(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】スラグの流出検知方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/46 20060101AFI20241125BHJP
B22D 37/00 20060101ALI20241125BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
C21C5/46 103Z
B22D37/00 C
F27D21/00 Z
(21)【出願番号】P 2021133463
(22)【出願日】2021-08-18
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 有沙
(72)【発明者】
【氏名】田附 篤
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 喜雄
(72)【発明者】
【氏名】松本 武浩
(72)【発明者】
【氏名】乾 昌広
(72)【発明者】
【氏名】中須賀 貴光
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 崇
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-287097(JP,A)
【文献】特開平08-073918(JP,A)
【文献】特開2009-068029(JP,A)
【文献】特開2007-113095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/00;5/28-5/50
B22D 37/00
F27D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬容器から取鍋へ溶鋼を出鋼するときに、撮像手段を用いて前記溶鋼の流れである出鋼流の画像を複数の画素を備える画像として撮影し、撮影した前記画像の画素毎に前記出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度を取得し、取得した前記出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度が、前記放射エネルギー量又はみかけ温度として設定される第1閾値以上である場合に前記画素がスラグを撮像していると判断し、前記第1閾値未満である場合に前記画素が前記溶鋼を撮像していると判断し、
前記撮影した前記画像の中で、前記スラグを撮像していると判断された画素の数と、前記溶鋼を撮像していると判断された画素の数との総和に対して、前記スラグを撮像していると判断された画素の数が占める割合を示すスラグ比率が、予め設定された第2閾値以上である場合に前記スラグが流出したと判断し、前記スラグであると判断された画素の数が占める割合が、予め設定された前記第2閾値未満である場合に前記スラグが流出していないと判断する出鋼時の前記スラグ流出を検知する方法において、
前記スラグの流出が目視で確認されたときの前記出鋼流について、前記放射エネルギー量又はみかけ温度を画素毎に取得し、
次に、前記スラグの流出が目視で確認されたときの前記取鍋内への出鋼量と
出鋼時間か
ら出鋼速度を算出し、
前記画素毎に取得された前記出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度から算出される前記スラグ比率が所望の値となる場合の前記第1閾値を算出し、
前記算出された前記出鋼速度と、前記算出された前記第1閾値とのデータを複数用意し、前記算出された前記出鋼速度に対する前記算出された前記第1閾値の変化を、事前に、関係式(1)として予め求めておき、
実操業において新たな出鋼時に前記スラグ流出を検知するに際しては、前記出鋼流を複数の画素を備える画像として撮影し、撮影した前記画像の画素毎に前記出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度を取得し、前記取得した前記出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度が、予め求めた前記関係式(1)に前記出鋼速度を代入して得られる前記第1閾値以上である場合に前記画素がスラグを撮像していると判断し、前記放射エネルギー量又はみかけ温度が前記関係式(1)から求められる第1閾値未満である場合に前記画素が前記溶鋼を撮像していると判断する
ことを特徴とするスラグの流出検知方法。
【請求項2】
前記関係式(1)は、前記出鋼速度[ton/s]に加えて溶鋼温度[℃]を変数として含む
ことを特徴とする請求項1に記載のスラグの流出検知方法。
【請求項3】
前記画像中において、前記溶鋼及び前記スラグを除いた部分である背景と、前記溶鋼と、の存在を識別する前記放射エネルギー量又はみかけ温度の第3閾値を求めておき、
前記第3閾値と前記第1閾値とを用いて、前記画像における前記溶鋼の領域を抽出する
ことを特徴とする請求項1
または2に記載のスラグの流出検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、転炉型反応容器などの高温溶融物収容容器から溶鋼を取鍋に出鋼する際に、溶鋼中のスラグの存在を検知する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転炉型反応容器(精錬容器)から溶鋼鍋へ溶鋼を排出するときに、溶鋼はできる限り多く排出させる、すなわち出鋼歩留を高くする方が、コスト的に有利であるが、その溶鋼流中にスラグが存在する、すなわちスラグが排出されると、次工程の溶製コストや品質に影響を及ぼしてしまう。そのため、転炉から取鍋へ出鋼される溶鋼流を撮像し、取得した画像に対して画像処理を行って溶鋼の中に存在するスラグを検出することが行われている。
【0003】
転炉から取鍋へ出鋼される溶鋼流の中に存在するスラグを検出する技術としては、例えば、特許文献1~7などに開示されているものがある。
特許文献1は、溶鋼流中のスラグ検出方法であって、溶鋼流の温度が変化した場合であっても、溶鋼流中のスラグを精度良く検出可能にすることを目的としている。
具体的には、転炉から取鍋に向かって流出する、溶鋼およびスラグを含む溶鋼流を撮像する。溶鋼流の温度は鋼種などに応じて100℃以上も変化するため、固定の閾値では溶鋼流の温度が変化した場合にスラグの検出精度が低下する虞がある。撮像画像を取得して画像処理を施すことで、各画素の濃度パラメータを横軸にヒストグラムを作成し、画素数が最大となる最大ピーク点を検出する。この最大ピーク点がスラグに対応すると判定した場合、最大ピーク点を基準に決定したある第1閾値未満の濃度パラメータを有する画素は溶鋼に対応し、閾値以上の濃度パラメータを有する画素をスラグとする。この閾値は、最大ピーク点を通りかつ正の傾きを有する第1直線で表される。一方、最大ピーク点が溶鋼に対応すると判定した場合、最大ピーク点を基準に決定したある第2閾値以下の濃度パラメータを有する画素は溶鋼に対応し、第2閾値以上の濃度パラメータを有する画素をスラグとし、第2閾値は最大ピーク点を通りかつ負の傾きを有する第2直線で表されることとされている。
【0004】
