(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】シール一体セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0286 20160101AFI20241125BHJP
H01M 8/026 20160101ALI20241125BHJP
【FI】
H01M8/0286
H01M8/026
(21)【出願番号】P 2020118997
(22)【出願日】2020-07-10
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 卓也
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-191780(JP,A)
【文献】特開2008-181889(JP,A)
【文献】特開2005-209351(JP,A)
【文献】特開2019-185922(JP,A)
【文献】特開2010-177009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を流通させるための流路が第1領域に形成されたプレートと、前記第1領域を囲む前記プレートの第2領域に設けられたシール部とを含むシール一体セパレータの製造方法であって、
前記流路が形成された前記プレートの前記第2領域に、前記シール部の材料である第1シーリング材を配置する第1工程と、
前記第1工程の実施後に、前記第1シーリング材及び前記流路のうちの
前記流路のみを覆うマスク治具を前記プレートに設置する第2工程と、
前記第2工程の実施後に、前記マスク治具が前記プレートに設置された状態で、前記第1シーリング材を焼成する第3工程と
を含むシール一体セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記マスク治具は、
前記第2領域と前記第1領域との間に位置し、かつ、前記第1領域を囲む第1側壁部分と、
前記第1側壁部分に接続され、かつ、前記流路を覆う第1部分とを含み、
前記第1シーリング材及び前記流路のうちの前記流路のみを覆う
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1領域内には、第1方向に延在する複数の凸部が前記第1方向に交差する第2方向に配列され、
前記流路は、前記複数の凸部の間に形成され、
前記複数の凸部の側面は、前記プレートの前記マスク治具が設置される面に対して傾斜し、
前記第1側壁部分は、前記複数の凸部のうちの前記第1側壁部分に隣接する凸部の側面の傾斜に合わせて、前記プレートの前記マスク治具が設置される面に対して傾斜している
請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
流体を流通させるための流路が第1領域に形成されたプレートと、前記第1領域を囲む前記プレートの第2領域に設けられたシール部とを含むシール一体セパレータの製造方法であって、
前記流路が形成された前記プレートの前記第2領域に、前記シール部の材料である第1シーリング材を配置する第1工程と、
前記第1工程の実施後に、前記第1シーリング材及び前記流路のうちの前記第1シーリング材のみを覆うマスク治具を前記プレートに設置する第2工程と、
前記第2工程の実施後に、前記マスク治具が前記プレートに設置された状態で、前記第1シーリング材を焼成する第3工程と
を含み、
前記マスク治具は、
前記第2領域と前記第1領域との間に位置し、かつ、前記第1領域を囲む第1側壁部分と、
前記第2領域を囲む第2側壁部分と、
前記第1側壁部分及び前記第2側壁部分に接続され、かつ、前記第2領域を覆う第2部分とを含み、
前記第1シーリング材及び前記流路のうちの前記第1シーリング材のみを覆う
シール一体セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記第2工程において、前記マスク治具は、第2シーリング材を介して、前記プレートに設置され、
前記第2シーリング材は、前記マスク治具の端部と前記プレートの表面との間に介在する部分を含む
請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第2工程において、前記マスク治具は、第2シーリング材を介して、前記プレートに設置され、
前記第2シーリング材は、前記マスク治具の端部と前記プレートの表面との間に介在する部分と、前記第1側壁部分と前記複数の凸部のうちの前記第1側壁部分に隣接する凸部の側面との間に介在する部分とを含む
請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程において前記第2シーリング材から発生するアウトガスの量は、前記第3工程において前記第1シーリング材から発生するアウトガスの量より少ない
