(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】セラミック基複合材料部材の製造方法及びセラミック基複合材料部材被覆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/80 20060101AFI20241125BHJP
C04B 35/84 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
C04B35/80 300
C04B35/84
(21)【出願番号】P 2020124655
(22)【出願日】2020-07-21
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】竹内 章浩
(72)【発明者】
【氏名】三摩 達雄
(72)【発明者】
【氏名】北岡 諭
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠
(72)【発明者】
【氏名】川島 直樹
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-165934(JP,A)
【文献】特開平11-132862(JP,A)
【文献】特開平07-010535(JP,A)
【文献】特開2014-037335(JP,A)
【文献】特開2016-061464(JP,A)
【文献】特開平09-301782(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108840695(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C04B 41/85-41/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック繊維に、無チクソ性のアルミナゾルを
大気圧より低い減圧下で含浸させる含浸工程を有
し、
前記含浸工程の前に、前記セラミック繊維を加熱する前熱処理工程を有することを特徴とするセラミック基複合材料部材の製造方法。
【請求項2】
前記含浸工程の後に、前記アルミナゾルを含浸させた前記セラミック繊維を、800℃以下の雰囲気に晒す後熱処理工程を有することを特徴とする
請求項1に記載のセラミック基複合材料部材の製造方法。
【請求項3】
セラミック繊維に、無チクソ性のアルミナゾルを
大気圧より低い減圧下で含浸させる含浸工程を有
し、
前記含浸工程の後に、前記アルミナゾルを含浸させた前記セラミック繊維を、800℃以下の雰囲気に晒す後熱処理工程を有することを特徴とするセラミック基複合材料部材の製造方法。
【請求項4】
前記含浸工程の前に、前記セラミック繊維を加熱する前熱処理工程を有することを特徴とする
請求項3に記載のセラミック基複合材料部材の製造方法。
【請求項5】
前記アルミナゾルの粘度は、100mPa・s以下であることを特徴とする
請求項1乃至4のいずれかに記載のセラミック基複合材料部材の製造方法。
【請求項6】
前記アルミナゾル及び前記セラミック繊維は、放熱剤を含有していないことを特徴とする
請求項1乃至5のいずれかに記載のセラミック基複合材料部材の製造方法。
【請求項7】
基材の一部又は全部を、セラミック繊維で覆う被覆工程と、
前記基材を覆った前記セラミック繊維に、無チクソ性のアルミナゾルを含浸させる含浸工程と、を有し、
前記被覆工程において、端部を有する前記基材に、前記セラミック
繊維を、前記基材の前記端部を超えて被覆し、その超えた部分を、ピンで挟み込み、つぶすことで封止することを特徴とするセラミック基複合材料部材被覆体の製造方法。
【請求項8】
前記被覆工程において、挿入部を有する前記基材の当該挿入部に、前記セラミック基複合材料部材の端縁の一部又は全部を挿入することを特徴とする