特許文献2は、溶鋼流中のスラグ検出方法であって、転炉等における出鋼操業の条件等が変化した場合であっても、溶鋼流中のスラグを精度良く検出可能にすることを目的としている。
具体的には、転炉から取鍋に向かって流出する、溶鋼およびスラグを含む溶鋼流を撮像して撮像画像を取得する撮像工程と、前記最大ピーク点種別判定工程において前記最大ピーク点が前記スラグに対応すると判定した場合に、前記最大ピーク点を基準にして決定した第1しきい値未満の濃度パラメータを有する画素は前記溶鋼に対応し、前記第1しきい値以上の濃度パラメータを有する画素は前記スラグに対応すると判定する第1判定工程と、を有し、前記第1しきい値は、前記ヒストグラムにおいて、前記最大ピーク点を通り且つ正の傾きを有する第1直線で表わされることとされている。
【0005】
特許文献3は、スラグ検知方式であって、溶融金属の排出流に流入するスラグを迅速、的確に検知してスラグの混入を防止することができることを目的としている。
具体的には、溶融金属の排出流の輝度をCCDカメラで測定して輝度信号のヒストグラムを作成し、該ヒストグラムを平滑化して輝度レベルの度数に置換したのち、判別分析法により背景と溶融金属の輝度レベルに分ける低温側しきい値(1)、および溶融金属の輝度から溶融金属の輝度分布を正規分布として2σ或いは3σに相当する高輝度側の輝度値を高温側しきい値(2)として設定し、しきい値(1)、(2)により分別した各範囲における輝度分布の総度数から溶融金属とスラグの総度数比を算出し、総度数比の変化から溶融金属の排出流に混入するスラグを検出することとされている。
【0006】
特許文献4は、転炉等の金属精錬容器から溶湯を出湯する際の出湯終了を判定することを目的としている。
具体的には、出湯終了判定方法であって、転炉等の金属精練容器の出湯孔を流出する出湯流に介在するスラグをセンサーで検知して出湯終了を判定する際に、該出湯流を収納する溶湯容器の重量変化を計測し、該溶湯容器の設定重量値を越えた時点に上記センサーの信号の取り込みを開始し、以降のスラグ検知信号で出湯終了を判定する。重量測定結果が記録されるため、出鋼孔4周辺の炉壁形状が余り乱れていない場合は受鋼量の98%に相当する重量値を設定し、出鋼孔4周辺の炉壁形状が乱れている場合は受鋼量の95%に相当する重量値を設定する等、状況に応じて重量値を設定することとされている。
【0007】
特許文献5は、スラグ流出判定基準値SLfを固定しておくと、あるチャージにおいては、実際にスラグ流出時あったにもかかわらず、流出なしと判定してしまう危険性がある。誤判断を生じることなく正確なスラグ流出検知を行うこと(検出率の向上)を目的としている。
具体的には、スラグ流出検知方法であって、容器内から流出する溶融金属の流出末期に流出するスラグの検知を流出流からの放射エネルギーの変化に基いて行う方法において、当該流出流におけるスラグ未流出時における前記エネルギーレベルとその変動巾とに基いて、スラグ流出の判定基準を定める。当該流出流におけるスラグ未流出時における前記エネルギーレベルとその変動巾とに基いて、スラグ流出の判定基準を定めるとともに、流出流の流量、温度、鋼種等の変動要素が入り込んだとき、前記判定基準を新たに定めることとされている。
【0008】
特許文献6は、溶融金属容器から他の溶融金属容器に流出孔を介して溶融金属を排出する際に、溶融金属の排出の末期、溶融金属に混入して流出するスラグを、溶融金属容器からの排出流が細くてもまた太くても、その形状に拘わらず的確に検知し、スラグの流出量をばらつきなく所定量に制御することを目的としている。
具体的には、スラグの流出検知方法であって、転炉の出鋼口から流出する出鋼流を赤外線カメラで撮影し、赤外線カメラで測定される出鋼流中の溶鋼の放射エネルギー値と出鋼流中のスラグの放射エネルギー値とを対比することによって溶鋼とスラグとを判別し、赤外線カメラで撮影される排出流の幅を逐次算出し、算出された排出流の幅に応じて溶融金属とスラグとを判別するためのエネルギー閾値を変更することとされている。
【0009】
特許文献7は、転炉から取鍋に出鋼口を介して溶鋼を排出する際に、溶鋼の排出の末期、溶鋼に混入して流出するスラグを、何らかの理由によって排出される溶鋼の放射エネルギー値が高くなってもまた低くなっても、溶鋼の放射エネルギー値の如何に拘わらず的確に検知し、スラグの流出量をばらつきなく所定量に制御することを目的としている。
具体的には、転炉の出鋼口から流出する出鋼流を赤外線カメラで撮影し、赤外線カメラで測定される出鋼流中の溶鋼の放射エネルギー値と出鋼流中のスラグの放射エネルギー値とを対比することによって溶鋼とスラグとを判別し、出鋼口から流出する溶鋼に混合して流出するスラグを検知するスラグの流出検知方法であって、出鋼開始から20秒及び40秒経過した時点で出鋼流の放射エネルギー値を測定し、この溶鋼の放射エネルギー値の平均値に基づいてエネルギー閾値Ecを決定した。そして、溶鋼の放射エネルギー値に応じてエネルギー閾値Ecを5水準に設定し、予めこの溶鋼の放射エネルギー値とエネルギー閾値Ecとの関係を検知部に入力しておき、測定された溶鋼の放射エネルギー値からエネルギー閾値Ecを自動的に決定することとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特再公表2018/151078号公報
【文献】特再公表2018/151075号公報
【文献】特開平09-192821号公報
【文献】特開平06-017110号公報
【文献】特開昭61-226156号公報
【文献】特開2009-068029号公報
【文献】特開2009-287097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、特許文献1については、画素の濃度パラメータに関し、画素数が最大となる最大ピーク点を閾値とし、その閾値を動的に(適宜)変化させているが、溶鋼の出鋼速度の関数となっているかの開示も示唆もされていない。また、閾値を溶鋼温度のみで規定をしているので、スラグ検知の精度が低下する虞がある。
特許文献2については、画素の濃度パラメータに関し、画素数が最大となる最大ピーク点を閾値とし、その閾値を動的に変化させているが、溶鋼の出鋼速度の関数となっているかの開示も示唆もされていない。すなわち、精度よくスラグ流出の検知を行うことはできないと考えられる。
【0012】
特許文献3については、輝度レベルを基にした閾値を動的に変化させているが、溶鋼の出鋼速度の関数となっているかは不明である。すなわち、精度よくスラグ流出の検知を行うことはできないと考えられる。
特許文献4については、スラグ検知を開始した時を溶湯容器の重量から規定しており、出鋼孔周辺の炉壁形状の損耗有無で出湯終了を判定しているが、損耗状態は日々刻々と変わるため、開始と終了の2つの値では出湯終了を精度よく判定することができないと考えられる。
【0013】
特許文献5については、流出流の監視領域における検出エネルギーの変化代から、その都度スラグ流出の判定を行っているが、「スラグの巻き込まれ」が必ずしも監視領域に現れるとは限らないので、実際にはスラグの流出が起こっているのに、スラグが流出していると判定することができない虞がある。
