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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】医療装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/341 20210101AFI20241125BHJP
   A61B 5/287 20210101ALI20241125BHJP
【FI】
A61B5/341
A61B5/287 200
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020205606
(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2021094391
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】16/712,604
(32)【優先日】2019-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】バディム・グリナー
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-037730(JP,A)
【文献】特表2017-511166(JP,A)
【文献】特開2019-018011(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0296111(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/341
A61B 5/346
A61B 5/367
A61B 5/287
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療装置であって、
プローブであって、
患者の体腔への挿入用に構成された挿入チューブと、
前記挿入チューブの遠位に接続され、複数の弾性スパインを備えるバスケット組立体であって、前記複数の弾性スパインが、それぞれの近位先端及びそれぞれの遠位先端を有し、かつ前記それぞれの近位先端と前記それぞれの遠位先端との間の前記複数の弾性スパインのそれぞれの長さに沿って配置された複数の電極を備え、
前記複数の弾性スパインの前記それぞれの近位先端が前記バスケット組立体の近位端で接合され、前記複数の弾性スパインの前記それぞれの遠位先端が前記バスケット組立体の遠位端で接合され、前記バスケット組立体が前記体腔内で展開されると、前記複数の弾性スパインが半径方向外向きに撓み、それにより前記電極が前記体腔内の組織と接触するようになっている、バスケット組立体と、を備える、プローブと、
処理回路網であって、前記バスケット組立体の第1のスパインに沿った第1の位置及び第2の位置にある第1の電極と第2の電極との間の前記組織から第1のバイポーラ電気信号を取得し、前記第1の電極と、前記バスケット組立体の第2のスパイン上の第3の位置にある第3の電極と、の間の前記組織から第2のバイポーラ電気信号を取得し、前記第1の位置を通る、前記第2の位置と前記第3の位置との間の軸に沿った前記組織のベクトル電気的性質を、前記第1のバイポーラ電気信号及び前記第2のバイポーラ電気信号に基づき生成するように、構成されている、処理回路網と、を備え
前記ベクトル電気的性質は、前記第1のバイポーラ電気信号及び前記第2のバイポーラ電気信号から導出される前記組織によって生成される電気信号における物理的特性および方向特性であり、
前記ベクトル電気的性質が、前記第1の位置と、前記第1の位置を通る、前記第2の位置と前記第3の位置との間の前記軸上の第4の位置との間の模擬バイポーラ電気信号を含む、医療装置。
【請求項2】
前記第2の電極が前記第1のスパイン上の前記第1の電極に隣接し、前記第2のスパインが前記第1のスパインに隣接している、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第2のスパイン上の前記電極の中で、前記第3の電極が前記第1の電極に最も近い、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記処理回路網が、前記第1のバイポーラ電気信号から前記ベクトル電気的性質の縦方向成分を、前記第2のバイポーラ電気信号から前記ベクトル電気的性質の横方向成分を、導出するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記処理回路網が、前記縦方向成分と前記横方向成分とのベクトル和を計算することによって、前記ベクトル電気的性質の振幅及び方向を見