(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】積層選択的レーザ焼結を用いたインプラント製造方法及びインプラント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/28 20060101AFI20241125BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20241125BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20241125BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
A61F2/28
A61L27/16
A61L27/44
A61L27/56
(21)【出願番号】P 2018563657
(86)(22)【出願日】2017-05-08
(86)【国際出願番号】 EP2017060903
(87)【国際公開番号】W WO2017211522
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-04-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】102016110500.7
(32)【優先日】2016-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515121597
【氏名又は名称】カール ライビンガー メディツィンテヒニーク ゲーエムベーハー ウント コーカーゲー
【氏名又は名称原語表記】KARL LEIBINGER MEDIZINTECHNIK GMBH & CO. KG
【住所又は居所原語表記】Kolbinger Strasse 10, 78570 Muehlheim, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アデム アクス
(72)【発明者】
【氏名】フランク レイノエル
(72)【発明者】
【氏名】トバイアス ヴォルフラム
【合議体】
【審判長】平瀬 知明
【審判官】安井 寿儀
【審判官】井上 哲男
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0068245(US,A1)
【文献】特表2010-516517(JP,A)
【文献】特表2011-530387(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0351913(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/28
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)及び/又は高密度ポリエチレン(HDPE)及び/又はポリプロピレン(PP)を含有する粒子の群が、選択的レーザ焼結法により層毎に溶融される、インプラントの製造方法であって、
製造される前記インプラントの細孔が、前記インプラントの表面において封止されないままであるように、前記選択的レーザ焼結後に、14mm~9mmの直径を有する縮小ノズルを用いて、650℃の温度の熱気流で約5秒間、
前記インプラントの前記表面と前記縮小ノズルとの間の距離を約20cm
として、溶融された粒子の表面の熱処理が行われることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記粒子は、閉じ込められた空気を含む多孔質本体を形成するために溶融されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子は、球状の形状を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
粉末形態の前記粒子は、20μm~300μmの直径を有することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
粉末粒として存在する前記粒子は、130μm~150μmの直径を有することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
表面処理が、プラズマ処理、スノーブラスティング、凍結CO2フレークによる加圧衝撃、又は超音波浴の形態で前記熱処理の前に行われることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記インプラントは、人体のための軟骨及び/又は骨構成要素の再構築のための、CMFインプラントとして形成されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の粒子、特にUHMWPE粒子(超高分子量ポリエチレン粒子)を処理することが既に公知である、インプラントの製造方法に関する。本文脈におけるUHMWPEは、総合的に純粋な形態に精製された粒子であると理解される。
【背景技術】
【0002】
例えば、米国特許第6,641,617号は、UHMWPEから製造される、放射線処理された医療用プロテーゼを開示している。したがって、UHMWPEは溶融され、検出可能なフリーラジカルは実質的に存在しない。
【0003】
