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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】故障診断装置および故障箇所推定方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20241125BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020120095
(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公開番号】P2022017037
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100217940
【弁理士】
【氏名又は名称】三並 大悟
(72)【発明者】
【氏名】見村 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】一文字 正幸
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-163645(JP,A)
【文献】特開2009-109350(JP,A)
【文献】特開平11-085257(JP,A)
【文献】特開2016-126645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
故障診断の対象機器で測定された測定データを取得するデータ取得部と、
前記対象機器で1つ以上の故障モードが生じた場合に想定される予測データを出力する計算部と、
前記測定データおよび前記予測データに基づいて、前記対象機器の故障モードを同定する故障モード同定部と、
前記測定データを用いて、前記故障モード同定部で故障モードが同定された対象機器の故障箇所を推定する故障箇所推定部と、
前記測定データおよび前記予測データを周波数変換するデータ変換部と、
を備え、
前記測定データが、複数のマイクロフォンの各々で測定された前記対象機器の音を示す音データと、振動センサで測定された前記対象機器の振動を示す振動データと、を含み
前記故障モードには、故障の進行度合いが予め設定され、
前記計算部は、前記進行度合いに応じた予測データを出力し、かつ、前記複数のマイクロフォンの各々に到着した前記音データの時間差に基づいて音源位置を算出し、
前記故障モード同定部は、前記データ変換部で周波数変換された前記測定データおよび前記予測データの周波数波形の特徴に基づいて、前記故障モードを同定し、
前記故障箇所推定部は、前記音源位置に基づいて前記故障箇所を推定する、
故障診断装置。
【請求項2】
前記データ取得部は、前記対象機器の運転状態を示す運転データを取得し、
前記計算部は、前記運転データを用いて前記予測データを出力する、請求項1に記載の故障診断装置。
【請求項3】
前記データ取得部は、前記測定データが正常であるか異常であるかを判定し、異常であると判定した場合に前記データ取得部へ前記測定データを転送する判定装置をさらに備える、請求項1または2に記載の故障診断装置。
【請求項4】
故障診断の対象機器で測定された測定データを取得し、
前記対象機器で1つ以上の故障モードが生じた場合に想定される予測データを出力し、
前記測定データおよび前記予測データに基づいて、前記対象機器の故障モードを同定し、
前記測定データを用いて、前記故障モードが同定された対象機器の故障箇所を推定する、
故障箇所推定方法であって、
前記測定データが、複数のマイクロフォンの各々で測定された前記対象機器の音を示す音データと、振動センサで測定された前記対象機器の振動を示す振動データと、を含み
前記測定データおよび前記予測データを周波数変換し、
前記故障モードには、故障の進行度合いが予め設定され、前記進行度合いに応じた予測データを出力し、
周波数変換された前記測定データおよび前記予測データの周波数波形の特徴に基づいて、前記故障モードを同定し、
前記複数のマイクロフォンの各々に到着した前記音データの時間差に基づいて音源位置を算出し、
前記音源位置に基づいて前記故障箇所を推定する、
