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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20241125BHJP
【FI】
A61M1/16 111
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021030788
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131709
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】岩堀 正
(72)【発明者】
【氏名】平野 貴敬
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/193090(WO,A1)
【文献】特開2017-006538(JP,A)
【文献】特開2014-083092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化器及び血液回路を通じて患者の血液を体外循環させ、当該血液を浄化する血液浄化装置であって、
前記血液回路の血液を送液する血液ポンプと、
前記血液浄化器に透析液を導入する透析液導入ライン、及び前記血液浄化器から排液を排出する排液排出ラインを有する配管部と、
前記血液回路における所定の検出位置に配設され、液体の流量又は圧力を検出する第1の検出部と、
前記血液回路における前記検出位置より下流側の液体及び前記配管部における透析液のいずれかの流量又は圧力を検出する第2の検出部と、
前記第1の検出部の検出値が所定の閾値に達するとき、前記第2の検出部が検出する流量又は圧力の変化に基づいて前記第1の検出部の検出値の適否を判断する判断部と、
を具備し、且つ、前記判断部により前記第1の検出部の検出値が適切でないと判断する場合、前記第1の検出部の検出値を補正する血液浄化装置。
【請求項2】
前記血液ポンプは、前記血液回路の被しごき部をしごき部によって径方向に圧縮しつつ長手方向にしごいて送液するしごき型ポンプから成り、
所定軸周りに揺動可能に構成され、一端側において前記被しごき部を把持する把持片を備え、前記第1の検出部は、前記把持片の他端側より荷重を受ける荷重センサを有し、前記しごき部でしごかれる部位より前記血液回路の送液方向上流側の前記検出位置において、前記被しごき部の径方向の変位に応じて揺動する前記把持片が加える荷重を前記荷重センサが検出する請求項1記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記血液回路は、患者から脱血する動脈側血液回路及び患者に返血する静脈側血液回路を有して構成されるとともに、前記第2の検出部は、前記動脈側血液回路に配設されて前記血液浄化器の入口圧を検出する入口圧センサ、前記静脈側血液回路に配設されて静脈圧を検出する静脈圧センサ、又は前記排液排出ラインの透析液の液圧を検出する透析液圧センサから成る請求項1又は請求項2記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記判断部は、前記第1の検出部の検出値が所定の閾値に達することに伴って前記第2の検出部が検出する圧力が変化する場合、前記第1の検出部の検出値が適切であると判断するとともに、前記第1の検出部の検出値が所定の閾値に達することに伴って前記第2の検出部が検出する圧力が変化しない場合、前記第1の検出部の検出値が適切でないと判断する請求項1~3の何れか1つに記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記判断部により前記第1の検出部の検出値が適切であると判断する場合、前記第1の検出部の検出値に基づいた警報を報知するとともに、前記判断部により前記第1の検出部の検出値が適切でないと判断する場合、前記第1の検出部の検出値が適切でない旨又はその示唆を報知する報知部を具備した請求項1~4の何れか1つに記載の血液浄化装置。
【請求項6】
前記血液回路にて血液を体外循環させて血液浄化治療を行う前に、前記第1の検出部を初期校正して検量線を取得し、前記判断部により前記第1の検出部の検出値が適切でないと判断する場合、前記初期校正で得られる前記検量線を補正することによって、前記第1の検出部の検出値を補正する請求項記載の血液浄化装置。
【請求項7】
