IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7592506記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法
<>
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図1
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図2
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図3
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図4
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図5
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図6
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図7
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図8
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図9
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図10
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図11
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図12
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図13
  • 特許-記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/175 20060101AFI20241125BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
B41J2/175 501
B41J2/01 451
B41J2/01 401
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021020360
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2022123203
(43)【公開日】2022-08-24
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲野藤 淳
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-208879(JP,A)
【文献】特開平10-160007(JP,A)
【文献】特開2017-166580(JP,A)
【文献】特開2017-081120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出部と、前記吐出部へ供給される液体を収容する収容体と、を接続し流路を連通させるチューブと、
駆動源によって回転するカム部材の回転位置に応じて、前記チューブを押圧して閉塞する閉状態と、前記チューブを開放する開状態とを切替可能なバルブ機構と、
前記バルブ機構の開閉を検知する検知手段と、
を備え、
前記バルブ機構には、被検知部が設けられ、
前記検知手段は、前記被検知部を検知することで、前記バルブ機構の開閉を検知することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記駆動源の駆動動作を制御することで前記バルブ機構の開閉を制御し、前記検知手段から検知結果を取得する制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記バルブ機構を開放する際、前記駆動源を前記バルブ機構を開放する方向に所定の量だけ駆動し、前記駆動源の駆動動作の終了後、所定の待機時間の経過後に前記検知手段から検知結果を取得することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記所定の待機時間は可変であり、前記記録装置の使用状態に応じて決定されることを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
前記使用状態は、前記バルブ機構が閉状態になってからの経過時間、気温、湿度、および累積した総印刷枚数のうちの少なくとも一つに基づくことを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記所定の待機時間の経過後の前記検知手段からの検知結果が閉状態を示す場合、前記駆動源の駆動動作、および、前記所定の待機時間の経過後の前記検知手段の検知結果の取得を所定の回数だけ繰り返すことを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記所定の回数の繰り返しを行った後の前記検知手段の前記検知結果が閉状態を示す場合、エラー制御を行うことを特徴とする請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記所定の量は、前記駆動源の駆動開始後の1回目の駆動動作と、2回目以降の駆動動作とで、異なる量であることを特徴とする請求項3乃至7のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
前記記録装置は、不揮発メモリをさらに備え、
前記制御手段は、
前記駆動源の駆動開始時に、前記バルブ機構を開放する動作の実行中であることを示すフラグをONにして前記不揮発メモリに書き込み、前記検知手段の結果が開状態を示す場合、前記フラグをOFFにして前記不揮発メモリに書き込み、
前記記録装置の初期化動作の実行時に、前記フラグがOFFの場合、前記バルブ機構の初期化処理を実行しないことを特徴とする請求項2乃至8のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記記録装置の初期化動作の実行時に、前記フラグがONの場合、前記バルブ機構を開状態にする初期化処理を実行することを特徴とする請求項9に記載の記録装置。
【請求項11】