請求項7に記載のセラミック基複合材料部材被覆体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック基複合材料部材の製造方法及びセラミック基複合材料部材被覆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ダイカスト等、鋳造のために溶解したアルミニウム(以下、アルミニウム溶湯とも言う)は、他の金属に対する反応性が極めて高いことが知られている。そこで、アルミニウム溶湯を保持する保持容器等は、アルミニウム溶湯との反応により溶解することを防止するために、溶射、酸化及び窒化等により保護被膜を形成する表面処理等の特殊なコーティングが施された上で使用される。しかし、従来の方法では、保護被膜の寿命が短く、アルミニウム溶湯に触れる部分を定期的に交換する、又はコーティングの再施行を行う等、頻繁なメンテナンスが必要であった。また、アルミニウムインゴットの投入等による物理的な衝撃が加わることもあるアルミニウム溶湯の保持容器には、長期的な使用に耐え得るための機械的強度も必要であった。即ち、アルミニウム溶湯との反応による腐食に耐えられる耐食性と、耐熱性と、機械的強度とを併せ持つアルミニウム溶湯に対する保護被膜が望まれていた。
高い耐熱性及び機械的強度を備える材料として、アルミナ等のセラミック基質と、セラミック繊維からなる補強材とを組み合わせたセラミック基複合材料(以下、CMCとも言う)が知られている。CMCは、劣化せずに2000℃を上回る温度にも耐えるものが存在すると共に、高い機械的強度を備える。例えば、特許文献1には、耐熱性及び機械的強度の高さを備え、非常に厳しい環境に曝される宇宙機及び航空機等に使用可能なムライト-アルミナベースセラミック基質が記載されている。特許文献1では、セラミック繊維にムライト-アルミナセラミック基質を含浸させ、含浸させた繊維を工具上に配設し、その後、硬化、焼成を経てCMCを形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミニウム溶湯を保持する保持容器等の保護被膜として特許文献1に記載されたCMCを適用することで、耐熱性と機械的強度とを備える保護被膜が形成可能と考えられる。一方、アルミニウム溶湯に対する保護被膜には、上述したように、アルミニウム溶湯の高い反応性に耐え得る耐食性が求められる。しかし、特許文献1には、耐食性に係る記載や示唆はなく、アルミニウム溶湯に対する十分な耐食性を得られるか不明である。
【0005】
そこで、本発明の目的は、耐食性及び耐熱性を備えるセラミック基複合材料部材の製造方法及びセラミック基複合材料部材被覆体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、セラミック基複合材料部材の製造方法であって、セラミック繊維に、無チクソ性のアルミナゾルを大気圧より低い減圧下で含浸させる含浸工程を有し、含浸工程の前に、セラミック繊維を加熱する前熱処理工程を有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、上記構成において、前記含浸工程の後に、アルミナゾルを含浸させたセラミック繊維を、800℃以下の雰囲気に晒す後熱処理工程を有することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、セラミック基複合材料部材の製造方法であって、セラミック繊維に、無チクソ性のアルミナゾルを大気圧より低い減圧下で含浸させる含浸工程を有し、含浸工程の後に、アルミナゾルを含浸させたセラミック繊維を、800℃以下の雰囲気に晒す後熱処理工程を有することを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、上記構成において、含浸工程の前に、セラミック繊維を加熱する前熱処理工程を有することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、上記構成において、アルミナゾルの粘度は、100mPa・s以下であることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、上記構成において、アルミナゾル及びセラミック繊維は、放熱剤を含有していないことを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、セラミック基複合材料部材被覆体の製造方法であって、基材の一部又は全部を、セラミック繊維で覆う被覆工程と、基材を覆ったセラミック繊維に、無チクソ性のアルミナゾルを含浸させる含浸工程と、を有し、被覆工程において、端部を有する基材に、セラミック繊維を、基材の端部を超えて被覆し、その超えた部分を、ピンで挟み込み、つぶすことで封止することを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、上記構成において、被覆工程において、挿入部を有する基材の当該挿入部に、セラミック基複合材料部材の端縁の一部又は全部を挿入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の主な効果は、耐食性及び耐熱性を備えるセラミック基複合材料部材及びセラミック基複合材料部材の製造方法が提供されることである。