故障箇所推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、故障診断装置および故障箇所推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風車に代表される発電プラント内の機器の稼働率向上を目的として、IoT(Internet of Things)技術を利用した発電プラントの故障診断システムの開発が検討されている。このような故障診断を適切に行うためには、測定データから精度良く故障内容を特定することが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3834228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、故障要因を高精度に特定し、さらに故障が発生した箇所も推定することが可能な故障診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る故障診断装置は、故障診断の対象機器で測定された測定データを取得するデータ取得部と、対象機器で1つ以上の故障モードが生じた場合に想定される予測データを出力する計算部と、測定データおよび予測データに基づいて、対象機器の故障モードを同定する故障モード同定部と、測定データを用いて、故障モード同定部で故障モードが同定された対象機器の故障箇所を推定する故障箇所推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本実施形態によれば、故障要因を高精度に特定し、さらに故障が発生した箇所も推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態に係る故障診断装置の構成を示すブロック図である。
図2】第2実施形態に係る故障診断装置の構成を示すブロック図である。
図3】2つのマイクロフォンで受音した音信号の波形図である。
図4】2つのマイクロフォンで受音した信号に基づいて求められる音源位置の候補を示す双曲線である。
図5】第3実施形態に係る故障診断装置の構成を示すブロック図である。
図6】第4実施形態に係る故障診断装置の構成を示すブロック図である。
図7】測定データおよび予測測定データを正規化した一例を示す図である。
図8】ギアに設けられた転がり軸受の外輪の損傷度合い時系列で示す波形である。
図9】第4実施形態に係る故障診断装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。下記の実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る故障診断装置の構成を示すブロック図である。図1に示す故障診断装置10は、発電プラント20の故障を診断するための装置である。また、故障診断装置10は、発電プラント20の状態を計測する複数のセンサ30と接続されている。故障診断装置10およびセンサ30は、故障箇所推定システムを構成する。
【0010】
まず、発電プラント20の構成について説明する。発電プラント20は、図1に示すように、発電機21と、ギア22と、タービン23と、ブレード24と、制御装置25と、を備える。発電プラント20では、ブレード24が回転すると、ブレード24に連結されたタービン23も回転する。タービン23の回転力が、ギア22を通じて発電機21に伝達される。発電機21が、この回転力で発電する。このような発電プラント20の運転状態を示す運転データは、制御装置25から故障診断装置10に転送される。この運転データには、例えば発電機21の出力電力の時系列データ等が含まれる。
【0011】
本実施形態では、発電機21、ギア22、タービン23、およびブレード24等の機器が、故障診断装置10による故障診断の対象機器である。また、本実施形態では、発電プラント20は、風力発電プラントであるが、発電方法は風力発電に限定されない。さらに、故障診断の対象機器は、発電プラント20内の機器に限定されず、例えばエンジン、コンプレッサ、ポンプなどの一般産業機器を含むその他の機器でもよい。
【0012】
次に、故障診断装置10の構成について説明する。故障診断装置10は、データ取得部11と、計算部12と、故障モード同定部13と、故障箇所推定部14と、を備える。さらに、計算部12は、データ分析部121および故障予測算出部122を有する。
【0013】
データ取得部11は、センサ30の測定データおよび発電プラント20の運転データを取得する。取得された測定データおよび運転データは、データ取得部11に格納される。
【0014】
データ分析部121は、データ取得部11に格納された測定データに対して種々の分析処理を行う。データ分析部121は、例えば、各センサ30の測定データを演算することによって、各センサ30の測定データの関連性や、測定する物理量(音、振動)の発生源の位置等を出力する。
【0015】
