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特許7592384瘢痕効果を有する心臓電気生理学的(EP)興奮の反復コヒーレントマッピング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】瘢痕効果を有する心臓電気生理学的(EP)興奮の反復コヒーレントマッピング
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/367 20210101AFI20241125BHJP
   A61B 18/14 20060101ALN20241125BHJP
   A61B 34/20 20160101ALN20241125BHJP
【FI】
A61B5/367
A61B18/14
A61B34/20
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019202143
(22)【出願日】2019-11-07
(65)【公開番号】P2020075132
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】16/184,609
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】メイル・バル-タル
(72)【発明者】
【氏名】アロン・バラム
(72)【発明者】
【氏名】アブラム・ダン・モンタグ
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0294082(US,A1)
【文献】特表2009-539566(JP,A)
【文献】特表2018-526107(JP,A)
【文献】国際公開第2018/160631(WO,A1)
【文献】特開2014-124533(JP,A)
【文献】特表2010-528683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心腔の入力メッシュの表現、前記心腔の壁組織上の測定位置の組及び前記位置で測定された局所興奮時間(LAT)のそれぞれの組を受信するように構成されたインターフェースであって、前記インターフェースは、二重EP電位の存在を示す、前記測定位置の少なくともいくつかのバイナリタグ付けを受信するように構成されたインターフェースと、
プロセッサであって、
前記入力メッシュを、正則化された多角形を含む規則メッシュに再メッシュ化し、
前記測定位置の組及びそれぞれのLATを前記正則化された多角形にデータ適合させ、
前記正則化された多角形について、(i)それぞれのLAT値及び(ii)前記壁組織が瘢痕組織を含むそれぞれの確率を反復的に計算して、瘢痕組織を示す前記規則メッシュ上での電気生理学的(EP)興奮波を求め、
前記規則メッシュ上にオーバーレイされた、前記EP興奮波及び前記瘢痕組織を含む電気解剖学的マップを表す、
ように構成されている、プロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、前記二重EP電位の存在を示す前記バイナリタグが付けられた前記測定位置が、前記瘢痕組織の境界を示していると扱うことにより、前記確率を反復的に計算するように構成されている、システム。
【請求項2】
前記正則化された多角形は、正則化された三角形を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記LAT値、スローネス値及び前記EP興奮波の伝播についての方程式の組を反復的に解くことによって、前記LAT値及び前記確率を反復的に計算するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサは、瘢痕重み乗数を使用して再計算されたスローネスベクトルを、各正則化された多角形に再割り当てすることにより、前記確率を反復的に計算するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記正則化された多角形の面の間の距離に伴う時間の複素位相変化を表すスローネスベクトルを、各正則化された多角形に割り当てることによってスローネス値の初期推定値を非反復的に計算し、前記スローネス値の前記初期推定値を使用することにより、前記LAT値及び前記確率を反復的に計算するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記プロセッサは、前記電気解剖学的マップ上に瘢痕組織を示す伝導矢印をオーバーレイすることによって、前記電気解剖学的マップを表すように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
インターフェースとプロセッサを備えたシステムの作動方法であって、
前記インターフェースが、心腔の入力メッシュの表現、前記心腔の壁組織上の測定位置の組前記位置で測定された局所興奮時間(LAT)のそれぞれの組、及び、二重EP電位の存在を示す、前記測定位置の少なくともいくつかのバイナリタグ付けを受信することと、
前記プロセッサが、前記入力メッシュを、正則化された多角形を含む規則メッシュに再メッシュ化することと、
前記プロセッサが、前記測定位置の組及びそれぞれのLATを前記正則化された多角形にデータ適合させることと、
前記プロセッサが、前記正則化された多角形について、(i)それぞれのLAT値及び(ii)前記壁組織が瘢痕組織を含むそれぞれの確率を反復的に計算して、瘢痕組織を示す前記規則メッシュ上での電気生理学的(EP)興奮波を求めることと、
前記プロセッサが、前記規則メッシュ上にオーバーレイされた、前記EP興奮波及び前記瘢痕組織を含む電気解剖学的マップを表すことと、
前記確率を反復的に計算することは、前記二重EP電位の存在を示す前記バイナリタグが付けられた前記測定位置が、前記プロセッサが、前記瘢痕組織の境界を示していると扱うことによって前記確率を計算することを含む、システムの作動方法。
【請求項8】
前記正則化された多角形は、正則化された三角形を含む、請求項7に記載のシステムの作動方法。
【請求項9】
前記LAT値及び前記確率を反復的に計算することは、前記プロセッサが、前記LAT値、スローネス値及び前記EP興奮波の伝播についての方程式の組を反復的に解くことを含む、請求項7に記載のシステムの作動方法。
【請求項10】
前記確率を反復的に計算することは、前記プロセッサが、瘢痕重み乗数を使用して再計算されたスローネスベクトルを、各正則化された多角形に再割り当てすることを含む、請求項7に記載のシステムの作動方法。
【請求項11】
前記LAT値及び前記確率を反復的に計算することは、
前記プロセッサが、前記正則化された多角形の面の間の距離に伴う時間の複素位相変化を表すスローネスベクトルを、各正則化された多角形に割り当てることによってスローネス値の初期推定値を非反復的に計算することと、
前記プロセッサが、前記スローネス値の前記初期推定値を使用することにより、前記LAT値及び前記確率を反復的に計算することと、を含む、請求項7に記載のシステムの作動方法。
【請求項12】
前記電気解剖学的マップを表すことは、前記プロセッサが、前記電気解剖学的マップ上に瘢痕組織を示す伝導矢印をオーバーレイすることを含む、請求項7に記載のシステムの作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、その開示が参照により本明細書に援用される、「ITERATIVE COHERENT MAPPING OF CARDIAC ELECTROPHYSIOLOGICAL(EP)ACTIVATION INCLUDING REENTRY EFFECTS」と題する代理人整理番号1002-1854.1の同日付の米国特許出願に関連している。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、概して、電気生理学的マッピングに関し、詳細には心臓の電気生理学的マッピングの方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