また、本発明の別の主な効果は、耐食性及び耐熱性を備えるセラミック基複合材料部材被覆体及びセラミック基複合材料部材被覆体の製造方法が提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態の保護被膜を示す説明図である。
【
図2】時間経過に伴うアルミナゾルの粘度変化を示すグラフである。
【
図3】本発明の保護被膜の形成手順を示すフローチャートである。
【
図4】保護被膜を被せる前の母材を示す説明図である。
【
図5】母材にアルミナ繊維シートを巻き付けて形成した被覆体を示す説明図である。
【
図6】実施例及び比較例で用いる母材の寸法を示す説明図である。
【
図7】アルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験後の比較例の状態を示す写真である。
【
図8】アルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験後の実施例1-4の状態を示す写真である。
【
図9】(a)はアルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験後の比較例の母材断面のSEM画像、(b)はアルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験後の実施例1の母材断面のSEM画像、(c)はアルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験後の実施例2の母材断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の保護被膜を示す説明図である。
セラミック基複合材料部材である保護被膜1は、SUS430等のSUS材で形成される基材としての母材2の表面、特にアルミニウム溶湯と接する部位に形成され、CMCの一種であるアルミナ繊維強化アルミナマトリックスである。保護被膜1は、織物状に形成したセラミック繊維であるアルミナ繊維シート3と、アルミナゾル4とを用いて形成される。また、アルミナゾル4は、CMCの状態では、γアルミナとなっている。母材2は、図示されないヒータ部とそのケース(SUS製)とを含み、アルミニウム溶湯を加熱して溶解状態に保持するためのものである。
【0010】
アルミナ繊維シート3は、アルミニウム溶湯との反応性を考慮し、より高純度なアルミナ繊維によって形成されたものが有効である。本発明では、例えば、ネクステル(Nextel)(登録商標)610及びネクステル(登録商標)720等の、高純度のアルミナを含むセラミック繊維を、平織、綾織又は襦子織で紡績加工したものを用いる。
アルミナゾル4は、良好なマトリックスの形成と、アルミナ繊維シート3の繊維間及び繊維束間への含浸性を考慮し、放熱剤を含まず、高固形分濃度、低粘性を有するゾルが有効である。アルミナゾル4の固形分濃度は、好ましくは20wt%以上である。アルミナゾル4の粘性は、後述する含浸工程時において、好ましくは100mPa・s以下である。中でも、含浸効率を考慮すると、時間経過と共に粘性が増加するチクソ性を有していないゾルが、特に好適といえる。例えば、時間経過に伴うアルミナゾルの粘度変化を示すグラフである
図2に示すように、時間経過と共に粘度が増加するAS-200(日産化学工業株式会社製)のようにチクソ性を有するゾルではなく、時間経過に伴う粘度変化がないAS-520-A(日産化学工業株式会社製)のような無チクソ性のアルミナゾルが好適である。
【0011】
なお、セラミック基複合材料部材である保護被膜1は、無チクソ性を有するアルミナゾル4から形成されるアルミナを含んでいるところ、かような製法により特定されるものとみられる可能性があり、たとえそうであるとしても、いわゆる不可能・非実際的事情を有することから、かような特定は許されるものと思料される。
即ち、無チクソ性のアルミナゾルとして、多種多様なものが存在し、チクソ性を有するアルミナゾルから形成されたセラミック基複合材料部材のセラミック繊維内のアルミナと区別するために、具体例を羅列することで無チクソ性のアルミナゾルから形成されたセラミック基複合材料部材のセラミック繊維内のアルミナを、その構造又は特性により直接特定することはおよそ実際的でない。
