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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/00 20060101AFI20241125BHJP
   G03G 15/01 20060101ALI20241125BHJP
   B41J 2/52 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
G03G15/00 303
G03G15/01 S
B41J2/52
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020169166
(22)【出願日】2020-10-06
(65)【公開番号】P2022061267
(43)【公開日】2022-04-18
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099324
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 正剛
(72)【発明者】
【氏名】竹村 太一
【審査官】内藤 万紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-257598(JP,A)
【文献】特開2015-069065(JP,A)
【文献】特開2012-015704(JP,A)
【文献】特開2020-106553(JP,A)
【文献】特開2014-056094(JP,A)
【文献】特開2019-074574(JP,A)
【文献】特開2017-078751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/00
G03G 15/01
B41J 2/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データに中間調処理を実施する中間調処理手段と、
前記中間調処理手段により前記中間調処理が実施された前記画像データに基づき、画像を形成する画像形成手段と、
前記画像形成手段により形成される画像の濃度変動に相関のある情報を取得する取得手段と、
前記中間調処理のタイプに対応する基準画像濃度を記憶する濃度記憶手段と、
前記基準画像濃度を取得したときの前記情報を記憶する信号値記憶手段と、
前記取得手段により取得された前記情報と前記信号値記憶手段に記憶された前記情報との差分値から予測モデルに基づき画像濃度の変動量を予測し、前記中間調処理手段が前記画像データに実施する中間調処理のタイプに応じた基準画像濃度前記変動量を加算することで予測画像濃度を決定する決定手段と、
前記決定手段により決定された前記予測画像濃度に基づいて前記画像形成手段により形成される画像の濃度を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする、
画像形成装置。
【請求項2】
画像データに中間調処理を実施する中間調処理手段と、
前記中間調処理手段により前記中間調処理が実施された前記画像データに基づき、用紙に画像を形成する画像形成手段と、
前記画像形成手段により形成される画像の濃度変動に相関のある情報を取得する取得手段と、
前記用紙の種類に対応する基準画像濃度を記憶する濃度記憶手段と、
前記基準画像濃度を取得したときの前記情報を記憶する信号値記憶手段と、
前記取得手段により取得された前記情報と前記信号値記憶手段に記憶された前記情報との差分値から予測モデルに基づき画像濃度の変動量を予測し、前記画像形成手段が画像を形成する用紙の種類に応じた基準画像濃度前記変動量を加算することで予測画像濃度を決定する決定手段と、
前記決定手段により決定された前記予測画像濃度に基づいて前記画像形成手段により形成される画像の濃度を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする、
画像形成装置。
【請求項3】
前記取得手段により取得される前記情報は、温度を検知するセンサの検知結果を含むことを特徴とする、
請求項1又は2記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記取得手段により取得される前記情報は、湿度を検知するセンサの検知結果を含むことを特徴とする、
請求項1又は2記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記取得手段により取得される前記情報は、前回の画像形成時からの放置時間を含むことを特徴とする、
請求項1又は2記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記取得手段により取得される前記情報は、前記画像形成装置へのトナー補給回数を含むことを特徴とする、
請求項1又は2記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記取得手段により取得される前記情報は、空回転回数を含むことを特徴とする、
請求項1又は2記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記画像データを階調補正条件に基づいて変換する変換手段をさらに有し、
前記画像形成手段は、前記変換手段により変換された前記画像データに基づいて前記画像を形成し、
前記制御手段は、前記決定手段により決定された前記予測画像濃度に基づいて前記階調補正条件を生成することで、前記画像形成手段により形成される画像の濃度を制御することを特徴とする、
請求項1又は2記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、複合機、プリンタ等の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置は、設置環境の変動や装置内部の環境変動に起因する短期的な状態変動、及び構成部品や現像剤の経時変化に起因する長期的な状態変動の影響により、出力画像の画像濃度や階調特性に変化が生じる。画像濃度や階調特性の変化により出力画像の色味等の画質が低下する。画像形成装置は、出力画像の画像濃度や階調特性の変化を抑制して所望の画像濃度や階調特性を得るために、随時、画像形成条件を補正する。このような画像濃度や階調特性の変化を抑制する画像形成条件の補正は、「キャリブレーション」と呼ばれる。キャリブレーションでは、例えば画像濃度が一様なパッチ画像を形成し、このパッチ画像の画像濃度と画像濃度の目標値との比較結果に基づいて画像形成条件が適宜補正される。
【0003】
