(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20241125BHJP
B60T 8/174 20060101ALI20241125BHJP
B61H 13/00 20060101ALI20241125BHJP
B60T 8/172 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
B60T8/17 Z
B60T8/174 Z
B61H13/00
B60T8/172 B
(21)【出願番号】P 2020566801
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 IB2019054518
(87)【国際公開番号】W WO2019229709
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】102018000005948
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】516351289
【氏名又は名称】フェヴレ・トランスポール・イタリア・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】FAIVELEY TRANSPORT ITALIA S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】マッテオ・フレア
(72)【発明者】
【氏名】リュック・アンベール
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-007464(JP,A)
【文献】特開平11-198810(JP,A)
【文献】特開2001-264193(JP,A)
【文献】特開平05-065065(JP,A)
【文献】特開2005-162152(JP,A)
【文献】特開2006-182231(JP,A)
【文献】特表2014-530138(JP,A)
【文献】特開平05-139309(JP,A)
【文献】特開2007-053845(JP,A)
【文献】特開平06-006911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/17
B60T 8/174
B61H 13/00
B60T 8/172
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの鉄道車両を含む列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法であって、
前記列車により到達される目標減速値(D
obb)を設定するステップを備えており、
前記目標減速値(D
obb)により、前記列車は、目標停止距離(Dis
obb)内において、移動速度ゼロに達することができて、
前記方法は、
前記列車の少なくとも1つのブレーキ手段を介して、非劣化ブレーキ力(F
nd)を与えるステップを備えており、
前記非劣化ブレーキ力(F
nd)の値は、前記目標減速値(D
obb)を得るように計算されており、
前記方法は、
前記鉄道車両とレールとの間において、劣化した粘着状態が存在することを確認するステップと、
劣化した粘着状態が検知されていないとき、前記非劣化ブレーキ力(F
nd)を与えることを保つステップとを備えており、
前記非劣化ブレーキ力(F
nd)により、前記列車は、第1時間(t1)内に前記目標減速値(D
obb)に達して、且つ前記目標停止距離(Dis
obb)内において、移動速度ゼロに達することができて、
前記方法は、
劣化した粘着状態が検知されているとき、
スライディング制御手段により、前記ブレーキ手段が、前記非劣化ブレーキ力(F
nd)より小さく、劣化した粘着状態において与えられ得る最大ブレーキ力と一致する劣化ブレーキ力(F
d)を与えるステップと、
前記列車の減速に良い影響を与えるように構成されている回復手段を作動するステップとを備えており、
前記回復手段により、前記列車は、前記第1時間(t1)よりも大きい第2時間(t2)内に前記目標減速値(D
obb)に達することができて、
前記目標減速値(D
obb)により、前記列車は、前記目標停止距離(Dis
obb)よりも大きい劣化停止距離(Dis
deg)内において、移動速度ゼロに達することができて、
前記方法は、
劣化した粘着状態が検知されているとき、
前記劣化ブレーキ力(F
d)と前記非劣化ブレーキ力(F
nd)との間の差により、前記劣化停止距離(Dis
deg)に応じて、補償減速値(D
comp)を定めるステップを備えており、
前記補償減速値(D
comp)は、前記列車が、前記目標停止距離(Dis
obb)内において、移動速度ゼロに達することができるように構成されており、
前記方法は、
劣化した粘着状態が検知されているとき、