また、セラミック基複合材料部材のセラミック繊維内のアルミナ特有の詳細な構造及び配置は現状知られておらず、その構造及び配置を探求することは、仮にかような構造及び配置が存在したとしても、多大な設備と時間を要するため、およそ不可能あるいは非実際的であると思料される。
従って、セラミック基複合材料部材のセラミック繊維内においてアルミナゾルから形成されたアルミナが、製法により特定されるものとみられたとしても、かような特定は許されるべきである。
【0012】
次に、母材2に保護被膜1を被せることで被覆体Cを形成する手順を説明する。
図3は、保護被膜の形成手順を示すフローチャートである。
図4は、保護被膜を被せる前の母材を示す説明図である。
図5は、母材にアルミナ繊維シートを巻き付けて形成した被覆体を示す説明図である。
母材2には、上述の通り、ここではSUS430のようなステンレス製の部材を用いる。なお、説明のため、
図4,5では、後述する実施例及び比較例に沿い、中実丸棒状に形成したものを図示するが、母材の形状は限定されない。
まず、母材加工工程S1を実施する。
母材加工工程S1では、母材2上の保護被膜1を形成する範囲に、
図4に示すように、挿入部としてのスリット5を形成する。
【0013】
続いて、被覆工程として、巻き付け工程S2を実施する。巻き付け工程S2では、母材2の外表面にアルミナ繊維シート3を巻き付ける。
巻き付けを行う前に、アルミナ繊維シート3を、母材2の外表面を1周又は2周できるサイズに裁断する。さらに、アルミナ繊維シート3の端縁の解れを防止するための前処理として、アルミナ繊維シート3にスチロール系の接着剤を塗布する。接着剤の塗布により、ハンドリング性が向上する。
次に、アルミナ繊維シート3の一端縁をスリット5に挿入する。その後、母材2の外表面に密着するようにアルミナ繊維シート3を巻き付ける。アルミナ繊維シート3の一端縁をスリット5に挿入してから巻き付け作業を行うことで、母材2と保護被膜1との間の空隙の形成が抑制できる。
【0014】
母材2へのアルミナ繊維シート3の巻き付け作業後、
図5に示すように、母材2の先端側のアルミナ繊維シート3の端部を2本のアルミナ製で円筒状のピン6,6で挟み込んでつぶし、白金線7で固定することで封止する。計4本のピン6,6,6,6を用いて、2箇所を挟み込むことで確実な封止を行う。なお、ここでは、白金線7を用いて縛ることでピン6,6を固定しているが、固定の方法は限定されない。ピン6は、円筒状に限定されず、円柱状、角筒状、角柱状等でも良い。
また、母材2に巻き付けたアルミナ繊維シート3が、母材2から剥がれることを防止するために、アルミナ製の固定治具8と白金線7とを用いて、アルミナ繊維シート3を母材2上に仮固定する。
【0015】
続いて、前熱処理工程S3を実施する。前熱処理工程S3では、アルミナ繊維シート3に対し、700℃で熱処理を行う。前熱処理をアルミナ繊維シート3に対して実施することで、アルミナ繊維シート3のサイジング剤が除去され、アルミナ繊維シート3にアルミナゾル4を含浸させる際、アルミナ繊維シート3の繊維間及び繊維束間にアルミナゾル4が含浸し易くなる。
【0016】
次に、含浸工程S4を実施する。含浸工程S4では、母材2に巻き付けたアルミナ繊維シート3にアルミナゾル4を含浸させる。
アルミナ繊維シート3を巻き付けた母材2を、大気圧より低い減圧条件の下、所定時間かけてアルミナゾル4に浸漬し、アルミナ繊維シート3の繊維間及び繊維束間にアルミナゾル4を含浸させる。
【0017】
その後、後熱処理工程S5を実施する。後熱処理工程S5では、アルミナゾル4を含浸させたアルミナ繊維シート3を800℃の雰囲気に晒して加熱し、CMCを形成する。CMCを形成することにより、高い機械的強度が得られる。
また、800℃でアルミナゾル4を加熱処理することで、γアルミナが形成される。熱に対し安定なγアルミナを形成することで、高い耐熱性が得られる。
【0018】
含浸工程S4及び後熱処理工程S5を少なくとも1回実施した後、ピン6及び固定治具8を取り外し、再び、含浸工程S4及び後熱処理工程S5を実施する。以上の工程を経て、母材2の外表面に保護被膜1を形成した被覆体Cを得る。
【0019】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、SUS430を用いて