特許文献1では、階調特性補正用のパッチ画像を用紙に形成し、画像読取部によるパッチ画像の読取結果をγ補正等の画像形成条件にフィードバックすることで画質を安定化する画像処理装置を開示する。キャリブレーションが必要になるタイミングは、環境変動時や長時間の放置後である。特に、環境変動が起こりやすい早朝の電源投入時や節電モードからの復帰時にキャリブレーションを行う必要がある。特許文献2は電源投入時にキャリブレーションを行う技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-238341号公報
【文献】特開2003-167394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、環境変動時や長時間の放置後にキャリブレーションを行う場合、パッチ画像の作像、作像したパッチ画像の測色、及び測色結果に基づく画像形成条件の決定といった処理を行うために、長時間が必要になる。近年、画質の安定性と同時に、ユーザビリティの向上が求められている。特に待機時間やダウンタイムの削減による生産性の向上が求められている。そのためにキャリブレーションを短時間で行う必要がある。また、異なる画像形成条件、例えば異なるスクリーンや異なる種類の用紙に形成する画像の画像濃度を予測する場合、異なる画像形成条件毎に画像濃度を予測するためのモデルが必要になる。これは必要なメモリの容量の増加を招く。
【0006】
本発明の目的は、上記の問題に鑑み、メモリ容量の増大を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の画像形成装置は、画像データに中間調処理を実施する中間調処理手段と、前記中間調処理手段により前記中間調処理が実施された前記画像データに基づき、画像を形成する画像形成手段と、前記画像形成手段により形成される画像の濃度変動に相関のある情報を取得する取得手段と、前記中間調処理のタイプに対応する基準画像濃度を記憶する濃度記憶手段と、前記基準画像濃度を取得したときの前記情報を記憶する信号値記憶手段と、前記取得手段により取得された前記情報と前記信号値記憶手段に記憶された前記情報との差分値から予測モデルに基づき画像濃度の変動量を予測し、前記中間調処理手段が前記画像データに実施する中間調処理のタイプに応じた基準画像濃度前記変動量を加算することで予測画像濃度を決定する決定手段と、前記決定手段により決定された前記予測画像濃度に基づいて前記画像形成手段により形成される画像の濃度を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
本発明の他の態様の画像形成装置は、画像データに中間調処理を実施する中間調処理手段と、前記中間調処理手段により前記中間調処理が実施された前記画像データに基づき、用紙に画像を形成する画像形成手段と、前記画像形成手段により形成される画像の濃度変動に相関のある情報を取得する取得手段と、前記用紙の種類に対応する基準画像濃度を記憶する濃度記憶手段と、前記基準画像濃度を取得したときの前記情報を記憶する信号値記憶手段と、前記取得手段により取得された前記情報と前記信号値記憶手段に記憶された前記情報との差分値から予測モデルに基づき画像濃度の変動量を予測し、前記画像形成手段が画像を形成する用紙の種類に応じた基準画像濃度前記変動量を加算することで予測画像濃度を決定する決定手段と、前記決定手段により決定された前記予測画像濃度に基づいて前記画像形成手段により形成される画像の濃度を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、メモリ容量の増大を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】画像形成装置の構成図。
図2】プリンタ制御部の構成説明図。
図3】予測画像濃度算出部の説明図。
図4】基準信号値及び基準画像濃度の取得処理を表すフローチャート。
図5】階調補正テーブルの説明図。
図6】基準画像濃度の保存状態の説明図。
図7】合成補正LUTの作成方法の説明図。
図8】合成補正LUTの作成方法の説明図。
図9】合成補正LUTの作成方法の説明図。
図10】合成補正LUTの作成方法の説明図。
図11】予測画像濃度の算出処理を表すフローチャート。
図12】画像濃度予測モデルを予め作成する処理を表すフローチャート。
図13】画像濃度予測モデルの保存状態の説明図。
図14】放置時間とトナーの帯電量維持率の関係を表すグラフ。
図15】画像濃度予測モデルの例示図。
図16】画像濃度の保存状態の例示図。
図17】係数の保存状態の例示図。
図18】基準画像濃度の取得処理を表すフローチャート。
図19】基準画像濃度の保存状態の例示図。
図20】信号値の例示図。
図21】基準信号値と予測時の信号値との差分値の例示図。
図22】画像濃度の予測値の例示図。
図23】予測画像濃度の例示図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
(画像形成装置)
図1は、本実施形態の画像形成装置の構成図である。本実施形態では電子写真方式の画像形成装置100について説明するが、画像形成装置100は、インクジェットプリンタや昇華型プリンタであってもよい。画像形成装置100は、リーダA、プリンタB、及び操作部20を含んで構成される。プリンタBは、用紙に画像を形成する。リーダAは、画像が形成された用紙(原稿)から画像を読み取る。
【0012】
操作部20は、ユーザインタフェースである。操作部20は、入力インタフェースとして各種キーボタンやタッチパネルを備える。操作部20は、出力インタフェースとして表示部218を備える。
【0013】
(リーダ)
リーダAは、原稿が載置される原稿台ガラス102、原稿台ガラス102に載置された原稿に光を照射する光源103、光学系104、受光部105、及びリーダ制御部108を備える。光源103、光学系104、及び受光部105は、原稿の画像を読み取る画像読取部である。原稿台ガラス102の縁部には、原稿の一辺が当接されて原稿の斜め配置を防止する位置決め部材107と、画像読取部のシェーディング補正に用いられる基準白色板106とが配置される。
【0014】
光学系104は、光源103から照射された光の原稿による反射光を受光部105の読取面に結像させる。受光部105は、例えばCCD(Charge Coupled Device)センサであり、受光した反射光を電気信号に変換した画像信号を出力する。受光部105は、例えばCCDセンサが赤(R)、緑(G)、青(B)に対応して三列配置される。受光部105は、R、G、Bの各色の色成分信号を画像信号として生成する。画像読取部は、矢印方向R103に移動しながら、原稿台ガラス102に載置された原稿の画像を1ラインずつ読み取る。
