(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】スパイラル取得のためのMRファントム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20241125BHJP
G01N 24/08 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
A61B5/055 390
A61B5/055 311
A61B5/055 380
G01N24/08 510Y
(21)【出願番号】P 2020570170
(86)(22)【出願日】2019-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2019065816
(87)【国際公開番号】W WO2019243224
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-16
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】フェデラー ミハ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイ シルケ
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-208387(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038345(WO,A1)
【文献】特開平03-037046(JP,A)
【文献】特開2009-261566(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0150528(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0363645(US,A1)
【文献】特開2008-295884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00-24/14
G01R 33/28-33/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体によって取り囲まれた固体材料の顆粒のバルクで満たされたボリュームを含むファントムを提供するステップであって、前記顆粒の材料の磁化率は、周囲の前記液体の磁化率に実質的に等しい、提供するステップと、
前記ファントムをイメージングシーケンスにさらすステップと、
前記ファントムからMR信号を取得するステップと、
取得された前記MR信号からMR画像を再構成するステップと、
前記MR画像からの2つ以上の異なる画像領域における、主磁場不均一性によるオフ共鳴効果、並びに、勾配非線形性及び勾配遅延などの勾配磁場の偏差に関連する局所画像鮮鋭度の尺度を導出するステップと、
を含み、
前記顆粒は丸みを帯びた不規則な形状であり、前記ファントムのボリュームは球形であり、
各画像領域は、前記ファントムのボリュームの一部の表現である、
磁気共鳴画像の画質の評価方法。
【請求項2】
前記顆粒の直径は、前記MR画像のボクセルサイズよりも2~5倍大きい、請求項1に記載の
磁気共鳴画像の画質の評価方法。
【請求項3】
前記顆粒は、前記ファントムのボリューム内にランダムに充填されている、請求項1又は2に記載の
磁気共鳴画像の画質の評価方法。
【請求項4】
前記MR信号への前記顆粒の材料からの寄与の横緩和時間は、前記MR信号への前記周囲の液体からの寄与の横緩和時間よりも著しく短い、請求項1から3のいずれか一項に記載の
磁気共鳴画像の画質の評価方法。
【請求項5】
前記周囲の液体は、溶解ガスを含まない、請求項1から4のいずれか一項に記載の
磁気共鳴画像の画質の評価方法。
【請求項6】
前記顆粒の材料は、ポリエチレン又はポリメチルメタクリレートである、請求項1から5のいずれか一項に記載の
磁気共鳴画像の画質の評価方法。
【請求項7】
前記イメージングシーケンスは、少なくとも1つのRF励起パルス及び変調磁場勾配を含み、前記MR信号は、少なくとも1つのスパイラルk空間軌跡に沿って取得されるか、又は、
