(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】磁性粒子、アフィニティー粒子、検査試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/553 20060101AFI20241125BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
G01N33/553
G01N33/543 525C
(21)【出願番号】P 2020181146
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】掛川 法重
(72)【発明者】
【氏名】笹栗 大助
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-238541(JP,A)
【文献】特開2017-129529(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0304796(US,A1)
【文献】特開2018-146535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/543,33/545,
G01N 33/551,33/553
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと磁性体粒子を含むコア粒子と、
前記コア粒子の表面のシェル層とを有し、
前記シェル層はポリドーパミンを含む層と、リガンドを結合できる官能基と、を有
し、
前記官能基が、アミノ基、カルボキシ基、グリシジル基、およびチオール基で構成される群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする磁性粒子。
【請求項2】
前記コア粒子は、前記ポリマーを含む粒子に磁性体粒子が分散している、請求項1に記載の磁性粒子。
【請求項3】
前記コア粒子は、前記ポリマーを含む粒子の表面に磁性体粒子を含む層を有する、請求項1に記載の磁性粒子。
【請求項4】
前記磁性粒子の数平均粒径が500nm以上2500nm以下である請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の磁性粒子。
【請求項5】
前記磁性体粒子が、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、及びクロムからなる群より選択される少なくとも一種を含む請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の磁性粒子。
【請求項6】
前記磁性体粒子がマグネタイト(Fe
3O
4)、γ-酸化鉄(III)(γ-Fe
2O
3)、及びフェライトで構成される群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の磁性粒子。
【請求項7】
前記磁性体粒子の粒径が0nmより大きく、20nm以下である、請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の磁性粒子。
【請求項8】
前記ポリマーが、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、ポリフェノール、及びポリエチレンから構成される群から選択される少なくとも一種である、請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の磁性粒子。
【請求項9】
ポリマーと磁性体粒子とを含むコア粒子、及び、前記コア粒子の表面のシェル層、を有する磁性粒子と、
リガンドと、を有するアフィニティー粒子であって、
前記シェル層は、ポリドーパミンを含む層と、前記リガンドを結合できる官能基と、を有することを特徴とするアフィニティー粒子。
【請求項10】
前記リガンドが抗体である、請求項
9に記載のアフィニティー粒子。
【請求項11】
請求項
9または
10に記載のアフィニティー粒子と、前記アフィニティー粒子が分散した分散媒とを有する検査試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粒子、アフィニティー粒子、検査試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる抗原や抗体などの測定対象物質を検出する検査システムにおいて、磁性粒子が使用されることがある。具体的には、試料から測定対象物質(例えば、抗原)を検出するために、抗原と特異的に結合する抗体を固定したセンシングエリアをもつ光導波路を備えた検査システムがある。抗原の検出には、抗原と特異的に結合する抗体を結合した磁性粒子を用いる。
【0003】
ここで、試料に抗原が存在すると、抗原抗体反応により、抗体を固定したセンシングエリアをもつ光導波路に、抗原抗体反応を介して磁性粒子が結合する。このような検査システムは、光導波路型の検査システムと呼ばれることがある。光導波路型の検査システムでは、センシングエリアに入射した光に対する出射光(エバネッセント光)の光量の変化により抗原の有無を判定する(特許文献1)。
【0004】
特許文献1では、このような検査システムに用いられる材料として、磁性ナノ微粒子を高分子材料でくるんだ微粒子や、高分子材料から形成されるコアと、高分子材料から形成され、磁性ナノ微粒子を含むシェルとを有する微粒子が開示されている。
【0005】
一方、特許文献2では、核粒子の表面に形成された磁性体層上にポリマー層を形成した診断薬用粒子が開示され、ポリマーとしてポリグリシジルメタクリレート等の合成ポリマーが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-215553号公報