【0015】
受光部105で生成された画像信号は、リーダ制御部108に入力される。リーダ制御部108は、受光部105から取得した画像信号に対するA/D変換、シェーディング補正、色変換等の画像処理を行う。リーダ制御部108は、画像処理後の画像信号をプリンタBへ送信する。また、リーダ制御部108は、リーダAの動作を制御する。
【0016】
(プリンタ)
プリンタBは、画像形成部PY、PM、PC、PK、中間転写ベルト6、二次転写ローラ64、定着器11、給紙カセット65、及びプリンタ制御部300を備える。画像形成部PYはイエローの画像を形成する。画像形成部PMはマゼンタの画像を形成する。画像形成部PCはシアンの画像を形成する。画像形成部PKはブラックの画像を形成する。プリンタBは、中間転写ベルト6に沿って画像形成部PY、PM、PC、PKが配列されたタンデム型中間転写方式のフルカラープリンタである。
【0017】
中間転写ベルト6は、テンションローラ61、駆動ローラ62、及び対向ローラ63に掛け渡して支持される像担持体である。テンションローラ61に対向してベルトクリーナ68が設けられる。中間転写ベルト6は、駆動ローラ62に駆動されて所定のプロセススピードで矢印R2方向に回転する。画像形成部PY、PM、PC、PKのそれぞれで形成された画像は、中間転写ベルト6の回転速度に応じたタイミングで中間転写ベルト6に順次重ねて転写される。これにより中間転写ベルト6にフルカラーの画像が形成される。
【0018】
対向ローラ63は、二次転写ローラ64との間に二次転写部T2を形成する。中間転写ベルト6に転写された画像は、二次転写部T2へ搬送されて用紙Sへ一括転写される。二次転写ローラ64に正極性の直流電圧が印加されることにより、中間転写ベルト6に担持された負極性に帯電する画像が用紙Sへ転写される。転写後に中間転写ベルト6に残留する現像剤はベルトクリーナ68により除去される。
【0019】
用紙Sは、給紙カセット65に収納されており、1枚ずつ給送される。用紙Sが搬送される搬送路には、分離ローラ66及びレジストローラ67が設けられる。用紙Sは、給紙カセット65から引き出され、分離ローラ66により1枚ずつに分離して、レジストローラ67へ搬送される。レジストローラ67は、停止状態で用紙Sを受け入れて待機させ、中間転写ベルト6の画像が二次転写部T2に搬送されるタイミングに応じて用紙Sを二次転写部T2へ搬送する。
【0020】
画像が転写された用紙Sは、二次転写ローラ64により、搬送ベルト10を介して定着器11へ搬送される。定着器11は、用紙Sを加熱及び加圧することで、用紙Sに画像を定着させる。画像が定着された用紙Sは、プリンタBの機体外部へ排出される。
【0021】
画像形成部PY、PM、PC、PKによる画像形成について説明する。画像形成部PY、PM、PC、PKは、現像に用いる現像剤(ここではトナー)の色が異なるのみであり、同じ構成で同じ動作を行う。以下の説明では、色を区別する場合には符号末尾にY、M、C、Kの添え字を付し、色を区別しない場合には符号末尾のY、M、C、Kを省略する。
【0022】
画像形成部Pは、感光ドラム1、帯電器2、露光器3、現像器4、及び一次転写ローラ7を備える。感光ドラム1と一次転写ローラ7との間に中間転写ベルト6が挟まれる。
【0023】
感光ドラム1は、アルミニウムシリンダの外周面に負極性の帯電極性を持たせた感光層が形成される像担持体である。感光ドラム1は、所定のプロセススピードでドラム軸を中心に矢印R1方向に回転する。感光ドラム1は、近赤外光(960[nm])の反射率が約40%のOPC感光体である。なお、感光ドラム1は、反射率が同程度であるアモルファスシリコン系の感光体等であってもよい。
【0024】
帯電器2は、本実施形態ではスコロトロン帯電器であり、コロナ放電に伴う荷電粒子を感光ドラム1に照射して、感光ドラム1の表面の感光層を一様な負極性の電位に帯電させる。スコロトロン帯電器は、高圧電圧が印加されるワイヤと、接地されたシールド部と、所望の電圧が印加されるグリッド部とを有する。帯電器2のワイヤには、帯電バイアス電源(図示せず)から、所定の帯電バイアス電圧が印加される。帯電器2のグリッド部には、グリッドバイアス電源(図示せず)から、所定のグリッドバイアス電圧が印加される。ワイヤに印加される電圧にも依存するが、感光ドラム1は、ほぼグリッド部に印加された電圧に帯電する。
【0025】
露光器3は、レーザビームを回転ミラーで反射することで帯電した感光ドラム1を走査して、感光ドラム1の表面に静電潜像を形成する。感光ドラム1の近傍に電位センサ(図示せず)が設けられる場合、電位センサにより感光ドラム1に形成された静電潜像の電位が検出される。現像器4は、現像バイアス電圧が印加されることで感光ドラム1の静電潜像に現像剤としてトナーを付着させて、感光ドラム1に画像(トナー像)に形成する。
【0026】
一次転写ローラ7は、中間転写ベルト6の内側面を押圧して、感光ドラム1と中間転写ベルト6との間に一次転写部を形成する。正極性の直流電圧が一次転写ローラ7に印加されることで、感光ドラム1に担持された負極性のトナー像が、一次転写部を通過する中間転写ベルト6へ転写される。このように画像形成部Pは感光ドラム1に対応する色のトナー像を形成する。トナー像は、感光ドラム1から中間転写ベルト6へ転写される。
【0027】
中間転写ベルト6の回転方向で画像形成部PKの下流側には、中間転写ベルト6を挟んで駆動ローラ62に対向する位置に、画像濃度センサ400が配置される。画像濃度センサ400は、中間転写ベルト6に転写された未定着のトナー画像の画像濃度を測定する。なお、画像濃度センサ400は、中間転写ベルト6上のトナー画像の画像濃度を測定する構成の他に、感光ドラム1上のトナー画像の画像濃度を測定する構成であってもよい。また、画像濃度センサ400は、用紙Sに定着された画像の画像濃度を測定するように、用紙Sの搬送方向で定着器11の下流側に配置されてもよい。
【0028】
(プリンタ制御部)
図2は、プリンタ制御部300の構成説明図である。プリンタ制御部300は、リーダ制御部108及び画像形成装置100の外部に設けられるホストコンピュータ301に、通信可能に接続される。また、プリンタ制御部300は、操作部20、外部メモリ181、及び画像形成エンジン部101に接続される。
【0029】
