(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】作業機械、作業機械を含むシステム、および通知装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20241125BHJP
E02F 9/16 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
E02F9/20 B
E02F9/16 B
(21)【出願番号】P 2020202718
(22)【出願日】2020-12-07
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡島 一道
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-128602(JP,A)
【文献】特開2003-056514(JP,A)
【文献】特開2006-009310(JP,A)
【文献】特開2006-220179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
E02F 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に支持される作業機と、
シリンダ部と、前記シリンダ部内を往復移動可能なピストンとを有し、前記作業機を駆動する油圧シリンダと、
警報を通知する通知装置と、
前記油圧シリンダおよび前記通知装置を制御するコントローラとを備え
る、作業機械であって、
前記コントローラは、
前記油圧シリンダのストロークエンドより手前の警報通知位置に前記ピストンが到達したとき、前記通知装置に警報を通知させ、
前記作業機械を操作するオペレータの熟練度に基づいて、前記警報通知位置を調整して警報通知のタイミングを調整可能である、作業機械。
【請求項2】
前記油圧シリンダを駆動するためにオペレータにより操作される操作装置をさらに備え、
前記コントローラは、警報を通知した時刻から前記操作装置の操作量が減少を開始する時刻までの時間に基づいて、オペレータの熟練度を識別する、請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記コントローラは、前記通知装置が警報を通知した後の前記ピストンの静止位置に基づいて、オペレータの熟練度を識別する、請求項1に記載の作業機械。
【請求項4】
車体と、
前記車体に支持される作業機と、
シリンダ部と、前記シリンダ部内を往復移動可能なピストンとを有し、前記作業機を駆動する油圧シリンダと、
警報を通知する通知装置と、
前記油圧シリンダおよび前記通知装置を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記油圧シリンダのストロークエンドより手前の警報通知位置に前記ピストンが到達したとき、前記通知装置に警報を通知させ、
警報通知のタイミングを調整可能であり、
前記油圧シリンダを駆動するためにオペレータにより操作される操作装置をさらに備え、
前記コントローラは、
前記警報通知位置と前記ストロークエンドとの間のストローク規制位置に前記ピストンが到達すると前記ピストンを減速させる、ストローク規制制御を実行し、
前記ストローク規制制御により前記ピストンが静止した後、前記操作装置の操作が継続されていれば、前記ストローク規制制御を解除する、作業機械。
【請求項5】
車体と、
前記車体に支持される作業機と、
シリンダ部と、前記シリンダ部内を往復移動可能なピストンとを有し、前記作業機を駆動する油圧シリンダと、
警報を通知する通知装置と、
前記油圧シリンダおよび前記通知装置を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記油圧シリンダのストロークエンドより手前の警報通知位置に前記ピストンが到達したとき、前記通知装置に警報を通知させ、
警報通知のタイミングを調整可能であり、
前記コントローラは、前記警報通知位置と前記ストロークエンドとの間のストローク規制位置に前記ピストンが到達すると前記ピストンを減速させる、ストローク規制制御を実行し、
前記油圧シリンダの前記ストローク規制制御の実行および停止の切り替えをオペレータが操作する操作部をさらに備える、作業機械。
【請求項6】
前記作業機は、前記車体に対して回転可能なブームと、前記ブームに対して回転可能なアームと、前記アームに対して回転可能なアタッチメントとを有し、
前記油圧シリンダは、前記アームを駆動する第1シリンダと、前記アタッチメントを駆動する第2シリンダとを有し、
前記コントローラは、前記第1シリンダの前記ストローク規制制御の実行および停止と、前記第2シリンダの前記ストローク規制制御の実行および停止とを、個々に切り替え可能である、請求項5に記載の作業機械。
【請求項7】
車体と、前記車体に支持される作業機と、シリンダ部と、前記シリンダ部内を往復移動可能なピストンとを有し、前記作業機を駆動する油圧シリンダと、を含む作業機械と、
警報を通知する通知装置と、
前記油圧シリンダおよび前記通知装置を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記油圧シリンダのストロークエンドより手前の警報通知位置に前記ピストンが到達したとき、前記通知装置に警報を通知させ、
前記作業機械を操作するオペレータの熟練度に基づいて、前記警報通知位置を調整して警報通知のタイミングを調整可能である、作業機械を含むシステム。
【請求項8】
車体と、前記車体に支持される作業機と、シリンダ部と、前記シリンダ部内を往復移動可能なピストンとを有し、前記作業機を駆動する油圧シリンダと、を含む作業機械に関連した警報を通知する通知装置の制御方法であって、
前記油圧シリンダのストロークエンドより手前の警報通知位置に前記ピストンが到達したとき、前記通知装置に警報を通知させ、
前記作業機械を操作するオペレータの熟練度に基づいて、前記警報通知位置を調整して警報通知のタイミングを調整可能である、通知装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業機械、作業機械を含むシステム、および通知装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平11-158930号公報(特許文献1)には、以下のような装置が提案されている。油圧ショベルの旋回体の前部に、フロント装置が設けられている。フロント装置は、上下方向にそれぞれ回動可能なブーム、アーム、バケットにより構成されている。ブーム、アーム、バケットは、ブームシリンダ、アームシリンダ、バケットシリンダによって、それぞれ駆動される。シリンダがストロークエンドに近づくと、警報を発して、そのことをオペレータに知らせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
経験の浅いオペレータは、油圧シリンダのピストンがストロークエンドに近づいた警報を認識しても、ピストンがストロークエンドに到達しないように操作するのが難しい。ピストンが物理的にストロークエンドにぶつかることで、騒音が発生する。
【0005】