請求項5又は6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に利用されるシール一体セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池のセルは、一対の触媒電極層の間に電解質膜を介在させた積層体である膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)と、膜電極接合体を挟む一対のセパレータとを有する。例えば、特許文献1には、流体を流通させるための流路と、流路を封止するためのシール部とが膜電極接合体と対向する面に設けられたセパレータが開示されている。シール部の材料としては、例えば、シリコーンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム及びフッ素ゴム、等の各種の弾性材料が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シール部に用いられる材料によっては、例えば、セパレータの表面に塗布されたシール部の焼成時に、アウトガスがシール部から発生する場合がある。この場合、シール部から発生したアウトガスが流路に付着することにより、流路の濡れ性が悪化するおそれがある。流路の濡れ性が悪化すると、流体の供給が阻害されるため、燃料電池の発電性能が低下する。
【0005】
以上の事情を考慮して、本発明は、セパレータに設けられた流路の濡れ性の悪化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本発明の態様に係るセパレータの製造方法は、流体を流通させるための流路が第1領域に形成されたプレートと、前記第1領域を囲む前記プレートの第2領域に設けられたシール部とを含むセパレータの製造方法であって、前記流路が形成された前記プレートの前記第2領域に、前記シール部の材料である第1シーリング材を配置する第1工程と、前記第1工程の実施後に、前記第1シーリング材及び前記流路のうちの一方のみを覆うマスク治具を前記プレートに設置する第2工程と、前記第2工程の実施後に、前記マスク治具が前記プレートに設置された状態で、前記第1シーリング材を焼成する第3工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係るセパレータの概略的な構成を例示する平面図である。
【
図2】
図1に示したセパレータを含む燃料電池の構成を例示する断面図である。
【
図3】
図1に示したセパレータの製造工程を例示する説明図である。
【
図4】
図3に示したセパレータの製造方法の作用を説明するための説明図である。
【
図8】第6変形例に係るセパレータの概略的な構成を例示する断面図である。
【
図9】第6変形例に係る第2工程の一例を示す説明図である。
【
図10】第6変形例に係る第2工程の別の例を示す説明図である。
【
図11】第6変形例に係る第2工程の別の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、各図において、各部の寸法及び縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0009】
[1.実施形態]
以下、本発明の実施形態を説明する。先ず、
図1を参照しながら、実施形態に係るセパレータ100の概要の一例について説明する。
【0010】
図1は、実施形態に係るセパレータ100の概略的な構成を例示する平面図である。
【0011】
セパレータ100は、例えば、後述する
図2に示す燃料電池10に用いられる。
図1に示すように、例えば、セパレータ100は、ガス等の流体を流通させるための流路122が第1領域AR1に形成されたプレート120と、第1領域AR1を囲む第2領域AR2に設けられたシール部124とを含む。なお、第1領域AR1及び第2領域AR2は、プレート120内の領域である。以下では、第1領域AR1を、符号を省略して、第1領域と称する場合がある。同様に、第2領域AR2を、符号を省略して、第2領域と称する場合がある。
【0012】
また、プレート120には、流路122の他に、互いに異なる流体(例えば、水素、空気及び冷媒等)が流れる貫通孔H10、H12及びH14が設けられている。
図1に示す例では、2つの貫通孔H10が第1領域内に設けられ、2つの貫通孔H12と2つの貫通孔H14とが第1領域AR1外に設けられている。例えば、第1領域内に設けられた2つの貫通孔H10の一方は、流路122に流体(例えば、水素)を供給するための貫通孔Hであり、2つの貫通孔H10の他方は、流路122から流体を排出するための貫通孔Hである。プレート120は、例えば、ステンレス鋼等の各種の金属材料で形成される。
【0013】
シール部124は、例えば、VMQ(ビニルメチルシリコーンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)及びFKM(フッ素ゴム)等の各種の弾性材料により形成される。
シール部124のうち、流路122及び貫通孔H10を囲む部分は、流路122を封止する。例えば、シール部124のうち、流路122及び貫通孔H10を囲む部分は、流路122を流れる流体が外部に漏洩すること、及び、貫通孔H12及びH14等を流れる流体が流路122に流入ことを防止する。また、シール部124のうち、貫通孔H12を囲む部分は、貫通孔H12を流れる流体が外部に漏洩すること、及び、貫通孔H10及びH14等を流れる流体が貫通孔H12に流入ことを防止する。同様に、シール部124のうち、貫通孔H14を囲む部分は、貫通孔H14を流れる流体が外部に漏洩すること、及び、貫通孔H10及びH12等を流れる流体が貫通孔H14に流入ことを防止する。