前記検知手段は、光学センサ、磁気センサ、またはリーフスイッチのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項12】
前記バルブ機構の駆動方向は、回動方向もしくは直動方向のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項13】
前記吐出部は、インクを吐出する記録ヘッドであることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項14】
前記チューブは、回復動作時に使用するポンプに接続されたチューブであることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項15】
液体を吐出する吐出部と、前記吐出部へ供給される液体を収容する収容体と、を接続し流路を連通させるチューブと、
駆動源によって駆動するカム部材の回転位置に応じて、前記チューブを押圧して閉塞する閉状態と、前記チューブを開放する開状態とを切替可能なバルブ機構と、
前記バルブ機構の開閉を検知する検知手段と、
を備えた記録装置の制御方法であって、
前記バルブ機構を開放する際、前記駆動源を所定の量だけ駆動する工程と、
前記駆動源の駆動動作の終了後、所定の待機時間を待つ工程と、
前記所定の待機時間の経過後に、前記バルブ機構に設けられた被検知部を前記検知手段が検知した検知結果を取得する工程と、
を含むことを特徴とする記録装置の制御方法。
【請求項16】
流路を連通させるチューブと、
駆動源によって回転するカム部材の回転位置に応じて、前記チューブを押圧して閉塞する閉状態と、前記チューブを開放する開状態とを切替可能なバルブ機構と、
前記バルブ機構の開閉を検知する検知手段と、
を備え、
前記バルブ機構には、被検知部が設けられ、
前記検知手段は、前記被検知部を検知することで、前記バルブ機構の開閉を検知することを特徴とする液体移送装置。
【請求項17】
流路を連通させるチューブと、
駆動源によって回転するカム部材の回転位置に応じて、前記チューブを押圧して閉塞する閉状態と、前記チューブを開放する開状態とを切替可能なバルブ機構と、
前記バルブ機構の開閉を検知する検知手段と、
を備えた液体移送装置の制御方法であって、
前記バルブ機構を開放する際、前記駆動源を所定の量だけ駆動する工程と、
前記駆動源の駆動動作の終了後、所定の待機時間を待つ工程と、
前記所定の待機時間の経過後に、前記バルブ機構に設けられた被検知部を前記検知手段が検知した検知結果を取得する工程と、
を含むことを特徴とする液体移送装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置、記録装置の制御方法、液体移送装置、および液体移送装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出する記録ヘッドと記録ヘッドに供給するインクを収容するインクタンクとの間をチューブで連結した記録装置が知られている。このような記録装置では、各種の動作のためにチューブを閉塞する際に、チューブを押圧部材で潰して閉塞させることが行われている。また、閉塞状態をセンサで検知することが行われている。
【0003】
特許文献1では、押圧部材を駆動する駆動軸の回転位置に基づいてチューブの押圧状態を検出する方法が記載されている。具体的には、押圧部材を駆動する駆動軸に切り欠き部を有する検出用回転板(センサフラグ)を設け、光センサによって切り欠き部を検知することで駆動軸の回転位置を検出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-248132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
輸送時または停電時などにおいて、チューブが押圧部材に潰された状態で長時間放置された場合、押圧部材とチューブとの間で貼り付きが発生する虞がある。特許文献1に記載されているように、駆動軸の回転位置に基づいて押圧状態を検知する技術では、チューブの貼り付きが発生した場合、開閉状態を誤検知する虞がある。
【0006】
本発明は、チューブの押圧状態を適切に検知することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る記録装置は、液体を吐出する吐出部と、前記吐出部へ供給される液体を収容する収容体と、を接続し流路を連通させるチューブと、駆動源によって回転するカム部材の回転位置に応じて、前記チューブを押圧して閉塞する閉状態と、前記チューブを開放する開状態とを切替可能なバルブ機構と、前記バルブ機構の開閉を検知する検知手段と、を備え、前記バルブ機構には、被検知部が設けられ、前記検知手段は、前記被検知部を検知することで、前記バルブ機構の開閉を検知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、チューブの押圧状態を適切に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】記録装置を示す斜視図である。
図2】インクタンクと記録ヘッドとの位置関係を示す模式図である。
図3】記録装置の斜視図である。
図4】インクタンクと記録ヘッドとの状態を示す模式図である。
図5】インク充填シーケンスのフローチャートである。
図6】記録装置の構成を含むブロック図である。
図7】開閉弁機構における操作部の斜視図である。
図8】開閉弁機構の概略を示す斜視図である。
図9】開閉弁機構の概略を示す断面図である。
図10】開閉弁機構のカバー部材を外した状態の斜視図である。
図11】開閉弁機構の斜視図である。
図12】貼り付きが生じている場合の開閉弁機構の断面図である。
図13】バルブ開シーケンスの例を示す図である。
図14】バルブの初期化動作シーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが必須のものとは限らない。なお、同一の構成については、同じ符号を付して説明する。
【0011】
なお、この明細書において、「記録」(「印字」、「印刷」という場合もある)とは、文字または図形等の有意の情報を形成する場合に限らず有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、もしくはパターン等を形成する場合、または、記録媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0012】
