(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20241125BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20241125BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20241125BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
C08L23/10 ZAB
C08K7/06
C08L23/26
H05K9/00
(21)【出願番号】P 2021006609
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594146179
【氏名又は名称】株式会社新菱
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】増田 憲二
(72)【発明者】
【氏名】片桐 瑞基
(72)【発明者】
【氏名】山田 尚史
(72)【発明者】
【氏名】有田 宏之
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-052102(JP,A)
【文献】国際公開第2011/030784(WO,A1)
【文献】特開2018-162342(JP,A)
【文献】特開2020-196882(JP,A)
【文献】特開2019-163354(JP,A)
【文献】特開2020-049820(JP,A)
【文献】特開2020-176261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/10
C08K 7/06
C08L 23/26
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂(A)50~97重量%、
リサイクル炭素繊維である炭素繊維(B)3~50重量%(但し、ポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計が100重量%である)およびポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計100重量部に対して変性ポリオレフィン樹脂(C)0.1~3重量部を含有することを特徴とする
電磁波シールド用繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記リサイクル炭素繊維が、炭素繊維強化プラスチックを
300~700℃で熱分解することにより得られたリサイクル炭素繊維である、請求項
1に記載の
電磁波シールド用繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記リサイクル炭素繊維の樹脂残渣含有率が0.1~30重量%である、請求項
1又は
2に記載の
電磁波シールド用繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
炭素繊維(B)の繊維長が1~25mmである、請求項1に記載の電磁波シールド用繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
炭素繊維(B)の繊維径が1~30μmである、請求項1に記載の電磁波シールド用繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至
5の何れか1項に記載の
電磁波シールド用繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項7】
ポリプロピレン系樹脂(A)50~97重量%、炭素繊維強化プラスチックを300~700℃で熱分解することにより得られたリサイクル炭素繊雑である炭素繊維(B)3~50重量%(但し.ポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計が100重量%である)およびポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計100重量部に対して変性ポリオレフィン樹脂(C)0.1~3重量部を混練することを特徴とする電磁波シールド用繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、機械物性と電磁波シールド性に優れた繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン樹脂組成物を成形して得られる成形体は、その優れた成形性と物性のために、自動車部品や家電部品など様々な分野での利用が進んでいる。
【0003】
そして、ポリプロピレン樹脂組成物はその優れた物性により用途が拡大してきているが、さらなる適用範囲の拡大には物性に加えて新たな特性を付与していく必要がある。
【0004】
新たな特性のひとつとしては電磁波シールド性があげられる。自動車の電動化や電子化が今後より進んでいき電子機器同士の干渉をさけるためには、各部品間における電磁波の影響を遮断する必要がある。また、電気自動車においては大容量のバッテリーを積載する必要があり、電磁波の遮断と同時に大容量のバッテリーを支えるためには、部材としての良好な機械物性が必要となる。こういった状況下においては、機械物性と電気特性を両立させるために炭素繊維の活用が進められている。
【0005】
炭素繊維は航空、自動車用途からスポーツ・レジャー用途まで幅広く適用されてきているが、その使用量の拡大に伴いリサイクルの問題が注目されており、新品(バージン)の炭素繊維同様にリサイクル炭素繊維の再利用をいかに進めていくかが重要である。
【0006】
炭素繊維のリサイクルのための製造方法として、例えば特許文献1においても熱分解して得られたリサイクル炭素繊維の製造法について報告があるが、そのリサイクル炭素繊維を用いた樹脂組成物および成形体については何ら着目も検討もなされておらず、リサイクル炭素繊維が新品の炭素繊維と同様に使用可能であるのか否かについては不明である。
また、特許文献2では廃材から回収されたリサイクル炭素繊維から残存付着物を除去して炭素繊維塊を形成し、その後原料樹脂とリサイクル炭素繊維を変則二軸式押出機でペレットを製造する方法について提案があるが、リサイクル炭素繊維をペレット化した後の剛性においては新品の炭素繊維には及ばない結果になっている。
特許文献3においてはリサイクル炭素繊維と樹脂もしくはエラストマーとを組み合わせ、高せん断で混練する製造方法および樹脂組成物が報告され、高せん断による製造により剛性の向上が得られることが報告されている。しかしながら、同文献には、リサイクル炭素繊維の製造方法と、リサイクル炭素繊維がバージン炭素繊維と同等の機械物性を有することについては記載されているものの、電磁波シールドについての記載や、電磁波シールドを向上する手法は開示されておらず、このため同文献に記載の技術でリサイクル炭素繊維がバージン炭素繊維と同様に使用できる可能性は特定の部品への適用にとどまり、リサイクル炭素繊維がバージン炭素繊維と同様に機械物性と電磁波シールドを両立させた材料であるとは言い難い。