前記イメージングシーケンスは、いくつかのRF励起パルス及び異なる複数の方向に印加されるいくつかの磁場勾配を含み、前記MR信号は、いくつかのラジアルk空間軌跡に沿って取得される、請求項1から6のいずれか一項に記載の
磁気共鳴画像の画質の評価方法。
【請求項8】
前記局所画像鮮鋭度の前記尺度は、前記画像領域の各々のボクセル値の平均ボクセル値及び標準偏差を計算することによって、及び、前記画像領域の各々の前記標準偏差と前記平均ボクセル値との比を計算することによって導出される、請求項1から7のいずれか一項に記載の
磁気共鳴画像の画質の評価方法。
【請求項9】
液体によって取り囲まれた固体材料の顆粒のバルクで満たされたボリュームを含むMRイメージング用のファントムであって、前記顆粒の材料の磁化率は、周囲の前記液体の磁化率に実質的に等しく、
前記ファントムは、さらに、
前記顆粒は、丸みを帯びた不規則な形状であること、
前記ファントムのボリュームは、球形であること、
という特徴を満たす、ファントム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴(MR)イメージングの分野に関する。本発明は、物体のMRイメージング方法に関する。本発明はまた、MRデバイス、及びMRデバイス上で実行されるコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、2次元又は3次元画像を形成するために磁場と核スピンとの相互作用を利用する画像形成MR方法は、軟組織のイメージングにおいて、多くの点で他のイメージング方法よりも優れており、電離放射線を必要とせず、また、通常、侵襲的ではないことから、特に医療診断の分野において広く使用されている。
【0003】
一般に、MR方法によれば、例えば検査される患者身体である物体は、強力で均一な磁場内に配置される。磁場の方向は、同時に、測定のベースになる座標系の軸(通常はz軸)を規定する。磁場は、規定された周波数(いわゆるラーモア周波数、又はMR周波数)の交流電磁場(RF磁場)の印加によって励起(スピン共鳴)可能である磁場強度に依存して、個々の核スピンの異なるエネルギーレベルを生成する。巨視的観点から、個々の核スピンの分布が全体的な磁化を生成し、全体的な磁化は、適切な周波数の電磁パルス(RFパルス)を印加することにより平衡状態から外れるように偏向可能であり、これにより、磁化は、z軸の周りで歳差運動を行う。歳差運動は、円錐体の表面を描き、その開口角はフリップ角と呼ばれる。フリップ角の大きさは、印加された電磁パルスの強度及び持続時間に依存する。いわゆる90°パルスの場合、スピンはz軸から横断面まで偏向される(フリップ角90°)。
【0004】
RFパルスの終了後、磁化は緩和して元の平衡状態に戻る。平衡状態では、z方向における磁化が、第1の時定数T1(スピン格子緩和時間又は縦緩和時間)で再び蓄積され、z方向に垂直な方向における磁化が、第2の時定数T2(スピンスピン緩和時間又は横緩和時間)で緩和する。磁化の変動は、当該磁化の変動がz軸に垂直な方向に測定されるようにMRデバイスの検査ボリューム内に配置され、方向付けられている受信RFコイルによって検出することができる。横方向磁化の減衰は、例えば90°パルスの印加後、(局所的な磁場の不均一性によって引き起こされる)同位相を有する秩序状態からすべての位相角が均一に分布する状態への核スピンの遷移(ディフェージング)が伴う。ディフェージングは、例えばリフォーカシングパルス(例えば180°パルス)によって相殺することができる。これにより、受信コイルにエコー信号(スピンエコー)が生成される。
【0005】
体内における空間分解能を実現するために、3つの主軸に沿って延在する一定の磁場勾配が均一磁場に重畳され、スピン共鳴周波数の線形空間的依存性につながる。このとき、受信コイルにおいて捕捉される信号は、体内の様々な場所に関連付けられる様々な周波数成分を含む。受信コイルを介して得られる信号データは空間周波数領域に対応し、k空間データと呼ばれる。k空間データのセットは、画像再構成アルゴリズムによってMR画像に変換される。
【0006】