プリンタ制御部300は、画像形成装置100全体の動作を制御する。プリンタ制御部300は、通信インタフェース(I/F)部302、入出力バッファ303、入出力I/F部311、及びメモリI/F部312を備える。プリンタ制御部300は、第1CPU(Central Processing Unit)313、プログラムROM(Read Only Memory)304、及びRAM(Random Access Memory)を備える。プリンタ制御部300は、RIP(Raster Image Processor)部314、色処理部315、階調補正部316、擬似中間調処理部317、及びエンジンI/F部318を備える。プリンタ制御部300のこれらの構成要素は、システムバス319に接続されて、相互にデータの送受信が可能である。
【0030】
通信I/F部302は、ホストコンピュータ301やリーダ制御部108との間の通信を制御する。入出力I/F部311は、操作部20との間の通信を制御する。入出力I/F部311は、操作部20により入力される指示等を受け付け、且つ表示部218に各種情報を表示する。メモリI/F部312は、印字データや様々な画像形成装置100の情報等の保存に利用される外部メモリ181との間の通信を制御する。入出力バッファ303は、通信I/F部302が受信した制御コードや、入出力I/F部311、メモリI/F部312により送受信されるデータの一時保管を行う。
【0031】
第1CPU313は、プログラムROM304に格納されるコンピュータプログラムを実行することで、画像形成装置100の動作を制御する。RAM309は、第1CPU313がコンピュータプログラムを実行する際の作業領域を提供する。プログラムROM304は、コンピュータプログラムや制御データを格納する。プログラムROM304は、第1CPU313がコンピュータプログラムを実行することで、画像情報生成部305、最大濃度条件決定部306、予測画像濃度算出部307、及び階調補正テーブル生成部308として機能する。
【0032】
画像情報生成部305は、ホストコンピュータ301やリーダ制御部108から取得したデータ(画像信号)に応じて各種の画像オブジェクトを生成する。最大濃度条件決定部306は、最大濃度調整を行う。予測画像濃度算出部307は、後述の環境センサ200等の出力値である信号値に基づいて印刷する画像の画像濃度を予測する。階調補正テーブル生成部308は、濃度階調補正に用いられる階調補正テーブル(γLUT(Look Up Table))を生成する。
RAM309は、最大濃度条件決定部306、予測画像濃度算出部307、及び階調補正テーブル生成部308による処理結果を一時格納するテーブル格納部310を備える。
【0033】
RIP部314は、画像情報生成部305で生成された画像オブジェクトをビットマップ画像に展開した画像データを生成する。色処理部315は、画像データに対する多次元の色変換処理を行う。階調補正部316は、γLUTを用いて色変換処理後の画像データに対する単色の階調補正を行う。
【0034】
擬似中間調処理部317は、階調補正後の画像データに対するディザマトリクスや誤差拡散法等の擬似中間調処理を行う。擬似中間調処理部317は、階調補正部316により変換された画像データに、画像の種類に適した中間調処理を行う。擬似中間調処理部317は、写真や図形が階調性に優れた画像となるように、イメージに関する画像データ及びグラフィックスに関する画像データに対して、イメージスクリーンを用いて中間調処理を行う。擬似中間調処理部317は、文字が鮮明に印刷されるように、テキストに関する画像データに対して、テキストスクリーンを用いて中間調処理を行う。擬似中間調処理部317は、ユーザが誤差拡散法を選択した場合には、誤差拡散法を用いて中間調処理を行う。
【0035】
RIP部314、色処理部315、階調補正部316、及び擬似中間調処理部317により処理された画像データは、エンジンI/F部318を介して画像形成エンジン部101へ送信される。画像形成エンジン部101は、プリンタ制御部300から取得する画像データに基づいて画像形成部PY、PM、PC、PKの動作を制御して、用紙Sへ画像を形成する。
【0036】
画像形成エンジン部101は、第2CPU203、環境センサ200、タイマ201、及びカウンタ202を備える。第2CPU203は、プリンタBの動作を制御して、用紙Sへの画像形成処理を制御する。環境センサ200、タイマ201、及びカウンタ202から出力される信号値は、プリンタ制御部300の予測画像濃度算出部307による画像濃度の予測処理に用いられる。環境センサ200は、例えば画像形成装置100の環境温度や湿度を検出する。環境センサ200、タイマ201、及びカウンタ202は、画像形成時の環境条件を検出する検出手段であり、それぞれから出力される信号値は、画像形成時の環境条件の変化を表す。
【0037】
(画像濃度予測)
図3は、予測画像濃度算出部307の説明図である。予測画像濃度算出部307は、入力信号値処理部320及び濃度予測部330を備える。入力信号値処理部320は、信号値記憶部321及び差分算出部322を備える。濃度予測部330は、濃度記憶部331及び予測関数部332を備える。このような予測画像濃度算出部307は、環境センサ200、タイマ201、及びカウンタ202のそれぞれから信号値を取得する。
【0038】
環境センサ200、タイマ201、及びカウンタ202のそれぞれの信号値は、入力信号値処理部320に入力される。入力信号値処理部320は、基準となる信号値(基準信号値)を予め信号値記憶部321に記憶する。差分算出部322は、入力された信号値と信号値記憶部321に記憶されている基準信号値との差分を算出する。
【0039】
入力信号値処理部320で処理された信号値は濃度予測部330に入力される。濃度予測部330は、基準となる画像濃度(基準画像濃度)を予め濃度記憶部331に記憶する。予測関数部332は、入力信号値処理部320から取得する信号値から画像濃度を予測する。予測関数部332は、信号値に基づいて基準画像濃度に対する濃度変化量を算出する画像濃度予測モデルを有する。予測関数部332は、算出した濃度変化量に、濃度記憶部に記憶されている基準画像濃度を加算して現在の予測画像濃度を算出する。算出された予測画像濃度は、階調補正テーブル生成部308に入力される。階調補正テーブル生成部308は、階調補正部316で階調補正に用いられるγLUTを作成する。
【0040】
(基準信号値、基準画像濃度)
信号値記憶部321に記憶される基準信号値及び濃度記憶部331に記憶される基準画像濃度の取得方法について説明する。図4は、基準信号値及び基準画像濃度の取得処理を表すフローチャートである。本実施形態で用いる初期の基準画像濃度は、用紙S上に形成された画像(定着後の画像)を用いた自動階調補正時に取得される。
【0041】
