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  • 特許-ヒスタミン生成乳酸菌の検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】ヒスタミン生成乳酸菌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20241125BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20241125BHJP
   A23L 27/50 20160101ALI20241125BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12N1/20 A
A23L27/50 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024146284
(22)【出願日】2024-08-28
【審査請求日】2024-08-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524322523
【氏名又は名称】香川県醤油醸造協同組合
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 典志
(72)【発明者】
【氏名】徳地 脩
(72)【発明者】
【氏名】川原 信介
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-010322(JP,A)
【文献】特開2005-331381(JP,A)
【文献】陶志華,ヒスタミン生成菌の簡易・迅速検出法,東北大学[online],2009年03月12日,インターネット:<URL:https://www.miyagi.kopas.co.jp/JSFS/SHIBU/TOUHOKU/0501-program/322.pdf>,[2024年9月26日検索]
【文献】遠藤路子,マグロ魚醤油のヒスタミン生成リスクを低減する乳酸菌を活用した製造技術の確立,鳥取県産業技術センター[online],No.18,2015年,pp.7-11,インターネット:<URL:https://tiit.or.jp/userfiles/0220152endo.pdf>,[2024年9月26日検索]
【文献】木村凡,乳酸菌生成培地の培地成分を読解してみよう,食品微生物学(検査と制御方法)[online],2022年02月14日,インターネット:<URL:https://foodmicrob.com/understanding-media-composition-lactic-acid-bacteria/>,[2024年9月26日検索]
【文献】乳酸菌・酵母菌,株式会社ビオック[online],2018年08月16日,インターネット:<URL:https://www.bioc.co.jp/products/nyuusankin.html>,[2024年9月26日検索]
【文献】Zhihua, A. et al.,Simple and rapid detection of histamine-forming bacteria by differential agar medium,Food control,Vol.20,No.10,2019年,pp.903-906
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
C12N 1/00
A23L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品発酵物に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の検出方法であって、
食品発酵物と、
MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を含有するヒスタミン生成乳酸菌検出培地と、を接触させて、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌を培養する工程、並びに、
前記ヒスタミン生成乳酸菌を染色させる工程を備
前記食品発酵物が、火入れする前の醤油、醤油諸味、又は、それらの培養液であり、
前記pH指示薬が、ブロモクレゾールグリーンであり、かつ、
前記食品発酵物中に、ヒスタミン生成乳酸菌及びヒスタミン非生成乳酸菌が混在しても、菌体が染色される、ヒスタミン生成乳酸菌の検出方法。
【請求項2】
前記ヒスタミン生成乳酸菌検出培地が、さらに、雑菌生育抑制剤を含む、請求項1に記載のヒスタミン生成乳酸菌の検出方法。
【請求項3】
食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の検出用培地であって、
MRS寒天培地と、
L-ヒスチジンと、
pH指示薬とを含
前記食品発酵物が、火入れする前の醤油、醤油諸味、又は、それらの培養液であり、かつ、
前記pH指示薬が、ブロモクレゾールグリーンである、ヒスタミン生成乳酸菌の検出用培地。
【請求項4】
食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を簡易に判別する方法であって、
(1)モデル乳酸菌を染色させた培地を準備する工程、
(2)食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を染色させた培地を準備する工程、及び、
(3)前記モデル乳酸菌を染色させた培地と、食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を染色させた培地とを比較し、前記染色されたモデル乳酸菌を基準に、食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を簡易に判別する工程を備え、
前記モデル乳酸菌は、ヒスタミン非生成乳酸菌及びヒスタミン生成乳酸菌の2種類を含み、
前記(1)モデル乳酸菌を染色させた培地を準備する工程は、
(1-1)前記2種類のモデル乳酸菌と、MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を含有するヒスタミン生成乳酸菌検出培地と、をそれぞれ接触させて、前記2種類のモデル乳酸菌を培養する工程、及び、
(1-2)前記2種類のモデル乳酸菌を染色させる工程を含み、
前記(2)食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を染色させた培地を準備する工程は、
(2-1)前記食品発酵物と、MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を含有するヒスタミン生成乳酸菌検出培地と、を接触させて、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌を培養する工程、及び、
(2-2)前記食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌を染色させる工程を含
前記pH指示薬が、ブロモクレゾールグリーンである、食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を簡易に判別する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒスタミン生成乳酸菌の検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
醤油、味噌等の調味料は、日本の食生活には欠かせない発酵食品である。これらの製造には、微生物がそれぞれの役割を果たしている。
例えば、醤油では、麹菌、乳酸菌及び酵母の3種類の微生物が、順番に活躍しながら醤油が製造される。
具体的には、大豆及び小麦に麹菌を生やして醤油麹を造った後、その醤油麹と冷却した塩水とを混ぜて諸味を造る。諸味中では、乳酸菌による乳酸発酵が起こった後、酵母によるアルコール発酵が起こる。そして、発酵及び熟成した諸味を濾布に包んで圧搾し、生揚醤油を得る。その後、この搾った生揚醤油に、火入れ(加熱殺菌)をして微生物及び酵素を失活させ、濾過を行うと、醤油が完成する。
【0003】
近年、醤油、味噌等の発酵食品は、製造工程において、アレルギー様症状を引き起こす食中毒危害物質であるヒスタミンが蓄積されることが問題となっている。ヒスタミンは、醤油製造工程において、醤油原料に含まれるアミノ酸であるヒスチジンが、一部の野生型の醤油乳酸菌のヒスチジン脱炭酸酵素によって分解されて生成する。
したがって、醤油製造においては、このヒスタミンの生成を抑制することが重要であり、その研究が活発に行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、特定の醤油乳酸菌を用いて、醤油製造におけるヒスタミンの生成を抑制する方法が開示されている。
また、特許文献2には、ヒスチジン中のカルボン酸が脱炭酸しない、ヒスタミン非生成の乳酸菌が開示されている。
【0005】
ところで、現代の醤油製造方法は、大容量の金属タンクを用いて、微生物を添加する製造方法と、伝統的な木桶を用いて、木桶に住みつく乳酸菌等の微生物を利用する木桶仕込みの製造方法との2種類に大きく分かれる。木桶仕込みによる醤油の製造方法を用いれば、その蔵元独自の旨味、及び、独特の香りを持った醤油ができることから、香川県の小豆島をはじめ、日本における一部の地域において、その伝統的な醤油造りが行われている。
しかしながら、この伝統的な醤油の製造方法は、木桶に住みつく乳酸菌等の微生物が単一ではないことから、醤油の品質がばらつくという問題があった。
特に、醤油製造においては、アミノ酸であるヒスチジンが醤油原料に含まれているかぎり、このヒスタミン生成の問題は付きまとってくる。
【0006】
一方、製造した醤油中に含まれるヒスタミンの量は、測定装置によって測定されている。
しかしながら、ヒスタミンの測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の高額な装置が必要であり、しかも、その装置の維持管理は容易ではない。
また、菌の存在を確認する方法としては、一般にハロー法が用いられている。このハロー法では、醤油諸味等の夾雑物を多く含む発酵食品を画線しても、ハロ-の有無で、ヒスタミン生成乳酸菌と非ヒスタミン生成乳酸菌との違いを明確に判別することが難しいという問題があった。
そこで、簡便に、かつ、確実に、醤油等の食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の有無を検出する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-025506号公報
【文献】特開2001-238666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高価なHPLC等の測定装置を使用せずに、簡便に、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の有無を検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、食品発酵物と、MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を含有するヒスタミン生成乳酸菌検出培地と、を接触させて、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌を培養する工程、並びに、前記ヒスタミン生成乳酸菌を染色させる工程を備える、ヒスタミン生成乳酸菌の検出方法を用いれば、高価なHPLC等の装置を使用せずに、簡便に、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の有無を検出することができることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0010】
本発明は、以下のヒスタミンの検査方法等に関する。
項1.
