(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】炭化珪素を含む物品および製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/577 20060101AFI20241125BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20241125BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241125BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20241125BHJP
C04B 35/58 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
C04B35/577
B28B1/30
B33Y10/00
B33Y70/00
C04B35/58 050
(21)【出願番号】P 2019215791
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2018241871
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】三木 勉
(72)【発明者】
【氏名】木谷 耕治
(72)【発明者】
【氏名】沖仲 元毅
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-536694(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093360(WO,A1)
【文献】特開2017-127997(JP,A)
【文献】特開2019-064226(JP,A)
【文献】特開平09-221367(JP,A)
【文献】特開平01-087563(JP,A)
【文献】特開平04-097952(JP,A)
【文献】特表2016-525993(JP,A)
【文献】Kyoung-Woo Park, Sung-Gi Hur, Jun-Ku Ahn, Nak-Jin Seong, and Soon-Gil Yoon,High-Resistivity Thin-Film Resistors Grown Using CrB2-Si-SiC Materials by Radio-Frequency Magnetron Sputtering,IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES,2010年,VOL. 57, NO. 6,P.1475-1480
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
B33Y 10/00,70/00
B28B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元造形技術を用いて製造された物品であって、
炭化珪素と硼化金属
とを含む部分を有し、
前記部分は、
前記炭化珪素の領域に接触した前記硼化金属の領域と、前記炭化珪素の領域と
前記硼化金属の領域との間に配置された金属シリコンの領域
と、を含
み、
前記硼化金属は、2545℃よりも低い融点を持つことを特徴とする物品。
【請求項2】
三次元造形技術を用いて製造された物品であって、
炭化珪素と硼化金属とを含む部分を有し、
前記部分は、前記炭化珪素の領域に接触した前記硼化金属の領域と、前記炭化珪素の領域と前記硼化金属の領域との間に配置された金属シリコンの領域と、を含み、
前記硼化金属は、二硼化クロム、二硼化バナジウム、一硼化クロムからなる群から選ばれる少なくともいずれか1つであることを特徴とす
る物品。
【請求項3】
前記硼化金属は二硼化クロムであり、炭化珪素とのモル比が、炭化珪素:二硼化クロム=90:10~35:65の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の物品。
【請求項4】
前記硼化金属は、三次元網目構造となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の物品。
【請求項5】
空隙率が1%以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の物品。
【請求項6】
炭化珪素を含む粒子と、2545℃よりも低い融点を持つ硼化金属を含む粒子と、を含む粉末を用いて粉末層を形成する工程と、
前記粉末層に、造形対象物の形状データに基づいてエネルギービームの照射を行うことにより、前記粉末の溶融及び固化を行う工程と、
を繰り返し行うことにより第1の造形物を形成し、
前記第1の造形物に金属シリコンを含ませることにより第2の造形物を形成することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項7】
炭化珪素を含む粒子と、二硼化クロム、二硼化バナジウム、一硼化クロムからなる群から選ばれる少なくともいずれか1つである硼化金属を含む粒子と、を含む粉末を用いて粉末層を形成する工程と、
前記粉末層に、造形対象物の形状データに基づいてエネルギービームの照射を行うことにより、前記粉末の溶融及び固化を行う工程と、
を繰り返し行うことにより第1の造形物を形成し、