故障予測算出部122は、対象機器の挙動を模擬するデータ処理を行うブロックであり、対象機器に対応するシミュレーションモデルを用いてこのような模擬を行う。対象機器が1つ以上の故障モードのうちの少なくともいずれか1つが生じた場合に想定される予測データを、シミュレーションモデルを用いて出力する。例えば、ギア22が損傷していると仮想した場合に、故障予測算出部122は、ギア用シミュレーションモデルを用いた模擬により予測データを出力する。故障予測算出部122では、想定される複数の故障モードや、シミュレーションモデルが対象機器ごとに設定されている。また、各シミュレーションモデルは、例えば物理モデルに基づく数式、事前に行った数値計算結果に基づくテーブルや関数、経験に基づくテーブルや関数などにより構成されている。
【0016】
故障モード同定部13は、データ分析部121の分析データと、故障予測算出部122の故障予測データと、を受信してこれらのデータを比較する。故障モード同定部13は、比較結果に基づいて対象機器の故障モードを同定する。例えば、故障予測データの値が、ギア22の分析データの値に近い場合には、故障モード同定部13は、ギア22が損傷していると判定する。
【0017】
故障箇所推定部14は、故障モード同定部13で同定された故障モードに基づいて、発電プラント20内で発生した1つ以上の故障箇所40を推定する。例えば、故障箇所推定部14は、故障モード同定部13で同定された故障モードに基づいて故障している対象機器を特定し、さらに、データ分析部121の分析結果に基づいて故障箇所を推定する。
【0018】
以上説明した本実施形態によれば、対象機器で想定される故障モードに基づいて予測データが故障予測算出部122にて算出され、また、故障モード同定部13にて予測データとセンサ30の測定データとが比較されて故障モードが同定される。そのため、故障要因を高精度に特定することができる。また、データ分析部121にてセンサ30による測定対象の発生源の位置が特定されるため、故障箇所推定部14は、特定された位置に基づいて故障箇所を推定することができる。
【0019】
(第2実施形態)
図2は、第2実施形態に係る故障診断装置の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る故障診断装置10の構成は、図1に示す第1実施形態と同様である。この故障診断装置10は、センサ30の一例であるマイクロフォン31およびマイクロフォン32で測定された音圧を示す音データに基づいて発電プラント20の故障を診断する。
【0020】
本実施形態では、2つのマイクロフォン31、32が設置されているが、マイクロフォンの数は2つ以上であればよい。また、マイクロフォンの設置位置については特に限定されない。本実施形態では、図2に示すように、マイクロフォン31の設置位置は、発電プラント20内の故障箇所40から距離d1離れた箇所であり、マイクロフォン32の設置位置は、故障箇所40から距離d1+Δd離れた箇所とする。
【0021】
以下、本実施形態に係る故障診断装置10による故障箇所の推定方法について説明する。
【0022】
音は、1気圧の乾燥空気中を331.5+0.61t(m/s)で移動する。tは、摂氏温度である。そのため、一定の間隔で並べた2つのマイクロフォン31、32を用いる場合、図2に示すように、故障箇所40すなわち音源40から各マイクロフォン31、32までの距離の差Δdによって、各マイクロフォン31、32に音が到着する時間に差が生じる。この距離差Δdによって発生する音の到着時間差nは、音速を340m/sとすると、n(s)=Δd/340となる。また、到着時間差nが既知の場合、音源40から各マイクロフォンまでの距離差Δdを求めることができる。
【0023】
図3は、2つのマイクロフォン31、32で受音した音信号の波形図である。信号gは、マイクロフォン31で受音した信号であり、信号fは、マイクロフォン32で受音した信号である。
【0024】
マイクロフォン31とマイクロフォン32との間における音の到着時間差nは、相互相関係数を用いることによって求めることができる。一定の間隔で並べた2つのマイクロフォン31、32で受音した信号gと信号fとは、図3に示すように時間軸(ωt)のずれを除けば互いに類似した信号であるといえる。
【0025】
音源40からマイクロフォン31までの距離と、音源40からマイクロフォン32までの距離との距離差Δdによって、音の到着時間差nが発生する。また、この音の到着時間差nによって、2つのマイクロフォン31、32で観測される信号g、fに位相差(図3参照)が発生する。この2つの信号のずれを把握したい場合に利用される評価尺度が、相互相関係数とよばれる量である。
【0026】
【数1】
【0027】
