(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】めっき焦げ防止治具及びこれを用いためっき方法
(51)【国際特許分類】
C25D 17/10 20060101AFI20241125BHJP
C25D 17/08 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
C25D17/10 B
C25D17/08 G
(21)【出願番号】P 2024078855
(22)【出願日】2024-05-14
【審査請求日】2024-05-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594035138
【氏名又は名称】柿原工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿原 邦博
(72)【発明者】
【氏名】王路 貴史
(72)【発明者】
【氏名】藤本 卓三
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第205839174(CN,U)
【文献】中国実用新案第212388137(CN,U)
【文献】特表2000-516303(JP,A)
【文献】特開2016-104894(JP,A)
【文献】特開2013-36083(JP,A)
【文献】特開2008-169403(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115052429(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101323967(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品(W)をめっき槽(72)において湿式めっきする際に、吊下げ具(71)に掛け止めた樹脂成形品(W)のめっき焦げを防止するめっき焦げ防止治具(1)であって、
めっき槽(72)において、樹脂成形品(W)が取り付けられた吊下げ具(71)に隣接して配置し、めっきを積極的に析出させる長方形状の板状補助部材(2)と、
前記板状補助部材(2)に複数か所に開けられた、吊下げ具(71)の支柱部(71a)に複数取り付けられた挟持部(71b)の先端に着脱自在に差し込められる取付穴(3)と、を備え、
めっき処理に際して、前記めっき焦げ防止治具(1)を樹脂成形品(W)に隣接する位置に配置し、該めっき焦げ防止治具(1)にめっきを積極的に析出させて、該樹脂成形品(W)に、過大に電流密度が生じた状態でめっきが析出することを防止するように構成した、ことを特徴とするめっき焦げ防止治具。
【請求項2】
前記板状補助部材(2)の長手方向の端部に、めっきが局部的に析出しないようにアール部(6)を形成した、ことを特徴とする請求項1に記載のめっき焦げ防止治具。
【請求項3】
前記板状補助部材(2)は、複数本に折損して切り離し得るように、折損用折り線(5)を形成した、ことを特徴とする請求項1に記載のめっき焦げ防止治具。
【請求項4】
前記板状補助部材(2)は、可撓性を有する合成樹脂製の板状の部材である、ことを特徴とする請求項1に記載のめっき焦げ防止治具。
【請求項5】
前記めっき焦げ防止治具(1)の取付穴(3)に、これに差し込む前記吊下げ具(71)の挟持部(71b)の先端に、めっきが局部的に析出させないように、該取付穴(3)に筒形状のボス(4)を形成した、ことを特徴とする請求項1に記載のめっき焦げ防止治具。
【請求項6】
請求項1に記載のめっき焦げ防止治具(1)を用いて、めっき槽(72)において樹脂成形品(W)を湿式めっきする際に、該樹脂成形品(W)のめっき焦げを防止しながらめっきする方法であって、
先ず、吊下げ具(71)の挟持部(71b)に、めっきする樹脂成形品(W)を取り付け、この吊下げ具(71)をめっき槽(72)内に掛けとめ、
前記吊下げ具(71)に掛け止めた樹脂成形品(W)の周囲に、