少なくとも1つの前記ブレーキ手段、及び/又は前記列車の減速に良い影響を与えるように構成されている前記回復手段により、前記列車が、前記目標停止距離(Dis
obb)内において、前記補償減速値(D
comp)に達して、且つ移動速度ゼロに達することができるように、前記非劣化ブレーキ力(F
nd)より大きくて、且つ前記補償減速値(D
comp)に応じて計算される補償ブレーキ力を与えるステップを備える、方法。
【請求項2】
前記目標停止距離(Dis
obb)は、前記列車の初期移動速度、前記非劣化ブレーキ力(F
nd)が与えられる時刻から前記列車が移動速度ゼロに達する時刻までに得られる減速値の平均により得られる平均減速値、及び前記列車の前記初期移動速度と前記平均減速値との間の比率により得られる目標ブレーキ時間に応じて計算されることを特徴とする、請求項1に記載の列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法。
【請求項3】
前記目標停止距離(Dis
obb)は、数1により計算されることを特徴とする、請求項2に記載の列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法。
【数1】
【請求項4】
前記補償ブレーキ力は、最大ブレーキ限界よりも小さいことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法。
【請求項5】
前記補償ブレーキ力が前記非劣化ブレーキ力(F
nd)の値を越えるとき、信号を前記列車のドライバ又は特定の制御インフラストラクチャに与えるステップを備える、請求項1~4のいずれかに記載の列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法。
【請求項6】
前記回復手段は、粘着回復手段であることを特徴とする、請求項1~
5のいずれかに記載の列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法。
【請求項7】
前記粘着回復手段は、少なくとも1つのサンドボックス又は磁気シューを備えることを特徴とする、請求項
6に記載の列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法。
【請求項8】
前記回復手段は粘着に依存しないブレーキ手段であることを特徴とする、請求項1~
7のいずれかに記載の列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法。
【請求項9】
粘着に依存しない前記ブレーキ手段は、少なくとも1つの磁気トラックブレーキ又は渦電流ブレーキを備えることを特徴とする、請求項
8に記載の列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法。
【請求項10】
前記列車のブレーキ手段は、電気機械ブレーキ、電気空気圧ブレーキ、電気力学ブレーキ、空気圧ブレーキ、及び/又は油圧ブレーキを備えることを特徴とする、請求項1~
9のいずれかに記載の列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、鉄道車両に対するブレーキ管理方法の分野において、特に、少なくとも1つの鉄道車両を含む列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のブレーキ管理方法は、劣化した粘着状態において、とりわけ、ブレーキ力、ブレーキ力の働き、車輪とレールとの間の粘着の測定及び/又はフィードバック量を用いる開ループ又は閉ループ制御に基づいて作動する。
【0003】
例えば、国際公開特許第2016207078号は、ブレーキ力を用いる可能性を記載している。国際公開特許第2012076523号、国際公開特許第2012052381号、国際公開特許第0071399号は、ブレーキ力の働きを用いる可能性を記載している。欧州公開特許第2918459号は、ブレーキの間、係合している車輪とレールとの間の粘着を用いる可能性を記載している。また、車両の加速度を用いる可能性も知られている。
【0004】
上述の量は、異なるレベル、すなわち単一の車軸のレベル、鉄道台車のレベル(複数の車軸)、及び列車のレベル(複数の鉄道台車)で測定、分配、及び/又は制御され得る。
【0005】
上述の量に応じて、従来のブレーキ管理システムは、とりわけ、ブレーキ力を作用することを担う装置、及びレール又は車輪とレールとの間の接点の粘着状態を向上することを担う装置を含む複数の装置に適切に作用する。
【0006】
例えば、ブレーキ力を作用することを担う装置は、空気圧ディスクブレーキ(EPブレーキ)、空気圧トレッドブレーキ(EPトレッドブレーキ)、電気力学ブレーキ(EDブレーキ)、磁気トラックブレーキ(MTB)である。
【0007】