食品発酵物に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の検出方法であって、
食品発酵物と、
MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を含有するヒスタミン生成乳酸菌検出培地と、を接触させて、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌を培養する工程、並びに、
前記ヒスタミン生成乳酸菌を染色させる工程を備える、ヒスタミン生成乳酸菌の検出方法。
項2.
前記pH指示薬の変色範囲が、pH4以上5未満の範囲である、項1に記載のヒスタミン生成乳酸菌の検出方法。
項3.
前記pH指示薬が、ブロモクレゾールグリーン、2,6-ジニトロフェノール、2,4-ジニトロフェノール、メチルイエロー、エチルオレンジ、ブロモフェノールブルー、コンゴーレッド、メチルオレンジ、ナフチルレッド塩酸塩、アリザリンレッドS、2,5-ジニトロフェノール、メチルレッド、ラクモイド、エチルレッド、p-ニトロフェノール、クロロフェノールレッド、又は、o-ニトロフェノールである、項1又は2に記載のヒスタミン生成乳酸菌の検出方法。
項4.
前記pH指示薬が、ブロモクレゾールグリーンである、項1~3の何れか一項に記載のヒスタミン生成乳酸菌の検出方法。
項5.
前記食品発酵物が、火入れする前の醤油、醤油諸味、又は、それらの培養液である、項1~4の何れか一項に記載のヒスタミン生成乳酸菌の検出方法。
項6.
前記ヒスタミン生成乳酸菌検出培地が、さらに、雑菌生育抑制剤を含む、項1~5の何れか一項に記載のヒスタミン生成乳酸菌の検出方法。
項7.
前記食品発酵物中に、ヒスタミン生成乳酸菌及びヒスタミン非生成乳酸菌が混在しても、菌体が染色される、項1~6の何れか一項に記載のヒスタミン生成乳酸菌の検出方法。
項8.
食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の検出用培地であって、
MRS寒天培地と、
L-ヒスチジンと、
pH指示薬とを含む、ヒスタミン生成乳酸菌の検出用培地。
項9.
前記pH指示薬が、pH4以上5未満の変色範囲である、項8に記載のヒスタミン生成乳酸菌の検出用培地。
項10.
食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を簡易に判別する方法であって、
(1)モデル乳酸菌を染色させた培地を準備する工程、
(2)食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を染色させた培地を準備する工程、及び、
(3)前記モデル乳酸菌を染色させた培地と、食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を染色させた培地とを比較し、前記染色されたモデル乳酸菌を基準に、食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を簡易に判別する工程を備え、
前記モデル乳酸菌は、ヒスタミン非生成乳酸菌及びヒスタミン生成乳酸菌の2種類を含み、
前記(1)モデル乳酸菌を染色させた培地を準備する工程は、
(1-1)前記2種類のモデル乳酸菌と、MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を含有するヒスタミン生成乳酸菌検出培地と、をそれぞれ接触させて、前記2種類のモデル乳酸菌を培養する工程、及び、
(1-2)前記2種類のモデル乳酸菌を染色させる工程を含み、
前記(2)食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を染色させた培地を準備する工程は、
(2-1)前記食品発酵物と、MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を含有するヒスタミン生成乳酸菌検出培地と、を接触させて、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌を培養する工程、及び、
(2-2)前記食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌を染色させる工程を含む、食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を簡易に判別する方法。
項11.
前記pH指示薬が、ブロモクレゾールグリーン、2,6-ジニトロフェノール、2,4-ジニトロフェノール、メチルイエロー、エチルオレンジ、ブロモフェノールブルー、コンゴーレッド、メチルオレンジ、ナフチルレッド塩酸塩、アリザリンレッドS、2,5-ジニトロフェノール、メチルレッド、ラクモイド、エチルレッド、p-ニトロフェノール、クロロフェノールレッド、又は、o-ニトロフェノールである、項8又は9に記載のヒスタミン生成乳酸菌の検出用培地。
項12.
前記pH指示薬が、ブロモクレゾールグリーンである、項8、9又は11に記載のヒスタミン生成乳酸菌の検出用培地。
項13.
前記食品発酵物が、火入れする前の醤油、醤油諸味、又は、それらの培養液である、項8、9、11又は12に記載のヒスタミン生成乳酸菌の検出用培地。
項14.
前記ヒスタミン検出培地が、さらに、雑菌生育抑制剤を含む、項8、9、11、12又は13に記載のヒスタミン生成乳酸菌の検出用培地。
項15.
前記食品発酵物中に、ヒスタミン生成乳酸菌及びヒスタミン非生成乳酸菌が混在しても、菌体が染色される、項8、9、11、12、13又は14に記載のヒスタミン生成乳酸菌の検出用培地。
項16.
モデル乳酸菌を基準に、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の有無を簡易に判別できる簡易判別培地であって、
MRS寒天培地と、
L-ヒスチジンと、
pH指示薬とを含む、簡易判別培地。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高価なHPLC等の装置を使用せずに、簡便に、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の有無を検出する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、pH指示薬(ブロモクレゾールグリーン、ブロモチモールブルー、又は、ブロモクレゾールパープル)を含むM17培地(M17培地1~3)、及び、pH指示薬(ブロモクレゾールグリーン、ブロモチモールブルー、又は、ブロモクレゾールパープル)を含むMRS培地(MRS培地1~3)の写真である。
図2図2は、モデル乳酸菌(ヒスタミン非生成乳酸菌及びヒスタミン生成乳酸菌)を画線し、培養した後の、参考例1(ブロモクレゾールグリーンを含むMRS培地1)、参考例2(ブロモクレゾールグリーンを含むM17培地1)、参考例3(ブロモチモールブルーを含むMRS培地2)、参考例4(ブロモチモールブルーを含むM17培地2)、参考例5(ブロモクレゾールパープルを含むMRS培地3)、及び、参考例6(ブロモクレゾールパープルを含むM17培地3)の写真である。
図3図3は、諸味A及び諸味Bを含む培養液を画線し、培養した後の、実施例1(ブロモクレゾールグリーンを含むMRS培地1)、及び、諸味A及び諸味Bを含む培養液を画線し、培養した後の、比較例1(ブロモクレゾールパープルを含むMRS培地3)の写真である。
図4図4は、モデル乳酸菌(ヒスタミン非生成乳酸菌及びヒスタミン生成乳酸菌)を画線し、培養した後の、参考例1(ブロモクレゾールグリーンを含むMRS培地1)、諸味A及び諸味Bを含む培養液を画線し、培養した後の、実施例1(ブロモクレゾールグリーンを含むMRS培地1)、モデル乳酸菌(ヒスタミン非生成乳酸菌及びヒスタミン生成乳酸菌)を画線し、培養した後の、参考例5(ブロモクレゾールパープルを含むMRS培地3)、及び、諸味A及び諸味Bを含む培養液を画線し、培養した後の、比較例1(ブロモクレゾールパープルを含むMRS培地3)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