スパイラルMRイメージングは、k空間におけるデータの取得の最も効率的なサンプリングパターンの1つである。さらに、スパイラル方式は、その固有の第1の勾配モーメントのヌリング特性により、フロー効果に対してロバストであることが示されている。したがって、スパイラルアプローチは、脳、腹部及び心臓の画像診断などの臨床応用のためにますます関心が高まっている。さらに、リアルタイム応用が興味深く、これは、各新しいスパイラルインターリーフを用いてk空間の中央部分を頻繁に更新することから特に利益を得る。これは、動態検査において高速なコントラスト変化を追跡することを可能にする。
【0007】
しかしながら、スパイラルイメージングは非常にハードウエアを必要とし、必要な画像再構成アルゴリズムは、デカルト格子上でサンプリングされたデータの画像再構成に典型的に使用される単純なフーリエ変換よりも複雑である。スパイラル方式は、使用されるMRデバイスの利用可能な磁場勾配システムを他の技術よりも効率的に使用するが、ぼけを引き起こす主磁場不均一性によって生じる勾配システム不完全性及びオフ共鳴に敏感であり、鮮鋭性の点で画質をかなり劣化させる。ロバストな標準MRシーケンスによって提供される高品質に匹敵する品質でスパイラル画像を得るためには、これらの可能性のある画像劣化の原因を考慮しなければならない。
【0008】
特定のMRハードウェア環境におけるスパイラルMRイメージングシーケンスのデザインの操作性の検証と、臨床実務における画質の制御との両方のために、異なる画像領域における結果として生じるMR画像の鮮鋭度の評価を可能にすることが求められている。
【0009】
使用されるMRデバイスによって誘発される異なるタイプの画像不完全性を測定及び補正するための既知の方法は、所定のパターンに配置された適切な特徴を含むファントムからのMR画像を取得及び再構成して、MR画像内のそれぞれの特徴の位置とファントム内のそれらの実際の位置との対応を確立することである。
【0010】
しかしながら、MRイメージングに従来使用されている既知のファントムは、所与のスパイラルイメージングシーケンスの操作性を評価するために必要である異なる画像領域における画像鮮鋭度の評価を可能にしない。既知のファントムのボリュームは、大部分が構造化されていないため、それらの特定の特徴のエッジは別として、画像鮮鋭度を評価するために利用可能な領域がない。
【0011】
米国特許第5336999D2号は、横スピン反転(TSI)EPI取得シーケンスにおける局所磁場不均一性に対する画像解像度の感度の評価結果について開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のことから、改善されたMRイメージング技術が必要とされていることが容易に理解される。本発明は、上述の限界に対処し、特にスパイラル取得を伴うMRイメージングにおいて画質をチェックするための、製造が安価で、画像鮮鋭度の簡単で、実用的で、かつ迅速な評価を可能にするファントムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、MRイメージング方法が提供される。方法は、
‐液体によって取り囲まれた固体材料の顆粒のバルクで満たされたボリュームを含むファントムを、イメージングシーケンスにさらすステップと、
‐ファントムからMR信号を取得するステップと、
‐取得されたMR信号からMR画像を再構成するステップと、
‐MR画像からの2つ以上の異なる画像領域における局所画像鮮鋭度の尺度を導出するステップとを含み、各画像領域は、ファントムのボリュームの一部の表現である。
【0014】
本発明によれば、そのボリュームのすべてに「構造」を有するようにデザインされたファントムが使用される。これにより、ファントムのボリューム内の各位置における画像の鮮鋭度を評価することができる。MR信号がファントムから取得され、MR画像からの少なくとも2つの空間的に異なる領域(ファントムのボリューム内にある)から、鮮鋭度メトリックが導出される。
【0015】
ファントムは、液体によって取り囲まれた固体材料の顆粒のバルクでボリュームを満たすことによって実現される。好ましくは液体からのMR信号が取得される。これは、MRファントムで従来使用されているような液体とすることができる。顆粒は、好ましくはMR信号を全く放出しないか、又は非常に低いMR信号しか放出しない材料から形成される。K.W.Moser及びJ.G.GeorgiadisによるMRI22(2004)257-268(D1)の論文「Extraction and validation of correlation lengths from interstitial velocity fields using diffusion‐weighted MRI」から、拡散測定を調査するために、ランダムに充填された球体の水飽和床からなる充填床ファントムを使用すること自体が知られている。