また、「インク」(「液体」という場合もある)とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、もしくはパターン等の形成、記録媒体の加工、または、インクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0013】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、および皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0014】
<<第1実施形態>>
<記録装置の構成>
図1は、本実施形態における液体吐出装置の例である記録装置100を示す斜視図である。図1では、記録装置100のうちの一部の構成を示している。記録装置100は、インクを収容するインクタンク11と、インクタンク11からインク供給路51を通して供給されたインクを吐出させる記録ヘッド62と、記録ヘッド62を保持するキャリッジ61とを備える。キャリッジ61は、記録媒体(不図示)を搬送する方向と直交する方向に走査するように構成され、キャリッジ61の走査と、記録ヘッド62の吐出とを組み合わせて記録媒体に画像が記録される。
【0015】
尚、本実施形態では、記録装置を例に挙げて説明するが、液体吐出装置の場合も同様である。例えば、液体吐出装置は、液体を収容する液体収容体と、液体収容体から液体供給路を通して供給された液体を吐出させる液体吐出部と、液体吐出部を保持する液体吐出部保持手段とを備えていてもよい。本実施形態では、液体吐出装置の例として記録装置100を用いて説明する。
【0016】
インクタンク11は、第1インクタンク111であってもよいし、第2インクタンク112であってもよい。本実施形態では、使用するインクの種類が複数ある場合を想定し、複数の第1インクタンク111を設ける例を示しているが、使用するインクの種類が一つの場合、単一のインクタンク(例えば第1インクタンク111)のみを設けてもよい。また、使用するインクの量が多い場合には、第1インクタンク111よりも大容量型の第2インクタンク112を設けてもよい。また、これに限らず、第2インクタンク112のみを設けてもよいし、本実施形態のように第1インクタンク111と第2インクタンク112とを設けてもよい。インクタンク11を複数設ける場合は、記録装置100のサイズに応じて、装置中心に対して左右に振り分けて設けてもよいし、片側にのみ設けてもよい。本実施形態では、第1インクタンク111として、シアンインク、マゼンタインク、およびイエローインクをそれぞれ収容可能なカラー用インクタンク111が計3つ備えられているものとする。また、第2インクタンク112として、ブラックインクを収容可能なブラック用インクタンク112が1つ備えられているものとする。図1に示す他の構成については、後述する。
【0017】
記録装置100は、記録媒体を給送する給送ローラ(不図示)と、記録媒体を搬送する搬送ローラ(不図示)と、記録媒体を排出する排出ローラ(不図示)と、を有する。記録ヘッド62は、キャリッジ61に着脱自在に搭載され、搬送ローラにより搬送された記録媒体表面にインクを吐出することで画像を記録する。また、記録装置100は、吸引キャップ65を備えるインク吸引機構64(図4(b)参照)を有する。記録装置100は、記録ヘッド62の吐出性能を回復するために吸引キャップ65を記録ヘッド62と当接させて、インク吸引機構64により記録ヘッド62のインク吐出口63(図4(b)参照)からインクを吸引する。なお、インク吸引機構64は例えば、吸引キャップ65に接続されたチューブと、吸引手段としての吸引ポンプを有する。
【0018】
尚、本実施形態では、記録ヘッド62がキャリッジの走査による移動に応じてインクを吐出する例を説明するが、これに限られない。記録媒体の幅に相当する領域にインク吐出口が設けられ、キャリッジの走査に拠らずに記録媒体に画像が記録される、いわゆるライン型の記録ヘッドであってもよい。
【0019】
図2は、インクタンク11と記録ヘッド62との位置関係を示す模式図である。インクタンク11には、記録ヘッド62へインクを供給するためのインク供給路51を構成する供給用チューブ17が取り付けられている。また、インクタンク11には、インクタンク11(バッファー室16)の内部を大気と連通するための大気連通路54を構成するチューブが接続されている。供給用チューブ17は、例えばエラストマまたはシリコンなど等の可撓性の材料(弾性材)により構成されている。インク供給路51におけるインクタンク11と記録ヘッド62との間、および、大気連通路54におけるインクタンク11と大気連通口52との間には、液体または空気の連通を遮断するバルブユニット53がそれぞれ設けられている。
【0020】
バルブユニット53は、ブラック側バルブユニットとカラー側バルブユニットとを含む。ブラック側バルブユニットは、ブラック用インクタンク112に接続されるインク供給路51および大気連通路54をそれぞれ閉塞する。カラー側バルブユニットは、各カラー用インクタンク111にそれぞれ接続されるインク供給路51および大気連通路54をそれぞれ閉塞する。またバルブユニット53と記録ヘッド62との間のインク供給路51には、液体または空気の連通を遮断する開閉弁機構160が設けられている。開閉弁機構160は、ブラック側開閉弁機構とカラー側開閉弁機構とを含む。ブラック側開閉弁機構は、ブラック用インクタンク112に接続されるインク供給路51を閉塞する。カラー側開閉弁機構は、各カラー用インクタンク111にそれぞれ接続されるインク供給路51を閉塞する。尚、開閉弁機構160には、各種の部材が含まれるが、ブラック側開閉弁機構とカラー側開閉弁機構とで、共通の部材が用いられてもよいし、それぞれ別の部材が用いられていてもよい。開閉弁機構の詳細は、後述する。開閉弁機構160とバルブユニット53との役割の違いも、後述する。
【0021】
本実施形態の記録装置100では、記録ヘッド62のインク吐出口63からインクが漏れ出ることを防ぐため、インクタンク11の気液交換部15を、記録ヘッド62のインク吐出口63よりも高さ方向においてH低い位置に設けている。すなわち、インク吐出口63に高さH分の水頭差による負圧をかける構成としている。また、インクタンク11の下部には、バッファー室16が設けられている。バッファー室16は、インクを収容するインクタンク11内の空気が気圧変動または温度変化によって膨張して、気液交換部15におけるメニスカスが破壊された時に、押し出されたインクを収容することが出来る。これにより、インクが大気連通路54を通ってインクタンク11から漏れ出るのを抑制することが出来る。尚、図2および後述する図4においては、バルブユニット53及び開閉弁機構160が開放されている状態を破線で表し、閉塞されている状態を実線で表す。