前記第1の造形物に金属シリコンを含ませることにより第2の造形物を形成することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項8】
前記硼化金属が二硼化クロムであり、前記炭化珪素とのモル比が、炭化珪素:二硼化クロム=90:10~35:65の範囲であることを特徴とする請求項6または7に記載の物品の製造方法。
【請求項9】
前記粉末の溶融及び固化を行う前記工程では、前記硼化金属の溶融及び固化を行
うことを特徴とする
請求項6~8のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項10】
前記粉末の溶融及び固化を行う前記工程では、前記炭化珪素の溶融及び固化を行
うことを特徴とする
請求項6~9のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項11】
前記第1の造形物は空隙を有することを特徴とする請求項
6~10のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項12】
前記金属シリコンを前記第1の造形物の前記空隙に含ませることを特徴とする請求項11に記載の物品の製造方法。
【請求項13】
前記硼化金属
を含む前記粒子の粒子径は、前記炭化珪素
を含む前記粒子の粒子径よりも小さいことを特徴とする請求項
6~12
のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項14】
前記炭化珪素
を含む前記粒子の粒子径は、3μm~100μmであることを特徴とする請求項
6~13のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項15】
前記硼化金属
を含む前記粒子の粒子径は、3μm~100μmであることを特徴とする請求項
6~14のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項16】
前記第1の造形物の空隙率は1%より大きいことを特徴とする請求項6~15のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項17】
前記第2の造形物の空隙率は1%以下であることを特徴とする請求項6~16のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項18】
前記空隙は三次元的に連通していることを特徴とする請求項
11または
12に記載の物品の製造方法。
【請求項19】
前記第1の造形物は、炭化珪素の領域と硼化金属の領域とを有し、前記空隙は、前記炭化珪素の領域と前記硼化金属の領域との間に存在することを特徴とする請求項
11、12または
18のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項20】
前記第1の造形物は、炭化珪素
の領域と硼化金属の
領域とが互いに接触した構造を
有することを特徴とする請求項6~19のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項21】
前記第1の造形物は100MPa未満の曲げ強度を有し、前記第2の造形物は100MPa以上の曲げ強度を有することを特徴とする請求項6~20のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項22】
100MPa以上の曲げ強度を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の物品。
【請求項23】
前記部分は、ラメラ状の構造を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の物品。
【請求項24】
前記部分は、前記炭化珪素の領域と、前記硼化
金属の領域と、前記金属シリコンの領域とが、互いに接触し、三次元的に絡み合う構造を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高耐熱、高熱伝導、軽量高剛性などの材料的特徴を持つ炭化珪素系の材料を用いた物品、特に付加造形法である粉末床溶融結合法により製造される物品、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
少量多品種や複雑な形状を有する金属部品を作製するために、粉末床溶融結合法を用いた三次元造形技術の開発が進められている。この技術は、粉末状の造形材料の層に、造形対象物の三次元形状データから生成したスライスデータに基づいてエネルギービームを走査させ、造形材料を局所的に溶融/固化させる工程を、複数層について繰り返し行うことにより、立体物を形成するものである。エネルギービームとして、レーザビームや電子ビームなどが用いられる。
【0003】