食品発酵物に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の検出方法
本発明の食品発酵物に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の検出方法は、食品発酵物と、MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を含有するヒスタミン生成乳酸菌検出培地と、を接触させて、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌を培養する工程、並びに、前記ヒスタミン生成乳酸菌を染色させる工程を備えている。
【0014】
食品発酵物
食品発酵物とは、ヒスタミン生成乳酸菌の感染又は混入が疑われる食品の一部又はその抽出物であれば特に限定はなく、例えば、醤油諸味、醤油諸味の圧搾物(搾汁液)、味噌;それらの培養液等が挙げられる。それらの培養液とは、上記食品発酵物の培養液を意味している。培養液は、公知の方法で製造することができる。
【0015】
醤油(しょうゆ、しょう油とも呼ぶ。)は、例えば、農林水産省告示「しょうゆ品質表示基準」、「しょうゆの日本農林規格」等に記載されているようなものが挙げられる。具体的には、濃口醤油、淡口醤油、白醤油、溜醤油、再仕込醤油がある。その他にも生醤油、ダシ醤油、照り醤油、生揚げ醤油、速醸醤油、アミノ酸混合醤油、減塩醤油、低食塩醤油等が挙げられる。
醤油は、上記のとおりに挙げられたものの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせたものであり得る。
また、本発明における食品発酵物において、醤油には、醤油製造工程において得られたものも含み、例えば、醤油諸味、醤油諸味の圧搾物(搾汁液)、火入れする前の醤油等も含まれる。
醤油諸味の製造方法は、通常知られているとおりの醤油の製造方法のうち醤油諸味を得るまでの工程であれば特に限定されない。
醤油諸味は、仕込み後1か月~3か月経過したものが好ましい。また、醤油諸味は、酵母が増殖する前のものであることが好ましい。
なお、本発明でいう醤油には、上記のような大豆を原料に用いる醤油だけでなく、肉醤、魚醤、草醤、穀醤、豆板醤、甜麺醤、芝麻醤、炸醤、XO醤等が挙げられる。これらの醤油は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0016】
醤油の製造方法としては、特に限定はなく、例えば、醤油の本醸造方式の場合、加熱変性した大豆等のタンパク質原料及び加熱により、α化した小麦等のデンプン質原料の混合物に、麹菌を含む種麹を接種及び培養して製麹して醤油麹を得て、次いで得られた醤油麹を食塩水に仕込んで乳酸発酵及び熟成することにより醤油諸味を得て、次いで得られた醤油諸味を酵母発酵及び熟成することにより熟成諸味を得て、次いで得られた熟成諸味を圧搾処理又はろ過処理に供することにより生醤油を得て、次いで得られた生醤油を火入れすること等によって製造される。
【0017】
醤油を製造する際に用いるタンク(容器)としては、特に限定はないが、例えば、FRP(Fiber Reinforced Plastics;繊維強化プラスチック)タンク、金属タンク、木桶等が用いられている。
FRPタンク及び金属タンクの多くは、冷却及び加温設備を備えているため、20日間10~15℃程度の低温を維持した後、昇温を開始する諸味品温の上昇に伴い乳酸発酵が開始され、諸味pHが下がっていく。通常1ケ月後を超えたあたりに諸味pH5.1~5.3程度まで低下するので酵母を添加し、諸味品温を30℃で維持してアルコール発酵する。
これに対して、木桶の場合は、低温にすることはできないため、塩水を冷却して、諸味品温を15℃以下にしている蔵もあるが、仕込み後の温度維持のための冷却が困難であるため、諸味品温は気温に影響される。木桶では、十分な洗浄が困難なため、ヒスタミン生成乳酸菌等の雑菌が出る場合がある。なお、木桶以外でも、経路(配管)の洗浄不足で、ヒスタミン生成乳酸菌が出る場合がある。
【0018】
醤油諸味を得る工程の一態様としては、例えば、蒸煮変性した大豆、炒熬割砕した麦等の混合物である醤油原料に種麹を接種し、20~40℃で、2~4日間程度で通風製麹して醤油麹を得て、次いで醤油麹を食塩濃度が20~30%(w/v)である食塩水に仕込み、さらに任意に醤油乳酸菌を加えたものを、15~35℃で適宜撹拌しながら90~365日間、乳酸発酵、酵母によるアルコール発酵及び熟成することにより醤油諸味を得る工程等が挙げられる。
【0019】
醤油原料は、特に限定されないが、例えば、丸大豆、脱脂加工大豆等の大豆、小麦、大麦、裸麦、はと麦等の麦、麦グルテン、米、トウモロコシ等が挙げられる。
【0020】
種麹は、通常醤油の製造の際に利用される麹菌であれば特に限定されないが、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(A.sojae)等が挙げられる。
醤油乳酸菌は、通常醤油の製造の際に利用される醤油乳酸菌であれば特に限定されないが、例えば、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)等の耐塩性乳酸菌等が挙げられる。
【0021】
醤油諸味を得る工程において、醤油原料のうち、小麦、米等のデンプン質原料の量が少ないと、還元糖の含有量が少なくなり、酵母によるアルコール発酵を適切に実施し得る醤油諸味を得ることができない可能性がある。そこで、醤油原料のうち、小麦、米等のデンプン質原料の量は、還元糖の含有量が多い醤油諸味を得ることができる程度の量であることが好ましい。ただし、醤油諸味に還元糖成分、例えば、グルコース、フルクトース、マルトース等を添加することにより還元糖の含有量が多い醤油諸味を得る場合は、この限りではない。
【0022】
醤油諸味液汁を得る工程では、大豆、小麦等の醤油原料由来の不溶性固形分を含む醤油諸味(アルコール発酵物)から不溶性固形分を除いて醤油諸味の液汁を得る。醤油諸味から不溶性固形分を除いて醤油諸味液汁を得る方法は特に限定されないが、例えば、通常知られている固液分離方法等が挙げられ、具体的には、醤油の製造方法で通常使用される圧搾処理、ろ過処理等が挙げられ、より具体的には、ろ布を用いたプレス機を用いた圧搾ろ過処理;UF膜、MF膜等の各種透過膜を用いた膜ろ過処理等が挙げられる。
【0023】
酵母によるアルコール発酵を実施する工程は、乳酸発酵後の醤油諸味について、通常知られているとおりの醤油を製造する際に使用する醤油酵母を用いて、醤油酵母の種類、菌数等に応じた条件によって常法の酵母によるアルコール発酵を実施する。醤油酵母は、通常醤油の製造の際に用いられる酵母であれば特に限定されないが、例えば、ジゴサッカロミセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、ジゴサッカロミセス・バイリー(Z.bailli)、カンディダ・エトケルシー(Candida etchellsii)、カンディダ・ヴェルスティリス(C.versatilis)等の耐塩性酵母等が挙げられる。
【0024】
味噌は、特に限定はなく、例えば、赤味噌、白味噌、仙台味噌、八丁味噌、麦味噌、米味噌等が挙げられる。これらの味噌は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
味噌の一般的な製造方法は、米、麦等の穀類又は豆類を蒸煮したものに麹菌を添加して培養し、米麹、麦麹、豆麹といった各種麹を得る製麹工程;米、麦等の穀類又は豆類を蒸煮したもの、前記製麹工程で得られた各種麹、塩、水、その他任意の材料を所望の割合で混合して麹混合材料を得る仕込み工程;及び、前記麹混合材料を発酵熟成させて醸造物を得る発酵熟成工程からなる。
【0025】
本発明において用いる、食品発酵物の製造方法は、以上説明したとおりであるが、前記各工程において明示していない条件については、従来公知の条件を用いればよく、前記各工程での処理によって得られる効果を奏する限りにおいて、その条件を適宜変更できることはいうまでもない。
【0026】