前記血液ポンプの駆動量を低下又は停止させるときの前記第1の検出部の検出値に基づいて前記検量線を補正する請求項記載の血液浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の血液を浄化して血液浄化治療を施すための血液浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液透析治療時に用いられる一般的な血液回路は、先端に動脈側穿刺針が取り付けられる動脈側血液回路と、先端に静脈側穿刺針が取り付けられる静脈側血液回路とから主に構成されており、これら動脈側血液回路及び静脈側血液回路の各基端にダイアライザ等の血液浄化器を接続し得るよう構成されている。動脈側血液回路には、しごき型の血液ポンプが配設されており、動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針を共に患者に穿刺した状態で当該血液ポンプを駆動させることにより、動脈側穿刺針から血液を採取するとともに、その血液を動脈側血液回路内で流動させてダイアライザまで導き、該ダイアライザによる浄化後の血液を静脈側血液回路内で流動させ、静脈側穿刺針を介して患者の体内に戻して透析治療が行われるよう構成されている。
【0003】
従来、特許文献1にて開示されているように、血液ポンプのしごき部にて径方向に圧縮されつつ長手方向にしごかれて内部の液体(血液等)を流動させ得る被しごきチューブを利用し、当該被しごきチューブの径方向の変位を検出することで、動脈側血液回路の脱血圧(動脈側血液回路の先端から被しごきチューブまでの間の圧力)を検出し得る検出部を具備した血液浄化装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-83092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の検出部においては、可撓性チューブから成る被しごきチューブの径方向の変位を検出するため、血液浄化治療の経過に伴って検出位置の可撓性チューブの反力(弾力により生じる反発力)が低下して誤検出してしまう可能性があった。しかし、検出部の検出値が適切であるのか、或いは可撓性チューブの反力の低下による誤検出なのか目視によって正確に判断することが難しいため、検出部の検出値が変化した際の対応を円滑に行うことが困難となっていた。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、検出部の検出値が変化した際の対応を円滑に行わせることができる血液浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一実施形態の血液浄化装置は、血液浄化器及び血液回路を通じて患者の血液を体外循環させ、当該血液を浄化する血液浄化装置であって、前記血液回路の血液を送液する血液ポンプと、前記血液浄化器に透析液を導入する透析液導入ライン、及び前記血液浄化器から排液を排出する排液排出ラインを有する配管部と、前記血液回路における所定の検出位置に配設され、液体の流量又は圧力を検出する第1の検出部と、前記血液回路における前記検出位置より下流側の液体及び前記配管部における透析液のいずれかの流量又は圧力を検出する第2の検出部と、前記第1の検出部の検出値が所定の閾値に達するとき、前記第2の検出部が検出する流量又は圧力の変化に基づいて前記第1の検出部の検出値の適否を判断する判断部とを具備し、且つ、前記判断部により前記第1の検出部の検出値が適切でないと判断する場合、前記第1の検出部の検出値を補正するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1の検出部の検出値が所定の閾値を超えて変化したとき、第2の検出部で検出された圧力の変化と比較し、第1の検出部の検出値の適否を判断するので、第1の検出部の検出値が変化した際の対応を円滑に行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る血液浄化装置を示す模式図
図2】同血液浄化装置の検出部(第1の検出部)が配設される血液ポンプを示す斜視図
図3】同血液ポンプを示す平面図
図4】同血液ポンプに配設された第1の検出部を示す断面模式図
図5】同血液浄化装置における初期校正時の状態を示す模式図
図6】同検出装置の流量比と電圧との関係(予め得られた実験結果)を示すグラフ
図7】同検出装置において初期校正で取得された検量線を示すグラフ
