(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】炭化ケイ素粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/97 20170101AFI20241125BHJP
【FI】
C01B32/97
(21)【出願番号】P 2020043286
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】松下 修也
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将治
(72)【発明者】
【氏名】中居 直人
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-503099(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079334(WO,A1)
【文献】特開2011-042518(JP,A)
【文献】国際公開第2013/027790(WO,A1)
【文献】特表平10-500933(JP,A)
【文献】特開昭59-039709(JP,A)
【文献】特開2015-074565(JP,A)
【文献】特開2014-015339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/956-32/984
C04B 35/565
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質シリカとカーボンの混合物を二段階焼成する炭化ケイ素粉末の製造方法であって、
前記非晶質シリカ及び前記カーボンを準備し、混合する工程と、
前記非晶質シリカとカーボンの混合物を300℃以上1200℃以下の範囲の第一の所定の温度まで昇温し保持する第一焼成工程と、
前記第一焼成工程の後に、1600℃以上2500℃以下の範囲の第二の所定の温度まで昇温し保持することで炭化ケイ素のインゴットを得る第二焼成工程と、を含み、
前記非晶質シリカの平均粒径は10μm以上3mm以下であり、前記カーボンの平均粒径は10μm以上3mm以下であることを特徴とする炭化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項2】
前記第一焼成工程の第一の所定の温度は、600℃以上1000℃以下の範囲の温度であることを特徴とする請求項1記載の炭化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項3】
前記第一焼成工程の第一の所定の温度は、600℃以上800℃以下の範囲の温度であることを特徴とする請求項1記載の炭化ケイ素粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、研磨もしくは研削材、セラミックス焼結体および導電性材料等の工業用材料として、従来から幅広く使用されている。炭化ケイ素を工業的に量産する技術としては、ケイ素(Si)を含むケイ酸質原料と炭素(C)を含む炭素質原料を原料とし、電気炉等において1600℃以上で加熱することで、直接還元反応によって製造する方法が知られている。
【0003】
特許文献1は、二酸化ケイ素と炭素源を1500-2300℃の温度で反応させることによってα-炭化ケイ素を製造する方法であって、二酸化ケイ素と炭素源を2段階で反応させ、第一段階で、二酸化ケイ素と炭素を1500-1800℃の温度で反応させてβ-炭化ケイ素を生じさせ、第二段階で、生じさせたβ-炭化ケイ素を1800-2300℃の範囲の温度で熱処理することでα-炭化ケイ素に変化させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、第一段階の反応と第二段階の反応を別々の炉で行なっているため、エネルギー効率および生産性が悪い。また、第一段階の反応と第二段階の反応を一つの炉で連続的に行なった場合の収率等は考慮されていない。
【0006】