本発明の食品発酵物に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の検出方法は、食品発酵物と、MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を含有するヒスタミン生成乳酸菌検出培地と、を接触させて、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌を培養する工程を含む。
前記食品発酵物は、火入れする前の醤油、醤油諸味、又は、それらの培養液であることが好ましい。
接触とは、前記食品発酵物とヒスタミン生成乳酸菌検出培地とが接触すれば、特に限定はなく、例えば、前記食品発酵物をヒスタミン生成乳酸菌検出培地に画線する方法等が挙げられる。
食品発酵物を寒天培地へ接触させる(画線する)際に使用する量としては、特に限定はなく、例えば、寒天100質量部に対して、通常0.01~20質量部であり、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは1~5質量部である。また、液体培地へ接触させる際に使用する量としては、特に限定はなく、例えば、グルコース100質量部に対して、通常0.1~1000質量部であり、好ましくは1~500質量部であり、より好ましくは10~250質量部である。
【0027】
前記培養工程において、培養条件は、食品発酵物中に含まれる乳酸菌又はモデル乳酸菌が培養可能なものであればよく、特に限定されるものではない。
例えば、培養温度は、乳酸菌の種類によって異なるが、0~40℃であることが好ましく、10~35℃であることがより好ましく、25~30℃であることがさらに好ましい。培養湿度は、特に限定はない。
培養期間は、例えば、使用する菌株によっても異なるが、例えば、1~7日間とすることができる。
培養容器内外の気圧及び気相の組成は、例えば、通常の空気とすることができる。また、培養は、乳酸菌の種類に応じて、嫌気的条件下、又は、好気的条件下のいずれにおいても行うことができる。
また、培養工程におけるpHとしては、3~8であることが好ましく、4~7であることがより好ましく、5~6であることがさらに好ましい。
【0028】
ヒスタミン生成乳酸菌検出培地
ヒスタミン生成乳酸菌検出培地は、MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を含有している。
【0029】
寒天培地
寒天培地としては、例えば、MRS寒天培地、M17寒天培地、BCP寒天培地等が挙げられる。
MRS寒天培地(de Man、Rogosa、Sharpe)は、すべての乳酸菌の発育を促す選択性の低い培地である。この培地は、中温性乳酸菌の菌数を測定する目的で使用される。
M17寒天培地は、主に、乳製品中のラクトコッカス属(乳酸連鎖球菌)の増殖及び菌数測定に使用される培地である。
BCP寒天培地(BCP加プレートカウント寒天培地ともいう。)は、食品衛生法に基づく「乳及び乳製品の成分規格に関する省令」で定められた公定培地である。この培地は、一般に、発酵乳又は乳酸菌飲料中の乳酸菌数を測定するために使用される。
乳酸菌の寒天培地を製造する際に用いる培地としては、例えば、MRS粉末、M17粉末、BCP粉末等が挙げられる。
本発明で用いる寒天培地は、MRS寒天培地である。
【0030】
L-ヒスチジン
L-ヒスチジンは、アミノ酸の一種で、2-アミノ-3-(1H-イミダゾール-4-イル)プロピオン酸と呼ばれる。略号は、His又はHである。ヒスチジンは、必須アミノ酸に分類され、体内で合成されないため、食事から摂取する必要がある。ヒスチジンは、青魚に多く含まれており、青魚が死んでから時間が経つと魚肉中の酵素によってヒスタミンに変化することがある。このため、スコンブロイド食中毒(ヒスタミン食中毒)の原因になることがある。
L-ヒスチジンの配合量としては、特に限定はなく、例えば、寒天100質量部に対して、通常0.01~500質量部であり、好ましくは1~300質量部であり、より好ましくは50~100質量部である。
【0031】
pH指示薬
本発明において用いるpH指示薬は、pH指示薬の変色範囲が、pH4以上5未満の範囲で重複してあれば、その種類としては特に限定はない。(参考資料:フジフィルム和光純薬株式会社のホームぺージ,[online]、[令和6年7月10日検索]、インターネット<URL:https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/question/013389.html>)
そのようなpH指示薬としては、例えば、
ブロモクレゾールグリーン(変色範囲:(黄)pH3.8~5.4(青))、
2,6-ジニトロフェノール(変色範囲:(微黄)pH2.4~4.0(黄))、
2,4-ジニトロフェノール(変色範囲:(ごく薄い黄)pH2.6~4.0(黄))、
メチルイエロー(変色範囲:(薄い赤みの赤)pH2.9~4.0(薄い赤みの黄))、
エチルオレンジ(変色範囲:(薄い紅)pH3.0~4.5(薄い橙))、
ブロモフェノールブルー(変色範囲:(黄色)pH3.0~5.0(青紫))、
コンゴーレッド(変色範囲:(紫)pH3.0~5.0(暗い赤みの橙))、
メチルオレンジ(変色範囲:(黄みの赤)pH3.1~4.4(赤みの黄))、
ナフチルレッド塩酸塩(変色範囲:(赤)pH3.7~5.0(黄橙))、
アリザリンレッドS(変色範囲:(黄)pH3.7~5.2(黄みの赤))、
2,5-ジニトロフェノール(変色範囲:(ごく薄い黄)pH4.0~5.8(黄))、
メチルレッド(変色範囲:(紫みの赤)pH4.2~6.2(黄))、
ラクモイド(変色範囲:(赤)pH4.4~6.6(青))、
エチルレッド(変色範囲:(紅)pH4.5~6.5(橙))、
p-ニトロフェノール(変色範囲:(ごく薄い黄)pH4.8~7.6(黄))、
クロロフェノールレッド(変色範囲:(赤みの黄)pH5.0~6.6(赤紫))、
o-ニトロフェノール(変色範囲:(わずかに薄い黄)pH5.0~7.0(青))
等が挙げられる。
前記pH指示薬は、ブロモクレゾールグリーンであることが好ましい。
【0032】
pH指示薬の配合量としては、特に限定はなく、例えば、寒天100質量部に対して、通常0.0001~1質量部であり、好ましくは0.001~0.1質量部であり、より好ましくは0.01~0.05質量部である。
【0033】
本発明において、ヒスタミン生成乳酸菌を染色させる工程とは、前記pH指示薬が、ヒスタミン検出培地に含まれていることから、食品発酵物をヒスタミン検出培地に接触させて培養することにより、食品発酵物に含まれるヒスタミン生成乳酸菌(菌体自体)が染色される。また、ヒスタミンが生成した場合、又は、乳酸が生成した場合、それぞれ培地も生成物のpHに応じて染色されることもある。ここで、ヒスタミン生成乳酸菌は、ヒスタミン生成乳酸菌体と言い換えることもできる。菌体とは、菌そのものの全体を意味している。
本発明のヒスタミン生成乳酸菌の検出方法を用いれば、前記食品発酵物中に、ヒスタミン生成乳酸菌及びヒスタミン非生成乳酸菌が混在していても、菌体を染色させることができる。
【0034】
MRS寒天培地は、水酸化ナトリウム、塩酸等のpH調整剤によって、pHを調整することができる。
pH調整剤の配合量としては、特に限定はなく、例えば、寒天100質量部に対して、通常0.1~600質量部であり、好ましくは0.5~300質量部であり、より好ましくは1~100質量部である。
【0035】
前記ヒスタミン生成乳酸菌検出培地は、さらに、雑菌生育抑制剤を含むことが好ましい。
前記雑菌生育抑制剤としては、特に限定はなく、例えば、有機酸の無機金属塩、抗真菌剤、抗細菌剤、亜テルル酸塩、アジ化物、胆汁塩、塩化ナトリウム等が挙げられる。
有機酸の無機金属塩としては、例えば、酢酸ナトリウム等の酢酸の無機金属塩、プロピオン酸の無機金属塩、クエン酸アンモニウム等のクエン酸の無機金属塩等が挙げられる。有機酸の無機金属塩としては、一種のみを用いてもよいし、複数種を用いてもよい。
抗真菌剤としては、例えば、グルタルイミド系、ポリエンマクロライド系、ピリミジン誘導体、イミダゾール系、トリアゾール系、キャンディン系、アリルアミン系、チオカルバメート系、ベンジルアミン系、モルホミン系等が挙げられる。