また、近年は、このような三次元造形技術を用いて、加工が難しい炭化珪素などのセラミックス材料の造形が検討されている。しかし、炭化物、硼化物、窒化物などのセラミックスには、その多くがエネルギーを急激に与えると溶融せずに昇華してしまう、あるいは、溶融固化時に結晶化せずに脆くなってしまう、などの技術上の課題がある。軽量性、耐摩耗性、耐熱衝撃、化学安定性などに優れ、幅広い分野での用途が期待されている炭化珪素は、常圧で融点を持たず、2545℃付近(温度の値は2700℃など諸説あり)で昇華してしまう材料である。特許文献1には、共晶や包晶などの過渡液相焼結を利用して造形し得る粉末の候補が開示されている。炭化珪素からなる造形物を作製する粉末の候補として、炭化珪素と酸化アルミニウムと希土類酸化物とシリカの混合物、炭化珪素と窒化アルミニウムと希土類酸化物の混合物、炭化珪素と金属ゲルマニウムとの混合物が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている粉末は、共晶とするために炭化珪素と混合する材料として、シリカ、または、窒化アルミニウム、または、金属ゲルマニウムを必須材料としている。しかし、シリカは1900℃で一酸化珪素と酸素に分解する。また、窒化アルミニウムは2200℃で昇華する。金属ゲルマニウムも2400℃以下で沸騰するなど、2545℃の昇華点を持つ炭化珪素と同時に加熱しても、炭化珪素が溶融する前に揮発する可能性が高い。また、造形物の強度についての開示はないが、粉末が部分的に接合した、強度の低い造形物ができてしまうと推測される。
【0006】
本開示の目的は、上記課題に鑑みてなされたものであり、三次元造形技術を用いて製造されながら十分な機械強度を有する、炭化珪素を主成分とする造形物を提供することである。また、そのような造形物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示にかかる物品は、炭化珪素、炭化珪素の昇華点よりも低い融点を持つ硼化金属、および金属シリコンを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本開示にかかる物品の製造方法は、炭化珪素を含む粉末と、および炭化珪素の昇華点よりも低い融点を持つ硼化金属を含む粉末とが混合された粉末を用いて粉末層を形成する工程と、前記形成された粉末層に、造形対象物の形状データに基づいてエネルギービームを走査して照射することにより、前記粉末の溶融、固化を行う工程と、を繰り返し行うことにより造形物を形成し、更に、形成された造形物に金属シリコンを含浸させる工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上述した本発明の特徴によれば、三次元造形技術を用いて製造されながら十分な機械強度を有する、炭化珪素を主成分とする造形物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の製造方法で用いる三次元造形装置の模式図である。
【
図2】造形物に金属シリコンを含浸する際の状態を示す図である。
【
図3】本開示の実施例で作成した造形物の模式図である。
【
図4】本開示で製造したサンプル1の断面のSEM画像である。
【
図5】
図4の断面SEM画像における色の濃い領域のみをつなぎ合わせた三次元構造を示す図である。
【
図6】
図4の断面SEM画像における色の薄い領域のみをつなぎ合わせた三次元構造を示す図である。
【
図7】本開示で製造したサンプル1の断面の光学顕微鏡画像である。
【
図8】本開示で製造したサンプル6の断面のSEM画像である。
【
図9】本開示で製造したサンプル6の断面の光学顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照して本開示の実施の形態を説明する。
【0012】
まず、本開示の製造方法に適用可能な造形装置を、
図1を用いて説明する。造形装置は、ガス導入機構113、および排気機構114により、内部の雰囲気を制御することのできるチャンバー101を有している。チャンバー101の内部には、立体物を造形するための造形容器120と、造形材料である粉末(以下、単に「造形材料」または「粉末」と記述する場合がある。)を造形容器120に敷き詰めて粉末層111を形成するための粉末層形成機構106を有している。
【0013】
排気機構114は、圧力を調整するために、バタフライバルブ等の圧力調整機構を備えていてもよいし、ガス供給とそれに伴う圧力上昇によるチャンバー内の雰囲気を調整することができる構成(一般にブロー置換と呼ぶ)であってもよい。
【0014】
造形容器120の底部は、昇降機構108によって鉛直方向における位置を変えることができる造形ステージ107で構成されている。昇降機構108の移動方向および移動量は、制御部(不図示)によって制御され、形成する粉末層111の層厚に応じて造形ステージ107の移動量が決められる。造形ステージ107の造形面側には、ベースプレート109を設置するための構造(不図示)が設けられている。ベースプレート109は、ステンレスなど溶融可能な材料からなるプレートであり、1層目の粉末層を溶融固化する時に造形材料とともにその表面が溶融され、造形物をベースプレートに固定することが可能となる。従って、造形の間に、ベースプレート109上における造形物の位置がずれないよう保持することができる。造形が完了した後に、ベースプレート109は、造形物から機械的に切り離される。
【0015】
粉末層形成機構106は、粉末材料を収容する粉末収容部と、粉末材料を造形容器120に供給する供給機構を有している。さらに、ベースプレート109上に粉末層を設定した厚さに均すためのスキージおよびローラのいずれか一方を有していてもよいし、両方を有していてもよい。
【0016】