【0014】
なお、
図1では、流路122及び貫通孔H10を囲む部分と、貫通孔H12を囲む部分と、貫通孔H14を囲む部分とが互いに一体に形成されたシール部124を例示したが、シール部124の形状等は、
図1に示す例に限定されない。例えば、流路122及び貫通孔H10を囲む部分と、貫通孔H12を囲む部分と、貫通孔H14を囲む部分とが互いに離れて配置されたシール部124が、プレート120に設けられてもよい。また、貫通孔H10、H12及びH14が形成される位置及び数は、
図1に示す例に限定されない。
【0015】
図2は、
図1に示したセパレータ100を含む燃料電池10の構成を例示する断面図である。なお、
図2は、燃料電池10を
図1に示したA1-A2線により切断した場合の燃料電池10の縁部(
図1のA1側の縁部)の断面を模式的に示している。また、
図2では、複数のセル12が積層された燃料電池10を想定する。また、
図2の第1領域AR1及び第2領域AR2は、プレート120の第1領域AR1及び第2領域AR2に対応する範囲を示す。
【0016】
なお、
図2では、
図2における紙面に垂直な方向を第1方向と称し、
図2における紙面の左右方向(
図1に示したA1-A2線に沿う方向)を第2方向と称する。第2方向は、第1方向に交差する方向である。また、
図2では、
図2における紙面上側を、単に、上側と称し、
図2における紙面下側を、単に、下側と称する。
【0017】
燃料電池10は、例えば、積層された複数のセル12を有する。各セル12は、一対の触媒電極層の間に電解質膜を介在させた積層体である膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)200と、膜電極接合体200を挟む一対のセパレータ100(100a及び100b)とを有する。複数のセル12が積層された燃料電池10では、セパレータ100は、複数の膜電極接合体200を仕切る構造体として機能する。
【0018】
なお、
図2では、膜電極接合体200に対して、下側に配置されたセパレータ100と、膜電極接合体200に対して、上側に配置されたセパレータ100とを互いに区別するために、セパレータ100の符号の末尾に、小文字のアルファベット(a又はb)が付されている。例えば、セパレータ100aは、膜電極接合体200に対して、下側に配置されたセパレータ100であり、セパレータ100bは、膜電極接合体200に対して、上側に配置されたセパレータ100である。また、
図2では、
図1に示したセパレータ100の各要素の符号の末尾に、セパレータ100の符号の末尾に付した小文字のアルファベット(a又はb)と同じ小文字のアルファベット(a又はb)が付されている。
【0019】
セパレータ100aの流路122aは、第1領域に第2方向(紙面の左右方向)に配置された複数の凸部125aの間に形成される。例えば、第2方向に配置された複数の凸部125aの各々は、第1方向(紙面に垂直な方向)に延在している。また、複数の凸部125aの各々は、例えば、プレート120aのシール部124aが設けられる部分(第2領域)に対して上側に突出し、膜電極接合体200に接している。従って、流路122aは、セパレータ100aと膜電極接合体200との間に形成される。そして、流路122aは、セパレータ100aと膜電極接合体200との間に配置されたシール部124aにより封止される。流路122aは、例えば、
図1に示した2つの貫通孔H10の一方から供給される酸化剤ガス(空気)を膜電極接合体200の触媒電極層(カソード)に供給するための流路である。また、流路122aは、燃料電池10の発電により生成された生成水WT(例えば、
図4に示す生成水WT)を排出するための流路でもある。
【0020】
セパレータ100bの流路122bは、第1領域に第2方向に配置された複数の凸部125bの間に形成される。例えば、第2方向に配置された複数の凸部125bの各々は、第1方向に延在している。また、複数の凸部125aの各々は、例えば、プレート120bのシール部124bが設けられる部分(第2領域)に対して下側に突出し、膜電極接合体200に接している。従って、流路122bは、セパレータ100bと膜電極接合体200との間に形成される。そして、流路122bは、セパレータ100bと膜電極接合体200との間に配置されたシール部124bにより封止される。流路122bは、例えば、
図1に示した2つの貫通孔H12の一方から供給される燃料ガス(水素)を膜電極接合体200の触媒電極層(アノード)に供給するための流路である。
【0021】
このように、プレート120の第1領域内には、第1方向に延在する複数の凸部125が第2方向に配列される。なお、プレート120が金属材料で形成される場合、複数の凸部125は、例えば、プレート120をプレス加工することにより、成形されてもよい。本実施形態では、複数の凸部125の側面が、プレート120のシール部124が配置される面(第2領域)に対して傾斜している場合を想定する。
【0022】
また、セパレータ100aの凸部125aとセパレータ100bの凸部125bとが互いに逆向きになるように、セパレータ100a及び100bが互いに接続されることにより、流路122cが形成される。例えば、流路122cは、凸部125aの裏側の溝126aと凸部125bの裏側の溝126bとの間に形成される。流路122cには、例えば、燃料電池10の発電により発生する熱を除去するための冷媒が、