図8】同検出装置における初期校正時の血液ポンプの駆動を示す模式図
図9】同血液浄化装置における血液浄化治療時の状態を示す模式図
図10】同血液浄化装置において脱血不良が生じた際の設定血流量及び推定血流量(第1の検出部の検出値)の推移を示すグラフ
図11】同血液浄化装置において、第1の検出部の検出値が低下した場合に、第2の検出部の検出値も低下したときのグラフ
図12】同血液浄化装置において、第1の検出部の検出値が低下した場合に、第2の検出部の検出値が低下しなかったときのグラフ
図13】同血液浄化装置において初期校正で取得された検量線及び補正された検量線を示すグラフ
図14】同血液浄化装置において検量線の補正の有無による相違を示すグラフ
図15】同血液浄化装置の制御内容を説明するためのフローチャート
図16】同血液浄化装置において検出された静脈圧、透析液圧及び推定血流量(判断部が適切でないと判断した場合)を示すグラフ
図17】同血液浄化装置において検出された静脈圧、透析液圧及び推定血流量(判断部が適切であると判断した場合)を示すグラフ
図18】本発明の他の実施形態に係る血液浄化装置に適用された血液ポンプを示す斜視図
図19】同血液ポンプに配設された第1の検出部を示す断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る血液浄化装置は、血液浄化器及び血液回路を通じて患者の血液を体外循環させることにより、当該血液を浄化して血液浄化治療(例えば血液透析治療)を行わせるためのもので、動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2を有する血液回路と、血液浄化器としてのダイアライザ3とを具備して構成されている。
【0011】
動脈側血液回路1は、所定の液体を流通させ得る可撓性チューブから成る液体流路を構成するもので、その先端にコネクタaを介して動脈側穿刺針(不図示)が取り付け可能とされるとともに、途中に除泡のための動脈側エアトラップチャンバ5が接続されている。かかる動脈側血液回路1には、T字管cを介して透析液供給ラインL3の一端が接続されており、その透析液供給ラインL3の他端は、採取ポート19を介して透析液導入ラインL1に接続されている。この透析液供給ラインL3は、電磁弁V9にて任意に開閉可能とされており、透析液導入ラインL1の透析液を血液回路内に供給し得るよう構成されている。
【0012】
また、動脈側血液回路1の途中(T字管cと動脈側エアトラップチャンバ5との間)には、被しごきチューブ1aが接続されており、かかる被しごきチューブ1aを血液ポンプ4に取り付けることが可能とされている。被しごきチューブ1aは、後で詳述する血液ポンプ4のローラ10にて径方向に圧縮されつつ長手方向にしごかれて内部の液体をロータ9の回転方向に流動させ得るものであり、動脈側血液回路1を構成する他の可撓性チューブより軟質且つ大径の可撓性チューブから成る。なお、動脈側血液回路1の先端側には、電磁弁V1が配設されており、その流路を任意タイミングにて開閉し得るようになっている。
【0013】
さらに、動脈側エアトラップチャンバ5の空気層側(上部)には、入口圧センサ8まで延設された圧モニタラインが延設されている。かかる入口圧センサ8は、動脈側エアトラップチャンバ5の空気層側の圧力を測定することにより動脈側血液回路1におけるダイアライザ3の入口圧を検出し得るようになっている。
【0014】
静脈側血液回路2は、所定の液体を流通させ得る可撓性チューブから成る液体流路を構成するもので、その先端にコネクタbを介して静脈側穿刺針(不図示)が取り付け可能とされるとともに、途中に除泡のための静脈側エアトラップチャンバ6が接続されている。しかるに、静脈側血液回路2を構成する可撓性チューブは、動脈側血液回路1を構成する可撓性チューブと材質及び寸法が略同一のものとされている。なお、静脈側血液回路2の先端側には、電磁弁V2が配設されており、その流路を任意タイミングにて開閉し得るようになっている。
【0015】
静脈側エアトラップチャンバ6の空気層側(上部)には、当該静脈側エアトラップチャンバ6内の空気又は気体を外部に排出させ得るオーバーフローラインL4が延設されており、当該オーバーフローラインL4の途中には、任意タイミングにて流路を開閉し得る電磁弁V3が配設されている。さらに、静脈側エアトラップチャンバ6の空気層側(上部)には、静脈圧センサ7まで延設された圧モニタラインが延設されている。かかる静脈圧センサ7は、静脈側エアトラップチャンバ6の空気層側の圧力を測定することにより静脈側血液回路2内の液圧(血液浄化治療時において測定される静脈圧)を検出し得るようになっている。