一方、レール又は車輪とレールとの間の接点の粘着状態を向上することを担う装置は、例えば、サンドボックス又は磁気シュー(MTB)である。
【0008】
劣化した粘着状態において、公称ブレーキ力をすべての車軸に与えることはできないため、上述のブレーキ管理システムは、一連の方法及び/又は装置により介入する。この目的は、車両を目標減速度にできる限り近い又は目標減速度に等しい瞬間減速度に戻すことである。
【0009】
「公称ブレーキ力」という用語は、「目標減速度」、すなわち瞬間減速度のレベルに達することをできるようにするブレーキ力を示す。この瞬間減速度のレベルは、ブレーキ時間を通して保たれているとき、列車が目標停止距離内において移動を停止することをできるようにする。
【0010】
したがって、上述の従来のシステムは、主に、車両の瞬間減速度に集中しており、上記目標減速度の到達を目的とする。
【0011】
この種類の方法は基本的な課題を示す。劣化した粘着状態において、好ましくは、ブレーキの開始に対して、所定の遅れの後、目標減速度に達することができる。この遅れは、上述のシステムが劣化した粘着状態を検出して、上述の装置を作動して、且つ作動するための時間を与えるために必要な時間に起因する。この点で、この遅れに続いて、目標減速度は到達される。好ましくないことに、この目標減速度は、目標停止距離に達するために十分でない。結果として、列車の停止距離は、想定される目標に対して増加する。
【0012】
実際の例として、鉄道車両の移動を160km/hと想定して、時間t=0において、ブレーキが作動されるとき、目標減速度は1m/s2となる。
【0013】
【0014】
乾燥したレールのシナリオにおいて、すなわち良好な粘着状態において、完全な「公称ブレーキ力」が与えられ得る。車両は1m/s2の目標減速度に達して、またブレーキ作用を通して目標減速度を保つ。
【0015】
図1は、この状態における減速時間のプロファイルを示す。
【0016】
図1に示すように、列車は、この例において、990mに等しい目標停止距離内において移動を停止する。この停止距離の値は、例の状態を一様な加速運動の場合まで遡らせることにより容易に計算され得る。
【0017】
【0018】
【0019】
図2は、移動距離に対する車両の速度に関するブレーキ曲線を示す。
【0020】
汚れたレールのシナリオにおいて、すなわち混入物質、例えば水、油、ぬれた落ち葉などがレールにある場合、車輪とレールとの間の粘着が劣化することが続く。
【0021】
このシナリオにおいて、上述の従来技術に記載の従来のブレーキ管理システムを用いることを考慮すると、第1の例において、完全な公称ブレーキ力を与えることはできない。したがって、1m/s2の目標減速度に達することはできない。
【0022】
力、減速度、及び/又は粘着におけるこの差を考慮すると、上述の従来のブレーキ管理システムは、粘着の回復のための方法及び/又は装置を作動する。この方法及び/又は装置は、好ましくは、車両の減速度を所定の遅れと共に目標値に到達させる。この例において、遅れは10秒と想定される。
【0023】
図3は、この第2のシナリオにおける減速時間のプロファイルを示す。
【0024】
この減速度のプロファイルにより、車両は、1050m、すなわち目標停止距離よりも大きい停止距離において移動を停止する。
【0025】
【0026】
この例において、以下の数5となる。
【0027】
【0028】
図4は、移動距離に対する車両の速度に関するブレーキ曲線を示す。
【0029】
結論として、劣化した粘着ブレーキを管理するための従来のシステムは、車両の減速度を目標値に到達させる目的を達成する一方、好ましくないことに、目標停止距離内において車両を停止する目的を達成しない。
【0030】
これは、列車を、増加した安全性リスク及び考えられる事故に曝し得る。
【発明の概要】
【0031】
したがって、本発明の1つの目的は、劣化した粘着状態の場合、目標停止距離を達成できるシステムを提供することである。これにより、ブレーキ中の列車のすべての安全レベルを増加する。
【0032】
本発明のある態様によれば、請求項1に定められている特徴を有する少なくとも1つの鉄道車両を含む列車に対する劣化した粘着状態のブレーキ管理方法により、これらの目的と利点、及び他の目的と利点が達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に定められている。従属請求項の内容は、本明細書の重要な部分として示す。
【0033】
要約すると、本発明は、ブレーキを制御するための方法(及び関連する支援装置)を提供する。この方法は、目標停止距離に達する目的により、車両の減速度及び移動距離に基づいて作動する。
【0034】
