(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】不活化システム及び不活化方法
(51)【国際特許分類】
A61L 9/015 20060101AFI20241125BHJP
F24F 6/14 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
A61L9/015
F24F6/14
(21)【出願番号】P 2020200930
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】315016723
【氏名又は名称】三菱重工パワー環境ソリューション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】富松 一隆
(72)【発明者】
【氏名】北 利知
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅也
(72)【発明者】
【氏名】織田 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】上田 泰稔
【審査官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-046272(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044254(WO,A1)
【文献】特開2017-136191(JP,A)
【文献】特開平02-237565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00 - 9/22
F24F 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾンを発生させるオゾン発生部と、
前記オゾン発生部で発生したオゾンが含まれる空気を室内空間へ送る第1供給部と、
前記室内空間の空気に含まれるオゾンを分解するオゾン分解部と、
前記オゾン分解部を通過した空気を直接室内空間へ送る第2供給部と、
前記室内空間の複数の測定点においてオゾン濃度、温度及び湿度を測定する測定部と、
前記測定部によって測定された前記オゾン濃度と、前記オゾン濃度の測定開始からの経過時間との積であるCT値を算出するCT値算出部と、
所定の環境条件下で不活化対象とする細菌又はウイルスを不活化するために必要な基準CT値が記録された記憶部と、
前記測定部によって測定された前記オゾン濃度、前記温度及び前記湿度に基づいて前記基準CT値を補正して、補正後の値を補正CT値として決定するCT値決定部と、
算出された前記CT値が前記補正CT値を満たすか否かを判断する判断部と、
前記測定部によって測定された前記オゾン濃度に基づいて、前記測定点のオゾン濃度が所定の閾値を満たすように前記オゾン発生部及び/又は前記第1供給部を制御し、かつ、前記オゾン分解部及び/又は前記第2供給部を制御するオゾン濃度制御部と、
を備え
、
算出された前記CT値が前記補正CT値を満たすと判断されたとき、前記オゾン分解部及び前記第2供給部が起動され、前記オゾン分解部を通過した空気が前記室内空間へ送られる不活化システム。
【請求項2】
空気中の水分を増加させる加湿部と、
前記加湿部によって水分が増加されて加湿された空気を室内空間に送る第3供給部と、
前記測定部によって測定された前記湿度に基づいて、前記測定点の湿度が所定の閾値を満たすように前記加湿部及び/又は前記第3供給部を制御する加湿制御部と、
を更に備える請求項1に記載の不活化システム。
【請求項3】
前記オゾン発生部、前記加湿部及び前記オゾン分解部が一つのケーシングに収容されている請求項2に記載の不活化システム。
【請求項4】
前記オゾン発生部、前記加湿部及び前記オゾン分解部がそれぞれ別の装置として構成されている請求項2に記載の不活化システム。
【請求項5】
前記オゾン発生部と前記加湿部が同一方向に配置され、
前記加湿部から吹き出された空気が、前記オゾン発生部の上側に噴出するように、前記加湿部の吹き出し口が設置される請求項3又は4に記載の不活化システム。
【請求項6】
オゾン発生部がオゾンを発生させるステップと、
第1供給部が、前記オゾン発生部で発生したオゾンが含まれる空気を室内空間へ送るステップと、
オゾン分解部が、前記室内空間の空気に含まれるオゾンを分解するステップと、
第2供給部が、前記オゾン分解部を通過した空気を直接室内空間へ送るステップと、
前記室内空間の複数の測定点においてオゾン濃度、温度及び湿度を測定するステップと、
測定された前記オゾン濃度と、前記オゾン濃度の測定開始からの経過時間との積であるCT値を算出するステップと、
測定された前記オゾン濃度、前記温度及び前記湿度に基づいて、所定の環境条件下で不活化対象とする細菌又はウイルスを不活化するために必要な基準CT値を補正して、補正後の値を補正CT値として決定するステップと、
算出された前記CT値が前記補正CT値を満たすか否かを判断するステップと、
測定された前記オゾン濃度に基づいて、前記測定点のオゾン濃度が所定の閾値を満たすように前記オゾン発生部及び/又は前記第1供給部を制御し、かつ、前記オゾン分解部及び/又は前記第2供給部を制御するステップと、
算出された前記CT値が前記補正CT値を満たすと判断されたとき、前記オゾン分解部及び前記第2供給部が起動され、前記オゾン分解部を通過した空気を前記室内空間へ送るステップと、
を備える不活化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、不活化システム及び不活化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスやコロナウイルスなどのウイルスによって引き起こされる感染症の伝染や流行を防止するため、ウイルス除去対策が行われている。ウイルス除去対策では、エアロゾル感染、接触感染などの感染メカニズムに応じてそれぞれ異なる方法が採られている。