付けるように構成されている、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記第1のバイポーラ電気信号及び前記第2のバイポーラ電気信号は、電気活性化波が前記組織を通過することに起因して発生し、前記ベクトル電気的性質が、前記電気活性化波の速度を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記処理回路網が、前記バスケット組立体上の前記電極によって接触される前記組織の範囲にわたって前記ベクトル電気的性質をマッピングするように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記プローブに接続され、前記バスケット組立体の位置を示す位置信号を出力するように構成された1つ以上の位置センサを備え、前記処理回路網が、前記第1の位置、前記第2の位置、及び前記第3の位置の位置座標を見付けるために前記位置信号を処理し、前記ベクトル電気的性質をマッピングするのに前記位置座標を適用するように構成されている、請求項に記載の装置。
【請求項9】
前記挿入チューブが、前記患者の心臓の心腔への挿入用に構成された可撓性カテーテルを含み、前記電極が、前記心腔内の心筋組織における電位を検知するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、侵襲的診断方法及び装置に関し、特に電気生理学的信号のカテーテルに基づく測定に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の電気解剖学的マッピングでは、カテーテルが心腔内に挿入され、多数の位置で電気信号を取得するために、カテーテル上の電極が、心腔内の心筋に接触する。カテーテルの遠位部分の上に延在する電極のアレイを有する様々な特殊なカテーテルが、このプロセスを容易にするために開発されてきた。
【0003】
例えば、その開示の全体が、本明細書に参照により組み込まれる米国特許第6,748,255号には、心臓のマッピング用に特に有用な改良されたバスケットカテーテルが記載されている。カテーテルは、遠位端、近位端、及び、カテーテルを通る少なくとも1つの内腔を備えた、伸長されたカテーテル本体を含む。バスケット形状の電極組立体が、カテーテル本体の遠位端部に取り付けられている。バスケット組立体は、近位端と遠位端とを有し、その近位端と遠位端とに接続された、複数のスパインを備える。それぞれのスパインは、少なくとも1つの電極を備える。バスケット組立体は、スパインが径方向外側に弓形に曲がっている拡張した配置と、スパインがカテーテル本体の軸線に概ね沿って配列されている畳み込まれた配置とを有する。
【0004】
カテーテルは、バスケット形状の電極組立体の遠位端又はその近くに取り付けられた遠位位置センサと、バスケット形状の電極組立体の近位端又はその近くに取り付けられた近位位置センサとを更に有している。使用される際、それぞれのスパインの少なくとも1つの電極の位置を見出すために、近位センサの座標に対する遠位位置センサの座標が決定されて、バスケット形状のマッピング組立体のスパインの曲率に関する既知の情報とともに用いられ得る。
【0005】
複数の電極を有するカテーテルは、様々な種類の診断測定の実施に応用することができる。例えば、米国特許出願公開第2019/0216346号には、心臓の電気信号を測定するように構成された複数の空間的に分散された電極を含むカテーテルを含むシステムが記載されている。このシステムは、心臓内の複数の異なるカテーテル位置における電極の位置を決定するように構成され、心臓内の電気活動をマッピングする処理ユニットを含む。処理ユニットは、複数の異なるカテーテル位置の各位置から測定された電気信号を受信し、その位置で測定された電気信号が組織化されているかどうかを決定するように構成される。その位置で測定された電気信号が組織化されている場合、処理ユニットは、測定された電気信号からの位置における速度ベクトル、サイクル長、及び組織化度のうちの少なくとも1つを決定するように構成される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に記載される本発明の実施形態は、電気生理学的測定及びマッピングのための改良された方法及びシステムを提供する。
【0007】
