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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/80 20060101AFI20241125BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20241125BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20241125BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
F16C33/80
F16C19/16
F16J15/447
F16C33/78 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020209621
(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公開番号】P2022096493
(43)【公開日】2022-06-29
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】平松 研吾
(72)【発明者】
【氏名】渥美 良亮
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】実公昭41-000726(JP,Y1)
【文献】国際公開第2009/008132(WO,A1)
【文献】特開2016-223598(JP,A)
【文献】米国特許第03350148(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/80
F16C 19/16
F16J 15/447
F16C 33/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪間に介在する複数の転動体が保持器に保持され、これら内輪および外輪間の軸受空間を塞ぐシール部材が前記外輪に取付けられ、前記内輪の外周面における軸方向外側部分に環状溝が設けられ、前記シール部材は前記環状溝にリップが非接触となる非接触シールである転がり軸受であって、
前記シール部材の内周側部分は、軸方向外側端面に軸方向内側に凹むR面が形成されたシール基端部と、このシール基端部に繋がる前記リップとを備え、このリップは、前記シール基端部の内径側端部に繋がる主リップ、および前記シール基端部の内側面部分に繋がり軸方向内側に突出する副リップを有し、この副リップの先端部と前記環状溝の内側溝壁面との間でラビリンスシールを形成しており、
前記主リップの先端部を、前記シール部材におけるシール部材本体の軸方向外側端面よりも軸方向内側にオフセットし、前記シール部材本体の軸方向外側端面から、前記主リップの先端部までの軸方向距離A1と、前記シール部材本体の軸方向外側端面から前記副リップの先端部までの厚さA2との比A1/A2が0.25~0.50であり、かつ、前記シール部材本体の軸方向外側端面を、軸受端面よりも軸方向内側にオフセットし、前記R面の半径寸法をR とすると、前記シール基端部における軸方向外側端面の外径側縁部から前記主リップの内径側端までの径方向距離A4に対する、前記R面の半径寸法R の比R /A4が0.25~0.55である転がり軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受において、軸受端面内輪面取り部から前記主リップの先端部までのオフセット量が0.6mm以上である転がり軸受。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受において、軸受端面内輪面取り部から前記主リップの先端部までのオフセット量をDとし、軸受軸方向端面間の幅をDとすると、
0.02<D/D<0.1である転がり軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の転がり軸受において、前記シール基端部の前記R面の内径側縁部における接線の延長線と、軸方向との交わる角度αを45°以下とした転がり軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の転がり軸受において、前記主リップの軸方向内側端面と前記副リップの内径側端部との隅部から前記内側溝壁面の溝底部までの距離A6に対する、前記副リップの内径側端部の先端縁部から前記内側溝壁面までの軸方向距離A5の寸法比A5/A6を0.70以下とした転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受に関し、例えば、工作機械、一般産業機械等に使用される転がり軸受のシール構造およびその転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受の中でもボールねじ支持用軸受では、切削クーラントが飛散する環境下で使用されるため、耐クーラント性の要求があるが、近年では耐クーラント性に加え、低トルク、低発熱性のニーズが高まっている。