特許文献6については、放射エネルギー値を基にした閾値を動的に変化させているが、溶鋼の出鋼速度の関数となっているかは不明である。また、測定対象とする監視領域が溶融金属流の表面のみであるが、実際には溶融金属流において立体的にスラグが巻き込まれるため、表面を監視領域に設定するだけではスラグ流出の制御を精度よく行うことはできないと考えられる。
【0014】
特許文献7については、溶鋼の温度からスラグの閾値を決定しているが、出鋼流をカメラで捉えるので、カメラの性能(ピクセル)によって平滑化されて、放射エネルギー値(みかけ温度)は異なってくることがあり、そのことが考慮されていないので、スラグ流出の検知を精度よく行うことはできないと考えられる。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、出鋼するに際して溶鋼の出鋼流を撮影し、その画像と出鋼速度を基にスラグ流出に関係する式を事前に決定し、その関係式を用いて出鋼速度に応じてスラグに関する閾値を動的に求め、その動的に求めた閾値に基づいて出鋼中のスラグ流出を精度よく検知することができるスラグの流出検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかるスラグの流出検知方法は、精錬容器から取鍋へ溶鋼を出鋼するときに、撮像手段を用いて前記溶鋼の流れである出鋼流の画像を複数の画素を備える画像として撮影し、撮影した前記画像の画素毎に前記出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度を取得し、取得した前記出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度が、前記放射エネルギー量又はみかけ温度として設定される第1閾値以上である場合に前記画素がスラグを撮像していると判断し、前記第1閾値未満である場合に前記画素が前記溶鋼を撮像していると判断し、前記撮影した前記画像の中で、前記スラグを撮像していると判断された画素の数と、前記溶鋼を撮像していると判断された画素の数との総和に対して、前記スラグを撮像していると判断された画素の数が占める割合を示すスラグ比率が、予め設定された第2閾値以上である場合に前記スラグが流出したと判断し、前記スラグであると判断された画素の数が占める割合が、予め設定された前記第2閾値未満である場合に前記スラグが流出していないと判断する出鋼時の前記スラグ流出を検知する方法において、前記スラグの流出が目視で確認されたときの前記出鋼流について、前記放射エネルギー量又はみかけ温度を画素毎に取得し、次に、前記スラグの流出が目視で確認されたときの前記取鍋内への出鋼量と出鋼時間から出鋼速度を算出し、前記画素毎に取得された前記出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度から算出される前記スラグ比率が所望の値となる場合の前記第1閾値を算出し、前記算出された前記出鋼速度と、前記算出された前記第1閾値とのデータを複数用意し、前記算出された前記出鋼速度に対する前記算出された前記第1閾値の変化を、事前に、関係式(1)として予め求めておき、実操業において新たな出鋼時に前記スラグ流出を検知するに際しては、前記出鋼流を複数の画素を備える画像として撮影し、撮影した前記画像の画素毎に前記出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度を取得し、前記取得した前記出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度が、予め求めた前記関係式(1)に前記出鋼速度を代入して得られる前記第1閾値以上である場合に前記画素がスラグを撮像していると判断し、前記放射エネルギー量又はみかけ温度が前記関係式(1)から求められる第1閾値未満である場合に前記画素が前記溶鋼を撮像していると判断することを特徴とする。
【0017】
好ましくは、前記関係式(1)は、前記出鋼速度[ton/s]に加えて溶鋼温度[℃]を変数
として含むとよい。
好ましくは、前記関係式(2)は、前記出鋼速度[ton/s]に加えて溶鋼温度[℃]を変数として含むとよい。
好ましくは、前記画像中において、前記溶鋼及び前記スラグを除いた部分である背景と、前記溶鋼と、の存在を識別する前記放射エネルギー量又はみかけ温度の第3閾値を求めておき、前記第3閾値と前記第1閾値とを用いて、前記画像における前記溶鋼の領域を抽出するとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、出鋼するに際して溶鋼の出鋼流を撮影し、その画像と出鋼速度を基にスラグ流出に関係する式を事前に決定し、その関係式を用いて出鋼速度に応じてスラグに関する閾値を動的に求め、その動的に求めた閾値に基づいて出鋼中のスラグ流出を精度よく検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】転炉吹錬終了~出鋼の概要を模式的に示した図である。
【
図2】出鋼する際にスラグの流出を防止する装置の構成を示した図である。
【
図3】出鋼する際にスラグ流出を検知する装置構成の概要を模式的に示した図である。
【
図4】画像処理により、出鋼中(溶鋼のみ)とスラグ流出時の放射エネルギーの画素数分布を示した図である。
【
図5】最適な「第1閾値(閾値(1))」を検討した一例を示した図である。
【
図6】第1実施形態であって、「第1閾値(閾値(1))」を動的に設定する場合のフローチャートである(パターンA)。
【
図7】スラグ検知を画像処理により判定した概要を示した図である。
【
図8】最適な「第1閾値(閾値(1))」を検討した一例を示した図である。
【
図9】出鋼速度[ton/s]と、溶鋼- スラグ閾値温度[℃](「第1閾値(閾値(1) )」)の関係を示した図である。
【
図10】Alを添加した場合の模式図および反応式を示した図である。
【
図11】本発明のスラグの流出検知方法に従って、実施した実施例の結果及び、比較例の結果を示した図である。
【
図12】
参考実施形態であって、「第2閾値(閾値(2))」を動的に設定する場合のフローチャートである(パターンB)。
【
図13】
参考実施形態であって「第1閾値(閾値(1))」と「第2閾値(閾値(2))」の両方を動的に設定する場合のフローチャートである(パターンC)。
【0020】
以下、本発明にかかるスラグの流出検知方法の実施形態を、図を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。
[第1実施形態]
本実施形態のスラグの流出検知方法は、転炉型反応容器1(精錬容器1)から取鍋2へ溶鋼Mを出鋼するに際して、例えばカメラなどの撮像手段7を用いて溶鋼Mの流れである出鋼流の画像を撮像し、その画像より出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度を取得し、その出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度から溶鋼MとスラグSを識別する「第1閾値(閾値(1))」を求め、出鋼流におけるスラグSの流出を判別する「第2閾値(閾値(2))」を求め、その「第1閾値」と「第2閾値」を用いて溶鋼MとスラグSを判別し、出鋼時のスラグSの流出を検知する方法において、出鋼速度[ton/s]と「第1閾値」の関係式(1)を算出し、出鋼量の推移から逐次、出鋼速度[ton/s]を算出し、算出した出鋼速度[ton/s]に応じて、関係式(1)を用いて「第1閾値」を動的に設定し、その動的に設定した「第1閾値」と「第2閾値」を用いて溶鋼MとスラグSを判別し、転炉1の出鋼孔3から流出するスラグSを検知する。