【0007】
特許文献4においては、アミノ基を有する重合体とリサイクル炭素繊維、熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が提案されている。アミノ基を有する重合体を含有することで炭素繊維表面との界面が強化されることにより耐衝撃性や曲げ強度等の機械物性が向上することが提案されている。ここでは新品の炭素繊維とリサイクル炭素繊維において差異がないものの、電磁波シールド性については着目も検討もなされておらず、新品の炭素繊維とリサイクル炭素繊維の電磁波シールド性がどのような挙動を示すのかは、全く不明である。
【0008】
特許文献5においては特定のリサイクル炭素繊維を用いた樹脂組成物が提案されているが、リサイクル炭素繊維の製造方法において炭素繊維の機械物性および電磁波シールド性能に影響を及ぼす樹脂残渣成分については十分検討がなされていない。また、当該文献に記載の発明においては、バージンの炭素繊維を使用した場合よりもリサイクル炭素繊維を使用した方が機械物性および表面抵抗値が劣っており、リサイクル炭素繊維がバージンの炭素繊維と同等の性能を満足した発明であるとはいいがたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-109184号公報
【文献】特開2018-199230号公報
【文献】特開2020-049820号公報
【文献】特開2017-048313号公報
【文献】特開2019-163354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記の従来技術では到達していない問題を解決しようとするものであって、自動車部品や家電部品などに用いられる成形体において、曲げ弾性率や曲げ強度といった機械物性や電磁波シールド性にすぐれた繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、ポリプロピレン系樹脂に特定の炭素繊維および変性ポリプロピレンを特定の割合で配合してなる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物が上記の課題を解決できることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下の構成を有するものである。
[1]ポリプロピレン系樹脂(A)50~97重量%、炭素繊維(B)3~50重量%(但し、ポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計が100重量%である)およびポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計100重量部に対して変性ポリオレフィン樹脂(C)0.1~3重量部を含有することを特徴とする繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
[2]炭素繊維(B)がリサイクル炭素繊維である[1]に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
[3]前記リサイクル炭素繊維が、炭素繊維強化プラスチックを熱分解することにより得られたリサイクル炭素繊維である、[2]に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
[4]前記リサイクル炭素繊維の樹脂残渣含有率が0.1~30重量%である、[2]又は[3]に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
[5][1]乃至[4]の何れか1項に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物により、良好な機械物性と電磁波シールド性能を有する成形体を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂(A)50~97重量%と炭素繊維(B)3~50重量%(但し、ポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計が100重量%である)、および変性ポリオレフィン樹脂(C)0.1~3重量部(ポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計100重量部に対する)を含有することを特徴とする繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物に関する。
【0015】
以下に本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物について、各項目の詳細を説明する。
【0016】
[I]繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の構成成分
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂(A)50~97重量%と炭素繊維(B)3~50重量%(但し、ポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計が100重量%である)、および変性ポリオレフィン樹脂(C)0.1~3重量部(ポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計100重量部に対する)を含有することを特徴とする繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物である。
【0017】
繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂(A)50~97重量%と炭素繊維(B)3~50重量%および変性ポリオレフィン樹脂(C)0.1~3重量部(ポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計100重量部に対する。以下同様である。)を含有することが必要であり、好ましくはポリプロピレン系樹脂(A)60~96重量%と炭素繊維(B)4~40重量%および変性ポリオレフィン樹脂(C)0.15~2.5重量部、より好ましくはポリプロピレン系樹脂(A)70~95重量%と炭素繊維(B)5~30重量%および変性ポリオレフィン樹脂(C)0.2~1.5重量部、さらに好ましくはポリプロピレン系樹脂(A)80~95重量%と炭素繊維(B)5~20重量%および変性ポリオレフィン樹脂(C)0.2~1.0重量部とを含有する。