【0003】
エアロゾル感染は、空気中に漂う微細なエアロゾルを人が吸引することによって引き起こされることから、その対策方法として、換気や、サブミクロンクラスに対応した高効率エアフィルタ(例えばHEPAフィルタ)によるウイルスの除去などが行われている。
【0004】
接触感染は、感染者が触れた物をウイルスの感染力が残存している間に人が触れることによって引き起こされる。接触感染の対策方法として、各人の手洗いや、人が触れる部分のアルコール等による拭き取りなどが行われている。
【0005】
以下では、ウイルスを不活化することと細菌を殺菌することについて、総称して「不活化」という表現とする。なお、下記の特許文献1では、オゾンを使用して衣服等の滅菌を行うオゾン滅菌装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スポーツ施設や展示場などの建築物の大規模空間では、上述した対策の手間が大掛かりにならざるを得ず、拭き忘れなどの人為的なミスも想定される。そのため、十分な感染対策には大変な労力を要している。
【0008】
従来、ウイルスを不活化するため、紫外線又はオゾンを用いる方法が提案されている。しかし、紫外線を用いる場合、紫外線が遮蔽されてしまい照射されない部分の不活化が不可能である。また、オゾンを対象物に接触させて対象物に付着したウイルスを不活化する場合、空気と共にオゾンを空間に隈なく行き渡らせる必要があるが、特に大規模空間において、オゾンを所要箇所へ供給する方法が検討されていないのが現状である。
【0009】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、測定された環境条件下に対応して、室内空間の所要箇所におけるオゾンによる不活化を確実に行うことが可能な不活化システム及び不活化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示の不活化システム及び不活化方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本開示に係る不活化システムは、オゾンを発生させるオゾン発生部と、前記オゾン発生部で発生したオゾンが含まれる空気を室内空間へ送る第1供給部と、前記室内空間の空気に含まれるオゾンを分解するオゾン分解部と、前記オゾン分解部を通過した空気を直接室内空間へ送る第2供給部と、前記室内空間の複数の測定点においてオゾン濃度、温度及び湿度を測定する測定部と、前記測定部によって測定された前記オゾン濃度と、前記オゾン濃度の測定開始からの経過時間との積であるCT値を算出するCT値算出部と、所定の環境条件下で不活化対象とする細菌又はウイルスを不活化するために必要な基準CT値が記録された記憶部と、前記測定部によって測定された前記オゾン濃度、前記温度及び前記湿度に基づいて前記基準CT値を補正して、補正後の値を補正CT値として決定するCT値決定部と、算出された前記CT値が前記補正CT値を満たすか否かを判断する判断部と、前記測定部によって測定された前記オゾン濃度に基づいて、前記測定点のオゾン濃度が所定の閾値を満たすように前記オゾン発生部及び/又は前記第1供給部を制御し、かつ、前記オゾン分解部及び/又は前記第2供給部を制御するオゾン濃度制御部とを備え、算出された前記CT値が前記補正CT値を満たすと判断されたとき、前記オゾン分解部及び前記第2供給部が起動され、前記オゾン分解部を通過した空気が前記室内空間へ送られる。
【0011】
本開示に係る不活化方法は、オゾン発生部がオゾンを発生させるステップと、第1供給部が、前記オゾン発生部で発生したオゾンが含まれる空気を室内空間へ送るステップと、オゾン分解部が、前記室内空間の空気に含まれるオゾンを分解するステップと、第2供給部が、前記オゾン分解部を通過した空気を直接室内空間へ送るステップと、前記室内空間の複数の測定点においてオゾン濃度、温度及び湿度を測定するステップと、測定された前記オゾン濃度と、前記オゾン濃度の測定開始からの経過時間との積であるCT値を算出するステップと、測定された前記オゾン濃度、前記温度及び前記湿度に基づいて、所定の環境条件下で不活化対象とする細菌又はウイルスを不活化するために必要な基準CT値を補正して、補正後の値を補正CT値として決定するステップと、算出された前記CT値が前記補正CT値を満たすか否かを判断するステップと、測定された前記オゾン濃度に基づいて、前記測定点のオゾン濃度が所定の閾値を満たすように前記オゾン発生部及び/又は前記第1供給部を制御し、かつ、前記オゾン分解部及び/又は前記第2供給部を制御するステップと、算出された前記CT値が前記補正CT値を満たすと判断されたとき、前記オゾン分解部及び前記第2供給部が起動され、前記オゾン分解部を通過した空気を前記室内空間へ送るステップとを備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、測定された環境条件下に対応して、室内空間の所要箇所におけるオゾンによる不活化を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の一実施形態に係るウイルス不活化システムを示す概略図である。
【
図2】ウイルスの残存率とCT値の関係を示すグラフである。
【
図3】本開示の一実施形態に係るオゾン発生装置を示す側面図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係るオゾン発生装置のオゾン発生部を示す正面図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係るオゾン発生装置の沿面放電電極構造を示す構成図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係るオゾン発生装置の沿面放電電極構造を示す斜視図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係る加湿装置を示す側面図である。