プリンタ制御部300は、自動階調補正を開始すると、各色64階調のパッチ画像を用紙Sに形成してテストチャートを作成する(S201)。なお、階調数はこれに限定されるものではない。テストチャートは、プリンタBから出力され、ユーザによりリーダAの原稿台ガラス102に載置される。プリンタ制御部300は、リーダ制御部108によりテストチャートのパッチ画像を読み取る(S202)。リーダ制御部108は、リーダBの動作を制御してテストチャートを読み取る。プリンタ制御部300は、リーダBによるテストチャートの読取結果に基づいて、パッチ画像の画像濃度を検出する。
【0042】
プリンタ制御部300は、検出したパッチ画像の画像濃度に基づいて、補間処理とスムージング処理とを行い、全濃度領域のプリンタBのエンジンγ特性を取得する。プリンタ制御部300は、エンジンγ特性と予め設定されている階調ターゲットとを用いて、階調補正に用いられる階調補正テーブル(γLUT)を作成する(S203)。階調補正テーブルは、テーブル格納部310に格納される。
【0043】
図5は、階調補正テーブルの説明図である。プリンタ制御部300は、エンジンγ特性が階調ターゲットに一致するような逆変換処理を行い、階調補正テーブルを作成する。階調補正テーブルにより、用紙S上に形成される画像の画像濃度が、階調ターゲットに対して全濃度領域で最適に補正される。
【0044】
プリンタ制御部300は、階調補正テーブルに基づいて変換されたパッチ画像データを用いて複数のパッチ画像を形成する(S204)。パッチ画像は、例えば各色10階調である。パッチ画像は中間転写ベルト6に形成される。プリンタ制御部300は、画像濃度センサ400の測定結果に基づいて、中間転写ベルト6に形成されたパッチ画像の画像濃度を検出する(S205)。プリンタ制御部300は、検出した画像濃度を中間転写ベルト6上におけるターゲット濃度(基準画像濃度)として濃度記憶部331に保存する(S206)。なお、パッチ画像は、例えば二つのパッチ画像を含む。一つは、イメージスクリーン用の階調補正テーブルに基づきパッチ画像データが変換され、当該変換されたパッチ画像データに基づいて形成されたパッチ画像である。もう一つはテキストスクリーン用の階調補正テーブルに基づきパッチ画像データが変換され、当該変換されたパッチ画像データに基づいて形成されたパッチ画像である。基準画像濃度はスクリーン毎に中間転写ベルト6に形成されたパッチ画像の検出結果である。濃度記憶部331は、イメージスクリーン用の基準画像濃度と、テキストスクリーン用の基準画像濃度とを記憶する。
【0045】
このように階調補正テーブルが作成された後に各色10色のパッチ画像が形成され、該パッチ画像の画像濃度センサ400による測定結果から得られる基準画像濃度が濃度記憶部331に保存される。図6は、基準画像濃度の保存状態の説明図である。本実施形態では、基準画像濃度は、所定のスクリーンX(SCR_X)に対して画像デューティー(DUTY)毎に10階調分保存される。
【0046】
プリンタ制御部300は、基準画像濃度を取得したときの環境センサ200、タイマ201、及びカウンタ202のそれぞれから取得する信号値を基準信号値として信号値記憶部321に保存する(S207)。以上のように基準信号値及び基準画像濃度が取得されて保存される。
【0047】
本実施形態では画像濃度予測モデルを中間転写ベルト6上の画像の画像濃度を予測するモデルとするために、基準画像濃度として、中間転写ベルト6上のパッチ画像の画像濃度が用いられる。画像濃度予測モデルは、用紙S上の画像の画像濃度を予測するモデルであってもよい。用紙S上の画像の画像濃度を予測するモデルである場合、基準画像濃度として、用紙S上のパッチ画像の画像濃度が用いられる。基準画像濃度は、画像濃度予測モデルをどの位置に形成された画像の画像濃度を予測するモデルとするかによって、どの位置に形成されたパッチ画像の画像濃度を用いるかが適宜選択される。
【0048】
(LUT作成)
プリンタ制御部300は、予測画像濃度をLUTに反映する。プリンタ制御部300は、自動階調補正時に予め設定されている階調ターゲットになるように、エンジンγ特性に合わせて階調補正テーブルを作成する。以下では自動階調補正において生成された階調補正テーブルを「調補正テーブルLUT0」称す。その後、プリンタ制御部300は、各色10階調の基準画像濃度を取得する。プリンタ制御部300は、自動階調補正後に、画像データを階調補正テーブルLUT0により変換して画像形成エンジン部101に入力する。図5で説明したように、エンジンγ特性と階調補正テーブルLUT0とが合成されることで、画像形成エンジン部101により形成される画像の階調特性は理想的な階調特性(階調ターゲット)となる。
【0049】
以後、プリンタ制御部300は、例えば電源投入時、スリープ状態からの復帰時、環境変動時、及び予め設定された所定のタイミングで、予測画像濃度を取得する。プリンタ制御部300は、取得した予測画像濃度を用いて画像形成時のLUT(以下、「合成補正LUT」という。)を作成する。図7図8図9図10により合成補正LUTの作成方法を説明する。
【0050】
プリンタ制御部300は、予測画像濃度を取得する(S301)。プリンタ制御部300は、予測画像濃度を階調毎にプロットして、図8の予測画像濃度の濃度カーブを作成する(S302)。プリンタ制御部300は、予測画像濃度の濃度カーブを基準画像濃度取得時の濃度カーブに補正するために逆変換を行い、図9の予測時LUTを作成する(S303)。プリンタ制御部300は、予測時LUTと階調補正テーブルLUT0とを合成した図10の合成補正LUTを作成する(S304)。合成補正LUTが画像形成時に用いられて出力画像に反映される。なお、濃度カーブは、10点を結ぶ近似式を用いる等の一般的に使用される近似方法で作成されてよい。
【0051】
(予測画像濃度算出)
図11は、予測画像濃度の算出処理を表すフローチャートである。ここでは、予め基準信号値及び基準画像濃度を取得した状態で画像形成装置100を起動したときの予測画像濃度を算出する場合について説明する。
【0052】
画像形成装置100が起動すると、プリンタ制御部300は、画像形成装置100に設けられる環境センサ200、タイマ201、及びカウンタ202のそれぞれから、起動時点の信号値を取得する(S401)。プリンタ制御部300は、予測画像濃度算出部307により、取得した信号値と予め信号値記憶部321に記憶する基準信号値との差分値を算出する(S402)。予測画像濃度算出部307は、算出した差分値を予め作成されている画像濃度予測モデルの式に代入し(S403)、現時点の画像濃度と基準画像濃度との差分値を予測値として算出する(S404)。予測画像濃度算出部307は、この予測値と基準画像濃度との和から、現時点の予測画像濃度を算出する(S405)。