したがって、本発明の実施形態による、プローブを含む医療機器が提供され、プローブは、患者の体腔への挿入用に構成された挿入チューブと、挿入チューブの遠位に接続されたバスケット組立体と、を含む。バスケット組立体は、複数の弾性スパインを備え、複数の弾性スパインは、それぞれの近位先端及びそれぞれの遠位先端を有し、かつそれぞれの近位先端とそれぞれの遠位先端との間にスパインのそれぞれの長さに沿って配置された複数の電極を含む。スパインの近位先端は、バスケット組立体の近位端で接合され、スパインの遠位先端は、バスケット組立体の遠位端で接合され、バスケット組立体が体腔で展開されると、スパインが半径方向外向きに撓み、それにより電極が体腔内の組織と接触する。処理回路網は、バスケット組立体の第1のスパインに沿った第1の位置にある第1の電極と第2の位置にある第2の電極との間の組織から第1のバイポーラ電気信号を取得し、第1の電極と、バスケット組立体の第2のスパイン上の第3の位置にある第3の電極と、の間の組織から第2のバイポーラ電気信号を取得し、第1の位置を通る、第2の位置と第3の位置との間の軸に沿った組織のベクトル電気的性質を、第1のバイポーラ電気信号及び第2のバイポーラ電気信号に基づき補間するように、構成されている。
【0008】
いくつかの実施形態では、第2の電極が第1のスパイン上の第1の電極に隣接し、第2のスパインが第1のスパインに隣接している。一実施形態では、第2のスパイン上の電極の中で、第3の電極が第1の電極に最も近い。
【0009】
追加的に又は代替的に、処理回路網は、第1のバイポーラ電気信号からベクトル電気的性質の縦方向成分を、第2のバイポーラ信号からベクトル電気的性質の横方向成分を、導出するように構成されている。開示された実施形態において、処理回路網は、縦方向成分と横方向成分とのベクトル和を計算することによって、ベクトル電気的性質の振幅及び方向を見付けるように構成されている。
【0010】
一実施形態では、第1のバイポーラ電気信号及び第2のバイポーラ信号が、電気活性化波が組織を通過することに起因して発生し、ベクトル電気的性質が、電気活性化波の速度を含む。代替的に又は追加的に、ベクトル電気的性質は、第1の位置と、第1の位置を通る軸上で、また第2の位置と第3の位置との間の第4の位置と、の間のシミュレートされたバイポーラ電気信号を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、処理回路網は、バスケット組立体上の電極によって接触される組織の範囲にわたってベクトル電気的性質をマッピングするように構成されている。通常、医療機器は、プローブに接続され、バスケット組立体の位置を示す位置信号を出力するように構成された1つ以上の位置センサを含み、処理回路網が、第1の位置、第2の位置、及び第3の位置の位置座標を見付けるために位置信号を処理し、ベクトル電気的性質をマッピングするのに位置座標を適用するように、構成されている。
【0012】
開示された実施形態では、挿入チューブは、患者の心臓の心腔への挿入用に構成された可撓性カテーテルを含み、電極が、心腔内の心筋組織における電位を検知するように構成されている。
【0013】
本発明の実施形態により、医療診断の方法が提供され、方法は、患者の体腔への挿入用に構成され、バスケット組立体を含む、プローブを提供することであって、バスケット組立体が複数の弾性スパインを含み、複数の弾性スパインが、それぞれの近位先端及びそれぞれの遠位先端を有し、それぞれの近位先端とそれぞれの遠位先端との間にスパインのそれぞれの長さに沿って配置された複数の電極を含む、提供することを含む。スパインの近位先端がバスケット組立体の近位端で接合され、スパインの遠位先端がバスケット組立体の遠位端で接合され、バスケット組立体が体腔内で展開されると、スパインが半径方向外向きに撓み、それによって電極が体腔内の組織に接触する。バスケット組立体の第1のスパインに沿った第1の位置にある第1の電極と第2の位置にある第2の電極との間の組織における第1のバイポーラ電気信号が取得される。第1の電極と、バスケット組立体の第2のスパイン上の第3の位置にある第3の電極と、の間の組織における第2のバイポーラ電気信号が取得される。第1のバイポーラ電気信号及び第2のバイポーラ信号に基づき、第1の位置を通る、第2の位置と第3の位置との間の軸に沿った組織のベクトル電気的性質が、補間される。
【0014】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」を図面と併せて考慮することで、より完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態による、電気解剖学的マッピング用システムの概略的な描写図である。
図2】本発明の実施形態による、バスケットカテーテルの概略側面図である。
図3】本発明の一実施形態による、電気生理学的信号の取得及び処理するための方法を模式的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