【0022】
次に、図3から図5を用いて本実施形態におけるインク供給系の構成と、インクの注入から画像記録が可能になるまでの流れと、を説明する。図3は、本実施形態に係る記録装置100の斜視図である。図3では、(a)の状態から、ユーザがインクタンク11にインクを注入することが可能な(d)の状態に遷移する過程の斜視図を示している。図4は、本実施形態に係るインクタンク11と記録ヘッド62との状態を示す模式図である。
【0023】
図3(a)に示すように、記録装置100には、積載された原稿の画像を読取る機構を有する第3のカバー部材41が、記録装置100に開閉可能に軸支されるように設けられている。尚、第3のカバー部材41は、原稿の画像を読取る読取り機構であってもよいし、画像記録中に生じた搬送不良を起こした記録媒体を取り除くために記録装置100の内部の一部を露出させる外装上面を形成するアクセスカバーであってもよい。ユーザがインクタンク11にインクを注入しやすいように、インクタンク11は記録装置100の前面側(+Y方向側)に備え付けられている。本実施形態では、前述したように、3つのカラー用インクタンク111と、ブラック用インクタンク112とを合わせた4つのインクタンク11を備える。尚、インクタンク11の種類および数は、この例に限られない。例えば、記録媒体への画像記録の画質を向上させるために、インクタンク11を4つ以上設けてもよい。
【0024】
ユーザがインクタンク11にインクを注入する際は、まず、ユーザは、第3のカバー部材41を上側に回動させて、図3(b)に示すように第3のカバー部材41を開いた状態にする。第3のカバー部材41は、所定量回動させると、ロック機構(不図示)によって第3のカバー部材41が開いた状態を維持することが出来る。なお筐体19には、カバーセンサ18が配置され、第3のカバー部材41の開閉状態を検知可能である。カバーセンサ18はメカ的な接触を検知するメカセンサに限らず、例えば光学センサ等であってもよい。尚、第3のカバー部材41をさらに上に回動させることでロック機構を解除することが可能であり、これにより、第3のカバー部材41を閉じることが出来る。第3のカバー部材41を開くことで、記録装置100の内部が露出され、ユーザは、第2のカバー部材21を操作することが可能となる(図3(b)、図1参照)。
【0025】
第2のカバー部材21は、手前に倒れた位置(閉蓋位置)と持ち上げられた位置(開蓋位置)との間を移動可能に軸支されている。各インクタンク11には、第2のカバー部材21がそれぞれ設けられている。より詳細には、ブラック用インクタンク112は、ブラック用第2のカバー部材212によりカバーされ、3つのカラー用インクタンク111は1つのカラー用第2のカバー部材211により一体的にカバーされる。ブラック用第2のカバー部材212とカラー用第2のカバー部材211とを総称して第2のカバー部材21とする。本実施形態では、カラー用第2のカバー部材211とブラック用第2カバー部材212とは異なる形状となっているが、共通にしてもよい。
【0026】
ユーザが、第2のカバー部材21を閉蓋位置から開蓋位置に操作すると、インクタンク11を閉栓する第1のカバー部材12が現れる(図1図3(c)、図4(b)参照)。第1のカバー部材12は、インクタンク11を閉栓している位置(閉栓位置)と持ち上げられた位置(開栓位置)との間を移動可能に軸支されている。ユーザが、第1のカバー部材12を閉栓位置から開栓位置に操作すると、インクタンク11の上部に設けられた、インクを注入するための注入口14が現れる(図3(d)、図4(a)参照)。
【0027】
第1のカバー部材12には、ゴムなどの弾性体で構成されたシール部材13が備えられている。第1のカバー部材12を閉栓位置に操作することで、シール部材13が注入口14を閉栓して、インクタンク11に収容されたインクの漏出を防ぐことが出来る。本実施形態では、第1のカバー部材12を持ち上げる操作に連動してバルブユニット53が作用し、インク供給路51と大気連通路54とがそれぞれ閉塞される(図4(a))。
【0028】
ユーザは、インクが収容された容器(不図示)を注入口14に差し込んで、インクタンク11にインクを注入することが出来る。インクの注入が完了した後は、ユーザは、再び第1のカバー部材12を閉栓位置に操作する。その操作に連動してバルブユニット53が作用し、インク供給路51と大気連通路54とがそれぞれ開放される(図4(b)参照)。その後、ユーザは、第2のカバー部材21を閉蓋位置に操作し、第3のカバー部材41を閉じる。記録装置100は、第3のカバー部材41の位置を検知するカバーセンサ18によって、第3のカバー部材41が閉じられたことを検知することができる。第3のカバー部材41が閉じられたことを検知すると、記録装置100は、インク供給路51内にインクタンク11内のインクLを充填させるために、図4(b)に示すように、吸引キャップ65を記録ヘッド62に当接させる。そしてインク吸引機構64によって、インク吐出口63からインクLを吸引する吸引動作が行われる。この吸引動作によって、インク供給路51を構成する供給用チューブ17内にインクが充填される。また、この吸引動作時に、開閉弁機構160の開閉制御も併せて行うことで、インク吐出口63により強い負圧がかかる吸引動作を行うことができる。具体的には、開閉弁機構160を閉じて記録ヘッド62を吸引キャップ65によってキャッピングした状態で、インク吸引機構64の吸引ポンプを駆動する。これにより、開閉弁機構160と記録ヘッド62のインク吐出口63との間に負圧をチャージする。そして、吸引ポンプを停止して開閉弁機構160を開くと、チャージされていた負圧によって記録ヘッド62へインクが充填される。また、開閉弁機構160は、記録装置100を移動させる際に、インクが漏れ出ないようにインク供給路51を閉塞する役割も担っている。
【0029】
このように、本実施形態では、インク供給路51には、バルブユニット53と開閉弁機構160との、それぞれ独立した異なる役割を有する2種類の弁が備えられている。即ち、バルブユニット53は、インクタンク11にインクを補充する際に、インク供給路51を閉塞し、それ以外の場合には、インク供給路51を開放する。一方、開閉弁機構160は、インクの漏れを抑制したり、インク充填時の効率的な吸引を行ったりする際にインク供給路51を閉塞する。開閉弁機構160の詳細は、後述する。