本開示では、油圧シリンダのピストンがストロークエンドに到達することを抑制できる、作業機械、作業機械を含むシステム、および通知装置の制御方法が提案される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従うと、車体と、車体に支持される作業機と、作業機を駆動する油圧シリンダと、警報を通知する通知装置と、油圧シリンダおよび通知装置を制御するコントローラとを備える、作業機械が提案される。油圧シリンダは、シリンダ部と、シリンダ部内を往復移動可能なピストンとを有している。コントローラは、油圧シリンダのストロークエンドより手前の警報通知位置にピストンが到達したとき、通知装置に警報を通知させ、警報通知のタイミングを調整可能である。
【発明の効果】
【0007】
本開示に従えば、油圧シリンダのピストンがストロークエンドに到達することを抑制し、騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に基づく作業機械の構成を概略的に示す側面図である。
【
図2】
図1に示す作業機械の油圧回路と操作装置とを示すブロック図である。
【
図3】
図2に示すコントローラ内の機能ブロックを示す図である。
【
図4】作業機械の制御の事前準備処理の流れを示すフロー図である。
【
図5】オペレータの熟練度に基づいて警報通知位置を調整する処理の流れを示すフロー図である。
【
図6】熟練オペレータが警報を通知されたときの動作の一例を示す図である。
【
図7】経験の浅いオペレータが警報を通知されたときの動作の一例を示す図である。
【
図8】
図5に示される警報通知位置を調整するサブルーチンの処理の流れを示すフロー図である。
【
図9】シリンダ速度に基づいて警報通知位置を調整する処理の流れを示すフロー図である。
【
図10】シリンダ速度が大きいときの動作の一例を示す図である。
【
図11】シリンダ速度が小さいときの動作の一例を示す図である。
【
図12】警報通知位置とストローク規制位置との一例を示す図である。
【
図13】作業中のオペレータの意思に従ってストローク規制制御を解除する処理の流れを示すフロー図である。
【
図14】オペレータによる事前の設定に従ってストローク規制制御を解除する処理の流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について図に基づいて説明する。以下の説明では、同一部品には、同一の符号を付している。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0010】
以下の説明において、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」とは、運転室2a内の運転席2bに着座したオペレータを基準とした方向である。
【0011】
<作業機械の構成>
図1は、実施形態に基づく作業機械の一例としての油圧ショベル100の構成を概略的に示す側面図である。
図1に示されるように、本実施の形態の油圧ショベル100は、走行体1と、旋回体2と、作業機3とを主に有している。走行体1と旋回体2とにより、油圧ショベル100の車体が構成されている。
【0012】
走行体1は、左右一対の履帯装置1aを有している。左右一対の履帯装置1aの各々は、履帯を有している。左右一対の履帯が回転駆動されることにより、油圧ショベル100が自走する。走行体1が履帯装置1aの代わりに車輪(タイヤ)を有していてもよい。
【0013】
旋回体2は、走行体1に対して旋回自在に設置されている。この旋回体2は、運転室(キャブ)2aと、運転席2bと、エンジンルーム2cと、カウンタウェイト2dとを主に有している。運転室2aは、旋回体2のたとえば前方左側(車両前側)に配置されている。運転室2aの内部空間には、オペレータが着座するための運転席2bが配置されている。本開示では油圧ショベル100は運転室2a内から操作されるが、油圧ショベル100から離れた場所から無線により油圧ショベル100が遠隔操作されてもよい。
【0014】
エンジンルーム2cおよびカウンタウェイト2dの各々は、運転室2aに対して旋回体2の後方側(車両後側)に配置されている。エンジンルーム2cは、エンジンユニット(エンジン、排気処理構造体など)を収納している。エンジンルーム2cの上方はエンジンフードにより覆われている。カウンタウェイト2dは、エンジンルーム2cの後方に配置されている。
【0015】
作業機3は、旋回体2の前部であってたとえば運転室2aの右側において、旋回体2に支持されている。作業機3は、たとえばブーム3a、アーム3b、バケット3c、ブームシリンダ4a、アームシリンダ4b、バケットシリンダ4cなどを有している。
【0016】
ブーム3aの基端部は、ブームフートピン5aにより旋回体2に回転可能に連結されている。アーム3bの基端部は、アーム連結ピン5bによりブーム3aの先端部に回転可能に連結されている。バケット3cは、バケット連結ピン5cによりアーム3bの先端部に回転可能に連結されている。バケット3cは、複数の刃を有している。バケット3cの先端部を、刃先3ceと称する。なお、バケット3cは、刃を有していなくてもよい。バケット3cの先端部は、ストレート形状の鋼板で形成されていてもよい。
【0017】
ブーム3aは、ブームシリンダ4aにより駆動可能である。この駆動により、ブーム3aは、ブームフートピン5aを中心に、旋回体2に対して相対回転可能である。アーム3bは、アームシリンダ4bにより駆動可能である。この駆動により、アーム3bは、アーム連結ピン5bを中心に、ブーム3aに対して相対回転可能である。バケット3cは、バケットシリンダ4cにより駆動可能である。この駆動により、バケット3cは、バケット連結ピン5cを中心に、アーム3bに対して相対回転可能である。
【0018】
バケット3cは、作業機3の先端に着脱可能に装着され、アーム3bに対して回転可能なアタッチメントの一例である。作業の種類に応じて、アタッチメントが、ブレーカ、グラップル、またはリフティングマグネットなどに付け替えられる。
【0019】
作業機3は、バケットリンク3dを有している。バケットリンク3dは、第1リンク部材3daと、第2リンク部材3dbとを有している。第1リンク部材3daと第2リンク部材3dbとは、相対回転可能に連結されている。第1リンク部材3daおよび第2リンク部材3dbは、バケットシリンダ4cにピン連結されている。第1リンク部材3daは、アーム3bに回転可能に連結されている。第2リンク部材3dbは、バケット3cの根元部分のブラケットに回転可能に連結されている。
【0020】
ブームシリンダ4a、アームシリンダ4b、およびバケットシリンダ4cのそれぞれは、作動油によって駆動される油圧シリンダである。ブーム3a、アーム3bおよびバケット3cの各々が油圧シリンダによって駆動されることにより、作業機3の動作が可能である。油圧シリンダは、作業機3を駆動可能である。
【0021】
ブームシリンダ4aは、シリンダ部4aaと、ロッド4abと、ピストン4acとを有している。シリンダ部4aaは、筒形状を有している。シリンダ部4aaは、その筒状に延びる一端において、旋回体2に回転可能に接続されている。ピストン4acは、シリンダ部4aaの内部のシリンダ室内に収容されており、シリンダ室内をシリンダ部4aaの長手方向(軸方向)に往復移動可能である。ピストン4acは、シリンダ部4aaの内部において、ブームシリンダ4aの伸長および収縮方向のそれぞれのストロークの終端であるストロークエンド間で、往復動することが可能である。ロッド4abは、シリンダ部4aaの長手方向に延びている。ロッド4abの基端は、ピストン4acに固定されている。ロッド4abの先端は、ブーム3aに回転可能に接続されている。