電気生理学的心臓マッピングは、心臓組織の心不整脈の潜在的な原因を特定するためにしばしば使用される。例えば、米国特許出願公開第2017/0281031号は、マルチ電極プローブを生体被験者の心臓内に挿入することと、心臓のそれぞれの位置において同時に、電極からの電位図を記録することと、電位図中のそれぞれの各興奮時間間隔の範囲を定めることと、興奮時間間隔から、電気的伝播波のマップを生成することと、電位図の興奮時間内の局所興奮時間を調整することにより波のコヒーレンスを最大化することと、調整された局所興奮時間を報告することとにより行われる電気解剖学的マッピングを記載している。
【0004】
別の例として、米国特許出願公開第2016/0106376号は、マルチ電極カテーテルを使用して、それぞれが位置データと局所興奮時間(local activation、LAT)データとの両方を含む複数の電気生理学的(EP)データポイントを収集することによって、心臓興奮波面の局所伝導速度を計算することを記載している。任意のEPデータポイントについて、選択されたEPデータポイントと少なくとも2つの追加のEPデータポイントとを含むEPデータポイントの近傍を定義することができる。近傍内のEPデータポイントの位置及びLATをそれぞれ使用して、位置及びLATの複数の平面を定義することができる。位置及びLATの平面の交点から、伝導速度を計算することができる。求められた複数の伝導速度を、例えば三次元心臓モデル上に均一な格子状に配置された複数のベクトルアイコンを表示することにより、グラフィカル表現(例えば電気生理学マップ)として出力することができる。
【0005】
米国特許第6,301,496号は、心臓などの生物学的構造の異常状態を診断する方法であって、生物学的構造の表面上の少なくとも3つのサンプリングポイントの生理学的反応を測定し、その反応に関連するベクトル関数を計算し、そのベクトル関数の表現を表示し、その表現から異常状態を推測するステップを含む方法を記載している。本発明は、心不整脈の診断に特に有用であり、この場合、生理学的反応が電圧であり、そこから局所興奮時間が推定され、ベクトル関数が局所興奮時間の勾配、具体的には伝導速度である。伝導速度の大きさは、瘢痕組織では異常に低いことが予想される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、心腔の入力メッシュの表現、心腔の壁組織上の測定位置の組、及びこれらの位置で測定された局所興奮時間(LAT)のそれぞれの組を受信することを含む方法を提供する。入力メッシュは、正則化された多角形を含む規則メッシュに再メッシュ化される。測定位置の組及びそれぞれのLATは、正則化された多角形にデータ適合される。正則化された多角形について、それぞれのLAT値及び壁組織が瘢痕組織を含むそれぞれの確率は反復的に計算され、瘢痕組織を示す規則メッシュ上の電気生理学的(EP)興奮波が求められる。EP興奮波及び瘢痕組織を含む、規則メッシュ上にオーバーレイされた電気解剖学的マップが表される。
【0007】
いくつかの実施形態では、正則化された多角形は、正則化された三角形を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、LAT値及び確率を反復的に計算することは、LAT値、スローネス値及びEP波の伝播についての方程式の組を反復的に解くことを含む。
【0009】
一実施形態では、確率を反復的に計算することは、瘢痕重み乗数を使用して再計算されたスローネスベクトルを、各正則化された多角形に再割り当てすることを含む。
【0010】
別の一実施形態では、この方法は、測定位置の少なくともいくつかにバイナリタグを付与して、瘢痕の存在及び二重EP電位の存在の少なくとも一方を示すことを更に含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、電気解剖学的マップを表すことは、電気解剖学的マップ上に瘢痕組織を示す伝導矢印をオーバーレイすることを含む。
【0012】
更に、本発明の一実施形態によれば、インターフェースとプロセッサとを含むシステムが提供される。インターフェースは、心腔の入力メッシュの表現、心腔の壁組織上の測定位置の組及びこれらの位置で測定された局所興奮時間(LAT)のそれぞれの組を受信するように構成されている。プロセッサは、入力メッシュを、複数の正則化された多角形を含む規則メッシュに再メッシュ化し、測定位置の組及びそれぞれLATを複数の正則化された多角形にデータ適合させ、正則化された多角形について、(i)それぞれLAT値及び(ii)壁組織が瘢痕組織を含むそれぞれの確率を反復的に計算して、瘢痕組織を示す規則メッシュ上での電気生理学的(EP)興奮波を求めるように構成されている。プロセッサは更に、規則メッシュ上にオーバーレイされた、EP興奮波及び瘢痕組織を含む電気解剖学的マップを表すように構成されている。
【0013】
本発明の別の一実施形態は、心腔の入力メッシュの表現、心腔の壁組織上の測定位置の組及びこれらの位置で測定された局所興奮時間(LAT)のそれぞれの組を受信することを含む方法を提供する。
【0014】
入力メッシュは、正則化された多角形を含む規則メッシュに再メッシュ化される。測定位置の組及びそれぞれのLATは、正則化された多角形にデータ適合される。正則化された多角形について、それぞれのLAT値が反復的に計算されて、EP波のリエントリーを考慮した規則メッシュ上での周期的なEP興奮波の解が求められる。規則メッシュ上にオーバーレイされた周期的なEP興奮波を含む電気解剖学的マップが表される。
【0015】
いくつかの実施形態では、LAT値を反復的に計算することは、リエントリーサイクル長値を含めることによりEP波のリエントリーを記述するように構成された複素数値の方程式の組を反復的に解くことを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、LAT値を反復的に計算することは、LAT値、スローネス値及びEP波の伝播についての3つの線形方程式の組を反復的に解くことを含む。
【0017】
一実施形態では、LAT値を反復的に計算することは、近接重み乗数を使用して再計算されたスローネスベクトルを、各正則化された多角形に再割り当てすることを含む。
【0018】
更に、本発明の一実施形態によれば、インターフェースとプロセッサとを含むシステムが提供される。インターフェースは、心腔の入力メッシュの表現、心腔の壁組織上の測定位置の組及びこれらの位置で測定された局所興奮時間(LAT)のそれぞれの組を受信するように構成されている。プロセッサは、入力メッシュを、正則化された多角形を含む規則メッシュに再メッシュ化し、測定位置の組及びそれぞれLATを複数の正則化された多角形にデータ適合させ、正則化された多角形ついて、それぞれのLAT値を反復的に計算して、EP波のリエントリーを考慮した規則メッシュ上での周期的なEP興奮波の解を求めるように構成されている。プロセッサは更に、規則メッシュ上にオーバーレイされた周期的なEP興奮波を含む電気解剖学的マップを表すように構成されている。
【0019】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」を図面と併せて考慮することで、より完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態による、心臓の三次元(3D)ナビゲーション及び電気生理学的(EP)信号解析システムの概略的な絵画図である。
図2】本発明の一実施形態による、コヒーレントEP興奮波を計算するための方法及びアルゴリズムを概略的に示すフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態による、図2に記載のプロセスの一部として瘢痕確率を計算するための方法及びアルゴリズムを概略的に示すフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態による、図2に記載のプロセスからEP興奮波マップを生成する方法及びアルゴリズムを概略的に示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態による、EP波のリエントリー及び瘢痕組織を考慮した左心房のコヒーレントEP興奮マップのボリュームレンダリングの概略的な絵画図である。
図6】本発明の一実施形態による、EP興奮波の伝播を示す伝導矢印がオーバーレイされた左心房のコヒーレントEP興奮マップのボリュームレンダリングの概略的な絵画図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