【
図8】本開示の一実施形態に係るオゾン分解装置を示す側面図である。
【
図9】本開示の一実施形態に係る制御装置を示すブロック図である。
【
図10】本開示の一実施形態に係るウイルス不活化システムの動作の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の一実施形態に係るウイルス不活化システム10について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るウイルス不活化システム10は、空間内のオゾン濃度を測定しつつ、室内空間20の測定点へオゾンを必要程度に行き渡らせて、測定された環境条件下に対応して、室内空間20の所要箇所におけるオゾンによるウイルス又は細菌の不活化を確実に行うことができる。
【0015】
ウイルス不活化システム10は、オゾンによるウイルス又は細菌の不活化の有効性を図る指標としてCT値を採用する。CT値は、オゾン濃度(ppm)と、そのオゾン濃度での処理すべき対象物との接触時間(min)の積で表される値(ppm・min)である。CT値60とは、オゾン濃度1ppmで60分暴露された条件を示している。同一のCT値で比較した場合、ウイルスや細菌の種類によって、その不活化の効果(ウイルスの残存率又は細菌の残存率)に違いがあることが知られている。また、様々な研究や実験を通して、あるCT値におけるウイルス又は細菌の残存率に関するデータが、ウイルスや細菌の種類ごとに蓄積されたり公表されたりしている。
図2には、ウイルスの残存率とCT値の関係を示すグラフの一例を示す。
【0016】
本実施形態では、複数の測定点のうち最小の算出CT値となっている測定点で、算出CT値が所定の閾値を超えたか否かを判断し、判断条件を満たしたときにオゾンによる不活化処理を終了させる。すなわち、算出CT値が所定の閾値を超えることによって、測定点周辺で所定量以上のオゾンが暴露されていることから、測定点周辺でのウイルスや細菌の残存率が所定値(例えば1%)以下になっていると推測される。
【0017】
所定の閾値とは、例えば、補正CT値である。本実施形態において、記憶部41(
図9参照)には、ある環境条件下でウイルス又は細菌の不活化効果を発揮することが知られているCT値が基準CT値として記録される。基準CT値は、不活化対象とするウイルスや細菌の種類ごとに記録されている。本実施形態では、予め記録されている基準CT値を、実際に測定されている環境条件下で不活化効果が発揮されるCT値に補正する。補正後のCT値である補正CT値が判断基準とされ、この場合、算出CT値が、補正CT値を超えたか否かが判断される。なお、補正を行わずに、記憶部41に記録された補正前の基準CT値を判断基準としてもよいが、実際の環境条件において必要なCT値を満たしていない状態で、不活化処理が終了してしまう可能性がある。
【0018】
ウイルス不活化システム10は、
図1に示すように、オゾン発生装置1と、加湿装置2と、オゾン分解装置3と、測定装置4と、制御装置5などを備える。本実施形態では、オゾン発生装置1、加湿装置2、オゾン分解装置3及び測定装置4は、それぞれ個別に取り扱うことが可能な別体の装置として構成されている。
【0019】
オゾン発生装置1は、オゾンを発生させ、建築物の室内空間20にオゾンを供給する。オゾン発生装置1は、
図3に示すように、オゾン発生部11と、ファン12と、ケーシング13と、車体部14などを備える。オゾン発生装置1は、制御装置5によって、起動又は停止などの運転が制御される。
【0020】
オゾン発生部11は、電気的にオゾンを発生させることができれば、通常用いられている技術を適用できる。本実施形態に係るオゾン発生部11の一例を後述するが、本開示はこの例に限定されない。
【0021】
ファン12は、オゾン発生部11で発生したオゾンを室内空間20へ供給する。ファン12は、第1供給部の一例である。
【0022】
ケーシング13は、オゾン発生部11及びファン12を覆うように設置される。ケーシング13には、ファン12の上流側である空気吸込み側と、オゾン発生部11の下流側であるオゾンを含む空気の吹出し側のそれぞれに開口部が設けられる。
【0023】
車体部14は、オゾン発生部11、ファン12及びケーシング13が載置される台部15と、台部15の下面側に設置される車輪16を有する。これにより、オゾン発生装置1が容易に移動可能に構成される。
【0024】
オゾン発生部11は、例えば、プラズマ放電又はコロナ放電を生じさせる電極を有する。
図4から
図6に示すオゾン発生部11の例では、沿面放電電極構造30を有する。
【0025】
オゾン発生部11は、
図5に示すように、主電源部17と、絶縁体18と、内部電極19と、表面電極21などを備える。絶縁体18、内部電極19及び表面電極21は、沿面放電電極構造30を構成する。オゾン発生部11は、1つ又は複数の沿面放電電極構造30を備える。
【0026】
主電源部17は内部電極19と接続され、表面電極21は接地されている。主電源部17は、高周波高電圧を内部電極19に印加する。内部電極19に電圧が印加されると、表面電極21と絶縁体18との境界表面に沿面放電が発生する。これにより、プラズマの発生によってオゾンやラジカルが生成される。なお、主電源部17は表面電極21と接続されてもよく、内部電極19は接地されていてもよい。
【0027】
絶縁体18は、例えばセラミックス製であって電気的絶縁性を有し、中空の円筒形状である。絶縁体18は、軸線方向がガス流れに対して直交して設置される。絶縁体18は、市販のセラミックスチューブを用いることによって、製造コストを抑制できる。
絶縁体18の軸線を通過する中空部分には、絶縁体18に密着して内部電極19が軸線に対して平行に設置される。内部電極19は、金属製の中実若しくは中空の棒状部材、金属繊維又は鉄粉などである。