電気炉等において、材料粉末から直接還元反応によってSiCを製造する場合、SiCのインゴットが製造される。SiCを製造して得られるインゴットは、主にα-SiCとβ-SiCとからなる。α-SiCは、6H、15Rを主成分とする硬い粒子であり、β-SiCは、3Cを主成分とする脆い粒子である。SiCは、砥粒やセラミックス粉末などとして使用されるとき、一般的に高硬度のものが要求されることが多く、その場合、β-SiCよりもα-SiCの方が要求される。しかしながら、SiCを製造する場合、焼成条件によって、α-SiCとβ-SiCの生成割合、SiCの収率が異なるため、焼成条件を適切に設定しないと所望量のα-SiCが得られないこととなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、α-SiCの割合が多く、かつSiCの収率を高くすることができる炭化ケイ素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の炭化ケイ素粉末の製造方法は、非晶質シリカとカーボンの混合物を二段階焼成する炭化ケイ素粉末の製造方法であって、前記非晶質シリカとカーボンの混合物を300℃以上1200℃以下の範囲の第一の所定の温度のまで昇温し保持する第一焼成工程と、前記第一焼成工程の後に、1600℃以上2500℃以下の範囲の第二の所定の温度まで昇温し保持する第二焼成工程と、を含むことを特徴としている。
【0009】
このような製造方法により、α-SiCの割合が多く、かつSiCの収率を高くすることができる。
【0010】
(2)また、本発明の炭化ケイ素粉末の製造方法において、前記第一焼成工程の第一の所定の温度は、600℃以上1000℃以下の範囲の温度であることを特徴としている。これにより、α-SiCの割合がより多く、かつSiCの収率をより高くすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、α-SiCの割合が多く、かつSiCの収率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例および比較例の第一段階の温度、収率、およびα-SiC率を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究の結果、非晶質シリカとカーボンの混合物を焼成する炭化ケイ素粉末の製造方法において、焼成を二段階で行ない、第一段階の焼成をこれまで知られているよりも低温である300℃以上1200℃以下の範囲内で行なうことで、α-SiCの割合が多く、かつSiCの収率を高くすることができることを見出し、本発明に至った。以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
[炭化ケイ素粉末の製造方法]
(原料の構成)
非晶質シリカは、例えば、沈降シリカ、シリカフューム、シリカゲル等を使用することができる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。非晶質シリカは、SiO2含有量が90質量%以上、水分が10質量%未満であることが好ましい。水分が10質量%以上含まれると、焼成工程で水蒸気爆発を起こす虞が大きくなる。
【0015】
非晶質シリカは、沈降法またはゲル法で製造されたものを使用することができる。沈降法およびゲル法は、珪酸アルカリ水溶液と鉱酸を混合して中和反応により非晶質シリカを合成する方法である。
【0016】
非晶質シリカは、不純物(Al、Fe、Ti等)の合計の含有量が200ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましい。不純物の合計の含有量が100ppm以下である非晶質シリカを高純度非晶質シリカという。高純度シリカを使用すると、製造されるα-SiCおよびβ-SiCの不純物含有量を十分に低減できる。
【0017】
非晶質シリカの平均粒径(D50)は限定されるものではないが、細かすぎると、反応時に発生するガスが排出されにくくなり、製品の純度や製品の生産性に影響を及ぼす。このため、好ましくは10μm以上3mm以下、さらに好ましくは50μm以上2mm以下である。平均粒径は、ふるい分け法またはレーザ回折・散乱法などにより粒径を測定し、求めることができる。
【0018】
カーボンは、例えば、天然黒鉛、人工黒鉛等の結晶質カーボンや、カーボンブラック、コークス、活性炭等の非晶質カーボンを使用することができる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの原料のうち、カーボンブラックは、非晶質シリカとの反応性がよいため、カーボンブラックを単独あるいは、一部にカーボンブラック含む混合物を使うことが好適である。
【0019】
カーボンブラックは、市販されているものを使用することができる。カーボンブラックの原料は、天然ガス由来のもの、有機樹脂由来のものがあるが、特に限定されるものではなく、どちらも使用可能である。
【0020】
