泡よりもその泡径が大きい第2の泡を発生させる泡発生手段と、
前記泡発生手段によって前記海水の内部で前記第2の泡が発生している状態で、前記海水の上澄み液および/または前記海水の表面上に発生する泡を除去する除去手段と、
過熱水蒸気が充満されるための容器を有し、前記除去手段によって残された前記海水を前記容器の空間内に噴射して前記過熱水蒸気に触れさせ、前記海水内の水分を除去させる乾燥手段と、を含む、
塩の製造装置。
【請求項7】
前記泡発生手段は、前記第2の泡をその泡径が1mm以上のmmオーダである泡を含んで発生させる、
請求項6に記載の塩製造装置。
【請求項8】
前記乾燥手段は、前記過熱水蒸気の温度を200度から300度の範囲に設定する、
請求項6または7に記載の塩の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩の製造方法および塩の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海水を原料として塩を製造する方法には、イオン交換膜法および塩田法が一般的によく知られる。
【0003】
イオン交換膜法は、海水が電解水の性質を有していることを利用する塩の製造方法である。陽イオン交換膜および陰イオン交換膜が用意され、これら交換膜で交互に仕切られる電解水槽に海水が貯槽される。この貯槽状態で海水に電圧が印加されると、海水中に解離するナトリウムイオンは陰極に引き付けられて移動しようとするが、このとき陰イオン交換膜にその移動が阻害される。同様に、海水中に解離する塩素イオンは陽極に引き付けられて移動しようとするが、今度は陽イオン交換膜にその移動が阻害される。このようにして、電気化学的に塩としての塩化ナトリウムが濃縮された槽と、希釈された槽と、が交互に設けられる。この工程が複数回実行されて塩化ナトリウムの濃度が高められて、最終的には蒸発装置によって水分が蒸発して(除去されて)塩が析出する。この析出により塩が得られる。
【0004】
その一方、塩田法はたとえば海水を塩田に引き込み、その海水がその塩田の面方向に沿って広く延在される。この延在された状態で太陽熱または風などを利用して海水は濃縮される。そして、イオン交換膜法と同様に、その濃縮された海水は鉄釜などの蒸発装置によって水分が蒸発され、その結果、塩が得られる。塩田法は、海水の水分のみを主に自然エネルギーを利用して蒸発させる方法であり、もともと海水に含まれる、マグネシウム、カリウム、フッ素、鉄、硫黄およびカルシウムなどのミネラル成分の多くが残存する。イオン交換膜法は、電気化学的に塩化ナトリウムを海水から分離する方法であり、もともと海水に含まれるミネラルの量と比較してその量はかなり少ない。
【0005】
そして、近年の健康志向の高まり、また地域活性化などの影響を受け、ミネラル成分を豊富に含む海水天然塩が地域名産などとしても注目を浴びている。その沖縄産で有名なものしては、たとえば「ぬちまーす」(登録商標)または「石垣の塩」(登録商標)などがよく知られる。これらの塩は多くのミネラル成分を含んで製造されている。
【0006】
ミネラル成分を可能な限り残存させて塩を製造する方法または装置の従来例として、海水の取り入れ口と、取り入れられた海水の濃度を段階的に濃くするように構成された蒸発池と、この蒸発池で濃縮された鹹水(かんすい)を一時的に保管するタンクと、この鹹水を濾過し、浄化する構成と、この鹹水を加熱して結晶状態とするための加熱システムと、この結晶状態の塩の水分をさらに除去し乾燥させるシステムと、を有するものが知られる(たとえば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-68738号公報
【文献】特開2002-173322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、海洋のマイクロプラスチックによる環境問題が広く知られるようになった。日常的に製造および利用されているプラスチック(合成樹脂材)が適切に処理されない場合、マイクロプラスチックとなり環境中に流出して環境さらには人体に負の影響を及ぼすことが近年の研究で分かるようになった。
なお、マイクロプラスチックとは粒径5mm以下のプラスチック粒子とされる。
【0009】