概論
心不整脈は、心拍が不規則な病態の一種である。この種類の病態の中でも重要なグループが、上室性頻拍症(supraventricular tachycardia、SVT)であり、これには心房性頻拍、心房細動、心房粗動及び発作性上室性頻拍が含まれる。SVTでは、上記の名前が示すように、不整脈が心臓の心房から発生する。
【0022】
SVT事象の一部に、瘢痕組織に起因する電気生理学的(EP)障害がある。例えば、非典型的な心房性頻拍事象は、アブレーション関連の瘢痕を持つ患者でしばしば発生する。瘢痕組織の領域では、EPの興奮が完全にブロックされるか、部分的にブロックされる場合がある(遅伝導領域)。これらの領域を、以降「ブロックライン」又は瘢痕領域と呼ぶ。
【0023】
以下に説明する本発明の実施形態は、SVTグループに属する潜在的な不整脈を特定するための反復コヒーレント電気解剖学的(iterative coherent electroanatomical、ICEA)マッピング方法及びシステムを提供する。開示された説明の文脈において、「コヒーレント」とは、伝導速度が周期的かつ連続的である最も良く適合するEP興奮波伝播の記述を導き出すことを意味する。
【0024】
したがって、特定の解剖学的障壁又は瘢痕組織によって興奮がブロックされる瘢痕などの非伝導性の領域を除き、興奮波の方向の急激な変化又は興奮波速度の急激な変化は数学的に許可されない。したがって、心臓EP興奮の連続的かつ周期的な(即ち以下に記載のように興奮波がリエントリーする)フィーチャを正しく捕捉することに加えて、開示されたコヒーレントマッピング方法は、(例えば線などの)あらゆる形態の瘢痕領域を示すEAマップを生成する。
【0025】
開示されたコヒーレントマッピング方法は、上記のように、EP興奮波が、心臓の一方の端から他方の端に移動した後に生理学的障壁(非伝導性の解剖学的構造)を越えて終了するのではなく、心臓内で環状に移動する(即ち周期的なEP興奮波が発生する)リエントリー性頻拍(RT)などの興奮波リエントリーの発生に対処する。EP興奮波が(ECGの連続するピーク間の時間などの)一定のサイクル長で連続的に伝播する場合には、心腔内の波の伝播は、あるサイクルの「終わり近くの(late)」波面が次のサイクルの「最初の方の(early)」波面と交わるリエントリーサイクル全体にわたり得る。その結果、これらの波面が時間的に近接しているにもかかわらず、1サイクル長離れた誤った局所興奮時間(LAT)が領域に割り当てられる可能性がある。
【0026】
開示されたICEA方法の実施形態は、波のリエントリーを考慮することによって、EAマップにおけるリエントリーに起因するアーチファクトを克服することから、ICEAはほとんどの種類の不整脈で機能するように設計されているが、いくつかの実施形態では、開示された方法は心房粗動(atrial flutter、AFL)の症例及び他のマクロリエントリーの症例向けに最適化されている。この方法で得られる、例えばAFLの存在のために典型的には異常なEP活動を示す心腔のEAマップは、そうでなければ、即ちEP波リエントリーを考慮していないモデルであれば引き起こされる、リエントリーが関与する(以下の記載の)「レインボー」アーチファクトを伴わずに、そのような異常なEP活動を表す。したがって、そのような「レインボー」アーチファクトは、開示されたICEAマッピング方法を使用することによって解消される。
【0027】
いくつかの実施形態では、開示されたモデルは、心腔の入力メッシュの表現、心腔の壁組織上の測定位置の組及びこれらの位置で測定されたLATのそれぞれの組を受信する。また、位置及びそれぞれのLAT値を、以降「データポイント」と称する。プロセッサは、入力メッシュを、以降「面」とも称する三角形などの正則化された多角形を含む規則メッシュに再メッシュ化する。いくつかの実施形態では、プロセッサは、測定されたデータポイントの組の正則化された多角形へのデータ適合を実行する。
【0028】
最初の反復コヒーレント解が求められた後に、そうでなければ連続的であるICEAマップの不連続性を示す情報が使用される。例えば、プロセッサは、正常組織領域、瘢痕組織領域又は二重電位の組織領域を示すデータポイントのユーザ提供のタグ付けを利用する。開示された説明においては、二重EP電位は、心房などの心腔の組織壁上で記録された細分化された多成分の電位図で特定可能な特定の二重スパイクとして定義される。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態では、プロセッサは、各面(即ち三角形)に、電気的に非伝導性の領域、即ち瘢痕組織である確率を更に割り当てる。確率は、マップ上の測定ポイントが正常、瘢痕又は二重電位のいずれの測定結果であるのかを考慮することにより(自動的に又はユーザによって手動で)割り当てられる。割り当ては、LATパターン及びスローネス値を考慮することを更に含んでもよい。スローネスは、2つの隣り合う面を結ぶ測地線に沿ったEP信号速度ベクトルの大きさの逆数であり、方向が以下に記載のように速度ベクトルと同じであるベクトルである。
【0030】
ある面に非伝導性である高い確率が割り当てられると、緩やかなスローネス連続性制約条件及び緩やかな境界速度制約条件が適用され、瘢痕組織の存在の可能性を考慮したマップが生成される。(ブロックラインを含む)遅伝導の領域は、相互に対向する伝播ベクトル(即ちそれらの間にブロックラインがあることを示すICEAマップ上の逆平行の伝導矢印)を有する興奮波によって更に特定され、これらの領域では伝播ベクトルが瘢痕の周囲を周回し、非伝導性の組織を示す。一実施形態では、EP信号の振幅が小さい位置に、伝導障壁の一部である高い確率が割り当てられる。
【0031】
プロセッサは、LAT値及び各面が伝導性であるのか又は瘢痕領域の一部であるのかの確率(即ち重み)を反復的に計算することで、瘢痕領域の表示を含む規則メッシュ上でのEP興奮波を推定する。反復的に計算された重みは、ある面が瘢痕である可能性を増加又は減少させるデータを推定し、各面の計算された瘢痕確率を出力する。その後、瘢痕重み(即ち瘢痕確率)は、ブロックライン領域の連続性の方程式の強度を低下させる乗算重みとして線形方程式に組み込まれる。同じ乗算重みにより、スローネスに対する制約も軽減される。これにより、ブロックライン領域における解は(例えば突然になど)より自由に変化することが可能となる。プロセッサは、EP興奮波が瘢痕領域に遭遇しない限り連続的であるという仮定に基づいて反復計算を実行する。
【0032】
次いで、プロセッサは、例えば瘢痕の存在のために典型的には少なくとも部分的に異常なEP興奮波を記述するコヒーレント興奮マップを生成する。一実施形態では、プロセッサは、生成されたICEAマップを、以下に記載の「レインボーアーチファクト」を引き起こす「Early Meets Late」への表示依存度を抑えるために、周期的なカラースケールを使用して表す。別の一実施形態では、コヒーレントEP興奮マップは、EP興奮波の正常な伝播又は異常な伝播を示す伝導矢印を含む。
【0033】
典型的には、プロセッサは、プロセッサが上記のプロセッサ関連のステップ及び機能のそれぞれを実行することを可能にする特定のアルゴリズムを含むソフトウェア内にプログラムされている。
【0034】
開示された反復コヒーレントEPマッピング方法は、医師が複雑な不整脈を容易かつ確実にマッピング及び解釈し得るマッピングシステムを作成する。したがって、開示されたシステム及び方法は、後続のカテーテルアブレーションなどの侵襲的心臓治療の成功率を高め得るツールを提供する。
【0035】
システムの説明
図1は、本発明の一実施形態による、三次元(3D)ナビゲーション及び電気生理学的(EP)信号解析システム20の概略的な絵画図である。システム20は、実質的に任意の生理学的パラメータ又はそのようなパラメータの組み合わせを解析するように構成され得る。本明細書において、例として、解析される信号は、心臓内及び/又は心臓外(体表)心電図(electrocardiogram、ECG)の電位-時間関係であると想定される。かかる関係を完全に特性化するために、例えばLATマップ生成中に行われるように、様々な位置において、時間内に相互に信号を参照する必要がある。時間参照は、例えばECG基準信号の各QRS群の開始(即ち各心拍の開始)などの(例えば時点などの)基準時間と比較して測定することによって実現される。一実施形態では、基準信号は、冠状静脈洞内に配置されたカテーテルから受信される。SVTの場合、基準信号は心房活動を表し、その頻度は心室活動の頻度の2倍又は3倍になり得る。LATマップを生成するための方法は、前述の米国特許第9,050,011号に記載されている。