【0030】
このようにしてインクが充填された状態において、記録媒体に画像を記録する場合などにインク吐出口63からインクが吐出されると、記録ヘッド62内からインクが減少した分だけインクタンク11から記録ヘッド62へインクが供給される。インクタンク11内のインクが所定量以下になるまでインクタンク11から記録ヘッド62にインクが供給され続ける。
【0031】
尚、上記例では、ユーザが、第1のカバー部材12、第2のカバー部材21、および第3のカバー部材41を操作して開閉動作を行う例を説明したが、記録装置100内の制御によって、自動で開閉動作が行われてもよい。
【0032】
<インク充填シーケンス>
図5は、インク充填シーケンスのフローチャートである。インク充填シーケンスが開始されると、まずS51において、記録装置100は、記録ヘッド62を保持しているキャリッジ61を、吸引キャップ65と対向する吸引位置まで移動させる。S52において、記録装置100は、吸引キャップ65を記録ヘッド62に当接させる。S53において記録装置100は、吸引キャップ65によって記録ヘッド62のインク吐出口63からインクを吸引する吸引動作を行う。このとき、前述したように、開閉弁機構160の開閉制御を伴う吸引動作を行ってもよい。吸引動作が完了した後は、S54において、記録装置100は、吸引キャップ65と記録ヘッド62とを離間させる。そして、S55において、記録装置100は、キャリッジ61を吸引位置から待機位置まで移動させて、一連のインク充填シーケンスの動作が終了する。
【0033】
<ブロック図>
図6は、本実施形態における記録装置100の構成を含むブロック図である。記録装置100は、記録ヘッド62、MPU601、ROM602、RAM603、キャリッジモータ604、搬送モータ605、記録ヘッドドライバ607、キャリッジモータドライバ608、搬送モータドライバ609、及びI/F部613を有する。ROM602は、画像処理部6021として機能するプログラムが格納される。
【0034】
MPU601は、各部の動作およびデータの処理などを制御する。ROM602は、MPU601により実行されるプログラムおよびデータを格納する。RAM603は、MPU601により実行される処理データおよびホストコンピュータ600から受信したデータを一時的に記憶する。記録ヘッド62は、記録ヘッドドライバ607により制御される。キャリッジ61は、キャリッジモータ604により駆動される。キャリッジモータ604は、キャリッジモータドライバ608により制御される。給送ローラ、搬送ローラ、および排出ローラは、搬送モータ605により駆動される。搬送モータ605は、搬送モータドライバ609により制御される。ホストコンピュータ600は、ユーザにより記録動作の実行が命令された場合に、記録画像および画像品位等の記録情報を処理して記録装置100と通信するためのプリンタドライバ610を有している。MPU601は、I/F部613を介してホストコンピュータ600と記録画像等のやり取りを行う。
【0035】
<開閉弁機構の構成>
次に、本実施形態に係る開閉弁機構160の構成および動作を説明する。図7は、本実施形態に係る開閉弁機構160における操作部161の斜視図である。図8は、本実施形態に係る開閉弁機構160の概略を示す斜視図である。図9は、本実施形態に係る開閉弁機構160の概略を示す断面図である。図10は、開閉弁機構160のカバー部材162を外した状態の斜視図である。図11は、図8とは別の視点での開閉弁機構160の斜視図である。以下、主に図7から図11を適宜参照しながら説明する。
【0036】
開閉弁機構160は、前述したように、供給用チューブ17によって形成されているインク供給路51を閉塞および開放(連通)させるためのバルブである。図1図7および図8に示すように、開閉弁機構160は、ユーザにより手動での操作も可能な操作部161を含む。開閉弁機構160は、インク供給路51に配置され、操作部161を操作することにより、インクタンク11と記録ヘッド62とを連通させる開状態と、連通させない閉状態と、に切替可能である。さらに、図7に示すように、開閉弁機構160の弁の開閉状態をユーザが直感的に認識できるように、操作部161の操作位置には、印刷マーク166とメンテナンスマーク167とが記されている。 尚、本実施形態における開閉弁機構160は、外部電源によって電気的に駆動可能な駆動部と連結し、手動及び自動による開閉動作を両立可能に構成されている。即ち、操作部161は、ユーザによる手動の操作の他に、外部の駆動部からの駆動により、開状態と閉状態とを切り替え可能である。
【0037】
図3(b)に示すように、記録装置100は、筐体19を有する。そして、図7に示すように、筐体19は、開口部190を備えている。操作部161は、開口部190内に配置される。また、本実施形態では、カバーセンサ18(図3(b))が設けられているため、記録装置100は、ユーザが操作部161を操作できる状態であるかを、カバーセンサ18を用いて検知することができる。
【0038】
図8から図11に示すように、開閉弁機構160は、ユーザが操作可能な操作部161のほかに、カバー部材162と、受け部材163と、変位部材164と、カム165(カム部材)と、保持部材169と、駆動機構260と、を含む。図9(a)は、開閉弁機構160が開状態を示し、図9(b)は、開閉弁機構160が閉状態を示す。図10(a)は、図8のカバー部材162を外した状態の図を示す。図10(b)は、図10(a)の変位部材164を外した状態の図を示す。図10(c)は、図10(b)から受け部材163を取り除いた図を示す。
【0039】
図8および図9に示すように、カバー部材162及び保持部材169は、供給用チューブ17を保持する。供給用チューブ17は、一方が記録ヘッド62に接続し、他方がインクタンク11に接続している。供給用チューブ17は、記録ヘッド62の移動に伴って屈曲可能な屈曲領域を含む。供給用チューブ17において、屈曲領域が記録ヘッド62とカバー部材162の間になるように開閉弁機構160が配置されている。すなわち、開閉弁機構160は、供給用チューブ17のうちキャリッジ61の移動に伴って動かない領域に配置される。
【0040】
