(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】安定した動作電圧の電解溶離液生成器
(51)【国際特許分類】
G01N 30/02 20060101AFI20241125BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
G01N30/02 B
G01N30/26 E
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020208259
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-11-28
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591025358
【氏名又は名称】ダイオネックス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】ゾンチン ルー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン リウ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー エイ ポール
(72)【発明者】
【氏名】ジンホワ チェン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン チェング
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-292105(JP,A)
【文献】特開昭59-218952(JP,A)
【文献】特表2001-520752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解溶離液生成器であって、
電解質および界面活性剤を含む電解質水溶液を収容するチャンバと、第1の電極と、を含む、電解質リザーバと、
第2の電極を含む溶離液生成チャンバと、
イオン交換膜スタック及び圧縮ブロックを含むイオン交換コネクタと、を備える電解溶離液生成器。
【請求項2】
前記溶離液生成チャンバは、最大約15000psiの圧力で作動するように構成されている、請求項1に記載の電解溶離液生成器。
【請求項3】
前記第2の電極は有孔電極である、請求項1に記載の電解溶離液生成器。
【請求項4】
前記圧縮ブロックは、前記電解質リザーバと前記イオン交換膜スタックとの間に配置されており、前記圧縮ブロックは、複数のチャネルを含む、請求項1に記載の電解溶離液生成器。
【請求項5】
前記界面活性剤は、アニオン性界面活性剤であり、前記イオン交換膜スタックは、正味の負電荷を有し、カチオンを通流させかつアニオンおよびバルク液体流を遮断するように構成されているか、または
前記界面活性剤は、カチオン性界面活性剤であり、前記イオン交換膜スタックは、正味の正電荷を有し、アニオンを通流させかつカチオンおよびバルク液体流を遮断するように構成されている、請求項1に記載の電解溶離液生成器。
【請求項6】
前記界面活性剤は非イオン性界面活性剤である、請求項1に記載の電解溶離液生成器。
【請求項7】
前記界面活性剤は苛性かつ酸に安定な界面活性剤である、請求項1に記載の電解溶離液生成器。
【請求項8】
電解質リザーバに電解質水溶液を提供するステップであって、前記電解質水溶液は電解質および界面活性剤を含み、前記電解質リザーバはイオン交換コネクタによって溶離液生成チャンバに結合されており、前記イオン交換コネクタはイオン交換膜スタックおよび圧縮ブロックを含む、提供するステップと、
前記溶離液生成チャンバ内の第1の電極と前記電解質リザーバ内の第2の電極との間に電圧または電流を印加するステップと、
前記第1の電極において水を電気分解により分割して、前記溶離液生成チャンバ内で水酸化物アニオンまたはヒドロニウムイオンを形成するステップと、
イオンを前記電解質リザーバから前記イオン交換膜スタックを介して前記溶離液生成チャンバに移動させ、カチオン水酸化物溶液を形成するために前記水酸化物アニオンと結合させるか、またはイオンクロマトグラフィ用のアニオン酸溶液を形成するために前記ヒドロニウムイオンと結合させるステップと、を含む、方法。
【請求項9】
前記電解質はカリウム電解質を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記電解質はメタンスルホン酸電解質を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記界面活性剤は、アニオン性界面活性剤であり、前記イオン交換膜スタックは、正味の負電荷を有し、カチオンを通流させかつアニオンおよびバルク液体流を遮断するように構成されているか、または
前記界面活性剤は、カチオン性界面活性剤であり、前記イオン交換膜スタックは、正味の正電荷を有し、アニオンを通流させかつカチオンおよびバルク液体流を遮断するように構成されている、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記界面活性剤は非イオン性界面活性剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記界面活性剤は苛性かつ酸に安定な界面活性剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記界面活性剤は約1ppm~100ppmの濃度である、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記溶離液生成チャンバは、最大約15000psiの圧力である、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記
第1の電極および前記
第2の電極を横切る電流は、少なくとも7日間にわたって、約+/-2.0V以下の範囲内にとどまる電圧を生じる、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
前記
第1の電極および前記
第2の電極を横切る電流は、少なくとも7日間にわたって、開始電圧の10%以下だけ変動する電圧を生じる、請求項8に記載の方法。
【請求項18】
前記圧縮ブロックは複数のチャネルを含み、
前記方法は、前記電解質リザーバ内に気泡を生成するステップを含み、前記気泡は前記複数のチャネルに付着しない、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、安定した動作電圧を有する電解溶離液生成器を含むイオンクロマトグラフィの分野に関する。