造形装置は、さらに、造形材料を溶融させるためのエネルギービーム源102と、エネルギービーム112を2軸で走査させるための走査ミラー103A、103Bと、エネルギービームを照射部に集光させるための光学系104を備えている。エネルギービーム112はチャンバー101の外側から照射されるため、チャンバー101には、エネルギービーム112を内部に導入するための導入窓105が設けられている。エネルギービームのパワー密度や走査位置は、不図示の制御部が取得した造形対象物の三次元形状データや造形材料の特性に従って、制御部によって制御される。また、粉末層111の表面近傍で焦点を結んでビーム径が適切な大きさになるよう、あらかじめ造形容器120、光学系104の位置を調整しておく。表面におけるビーム径は、造形精度に影響するため、30~100μmとするのが好ましい。
【0017】
次に、本開示の製造方法を説明する。まず、ベースプレート109をステージ107に設置し、チャンバー101の内部を、ガス導入機構113を介して導入された窒素やアルゴンなどの不活性ガスで置換する。置換が終了すると、ベースプレート109上に粉末層形成機構106により、粉末層111を形成する。粉末層111は、造形対象物の三次元形状データから生成したスライスデータのスライスピッチ、即ち、積層ピッチに応じた厚さで形成される。
【0018】
本開示で造形に使用される粉末は、炭化珪素の粉末を主成分とするものであり、更に、炭化珪素の昇華点より低い融点を持つ硼化金属の粉末との混合粉末である。なお、炭化珪素の特性を大きく損なうことがなければ上記以外の化合物からなる粉末が含まれていても構わない。炭化珪素および硼化金属の粉末粒子のサイズは、小さすぎると凝集して均一な厚みの粉末層が形成できず、大きすぎると溶融させるのに高いエネルギーが必要となって造形が困難となってしまうため、3μm~100μmの粒子径が好ましく、5μm~50μmの粒子径がより好ましい。また、粉末層の1層あたりの厚さは、造形精度に影響するため、30~100μm程度が好適である。
【0019】
ここで、本開示における、粉末の粒子径の測定方法について説明する。粉末に含まれる粒子径はある範囲に分布を持っており、中央値、最大粒子径が規定されている。SiCは、すでに業界で標準化された粒子径の評価方法に従い、JIS R 6001-2「研削といし用研削材の粒度」に従って電気抵抗法により測定する。一硼化クロム、二硼化クロムなどのSiC以外の粒子径については、JIS Z 8832「粒子径分布測定方法-電気的検知帯法」に従って測定する。
【0020】
次に、エネルギービーム112をスライスデータに従って走査し、粉末層111の所定領域の粉末にエネルギービーム112を照射して溶融させる。エネルギービーム源102には、造形材料が50%以上の高い吸収率を有する波長のエネルギーを出力できるものを用いるのが好ましい。特に、造形の際に溶融した硼化金属が炭化珪素の周りを包み込む状態を作り出すため、硼化金属が高い吸収率を有する波長域のエネルギービームを使用するのが好ましい。造形材料が二硼化クロムである場合、波長1000~1120nmの半導体ファイバーレーザが好適である。
【0021】
エネルギービーム112は、エネルギービームを照射された領域の粉末が、数msecの間に溶融および固化して粒子が互いに結合するレベルのエネルギー強度とするのが好ましい。粉末層が積層されている場合は、エネルギービーム112の照射側の最表面に位置する粉末層だけでなく、エネルギービーム112が照射されている粉末層の直下の粉末層もある程度溶融凝固させることが、造形には必要である。直下の粉末層の溶融が不十分だと、造形は層毎に剥離し易くなり、強度の低い造形物となってしまう。なお、ベースプレート109の直上に敷いた最初の粉末層の溶融固化時には、ベースプレート109の表面が同時に溶融されるよう、ベースプレートの熱容量、熱伝導などを考慮しエネルギービームの照射条件を調整する。
【0022】
続いて、昇降機構108により造形ステージ107を積層ピッチ分だけ降下させた後、エネルギービームを走査させた層の上に粉末を敷きつめて新たな粉末層を形成し、エネルギービーム112の走査および照射を行なう。前述したように、新たな粉末層にエネルギービーム112を照射する際に、先にエネルギービーム112が走査された層の一部(具体的には、新たな粉末層と接する部分)が再度溶融固化される。新たな粉末層の、エネルギービーム112が照射される領域の直下がすでに溶融固化された領域である場合、新たな粉末層のビーム照射領域は、先に溶融固化された領域の一部の溶融した材料と混じり合って固化し、互いに接合する。これらの操作を繰り返せば、エネルギービーム112によって層毎に溶融固化された領域が一体となった造形物110を形成することができる。
【0023】
造形物110は、ベースプレート109に接合しているため、ベースプレートごとチャンバー101より取り出す。その後、ダイヤモンドなどの砥粒を付着したワイヤーソーやディスクブレードなどにより、ベースプレート109と造形物110を切断し、分離し、造形物110を得ることができる。
【0024】
次に、造形物に金属シリコンを含ませる工程の一例について
図2を用いて説明する。金属シリコンの融点(1414℃)でも、揮発、変質等のないグラファイトなどの材料からなるるつぼ201の底に、粒径の揃った耐熱球状物202を二層以上の厚みにならないように敷き、その上に造形物110を置く。耐熱球状物202は、含浸工程中に造形物110から染み出した金属シリコンの固化物により、るつぼ201と造形物110が強く固着しないよう、隙間を生じさせる効果がある。
【0025】