【文献】特開2004-205481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、特許文献1の構成のような光導波路型の検体検査システムにおいて、光導波路からのエバネッセント波の染み出し光を十分に散乱、又は吸収するためには、使用する磁性粒子の構造が重要である事を見出した。具体的には、特許文献2のように、表面に合成ポリマーを有する磁性粒子では、光の吸収が小さく、低屈折率であるため、エバネッセント波の染み出し光を十分に散乱することや、吸収することができず、検出感度が低くなってしまうことを見出した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、光導波路型の検体検査システムにおいて、試料から抗原などの測定対象物質を検出する際に、検出感度が高くなるような磁性粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る磁性粒子は、ポリマーと磁性体粒子を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面のシェル層とを有し、前記シェル層はポリドーパミンを含む層と、リガンドを結合できる官能基と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る磁性粒子によれば、光導波路型の検体検査システムにおいて、試料から抗原などの測定対象物質を検出する際に、検出感度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る磁性粒子の一例を示す模式図。
【
図2】本発明の実施形態に係る磁性粒子の他の例を示す模式図。
【
図3】本発明の実施形態におけるドーパミンの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について述べるが、本発明はそれに限定されない。以下、試料(検体)から検出する測定対象物質として抗原を、磁性粒子に結合させるリガンドとして抗体を例に挙げて説明する。
【0013】
(課題の詳細説明)
本発明の実施形態を説明するにあたり、まず、本発明の課題、すなわち光導波路型の検体検査システムに用いられる磁性粒子の課題について詳細を説明する。
【0014】
(光導波路型の検体検査システム)
まず、試料から抗原を検出する際に、抗原と特異的に結合する抗体を結合した磁性粒子と、抗原と特異的に結合する抗体を固定した平板(基板)を用いる場合、平板を重力方向の下側に配置し、平板近くに磁力を発生させる磁石などを配置する。これにより、重力と磁力の作用で、平板近くに磁性粒子を引き寄せることが可能となる。そして、抗原抗体反応を利用することで、平板近くに引き寄せられた磁性粒子は、抗原抗体反応を介して、平板に結合する。続いて、重力方向の上側に磁石などを配置することで、平板に結合していない磁性粒子を除去する。平板に結合している磁性粒子の量を検出することで、抗原の有無や量を検出できる。
【0015】
ここで、平板に結合する磁性粒子を、光導波路を導波するエバネッセント波の減衰により検出する場合、エバネッセント波の染み出し光を一粒子当たりで効率的に減衰できる磁性粒子の構成が必要になる。すなわち、下記式(I)で示すd以下の距離に存在する磁性粒子の屈折率と吸光度が高くする必要がある。
d=λ/{2π(n1sin2θ-n2
2)1/2}・・・(I)
【0016】
ここで、dはエバネッセント波の染み出し光の距離、λは検査システムにおける測定に用いる光の波長、n1は光導波路の屈折率、n2は磁性粒子を分散させる分散媒の屈折率、θは全反射角である。
【0017】
例えば、式(I)において、λが633nmの赤色レーザー、n1が、屈折率1.58のポリマー、n2が屈折率1.33の水溶媒、θが78°である場合、dは約130nmと計算できる。つまり、光導波路の表面に対して垂直な方向において、当該表面から130nm以下の距離に、屈折率が高く、かつ光吸収係数が大きい部材が存在するように磁性粒子を設計する必要がある。
【0018】
一方で、磁性粒子は一般に親水性表面を有している必要がある。これは、目的の抗原以外のタンパク質などが非特異的に磁性粒子の表面に吸着して、誤った検査結果になる可能性を低減するためである。
【0019】
つまり、平板に結合する磁性粒子を光導波路のエバネッセント波の減衰により検出する場合、親水性の材料で被覆された磁性粒子を用いる必要がある。そして、上記の通り、磁性粒子の表面は屈折率が高く、かつ光吸収が大きい必要がある。しかし、特許文献2のような、従来の磁性粒子では、磁性粒子の表面の親水性の材料として合成ポリマーを用いているが、光の吸収が小さく、低屈折率である。そのため、本発明者らは、エバネッセント波の染み出し光を十分に散乱、又は吸収できず、検出感度が小さくなってしまうことを見出した。ここで検出感度が低いとは感度下限が高い、すなわち、抗原の量が多くないと、抗原の存在を検出することができない、という意味である。上記の通り、発明者らが初めて見出した課題を踏まえ、光導波路型の検体検査システムにおいて、感度が高くなるような磁性粒子の設計を考えた。
【0020】
(磁性粒子)
本実施形態に係る磁性粒子について
図1を用いて説明する。
【0021】
本実施形態に係る磁性粒子100は、ポリマー101と磁性体粒子102を含むコア粒子103と、コア粒子103の表面のシェル層104とを有し、シェル層104はポリドーパミンを含む層105と、リガンドを結合できる官能基(不図示)とを有する。
【0022】
ポリドーパミンは、後述のように、屈折率が高く、かつ光吸収係数が大きいため、エバネッセント波の染み出し光を十分に散乱することや、吸収することができる。その結果、光導波路型の検体検査システムにおいて、感度が高くなる。
【0023】
(コア粒子の構造)