【0016】
本発明の方法は、ファントムを、ファントムから磁気共鳴信号を生成する(MR)イメージングシーケンスにさらすことを含む。取得した磁気共鳴信号から磁気共鳴画像を再構成する。磁気共鳴画像は、ファントムの内容、すなわち、顆粒の構成の分布、サイズ、及びMR応答の態様を表す。顆粒の構成、サイズ及び分布が事前に決定されているので、磁気共鳴画像を使用して、(MR)イメージングシーケンス及び磁気共鳴検査システムの空間的(勾配)磁場分布に関連する画像鮮鋭度を測定することができる。
【0017】
さらに、どの(MR)イメージングシーケンスも、主磁場不均一性によるオフ共鳴効果、並びに、勾配非線形性及び勾配遅延などの勾配磁場の偏差に多かれ少なかれ敏感であることに留意されたい。このようなオフ共鳴及び勾配偏差は、k空間データがそれに沿ってサンプリングされる実際の軌跡を、(MR)イメージングシーケンスを再生し、それに従って磁気共鳴画像が再構成される命令に正確に適合しないようにする。これらの導出は、原則として、どのタイプの(MR)イメージングシーケンスにも当てはまる。実際には、k空間のスパイラル軌跡に沿ったサンプリングが特に、これらの偏差に敏感であることに留意されたい。したがって、本発明は、これらのスパイラル型(MR)イメージングシーケンスの画像鮮鋭度を評価するのに特に有用である。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、顆粒の直径は、MR画像のボクセルサイズよりも2~5倍、好ましくは3~4倍大きい。ファントムの顆粒の好ましいサイズは、鮮鋭度を調べる必要があるMR画像の解像度に関連する。実際には、顆粒の直径は、検査下のMR画像のボクセルサイズの約3~4倍、すなわち、典型的には3~4mmであるべきである。しかしながら、顆粒の正確なサイズは、あまり重要なパラメータではない。
【0019】
顆粒の形状もあまり重要ではない。好ましくは、顆粒は、積み重ねられた(又は結晶様の)構造を形成する傾向がないように、丸みを帯びた不規則な形状(完全に球形ではない)である。代替の実施形態では、等しいサイズの又は狭い直径分布を有する球状顆粒のバルクを同様に使用することができる。顆粒をファントムのボリューム内にランダムに充填することが好ましい。
【0020】
好ましい実施形態では、顆粒の材料は、MR信号に寄与する原子核を含まず、これにより、MR信号は、顆粒を取り囲む液体からのみ取得される。MR信号への顆粒の材料からの寄与の横緩和時間が、周囲の液体からの寄与の横緩和時間(好ましくは>100ms)よりも著しく短い(好ましくは<1ms)場合、実質的に同じ結果が得られる。この場合、例えば、十分に長いエコー時間でMR信号をエコー信号として取得することにより、顆粒からのMR信号の寄与を抑制することができる。しかしながら、全体的なMR信号に対する顆粒からの相対的な寄与が支配的でない(50%未満)ことが保証される限り、顆粒からMR信号への寄与は、本発明による局所画像鮮鋭度を評価するためには重要ではない。
【0021】
顆粒の材料の常磁性磁化率は、顆粒と周囲の液体との境界における磁場歪みを回避するために、周囲の液体の常磁性磁化率と実質的に等しくなければならない。このような磁場歪みは、画像鮮鋭度の評価を損なう可能性がある。したがって、周囲の液体が水である場合、顆粒の材料の磁化率は、x=9・10-6に近くなければならない。さらに、周囲の液体は、局所的な磁場歪みを引き起こす可能性もある気泡の形成を防止するために、溶解ガスを含まないべきである。したがって、理想的には、周囲の液体に、ファントムで使用する前に、脱気手順を行うべきである。
【0022】
上記要件は、顆粒にプラスチック材料、好ましくは(高密度)ポリエチレン(PE)又はポリメチルメタクリレート(PMMA)を選択することによって満たされ、一方、周囲の液体は、イオン、好ましくは銅、ニッケル又はマンガンのイオンが溶解されている水である。このような液体が、典型的にファントムで使用される。イオン濃度は、横緩和時間及び縦緩和時間を最適に調整するために変化させることができる。炭水化物、好ましくは鉱油もまた、周囲の液体として使用することができる。顆粒の材料としてのPMMAは、水との組み合わせで特によく適しているが、PEは、周囲の液体としての鉱油との組み合わせでよく適している。