【0053】
(画像濃度予測モデル)
画像濃度予測モデルは、画像濃度変動に相関のある情報を入力情報とし、画像濃度を出力情報として、実験結果を基にして数式化することで得られる。入力情報は、画像形成装置100の電源投入直後に環境センサ200から取得する環境情報、タイマ201から取得する前回の印刷からの放置時間等の時間情報、及びカウンタ202から取得するトナー補給回数や空回転回数等の回数情報である。また、入力情報は、この他に実際の画像形成時に使用する帯電バイアス電圧、現像バイアス電圧、コントラスト等の画像形成条件等であってもよい。
【0054】
画像濃度予測モデルは、必ずしも画像濃度に最も相関の高い情報から成るとは限らない。例えば、環境センサ200から取得される環境情報が印刷時よりも過去の環境情報と最も相関が高い場合、電源投入直後の印刷では、環境センサ200が通電されていないために過去の環境情報が得られていない。過去の環境情報と相関が高い画像濃度変動特性を持つ画像形成装置100で画像濃度予測モデルを用いて画像濃度補正を行うには、過去の環境情報の代わりに印刷時の現在の環境情報を入力とした画像濃度予測モデルを構築する必要がある。
【0055】
図12は、画像濃度予測モデルを予め作成する処理を表すフローチャートである。
【0056】
プリンタ制御部300は、環境条件の変動パターンを複数用意して、各環境条件下で印刷処理を行い、環境条件毎の画像濃度を測定する(S101)。環境条件は、例えば、印刷時の現像器4内のトナー濃度や様々な箇所の温度、湿度、前の印刷時の現像器4内のトナー濃度、前の印刷処理終了からの放置時間等である。これらは、電源投入直後に取得可能な環境情報である。また、画像濃度は、パッチ画像の感光ドラム1上、中間転写ベルト6上、及び用紙S上の画像の画像濃度のいずれかである。
【0057】
プリンタ制御部300は、取得した画像濃度の測定データを同定用データと検証用データとに分類する(S102)。プリンタ制御部300は、測定データから、各実験日の最初の測定データを基準とした環境変動と画像濃度変動のデータを算出する(S103)。プリンタ制御部300は、同定用データに対して、各環境条件を入力変数、各階調の画像濃度を出力変数とする一次関数式でカーブフィットを行う(S104)。これにより同定用データの一次関数モデルが作成される。
【0058】
以下では、取得した環境条件(入力変数)として、印刷時の現像器4内のトナー濃度、現像器4内の温度、現像器4外の湿度、前の印刷処理終了からの放置時間を用いて説明するが、これに限定されるものではない。また、環境条件の測定データに対して、4入力の一次関数モデルまでの説明を行うが、5入力やそれ以上の測定データを用いた場合においても、同様の処理を行うことによってモデル作成が可能である。
【0059】
経過時間t秒後の入力変数xi(t)を、印刷時の現像器4内のトナー濃度変動x1(t)、現像器4内の温度変動x2(t)[℃]、現像器4外の湿度変動x3(t)[%]、前の印刷処理終了からの放置時間変動x4(t)[分]とする。入力変数xi(t)の組み合わせから予測する出力変数を、1種類~4種類の入力変数から予測される画像濃度変動のそれぞれの以下の一次関数モデルにより表す。
【0060】
【数1】
【0061】
各入力モデルに対して(i)、(i,j)、(i,j,k)、(i,j,k,l)の組み合わせ毎に、出力変数である画像濃度変動の測定データy(t)に対するカーブフィットを行う。カーブフィットの方法の一例としては、一次関数モデルの係数に対して、以下の式で表される予測誤差の二乗和Sを演算し、これを最小にする係数を探索する。一次関数モデルの係数は、(ai)、(aij1,aij2)、(aijk1,aijk2,aijk3)、(aijkl1,aijkl2,aijkl3,aijkl4)である。このとき、各一次関数モデルと予測誤差の二乗和の最小値が演算される。
【0062】
【数2】
【0063】
プリンタ制御部300は、検証用データの環境条件で、作成した各一次関数モデルを用いて画像濃度変動の予測値(予測誤差)を算出する(S105)。プリンタ制御部300は、算出した予測値と検証用データの画像濃度変動の測定値y(t)とを比較するために、ここでも予測誤差の二乗和Sを演算する。
【0064】
プリンタ制御部300は、入力変数(環境条件)の組み合わせに対する予測誤差を比較し、最適な入力変数の組み合わせと一次関数モデルとを得て、これを画像濃度予測モデルとする(S106)。例えばプリンタ制御部300は、同定用データを用いて算出した予測誤差の二乗和と、検証用データを用いて算出した予測誤差の二乗和との和を評価する。これによりプリンタ制御部300は、同定用データと検証用データの両方を考慮して最適な入力変数の組み合わせになる一次関数モデルを画像濃度予測モデルとすることができる。なお、検証用データを用いて演算した予測誤差の二乗和を比較し、この値が最小である一次関数モデルを画像濃度予測モデルとして用いてもよい。
【0065】
本実施形態では、入力変数をx1(t)のような単純なものとしたが、x1(t)×x2(t)のような環境条件の積や商を用意することにより、複雑なモデルも検討することが可能である。例えば、現像器4内のトナー濃度と放置時間とを加味したトナー帯電量の変化を表現できる入力変数を作成して、画像濃度予測モデルを検討することも可能である。ここでは説明を簡単にするため、各実験日の最初のデータを基準としたカーブフィットのみを説明した。各測定データを基準にしたカーブフィットを行い、全予測誤差の和で予測精度を評価することにより、さらに誤差の小さい画像濃度予測モデルが得られる。
【0066】
図13は、画像濃度予測モデルの保存状態の説明図である。図13の画像濃度予測モデルは5入力のモデルの場合であり、一つの入力変数に対してそれぞれ10階調分の係数が保存される。
【0067】
(画像濃度予測モデルの予測精度)
本実施形態では、予測画像濃度と実測した画像濃度との差分(予測誤差)を示す指標として、色度の差分であるΔEを算出することで画像濃度予測モデルの予測精度を検証する。ΔEは、以下に示すCIEが定めるL*a*b*色空間内の三次元距離の式で表すことができる。
ΔE=√((L1-L2)^2+(a1-a2)^2+(b1-b2)^2)
【0068】
例えば同じ画像濃度のずれ量であっても、高濃度域と低濃度域とではずれ量に対するL*a*b*色空間内の色度点の距離が異なる。そのためにΔEの方が、実際に人が感じる画像濃度のずれ分を評価する場合には有効である。
【0069】
本実施形態では、10階調のパッチ画像の画像濃度の実測値と予測画像濃度のずれ分をΔEにより評価する。なお、画像濃度の実測値と予測画像濃度のずれ分ΔDを以下の式によりΔEに変換する。