さらに、予め造形物110の空隙率を形状と質量から導出し、空隙に相当する量よりも多めに金属シリコン粉203を造形物上に載せる。その後、るつぼ201ごと真空熱処理炉に入れ、炉内をアルゴンに置換し、適宜減圧して、室温から金属シリコンの融点である1414℃を超える温度、例えば1500℃まで加熱する。融点を超え液状化した金属シリコンは造形物の空隙に浸み込む。その後、冷却し室温になったところでドライエアを導入して大気圧にし、真空熱処理炉からるつぼを取り出す。冷却時は、金属シリコンの融点付近の温度では、場所により凝固のタイミングが異なることで発生する歪みや応力を防ぐため温度変化率を小さくする。造形物110から染み出した金属シリコンの固形物により、造形物表面に付着した耐熱球状物202を取り除き、さらに、研削、研磨等で形状、表面を整え、所望の物品を得ることができる。
【0026】
[本開示で使用する粉末材料]
本開示は、炭化珪素の粉末と、炭化珪素と共晶もしくは亜共晶を生成し、炭化珪素の昇華点より低い融点を持つ硼化金属の粉末とを混合して造形粉末とする。このような造形粉末を用いて、炭化珪素と硼化金属との共晶もしくは亜共晶を含む造形物を作製することにより、炭化珪素単体に迫る強度の造形物を実現する。
【0027】
ここで、共晶/亜共晶について、以下に説明する。
【0028】
金属などの材料X、材料Yの混合物では、融点がそれぞれの材料の融点よりも低くなる材料比率がある。その時、融点が最も低くなる時の材料比率を共晶組成、その融点を共晶温度という。
【0029】
共晶組成において、融点以上の温度では材料Xと材料Yは共に液相であり、融点より低い温度では、材料Xと材料Yが同時に析出する。そのため、材料X、材料Yは細かい析出相で構成され、ラメラ状などと呼ばれる層状の構造で強度の大きい共晶体になる。
【0030】
次に、材料X、材料Yの混合物で共晶組成よりも材料Xを多く含む場合を考えてみる。この場合は、融点以上で液相であるが、融点より下がるとまず材料Xが固化し、共晶温度までは材料Xが析出(初晶と呼ぶ)する。そして、共晶温度まで下がった時には、析出した材料Xの結晶を除いた液相の部分は、共晶組成になっており、その状態から共晶温度以下に下げると、材料Xと材料Yが同時に析出する。つまり、もともと共晶組成から出発した場合に比べ、材料Xの析出が早く始まる分だけ結晶が大きく成長したものが混ざった構造になる。共晶組成よりも材料Yが多い場合は、材料Yの結晶が大きく成長する。それらの状態を亜共晶と呼ぶ。共晶や亜共晶は、造形物の断面を走査型電子顕微鏡で観察することで確認することができる。
【0031】
本発明者らは、炭化珪素に近い物性を得るため、共晶もしくは、炭化珪素の結晶が大きな亜共晶の状態を得ることのできる、粉末の組成や粒子径などの条件について検討した。
【実施例】
【0032】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0033】
(粉末1)
炭化珪素として、粒子径の中央値が14.7μmの炭化珪素粉末(大平洋ランダム株式会社製、商品名NC#800)を用意した。混合する硼化クロムとして、融点が2200℃の二硼化クロム粉末(日本新金属株式会社製、商品名CrB2-O、粒子径の中央値は約5μm)を用意した。それら粉末を、共晶または亜共晶が生成される組成粉末となるように、モル比で、炭化珪素:二硼化クロム=7:3に調合し、ボールミルにて混合して粉末1とした。モル比の決め方や混合の仕方は、他の粉末も同様である。ここでいう粒子径の中央値とは、メジアン径と同義であり、その粉末における頻度の累積が50%となる粒子径を意味する。粒子径分布の測定は、周知のレーザ回折法或いは散乱法により行うことができる。
【0034】
(粉末2)
粉末1と同様の炭化珪素粉末と、融点が2400℃の二硼化バナジウム粉末(粒子径の中央値が約4μm、日本新金属株式会社製、商品名VB2-O)とを、炭化珪素:二硼化バナジウム=1:1のモル比で調合して混合し、粉末2とした。
【0035】
(粉末3)
粉末1と同様の炭化珪素粉末と、融点が2100℃の一硼化クロム粉末(日本新金属株式会社製、商品名CrB-O、粒子径の中央値が約9μm)とを、モル比で炭化珪素:一硼化クロム=3:1に調合して混合し、粉末3とした。
【0036】
(粉末4)
粉末1と同様の炭化珪素粉末と、融点が2920℃の二硼化チタン粉末(日本新金属株式会社製、商品名TiB2-N、粒子径の中央値が約4μm)を、炭化珪素:二硼化チタン=1:1のモル比で調合して混合し、粉末4とした。
【0037】
(粉末5)
粉末1と同様の炭化珪素粉末と、融点が3200℃の二硼化ジルコニウム(日本新金属株式会社製、商品名ZrB2-O、粒子径の中央値が約5μm)を、炭化珪素:二硼化ジルコニウム=1:1のモル比で調合して混合し、粉末5とした。
【0038】
表1に、各粉末の組成をまとめて示す。
【0039】
【0040】
[粉末材料を用いた造形物の作製]
上述した粉末1~5を材料とし
図1に示す造形装置とを用いて造形を行った。具体的には、粉末ごとに、ステンレス製のベースプレート109の上に、底面積を4mm×40mmとする直方体の造形物を4つ作製した。造形終了後の4つの造形物110とベースプレート109の斜視図を
図3に示す。
【0041】
エネルギービーム源102には、波長1070nmの半導体ファイバーレーザを用い、レーザパワー100W、照射ピッチ50μmで粉末層に照射した。また、粉末材料の種類によって造形に適した照射エネルギーが異なるため、予め、走査速度は、100mm/sec~1000mm/secの間で条件だしをして、材料ごとに最適な走査速度に設定した。粉末層の厚さ(積層ピッチ)を30μmとして300層の造形を試みた。