バスケットカテーテルは、体腔内の組織から、具体的には、心臓の心腔内の心筋組織から、大量の電気データを迅速に収集するのに有用である。このようなカテーテルを使用して一般的に行われる測定の中には、所与のスパイン上の隣接する電極間で取得される、組織内の電位のバイポーラ測定がある。これらのバイポーラ測定は、とりわけ、組織を介した電気活性化波の伝播の表示を与える。しかし、この方法では、スパインに平行な方向に沿った伝播の成分のみを測定することができ、スパインに垂直な成分を見逃す可能性がある。
【0017】
本明細書に記載される本発明の実施形態は、この問題に対する解決策を提供し、これにより、バスケットカテーテルを、スパインに対して角度を付けられた軸に沿って、すなわち、スパインの縦方向軸に対して垂直かつ斜めの角度で、組織のベクトル電気的性質を測定するために使用することができる。これらの性質としては、例えば、組織内の局所興奮波の方向速度、並びにスパインの1つの電極と物理的電極が存在しない位置との間のシミュレートされたバイポーラ信号を含んでもよい。
【0018】
開示される実施形態では、バスケットカテーテルに関連する処理回路は、同じスパイン上の電極の対及び異なるスパイン(典型的には、必ずしもそうではないが、隣接するスパイン)上の電極の対からの両方からバイポーラ信号を取得することによって、これらの能力を実装する。振幅及び方向の観点から、取得されるバイポーラ信号を最適化するために、異なる電極の対が選択され得る。スパインに沿った電極とその隣接部との間、及びその電極と隣接するスパイン上の隣接部との間で、バイポーラ信号を組み合わせることによって、処理回路は、バスケット組立体の構造によって課される制約にかかわらず、全方向バイポーラプローブの動作をエミュレートすることができる。
【0019】
本明細書に記載される実施形態では、医療装置は、患者の体腔内に挿入するように構成された挿入チューブを備えるプローブからなる。挿入チューブの遠位に接続されたバスケット組立体は、複数の弾性スパインをからなり、複数の電極がスパインのそれぞれの長さに沿って配列されている。スパインの近位先端は、バスケット組立体の近位先端で接合され、スパインの遠位先端はバスケット組立体の遠位先端で接合され、その結果、バスケット組立体が体腔内で展開されたときにスパインが半径方向外向きに撓む。したがって、電極は、体腔内の組織と接触する。
【0020】
機器内のプログラマブルプロセッサなどの処理回路網は、バスケット組立体の第1のスパインに沿って第1の電極と第2の電極との間の組織から第1のバイポーラ電気信号を取得し、第1のスパイン上の第1の電極とバスケット組立体の第2のスパイン上の第3の電極との間の組織から第2のバイポーラ電気信号を取得する。次いで、処理回路は、第1のバイポーラ信号及び第2のバイポーラ信号に基づいて、組織のベクトル電気的性質を補間することができる。場合によっては、ベクトル電気的性質は、スパインに沿って、又は第1電極と第3電極との間の横方向に沿って縦方向に向けられる。しかし、より一般的には、ベクトル電気的性質は、縦方向成分と横方向成分の両方を有し、したがって、第1の電極の位置を通る、第2の電極と第3の電極の位置の間軸に沿って向けられる。
【0021】
以下に記載される実施形態は、具体的には、心臓の心腔内の心筋組織の電位を検知するのに使用されるバスケットカテーテルに関する。しかし、本発明の原理は、他の体腔内で他の種類の電気生理学的測定を行う際にも同様に適用され得る。
【0022】
本発明の実施形態により、バスケットカテーテル22を使用した電気解剖学的マッピングシステム20を概略的に示す図1及び図2を参照されたい。図1は、システム全体の描写図であり、図2は、カテーテル22の遠位端におけるバスケットア組立体40の詳細を示す。システム20の要素は、例えば、Biosense Webster Inc.(Irvine,California)製のCARTO(登録商標)システムの部品を基にしてもよい。
【0023】
医師30は、患者28の心臓26の心腔内の標的位置でバスケット組立体40を展開するようにカテーテル22をナビゲートする。バスケット組立体40は、カテーテル22の近位端の近くでマニピュレータ32を使用して医師30が操縦する、挿入チューブ25の遠位に接続される。バスケット組立体40は、患者28の血管系を介してシース23を通して、マッピングされる心腔内に挿入され、次いでシースから展開され、チャンバ内で拡張することができる。バスケット組立体40を畳み込まれた構成で収容することにより、シース23はまた、標的位置までの経路に沿った血管外傷を最小限に抑える役割も果たす。
【0024】