絶縁体18の表面には、絶縁体18に対して拘束させずに、かつ、絶縁体18に密着して表面電極21が設置される。表面電極21は、1本の絶縁体18の軸線方向に設置される。
【0028】
表面電極21は、ガス流れに対して平行又は斜めに線状に形成される。表面電極21は、例えば、
図6に示すように、コイルスプリングを絶縁体18の表面に巻きつけることによって、絶縁体18の表面に密着して形成される。
【0029】
オゾン発生部11において、内部電極19は絶縁体18の内部に絶縁体18に密着して設けられ、表面電極21は絶縁体18の表面に密着して設けられることから、内部電極19と表面電極21は、筒状の絶縁体18によって確実に絶縁されながら、表面電極21と絶縁体18との境界表面で沿面放電を発生させることができる。オゾン発生部11は、沿面放電を発生させることによって、オゾンを生じさせる。
【0030】
オゾン発生部11がオゾン発生装置1における流路に設置されることによって、圧力損失を生じさせるが、上述した構成を有する沿面放電電極構造30によれば、効率良くオゾンを発生させつつ、流路の開口部において電極が占める面積の割合を低減できる。オゾン発生部11において開口率(空隙率)は、例えば60%以上であることが望ましい。なお、
図3及び
図4に示す例では、沿面放電電極構造30における絶縁体18の軸方向がガス流れに対して直交に配置されているが、この例に限定されず、ガス流れに対して平行や斜めに設置されてもよい。
【0031】
加湿装置2は、例えば、微細な水ミストを蒸発させて、通過する空気に対して加湿を行う。加湿装置2は、
図7に示すように、加湿部22と、ファン23と、車体部24などを備える。加湿装置2は、制御装置5によって、起動又は停止などの運転が制御される。
【0032】
加湿部22は、空気中に含まれる水分を増加させることができれば、通常用いられている技術を適用できる。空気に加湿する方法として、例えば、微細な水ミストを蒸発させる方法以外に、超音波を用いる方法、又は蒸気を吹き込む方法などがある。加湿部22は、例えば、水タンク25と、ポンプ26と、ノズル27などを有する。水タンク25において貯留された水がポンプ26によって加圧される。ポンプ26によって加圧された水は、ノズル27によって例えば霧状に噴射される。
【0033】
加湿部22から噴射された霧状の水によれば、蒸発潜熱によって周囲の空気の温度を例えば数℃低下させる。オゾン発生装置1と同一方向に加湿装置2を配置し、かつ、加湿装置2から吹き出された空気がオゾン発生装置1の上側に噴出するように、加湿装置2の吹出し口を設置することが望ましい。加湿部22によって蒸発潜熱で冷却された空気が室内空間20へ供給されることによって、オゾン発生装置1から室内空間20に供給されたオゾンが含まれた空気は、空間の上方へ拡散することなく、空間の下部に滞留する。空間の下部にオゾン濃度が高い空気を静置することで、人が物に手を触れる範囲、すなわち、床(フロア)面に近い場所から重点的にウイルスや細菌を不活化することができる。
【0034】
ファン23は、加湿部22によって加湿されて水分が増加した空気を室内空間20へ供給する。ファン23は、第3供給部の一例である。
【0035】
車体部24は、加湿部22及びファン23が載置される台部28と、台部28の下面側に設置される車輪29を有する。これにより、加湿装置2が容易に移動可能に構成される。
【0036】
なお、加湿部22及びファン23を覆うようにケーシング(図示せず。)が設置されてもよい。ケーシングには、ファン23の上流側である空気吸込み側と、加湿部22の下流側である加湿された空気の吹出し側のそれぞれに開口部が設けられる。
【0037】
オゾン分解装置3は、室内空間20の空気を取り入れて、取り入れた空気に含まれるオゾンを分解する。オゾン分解装置3は、
図8に示すように、オゾン分解部31と、ファン32と、ケーシング33と、車体部34などを有する。オゾン分解装置3は、制御装置5によって、起動又は停止などの運転が制御される。
【0038】
オゾン分解部31は、オゾンを分解する。オゾン分解部31は、流通する空気に含まれるオゾンを分解することができれば、通常用いられている技術を適用できる。本実施形態に係るオゾン分解部31の一例を後述するが、本開示はこの例に限定されない。
【0039】
ファン32は、オゾン分解部31を通過した空気を室内空間20へ供給する。ファン32は、第2供給部の一例である。
【0040】
ケーシング33は、オゾン分解部31及びファン32を覆うように設置される。ケーシング33には、オゾン分解部31の上流側である空気吸込み側と、ファン32の下流側である空気吹出し側のそれぞれに開口部が設けられる。また、ケーシング33には、オゾン分解部31が設置される開口部とは別に空気取入れ口が形成される。空気取入れ口には、モータなどの駆動部(図示せず。)によって開閉可能なドア部35が設置される。駆動部は、例えば制御部によって駆動が制御されて、ドア部35を開閉させる。ドア部35が開放しているときは、オゾン分解部31を通過させずに空気取入れ口を介してファン32が室内空間20の空気を吸い込むことが可能である。したがって、オゾンを分解させずに室内空気を循環させるときは、ドア部35を開放させる。他方、ドア部35が閉鎖しているときは、オゾン分解部31を通過させてファン32が室内空間20の空気を吸い込む。したがって、室内空気に含まれるオゾンを分解させるときは、ドア部35を閉鎖させる。
【0041】
車体部34は、オゾン分解部31、ファン32及びケーシング33が載置される台部36と、台部36の下面側に設置される車輪37を有する。これにより、オゾン分解装置3が容易に移動可能に構成される。
【0042】
オゾン分解部31は、例えば、オゾン分解触媒が担持されたフィルタを有する。フィルタを空気が通過することによって、空気に含まれるオゾンが分解される。または、オゾン分解部31は、紫外線を照射する紫外線ランプでもよい。紫外線ランプが照射する紫外線によってオゾンが分解され、紫外線ランプの近傍を通過した空気からオゾンが除去される。なお、紫外線ランプを用いる場合は、オゾン分解は電源on/offで運転切り替えが可能であるため、ケーシング33に空気取入れ口やドア部35を設ける必要がない。