ΔE=((-47.03*(評価濃度域)+71.64))*ΔD
【0070】
この式は、予め使用する画像形成装置100の画像濃度及び色度と、ΔEとの関係を取得しておくことで算出可能である。なお、この式は使用する画像形成装置100の機種やトナー種に応じて変化するものであり、これに限定されるものではない。
【0071】
(画像濃度予測モデルの構造)
画像濃度予測モデルは、入力情報(入力変数)の数に応じて1入力或いは複数入力の画像濃度予測モデルが作成可能である。画像濃度の変動要因には、画像形成によって発生する履歴変動や画像形成条件自体の変化等が挙げられる。画像形成によって発生する履歴変動や画像形成条件自体の変化は、上記の通り、放置時間の長さ、画像形成装置100の内外の環境条件(温度、湿度)の変化、画像形成のジョブ数、画像デューティー、現像器4内のトナー濃度の変化等である。さらに環境条件変化と履歴変動が複合された状態も画像濃度の変動要因に挙げられる。画像濃度予測モデルは、すべての変動パターンで同じものを用いる場合や、予測精度を上げるために変動パターン別にモデルを個別に用意し、条件に応じてモデルを切り替える方法等が挙げられる。
【0072】
本実施形態は、一例として画像形成装置100の放置により生じるトナーの帯電量の変化を示すトナー量指数、画像形成条件のコントラストを示すCont、現像器4内のトナー濃度、環境水分量を用いたモデルで説明する。
【0073】
本実施形態では、画像形成装置100の放置前及び起動時に取得される環境センサ200、タイマ201、及びカウンタ202の各信号値、画像形成条件等の情報に基づいて、画像形成装置100が放置された直後の出力物の画像濃度が予測される。通常、画像形成装置100が長時間放置された場合、画像形成条件が同じであれば出力する画像濃度が高くなる。これは、トナーに付与された電荷が、放置されることによって低下してしまうためである。
【0074】
図14は、放置時間とトナーの帯電量維持率の関係を表すグラフである。この図に例示する放置特性を有するトナーを用いた場合の画像濃度予測について説明する。このグラフは、放置時間に応じたトナーの帯電量を測定して得られるものであり、放置前のトナー帯電量が100[%]である。放置時間が約10時間の場合、トナーの帯電量は90[%]以上維持されており、放置時間が約100時間の場合、トナーの帯電量は80[%]以上を維持している。このグラフにおいて、本実施形態で使用するトナーの帯電量維持率Pと放置時間Tとは、以下のような関係式を満たす。
P=(-0.038)×LN(T)+1
【0075】
このようなトナーを用い、さらに上記した画像濃度予測モデルの作成方法に則って濃度予測部330に使用する画像濃度予測モデルを作成すると、図15に例示する画像濃度予測モデルが作成される。ここで、トナー量指数は以下のような算出式によって算出される。
(トナー量指数)=Cont/((現像器内トナー濃度)×(トナー帯電量維持率P))
(トナー帯電量維持率P)=(-0.038)×LN(放置時間T)+1
【0076】
このように、トナー量指数は放置時間によって変化するものであり、例えば放置時間が30時間であれば、(トナー帯電量維持率P)=(-0.038)×LN(30)+1≒0.87となり、トナー帯電量が放置前の約87[%]となる。またこのとき、コントラスト電位及び現像器4内のトナー濃度に変化がなければ、トナー量指数は放置前よりも大きくなることになる。すなわち、トナー量指数は、トナーの放置時間に応じて変化し、画像形成装置100の起動時の出力画像濃度への相関が高くなる。
【0077】
(中間調処理別の対応)
本実施形態の予測画像濃度算出部307は、複数の異なるタイプ中間調処理が行われた場合に以下のように予測画像濃度を算出する。ここでは、中間調処理としてイメージスクリーン(以下、「SCR1」という。)とテキストスクリーン(以下、「SCR2」という。)について説明するが、これに限定されるものではない。
【0078】
予測画像濃度は、以下の式に表すように、基準画像濃度に画像濃度予測モデルから算出される予測画像濃度変動量を加算した値である。なお、以下の式において、予測画像濃度変動量は、上記したようなモデル式作成手法を用いて決定した最適なセンサと係数で表されるモデル式と、基準値からの差分とから算出される。基準画像濃度は、予め取得される。
(予測画像濃度)=(基準画像濃度)+(予測画像濃度変動量)
【0079】
SCR1とSCR2とは、中間調処理が異なるために予測画像濃度も異なる。中間調処理が異なる場合、面積率が同じであった場合においても画像の周長が異なるため、実際の画像濃度が異なってくる。この画像濃度の違いを、(1)SCR毎に基準画像濃度を設ける方法、(2)SCR毎に予測画像濃度変動量を設ける方法のそれぞれの方法で比較する。
【0080】
(1)SCR毎に基準画像濃度を設ける方法
基準画像濃度は、図6に例示するような状態で保存されている。本実施形態では、中間調処理としてSCR1とSCR2とを用いる。そのために基準画像濃度は、図16に例示するように合計22個の基準画像濃度が保存される。
【0081】
(2)SCR毎に予測画像濃度変動量を設ける方法
予測画像濃度変動量は、基準画像濃度を取得した時点のセンサ等の信号値を基準値として、現時点でのセンサ値との差分値を算出し、その差分値に画像濃度予測モデルをかけて算出される。画像濃度予測モデルは、図13に例示するような形で保存されている。本実施形態では、中間調処理としてSCR1とSCR2とを用いる。そのために予測画像濃度変動量は、図17に例示するようにSCR1とSCR2とで合計88個の係数を含む。
【0082】
すなわち、異なるスクリーンの予測画像濃度を算出する場合、(1)の方法と(2)の方法とでは必要となるメモリの容量が大きく異なる。特に、複数のスクリーンに対応する場合や画像濃度予測モデルがより多くの因子からなる場合には、メモリの容量の差が大きくなる。
【0083】
ここでは基準画像濃度の取得処理を図18に示すフローチャートにより説明する。ここでは自動階調補正が行われた場合について説明する。
【0084】
自動階調補正が開始されると、プリンタ制御部300は、SCR1(イメージスクリーン)における各色64階調のパッチ画像を用紙Sに形成して出力する(S501)。なお、階調数はこれに限定されるものではない。パッチ画像が形成された用紙Sは、リーダAの原稿台ガラス102上に載置され、リーダAにより読み取られる。プリンタ制御部300は、リーダAによるパッチ画像の読取結果に基づいてパッチ画像の画像濃度を検出する(S502)。プリンタ制御部300は、検出した画像濃度に基づいて補間処理とスムージング処理を行ってエンジンγ特性を取得する。プリンタ制御部300は、このエンジンγ特性と予め設定されている階調ターゲットとを用いて階調補正に用いる階調補正テーブルを作成する(S503)。