図9および図11に示すように、変位部材164は、供給用チューブ17を押圧する押圧部164aを含み、供給用チューブ17に干渉する方向に変位可能な部材である。言い換えれば、変位部材164は供給用チューブ17に向かって進退可能に設けられている。また、受け部材163は、供給用チューブ17に対して干渉する方向に変位する変位部材164を受けるための部材であり、当接部163aを含む。また受け部材163は、第一の付勢部材170により保持部材169に対して付勢される。受け部材163は、供給用チューブ17に対して変位部材164が設けられている側と反対側に設けられている。そして、変位部材164の押圧部164aが、受け部材163の当接部163aに対して供給用チューブ17を押し付けながら供給用チューブ17を潰すことにより、インク供給路51が閉塞される。即ち、開閉弁機構160が閉状態になる。以下、押圧部164aを含む変位部材164を、バルブ機構または単にバルブともいう。変位部材164は、第二の付勢部材171によってカム165に対して付勢されている。
【0041】
図8から図10に示すように、カム165は、カム面165aとカム軸165bとを含み、操作部161と係合することで回転し、変位部材164を変位させる。本実施形態の場合、図10に示すように、カム165は、操作部161と別体に設けられているが、一体であってもよい。図9に示すように、カム165は、カム面165aにおいて変位部材164と当接するように構成されている。ユーザが操作部161を操作するとカム165がそれに伴ってカム軸165bを中心に回転し、カム面165aに押された変位部材164が変位する。これにより、ユーザは操作部161を介してインク供給路51を閉塞および連通させることができる。
【0042】
図8に示すように、駆動機構260は、駆動機構保持部261と、操作部161に駆動を伝達する駆動伝達部である駆動伝達ギア262と、中間ギア列263と、モータ265とを含む。駆動機構保持部261は、駆動伝達ギア262と、中間ギア列263と、モータ265とを保持する。モータ265は、モータギア264を含む。駆動伝達ギア262は、操作部161と係合し、外部電源(不図示)に接続されたモータ265から中間ギア列263を介して駆動伝達ギア262に駆動力が伝達され、係合する操作部161を回転させる。これにより、カム165が変位部材を変位させることで、インク供給路51を自動で閉塞および連通させることができる。なお本実施形態のようにモータギア264にウォームギアを用いることで、モータ265側から操作部161側へ駆動伝達方向を一方向に規制することができるが、ウォームギアに限らずその他周知のギアを用いてもよい。
【0043】
次に、本実施形態に係る開閉弁機構160が供給用チューブ17を閉塞する動作を説明する。図9(a)は、変位部材164が供給用チューブ17を潰しておらず、インク供給路51が連通している状態(開放状態)を示す。この開放状態では、供給用チューブ17内のインクは、インク供給路51を介してインクタンク11から記録ヘッド62へ供給可能である。このとき、操作部161の操作面161aは、図7(a)に示すように、印刷マーク166で示される側に位置している。ユーザは、操作面161aに指でアクセスして、操作部161を回転操作する。または、前述したように、操作部161は自動で回転操作される。開放状態から、操作部161の操作面161aを、図7(b)に示すように、メンテナンスマーク167で示される側に自動または手動で回転操作する。すると、図9(b)に示すように、操作部161の回転操作に応じて回転するように設けられているカム165のカム面165aも回転する。そして、カム面165aは、変位部材164を供給用チューブ17と干渉する方向に変位させる。
【0044】
図9(b)は、変位部材164が供給用チューブ17を潰しており、インク供給路51が閉塞されている状態(閉塞状態)を示す。図9(b)に示すように、供給用チューブ17は、変位部材164と受け部材163との間に押し潰され、そのインク供給路51が閉塞される。この時、供給用チューブ17は、インクタンク11のインクを記録ヘッド62に供給することができない状態であり、また、空気の行き来も許容しない状態となる。この結果、インクタンク11から記録ヘッド62へインクが供給されない。したがって、ユーザは、インク供給路51におけるインクの移動が抑制された状態で、記録ヘッド62の交換作業または記録装置100の輸送作業等を行うことができる。また、開閉弁機構160によりインク供給路51を閉塞した状態で前述の吸引動作を行うことにより、記録ヘッド62に対するインクの初期充填またはインク供給路51の泡抜き動作等を効率的に行うことができる。
【0045】
尚、本実施形態では、図10(c)および図11に示すように、各インク色の供給用チューブ17毎に複数の受け部材163が備えられており、当接部163aも各インク色の供給用チューブ17毎に設けられている。また、本実施形態では、変位部材164としては、一つの共通の部材が設けられているが、変位部材164の押圧部164aは、図11に示すように、ブラック側(BL)と、カラー側(CL)との2つが設けられている。そして、各供給用チューブ17の当接部163aと変位部材164の押圧部164aとが個別に各供給用チューブ17を潰すことで、インク供給路51を個別に閉塞することができる。このように、本実施形態では、変位部材164を供給用チューブ17に干渉する方向に変位させることで、ブラック用の開閉弁機構160とカラー用の開閉弁機構160との両方を閉じるように構成されているが、これに限られない。また、本実施形態では、変位部材164を変位させるカム165およびカム165を回転させるための操作部161が、それぞれブラック用とカラー用とで共通の一つの部材を用いる例を説明したが、これに限られない。開閉弁機構160を構成する上記の部材を適宜用意して、インク色毎の開閉弁機構160としてもよいし、全色で共通の開閉弁機構160としてもよい。
【0046】
また、図9に示すように、開閉弁機構160には、開閉弁機構160の開閉状態を検知する開閉弁センサ168が設けられている。本実施形態では、開閉弁センサ168は非接触で作動する光学センサである。手動または自動で操作部161が操作されると、変位部材164に設けられた被検知部164bが開閉弁センサ168の検出部を通過することで開閉弁センサ168が作動する。これにより、開閉弁機構160の閉塞状態と開放状態を検知することができる。なお、開閉弁センサ168は、接触式センサでもよいし、その他の周知の構成を採用可能である。たとえば、磁気センサまたはリーフスイッチなどを採用してもよい。また、変位部材が複数設けられている場合には、変位部材の数に応じた数の被検知部164bが設けられてもよい。
【0047】