図6に示す従来のシール付きアンギュラ玉軸受では、内輪と、外輪と、それら内外輪間に介在する複数の転動体と、これら転動体を円周方向等間隔に保持する保持器と、シールとを主要な構成要素としている。背面側のシール50のリップは、シール溝51と軽接触しており、正面側のシール52は非接触シールであり、これらシール50,52により軸受内部の封入グリースを保持し外部からの異物侵入を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4895754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低トルク、低発熱性を実現するため、先行技術のように非接触シールとしたが(特許文献1)、この先行技術では耐クーラント性(耐クーラント浸入性)が無く、ボールねじ支持用軸受には適切でない。
【0005】
この発明の目的は、耐クーラント性を確保しつつ低トルクおよび低発熱性を実現することができる転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の転がり軸受は、内外輪間に介在する複数の転動体が保持器に保持され、これら内輪および外輪間の軸受空間を塞ぐシール部材が前記外輪に取付けられ、前記内輪の外周面における軸方向外側部分に環状溝が設けられ、前記シール部材は前記環状溝にリップが非接触となる非接触シールである転がり軸受であって、
前記シール部材の内周側部分は、軸方向外側端面に軸方向内側に凹むR面が形成されたシール基端部と、このシール基端部に繋がる前記リップとを備え、このリップは、前記シール基端部の内径側端部に繋がる主リップ、および前記シール基端部の内側面部分に繋がり軸方向内側に突出する副リップを有し、この副リップの先端部と前記環状溝の内側溝壁面との間でラビリンスシールを形成しており、
前記主リップの先端部を、前記シール部材におけるシール部材本体の軸方向外側端面よりも軸方向内側にオフセットし、前記シール部材本体の軸方向外側端面から、前記主リップの先端部までの軸方向距離A1と、前記シール部材本体の軸方向外側端面から前記副リップの先端部までの厚さA2との比A1/A2が0.25~0.50であり、かつ、前記シール部材本体の軸方向外側端面を、軸受端面よりも軸方向内側にオフセットした。
【0007】
この構成によると、主リップの先端部を、シール部材本体の軸方向外側端面(シール端面)よりも軸方向内側にオフセットしたため、クーラントが飛散する環境下において、前記クーラントがシール端面を伝って浸入し難くなる。
またシール基端部には、軸方向外側端面に軸方向内側に凹むR面が形成されたため、前記R面にて水の流れが渦巻くように動く。これによりシール部材にクーラントがかかった際に軸受内部に入り難くすることができる。
【0008】
上記構造より耐クーラント性が向上することで、非接触シールを採用することが可能となり、従来よりも低トルクおよび低発熱性の向上を図ることができる。
主リップの先端部をオフセットし過ぎた場合((A1/A2)>0.5)、クーラントがシール部材にかかった際に内部に浸入し難くするための、換言すれば、R面の対流効果を生むことによる、最適なR面を形成できなくなり、耐クーラント性が低下する。
主リップの先端部のオフセットが小さい場合((A1/A2)<0.25)、シール部材の内周側部分がシール端面に近いため、クーラントがR面で対流することでクーラントの浸入を防ぐ効果よりも、クーラントが浸入してしまう方が優勢になり、耐クーラント性が低下する。
【0009】
軸受端面内輪面取り部から前記主リップの先端部までのオフセット量が0.6mm以上であってもよい。このように主リップの先端部を軸受端面内輪面取り部から離隔することで、クーラントが軸受内部に浸入し難くなり、耐クーラント性の向上をより確実に図れる。
【0010】
軸受端面内輪面取り部から前記主リップの先端部までのオフセット量をDとし、軸受軸方向端面間の幅をDとすると、
0.02<D/D<0.1であってもよい。
軸受軸方向端面間の幅Dつまり軸受幅によって、前記オフセット量Dを調節するのが望ましく、0.02<D/D<0.1とすることで、軸受内のグリース封入量を所要量確保でき、また内輪の前記環状溝の加工面を適切に確保し得る。
【0011】
