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  • 特許-ピストンリング 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】ピストンリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/26 20060101AFI20241125BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
F16J9/26 C
F02F5/00 F
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020523693
(86)(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2018082789
(87)【国際公開番号】W WO2019105979
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-09-03
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】102017221606.9
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509098102
【氏名又は名称】フェデラル-モグル・ブルシャイト・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL-MOGUL BURSCHEID GMBH
【住所又は居所原語表記】Buergermeister‐Schmidt‐Strasse 17, 51399 Bursheid, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルター・シュトゥンプ
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン・ホッペ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・ランマース
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ・リンデ
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】内田 博之
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/093464(WO,A1)
【文献】特開2013-76466(JP,A)
【文献】特開2000-291800(JP,A)
【文献】特開2000-120870(JP,A)
【文献】特表2011-516726(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0312891(US,A1)
【文献】国際公開第2015/114822(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 7/00-10/04, F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コートされた少なくとも一つの滑り面(12)及びフランク面(14)を有するピストンリング(10)であって、前記滑り面(12)の最上層は水素含有又は水素非含有のDLC層であり、少なくとも一つのフランク面(14)、好ましくは下部フランク面(14)の最上層がクロム層であり、前記滑り面(12)上にクロム層が存在しないことを特徴とする、ピストンリング(10)。
【請求項2】
前記DLC層が水素非含有であることを特徴とする、請求項1に記載のピストンリング(10)。
【請求項3】
滑り面とフランク面との間の移行領域でDLC層がクロム層と重複することを特徴とする、請求項1又は2に記載のピストンリング(10)。
【請求項4】
前記クロム層は前記滑り面へと厚さを減らしながら前記フランク面の出だしまで延在することを特徴とする、請求項3に記載のピストンリング(10)。
【請求項5】
前記クロム層が少なくとも800 HV 0.1の硬さを有することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のピストンリング(10)。
【請求項6】
前記クロム層が700~1200クラック/cmのクラック率でクラック密度を有することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のピストンリング(10)。
【請求項7】
油をさされた摩擦接触において、前記クロム層の摩擦係数が、窒化クロム鋼の摩擦係数よりも少なくとも20%小さいことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のピストンリング(10)。
【請求項8】
前記フランク面(14)がRz4未満の粗さを有することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のピストンリング(10)。
【請求項9】
前記クロム層が粒子堆積物を有することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のピストンリング(10)。
【請求項10】
ピストンリング(10)を生産するための方法であって、DLC層が滑り面(12)の最上層として形成され、クロム層が少なくとも一つのフランク面(14)の最上層として形成され、前記滑り面(12)上にクロム層が存在しない、方法。
【請求項11】
前記DLC層がPVDプロセスによって形成されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記クロム層がガルバニック処理より形成されることを特徴とする、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記DLC層が形成される前に前記クロム層が形成されることを特徴とする、請求項1012のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記クロム層がRz4未満の粗さを有するように処理されることを特徴とする、請求項1013のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はピストンリングに関連する。
【0002】
可能な限り最も低い摩耗と可能な限り最も小さな摩擦について内燃エンジンのピストンリングに高い要求が課されている。
【背景技術】
【0003】