欧州特許出願公開第1 563 857号はさらに、耐磨耗性及び耐酸化性ポリエチレン(PE)の製造方法を開示している。したがって、ポリエチレンはその溶融温度より低い温度で提供され、次いで、ポリエチレンを少なくとも部分的に溶融させるだけでなく、ポリエチレンを架橋させ十分な熱を生成させるように放射線が照射される。その後、ポリエチレンは冷却される。
【0004】
米国特許第8,142,886号は、特定量の無機材料を含むコアを有するレーザ焼結多孔質ポリマーデバイスを開示している。コアは、金属/金属合金、リン酸カルシウム、ステンレス鋼及びガラスからなる群のうちの少なくとも2つの成分の混合物を含む無機材料を用いた少なくとも2つのさらなる層を有する。
【0005】
欧州特許出願公開第1 276 436号から、UHMWPEが使用され、インプラントの放射線照射が4Mrad超で実施される、インプラントの耐摩耗性及び耐酸化性を改善する方法も公知である。さらに、この場合、酸化剤とポリエチレン粉末との混合が開示されている。
【0006】
米国特許出願公開第2014/0052264号からは、表面に酸化防止剤を有する、複数の焼結ポリマー粒子を含む多孔質インプラントも公知である。したがって、この特許出願は、細孔を有する多孔質ネットワークを形成するように複数の接触点で一緒に焼結される複数のポリマー粒子を含む多孔質インプラントに焦点を当てており、複数のポリマー粒子はポリエチレンを含有し得る。酸化防止剤は、少なくとも一部のポリマー粒子の表面及び/又は多孔質ネットワークの細孔内に配置される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、より容易に実施することができ、哺乳動物の組織により迅速でよりうまく組み込まれるように適合されたインプラントをもたらす、より迅速でより低コストである方法を利用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この目的は、例えば、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)及び/又は高密度ポリエチレン(HDPE)及び/又はポリプロピレン(PP)の群の粒子のみ、特に種類が異なるがそれらからなる混合物が、選択的レーザ焼結法(SLS法)により層毎に一緒に溶融されることによって達成される。また、例えば充填剤として機能するさらなる粒子を混合してもよい。したがって、UHMWPE、HDPE及びPPのそれぞれは、それ自体のみの純粋な形態で、又は2つの成分との混合比で、又は3種の粒子全ての混合物で使用することができる。添加剤及びその混合物として、例えば、HAP、CaCO3、Mg、α/β-TCP等の材料、又は例えば、PDLLA、PLGA、PLA、PGA等の他のポリエステル材料、キトサン繊維、キトサン粒子が適している。
【0009】
特に、成分UHMWPE、HDPE及びPPは、それら自体がインプラントの製造に使用されることが証明されている。当該インプラントは、軟組織及び骨組織の所望の内殖を少なくとも部分的に示す。機密にされていた最初の臨床試験でさえ、特に新しいインプラントの適切な構造化により成功している。ここでは、特に良好な内殖が明らかである。
【0010】
有利な実施形態は下位クレームに特許請求され、以下で詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
塊状の本体、又は閉じ込められた空気/空隙を含む(多孔質)本体を形成する粒子が一緒に溶融される場合、有利である。迅速な内殖のほか、長期の耐久性及び適切な荷重受容が達成される。
【0012】
本体が、例えばアンダーカット及び/又は凹部を含む、完全な幾何形状を有する場合、患者専用の個別インプラントの製造さえも可能である。特に頭蓋、手、胸骨及び足の領域等、人体に多目的に使用できる、非常に複雑な幾何形状でさえも製造することができる。
【0013】
粒子が、ジャガイモ状又は球状の形状を採る場合、インプラント内に成長するヒト組織にとって有利であることが分かった。
【0014】
本文脈中、粉末形態の粒子が、約20μm又は約50μm~約300μmの直径を有する場合、望ましい。
【0015】
粉末粒として存在する粒子は、約40μm~約200μm、好ましくは140μmの直径を有するべきである。
【0016】
未処理のインプラントから、及び後に完成したインプラントから、任意の粒状物、粒子及び残留粉末成分を効率的に除去できるようにするために、プラズマ処理、スノーブラスティング、加圧空気によって駆動される超音速印加による凍結CO2フレークを用いた加圧衝撃(pressurized bombarding)、又は超音波浴の形態で表面処理が行われる場合、有利である。
【0017】
ある有利な例示的実施形態はまた、未処理のインプラントが強度の増加のための熱処理を受けることを特徴とする。
【0018】
熱処理が表面処理に続く場合、有利である。特に、製造されるインプラントの細孔が封止されないまま又は開いたままであるように、選択的レーザ焼結後に熱処理が行われると、安定性が改善され、適切なレベルで内殖が促進される。
【0019】
特に衛生的な製品を得るためには、例えば、表面処理前及び/又は熱処理後に、好ましくは約25kGyでガンマ線滅菌処理を行う場合、有利である。別の方法として、エチレンオキシド(ETO)法、Eビーム滅菌法及びプラズマ滅菌法も適している。
【0020】