【0002】
序論
イオンクロマトグラフィ(IC)は、様々なサンプルマトリックス中のアニオン性およびカチオン性分析物を測定するために広く使用されている分析技術である。ICの一般的な分離カラムは、内径が約2~4ミリメートルの範囲で、0.2~3mL/分の範囲の流量で操作される。ICの性能を向上させるために、より小さな直径の分離カラムを開発する研究が行われている。このような小さなカラムは、内径が約1mm以下の場合、通常、キャピラリ分離カラムと称される。
【0003】
イオンクロマトグラフィでは、酸、塩基、または塩の希釈溶液がクロマトグラフィ溶離液として一般的に使用される。従来、これらの溶離液は試薬グレードの化学物質で希釈することによりオフラインで調製される。クロマトグラフィ溶離液のオフライン調製は面倒で、オペレーターのミスが生じやすく、多くの場合、汚染を招く可能性がある。例えば、アニオンのイオンクロマトグラフィ分離において溶離液として広く使用されている希釈NaOH溶液は、炭酸塩によって簡単に汚染される。炭酸塩は試薬からの不純物として、または空気からの二酸化炭素の吸着によって導入される可能性があるため、炭酸塩を含まないNaOH溶離液の調製は困難である。NaOH溶離液中の炭酸塩の存在は、イオンクロマトグラフィ方法の性能を損なう可能性があり、また、標的分析物の水酸化物勾配の間、さらには再現不能な保持時間の間に、望ましくないクロマトグラフィ基線変動が生じる可能性がある。近年、水の電気分解と、イオン交換媒体を介したイオンの電荷選択的エレクトロマイグレーションとを利用するいくつかのアプローチが、高純度のイオンクロマトグラフィ溶離液を精製または生成するために研究者によって研究されている。米国特許第6,036,921号、同第6,225,129号、同第6,316,271号、同第6,316,270号、同第6,315,954号、および同第6,682,701号は、水を担体として使用して高純度の酸および塩基溶液を生成するために使用することができる電解装置について説明している。これらの装置を使用して、高純度で汚染物質のない酸または塩基溶液が、クロマトグラフィ分離の溶離液として使用するためにオンラインで自動的に生成される。
【発明の概要】
【0004】
第1の態様では、電解溶離液生成器は、電解質リザーバ、溶離液生成チャンバ、およびイオン交換コネクタを含むことができる。電解質リザーバは、電解質および界面活性剤を含む電解質水溶液を収容するチャンバ、ならびに第1の電極を含むことができる。溶離液生成チャンバは、第2の電極を含むことができる。イオン交換コネクタは、イオン交換膜スタックおよび圧縮ブロックを含むことができる。
【0005】
第1の態様の様々な実施形態では、溶離液生成チャンバは、最大約15000psiの圧力で動作するように構成することができる。
【0006】
第1の態様の様々な実施形態では、第2の電極は、有孔カソードであり得る。
【0007】
第1の態様の様々な実施形態では、圧縮ブロックは、電解質リザーバとイオン交換膜スタックとの間に配置することができ、圧縮ブロックは、複数のチャネルを含むことができる。
【0008】
第1の態様の様々な実施形態において、界面活性剤は、(a)アニオン性界面活性剤であり得、イオン交換膜スタックは、正味の負電荷を有することができ、カチオンを通流させかつアニオンおよびバルク液体流を遮断するように構成することができるか、または(b)カチオン性界面活性剤であり得、イオン交換膜スタックは、正味の正電荷を有することができ、アニオンを通流させかつカチオンおよびバルク液体流を遮断するように構成することができる。
【0009】
第1の態様の様々な実施形態において、界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であり得る。
【0010】
第1の態様の様々な実施形態において、界面活性剤は、苛性かつ酸に安定性の界面活性剤であり得る。
【0011】
第2の態様では、方法は、電解質水溶液を電解質リザーバに提供することを含むことができ、電解質水溶液は、電解質および界面活性剤を含み、電解質リザーバは、イオン交換コネクタによって溶離液生成チャンバに結合されている。イオン交換コネクタは、イオン交換膜スタックおよび圧縮ブロックを含むことができる。この方法は、溶離液生成チャンバにおける第1の電極および電解質リザーバにおける第2の電極にわたって電圧または電流を印加し、溶離液生成チャンバにおいて水酸化物アニオンまたはヒドロニウムイオンを形成するために第1の電極において水を電解により分割し、イオンを電解質リザーバからイオン交換膜スタックを通じて溶離液生成チャンバへ移動させ、イオンクロマトグラフィのために、カチオン水酸化物溶液を形成するために水酸化物アニオンと結合させるかまたはアニオン酸性溶液を形成するためにヒドロニウムイオンと結合させることをさらに含むことができる。
【0012】
第2の態様の様々な実施形態では、電解質は、カリウム電解質を含むことができる。
【0013】
第2の態様の様々な実施形態では、電解質は、メタンスルホン酸電解質を含むことができる。
【0014】
第2の態様の様々な実施形態において、界面活性剤は、(a)アニオン性界面活性剤であり得、イオン交換膜スタックは、正味の負電荷を有することができ、カチオンを通流させかつアニオンおよびバルク液体流を遮断するように構成することができるか、または(b)カチオン性界面活性剤であり得、イオン交換膜スタックは、正味の正電荷を有することができ、アニオンを通流させかつカチオンおよびバルク液体流を遮断するように構成することができる。
【0015】
第2の態様の様々な実施形態では、界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であり得る。
【0016】
第2の態様の様々な実施形態では、界面活性剤は、苛性かつ酸に安定性の界面活性剤であり得る。
【0017】
第2の態様の様々な実施形態では、界面活性剤は、約1ppm~100ppmの濃度であり得る。
【0018】
第2の態様の様々な実施形態では、溶離液生成チャンバは、最大約15000psiの圧力であり得る。
【0019】
第2の態様の様々な実施形態では、アノードおよびカソードを横切る電流は、少なくとも7日間にわたって、約+/-2.0V以下の範囲内にとどまる電圧を生じることができる。
【0020】