図2に見られるように、バスケット組立体40は、スパインのそれぞれの長さに沿って配列された複数の電極48を有する複数の弾性スパイン55を備える。スパイン55は、通常は、例えば、好適な弾性金属又はプラスチック材料を含む。スパイン55の近位先端は、バスケット組立体の近位端で接合され、バスケット組立体は挿入チューブ25の遠位端に接続する。スパイン55の遠位先端は、同様に、バスケット組立体の遠位端で一緒に接合される。スパインは、バスケット組立体40がシース23から心腔内に展開されるとき、半径方向外向きに撓む。次いで、医師30は、電極48が心腔内の心筋組織に接触するようにカテーテル22を操作する。バスケット組立体40は、同様に、超音波トランスデューサ、接触力センサ、及び温度センサなどの他の構成要素(図示せず)を備え得る。電極48は、これらの他の構成要素と同様に、挿入チューブ25を通ってカテーテル22の近位端に至るワイヤ(図示せず)に接続され、ここでコンソール24内の処理回路網に接続する。
【0025】
カテーテル22は、バスケット組立体40の位置(位置及び向き)を示す位置信号を出力する1つ以上の位置センサを備える。図2に示す実施形態では、バスケット組立体40は、挿入チューブ25の遠位端に、すなわち、バスケット組立体の近位端に、磁気センサ50を組み込んでいる。第2の磁気センサ52は、バスケット組立体の遠位端に固定されている。代替的に、バスケット組立体40は、単一の磁気センサのみを備えていてもよいし、又は、バスケット組立体上の異なる位置にある2つ以上の磁気センサを備えていてもよい。磁気センサ50及び52は、通常は、例えば、印加された磁場に応答して電気信号を出力する小型コイル又はホール効果デバイスを備える。電極48と同様に、磁気センサ50及び52は、挿入チューブ25を通るワイヤを介してコンソール24に接続されている。
【0026】
患者28は、異なるそれぞれの軸に沿って向き付けられた複数の磁場成分を生成するために、コンソール24内の駆動回路43によって駆動される、磁場生成コイル42によって生成された磁場の中に置かれる。心臓26におけるバスケット組立体40のナビゲーションの間、磁気センサ50、52は、これらの磁場成分に応答して信号を出力する。コンソール24内のプロセッサ41などの位置検知回路網は、インターフェース回路44を介してこれらの信号を受信し、バスケット組立体40の位置及び配向座標、それにより電極48のそれぞれの位置及び配向座標を見付けるために信号を処理する。インターフェース回路44は、両センサ50、52及び電極48によって出力された信号を処理し、対応するデジタル値をプロセッサ41に入力するための、適切なアナログ増幅器及びフィルタ、並びにアナログ/デジタル変換器を備える。
【0027】
システム20で実施される磁気位置検知のための方法及び装置は、上述のCARTO(登録商標)システムに用いられているものに基づいたものである。この種の磁気検知の動作原理は、例えば、米国特許第5,391,199号、同第6,690,963号、同第6,484,118号、同第6,239,724号、同第6,618,612号、及び同第6,332,089号、国際公開第96/05768号、並びに米国特許出願公開第2002/0065455(A1)号、同第2003/0120150(A1)号、及び同第2004/0068178(A1)号に詳細に記載されており、これらの開示内容は、添付の付属書にコピーで完全に示されるように、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。代替的に、システム20は、当技術分野で知られている他の磁気位置検知技術を実装し得る。
【0028】
更に代替として又は追加として、システム20は、バスケット組立体40上の電極48の座標を見付けるために、他の位置検知技術を適用し得る。例えば、プロセッサ41は、患者28の胸部に印加される電極48と体表電極49との間のインピーダンスを検知し得、当技術分野で知られている技術を用いて、インピーダンスを位置座標に変換し得る。先に述べた電極48から測定されたインピーダンスを使用することによって、電極48の位置が、例えば、Biosense-Webster(Irvine、California)により製造されているCARTO(商標)システムによって決定され得、その開示が、付属書に提供されたコピーとともに、参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第7,756,576号、同第7,869,865号、同第7,848,787号、及び同第8,456,182号に詳細に記載されている。この方法は、Advanced Catheter Location(ACL)と呼ばれる場合がある。この場合、電極48自体はACLの位置センサとして機能する。
【0029】