式(1)は、信号fの時間軸はそのままにして、信号gのみをnサンプルだけずらして得られる信号との内積を計算している。この信号は、下記の式(2)で定義される。
【数2】
【0028】
内積は、2つの信号f、g間の類似性を評価する尺度であるので、この類似性を時間ずれnサンプルを変数に持つ係数として表している。なお、式(2)においては通常、
【数3】
とNサンプルごとの周期性をもっていることを考慮すれば、式(1)は下記の式(4)のように変形される。
【数4】
【0029】
【数5】
【0030】
式(5)で得られる相互相関係数の値が大きいほど、2つの信号f、gの相関が強く、2つの信号f、gは類似した信号であるといえる。相互相関係数の絶対値が1に近くなるほど2つの信号f、gは類似しており、相互相関係数の絶対値が1であった場合、2つの信号f、gは同じ信号であるといえる。
【0031】
また、相互相関係数が0に近づくほど、2つの信号f、gは類似していないことになる。2つの信号f、gの相互相関係数を求めたとき、その値が最も大きかった場合が2つの信号f、gが最も類似しており,2つの信号f、gに時間的なずれが無い場合である。つまり、相互相関係数の値が最も大きい場合のずらしたサンプル数nが、2つの信号f、gの時間軸のずれであるといえる。このように、2つのマイクロフォン31、32間における音の到着時間差nは,相互相関係数を用いて算出することが可能である。
【0032】
マイクロフォンを用いて音源の位置を推定するためには、マイクロフォン間の音の到着時間差nを用いるため、複数のマイクロフォンが必要となる。マイクロフォンの数が多いほど、より正確な音源位置を推定できる。
【0033】
図4は、2つのマイクロフォンで受音した信号に基づいて求められる音源位置の候補を示す双曲線である。平面上において2つのマイクロフォンで受音した信号から音源位置の候補を1本の双曲線として描くことができる。図4に示す双曲線は、平面上において2定点M、Mからの距離の差が一定である点Pの軌跡である。点M、Mは双曲線の焦点である。c>0のとき、焦点座標をM=(c,0)、M=(-c,0)、点Pの座標をP=(x,y)と設定すると、焦点Mと点Pとの距離MPは、下記の式(6)で表される。
【数6】
【0034】
同様に、商店Mと点Pとの距離MPは、下記の式(7)で表される。
【数7】
【0035】
また、距離MPと距離MPとの差の絶対値は、aを定数として、下記の式(8)で表される。
【数8】
【0036】
式(8)において、2aは、双曲線のx軸との交点の距離の差、つまり双曲線上のある点からM、Mまでの距離の差である。
【0037】
一定の間隔で並べた2つのマイクロフォン間の音の到着時間差から、音源から各マイクロフォンまでの距離の差を求めることができる。このマイクロフォン間の距離差から2つのマイクロフォンを焦点とした双曲線を描くことができ、音源はこの双曲線上に存在すると仮定できる。また、どちらのマイクロフォンに最初に音が到着したか、到着時間差から判断することができるため、音源の位置をどちらか一方の曲線上に限定できることから故障箇所の推定が可能となる。
【0038】
さらに、3つのマイクロフォンを用いると、各マイクロフォン間の到着時間差を求めることができるため、音源の位置を含む双曲線を複数描くことができる。音源は双曲線上に存在するため、双曲線同士の交点が音源の位置となる。
【0039】
以下、3つのマイクロフォンを用いて平面上の音源位置を推定する方法について説明する。音源位置SをS=(S,S)、各マイクロフォンの位置M、M、MをそれぞれM=(Mx1,My1)、M=(Mx2,My2)、M=(Mx3,My3)、マイクロフォンに音が到達した時刻をt、t、tとすると、マイクロフォンM、M間の音の到着時間差は(t-t)となる。そのため、上記の式(8)から下記の式(9)が成り立つ。
【数9】
【0040】
式(9)において、cは音速を表している。式(9)は、マイクロフォンM、Mを焦点とした双曲線上にある点を表している。同様に、マイクロフォンMとマイクロフォンMとの間における音の到着時間差は(t-t)となり、下記の式(10)が成り立つ。
【数10】
【0041】
式(10)は、マイクロフォンの位置M、Mを焦点とした双曲線上にある点を表している。式(9)、(10)より、下記の連立方程式(11)を立てることができる。
【数11】
【0042】
連立方程式(11)をS、Sについて解くことによって、双曲線の交点、つまり、平面上での音源の位置S=(S,S)を算出することができる。
【0043】