ポリプロピレン系樹脂、炭素繊維、変性ポリオレフィン樹脂(以下「変性PP」とも言う)とをこのような範囲とすることにより、本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の機械物性、成形性、電磁波シールド性を、共に良好にすることができる。即ち、炭素繊維(B)の量が3重量%以上では機械物性および電磁波シールド性が良好であり、50重量%以下であると成形性などが低下するのを防止することができる。変性PPが0.1重量部以上ではポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との界面強度が十分な為機械物性が悪化するおそれがなく、3重量部以下ではその詳細な理由は不明ではあるものの、電磁波シールド性能が悪化するおそれがない。
【0018】
(1)ポリプロピレン系樹脂(A)
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(A)は、以下の条件(A-1)~(A-2)を満足するポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
【0019】
(1-1)条件(A-1)
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(A)は、プロピレン単独重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種のプロピレン系重合体である(但し、α-オレフィンの炭素数は2~8であり、炭素数3の場合を除く)。
ポリプロピレン系樹脂(A)は、好ましくは、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体及びプロピレン-エチレンブロック共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種のプロピレン系重合体である。また、ポリプロピレン系樹脂(A)は、より好ましくはプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレンブロック共重合体であり、さらに好ましくはプロピレン単独重合体である。プロピレン系樹脂(A)としてこのような重合体を用いることにより、所望の良好な機械物性や成形性を得ることが可能となる。
【0020】
プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体及びプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体としては、プロピレンと炭素数2~8の炭素数3(プロピレン)以外のα-オレフィンとのプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体及びプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体を用いることができる。これらの共重合体に用いられるα-オレフィンは、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンなどから選ばれ、なかでも、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセンが好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0021】
(1-2)条件(A-2)メルトフローレート(MFR)
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(A)のメルトフローレート(以下「MFR」と略記することがある)は、5~200g/10分の範囲にあることが好ましく、より好ましくは10~150g/10分、さらに好ましくは20~100g/10分、特に好ましくは25~80g/10分、さらに特に好ましくは30~50g/10分、中でも特に好ましくは35~45g/10分の範囲である。MFRをこのような範囲にすることにより、本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は十分な成形性(流動性)を有し、該繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体におけるバリの発生を抑制することができると共に、良好な機械物性を得る事が出来る。即ち、MFRが5g/10分未満であると成形性(流動性)が低下する場合があり、MFRが200g/10分を超えると、成形時にバリが発生するおそれがあると共に、十分な機械物性が得られない場合がある。
なお、本明細書において、MFRは、JIS K7210に準拠し、試験温度=230℃、荷重=2.16kgで測定した値である。
ポリプロピレン系樹脂(A)のMFRは後述する製造方法において、製造する際に使用する触媒の種類や重合の温度や圧力を変えるか、または、一般的な手法としては、水素等の連鎖移動剤を重合時に添加し、その添加量を調整する方法等により、容易に調整することができる。
【0022】
(1-3)ポリプロピレン系樹脂(A)の製造方法
ポリプロピレン系樹脂(A)の製造方法は、条件(A-1)~(A-2)を満足する重合体を得ることができる限り、特に限定されず、公知の製造方法により、製造することができる。
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(A)を得るために用いられる触媒は、特に限定されるものではなく、公知の触媒が使用可能である。例えば、チタン化合物と有機アルミニウムを組み合わせた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒(例えば、「ポリプロピレンハンドブック」(1998年5月15日 初版第1刷発行)等に記載)、あるいはメタロセン触媒(例えば、特開平5-295022号公報等に記載)が使用できる。
【0023】
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(A)を得るために用いられる重合プロセスは、特に限定されるものではなく、公知の重合プロセスが使用可能である。例えば、スラリー重合法、バルク重合法、気相重合法等が使用できる。また、バッチ重合法や連続重合法のいずれも用いることができ、所望により、二段及び三段等の複数段の連続重合法を用いてもよい。また、2種以上のプロピレン系重合体を機械的に溶融混練することによっても、製造することができる。
また、ポリプロピレン系樹脂(A)として使用可能なポリプロピレン系樹脂は、種々の製品が多くの会社から市販されており、例えば、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)として使用可能な製品としては日本ポリプロ社製のノバテックシリーズを挙げることができる。これら市販の製品から所望の物性を有する製品を購入し、使用することも、可能である。