【0016】
動脈側血液回路1と静脈側血液回路2との間には、ダイアライザ3が接続されており、動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針を患者に穿刺した後、血液ポンプ4を正転駆動させることにより(図9における血液ポンプ4の矢印方向)、当該動脈側血液回路1、静脈側血液回路2及びダイアライザ3が構成する液体の流路を介して、血液浄化治療時、患者の血液を体外循環させ得るようになっている。
【0017】
一方、血液浄化治療前には、図1に示すように、コネクタaとコネクタbとを接続することにより、動脈側血液回路1の先端と静脈側血液回路2の先端とを連結させ、これら動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2(ダイアライザ3内の血液流路を含む)にて血液回路側の閉回路を形成させ得るようになっている。そして、この閉回路内に透析液供給ラインL3を介して透析液を供給することにより、血液回路(動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2)に対して透析液を充填させてプライミング作業が可能とされている。なお、プライミング作業の過程において、オーバーフローラインL4から透析液をオーバーフローさせて血液回路側の閉回路内を洗浄し得るようになっている。
【0018】
ダイアライザ3は、微小孔(ポア)が形成された複数の中空糸を筐体部に収容して成るものであり、その筐体部に、血液導入ポート3a、血液導出ポート3b、透析液導入ポート3c及び透析液導出ポート3dが形成されており、このうち血液導入ポート3aには動脈側血液回路1の基端が、血液導出ポート3bには静脈側血液回路2の基端がそれぞれ接続されている。また、透析液導入ポート3c及び透析液導出ポート3dは、透析装置本体から延設された透析液導入ラインL1及び排液排出ラインL2にそれぞれ接続されている。
【0019】
そして、ダイアライザ3に導入された患者の血液は、内部の中空糸膜内を通過して血液導出ポート3bから排出される一方、透析液導入ポート3cから導入された透析液が当該中空糸膜外を通過して透析液導出ポート3dから排出されるよう構成されている。これにより、血液流路を通過する血液中の老廃物等を透析液側に透過させ、清浄化することができ、その清浄な血液を静脈側血液回路2を介して患者の体内に戻すことができる。
【0020】
透析装置本体は、透析液導入ラインL1及び排液排出ラインL2を有する配管部を具備するとともに、複式ポンプ21、バイパスラインL5~L8(これらも本発明の配管部として含まれる)及び電磁弁V4~V8を有している。このうち複式ポンプ21は、透析液導入ラインL1と排液排出ラインL2とに跨って配設され、所定濃度に調製された透析液をダイアライザ3に導入させるとともに当該ダイアライザ3から透析後の排液を排出させるものである。
【0021】
透析液導入ラインL1の途中(透析液導入ラインL1における採取ポート19とダイアライザ3との間)には、電磁弁V4が接続されるとともに、排液排出ラインL2の途中(排液排出ラインL2におけるバイパスラインL6との連結部とダイアライザ3との間)には、電磁弁V5が接続されている。また、透析液導入ラインL1における複式ポンプ21と電磁弁V4との間には、濾過フィルタ23、24が接続されている。
【0022】
この濾過フィルタ23、24は、透析液導入ラインL1を流れる透析液を濾過して浄化するためのものであり、これら濾過フィルタ23、24には排液排出ラインL2にバイパスして透析液を導くためのバイパスラインL5、L6がそれぞれ接続されている。かかるバイパスラインL5、L6には、それぞれ電磁弁V6、V7が接続されている。
【0023】
一方、排液排出ラインL2におけるバイパスラインL5との連結部及びバイパスラインL6との連結部の間には、透析液(ダイアライザ3から排出された排液)の液圧を測定し得る透析液圧センサ20が配設されている。この透析液圧センサ20は、透析治療時(血液浄化治療時)、ダイアライザ3から排出されて排液排出ラインL2を流れる透析液(排液)の圧力(液圧)を測定し得るものである。
【0024】