【0043】
測定装置4は、少なくともオゾン濃度、温度、湿度をそれぞれ測定可能なセンサーを備える。オゾン濃度、温度又は湿度の測定は、単一の装置で行うものでもよいし、それぞれ別の装置で行うものでもよい。
【0044】
測定装置4による測定点は、オゾン濃度の測定が必要な室内空間20の複数の地点に設定される。測定装置4によって、複数の測定点のオゾン濃度、温度及び湿度の推移が測定される。各測定点において個別のセンサーが設置されてもよいし、複数の測定点と一つのセンサーとを結んで、複数の測定点を定期的に切り換えて、一つのセンサーによって複数の測定点の空気が測定されるようにしてもよい。
【0045】
制御装置5は、
図9に示すように、オゾン濃度制御部38と、加湿制御部39と、CT値算出部40と、記憶部41と、CT値決定部42と、判断部43などを備える。
【0046】
オゾン濃度制御部38は、オゾン発生装置1及びオゾン分解装置3を制御する。オゾン濃度制御部38は、オゾン発生装置1のオゾン発生部11及び/又はファン12、オゾン分解装置3のオゾン分解部31及び/又はファン32それぞれの運転状態と停止状態を切り換える。オゾン濃度制御部38は、オゾン発生装置1及びオゾン分解装置3それぞれに対して、オゾン発生装置1及びオゾン分解装置3それぞれの運転の開始又は停止を制御するための制御信号を送信する。また、オゾン濃度制御部38は、測定装置4からオゾン濃度、温度及び湿度に関する測定結果を受信する。
【0047】
加湿制御部39は、加湿装置2を制御する。加湿制御部39は、加湿装置2の加湿部22及び/又はファン23の運転状態と停止状態を切り換える。加湿制御部39は、加湿装置2に対して、加湿装置2の運転の開始又は停止を制御するための制御信号を送信する。また、加湿制御部39は、測定装置4から湿度に関する測定結果を受信する。
【0048】
CT値算出部40は、測定装置4によって測定されたオゾン濃度と、オゾン濃度の測定開始からの経過時間との積であるCT値を算出する。
【0049】
記憶部41は、例えばメモリであり、記憶部41には、ある環境条件下で不活化対象とする細菌又はウイルスを不活化するために必要なCT値が基準CT値として記録されている。基準CT値は、基準CT値を満たすときの温度又は湿度などの環境条件に関する情報と関連づけられている。
【0050】
CT値決定部42は、測定装置4によって測定されたオゾン濃度、温度及び湿度に基づいて基準CT値を補正して、補正後の値を補正CT値として決定する。
【0051】
判断部43は、算出されたCT値が補正CT値を満たすか否かを判断する。
【0052】
制御装置5は、測定されたオゾン濃度、温度及び湿度に基づいて、各測定点におけるCT値を算出する。制御装置5は、算出されたCT値と補正CT値に基づいて、オゾンによる不活化処理が完了したか否かを判断する。
【0053】
以下、
図2を参照して、湿度を考慮した補正CT値について説明する。
例えば、あるウイルスが不活化されるデータを基準にして、判定基準とされるCT値が設定される。例えば、ウイルスの残存率とCT値の関係に関するデータがある環境条件下で得られているとき、ウイルスの残存率が1%となるときのCT値を基準CT値とする。得られているデータは、例えばオゾン濃度が0.25ppmで一定で、相対湿度80%である場合において、CT値が60となるとき、そのウイルスの残存率が1%以下になるというものである。ウイルスや細菌の残存率は、湿度の影響を受けることが知られており、相対湿度が低くなるとウイルスや細菌の残存率が増加する傾向にある。オゾンによって、タンパク質などによって構成されたウイルスのエンベロープや細菌の細胞膜などが破壊され、また、水分があることによって、オゾンの分解力によって生じた酸素原子が反応してヒドロキシルラジカル・OHが作られて、この強力な酸化力によって、ウイルス又は細菌を不活化する。したがって、空気にオゾンが含まれた環境下では、高湿度であるほど、ウイルスや細菌が不活化されやすい。
【0054】
例えば、測定装置4によって測定された相対湿度が、取得されているデータの環境条件と異なり、例えば60%、30%などと低い場合、ウイルスの残存率が1%以下になるCT値は、80%の場合よりも高くなる。したがって、測定された相対湿度に応じて、判断基準とする基準CT値を変更する補正を行うことが望ましい。基準CT値を補正するための補正係数の設定は、実験結果やシミュレーション結果などに基づいて設定される。
【0055】
そして、測定開始からある時点までのCT値が測定時の相対湿度に基づいて補正された補正後の補正CT値を満たすか否かが判断される。測定開始時に相対湿度が低く、測定中に相対湿度が上昇する場合、補正CT値は、測定中に低下していくことになる。CT値はオゾン濃度と時間の積である積算値であるから、相対湿度の上昇と共に低下した、ある測定時点の補正後の補正CT値に基づいて、測定CT値が補正CT値を満たすかどうかを判断すればよい。これにより、予め取得されているデータと同様に、補正CT値を満たすとき、ウイルス又は細菌が所定量のオゾンに暴露されたことによって、ウイルス又は細菌の残存率が1%以下になると推測される。
【0056】
制御装置5は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0057】
次に、
図10を参照して、本実施形態に係るウイルス不活化システム10を用いたオゾンによる不活化方法について説明する。
【0058】
通常の室内空間20に対してオゾンによってウイルス又は細菌の不活化を行う場合、ウイルス不活化システム10を室内空間20に設置する。
【0059】
まず、ウイルス不活化システム10の運転開始によって、オゾン発生装置1と、加湿装置2と、オゾン分解装置3と、測定装置4のそれぞれの運転を開始させる。なお、オゾン発生装置1と加湿装置2は、同タイミングで運転を開始してもよいし、予め室内空間20の湿度を上昇させるため、加湿装置2を先行させて運転開始させてもよい。