提供される方法は、実瞬間減速度を目標減速度と比較するだけでなく、実瞬間減速度が目標減速度より小さいステップにおいて、車両により移動される「追加距離」を考慮する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本発明に記載の少なくとも1つの鉄道車両を含む列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法の一部の好ましい実施形態の機能的及び構造的特徴が説明されている。添付図面に対して参照される。
【
図1】
図1は、乾燥したレールのシナリオにおいて、実線により、減速時間のプロファイルを示すグラフである。
【
図2】
図2は、乾燥したレールのシナリオにおいて、実線により、移動距離に対する車両の速度に関するブレーキ曲線を示すグラフである。
【
図3】
図3は、汚れたレールのシナリオにおいて、破線により、減速時間のプロファイルを示すグラフである。
【
図4】
図4は、汚れたレールのシナリオにおいて、破線により、移動距離に対する車両の速度に関するブレーキ曲線を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明に記載の方法が用いられるとき、一点鎖線により、減速度のプロファイルを示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明に記載の方法が用いられるとき、一点鎖線により、移動距離に対する車両の速度に関するブレーキ曲線を示すグラフである。
【
図7】
図7は、非劣化ブレーキ力F
ndと劣化ブレーキ力F
dを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の複数の実施形態を詳細に説明する前に、本発明が、出願において、以下に記載又は図示する構造の詳細、及び構成要素の構成に対して限定されないことが明らかである。本発明は他の実施形態を得て、特に異なる方法において実行又は達成され得る。また、用語及び専門用語が記述的目的を有して、限定して構成されるべきでないことが分かる。「含む」、「備える」、及びその変形の使用は、後述の要素及び均等なものを含むように理解される。
【0037】
本発明に記載の少なくとも1つの鉄道車両を含む列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法は、以下に個別に分析される複数のステップを備える。
【0038】
あるステップは、列車により到達される目標減速値Dobbを設定することを備える。目標減速値Dobbにより、列車は、目標停止距離Disobb内において、移動速度ゼロに達することができる。
【0039】
別のステップは、少なくとも1つの列車のブレーキ手段により、非劣化ブレーキ力Fndを与えることを備える。非劣化ブレーキ力Fndの値は、列車が目標減速値Dobbを得ることができるように計算されている。
【0040】
さらに別のステップは、鉄道車両とレールとの間の劣化した粘着状態の存在を確認することを備える。
【0041】
劣化した粘着状態が検知されていないとき、方法は、非劣化ブレーキ力Fndを与えることを保つステップを備える。非劣化ブレーキ力Fndにより、列車は、第1時間t1内に目標減速値Dobbに達して、且つ目標停止距離Disobb内において、移動速度ゼロに達することができる。
【0042】
劣化した粘着状態が検知されているとき、方法は以下のステップを備える。
列車のブレーキ手段により、スライディング制御手段によって、上記非劣化ブレーキ力Fndより小さく、劣化した粘着状態において与えられ得る最大ブレーキ力と一致する劣化ブレーキ力Fdを与えるステップa。
前記列車の減速に良い影響を与えるように構成されている回復手段を作動するステップb。この回復手段により、列車は、第2時間t2内に目標減速値Dobbに達することができる。第2時間t2は、第1時間t1よりも大きい。この場合、目標減速値Dobbにより、列車は、劣化停止距離Disdeg内において、移動速度ゼロに達することができる。劣化停止距離Disdegは、目標停止距離Disobbよりも大きい。
劣化ブレーキ力Fdと非劣化ブレーキ力Fndとの間の差により、劣化停止距離Disdegに応じて、補償減速値Dcompを定めるステップc。補償減速値Dcompは、列車が、劣化停止距離Disdegではなく、目標停止距離Disobb内において、移動速度ゼロに達することができるように構成されている。
少なくとも1つのブレーキ手段、及び/又は列車の減速に良い影響を与えるように構成されている回復手段により、補償ブレーキ力を与えるステップd。この補償ブレーキ力は、非劣化ブレーキ力より大きくて、且つ補償減速値Dcompに応じて計算される。これにより、列車は、目標停止距離Disobb内において、補償減速値Dcompに達して、且つ移動速度ゼロに達することができる。
【0043】
列車のブレーキ手段は、電気機械ブレーキ、電気空気圧ブレーキ、電気力学ブレーキ、空気圧ブレーキ、及び/又は油圧ブレーキを備えてもよい。
【0044】