【0022】
アームシリンダ4bは、ブームシリンダ4aと同様の構成を有しており、シリンダ部4baと、ロッド4bbと、ピストン4bcと(
図1には不図示、
図2参照)を有している。ピストン4bcは、シリンダ部4baの内部において、アームシリンダ4bの伸長および収縮方向のそれぞれのストロークの終端であるストロークエンド間で、往復動することが可能である。バケットシリンダ4cは、ブームシリンダ4aと同様の構成を有しており、シリンダ部4caと、ロッド4cbと、ピストン4ccと(
図1には不図示、
図2参照)を有している。ピストン4ccは、シリンダ部4caの内部において、バケットシリンダ4cの伸長および収縮方向のそれぞれのストロークの終端であるストロークエンド間で、往復動することが可能である。
【0023】
ブームシリンダ4aには、ストロークセンサ7aが取り付けられている。ストロークセンサ7aは、ブームシリンダ4aにおけるシリンダ部4aaに対するピストン4acの変位量を検出する。アームシリンダ4bには、ストロークセンサ7bが取り付けられている。ストロークセンサ7bは、アームシリンダ4bにおけるシリンダ部4baに対するピストン4bcの変位量を検出する。バケットシリンダ4cには、ストロークセンサ7cが取り付けられている。ストロークセンサ7cは、バケットシリンダ4cにおけるシリンダ部4caに対するピストン4ccの変位量を検出する。
【0024】
ブームフートピン5aの周囲には、角度センサ9aが取り付けられている。アーム連結ピン5bの周囲には、角度センサ9bが取り付けられている。バケット連結ピン5cの周囲には、角度センサ9cが取り付けられている。角度センサ9a,9b,9cは、ポテンショメータであってもよく、ロータリーエンコーダであってもよい。
【0025】
図1に示されるように、側方視において、ブームフートピン5aとアーム連結ピン5bとを通る直線(
図1中に二点鎖線で図示)と、上下方向に延びる直線(
図1中に破線で図示)とのなす角度を、ブーム角θbとする。ブーム角θbは、旋回体2に対するブーム3aの角度を表す。ブーム角θbは、ストロークセンサ7aの検出結果から算出することができ、また角度センサ9aの測定値から算出することができる。
【0026】
側方視において、ブームフートピン5aとアーム連結ピン5bとを通る直線と、アーム連結ピン5bとバケット連結ピン5cとを通る直線(
図1中に二点鎖線で図示)とのなす角度を、アーム角θaとする。アーム角θaは、ブーム3aに対するアーム3bの角度を表す。アーム角θaは、ストロークセンサ7bの検出結果から算出することができ、また角度センサ9bの測定値から算出することができる。
【0027】
側方視において、アーム連結ピン5bとバケット連結ピン5cとを通る直線と、バケット連結ピン5cと刃先3ceとを通る直線(
図1中に二点鎖線で図示)とのなす角度を、バケット角θkとする。バケット角θkは、アーム3bに対するバケット3cの角度を表す。バケット角θkは、ストロークセンサ7cの検出結果から算出することができ、また角度センサ9cの測定値から算出することができる。
【0028】
<作業機械の油圧回路と操作装置>
次に、作業機械の油圧回路と操作装置とについて
図2を用いて説明する。
図2は、
図1に示す作業機械の油圧回路と操作装置とを示すブロック図である。
【0029】
エンジン42は、たとえばディーゼルエンジンである。エンジン42への燃料の噴射量が制御されることにより、エンジン42の出力が制御される。油圧ポンプ43は、エンジン42に連結されている。エンジン42の回転駆動力が油圧ポンプ43に伝達されることにより、油圧ポンプ43が駆動される。油圧ポンプ43は、たとえば斜板を有し、斜板の傾転角が変更されることにより吐出容量を変化させる、可変容量型の油圧ポンプであってもよい。
【0030】
油圧ポンプ43から吐出された油の一部は、作動油としてメインバルブ41に供給される。また油圧ポンプ43から吐出された油の残りは、自己圧減圧弁45によって一定の圧力に減圧されて、パイロット用として供給される。自己圧減圧弁45によって一定の圧力に減圧された油は、EPC(Electromagnetic Proportional Control)弁46を介してメインバルブ41へ供給される。
【0031】
EPC弁46は、コントローラ20からの電流指令を受ける。EPC弁46は、電流指令の電流値に応じたパイロット圧を発生する。EPC弁46は、パイロット圧によってメインバルブ41のスプールを駆動する。
【0032】
メインバルブ41には、油圧アクチュエータとして、ブームシリンダ4aと、アームシリンダ4bと、バケットシリンダ4cと、旋回モータ44とが接続されている。旋回モータ44は、走行体1に対して旋回体2を相対的に回転させる。メインバルブ41のスプールが軸方向に移動することにより、各油圧アクチュエータに対する作動油の供給量が調整される。これにより、作業機3の動作および旋回体2の旋回が制御される。
【0033】
本例においては、油圧アクチュエータを作動するために、その油圧アクチュエータに供給される油は、作動油と称される。メインバルブ41を作動するためにメインバルブ41の受圧室に供給されてスプールを駆動する油は、パイロット油と称される。パイロット油の圧力はPPC圧(パイロット油圧)と称される。
【0034】
油圧ポンプ43は、上記のように作動油とパイロット油との両方を送出するものであってもよい。油圧ポンプ43は、作動油を送出する油圧ポンプ(メイン油圧ポンプ)と、パイロット油を送出する油圧ポンプ(パイロット油圧ポンプ)とを別々に有してもよい。
【0035】
操作装置25からの操作指令に基づくコントローラ20からの指令により、EPC弁46が制御される。操作装置25の操作に基づいて、掘削、走行体1に対する旋回体2の旋回、バケット3cからの荷の排出、などの各種の動作が行なわれる。
【0036】
操作装置25は、運転室2a(
図1)内に配置されている。操作装置25は、オペレータにより操作される。操作装置25は、作業機3を駆動するオペレータ操作を受け付ける。操作装置25は、旋回体2を旋回させるオペレータ操作を受け付ける。操作装置25は、油圧シリンダを駆動するために、オペレータにより操作される。
【0037】
操作装置25は、第1操作レバー25Lと、第2操作レバー25Rとを有している。第1操作レバー25Lは、たとえば運転席2b(
図1)の左側に配置されている。第2操作レバー25Rは、たとえば運転席2bの右側に配置されている。第1操作レバー25Lおよび第2操作レバー25Rでは、前後左右の動作が2軸の動作に対応する。
【0038】
第1操作レバー25Lにより、たとえばアーム3bおよび旋回体2が操作される。第1操作レバー25Lの前後方向の操作は、たとえば旋回体2の旋回に対応し、前後方向の操作に応じて旋回体2の右旋回動作および左旋回動作が実行される。第1操作レバー25Lの左右方向の操作は、たとえばアーム3bの操作に対応し、左右方向の操作に応じてアーム3bのダンプ方向(上向き)および掘削方向(下向き)への動作が実行される。
【0039】
第2操作レバー25Rにより、たとえばブーム3aおよびバケット3cが操作される。第2操作レバー25Rの前後方向の操作は、たとえばブーム3aの操作に対応し、前後方向の操作に応じてブーム3aが下降する動作および上昇する動作が実行される。第2操作レバー25Rの左右方向の操作は、たとえばバケット3cの操作に対応し、左右方向の操作に応じてバケット3cの掘削方向(上向き)およびダンプ方向(下向き)への動作が実行される。