さらに、排液排出ラインL2には、複式ポンプ21をバイパスするバイパスラインL7、L8がそれぞれ接続されており、バイパスラインL7には、ダイアライザ3の血液流路中を流れる患者の血液から水分を除去するための除水ポンプ22が配設されるとともに、バイパスラインL8には、流路を開閉可能な電磁弁V8が配設されている。なお、図示はしていないが、排液排出ラインL2における複式ポンプ21より上流側(バイパスラインL7との連結部と複式ポンプ21との間)には、複式ポンプ21における排液側の液圧調整を行うためのポンプが配設されている。
【0025】
ところで、本実施形態に係る血液ポンプ4は、しごき型ポンプから成り、図2~4に示すように、ステータGと、当該ステータG内で回転駆動可能なロータ9と、該ロータ9に形成されたローラ10と、上下一対のガイドピン11と、上流側把持部12と、下流側把持部13と、第1の検出部としての荷重センサ18とから主に構成されている。なお、同図においては、血液ポンプ4におけるステータGの上部を覆うカバーについて省略してある。
【0026】
ステータGは、被しごきチューブ1a(被しごき部)が取り付けられる取付凹部Gaが形成されたもので、当該取付凹部Gaを形成する内周壁面に沿って被しごきチューブ1aが取り付けられるよう構成されている。取付凹部Gaの略中央には、モータにより回転駆動可能なロータ9が配設されている。かかるロータ9の側面(取付凹部Gaの内周壁面と対向する面)には、一対のローラ10と、ガイドピン11とが配設されている。
【0027】
ローラ10は、ロータ9の外縁側に形成された回転軸Mを中心として回転可能とされたもので、取付凹部Gaに取り付けられた被しごきチューブ1aを径方向に圧縮しつつ当該ロータ9の回転に伴い長手方向(血液の流動方向)にしごくことにより、動脈側血液回路1内で血液を流動させて送液し得るものである。すなわち、取付凹部Ga内に被しごきチューブ1aを取り付けてロータ9を回転駆動させると、ローラ10と取付凹部Gaの内周壁面との間で当該被しごきチューブ1aが圧縮されるとともに、ロータ9の回転駆動に伴ってその回転方向(長手方向)にしごき得るのである。かかるしごき作用により、動脈側血液回路1内の血液がロータ9の回転方向に流動することとなるので、当該血液回路1内で体外循環させることが可能とされている。
【0028】
ガイドピン11は、図2に示すように、ロータ9の上端側及び下端側から取付凹部Gaの内周壁面に向かってそれぞれ突出形成された上下一対のピン状部材から成るものであり、これら上下一対のガイドピン11の間に被しごきチューブ1aが保持されることとなる。すなわち、ロータ9の駆動時、上下一対のガイドピン11により被しごきチューブ1aを正規の位置に保持させるとともに、上側のガイドピン11により取付凹部Gaから被しごきチューブ1aが上方に離脱しないようになっているのである。
【0029】
上流側把持部12は、血液ポンプ4におけるステータ8の取付凹部Gaに取り付けられた被しごきチューブ1aのうち上流側(動脈側血液回路1の先端側が接続される部位)を把持するためのもので、図2~4に示すように、被しごきチューブ1aを径方向に押圧して把持し得る把持片14と、該把持片14を被しごきチューブ1a側に付勢するねじりバネ15とを有する。
【0030】
把持片14は、図4に示すように、揺動軸Laを中心に揺動可能な部品から成るもので、ねじりバネ15により把持方向に比較的強く付勢されており、被しごきチューブ1aの上流側の部位を押圧して固く挟持することにより固定可能とされたものである。ねじりバネ15は、同図に示すように、揺動軸Laに取り付けられて把持片14を付勢するとともに、ステータGの固定部(本実施形態においては、ステータGに取り付けられた荷重センサ18)に位置する固定端15aと把持片14を押圧する押圧端15bとを有する。なお、ねじりバネ15に代えて把持片14を付勢する他の付勢部としてもよい。
【0031】
下流側把持部13は、血液ポンプ4におけるステータ8の取付凹部Gaに取り付けられた被しごきチューブ1aのうち下流側(動脈側血液回路1の基端側が接続される部位)を把持するためのもので、被しごきチューブ1aを径方向に押圧して把持し得る把持片16と、該把持片16を被しごきチューブ1a側に付勢するねじりバネ17とを有する。
【0032】
把持片16は、上流側把持部12の把持片14と同様、揺動軸Lbを中心に揺動可能な部品から成るもので、ねじりバネ17により把持方向に比較的強く付勢されており、被しごきチューブ1aの下流側の部位を押圧して固く挟持することにより固定可能とされたものである。ねじりバネ17は、上流側把持部12のねじりバネ15と同様、揺動軸Lbに取り付けられて把持片16を付勢するとともに、ステータGの固定部に位置する固定端と把持片16を押圧する押圧端とを有する。