前記めっき焦げ防止治具(1)の板状補助部材(2)をめっき槽(72)に配置し、
前記めっき焦げ防止治具(1)を配置した状態で、湿式めっきすると共に、
前記めっき焦げ防止治具(1)の板状補助部材(2)にめっきを積極的に析出させ、該樹脂成形品(W)に過大に電流密度が生じた状態でめっきが析出することを防止しながらめっきする、ことを特徴とするめっき焦げ防止治具を用いてめっきする方法。
【請求項7】
前記めっき焦げ防止治具(1)を、前記めっき槽(72)内に配置された電極板(73)に隣接する位置に配置してめっきする、ことを特徴とする請求項6に記載のめっき焦げ防止治具を用いてめっきする方法。
【請求項8】
前記めっき焦げ防止治具(1)を、前記吊下げ具(71)の上下の位置に配置してめっきする、ことを特徴とする請求項6に記載のめっき焦げ防止治具を用いてめっきする方法。
【請求項9】
前記めっき焦げ防止治具(1)を、めっきする樹脂成形品(W)の外形線に沿って湾曲させてめっき槽(72)に配置した、ことを特徴とする請求項6に記載のめっき焦げ防止治具を用いてめっきする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品にめっきする際に使用する補助具に係り、特に樹脂成形品にめっきする際に生じるめっき焦げのようなめっき皮膜の不具合を解消する、めっき焦げ防止治具及びこれを用いためっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な樹脂めっき方法は、めっきする樹脂成形品に、その樹脂成形品の表面粗化をするエッチング工程、エッチング中和工程、触媒付与工程、導電化工程(又は無電解めっき)を施し、このように前処理した樹脂成形品に、銅めっき工程、ニッケルめっき工程の順で各めっき処理を施し、最後にクロムめっき工程を施して終了する。
【0003】
このような各工程を経る樹脂めっき方法では、樹脂成形品を吊下げ具に取り付けてめっき処理している。この吊下げ具は、上端にフックを有する支柱に挟持部を複数取り付けたものである。例えば挟持部はばねで先端が開閉挟持するようになっている。各挟持部の先端は樹脂成形品を掛け止められるように鉤部が形成されている。この吊下げ具は、例えば、自動車用内装ドアハンドル、外装ドアハンドル、外装ハンドルカバー部品等のような自動車用樹脂めっき部品、シャワーヘッド、蛇口部品等のような住宅関連樹脂めっき部品、更に携帯電話部品のように同一形状のものを大量に生産する際に適している。
【0004】
また、例えば上下2本ずつの計4本の挟持部で1個の樹脂成形品を4か所の鉤部で掛け止めるように成る構成の吊下げ具も使用されている。これは、大きな樹脂成形品の取り付けに適している。
【0005】
このような吊下げ具71を用いてめっきされる樹脂成形品W(ワーク)の表面には、図
10の電気めっきにおける電流分布の説明図に示すような電流分布が生じる。めっき槽において電流は樹脂成形品Wの電極板73側にだけ流れ、電極板73の逆側の面と樹脂成形品Wの内側の面(
図10における左側)には電流は流れにくい。めっきは電流の流れるところにだけ形成されるため、電流の流れが少ない電極板73の逆側の面と樹脂成形品Wの内側の面にはめっきが薄く形成される。
【0006】
一般に樹脂成形品Wの外側に張出した部分ほど電流密度が高い。めっき金属は樹脂成形品Wの凸部や張出した角部に析出しやすい。
図10のばり部の膜厚が厚く形成されためっき製品の断面図に示すように、板状の樹脂成形品Wへめっきした場合、樹脂成形品Wの角のばり部は電流密度が高くなるため、ばり部の膜厚t1は、電流密度が低い樹脂成形品Wの中央部の膜厚t2よりも厚くなりやすい。このように均一電着性が低いめっきの場合は、角ばり部にザラが発生し光沢がなくなり、外観を損なうことがある。
特に、過大な電流密度でいわゆる「めっき焦げ」という不具合が生じる。これは、樹脂成形品Wの表面に析出する粗くて脆い焦げたようなめっき皮膜のことをいい、めっき焼けとも称される。
【0007】
その対策として、従来より