【0060】
測定装置4による測定点が室内空間20の複数箇所に設置される。測定装置4によって、オゾン濃度、温度及び湿度の測定が開始される。また、各測定点のCT値が算出され、閾値、例えば補正CT値と比較されて、測定され算出された算出CT値が補正CT値を満たすか否かが判断される。
【0061】
オゾン発生装置1では、オゾン発生部11とファン12が自動又は手動で起動して、オゾン発生装置1がオゾンを発生させつつ、室内空間20へオゾンを供給する。
【0062】
加湿装置2では、加湿部22とファン23が手動又は自動で起動して、加湿装置2が空気を加湿させつつ、加湿された空気を室内空間20へ供給する。
【0063】
オゾン分解装置3では、オゾンの分解が停止した状態又は機能しない状態で、ファン32のみが自動又は手動で起動する。オゾン分解装置3は、オゾン濃度上昇時において、室内空間20に隈なくオゾンが含まれた空気を供給するためにファン32を駆動させる。
【0064】
測定された空気の湿度が上昇し、所定の閾値を満たすとき、すなわち基準湿度を超えるとき、加湿装置2の運転を停止して、加湿を停止させる。すなわち、室内空間20の空気が所定の湿度に到達した状態で、加湿装置2を停止する。所定の湿度が維持されるように、測定された湿度に基づいて、加湿装置2を再起動させたり停止させたりする。
【0065】
複数の測定点で湿度が測定されることから、例えば複数の測定値の平均値に基づいて、平均値が上限閾値(設定値)を超えたとき、加湿装置2を停止させ、平均値が下限閾値(設定値)未満となったとき、加湿装置2を再起動させる。湿度の上限閾値及び下限閾値は、ウイルス又は細菌の不活化に適切な湿度であって、過度な湿度によって建築物の建材などに悪影響を与えない程度に設定される。
【0066】
オゾン発生装置1によるオゾンの供給によってオゾン濃度が上昇し、所定の閾値を満たすとき、すなわち基準オゾン濃度を超えるとき、オゾン発生装置1の運転を停止して、オゾンの発生を停止させる。すなわち、室内空間20の空気が所定のオゾン濃度に到達した状態で、オゾン発生装置1を停止する。
【0067】
オゾン濃度の上限閾値は、人体に悪影響を与えないような低濃度(例えば0.25ppm)に設定される。これにより、ウイルス不活化システム10の運転時において、室内空間20に人が存在しない条件を想定しつつも、万が一その時間帯に人が入った場合に短時間であれば人体に悪影響を及ぼすことがない。なお、オゾン濃度の上限閾値を高く設定することによって、人体への影響が懸念されるが、不活化処理にかかる時間を短縮できる。
【0068】
オゾン濃度が所定の値に到達してオゾン発生装置1を停止させた後、オゾン濃度が減衰する場合は、所定のオゾン濃度が維持されるように、測定されたオゾン濃度に基づいて、オゾン発生装置1を再起動させたり停止させたりする。これにより、室内空気のオゾン濃度が所定の値に保たれた状態で推移する。
【0069】
オゾン濃度が補正CT値に到達した後は、オゾン発生装置1のオゾン発生部11及びファン12を停止し、加湿装置2の加湿部22及びファン23を停止し、オゾン分解装置3のファン32を停止する。そして、算出されたCT値が補正CT値を満たすまでの期間、室内空間20にオゾンが満たされた状態とする。
【0070】
複数の測定点でオゾン濃度が測定されることから、例えば複数の測定値のうちCT値が最小となる測定点のCT値に基づいて、補正CT値が満たされたか否かが判断される。これにより、最も条件が厳しくなっている測定点の周辺で条件が満たされることによって、室内空間20のすべてにおいて不活化効果が発揮されたと推測される。
【0071】
なお、補正CT値の算出は、予め記録されているCT値に対して、実際に測定されている相対湿度に基づいて、基準CT値に補正を行うことによって算出される。また、測定中に相対湿度が上昇する場合、各測定点における補正CT値を逐次変更して、変更された補正後の補正CT値に基づいて、算出されたCT値が補正CT値を満たすか否かが判断される。
【0072】
複数の測定値のうちCT値が最小となる測定点において、CT値が補正CT値を満たしたとき、オゾンによる不活化処理が完了したと判断でき、この場合、例えば、室内空間20のオゾンを除去する処理を開始する。補正CT値を満たさないと判断されたとき、オゾンによる不活化処理の継続が必要と判断される。
【0073】
室内空間20のオゾンを除去する処理を開始する場合、ウイルス不活化システム10の運転を再開して、オゾン発生装置1と、加湿装置2と、オゾン分解装置3のそれぞれの運転を開始させる。
【0074】
オゾン発生装置1及び加湿装置2では、ファン12,23のみが自動又は手動で起動する。オゾン発生装置1及び加湿装置2は、オゾン濃度下降時において、オゾンを発生させたり加湿させたりすることなく、オゾンが含まれる空気が効率良くオゾン分解装置3を通過するようにファン32を駆動させる。
【0075】
オゾン分解装置3では、オゾン分解部31とファン32が手動又は自動で起動して、オゾン分解装置3が空気に含まれるオゾンを分解しつつ、オゾンが除去された空気を室内空間20へ供給する。これにより、室内空間20のオゾン濃度を低減させることができる。
【0076】
オゾン分解装置3によるオゾンの分解によってオゾン濃度が減少し、所定の閾値を満たすとき、すなわち基準オゾン濃度未満となるとき、オゾン分解装置3の運転を停止して、オゾンの分解を停止させる。すなわち、室内空間20の空気が所定のオゾン濃度に到達した状態で、オゾン分解装置3を停止する。
【0077】
オゾン濃度が所定の値に到達した後は、オゾン発生装置1のファン12を停止し、加湿装置2のファン23を停止し、オゾン分解装置3のオゾン分解部31及びファン32を停止する。
【0078】