具体的には、例えば、グルタルイミド系としては、シクロヘキシミド等;ポリエンマクロライド系としては、アンフォテリシンB、ナイスタチン等;ピリミジン誘導体としては、フルシトシン等;イミダゾール系としては、ミコナゾール、ケトコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、イソコナゾール、スルコナゾール、オキシコナゾール、クロコナゾール、ビホナゾール、ネチコナゾール、ラノコナゾール等;トリアゾール系としては、フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール等;キャンディン系としては、ミカファンギン等;アリルアミン系としては、塩酸テルビナフィン等;チオカルバメート系としては、リラナフタート等;ベンジルアミン系としては、ブテナフィン、アモロルフィン等;モルホミン系としては、グリセオフルビン等が挙げられる。中でも、好ましい抗真菌剤としては、グルタルイミド系、イミダゾール系、及び、トリアゾール系であり、より好ましくは、シクロヘキシミド、ミコナゾール、ケトコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、イソコナゾール、スルコナゾール、オキシコナゾール、クロコナゾール、ビホナゾール、ネチコナゾール、ラノコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、及び、ボリコナゾールである。
抗細菌剤としては、例えば、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、カナマイシン、アンピシリン等が挙げられる。
アジ化物としては、例えば、アジ化ナトリウム、アジ化リチウム、アジ化カリウム、アジ化ルビジウム、アジ化セシウム、アジ化フランシウム等のアルカリ金属塩;アジ化カルシウム、アジ化バリウム等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
亜テルル酸塩としては、例えば、亜テルル酸カリウム(KHTeO)、亜テルル酸ナトリウム(NaHTeO)等が挙げられる。
有機酸の無機金属塩、抗真菌剤、抗細菌剤、亜テルル酸塩、アジ化物、又は、胆汁塩の配合量としては、特に限定はなく、例えば、寒天100質量部に対して、通常0.0001~50質量部であり、好ましくは0.01~25質量部であり、より好ましくは0.05~10質量部である。
また、塩化ナトリウムの配合量としては、例えば、寒天100質量部に対して、通常0.01~2000質量部であり、好ましくは1~1500質量部であり、より好ましくは10~700質量部である。
【0036】
抗真菌剤又は抗細菌剤は、粉末の場合、そのまま使用することができ、又は、水又は水溶性媒体に溶解又は分散させてから使用することもできる。水又は水溶性媒体に溶解又は分散させることにより、抗真菌剤、又は、抗細菌剤を細胞に対して効果的に作用させることができる。抗真菌剤又は抗細菌剤を溶解又は分散させるための水としては、例えば、水道水、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。また、水溶性媒体としては、例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0037】
その他にも、MRS寒天培地に用いる任意の添加剤をさらに配合することができる。添加剤としては、例えば、糖等の栄養分が挙げられる。
添加剤の配合量としては、特に限定はなく、例えば、寒天100質量部に対して、通常0.1~1500質量部であり、好ましくは0.5~1000質量部であり、より好ましくは1~200質量部である。
【0038】
本発明のヒスタミン生成乳酸菌検出培地は、食品(食品発酵物)内の菌密度が極めて低い場合であっても、培養することによって菌密度を高めることができ、菌の存在を確実に検出することが可能である。
また、本発明の食品発酵物に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の検出方法であれば、ヒスタミン生成乳酸菌の感染のリスクとなる、増殖する能力のある生きたヒスタミン生成乳酸菌のみを検出することができる。すなわち、本発明の食品発酵物に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の検出方法であれば、食品内に残っている、増殖能力のない死滅した細菌を検出してしまうことを回避できる。
【0039】
ヒスタミン生成乳酸菌の検出培地の作製方法
本発明のヒスタミン生成乳酸菌検出培地は、上述したとおり、MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を混合することにより製造することができる。また、本発明のヒスタミン生成乳酸菌検出培地には、上記雑菌生育抑制剤、及び、任意の添加剤を混合することができる。
ヒスタミン生成乳酸菌検出培地は、滅菌された形態であることが好ましい。滅菌方法には、特に限定なく、公知の方法を用いることができる。本発明のヒスタミン生成乳酸菌検出培地は、滅菌後、シャーレ、試験管、チューブ、マイクロタイタープレート等の菌を培養可能な容器に収容された形態であってもよい。
【0040】
本発明のヒスタミン生成乳酸菌検出培地は、従来公知の方法に従い、作製することができる。例えば、雑菌生育抑制剤以外の培地成分を水に溶解し、滅菌処理を行い、雑菌生育抑制剤を添加した後、菌を培養するための容器に分注することにより作製することができる。培地成分を溶解する際に使用する水としては、例えば、水道水、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。
また、本発明の食品発酵物に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の存在を検出する方法には、ヒスタミン生成乳酸菌検出培地上で食品発酵物を培養する方法、ヒスタミン生成乳酸菌検出培地上におけるヒスタミン生成乳酸菌の存在を検出する方法等が含まれている。
【0041】
ヒスタミン生成乳酸菌の検出培地で食品発酵物を培養する方法
前記ヒスタミン生成乳酸菌検出培地上で食品発酵物を培養する方法は、食品発酵物(試料)を培地上に接種した後、例えば、15~35℃で、2日以上、例えば、1週間以上培養することができる。
【0042】
ヒスタミン生成乳酸菌検出培地上におけるヒスタミン生成乳酸菌の存在を検出する方法
前記ヒスタミン生成乳酸菌検出培地上におけるヒスタミン生成乳酸菌の存在を検出する方法は、ヒスタミン生成乳酸菌検出培地上にヒスタミン生成乳酸菌が存在するか否かを検出する。ヒスタミン生成乳酸菌の存在は、例えば、目視、電子顕微鏡観察等を用いて検出することができる。
【0043】
キット
本発明は、ヒスタミン生成乳酸菌を検出するためのキットを提供できる。本発明のキットは、上述したヒスタミン生成乳酸菌検出培地、つまり、ヒスタミン生成乳酸菌を培養するための培地を含んでいる。また、本発明のキットは、取扱説明書をさらに含んでもよい。
本発明のキットは、ヒスタミン生成乳酸菌の有無について簡便かつ迅速な検査を可能とする。
【0044】
モデル乳酸菌の寒天培地
本発明で用いる、モデル乳酸菌の寒天培地(モデル乳酸菌検出培地ともいう。)は、MRS寒天培地と、L-ヒスチジンと、pH指示薬とを含んでいる。
【0045】
モデル乳酸菌
<ヒスタミン非生産乳酸菌>
ヒスタミンを生産しない乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)は、香川県発酵食品研究所より頒布されている株を使用した。
【0046】
<ヒスタミン生産乳酸菌>
ヒスタミンを生産する乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)は、盛田株式会社小豆島工場の分譲株を使用した。
【0047】