【0023】
本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、ファントムのボリュームは球形である。ファントムの球形形状は、ファントムのボリューム内の主磁場の歪みを最小限に抑える。実用的な実施形態では、顆粒の密に充填されたバルクを封入し、周囲の液体で満たされた、適切な材料(例えば、プラスチック)の球形容器が使用される。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、イメージングシーケンスは、少なくとも1つのRF励起パルス及び変調磁場勾配を含み、MR信号は、少なくとも1つのスパイラルk空間軌跡に沿って取得される。本発明の方法は、スパイラル取得方式との組み合わせで画像鮮鋭度を評価するのに特に適している。画像解像度は、実質的に等方性であるべきである。
【0025】
本発明の代替の実施形態によれば、イメージングシーケンスは、いくつかのRF励起パルス及び異なる複数の方向に印加されるいくつかの磁場勾配を含み、MR信号は、いくつかのラジアルk空間軌跡に沿って取得される。本発明の方法はまた、ラジアル取得方式との組み合わせで画像鮮鋭度を評価するのにも適している。スパイラル取得方式及びラジアル取得方式は、ラジアルk空間位置が時間と共に単調に増加(又は減少)する点で共通している。一般に、本発明の方法は、長い読み出し時間(>10ms)を有する任意のイメージングシーケンスとの組み合わせで有用に適用することができる。
【0026】
好ましくは、マグニチュードMR画像(位相情報を伴わない)が、取得されたMR信号から再構成され、局所画像鮮鋭度の尺度は、画像領域の各々のピクセル値の平均ボクセル値及び標準偏差を計算することによって、及び画像領域の各々の標準偏差と平均ボクセル値との比を計算することによって導出される。それぞれの画像領域のサイズは、十分な統計的精度を有するために、好ましくは100を超える、最も好ましくは1000を超えるボクセルを含むように選択されるべきである。標準偏差と平均ボクセル値との比が、それぞれの画像領域の中心における局所画像鮮鋭度のメトリックと見なされる。
【0027】
これまで説明した本発明の方法は、以下のステップを行うMRデバイスによって実行することができる。
‐ファントム(19)をイメージングシーケンスにさらすステップ、
‐ファントム(19)からMR信号を取得するステップ、
‐取得されたMR信号からMR画像を再構成するステップ、
‐MR画像からの2つ以上の異なる画像領域における局所画像鮮鋭度の測度を導出するステップ。ここで、各画像領域は、ファントムのボリュームの一部の表現である。本発明をMRデバイスに実装するには、磁気共鳴信号を取得して、磁気共鳴信号から磁気共鳴画像を再構成するようにMRデバイスに構成すればよい。再構成は、MRデバイスに組み込まれても、又は遠隔で、例えばクラウド内で行われてもよい。
【0028】
現行の実務におけるこのようなMRデバイスは、好ましくは、検査ボリューム内に均一な静磁場を生成する少なくとも1つの主磁石コイルと、検査ボリューム内の異なる空間方向に切り替え磁場勾配を生成するいくつかの勾配コイルと、検査ボリューム内にRFパルスを生成する及び/又は検査ボリューム内に配置され、液体によって囲まれた固体材料の顆粒のバルクで満たされたボリュームを含むファントムからMR信号を受信する少なくとも1つのRFコイルと、RFパルス及び切り替え磁場勾配の時間的連続を制御する制御ユニットと、受信したMR信号からMR画像を再構成する再構成ユニットとを含む。本発明の方法は、例えば、MRデバイスの再構成ユニット及び/又は制御ユニットの対応するプログラミングによって実施することができる。
【0029】
本発明の方法は、現在、臨床使用されているほとんどのMRデバイスにおいて有利に実行することができる。このためには、上述のタイプのファントムを提供し、本発明の上述の方法ステップを行うようにMRデバイスを制御するコンピュータプログラムを利用するだけでよい。コンピュータプログラムは、MRデバイスの制御ユニットにインストールするためにダウンロードされるように、データキャリア上に存在してもよいし、データネットワーク内に存在してもよい。