本実施形態では、データ分析部121が、マイクロフォン31の測定データを示す信号gとマイクロフォン32の測定データを示す信号fとの相互相関係数を算出する。続いて、データ分析部121は、算出した相互相関係数に基づいて音源40からの到着時間差を算出し、さらに、この到着時間差に基づいて音源40からの距離差Δdを算出する。続いて、データ分析部121は、距離差Δdに基づく双曲線を用いて音源40の位置、換言すると故障箇所40の位置を算出する。
【0044】
上述したデータ分析部121による分析処理と並行して、故障予測算出部122は、データ取得部11に格納された運転データと、マイクロフォン31、32の音計測の対象機器(例えばギア22)の故障モードとをシミュレーションモデルに入力する。これにより、故障予測算出部122は、故障発生時の音の予測データを出力する。
【0045】
続いて、故障モード同定部13に、データ分析部121で算出された音源位置と、マイクロフォン31、32で測定された音データと、故障予測算出部122で算出された音の予測データとが入力されると、故障モード同定部13は、故障モードを同定する。例えば、故障モード同定部13は、上述した式(5)で表される相互相関係数にて上記音データと、上記予測データとの相関を評価し、相関有りと判定した場合に故障箇所推定部14が対象機器の故障箇所を推定する。
【0046】
故障箇所推定部14は、データ分析部121で算出された音源40の位置座標を、発電プラント20の平面図の座標系に変換して故障箇所の位置を特定する。
【0047】
例えば、振動センサのみで風力発電プラントの故障箇所を推定する場合、風車のように狭い空間で複数の機構から構成される各機器にそれぞれセンサを設置しても、故障箇所から振動伝搬によって、各センサで同じ特徴を有する振動データが計測される可能性がある。この場合、故障箇所の特定が困難になる。さらに、例えば遊星歯車のように複数の軸と歯車が連結される構造体が組み込まれている場合、機器の故障時には単一の周波数のみがセンサに計測されるため、機器のいずれの箇所または複数箇所が故障したのか、この場合も判断が難しい。
【0048】
一方、上述した本実施形態によれば、故障モード同定部13が複数のマイクロフォンの測定データと、故障時に想定される予測データとの比較することによって、故障要因を特定している。また、故障箇所推定部14は、データ分析部121で計算された音源の位置に基づいて故障箇所を推定する。これにより、故障要因を高精度に特定し、さらに故障が発生した箇所も推定することが可能となる。
【0049】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態に係る故障診断装置の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る故障診断装置10の構成は、図1に示す第1実施形態と同様である。以下、上述した実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0050】
本実施形態では、発電プラント20における故障診断の各対象機器付近に振動センサ50が設置されている。振動センサ50は、各対象機器の振動を測定する。振動センサ50で測定された振動データは、、制御装置25からデータ取得部11に転送される。
【0051】
データ取得部11に転送された振動データは、センサ30の測定データと同様に、データ分析部121を通じて故障モード同定部13に入力される。また、故障予測算出部122が、振動データと、1以上の故障モデルとをシミュレーションモデルに入力して振動に関連する故障の予測データを故障モード同定部13へ出力する。
【0052】
故障モード同定部13は、センサ30および振動センサ50の各々の測定データを、想定される故障モードの予測データと照合した結果に基づいて、故障モードを同定する。
【0053】
以上説明した本実施形態によれば、第1実施形態に比べて、故障モードの同定結果を判断するためのデータ数が多くなるので、故障モードを同定する精度が向上する。
【0054】
なお、データ分析部121における振動データの分析例として、ギア22等の回転体の場合には軸受部付近に設置した振動センサ50の振動データから回転体の不釣り合いの故障を推定できる。不釣り合いがある場合、回転体の振動は大きくなり、振動が大きくなると音も発生する。そのため上述した第2実施形態のようにセンサ30の測定データとしてマイクロフォン31、32の音データを用いることも可能である。このように、2種類のセンサの検知結果を組み合わせることで故障モードの精度が向上し、これにより、故障箇所の診断精度も高まる。
【0055】
(第4実施形態)