前記R面の半径寸法をRとすると、前記シール基端部における軸方向外側端面の外径側縁部から前記主リップの内径側端までの径方向距離A4に対する、前記R面の半径寸法Rの比R/A4が0.25~0.55であってもよい。前記R面の半径が小さ過ぎても大き過ぎても、クーラントの流れが渦巻くような流れが生じないか、または、効果として十分ではなくなる。このため、耐クーラント性が低下する。
この構成によると、前記径方向距離A4に対する、前記R面の半径寸法Rの比R/A4を0.25~0.55としたため、クーラントの流れが渦巻くような流れを生じさせ耐クーラント性の向上をより確実に図れる。
【0012】
前記シール基端部の前記R面の内径側縁部における接線の延長線と、軸方向との交わる角度αを45°以下としてもよい。前記角度αを45°以下とすることで、クーラントの対流後の排出に寄与する。クーラントが内輪の環状溝に当たる角度が浅くなり、かつR面の内径側縁部が軸方向外側を向いているため、排出効果がよりよい。
【0013】
前記主リップの軸方向内側端面と前記副リップの内径側端部との隅部から前記内側溝壁面の溝底部までの距離A6に対する、前記副リップの内径側端部の先端縁部から前記内側溝壁面までの軸方向距離A5の寸法比A5/A6を0.70以下としてもよい。この場合、ラビリンス効果として好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明の転がり軸受は、内外輪間に介在する複数の転動体が保持器に保持され、これら内輪および外輪間の軸受空間を塞ぐシール部材が前記外輪に取付けられ、前記内輪の外周面における軸方向外側部分に環状溝が設けられ、前記シール部材は前記環状溝にリップが非接触となる非接触シールである転がり軸受であって、前記シール部材の内周側部分は、軸方向外側端面に軸方向内側に凹むR面が形成されたシール基端部と、このシール基端部に繋がる前記リップとを備え、このリップは、前記シール基端部の内径側端部に繋がる主リップ、および前記シール基端部の内側面部分に繋がり軸方向内側に突出する副リップを有し、この副リップの先端部と前記環状溝の内側溝壁面との間でラビリンスシールを形成しており、前記主リップの先端部を、前記シール部材におけるシール部材本体の軸方向外側端面よりも軸方向内側にオフセットし、前記シール部材本体の軸方向外側端面から、前記主リップの先端部までの軸方向距離A1と、前記シール部材本体の軸方向外側端面から前記副リップの先端部までの厚さA2との比A1/A2が0.25~0.50であり、かつ、前記シール部材本体の軸方向外側端面を、軸受端面よりも軸方向内側にオフセットした。このため、耐クーラント性を確保しつつ低トルクおよび低発熱性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
図2】同転がり軸受のシール部材等の拡大断面図である。
図3】同シール部材のリップ等の拡大断面図である。
図4】同シール部材のリップ等の拡大断面図である。
図5】跳ねかけ試験結果を示す図である。
図6】従来例の転がり軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1の実施形態]
この発明の実施形態に係る転がり軸受を図1ないし図5と共に説明する。
<転がり軸受の概略構成>
図1に示すように、この例の転がり軸受1は、内外輪2,3と、玉(転動体)4と、保持器5と、シール部材6とを備えるアンギュラ玉軸受である。内外輪2,3間に介在する複数の玉4が周方向一定間隔おきに保持され、これら内輪2および外輪3間の軸受空間を塞ぐシール部材6が外輪3に取付けられている。この例では、外輪内周面における軸方向両側にシール部材6,6が取付けられている。前記軸受空間にはグリースが封入されている。
【0017】
このアンギュラ玉軸受において、深溝玉軸受に比べて、内輪2は、負荷側(正面側)Fの外径を大径化し、外輪3は、負荷側(背面側)Bの内径を小径化してあり、軌道面2a,3aに接触角が生じている。軸受組立の都合上、外輪3の非負荷側にカウンターボアが形成されている。
【0018】
<シール構造について>
図1および図2に示すように、各シール部材6は、内輪2の環状溝7にリップ8が非接触となる非接触シールである。内輪2の外周面における軸方向外側部分に環状溝7がそれぞれ設けられ、各環状溝7に対向する外輪3の内周面にシール部材固定溝9が設けられる。シール部材6は、シール部材本体10と、このシール部材本体10の内径側端に繋がる内周側部分11とを有する。シール部材6は、芯金12にゴム材13をモールドしたものであり、このシール部材6におけるシール部材本体10の外周縁が、シール部材固定溝9に嵌め込まれて固定される。前記ゴム材13の材質は、ニトリルゴムを標準的に使用するが、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等の他の材質を適用してもよい。なおシール部材6の外周側部分の一部分が外輪3のシール部材固定溝9に埋め込まれているように示されているが、この一部分は締め代であり、実際には弾性変形された状態でシール部材固定溝9に嵌め込まれている。