特にその細かい粒子が水資源に流出しているといわれており、事実、世界のさまざまな箇所でその存在が確認されている。日本でも同様に、マイクロプラスチックは日本近海または湖などで収穫された、魚介類などの水生生物の体内(たとえば内蔵内)で発見されている。そのため、日本の水資源がマイクロプラスチックによって汚染されている可能性が高いといえる。その水生生物などを通じて、人間も体内に取り込んでいる可能性がある。その健康被害は未知数であり、塩を製造する場合にもそのマイクロプラスチックを除去することが当然に求められる。
【0010】
しかしながら、前記特許文献1、2などの塩の製造方法または製造装置では、海水内の豊富なミネラル成分を損なうことなく塩を製造することが可能となるが、塩田法の延長上にある技術ともいえ、海水に含まれるマイクロプラスチックを確実に除去できない可能性がある。このマイクロプラスチックの除去の点で、前記特許文献1、2などの塩の製造方法には改善の余地があったといえる。
なお、イオン交換膜法では海水から塩化ナトリウムを分離・抽出するような方法であり、製造された塩におけるマイクロプラスチックの含有量は低いものと推認される(しかしながら、前述したようにミネラル成分は少ないといえよう)。
【0011】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、海水に含まれるミネラル成分を可能な限り多く残存させ、かつ海水に含まれるマイクロプラスチックを除去することができる塩の製造方法および塩の製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の前述した目的は、後記の構成により達成される。
(1)貯槽された状態の海水に対し、その内部で第1の泡を所定期間発生させた後、さらに前記第1の泡よりもその泡径が大きい第2の泡を発生させる第1の工程と、前記第1の工程の実行中、前記海水の内部で前記第2の泡が発生している状態で、前記海水の上澄み液および/または前記海水の表面上に発生する泡を除去する第2の工程と、前記第1の工程および前記第2の工程の実行後、残った前記海水を、過熱水蒸気が充満される空間内に噴射して前記過熱水蒸気に触れさせ、前記海水内の水分を除去させる第3の工程と、を含む、塩の製造方法。
(2)前記第1の工程で、前記第2の泡はその泡径が1mm以上のmmオーダである泡を含んで発生される、(1)に記載の塩の製造方法。
(3)前記第3の工程で、前記過熱水蒸気の温度が200度から300度の範囲に設定される、(1)または(2)に記載の塩の製造方法。
(4)前記空間内は、無酸素の状態で前記過熱水蒸気が充満される、(1)~(3)のいずれか1つに記載の塩の製造方法。
(5)前記第3の工程の後、析出された塩に対しコロナ放電処理を施す第4の工程を、さらに含む、(1)~(4)のいずれか1つに記載の塩の製造方法。
(6)貯槽された状態の海水に対し、その内部で第1の泡を所定期間発生させた後、さらに前記第1の泡よりもその泡径が大きい第2の泡を発生させる泡発生手段と、前記泡発生手段によって前記海水の内部で前記第2の泡が発生している状態で、前記海水の上澄み液および/または前記海水の表面上に発生する泡を除去する除去手段と、過熱水蒸気が充満されるための容器を有し、前記除去手段によって残された前記海水を前記容器の空間内に噴射して前記過熱水蒸気に触れさせ、前記海水内の水分を除去させる乾燥手段と、を含む、塩の製造装置。
(7)前記泡発生手段は、前記第2の泡をその泡径が1mm以上のmmオーダである泡を含んで発生させる、(6)に記載の塩製造装置。
(8)前記乾燥手段は、前記過熱水蒸気の温度を200度から300度の範囲に設定する、(6)または(7)に記載の塩の製造装置。
【0013】
前記構成によれば、海水中に存在するマイクロプラスチックのそれぞれは無数に電気的に第1の泡が付着し浮力が高められたりあるいはその無数の第1の泡を含んで全体的に粒径が大きくされたりする。このように無数の第1の泡が電気的に付着した状態でマイクロプラスチックは、第2の泡によって発生された海流に従ってあるいはその第2の泡の内部に取り込まれて海水の上方に強制的に移動される。そして、この状態で海水の上澄み液および/または海水の表面上に発生する泡は除去される。これにより、海水に含まれるマイクロプラスチックを効率的に除去することができる。さらに、マイクロプラスチックが除去された海水を、過熱水蒸気が充填される空間内に噴射して過熱水蒸気に触れさせて、海水内の水分を除去させる。その結果、ミネラル成分を含む塩を析出させることができる。