図6で示す寸法で作成した中実丸棒(ヒータなしの母材2)を試験片として使用した。アルミナ繊維シート3として、高純度アルミナ繊維からなるネクステル(登録商標)610、又はそのアルミナ純度が高く且つムライト成分を含有するネクステル(登録商標)720を使用した。
また、形成した保護被膜1の性能評価は、アルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験実施後における、目視による外観観察と、表面SEM観察及び断面SEM観察とにより行った。
【0020】
<実施例1>
まず、母材2にスリット5を形成し、アルミナ繊維シート3としてのネクステル(登録商標)610を、その一端縁をスリット5に挿入してから母材2の外表面に密着するように1周巻き付け、固定治具8及びピン6を用いて固定した。
次に、電気炉を用いて、700℃1時間の前熱処理工程を実施し、アルミナ繊維シート3のサイジング剤を除去した。
続いて、デシケータ等の容器を用いて、大気圧より減圧条件(0.095MPa程度)の下、アルミナ繊維シート3をアルミナゾル4としてのAS-520-A(日産化学工業株式会社)に15分間含浸させた。
その後、電気炉を用いて、800℃15分間の後熱処理工程を実施した。
上記条件で含浸工程及び後熱処理工程を再度行った。
さらに、固定治具8及びピン6を取り外し、上記条件で含浸工程及び後熱処理工程を再び行うことで、保護被膜1aを形成した被覆体Cを得た。
【0021】
<実施例2>
アルミナ繊維シート3としてのネクステル(登録商標)720を使用したこと以外は、実施例1と同様の工程を経て、保護被膜1bを形成した。
【0022】
<実施例3>
固定治具8及びピン6を取り外す前に、含浸工程及び後熱処理工程を4回行ったこと以外は、実施例1と同様の工程を経て、保護被膜1cを形成した。
【0023】
<実施例4>
固定治具8及びピン6を取り外す前に、含浸工程及び後熱処理工程を6回行ったこと以外は、実施例2と同様の工程を経て、保護被膜1dを形成した。
【0024】
<比較例>
比較例として、保護被膜1を形成しないSUS430の母材2を使用した。
【0025】
<アルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験>
電気炉(ヒータ式カーボンルツボ炉、5kW,Max1200℃、共英電気炉製)を用いて750℃に加熱したアルミニウム溶湯(ADC12)に対し、昇降装置を用いて、保護被膜1の長尺方向に沿って上下動させて、150時間のアルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験を行った。昇降速度は、1秒あたり1往復で行い、動作ストロークは50mmとした。なお、保護被膜1の基端側3分の1は常時気中、中央3分の1は気液交番、先端側3分の1は常時液中となるように高さを調整し、試験を実施した。
【0026】
<外観観察結果>
アルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験を実施し、目視にて外観を観察した。
図7は、アルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験後の比較例の状態を示す写真である。
図8は、アルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験後の実施例1-4の状態を示す写真である。
比較例では、
図7から明らかなように、試験開始後45分で溶損が認められた。常時液中となる先端側3分の1において顕著な溶損が確認された。また、気液交番する部分には、アルミニウム溶湯に由来する固体金属の固着が顕著であった。
【0027】
一方、実施例1-4で形成した保護被膜1a-1dでは、150時間の試験終了時においても、
図8から明らかなように、保護被膜1a-1dの先端に僅かな固体金属の固着が確認されたことと、気液交番する部分に黒色化が確認されたこととを除き、外見の変化はなかった。従って、保護被膜1a-1dは、高い耐熱性と、アルミニウム溶湯に対する優れた難濡れ性とを備えることが分かる。
【0028】
<表面SEM観察結果>
アルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験後に、実施例1及び2について、保護被膜1a及び1bの表面をSEMを用いて観察した。