モデル乳酸菌を培地へ画線する際に使用する量としては、特に限定はなく、例えば、寒天100質量部に対して、通常、0.1~20質量部であり、好ましくは0.5~10質量部であり、より好ましくは1~5質量部である。
【0048】
MRS液体培地を固体培地とする場合、固形化剤を使用して培地を固体にすればよい。固形化剤としては、特に限定はなく、例えば、寒天、ゲランガム、アガロース、ゲルライト、ゼラチン、シリカゲル等が挙げられる。
【0049】
固体培地の場合、培地中の固形化剤の濃度は、グルコース100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは80質量部以上である。前記固形化剤の濃度は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。
【0050】
食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌簡易判別培地
簡易判別培地は、モデル乳酸菌を基準に、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の有無を簡易に判別できる簡易判別培地である。この簡易判別培地は、MRS寒天培地と、L-ヒスチジンと、pH指示薬とを含んでいる。ここに記載する簡易判別培地は、上述したヒスタミン生成乳酸菌検出培地に記載したものと同様に、他の成分を配合することができる。
【0051】
食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌判別方法
食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌判別方法は、モデル乳酸菌を基準に、食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を簡易に判別する方法である。
食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を簡易に判別する方法は、
(1)モデル乳酸菌を染色させた培地を準備する工程、
(2)食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を染色させた培地を準備する工程、及び、
(3)前記モデル乳酸菌を染色させた培地と、食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を染色させた培地とを比較し、前記染色されたモデル乳酸菌を基準に、食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を簡易に判別する工程を備えている。
前記モデル乳酸菌は、ヒスタミン非生成乳酸菌及びヒスタミン生成乳酸菌の2種類である。
前記(1)モデル乳酸菌を染色させた培地を準備する工程は、
(1-1)前記2種類のモデル乳酸菌と、MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を含有するヒスタミン生成乳酸菌検出培地と、をそれぞれ接触させて、前記2種類のモデル乳酸菌を培養する工程、及び、
(1-2)前記前記2種類のモデル乳酸菌を染色させる工程を含んでいる。
前記(2)食品発酵物中のヒスタミン生産乳酸菌を染色させた培地を準備する工程は、
(2-1)前記食品発酵物と、MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を含有するヒスタミン生成乳酸菌検出培地と、を接触させて、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌を培養する工程、及び、
(2-2)前記食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌を染色させる工程を含んでいる。
【実施例
【0052】
以下、本発明の検出方法を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、以下において、単に「部」とあるのは「質量部」を意味する。
[培地の調製]
下記に示す、各培地成分を天秤にて秤量した。各培地成分を、目的とする培地量の5割程度の水の入ったビーカーに入れて、スターラーを用いて溶解した。なお、pHの調整が必要であれば、各成分を溶解した時点で行った。溶解した培地成分の混合溶液に、さらに水を加え、メスシリンダーを用いて計量し、最終体積に調節した(今回の場合は100mL)。調製した培地を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。その後、シクロヘキシミド及びpH指示薬を、70℃以下、クリーンベンチ内でマイクロピペットを使用して規定量添加し、その混合物を撹拌した。その後、混合物を滅菌済みシャーレに分注した。
なお、シクロヘキシミドはpH7.0以上で分解するため、シクロヘキシミドの分解を防ぐために培地のpHを7.0未満に調整した。
また、液体培地の場合は、寒天を除いた培地成分を、上記と同様に調製し、コーニングチューブ等の蓋付容器、又は、シリコ栓等の蓋付チューブに入れ、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。その後、シクロヘキシミドは、寒天培地作成時と同様の手順で添加した。
事前に、アジ化ナトリウム及びブロモクレゾールグリーンは、それぞれ使用濃度の100~1000倍の濃度の水溶液を調製しておき、それを使用した。
また、シクロヘキシミド及びブロモクレゾールパープルは、それぞれ使用濃度の100~1000倍の濃度の95%エタノール溶液を調製しておき、それを使用した。
【0053】
[培地]
MRS寒天培地1:ヒスチジン-ブロモクレゾールグリーン-MRS寒天培地
上記培地の調製に示したとおり、下記の培地成分を、下記の量加えて、ヒスチジン-ブロモクレゾールグリーン-MRS寒天培地(100mL)(MRS寒天培地1)を得た。
(培地成分)
・MRS粉末(メルク社製。以下同じ。):5.22g
・L-ヒスチジン:1g
・NaCl:10g
・アジ化ナトリウム:最終濃度10ppm
・シクロヘキシミド:最終濃度10ppm
・ブロモクレゾールグリーン(特級 富士フィルム和光純薬株式会社製。以下同じ。):最終濃度0.003%
・寒天((細菌培地用、富士フィルム和光純薬株式会社。以下同じ。):1.5g
【0054】
M17寒天培地1:ヒスチジン-ブロモクレゾールグリーン-M17寒天培地
上記培地の調製に示したとおり、下記の培地成分を、下記の量加えて、ヒスチジン-ブロモクレゾールグリーン-M17寒天培地(100mL)(M17寒天培地1)を得た。
(培地成分)
・M17粉末:5.22g
・NaCl:10g
・L-ヒスチジン:1g
・D-グルコース:2g
・アジ化ナトリウム:最終濃度10ppm
・シクロヘキシミド:最終濃度10ppm
・ブロモクレゾールグリーン:最終濃度0.003%
・寒天:1.5g
【0055】
MRS寒天培地2:ヒスチジン-ブロモチモールブルー-MRS寒天培地
上記培地の調製に示したとおり、下記の培地成分を、下記の量加えて、ヒスチジン-ブロモチモールブルー-MRS寒天培地(100mL)(MRS寒天培地2)を得た。
(培地成分)
・MRS粉末:5.22g
・NaCl:10g
・L-ヒスチジン:1g
・アジ化ナトリウム:最終濃度10ppm
・シクロヘキシミド:最終濃度10ppm
・ブロモチモールブルー(B.T.B.、富士フィルム和光純薬株式会社製):最終濃度0.004%
・寒天:1.5g
【0056】
M17寒天培地2:ヒスチジン-ブロモチモールブルー-M17寒天培地
上記培地の調製に示したとおり、下記の培地成分を、下記の量加えて、ヒスチジン-ブロモチモールブルー-M17寒天培地(100mL)(M17寒天培地2)を得た。
(培地成分)
・M17粉末:5.22g
・NaCl:10g
・L-ヒスチジン:1g
・D-グルコース:2g
・アジ化ナトリウム:最終濃度10ppm
・シクロヘキシミド:最終濃度10ppm
・ブロモチモールブルー(B.T.B.、富士フィルム和光純薬株式会社製):最終濃度0.004%
・寒天:1.5g
【0057】
MRS寒天培地3:ヒスチジン-ブロモクレゾールパープル-MRS寒天培地