図12(a)と(b)のめっきの膜厚が異なる状態を示す説明断面図にあるように、樹脂成形品Wの角部、張出し部に予めアール面(R面)76を形成することでめっきの付き過ぎを防止している。例えば図示の左側の樹脂成形品Wは、それぞれ角部又は張出し部が鋭利な状態になっている。そこで、右側の樹脂成形品Wのように、その部分にそれぞれアール面(R面)76を形成することで不均一な膜厚の形成を防止している。
【0008】
しかし、このような樹脂成形品Wの角部又は張出し部にR面76を形成することは、その製品の設計の自由度を制限することになり、精密な製品には採用できない対策方法であった。そこで、
図13のめっき槽内に遮蔽板を用いてめっきを施す状態を示す断面図に示すように、めっき槽72内において、電極板73と樹脂成形品Wの間、特に樹脂成形品Wの角部又は張出し部に遮蔽板74を配置してめっきを施す技術が提案されている。この遮蔽板74は、樹脂成形品Wの角部又はその周辺に陰を造る板である。これは樹脂成形品W端部の過大な電流密度が生じないようにするものである。
【0009】
更に、
図14に示すように、吊下げ具71の上下位置それぞれに、電解集中防止具(めっき焦げ防止具)77を取り付けたものがある。この電解集中防止具77は、吊下げ具71に掛け止めた樹脂成形品Wの角部又はその周辺に過大な電流密度が生じないようにするものである。
【0010】
更に、電流遮蔽板の下端部形状を改善して均一にめっきを施せるようにしためっき処理に関する技術について、例えば特許文献1の特開平8-296086号公報「電気メッキ装置」に、断面を縦方向にしてメッキ槽内を走行する金属条体の上部と下部との両側に、メッキ電流を調節する電流遮蔽板をそれぞれ設け、さらに下部両側の電流遮蔽板の間から流体を噴出してメッキ液を流動する流体ノズルを設けた電気メッキ装置において、上部両側の電流遮蔽板に所定の傾斜を設けてその下端部をくさび状にした電気メッキ装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
配列している吊下げ具の樹脂成形品は、隣接した樹脂成形品の存在により、過大な電流密度が生じても不具合は生じなかった。しかし、めっき槽内において両端に取り付けられた吊下げ具の樹脂成形品は、めっき焦げを解消することができないという問題を有していた。
【0013】
更に、10cm~20cm程度の自動車用内装ドアハンドル、外装ドアハンドル部品等のような自動車用樹脂めっき部品より大きい樹脂成形品についても、過大な電流密度が生じることによる不具合を解消することができないという問題を有していた。
【0014】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、めっき槽内にめっき焦げ防止治具(1)を配置すると共に、このめっき焦げ防止治具(1)にめっき槽内に生じる過大な電流密度を緩和させることで、樹脂成形品にめっき焦げが生じることを防止することができるめっき焦げ防止治具及びこれを用いためっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のめっき焦げ防止治具は、樹脂成形品(W)をめっき槽(72)において湿式めっきする際に、吊下げ具(71)に掛け止めた樹脂成形品(W)のめっき焦げを防止するめっき焦げ防止治具(1)であって、
めっき槽(72)において、樹脂成形品(W)が取り付けられた吊下げ具(71)に隣接して配置し、めっきを積極的に析出させる長方形状の板状補助部材(2)と、
前記板状補助部材(2)に複数か所に開けられた、吊下げ具(71)の支柱に複数取り付けられた挟持部(71b)の先端に着脱自在に差し込められる取付穴(3)と、を備え、
めっき処理に際して、前記めっき焦げ防止治具(1)を樹脂成形品(W)に隣接する位置に配置し、該めっき焦げ防止治具(1)にめっきを積極的に析出させて、該樹脂成形品(W)に、過大に電流密度が生じた状態でめっきが析出することを防止するように構成した、ことを特徴とする。
【0016】