その結果、保護被膜1a及び1bの何れにおいても、CMCの大きな損傷は確認されず、良好な結果を得た。従って、保護被膜1a及び1bが、アルミニウム溶湯に対する高い耐食性を有することが分かる。また、保護被膜1a及び1bよりも含浸工程及び後熱処理工程を多く行った保護被膜1c及び1dについても、保護被膜1a及び1bと同様の結果が得られることは自明といえる。
【0029】
<断面SEM観察結果>
アルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験後に、実施例1,2及び比較例それぞれの母材断面をSEMを用いて観察した。
図9(a)は、アルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験後の比較例の母材断面のSEM画像、
図9(b)は、アルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験後の実施例1の母材断面のSEM画像、
図9(c)は、アルミニウム溶湯に対する繰り返し浸漬試験後の実施例2の母材断面のSEM画像である。
比較例の母材2には、
図9(a)から明らかなように、母材2の表面から内部にかけて厚い腐食層が形成されていることが分かる。
一方、実施例1及び2の母材には、
図9(b),(c)から明らかなように、腐食層の形成は認められず、良好な結果を得た。従って、保護被膜1a及び1bが、アルミニウム溶湯に対する高い耐食性を有することが分かる。また、保護被膜1a及び1bよりも含浸工程及び後熱処理工程を多く行った保護被膜1c及び1dについても、保護被膜1a及び1bと同様の結果が得られることは自明といえる。
【0030】
上記形態の保護被膜1は、織物状に形成されるアルミナ繊維シート3と、低粘性及び無チクソ性を有するアルミナゾル4から形成されるアルミナと、を備えるセラミック基複合材料(CMC)からなり、SUS430製の母材2の外表面を覆うことで、母材2をアルミニウム溶湯から保護可能とする。
このようにして構成される保護被膜1によれば、CMC形成の際に低粘性及び無チクソ性のアルミナゾルを用いることで、アルミナ繊維シート3の繊維間及び繊維束間に効率よくアルミナゾル4を含浸させることができるため、アルミニウム溶湯に対する良好な耐食性が得られる。よって、母材2上にアルミニウム溶湯に対する耐食性、耐熱性及び機械的強度を備える保護被膜1を形成した被覆体Cを用いることで、頻繁なメンテナンスを必要とせず、長期に渡って使用可能なアルミニウム溶湯の保持容器等を製造可能となる。
【0031】
また、保護被膜1は、アルミナ繊維シート3に、アルミナゾル4を減圧条件下で含浸させる工程を経て形成される。
よって、アルミナ繊維シート3の繊維間及び繊維束間に効率よくアルミナゾル4を含浸させることができるため、アルミニウム溶湯に対する難濡れ性を発揮し、アルミニウム溶湯に対する高い耐食性を備える保護被膜1が得られる。
【0032】
また、保護被膜1は、γアルミナを含むことを特徴とする。
よって、安定なγアルミナを含むことで、高い耐熱性を備える保護被膜1が得られる。
【0033】
また、アルミナ繊維シート3の一端縁が、母材2に形成するスリット5に挿入される。
よって、アルミナ繊維シート3の一端縁を母材2に固定できるため、母材2の形状に沿ったアルミナ繊維シート3の加工が容易になる。また、CMC形成時に、アルミナ繊維シート3が解ける等の不具合を防止できる。
【0034】
以上は、本発明を図示例に基づいて説明したものであり、その技術範囲はこれに限定されるものではない。例えば、母材は、ヒータ以外の用途に用いられるものであっても良い。また、母材の形状は丸棒形状に限定されず、板状、筒状、樋状(U字形状を含む)等、任意の形状を選択できる。さらに、母材の材質についても、用途に応じて、任意の材質を選択可能である。
また、セラミック繊維は、織物状であればよく、その織り方は限定されない。
また、セラミック繊維の材質は、アルミナを主として含むことが望ましいが、任意に選択できる。
また、アルミナゾルは、アルミナを主として含むと共に、低粘性且つ無チクソ性のものであれば、その組成は限定されない。
また、保護被膜及び被覆体の用途は、アルミニウム溶湯の保持に限定されず、他の溶融金属や任意の流体、固体又は気体等の保持、輸送等の任意の用途で使用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1・・保護被膜(セラミック基複合材料部材)、2・・母材(基材)、3・・アルミナ繊維シート(セラミック繊維)、4・・アルミナゾル、5・・スリット(挿入部)、6・・ピン、8・・固定治具。