【0030】
本発明のさらなる主題は、MRイメージング用のファントムである。本明細書において上述したように、ファントムは、液体によって取り囲まれた固体材料の顆粒のバルクで満たされたボリュームを含む。本発明によれば、ファントムは、
‐顆粒は、ファントムのボリューム内にランダムに密に充填されていること、
‐顆粒は、丸みを帯びた不規則な形状であること、
‐顆粒は、球形でサイズが等しいこと、
‐顆粒の材料は、所与の磁場強度でMR信号を生成する原子核を含まないように選択されていること
‐顆粒の材料は、顆粒の材料によって生成されるMR信号の横緩和時間が、周囲の液体によって生成されるMR信号の横緩和時間よりも著しく短くなるように選択されていること、
‐ファントムのボリュームは、球形であること、
‐顆粒の材料は、プラスチック、好ましくはポリエチレン又はポリメチルメタクリレートであること、
‐周囲の液体は、イオン、好ましくは銅、ニッケル若しくはマンガンのイオンが溶解されている水か又は炭水化物、好ましくは鉱油であること、
‐顆粒の材料の常磁性磁化率は、周囲の液体の常磁性磁化率に実質的に等しいこと、
‐周囲の液体は、溶解ガスを含まないこと
という特徴のうちの1つ、又は技術的に実行可能であれば、それ以上を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0031】
添付の図面は、本発明の好ましい実施形態を開示する。しかしながら、図面は例示のみを目的としてデザインされたものであり、本発明の限定の定義としてデザインされたものではないことを理解されたい。
【0032】
【
図1】
図1は、本発明の方法を実行するためのMRデバイスを示す。
【
図2】
図2は、本発明の方法で使用されるファントムのデザインを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1を参照すると、MRデバイス1が概略的に示されている。デバイスは、実質的に均一で時間的に一定の主磁場が検査ボリュームを通ってz軸に沿って生成されるように、超伝導又は抵抗性の主磁石コイル2を含む。
【0034】
磁気共鳴生成及び操作システムが、一連のRFパルス及び切り替え磁場勾配を印加して、核磁気スピンを反転又は励起させ、磁気共鳴を誘導し、磁気共鳴をリフォーカスさせ、磁気共鳴を操作し、磁気共鳴を空間的及び他の方法でエンコードし、スピンを飽和させる等して、MRイメージングを行う。
【0035】
より具体的には、勾配パルス増幅器3が、検査ボリュームのx軸、y軸及びz軸に沿った全身勾配コイル4、5及び6のうちの選択された勾配コイルに電流パルスを印加する。デジタルRF周波数送信器7が、送受信スイッチ8を介して、RFパルス又はパルスパケットを全身ボリュームRFコイル9に送信して、RFパルスを検査ボリューム内に送り込む。典型的なMRイメージングシーケンスは、短い持続時間のRFパルスセグメントのパケットから構成され、これらのセグメントは互いにかつ任意の印加された磁場勾配と一緒にされて、核磁気共鳴の選択された操作を達成する。RFパルスを使用して、共鳴を飽和させ、共鳴を励起させ、磁化を反転させ、共鳴をリフォーカスさせ又は共鳴を操作して、検査ボリューム内に配置される身体10の一部を選択する。MR信号は全身ボリュームRFコイル9によっても捕捉される。
【0036】
身体10の限定領域のMR画像を生成するために、局所アレイRFコイル11、12、13のセットが、イメージング用に選択される領域に隣接して置かれる。アレイコイル11、12、13を使用して、身体コイルRF送信によって誘導されるMR信号を受信することができる。
【0037】
結果として得られるMR信号は、全身ボリュームRFコイル9及び/又はアレイRFコイル11、12、13によって捕捉され、好ましくは前置増幅器(図示せず)を含む受信器14によって復調される。受信器14は、送受信スイッチ8を介して、RFコイル9、11、12及び13に接続される。
【0038】