本実施形態において、コア粒子は、ポリマーから磁性体粒子が脱離しないようにされていればよく、ポリマーを含む粒子に磁性体粒子が分散していてもよいし、ポリマーを含む粒子の表面に磁性体粒子を含む層を有していてもよい。ポリマー粒子に磁性体粒子が分散している構成は
図1に示す通りである。ポリマー粒子の表面に磁性体粒子を含む層を有している構成は
図2に示す通りである。
図2に示す構成の場合、ポリマー101の粒子の表面に磁性体粒子102を含む層が設けられ、コア粒子103を構成している。コア粒子103の表面にはポリドーパミンを含む層105を含むシェル層104を有する。
図2に示す構成も
図1に示す構成と同様に、ポリドーパミンを含む層が存在することにより、エバネッセント波の染み出し光を十分に散乱することや、吸収することができる。その結果、光導波路型の検体検査システムにおいて、感度が高くなる。
【0024】
【0025】
(ポリドーパミン)
本実施形態におけるポリドーパミンは、5,6-ジヒドロキシインドールを部分構造として有し、400nm以上700nm以下の波長帯域の光について、光吸収係数が0.065以上、0.003以下である。なお、ポリドーパミンの重合度が大きくなること、またはπ電子系がポリマー同士の会合体を形成することで褐色から黒色に変わる。なお、本実施形態におけるポリドーパミン消衰係数は0.2程度である。
【0026】
本実施形態におけるポリドーパミンは親水性のポリマーであり、400nm以上700nm以下の波長帯域において光吸収係数が大きいため、当該波長帯域のエバネッセント光を効率的に吸収できる。また、ポリドーパミンは、親水性であり、表面修飾がしやすいことから、他の有色ポリマーと比較しても好適な材料である。
【0027】
また、ポリドーパミンの屈折率は1.63程度であり、従来用いられていたポリグリシジルメタクリレート(屈折率:1.449)や、ポリエチレングリコール(屈折率:1.46)に比べて高い。そのため、ポリドーパミンはエバネッセント波の染み出し光を散乱する効果が高い。
【0028】
本実施形態におけるポリドーパミンは後述するドーパミン構造をもつ化合物を重合することで得られる。
【0029】
本実施形態に係るポリドーパミンを含む層の厚さは3nm以上200nm以下であることが好ましい。3nm未満の場合、コア粒子を完全に被覆することができない場合がある。200nmより大きい場合、上記エバネッセント波の染み出し光の散乱効果の変化が小さいと考えられる。
【0030】
(ドーパミン構造をもつ化合物)
本実施形態におけるドーパミン構造とは、
図3の構造式(1)(2)に示すように、カテコール基とアミンを有する構造体であり、塩基性条件下で自己酸化重合し、呈色する構造体である。
図3におけるXおよびYは、各々独立に水素、カルボキシ基、酸素が2つ以上存在するポリエチレングリコール、水酸基を有する分子鎖のいずれかである。
【0031】
(リガンドを結合できる官能基)
本実施形態におけるシェル層に含まれる官能基は、リガンドを結合できるものであれば特に限定されない。本実施形態における官能基は、アミノ基、カルボキシ基、グリシジル基、およびチオール基で構成される群から選択される少なくとも一種である。
【0032】
上記ポリドーパミンには、付加反応によってアミノ基、カルボキシ基、チオール基、などを付与することが可能である。付加した官能基には、リガンドの他に、親水性の材料を結合してもよい。親水性の材料の例として、ポリエチレングリコール、ベタイン、ポリビニルピロリドン、水酸基が挙げられる。
【0033】
(リガンド)
上記の説明では、リガンドの例として抗体、測定対象物質として抗原を例に説明したが、これら以外のリガンドを用いることができる。
【0034】
ここで、リガンドとは、特定の標的物質が有する受容体に特異的に結合する化合物のことである。リガンドとして例えば、抗体、抗原、天然由来核酸、人工核酸、アプタマー、ペプチドアプタマー、オリゴペプチド、酵素又は補酵素などが挙げられる。リガンドが測定対象物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を有する。リガンドと測定対象物質として例えば、抗原と抗体、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質などのシグナル物質とその受容体、核酸などが例示される。リガンドと測定対象物質は逆にしてもよい。すなわち抗体をリガンド、抗原を測定対象物質としてもよいし、抗原をリガンド、抗体を測定対象物質としてもよい。なお、本実施形態のリガンドはこれらに限定されない。
【0035】
また、複数種の抗体が結合した磁性粒子を用いることで、複数種の測定対象物質を検出することが容易になる。また、測定対象物質が抗体に認識される認識部位が複数ある場合、複数の認識部位に応じた複数種の抗体を磁性粒子に結合させておくとよい。
【0036】
本実施形態におけるリガンドは抗体であることが好ましい。
【0037】
(数平均粒径)
本実施形態に係る磁性粒子の数平均粒径は、500nm以上2500nm以下であることが好ましく、1000nm以上2000nm以下であることがさらに好ましい。数平均粒径が500nm未満である場合、磁性粒子が光導波路に結合すると、基板から上記式(I)のdまでの間における磁性粒子の占有体積が小さくなる。その結果、効率的にエバネッセント波の染み出し光を、散乱することや、吸収することが難しいことがある。数平均粒径が2500nmよりも大きい場合、磁性粒子の比表面積が小さくなるので、粒子界面における抗原抗体反応が遅くなる。その結果、短時間で高感度な検体検査測定を行うことが難しいことがある。上記数平均粒径は、動的光散乱法により測定できる。
【0038】
(磁性体粒子)