【0033】
しかるに、本実施形態に係る血液ポンプ4には、第1の検出部を構成する荷重センサ18が取り付けられている。かかる荷重センサ18は、被しごきチューブ1aにおけるローラ10でしごかれる部位より上流側の所定の位置(この位置を所定の検出位置と称する)径方向の変位に応じて変化する荷重を検出するものである。なお、本実施形態の第1の検出部は、血液ポンプ4に配設された荷重センサ18を有して構成され、被しごきチューブ1aにおけるローラ10でしごかれる部位より上流側の所定の検出位置における径方向の変位を検出しているが、被しごきチューブ1aの上流側に接続された動脈側血液回路1を構成する可撓性チューブの所定の検出位置における径方向の変位を検出するもの(例えば、ピロー等)であってもよい。
【0034】
本実施形態に係る荷重センサ18は、被しごきチューブ1aにおける上流側把持部12で把持された部位の径方向の変位を検出可能なもので、ねじりバネ15の固定端15a側に付与される荷重を検出し、当該検出された荷重に基づいて被しごきチューブ1aの径方向の変位を検出するものとされている。この荷重センサ18は、付与された荷重に応じた電気信号を発生し得るものである。
【0035】
すなわち、透析治療時において動脈側血液回路の先端には、動脈側穿刺針が取り付けられていることから、患者から血液を採取して動脈側血液回路1にて流動させる際(図9において血液ポンプ4の駆動方向を示す矢印方向に流動)、当該動脈側血液回路1の先端と血液ポンプ4との間で陰圧が生じてしまう。かかる陰圧が生じると、被しごきチューブ1a内の液圧が低下し、当該被しごきチューブ1aにおける上流側把持部12で把持された部位が径方向に変位する(径が小さくなる)ので、荷重センサ18により検出される荷重が低下することとなる。かかる荷重の低下を検出することにより、動脈側血液回路1に陰圧が生じていることを検出することができるのである。このように、ローラ10(しごき部)でしごかれる部位より血液回路の送液方向(動脈側血液回路1の先端から静脈側血液回路2の先端に向かう方向)上流側の検出位置において、被しごきチューブ1a(被しごき部)の径方向の変位に応じて揺動する把持片14が加える荷重を荷重センサ18が検出するのである。
【0036】
本実施形態に係る荷重センサ18は、配線等が延設されて算出部25と電気的に接続されている。かかる算出部25は、荷重センサ18と共に本発明の第1の検出部を構成するもので、荷重センサ18で検出された被しごきチューブ1aの径方向の変位に基づいて、動脈側血液回路1の圧力や流量を算出し得るよう構成されている。
【0037】
すなわち、荷重センサ18にて被しごきチューブ1aの径方向の変位に応じた出力電圧が検出されると、その出力信号が算出部25に送信され、当該算出部25にて動脈側血液回路1の検出位置(本実施形態においては、動脈側血液回路1の先端から荷重センサ18が配設された部位までの間)における圧力(血液浄化治療時における脱血圧)や流量比(設定流量に対する実流量の比)が算出されるのである。かかる算出部25で算出された流量比や脱血圧は、推定血流量や推定脱血量として不図示のモニタ等に表示されるよう構成されている。
【0038】
さらに、本実施形態においては、荷重センサ18及び算出部25を校正(キャリブレーション)するための制御部26及び検量線作成部27を具備している。制御部26は、所定の検出位置において(被しごきチューブ1aにおけるローラ10でしごかれる部位より上流側の位置)予め定めた特定の流量又は圧力とするものであり、本実施形態においては、図5に示すように、電磁弁V1、V9を閉状態とすることにより検出位置より上流側を閉止しつつ血液ポンプ4のロータ9を所定角度回転させることにより、検出位置を予め定めた特定の流量(流量比)又は圧力とするようになっている。なお、算出部25、制御部26、検量線作成部27は、例えば透析装置本体に配設されたマイコン等から成る。
【0039】
すなわち、制御部26は、血液回路において検出位置の流量又は圧力が、制御範囲内における特定値となるように送液を制御するものである。かかる特定値は、制御範囲の上限値と下限値の間の任意の点が対象として含まれるもので、1つに限らず2つ以上であってもよい。また、検量線作成部27は、制御部26が、液体流路における検出位置の流量又は圧力が特定値となるよう制御した状態で、荷重センサ18による検出値を取得し、当該検出値を含む少なくとも2つの値を用いることによって、荷重センサ18及び算出部25を校正するための検量線Dを作成するものである。