【0021】
なお、出鋼流の温度に関して、出鋼流の放射エネルギー値と所定の変換式を用いて得られる出鋼流の「みかけ温度」を用いる。
まず、精錬工程でスラグSが流出するか否かを識別したい理由について述べる。
図1に、転炉吹錬終了~出鋼及び合金投入~溶鋼処理と連続鋳造工程の概要を模式的に示す。
【0022】
図1に示すように、精錬容器1(転炉1)から次工程の溶鋼鍋2(取鍋2)へ溶鋼(溶鉄)Mを出鋼する際に、溶鋼Mの流れである出鋼流中にスラグSが存在する、すなわちスラグSが排出されると、次工程の溶製コストや製品の品質に影響を及ぼしてしまう。
図2に、出鋼する際にスラグSの流出を防止する装置の構成を示す。
図2に示すように、出鋼する際において、スラグSの流出を抑制するために、ダーツ4やPSS(Pneumatic Slag Stopper)5などが存在するが、それらの使用有無に関わらず、最終的にはオペレータの判断で転炉1を傾動させて出鋼終了していた。そのため、出鋼中の「発煙状況」や「熟練度」などによって、出鋼終了のタイミングは異なってくる。
【0023】
なお、ダーツ4は、転炉1内のスラグSと溶鋼Mの界面に浮遊させ、転炉1の出鋼孔3を閉塞する投入具である。
図3に、出鋼する際にスラグSの流出を検知する
スラグ流出検知装置6の
構成の概要を模式的に示す。
図3に示すように、スラグ流出検知装置6は、出鋼流を撮影する
撮像手段7(カメラ7
)と、撮影した画像に対して解析して出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度を取得する装置8と、解析した画像を表示するディスプレイ9と、を有している。
【0024】
出鋼中において溶鋼MとスラグSの放射率の違いから、放射エネルギーの違いを利用する。すなわち、カメラ7で出鋼流の画像を撮影し、その画像を用いて出鋼流の「みかけ温度」の違いで溶鋼MとスラグSを識別し、出鋼中にスラグS流出が開始した時期を認識する。
図4に、出鋼中(溶鋼のみ)とスラグ流出時の放射エネルギーの画素数分布を示す。
【0025】
図4に示すように、画像処理により出鋼中においてスラグSの流出を検知する考え方として、スラグSの流出判定を最適化するには、カメラなどの撮像手段7で撮像した画像に写った背景B、溶鋼M、スラグSを相互に識別し、「スラグSが流出した」と認識する閾値の決定が必要となる。
つまり、画像処理により、「溶鋼M(溶鉄M)」と「スラグS」を相互に識別する放射エネルギー閾値(「溶鋼-スラグ閾値」(
第1閾値))を決定した上で、溶鋼MとスラグSの比率である「スラグ比率」から「スラグSが流出した」と認識する「スラグ比率閾値」(
第2閾値))を決定することが必要となる。
【0026】
なお以降、「溶鋼-スラグ閾値」を「第1閾値」と呼び、「スラグ比率閾値」を「第2閾値」と呼ぶこともある。また、「背景B」と「溶鋼M」を識別する放射エネルギー閾値を「背景-溶鋼閾値」とし、「第3閾値(閾値(0))」と呼ぶこともある。
ところで、放射エネルギーとは、ステファン=ボルツマンの法則における放射熱(輻射熱)の量であって、高温の方が大きい値となり、また同じ温度であっても溶鋼MよりスラグSの方が高い放射率であるため、放射エネルギーの量もスラグSの方が大きくなる。
【0027】
前述の通り、放射エネルギーは、熱画像として取得する機器(例えば、サーモグラフィ)を用いて測定するため、測定した放射エネルギーの量として取得してもよい。あるいは、換算式を用いて放射エネルギー量を見かけ温度に換算して取得してもよい。
つまり、撮像対象である溶鋼Mの出鋼流の温度分布を、放射エネルギー量に相関する熱画像として取得する。
【0028】
次に、「閾値」を動的に制御する(閾値を可変にする)理由について述べる。なお、本実施形態においては、出鋼中の溶鋼MにスラグSが存在することを識別する「閾値」を動的に制御する。この動的に求める「閾値」を「
第1閾値」とする。
図5に、最適な「
第1閾値」を検討した一例を示す。なお、同一チャージでの比較とし、溶鋼温度[℃]およびスラグ比率は、一定とした。
【0029】
図5に示すように、「
第1閾値」が不適切な場合には、本来より早い段階でスラグS流出と誤判定し、転炉1内に多くの量の溶鋼Mが残留する、いわゆる過検知のチャージが発生してしまったりする。また、本来より遅い段階でスラグS流出を認識してしまい、溶鋼鍋2へのスラグ流出量を増加させるチャージが発生する。従って、閾値には、適切な値が存在する。
【0030】
このような最適な閾値は、出鋼速度[ton/s]によって変わるものである。
例えば、出鋼速度[ton/s]が速い場合は、スラグS が早いタイミングから溶鋼M中に巻き込まれる。閾値を低めにすると、出鋼中にわずかでも、出鋼流中にスラグSが巻き込まれたら「スラグ流出」と判断してしまい、溶鋼歩留が悪化する。そのため、閾値を高めにする(判定の感度を鈍くすること)が目標となる。
【0031】
一方で、出鋼速度[ton/s]が遅い場合は、上記のようなスラグSの早期巻き込み(少量のスラグ流出)は起こりにくい。また、出鋼速度[ton/s]が遅いと出鋼流が細くなるため、画像中の総画素数が少なく、わずかに流出するスラグSを的確に検知して「スラグ流出」と判断する必要がある。そのため、スラグSの閾値を低めにする(判定の感度を過敏にする)が目標となる。このように、「第1閾値」を動的に制御することが好ましい。
【0032】
なお、スラグ比率に関する「第2閾値」についても同じことがいえ、スラグ比率に関する「第2閾値」を動的に制御するようにしてもよい。つまり、「第1閾値」または「第2閾値」の少なくとも一方を動的に設定するとよい。
フローチャートに従って、「閾値」を動的に設定する方法を述べる。
「閾値」を動的に設定するにあたっては、3つのパターンが存在する。すなわち、「第1閾値」を動的に設定するパターン(A)、「第2閾値」を動的に設定するパターン(B)、「閾値(1)」と「閾値(2)」の両方を動的に設定するパターン(C)が挙げられる。
【0033】
なお、上記したいずれのパターン(A)~(C)においても、画像中の背景Bと溶鋼Mを識別する「閾値(0)」については、予め決定しておく。
表1に、パターン(A)~(C)において、動的に設定する「閾値」をまとめたものを示す。
【0034】
【0035】
本実施形態においては、「
第1閾値」を動的に設定する場合を例示する。
なお、「
第2閾値」を動的に設定するパターン(B)と、「
第1閾値」と「
第2閾値」の両方を動的に設定するパターン(C)についての詳細は後述する。
図6に、「
第1閾値」を動的に設定する場合のフローチャートを示す(パターンA)。
【0036】
図6に示すように、精錬容器1から取鍋2へ溶鋼Mを出鋼するときにスラグS流出を検知するに際して、撮像手段7を用いて溶鋼Mの流れである出鋼流の画像を撮影する(S1)。撮影した画像を解析して、出鋼流の放射エネルギー量又は、その放射エネルギー値と所定の変換式を用いて得られる出鋼流のみかけ温度[℃]を取得する(S2)。