本実施形態における磁性体粒子は、残留磁化の小さい磁性体である事が好ましい。磁性体とは、磁場の印加により磁化される材料のことである。実施形態における磁性体粒子は、金属、及び金属酸化物からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。金属としては、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、及びクロムからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。金属酸化物としては酸化鉄、例えば、マグネタイト(Fe3O4)、γ-酸化鉄(III)(γ-Fe2O3)、及びフェライトからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0039】
磁性体粒子の平均粒形は、0nmより大きく20nm以下であることが好ましい。特に、平均粒径が0nmより大きく20nm以下であり、マグネタイトを含む磁性体粒子は飽和磁化が大きく、かつ、超常磁性体であるため残留磁化が小さく好ましい。また、磁性体粒子の飽和磁化を、18emu/g以上とすることができる。
【0040】
ここで、磁化とは、磁性体に外部磁場をかける際に、その磁性体が分極して磁気モーメントを持つ現象のことであり、飽和磁化とは、磁場の強さとともに増大する磁化が飽和する値のことである。また、残留磁化とは、磁性体に外部磁場をかけた後に磁場ゼロにした場合に、磁性体に残留する磁化のことである。
【0041】
(ポリマー)
本実施形態におけるポリマーとして、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、ポリフェノール、及びポリエチレンから構成される群から選択される少なくとも一種を用いることができる。必要に応じて架橋剤などの添加剤がポリマーに含まれていてもよい。
【0042】
(アフィニティー粒子)
本実施形態に係るアフィニティー粒子は、上記磁性粒子と、上記官能基に結合したリガンドと、を有する。
【0043】
(検査試薬)
本実施形態に係るアフィニティー粒子を用いて、平板に結合する粒子を光導波路のエバネッセント波の減衰により検出する方法で測定する場合、エバネッセント波の染み出し光を一粒子当たりで効率的に減衰することができる。したがって、本実施形態に係るアフィニティー粒子を水溶媒等の分散媒に分散したコロイド液は検査試薬として利用することができる。
【0044】
検査試薬におけるアフィニティー粒子の含有量は、分散媒の全質量を100質量%として、0.001質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
また、分散媒以外にブロッキング剤などを含んでいてもよい。分散媒やブロッキング剤などは、2種以上を組み合わせてもよい。さらに、アフィニティー粒子の分散液の安定性を増すために、検査試薬に、界面活性剤、防腐剤、増感剤などが含まれていても良い。
【0046】
(分散媒)
分散媒には、緩衝液を用いる事も可能である。分散剤としては、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、グッド緩衝液、トリス緩衝液、アンモニア緩衝液などの緩衝液が挙げられる。
【0047】
(磁性粒子の製造方法)
本実施形態に係る磁性粒子の製造方法について説明する。
本実施形態に係る磁性粒子の製造方法は以下の各工程を少なくとも有する。
(1)ポリマーと磁性体粒子を混合してコア粒子を生成する混合工程。
(2)ポリドーパミンを前記コア粒子の表面に被覆する被覆工程。
(3)ポリドーパミンにリガンドを結合するための官能基を付与する工程。
【0048】
((i)の工程について)
ポリマーは、スチレンモノマー等のモノマーを水溶媒中で乳化重合することで得ることができる。乳化重合は、スチレンモノマーおよび添加剤を水溶媒に加え、充分に撹拌した後、窒素雰囲気化で重合開始剤を加えて加熱することで粒子を得る工程である。乳化重合の開始剤には過硫酸カリウムや2、2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ニ塩酸塩などを用いる事ができる。数平均粒径の調整や、粒度分布をより揃えるために添加剤を加えても良い。具体的にはパラスチレンスルホン酸ナトリウムやドデシル硫酸ナトリム、ポリビニルピロリドン、塩化カリウムなどを用いる事ができる。また架橋剤としてジビニルベンゼンなどを加えることでポリマーの強度を上げることができる。乳化重合で得たポリマーを遠心分離し、沈殿物を溶媒に再分散することで精製することができる。
【0049】
また、ポリマーは、スチレンモノマー等のモノマーを水溶媒中で懸濁重合して得ることもできる。懸濁重合では水中のモノマーを懸濁安定剤や攪拌による機械的なせん断を用いて水中で安定に分散させた状態で重合を行う。懸濁重合の開始剤には2、2’-アゾビス(イソブチロニトリル)などを用いることができる。粒度分布をより揃えるために添加剤を加えても良い。
【0050】
磁性粒子とポリマーを混合してコア粒子を生成するために、ポリマーを重合中に磁性体粒子を混合してしてもよい。コア粒子の生成に際して、ポリマーの原料のモノマーと磁性体粒子の親和性を高めるため、あらかじめ磁性体粒子の表面に原料のモノマーと類似の官能基を付与しておいてもよい。例えば、磁性体粒子がマグネタイトであり、スチレンモノマーを原料に用いる場合、磁性体粒子の表面をメタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどで処理しておくとよい。なぜなら、ポリマーの形成時に磁性体粒子が取り込まれやすいからである。本方法は、懸濁重合が好適に用いることができる。
【0051】
図1における、ポリマーと磁性体粒子するためには、モノマーを重合してポリマーを形成した後に、ポリマーの表面に磁性体粒子を被覆することで得ることもができる。例えば、ポリスチレンとマグネタイトの乾燥粒子を高速気流中で激しく衝突させて、ポリスチレン粒子の表面にマグネタイトを外添させることができる。この場合、ポリマー粒子の粒径は1000nm以上の大きさがあることが好ましく、磁性体粒子は出来る限り小さいほうがより均一に外添をすることができる。