前記板状補助部材(2)の長手方向の端部に、めっきが局部的に析出しないようにアール部(6)を形成する、ことが好ましい。
前記板状補助部材(2)は、複数本に折損して切り離し得るように、折損用折り線(5)を形成したものである。
前記板状補助部材(2)は、可撓性を有する合成樹脂製の板状の部材である。
前記めっき焦げ防止治具(1)の取付穴(3)に、これに差し込む前記吊下げ具(71)の挟持部(71b)の先端に、めっきが局部的に析出させないように、該取付穴(3)に筒形状のボス(4)を形成した。
【0017】
本発明のめっき方法は、めっき焦げ防止治具(1)を用いて、めっき槽(72)において樹脂成形品(W)を湿式めっきする際に、該樹脂成形品(W)のめっき焦げを防止しながらめっきする方法であって、
先ず、吊下げ具(71)の挟持部(71b)に、めっきする樹脂成形品(W)を取り付け、この吊下げ具(71)をめっき槽(72)内に掛けとめ、
前記吊下げ具(71)に掛け止めた樹脂成形品(W)の周囲に、前記めっき焦げ防止治具(1)の板状補助部材(2)をめっき槽(72)に配置し、
前記めっき焦げ防止治具(1)を配置した状態で、湿式めっきすると共に、
前記めっき焦げ防止治具(1)の板状補助部材(2)にめっきを積極的に析出させ、該樹脂成形品(W)に過大に電流密度が生じた状態でめっきが析出することを防止しながらめっきする、ことを特徴とする。
【0018】
前記めっき焦げ防止治具(1)は、前記めっき槽(72)内に配置された電極板(73)に隣接する位置に配置してめっきをする。
また、前記めっき焦げ防止治具(1)は、前記吊下げ具(71)の上下の位置に配置してめっきをする。
【0019】
前記めっき焦げ防止治具(1)を、めっきする樹脂成形品(W)の外形線に沿って湾曲させてめっき槽(72)に配置することができる。
【発明の効果】
【0020】
上記構成のめっき焦げ防止治具(1)では、めっき槽(72)において樹脂成形品(W)と電極板(73)との間に配置し、このめっき焦げ防止治具(1)の板状補助部材(2)にめっきを積極的に析出させ、樹脂成形品(W)のめっき焦げの発生を防止でき、めっきの膜厚を均一にすることができる。
【0021】
板状補助部材(2)の長手方向の端部に、アール部(6)を形成しためっき焦げ防止治具(1)では、板状補助部材(2)自体にめっき焦げが生じない。そこで、板状補助部材(2)にも均一にめっきを析出させることで、効率よくめっき焦げの発生を防止できる。
板状補助部材(2)は、折損用折り線(5)を形成したものでは、複数本に容易に折損して切り離し得る。吊下げ具(71)の支柱部(71a)の長さに応じて長さ調節をすることができる。
板状補助部材(2)が、可撓性を有する合成樹脂製の板状の部材から成るものでは樹脂成形品(W)の外形状に合うように湾曲させることができる。大きな樹脂成形品(W)に対しても、このめっき焦げ防止治具(1)を用いてめっき焦げの発生を防止できる。
板状補助部材(2)の取付穴(3)に筒形状のボス(4)を形成しためっき焦げ防止治具(1)では、これに差し込む吊下げ具(71)の挟持部(71b)の先端に、めっきが局部的に析出させないので、吊下げ具(71)の挟持部(71b)からこのめっき焦げ防止治具(1)の取付け、取外しが容易である。
【0022】
上記構成の方法では、板状補助部材(2)が樹脂成形品(W)の角部又は張出し部の電極板(73)との間に配置してめっきを積極的に析出させ、過大な電流密度で生じるめっき焦げの発生を防止でき、めっきの膜厚を均一にすることができる。また、めっき槽(72)の上下位置に配置してもめっきを積極的に析出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1のめっき焦げ防止治具を示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【
図2】めっき焦げ防止治具を吊り下げ具に取り付ける状態を示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【