【0024】
(2)炭素繊維(B)
本発明において用いられる炭素繊維(B)としては、特に限定されず種々の炭素繊維を用いることができる。ここで、炭素繊維とは、微細炭素繊維とも称される例えば繊維径が500nm以下の極細のものも含まれる。なお、炭素繊維は2種以上併用することもできる。
本発明に用いられる炭素繊維(B)は、引張弾性率および引張強度が高いため、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の機械物性・耐熱性などの物性、寸法安定性(線膨張係数の低減など)、環境適応性の各向上などに寄与する特徴を有する。
【0025】
炭素繊維(B)の繊維長は通常は1~25mmであり、2~20mmであるのが好ましく、より好ましくは、3~10mmである。炭素繊維(B)の繊維長をこのような範囲とすることにより、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の曲げ弾性率や、曲げ強度や衝撃強度などの機械物性と共に、成形体表面での平滑性やシボ転写性が良好となる。即ち、炭素繊維(B)の長さが1mm未満であると、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の機械物性などの物性が低下するおそれがあり、一方、25mmを超えると、成形体表面での成形性(流動性)が低下するおそれがあり、更には、触感や平滑性を低下させるおそれがある。
なお、本明細書において、繊維長は、顕微鏡により計測し、100本以上の繊維の長さの平均値を算出することにより求める。
その具体的な測定は、炭素繊維を界面活性剤含有水に混合し、該混合水液を薄ガラス板上に滴下拡散した後、デジタル顕微鏡(例えばキーエンス社製VHX-900型)を用いて100本以上の炭素繊維長さを測定しその平均値を算出する方法による。
【0026】
炭素繊維(B)の繊維径は通常は1~30μmであり、好ましくは2~20μmであり、より好ましくは、3~15μmである。繊維径が1μm以上であると、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の製造、成形時などにおいて取り扱いが容易であり、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の機械物性などの物性の各向上効果などが低下するおそれがない。また、繊維径が30μm以下であると炭素繊維が折損し易くなるおそれがないので繊維のアスペクト比が低下することがなく、当該樹脂組成物及びその成形体の機械物性などの各向上効果などが低下するおそれがない。
繊維径は、公知の方法で測定され、例えば、JIS R7607(旧JIS R7601)や顕微鏡観察法により測定される。
【0027】
炭素繊維の種類としては、前記した様に特に限定されないが、例えばアクリロニトリルを主原料とするPAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維、タールピッチを主原料とするピッチ系炭素繊維、さらにはレーヨン系炭素繊維などが挙げられ、いずれも好適に用いられる。これらの本発明に対する適性はいずれも高いが、どちらかといえばその組成純度や均一性などの観点からPAN系炭素繊維が好ましい。なお、これらは各々を単独使用してもよく、複数の種類のものを併用してもよい。なお、これらの炭素繊維の製造方法は特に限定されない。
【0028】
新品(バージン)の炭素繊維を使用する場合、炭素繊維の具体例としては、PAN系炭素繊維では、三菱ケミカル社製商品名「パイロフィル」、東レ社製商品名「トレカ」、東邦テナックス社製商品名「ベスファイト」などを挙げることができ、ピッチ系炭素繊維では、三菱ケミカル社製商品名「ダイアリード」、大阪ガスケミカル社製商品名「ドナカーボ」、呉羽化学社製商品名「クレカ」などを挙げることができる。本発明では、これらの市販品から所望の製品を選択し、使用する事が出来る。また、リサイクル炭素繊維を使用する場合も、これらの市販品を用いた成形体からリサイクルされた炭素繊維を使用する事が出来る。
【0029】
また、これらの炭素繊維は、予め任意の量の例えばプロピレン-エチレンランダム共重合体及び/又はプロピレン-エチレンブロック共重合体などと、溶融押出加工して連続した多数本の炭素繊維を集合一体化した「炭素繊維含有ペレット」として用いることもでき、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体製造時の取り扱いの容易性や、シボ転写性、機械物性などの各向上効果などをより高める観点から好ましい。
このような炭素繊維含有ペレットの場合、前述したように炭素繊維の長さは、該炭素繊維含有ペレットの長さ(押出方向)とし、通常は1~25mmであり、2~20mmとすることが好ましい
【0030】
炭素繊維は、通常200~1000GPa程度の引張弾性率を有するが、本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の強度や経済性などから本発明においては、200~900GPaのものを用いるのが好ましく、200~300GPaのものを用いるのがより好ましい。
また、炭素繊維は、通常1.7~5g/cm3程度の密度を有するが、軽量性や経済性などから1.7~2.5g/cm3の密度を有するものを用いるのが好ましい。
ここで、引張弾性率及び密度の測定方法は夫々公知の方法であり、例えば引張弾性率は、JIS R7606(旧JIS R7601)が挙げられ、同様に密度は、例えばJIS R7603(旧JIS R7601)が挙げられる。
【0031】
これらの炭素繊維は、繊維原糸を所望の長さに裁断した、所謂チョップド(ストランド状)カーボンファイバー(以下、単にCCFともいう。)として用いることもでき、また必要に応じて、各種集束剤を用いて集束処理されたものであってもよい。本発明においては、樹脂組成物及びその成形体における、機械物性などの物性の各向上効果などをより高めるため、このCCFを用いることが好ましい。
新品(バージン)の炭素繊維を使用する場合、この様なCCFの具体例としては、PAN系炭素繊維では、三菱ケミカル社製商品名「パイロフィルチョップ」、東レ社製商品名「トレカチョップ」、東邦テナックス社製商品名「ベスファイトチョップ」などを挙げることができ、ピッチ系炭素繊維では、三菱ケミカル社製商品名「ダイアリードチョップドファイバー」、大阪ガスケミカル社製商品名「ドナカーボチョップ」、呉羽化学社製商品名「クレカチョップ」などを挙げることができる。本発明では、これらの市販品から所望の製品を選択し、使用する事が出来る。また、リサイクル炭素繊維を使用する場合も、これらの市販品を用いた成形体からリサイクルされた炭素繊維を使用する事が出来る。
【0032】