第2の態様の様々な実施形態では、アノードおよびカソードを横切る電流は、少なくとも7日間にわたって、開始電圧の10%以下だけ変動する電圧を生じることができる。
【0021】
第2の態様の様々な実施形態では、圧縮ブロックは、複数のチャネルを含むことができ、方法は、電解質リザーバ内に気泡を生成することをさらに含むことができ、気泡は複数のチャネルに付着しない。
【0022】
第3の態様では、電解溶離液生成器は、電解質リザーバ、溶離液生成チャンバ、およびイオン交換コネクタを含むことができる。電解質リザーバは、電解質水溶液および第1の電極を収容するチャンバを含むことができる。溶離液生成チャンバは、第2の電極を含むことができる。イオン交換コネクタは、イオン交換膜スタックと、親水性表面を有する表面修飾されたポリマーを含む圧縮ブロックと、を含むことができる。
【0023】
第3の態様の様々な実施形態において、電解質水溶液は、カリウム電解質を含むことができる。
【0024】
第3の態様の様々な実施形態では、電解質水溶液は、メタンスルホン酸電解質を含むことができる。
【0025】
第3の態様の様々な実施形態において、表面修飾されたポリマーは、化学的に修飾されたポリマーである。特定の実施形態では、化学的に修飾されたポリマーは、水素化ホウ素ナトリウムを使用して化学的に修飾することができる。特定の実施形態では、化学的に修飾されたポリマーは、ケトン官能基をアルコール官能基に変換することによって修飾することができる。特定の実施形態では、化学的に修飾されたポリマーは、アルコール官能化ポリエーテルエーテルケトン(PEEK-OH)を含むことができる。
【0026】
第3の態様の様々な実施形態では、表面修飾されたポリマーは、酸素プラズマ処理されたポリマーであり得る。特定の実施形態では、酸素プラズマ処理されたポリマーは、アルコールおよびカルボニル官能基を含むことができる。
【0027】
第3の態様の様々な実施形態では、溶離液生成チャンバは、最大約15000psiの圧力で動作するように構成される。
【0028】
第3の態様の様々な実施形態では、第2の電極は、有孔カソードであり得る。
【0029】
第3の態様の様々な実施形態では、圧縮ブロックは、電解質リザーバとイオン交換膜スタックとの間に配置することができ、圧縮ブロックは、複数のチャネルを含むことができる。
【0030】
第4の態様では、方法は、電解質水溶液を電解質リザーバに提供することを含むことができ、電解質リザーバは、イオン交換コネクタによって溶離液生成チャンバに結合されている。イオン交換コネクタは、イオン交換膜スタックおよび圧縮ブロックを含むことができる。圧縮ブロックは、親水性表面を有する表面修飾されたポリマーを含むことができる。この方法は、溶離液生成チャンバにおける第1の電極および電解質リザーバにおける第2の電極にわたって電流または電圧を印加し、溶離液生成チャンバにおいて水酸化物アニオンまたはヒドロニウムイオンを形成するためにカソードにおいて水を電解により分割し、イオンを電解質リザーバからイオン交換膜スタックを通じて溶離液生成チャンバへ移動させ、イオンクロマトグラフィのために、カチオン水酸化物溶液を形成するために水酸化物アニオンと結合させるかまたはアニオン酸性溶液を形成するためにヒドロニウムイオンと結合させることをさらに含むことができる。
【0031】
第4の態様の様々な実施形態において、電解質水溶液は、カリウム電解質を含むことができる。
【0032】
第4の態様の様々な実施形態では、電解質水溶液は、メタンスルホン酸電解質を含むことができる。
【0033】
第4の態様の様々な実施形態において、表面修飾されたポリマーは、化学的に修飾されたポリマーであり得る。特定の実施形態では、化学的に修飾されたポリマーは、水素化ホウ素ナトリウムを使用して化学的に修飾することができる。特定の実施形態では、化学的に修飾されたポリマーは、ケトン官能基をアルコール官能基に変換することによって修飾することができる。特定の実施形態では、化学的に修飾されたポリマーは、アルコール官能化ポリエーテルエーテルケトン(PEEK-OH)を含むことができる。
【0034】
第4の態様の様々な実施形態では、表面修飾されたポリマーは、酸素プラズマ処理されたポリマーであり得る。特定の実施形態では、酸素プラズマ処理されたポリマーは、アルコールおよびカルボニル官能基を含むことができる。
【0035】
第4の態様の様々な実施形態では、溶離液生成チャンバは、最大約15000psiの圧力である。
【0036】
第4の態様の様々な実施形態では、アノードおよび陰極を横切る電流は、少なくとも7日間にわたって、約+/-2.0V以下の範囲内にとどまる電圧を生じることができる。
【0037】
第4の態様の様々な実施形態では、アノードおよびカソードを横切る電流は、少なくとも7日間にわたって、開始電圧の10%以下だけ変動する電圧を生じることができる。
【0038】
第4の態様の様々な実施形態では、圧縮ブロックは、複数のチャネルを含むことができ、方法は、電解質リザーバ内に気泡を生成することをさらに含むことができ、気泡は複数のチャネルに付着しない。
【0039】
ここで、本明細書において開示される原理、およびその利点のより完全な理解のために、添付の図面と併せて考慮される以下の説明が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】様々な実施形態による、溶離液生成器を含むクロマトグラフィシステムを示す。
【
図2A】様々な実施形態による溶離液生成器を示す。
【
図2B】様々な実施形態による溶離液生成器を示す。
【
図3】様々な実施形態による、PEEKの化学修飾を示す。
【
図4】様々な実施形態による、溶離液生成器の膜圧縮ブロックを化学的に修飾する方法を示す。
【
図5】様々な実施形態による、溶離液生成器の膜圧縮ブロックを化学的に修飾する方法を示す。
【
図6】様々な実施形態による、化学的に修飾された溶離液生成器の操作方法を示す。
【
図7】様々な実施形態による、界面活性剤を用いた溶離液生成器の操作方法を示す。
【
図8】未修飾の電解KOH生成器の動作電圧プロファイルを示す。
【
図9】ジメチルスルホキシド(DMSO)中の水素化ホウ素ナトリウムを使用して修飾されたPEEK膜圧縮ブロック部品を備えた電解KOH生成器の動作電圧プロファイルを示す。
【
図10】酸素プラズマを使用して修飾されたPEEK膜圧縮ブロック部品を備えた電解KOH生成器の動作電圧プロファイルを示す。
【