取鍋2内への溶鋼Mの出鋼量を測定する(S3)。その出鋼量と出鋼時間から、溶鋼の出鋼速度[ton/s]を求める(S4)。なお、出鋼流の放射エネルギー量、みかけ温度[℃]、出鋼速度[ton/s]などを実績値として蓄積するとよい。
【0037】
取得した出鋼流の放射エネルギー量、みかけ温度[℃]などを基に、画像中において溶鋼MとスラグSとを識別する「第1閾値」[℃]を求める。
事前に、取鍋2内への出鋼量と出鋼時間から得られる出鋼速度[ton/s]と、「第1閾値」[℃]との関係式(1)を得ておく。
また、画像における溶鋼MとスラグSの比率から、スラグSの流出の境界値(スラグSの巻き込みが許容可能な閾値)である「第2閾値」を予め求めておく(S5)。
【0038】
実操業において、出鋼中の溶鋼の出鋼量の推移から逐次、溶鋼の出鋼速度[ton/s]を算出する。実操業における出鋼速度[ton/s]と、事前に得た関係式(1)とを用いて、「第1閾値」を動的に求める(S6)。
動的に求めた第1閾値を用いて、画像における溶鋼Mの領域とスラグSの領域とを分別し、得られた溶鋼Mの領域とスラグSの領域からスラグ比率を算出する(S7)。
【0039】
スラグ比率が「第2閾値」を上回ると、スラグSが流出したと検出する(S8)。出鋼を終了する。
事前に「第1閾値」の適正範囲(適正値)を設定する方法について述べる。
まず、事前に「第1閾値」の目標範囲を設定する理由については、以下の通りである。
【0040】
出鋼歩留と、スラグSの流出抑制による合金歩留を両立(溶鋼Mの排出最大化とスラグSの流出最小化の両立)させるためには、「第1閾値」の適正範囲を事前に決定しておいて、その適正範囲となるように、動的に「第1閾値」を制御することが好ましい。
事前に「第1閾値」の目標範囲を決定する方法については、以下の通りである。
過去の測定結果をもとに、シミュレートして「第1閾値」の適正範囲を検討した。
【0041】
スラグ検知システムの概要については、以下の通りである。
スラグを検知する
スラグ流出検知装置6の構成としては、
図3に示す通りである。スラグ検知機を製造しているメーカー製のソフトを使用する。例えば、(日本アビオニクス株式会社製、型番:InfReC TS600 シリーズ)のものを用いた。
表2に、「
第3閾値」、「
第1閾値」、「
第2閾値」の一例を示す。なお、表2は「
第1閾値」を動的に制御したときの一例である。また、「
第2閾値」を動的に制御することも可能である。また、これらの閾値は、実操業での実績値である。
【0042】
【0043】
図7に、スラグ検知を画像処理により判定した概要を示す。
図7に示すように、実機の転炉1では、カメラ7(赤外線カメラ7)を用いて、出鋼流を側方から撮影し、熱画像として取得する。
出鋼流の観測領域については、出鋼流が領域に入りつつ、転炉1の炉壁および溶鋼鍋2(取鍋2)ができるだけ入らない部分とすると好ましい(
図7の黒枠を参照)。
【0044】
溶鋼MとスラグSの測定にあたっては、特定の値として設定しなければならないが、可変値は、画像における背景Bと溶鋼Mのみかけ温度[℃]の境界を示す「第3閾値」、溶鋼MとスラグSのみかけ温度の境界[℃]を示す「第1閾値」、スラグ比率、放射率などである。ただし、スラグ比率「第2閾値」も動的に制御してもよい。
撮影した出鋼流の動画については、一旦設定した閾値ごとに整理し、データ処理後に数値ファイルならびに動画ファイル(センサーの生値)で保存するとよい。すなわち、出鋼流は動画で保存しているので、後からでも繰り返し再生が可能である。
【0045】
従って、同一のファイルに対して、例えば、スラグSと溶鋼Mの閾値を段階的に変化させた場合における、出鋼流中のスラグ検知挙動の変化についても、後からシミュレートすることができる。
「第1閾値」の適正範囲を決定する方法については、以下の通りである。
出鋼末期においては、出鋼速度[ton/s]が異なるため、オペレータが目視で、スラグSが流出するタイミングを認識することができたとき、そのスラグS流出を検知したデータファイルを準備する。各データファイルに対して、溶鋼とスラグの「第1閾値」を段階的に変化させてシミュレートを行い、スラグS流出が検知可能であるか否かを確認した。
【0046】
図8に、最適な「
第1閾値」を検討した一例を示す。ただし、同一チャージでの比較とし、溶鋼温度[℃]およびスラグ比率については一定とした。
シミュレートにおいて、「スラグS流出の検知が可能である」と判断する条件は、以下の通りである。
(1)スラグSの流出が開始する前の出鋼中に、スラグ比率=(スラグ相当画素数)÷(溶鋼相当画素数+スラグ相当画素数)の割合が「
第2閾値」(20%)を超えないこと。
【0047】
(2)スラグSが流出したときは、スラグ比率の「
第2閾値」が20%以上であることとした(
図8を参照)。
上記のようにシミュレートした結果、
図9の関係式(1)を導出した。
図9に、出鋼速度[ton/s]と、溶鋼-スラグ閾値温度[℃](「
第1閾値」)の関係式(1)を示す。なお、これらは、実操業での実績値である。「
第1閾値」は、画像における溶鋼温度[℃]とスラグ温度[℃]との境界を示す値である。なお、関係式(1)については、
図9に例示したものに限定されない。
【0048】
出鋼速度[ton/s]を算出する方法については、以下の通りである。
まず、受鋼台車の重量から出鋼量[ton]を算出する。
出鋼速度[ton/s]は、本実施形態では、(算出した時点の出鋼量[ton]-5秒前の出鋼量[ton])/5[秒]とした。なお、出鋼速度[ton/s]については、実操業中の現場での確認も可能であるし、後からの確認でも可能である。
【0049】
合金歩留については、以下の通りである。
図10は、Alを添加した場合の模式図および反応式を示す。
図10に示すように、溶鋼Mについて、目的とする成分に調整するため、転炉1出鋼中に、AlやSi、Mn合金を取鍋2内の溶鋼Mに投入する。
出鋼時にスラグSが混入すると、溶鋼精練時に取鍋2内においてスラグ中FeO濃度が高くなり、本来であれば溶鋼Mの脱酸や成分調整のために添加されるAlやSi、Mnは、Feより
も酸化されやすいため、スラグ中FeOと反応によって消費されてしまう。このようになると、後工程における脱酸負荷の増加や投入合金歩留の低下を招くこととなる。つまり、FeOが高いとAlがFeOと反応してしまい、溶鋼Mの脱酸に寄与しないものとなる。
【0050】
本実施形態では、「第2閾値」について以下のようにした。
転炉1の傾動の駆動速度から、スラグ比率=20%で出鋼停止の判断をすることとしたとき、オペレータが出鋼を停止する判断のタイミングとの判断の差もなくなったため、「第2閾値」を20%とした。なお、「第2閾値」については、スラグ比率=20%に限らず、例えばオペレータが出鋼を停止する判断と同じタイミングとなっていれば、適宜変更可能である。
【0051】
さて、本実施形態においては、撮像手段7を用いて出鋼流を撮影する。撮像対象となる出鋼流の温度分布を、放射エネルギー量に相関する熱画像として取得するとよい。
撮像手段7(光学的手段7)は、赤外線カメラだけでなく可視光カメラも含める。
本実施形態では、撮像手段7として(日本アビオニクス株式会社製、型番:InfReC TS600 シリーズ)のカメラを用いた。また、解析条件に関し、日本アビオニクス株式会社製のNS9500LTのソフトを使用して、異なる操業条件のデータを取得して、「第1閾値」を10℃毎に変更させて、そのときのスラグSの流出状況を数値データならびに映像と照合した。