【0040】
なお、第1操作レバー25Lの前後方向の操作がアーム3bの操作に対応し、左右方向の操作が旋回体2の操作に対応してもよい。また第2操作レバー25Rの左右方向の操作がブーム3aの操作に対応し、前後方向の操作がバケット3cの操作に対応してもよい。
【0041】
操作装置25は、オペレータ操作に応じた操作信号を出力する。操作装置25から出力された操作信号に基づいて、操作量センサ26により操作装置25の操作量が検知される。操作量センサ26は、たとえばポテンショメータ、ホール素子などである。操作量センサ26により検知された操作量の信号が、コントローラ20に入力される。コントローラ20は、上記のように、操作装置25からの操作指令に基づいてEPC弁46を制御する。
【0042】
本例においては、操作装置25は、たとえば電気方式の操作装置であるが、パイロット油圧方式の操作装置であってもよい。操作装置25がパイロット油圧方式である場合には、操作装置25の操作量はたとえば油の圧力を検知する圧力センサによって検知される。
【0043】
コントローラ20は、たとえばコンピュータ、サーバー、携帯端末などであり、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、タイマなどを含んで構成されている。コントローラ20は、油圧ショベル100に搭載されていてもよく、油圧ショベル100から離れた遠隔地に設置されていてもよい。
【0044】
<コントローラ20内の機能ブロック>
次に、
図2に示されたコントローラ20内の機能ブロックについて、
図3を用いて説明する。
図3は、
図2に示すコントローラ20内の機能ブロックを示す図である。
図3に示されるように、コントローラ20は、シリンダストローク計算部21と、警報通知部22と、ストローク規制制御部23と、ストローク規制制御解除部24とを有している。
【0045】
シリンダストローク計算部21は、ブーム計算部21aと、アーム計算部21bと、バケット計算部21cとを有している。
【0046】
ブーム計算部21aは、ブームシリンダ4aに取り付けられたストロークセンサ7aの検出結果から、ブームシリンダ4aのシリンダ部4aaの長手方向におけるピストン4acが移動可能な範囲の長さ(たとえば伸び側のストロークエンドと縮み側のストロークエンドと間の距離。以下では、ブームシリンダ4aの最大ストロークと称する)を計算する。ブーム計算部21aは、ストロークセンサ7aの検出結果から、または、角度センサ9aによって測定されるブーム角θbとの対応関係に基づいて、ブームシリンダ4aのシリンダ部4aaの長手方向におけるピストン4acの現在位置を求める。
【0047】
アーム計算部21bは、アームシリンダ4bに取り付けられたストロークセンサ7bの検出結果から、アームシリンダ4bのシリンダ部4baの長手方向におけるピストン4bcが移動可能な範囲の長さ(たとえば伸び側のストロークエンドと縮み側のストロークエンドと間の距離。以下では、アームシリンダ4bの最大ストロークと称する)を計算する。アーム計算部21bは、ストロークセンサ7bの検出結果から、または、角度センサ9bによって測定されるアーム角θaとの対応関係に基づいて、アームシリンダ4bのシリンダ部4baの長手方向におけるピストン4bcの現在位置を求める。
【0048】
バケット計算部21cは、バケットシリンダ4cに取り付けられたストロークセンサ7cの検出結果から、バケットシリンダ4cのシリンダ部4caの長手方向におけるピストン4ccが移動可能な範囲の長さ(たとえば伸び側のストロークエンドと縮み側のストロークエンドと間の距離。以下ではバケットシリンダ4cの最大ストロークと称する)を計算する。バケット計算部21cは、ストロークセンサ7cの検出結果から、または、角度センサ9cによって測定されるバケット角θkとの対応関係に基づいて、バケットシリンダ4cのシリンダ部4caの長手方向におけるピストン4ccの現在位置を求める。
【0049】
警報通知部22は、ブーム通知部22aと、アーム通知部22bと、バケット通知部22cとを有している。
【0050】
ブーム通知部22aは、ブームシリンダ4aのピストン4acが警報通知位置に到達したとき、通知装置60に制御信号を送信して、通知装置60に警報を通知させる。アーム通知部22bは、アームシリンダ4bのピストン4bcが警報通知位置に到達したとき、通知装置60に制御信号を送信して、通知装置60に警報を通知させる。バケット通知部22cは、バケットシリンダ4cのピストン4ccが警報通知位置に到達したとき、通知装置60に制御信号を送信して、通知装置60に警報を通知させる。
【0051】
通知装置60は、ランプ61、ブザー62、振動体63などを有している。通知装置60は、警報通知部22からの制御信号の入力を受けて、オペレータに警報を通知する。振動体63は、たとえば、第1操作レバー25Lおよび第2操作レバー25Rに設けられていてもよい。
【0052】
ストローク規制制御部23は、ブーム規制部23aと、アーム規制部23bと、バケット規制部23cとを有している。
【0053】
ブーム規制部23aは、ブームシリンダ4aのピストン4acをストロークエンドに到達させない制御をする。アーム規制部23bは、アームシリンダ4bのピストン4bcをストロークエンドに到達させない制御をする。バケット規制部23cは、バケットシリンダ4cのピストン4ccをストロークエンドに到達させない制御をする。各ピストン4ac,4bc,4ccをストロークエンドに到達させない制御を、以下ではストローク規制制御と称する。
【0054】
ストローク規制制御解除部24は、ブーム解除部24aと、アーム解除部24bと、バケット解除部24cとを有している。
【0055】
ブーム解除部24aは、ブーム規制部23aによるストローク規制制御を解除して、ブームシリンダ4aのピストン4acがストロークエンドに到達できるようにする。アーム解除部24bは、アーム規制部23bによるストローク規制制御を解除して、アームシリンダ4bのピストン4bcがストロークエンドに到達できるようにする。バケット解除部24cは、バケット規制部23cによるストローク規制制御を解除して、バケットシリンダ4cのピストン4ccがストロークエンドに到達できるようにする。
【0056】
ストローク規制制御部23とストローク規制制御解除部24とは、適宜、EPC弁46に制御信号を送信することにより、メインバルブ41のスプールを停止させたり、メインバルブ41のスプールの駆動を許容したりする。
【0057】
操作部30は、オペレータによって操作される。操作部30は、運転室2a内に配置されていてもよい。操作部30は、運転席2bに着座したオペレータが容易に操作可能な位置に配置されていてもよい。操作部30は、モニタ31、スイッチ32などを有している。モニタ31は、タッチパネルであってもよい。スイッチ32は、押し釦などの任意のスイッチであってもよい。スイッチ32は、たとえば、第1操作レバー25Lおよび第2操作レバー25Rに設けられていてもよい。
【0058】
オペレータは、操作部30を操作することにより、ストローク規制制御を有効化または無効化する設定を行う。オペレータによる操作部30の操作内容が、ストローク規制制御設定部50に入力される。ストローク規制制御設定部50は、ストローク規制制御を実行するか非実行とするかの設定を、コントローラ20に入力する。