図11】7つの共通アニオンの分離を示し、未修飾の電解KOH生成器を使用して得られた結果と、酸素プラズマを使用して修飾されたPEEK膜圧縮ブロック部品を備えた電解KOH生成器を使用した結果とを比較している。
【
図12】酸素プラズマを使用して修飾されたPEEK膜圧縮ブロック部品を備えた電解KOH生成器を使用した、フッ化物とリン酸塩との分離の再現性を示す。
【
図13】TERGITOL MINフォームで処理されたPEEK膜圧縮ブロック部品を備えた電解KOH生成器の動作電圧プロファイルを示す。
【
図14】TRITON H55で処理されたPEEK膜圧縮ブロック部品を備えた電解KOH生成器の動作電圧プロファイルを示す。
【0041】
図は必ずしも縮尺通りに描かれておらず、図内の物体が互いに対する関係において必ずしも縮尺通りに描かれていないことを理解されたい。図は、本明細書で開示された装置、システム、および方法の様々な実施形態に対する明確さおよび理解をもたらすことを意図した描写である。可能な限り、同じ参照番号が、同じまたは同様の部品を指すように全図面を通じて使用される。さらに、図面が、本発明の教示の範囲をいかようにも限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0042】
イオン分離のためのシステムおよび方法の実施形態について本明細書で説明する。
【0043】
本明細書で使用される節の見出しは、構成目的のためのものであって、記載される主題を多少なりとも限定するものと解釈されるべきでない。
【0044】
様々な実施形態のこの詳細な説明では、説明の目的のために、多くの特定の詳細が、開示された実施形態の全体的な理解を提供するために記載される。しかしながら、これらの様々な実施形態はこれらの特定の詳細の有無にかかわらず実行されてもよいことを当業者は理解するだろう。他の例では、構造および装置はブロック図の形態で示されている。さらに、方法が提示および実行される具体的な順序は例示的なものであり、順序は変更することができ、依然として本明細書で開示される様々な実施形態の趣旨および範囲内にとどまり得ることが企図されていることを、当業者であれば容易に理解することができる。
【0045】
それらに限定されるものではないが、特許、特許出願、記事、書籍、論文、およびインターネットウェブページを含む、本出願で引用される全ての文献および同様の資料が、いかなる目的であれ、それらの全体が参照によって明示的に組み込まれる。別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は、本明細書で記載される様々な実施形態が属する当技術分野における当業者によって共通に理解されるものであるという意味を有する。
【0046】
本教示において論じられる温度、濃度、時間、圧力、流量、断面積などの前に暗黙の「約」が存在し、そのため、極めて小さい僅かな偏差が本教示の範囲内にあることが理解されるであろう。本出願において、単数形の使用は、別段具体的に記載されない限り、複数形を含む。また、「備える(comprise)」、「備える(comprises)」、「備えている(comprising)」、「含有する(contain)」、「含有する(contains)」、「含有している(containing)」、「含む(include)」、「含む(includes)」、および「含んでいる(including)」の使用は限定することを意図していない。前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は、例示的かつ説明的なものにすぎず、本教示を限定するものではないことを理解されたい。
【0047】
本明細書において使用されるとき、「a」または「an」は、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を指すこともある。また、「または」の使用は包括的であり、したがって、「AまたはB」という言い回しは、「A」が真であるとき、「B」が真であり、または「A」および「B」の両方が真であるときに、真ある。さらに、文脈によって別段必要とされない限り、単数の用語は複数を含み、複数の用語は単数を含むものとする。
【0048】
「システム」は、各成分が全体内の少なくとも1つの他の成分と相互作用するか、またはそれと関連する全体を含む、実際であれ抽象であれ、成分のセットを示す。
【0049】
クロマトグラフィシステム
図1は、クロマトグラフィシステム100の実施形態を示している。クロマトグラフィシステム100は、ポンプ102、電解溶離液生成器104、連続再生式トラップカラム106、脱ガス器108、サンプルインジェクタ110、クロマトグラフィ分離装置112、電解サプレッサ114、検出器116、およびマイクロプロセッサ118を含み得る。クロマトグラフィ分離装置112は、キャピラリーカラムまたは分析カラムの形態であってもよい。リサイクルライン120は、液体を検出器116の送出から電解サプレッサ114の入口に移送するために使用され得、リサイクルライン122は、液体を電解サプレッサ114の出口から脱ガス器108の入口に移送するために使用され得、リサイクルライン124は、液体を脱ガス器108の出口から、連続再生式トラップカラム106の入口に移送するために使用され得る。
【0050】
ポンプ102は、液体源から液体をポンプ圧送し、電解溶離液生成器104に流体的に接続されるように構成することができる。一実施形態では、液体は、脱イオン水、電解質(複数可)を含む水溶液、または有機溶媒と脱イオン水もしくは電解質(複数可)水溶液との混合物であってもよい。いくつかの電解質の例は、酢酸ナトリウムおよび酢酸である。有機溶媒を含有する溶離液混合物は、例えば、メタノールなどの水混和性有機溶媒を含んでもよい。ポンプ102は、約20PSI~約15000PSIの範囲の圧力で液体を輸送するように構成することができる。特定の状況下では、15000PSIを超える圧力が実行されることもある。本明細書に示されている圧力は、周囲圧力(13.7PSI~15.2PSI)を基準として列挙されていることに留意されたい。ポンプ102は、高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)ポンプの形態であってもよい。さらに、ポンプ102は、液体がポンプ102の不活性部分にのみ接触するように構成することもでき、これにより、かなりの量の不純物が浸出することはない。この文脈において、かなりとは、意図された測定を妨げる不純物の量を意味する。例えば、不活性部分は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)で作製することができるか、または少なくとも、液体にさらされたときにかなりの量のイオンを浸出させることがないPEEKライニングでコーティングすることができる。