【0052】
取得した熱画像を用いて、転炉1の出鋼孔3から出鋼流(溶鋼M)に巻き込まれて流出するスラグSを検知する。
本発明は、溶鋼MとスラグSが共存する精錬容器1(転炉1)から、溶鋼Mを次工程の容器2(取鍋2)に出鋼する場合に使用することができる技術である。
溶鋼Mの密度は、例えば7000[kg/m3]であり、スラグSの密度は、例えば3000[kg/m3]である(参考文献:松井章敏、鍋島誠司、松野英寿、菊池直樹、岸本康夫:鉄と鋼、95(2009)、207.)。通常、溶鋼M上にスラグSが浮いている。
【0053】
基本的には、溶鋼MとスラグSが共存する精錬容器1から溶鋼Mを取鍋2へ出鋼する場合、溶鋼MはスラグSと比較して密度が大きいため、精錬容器1の下方の出鋼孔3より溶鋼Mが先に排出される。このとき、精錬容器1内に溶鋼Mが残留することによる鉄ロスを低減するため、できる限り溶鋼Mを出鋼することが望ましい。
一方で、溶鋼Mをできる限り多く出そうとすると、溶鋼MにスラグSが巻き込まれ、スラグSも排出される。このように、溶鋼MとともにスラグSが排出されると、清浄度悪化による品質低下、酸素源混入による合金歩留低下、不純物元素の混入による目標成分から外れてしまうという問題などに繋がる。
【0054】
従って、溶鋼Mのロスを最小限にし、歩留を最大化しつつ、スラグSの流出を最小限に抑制する。
できる限り多くの溶鋼Mを出鋼し且つ、スラグSを排出させないためには、出鋼孔3を通過する流体(出鋼流)が溶鋼MからスラグSに切り替わるタイミングを的確に判断した上で、溶鋼Mの出鋼作業を終了させることが必要である。
【0055】
なお、オペレータの目視による溶鋼Mの出鋼終了の判定については、出鋼中の「発煙状況」や「熟練度」などによってばらつきを有するため、本発明では出鋼孔3を通過する流体が溶鋼MからスラグSに変化する瞬間を、デジタルデータで把握することで、ばらつき無く判断することができる。
溶鋼MとスラグSの放射率の違いから、放射エネルギーの違いとして両者を識別する。
【0056】
放射エネルギーとは、ステファン=ボルツマンの法則における放射熱(輻射熱)の量で
あって、高温の方が大きい値となり、また同じ温度であっても溶鋼MよりスラグSの方が高い放射率であるため、放射エネルギーの量もスラグSの方が大きくなる。
前述の通り、放射エネルギーは、熱画像として取得する機器(例えば、サーモグラフィ)を用いて測定するため、測定した放射エネルギーの量として取得してもよい。あるいは、換算式を用いて放射エネルギー量を見かけ温度に換算として取得してもよい。
【0057】
放射エネルギーは、「背景B」<「溶鋼M」<「スラグS」の順に高くなるため、溶鋼Mの閾値以上、スラグSの閾値未満の画素の範囲が、溶鋼Mとして観測される。同じく、スラグ閾値以上の画素の範囲が、スラグSとして観測される。
溶鋼M、スラグSを識別するためには、外因となる背景Bと溶鋼Mを識別する「第3閾値」および、溶鋼MとスラグSを識別する「第1閾値」が必要となる。
【0058】
すなわち、溶鋼MとスラグSの放射エネルギーを識別する「第1閾値」を決めておくことで、その「第1閾値」以上の放射エネルギーを有する流体を「スラグSである」と判断することができる。
また、外因となる背景Bと溶鋼Mを識別する「第3閾値」は、この閾値以上となった画素が背景Bではなく「溶鋼MもしくはスラグSである」と判断する値である。
【0059】
溶鋼MとスラグSを識別する「第1閾値」は、この閾値以上となった画素が溶鋼Mではなく「スラグSである」と判断する値である。
これらより、スラグ比率を、(スラグ相当画素数)÷(溶鋼相当画素数+スラグ相当画素数)の割合で算出する。
なお、スラグSの流出を判定するタイミングを決定する場合においては、スラグ比率の「第2閾値」を設ける。
【0060】
このスラグ比率の「第2閾値」とは、(スラグ相当画素数)÷(溶鋼相当画素数+スラグ相当画素数)の割合に対して良否を判定するための閾値のことである。算出したスラグ比率がスラグ比率の「第2閾値」を超えた場合、スラグSが流出したと判定され、オペレータなどに伝達される。
本実施形態においては、予め、出鋼速度[ton/s]と、「第1閾値」の関係式(1)を決定する。
【0061】
なお、「閾値」については、溶鋼MとスラグSを識別する「第1閾値」を用いて関係式(1)を得てもよいし、スラグ比率の「第2閾値」を用いて関係式(2)を得てもよい。ただし、出鋼速度[ton/s]に応じた目標値(閾値)は、実操業に応じて決定すればよい。
例えば、精錬容器1内に残留する溶鋼Mの量を低減するために、出鋼速度[ton/s]と「閾値」の関係式を決定してもよいし、精錬容器1からのスラグSの流出量を低減するための関係式を決定してもよい。
【0062】
実操業においては、出鋼量の推移から逐次、出鋼速度[ton/s]を算出する。
画像取得中の出鋼速度[ton/s]は、一定ではない。転炉1であれば、スラグ流出抑制具(例えば、ダーツ4)の使用有無によって出鋼速度[ton/s]が変わってくる。なお、ダーツ4は、溶鋼Mには浮いてスラグSには浮かばない比重で浮く器具である。また、取鍋2であれば、鋳造速度を制御するため、耐火物によって孔開度を変更し、出鋼速度[ton/s]を変える。
【0063】
ダーツ4を使用した場合や孔開度を低下させるなどといったように排出経路を狭くし、出鋼速度[ton/s]が遅い場合、出鋼流において乱流の発生ひいては渦の生成が抑制されるため、溶鋼M上に存在するスラグSは巻き込みにくくなる。
一方、ダーツ4を使用しない場合や孔開度が大きくするなどといったように排出経路を
広くし、出鋼速度[ton/s]が速い場合、出鋼流において乱流による渦が生成して、出鋼流にスラグSが巻き込まれやすくなる。このように、排出経路の大きさによって、スラグSの流出挙動が異なってくる。
【0064】
よって、いかなる出鋼条件においても、スラグ流出を抑制し且つ鉄ロスを軽減するためには、その時々刻々と変わる出鋼速度[ton/s]に応じて、「閾値」を動的に設定し、その動的に設定した「閾値」に従って判断することが重要であると知見した。
本実施形態においては、予め決定した関係式(1)を用いて、「第1閾値」を動的に設定する。
【0065】
なお、「閾値」については、「第1閾値」を動的に設定してもよいし、スラグ比率の「第2閾値」を動的に設定してもよい。
本実施形態では、スラグSと溶鋼Mを判別することについては、画素毎に0.03秒毎に解析を行い、各画素における放射エネルギーの平均値が、設定した「閾値」よりも高ければ、その画素はスラグSと判断される。各画素において、溶鋼Mに対してスラグSの混入量が増加すると、平均の放射エネルギー量が高まることになる。
【0066】
「閾値」を高く設定すると、スラグSの検知感度が鈍いものとなる。すなわち多少のスラグSが出鋼流に巻き込まれても、スラグSの流出が検出されず、スラグSが一定程度、混ざり込んで流出し放射エネルギーが高まった後に、スラグSが流出したと判断されてしまう。
逆に、「閾値」を低く設定すると、スラグSの検知感度が過敏となり、極めて少量のスラグSが混入した時点で、スラグSが流出したと判断される可能性がある。
【0067】