本発明はまた、本発明の方法に従って製造されたインプラントの、すなわち、的を絞った熱の導入による、術中修正の方法に関する。
【0021】
さらに、本発明は、本発明の方法で製造されたインプラントにも関する。
【0022】
さらに、このインプラントは、人体のための軟骨及び/又は骨構成要素の再構築のための、とりわけ頭蓋インプラント等のCMFインプラント(頭蓋顎顔面インプラント)の形態であるという点でさらに発展させることができる。
【0023】
本発明者は、600μmまでの細孔径では、血管及び結合組織の急速な内殖があることを示した。
【0024】
インプラント骨格内での生体細胞の栄養物質供給は、ほんの約150μm~約200μmの距離でのみ可能であるため、血管新生はインプラントをうまく組み込むことに関して決定的なプロセスを構成する。ここで提示される方法は、軟組織及び骨の内殖を促進するのに役立つ。この広範囲の血管内殖は、インプラント内への深い感染を制御する重要な細胞を輸送するのに役立つ。同時に、軟組織の内殖がインプラントの強度を増加させる。これにより、栄養物質供給及び強度が改善される。
【0025】
本発明では、3次元インプラントは、UHMWPE、HDPE及び/又はPPからの選択的レーザ焼結(SLS)によって製造される。ここで、規定されたエネルギー入力で、UHMWPE及び/又はHDPE及び/又はPP粉末粒子は、規定された局所で一緒に溶融される。3成分全て、2成分のみ、又は単一の成分のみが、(純粋な形態又は混合物で)一緒に又はそれ自体で溶融される。本発明による層毎の溶融及びそれに続く凝固によって、複数の個々の層を重ね合わせるか又は相互接続することにより3次元インプラントが形成される。
【0026】
したがって、インプラントの短時間での製造及び対応する/意図された/所望の解剖学的領域へのインプラントの適応が保証される。
【0027】
SLS技術による、塊状及び/又は多孔質の、幾何学的に複雑な、例えば患者専用の個別インプラントの製造だけでなく、標準インプラントの製造も可能になる。
【0028】
特に、個々の患者への迅速な適応が、現場で、したがって、手術現場で可能になる。
【0029】
強度の増加は、後の熱処理によって達成される。表面処理は、特にプラズマ処理又はCO2ベースの技術が採用されている場合、内殖挙動に有益である。熱処理による後の術中修正の選択肢が提供される。
【0030】
機械的接続機能の実現可能性について述べなければならない。合成材料、例えば吸収性合成材料等の他の材料との組み合わせが実施されてもよい。例えば、別の材料へのブリッジ形態又は異なる材料のブリッジ形態の相互接続/接合が、合理的に実現され得る。
【0031】
インプラントの幾何形状と組み合わせた固定オプションを組み込みやすくできる。
【0032】
全容積に対する空容積に基づき、約5%~約90%の全気孔率を有するレーザ焼結多孔質インプラントは、使用者により好まれ、現在の方法によって製造することができる。60%超の全気孔率を容易に実現することができる。
【0033】
細孔径が約100μm~約3,500μm、特に約80μm~約120μm、好ましくは約100μmである場合、望ましい。
【0034】
インプラントの全層がUHMWPE及び/又はHDPE及び/又はPPで製造され得ることも可能である。
【0035】
すべての層が、多孔質層の形態であってもよい。多孔質レーザ焼結インプラントが所定の解剖学的領域で使用される場合に有利になることが分かっている。また、相互接続細孔構造を得ることもできる。約5μm~約900μmに的を絞った表面の粗面化が想定可能である。しかしながら、多孔質レーザ焼結インプラントは、使用前に、残留粉末粒子を含まない。熱処理は、細孔の封止が起こらないように行われる。相互接続細孔ストランド間の強度の増加が得られる。熱風、赤外線放射及び/又は熱バリ取り及び/又は爆発バリ取りによる表面処理が行われる。これは、細孔が封止されない溶融/封止をもたらす。同時に、酸素及び燃料並びに任意の添加剤は、約3,000℃で点火してもよい。
【0036】
或いは、熱風を用いた熱処理も実現可能である。本文脈において、300℃~650℃の温度での熱気流の使用が、そのことを証明する。しかしながら、インプラントの温度は処理中に低くなる。観察される距離は約10cm~30cmであるべきである。熱処理は約5秒~60秒間行われる。その際、14mm~9mmの直径を有する縮小ノズル、又は50mm×2mm~5mm、及び75mm×2mm~5mmのスロットノズル、又はフラットダイが用いられる。
【0037】
インプラントが疎水性及び/又は親水性である場合、有利である。例えば、一方の面は疎水性であってもよく、他方の面は親水性であってもよい。塩基性材料は、例えば、疎水性であってもよい。低圧プラズマによる処理では、最適な構造が得られる。コーティングは、例えば親水性挙動が特定の領域に、例えば、一方の面にのみ提供されるように適用されてよい。これは、この面からのより迅速な内殖を達成するのに役立つ。インプラントは、低圧プラズマで処理してもよい。
【0038】
したがって、インプラントが一方、例えば、疎水特性を基本的に示す場合、他の特性、例えば、親水特性は、コーティングによって生じ得る。これは逆もまた可能である。
【0039】
UHMWPE、HDPE及び/又はPPの群の当該粒子が、独占的に、及び/又は、少なくとも有意に/大部分に使用することもできる。それらのみの混合物が特に可能である。