【0052】
また、液中でポリマー粒子の表面電荷を利用することもできる。例えばポリマーの表面電位をマイナスになるように修飾しておき、マグネタイトのように酸性条件下で表面電荷がプラスの磁性体粒子を極性溶媒中で混合することで、ポリマー粒子の表面にマグネタイトが被覆されたコア粒子を得ることが可能である。
【0053】
((ii)の工程について)
図1におけるポリマーと磁性体粒子を含むコア粒子と、ポリドーパミンの間には、ポリドーパミンの密着性を高めるための層や表面処理があっても構わない。例えば、テトラエチルオルソシリケートを加水分解、及び重合して、(i)の工程で得られたコア粒子の表面にシリカ層を形成しておいてもよい。
【0054】
図1のように、ポリドーパミンをコア粒子の表面に設けるためには、(i)で得られたコア粒子を塩基性の水溶液に分散させた後、ドーパミン構造を有する分子を添加し攪拌することで得られる。ドーパミンは塩基性条件下で自己酸化重合し、ポリドーパミンを形成する。形成したポリドーパミンはコア粒子の表面に析出する。この時、塩基性条件となるように、水酸化ナトリウムやトリス水溶液、あるいはトリス塩酸緩衝液などを用いることができる。反応時のpHが高すぎるとコア粒子の表面に形成したポリドーパミンが剥離する事があるので、pHは8.5~10程度が好適である。反応は室温で10時間以上攪拌すれば完了する。形成したポリドーパミンの膜厚を調整するために、ドーパミン構造を有する分子の液中の濃度を調整するのみではなく、銅イオンやジアミンなどを加えてもよい。銅イオンは、ポリドーパミンに配位して、ポリドーパミン同士を結び付ける役割を果たす。ジアミンはポリドーパミンに付加してポリドーパミン同士を架橋することができる。
【0055】
((iii)の工程について)
図1におけるポリドーパミンを含む層の表面にリガンドを結合するための官能基を付与するためには、マイケル付加反応により、チオール基やアミンをポリドーパミンの骨格に直接結合することで得られる。つまり、末端にチオール基やアミンを有し、もう一端にカルボキシ基、アミノ基、チオール基などを有する分子をポリドーパミンに付加することで上記官能基を付与できる。具体的には、メルカプト酢酸、2-メルカプトプロパン酸、メルカプトこはく酸、meso-2,3-ジメルカプトこはく酸、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトイソ酪酸、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸、アミノ酸類、ジチオール類、及びジアミン類で構成される群から選択される少なくとも一種を好適に用いることができる。マイケル付加反応は、触媒としてエタノールアミンを添加し、60℃程度に加温した水溶液でポリドーパミンと、末端にチオール基やアミンを有し、もう一端にカルボキシ基、アミノ基、チオール基などを有する分子を適量混合して得られる。
【0056】
また、この官能基の付与の工程と同時に親水基を有する分子も、マイケル付加反応によってポリドーパミンに付与できる。親水基を有する分子としては、メルカプトプロパンジオール、メトキシポリエチレングリコールアミン、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオール、エタノールアミン、アミノプロパンジオール、及びポリビニルピロリドンで構成される群から選択される少なくとも一種を用いることができる。
【0057】
(その他の工程について)
上記(i)~(iii)の工程の後に、磁性粒子にリガンドを結合することでアフィニティー粒子を得てもよい。
【0058】
図1における磁性粒子の表面に存在する、リガンドを結合する官能基と、抗体等のリガンドを結合するためには、一般に行われている生化学的な方法を用いることで得られる。具体的には、リガンドを結合する官能基がカルボキシの場合、弱酸性下のMES緩衝液中で1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下WSCと略)とN-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム(以下スルホ―NHSと略)を混合する。その後、カルボキシ基をN-ヒドロキシエステル(NHSエステル)化し、活性化したところに、目的のリガンドを混合して、磁性粒子にリガンドを結合する。このようにリガンドを結合させることを以下では感作とよぶ。
【0059】
(測定対象物質の検出方法)
本実施形態において、試料に含まれる測定対象物質の検出方法は以下の工程を少なくとも有する。以下ではリガンドを抗体とした例を説明する。
【0060】
(第1工程)
第1工程では、重力方向の下側に第1の抗体が固定されたセンサー容器内に、測定対象物質を含む試料と、アフィニティー粒子とアフィニティーの粒子を分散させる分散媒を有する検査試薬とを添加する。その際に、センシングエリアの底面には光導波路が形成されていて、光導波路から出射された光量を検出している。
【0061】
(第2工程)
第2工程では、アフィニティー粒子が測定対象物質を介して第1の抗体に結合するように、重力方向と同じ方向に磁場を印加する。この時、磁性粒子は上記底面に磁性粒子が複数個連なったように針状に堆積する。
【0062】
(第3工程)
第3工程では、磁場をOFFにして針状に連なったアフィニティー粒子を上記底面に沈降させる。この工程で、アフィニティー粒子は上記底面を覆うように配置される。試料に測定対象物質が存在すれば、この工程でアフィニティー粒子側の第2の抗体は上記底面に設けられた第1の抗体と抗原を介して結合する。光導波路から出射される光の光量は、この段階で最も低くなる。
【0063】