複数の測定点でオゾン濃度が測定されることから、例えば複数の測定値のうちオゾン濃度が最大となる測定点のオゾン濃度に基づいて、閾値を満たしたか否かが判断される。これにより、最もオゾン濃度が高くなっている測定点の周辺でオゾン濃度が低下していることによって、室内空間20のすべてにおいてオゾン濃度が所定値未満に到達していると推測される。
【0079】
以上より、ウイルス不活化システム10を用いたオゾンによる不活化方法を完了する。
本実施形態によれば、室内空間20にオゾンを発生させ、複数の測定点での測定結果に基づいて、CT値を管理する。室内空間20への人の出入りを考慮すると、オゾン濃度は、人体に影響を与えない程度に低濃度であることが望ましい。オゾン濃度が低濃度であったとしても、CT値で管理することによって、対象とするウイルスや細菌を適切に不活化することができる。
【0080】
また、複数の測定点で測定を行うことから、測定点間において測定値に差がある場合であっても、測定されたCT値が最小である測定点を基準にすれば、室内空間20全体において必要なCT値を確保できる。したがって、大規模な空間においてもオゾンによる不活化が可能になる。
【0081】
さらに、CT値とウイルスや細菌の残存率の関係は、湿度の影響を受けることから、空間を加湿することによって効率良くウイルスや細菌を不活化することができる。また、低湿度条件下では、必要CT値が高くなるが、測定された相対湿度に応じて、基準CT値を変更する補正を行う。これにより、測定点において測定され算出された算出CT値が、補正後の基準CT値を満たしているか否かが判断されることから、低湿度条件下においてもオゾンによる不活化が可能になる。
【0082】
なお、上述した実施形態では、ウイルス不活化システムにおいて、オゾン発生装置1、加湿装置2及びオゾン分解装置3がそれぞれ別体の装置である場合について説明したが、本開示はこの例に限定されない。
【0083】
本開示に係るオゾンによるウイルス不活化システムは、オゾン発生部、加湿部及びオゾン分解部が一つのケーシングに収容された一体型のウイルス不活化装置を備えてもよい。
【0084】
ウイルス不活化装置には、ファンが収容され、ウイルス不活化装置を通過した空気が室内空間20へ供給される。
【0085】
ウイルス不活化装置のケーシングの内部には、流路が形成され、流路を流れる空気がオゾン発生部、加湿部及びオゾン分解部を通過可能に流路が構成されている。オゾン発生部、加湿部及びファンを起動することによってオゾンを発生させて空気を加湿できる。
【0086】
オゾンを発生させる場合は、オゾンが含まれる空気がオゾン分解部を通過しないように、オゾン分解部をバイパスするバイパス流路へ空気を供給したり、オゾン分解部を流路から外れた位置へ移動させたりする構成を有する。または、オゾン分解部がオゾン発生部よりも上流側に位置するように設置されて、オゾン分解部、オゾン発生部の順に空気が流通する構成を有するものでもよい。
【0087】
オゾンを分解させる場合は、オゾン発生部及び加湿部の運転を停止し、ファンを起動しながらオゾン分解部に空気を流通させることによって、空気に含まれるオゾンを分解できる。オゾンを分解させる場合は、オゾンが含まれる空気がオゾン分解部を通過するように、オゾン分解部をバイパス流路への空気の供給を遮断してオゾン分解部を通過するように空気を供給したり、流路から外れた位置にあるオゾン分解部を流路内へ移動させたりする。
【0088】
ウイルス不活化装置を用いる場合についても、第1実施形態のウイルス不活化システムと同様に、オゾン発生部、加湿部及びオゾン分解部の起動と停止を制御すればよい。これにより、室内空間20におけるオゾン濃度や湿度を上昇させることができ、また、室内空間20におけるオゾン濃度を下降させることができる。
【0089】
また、上述した実施形態では、オゾン発生部、加湿部及びオゾン分解部が一つのケーシングに収容される場合について説明したが、三つのうち二つが一つのケーシングに収容されてもよい。例えば、オゾン分解部は含まず、オゾン発生部と加湿部が一つのケーシングに収容されるようにしてもよい。
【0090】
以上説明した各実施形態に記載の不活化システム及び不活化方法は例えば以下のように把握される。
【0091】
本開示に係るウイルス不活化システム(10)は、オゾンを発生させるオゾン発生部(11)と、前記オゾン発生部で発生したオゾンが含まれる空気を室内空間(20)へ送る第1供給部(12)と、前記室内空間の空気に含まれるオゾンを分解するオゾン分解部(31)と、前記オゾン分解部を通過した空気を直接室内空間へ送る第2供給部(32)と、前記室内空間の複数の測定点においてオゾン濃度、温度及び湿度を測定する測定部(4)と、前記測定部によって測定された前記オゾン濃度と、前記オゾン濃度の測定開始からの経過時間との積であるCT値を算出するCT値算出部(40)と、所定の環境条件下で不活化対象とする細菌又はウイルスを不活化するために必要な基準CT値が記録された記憶部(41)と、前記測定部によって測定された前記オゾン濃度、前記温度及び前記湿度に基づいて前記基準CT値を補正して、補正後の値を補正CT値として決定するCT値決定部(42)と、算出された前記CT値が前記補正CT値を満たすか否かを判断する判断部(43)と、前記測定部によって測定された前記オゾン濃度に基づいて、前記測定点のオゾン濃度が所定の閾値を満たすように前記オゾン発生部及び/又は前記第1供給部を制御し、かつ、前記オゾン分解部及び/又は前記第2供給部を制御するオゾン濃度制御部(38)とを備え、算出された前記CT値が前記補正CT値を満たすと判断されたとき、前記オゾン分解部及び前記第2供給部が起動され、前記オゾン分解部を通過した空気が前記室内空間へ送られる。
【0092】