プロセッサ41は、バスケット組立体40が展開される心腔の電気解剖学的マップ31を構築する際に、インターフェース回路44を介して受信した空間的及び電気生理学的信号を使用する。処置中、及び/又は処置後に、プロセッサ41は、ディスプレイ27に電気解剖学的マップ31を表示し得る。図1に示される実施形態では、プロセッサ41は、バスケット組立体40から受信するバイポーラ電気信号からプロセッサが導出する心筋組織のベクトル電気的性質を示す1つ以上のアイコン33を重ね合わせる。このようなベクトル性質を導出する際にプロセッサによって適用され得る技法は、以下に更に記載される。
【0030】
いくつかの実施形態では、プロセッサ41は、カテーテル21からの信号(低雑音増幅器及びアナログ/デジタル変換器を含む)を受信するための、並びに、システム20の他の構成要素からの信号を受信し、システム20の他の構成要素の動作を制御するための適切なインターフェース回路44を有する汎用コンピュータを備える。プロセッサ41は、典型的には、システム20のメモリ48に格納されたソフトウェアの制御下でこれらの機能を実行する。ソフトウェアは、例えばネットワーク上で、コンピュータに電子形態でダウンロードすることができるか、又は代替的に若しくは追加的に、磁気メモリ、光学メモリ若しくは電子メモリなどの、非一時的な有形媒体上に提供及び/若しくは記憶されてもよい。具体的には、プロセッサ41は、後述する信号の取得方法及び処理方法を実行可能な専用アルゴリズムを実行する。追加的に又は代替的に、プロセッサ41の機能の少なくとも一部は、専用の又はプログラマブルハードウェア論理によって実行されてもよい。
【0031】
図1に示されるシステム構成は、概念的に分かりやすくするために例示的に選択したものである。簡潔にするために、図1は、開示された技法に具体的に関連するシステム20の要素のみを示す。システムの残りの要素は、本発明の原理が、他の構成要素を使用して、他の医療診断システムにおいて実施され得ることは、当業者であれば同様に理解するであろうことは明らかであろう。全てのこのような代替的な実装は、本発明の範囲内であると考えられる。
【0032】
図3は、本発明の一実施形態による、電気生理学的信号の取得方法及び処理方法を概略的に示すフローチャートである。本方法は、分かりやすさ及び具体性のため、図2に示される、システム20の要素、特にバスケット組立体40の要素を参照して、説明される。この方法は、バスケット組立体によって接触された心筋組織のベクトル電気的性質を導出する際に、プロセッサ41(図1)によって適用されるアルゴリズムを表す。しかし、上述したように、この方法の原理の他の実施形態もまた、本発明の範囲内であると考えられる。
【0033】
プロセッサ41は、第1のバイポーラ取得ステップ60において、第1のスパイン55a上の隣接する電極48aと48bとの間の心筋組織から第1のバイポーラ電気信号を取得する。代替的に、電極48a及び48bは、スパイン55aに沿ってより大きな距離で広げられてもよい。心筋組織と接触する電極48a及び48bの位置は、スパイン55aに沿って軸56の一部のために延びる縦方向軸56を画定する。
【0034】
また、プロセッサ41は、第2のバイポーラ取得ステップ62において、電極48aと隣接するスパイン55b上に位置する電極48cとの間の第2のバイポーラ電気信号を取得する。代替的に、スパイン55bは、両方のスパインが心筋組織と接触している限り、スパイン55aと非隣接であってもよい。電極48cは、スパイン55b上の最も近い電極として電極48aに都合良く選択されてもよい。電極48a及び48cの位置は、縦方向軸56に対して垂直又は斜めに配向された横方向軸58を画定する。代替として又は追加として、プロセッサ41は、スパイン55b上又は他のスパイン上の電極48aと他の電極との間のバイポーラ電気信号を取得してもよい。
【0035】
ステップ60及び62で取得されたバイポーラ電気信号に基づき、成分計算ステップ64において、プロセッサ41が、心筋組織に伝播する電位のベクトル成分を計算する。この例では、プロセッサは、軸56に沿う縦方向(A-B)成分と、軸58に沿う横方向(A-C)成分とを含む、活性化波の成分を計算する。これらの方向成分は、それぞれステップ60と62とにおいて取得されたバイポーラ信号から導出される。ベクトル計算ステップ66において、プロセッサ41は、活性化ベクトルの大きさ及び方向を見付けるために、これらの成分間に補間する。この結果は、図2に示されるように、例えば電極48aの位置を通る斜軸59に沿う、電極48bの位置と電極48cとの位置との間を通る方向の場合のベクトル和である。
【0036】