(第4工程)
第4工程では、測定対象物質を介して第1の抗体と結合していないアフィニティー粒子が、上記底面から遠ざかるように磁場を印加する。この工程で、上記底面から離れるアフィニティー粒子が存在すれば、導波路からの出射光量はその粒子の数に従って増加する。また、第一の工程の光量を初期値とすると、この光量と比較して検出される光量が低い場合は、抗原を介して結合しているアフィニティー粒子が存在することがわかり、その結果、試料内に測定対象物質が存在することがわかる。
【0064】
本実施形態に係る検出方法において、第1の抗体、第2の抗体は測定対象物質に結合可能であればよい。第1の抗体、第2の抗体とは同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、第2の抗体は、異なる測定対象物質に結合するとうに複数の抗体が付与されていても良い。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本発明の実施例では、小粒径(磁性粒子の数平均粒径:800nm)、中粒径(磁性粒子の数平均粒径:1500nm)、大粒径(磁性粒子の数平均粒径:2300nm)の3種類の磁性粒子を作製した。なお、数平均粒径はいずれも動的光散乱によって測定された値である。3種類の磁性粒子を作製するにあたり、まず、小粒径、中粒径、大粒径の3種類のコア粒子を作製した。
【0066】
(1)小粒径のポリマー粒子の作製
まず、モノマーを乳化重合法で重合してポリマーを作製した。具体的には、丸底四ツ口のセパラブルフラスコに純水、スチレンモノマー(キシダ化学製)、パラスチレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業製)を加え、メカニカルスターラーを用いて窒素バブリングをしながら30分撹拌した。オイルバスにおいて試料を撹拌した状態のまま70度まで加熱した後、触媒の過硫酸カリウム(アルドリッチ製)を加え窒素雰囲気にて8時間スチレンの重合反応を行った。試料を冷却した後、遠心分離にて沈殿物を回収し、純水を用いて生成物の洗浄を行った。得られた試料は純水に分散しポリマーの懸濁液、すなわちポリマーを含む粒子の分散液を得た。得られた小粒径ポリマーは動的光散乱で粒度分布を測定した結果、数平均粒径が500nmであった。
【0067】
(2)磁性体粒子の作製
塩化第二鉄及び、塩化第一鉄(キシダ化学製)を水に溶解させて溶解液とした。この溶解液を25℃に維持したまま、激しく撹拌した。攪拌された溶解液にアンモニア水(キシダ化学製)を加えて、マグネタイトの懸濁液を得た。得られた懸濁液のマグネタイトの数平均粒径は10nmであった。なお、数平均粒径の測定には動的光散乱(マルバーン製)を用い、測定の際の磁性粒子の濃度は、0.005wt%とした。
【0068】
(3)小粒径のポリマー粒子と磁性体粒子を含むコア粒子の作製
(1)で得た小粒径のポリマー粒子と、(2)で得た磁性体粒子を水中に分散させて、MES緩衝液でpHを5.4に調整して攪拌を3時間行うことで、小粒径のポリマー粒子の表面に磁性体粒子を吸着させた。
【0069】
コア粒子は遠心分離を行い、上澄みを除去する作業を繰り返して洗浄することで得た。生成したコア粒子を純水とエタノール(キシダ化学製)の体積比1:1の溶液に再分散した。調製した分散液にテトラエチルオルソシリケート(東京化成工業製)を添加して均一になるまで攪拌した後、アンモニア水に添加して、2時間激しく攪拌を行った。攪拌後に生成物を磁石で回収し、エタノールに再分散する作業を3回繰り返して洗浄を行った。このようにして、小粒径のポリマー粒子と磁性体粒子を含むコア粒子(以下、小粒径コア粒子)が得られた。
【0070】
(4)中粒径のポリマー粒子と磁性体粒子を含むコア粒子の作製
中粒径のポリマー粒子と磁性体粒子を含むコア粒子として、JSR社製のMX100を用いた(数平均粒径:1100nm)。MX100を純水とエタノール(キシダ化学製)の体積比1:1の溶液に分散した。調製した分散液にテトラエチルオルソシリケート(東京化成工業製)を添加して均一になるまで攪拌した後、アンモニア水に添加して2時間激しく攪拌を行った。攪拌後、生成物を磁石で回収し、エタノールに再分散する作業を3回繰り返して洗浄を行った。このようにして、中粒径のポリマー粒子と磁性体粒子を含むコア粒子(以下、中粒径コア粒子)が得られた。
【0071】
(5)大粒径のポリマー粒子と磁性体粒子を含むコア粒子の作製
大粒径のポリマー粒子として、ポリスチレン粒子SX―130H(綜研化学株式会社製:数平均粒径:1300nm)を12g秤量した。磁性体粒子として、株式会社フェローテック製の疎水化処理された磁性粒子(EMG1400)を10g秤量した。これらの粒子を乳鉢で十分粉砕、混合した混合粒子を作製した。次に、この混合粒子をハイブリダイゼーションシステムNHS-0型(奈良機械製作所(株)製)を使用して、羽の回転数16200rpm(回転速度100m/秒で5分間処理した。この処理により、ポリスチレン粒子の表層に磁性体粒子が被覆された粒子を20g得た。生成物を純水とエタノール(キシダ化学製)の体積比1:1の溶液に分散した。調製された分散液にテトラエチルオルソシリケート(東京化成工業製)を添加して均一になるまで攪拌した後、アンモニア水に添加して2時間激しく攪拌を行った。攪拌後の生成物を磁石で回収し、エタノールに再分散する作業を3回繰り返して洗浄を行った。このようにして、大粒径のポリマー粒子と磁性体粒子を含むコア粒子(以下、大粒径コア粒子)が得られた。
【0072】
<実施例1>