前記構成によれば、第2の泡はその泡径が1mm以上のmmオーダである泡を含んで発生される。このため、無数の第1の泡が電気的に付着した状態のマイクロプラスチックをより確実に海水の上方に移動させ、マイクロプラスチックの除去効率を高めることができる。
前記構成によれば、過熱水蒸気の温度が200度から300度の範囲に設定されるため、海水に含まれる水分を効率よく除去して海水に含まれるミネラル成分をより可能な限り多く残存させることができる。
前記の構成によれば、空間内は無酸素の状態で過熱水蒸気が充填される。ここで、酸素とミネラル成分を分離して製造する方法は従来には見受けられず、一般的には塩の製造方法は酸素環境下で行われる。このため、ミネラル成分と酸素が化学結合して変質し、物質の酸化が進行する可能性がある。すなわち、前記の構成のように酸素と分離した状態で塩の析出工程を行うことにより、ミネラル成分の酸化を防止することができる。その結果、製造される塩に含有される有機物または無機物に対して抗酸化作用を実現して長期保存または摂取する人間の酸化防止などの効果を得ることができる。
前記構成によれば、第3の工程の後、析出された塩に対しコロナ放電処理を施す第4の工程を、さらに含む。このため、海水に含まれるマイクロプラスチックをより確実に除去することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、海水に含まれるミネラル成分を可能な限り多く残存させ、かつ海水に含まれるマイクロプラスチックを除去することができる。
【0015】
以上、本発明について簡潔に説明した。さらに、以下に説明される考案を実施するための形態(以下「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本考案の詳細はさらに明確化されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態に係る塩の製造方法の基本工程を例示するフロー図である。
図2図2は、図1に示す貯水工程、泡発生工程および除去工程での様子を例示する模式図である。
図3図3は、図1に示す乾燥工程での様子を例示する模式図である。
図4図4は、図1に示す放電工程での様子を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る塩の製造方法および塩の製造装置に関する実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0018】
ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。たとえば、すでによく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。また、添付図面のそれぞれは符号の向きに従って参照するものとする。
【0019】
[・塩の製造方法の基本工程について]
図1を参照して、本実施形態に係る塩の製造方法の基本工程について説明する。図1は、本実施形態に係る塩の製造方法の基本工程を例示するフロー図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の製造方法は、その基本工程として、貯水工程S1と、泡発生工程S2と、除去工程S3と、乾燥工程S4と、放電工程S5と、を含んで構成される。
【0021】
貯水工程S1では、たとえば海洋から汲(く)み上げられた海水SWが海水貯水槽10に貯蔵される(後述参照、図2参照)。泡発生工程S2では、この貯槽された状態の海水SWに対し、複数種類の泡が発生される(後述参照)。除去工程S3では、泡発生工程S2によって海水SWの内部で泡が発生された状態で、その海水SWの表面上の泡およびその上澄み液が除去される(後述参照)。乾燥工程S4では、その上澄み液などが除去された海水SWは過熱水蒸気SSが用いられて蒸発され、その結果、塩SLTが析出される。そして、放電工程S5では、その析出された塩SLTは一対の電極に挟まれるように載置され、その載置の状態でコロナ放電される。このような工程を経ることで、海水SWに含まれるミネラル成分が可能な限り多く残存し、かつ海水SWに含まれるマイクロプラスチックが除去された塩SLTが製造される。