【0036】
簡潔性及び明瞭性のために、以下の説明は、特に記述のない限り、システム20がプローブ24を使用して心臓34の実際の電気活動を測定する調査手順を想定する。プローブの遠位端32は、電極22を有すると想定される。測定した信号は、特に、患者26の心臓34の壁組織の少なくとも一部のLATマップを作成するために使用される。
【0037】
典型的には、プローブ24は、システム20を使用する医師28によって実施されるマッピング手技の間に患者26の身体の中に挿入されるカテーテルを備える。手技中、患者26は、接地電極23に取り付けられると想定される。加えて、電極29が、心臓34の領域にて患者26の皮膚に取り付けられると想定される。
【0038】
一実施形態では、プローブ24は、心腔の一部分の上を移動する際に局所的な心内心電図(ECG)を取得する。異常なEP興奮波がカテーテル電極の下を通過した時点で、測定された心内ECGトレースのフィーチャの一部が注記される。これらの時点で、プローブ24の位置も記録される。
【0039】
システム20は、システムプロセッサ40によって制御されてもよく、システムプロセッサ40は、メモリ44と通信する処理ユニット42を含む。いくつかの実施形態では、システムプロセッサ40に含まれているメモリ44が、患者26の心臓34の壁組織の少なくとも一部のLAT及び/又は電圧マップ62を記憶する。プロセッサ40は、典型的にはコンソール46内に載置されており、コンソール46は、医師28がプロセッサと対話するために使用する典型的にはマウス又はトラックボールなどのポインティングデバイス39を含む操作制御部38を備える。
【0040】
プロセッサ40(特に処理ユニット42)は、不整脈をモデル化するように、プローブ追跡モジュール30と、ECGモジュール36と、EP興奮解析モジュール35とを含むソフトウェアを実行して、システム20及び/又はEP興奮解析モジュール35を動作させ、(例えばメモリ44に記憶されているLAT又は調整されたLATマップ62を使用して)開示された解析の少なくとも一部を実行する。
【0041】
ECGモジュール36は、電極22及び電極29からの実際の電気信号を受信するよう連結されている。モジュールは、実際の信号を解析するように構成され、ディスプレイ48上に、典型的には経時的に変動するグラフィカル表現の標準的なECG形式で、解析の結果を提示することができる。
【0042】
プローブ追跡モジュール30は、通常、患者26の心臓内で、プローブ24の遠位端32の位置を追跡する。追跡モジュールは、当該技術分野において既知であるいかなるプローブ位置追跡方法を使用してもよい。例えば、モジュール30は、磁場に基づく位置追跡サブシステムを操作し得る。(簡潔性のために、このようなサブシステムの構成要素は図1には示していない)。
【0043】
代替的に又は追加的に、追跡モジュール30は、電極23と電極29と電極22との間のインピーダンス、並びに、プローブ上に位置し得る他の電極に対するインピーダンスを測定することによって、プローブ24を追跡してもよい。(この場合には、電極22及び/又は電極29は、ECG信号と位置追跡信号の両方を提供してもよい)。Biosense Webster(カリフォルニア州アーバイン)社により製造されるCarto3(登録商標)システムは、磁場位置追跡と位置追跡に関するインピーダンス測定の両方を位置追跡に使用する。
【0044】
プロセッサ40は、追跡モジュール30を使用して遠位端32の位置を測定することができる。加えて、追跡モジュール30とECGモジュール36の両方を使用することによって、プロセッサは、遠位端の位置だけでなく、これらの特定の位置において検出される実際の電気信号のLATも測定することができる。上述のように、個々の電極22からの電気追跡信号を、各電極の位置が記録されるように磁気追跡信号と組み合わせることができる。改良された電流位置特定(Advanced Current Location、ACL)と名付けられたこのようなハイブリッド(即ち磁気/電気)追跡システム及び方法は、Biosense-Webster Inc.が製造し、その開示が参照により本明細書に援用される米国特許第8,456,182号に詳細に記載されているCARTO(登録商標)システムなどの様々な医療用途で実装されている。
【0045】
プロセッサ40によって実行される操作の結果は、ディスプレイ48上で医師28に表示され、このディスプレイ48は、典型的には、医師に対するグラフィックユーザインターフェース、電極22によって感知されたECG信号の視覚的表現、及び/又は検査中の心臓34の画像若しくはマップを表す。
【0046】
プロセッサ40によって実行されるソフトウェアは、例えば、電子的な形でネットワークを介してプロセッサ40にダウンロードされてもよいが、代替的に若しくは付加的に、ソフトウェアが磁気メモリ、光学メモリ若しくは電子メモリなどの非一時的な有形の媒体に提供及び/又は記憶されてもよい。特に、プロセッサ40は、以下で説明するように、プロセッサ40が開示されたステップを実行することを可能にする専用のアルゴリズムを実行する。
【0047】
リエントリー及び瘢痕効果を含む心臓EP興奮の反復コヒーレントマッピング
図2は、本発明の一実施形態による、コヒーレントEP興奮波を計算するための方法及びアルゴリズムを概略的に示すフローチャートである。本実施形態によるアルゴリズムは、プロセッサ40によって実行される。
【0048】
次に、図2のフローチャートを使用してICEA方法のステップ80~84を詳細に説明する前に、これらのステップの概要を説明する。いくつかの実施形態では、開示された方法は、例えば心臓の心房をモデル化し得る入力三次元(3D)メッシュ(即ち形状)を受信することを含む。3D入力メッシュは、三角形(即ち三角形のメッシュ)などの多角形を含む。本発明のいくつかの実施形態では、プロセッサは、入力メッシュを、正三角形(以降「面」とも称する)を含む規則メッシュに再メッシュ化する。規則メッシュは、EP波の連続性を維持する線形方程式の組を定義して反復的に解くことを可能にし、更に以下で説明するように計算の労力も軽減可能とする。
【0049】
開示された方法は、心房の壁組織上の測定位置と、これらの位置で測定された局所興奮時間(LAT)のそれぞれの組とを含むデータポイントの組を受信することを更に含む。いくつかの実施形態では、データポイントの組は、PENTARAY(登録商標)又はLASSO(登録商標)などのマッピングカテーテルを使用するCARTO(登録商標)などのカテーテルベースの電気解剖学的マッピングシステムを使用して測定される(システム及びカテーテルは、両方共にカリフォルニア州アーバインのBiosense-Webster製)。
【0050】
いくつかの実施形態では、開示された方法は、入力として、高速解剖学的マッピング(Fast Anatomical Mapping、FAM)技術を使用して得られた解剖学的マップを使用する。プロセッサ40が解剖学的構造自体以外のマップ内の情報を破棄することにより、開示された方法がより有益な電気解剖学的マップを入力解剖学的マップとして使用してもよい(例えば、心腔の入力電気解剖学的マップのうち使用されるものは心腔形状の元のメッシュである)。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態では、プロセッサは、受信したデータポイントの一部(即ち測定位置及びそれぞれのLAT)を破棄するか、及び/又は、データポイントが開示された規則メッシュと一致するように、データポイントの一部に対してデータ適合を実行する。
【0052】
一実施形態では、プロセッサ40は、組織近接度指数(Tissue Proximity Index、TPI)と呼ばれる技術を使用して、マッピング電極が組織と物理的に接触していない間に取得されたと判定されたデータポイントを破棄する。
【0053】