出鋼速度[ton/s]が遅い場合は、スラグSの巻き込みが少なく、溶鋼Mと同時に出鋼されるスラグSは殆ど無い。そのため、「閾値」を高く設定してしまう(感度を鈍くする)と、熱画像の一画素内においてわずかに存在するスラグSが、溶鋼Mと同じ画素に含まれてしまうこととなる。その画素においては、放射エネルギーが平均化されてしまい「閾値」以下と判定されることとなる。つまり、スラグSを検知することができなくなってしまう。
【0068】
ただし、この出鋼速度[ton/s]が遅い場合でも、溶鋼Mを出鋼した後にはスラグSが流出するため、スラグSを検知することは必須である。そのため、「閾値」を低く設定する(感度を過敏にする)ことで、わずかなスラグSも検出することができるようになるので、スラグSが流出したタイミングを逃さず検知することが可能となる。
一方、出鋼速度[ton/s]が高い場合、「閾値」を低く設定してしまう(感度を過敏する)と、出鋼中の溶鋼Mにわずかに巻き込まれたスラグSを検出してしまう。しかしながら、この段階では、溶鋼Mを主として出鋼しているので、スラグSが流出したと判断されると、精錬容器1内に溶鋼Mを残留させてしまい、鉄歩留が低下することとなる。
【0069】
この場合、「閾値」を高く設定する(感度を鈍くする)ことで、溶鋼Mの出鋼完了まではスラグSを検知せずに且つ、スラグSが主として排出される段階になると「スラグSが流出した」と判断されることが可能となる。つまり、適切な出鋼終了の判断が可能となる。
このように、出鋼速度[ton/s]の速さによって、スラグSの排出挙動が異なるため、「閾値」を決め打ちにすると問題が生じるので、柔軟に「閾値」を設定するべきであると知見した。したがって、本実施形態においては、「第1閾値」を動的に設定した。
【0070】
なお、「閾値」を動的に設定することについては、関係式(1)を用いて、スラグSと溶鋼Mを識別する「第1閾値」を動的に設定してもよい。また、関係式(2)を用いて、
スラグ比率の「第2閾値」を動的に設定してもよい。また、その「第1閾値」と「第2閾値」の両方を動的に設定してもよい。
また、閾値を動的に設定する方法としては、連続的な関数でもよいし、ステップ関数でもよい。
【0071】
好ましくは、予め準備しておく関係式(1)、関係式(2)には、出鋼速度[ton/s]又は溶鋼温度[℃]の少なくとも一方を含むとよい。
溶鋼MとスラグSを識別するにあたっては、溶鋼Mの温度も影響する。
例えば、溶鋼Mの温度が高い場合には、溶鋼MとスラグSを識別する「第1閾値」を低く設定すると、出鋼流において溶鋼Mが主流である時点で「スラグS」とみなされる放射エネルギー量が増加して、スラグ比率が上昇することで、「スラグSが流出した」と判断する可能性がある。そのため、溶鋼温度[℃]を関係式(1)、関係式(2)に含める。
【0072】
また、出鋼速度[ton/s]については、速度の速い遅いによって、スラグSの排出状況が異なってくる。そのため、出鋼速度[ton/s]を関係式(1)、関係式(2)に含める。
好ましくは、画像中における背景Bと溶鋼Mを識別する「第3閾値」を求めておき、「第3閾値」と「第1閾値」とを用いて、画像における溶鋼Mの領域を抽出するとよい。また、「第2閾値」は、「第3閾値」と「第1閾値」とを用いて算出するとよい。
【0073】
以上述べた本実施形態をまとめると、精錬容器1から取鍋2へ溶鋼Mを出鋼するときに、撮像手段7を用いて溶鋼Mの流れである出鋼流の画像を撮影し、撮影した画像から出鋼流の放射エネルギー量又は、その放射エネルギー値と所定の変換式を用いて得られる出鋼流のみかけ温度を取得し、取得した出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度から、画像中における溶鋼MとスラグSを識別する「第1閾値」と、出鋼流におけるスラグSの巻き込みが許容可能にあることを判別する「第2閾値」と、を用いて、出鋼時のスラグS流出を検知する方法において、以下のようにする。
【0074】
「第1閾値」を動的に設定するにあたっては、事前に、取鍋2内への出鋼量と出鋼時間から得られる出鋼速度[ton/s]と「第1閾値」との関係式(1)を得ておく。
実操業における出鋼速度[ton/s]と関係式(1)とを用いて、「第1閾値」を動的に求める。
動的に求めた「第1閾値」を用いて、画像における溶鋼Mの領域とスラグSの領域とを分別する。
【0075】
分別して得られた溶鋼Mの領域とスラグSの領域からスラグ比率を算出する。そのスラグ比率が「第2閾値」を上回ると、スラグSが流出したと検出する。このタイミングで出鋼を終了する。
[実施例]
以下に、本発明のスラグの流出検知方法に従って実施した実施例及び、本発明と比較するために実施した比較例について、説明する。
【0076】
本実施例における実施条件については、以下の通りである。
転炉1については、容量が250tonのものを用いている。ただし、tonは粗鋼トンである。また、上底吹き式の転炉1を用いている。この転炉1は、上下吹き式とも呼ぶものである。
[C]=3.15~4.9質量%とした。これは、本実施例で用いた実績値である。
【0077】
溶銑a:[P]=0.005~0.165質量%とした。これは、本実施例で用いた実績値である。
溶製鋼種については、鋼種:規格上限[C]=0.002~1.05質量%、規格上限[P]=0.005%~0.11%とした。これは、本実施例で用いた実績値である。
排滓については、転炉1内に残留したスラグSは、炉口よりパン台車へ排滓する。
転炉1出鋼後の溶鋼処理については、当業者常法通りに、溶鋼処理を実施する。例えば、RH、CAS、LFなどがある。
【0078】
連続鋳造については、当業者常法通りに、鋳造を実施する。
図11に、本発明のスラグの流出検知方法に従って、実施した実施例の結果及び、本発明と比較するために実施した比較例の結果を示す。つまり、
図11は、関係式(1)を算出するために、同一チャージで「
第1閾値」を変えた3例を示した図である。なお、パターンAのフローチャート(
図6 などを参照)に基づき、スラグSと溶鋼Mを識別する「
第1閾値」を動的に設定した場合を示す。ただし、同一チャージで行っている。ただし、本実施例では、スラグ比率の「
第2閾値」を20%としている。
【0079】
図11に示すように、溶鋼とスラグを識別する「
第1閾値」を適正に設定した場合、「
第2閾値」より上回ると、スラグSが流出したと検知するタイミングと、オペレータが目視でスラグSが流出したことを認識するタイミングとが、ほぼ同じとなっていることがわかる。
すなわち、本発明のスラグの流出検知方法に従って行う判断と、オペレータがスラグSの流出によって出鋼を停止する判断のタイミングとの判断の差もないことがわかる。
【0080】
一方で、比較例として「第1閾値」を適正に設定しなかった場合、スラグSの流出を見逃したり、最適なタイミングより前でスラグSの流出を検知することとなった。
以上述べたように、本発明によれば、転炉1から取鍋2へ溶鋼Mを出鋼するに際して、溶鋼Mの出鋼流を撮影し、撮影した画像から溶鋼とスラグを識別する「第1閾値」[℃]を決定し、その「第1閾値」[℃]と出鋼速度[ton/s]を基に、スラグSの流出に関係する関係式(1)を予め算出しておき、出鋼流中におけるスラグS領域(スラグ比率)の境界を示す「第2閾値」を予め設定しておき、出鋼中の出鋼速度[ton/s]に応じて、関係式(1)を用いて「第1閾値」[℃]を動的に求め、動的に求めた「第1閾値」[℃]を用いて溶鋼MとスラグSを分別し、分別した溶鋼MとスラグSからスラグ比率を算出し、そのスラグ比率と「第2閾値」を対比することで、出鋼する際におけるスラグSの流出を精度よく検知することができる。