なお、本実施形態に係る塩の製造方法は、塩の製造システムによって実行される。塩の製造システム(塩の製造装置の一例)は、海水貯水槽10と泡発生装置20(泡発生手段の一例)と除去装置30(除去手段の一例)と乾燥装置40(乾燥手段の一例)とを少なくとも含んで構成される(後述参照)。
【0022】
[・・貯水工程、泡発生工程および除去工程について]
図2を参照して、貯水工程S1、泡発生工程S2および除去工程S3について説明する。図2は、図1に示す貯水工程S1、泡発生工程S2および除去工程S3での様子を例示する模式図である。
【0023】
図2に示すように、貯水工程S1、泡発生工程S2および除去工程S3は、本実施形態に係る塩の製造システムの一部を構成する海水貯水槽10、泡発生装置20および除去装置30のそれぞれによって実行される。
【0024】
海水貯水槽10は、たとえば上方が開口される箱状または円筒状の合成樹脂からなる容器であり、その内部にはたとえば海洋から汲み上げられた海水SWが貯蔵される(すなわち貯水工程S1)。
【0025】
泡発生装置20は、マイクロバブル(第1の泡の一例)およびミリバブル(第2の泡の一例)を選択的に発生させることが可能に構成される。
【0026】
一般的にマイクロバブルは、その直径がμmオーダの気泡とされており、取り扱う分野によって対象とする大きさが異なり、たとえば流体物理分野では数100μm以下として定義されることもある。このマイクロバブルよりも直径が大きいのがミリバブルであり、日常生活で観察される泡である。ミリバブルは、1mm以上のmmオーダである泡である。また、ミリバブルは気体を内方しているため、そのミリバブルに浮力が作用してその発生直後からミリバブルは浮上途中で結合する。そのため、ミリバブルは液体中で発生しても液体表面にすぐに浮上して弾(はじ)けて消滅する。その一方、マイクロバブルは、その直径が小さく内包される気体の量が少ないため、非常に浮力が小さく液体中を長い間漂う(滞在する)。また、マイクロバブルは、気泡界面にマイナスの電荷を帯びているため、気泡同士が結合することなく液体中に拡散する。
【0027】
本実施形態の泡発生装置20は、本体部21と出力部22とを含んで構成される。本体部21は海水貯水槽10の外部の、たとえば地面上に設定され、出力部22は海水貯水槽10に沈んで底面に設置される。出力部22には、マイクロバブルまたはミリバブルを液体内の放出するための吐出口23が設けられる。本体部21および出力部22は第1の蛇管24を介して接続され、本体部21で生成される泡がその第1の蛇管24を通じて出力部22に搬送される。そして、出力部22は、その吐出口23でマイクロバブルまたはミリバブルを海水SW内に発生させる。
【0028】
本体部21は円筒状に形成されており、第2の蛇管25が取り付けられる。第2の蛇管25はその一端部が海水SWを取り込み可能に海水SW内に配置され、その他端部で本体部21に接続される。本体部21は、第2の蛇管25を通じて海水貯水槽10に貯蔵される海水SWを取り込むことが可能である。
【0029】
本体部21は、取り込んだ海水SWに対し旋回流を発生させる。そのため、ベルヌーイの定理に従って旋回流によって発生した中心軸Cの減圧部分に空気が自給され、気体旋回流も同時に発生して切断および粉砕の現象が発生する。その結果、マイクロバブルまたはミリバブルが発生する。この方式は旋回液流式と呼ばれており、気体と液体とを混合して高速で旋回させることで気泡(泡、バブル)を発生されるものである。
なお、本実施形態の泡発生装置20は旋回液流式とされるがこれに限定されない。マイクロバブルおよびミリバブルが選択的に発生することが可能であれば、たとえば加圧溶解式、微細孔式、エジェクター式またはスタティックミキサー式など種々の方式を採用することが可能である。
【0030】
泡発生工程S2では、このように構成される泡発生装置20を用いて、貯槽された状態の海水SWに対し、その内部でマイクロバブルを所定期間発生させた(この期間を以下「マイクロバブル発生期間」ともいう。)後、さらにこのマイクロバブルよりもその泡径が大きいミリバブルを発生させる(この期間を以下「ミリバブル発生期間」ともいう。)。
【0031】