上記培地の調製に示したとおり、下記の培地成分を、下記の量加えて、ヒスチジン-ブロモクレゾールパープル-MRS寒天培地(100mL)(MRS寒天培地3)を得た。
(培地成分)
・MRS粉末:5.22g
・NaCl:10g
・L-ヒスチジン:1g
・アジ化ナトリウム:最終濃度10ppm
・シクロヘキシミド:最終濃度10ppm
・ブロモクレゾールパープル(特級 関東化学株式会社製。以下同じ。):最終濃度0.004%
・寒天:1.5g
【0058】
M17寒天培地3:ヒスチジン-ブロモクレゾールパープル-M17寒天培地
上記培地の調製に示したとおり、下記の培地成分を、下記の量加えて、ヒスチジン-ブロモクレゾールパープル-M17寒天培地(100mL)(M17寒天培地3)を得た。
(培地成分)
・M17粉末:5.22g
・NaCl:10g
・L-ヒスチジン:1g
・D-グルコース:2g
・アジ化ナトリウム:最終濃度10ppm
・シクロヘキシミド:最終濃度10ppm
・ブロモクレゾールパープル:最終濃度0.004%
・寒天:1.5g
得られた上記6種の培地の写真を、図1に示す。
【0059】
[使用菌株]
ヒスタミンを非生産乳酸菌
ヒスタミンを生産しない乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)は、香川県発酵食品研究所より頒布されている株の培養液を使用した。
ヒスタミンを生産乳酸菌
ヒスタミンを生産する乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)は、盛田株式会社小豆島工場の分譲株の培養液を使用した。
【0060】
<参考例1(モデル乳酸菌の識別実験)>
(1)図2の左下に示すとおり、上記MRS寒天培地1(ヒスチジン-ブロモクレゾールグリーン-MRS寒天培地)の上半分に、ヒスタミン非生産乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を画線し、下半分に、ヒスタミン生産乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を、それぞれ画線した。その後、4日間アネロパック(登録商標、以下省略する。)・ケンキ(三菱ガス化学株式会社製)を入れたアネロパック角形ジャー内において30℃で培養した。なお、図2の左下の写真は、培養後のMRS寒天培地1の写真である。
(2)培地中のpH指示薬と、ヒスタミン及び乳酸が反応することで変化する培地色と菌体の色でヒスタミンの生成の有無を識別した。なお、ヒスタミンはアルカリ性を示す。乳酸は酸性を示す。
(3)pH指示薬がアルカリ性を示すことが認められればヒスタミンを生成している。pH指示薬が酸性を示すことが認められれば乳酸を生成している。
【0061】
[結果]
その結果、参考例1で用いるMRS寒天培地1(ヒスチジン-ブロモクレゾールグリーン-MRS寒天培地)において、ヒスタミン生産乳酸菌は、ヒスタミンにより培地がアルカリ性になっているので色の変化はなく、菌体自身もアルカリ性のpH域の色に染色されていた。
一方、ヒスタミン非生産乳酸菌は、乳酸により培地が酸性のpH域の色に染色されており、菌体自身は染色されにくい。
したがって、この性質を利用することで、醤油諸味中のヒスタミン生成乳酸菌の識別が可能であった。詳細は、下記表1に記載する。
【0062】
<参考例2(モデル乳酸菌の識別実験)>
培地を、M17寒天培地1(ヒスチジン-ブロモクレゾールグリーン-M17寒天培地)に代えた以外は、参考例1と同様に、モデル乳酸菌の識別実験を行った。培養後のM17寒天培地1の写真を、図2の左上に示す。
【0063】
[結果]
その結果、参考例2で用いるM17寒天培地1(ヒスチジン-ブロモクレゾールグリーン-M17寒天培地)において、ヒスタミン生産乳酸菌及びヒスタミン非生産乳酸菌のいずれも、培地の色の変化はなく、菌体自身もアルカリ性のpH域の色に染色されており、醤油諸味中のヒスタミン生成乳酸菌の識別はできなかった。詳細は、下記表1に記載する。
【0064】
<参考例3(モデル乳酸菌の識別実験)>
培地を、MRS寒天培地2(ヒスチジン-ブロモチモールブルー-MRS寒天培地)に代えた以外は、参考例1と同様に、モデル乳酸菌の識別実験を行った。培養後のMRS寒天培地2の写真を、図2の中央下に示す。
【0065】
[結果]
その結果、参考例3で用いるMRS寒天培地2(ヒスチジン-ブロモチモールブルー-MRS寒天培地)において、ヒスタミン生産乳酸菌及びヒスタミン非生産乳酸菌のいずれも、培地の色の変化はなく、菌体自身もアルカリ性のpH域の色に染色されており、醤油諸味中のヒスタミン生成乳酸菌の識別はできなかった。詳細は、下記表1に記載する。
【0066】
<参考例4(モデル乳酸菌の識別実験)>
培地を、M17寒天培地2(ヒスチジン-ブロモチモールブルー-M17寒天培地)に代えた以外は、参考例1と同様に、モデル乳酸菌の識別実験を行った。培養後のM17寒天培地2の写真を、図2の中央上に示す。
【0067】
[結果]
その結果、参考例4で用いるM17寒天培地2(ヒスチジン-ブロモチモールブルー-M17寒天培地)において、ヒスタミン生産乳酸菌及びヒスタミン非生産乳酸菌のいずれも、培地の色の変化はなく、菌体自身もアルカリ性のpH域の色に染色されており、醤油諸味中のヒスタミン生成乳酸菌の識別はできなかった。詳細は、下記表1に記載する。
【0068】
<参考例5(モデル乳酸菌の識別実験)>
培地を、MRS寒天培地3(ヒスチジン-クレゾールパープル-MRS寒天培地)に代えた以外は、参考例1と同様に、モデル乳酸菌の識別実験を行った。培養後のMRS寒天培地3の写真を、図2の右下に示す。
【0069】
[結果]
その結果、参考例5で用いるMRS寒天培地3(ヒスチジン-クレゾールパープル-MRS寒天培地)において、ヒスタミン生産乳酸菌及びヒスタミン非生産乳酸菌のいずれも、ヒスタミン生成の有無による、菌体の色の違いがはっきり見えた。また、ヒスタミン生成の有無が、培地の色の違いでしっかり判別できた。詳細は、下記表1に記載する。
【0070】
<参考例6(モデル乳酸菌の識別実験)>
培地を、M17寒天培地3(ヒスチジン-クレゾールパープル-M17寒天培地)に代えた以外は、参考例1と同様に、モデル乳酸菌の識別実験を行った。培養後のM17寒天培地3の写真を、図2の右上に示す。
【0071】
[結果]
その結果、参考例6で用いるM17寒天培地3(ヒスチジン-クレゾールパープル-M17寒天培地)において、ヒスタミン生産乳酸菌及びヒスタミン非生産乳酸菌のいずれも、培地の色の変化はなく、菌体自身もアルカリ性のpH域の色に染色されており、醤油諸味中のヒスタミン生成乳酸菌の識別はできなかった。詳細は、下記表1に記載する。
【0072】
下記の菌体の識別性及び培地の染色性について、上記参考例1~6を評価した。その結果を下記表1に記載する。
【0073】
[評価]
菌体の識別性
菌体(モデル乳酸菌)自体の識別性(見え方)を下記の5段階評価で評価した。
<5段階評価>
5:ヒスタミン生成の有無による、菌体の色の違いがはっきり見える
4:ヒスタミン生成の有無による、菌体の色の違いが見える
3:ヒスタミン生成の有無による、菌体の色の違いがやや見える
2:ヒスタミン生成の有無による、菌体の色の違いが見えにくい
1:ヒスタミン生成の有無による、菌体の色の違いが見えない
【0074】
培地の染色性
培地の染色性(見え方)を下記の5段階評価で評価した。
<5段階評価>
5:ヒスタミン生成の有無が、培地の色の違いでしっかり判別できる
4:ヒスタミン生成の有無が、培地の色の違いで判別できる
3:ヒスタミン生成の有無が、培地の色の違いでやや判別できる
2:ヒスタミン生成の有無が、培地の色の違いで判別しにくい
1:ヒスタミン生成の有無が、培地の色の違いで判別できない
【0075】
[総合評価]
菌体(モデル乳酸菌:ヒスタミン生産乳酸菌及びヒスタミン非生産乳酸菌)の識別性のそれぞれの点数と、培地の染色性の点数を合計して、総合評価とした。合計点が10点以上を合格点とした。
【0076】
【表1】
【0077】
<実施例1(醤油諸味を用いる実験)>
(I)[醤油諸味の準備]