上記回復手段は、とりわけ、少なくとも1つのサンドボックス又は磁気シューのような粘着回復手段であってもよい。または、回復手段は、特に、少なくとも1つの磁気トラックブレーキ又は渦電流ブレーキのような粘着に依存しないブレーキ手段であってもよい。
【0045】
鉄道車両が、劣化していない粘着状態に再び戻るように、劣化した粘着状態から離れるまで、粘着回復手段は、劣化した粘着状態の間、与えられ得る最大ブレーキ力よりも大きなブレーキ力を与えることができるように、車輪とレールとの間の粘着を増加するために用いられ得る一方、粘着に依存しないブレーキ手段は、粘着に依存する鉄道車両のブレーキ手段により与えられるブレーキ力を増加することなく、列車の減速度を増加するために用いられ得ることが明らかである。
【0046】
劣化した粘着状態における鉄道車両は、第1時間t1よりも大きい第2時間t2内に目標減速値Dobbに達することだけできる。この目標減速値Dobbにより、好ましくないことに、列車は、目標停止距離Disobbよりも大きい劣化停止距離Disdeg内でのみ、移動速度ゼロに達することができる。
【0047】
したがって、回復手段の介入の後、又は鉄道車両が、例えば線路の汚れた部分から線路のきれいな部分に切り替えるとき、劣化した粘着状態から離れた後、鉄道車両が劣化していない粘着状態に再びなるとき、非劣化ブレーキ力より大きい補償ブレーキ力を与えることができる。補償ブレーキ力は、列車が、目標停止距離内において、補償減速値Dcompに達して、且つ移動速度ゼロに達することができるように、補償減速値Dcompに応じて計算される。補償ブレーキ力は、少なくとも1つのブレーキ手段、及び/又は列車の減速に良い影響を与えるように構成されている回復手段により、与えられ得る。
【0048】
すなわち、補償ブレーキ力は、劣化した粘着状態の間、与えられないブレーキ力に対して補償するように、非劣化ブレーキ力より大きい必要がある。非劣化ブレーキ力は、劣化した粘着状態の間、与えられないブレーキ力に対して補償するために十分でない。
【0049】
上記劣化停止距離Disdegは、以下の数6を用いて所定の時刻に計算され得る。
Disdeg(t)は、時間tにおいて測定される劣化停止距離Disdegである。また、Dec(t)は、時間tにおいて測定される瞬間減速値である。さらに、Disobbは、目標減速値である。
【0050】
【0051】
図7において、非劣化ブレーキ力F
ndと劣化ブレーキ力F
dの例示的な傾向を示す。点100は、スライディング制御手段が、与えられる劣化ブレーキ力F
dを生じる時刻を示す。この劣化ブレーキ力F
dは、非劣化ブレーキ力F
ndより小さい。斜線により示す部分は、劣化していない粘着状態の場合、与えられるブレーキ力を示す。一方、このブレーキ力は、劣化した粘着状態により与えられない。与えられないブレーキ力が、追加停止距離を決めることを示す。F
compは、列車が補償減速値D
compに達するため、劣化ブレーキ力F
dの結果として与えられるブレーキ力を示す。
【0052】
実際の例として、「追加距離」は、実減速度Decrにより減速している車両による移動距離と車両が目標減速度Decobbにより減速して移動する距離との間の差である。
【0053】
加速度は速度ベクトルの時間導関数として定められている。直線運動を考慮すると、鉄道車両の移動速度の絶対値により、速度ベクトルを特定することができる。
【0054】
速度は、レールに沿う車両による移動距離の時間導関数である。
【0055】
【0056】
時間に関して2回積分を行うことにより、運動の一般方程式を与える。
【0057】
レールに沿う移動距離は(一方向の場合)、加速度の時間についての2回積分である。
【0058】
【0059】
乾燥したレールのシナリオにおいて、車輪とレールのグリップにより、鉄道車両は、ブレーキ時間全体の間、目標減速度によりブレーキをかけることができる。この状況は一様な加速運動の場合に由来する。この車両の加速度は時間に応じない。
【0060】
【0061】
したがって、乾燥したレールの状態の時間tにおける移動距離を以下の数10により示す。
【0062】
【0063】
このシナリオにおいて、列車の速度は、
図6における曲線10のような傾向を有する。
【0064】
一方、劣化した粘着のシナリオを考慮すると、車両は、ブレーキ時間全体の間、一定の減速度により減速することができない。例えば、減速度のプロファイルは、
図3のプロファイル又は異なるプロファイルであってもよい。いずれかの場合、車両の加速度は時間に基づく。
【0065】
したがって、劣化した粘着の状態の時間tにおける移動距離を以下の数11により示す。
【0066】
【0067】
時刻tにおける追加距離は、劣化した粘着の場合における移動距離と劣化していない粘着の場合における移動距離との間の差である。
【0068】
【0069】