ここで、前述したように近年、海洋のマイクロプラスチックによる環境問題が広く知られるようになった。日常的に製造および利用されているプラスチック(合成樹脂材)が再利用、焼却または無法投棄などで適切に処理されない場合、マイクロプラスチックとなり海に流れていることがさまざまな研究で明らかになっている。海から汲み上げられた海水SWには無数のマイクロプラスチックが存在している可能性が十分にある(事実、さまざまな研究で明らかにされている。)。そして、マイクロプラスチックは帯電し易いことが知られている。
【0032】
また、前述のとおりマイクロバブルはマイナスに帯電する。そのため、マイクロバブル発生期においては、マイクロバブルは、その海水SW内に存在しかつ帯電し易いマイクロプラスチックのそれぞれに無数に電気的に付着する。その付着の結果、マイクロバブルは、マイクロプラスチック全体を覆って浮力を高めたりあるいはその無数のマイクロバブルを含んで全体的に粒径を大きくしたりする。このように無数のマイクロバブルが電気的に付着した状態で、マイクロプラスチックは、ミリバブル発生期においてミリバブルによって発生された海流に従ってあるいはそのミリバブルの内部に取り込まれて海水SWの上方に強制的に移動される。そして、ミリバブルはマイクロプラスチックを伴って、海水SWの表面上に泡の形態を保って多段に連なるとともに層状に拡がったり、あるいは破裂したりする。
【0033】
このようにミリバブル発生期で海水SWの上部および表面上に移動する、マイクロプラスチックを伴った泡などを除去するため、本実施形態では除去装置30が用いられる(すなわち除去工程S3)。
【0034】
除去装置30は、ラッパ状に形成され小口部32および大口部33を有するラッパ部31と、U字管状に形成されその一端部がラッパ部31の小口部32に連通して接続される案内管部34と、を含んで構成される。
【0035】
ラッパ部31はその大口部33が下側を向くように海水SWの表面に近接して(対向すて)配置される。そのため、たとえば除去装置30の内部は陰圧に設定されており、海水貯水槽10の海水SWの表面上に発生した泡、または破裂した泡などをそのラッパ部31で広く吸い込んで回収する。ラッパ部31によって回収された泡などは案内管部34を通じて外部に排出される。
【0036】
また、本実施形態では、除去装置30の一部として第3の蛇管(不図示)も用いられる。第3の蛇管の一端部は貯槽された海水SWの上部に配置され、その他端部はたとえばポンプに接続されて、海水SWの上澄み液を汲み上げて除去(排水)可能に設けられる。それにより、無数のマイクロバブルが付着するとともにミリバブルによって海水SWの上部に上昇移動されるマイクロプラスチックを広く回収して漏れなく除去することが可能となる。
【0037】
[・・乾燥工程について]
図3を参照して、乾燥工程S4について説明する。図3は、図1に示す乾燥工程S4での様子を例示する模式図である。
【0038】
図3に示すように、乾燥工程S4では乾燥装置40が用いられて海水SWから塩成分が析出される。
【0039】
乾燥装置40は、回転ドラム41(容器の一例)と、その回転ドラム41を回転させるための駆動部(不図示)と、を含んで構成される。
【0040】
回転ドラム41は、その中心軸Cの周囲に円筒状のドラム体42が配設され地面に固定される構造で設置される。また、回転ドラム41の周面には開閉自在の1つの取出窓(不図示)が配設されており、後述のように回転ドラム41内で生成される塩SLTはこの取出窓を通じて乾燥装置40の外部に取り出される。駆動部は、たとえば、回転ドラム41を中心軸C周りに回転させるための傘歯車(不図示)、駆動軸(不図示)およびモータ(不図示)を有して構成される。モータが駆動すると回転ドラム41は回転する。
【0041】
また、回転ドラム41の一端面において中心軸Cと一致する部分には、回転ドラム41の内外で貫通する吐出口23が形成される。吐出口23から、たとえばボイラー(不図示)などによって加熱された過熱水蒸気SSが回転ドラム41の内部に放出され、その回転ドラム41の内部空間IS(空間の一例)は過熱水蒸気SSで充満される。本実施形態では、過熱水蒸気SSの温度が200度から300度の範囲に設定される。
【0042】