また、開閉弁センサ168とカバーセンサ18とを連動させて各種の制御が行われてもよい。例えば、カバーセンサ18によって第3のカバー部材41が開いた状態を検知し、その後、第3のカバー部材41が閉じた状態を検知したときに、開閉弁センサ168が閉の場合がある。例えばユーザの手動操作により閉塞状態となった場合が考えられ、このような場合には、供給用チューブ17が閉塞した状態で記録装置100が使用される可能性がある。このため、エラー通知を操作表示部611に表示してもよいし、各種の初期化処理を行ってもよい。
【0048】
<開閉弁センサ>
次に、本実施形態における開閉弁センサ168が被検知部164bを検知する動作の詳細を説明する。前述したように、本実施形態の記録装置100のように、輸送時に供給用チューブ17を変位部材164の押圧部164aによって押圧して閉塞させることで、インク漏れを抑制する場合、例えば引っ越しなど長期間使用されないまま保管されることが想定される。このような場面では、変位部材164によって供給用チューブ17が長期間潰されたままになる可能性がある。そして、本実施形態のように、エラストマなどの可撓性を有する材料を供給用チューブ17に採用している場合、変位部材164が供給用チューブ17を押圧したまま長期間放置すると、変位部材164と供給用チューブ17との間で貼り付きが発生する虞がある。
【0049】
図12は、貼り付きが生じている場合の開閉弁機構160の断面図である。図12は、例えば図9(b)の閉状態を長時間維持した後に、カム165を図9(a)に示す開状態の位置に回転した図である。図12に示すように、貼り付きの程度によっては、変位部材164をカム165に対して付勢している第二の付勢部材171のばね力のみでは復元までに時間がかかる。この結果、カム165に対して変位部材164が追従せず、カム165と変位部材164との乖離が生じる可能性がある。ここで、仮に、駆動軸に被検知部(センサフラグ)を配している形態では、カム165を所定位置に回転させた時点でセンサフラグが正常に検知されてしまうため、開動作が完了したとみなされてしまう。しかしながら、実際は、チューブが閉塞された状態となっており、インク供給動作で正常にインクが供給されないという不具合が生じる虞がある。
【0050】
一方、本実施形態の開閉弁機構160では、駆動軸(カム軸165b)による駆動動作によって変位する変位部材164に被検知部164bを設けている。このため、仮に、貼りつきが生じていても、図12に示すように、開閉弁センサ168は、被検知部164bが閉状態であることを検知している。このため、閉状態であるにも関わらず、開状態となっている、といった開閉状態の誤検知を抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態では、カム165(駆動軸)を、所定量の回転をさせるように制御する。所定量の回転とは、例えば弁(バルブ)のオープンに十分な一定の駆動量だけ駆動させるように制御することである。これにより、変位部材164の位置を開閉弁センサ168で適切に検知し、供給用チューブ17が閉塞していないことを確認することができる。
【0052】
尚、本実施形態の開閉弁機構160では、駆動軸に被検知部を設けていないため、カム165の位相を検知できない。つまり、駆動量の制御は可能であるものの、その駆動の結果のカム165の回転位置がどの位置かを検知できない。このため、一定の駆動量だけカム165を回転させることを繰り返すことで、あるタイミングにおいては、バルブのオープン位置にカム165が位置していることが期待できる。そして、多くの場合、貼り付きは、押圧力の解放後に一定時間経過することで解消される。このため、本実施形態では、カム165の所定量の回転動作の終了後に、所定の待機時間経過後、変位部材164の位置を検知してバルブ機構の開閉を判定するように構成されている。
【0053】
また、所定の待機時間後の検知を、所定回数リトライする仕組みを実装することで、バルブ開動作がエラーで終了してしまう頻度を減らすことができる。リトライ時には、所定量の回転数は、初回時と変えてもよい。例えば、駆動軸の駆動開始後の1回目の所定の回転量は、カム165が図9(b)から図9(a)の位置になるような回転量とし、2回目以降のリトライ時には、この回転量の1/2または1/3の回転量などとしてもよい。尚、所定回数のリトライ時には、カム165が、例えば図9(a)の位置からさらに時計回りに回転し、所定量の回転の位相によっては、供給用チューブ17を押圧する位置で停止する可能性もある。しかしながら、所定の待機時間は、長期保管または輸送時の時間に比べて極めて短いので、貼り付きに対する影響はない。また、このようにリトライした結果、バルブの開状態を検知した場合には、前述したように、カム165の位相が適切な位置でないこともあり得る。このため、一旦、カム165を閉状態に移動させた後に、改めて、カム165を開状態の位置に回転させてもよい。即ち、バルブのオープンを開閉弁センサ168で検知した後(即ち、貼り付きの解消を確認した後)に、一旦、カム165を、バルブのクローズ位置に回転させる。そして、その位置を基準にして、カム165を、バルブがオープン位置になる位置に回転させることで、カム165の位相を適切に保つように制御することができる。
【0054】
また、本実施形態では、バルブ開シーケンス中に不意な電源オフが生じた場合に備えて、駆動源の駆動開始時にバルブの動作中フラグをROM602に格納しておく。動作中フラグは、バルブ開シーケンスが実行中であるか否かを示すフラグ(データビット)である。そして、動作中フラグがONであった場合に、初期化シーケンス中に、バルブ開シーケンスを実施させるようにし、OFFの場合、バルブ開シーケンスを省略する。これにより、不要なバルブ開シーケンス動作による動作時間の省略、および、動作回数削減による耐久性の向上、といったユーザビリティの向上も可能となる。
【0055】
図13は、本実施形態におけるバルブ開シーケンスの例を示す図である。図13に示す処理は、ROM602に格納されているプログラムをMPU601が実施することによって実現される。図13の処理は、開閉弁機構160を開状態にする指示をMPU601が受け付けた場合に実行される。
【0056】
S1301においてMPU601は、RAM603に格納しているリトライ回数Rを、「0」に初期化する。
【0057】
S1302においてMPU601は、リトライ回数Rが所定回数を超えているか、即ち、リトライリミットを超えているかを判定する。リトライリミットを超えている場合、S1309に進み、バルブ開動作エラーとなり、処理を終了する。バルブ開動作エラーとなった場合には、記録ヘッド62にインクを供給できなくなってしまうので、故障扱いとエラー制御が行われる。一方、リトライ回数Rが所定回数未満であれば、S1303に進む。