【0042】
しかし、二硼化チタンを含む粉末4を用いた造形と二硼化ジルコニウムを含む粉末5を用いた造形は、それぞれ粉末層を形成する途中に造形済みの部分が剥がれ始め、造形を続行できなくなってしまったため、その時点で終了とした。粉末1、粉末2、および粉末3を用いた造形については、それぞれ高さが約9mmの直方体が得られた。
【0043】
次に、切断装置として、ムサシノ電子株式会社製ワイヤーソーCS-203(商品名)を使用し、ダイヤモンド砥粒を付着したφ0.4mmのワイヤーソーで造形物110とベースプレート109とを切り離した。
【0044】
ここで、粉末1を材料粉末とした造形物をサンプル1(比較例1)、粉末2を材料粉末とした造形物をサンプル2(比較例2)、粉末3を材料粉末とした造形物をサンプル3(比較例3)として、各々4個ずつの試料を得た。なお、粉末4を材料粉末とした造形と粉末5を材料粉末とした造形は、上述の通り未完了で終わったが、付番としてそれぞれ比較例4としてサンプル4、比較例5としてサンプル5を割り当てた。
【0045】
サンプル1~5を、エネルギー分散型X線分析(EDX)により含まれている元素を同定し、また、X線回折(XRD)により分子の構造を同定した。サンプル1は、表面の酸化に起因すると予想される若干の酸化物があるものの、それを無視すれば原料粉末の炭化珪素と二硼化クロムで構成されていることがわかった。同様にサンプル2は、炭化珪素と二硼化バナジウムで構成されていることがわかった。
【0046】
また、FIB-SEMにより、炭化珪素、硼化金属がどのように部材に分布しているかを調べた。FIB-SEMとは、FIB(集束イオンビーム)で試料を掘削しながら露出した試料表面或いは断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で繰り返し観察し、そのSEM画像群をコンピュータで処理することで試料構造を三次元で観察することができるシステムである。
【0047】
図4に、サンプル1のある断面におけるSEM画像を示す。最も色の濃い部分10が空隙であり、最も色の薄い領域12が二硼化クロムで構成されており、領域10と領域12との間の濃さの領域11が炭化珪素で構成されていた。炭化珪素の領域11と二硼化クロムの領域12との境界は複雑な形状をしており、少なくとも一方の材料が溶融していることが推測できた。また、SEM画像で観察された炭化珪素の領域11と二硼化クロムの領域12の分布から、共晶・亜共晶が形成されていることが確認できた。
【0048】
サンプル1について得られたSEM画像群について、この色の濃度で領域を識別し、炭化珪素で構成された領域11を繋ぎ合わせた三次元構造を
図5に表わした。また、二硼化クロムで構成された領域12を繋ぎ合わせた三次元構造を
図6に表した。
【0049】
図5と
図6から、サンプル1中の炭化珪素、硼化クロムは、それぞれ三次元網目構造になっており、互いに複雑に絡み合う構造となっていることが理解できた。FIB-SEMを用いて三次元網目構造を確認した範囲は、60μm×45μm×160μmで、原料の炭化珪素、二硼化クロムそれぞれ粉末の粒子径の中央値を大きく超えていることから、それらの材料は造形中に溶融し、連結していると推測された。
【0050】
次に、造形物110に含まれる空隙を算出した。造形物の端部やプレートとの結合部、最表面などを除けば、熱伝導が大きくは異ならないため、空隙は平均的に入っていると考えられた。そこで、空隙率は、ある断面において、造形物の端部やプレートとの接合部、最表面などを除く平均的な空隙を有する部分の光学顕微鏡画像を取得し、2.44mm×1.63mmの領域に相当する視野において、空隙に相当する色の濃い部分が、視野内に占める割合とした。
図7にサンプル1のある断面における、平均的な空隙を有する領域の光学顕微鏡画像を示した。平均的な空隙率を有すると推測される複数個所(10箇所以上)それぞれについて、濃度で閾値を設定して画像分析で閾値よりも濃度が高い部分を空隙と判断して全体の面積との面積比率で空隙率を算出し、それらを平均したところ、約30%が空隙率であると算出された。
【0051】
[作製された造形物に金属シリコンを含ませる工程]
次に、造形物110に金属シリコンを含ませた。
図2で示すように、グラファイトでできたるつぼ201の底に、φ1mmのアルミナ球状体202を二層以上の厚みにならないように敷き、その上に造形物110を1個置いた。
【0052】
さらに、先に算出した空隙率に相当する体積の1.5倍の金属シリコン粉末203(比重2.33、粒径~45μm)を造形物110上に載せた。
【0053】
その後、真空熱処理炉(不図示)にるつぼ201ごと入れ、炉内をアルゴンに置換してから、室温から温度上昇率300℃/hで1000℃まで加熱、2時間保持した。その後、40分で絶対圧1.5kPaまで減圧しながら温度上昇率300℃/hで1200℃まで加熱、引き続き、温度上昇率120℃/hで1500℃まで加熱、2時間保持した。
【0054】
その後、金属シリコンの融点直上の1424℃まで120℃/hで温度を下げ、6℃/hで1400℃まで徐冷した。
【0055】
引き続き、300℃/hで冷却し、70℃以下になったところでドライエアを導入し大気圧にし、真空熱処理炉からるつぼ201を取り出した。
【0056】
上記の手法で、サンプル1の2個、サンプル2の2個、サンプル3の2個の計6個に金属シリコンを含ませた。サンプル1に金属シリコンを含ませたものをサンプル6(実施例1)、サンプル2に金属シリコンを含ませたものをサンプル7(実施例2)、サンプル3に金属シリコンを含ませたものをサンプル8(実施例3)とする。