また、炭素繊維含有ペレットにおいて、炭素繊維の含有量は、ペレット全体100重量%を基準として、20~70重量%であることが好ましい。
炭素繊維の含有量が20重量%以上である炭素繊維含有ペレットを本発明において用いた場合、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の低収縮性、耐傷付性、剛性・衝撃強度などの機械物性が低下するおそれがなく、一方、70重量%以下であるものを用いた場合には、シボ転写性、触感や成形性(流動性)などを低下させるおそれがない。
【0033】
本発明においては、炭素繊維(B)として、リサイクル炭素繊維を用いることが、得られる繊維強化ポリプロプロピレン系樹脂組成物における、曲げ弾性率や曲げ強度といった機械物性や電磁波シールド特性にすぐれる点で好ましい。この理由の詳細は不明であるが、リサイクル炭素繊維がポリプロピレン系樹脂(A)や変性ポリオレフィン樹脂(C)と共に溶融混練されて繊維強化ポリプロロピレン系樹脂組成物となる際に、リサイクル炭素繊維に残存している樹脂残渣が、リサイクル炭素繊維の分散やポリプロピレン系樹脂(A)や変性ポリオレフィン樹脂(C)との密着性(付着強度)の向上等に寄与しているものと考えられる。また、リサイクル炭素繊維の使用は、環境負荷の低減、資源の有効活用という理由においても好ましい。なおリサイクル炭素繊維とは、廃材となった炭素繊維含有プラスチック(繊維強化プラスチック)からマトリックス樹脂を取り除いた後、炭素繊維部分を回収し、その回収された炭素繊維のうちの再利用可能な炭素繊維のことである。
【0034】
リサイクル炭素繊維を得る方法としては、熱分解法、化学分解法、光分解法、超・亜臨界分解法、電界酸化法、過熱水蒸気法等が知られており、具体例としては、炭素繊維含有プラスチックのマトリックス樹脂を熱分解(ガス化、炭化等)する方法、マトリックス樹脂が解重合する場合には、リン酸カリウムもしくはリン酸の水和物を含む処理液を用いて炭素繊維含有プラスチックから炭素繊維を回収する方法やアルカリ金属化合物及びその塩から選択される解重合触媒を用いて炭素繊維含有樹脂から炭素繊維を回収する方法等を挙げる事が出来る。これらのなかでも、炭素繊維を回収する際の操作の容易さや、所望の物性を有する成形体をより容易に得る事が出来る等の点から、熱分解法で得られたリサイクル炭素繊維を用いるのが好ましい。
【0035】
より具体的な例として、リサイクル炭素繊維としては、国際公開第2018/212016号に記載の方法により、炭素繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂を熱分解(ガス化、炭化等)することによって製造したリサイクル炭素繊維を用いることができる。
リサイクル炭素繊維の製造の原料に用いる炭素繊維強化プラスチックとしては、炭素繊維およびマトリックス樹脂を含むものを用いることができる。成形後の製品(成形品)であってもよく、成形前の中間製品(プリプレグ、トウプレグ、シートモールディングコンパウンド、スタンパブルシート等)であってもよい。
【0036】
リサイクル炭素繊維の種類は特に限定されず、例えば炭素繊維が、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維のいずれかである炭素繊維強化プラスチックを熱分解して得られるものが挙げられる。リサイクル炭素繊維とプロピレン系樹脂の組成物において、曲げ弾性率や曲げ強度といった機械物性や電磁波シールド特性にすぐれる点から、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維のいずれかが好ましく、PAN系炭素繊維がより好ましい。
【0037】
リサイクル炭素繊維の例としては、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれかである炭素繊維強化プラスチックを熱分解して得られるものが挙げられる。熱硬化性樹脂は、未硬化のものであってもよく、硬化物であってもよい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。リサイクル炭素繊維とプロピレン系樹脂の組成物において、曲げ弾性率や曲げ強度といった機械物性や電磁波シールド特性にすぐれる点から、リサイクル炭素繊維を熱分解によって得る前のマトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれかが好ましく、熱硬化性樹脂がより好ましく、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂がさらに好ましく、エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0038】
リサイクル炭素繊維は、炭素繊維強化プラスチックを、酸化性雰囲気、非酸化性雰囲気のいずれかの雰囲気で熱分解して得られるものが挙げられる。リサイクル炭素繊維とプロピレン系樹脂の組成物における、曲げ弾性率や曲げ強度といった機械物性や電磁波シールド特性にすぐれる点から、酸化性雰囲気、非酸化性雰囲気のいずれかの雰囲気が好ましく、非酸化性雰囲気がより好ましい。非酸化性雰囲気としては、酸素ガスを含まない雰囲気、または酸素ガスを実質的に含まない雰囲気であればいずれも採用できる。酸素ガスを含まない、または酸素ガスを実質的に含まない不活性ガスを適宜、加熱炉内に導入してもよい。なかでも窒素ガス雰囲気または過熱水蒸気雰囲気が好ましく、窒素ガス雰囲気がさらに好ましい。
【0039】
非酸化性雰囲気で回収されたリサイクル炭素繊維は、炭素繊維強化プラスチックを、非酸化性雰囲気で300~700℃の温度で熱分解して得られるものが挙げられる。リサイクル炭素繊維とプロピレン系樹脂の組成物における、曲げ弾性率や曲げ強度といった機械物性や電磁波シールド特性にすぐれる点から、非酸化性雰囲気で300~700℃が好ましく、400~700℃がより好ましく、500~700℃がさらに好ましい。
【0040】
一方、酸化性雰囲気で回収されたリサイクル炭素繊維は、炭素繊維強化プラスチックを、酸化性雰囲気で300~700℃の温度で熱分解して得られるものが挙げられる。リサイクル炭素繊維とプロピレン系樹脂の組成物における、曲げ弾性率や曲げ強度といった機械物性や電磁波シールド特性にすぐれる点から、酸化性雰囲気で300~700℃が好ましく、400~600℃がより好ましく、450~550℃がさらに好ましい。
【0041】
リサイクル炭素繊維の樹脂残渣含有率は、リサイクル炭素繊維とプロピレン系樹脂の組成物における、曲げ弾性率や曲げ強度といった機械物性や電磁波シールド特性にすぐれる点から、0.1~30重量%が好ましく、5~28重量%がより好ましく、10~25重量%がさらに好ましい。即ち、樹脂残渣含有率が0.1重量%未満の場合はリサイクル炭素繊維が炭素繊維束としての形態を十分に保持できずバラバラで微細になってしまう為に、溶融混練時に球になり分散が均一にならなかったり、取り扱い性が悪化する恐れがある。また、樹脂残渣含有率が30重量%を超える場合は樹脂残渣の影響が強くなりすぎるので、リサイクル炭素繊維束の特徴である樹脂残渣によるマトリックス樹脂との良好な密着性等の品質が低下する場合がある。