【0051】
溶離液は、酸、塩基、塩、またはそれらの混合物を含む液体であり、クロマトグラフィカラムを介して分析物を溶出するために使用することができる。さらに、溶離液は、液体と水混和性有機溶媒との混合物を含むことができ、液体は、酸、塩基、塩、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。電解溶離液生成器104は、ジェネラントを生成するように構成されている。ジェネラントとは、溶離液に加えることができる特定の種類の酸、塩基、または塩を指す。一実施形態では、ジェネラントは、カチオン性水酸化物などの塩基であってもよく、またはジェネラントは、炭酸、リン酸、酢酸、メタンスルホン酸、またはそれらの組み合わせなどの酸であってもよい。
【0052】
図1を参照すると、溶離液生成器104は、ポンプ102から液体を受け取り、次にジェネラントを液体に加えるように構成することができる。ジェネラントを含有する液体は、溶離液生成器104から、連続再生式トラップカラム106の入口へ送出することができる。
【0053】
連続再生式トラップカラム106は、溶離液からカチオン性またはアニオン性汚染物質を除去するように構成されている。連続再生式トラップカラム106は、溶離液出口に電極を備えたイオン交換床を含むことができる。イオン交換膜界面は、溶離液を第2の電極から分離させることができ、汚染イオンは、イオン交換膜によって第2の電極に向かって一掃することができる。様々な実施形態において、アニオン除去は、アニオン交換膜によってアノードから分離された溶離液出口にカソードを備えたアニオン交換床を利用することができる。あるいは、カチオン除去は、カチオン交換膜によってカソードから分離された溶離液出口にアノードを備えたカチオン交換床を利用することができる。汚染イオンは、脱ガスアセンブリ108の下流にあるリサイクルライン124を介してリサイクル液体を使用して再生式トラップカラム106から一掃することができる。
【0054】
脱ガス器108は、残留ガスを除去するために使用され得る。一実施形態では、残留ガスは水素および酸素であってもよい。脱ガス器108は、例えば、アモルファスフルオロポリマーまたはより具体的にはテフロン(登録商標)AFなどの、ガス透過性および液体不透過性であるチュービングセクションを含んでもよい。流れる液体は、ガスのかなりの部分が除去された状態で、脱ガス器108からサンプルインジェクタ110へ送出することができる。ガスは、電解サプレッサ114の下流にあるリサイクルライン122を介してリサイクル液体を使用して脱ガス器108から一掃することができる。残留ガスを含有するリサイクル液体も、脱ガス器108から送出され、連続再生式トラップカラム106へ方向付けられ得る。
【0055】
サンプルインジェクタ110は、液体サンプルのボーラスを溶離液流に注入するために使用することができる。液体サンプルは、複数の化学成分(すなわち、マトリックス成分)および1つ以上の対象の分析物を含み得る。
【0056】
液体サンプル中に存在する様々なマトリックス成分を目的の分析物(複数可)から分離するために、クロマトグラフィ分離装置112を使用することができる。典型的には、クロマトグラフィ分離装置112は、詰め込まれた固定相を収容する中空シリンダーの形態であってもよい。液体サンプルがクロマトグラフィ分離装置112を通って流れるとき、マトリックス成分および標的分析物は、クロマトグラフィ分離装置112から溶出するために様々な保持時間を有することができる。標的分析物およびマトリックス成分の特性に応じて、それらは、クロマトグラフィ分離装置112の固定相に対して異なる親和性を有することができる。クロマトグラフィ分離装置112の送出口は、電解サプレッサ114に流体的に接続することができる。
【0057】
再生イオンのための溶離液の対イオンの効率的な交換により、溶離液導電率バックグラウンドを低減し、分析物の応答を向上させるために、電解サプレッサ114を使用することができる。電解サプレッサ114は、イオン交換膜によって分離されたアノードチャンバ、カソードチャンバ、および溶離液抑制床チャンバを含むことができる。アノードチャンバおよび/またはカソードチャンバは、再生イオンを生成することができる。溶離液抑制床チャンバは、イオン交換バリアによって再生剤から分離された溶離液の流路を含むことができ、溶離液対イオンは、イオン交換バリアを越えて再生イオンと交換することができる。カソードチャンバまたはアノードチャンバには、導電率検出器116の下流にあるリサイクルライン120を介してリサイクル液体を供給することができる。電解サプレッサ114の送出口は、液体サンプルの分離された化学成分の存在を測定するために、検出器116に流体的に接続することができる。
【0058】
図1に示されるように、検出器116からの溶離液の送出流体は、リサイクルライン120を介して電解サプレッサ114にリサイクルされ、電解サプレッサ114の送出流体は、リサイクルライン122を介して脱ガス器108にリサイクルされ、脱ガス器108からの送出流体は、リサイクルライン124を介して連続再生式トラップカラム106にリサイクルされ、連続再生式トラップカラム106の送出流体は、廃棄部へ流れる。
【0059】
検出器116は、紫外可視分光計、蛍光分光計、電気化学検出器、導電率検出器、電荷検出器、またはそれらの組み合わせの形態であってもよい。帯電バリアおよび2つの電極に基づく電荷検出器に関する詳細は、参照により本明細書に完全に組み込まれる米国付与前公開第20090218238号に見出すことができる。リサイクルライン120が必要とされない状況では、検出器116もまた、質量分析計または荷電化粒子検出器の形態であってもよい。荷電化粒子検出器は、流出流を霧化し、分析物の濃度に比例した電流として測定することができる荷電粒子を生成する。荷電化粒子検出器に関する詳細は、参照することにより本明細書に完全に組み込まれる米国特許第6,544,484号および同第6,568,245号に見出すことができる。
【0060】