【0057】
さらに、造形物に金属シリコンを含ませた工程において造形物110の表面に付着したアルミナ球状体を脱離し、研磨で形状、表面を整え、大きさおよそ4mm×40mm×9mmの金属シリコンを含む物品を得た。
【0058】
[物品の特性]
次に、サンプル1、サンプル2、サンプル3、サンプル6、サンプル7、サンプル8について、JIS規格にあるファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法(JIS R 1601)に準拠した三点曲げ試験を行なった。また、それらサンプルについて、破断面を研磨し、研磨した断面の光学顕微鏡画像から空隙率を算出した。
【0059】
サンプル6のSEM画像を
図8に示す。組成分析を行ったところ、ある程度の面積を占めている部分のうち、色が最も濃い領域11が炭化珪素、最も薄い領域12が二硼化クロム、それらの中間の濃度の領域13が金属シリコンであった。また、各材料の間にわずかに島状に存在する黒い部分10が空隙である。サンプル1と同様にして、サンプル6の断面における光学顕微鏡画像から空隙率を算出した。
図9に空隙率の算出に用いた、サンプル6の平均的な空隙率を有する断面の光学顕微鏡画像を示す。濃度で閾値を設定して、画像分析で閾値よりも濃度が高い部分を空隙と判断して全体の面積との面積比率で空隙率を算出した。また、サンプル1と同様にして、SEM像から共晶・亜共晶が形成されているか否かを判断した。
【0060】
他のサンプルも、サンプル1、6と同様に空隙率を算出し、共晶・亜共晶が形成されているか否かを判断した。結果を表2に記す。
【0061】
【0062】
総合判定として、4mm×40mm×9mmの形状で造形できなかったものを「C」とした。また、造形できたが空隙率が30%程度あり、十分な曲げ強度が得られなかったものを「B」とした。このようなものであってもフィルタなどの用途が考えられる。また、焼結セラミックスなみの曲げ強度(100MPa以上)が得られたものは、多種用途での利用が考えられるため「A」とした。
【0063】
次に、サンプル1、サンプル2、サンプル3が造形できた理由と、サンプル4、5が造形できなかった理由について考察する。
【0064】
まず、炭化珪素と炭化珪素の昇華点(2545℃)よりも融点の低い二硼化クロム(融点2200℃)との混合粉末で造形をしたサンプル1が、造形物が得られた理由を考察する。炭化珪素と二硼化クロムの混合粉末にレーザビームを照射し、温度を上昇させていくと、まず二硼化クロムが融点に達して溶融する。すると、炭化珪素の粒子の表面が、溶融した二硼化クロムによって覆われた状態となると推測される。炭化珪素は単体では昇華するが、二物質の界面では溶融すると考えられ、炭化珪素と二硼化クロムの溶融物との界面から、炭化珪素の溶融が進展する。もし、温度が上昇して炭化珪素の昇華点に達したとしても、揮発した炭化珪素が、溶融した二硼化クロムに溶け込むことにより揮発が抑制されると推察される。従って、レーザビーム照射により、炭化珪素の昇華点を超えて高温になったとしても、炭化珪素と二硼化クロムとが溶融した状態は維持される。その後、レーザビームの照射時間が終了して照射領域の温度が下降に転じると、炭化珪素と二硼化クロムがそれぞれ析出しはじめ、両物質が隙間なく混合した
図4の状態になったと推測される。炭化珪素と二硼化バナジウムの混合粉末を用いたサンプル2、炭化珪素と一硼化クロムの混合粉末を用いたサンプル3についても同様であると考えられる。
【0065】
次に、炭化珪素と炭化珪素の昇華点よりも融点の高い硼化金属である二硼化チタン(融点2920℃)との混合粉末で造形したサンプル4では、望みの造形物が得られなかった理由を考察する。炭化珪素と二硼化チタンの混合物にレーザビームを照射することにより温度が上昇していくと、二硼化チタンの融点より先に、炭化珪素の昇華点に達する。そのため、先に炭化珪素の昇華が始まり、その後に二硼化チタンが溶融し始める。炭化珪素の粒子の表面では、昇華気体により溶融した二硼化チタンと炭化珪素粉末の接触が阻害され、それらの接触は非常に限定的なものとなる。そして、二硼化チタンが溶融している間は、炭化珪素も昇華し続けるため、両物質の接触面積は増えることがない。このように、炭化珪素の溶融は非常に限定的となり、冷却してもほとんど析出しない。従って、サンプル1~3のような共晶または亜共晶が密に絡み合った状態の造形物とはならず、炭化珪素と二硼化チタンとの境界部の結合が弱く、脆い造形物になってしまったと考えられる。
【0066】
以上の仮説と前述の実験結果とにより、炭化珪素粉末と、炭化珪素の昇華点よりも低い融点を持つ硼化金属粉末と、を含む粉末材料で造形を行うと、共晶もしくは亜共晶が隙間なく絡み合った状態となり、境界部の結合が強く造形できたと考えられる。
【0067】
次に、サンプル1、2、3とそれらに金属シリコンを含ませたサンプル6、7、8について考察する。造形直後の造形物110に含まれる空隙に金属シリコンを含ませることによって、30%程度あった空隙率がほとんどなくなっていた(1%以下)ことから、造形直後の造形物110のほとんどの空隙は三次元的に連通していたと推察される。
【0068】