なお、リサイクル炭素繊維の「樹脂残渣含有率」は、熱分解前後の炭素繊維強化プラスチックの重量と、熱分解前の炭素繊維強化プラスチックの炭素繊維含有率を用いて、式(1)から求めた値である。
(b-a×x)/(b)×100 式(1)
a:熱分解前の炭素繊維強化プラスチックの重量
b:熱分解後の炭素繊維強化プラスチックの重量
x:熱分解前の炭素繊維強化プラスチックの炭素繊維含有率
【0042】
(3)変性ポリオレフィン樹脂(C)
本発明で用いられる変性ポリオレフィン樹脂(C)は、酸変性ポリオレフィン及び/またはヒドロキシ変性ポリオレフィンであり、変性ポリオレフィン樹脂(C)を用いることによってポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との界面強度を向上させ、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体において、機械物性・衝撃強度などの物性などの向上などに有効である。
【0043】
変性ポリオレフィン樹脂(C)の含有量としては、前記したように、ポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計100重量部に対して、0.1~3重量部含有することが必要であり、好ましくは0.15~2.5重量部、より好ましくは0.2~1.5重量部、さらに好ましくは0.2~1.0重量部を含有する。
変性ポリオレフィン樹脂(C)の含有量が0.1重量部以上ではポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との界面強度が十分な為機械物性が悪化するおそれがなく、3重量部以下ではその詳細な理由は不明ではあるものの、電磁波シールド性能が悪化するおそれがない。
【0044】
本発明において使用できる酸変性ポリオレフィンとしては、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。酸変性ポリオレフィンは、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-α-オレフィン-非共役ジエン化合物共重合体(EPDMなど)、エチレン-芳香族モノビニル化合物-共役ジエン化合物共重合ゴムなどのポリオレフィンを、例えば、マレイン酸または無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸を用いてグラフト共重合し、変性したものである。このグラフト共重合は、例えば上記ポリオレフィンを適当な溶媒中において、ベンゾイルパーオキシドなどのラジカル発生剤を用いて、不飽和カルボン酸と反応させることにより行われる。また、不飽和カルボン酸またはその誘導体の成分は、ポリオレフィン用モノマーとのランダムもしくはブロック共重合によりポリマー鎖中に導入することもできる。
また、本発明において使用できるヒドロキシ変性ポリオレフィンは、ヒドロキシル基を含有する変性ポリオレフィンである。該変性ポリオレフィンは、ヒドロキシル基を適当な部位、例えば、主鎖の末端や側鎖に有していてもよい。ヒドロキシ変性ポリオレフィンを構成するオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、4-メチルペンテン-1、ヘキセン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセンなどのα-オレフィンの単独または共重合体、前記α-オレフィンと共重合性単量体との共重合体などが例示できる。ヒドロキシ変性ポリオレフィンとして、ヒドロキシ変性ポリエチレン(例えば、低密度、中密度または高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体など)、ヒドロキシ変性ポリプロピレン(例えば、アイソタクチックポリプロピレンなどのポリプロピレンホモポリマー、プロピレンとα-オレフィン(例えば、エチレン、ブテン、ヘキサンなど)とのランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体など)、ヒドロキシ変性ポリ(4-メチルペンテン-1)などを挙げることができる。
これらの変性ポリオレフィンとしてはモディック(三菱ケミカル社製)、アドマー(三井化学社製)及びユーメックス(三洋化成社製)等種々の市販品が知られており、所望の製品を入手して使用する事が出来る。
【0045】
(4)顔料
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、顔料を含有してもよい。
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物に使用できる顔料としては、黒色系のカーボンブラック、鉄黒;白色系の酸化チタン、亜鉛華、リトボン、鉛白;青色系の紺青、群青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、インダンスレンブルーRS、ファーストスカイブルーレーキ、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ;赤色系の弁柄、鉛炭、モリブデンレッド、カドミウムレッド、レーキレッドC、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、リソールレッド、パーマネントレッド4R、ウォッチングレッド、チオインジゴレッド、アリザリンレッド、キナクリドンレッド、ローダミンレーキ、オレンジレーキ、ベンズイミダゾロンレッド、ピラゾロンレッド、縮合アゾレッド、ペリレンレッド、パーマネントカーミンFB、キナクリドンマゼンダ;黄色系の黄鉛、カドミウムイエロー、チタンイエロー、鉄黄、イソインドリノンイエロー、ベンジジンイエロー、ファーストイエロー、フラボンスロンイエロー、ナフトールイエロー、キノリンイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー、HRイエロー、縮合アゾイエロー;緑色系のクロムグリーン、酸化クロム、ギネグリーン、スピネルグリーン、フタロシアニングリーン、ピグメントグリーンB、ナフトールグリーン、アシッドグリーンレーキ、マラカイトグリーンレーキ;橙色系のクロムオレンジ、カドミウムオレンジ、ベンズイミダゾロンオレンジ、ペリノンオレンジ;茶系の亜鉛フェライト;紫色系のマンガン紫、コバルト紫、紫弁柄、ファーストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、ジオキサジンバイオレット等を挙げることができる。本発明の効果を阻害しない範囲で使用することができる顔料としては、小粒径のものが好ましく、顔料の粒径が大きすぎると、成形体表面での分散不良が起こる場合がある。