【0019】
図2図4に示すように、内輪2の外周面における軸方向外側部分には、肩径より半径方向内方に凹む環状溝7が形成されている。この環状溝7は、内輪肩部14に繋がる内側溝壁面7aと、この内側溝壁面7aから軸方向外側に平坦に延びる溝底面7bとを有する。内側溝壁面7aは、軸方向外側に向かうに従って内径側に傾斜する傾斜面に形成されている。図2図4の内輪肩部14は、内輪外径面のより小径側を指しているが、内輪外径面のより大径側にも内輪肩部14が形成されている。また、どちらか片側だけに形成しても良い。
【0020】
シール部材6の内周側部分11は、シール基端部15と、このシール基端部15に繋がる前記リップ8とを備える。シール基端部15は、軸方向外側端面に軸方向内側に凹むR面15aが形成されている。リップ8は、シール基端部15の内径側端部に繋がる主リップ8a、およびシール基端部15の内側面部分に繋がり軸方向内側に突出する副リップ8bを有する。この副リップ8bの先端部と前記環状溝7の内側溝壁面7aとの間でラビリンスシールRsを形成しており、グリースの保持性を向上させている。
【0021】
主リップ8aの先端部8aaを、シール部材6におけるシール部材本体10の軸方向外側端面10aよりも軸方向内側にオフセットしている。シール部材本体10の軸方向外側端面10aから、主リップ8aの先端部8aaまでの軸方向距離A1と、シール部材本体10の軸方向外側端面10aから副リップ8bの先端部8baまでの厚さA2との比A1/A2が0.25~0.50であり、かつ、シール部材本体10の軸方向外側端面10aを、軸受端面1aよりも軸方向内側にオフセットしている。
【0022】
また軸受端面内輪面取り部1bから主リップ8aの先端部8aaまでのオフセット量Dが0.6mm以上1.5mm以下である。前記軸受端面内輪面取り部1bとは、軸受端面1aから内輪外周面の面取り分軸方向内側にオフセットした部分である。前記軸受端面内輪面取り部1bから主リップ8aの先端部8aaまでのオフセット量をDとし、軸受軸方向端面間の幅をD図1)とすると、0.02<D/D<0.1である。前記R面の半径寸法をRとすると、シール基端部15における軸方向外側端面の外径側縁部15bから主リップ8aの内径側端までの径方向距離A4に対する、前記R面15aの半径寸法Rの比R/A4が0.25~0.55である。さらにシール基端部15の前記R面15aの内径側縁部15aaにおける接線の延長線L1と、軸方向との交わる角度αを10°以上45°以下とした。
【0023】
さらに主リップ8aの軸方向内側端面と副リップ8bの内径側端部との隅部16から内側溝壁面7aの溝底部までの距離A6に対する、副リップ8bの内径側端部の先端縁部8bbから内側溝壁面7aまでの軸方向距離A5の寸法比A5/A6を0.70以下としている。
【0024】
<耐クーラント性確認試験>
ここで実機試験機である跳ねかけ試験機を製作し、本実施形態の転がり軸受に対して跳ねかけ試験を行ったところ、比較例Aよりも耐クーラント性の向上が図れることが確認された。この試験結果を図5に、評価結果を表1に示す。
【0025】
跳ねかけ試験機では、ハウジングの内周面に、支持軸受および試験に供される転がり軸受を介して主軸が回転自在に支持されている。前記主軸は駆動源により回転駆動可能に構成されている。前記ハウジング内には、試験軸受の軸方向一方側に臨む水貯留部が設けられている。前記主軸は、前記試験軸受よりも軸方向一方側に突出する突出部分を有し、この突出部分に跳ねかけ部品がこの主軸に同軸に固定されている。前記跳ねかけ部品は、半径方向外方に延びる羽根であり、この羽根の外径側端部が水貯留部に貯留された水に浸かり前記試験軸受に対して水を跳ねかける。
【0026】
<試験軸受>
実機試験機で試験に供される転がり軸受はボールねじ支持用のアンギュラ玉軸受である。前記支持軸受として、この例では、型番:6206LLBの深溝玉軸受が適用されている。比較例Aは、本実施形態の転がり軸受(実施例)と主寸法が同じで非接触シールを備えた軸受であるが、主リップ、副リップ、溝形状等が実施例とは異なるものである。