【0059】
モニタ31は、通知装置60としての機能を備えていてもよい。モニタ31上での表示によって、オペレータに警報が通知されてもよい。
【0060】
<作業機械の制御方法>
以上の構成を備える作業機械(油圧ショベル100)において、油圧シリンダのピストン4ac,4bc,4ccがストロークエンドに到達することを抑制する制御について、以下に説明する。
【0061】
図4は、作業機械の制御の事前準備処理の流れを示すフロー図である。
図4に示されるように、まずステップS1において、コントローラ20は、油圧シリンダの最大ストロークを取得する。
図3を参照して説明した通り、ブーム計算部21aは、ブームシリンダ4aに取り付けられたストロークセンサ7aの検出結果から、ブームシリンダ4aの最大ストロークを計算する。アーム計算部21bは、アームシリンダ4bに取り付けられたストロークセンサ7bの検出結果から、アームシリンダ4bの最大ストロークを計算する。バケット計算部21cは、バケットシリンダ4cに取り付けられたストロークセンサ7cの検出結果から、バケットシリンダ4cの最大ストロークを計算する。
【0062】
ステップS2において、コントローラ20は、警報通知位置を設定する。アーム通知部22bは、ステップS1で求められたアームシリンダ4bの最大ストロークを参照して、ストロークエンドより手前に警報通知位置を設定する。アーム通知部22bは、警報を認識してオペレータがアーム3bの操作を止める場合に、ピストン4bcがストロークエンドには到達しないがピストン4bcの静止位置ができる限りストロークエンドに近くなるように、警報通知位置を設定する。ブーム通知部22aおよびバケット通知部22cもまた同様に、警報通知位置を設定する。
【0063】
ステップS3において、コントローラ20、具体的にはストローク規制制御部23は、ストローク規制位置を設定する。ストローク規制位置は、ストロークエンドに到達する前にピストンを静止させるコントローラ20の介入制御によって、ピストンが減速を開始する位置として設定される。ストローク規制位置は、警報通知位置とストロークエンドとの間に設定される。ストロークエンドに向かって移動するピストンがストローク規制位置に到達すると、ピストンは減速を開始する。このように事前準備処理が行われる。
【0064】
(オペレータの熟練度に基づく警報通知位置の調整)
実施形態のコントローラ20は、オペレータの熟練度に基づいて警報通知位置を調整して、オペレータに警報を通知するタイミングを変更可能なように、構成されている。
図5は、オペレータの熟練度に基づいて警報通知位置を調整する処理の流れを示すフロー図である。
【0065】
図5に示されるように、ステップS11において、コントローラ20は、オペレータによる操作レバーの操作の入力を受ける。オペレータが第1操作レバー25Lおよび/または第2操作レバー25Rを操作すると、操作量センサ26がそのレバーの操作方向および操作量を検知する。操作量センサ26により検知されたレバーの操作方向および操作量の信号が、コントローラ20に入力される。ステップS12において、コントローラ20は、オペレータの操作に従って、作業機3の動作を開始する。
【0066】
ステップS13において、コントローラ20は、ピストンの現在位置を取得する。ブーム計算部21aは、ストロークセンサ7aまたは角度センサ9aの検出結果に基づいて、ピストン4acの現在位置を求める。アーム計算部21bは、ストロークセンサ7bまたは角度センサ9bの検出結果に基づいて、ピストン4bcの現在位置を求める。バケット計算部21cは、ストロークセンサ7cまたは角度センサ9cの検出結果に基づいて、ピストン4ccの現在位置を求める。
【0067】
ステップS14において、コントローラ20は、ピストンが警報通知位置に到達したか否かを判断する。ブーム通知部22aは、ブーム計算部21aにより求められるブームシリンダ4aのピストン4acの現在位置に基づいて、ピストン4acが所定の警報通知位置に到達したか否かを判断する。アーム通知部22bは、アーム計算部21bにより求められるアームシリンダ4bのピストン4bcの現在位置に基づいて、ピストン4bcが所定の警報通知位置に到達したか否かを判断する。バケット通知部22cは、バケット計算部21cにより求められるバケットシリンダ4cのピストン4ccの現在位置に基づいて、ピストン4ccが所定の警報通知位置に到達したか否かを判断する。
【0068】
ピストンが警報通知位置に到達していないと判断されると(ステップS14においてNO)、ステップS13のピストンの現在位置の取得と、ステップS14の判断とが繰り返される。
【0069】
ピストンが警報通知位置に到達したと判断されると(ステップS14においてYES)、ステップS15に進み、オペレータに警報が通知される。警報通知部22は、通知装置60に制御信号を出力する。制御信号の入力を受けた通知装置60は、ランプ61を点灯させたり、ブザー62から音声を出力させたり、振動体63を振動させたりすることで、オペレータに警報を通知する。
【0070】
警報を認識したオペレータは、第1操作レバー25Lおよび/または第2操作レバー25Rの操作量を減少させる。典型的にはオペレータは、それまで操作していた第1操作レバー25Lおよび/または第2操作レバー25Rから手を離す。操作量センサ26は、第1操作レバー25Lおよび/または第2操作レバー25Rの操作量の減少を検知して、その操作量の減少をコントローラ20に入力する。
【0071】
オペレータの操作の入力を受けたコントローラ20が、EPC弁46の開度を減少させることにより、メインバルブ41に供給されるパイロット圧の変動を低減する。メインバルブ41のスプールの動作が抑制されて、油圧シリンダのピストンの移動速度が減少することにより、作業機3の動作速度が小さくなる。典型的には、コントローラ20がEPC弁46を全閉にすることにより、メインバルブ41のスプールが移動を停止する。油圧シリンダのピストンが静止することによって、作業機3の動作が停止する(ステップS16)。
【0072】
ステップS17において、コントローラ20は、ピストンの静止位置を取得する。ブーム計算部21aは、ストロークセンサ7aまたは角度センサ9aの検出結果に基づいて、ピストン4acの静止位置を求める。アーム計算部21bは、ストロークセンサ7bまたは角度センサ9bの検出結果に基づいて、ピストン4bcの静止位置を求める。バケット計算部21cは、ストロークセンサ7cまたは角度センサ9cの検出結果に基づいて、ピストン4ccの静止位置を求める。
【0073】
ステップS18において、コントローラ20は、必要に応じて警報通知位置を調整することで、警報を通知するタイミングを変更する。
【0074】
ステップS15で警報を通知したにもかかわらず、警報を認識したオペレータが操作装置の操作量を減少させるまでに時間を要した場合に、ストロークエンドの手前でピストンを静止させることができずにピストンがストロークエンドにまで到達することがある。
図6および後述する
図7,8に基づいて、油圧ショベル100を操作するオペレータの熟練度に基づいて警報通知処理を調整する処理について説明する。
【0075】
図6は、熟練オペレータが警報を通知されたときの動作の一例を示す図である。
図6および後述する
図7,10-12において、横軸は時間を示し、縦軸はシリンダストローク量、すなわち、油圧シリンダにおけるストロークエンドへ向かって移動するピストンの移動距離を示す。