このベクトル和は、電極48aの位置の心筋組織における電気活性化波の局所の方向速度を表す。プロセッサ41は、通常、バスケット組立体40上の他の電極位置で、スパイン55に沿ってスパイン55間で、バイポーラ電極対を使用して、同様の測定を行う。プロセッサは、これにより、バスケット組立体40が展開される、心腔の内側表面にわたって、活性化速度とともに他のベクトル電気的性質を表すアイコン33を含むマップ31(図1に示されるような)を生成することができる。
【0037】
代替として又は追加として、プロセッサ41は、それぞれステップ60と62とにおいて取得されたバイポーラ信号に基づき、シミュレートされたバイポーラ電気信号の観点からベクトル電気的性質を生成し、表示することができる。例えば、プロセッサ41は、電極48aと、軸59上のある位置の「仮想電極」との間で、このようなシミュレートされた信号を生成することができる。これらのシミュレートされた信号バイポーラ信号の大きさは、対応する方向の計算を用いて、又はその計算を用いずに計算することができる。一実施形態では、任意の点におけるシミュレートされたバイポーラ信号の大きさが、単に、それぞれステップ60と62とで取得されたバイポーラ信号の振幅の和として、概算される。本明細書に使用される際、「ベクトル電気的性質(vectorical electrical property)」という用語は、物理的特性(例えば、ボルト又はアンペア)及び方向特性が、指定の電極48から得られたこのような信号から導出され得る、臓器組織(例えば、心臓)によって生成されるいずれの電気信号も含む。このような性質には、先に述べたように、電極48によって測定される、組織における局所活性化波の方向速度と、またスパインのうちの1つにある電極と、物理的な電極がない位置との間のシミュレートされたバイポーラ信号と、が含まれ得る。
【0038】
上記の実施形態は例として挙げたものであり、本発明は上記に具体的に示し記載したものに限定されない点が理解されよう。むしろ、本発明の範囲は、本明細書で上述のとおり様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせの両方、並びに前述の説明を一読すると当業者が想起すると思われる、先行技術に開示されていないそれらの変形及び改変を含む。
【0039】
〔実施の態様〕
(1) 医療装置であって、
プローブであって、
患者の体腔への挿入用に構成された挿入チューブと、
前記挿入チューブの遠位に接続され、複数の弾性スパインを備えるバスケット組立体であって、前記複数の弾性スパインが、それぞれの近位先端及びそれぞれの遠位先端を有し、かつ前記それぞれの近位先端と前記それぞれの遠位先端との間の前記スパインのそれぞれの長さに沿って配置された複数の電極を備え、
前記スパインの前記近位先端が前記バスケット組立体の近位端で接合され、前記スパインの前記遠位先端が前記バスケット組立体の遠位端で接合され、前記バスケット組立体が前記体腔内で展開されると、前記スパインが半径方向外向きに撓み、それにより前記電極が前記体腔内の組織と接触するようになっている、バスケット組立体と、を備える、プローブと、
処理回路網であって、前記バスケット組立体の第1のスパインに沿った第1の位置及び第2の位置にある第1の電極と第2の電極との間の前記組織から第1のバイポーラ電気信号を取得し、前記第1の電極と、前記バスケット組立体の第2のスパイン上の第3の位置にある第3の電極と、の間の前記組織から第2のバイポーラ電気信号を取得し、前記第1の位置を通る、前記第2の位置と前記第3の位置との間の軸に沿った前記組織のベクトル電気的性質を、前記第1のバイポーラ電気信号及び前記第2のバイポーラ電気信号に基づき補間するように、構成されている、処理回路網と、を備える、医療装置。
(2) 前記第2の電極が前記第1のスパイン上の前記第1の電極に隣接し、前記第2のスパインが前記第1のスパインに隣接している、実施態様1に記載の装置。
(3) 前記第2のスパイン上の前記電極の中で、前記第3の電極が前記第1の電極に最も近い、実施態様2に記載の装置。
(4) 前記処理回路網が、前記第1のバイポーラ電気信号から前記ベクトル電気的性質の縦方向成分を、前記第2のバイポーラ信号から前記ベクトル電気的性質の横方向成分を、導出するように構成されている、実施態様1に記載の装置。
(5) 前記処理回路網が、前記縦方向成分と前記横方向成分とのベクトル和を計算することによって、前記ベクトル電気的性質の振幅及び方向を見付けるように構成されている、実施態様4に記載の装置。
【0040】
(6) 前記第1のバイポーラ信号及び前記第2のバイポーラ信号は、電気活性化波(electrical activation wave)が前記組織を通過することに起因して発生し、前記ベクトル電気的性質が、前記電気活性化波の速度を含む、実施態様1に記載の装置。