【0046】
本発明において、顔料の配合量は、ポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計100重量部に対して、通常は0.01~20重量部、好ましくは0.025~15重量部、更に好ましくは0.05~10重量部、より好ましくは0.075~5重量部、特に好ましくは0.1~2重量部である。配合量を上記範囲とすることにより、調色が容易で良好な発色性を得ることが可能になる。即ち、顔料の配合量が0.01重量部未満であると着色の均一性が悪化し、色むらが発生する場合がある。また、配合量が20重量部を超えると機械物性低下など物性への悪影響が考えられる。
【0047】
顔料は、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物に直接配合することもできるが、顔料の取り扱いや配合の操作性から、マスターバッチの形態で使用することが好ましい。例えば、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物に用いられるポリプロピレン系樹脂(A)の他、ポリエチレンワックス、ポリエチレン等をマトリックス成分とした、顔料の含有量が20~80重量%のマスターバッチを利用できる。
【0048】
(5)任意添加成分
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物においては、上記ポリプロピレン系樹脂(A)、炭素繊維(B)、変性ポリオレフィン樹脂(C)、顔料以外に、さらに必要に応じ、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、たとえば所期の効果をさらに向上させたり、他の性能・効果を付与するため、任意添加成分を配合することができる。任意添加成分の添加量としては、通常、ポリプロピレン系樹脂(A)と炭素繊維(B)との合計100重量部に対して、0.2~2.0重量部である。
任意添加成分として具体的には、非イオン系などの帯電防止剤、ヒンダードアミン系などの光安定剤、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、物理発泡剤などの発泡剤、有機金属塩系などの分散剤、フェノール系などの酸化防止剤、無機化合物などの中和剤、脂肪酸アミド系などの滑剤、窒素化合物などの金属不活性剤、非イオン系などの界面活性剤、チアゾール系などの抗菌・防黴剤、ハロゲン化合物などの難燃剤、蛍光増白剤、気泡防止(消泡)剤、架橋剤、過酸化物、プロセスオイル(配合油)、ブロッキング防止剤、可塑剤、上記ポリプロピレン系樹脂(A)以外のポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミドやポリエステルなどの熱可塑性樹脂、小粒径のタルクなどのフィラー、エラストマー(ゴム様重合体)、その他添加剤などを挙げることができる。これらの成分は、二種以上併用してもよく、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に、後から添加してもよいし、各成分に添加されていてもよく、それぞれの成分においても二種以上併用してもよい。
【0049】
[II]繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の製造
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、上記ポリプロピレン系樹脂(A)、炭素繊維(B)及び変性ポリオレフィン樹脂(C)、更に顔料等の任意添加成分を上記配合割合で配合して、タンブラーミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、スクリューブレンダー、リボンブレンダーなどの公知の方法で混合したり、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダ-プラストグラフ、ニーダー等通常の混練機を用いて混練・造粒することによって製造することができる。
【0050】
この場合、各成分の分散を良好にすることができる混練・造粒方法を選択することが望ましく、通常は二軸押出機が用いられる。この混練・造粒の際には、上記各成分の配合物を同時に混練してもよいし、また、性能向上を図るべく、各成分を分割、例えば、先ずポリプロピレン系樹脂(A)、炭素繊維(B)、変性ポリオレフィン樹脂(C)の一部または全部を混練し、その後に残りの成分を混練・造粒することもできる。
【0051】
[III]繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の成形、用途
(1)成形
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の成形は、射出成形(ガス射出成形も含む)または射出圧縮成形(プレスインジェクション、ホットフロースタンピング成形、ガス射出圧縮成形も含む)により行うことができる。中でも本発明の効果をより効果的に得ることができるのは、ガス射出成形以外の射出成形や、射出圧縮成形(プレスインジェクション)であり、このような成形方法で成形体を得るのが好ましい。
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の成形には、また、必要に応じて、中空成形、押出成形、圧縮(プレス)成形、発泡(膨張)成形、シート成形、熱成形、スタンピング成形、粉末成形などの種々の成形法を適用することもでき、それにより所望の成形体(例えば押出成形体)を得ることもできる。中でも、発泡(膨張)成形以外の成形方法が好ましい。
【0052】
(2)用途
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物から得られる成形体は、種々の機械物性と、電磁波シールド特性に優れている。即ち、本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物からは、良好な機械物性と電磁波シールド性能を有する成形体を得ることが可能である。
また、本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物から得られる成形体は、電磁波シールド性能が必要な自動車部品、家電器具等などの用途において好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
尚、実施例で用いた材料、造粒方法および評価法は、以下の通りである。
【0054】
1.材料
(1)ポリプロピレン系樹脂(A)
(A-1)ノバテックPP MA04A(日本ポリプロ社製)