【0058】
S1303においてMPU601は、ROM602の動作中フラグをONに設定する。その後、S1304に進み、MPU601は、駆動源であるモータ265を所定量駆動させてカム165を駆動させる。これにより、カム165を、変位部材164を押圧させる位置から退避させる。その後、S1305において、MPU601は、変位部材164と供給用チューブ17との剥離待ちのために予め決められた時間のWait時間を待つ。その後、S1306においてMPU601は、開閉弁センサ168がOPEN状態かを検知する。即ち、MPU601は、所定の待機時間が経過した後に、開閉弁センサ168の検知結果を取得する。開閉弁センサ168の検知結果がOPEN状態であれば変位部材164は貼り付いておらずチューブの閉塞は開放されたとみなし、S1307に進み、MPU601は、動作中フラグをOFFにして動作を完了する。尚、このとき、前述したように、一旦、カム165を、変位部材164を押圧させる位置に回転させ、その位置を基準にして、カム165を、バルブがオープン位置になる位置に回転させてもよい。
【0059】
一方、S1306で開閉弁センサ168がOPEN状態でない、即ち、CLOSE状態であると判定された場合、S1308に進む。S1308においてMPU601は、リトライ回数Rのカウントを一つ加算し、再度S1302に戻り、処理を繰り返す。
【0060】
なお、Wait時間は、予め決められた値を設定しても良いし、各種のパラメータの値、または、その組み合わせによって、Wait時間を決定してもよい。そして、記録装置100の使用状態によって、Wait時間を可変としてもよい。パラメータの例としては、記録装置100がタイマーを備えている場合はバルブ閉からの経過時間、温度センサを備えている使用時の気温、湿度センサを備えている場合は使用時の湿度、累積した総印刷枚数などが挙げられる。これら以外にも、貼り付き性に影響する様々なパラメータを適用することが可能である。仮にWait時間を設けない場合、カム165(駆動軸)が、開放位置、閉塞位置、開放位置、閉塞位置といったように、連続的に動作し続けることになり、開放位置での乖離が間に合わずに、リトライ分の駆動動作が終了してしまう。この結果、前述のように、バルブ開エラーになる虞がある。本実施形態では、Wait時間を設けることで、閉塞されている供給用チューブ17の乖離を待つことができる。
【0061】
図14は、記録装置100の初期化シーケンスのうちの、バルブの初期化動作シーケンスを示す図である。図14の処理も、MPU601が、ROM602に格納されているプログラムを実行することによって実施される。記録装置100の初期化シーケンスの実行時に、S1401においてMPU601は、動作中フラグがONであるかを判定する。動作中フラグがONの場合、S1403に進み、MPU601は、バルブ開シーケンスを実施する。S1403の処理は、図13の処理に相当する。
【0062】
図13のS1303で動作中フラグがONになった後、S1307の動作フラグがOFFになる前に、停電などの不意な電源OFFが発生する場合がある。この場合、不揮発メモリであるROM602に書き込まれた動作中フラグがONのまま残る。従って、このような場合、次回電源ON時の初期化動作では、S1401の判定によってS1403のバルブ開シーケンスが実施されるようになる。一方で、バルブ開動作が完了している、または、バルブ開動作中でない場合は、動作フラグがOFFとなっている。このため、S1401の判定でNOとなり、S1402に進む。S1402でMPU601は、開閉弁センサ168がOPEN状態であるかを判定する。OPEN状態でない場合、S1403に進み、バルブ開シーケンスを実施する。一方、開閉弁センサ168がOPEN状態である場合は、バルブ開シーケンスをスキップする。これにより、不要な動作を実行しないように制御することができる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態では、駆動軸ではなく供給用チューブ17を押圧する変位部材164に被検知部164bを備え、開閉弁センサ168で被検知部164bの位置を検出するように構成している。これにより、供給用チューブ17の押圧状態を適切に検知することができる。この結果、例えばインクの充填不良などのエラーが生じることを回避することができる。また、カム165の駆動終了後に供給用チューブ17と変位部材164との剥離待ちのために一定のWait時間を経て、開閉弁センサ168の検知動作を実施する。これにより、貼り付き発生時でもエラー終了することなく、バルブ開の動作を完了することができる。また、wait時間をバルブ閉塞後の経過時間など、各パラメータによって可変とすることで、冗長なwait時間を経ずにバルブ開シーケンスが行われるので、ユーザビリティの向上が図れる。また、バルブの開閉動作中に不揮発メモリに動作中フラグを書き込んでおくことで、不要な初期化動作を実行しないようにすることができ、動作時間の短縮と耐久性の向上とが図れる。
【0064】
<<その他の実施形態>>
以上の実施形態では、変位部材164は、カム165の回転に応じて回動方向に変位することで、供給用チューブ17を押圧する例を説明したが、これに限られない。変位部材164が駆動源からの駆動によって供給用チューブ17が押圧される形態であれば、貼りつきは同様に生じるので、変位部材の駆動方向は、回動方向でなくても直動方向であってもよい。
【0065】
また、上記の実施形態では、変位部材164は、供給用チューブ17を押圧する例を説明したが、押圧部によってチューブが押圧されることで流路の閉塞が実施される形態であれば、いずれの形態においても適用可能である。例えば、回復動作時に使用するポンプに接続されたチューブを、押圧部によって押圧する形態においても実施可能である。即ち、本実施形態で説明したバルブ機構は、各種の流路のチューブにおいて適用することが可能である。
【0066】
また、上記の実施形態では、インクを用いて記録を行う記録装置を例に挙げて説明したが、液体が貯留されている第一貯留部から液体を第二貯留部に移送する液体移送装置において、この移送流路の開閉を、同様にして実施してもよい。
【符号の説明】
【0067】
17 供給用チューブ
160 開閉弁機構
164 変位部材
165 カム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14