また、曲げ強度が20~30倍程度向上しており、金属シリコンの曲げ強度(一般には200MPa程度と言われている)よりも高くなっていた。金属シリコンの三次元構造体そのものは物品の30%程度の体積を占めていると考えられるので、金属シリコンを含ませたことによる曲げ強度の向上は、200MPa×30%=60MPa程度と見積もられる。ところが実際には、造形したままの状態における曲げ強度5MPaから230MPaへと、強度が225MPaも向上していた。これは、炭化珪素、二硼化クロム(もしくは二硼化バナジウム、一硼化クロム)、金属シリコンのそれぞれからなる3次元構造が互いに接触し、三次元的に絡み合う構造となっていることにより単純には予見し得ない曲げ強度を実現しているものと推察される。また、金属シリコンが空隙を埋めることで亀裂の発生、および進展を防いでいることも強度向上に寄与しているものと推察できる。
【0069】
[炭化珪素の粉末と金属硼化物の粉末との混合比]
次に、炭化珪素の粉末と二硼化クロムの粉末とを混合した粉末を用いて、造形物に適した炭化珪素と二硼化クロムの混合比を調べた。炭化珪素の粉末、二硼化クロムの粉末には、粉末1と同様の粉末を使用した。
【0070】
炭化珪素と二硼化クロムの混合粉末全体を100%として、二硼化クロムの粉末を、モル比率で7.0%、10%、30%、50%、65%、70%ずつ含有したものを、それぞれ粉末6~11とした。これら粉末を用いて、粉末1~5を用いた造形と同様にして物品を作製したサンプル9乃至14を、それぞれ比較例6乃至11とした。
【0071】
炭化珪素の比率が大きい粉末6は、30層造形したところで、次の粉末層を形成する際に前の粉末層、即ち最上層が剥がれてしまった。造形の継続はできたが、新たな粉末層を形成する毎に同様の現象が起き、結果的に造形を続けることができなくなった。一方、二硼化クロムの比率が大きい粉末11は、造形中に表面にボール状の突起ができてしまい、粉末層の形成時にローラがその突起に当たり最上層が剥がれてしまい、造形の継続が不可能であった。後にボール状の突起を分析したところ、二硼化クロムが主成分であることがわかった。これは、溶融した二硼化クロムの純度が上がったため、表面に形成される液滴の表面張力が大きくなり凝集して径が大きくなったものが固化したものと考えられる。
【0072】
また、サンプル10~13と同様に作製したサンプルそれぞれに金属シリコンを含ませる工程を行ない、サンプル15~18を作製した。金属シリコンを含ませる工程は、問題なく行うことができた。サンプル15~18をそれぞれ実施例4乃至7とした。また、造形できたそれぞれのサンプルに対し、前述の例と同様に、3点曲げ試験と空隙率の算出を行なった。
【0073】
結果を表3に示す。モル比率の欄には、(炭化珪素のモル%)/(二硼化クロムのモル%)の値を示している。
【0074】
【0075】
混合粉末全体を100%として、炭化珪素と二硼化クロムとのモル比が、炭化珪素:二硼化クロム=90:10~35:65の範囲にある粉末が造形に適していることがわかった。すなわち、炭化珪素と二硼化クロムのモル比率が、0.54≦炭化珪素/二硼化クロム≦9.00の範囲の混合粉末が、造形に適していることがわかった。さらに、造形物に金属シリコンを含ませることで得られる物品の曲げ強度が想像していた以上に向上することも確認できた。
【0076】
上述の実施例では、炭化珪素と二硼化クロムを中心に、炭化珪素と一硼化クロム、炭化珪素と二硼化バナジウム等の二成分系で検討を行なったが、硼化チタン、硼化ランタン、炭化ホウ素、などの各種ホウ素含有物を、主たる特性を変えない範囲で適宜添加することは本件を逸脱するものではない。比重を下げる、強度を上げるなど有効な場合があり、適宜用いることが可能である。
【0077】
さらに、上述の実施例では、二硼化クロムに粒子径の中央値が5μmの粉末、一硼化クロムに粒子径の中央値が9μmの粉末を使用したが、これは単に商流で入手できる粉末を用いたためで、他の粒径の利用を制限するものではない。但し、混合する硼化金属は、溶融し易いように炭化珪素の粒径より小さく、10μm以下の粒径であることが好ましい。
【0078】
また、上述の実施例では、レーザによる粉末床溶融結合法により造形を行ったが、この手法に限ることはなく、同じような熱履歴を経る三次元造形方法の他の手法にも応用できる。たとえば、電子ビームによる粉末床溶融結合法、さらには、ガスと材料粉末を同時に噴出し、レーザで溶融する指向エネルギー堆積法にも応用できる。
【0079】
また、上述の実施例では、造形物に金属シリコンを含ませる工程では、金属シリコン粉末を造形物上に載せて溶融さたが、金属シリコン粉末のかわりに金属シリコンウェハ、金属シリコンのペレットなどを用いてもよいし、さらには、MI法と呼ばれる金属シリコン溶融体中に造形物を浸漬し、引き上げる方法を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
従来は三次元造形法によっては困難であった炭化珪素の造形が可能になる。例えば、炭化珪素と硼化金属の共晶造形物を使うことで、耐熱温度、熱伝導率が高く、物理的強度が高いことが利点になる熱交換器、エンジンノズル、ステージ等への利用が可能である。
【符号の説明】
【0081】
101 チャンバー
102 エネルギービーム源
103A、103B 走査ミラー
104 光学系
105 導入窓
106 粉体層形成機構
107 造形ステージ
108 昇降機構
109 ベースプレート
110 造形物
111 粉体層
112 エネルギービーム
113 ガス導入機構
120 造形容器
201 るつぼ
202 耐熱球状物
203 金属シリコン粉末