カーボンは、灰分が0.5質量%以下であることが好ましい。灰分が0.5質量%以下のカーボンを使用すると、製造されるα-SiCおよびβ-SiCの不純物含有量を十分に低減できる。また、非晶質シリカと同様に、水分は10質量%未満であることが好ましい。
【0021】
カーボンの平均粒径(D50)は、非晶質シリカと同様に、限定されるものではないが、細かすぎると、反応時に発生するガスが排出されにくくなり、製品の純度や製品の生産性に影響を及ぼす。このため、好ましくは10μm以上3mm以下、さらに好ましくは50μm以上2mm以下である。
【0022】
非晶質シリカおよびカーボンは、2軸ミキサー等によって混合し、混合粉末(混合物)とする。このとき、非晶質シリカに含まれるSiと、カーボンに含まれるCとのモル比は、C/Siの値が、1.0以上5.0以下となるように調整することが好ましい。また、2.0以上4.0以下であることがより好ましく、2.5以上3.7以下であることがさらに好ましい。C/Siの値が、1.0より小さい場合または5.0より大きい場合は、未反応の非晶質シリカやカーボンが炭化ケイ素粉末に含まれる虞が大きくなる。
【0023】
(焼成工程)
上記の混合物を電気炉で焼成する。炭化ケイ素の焼成は公知の技術でよく、箱型電気炉、管状電気炉、アチソン炉など炭化ケイ素を製造できる電気炉などを使用することができる。
【0024】
このとき、焼成工程を2段階で行なう。具体的には、非晶質シリカとカーボンの混合物を300℃以上1200℃以下の範囲の第一の所定の温度まで昇温し保持する(第一焼成工程)。次に、1600℃以上2500℃以下の範囲の第二の所定の温度まで昇温し保持する(第二焼成工程)。なお、各焼成工程の保持時間は、原料の量や炉の構成などで異なるので、原料の量などで調整してもよい。
【0025】
このように、焼成工程を二段階で行なうことで、α-SiCの割合が多く、かつSiCの収率を高くすることができる。第一焼成工程を300℃以上1200℃以下の範囲の第一の所定の温度で行なうことで、非晶質シリカの結合水の脱水(400℃付近)、シラノール基に由来する脱水(800℃付近)が起こり、α-SiCを多く製造できると推定される。第一焼成工程の第一の所定の温度は、600℃以上1000℃以下の範囲の温度であることが好ましい。第二焼成工程の温度が1600℃より低いと、SiCの生成が進まないため、SiCの収率が悪くなる。また、第二焼成工程の温度が2500℃より高いと、生成したSiCが分解される量が増大するため、SiCの収率が悪くなる。
【0026】
焼成雰囲気は、アルゴン雰囲気等の還元雰囲気であることが好ましい。還元性が弱い雰囲気下で焼成すると、炭化ケイ素が酸化されるため、炭化ケイ素の収率が低下する。
【0027】
所定時間の通電の後、炉内が常温に冷めるのを待って炉から炭化ケイ素の塊状物(インゴット)を取り出す。インゴットは、α-SiCの結晶、β-SiCの結晶、ガラス質組織、未反応の混合物等からなり、これらの分離は容易に行なうことができる。
【0028】
得られたインゴットを粉砕する。粉砕方法は、トップグラインダー、ディスクグラインダー、ジェットミル、ボールミル等を用いて粉砕する方法が挙げられる。その後、所望の粒度範囲になるように、粉砕物を分級することが好ましい。分級は、ふるいを用いた方法が最も簡便であり、好ましい。ただし、分級は、ふるいを用いた方法に限定されず、乾式、湿式の何れでもよい。また、乾式の分級として、気流を用いた例えば遠心式の分級方法を用いることもできる。
【0029】
[実施例および比較例]
(非晶質シリカおよびSiCの製造)
水ガラス溶液(富士化学(株)製:SiO2/Na2O(モル比)=3.20)140kgに、水35kgを加えて混合し、Si濃度10質量%の水ガラス溶液を得た。得られた水ガラス水溶液66.2kgを硫酸濃度10.7体積%の硫酸(水165.6Lに濃硫酸20Lを混合したもの)200kg中に滴下し、常温(25℃)下で沈降性シリカを析出させた後、遠心分離機を用いて固液分離し、SiO2を含む固形分(沈降性シリカ)28.9kgと、不純物を含む液分237.3kgを得た。なお、pHは滴下終了時まで1.0以下に保った。得られたSiO2を含む固形分に対して、常温(25℃)下で硫酸濃度10.7体積%の硫酸を200kg添加してpHが3.0未満のスラリーとした。このスラリーを固液分離した後に、得られた固形分を、蒸留水を用いて水洗した。その後、水洗した固形分を105℃で1日乾燥させ、高純度シリカ14.5kgを得た。
【0030】