図3】めっき槽において樹脂成形品とめっき焦げ防止治具をめっき吊り下げ具に取り付けた状態を示す断面図である。
【
図4】めっき焦げ防止治具を折損した状態を示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は折損用折り線部分の拡大側面図である。
【
図5】実施例1のめっき焦げ防止治具の変形例を示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)と(d)はアール部の拡大斜視図である。
【
図6】防止治具を用いてめっき焦げを防止しながらめっきする方法のフロー図である。
【
図7】防止治具を用いてめっき焦げを防止しながらめっきする他の方法のフロー図である。
【
図8】めっき槽において、樹脂成形品とめっき焦げ防止治具をめっき吊り下げ具に取り付けた状態の他の配置例を示す断面図である。
【
図9】めっき焦げ防止治具を、めっきする樹脂成形品の外形線に沿って湾曲させて使用する状態を示す説明平面図である。
【
図10】電気めっきにおける電流分布の説明図である。
【
図11】角のばり部の膜厚が樹脂成形品の中央部よりも厚く形成されためっき製品の断面図である。
【
図12】樹脂成形品の角部又は張出し部にR面を形成することにより、めっきの膜厚が異なる状態を示す説明断面図であり、(a)はR面を形成する前の状態、(b)はR面を形成した後の状態である。
【
図13】めっき槽内に遮蔽板を用いてめっきを施す状態を示す断面図である。
【
図14】めっき槽において、樹脂成形品とめっき焦げ防止治具をめっき吊り下げ具に取り付けた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、樹脂成形品をめっき槽において湿式めっきする際に、吊下げ具に掛け止めた樹脂成形品を、過大に電流密度が生じた状態でめっきが析出することを防止するめっき焦げ防止治具及びこれを用いためっき方法である。
【実施例1】
【0025】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
図1は実施例1のめっき焦げ防止治具を示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。
図2はめっき焦げ防止治具を吊り下げ具に取り付ける状態を示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
図3はめっき槽において樹脂成形品とめっき焦げ防止治具をめっき吊り下げ具に取り付けた状態を示す断面図である。
<めっき焦げ防止治具の構成>
実施例1のめっき焦げ防止治具1は、長方形状の板状補助部材2に複数か所に取付穴3が開けられた部材である。めっき焦げ防止治具1は、これにめっきを積極的に析出させる合成樹脂素材から成る部材である。図示例のめっき焦げ防止治具1は長さが約350mm、幅が14mm、厚みが2mm程度の大きさを有する。なお、この数値は一例であり、これらの数値に限定されない。吊下げ具71の支柱部71aの長さに応じて全長を長くしたり、短くしたりする。また、板状補助部材2の幅も広げたり、狭くすることができる。
【0026】
めっき焦げ防止治具1は、例えば次のような合成樹脂素材を用いる。
ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)
AES (アクリロニトリル・エチレン・スチレン)
ASA(アクリルニトリル・スチレン・アクリル酸エチレン)
PC/ABC(ポリカーボネート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)
PC(ポリカーボネート)
PP(ポリプロピレン)
PA(ポリアミド)
PPS(ポリフェニレンスルフィド)
PS(ポリスチレン)
SPS(シンジオタクチックポリスチレン)
POM(ポリオキシメチレン)
PEI(ポリエーテルイミド)
【0027】