別の一実施形態では、プロセッサは、そうでない場合に規則メッシュによって提供される解剖学的構造の現実的な記述に適合しない測定位置を調整する。このようにして、開示されたコヒーレントマッピング方法は、カテーテルが房室壁に力(EP信号を取得する電極を組織と良好に接触させるために加えられる力)を加えて形状を変形させることに起因するか、又は房室壁上のカテーテル位置の変更とは無関係の呼吸運動に起因する誤差などの、カテーテルで測定された位置の誤差を克服する。
【0054】
次に、プロセッサは入力、即ち測定位置及びそれぞれのLAT、並びに三角形の面に再メッシュ化された入力メッシュを使用する。一実施形態では、開示されたモデルは、2つの隣り合う面間のEP興奮波が、面の中心を結ぶ形状上の測地線に沿って、そのスローネスベクトルの方向に伝播すると想定する。したがって、面の中心間の時間差は、これらの間の測地線距離にスローネスベクトルを乗算したものである。
【0055】
このモデルは更に、EP興奮波が連続的であり、隣り合う面は同様のスローネスベクトルを有する必要があると想定する。このモデルは更に、EP興奮波の伝導速度が予想される最小速度と最大速度との間(即ち正常な心筋で知られている速度範囲内)であると想定する。
【0056】
開示されたモデルは、上記の仮定を境界条件下での線形方程式の組で定式化する。プロセッサは最初に方程式を非反復的に解いて、形状の上にオーバーレイされたコヒーレントEP興奮波の初期推定値を求める。データの収集に伴ってEP興奮マップが変化し続けるように、ICEAモデルが局所速度ベクトルなどの裏付けとなるデータの蓄積に基づいて再計算されてもよい。一実施形態では、開示されたICEA計算は、通常はすべてのEPデータが取得された後にユーザによって開始される。新たなEPデータを追加する場合には、ユーザは最初の非反復的な解を含めて最初から計算を再開する。
【0057】
プロセッサは次に、最初の解を使用して、各面の測定されたLAT値が、隣り合う面のLAT値に、測定ポイントから隣り合う面の中心までの距離の関数として影響を与えるという更なる仮定に基づき、「最適な」EP興奮を見出すことを目的とした最小二乗法で線形方程式の組を反復的に解く。反復計算により、導き出されたEP興奮波を形状の上にオーバーレイしたものから構成される大域的最適解が得られる。典型的には数回までの反復回数は、予め定められた反復回数を超えて解に明らかな変化が生じないように、開発段階での多数のEAマップの目視検査に基づく予め設定されたパラメータである。ユーザが計算を開始させ、典型的には数秒以内に完全なICEAマップを受信する。
【0058】
プロセスは、プロセッサ40が方法のための入力をアップロードするアップロードステップ80で始まり、入力が(i)心腔壁を表す(三角形の)3Dメッシュ、(ii)(例えば位置及びLATなどの)測定されたデータポイントの組、(iii)挿入図280に示す心房粗動のサイクル長tclなどのECGトレース中に注記されたサイクル長及び、(iv)瘢痕や二重電位などのタグ付けされた位置を含む。いくつかの実施形態では、例えば、以下の計算がリエントリーを考慮しない場合又は瘢痕関連の計算を含まない場合には、ステップ(iii)又は(iv)は不要である。
【0059】
次に、方程式構築ステップ81において、プロセッサ40は、メッシュ内の各面(即ち三角形)に対して2つの変数、LAT値及びスローネスベクトルを割り当てる。2つの変数の方程式の組を構築するために、方法は2つの変数に影響を与える3つの仮定を行う:
1.EP興奮波は連続的であり、隣り合う面は同様のスローネスベクトルを有する必要がある。
2.所定の面で測定されたLAT値は、隣り合う面の計算されたLATに、測定位置から隣り合う面の重心までの距離の関数として影響を与える。
3.興奮波が開示された伝播の方程式を維持し、波が複数の面の間をそのスローネスベクトルの方向に伝播し、面の中心間の時間差が、これらの間の測地線距離にスローネスベクトルを乗算したものである。
【0060】
上記の仮定から線形方程式の組が導き出される:
【0061】
【数1】
方程式1(I)中、以下「近接重み」とも称される重み
【0062】
【数2】
は、面jの測定されたLAT値iが計算されたLAT値に及ぼす相対的な効果を表し、φは、求められるLAT値を変数として有する(リエントリーを考慮した)周期的なEP興奮波を表す周期的な複素関数である。
【0063】
方程式1中、方程式(I)は、使用される測定位置と面の位置との間の距離によって指数関数的に減衰し、規則的な形状からの距離が増加するのに伴って影響が減少する
【0064】
【数3】
を使用して、面iでのLAT測定を面jのLAT値に関連付ける。
【0065】
【数4】
は、典型的には約数ミリメートルの所与の距離を超えるとゼロに設定されるため、これらの方程式のいくつかはヌル方程式である。このように、各EP測定は、規則的な形状からの距離に比例する相対的な効果を有し、各測定が隣り合う面に影響を及ぼす。規則的な形状に最も近い測定ポイントは、正確である可能性が高くなる。
【0066】
方程式(II)は、後述のように、回転行列R(j,i)によってリエントリーを処理するために複素数で与えられるスローネスベクトル
【0067】
【数5】
を接続する。
【0068】
方程式(III)は、2つの隣り合う面の間を伝播する波は、これらの面間の距離によって関連付けられているスローネス及びLATを有するべきであることを記述する伝播の方程式である。方程式は、2つの隣り合う面に関して記述されることから、形状内のすべての面に関連付けられたすべてのLATとスローネスベクトルとの間の関係を反映する。
【0069】
方程式1(I)~(III)は、以下の関係を適用する:
【0070】
【数6】
【0071】
方程式2の関係は、すべての時間スケールが短い
【0072】
【数7】
であり、仮定Sin(x)≒x及びCos(x)≒1が成り立つと仮定する。方程式2のTclは、リエントリーのサイクル長である。
【0073】
時間の関数としての上記の周期的な波の複素数形式は、興奮波が一定のサイクル長で連続的に伝播する上記のリエントリーの発生を考慮している。
【0074】
方程式1(II)は連続伝播の方程式(相似)であり、隣り合う2つの面が同様のスローネスベクトル
【0075】
【数8】
を持つ必要がある。スローネスベクトル
【0076】
【数9】
は、
【0077】
【数10】
である。R(j,i)は、隣り合う2つの面IとJとの間の回転行列である。
【0078】
方程式1(III)は、面の間の周期的なEP興奮波の伝播の方程式である。波面が移動した距離は、2つの面の重心間の距離である測地線距離の射影、
【0079】
【数11】
である。
【0080】
最初の方程式解法ステップ82で、プロセッサ40は、方程式1を非反復的に解いて、EP興奮波の初期推定値を求める。一実施形態では、方程式1は最小二乗法で解かれる。この解法は、SIAM出版社から出版されているTrefethen、LN、Bau、D.著「Numerical Linear Algebra」(1997)の172~178ページで説明されているように、コレスキー分解とそれに続く前方及び後方置換を含む数値線形代数からの数学的手法を使用して実行される。
【0081】
一実施形態では、方程式1の(I)(II)(III)の項が、単一の疎行列方程式に組み込まれる。各部分方程式(即ち項)に異なる最適化重みを割り当てて、様々な影響因子のバランスをとることが可能である。これらの最適化重みが、反復間で異なっていてもよい。これらの最適化重みは、反復回数のような予め設定されたパラメータでもある。
【0082】
初期推定値において、スローネスベクトルの物理的意味は、距離に伴う時間の複素位相の変化を表す。これは、距離に伴う時間の変化を表す通常のスローネスベクトルとは対照的である。スローネスが複素数であるため、物理的な定義が異なり、幾分不自然である。
【0083】
複素領域内で方程式1を解くことで、自然な方法で周期的な興奮に対処し、Early Meets Late効果による複雑さを解消することができる。スローネスの物理的に有意な表現を得るには、反復的な方程式の組を構築して解く追加のステップが必要である。
【0084】
複素関数を解くことで、周期的な興奮の簡単な計算が可能になるが、スローネスベクトルの物理的な意味を保持するには、複素数のスローネスを実数値に戻す必要があることに留意すべきである。したがって、最終的に、
【0085】
【数12】
【0086】
【数13】
に変換される。これは、実変数