【0085】
引き続きプリンタ制御部300は、SCR2(テキストスクリーン)における各色64階調のパッチ画像を用紙Sに形成して出力する(S504)。パッチ画像が形成された用紙Sは、リーダAの原稿台ガラス102上に載置され、リーダAにより読み取られる。プリンタ制御部300は、SCR1のパッチ画像と同様に、リーダAによるパッチ画像の読取結果に基づいてパッチ画像の画像濃度を検出し(S505)、SCR2の階調補正テーブルを作成する(S506)。
【0086】
この時点で、SCR1、SCR2ともに階調ターゲットに対して用紙S上の画像濃度が全濃度域で合うようになっている。プリンタ制御部300は、SCR1、SCR2のそれぞれの階調補正テーブルを用いて補正した画像形成条件で、SCR1、SCR2の各色10階調のパッチ画像を中間転写ベルト6上に形成する(S507)。中間転写ベルト6上に形成されたパッチ画像は、画像濃度センサ400により読み取られる。リーダAに読み取られるパッチ画像の階調数は、画像濃度センサ400に読み取られるパッチ画像の階調数よりも多い。プリンタ制御部300は、画像濃度センサ400によるパッチ画像の測定結果(読取結果)に基づいてパッチ画像の画像濃度を検出する(S508)。プリンタ制御部300は、検出した画像濃度を各色の各SCRの基準画像濃度として、濃度記憶部331に保存する(S509)。図19は、このように保存されるマゼンタにおけるSCR1、SCR2の基準画像濃度の保存状態の例示図である。
【0087】
プリンタ制御部300は、基準画像濃度を取得したときの環境センサ200、タイマ201、及びカウンタ202のそれぞれの信号値を基準信号値として信号値記憶部321に保存する(S510)。図20は、信号値の例示図である。図20の上段には基準信号値が例示される。以上のように基準画像濃度の取得処理が行われる。
【0088】
予測画像濃度算出処理は、図11に示すフローチャートに示すとおりである。
【0089】
プリンタ制御部300は、画像形成装置100の起動時に、環境センサ200、タイマ201、及びカウンタ202のそれぞれから、画像濃度予測を行う時点の信号値を取得する(S401)。図20の下段には、ここで取得される信号値が例示される。
【0090】
プリンタ制御部300は、予測画像濃度算出部307により、取得した信号値と予め信号値記憶部321に記憶する基準信号値との差分値を算出する(S402)。図21は、図20の基準信号値と予測時の信号値との差分値を例示する。予測画像濃度算出部307は、算出した差分値を図15に例示する画像濃度予測モデルの演算式に代入し(S403)、基準画像濃度に対する現時点の画像濃度と基準画像濃度との差分値を予測値として算出する(S404)。図22は、濃度予測実行時における画像濃度の予測値の例示図である。
【0091】
ここで、S403の処理で行われる演算の一例を示す。図15では、画像DUTY40%における画像濃度モデル係数は、トナー量指数、Cont、現像器内トナー濃度、環境水分量でそれぞれ、5.9E-04、3.57E-04、-5.02E-02、7.93E-04である。また、図21より、各画像濃度予測モデルの係数に対する差分値は、それぞれ-2.42E+01、-6.65E+01、1.11E-02、-2.33E-01である。そのために予測値は、以下の演算式となる。
(予測値ΔD)=(5.90E-04)*(-2.42E+01)
+(3.57E-04)*(-6.65E+01)
+(-5.02E-02)*(1.11E-02)
+(7.93E-04)*(-2.33E-01)
=-3.87E-02
【0092】
予測画像濃度算出部307は、この予測値と各SCRの基準画像濃度との和から、現時点の予測画像濃度を算出する(S405)。図23は、スクリーン毎の予測画像濃度の例示図である。
【0093】
このように、中間調の処理別に基準画像濃度を取得することによって、スクリーン別に画像濃度予測モデルを作成するよりもメモリの容量の増加を抑えながら、各スクリーンに対応した予測画像濃度を算出することが可能になる。なお、本実施形態では、2つのスクリーン、10階調、4色(各色)、モデル構造4入力に関する説明を行ったが、これに限定されるものではない。
【0094】
以上説明したように、色味や画像濃度の階調特性を安定化するためのキャリブレーションが、外部環境の変動を入力値(信号値)として予測画像濃度を算出して実行する画像濃度予測制御により行われる。異なるスクリーンの画像濃度を予測する場合、各スクリーンで基準画像濃度を取得することで、各スクリーンでモデルを作成するよりも必要となるメモリの容量を抑制しながら、異なるスクリーンの濃度予測が可能となる。また、本実施形態では、キャリブレーション時にプリンタBによる用紙Sへのパッチ画像の印刷が行われない。そのためにキャリブレーションが短時間で可能となる。
【0095】
(変形例)
上記の実施形態では、異なる中間調処理のタイプ(スクリーン)に対する画像濃度の予測方法について説明したが、異なる用紙S(メディア)の種類に対する画像濃度の予測方法であっても本発明は適用可能である。
【0096】
メディアが異なる場合、同じ画像データであっても印刷される画像の画像濃度が変動する。これは、メディアが持つ色味自体が異なったり、表面性が異なるために物理的なドットゲインが異なったり、光学的なドットゲインが異なるためである。異なるメディアにおいても、それぞれで画像濃度予測モデルを作成して画像濃度を予測してもよいが、様々な種類のメディアに対して画像濃度予測モデルを準備する場合、その数が増えすぎてしまう。
【0097】
メディア毎に基準画像濃度を作成し、作成した基準画像濃度と予め保持している画像濃度予測モデルを用いることで、各メディアにおける予測画像濃度を算出することが可能になる。なお、メディア毎の画像濃度を予測する場合の基準画像濃度は、中間転写ベルト6に形成されたパッチ画像から取得されるのではなく、自動階調補正時等の用紙S上のパッチ画像から取得される。これは、メディア毎に表面性や色味が異なり、画像濃度が異なってくるためである。
【0098】
以上のように、メディア別に基準画像濃度を取得することによって、メディア別に画像濃度予測モデルを作成するよりもメモリ増加を抑えながら、短時間で各メディアに対応した色味・画像濃度階調性安定化制御のためのキャリブレーションを行うことが可能になる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23