この構成によれば、オゾン発生部によってオゾンが発生し、発生したオゾンが含まれる空気が第1供給部によって室内空間へ送られる。また、測定部によって、室内空間の複数の測定点におけるオゾン濃度、温度及び湿度が測定される。そして、測定されたオゾン濃度と、オゾン濃度の測定開始からの経過時間との積であるCT値が算出される。基準CT値は、所定の環境条件下で不活化対象とする細菌又はウイルスを不活化するために必要なCT値であり、記憶部には、基準CT値が記録されている。測定部によって測定されたオゾン濃度、温度及び湿度に基づいて、基準CT値が補正されて、補正後の値が補正CT値として決定され、算出されたCT値が補正CT値を満たすか否かが判断される。補正CT値を満たすと判断されたとき、オゾンによる不活化処理が完了したと判断でき、この場合、例えば、室内空間のオゾンを除去する処理を開始する。補正CT値を満たさないと判断されたとき、オゾンによる不活化処理の継続が必要と判断される。
また、この構成によれば、オゾン分解部によってオゾンが分解され、オゾン分解部を通過した、オゾンを含まない空気が室内空間へ送られる。また、測定部によってオゾン濃度が測定され、測定されたオゾン濃度に基づいて測定点のオゾン濃度が所定の閾値を満たすようにオゾン発生部及び/又は第1供給部が制御され、かつ、オゾン分解部及び/又は第2供給部が制御される。
【0093】
本開示に係る不活化システムにおいて、空気中の水分を増加させる加湿部(22)と、前記加湿部によって水分が増加されて加湿された空気を室内空間に送る第3供給部(23)と、前記測定部によって測定された前記湿度に基づいて、前記測定点の湿度が所定の閾値を満たすように前記加湿部及び/又は前記第3供給部を制御する加湿制御部(39)とを更に備えてもよい。
【0094】
この構成によれば、加湿部によって空気中の水分が増加されて加湿された空気が室内空間へ送られる。また、測定部によって湿度が測定され、測定された湿度に基づいて測定点の湿度が所定の閾値を満たすように加湿部及び/又は第3供給部が制御される。
【0099】
本開示に係る不活化システムにおいて、前記オゾン発生部、前記加湿部及び前記オゾン分解部が一つのケーシングに収容されてもよい。
【0100】
この構成によれば、一つのケーシングに収容されたオゾン発生部、加湿部及びオゾン分解部を一体的に取り扱うことができる。
【0101】
本開示に係る不活化システムにおいて、前記オゾン発生部、前記加湿部及び前記オゾン分解部がそれぞれ別の装置として構成されてもよい。
【0102】
この構成によれば、オゾン発生部、加湿部及びオゾン分解部をそれぞれ別の装置として取り扱うことができる。
【0103】
本開示に係る不活化システムにおいて、前記オゾン発生部と前記加湿部が同一方向に配置され、前記加湿部から吹き出された空気が、前記オゾン発生部の上側に噴出するように、前記加湿部の吹き出し口が設置されてもよい。
【0104】
この構成によれば、加湿部から噴射された霧状の水は、蒸発潜熱によって周囲の空気の温度を例えば数℃低下させる。そして、加湿部によって冷却された空気が室内空間へ供給されることによって、オゾン発生部から室内空間に供給されたオゾンが含まれた空気は、空間の上方へ拡散することなく、空間の下部に滞留する。
【0105】
本開示に係る不活化方法は、オゾン発生部がオゾンを発生させるステップと、第1供給部が、前記オゾン発生部で発生したオゾンが含まれる空気を室内空間へ送るステップと、オゾン分解部が、前記室内空間の空気に含まれるオゾンを分解するステップと、第2供給部が、前記オゾン分解部を通過した空気を直接室内空間へ送るステップと、前記室内空間の複数の測定点においてオゾン濃度、温度及び湿度を測定するステップと、測定された前記オゾン濃度と、前記オゾン濃度の測定開始からの経過時間との積であるCT値を算出するステップと、測定された前記オゾン濃度、前記温度及び前記湿度に基づいて、所定の環境条件下で不活化対象とする細菌又はウイルスを不活化するために必要な基準CT値を補正して、補正後の値を補正CT値として決定するステップと、算出された前記CT値が前記補正CT値を満たすか否かを判断するステップと、測定された前記オゾン濃度に基づいて、前記測定点のオゾン濃度が所定の閾値を満たすように前記オゾン発生部及び/又は前記第1供給部を制御し、かつ、前記オゾン分解部及び/又は前記第2供給部を制御するステップと、算出された前記CT値が前記補正CT値を満たすと判断されたとき、前記オゾン分解部及び前記第2供給部が起動され、前記オゾン分解部を通過した空気を前記室内空間へ送るステップとを備える。
【0106】
この構成によれば、オゾンを発生させて、発生したオゾンが含まれる空気が室内空間へ送られる。また、室内空間の複数の測定点におけるオゾン濃度、温度及び湿度が測定され、測定されたオゾン濃度と、オゾン濃度の測定開始からの経過時間との積であるCT値が算出される。基準CT値は、所定の環境条件下で不活化対象とする細菌又はウイルスを不活化するために必要なCT値である。測定されたオゾン濃度、温度及び湿度に基づいて、基準CT値が補正されて、補正後の値が補正CT値として決定され、算出されたCT値が補正CT値を満たすか否かが判断される。補正CT値を満たすと判断されたとき、オゾンによる不活化処理が完了したと判断でき、この場合、例えば、室内空間のオゾンを除去する処理を開始する。補正CT値を満たさないと判断されたとき、オゾンによる不活化処理の継続が必要と判断される。
【符号の説明】
【0107】
1 :オゾン発生装置
2 :加湿装置
3 :オゾン分解装置
4 :測定装置
5 :制御装置
10 :ウイルス不活化システム
11 :オゾン発生部
12 :ファン(第1供給部)
13 :ケーシング
14 :車体部
15 :台部
16 :車輪
17 :主電源部
18 :絶縁体
19 :内部電極
20 :室内空間
21 :表面電極
22 :加湿部
23 :ファン(第3供給部)
24 :車体部
25 :水タンク
26 :ポンプ
27 :ノズル
28 :台部
29 :車輪
30 :沿面放電電極構造
31 :オゾン分解部
32 :ファン(第2供給部)
33 :ケーシング
34 :車体部
35 :ドア部
36 :台部
37 :車輪
38 :オゾン濃度制御部
39 :加湿制御部
40 :CT値算出部
41 :記憶部
42 :CT値決定部
43 :判断部