図6は、第4実施形態に係る故障診断装置の構成を示すブロック図である。図6に示す故障診断装置10は、データ変換部15をさらに備える。データ変換部15は、データ取得部11に格納されている各センサ30の複数個の測定データと、故障予測算出部122から出力される複数個の予測データとを、それぞれ正規化する。データの正規化は、故障モードを精度良く同定するために行う。
【0056】
図7は、測定データおよび予測測定データを正規化した一例を示す図である。図7に示す正規化データAは、センサ30の測定データを正規化したものである。一方、正規化データBは、故障予測算出部122から出力される予測データを正規化したものである。
【0057】
データ変換部15によって、例えば図7に示すような最大振幅の振れ幅を1とする減衰波形が測定された場合、故障モード同定部13は、正規化データA、B間の波形の相似性に基づいて故障モードを同定する。なお、測定データの正規化方法と予測データの正規化方法は、互いに比較が可能な正規化データを導出できるのであれば、同じ方法を採用してもよいし、異なる方法を採用してもよい。
【0058】
図8は、ギア22に設けられた転がり軸受の外輪の損傷度合い時系列で示す波形である。波形8aは軽度な損傷を示す波形であり、波形8bは中度の損傷を示す波形であり、波形8cは重度な損傷を示す波形である。
【0059】
本実施形態では、上記のような損傷度合いも、故障予測算出部122で予測データのパラメータとして設定されている。すなわち、故障の進行度合いが故障モードに予め設定されており、故障予測算出部122は、故障の進行度合いに応じた予測データを出力する。これにより、故障診断の重要性は増し、さらにデータ変換部15による上記正規化処理を施すことで、よりその診断精度も大きく向上する。
【0060】
また、本実施形態では、データ変換部15は、センサ30で測定された測定データの時系列データをフーリエ変換することによって、周波数波形へ変換することも可能である。例えば、ギア22に設けられた転がり軸受や歯車といった部品は、内部構造に損傷が発生した場合に、振動や音の測定データで構造に起因する特徴周波数による波形が確認される。そのため、測定データを周波数変換することによって、故障要因特定が安易になる。その結果、故障モード同定部13による故障モードの同定の精度を高めることが可能となる。さらに、故障モード同定部13の精度が高くなることによって、故障箇所推定部14による故障箇所の推定の際に、周波数変換した測定データは有益な情報となり得る。
【0061】
(第5実施形態)
図9は、第4実施形態に係る故障診断装置の構成を示すブロック図である。図9に示す故障診断装置10は、判定装置16をさらに備える。判定装置16には、発電プラント20にて故障が発生しておらず、正常に運転した場合に取得されるセンサ30の測定データが予め格納されている。
【0062】
センサ30の測定データが新たに判定装置16に入力されると、判定装置16は、新たな測定データと、予め格納されている正常データとを比較して、測定データが正常であるか異常であるかを判定する。
【0063】
測定データが正常である場合には、発電プラント20で故障が発生していないため、判定装置16は、測定データをデータ取得部11に転送しない。反対に、測定データが正常である場合には、判定装置16は、測定データをデータ取得部11へ転送する。その後、上述した各実施形態で説明した方法によって、故障箇所を推定する処理を実施する。
【0064】
本実施形態では、発電プラント20が正常に運転しているときには、判定装置16がセンサ30の測定データをデータ取得部11に転送しないため、計算部12、故障モード同定部13、故障箇所推定部14は処理を実施しない。これにより、故障診断装置10における処理負荷を低減することができる。
【0065】
なお、本実施形態では、判定装置16は、故障診断装置10内に設けられているが、故障診断装置10とセンサ30との間に設けられていてもよい。この場合も、判定装置16によって、センサ30の測定データが1次的に判定され、異常である場合に測定データがデータ取得部11へ転送される。したがって、故障診断装置10における処理負荷を低減することができる。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
10:故障診断装置
11:データ取得部
12:計算部
13:故障モード同定部
14:故障箇所推定部
15:データ変換部
16:判定装置
30:センサ
31、32:マイクロフォン
40:故障箇所(音源)
50:振動センサ
121:データ分析部
122:故障予測算出部
図1
図2
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図9