【0040】
具体的には、制御部26は、校正時、図5に示すように、電磁弁V1、V9を閉状態として検出位置より上流側を閉止するとともに、図8(a)に示すように、血液ポンプ4における初期位置P0にあるロータ9を所定角度K1だけ回転させて、同図(b)に示すように、ロータ9を位置P1とすることにより、検出位置を予め定めた特定の流量(具体的には、図6で示す流量比F1)又は圧力とする第1工程を実行する。
【0041】
そして、第1工程を実行した後、制御部26は、電磁弁V1、V9の閉状態を保持して検出位置より上流側の閉止を維持するとともに、血液ポンプ4のロータ9を更に所定角度K2だけ回転させて、同図(c)に示すように、ロータ9を位置P2とすることにより、検出位置を予め定めた特定の流量(具体的には、図6で示す流量比F2)又は圧力とする第2工程を実行する。このように、血液ポンプ4のロータ9を断続的に回転させて第1工程及び第2工程を経ることにより、流量比F1のときの検出値D1と流量比F2のときの検出値D2とに基づいて検量線作成部27にて検量線D(図7参照)を取得することができる。
【0042】
しかるに、予め行われた実験結果によると、検出位置を流れる液体の流量比(設定流量に対する実流量の比)と荷重センサ18の出力電圧との関係は、図6で示すグラフの如き傾向とされており、下限値と上限値との間において、2つの変曲点(下限側の変曲点A1及び上限側の変曲点A2)を有している。本実施形態においては、荷重センサ18で検出可能な上限値と下限値との間の所定範囲における変曲点(A1、A2)を避けた範囲(変曲点を跨がない範囲)であって、下限側の変曲点A1と上限側の変曲点A2との間の略直線状の傾向を持つ範囲(流量比F1と流量比F2との間の範囲)に亘って検量線D(図7参照)を取得するようになっている。
【0043】
なお、算出部25が流量比を算出する場合、荷重センサ18で検出可能な上限値とは、検出位置の流量比が1の値(設定流量と実流量とが等しい)をいい、荷重センサ18で検出可能な下限値とは、検出位置の流量比が0の値(設定流量に対して実流量が0)をいう。また、算出部25が圧力(脱血圧)を算出する場合、荷重センサ18で検出可能な上限値とは、検出位置の流量比が1の値(設定流量と実流量とが等しい)のときの圧力(液圧)をいい、荷重センサ18で検出可能な下限値とは、検出位置の流量比が0の値(設定流量に対して実流量が0)のときの圧力(液圧)をいう。なお、上限値1と下限値0に限らず、例えば、1以上の上限値(設定流量を超えた実流量)であってもよい。
【0044】
検量線作成部27は、制御部26により検出位置を特定の流量又は圧力としたときの荷重センサ18による検出値を取得し、当該特定の流量又は圧力と取得した検出値との関係に基づいて荷重センサ18及び算出部25の校正のための検量線を作成して取得するものであり、本実施形態においては、荷重センサ18で検出可能な上限値(流量比1)と下限値(流量比0)との間の所定範囲(制御部26により実行された第1工程で得られた流量比F1と、第2工程で得られた流量比F2との間の範囲)に亘って検量線を取得するものとされている。
【0045】
具体的には、検量線作成部27は、図7に示すように、流量比0(下限値)と流量比1(上限値)との間に設定された特定の流量比F1、F2又は圧力において、第1工程で特定の流量(流量比F1)又は圧力としたときの荷重センサ18で得られた検出値(D1)と、第2工程で特定の流量(流量比F2)又は圧力としたときの荷重センサ18で得られた検出値(D2)とを直線で結び、かかる直線を検量線Dとして取得する。
【0046】
ここで、本実施形態においては、第1の検出部(荷重センサ18及び算出部25)の検出値(推定血流量又は推定脱血圧)が所定の閾値に達するとき、第2の検出部が検出する流量又は圧力の変化に基づいて第1の検出部の検出値の適否を判断する判断部28を具備している。判断部28は、制御部26や検量線取得部27と同様、例えば透析装置本体に配設されたマイコン等から成る。第2の検出部は、動脈側血液回路1に配設されてダイアライザ3の入口圧を検出する入口圧センサ8、静脈側血液回路2に配設されて静脈圧を検出する静脈圧センサ7、及び排液排出ラインL2の透析液(排液)の液圧を検出する透析液圧センサ20の何れか1つ又は2つ以上の組み合わせから成る。