チーグラー系触媒を用いて製造されたプロピレン単独重合体、メルトフローレート(MFR、230℃、2.16Kg荷重)40g/10分
(2)炭素繊維(B)
(B-1)リサイクル炭素繊維:PAN系炭素繊維強化樹脂(収束剤:エポキシ系、繊維径:6μm)、樹脂残渣含有率13重量%(焼成炉を用いて、700℃、20分の条件で熱分解して得られたもの)(繊維長:6.6mm)
(B-2)バージン炭素繊維:三菱ケミカル社製炭素繊維 TR066A(繊維径:7μm、繊維長:6mm)
(3)変性ポリオレフィン樹脂(C)
(C-1)ユーメックス1001(三洋化成工業社製)
(C-2)モディックP928(三菱ケミカル社製)
【0055】
2.(実施例1~3、参考例1および比較例1~2)
(1)実施例1
実施例1は、下記にて準備した。ポリプロピレン系樹脂(A-1)79.2重量%とリサイクル炭素繊維(B-1)19.8重量%および変性ポリオレフィン樹脂(C-1)1重量%を混練、造粒し繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物(X-1)とした。
下記の条件で混練、造粒した。
混練装置:2軸押出機
混練条件:温度=120~230℃、スクリュー回転数=450rpm、吐出量=100~220kg/Hr。
なお、炭素繊維(B-1)は押出機中途からサイドフィードした。
評価においては、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物(X-1)25重量%とポリプロピレン系樹脂(A-1)75重量%とを成形時にドライブレンドした。最終配合及び評価結果を表1に示す。
(2)実施例2
実施例2は実施例1において、評価時に繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物(X-1)50重量%とポリプロピレン系樹脂(A-1)50重量%とを成形時にドライブレンドした他は、実施例1と同様に調製及び評価を行った。最終配合及び評価結果を表1に示す。
(3)実施例3、参考例1及び比較例2
実施例3、参考例1および比較例2については、表1に示す割合で各成分を混合し、下記の条件で混練、造粒した。造粒の際には前記ポリプロピレン系樹脂(A)および/または炭素繊維(B)からなる組成物全体100重量部当たり、BASF社製IRGANOX1010を0.1重量部、BASF社製IRGAFOS168を0.05重量部それぞれ配合した。
混練装置:テクノベル社製「KZW-15-MG」型2軸押出機。
混練条件:温度=200℃、スクリュー回転数=400rpm、吐出量=3kg/Hr。
なお、炭素繊維(B)は押出機中途からサイドフィードした。配合及び評価結果を表1に示す。
(4)比較例1
比較例1は、ポリプロピレン系樹脂(A-1)80重量%とリサイクル炭素繊維(B-1)20重量%とを混練、造粒し繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物(X-2)とした。混練、造粒は、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物(X-1)と同様の条件で行った。
評価においては、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物(X-2)50重量%とポリプロピレン系樹脂(A-1)50重量%とを成形時にドライブレンドした。最終配合及び評価結果を表1に示す。
【0056】
3.評価方法
(1)曲げ弾性率:FM(MPa)
JIS K7171に準拠し、試験温度=23℃にて測定した。試験片は下記物性評価用試験片を用いた。
・成形機=東芝機械社製EC20型射出成形機。
・金型=物性評価用短冊状試験片(10×80×4t(mm))2個取り。
・成形条件=成形温度220℃、金型温度40℃、射出圧力50MPa、射出時間5秒、冷却時間20秒。
【0057】
(2)曲げ強度:FS(MPa)
JIS K7171に準拠し、試験温度=23℃にて測定した。試験片は曲げ弾性率と同様に、下記物性評価用試験片を用いた。
・成形機=東芝機械社製EC20型射出成形機。
・金型=物性評価用短冊状試験片(10×80×4t(mm))2個取り。
・成形条件=成形温度220℃、金型温度40℃、射出圧力50MPa、射出時間5秒、冷却時間20秒。
【0058】
(3)電磁波シールド性能
下記の要領にて実施した。
試験片は以下の条件で製作した物性評価用試験片を用いた。
・成形機=東芝機械社製EC20型射出成形機。
・金型=物性評価用短冊状試験片(60×30×2t(mm))1個取り。
・成形条件=成形温度220℃、金型温度40℃、射出圧力50MPa、射出時間5秒、冷却時間20秒。
・準拠測定法;KEC法(社団法人関西電子工業振興センター法)
・測定装置;電磁波シールド効果測定システム(電界シールド効果評価用セル使用)
・測定手法;疑似ノイズ源として信号発信用のアンテナと受信アンテナの間に試験片を挿入し、試験片の有無による電界の強度を測定した。
・発信部と受信部の距離;10mm
・測定条件;発信信号は、シグナルジェネレーターにて、100kHz~1GHz領域で段階的に発生させて、各周波数毎の減衰量(試料有無の差)をデシベル(dB)表示として評価した。ラジオ波帯に相当する5MHzの減衰量(dB)を読み取った。
・シールド性能判定基準;35dBb以上のシールド性能を有しているものを実用可能と判定した。
【0059】
(4)樹脂残渣含有率
リサイクル炭素繊維の「樹脂残渣含有率」は、熱分解前後の炭素繊維強化プラスチックの重量と、熱分解前の炭素繊維強化プラスチックの炭素繊維含有率とを用いて、式(1)から求めた値である。
(b-a×x)/(b)×100 式(1)
a:熱分解前の炭素繊維強化プラスチックの重量
b:熱分解後の炭素繊維強化プラスチックの重量
x:熱分解前の炭素繊維強化プラスチックの炭素繊維含有率
(5)メルトフローレート(MFR)
メルトフローレート(MFR)は、JIS K7210に準拠し、試験温度=230℃、荷重=2.16kgで測定した。
【0060】
実施例1~4および比較例1~2で得られた繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の評価結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
表1に示す結果から、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の発明要件を満たしている実施例1~3、参考例1は、機械物性と電磁波シールド性を両立している事がわかる。
一方、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の発明要件を満たさない比較例1~2は、電磁波シールド性は良好であるが、曲げ強度が著しく低く実施例1~3、参考例1に対して見劣りしている。