【0076】
図6に示されるように、熟練オペレータが油圧ショベル100を操作するとき、時刻t11において警報が通知される。警報を認識したオペレータは、時刻t12において操作装置25の操作量の減少を開始する。警報を通知した時刻から操作装置25の操作量が減少を開始する時刻まで、時間T1が経過している。このような操作により、ピストンは、ストロークエンドまでの距離Lの位置で静止する。距離Lは、たとえば最大ストロークの10%であってもよい。
【0077】
図7は、経験の浅いオペレータが警報を通知されたときの動作の一例を示す図である。
図6に示される熟練オペレータの操作と同様に、ピストンをストロークエンドまでの距離Lの位置で静止させるには、時刻t12において操作装置25の操作量の減少を開始する必要がある。
【0078】
経験の浅いオペレータは、警報を認識してもすぐに操作装置25の操作をやめず、警報を通知した時刻から操作装置25の操作量が減少を開始する時刻まで、より長い時間T2の経過を必要とする。そのため、経験の浅いオペレータが油圧ショベル100を操作するときには、
図6に示される時刻t11よりも早い時刻t21において、警報を通知するようにする。
図7に示される警報通知位置は、
図6と比較して、ストロークエンドからより離れた位置に設定されている。
【0079】
油圧ショベル100を操作するオペレータは、自らの熟練度に応じて、操作を開始する前の初期設定として、警報通知位置を調整して警報通知のタイミングを定めることができる。経験の浅いオペレータが油圧ショベル100を操作する場合に、警報通知のタイミングを早めることにより、油圧シリンダのピストンがストロークエンドに到達することを抑制し、騒音を低減することができる。
【0080】
他方、コントローラ20は、作業中に、オペレータの熟練度を識別し、オペレータの熟練度に基づくフィードバック制御により警報通知位置を自動的に調整して、オペレータに警報を通知するタイミングを変更することができる。
図8は、
図5に示されるステップS18における、警報通知位置を調整するサブルーチンの処理の流れを示すフロー図である。
【0081】
ステップS21において、コントローラ20は、ステップS17で取得されたピストンの静止位置が、油圧シリンダのストロークエンドであったか否かを判断する。
【0082】
ピストンの静止位置がストロークエンドであると判断された場合(ステップS21においてYES)、ステップS22に進み、コントローラ20は、ピストンがストロークエンドに到達した回数をインクリメントする。コントローラ20は、
図5に示される処理が開始されるまでの以前の処理において、ピストンの静止位置がストロークエンドであった回数を、メモリに記憶している。コントローラ20は、ストロークエンドへの到達回数をメモリから読み出し、到達回数に1を加える処理をする。
【0083】
ステップS23において、コントローラ20は、インクリメントされた到達回数と、メモリに記憶されている所定の基準回数とを比較して、到達回数が基準回数以上であるか否かを判断する。
【0084】
到達回数が基準回数以上であれば(ステップS23においてYES)、ステップS15において油圧シリンダのピストンがストロークエンドに近づいた警報を通知したにもかかわらず、ピストンをストロークエンドにぶつけてしまう操作が繰り返し行われたとの判断で、コントローラ20は、経験の浅いオペレータが油圧ショベル100を操作していると認識する。この場合、ステップS24に進み、警報通知のタイミングを早めて、警報通知位置をストロークエンドから遠ざけるように調整する処理が行われる。
【0085】
ステップS23の判断において、到達回数が基準回数未満であれば(ステップS23においてNO)、警報通知位置を調整する処理は行われず、処理はリターンされる。
【0086】
ステップS21の判断において、ピストンの静止位置がストロークエンドでなく、ストロークエンドの手前でピストンが静止したと判断された場合(ステップS21においてNO)、ステップS25に進み、コントローラ20は、ピストンの静止位置とストロークエンドとの距離を算出する。
【0087】
ステップS26において、コントローラは、ステップS25で算出された距離と、メモリに記憶されている所定の基準距離とを比較して、ピストンの静止位置とストロークエンドとの距離が基準距離以上であるか否かを判断する。
【0088】
距離が基準距離以上であれば(ステップS26においてYES)、ステップS15で通知された警報を認識したオペレータが直ちに操作装置25の操作を停止した結果、ストロークエンドから離れた位置でピストンが静止したとの判断で、コントローラは、熟練オペレータが油圧ショベル100を操作していると認識する。この場合、ステップS27に進み、警報通知のタイミングを遅くして、警報通知位置をストロークエンドに近づけるように調整する処理が行われる。
【0089】
ステップS26の判断において、距離が基準距離未満であれば(ステップS26においてNO)、警報通知位置を調整する処理は行われず、処理はリターンされる。
【0090】
コントローラ20は、通知装置60が警報を通知した後のピストンの静止位置に基づいて、油圧ショベル100を操作するオペレータの熟練度を識別する。コントローラ20は、オペレータの熟練度に基づいて、警報通知位置を調整する。
【0091】
経験の浅いオペレータが油圧ショベル100を操作している場合に、警報通知のタイミングを早める変更をコントローラ20が行うことにより、油圧シリンダのピストンがストロークエンドに到達することを抑制し、騒音を低減することができる。
【0092】
熟練オペレータが油圧ショベル100を操作している場合に、警報通知のタイミングを遅くする変更をコントローラ20が行うことにより、ピストンが静止する位置からストロークエンドまでの長さをより小さくできる。油圧シリンダの最大ストロークのうちのより広い範囲を使って作業機3を動作させることで、作業の効率を向上することができる。
【0093】
図6,7に示されるように、熟練オペレータが警報を認識してから操作装置25の操作量の減少を開始するまでの時間T1は比較的短く、経験の浅いオペレータが警報を認識してから操作装置25の操作量の減少を開始するまでの時間T2は比較的長い。そのためコントローラ20は、警報を通知した時刻から操作装置25の操作量が減少を開始するまでの時間に基づいて、オペレータの熟練度を識別することができる。
【0094】
たとえばコントローラ20は、警報を通知した時刻から操作装置25の操作量が減少を開始するまでの時間を、メモリに記憶されている所定の基準時間と比較することができる。コントローラ20は、その時間が基準時間よりも短ければ、熟練オペレータが操作していると識別して、警報通知のタイミングを遅くして、警報通知位置をストロークエンドに近づけることができる。コントローラ20は、その時間が基準時間よりも長ければ、経験の浅いオペレータが操作していると識別して、警報通知のタイミングを早めて、警報通知位置をストロークエンドから遠ざけることができる。
【0095】
(シリンダ速度に基づく警報通知位置の調整)
実施形態のコントローラ20は、ストロークエンドに向かうピストンの移動速度(これをシリンダ速度と称する)に基づくフィードフォワード制御により警報通知位置を調整して、オペレータに警報を通知するタイミングを変更することができる。
図9は、シリンダ速度に基づいて警報通知位置を調整する処理の流れを示すフロー図である。
【0096】