(7) 前記ベクトル電気的性質が、前記第1の位置と、前記第1の位置を通る、前記第2の位置と前記第3の位置との間の前記軸上の第4の位置との間の模擬バイポーラ電気信号を含む、実施態様1に記載の装置。
(8) 前記処理回路網が、前記バスケット組立体上の前記電極によって接触される前記組織の範囲にわたって前記ベクトル電気的性質をマッピングするように構成されている、実施態様1に記載の装置。
(9) 前記プローブに接続され、前記バスケット組立体の位置を示す位置信号を出力するように構成された1つ以上の位置センサを備え、前記処理回路網が、前記第1の位置、前記第2の位置、及び前記第3の位置の位置座標を見付けるために前記位置信号を処理し、前記ベクトル電気的性質をマッピングするのに前記位置座標を適用するように構成されている、実施態様8に記載の装置。
(10) 前記挿入チューブが、前記患者の心臓の心腔への挿入用に構成された可撓性カテーテルを含み、前記電極が、前記心腔内の心筋組織における電位を検知するように構成されている、実施態様1に記載の装置。
【0041】
(11) 医療診断の方法であって、
患者の体腔への挿入用に構成されているプローブを提供することであって、前記プローブが、複数の弾性スパインを備えるバスケット組立体を備え、前記複数の弾性スパインが、それぞれの近位先端及びそれぞれの遠位先端を有し、前記それぞれの近位先端と前記それぞれの遠位先端との間に前記スパインのそれぞれの長さに沿って配置された複数の電極を備え、前記スパインの前記近位先端が前記バスケット組立体の近位端で接合され、前記スパインの前記遠位先端が前記バスケット組立体の遠位端で接合され、前記バスケット組立体が前記体腔内で展開されると前記スパインが半径方向外向きに撓み、それによって前記電極が前記体腔内の組織に接触するようになっている、提供することと、
前記バスケット組立体の第1のスパインに沿った第1の位置及び第2の位置にある第1の電極と第2の電極との間の前記組織における第1のバイポーラ電気信号を取得することと、
前記第1の電極と、前記バスケット組立体の第2のスパイン上の第3の位置にある第3の電極との間の前記組織における第2のバイポーラ電気信号を取得することと、
前記第1の位置を通る、前記第2の位置と前記第3の位置との間の軸に沿った前記組織のベクトル電気的性質を、前記第1のバイポーラ信号及び前記第2のバイポーラ信号に基づき、補間することと、を含む、方法。
(12) 前記第2の電極が、前記第1のスパイン上の前記第1の電極に隣接し、前記第2のスパインが、前記第1のスパインに隣接している、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記第2のスパイン上の前記電極の中で、前記第3の電極が前記第1の電極に最も近い、実施態様12に記載の方法。
(14) 前記ベクトル電気的性質を補間することが、前記第1のバイポーラ電気信号から前記ベクトル電気的性質の縦方向成分を、前記第2のバイポーラ信号から前記ベクトル電気的性質の横方向成分を、導出することを含む、実施態様11に記載の方法。
(15) 前記ベクトル電気的性質を補間することが、前記縦方向成分と前記横方向成分とのベクトル和を計算することによって、前記ベクトル電気的性質の振幅及び方向を見付けることを含む、実施態様14に記載の方法。
【0042】
(16) 前記第1のバイポーラ信号及び前記第2のバイポーラ信号は、電気活性化波が前記組織を通過することに起因して発生し、前記ベクトル電気的性質が、前記電気活性化波の速度を含む、実施態様11に記載の方法。
(17) 前記ベクトル電気的性質が、前記第1の位置と、前記第1の位置を通る、前記第2の位置と前記第3の位置との間の前記軸上の第4の位置と、の間の模擬バイポーラ電気信号を含む、実施態様11に記載の方法。
(18) 前記バスケット組立体上の前記電極によって接触される前記組織の範囲にわたって前記ベクトル電気的性質をマッピングすることを含む、実施態様11に記載の方法。
(19) 前記バスケット組立体の位置を示す位置信号を受信することと、前記第1の位置、前記第2の位置、及び前記第3の位置の位置座標を見付けるために前記位置信号を処理することと、を含み、前記ベクトル電気的性質をマッピングすることが、前記ベクトル電気的性質をマッピングするのに前記位置座標を適用することを含む、実施態様18に記載の方法。
(20) 前記第1のバイポーラ信号及び前記第2のバイポーラ信号を取得することが、前記患者の心臓の心腔に可撓性カテーテルを挿入し、前記心腔内の心筋組織における電位を検知するために、前記カテーテルから前記バスケット組立体を展開することを含む、実施態様11に記載の方法。
図1
図2
図3