その一方、回転ドラム41の他端面において中心軸Cと一致する部分には、噴射ノズル44が回転ドラム41の内部に向かって開口して配設される。噴射ノズル44は噴射口45を有し、海水SWをスプレー状に噴射する。具体的には、前述の排出工程によって残された海水SWはチューブ(不図示)を通過してパイプ(不図示)に向かう。パイプの先端には噴射ノズル44が接続されており、そのパイプによって搬送される海水SWは噴射ノズル44から回転ドラム41の内部空間ISに向けて高速で噴射される。前述のように回転ドラム41の内部空間ISには過熱水蒸気SSが充満されており、噴射された海水SWはその過熱水蒸気SSに触れて、水分が蒸発して(除去されて)乾燥する。その結果、海水SWの塩成分がミネラル成分とともに析出し、微小結晶の塩SLTが生成されることになる。また、海水SWが噴射される際、内部空間ISは、たとえば酸素除去装置などを用いて無酸素の状態とされる。
【0043】
つまり、このように構成される乾燥装置40によって乾燥工程S4では、噴射ノズル44から回転ドラム41の内部空間ISに噴射された海水SWは、無酸素の状態の内部空間ISに充満された過熱水蒸気SSに触れて高温に加熱され、水分は瞬時のうちに気化される。そして、水分のみが除去されて、その結果、乾燥された微小結晶の海水SWはそのミネラル成分とともに内部空間ISで落下し回転ドラム41の下方内面に蓄積される。回転ドラム41は駆動部によって回転されるため、その回転に伴って回転ドラム41の下方に蓄積された塩SLTは常に混ぜられ、その微小結晶が維持され「さらさら」な状態とされる。
【0044】
[・・放電工程について]
図4を参照して、放電工程S5について説明する。図4は、図1に示す放電工程S5での様子を例示する模式図である。
【0045】
図4に示すように、放電工程S5では放電装置50が用いられて、析出された塩分およびミネラル成分に対しコロナ放電が行われる(すなわち放電工程S5)。
【0046】
放電装置50は、析出された塩SLTをその内部に格納する筐体51と、その筐体51の天面および底面のそれぞれに配設される第1の電極52および第2の電極53と、を有して構成される。第1の電極52は平板状に形成されており筐体51の底面を構成する。この第1の電極52の上に塩SLTが盛られた状態で載置される。第2の電極53も同様に平板状に形成され、またその内面には複数の突起54が配設される。第1の電極52および第2の電極53には電源が電気的に接続されており、電源によって電気が印加されると、第2の電極53における複数の突起54と、第1の電極52との間で無数のコロナ放電が発生する。そのため、第1の電極52上に載置される、析出された塩SLTにコロナ放電処理が施されることになる。このコロナ放電処理によってマイクロプラスチックが焼成されて除去される。
【0047】
このようにして、析出された塩SLTに対しコロナ放電が施されることで、前述の泡発生工程S2および除去工程S3で除去しきれなかったマイクロプラスチックを除去することが可能である。
【0048】
[・本実施形態の利点について]
以上説明したように本実施形態の塩の製造方法によれば、貯槽された状態の海水SWに対し、その内部でマイクロバブル(第1の泡の一例)を所定期間発生させた後、さらにこのマイクロバブルよりもその泡径が大きいミリバブル(第2の泡の一例)を発生させる泡発生工程S2(第1の工程の一例)と、この泡発生工程S2の実行中、海水SWの内部でミリバブルが発生している状態で、海水SWの上澄み液および海水SWの表面上に発生する泡を除去する除去工程S3(第2の工程の一例)と、泡発生工程S2および除去工程S3の実行後、残った海水SWを、過熱水蒸気SSが充満される空間内に噴射して過熱水蒸気SSに触れさせ、海水SW内の水分を除去させる乾燥工程S4(第3の工程の一例)と、を含む。
【0049】
また、本実施形態の塩の製造システム(製造装置の一例)によれば、貯槽された状態の海水SWに対し、その内部でマイクロバブル(第1の泡の一例)を所定期間発生させた後、さらにマイクロバブルよりもその泡径が大きいミリバブル(第2の泡の一例)を発生させる泡発生装置20(泡発生手段の一例)と、泡発生装置20によって海水SWの内部でミリバブルが発生している状態で、海水SWの上澄み液および海水SWの表面上に発生する泡を除去する除去装置30(除去手段の一例)と、過熱水蒸気SSが充満されるための回転ドラム41(容器の一例)を有し、除去装置30によって残された海水SWを回転ドラム41の内部空間IS(空間の一例)内に噴射して過熱水蒸気SSに触れさせ、海水SW内の水分を除去させる乾燥装置40(乾燥手段の一例)と、を含む。