樹脂成形品W、即ちめっき素材と同じ材質とすることで、同じめっき工程で使用することができる。また素材とめっき焦げ防止治具1が同じめっき工程でめっきが可能であれば、めっき素材と焦げ防止材の材質は異なっても問題ない。
例えば樹脂成形品Wの素材(PC/ABS)、ABS製のめっき焦げ防止治具1、折り曲げや湾曲を加味すると曲げ弾性、切断性よりABSが好ましく、成形性も向上する。例えば、ABSは材料も安価なのでめっき焦げ防止治具1の素材として好ましい。
【0028】
めっき焦げ防止治具1の幅が広すぎると、樹脂成形品Wに隣接させて使用する際に、樹脂成形品Wに干渉するおそれがある。逆に、めっき焦げ防止治具1の幅が狭すぎると、吊下げ具71の挟持部71bの先端を掛け止める取付穴3が開けられなくなるおそれがあるからである。
【0029】
本発明のめっき焦げ防止治具1の長さは、約35cm程度である。例えば約100cm程度の樹脂成形品Wを取り付ける吊下げ具71の支柱71aの長さより短い。この支柱71aの全長と同じ長さにすると、めっき焦げ防止治具1の保管、取り扱いが煩雑になるおそれがある。逆に、このめっき焦げ防止治具1が約35cm程度より短いと、吊下げ具71の挟持部71bへ取付ける本数が増大し、その取付けと取外す回数が増えて、却ってその作業が煩雑になるからである。
【0030】
取付穴3は、図示例では1本のめっき焦げ防止治具1に7カ所に開けられている。これは、吊下げ具71の支柱71aに所定の間隔を開けて設けられた挟持部71bの先端を差し込めるようにするためである。この吊下げ具71の上端に、めっき槽72に吊下げるフック71cを有する。
【0031】
図1の紙面の上から1個目と2個目の取付穴3の間隔(D1)と、3個目と5個目の取付穴3の間隔(D2)、6個目と7個目の取付穴3の間隔(D3)は、何れも同一間隔に開けられている。なお、4個目の取付穴3は、このめっき焦げ防止治具1の長手方向の中間に位置するため、吊下げ具71以外のものに取り付けて使用する場合、又はめっき焦げ防止治具1を湾曲させて固定する場合に掛け止める際などで使用するものである。この1本のめっき焦げ防止治具1に開ける取付穴3の数は7カ所に限定されない。板状補助部材2が長いものは取付穴3の数が多くなる。吊下げ具71の挟持部71bの間隔が狭いものも取付穴3の数が多くなる。逆に、板状補助部材2が短いものは取付穴3の数が少なくなる。吊下げ具71の挟持部71bの間隔が広いものも取付穴3の数が少なくなる。
【0032】
図1(a)、(b)に示すように、めっき焦げ防止治具1の取付穴3に、取付穴3の貫通方向に筒形状のボス4を形成する。薄い板に開けられた取付穴3に挟持部71bの先端を差し込んだ状態でめっきを析出させると、取付穴3から突出した状態の挟持部71bの先端にめっきが多く析出してめっき焦げ防止治具1を吊下げ具71から外しづらくなる。この取付穴3の貫通方向に筒形状のボス4が形成されていると、挟持部71bの先端のみにめっきが析出し、取付穴3から飛び出した挟持部71bの周囲にめっきが析出することを防止できる。めっき処理後に、めっき焦げ防止治具1を取り外しやすくなる。
【0033】
図1に示すめっき焦げ防止治具1では、上から3個目と5個目の取付穴3には、ボス4が形成されていない。吊下げ具71の支柱71aの上下端部にめっきが析出しやすい傾向にある。そこで、中間位置にある取付穴3にはボス4を形成していない。また、後述する
図7に示すように、本発明のめっき焦げ防止治具1を湾曲させて使用する際に、中間の3個目と5個目の取付穴3にボス4を形成しないことで、めっき焦げ防止治具1全体を湾曲させやすくなる、なお、図示例では、中央に開けられた4個目の取付穴3にはボス4が形成されている。これは、めっき焦げ防止治具1を湾曲させて使用する際に、挟持部71bの先端又は他の掛け止め部材の先端に止めて使用することがあるからである。
【0034】
<折損用折り線>
図4はめっき焦げ防止治具を折損した状態を示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は折損用折り線部分の拡大側面図である。