10mMのトリス緩衝液(東京化成工業製)40mLに、上記の中粒径コア粒子を300mg混合し、25℃で10分攪拌した。トリス緩衝液のpHは、塩酸で調整し、9.0であった。得られた分散液に、ドーパミン塩酸塩(アルドリッチ製)40mgを添加して、25℃で一晩撹拌し、分散液を得た。分散液を遠心分離して、上澄みを除去してイオン交換水で洗浄する操作を3回行った。得た分散液と、トリエチルアミン(東京化成工業製)を触媒量溶解したメルカプトこはく酸(富士フイルム和光純薬製)水溶液を混合し、60℃で15時間攪拌して生成物を得た。試薬は、中粒径コア粒子が150mg、純水16000mg、メルカプトこはく酸50mg、トリエチルアミン7mgを混合して得た。生成した磁性粒子は純水に分散し、濃度1.0%の分散液に調整した。このようにして、ポリスチレンと磁性体粒子を含むコア粒子の表面に、ポリドーパミンを含む層とカルボキシ基を有するシェル層を有する磁性粒子(数平均粒径:1500nm)が得られた。
【0073】
<実施例2>
実施例1の中粒径コア粒子とメルカプトこはく酸との反応において、粒子表面の親水性を高めるために、ポリビニルピロリドンK-30(キシダ化学製)をメルカプトこはく酸と等量添加したこと以外は同様の手順で磁性粒子の分散液を得た。このようにして、ポリスチレンと磁性体粒子を含むコア粒子の表面に、ポリドーパミンを含む層とカルボキシ基とポリビニルピロリドンを有するシェル層を有する磁性粒子(数平均粒径:1500nm)が得られた。
【0074】
<実施例3>
実施例1の中粒径コア粒子とメルカプトこはく酸との反応において、粒子表面の親水性を高めるために、メルカプトプロパンジオール(富士フイルム和光純薬製)を、メルカプトこはく酸の2倍の重量添加したこと以外は同様の手順で磁性粒子の分散液を得た。このようにして、ポリスチレンと磁性体粒子を含むコア粒子の表面に、ポリドーパミンを含む層とカルボキシ基と水酸基を有するシェル層を有する磁性粒子(数平均粒径:1500nm)が得られた。
【0075】
<実施例4>
実施例1の手順において、中粒径コア粒子に代えて大粒径コア粒子を使用したこと以外は同様の手順で磁性粒子の分散液を得た。このようにして、ポリスチレンと磁性体粒子を含むコア粒子の表面に、ポリドーパミンを含む層とカルボキシ基を有するシェル層を有する磁性粒子(数平均粒径:2400nm)が得られた。
【0076】
<実施例5>
実施例1の手順において、中粒径コア粒子に代えて小粒径コア粒子を使用したこと以外は同様の手順で磁性粒子の分散液を得た。このようにして、ポリスチレンと磁性体粒子を含むコア粒子の表面に、ポリドーパミンを含む層とカルボキシ基を有するシェル層を有する磁性粒子(数平均粒径:800nm)が得られた。
【0077】
<比較例1>
上記の中粒径コア粒子150mgを純水100mLに分散した分散液にスチレンモノマーを0.04g添加し、40kHzの超音波で10分間分散した。分散後、グリシジルメタクリレート(東京化成工業製)を0.32g添加しメカニカルスターラーを用いて窒素バブリングをしながら30分撹拌した。オイルバスにて試料を撹拌した状態のまま、55度まで加熱した後、触媒の過硫酸カリウム(アルドリッチ製)を加え窒素雰囲気にて14時間重合反応を行った。試料を冷却した後、磁石にて沈殿物を回収し、純水を用いて生成物の洗浄を行った。生成物の水分散液と、トリエチルアミン(東京化成工業製)でpH10に調整した溶媒にメルカプトこはく酸を溶解させた液を混合し、60℃で15時間攪拌して生成物を得た。試薬は、上記の中粒径コア粒子60mg、純水16000mg、メルカプトこはく酸50mg、トリエチルアミン145mgを混合した。生成した磁性粒子は純水に分散し、濃度1.0%の分散液に調整した。このようにして、ポリスチレンと磁性体粒子を含むコア粒子の表面に、ポリグリシジジルメタクリレートを含む層とカルボキシ基を有するシェル層を有する磁性粒子(数平均粒径:1600nm)が得られた。なお、ポリグリシジルメタクリレートはグリシジル基が開環したものとなっている。
【0078】
<比較例2>
比較例1の手順において、中粒径コア粒子に代えて大粒径コア粒子を使用したこと以外は同様の手順で、磁性粒子の分散液を得た。このようにして、ポリスチレンと磁性体粒子を含むコア粒子の表面に、ポリグリシジジルメタクリレートを含む層とカルボキシ基を有するシェル層を有する磁性粒子(数平均粒径:2500nm)が得られた。なお、ポリグリシジルメタクリレートはグリシジル基が開環したものとなっている。
【0079】
<比較例3>
比較例1の手順において、中粒径コア粒子に代えて小粒径コア粒子を使用したこと以外は同様の手順で磁性粒子の分散液を得た。このようにして、ポリスチレンと磁性体粒子を含むコア粒子の表面に、ポリグリシジジルメタクリレートを含む層とカルボキシ基を有するシェル層を有する磁性粒子(数平均粒径:700nm)が得られた。なお、ポリグリシジルメタクリレートはグリシジル基が開環したものとなっている。
【0080】
<アフィニティー粒子の作製>
実施例1及び比較例1で得た磁性粒子に、リガンドとしてインフルエンザ抗体を感作した。1wt%の磁性粒子の分散液を0.8mL分取し、1.6mLのpH5.4のMES緩衝液で溶媒を置換した。置換方法は、磁石で粒子を引き付け、上澄みを除去する方法で行った。磁性粒子が分散したMES緩衝液にWSCおよびスルホ―NHS(いずれも東京化成工業製)を0.5wt%添加し、25℃、で1時間反応させた。反応後、得られた分散液をMES緩衝液で洗浄し、インフルエンザ抗体を添加し、25℃で2時間インフルエンザ抗体を磁性粒子に感作させた。インフルエンザ抗体を感作させた磁性粒子をMES緩衝液で洗浄し、エタノールアミン(東京化成工業製)を添加し、25℃で30分反応させた。反応後、インフルエンザ抗体を感作させた粒子をMES緩衝液で洗浄して、2wt%濃度のアフィニティー粒子を得た。アフィニティー粒子に抗体が結合していることは、抗体を加えたMES緩衝液中の抗体の濃度の減少量を、タンパク質を比色定量することが可能なBCA(ビシンコニン酸)アッセイで確認した。
【0081】
<磁性粒子の評価>