【0087】
【数14】
Re(φ),Im(φ)についての方程式1を使用して行われる。
【0088】
本開示の方法は、反復的な方程式構築ステップ83で、ステップ82で求められた初期推定値を使用して方程式1を反復的に解くために、
【0089】
【数15】
φについて:
【0090】
【数16】
を使用して方程式1を線形化し、線形化された方程式1を得る:
【0091】
【数17】
【0092】
一実施形態では、実数の線形化された方程式1、即ち方程式4は、線形変数Δφ
【0093】
【数18】
について解かれる。定数
【0094】
【数19】
は、前の反復で求められた解である。最初の反復では、
【0095】
【数20】
は、複素数LATと、ステップ82で求められた初期推定値の実数のスローネスとの解によって初期化される。
【0096】
各面の伝導速度は、測定された興奮時間、計算された伝播ベクトル及び各面の中心間の既知の距離に基づいて計算される。いくつかの条件下では、線形解により、ゼロに近いスローネスベクトルの領域(「ソース」又は「シンク」とも呼ばれる)が生成される場合がある。このような領域は、無限の速度を持つ位置を意味するため、現実的ではない。EP伝導速度を何らかの正の生理学的定数aに近づけるために、制約が加えられる:
【0097】
【数21】
【0098】
方程式5は、aからの大きな速度(小さなスローネス)の逸脱に「罰則を科す」。テイラー展開後に、
【0099】
【数22】
Δφ上の次の制約の組が求められる:
【0100】
【数23】
【0101】
方程式6による制約は、制約が
【0102】
【数24】
などの平方根の式を含むために、
【0103】
【数25】
の線形形式で記述することができないことから、線形の最初の解が見つかった後にのみ追加される。方程式をデルタ形式で記述する場合には、制約を
【0104】
【数26】
へとテイラー展開し、線形形式で記述することができる。
【0105】
次に、反復解法ステップ84で、プロセッサ40が、変数Re(Δφ),Im(Δφ),
【0106】
【数27】
を含む方程式4を、最初に再構成部分の表面上にスローネスを投影し、ステップ82で説明した方法を使用して行列形式で方程式を記述する(即ち、線形ベースを方程式4をより簡単に解くことができるものへと変更する)ことによって解く。
【0107】
ステップ81~84では、方程式4が、興奮波の連続伝播を仮定して解かれる。解に瘢痕情報を組み込むには、瘢痕を検出し、EP興奮波(即ち解)にブロックライン及び非伝導領域で不連続性を生じさせるためのフレームワークが必要である。
【0108】
開示されたコヒーレントマッピング方法は、解を非コヒーレント(即ち、一貫性がないか又は不連続)にする制約に、より小さい重みを割り当てる。したがって、プロセッサが無効であると判断した測定LAT値(即ち外れ値のLAT値)は、反復中にプロセッサによって削除される。この方法は、反復の解ベクトルを受信した後に新たな重みを割り当てる。LAT制約の場合、このプロセスは一貫性のないポイントを除外する。隣接物の制約の場合、このプロセスは一貫性のないエッジを削除する。
【0109】
次に、図2のフローチャートを使用してICEA方法のステップ85~90を詳細に説明する前に、これらのステップの概要を説明する。フレームワークも反復的方法に基づいて構築されるが、ここでは瘢痕重み導入ステップ85瘢痕(面)重み
【0110】
【数28】
が導入され、ステップ87~100で反復的に計算される。重みの範囲は[0.05,1]で、0.05は瘢痕を示す。
【0111】
反復的に計算された重みは、ある面が瘢痕である可能性を増加又は減少させるデータを推定し、各面の計算された瘢痕確率を出力する。次に、瘢痕重み(即ち瘢痕確率)
【0112】
【数29】
が、ブロックライン領域の連続性の方程式の強度を低下させる乗算重みとしてステップ87に組み込まれる。方程式6によって設定されたものなどのスローネスノルムに対する制約も、同様に、乗算重みによって軽減される。これにより、解がブロックライン領域でより自由に変化することが可能となる。
【0113】
まず、伝播の方程式4(II)に、エッジ(I,j)に隣り合う2つの面のそれぞれの2つの重み
【0114】
【数30】
の最小値を乗算する:
【0115】
【数31】
【0116】
これは、面の間の伝導が、これらの面のいずれかがすでに瘢痕として示されている場合(即ち小さな
【0117】
【数32】
を持っている場合)には遅いという仮定を反映している。
【0118】
したがって、瘢痕が検出された領域では、連続伝播の方程式40(II)の重みが小さくなる。これにより、隣り合う面間のスローネス類似性の要件が緩和され、瘢痕のある領域での波の伝播が不連続となり得る。
【0119】
次に、正規化されたスローネス及び速度の方程式(方程式6)に、計算された重みが乗算される。したがって、瘢痕面のある目標速度のサイズの要件が軽減される:
【0120】
【数33】
【0121】
瘢痕確率が方程式に統合された後に、瘢痕重み統合ステップ87で、プロセッサ40が修正された方程式4を解き、LAT及びスローネス出力ステップ89で新しい解が提示される。次に、ステップ100で、図6で説明したコヒーレントEP興奮マップなどの十分に正確なマップを生成するために検証される所定の反復回数まで、新たなより正確な瘢痕確率が計算される。
【0122】
図3は、本発明の一実施形態による、図2に記載のプロセスの一部として瘢痕確率を計算するための方法及びアルゴリズムを概略的に示すフローチャートである。図3は、ステップ100に含まれる、EP興奮波の解にブロックライン及び非伝導領域のラインで不連続性を生じさせ得る複数の異なるモジュール(即ち計算サブステップ)を記載している。本実施形態によるアルゴリズムは、プロセッサ40によって実行される。
【0123】
ステップ100は、メッシュのある三角形の面が瘢痕を表す可能性を増加又は減少させる各面ごとのデータを推定する計算モジュール(即ちステップ)91~98を含む。ステップ91~98のそれぞれの出力は、0~1の範囲の重みである。重みは[0,1]の範囲内にあり、1は正常な面を示し、0は瘢痕又は「遅伝導」面を示す(現在のバージョンではこれら2つに区別はない)。
【0124】
以下で説明するように、ステップ92~96で計算された重みは、コスト関数の行列形式で配列され、ステップ99は、コスト関数を最小化することにより、瘢痕重み
【0125】
【数34】
を計算する。ステップ99において、プロセッサ40は、ステップ91~98で収集された情報を各面の複合確率を結合させたものに統合することにより、瘢痕重み
【0126】
【数35】
を計算する。
【0127】
境界領域の重み付けステップ92で、プロセッサ40は、近傍の測定からのLATの分散の勾配を示す境界領域の面の重み
【0128】
【数36】
を計算する。急勾配の分散が、瘢痕に隣接する領域を示してもよい。
【0129】
大きなスローネス重み付けステップ93で、プロセッサ40は、面が大きなスローネスベクトルを有するかどうかを示すスローネス重み
【0130】
【数37】
を計算する。このことは、面が瘢痕である確率を高くする。
【0131】
LAT関連重み付けステップ94で、プロセッサ40は、測定されたLATと計算された面LATとの間の差を重み付けする。これは測定面重みと呼ばれ、
【0132】
【数38】
で表される。重み
【0133】
【数39】
は、測定ポイントiと面jとの間の「リンク強度」を反映している。
【0134】
瘢痕関連重み付けステップ95で、プロセッサ40は、瘢痕測定ポイントiと面jとの間の「リンク強度」を反映する重み
【0135】
【数40】
を計算する。面iと面jとの間の空間距離が増加すると、重みは減少する。
【0136】
単一瘢痕密度重み付けステップ96で、プロセッサ40は、単一の瘢痕測定値が規則的な(非瘢痕)測定値に囲まれている領域を示す単一瘢痕密度重み
【0137】
【数41】
を計算する。この重みは、瘢痕の表示があまりにもまばらであるために現実的には有効な測定値ではない面の瘢痕確率を低くするように定義されている。このことは、近傍の瘢痕測定値と近傍の非瘢痕測定値との比を調べることによって行われる。非瘢痕の測定値及び孤立した瘢痕測定値が多数ある場合、このモジュールから生成される重みが、この面が瘢痕である確率を低くする。
【0138】