めっき焦げ防止治具1には、1本を複数本に切り離せるように、折損用折り線5が形成されている。図示するように、1本の板状補助部材2に2カ所の折損用折り線5が形成されている。これは、1本の吊下げ具71の支柱71aの長さに合わせるためである。なおあ、最小単位にした板状補助部材2には2個以上の取付穴3が開けられているようにする。
【0035】
この折損用折り線5は、
図4(c)の拡大側面図に示すように、板状補助部材2の数か所が薄肉状に形成されている。この折損用折り線5を挟むようにして両側の板状補助部材2を所定角度以上に折り曲げると、容易に折損して切り離し得る。
【0036】
折損用折り線5の具体的な数値は、
図4(c)に示すように、板厚が2mmの板状補助部材2の場合は、折損用折り線5部分の厚み、即ち切込の深さが1mmとして、板状補助部材2の板厚の半分程度とした。これは板状補助部材2を折り曲げる際に、この板状補助部材2の中で強度が弱い部分となる取付穴3部分では折れずに、折損用折り線5部分で折れやすくするためである。逆に、板状補助部材2に所定の剛性を保つためである。板状補助部材2を湾曲させて使用する際に、折損用折り線5で折損しないようにするためでもある。
【0037】
また、折損用折り線5の谷間形状は、断面視で角度が70度程度に拡開するように形成する。ただし、これらの数値は一例であってこの数値に限定されない。めっき焦げ防止治具1の材質に応じて異なる。
【0038】
<変形例1>
図5は実施例1のめっき焦げ防止治具の変形例を示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)と(d)はアール部の拡大斜視図である。
めっき焦げ防止治具1の変形例は、板状補助部材2の長手方向の端部に、めっきが局部的に析出しないようにアール部6を形成したものである。吊下げ具71の板状補助部材2の長手方向の端部に、アール部6を形成しためっき焦げ防止治具1では、板状補助部材2自体にめっき焦げが生じない。そこで、板状補助部材2にも均一にめっきを析出させることで、効率よくめっき焦げの発生を防止できるようになる。
【実施例2】
【0039】
図6はめっき焦げ防止治具を用いてめっき焦げを防止しながらめっきする方法のフロー図である。
本発明のめっき方法は、めっき槽72において樹脂成形品Wを湿式めっきする際に、樹脂成形品Wを、過大に電流密度が生じた状態でめっきが析出することをめっき焦げ防止治具1を用いて防止しながらめっきする方法である。
先ず、吊下げ具71の挟持部71bに、めっきする樹脂成形品Wを取り付け、この吊下げ具71をめっき槽72内に掛けとめる。このとき、上述したように、吊下げ具71の支柱部71aの長さに応じて、めっき焦げ防止治具1の本数、折損の有無を確認し調整する。その吊下げ具71の挟持部71bに板状補助部材2の取付穴3に差し込む。
【0040】
このように準備した吊下げ具71は、
図3に示すように、めっき槽72内の端部に配置する。掛け止めた樹脂成形品Wの周囲に、めっき焦げ防止治具1をめっき槽72に配置する。即ち、めっき槽72に並べた樹脂成形品Wと電極板73の間にめっき焦げ防止治具1が配置されるようにする。勿論樹脂成形品Wに過大な電流密度が生じないようにするためである。
【0041】
図6に示すめっきする方法は、めっき焦げ防止治具1と樹脂成形品Wの材質が同じ材料で、めっき工程が同じ場合に適している。この図示する方法では、めっき焦げ防止治具1の処理作業を、樹脂成形品Wのめっき作業と一緒に開始することができる。
【0042】
図7はめっき焦げ防止治具を用いてめっき焦げを防止しながらめっきする他の方法のフロー図である。
図7に示すめっき方法は、めっき焦げ防止治具1と樹脂成形品Wの材質が異なる材料で、めっき工程が異なる場合の作業方法である。樹脂成形品Wのめっき作業と別に、予めめっき焦げ防止治具1の準備作業をしておく。この無電解めっきが付いためっき焦げ防止治具1を取り付けた吊下げ具71を、例えば樹脂成形品Wのめっき作業における銅めっきする工程からめっき槽72内に掛け止める。何れの方法でも樹脂成形品Wのめっき焦げの発生を防止でき、めっきの膜厚を均一にすることができる。