図1に示した2つの貫通孔H14の一方から供給される。
【0023】
図3は、
図1に示したセパレータ100の製造工程を例示する説明図である。なお、
図3に示すセパレータ100及びマスク治具300の断面図は、セパレータ100及びマスク治具300を
図1に示したA1-A2線により切断した場合のセパレータ100及びマスク治具300の断面を示す。
【0024】
図3に示す第1工程P1は、流路122が形成されたプレート120が用意された後に実施される。すなわち、第1工程P1の実施前の準備工程(図示せず)において、流路122が形成されたプレート120が、用意される。
【0025】
そして、第1工程P1において、流路122が形成されたプレート120の第2領域に、シール部124の材料である第1シーリング材124Sが配置される。例えば、第1シーリング材124Sとしては、
図1において説明したように、VMQ(ビニルメチルシリコーンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)及びFKM(フッ素ゴム)等の各種の弾性材料が使用される。また、第1シーリング材124Sの配置には、例えば、型成形、スクリーン印刷又はジェットディスペンサ等の公知の塗布技術が任意に採用される。
【0026】
第1工程P1の実行後の第2工程P2において、第1シーリング材124S及び流路122のうちの一方のみを覆うマスク治具300がプレート120に設置される。本実施形態では、マスク治具300が第1シーリング材124S及び流路122のうちの流路122のみを覆う場合を想定する。例えば、マスク治具300は、第1側壁部分302及び第1部分304を含み、第1側壁部分302及び第1部分304により、第1シーリング材124S及び流路122のうちの流路122のみを覆う。第1側壁部分302は、第2領域と第1領域との間に位置し、かつ、第1領域を囲む。また、第1部分304は、第1側壁部分302に接続され、かつ、流路122を覆う。
【0027】
なお、
図3では、プレート120に対する第1側壁部分302の角度が90度又はほぼ90度である場合を想定しているが、プレート120に対する第1側壁部分302の角度は
図3に示す例に限定されない。また、
図3では、第1部分304がプレート120の凸部125から離れている場合を想定する。
【0028】
第2工程P2の実行後の第3工程P3において、マスク治具300がプレート120に設置された状態で、第1シーリング材124Sが焼成される。これにより、シール部124が形成される。マスク治具300は、第3工程P3の実施後に、プレート120から取り外される。これにより、流路122及びシール部124等を含むセパレータ100が完成する。
【0029】
本実施形態では、流路122がマスク治具300により覆われているため、第1シーリング材124Sの焼成時に発生するアウトガスGSが流路122に付着すること(より正確には、アウトガスGSの成分が流路122に付着すること)を抑制することができる。この結果、本実施形態では、流路122の濡れ性が悪化することを抑制することができる。
【0030】
図4は、
図3に示したセパレータ100の製造方法の作用を説明するための説明図である。
図4に示す比較例は、
図3に示した第2工程P2が省かれた場合、すなわち、第1シーリング材124Sの焼成がマスク治具300を用いずに行われた場合を想定する。また、
図4に示した“マスク治具300使用”は、マスク治具300により流路122を覆った状態で第1シーリング材124Sの焼成が行われる本実施形態を示す。
【0031】
比較例では、第1シーリング材124Sの焼成がマスク治具300を用いずに行われるため、第1シーリング材124Sの焼成時に発生するアウトガスGSが流路122に付着する。アウトガスGSが流路122に付着した場合、アウトガスGSが流路122に付着しない場合に比べて、流路122の濡れ性が悪化する。流路122の濡れ性は、例えば、流体と流路122との接触角によって評価される。例えば、接触角が小さい場合、接触角が大きい場合に比べて、濡れ性がよい。
【0032】
例えば、比較例に示すように、アウトガスGSが流路122に付着した場合、燃料電池10の発電により生成された生成水WTと流路122との接触角が大きくなるため、流路122内の生成水WTが液滴状になる。液滴状の生成水WTが存在する流路122では、液滴状の生成水WTが流路122における流体の流れを阻害する。すなわち、アウトガスGSが流路122に付着した比較例のセパレータ100Zでは、流路122における流体(生成水WT及び酸化剤ガス等)の流れが悪くなる。このため、比較例では、流体の供給が阻害される現象(例えば、フラッディング及びプラッギング等)が発生する。このように、比較例では、流体の供給が阻害されるため、燃料電池10の発電性能が低下する。
【0033】