電子回路は、マイクロプロセッサ118、タイマー、およびメモリ部分を含んでもよい。さらに、電子回路は、それぞれ制御信号を適用するように構成された電源を含んでもよい。マイクロプロセッサ118は、クロマトグラフィシステム100の動作を制御するために使用することができる。マイクロプロセッサ118は、クロマトグラフィシステム100に統合されてもよく、またはクロマトグラフィシステム100と通信するパーソナルコンピュータの一部であってもよい。マイクロプロセッサ118は、ポンプ102、溶離液生成器104、サンプルインジェクタ110、および検出器116などのクロマトグラフィシステムの1つ以上の構成要素と通信し、それらを制御するように構成され得る。メモリ部分は、サンプルを注入するサンプルインジェクタ110のスイッチングに関して、電流波形の大きさおよびタイミングを設定するための命令を記憶するために使用され得る。
【0061】
図2Aは、電解生成器カートリッジ200の動作原理を示している。カートリッジは、高圧溶離液生成チャンバ202および低圧電解質リザーバ204を含むことができる。様々な実施形態において、高圧生成チャンバ202は、最大約15000psi、例えば、約2000psi~約10000psiなどの圧力で動作することができる。
【0062】
溶離液生成チャンバ202は、有孔白金(Pt)電極206を含むことができる。電解質リザーバ204は、Pt電極208および電解質溶液を収容することができる。様々な実施形態において、電解生成器カートリッジ200は、KOHなどの塩基を生成することができ、電極206は、水酸化物イオンを形成することができるカソードであり得、電極208は、アノードであり得る。他の実施形態では、電解生成カートリッジ200は、炭酸、リン酸、酢酸、メタンスルホン酸などの酸を生成することができ、電極206は、ヒドロニウムイオンを形成することができるアノードであり得、電極208はカソードであり得る。溶離液生成チャンバ202は、交換コネクタ210によって電解質リザーバ204に接続することができ、交換コネクタ210は、電解質リザーバ204から高圧生成チャンバ202への1つの電荷のみのイオンの通過を可能にすることができる。交換コネクタ210はまた、低圧電解質リザーバ204と高圧生成チャンバ202との間の高圧物理的バリアという重要な役割を果たすことができる。電解生成器カートリッジ200が塩基生成器である様々な実施形態では、交換コネクタ210は、電解質リザーバ204から生成チャンバ202へのアニオンの通過を実質的に防止しながら、カチオンの通過を可能にすることができる。電解生成器カートリッジ200が酸生成器である代替的な実施形態では、交換コネクタ210は、電解質リザーバ204から生成チャンバ202へのカチオンの通過を実質的に防止しながら、アニオンの通過を可能にすることができる。
【0063】
KOH溶離液を生成するためには、脱イオン水を溶離液生成チャンバ202を通じてポンプ圧送することができ、DC電流を電極208と電極206との間に印加することができる。印加された電界の下で、水の電気分解が、装置200の電極208および電極206の両方において生じ得る。電解質リザーバ204の電極208においてH+イオンおよび酸素ガスを形成するために水を酸化させることができる:H2O→2H++1/2O2↑+2e-。KOH生成チャンバ202の電極206においてOH-イオンおよび水素ガスを形成するために水を還元することができる:2H2O+2e-→2OH-+ H2↑。アノード206において生成されたH+イオンが電解質リザーバ204においてK+イオンを置換するため、置換されたイオンは、カチオン交換コネクタ210を横切って溶離液生成チャンバ202へ移動することができる。これらのK+イオンは、カソード206において生成された水酸化物イオンと結合してKOH溶液を生成することができ、このKOH溶液を、アニオン交換クロマトグラフィの溶離液として使用することができる。生成されたKOHの濃度は、生成器カートリッジ200に印加される電流および生成チャンバ202を通る担体としての水の流量によって決定することができる。
【0064】
メタスルホン酸溶離液を生成するためには、脱イオン水を溶離液生成チャンバ202を通じてポンプ圧送することができ、DC電流を電極208と電極206との間に印加することができる。印加された場の下で、水の電気分解が、装置200の電極208および電極206の両方において生じ得る。KOH生成チャンバ202の電極206においてH+イオンおよび酸素ガスを形成するために水を酸化させることができる:H2O→2H++1/2O2↑+2e-。電解質チャンバ204の電極208においてOH-イオンおよび水素ガスを形成するために水を還元することができる:2H2O+2e-→2OH-+ H2↑。電極206において生成されたOH-イオンが電解質リザーバ204においてメタスルホン酸塩イオンを置換するため、置換されたイオンは、アニオン交換コネクタ210を横切って溶離液生成チャンバ202へ移動することができる。これらのメタスルホン酸塩イオンは、電極206において生成されたヒドロニウムイオンと結合してメタスルホン酸溶液を生成することができ、このメタスルホン酸溶液を、カチオン交換クロマトグラフィの溶離液として使用することができる。生成されたメタスルホン酸の濃度は、生成器カートリッジ200に印加される電流および生成チャンバ202を通る担体としての水の流量によって決定することができる。
【0065】
図2Bは、電解生成器200の断面図を示している。イオン交換膜212のスタックは、生成チャンバ202が高圧に耐えることができるように、PEEK圧縮ブロック214によって支持されている。様々な実施形態において、PEEK圧縮ブロック214は、典型的には円筒形であり得る開放した垂直チャネルによって穿孔されている場合がある。低圧電解質リザーバ204内の電解質溶液は、PEEK膜圧縮ブロック214の開放した垂直チャネル216を介して、イオン交換膜スタック212と直接接触している。
【0066】
電解生成器202の動作中、電解質リザーバ204内に位置するアノードにおいて酸素ガスを生成することができる。酸素ガスの大部分は上昇し、低圧電解質リザーバ204のベントポートから放出される。ただし、一部の酸素ガスはアルカリ性溶液に溶解し、凝集して気泡を形成する可能性がある。これらの酸素気泡は、低圧電解質リザーバ204およびPEEK膜圧縮ブロック214の疎水性表面に付着する可能性があり、気泡の一部は、定着し、PEEK膜圧縮ブロック214の開放した垂直チャネル216を遮断する可能性がある。
【0067】