【0050】
このため、海水SW内に存在するマイクロプラスチックのそれぞれは無数に電気的にマイクロバブル(第1の泡)が付着し浮力が高められたりあるいはその無数のマイクロバブルを含んで全体的に粒径が大きくされたりする。このように無数のマイクロバブルが電気的に付着した状態でマイクロプラスチックは、ミリバブル(第2の泡)によって発生された海流に従ってあるいはそのミリバブルの内部に取り込まれて海水SWの上方に強制的に移動される。そして、この状態で海水SWの上澄み液および海水SWの表面上に発生する泡は除去される。これにより、海水SWに含まれるマイクロプラスチックを効率的に除去することができる。さらに、マイクロプラスチックが除去された海水SWを、過熱水蒸気SSが充填される、回転ドラム41の内部空間IS(空間の一例)内に噴射して過熱水蒸気SSに触れさせて、海水SW内の水分を除去させる。その結果、ミネラル成分を含む塩SLTを析出させることができる。
【0051】
すなわち、本実施形態によれば、海水SWに含まれるミネラル成分を可能な限り多く残存させ、かつ海水SWに含まれるマイクロプラスチックを除去することができる。
【0052】
また、本実施形態の塩の製造方法および塩の製造システム(製造装置の一例)によれば、ミリバブル(第2の泡の一例)はその泡径が1mm以上のmmオーダである泡を含んで発生される。このため、無数のマイクロバブルが電気的に付着した状態のマイクロプラスチックをより確実に海水SWの上方に移動させ、マイクロプラスチックの除去効率を高めることができる。
【0053】
また、本実施形態の塩の製造方法および塩の製造システム(製造装置の一例)によれば、過熱水蒸気SSの温度が200度から300度の範囲に設定されるため、海水SWに含まれる水分を効率よく除去して海水SWに含まれるミネラル成分をより可能な限り多く残存させることができる。
【0054】
また、本実施形態の塩の製造方法および塩の製造システム(製造装置の一例)によれば、内部空間IS(空間の一例)内は無酸素の状態で過熱水蒸気SSが充填される。ここで、酸素とミネラル成分を分離して製造する方法は従来には見受けられず、一般的には塩の製造方法は酸素環境下で行われる。このため、ミネラル成分と酸素が化学結合して変質し、物質の酸化が進行する可能性がある。すなわち、本実施形態のように酸素と分離した状態で塩SLTの析出工程を行うことにより、ミネラル成分の酸化を防止することができる。その結果、製造される塩SLTに含有される有機物または無機物に対して抗酸化作用を実現して長期保存または摂取する人間の酸化防止などの効果を得ることができる。
【0055】
また、本実施形態の塩の製造方法および塩の製造システム(製造装置の一例)によれば、乾燥工程S4(第3の工程の一例)の後、析出された塩SLTに対しコロナ放電処理を施す放電工程S5(第4の工程の一例)または放電装置50を、さらに含む。このため、海水SWに含まれるマイクロプラスチックをより確実に除去することができる。
【0056】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本開示はかかる例としての実施形態に限定されないことはいうまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前述した実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、海水に含まれるミネラル成分を可能な限り多く残存させ、かつ海水に含まれるマイクロプラスチックを除去することができる塩の製造方法および塩の製造装置として有用である。
【符号の説明】
【0058】
10 :海水貯水槽
20 :泡発生装置
21 :本体部
22 :出力部
23 :吐出口
24 :第1の蛇管
25 :第2の蛇管
30 :除去装置
31 :ラッパ部
32 :小口部
33 :大口部
34 :案内管部
40 :乾燥装置
41 :回転ドラム
42 :ドラム体
44 :噴射ノズル
45 :噴射口
50 :放電装置
51 :筐体
52 :第1の電極
53 :第2の電極
54 :突起
C :中心軸
IS :内部空間
S1 :貯水工程
S2 :泡発生工程
S3 :除去工程
S4 :乾燥工程
S5 :放電工程
SLT :塩
SS :過熱水蒸気
SW :海水
図1
図2
図3
図4