ステップ92~96で計算された複数の異なる重みは、各面の瘢痕確率を計算する瘢痕情報推定統合モジュール99によって処理される。次に、図2に示すように、瘢痕確率が、ブロックライン領域の連続性の式の強度を低下させるために反復計算のステップ87に組み込まれる。更に、スローネスノルム及び速度ノルムの式の相対強度も、上述のように低減される。これにより、解がブロックライン領域でより自由に変化することが可能となる。
【0139】
ステップ99は、以下の規則をコスト関数に定式化することにより、各面の瘢痕確率重みを計算する:
1.瘢痕/遅伝導領域が連続している。
2.瘢痕タグが付けられた測定値は、近くに瘢痕があることを意味する。
3.近傍に多くの測定ポイントがある領域は伝導性である。
4.大きな境界領域の重み又は二重電位のタグが付けられた測定値は、瘢痕の境界を示す。
5.周辺情報が少ない、つまり、測定ポイントが近傍にない領域は、瘢痕である確率が高い。
6.瘢痕タグが付けられた測定値に近接し、かつスローネスの大きな領域は、瘢痕である確率がより高い。
【0140】
求められたコストは、二次項と線形項の和として定義される:
【0141】
【数42】
式中、
【0142】
【数43】
はすべての面の重みのベクトル、H(i,j)Hは面の重みの対を含むコスト項の対称行列である:
【0143】
【数44】
【0144】
方程式9の二次コスト項は、次のように定義される:
【0145】
【数45】
【0146】
Hは、瘢痕確率の連続性を反映し、隣り合う面が同様の瘢痕確率を有するべきであることを意味している。これは、断片化された瘢痕領域を繋げることを目的としている。
【0147】
Lは、各面に関連する線形コスト項のベクトルである。これは、矛盾する2つの項で構成されており、一方の項には瘢痕を示すすべての情報が含まれ、他方の項には正常な面を示すすべての情報が含まれる。
【0148】
次に、線形コストベクトルは次のように定義される:
【0149】
【数46】
【0150】
各面の線形項
【0151】
【数47】
は、瘢痕面又は正常な面の存在を示すものであるか、又はステップ92~96で計算された重みの関数である。fは、[0~1]の間の値を持つ正規化係数である。コスト関数が面iに対して正の場合、これはスコアが瘢痕を示していることを意味し、プロセッサ40はその面に低い重みを割り当てることでスコアを最小化するように動作する。コスト関数が負の場合、これは正常な面を示し、プロセッサ40はその面に高い重みを割り当てることで重みを最大化するように動作する。これは、線形コスト項を次のように記述することにより行われる:
方程式13 Clinear=(wsf
【0152】
この項は、最終コスト関数を求めるために二次項(方程式11)に追加される。オプティマイザが、各面ごとに定義された重みwsfを求める。重みwsfは、1の場合は伝導面を示し、0の場合はブロックを示す。
【0153】
例えば、fが0.5であると仮定すると、面の瘢痕スコア及び正常スコアである
【0154】
【数48】
が1、
【0155】
【数49】
が0.2の場合、Lはゼロよりも大きい0.4となる。この場合、オプティマイザは、総コスト関数を最小化するために、この面に対してゼロに近い重みwsfを割り当てる。ゼロに近い重みwsfは、瘢痕を示す。逆に、
【0156】
【数50】
が0で、
【0157】
【数51】
が1である場合には、L=-1となり、コスト関数が負となって、オプティマイザは、正常な面を示す1に近いwsfを割り当てる。負の値と正の値とを使用することで、オプティマイザは、正常な面に1に近い値を割り当て、瘢痕のある面に0に近い値を割り当てることが可能となる。
【0158】
プロセッサ40は、二次計画法を使用して行われる総コスト関数
【0159】
【数52】
を最小化することにより、ベクトル
【0160】
【数53】
の重みを導き出す。次のように問題を定式化する:
【0161】
【数54】
【0162】
「Interior-point methods」(Journal of Computational and Applied Mathematics、Volume 124、issues(1-2)、281~302ページ(2000)でFlorian A.Potra及びStephen J.Wrightにより説明されているように、この問題は内点凸最適化を使用して解決される。このモジュールの出力は、面iが正常にステップ87に組み込まれる確率である瘢痕面の重み
【0163】
【数55】
である。
【0164】
図3に示す例示的なフローチャートは、単に概念を明確化する目的のために選ばれたものである。例えば、表現を簡単にするために、実装の更なる詳細は省略されている。
【0165】
図4は、本発明の一実施形態による、図2に記載のプロセスからEP興奮波マップを生成する方法及びアルゴリズムを概略的に示すフローチャートである。本実施形態によるアルゴリズムは、入力メッシュ受信ステップ299で、プロセッサ40が心腔の三次元メッシュ表現299aを受信することから始まるプロセスを実行する。図示するように、メッシュ299aaは不規則な三角形の面を含む。典型的には前述のFAM技術によって生成される、大きい辺と小さい辺とを持つ三角形を含むメッシュ299aなどのメッシュは、開示された方法によって行われる幾何学的近似でエラーを引き起こす。次に、入力メッシュ正則化ステップ300で、プロセッサ40は入力メッシュ299を再メッシュ化して、より規則的なメッシュ300aを生成する。再メッシュ化は、開示された方法によって用いられる計算ステップをEP波推定の必要性に応じて最適化する目的でも行われる。一実施形態では、メッシュ解像度(三角形の数)は、生成される方程式の数を(例えば所定のサイズの行列で行われるように)決定する。ステップ300は、図2及び図3で説明した計算の労力を、方程式の数を少なくすることで削減する。
【0166】
次に、メッシュデータ適合ステップ302で、プロセッサ40は、再構成部分を損なわずに、三角形の中心の一部を仮想的に変換して、近傍の測定位置により良好に適合させる。ステップ302は、メッシュが作成されるデータ取得中に、マッピングカテーテルが心房壁を押して「膨張した」再構成形状を生成する傾向があることから必要である。測定の多くが再構成部分から離間しているために、測定位置を心腔の形状に関連付ける際に不確実性が生じる。
【0167】
次に、プロセッサ40は、対話式計算ステップ90で、専用アルゴリズムを使用して、図2及び図3に記載の計算を実行し、最適化された三角形メッシュの各面について、LAT、スローネス及び瘢痕確率の値を導き出す。典型的には、瘢痕重みは、LAT及びスローネス値が更新される都度更新されるわけではない。
【0168】
次に、投影ステップ304で、プロセッサ40は、ステップ302で求められた値を元のメッシュ299a上に投影する。上述のように、EP興奮波は単純化されたメッシュについて計算される。それでも、開示された方法は、元のメッシュから求められたコヒーレントマップを提供する。マップは、低解像度のメッシュの場合には、面の各中央に定義される。プロセッサ40は、高解像度メッシュから面の法線方向に、内向き及び外向きに光線を発射することにより、(入力マップ299aの)高解像度マップの面を低解像度メッシュ上のポイントにマッピングする。
【0169】
低解像度メッシュに当たる光線が1つだけの場合、プロセッサ40はそのポイントを低解像度メッシュ上の関連ポイントとして選択する。両方向の光線がメッシュに当たった場合には、プロセッサ40は最も近いポイントを選択する。
【0170】
次に、プロセッサ40は、光線が当たったポイントで低解像度メッシュの面内のLAT値を補間し、この値を高解像度メッシュの面に割り当てる。一実施形態では、プロセッサ40は、取得されたデータポイントの数が所定の必要な値よりも少ない組織領域のLAT情報を省略する。したがって、EPマッピングがもたらすマッピングがあまりにもまばらであるこのような組織領域は、得られた視覚化では「グレーアウト」される。
【0171】
ステップ304により、プロセッサ40は、図6に記載されているコヒーレントEP興奮波マップ400を生成する。
【0172】
不整脈の粗動を理解するための重要なステップは、メッシュ全体の波のサイクルを表示する機能である。2D画面での3Dメッシュの視覚化には、メッシュの裏側を見ることや、メッシュの前方部及び遠位部の判断などの困難が伴う。等時図生成ステップ410で、プロセッサ40はマップ400を等時図500へと画像処理する。