PEEK膜圧縮ブロック214の開放した垂直チャネルが酸素気泡によって遮断されると、低圧電解質リザーバ204内の電解質溶液と、イオン交換膜スタック212との接触が減少するか、または失われる可能性がある。したがって、カチオン交換膜スタック212を横切る溶離液生成チャンバ202内への電解質リザーバ204内のイオンの移動は、結果として制限される可能性があり、電解質生成器200の動作電圧の上昇をもたらす。より高い動作電圧は、より高い動作ワット数、および、場合によっては、電解質生成器202の動作中に生成される過剰な量の熱につながる可能性がある。過度の熱量は、イオン交換膜212の損傷につながることがあり、電解溶離液生成器202の信頼できる動作にとって有害である可能性がある。低圧電解質リザーバ204の疎水性表面およびPEEK膜圧縮ブロック214の開放した垂直チャネル216に付着することがある気泡の影響を回避することができる電解溶離液生成器の新しい実施形態を開発する必要がある。
【0068】
水溶液中の気泡は、低圧電解質リザーバ204およびPEEK膜圧縮ブロック214の表面などの固体表面に付着する傾向がある。固体表面上の気泡の接触角は、固体表面の疎水性に依存する。気泡の接触角は、通常、親水性表面において90°未満であり得、気泡の接触角は、通常、疎水性表面において90°より大きくなり得る。水溶液中の親水性表面に付着する気泡の量およびサイズは、水溶液中の疎水性表面と比較した場合、大幅に減らすことができる。
【0069】
化学的修飾
低圧電解質リザーバおよびPEEK膜圧縮ブロックの表面に付着する酸素気泡の量およびサイズを低減および最小化するために表面が親水性になるように修飾された高強度ポリマー部品を使用して構築された電解溶離液生成器の実施形態について説明する。表面修飾された電解溶離液生成器は、PEEK膜圧縮ブロックの開放した垂直チャネルの遮断を排除することができ、低圧電解質リザーバ内の電解質溶液と、イオン交換膜スタックとの間の連続的な流体接触を維持することができ、したがって、電解KOH生成器の動作電圧の安定化および動作信頼性の向上を提供することができる。
【0070】
PEEK膜圧縮ブロックの疎水性表面は、
図3に示したように、ジメチルスルホキシド(DMSO)中の水素化ホウ素ナトリウムを使用してPEEKケトン官能基をアルコール官能基(PEEK-OH)に変換することにより、親水性表面に化学的に修飾することができる。
【0071】
図4は、PEEK膜圧縮ブロックを化学的に修飾する方法400を示している。402において、修飾溶液を調製することができる。例えば、水素化ホウ素ナトリウムおよびジメチルスルホキシドを、磁気バーで攪拌しながらフラスコに加えることができ、アルゴンブランケットの雰囲気を適用した。フラスコは、120℃などの油浴中で加熱することができる。水素化ホウ素ナトリウムが完全に溶解した後、404に示されているように、PEEK膜圧縮ブロックを処理することができる。例えば、部品をフラスコに追加することができる。様々な実施形態において、部品を修飾溶液と反応させることは、4時間以上継続することができる。406において部品を修飾溶液から取り出すことができ、408において部品を洗浄することができる。たとえば、室温まで冷却した後、DMSO溶液を廃棄し、PEEK部品をそれぞれイソプロピルアルコールによって2回、アセトンによって3回洗浄することができる。部品を洗浄した後、410に示されているように、電解KOH溶離液生成器カートリッジを組み立てることができる。
【0072】
図5は、PEEK表面上にアルコールおよびカルボニル官能基を含む親水性表面を形成するために、酸素プラズマ処理を使用してPEEK膜圧縮ブロックの疎水性表面を修飾する方法500を示している。502においてPEEK膜圧縮ブロック部品を洗浄することができる。例えば、PEEK膜圧縮ブロック部品を、DI H
2Oによって完全にすすいだ後、オーブンで一晩乾燥させることができる。504において部品を処理することができる。例えば、部品は、酸素プラズマ処理のためにプラズマクリーナー/滅菌器のプラズマチャンバ内に配置することができる。様々な実施形態において、酸素プラズマ処理は、一度に60分間、高レベルの酸素プラズマを用いて実施することができ、プラズマ処理を3回繰り返す。506において、電解KOH溶離液生成器カートリッジを組み立てるために、酸素プラズマ処理された部品を使用することができる。
【0073】
図6は、化学的に修飾された電解溶離液生成器を操作する方法600を示す。602において、電解溶離液生成器は、K
+イオン電解質溶液などの電解質溶液で調製することができる。604において、電解溶離液生成器に電圧を印加することができ、606において、電解溶離液生成器が電解溶離液を生成することができる。様々な実施形態において、アノードおよびカソードを流れる電流は、少なくとも7日間にわたって、約+/-2.0Vの範囲、例えば、約+/- 1.0Vの範囲、さらに約+/- 0.5Vの範囲にとどまる電圧を生じる。様々な実施形態において、アノードおよびカソードを流れる電流は、少なくとも7日間にわたって、開始電圧の約10%以下だけ変動する電圧を生じる。608において、クロマトグラフィ分離を実行するために電解溶離液を使用することができる。
【0074】
界面活性剤
電解溶離液生成器の別の好ましい実施形態では、低圧電解質リザーバおよびPEEK膜圧縮ブロックの表面に付着する酸素気泡の量およびサイズを低減および最小化するために、PEEK表面をコーティングするためにイオン性または親水性官能基を含有する界面活性剤を使用することができる。この実施形態では、少量の界面活性剤を電解質溶液に加えることができる。界面活性剤は、電解質溶液中で化学的に安定するはずであり、印加された電界の下でイオン交換膜スタックを横切って移動することはできない。
【0075】
様々な実施形態において、界面活性剤は、イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤であり得る。特定の実施形態では、イオン性界面活性剤は、KOHの生成などのために塩基生成器において使用される場合、アニオン性界面活性剤であり得る。あるいは、カチオン性界面活性剤は、メタンスルホン酸の生成などのために酸生成器において使用するための適切なイオン性界面活性剤であり得る。さらに、界面活性剤は、苛性または酸性溶液中で安定であり得る。
【0076】
様々な実施形態において、界面活性剤は、約1ppmから約100ppmの間の濃度であり得る。
【0077】
図7は、界面活性剤を用いて電解溶離液生成器を操作する方法700を示している。702において、界面活性剤を電解質溶液に加えることができ、704において、電解質溶離液生成器は、K