これに対し、本実施形態では、流路122がマスク治具300により覆われているため、第1シーリング材124Sの焼成時に発生するアウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができる。これにより、本実施形態では、生成水WTと流路122との接触角が大きくなることを抑制することができるため、流路122内の生成水WTが液滴状になることを抑制することができる。この結果、本実施形態では、流路122における流体の流れが悪くなることを抑制することができる。すなわち、本実施形態では、セパレータ100に設けられた流路122の濡れ性の悪化を抑制することができる。また、本実施形態では、流路122の濡れ性の悪化を抑制することができるため、燃料電池10の発電性能が低下することを抑制することができる。
【0034】
以上、本実施形態では、流体を流通させるための流路122が第1領域に形成されたプレート120と、第1領域を囲むプレート120の第2領域に設けられたシール部124とを含むセパレータ100が、第1工程P1、第2工程P2及び第3工程P3を含む製造方法により、製造される。第1工程P1は、流路122が形成されたプレート120の第2領域に、シール部124の材料である第1シーリング材124Sを配置する工程である。第2工程P2は、第1工程P1の実施後に、第1シーリング材124S及び流路122のうちの一方のみを覆うマスク治具300をプレート120に設置する工程である。第3工程P3は、第2工程P2の実施後に、マスク治具300がプレート120に設置された状態で、第1シーリング材124Sを焼成する工程である。
【0035】
このように、本実施形態では、第1シーリング材124S及び流路122のうちの一方のみをマスク治具300により覆った状態で、第1シーリング材124Sの焼成が行われる。このため、本実施形態では、第1シーリング材124Sの焼成時に発生するアウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができる。
【0036】
例えば、本実施形態では、マスク治具300は、第2領域と第1領域との間に位置し、かつ、第1領域を囲む第1側壁部分302と、第1側壁部分302に接続され、かつ、流路122を覆う第1部分304とを含む。この場合、アウトガスGSの流路122への侵入が第1側壁部分302により阻害されるため、平板状の治具(例えば、第1部分304のみを含む治具)により流路122を覆う場合に比べて、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができる。
【0037】
このように、本実施形態では、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができるため、セパレータ100に設けられた流路122の濡れ性の悪化を抑制することができる。これにより、本実施形態では、フラッディング及びプラッギング等の発生を抑制することができるため、燃料電池10の発電性能が低下することを抑制することができる。
【0038】
[2.変形例]
以上に例示した実施形態は多様に変形され得る。前述の実施形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で併合してもよい。
【0039】
[第1変形例]
上述した実施形態では、マスク治具300の第1側壁部分302と凸部125の側面との関係については特に説明していないが、第1側壁部分302は、プレート120に対する凸部125の側面の傾斜に合わせて、プレート120に対して傾斜してもよい。
【0040】
図5は、第1変形例に係る第2工程P2の説明図である。
図5に示す第1変形例では、第2工程P2において、マスク治具300Aが、
図3に示したマスク治具300の代わりに、プレート120に設置される。また、複数の凸部125の側面は、
図2において説明したように、プレート120のシール部124が配置される面(第2領域)に対して傾斜している。すなわち、複数の凸部125の側面は、プレート120のマスク治具300Aが設置される面(後述する設置部分306が有する設置面306sに対向する面)に対して、傾斜している。
【0041】
マスク治具300Aは、第1側壁部分302A、第1部分304A及び設置部分306を含む。
【0042】
第1側壁部分302Aは、第2領域に平行又はほぼ平行な設置面306sを有する設置部分306と、第1部分304Aとの間に位置する。また、第1側壁部分302Aは、
図3に示した第1側壁部分302と同様に、第2領域と第1領域との間に位置し、かつ、第1領域を囲む。但し、第1側壁部分302Aは、複数の凸部125のうちの第1側壁部分302Aに隣接する凸部125の側面の傾斜に合わせて、プレート120のマスク治具300Aが設置される面に対して傾斜している。例えば、プレート120の第2領域に平行な面に対する第1側壁部分302Aの角度は、プレート120の第2領域に平行な面に対する凸部125の側面の角度と同じ又はほぼ同じであってもよい。なお、第1変形例では、プレート120を平面視した場合(例えば、プレート120を
図5における紙面上側から見た場合)、第1側壁部分302Aの一部の部分が第1領域に重なり、第1側壁部分302Aの他の部分が、第1領域を囲む。
【0043】
また、第1部分304Aは、
図3に示した第1部分304と同様に、第1側壁部分302Aに接続され、かつ、流路122を覆う。また、設置部分306は、第1側壁部分302Aを囲み、かつ、第1側壁部分302Aに接続される。設置部分306は、「マスク治具の端部」の一例である。なお、設置部分306がマスク治具300Aから省かれ、第1側壁部分302Aの端部(第2領域に平行又はほぼ平行な面を含む部分)が設置部分306として機能してもよい。設置部分306がマスク治具300Aから省かれる場合、第1側壁部分302Aの端部は、「マスク治具の端部」の別の例である。