【0081】
このようにすることにより、スラグSの巻き込み(流出)が減少し、次工程における合金歩留の向上や、品質の改善を期待することができる。
また、参考実施形態のように、スラグ比率の「第2閾値」を動的に設定してもよい。
[参考実施形態]
本参考実施形態においては、精錬容器1から取鍋2へ溶鋼Mを出鋼するときに、撮像手段7を用いて溶鋼Mの流れである出鋼流の画像を撮影し、撮影した画像から出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度を取得し、取得した出鋼流の放射エネルギー量又はみかけ温度から、画像中における溶鋼MとスラグSを識別する第1閾値と、出鋼流におけるスラグSの巻き込みが許容可能にあることを判別する第2閾値と、を用いて、出鋼時のスラグS流出を検知する方法において、以下のようにする。
【0082】
「第2閾値」を動的に設定するにあたっては、事前に、取鍋2内への出鋼量と出鋼時間から得られる出鋼速度[ton/s]と第2閾値との関係式(2)を得ておく。
実操業における出鋼速度[ton/s]と関係式(2)とを用いて、「第2閾値」を動的に求める。
第1閾値を用いて、画像における溶鋼Mの領域とスラグSの領域とを分別する。
【0083】
分別して得られた溶鋼Mの領域とスラグSの領域から算出したスラグ比率が、動的に求めた「第2閾値」を上回ると、スラグSが流出したと検出する。
なお、「関係式(2)」には、出鋼速度[ton/s]又は溶鋼温度[℃]の少なくとも一方を含むようにするとよい。また、画像中における背景Bと溶鋼Mを識別する「第3閾値」を求めておき、「第3閾値」と「第1閾値」とを用いて、画像における溶鋼Mの領域を抽出する。
【0084】
図12に、スラグ比率の「
第2閾値」を動的に設定する場合のフローチャートを示す(パターンB)。
図12に示すように、精錬容器1から取鍋2へ溶鋼Mを出鋼するときにスラグS流出を検知するに際して、撮像手段7を用いて溶鋼Mの流れである出鋼流の画像を撮影する(S1)。撮影した画像を解析して、出鋼流の放射エネルギー量又は、その放射エネルギー値と所定の変換式を用いて得られる出鋼流のみかけ温度[℃]を取得する(S2)。
【0085】
取鍋2内への溶鋼Mの出鋼量を測定する(S3)。その出鋼量と出鋼時間から、溶鋼の出鋼速度[ton/s]を求める(S4)。なお、出鋼流の放射エネルギー量、みかけ温度[℃]、出鋼速度[ton/s]などを実績値として蓄積するとよい。
取得した出鋼流の放射エネルギー量、みかけ温度[℃]などを基に、画像中における溶鋼MとスラグSの存在を識別する「第1閾値」[℃]を求める。第1閾値を用いて、画像における溶鋼Mの領域とスラグSの領域とを分別し、得られた溶鋼Mの領域とスラグSの領域からスラグ比率を算出する(S5)。
【0086】
画像における溶鋼MとスラグSの比率から、スラグSの流出の境界値(スラグSの巻き込みが許容可能な閾値)である「第2閾値」を求める。事前に、取鍋2内への出鋼量と出鋼時間から得られる出鋼速度[ton/s]と、「第2閾値」との関係式(2)を得ておく。
実操業において、出鋼中の溶鋼の出鋼量の推移から逐次、溶鋼の出鋼速度[ton/s]を算出する。実操業における出鋼速度[ton/s]と、事前に得た関係式(2)とを用いて、「第2閾値」を動的に求める(S6)。
【0087】
算出したスラグ比率が動的に求めた「第2閾値」を上回ると、スラグSが流出したと検出する(S8)。出鋼を終了する。
さらには、
別の参考実施形態のように、溶鋼MとスラグSを識別する「第1閾値」とスラグ比率の「第2閾値」ともに動的に設定してもよい。
[
別の参考実施形態]
図13に、「第1閾値」と「第2閾値」の両方を動的に設定する場合のフローチャートを示す(パターンC)。
【0088】
図13に示すように、精錬容器1から取鍋2へ溶鋼Mを出鋼するときにスラグS流出を検知するに際して、撮像手段7を用いて溶鋼Mの流れである出鋼流の画像を撮影する(S1)。撮影した画像を解析して、出鋼流の放射エネルギー量又は、その放射エネルギー値と所定の変換式を用いて得られる出鋼流のみかけ温度[℃]を取得する(S2)。
取鍋2内への溶鋼Mの出鋼量を測定する(S3)。その出鋼量と出鋼時間から、溶鋼の出鋼速度[ton/s]を求める(S4)。なお、出鋼流の放射エネルギー量、みかけ温度[℃]、出鋼速度[ton/s]などを実績値として蓄積するとよい。
【0089】
例えば、「第1閾値」を動的に求める。
取得した出鋼流の放射エネルギー量、みかけ温度[℃]などを基に、画像中における溶鋼MとスラグSの存在を識別する「第1閾値」[℃]を求める。
事前に、取鍋2内への出鋼量と出鋼時間から得られる出鋼速度[ton/s]と、「第1閾値」[℃]との関係式(1)を得ておく。
【0090】
実操業において、出鋼中の溶鋼の出鋼量の推移から逐次、溶鋼の出鋼速度[ton/s]を算
出する。実操業における出鋼速度[ton/s]と、事前に得た関係式(1)とを用いて、「第1閾値」を動的に求める(S5)。
動的に求めた第1閾値を用いて、画像における溶鋼Mの領域とスラグSの領域とを分別し、得られた溶鋼Mの領域とスラグSの領域からスラグ比率を算出する(S6)。
【0091】
さらに、「第2閾値」を動的に求める。
画像における溶鋼MとスラグSの比率から、スラグSの流出の境界値(スラグSの巻き込みが許容可能な閾値)である「第2閾値」を求める。事前に、取鍋2内への出鋼量と出鋼時間から得られる出鋼速度[ton/s]と、「第2閾値」との関係式(2)を得ておく。
【0092】
実操業において、出鋼中の溶鋼の出鋼量の推移から逐次、溶鋼の出鋼速度[ton/s]を算出する。実操業における出鋼速度[ton/s]と、事前に得た関係式(2)とを用いて、「第2閾値」を動的に求める(S7)。
スラグ比率が「第2閾値」を上回ると、スラグSが流出したと検出する(S8)。出鋼を終了する。
【0093】
すなわち、本発明においては、事前に、出鋼速度[ton/s]と「第1閾値」に関する関係式(1)、または、出鋼速度[ton/s]と「第2閾値」に関する関係式(2)を求めておき、実操業の出鋼量の推移から逐次、出鋼速度[ton/s]を算出し、溶鋼MとスラグSを識別する「第1閾値」、スラグ比率の「第2閾値」の両方、あるいは片方を、算出された出鋼速度[ton/s]の関数として動的に設定する。
【0094】
このように、「第2閾値」を動的に設定したり、「第1閾値」と「第2閾値」の両方を動的に設定することでも、スラグSの巻き込み(流出)が減少し、次工程における合金歩留の向上や、品質の改善を期待することができる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
【0095】
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0096】
1 転炉
2 溶鋼鍋(取鍋)
3 出鋼孔
4 ダーツ
5 PSS
6 スラグ流出検知装置
7 撮像手段(カメラ)
8 画像解析装置
9 ディスプレイ
B 背景
M 溶鋼
S スラグ