【0173】
等時図500は等高線マップ500aである、各等高線は、LATが一定の曲線である。等時図500aを、左心房の前-後(AP)図を一例として示す。実際には、マップは色分けされている。
【0174】
マップ500aは透明であるため、ユーザは波のサイクルのスパン全体を一望視できる一方で、前方と遠方の成分は簡単に区別できる。更に、この図により、構造全体のサイクルを簡単にたどることができるため、不整脈をより良く理解することができる。等高線間隔は時間的に等間隔であるため、波の伝播速度は曲線の密度から明らかである。等高線の密度が高い領域は伝播が遅いことを表し、密度が低い領域は伝播が速いことを表す。瘢痕領域は、等高線のない均一な領域として示される。
【0175】
図4に示す例示的なフローチャートは、単に概念を明確化する目的のために選ばれたものである。例えば、ステップ302などのいくつかのステップの例示的なグラフィック出力は、表現を簡単にするために省略されている。
【0176】
図5は、本発明の一実施形態による、EP波のリエントリー及び瘢痕組織を考慮した左心房のコヒーレントEP興奮マップ400のボリュームレンダリングの概略的な絵画図である。図示するように、マップ400は、上述のレインボーアーチファクトが開示された方法によって抑制されるため、領域210にリアルで連続的なEP興奮パターンを示す。予想されるように、EP伝導領域210と非伝導瘢痕領域220との間は、明らかに不連続的である。
【0177】
図5の挿入図150は、参照のために開示された技術を用いずに計算された、左心房上のEP興奮の色表現の補間のボリュームレンダリングである。挿入図150に示されている例では、波のリエントリーは考慮されていない。その結果、挿入図に見られるように、「レインボー」アーチファクト155が現れる。挿入図に示されている例では、心腔内のEP波の伝播は、サイクル内の波面の「終わり近く(late)」が次のサイクルの「最初の方の(early)」波面と交わるリエントリーサイクル全体にわたっている。この例では、組織領域に、1サイクル長離れたLATが割り当てられる。虹(レインボー)状の狭いマルチシェードパスは、色分けされると、隣り合う領域間で1サイクル長の遷移を示すため、上記のように、本発明の実施形態が排除するマップの不連続性を引き起こす。即ち、上記のレインボーアーチファクトは、開示されたICEA方法を使用して完全に解消される。
【0178】
いくつかの実施形態では、周期的なカラースケールを使用して、対象ウィンドウ(WOI)内の「Early Meets Late」への依存を解消する。色は、参照電位図に関連する相対的な時間差を表し、「Early Meets Late」という概念を排除する。カラーサークルは、興奮パターンを表す。したがって、例えば、標準のマップの場合とは異なり、赤色が早いこと(early)や紫色が遅いこと(late)を表すのではない。カラーサークルは、虹(レインボー)状の遷移を生じない自然な周期的な方法で、興奮時間の比例関係を表す。
【0179】
図6は、本発明の一実施形態による、EP興奮波の伝播を示す伝導矢印330がオーバーレイされた左心房のコヒーレントEP興奮マップ440のボリュームレンダリングの概略的な絵画図である。伝導矢印330は、すべて固定長のベクトルであり、それぞれがEP活動の更なる視覚化を提供する形状上の位置においてそれぞれのスローネスベクトルの方向を有する。例えば、伝導矢印330は、典型的には瘢痕領域を取り囲むように表示されている。別の一実施形態(図6には示されていない)では、伝導矢印は、その方向に加えて、スローネスのサイズを表す異なる長さを有する。
【0180】
上に述べた実施形態は例として挙げたものであり、本発明は上記に具体的に示し説明したものに限定されない点が理解されよう。むしろ、本発明の範囲は、上述の様々な特徴の組み合わせ及びその一部の組み合わせの両方、並びに上述の説明を読むことで当業者により想到されるであろう、また従来技術において開示されていない、それらの変形及び修正を含むものである。参照により本特許出願に援用される文献は、これらの援用文献において、いずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾して定義されている場合には、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本出願の一部とみなすものとする。
【0181】
〔実施の態様〕
(1) 心腔の入力メッシュの表現、前記心腔の壁組織上の測定位置の組及び前記位置で測定された局所興奮時間(LAT)のそれぞれの組を受信することと、
前記入力メッシュを、正則化された多角形を含む規則メッシュに再メッシュ化することと、
前記測定位置の組及びそれぞれのLATを前記正則化された多角形にデータ適合させることと、
前記正則化された多角形について、(i)それぞれのLAT値及び(ii)前記壁組織が瘢痕組織を含むそれぞれの確率を反復的に計算して、瘢痕組織を示す前記規則メッシュ上での電気生理学的(EP)興奮波を求めることと、
前記規則メッシュ上にオーバーレイされた、前記EP興奮波及び前記瘢痕組織を含む電気解剖学的マップを表すことと、
を含む、方法。
(2) 前記正則化された多角形は、正則化された三角形を含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記LAT値及び前記確率を反復的に計算することは、前記LAT値、スローネス値及び前記EP波の伝播についての方程式の組を反復的に解くことを含む、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記確率を反復的に計算することは、瘢痕重み乗数を使用して再計算されたスローネスベクトルを、各正則化された多角形に再割り当てすることを含む、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記測定位置のうちの少なくともいくつかにバイナリタグを付与して、瘢痕の存在及び二重EP電位の存在の少なくとも一方を示すことを含む、実施態様1に記載の方法。
【0182】
(6) 前記電気解剖学的マップを表すことは、前記電気解剖学的マップ上に瘢痕組織を示す伝導矢印をオーバーレイすることを含む、実施態様1に記載の方法。
(7) 心腔の入力メッシュの表現、前記心腔の壁組織上の測定位置の組及び前記位置で測定された局所興奮時間(LAT)のそれぞれの組を受信するように構成されたインターフェースと、
プロセッサであって、
前記入力メッシュを、正則化された多角形を含む規則メッシュに再メッシュ化し、
前記測定位置の組及びそれぞれのLATを前記正則化された多角形にデータ適合させ、
前記正則化された多角形について、(i)それぞれのLAT値及び(ii)前記壁組織が瘢痕組織を含むそれぞれの確率を反復的に計算して、瘢痕組織を示す前記規則メッシュ上での電気生理学的(EP)興奮波を求め、
前記規則メッシュ上にオーバーレイされた、前記EP興奮波及び前記瘢痕組織を含む電気解剖学的マップを表す、
ように構成されている、プロセッサと、
を備える、システム。
(8) 前記正則化された多角形は、正則化された三角形を含む、実施態様7に記載のシステム。
(9) 前記プロセッサは、前記LAT値、スローネス値及び前記EP波の伝播についての方程式の組を反復的に解くことによって、前記LAT値及び前記確率を反復的に計算するように構成されている、実施態様7に記載のシステム。
(10) 前記プロセッサは、瘢痕重み乗数を使用して再計算されたスローネスベクトルを、各正則化された多角形に再割り当てすることにより、前記確率を反復的に計算するように構成されている、実施態様7に記載のシステム。
【0183】
(11) 前記インターフェースは、瘢痕の存在及び二重EP電位の存在の少なくとも一方を示す、前記測定位置の少なくともいくつかのバイナリタグ付けを受信するように構成されている、実施態様7に記載のシステム。
(12) 前記プロセッサは、前記電気解剖学的マップ上に瘢痕組織を示す伝導矢印をオーバーレイすることによって、前記電気解剖学的マップを表すように構成されている、実施態様7に記載のシステム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6