【0044】
上述したように、第1変形例では、マスク治具300Aの第1側壁部分302Aは、プレート120に対する凸部125の側面の傾斜に合わせて、プレート120に対して傾斜している。これにより、第1変形例では、例えば、プレート120に対する第1側壁部分302の角度が90度又はほぼ90度である場合に比べて、第1側壁部分302Aと凸部125との隙間を小さくすることができる。この結果、第1変形例では、プレート120に対する第1側壁部分302の角度が90度又はほぼ90度である場合に比べて、アウトガスGSが流路122に侵入することを抑制することができる。すなわち、第1変形例では、プレート120に対する第1側壁部分302の角度が90度又はほぼ90度である場合に比べて、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができる。
【0045】
このように、第1変形例においても、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができるため、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0046】
[第2変形例]
上述した実施形態及び第1変形例では、マスク治具300又は300Aをプレート120に設置する方法は特に限定されないが、マスク治具300又は300Aは、シーリング材を介して、プレート120に設置されてもよい。
【0047】
図6は、第2変形例に係る第2工程P2の説明図である。
図6に示す第2変形例では、第2工程P2において、マスク治具300Aが、第2シーリング材320を介して、プレート120に設置される。マスク治具300Aは、例えば、
図5において説明したマスク治具300Aと同様である。
【0048】
図6に示す例では、第2シーリング材320は、マスク治具300Aの設置面306sとプレート120の表面との間に介在する部分と、第1側壁部分302Aと複数の凸部125のうちの第1側壁部分302Aに隣接する凸部125の側面との間に介在する部分とを含む。なお、第2シーリング材320は、第1側壁部分302Aと凸部125との間に介在する部分を含まなくてもよい。
【0049】
上述したように、第2変形例では、マスク治具300Aが第2シーリング材320を介してプレート120に設置されるため、マスク治具300A内の空間を密封することができる。
【0050】
例えば、マスク治具300Aの設置面306sとプレート120の表面との間に第2シーリング材320が介在する場合、第2シーリング材320により、マスク治具300A内の空間を密封することができる。また、マスク治具300Aの設置面306sとプレート120の表面との間に加えて、第1側壁部分302Aと凸部125との間に第2シーリング材320が介在する場合、マスク治具300A内の空間を、より確実に密封することができる。
【0051】
ここで、第2シーリング材320は、例えば、第3工程P3においてアウトガスGSが発生しないシーリング材、又は、第3工程P3において発生するアウトガスGSの量が第1シーリング材124Sより少ないシーリング材である。すなわち、第3工程P3において第2シーリング材320から発生するアウトガスGSの量は、第3工程P3において第1シーリング材124Sから発生するアウトガスGSの量より少ない。なお、第2シーリング材320が第1シーリング材124Sと同じシーリング材である場合でも、マスク治具300Aとプレート120との間に介在する第2シーリング材320の量は、第1シーリング材124Sの量より少ない。このため、第2シーリング材320が第1シーリング材124Sと同じシーリング材である場合でも、第3工程P3において第2シーリング材320から発生するアウトガスGSの量は、第3工程P3において第1シーリング材124Sから発生するアウトガスGSの量より少ない。従って、第2シーリング材320は、第1シーリング材124Sと同じシーリング材であってもよい。あるいは、第2シーリング材320は、第1シーリング材124Sに比べて、アウトガスGSの発生が抑制されたシーリング材であってもよい。すなわち、第2シーリング材320は、第1シーリング材124Sに比べて、流路122の濡れ性を悪化させないシーリング材であればよい。
【0052】
第2変形例では、マスク治具300A内の空間を密封することができるため、マスク治具300Aとプレート120との間に第2シーリング材320が介在しない場合に比べて、アウトガスGSが流路122に侵入することを抑制することができる。すなわち、第2変形例では、マスク治具300Aとプレート120との間に第2シーリング材320が介在しない場合に比べて、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができる。
【0053】
なお、第3工程P3において第2シーリング材320からアウトガスGSが発生する場合においても、上述したように、第2シーリング材320から発生するアウトガスGSの量は、第1シーリング材124Sから発生するアウトガスGSの量より少ない。このため、第3工程P3において第2シーリング材320からアウトガスGSが発生する場合においても、マスク治具300又は300Aが使用されない場合に比べて、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができる。