醤油諸味からのヒスタミン生成乳酸菌検出手順
(1)仕込み後3か月経過した醤油諸味(諸味A)と、仕込み後6か月経過した醤油諸味(諸味B)を、生揚液体培地に対して、1~10%(W/V)量を添加し、30℃で4日間静置培養を行った。
同時に、L-ヒスチジンを含む生揚液体培地にも同様に諸味を添加し、ヒスタミンの生成をキッコーマン社のチェックカラーヒスタミンで確認した。
(2)上記培養物を上記MRS寒天培地1(ヒスチジン-ブロモクレゾールグリーン-MRS寒天培地)に画線した。その後、4日間アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学株式会社製)を入れたアネロパック角形ジャー内、又は、アネロパウチ(登録商標)・ケンキ(三菱ガス化学株式会社製)をいれた密閉できるパウチを用い培養した。
(3)培地中のpH指示薬と、ヒスタミン及び乳酸と、が反応することで変化する培地色と菌体の色でヒスタミンの生成の有無を識別した。
(4)pH指示薬がアルカリ性を示すことが認められればヒスタミンを生成している。pH指示薬が酸性を示すことが認められれば乳酸を生成している。
【0078】
<結果>
ヒスタミンの生成をキッコーマン社のチェックカラーヒスタミンで測定した結果、仕込み後3か月経過した醤油諸味(諸味A)では、ヒスタミンの濃度が370ppmであった。また、仕込み後6か月経過した醤油諸味(諸味B)では、ヒスタミンの濃度が1311ppm検出された。
【0079】
(II)[ヒスチジン生揚液体培地(100mL)の準備]
上記培地の調製に示したとおり、下記の成分を、下記の量加えて、溶解しヒスチジン生揚液体培地(100mL)(試料1)を得た。
・生揚げ醤油(T.N.(全窒素量):1.7、NaCl:17.1%、pH4.7):20mL(乳酸菌の栄養源)
・L-ヒスチジン(特級 富士フィルム和光純薬株式会社。以下同じ。):1g(足りないから入れる)
・NaCl(特級 林純薬工業株式会社製。以下同じ。):10g(耐塩性の菌のみにするため)
・D(+)-グルコース(特級 富士フィルム和光純薬株式会社。):2g(乳酸菌の栄養源)
・アジ化ナトリウム(特級 ナカライテスク株式会社。以下同じ。):最終濃度 10ppm(10ppm~500ppm)(好気性微生物の生育を抑制、抗菌剤)
・シクロヘキシミド(細胞生物学用、富士フィルム和光純薬株式会社。以下同じ。):最終濃度 10ppm(10ppm~500ppm)(抗菌剤、グルタルイミド系抗生物質)
【0080】
なお、生揚げ醤油は、T.N.:1.68~1.75、NaCl量:16.5~17.5%、pH:4.6~5.0の火入れ(加熱殺菌)していないものを使用した。
また、シクロヘキシミドは、培地をオートクレーブ滅菌(121℃、15分)して、培地の温度が70℃以下になった時点で培地に添加した。
【0081】
上記T.N.量(全窒素量)、NaCl量、及びpHの測定方法は下記のとおりである。
[T.N.(全窒素量)の測定方法]
T.N.量(全窒素量)は、スミグラフNC-220F(株式会社住化分析センター製)を用いて、燃焼法で測定した。
【0082】
[NaCl量の測定方法]
NaCl量(塩化ナトリウム量)は、電位差滴定装置(AT-700(京都電子株式会社製)を用いて測定した。
【0083】
寒天培地にする場合は、塩分濃度を終濃度10%に合わせる。10%以上になると寒天が固まりにくくなる。
【0084】
(III)醤油諸味を用いる実験
上記諸味A及び諸味Bを、上記ヒスチジン生揚液体培地でそれぞれ培養し、諸味Aを含む培養液1及び諸味Bを含む培養液2を得た。
培養液1を、MRS寒天培地1(ヒスチジン-ブロモクレゾールグリーン-MRS寒天培地)の上半分に、培養液2をMRS寒天培地1(ヒスチジン-ブロモクレゾールグリーン-MRS寒天培地)の下半分に、適量、それぞれ画線した。その後、それぞれ30℃で、4日間培養し、ヒスタミン生成の有無を確認した。詳細は、下記表2に記載する。また、培養後のMRS寒天培地1の写真を、図3の左に示す。
【0085】
<比較例1(醤油諸味を用いる実験)>
培地を、MRS寒天培地3(ヒスチジン-ブロモクレゾールパープル-MRS寒天培地)に代えた以外は、実施例1と同様に、醤油諸味を用いる実験を行った。培養後のMRS寒天培地3の写真を、図3の右に示す。
【0086】
[結果]
実施例1と比較例1について(図3
図3では、上述した実施例1(図3の左側)及び比較例1(図3の右側)について、再度、並べて評価した。
その結果、実施例1で用いるMRS寒天培地1(ヒスチジン-ブロモクレゾールグリーン-MRS寒天培地)について、370ppm検出されている諸味Aでは、培地自体が乳酸により酸性を示し黄色に変化しているが、菌体自体が緑色へ変化しておりアルカリ性を示した。また、ヒスタミンが1311ppm検出されている諸味Bでは、培地自体はうすい緑色となり、菌体自体も緑色ではっきりと染色されることが確認された。
これに対して、比較例1で用いるMRS寒天培地3(ヒスチジン-ブロモクレゾールパープル-MRS寒天培地)について、ヒスタミンが1311ppm検出されている諸味Bでは、紫色に変化していることが確認できるが、370ppm検出されている諸味Aでは、はっきりと識別できなかった。
したがって、実施例1の培地は、比較例1の培地と比べて、ヒスタミンの生成が容易に識別できた。実施例1の培地は、比較例1の培地と比べて、ヒスタミン生成乳酸菌の検出感度も高いことが分かった。
実施例1の培地は、pH指示薬であるブロモクレゾールグリーンの変色範囲を酸性側にしているため、ヒスタミンによるアルカリ側の色調がより明確になっているといえる。
これに対して、比較例1の培地は、pH指示薬であるブロモクレゾールパープルの変色範囲が中性域に寄っているため、酸性は強く出るがアルカリ側は識別しづらいと考えられる。
よって、諸味等の夾雑菌の多いサンプルの中から、ヒスタミン生産菌を見つけるためには、pH指示薬としてブロモクレゾールグリーンを含む、実施例1の培地の方が優れているといえる。詳細な内容は、下記表2に記載する。
実施例1と比較例1について評価した結果を、上記参考例1~6についての評価と同様に、下記表2に示した。
【0087】
【表2】
【0088】
実施例1及び参考例1、並びに、比較例1及び参考例5についての評価(図4
図4では、上述した実施例1(図4の右上)及び参考例1(図4の左上)並びに比較例1(図4の右下)及び参考例5(図4の左下)について、再度、並べて評価した。
その結果、実施例1は、参考例1のモデル乳酸菌(コントロール)を基準に比較しても、諸味Aには、ヒスタミン生産菌が存在していることが分かった。これは、上述した、チェックカラーヒスタミンによるヒスタミン濃度測定結果を支持していた。
これに対して、比較例1で用いるMRS寒天培地3(ヒスチジン-ブロモクレゾールパープル-MRS寒天培地)は、ヒスタミンが1311ppm検出されている諸味Bでは紫色に変化していることが確認できたが、諸味Aでは370ppm検出されているにも関わらず、はっきりと識別できなかった。
また、参考例5のモデル乳酸菌(コントロール)を基準に比較すると、諸味A及びBともに、ヒスタミン生産菌の存在を識別することが容易ではなかった。
諸味にはヒスタミン非生産菌とヒスタミン生産菌とが混在しているので、ヒスタミン非生産菌が多い場合、pH指示薬としては、ブロモクレゾールパープルは定性試験に向いておらず、ブロモクレゾールグリーンが最適であることが分かった。

【要約】
【課題】本発明は、簡便に、かつ、確実に、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の有無を検出する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、食品発酵物に含まれるヒスタミン生成乳酸菌の検出方法であって、食品発酵物と、MRS寒天培地、L-ヒスチジン、及び、pH指示薬を含有するヒスタミン生成乳酸菌検出培地と、を接触させて、食品発酵物中に含まれるヒスタミン生成乳酸菌を培養する工程、並びに、前記ヒスタミン生成乳酸菌を染色させる工程を備える、ヒスタミン生成乳酸菌の検出方法に関する。
【選択図】なし

図1
図2
図3
図4