この観点で、特に良好な摩耗挙動について、滑り面、換言すれば側方の面にDLC層を有するピストンリングがDE102014213822から知られている。フランク面は窒化されているがコーティングを有することができる。
【0004】
DE102007038188A1は、その上にPVD層が適用される、ガルバニッククロム層を有するピストンリングに関連する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この背景に反して、本発明は、摩耗挙動及び/又は摩擦及び/又は製造努力の観点で改善したピストンリングを提供するという目的に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は請求項1に記述されたピストンリングによって解決される。
【0007】
従って、このピストンリングはコートされた滑り面及びフランク面を有し、滑り面の最上層はDLC層であり、少なくとも一つのフランク面の最上層がクロム層である。好ましくは、少なくとも下部フランク面、換言すれば燃焼チャンバから外方に向くことが意図されたピストンリングのフランク面がコートされる。第二フランク面はコートされていなくてもコートされていてもよく、特にクロム層と共に提供される。滑り面上のDLC層は低い摩耗及び比較的小さな摩擦を保証し、更に、研削焼け抵抗性である。DLC層と比べて、少なくとも一つのフランク面上のクロム層は、比較的容易かつ比較的高い費用対効果で適用され得り、更にこの領域における低い摩耗を保証する。
【0008】
更に、内燃エンジンにおける摩擦低減のトピックは一般的にますます重要になってきており、少なくとも一つのフランク面上のクロム層は、この目的に向けて有利に貢献する。運転中のピストンリングの動作も軸方向及び/又は径方向の摩擦を引き起こし、これは本発明に係るクロム層で比較的小さいと予想される。更に、窒化された側部(フランク)と比較して、特に高負荷及び/又は不利な潤滑条件において、ピストンリングのフランク面上及びピストンリングの溝上の両方における摩耗が低減されるという利点もある。本発明に係るクロムコートのためのスチールピストンを用いた試験では、摩耗は50%超低減し、窒化クロム鋼と比べて著しく低減した摩擦を確認することができた。
【0009】
低減された摩耗は、いわゆるブローバイ(blow-by)、換言すればオイルワイパーリングの前の不必要なオイルフローの観点からも適切である。第一の溝におけるピストンリングの下部フランク上の大きな摩耗は、増大したブローバイを引き起こす。このブローバイがエンジン換気のオイル分離効果を超える場合、オイルはクランク室からブローバイフローを介して運送され、エンジンのオイル消費は、許容不可能な態様で上昇する。更に、フランク面上の摩耗があまりにも大きい場合、負荷がかかった際に溝内のピストンリングが滑り面と共に下方に回転し得り、滑り面の下方端部が比較的好ましくない方法でオイルを拭き取り、オイルの消費が増加する。最後に、フランク面上に極端な摩耗が存在する場合、任意的にピストンリングの溝の摩耗と組み合わされて、溝内の軸方向隙間が大きすぎることによってピストンリングは壊れることがある。
【0010】
本発明に係るピストンリングの好ましい実施形態は更なる請求項から得ることができる。
【0011】
DLC層が水素非含有である場合、特に好適な特性がDLC層に期待される。しかし、水素含有DLC層も特定の用途において有利であり得る。
【0012】
それはまずクロム層を形成する技術的プロセスに利点を提供するので、DLC層はクロム層上の領域に形成され得る。これは滑り面及びフランク面の両方に当てはまる。
【0013】
特に、少なくとも周辺端部の領域においてDLC層がクロム層と部分的に重複する場合、生産に有利であり得る。クロム層は周辺端部に向かって先細ってもよく、かつ/又は、周辺端部は規定された角度で処理されてもよい。
【0014】
DLC層を形成するのにPVD(Physical Vapor Deposition;物理気相堆積)プロセスが好ましい。
【0015】
クロム層が少なくとも800 HV 0.1の硬さを有する場合、特に小さな摩耗について特別な利点が期待される。
【0016】
可能性のある粒子堆積物の観点で、クロム層のクラック密度について、700~1200クラック/cmのクラック率を有することが好ましい。
【0017】
フランク面の領域における摩擦の具体的な低減について、油をさされた摩擦接触において、クロム層が、窒化クロム鋼の摩擦係数よりも少なくとも20%小さい摩擦係数を有することが好ましい。
【0018】
肯定的な経験に基づいて、クロム層がガルバニック形成によって生産されることが好ましい。
【0019】
特に、フランク面の粗さがその後にRz4未満であるように、好ましくはガルバニック塗布と組み合わされてクロム層が処理され得る。
【0020】
その特性を更に改善するために、クロム層は粒子堆積物を有してよく、粒子堆積物は特にクロム層のクラックネットワーク内に埋め込まれ得る。
【0021】
上記目的は請求項7に記載された方法によって更に解決され、これはその方法ステップの観点で本発明に従って設計されたピストンに対応する。ここで本発明に係るピストンリングのために上記又は下記に与えられた全ての方法ステップも好ましく、その逆も同様であることに注意されたい。
【0022】
DLC層の前にクロム層が特にガルバニック的に形成される場合、特にプロセス順序にとって有利である。これにより、ガルバニックプロセス、クロムメッキ中の水素ガスの望ましくない形成、及びDLCへのクロム電解質の化学的攻撃性を妨げるであろう、DLCの低い導電性の問題を回避することができる。
【0023】
図面に示された本発明の実施形態の例が、以下でより詳細に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るピストンリングを貫く断面図を示す図である。
図2図1で印をつけられた領域を拡大された縮尺で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[本発明の好ましい実施形態の詳細な説明]
図1に見られるように、ピストンリング10は、滑り面12と、実質的にそれと直交して延在するフランク面とを有する長方形の断面を典型的には有し、その下部フランク面は14で指定されている。示された好ましい実施形態例において、下部フランク面14はクロム層で、滑り面はDLC層でコートされている。ここで好ましい大きさが示され、それによると特に滑り面12とフランク面14との間の移行領域でDLC層がクロム層と重複する。示された例では、移行は丸みを帯びているが、それは面取りされていてもよい。
【0026】
特に図2に見られるように、クロム層は滑り面12(図中では垂直)へと厚さを減らしながら延在し、DLC層もやはり厚さを減らしながらフランク面14(図中では水平)の凡そ出だしまで延在する。
図1
図2