【0054】
また、第2変形例の態様は、
図6に示す例に限定されない。例えば、マスク治具300Aの代わりにマスク治具300が使用される場合、マスク治具300の第1側壁部分302の端部とプレート120の表面との間に第2シーリング材320が介在してもよい。第1側壁部分302の端部は、「マスク治具の端部」の別の例である。マスク治具300とプレート120との間に第2シーリング材320が介在する場合においても、マスク治具300内の空間を密封することができるため、アウトガスGSが流路122に侵入することを抑制することができる。すなわち、マスク治具300とプレート120との間に第2シーリング材320が介在する場合においても、マスク治具300とプレート120との間に第2シーリング材320が介在しない場合に比べて、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができる。
【0055】
このように、第2変形例においても、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができるため、上述した実施形態及び第1変形例と同様の効果を得ることができる。
【0056】
[第3変形例]
上述した実施形態、第1変形例及び第2変形例では、第1シーリング材124S及び流路122のうちの流路122のみを覆うマスク治具300又は300Aが使用される場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、第2工程P2において、
図7に示すように、第1シーリング材124S及び流路122のうちの第1シーリング材124Sのみを覆うマスク治具300Bが、プレート120に設置されてもよい。
【0057】
図7は、第3変形例に係る第2工程P2の説明図である。
図7に示す第3変形例では、第2工程P2において、マスク治具300Bが、第2シーリング材320を介して、プレート120に設置される。
【0058】
例えば、マスク治具300Bは、第1側壁部分308、第2側壁部分309及び第2部分310を含み、第1側壁部分308、第2側壁部分309及び第2部分310により、第1シーリング材124S及び流路122のうちの第1シーリング材124Sのみを覆う。第1側壁部分308は、第2領域と第1領域との間に位置し、かつ、第1領域を囲む。第2側壁部分309は、第2領域を囲む。また、第2部分310は、第1側壁部分308及び第2側壁部分309に接続され、かつ、第2領域を覆う。
【0059】
第2シーリング材320は、第1側壁部分308の端部とプレート120の表面との間に介在する部分と、第2側壁部分309の端部とプレート120の表面との間に介在する部分とを含む。なお、第1側壁部分308の端部及び第2側壁部分309の端部は、マスク治具300Bの端部に該当する。すなわち、第2シーリング材320は、マスク治具300Bの端部とプレート120の表面との間に介在する部分を含む。第1側壁部分308の端部及び第2側壁部分309の端部は、「マスク治具の端部」の別の例である。第2シーリング材320は、例えば、
図6において説明した第2シーリング材320と同様のシーリング材である。
【0060】
第3変形例では、マスク治具300Bの端部とプレート120の表面との間に介在する第2シーリング材320により、マスク治具300B内の空間を密封することができる。このため、第3変形例では、第3工程P3において第1シーリング材124Sから発生するアウトガスGSが、マスク治具300B内の空間から漏洩することを抑制することができる。これにより、第3変形例においても、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができる。
【0061】
このように、第3変形例においても、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができるため、上述した実施形態、第1変形例及び第2変形例と同様の効果を得ることができる。
【0062】
[第4変形例]
上述した第3変形例において、マスク治具300Bは、第2シーリング材320を介さずに、プレート120に設置されてもよい。第4変形例においても、第1シーリング材124Sがマスク治具300Bにより覆われているため、第3工程P3において第1シーリング材124Sから発生したアウトガスGSの流路122への到達が、マスク治具300Bにより阻害される。このため、第4変形例においても、マスク治具300、300A又は300Bがプレート120に設置されない場合(すなわち、
図4に示した比較例)に比べて、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができる。
【0063】
このように、第4変形例においても、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができるため、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