+イオン電解質溶液などの電解質溶液で調製することができる。例えば、電解質溶液に、TERGITOL MINフォームなどの非イオン性界面活性剤を添加することができる。別の例では、溶離液が塩基である場合、電解質溶液にTRITON H55などのアニオン界面活性剤を添加することができ、イオン交換膜スタックは、正味の負電荷を有することができ、カチオンを通流させかつアニオンおよびバルク液体流を遮断するように構成することができる。さらに別の例では、溶離液が酸である場合、電解質溶液にカチオン性界面活性剤を添加することができ、イオン交換膜スタックは正味の正電荷を有することができ、アニオンを通流させかつカチオンおよびバルク液体流を遮断するように構成されている。有利には、イオン交換膜スタックは、界面活性剤が溶離液を汚染するのを防ぐことができる。706において、電解溶離液生成器に電圧を印加することができ、708において、電解溶離液生成器が電解溶離液を生成することができる。様々な実施形態において、アノードおよびカソードを流れる電流は、少なくとも7日間にわたって、約+/-2.0Vの範囲、例えば、約+/-1.0Vの範囲にとどまる電圧を生じる。様々な実施形態において、アノードおよびカソードを流れる電流は、少なくとも7日間にわたって、開始電圧の約10%以下だけ変動する電圧を生じる。710において、クロマトグラフィ分離を実行するために電解溶離液を使用することができる。
【0078】
本教示を様々な実施形態と併せて記載するが、本教示をかかる実施形態に限定することを意図していない。むしろ、本教示は、当業者が理解するように、様々な代替物、変形物、および等価物を包含する。
【0079】
さらに、様々な実施形態の記載において、本明細書は、方法および/またはプロセスを特定の順序のステップとして提示している場合がある。しかしながら、本方法またはプロセスが本明細書に記載されたステップの特定の順序に依拠しないかぎりにおいて、本方法またはプロセスは、記載されたステップの特定の順序に限定されるべきではない。当業者であれば理解するように、ステップの他の順序が可能であり得る。したがって、本明細書に記載されたステップの特定の順序を、請求項における限定として解釈すべきではない。加えて、本方法および/またはプロセスを対象とする特許請求の範囲は、書かれた順序でのそれらのステップの実行に限定されるべきではなく、順序は変更されてもよく、依然として様々な実施形態の趣旨および範囲内にとどまり得ることを当業者であれば容易に理解することができる。
【0080】
結果
図8は、1.5mL/分、60 mM KOHおよび4150psiの条件下における、修飾されていない電解KOH生成器の動作電圧プロファイルの例を示す。カートリッジの動作電圧は、一日の連続動作の中で比較的安定したままである。しかしながら、その後、カートリッジの動作電圧は約12Vから上昇し始めて35Vを超え、電解KOH溶離液生成器の動作中に過剰な量の熱の生成につながる。
【0081】
図9は、ジメチルスルホキシド(DMSO)中の水素化ホウ素ナトリウムを使用してPEEKケトン官能基をアルコール官能基に変換することによって修飾されたPEEK膜圧縮ブロック部品を使用する電解KOH溶離液生成器で得られた典型的な動作電圧プロファイルを示す。1.5mL/分、60 mM KOH、3550psiの条件下では、装置動作電圧は、7日の連続動作の間、15.7Vから16.5Vの範囲で安定している。つまり、電圧は約+/-0.5Vの範囲内で、開始電圧の10%未満内で変動する。
【0082】
図10は、1.5mL/分、60 mM KOH、3995psiの条件下で、酸素プラズマによって修飾されたPEEK膜圧縮ブロック部品を使用する電解KOH溶離液生成器において得られた典型的な動作電圧プロファイルを示し、装置動作電圧は、10日間の連続動作の間、14.5V~15.5Vの範囲で安定している。つまり、電圧は約+/-0.5Vの範囲内に、開始電圧の10%未満にとどまる。
【0083】
図11は、DIONEX IONPAC AS11-HC 4μmカラムにおける7つの共通アニオンの分離を示す(アニオン濃度については表1を参照)。結果は、標準的なDIONEX EGC 500 KOHカートリッジと、酸素プラズマで処理されたPEEK膜圧縮ブロックを使用して組み立てられた修飾されたDIONEX EGC-500 KOHカートリッジとを使用して、同一の分離が得られたことを示している。試験条件は、1.5mL/分、30mM KOH、4200psi、15分/ランおよび10μL注入である。保持時間とピーク形状との比較を提供するために基線はy軸上でシフトさせられている。結果は、酸素プラズマ処理による表面修飾が、DIONEX EGC-500 KOHカートリッジの性能に影響を与えないことを示している。
【0084】
表1:修飾されたKOH生成器と非修飾のKOH生成器とを比較するための分析物
【0085】
図12は、酸素プラズマで処理されたPEEK膜圧縮ブロックを使用して組み立てられたDIONEX EGC 500 KOHカートリッジを使用して得られたDIONEX IONPAC AS11-HC 4μmカラムでのフッ化物(2mg/L)とリン酸塩(20mg/L)との分離を示している。試験条件は、1.5mL/分、60mM KOH、4350psi、60分/ラン、および10μL注入である。保持時間とピーク形状との比較を提供するために基線はy軸上でシフトさせられている。この結果は、400回の連続ランにわたって、標的分析物の優れた保持時間再現性が得られたことを示している。
【0086】
図13は、TERGITOL MINフォームで処理されたPEEK膜圧縮ブロックを使用して組み立てられたDIONEX EGC 500 KOHカートリッジで得られた動作電圧のオーバーレイを示している。1.5mL/分、60 mM KOH、4150psiの条件下では、装置動作電圧は、12日の連続動作の間、11.5Vから13.5Vの範囲で安定していた。つまり、電圧は約+/-1.0Vの範囲内に、開始電圧の10%未満にとどまる。
【0087】
図14は、TRITON H55(アニオン性界面活性剤)で処理されたPEEK膜圧縮ブロックを使用して組み立てられたDIONEX EGC 500 KOHカートリッジで得られた動作電圧のオーバーレイを示している。1.5mL/分、60 mM KOH、3950psiの条件下では、装置動作電圧は、7日の連続動作の間、12Vから13.4Vの範囲で安定していた。つまり、電圧は約+/-1.0Vの範囲内に、開始電圧の10%未満にとどまる。