なお、
図6と
図7に示すめっき方法は、一例であってこの処理作業、各工程に限定されないことは勿論である。
【0043】
図8はめっき槽において樹脂成形品とめっき焦げ防止治具をめっき吊り下げ具に取り付けた状態の他の配置例を示す断面図である。
めっき焦げ防止治具1の配置は、
図3に示したように、必ずしもめっき槽72の端部、即ち電極板73に隣接する位置のみに限定されない。
図8に示すように、めっき槽72のめっき液内における上部側と、下部側(底部)に配置することができる。具体的には吊下げ具71に掛け止めた一番上の樹脂成形品Wの上方に、数本の吊下げ具71に亘るようにめっき焦げ防止治具1を掛け止めて配置する。また、吊下げ具71に掛け止めた一番下の樹脂成形品Wの下方に、数本の吊下げ具71に亘るようにめっき焦げ防止治具1を掛け止めて配置する。またはめっき槽72の底部に直に置くように配置することもできる。このようにめっき焦げ防止治具1を、樹脂成形品Wを囲むように配置することで、樹脂成形品Wの周囲全域に過大な電流密度が生じないようにすることができる。
【0044】
この
図8に示す配置方法は、
図13の従来例で示した、吊下げ具71の上下位置それぞれに、めっき焦げ防止具(電解集中防止具)の取り付ける方法とは異なる。本発明のめっき焦げ防止治具1は、複数本の吊下げ具71に掛け止めることができる。なお、めっき焦げ防止治具1を吊下げ具71に掛け止めることなく、めっき槽72の上下位置に配置する状態でも同様なめっき焦げを防止する効果がある。
【0045】
図9はめっき焦げ防止治具1を、めっきする樹脂成形品Wの外形線に沿って湾曲させて使用する状態を示す説明平面図である。
樹脂成形品Wには、300~500mmと大きなものもある。このような大きな樹脂成形品Wに、本発明のめっき焦げ防止治具1を用いてめっき処理する際には、この樹脂成形品Wの外形線に沿って湾曲させて使用する。めっき焦げ防止治具1を湾曲することで、樹脂成形品Wのめっきが析出される部分とめっき焦げ防止治具1との間隔が近くになり、過大な電流密度が生じることによる不具合を解消することができる。
なお、図示していないが、本発明のめっき焦げ防止治具1は
図2、
図3に示したように、必ずしも吊下げ具71に取り付けて使用することに限定されない。めっき槽72内において過大な電流密度が生じないように、樹脂成形品Wの近くに配置固定できればよい。
【0046】
なお、本発明は、めっき槽72内にめっき焦げ防止治具1を配置すると共に、このめっき焦げ防止治具1にめっき槽72内に生じる過大な電流密度を緩和させることで、樹脂成形品にめっき焦げが生じることを防止することができれば、上述した発明の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のめっき焦げ防止治具及びこれを用いためっき方法は、樹脂成形品の他に金属製品に湿式めっきするときに利用することもできる。
【符号の説明】
【0048】
1 めっき焦げ防止治具
2 板状補助部材
3 取付穴
4 ボス
5 折損用折り線
6 アール部
71 吊下げ具
71b 挟持部
72 めっき槽
73 電極板
W 樹脂成形品
【要約】
【課題】めっき槽内にめっき焦げ防止治具を配置すると共に、このめっき焦げ防止治具にめっき槽内に生じる過大な電流密度を緩和させることで、樹脂成形品にめっき焦げが生じることを防止する。
【解決手段】めっき槽72において、樹脂成形品Wが取り付けられた吊下げ具71に隣接して配置し、めっきを積極的に析出させる長方形状の板状補助部材2と、板状補助部材2に複数か所に開けられた、吊下げ具71の支柱部71aに複数取り付けられた挟持部71bの先端に着脱自在に差し込められる取付穴3と、を備えたものである。めっき処理に際して、めっき焦げ防止治具1を樹脂成形品Wに隣接する位置に配置し、めっき焦げ防止治具1にめっきを積極的に析出させて、樹脂成形品Wに、過大に電流密度が生じた状態でめっきが析出することを防止する。
【選択図】
図1