[第5変形例]
上述した実施形態、第1変形例及び第2変形例では、マスク治具300又は300Aが第1側壁部分302又は302Aを含む場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、流路122を覆う平板状の治具(例えば、マスク治具300から第1側壁部分302が省かれた治具、及び、マスク治具300Aから第1側壁部分302Aが省かれた治具等)が、プレート120の凸部125上に配置されてもよい。この場合、平板状の治具は、「マスク治具」に該当する。例えば、プレート120の凸部125上に配置された平板状の治具は、第3工程P3において第1シーリング材124Sから発生したアウトガスGSの流路122への進入路の一部を遮断する。これにより、第5変形例においても、例えば、
図4に示した比較例に比べて、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができる。
【0065】
このように、第5変形例においても、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができるため、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0066】
[第6変形例]
上述した実施形態、及び、第1変形例から第5変形例までの変形例において、シール部124は、
図8に示すように、ビード部128上に配置されてもよい。
【0067】
図8は、第6変形例に係るセパレータ100Aの概略的な構成を例示する断面図である。
図1から
図7において説明した要素と同様の要素については、同様の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0068】
セパレータ100Aは、
図8における紙面上側に突出したビード部128が第2領域に形成されたプレート120Aと、ビード部128上に設けられたシール部124とを含む。プレート120Aは、ビード部128が第2領域に形成されていることを除いて、
図1及び
図2等において説明したプレート120と同様である。プレート120Aでは、第1領域は、ビード部128により囲まれる。従って、プレート120Aにおいても、第1領域は、シール部124により囲まれる。
【0069】
なお、セパレータ100Aの製造方法は、セパレータ100の製造方法と同様である。例えば、セパレータ100Aの製造方法における第2工程P2においても、第1シーリング材124S及び流路122のうちの一方のみを覆うマスク治具300又は300Aが、プレート120Aに設置される。
【0070】
図9は、第6変形例に係る第2工程P2の一例を示す説明図である。
図9に示す例では、第2工程P2において、第1シーリング材124S及び流路122のうちの流路122のみを覆うマスク治具300が、プレート120Aに設置される。マスク治具300は、例えば、
図3において説明したマスク治具300と同様である。なお、マスク治具300は、第2シーリング材320を介してプレート120Aに設置されてもよい。
【0071】
図10は、第6変形例に係る第2工程P2の別の例を示す説明図である。
図10に示す例では、第2工程P2において、第1シーリング材124S及び流路122のうちの流路122のみを覆うマスク治具300Aが、第2シーリング材320を介して、プレート120Aに設置される。マスク治具300Aは、例えば、
図5において説明したマスク治具300Aと同様である。なお、マスク治具300Aは、
図5に示した第1変形例の第2工程P2と同様に、第2シーリング材320を介さずに、プレート120Aに設置されてもよい。
【0072】
図11は、第6変形例に係る第2工程P2の別の例を示す説明図である。
図11に示す例では、第2工程P2において、第1シーリング材124S及び流路122のうちの第1シーリング材124Sのみを覆うマスク治具300Bが、第2シーリング材320を介して、プレート120Aに設置される。マスク治具300Bは、例えば、
図7において説明したマスク治具300と同様である。例えば、マスク治具300Bは、ビード部128と第1シーリング材124Sとを覆う。なお、マスク治具300Bは、第2シーリング材320を介さずに、プレート120Aに設置されてもよい。
【0073】
第6変形例においても、アウトガスGSが流路122に付着することを抑制することができるため、上述した実施形態、及び、第1変形例から第5変形例までの変形例と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0074】
10…燃料電池、
12…セル、
100、100A、100a、100b、100Z…セパレータ、
120、120A…プレート、
122、122a、122b、122c…流路、
124、124a、124b…シール部、
124S…第1シーリング材、
125、125a、125b…凸部、
126a、126b…溝、
128…ビード部、
200…膜電極接合体、
300、300A、300B…マスク治具、
302、302A、308…第1側壁部分、
304、304A…第1部分、
306…設置部分、
306s…設置面、
309…第2側壁部分、
310…第2部分、
320…第2シーリング材
AR1…第1領域
AR2…第2領域。