図9に示されるように、ステップS31において、コントローラ20は、オペレータによる操作レバーの操作の入力を受ける。ステップS32において、コントローラ20は、オペレータの操作に従って、作業機3の動作を開始する。ステップS33において、コントローラ20は、ピストンの現在位置を取得する。ステップS31~S33の処理は、
図5に示されるステップS11~S13の処理と同様に行われる。
【0097】
ステップS34において、コントローラ20は、ピストンが判定位置に到達したか否かを判断する。警報通知部22は、シリンダストローク計算部21により求められる油圧シリンダのピストンの現在位置に基づいて、ピストンが所定の判定位置に到達したか否かを判断する。
【0098】
ピストンが判定位置に到達していないと判断されると(ステップS34においてNO)、ステップS33のピストンの現在位置の取得と、ステップS34の判断とが繰り返される。
【0099】
ピストンが判定位置に到達したと判断されると(ステップS34においてYES)、ステップS35において、コントローラ20は、操作量センサ26から、オペレータによって操作されている第1操作レバー25Lおよび/または第2操作レバー25Rの操作量の入力を受ける。ステップS36において、コントローラ20は、このレバーの操作量に従ったシリンダ速度を算出する。ステップS37において、コントローラ20は、シリンダ速度に基づいて、警報通知位置を設定する。
【0100】
図10は、シリンダ速度が大きいときの動作の一例を示す図である。ステップS36では、ピストンが判定位置に到達した時刻t31におけるシリンダ速度を取得する。シリンダ速度が大きいときにはレバーの操作量が大きく、レバーの中立位置からの変位が大きいので、オペレータがレバーから手を離してからレバーが中立位置に戻るまでの時間が比較的長くなる。単位時間当たりのピストンの移動距離が大きいので、警報を通知してから警報を認識したオペレータが操作装置25の操作量を減少させるまでに、ピストンが比較的長い距離を移動する。
【0101】
そのためコントローラ20は、シリンダ速度が大きいときには、ストロークエンドからより離れた位置を、警報通知位置として設定する。
図10の例では、時刻t32において警報が通知される。警報を認識したオペレータが操作装置25の操作量を減少させることで、時刻t33においてピストンの減速が開始している。警報を通知した時刻からピストンが減速を開始するまで、時間T3が経過している。このような操作により、ピストンは、ストロークエンドまで距離Lの位置で静止する。
【0102】
図11は、シリンダ速度が小さいときの動作の一例を示す図である。ステップS36では、
図10と同じ判定位置にピストンが到達した時刻t41におけるシリンダ速度を取得する。シリンダ速度が小さいときにはレバーの操作量が小さく、レバーの中立位置からの変位が小さいので、オペレータがレバーから手を離してからレバーが中立位置に戻るまでの時間が比較的短くなる。単位時間当たりのピストンの移動距離が小さいので、警報を通知してから警報を認識したオペレータが操作装置25の操作量を減少させるまでに、ピストンが移動する距離が比較的短くなる。
【0103】
そのためコントローラ20は、シリンダ速度が小さいときには、ストロークエンドにより近い位置を、警報通知位置として設定する。
図11の例では、時刻t42において警報が通知される。警報を認識したオペレータが操作装置25の操作量を減少させることで、時刻t43においてピストンの減速が開始している。警報を通知した時刻からピストンが減速を開始するまで、時間T4が経過している。このような操作により、ピストンは、
図10と同様にストロークエンドまで距離Lの位置で静止する。
【0104】
コントローラ20は、ピストンが判定位置に到達したときのシリンダ速度に基づいて、警報通知位置を調整する。シリンダ速度が大きいと、警報を通知した時刻からピストンが減速を開始するまでにピストンが移動する距離が比較的長くなる。シリンダ速度が大きい場合に、警報通知のタイミングを早く設定することにより、油圧シリンダのピストンがストロークエンドに到達することを抑制し、騒音を低減することができる。シリンダ速度が小さいと、警報を通知した時刻からピストンが減速を開始するまでにピストンが移動する距離が比較的短くなる。シリンダ速度が小さい場合に、警報通知のタイミングを遅く設定することにより、油圧シリンダの最大ストロークのうちのより広い範囲を使って作業機3を動作させることができるので、作業の効率を向上することができる。
【0105】
図9に示される以後のステップS38~S41の処理は、
図5に示されるステップS13~S16の処理と同じであるので、その説明を省略する。
【0106】
(ストローク規制制御とその解除)
次に、ストローク規制制御について説明する。
図12は、警報通知位置とストローク規制位置との一例を示す図である。
【0107】
既に説明した通り、ストローク規制制御は、油圧シリンダのピストンをストロークエンドに到達する前に静止させるコントローラ20の介入制御である。ストローク規制位置は、ストローク規制制御によってピストンが減速を開始する位置として設定される、警報通知位置とストロークエンドとの間の位置である。
【0108】
図12の例では、時刻t51において警報が通知される。警報が通知された後の時刻t52にピストンが到達する位置を、ストローク規制位置として設定する。ピストンがストローク規制位置に到達すると、オペレータによる操作装置25の操作に関わらず、ピストンが減速を開始する。ストローク規制制御により、ピストンは、ストロークエンドまで距離Lの位置で静止する。
図12に示される距離Lは、たとえば最大ストロークの5%であってもよい。
【0109】
次に、作業中に、油圧シリンダのピストンを、オペレータの意思に従ってストロークエンドに到達させることを可能にするための、ストローク規制制御を解除する制御について説明する。
図13は、作業中のオペレータの意思に従ってストローク規制制御を解除する処理の流れを示すフロー図である。
【0110】
図13に示されるステップS51~S55の処理は、
図5に示されるステップS11~S15の処理と同じであるので、説明を省略する。
【0111】
ステップS56において、コントローラ20は、ステップS53と同様に、ピストンの現在位置を取得する。
【0112】
ステップS57において、コントローラ20は、ピストンがストローク規制位置に到達したか否かを判断する。ストローク規制制御部23は、シリンダストローク計算部21により求められる油圧シリンダのピストンの現在位置に基づいて、ピストンが所定のストローク規制位置に到達したか否かを判断する。
【0113】
ピストンがストローク規制位置に到達していないと判断されると(ステップS57においてNO)、ステップS56のピストンの現在位置の取得と、ステップS57の判断とが繰り返される。
【0114】
ピストンがストローク規制位置に到達したと判断されると(ステップS57においてYES)、ステップS58において、コントローラ20は、ストローク規制制御を実行する。ストローク規制制御部23は、EPC弁46に制御信号を送信して、EPC弁46の開度を減少させることで、ピストンを減速させる。EPC弁46を閉じてメインバルブ41へのパイロット油の供給を停止することで、メインバルブ41のスプールが移動を停止する。油圧シリンダのピストンが静止することによって、作業機3の動作が停止する。
【0115】