ホストコンピュータ15が、本発明に従って、勾配パルス増幅器3及び送信器7を制御して、エコープラナーイメージング(EPI)、エコーボリュームイメージング、グラジエント及びスピンエコーイメージング、高速スピンエコー(TSE)イメージングなどの複数のMRイメージングシーケンスのいずれか1つを生成して、MR信号を取得する受信器14は、選択されたシーケンスについて、各RF励起パルスに続いて高速の連続で、それぞれのk空間軌跡に沿って単一又は複数のMRデータを受信する。データ取得システム16が、受信信号のアナログ-デジタル変換を行い、各MR信号を、更なる処理に適したデジタル形式に変換する。最新のMRデバイスでは、データ取得システム16は、生画像データの取得に特化した単独のコンピュータである。
【0039】
最終的に、デジタル生画像データは、再構成プロセッサ17によって画像表現に再構成される。再構成プロセッサ17は、フーリエ変換又は他の適当な再構成アルゴリズムを適用する。MR画像は、患者の平面スライス、平行平面スライスのアレイ、3次元ボリューム等を表す。その後、MR画像は、画像メモリに保存される。画像メモリは、画像表現のスライス、投影又は他の部分を、例えば結果として得られたMR画像の人間が読み取り可能な表示を提供するビデオモニタ18を介する視覚化に適した形式に変換するためにアクセスされる。
【0040】
本発明の方法では、患者の身体10が、以下により詳細に説明されるように、ファントム19に置換される。MRデバイス1は、例えば、ホストコンピュータ15及び再構成プロセッサ17の適切なプログラミングによって、上述のように及び以下に説明するように本発明のイメージング方法を行う。
【0041】
引き続き
図1を参照し、さらに
図2を参照して、本発明のイメージング方法の実施形態を説明する。
【0042】
図2は、本発明の方法で使用されるファントム19のデザインを断面図で概略的に示す。ファントム19は球形である。ファントム19は、固体材料の球状顆粒のバルクで満たされたボリュームを含む。
図2において、顆粒のいくつかは参照符号20で示されている。顆粒を含むボリュームは液体で満たされている。ボリュームは、例えばプラスチックなどの適切な材料の液密容器21によって囲まれている。容器21の壁厚は、ファントム19に安定性を与えるのに十分でなければならない。ファントム19は、画像の鮮鋭度を分析するために必要な場合はいつでもMRデバイス1の検査ボリューム内に配置することができる。
【0043】
顆粒20が提供する構造は、ファントムのボリューム内の各位置での画像鮮鋭度を評価することを可能にする。顆粒20の直径は、鮮鋭度が評価されるべきMR画像のボクセルサイズよりも3~4倍大きい。顆粒20は球形であり、ファントムのボリューム内に実質的にランダムに充填されている。
【0044】
顆粒20の材料はPMMAである。この材料の横緩和時間は1ms未満である。したがって、ファントム19から取得される全体的なMR信号に対する顆粒20からのMR信号の寄与は無視できる。
【0045】
顆粒20を取り囲む液体は、銅イオンが溶解した水である。このような液体は、典型的にファントムで使用される。イオン濃度は、それぞれのイメージングシーケンスに対して最適な横緩和時間値及び縦緩和時間値を提供するように選択される。PMMAの常磁性磁化率は、水のそれと非常に類似しており、これにより、顆粒20の境界での磁化率アーチファクトが回避される。
【0046】
本発明によれば、ファントム19は、少なくとも1つのRF励起パルス及び変調磁場勾配を含むイメージングシーケンスにさらされ、MR信号が、ファントム19からの少なくとも1つのスパイラルk空間軌跡に沿って取得される。
【0047】
スパイラル取得と組み合わせて画像鮮鋭度を評価するために、取得されたMR信号からマグニチュードMR画像が再構成され、局所画像鮮鋭度の尺度が、いくつかの異なる画像領域(画像領域の各々はファントムのボリューム内に完全に含まれる)の各々におけるボクセルに対するボクセル値の平均ボクセル値及び標準偏差を計算することによって導出される。標準偏差と平均ピクセル値との比は、それぞれの画像領域の中心における画像鮮鋭度のためのメトリックを提供する。
【0048】
提案されるファントムは、説明したイメージング方法及び特定の鮮鋭度メトリックの計算との組み合わせで、(ファントムのボリュームの大きさに応じて)全視野にわたって、画像鮮鋭度の非常に容易で、ロバストで、かつ迅速な評価を可能にする。