上述のように、本発明に記載の方法は、劣化した粘着の場合においても、目標停止距離内において車両の移動を止めることを目的とする。したがって、この方法は、追加距離を最小化するように動作しなければならない。
【0070】
【0071】
例えば電子制御ユニットに組み込まれている一般的なブレーキ制御システムを考慮すると、このブレーキ制御システムは離散時間型システムにおいてサンプリング時間Δtにより動作する。このサンプリング時間Δtは、制御ループの実行時間である。
【0072】
この状況において、時刻tにおいて経過した時間は、制御ループの実行数に、所定の制御ループの実行と次の制御ループの実行との間において経過した時間を掛けることより与えられる。
【0073】
【0074】
この数14において、nは、所定の時刻tまでの制御ループの実行数である。
【0075】
この離散的な状況において、時間積分は、増加偏差の合計になる。また、時間tにおける車両による追加移動距離は、以下の数15になる。
【0076】
【0077】
この数15において、Decnは、制御ループのn番目の実行における車両の減速度である。
【0078】
離散的な方法は、この方法に基づいて、追加距離を最小化するようにブレーキ(及び関連する支援装置)を制御する
【0079】
【0080】
追加距離が最小化されないとき、列車の速度は、
図6における曲線12のような傾向に従う。
【0081】
一方、制御ループのそれぞれの実行(n)において最小化及び調整することにより、目標減速度Decobbは以下の等式を保つ。
【0082】
【0083】
本発明の方法の目的の実施例として、劣化した車輪とレールの粘着と共に汚れたレールのシナリオを考慮すると、第1の例において、劣化したブレーキ力が与えられる。一方、劣化した粘着状態の存在により、スライディング制御手段が介入する。このスライディング制御手段により、劣化していないブレーキ力Fndを与えることができない一方、劣化したブレーキ力Fdを与えることだけできる。したがって、この場合、例えば1m/s2に設定されている目標減速度に達することができない。
【0084】
本発明の目的である制御方法を適用することにより、例えば、
図5に示すような減速度のプロファイルを得る。また、列車の速度は、
図6において符号14で示すような傾向を有する。
【0085】
本発明に記載の方法は、追加停止距離を足した目標停止距離Disobbを備える劣化した停止距離Disdegを最小化するため、補償減速値Dcompを設定する。この補償減速値Dcompは、所定のブレーキステップに対する目標減速値Dobbより大きい。
【0086】
この減速度のプロファイルにより、列車は、990mにおいて、すなわち劣化した停止距離Disdeg内ではなく、目標停止距離Disobb内において移動を止める。
【0087】
例えば、目標停止距離Disobbは、列車の初期移動速度、非劣化ブレーキ力Fndが与えられる時刻から列車が移動速度ゼロに達する時刻までに得られる減速値の平均により得られる平均減速値、及び列車の初期移動速度と平均減速値との間の比率により得られる目標ブレーキ時間に応じて計算される。この目標停止距離Disobbは、数18を用いて計算され得る。
【0088】
【0089】
劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法のある実施形態において、補償ブレーキ力は、最大ブレーキ限界よりも小さい。すなわち、この実施形態は、大きすぎるブレーキの値を与える方法を避け得る。この大きすぎるブレーキの値は過剰な急ブレーキをもたらして、列車に乗っている乗客の安全性と快適性を危険にさらし得る。また、この限界により、与えられるブレーキ力が、適切な規則、例えばLOC&PAS TSIにより定められる安全基準を越えないように、与えられ得るブレーキ力を減少させることができる。
【0090】
別の実施形態において、劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法は、補償ブレーキ力が非劣化ブレーキ力Fndの値を越えるとき、信号を列車のドライバ又は専用の制御インフラストラクチャに与えるステップを備えてもよい。このように、方法が、劣化した粘着状態に対して補償するための動作を要求するような状況に遭遇したことを列車のドライバ又は適切なインフラストラクチャに通知することができる。
【0091】
したがって、本発明の利点は、劣化した粘着状態であっても、劣化した粘着状態により生じる追加停止距離を最小化して、目標停止距離内において列車の移動を止めることができることである。
【0092】
本発明に記載の少なくとも1つの鉄道車両を含む列車に対する劣化した粘着状態のブレーキを管理するための方法の様々な態様及び実施形態が説明されている。それぞれの実施形態がいずれかの他の実施形態と組み合わせられ得ることが分かる。また、本発明は、説明された実施形態に限定されない一方、添付の請求項により定められる範囲内において変化する。