得られた高純度非晶質シリカにカーボン(東海カーボン社製、平均粒径:1mm、2mm以下の粒度の粒子の割合:90質量%以上)を8.2kg加えて混合し、高純度非晶質シリカとカーボンの混合物22.7kgを得た。また、上述した方法で得られた高純度非晶質シリカとカーボンの混合物(C/SiO2のモル比:3.5)865gをカーボンるつぼに収容し、富士電波工業社製多目的高温炉「ハイマルチ」を用いて焼成した。焼成はアルゴン雰囲気下で行なった。
【0031】
(実施例1)
焼成工程において高温炉で焼成を行なう際、800℃まで200℃/hrで昇温し5時間保持を行なった。ついで、2200℃まで200℃/hrで昇温し5時間保持することで炭化ケイ素の塊状物190gを得た。得られた炭化ケイ素の塊状物を、トップグラインダーを用いて粉砕し、粉末X線回折で測定し、リートベルト法によりα-SiCおよびβ-SiCの量を算出した。また、炭化ケイ素の収率、およびα-SiC率を以下の式1、式2により算出した。算出結果を
図1の表に示す。
図1は、実施例および比較例の炭化ケイ素の収率、およびα-SiC率を示す表である。
【0032】
(炭化ケイ素の収率(質量%))=(炭化ケイ素の塊状物の質量)/(非晶質シリカ+カーボンの質量)×100 … (式1)
(α-SiC率(質量%))=(α-SiCの質量)/(α-SiC+β-SiCの質量)×100 … (式2)
【0033】
(実施例2)
焼成工程において高温炉で焼成を行なう際、300℃まで200℃/hrで昇温し5時間保持を行なった。ついで、2200℃まで200℃/hrで昇温し5時間保持することで炭化ケイ素の塊状物135gを得た。得られた炭化ケイ素の塊状物を、トップグラインダーを用いて粉砕し、α-SiCおよびβ-SiCの量を実施例1と同様に測定した。また、得られた炭化ケイ素の収率、およびα-SiC率を実施例1と同様に算出した。
【0034】
(実施例3)
焼成工程において高温炉で焼成を行なう際、1200℃まで200℃/hrで昇温し5時間保持を行なった。ついで、2200℃まで200℃/hrで昇温し5時間保持することで炭化ケイ素の塊状物146gを得た。得られた炭化ケイ素の塊状物を、トップグラインダーを用いて粉砕し、α-SiCおよびβ-SiCの量を実施例1と同様に測定した。また、得られた炭化ケイ素の収率、およびα-SiC率を実施例1と同様に算出した。
【0035】
(比較例1)
焼成工程において高温炉で焼成を行なう際、1600℃まで200℃/hrで昇温し5時間保持を行なった。ついで、2200℃まで200℃/hrで昇温し5時間保持することで炭化ケイ素の塊状物130gを得た。得られた炭化ケイ素の塊状物を、トップグラインダーを用いて粉砕し、α-SiCおよびβ-SiCの量を実施例1と同様に測定した。また、得られた炭化ケイ素の収率、およびα-SiC率を実施例1と同様に算出した。
【0036】
(比較例2)
焼成工程において高温炉で焼成を行なう際、200℃まで200℃/hrで昇温し5時間保持を行なった。ついで、2200℃まで200℃/hrで昇温し5時間保持することで炭化ケイ素の塊状物124gを得た。得られた炭化ケイ素の塊状物を、トップグラインダーを用いて粉砕し、α-SiCおよびβ-SiCの量を実施例1と同様に測定した。また、得られた炭化ケイ素の収率、およびα-SiC率を実施例1と同様に算出した。
【0037】
(比較例3)
焼成工程において高温炉で焼成を行なう際、2200℃まで200℃/hrで昇温し10時間保持することで炭化ケイ素の塊状物108gを得た。得られた炭化ケイ素の塊状物を、トップグラインダーを用いて粉砕し、α-SiCおよびβ-SiCの量を実施例1と同様に測定した。また、得られた炭化ケイ素の収率、およびα-SiC率を実施例1と同様に算出した。
【0038】
図1の表に示されるように、2段階焼成をした実施例1~3、比較例1、2のうち、第一焼成工程において、非晶質シリカとカーボンの混合物を300℃以上1200℃以下の範囲の第一の所定の温度で焼成した実施例1~3は、第一焼成工程において、1600℃で焼成した比較例1および200℃で焼成した比較例2と比較して、α-SiCの割合が多く、かつSiCの収率を高くすることができることが分かった。また、第一焼成工程において、800℃で焼成した実施例1が最もα-SiCの割合が多く、かつSiCの収率が高かったため、第一の所定の温度は、600℃以上1000℃以下の範囲の温度にすることが好ましいことも分かった。なお、1段階焼成をした比較例3は、比較例1、2と比較してもα-SiCの割合、およびSiCの収率が悪かった。
【0039】
以上から、本発明の方法は、α-SiCの割合が多く、かつSiCの収率を高くすることができることが分かった。