上記実施例、及び比較例において得られた全ての磁性粒子において100nm以上の親水層が形成できていることを確認した。なお、実施例で得られた磁性粒子の分散液は濃褐色を呈していて、比較例で得られた磁性粒子の分散液は黄土色であった。また、乾燥させた磁性粒子のFT-IRによる評価で、実施例で得た磁性粒子は波数1630cm-1付近にポリドーパミンの骨格のN-Hの振動吸収によるピークも検出することができた。すなわち、実施例で得た磁性粒子には、ポリドーパミンを含む層が形成されていることを確認できた。
【0082】
以下では、上記の通り得られた磁性粒子やアフィニティー粒子の評価を行った結果を示す。各粒子の物性や評価結果を表1に示す。
【表1】
<感度下限の測定>
実施例および比較例で得た磁性粒子の感度下限を、光導波路を備えた検査装置を用い、上記エバネッセント波の減衰の量を測定する方法で測定することで得た。具体的には、キヤノンメディカルシステムズ製のRapiim Eye10(以下、Rapiim装置)およびインフルエンザウィルスキットRapiim Flu-ABを用いて評価した。磁性粒子の分散液0.02mLと、上記インフルエンザウィルスキットの処理液0.38mLを混合した液の0.13mLを上記装置にセットし、上記装置によって得られたデータのプロファイルを取得した。そして、磁場を印加して磁性粒子を光導波路側に設けられた基板に引き付けた前後におけるエバネッセント波の光量の最大の減衰量と、光量が減衰後に磁場を基板と逆方向に印加して磁性粒子を基板から引きはがしたときのエバネッセント波の回復量を評価した。エバネッセント波の光量の減衰量が大きい場合、磁性粒子が効率的に光を散乱、吸収していることを示す。また、エバネッセント波の光量が磁場印加前の水準まで回復していれば、磁性粒子は非特異吸着が低減できていることを示す。測定した光量の規格化の為に、試料を装置にセットした直後のエバネッセント波の光量を100%とした。
【0083】
表1の感度下限は、Rapiim装置による測定の結果、測定初期の状態のエバネッセント波の透過量を100%とした時の減少値を示している。この感度下限の値が小さいほうが、エバネッセント波を散乱、あるいは吸収していることを意味する。表1より、すべての実施例において、感度下限が20%以下であった。一方、比較例は最小でも28%であり、20%より大きかった。
【0084】
これは比較例のような構成の従来の磁性粒子の表面の材料は、屈折率が低く、光吸収係数が小さいため、磁性粒子が光導波路の近傍の基板に接した時のエバネッセント波の散乱や吸収が小さいからである。一方で、本実施例に係る磁性粒子は、磁性粒子の表面に屈折率が高く、光吸収係数が大きいポリドーパミンを含む層を有するため、散乱や吸収が大きいからである。その結果、光導波路を備えた検査装置において、感度下限が下がり、検出できるレンジ広がる。
【0085】
また、表1の「非特異吸着の低減」の項目は、最終的に磁場を印加して基板から磁性粒子を引きはがしたときに回復するエバネッセント波の光量の割合を示している。表1の結果より、全ての磁性粒子において95%以上光量が回復していることがわかり、磁性粒子に非特異吸着が起きないことを確認した。
【0086】
<抗原抗体反応の評価>
インフルエンザ抗体を感作することで得た実施例1および比較例1のアフィニティー粒子の抗原抗体反応、光導波路を備えた検査装置の光導波路のエバネッセント波の減衰により検出する方法で感度評価した。具体的には、キヤノンメディカルシステムズ製のRapiim Eye10およびインフルエンザウィルスキットRapiim Flu-ABを用いて評価した。インフルエンザキットの処理液を0.35mLにインフルエンザ抗原が含まれる水溶液を0.03mL混合した。調整した溶液に粒子分散液を0.02mL添加した後、0.13mLを装置にセットして評価を行った。
【0087】
(抗原抗体反応)
表1の抗原抗体反応は、インフルエンザ抗原を実測定した結果を示している。最終的に磁場印加をした後に、抗原抗体反応によって基板表面に留まる粒子があれば、エバネッセント波の減衰を引き起こす。表中の割合は、初期値の光量に対して、戻らなかった光量の割合を示している。つまり、同じ抗原濃度であればこの割合が大きい方が、測定感度が高いことを意味する。表1より抗原抗体反応では、実施例1が28%で、比較例1が9.8%であった。すなわち、実施例は比較例よりも2.5倍以上感度が高いことを確認した。
【0088】
<シェル層に含まれる官能基の確認>
カルボンキシ基の定量は電気伝導度で測定し、以下の手順で行った。被滴定液調整は、100mLディスポカップに、0.01N水酸化ナトリウム水溶液を1.5g加えた。評価する粒子を固形重量で50mg精秤し、100mLディスポカップに加え、純水で50mLまでメスアップした。次に、0.01N塩酸を加えながら、電気伝導度の変化を測定した。電気伝導度の変化が、減少から僅かな増加に変化した点を変曲点1、僅かな増加から大幅な増加に変化した点を変曲点2とし、変曲点1と変曲点2の塩酸滴下量の差分モル量を被滴定液中の官能基量とした。滴定装置として平沼産業製、COM-1700Aを用いた。このような電気伝導度滴定によるカルボキシ基の定量評価の結果、全ての磁性粒子で磁性粒子1mgあたり、100~200nmоLのカルボキシ基が存在する事がわかった。
【0089】
<まとめ>
以上のことから、本発明の実施例に係る磁性粒子は、光導波路のエバネッセント波の減衰により検出する方法で測定する場合、エバネッセント波の染み出し光を一粒子当たりで効率的に減衰できることがわかった。その結果、抗体などのリガンドの検査において、検出感度が高くなることがわかった。したがって、低濃度の測定対象物質(抗原など)の検出に適していると言える。また、磁性材料の磁性を利用して、抗原や抗体などの吸着分離材料としても利用することも可能である。
【符号の説明】
【0090】
磁性粒子 100
ポリマー 101
磁性体粒子 102
コア粒子 103
シェル層 104
ポリドーパミンを含む層 105