ストローク規制制御によりピストンが静止し作業機3が停止した後、ステップS59において、コントローラ20は、オペレータによる操作装置25の操作が継続しているか否かを判断する。操作装置25の操作は、操作量センサ26によって検知される。コントローラ20は、操作量センサ26から、操作装置25が操作されていることを示す検知結果が入力されているか否かに基づいて、操作装置25の操作が継続しているか否かを判断する。操作装置25の操作が継続していないと判断されると(ステップS59においてNO)、そのまま処理を終了する(
図13のエンド)。
【0116】
操作装置25の操作が継続していると判断されると(ステップS59においてYES)、コントローラ20は、この操作装置25の継続的な操作を、ピストンをさらに移動させようとするオペレータの意思の現れと認識して、ステップS60において、ストローク規制制御を解除する。ストローク規制制御解除部24は、EPC弁46に対して、オペレータによる操作装置25の操作量に従った弁開度とすることを指令する制御信号を出力する。EPC弁46の制御によってメインバルブ41にパイロット油が供給され、メインバルブ41のスプールが移動する。油圧シリンダのピストンが移動することによって、作業機3の動作が再開する(ステップS61)。ピストンがストロークエンドに到達すると(ステップS62)、処理を終了する(
図13のエンド)。
【0117】
バケットシリンダ4cのピストン4ccをストロークエンドに到達させた衝撃を利用してバケット3cに付着した土砂を落下させる土落とし作業など、作業の内容によって、油圧シリンダのピストンを意図的にストロークエンドにまで移動させたい場合がある。そのようなオペレータの意思を、操作装置25の操作が継続していることで認識して、ストローク規制制御を解除する。これにより、オペレータがストロークエンドを使いたいときに自在に使えるようになるので、作業性を向上することができる。
【0118】
図14は、オペレータによる事前の設定に従ってストローク規制制御を解除する処理の流れを示すフロー図である。
【0119】
図14に示されるように、ステップS71において、作業の準備として、オペレータによるストローク規制制御の設定が行われる。オペレータは、操作部30、具体的にはモニタ31またはスイッチ32など、を操作する。オペレータの操作がストローク規制制御設定部50に入力されて、ストローク規制制御設定部50はストローク規制制御を実行するか非実行とするかを設定する。ストローク規制制御設定部50は、この設定をコントローラ20に入力する。
【0120】
たとえば、熟練オペレータは、ストローク規制制御を非実行とする設定として、警報通知位置にピストンが到達すると警報を通知するがコントローラ20の介入制御は行わない設定としてもよい。たとえば、経験の浅いオペレータは、ストローク規制制御を実行する設定として、警報を通知されたときに操作装置25の操作量を減少させるオペレータの操作が追いつかないときにも、コントローラ20の介入制御によってピストンがストロークエンドに確実に到達しないような設定としてもよい。
【0121】
ステップS72~S78の処理は、
図13に示されるステップS51~S57の処理と同じであるので、説明を省略する。
【0122】
ステップS79において、コントローラ20は、ストローク規制制御が有効か否かを判断する。ステップS71における事前の設定に従って、ストローク規制制御が有効化されているか無効化されているかを、コントローラ20は判断する。
【0123】
ストローク規制制御が有効であれば(ステップS79においてYES)、ステップS80において、コントローラ20は、ストローク規制制御を実行して、作業機3の動作を停止させる。そして、処理を終了する(
図14のエンド)。
【0124】
ストローク規制制御が解除されていれば(ステップS79においてNO)、ステップS81において、オペレータによる操作装置25の操作に従って、作業機3の動作が継続する。油圧シリンダのピストンがストロークエンドに到達すると(ステップS82)、処理を終了する(
図14のエンド)。
【0125】
オペレータが操作部30を操作してストローク規制制御の実行および停止を事前に切り替えられる構成とすることで、バケット3cの土落とし作業など、オペレータがストロークエンドを使いたいときに自在に使えるようになるので、作業性を向上することができる。
【0126】
図13,14に示されるストローク規制制御の実行および停止の切り替えを、各油圧シリンダ毎に設定できる構成とされていてもよい。
図3に示されるブーム規制部23a、アーム規制部23bおよびバケット規制部23cは、各々独立して制御可能であってもよい。
図3に示されるブーム解除部24a、アーム解除部24bおよびバケット解除部24cは、各々独立して制御可能であってもよい。ストローク規制制御設定部50は、ブームシリンダ4a、アームシリンダ4bおよびバケットシリンダ4cの各々に対して、個別にストローク規制制御の実行と不実行とを設定できるものであってもよい。
【0127】
たとえば、アーム3bについてはストローク規制制御を実行して、アームシリンダ4bのピストン4bcがストロークエンドに到達しないように制御する一方、バケット3cについてはストローク規制制御を停止して、オペレータがバケット3cからの土落とし作業を自在に行える設定としてもよい。このような設定とすることで、騒音の発生を確実に抑制できるとともに、作業機3の操作性を向上することができる。
【0128】
これまでの実施形態では、油圧ショベル100がコントローラ20と通知装置60とを備えており、油圧ショベル100に搭載されているコントローラ20が通知装置60に警報を通知させる制御をする例について説明した。コントローラ20と通知装置60とは、必ずしも油圧ショベル100に搭載されていなくてもよい。
【0129】
図15は、作業機械を含むシステムの概略図である。油圧ショベル100の外部に配置されたコントローラ120が、たとえばストロークセンサ7a,7b,7cの検出結果を示す信号を油圧ショベル100から受信して、その信号に基づいて通知装置60に警報を通知させるシステムを構成してもよい。コントローラ120と通知装置60とは、油圧ショベル100の作業現場に配置されてもよく、油圧ショベル100の作業現場から離れた遠隔地に配置されてもよい。
【0130】
以上のように実施形態について説明を行ったが、各実施形態において互いに組み合わせ可能な構成を適宜組み合わせてもよい。また、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0131】
1 走行体、2 旋回体、3 作業機、3a ブーム、3b アーム、3c バケット、3ce 刃先、4a ブームシリンダ、4aa,4ba,4ca シリンダ部、4ab,4bb,4cb ロッド、4ac,4bc,4cc ピストン、4b アームシリンダ、4c バケットシリンダ、7a,7b,7c ストロークセンサ、9a,9b,9c 角度センサ、20,120 コントローラ、21 シリンダストローク計算部、22 警報通知部、23 ストローク規制制御部、24 ストローク規制制御解除部、25 操作装置、25L 第1操作レバー、25R 第2操作レバー、26 操作量センサ、30 操作部、31 モニタ、32 スイッチ、41 メインバルブ、46 EPC弁、50 ストローク規制制御設定部、60 通知装置、61 ランプ、62 ブザー、63 振動体、100 油圧ショベル。