比較例Aでは、軸方向内側に突出する副リップを備えているものの、主リップから軸方向外側に分岐する副リップ部をさらに別に備えている。比較例Aでは、シール部材の内周側部分の軸方向外側端面に、軸方向内側にやや凹む凹み部が形成されているが、凹み部が形成されているのは主リップではなく、軸方向外側に分岐する副リップ部であり、R面ではない。また比較例Aの内輪シール溝は、内側溝壁および外側溝壁を有する断面略U字形状であるのに対し、実施例の内輪シール溝は、内側溝壁に繋がる面が円筒状の平坦面である。
【0027】
<試験条件>
回転速度:700min-1
運転時間:5min
水量:約50cc
水位:跳ねかけ用羽根部が水にかかる辺り
試験機:前記耐クーラント性確認試験機
跳ねかけ部品:角度45°付き羽根
前記耐クーラント性確認試験機にて、一定時間、試験対象の転がり軸受を通り、浸入した水をビーカーで回収した。このビーカーで回収した排水量(cc)と、試験後の転がり軸受の重量増加量(cc)の合計で評価を行った。
【0028】
ところで、主リップの先端部をオフセットし過ぎた場合((A1/A2)>0.5)、クーラントがシール部材にかかった際に内部に浸入し難くするための、換言すれば、R面の対流効果を生むことによる、最適なR面を形成できなくなり、耐クーラント性が低下する(表2参照)。
主リップの先端部のオフセットが小さい場合((A1/A2)<0.25)、シール部材の内周側部分がシール端面に近いため、クーラントがR面で対流することでクーラントの浸入を防ぐ効果よりも、クーラントが浸入してしまう方が優勢になり、耐クーラント性が低下する(表2参照)。
【0029】
また図2図4に示すように、前述のように、径方向距離A4に対する、前記R面15aの半径寸法Rの比R/A4が0.25~0.55である。前記R面15aの半径が小さ過ぎても大き過ぎても、クーラントの流れが渦巻くような流れが生じないか、または、効果として十分ではなくなる。このため、耐クーラント性が低下する(表3参照)。
【表1】
【表2】
【表3】
【0030】
<作用効果>
以上説明した転がり軸受1によれば、主リップ8aの先端部8aaを、シール部材本体10の軸方向外側端面(シール端面)10aよりも軸方向内側にオフセットしたため、クーラントが飛散する環境下において、前記クーラントがシール端面を伝って浸入し難くなる。
またシール基端部15には、軸方向外側端面に軸方向内側に凹むR面15aが形成されたため、前記R面15aにて水の流れが渦巻くように動く。これによりシール部材6にクーラントがかかった際に軸受内部に入り難くすることができる。
上記構造より耐クーラント性が向上することで、非接触シールを採用することが可能となり、従来よりも低トルクおよび低発熱性の向上を図ることができる。
【0031】
軸受端面内輪面取り部1bから主リップ8aの先端部8aaまでのオフセット量Dが0.6mm以上である。このように主リップ8aの先端部8aaを軸受端面1aから離隔することで、クーラントが軸受内部に浸入し難くなり、耐クーラント性の向上をより確実に図れる。
軸受端面内輪面取り部1bから主リップ8aの先端部8aaまでのオフセット量をDとし、軸受軸方向端面間の幅をDとすると、0.02<D/D<0.1である。
軸受軸方向端面間の幅Dつまり軸受幅によって、前記オフセット量Dを調節するのが望ましく、0.02<D/D<0.1とすることで、軸受内のグリース封入量を所要量確保でき、また内輪2の環状溝7の加工面を適切に確保し得る。
【0032】
前記径方向距離A4に対する、前記R面15aの半径寸法Rの比R/A4を0.25~0.55としたため、クーラントの流れが渦巻くような流れを生じさせ耐クーラント性の向上をより確実に図れる。
シール基端部15のR面15aの内径側縁部15aaにおける接線の延長線L1と、軸方向との交わる角度αを45°以下としている。前記角度αを45°以下とすることで、クーラントの対流後の排出に寄与する。クーラントが内輪2の環状溝7に当たる角度が浅くなり、かつR面15aの内径側縁部15aaが軸方向外側を向いているため、排出効果がよりよい。また寸法比A5/A6を0.70以下としているため、ラビリンス効果として好ましい。
【0033】
この例の転がり軸受として、アンギュラ玉軸受が適用されているが、深溝玉軸受を適用することも可能である。
実施形態の転がり軸受をボールねじ支持用軸受以外の用途に適用してもよい。
その他、実施形態の転がり軸受を工作機械、一般産業機械等に使用してもよい。
【0034】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0035】
1…転がり軸受、1b…軸受端面内輪面取り部、2…内輪、3…外輪、4…玉(転動体)、5…保持器、6…シール部材、7…環状溝、8…リップ、8a…主リップ、8b…副リップ、11…内周側部分、15…シール基端部、15a…R面
図1
図2
図3
図4
図5
図6