【0047】
なお、第1の検出部の検出値及び第2の検出部の検出値には、一定の相関関係又は因果関係があり、例えば、第2の検出部が、静脈圧センサ7及び入口圧センサ8等のように血液ポンプ4の下流側に配置される構成である場合、血液ポンプ4の流量又は圧力が変化することで、血液ポンプ4の下流側の流量又は圧力も変化する。また、第2の検出部が、透析液圧センサ20のように、ダイアライザ3や透析液供給ラインL3を介して血液回路に接続される配管部に配置される構成である場合も、静脈圧センサ7や入口圧センサ8と比較して、影響の程度に差があるものの、血液ポンプ4の流量又は圧力に応じて流量又は圧力が変化し得る。このように、第1の検出部と第2の検出部の互いの検出値に相関関係又は因果関係があることに着目し、判断部28は、第1の検出部の検出値が所定の閾値に達する場合に、第2の検出部が検出する流量又は圧力の変化に基づいて第1の検出部の検出値の適否を判断する。
【0048】
具体的には、判断部28は、第1の検出部の検出値が所定の閾値に達することに伴って第2の検出部で検出された圧力が変化した場合、第1の検出部の検出値が適切であると判断するとともに、第1の検出部の検出値が所定の閾値に達することに伴って第2の検出部で検出された圧力が変化しない場合、第1の検出部の検出値が適切でないと判断するようになっている。
【0049】
例えば、判断部28は、図10に示すように、荷重センサ18の出力電圧に基づいて算出部25にて算出された推定血流量Q2が設定血流量Q1に対して20%減少した場合、第2の検出部としての静脈圧センサ7で検出された静脈圧を参酌し、図11に示すように、静脈圧W1が基準値W0に対して低下しているとき、第1の検出部の検出値が適切であると判断するとともに、図12で示すように、静脈圧W1が基準値W0に対して低下していない(基準値W0より大きい値が維持されている)とき、第1の検出部の検出値が適切でないと判断する。
【0050】
なお、基準値W0は、例えば血液ポンプ4の運転開始、あるいは流量変更され、静脈圧が安定する時間経過後(例えば1分後)の静脈圧に対して、所定値を加減算した値とされる。また、(1)血液浄化治療工程時において第1の検出部18による推定血流量が使用可能、(2)血液浄化治療開始から設定時間(例えば5分程度)経過を条件として、判断部28による上記の如き判断が行われるよう設定することができる。基準値W0は、流量変更されて静脈圧が安定する時間経過後の静脈圧に減算した値でなくてもよく、例えば、過去に検出した静脈圧を基準値とし、これとの比較で第1の検出部の検出値の適否を判断してもよい。なお、過去に検出した静脈圧とは、望ましくは、実施中の血液浄化治療の範囲内において、過去に検出した静脈圧であり、前回以前の血液浄化治療において検出された静脈圧は含まれない。より望ましくは、実施中の血液浄化治療の範囲内において、比較的直前(数分~数十分前)に検出された静脈圧がよい。
【0051】
また、本実施形態においては、判断部28により第1の検出部の検出値が適切であると判断された場合、第1の検出部の検出値に基づいた警報を報知するとともに、判断部28により第1の検出部の検出値が適切でないと判断された場合、第1の検出部の検出値が適切でない旨又はその示唆を報知する報知部29を具備している。かかる報知部29は、スピーカやモニタ等を有して成るもので、スピーカによる音声や効果音等の出力やモニタに対する警告に関する表示等し得るよう構成されている。
【0052】
さらに、本実施形態においては、既述したように、血液回路にて血液を体外循環させて血液浄化治療を行う前に、第1の検出部を初期校正して検量線Dを得るとともに、判断部28により第1の検出部の検出値が適切でないと判断された場合、初期校正で得られた検量線Dを補正して、補正後の検量線Eを取得するようになっている。
【0053】
具体的には、判断部28により第1の検出部の検出値が適切でないと判断されたとき、血液ポンプ4の駆動速度を例えば40(mL/m程度)に低下、又は血液ポンプ4の駆動を停止させ、そのときに荷重センサ18で検出された出力電圧をスパン電圧(Ds1)とする。そして、図13に示すように、初期校正で得られたスパン電圧(Ds0)及びスパン電圧(Ds1)をパラメータとした所定の演算式に基づいて、流量比F1におけるD1の補正値E1と流量比F2におけるD2の補正値E2とをそれぞれ求め、これら補正値E1、E2に基づいて検量線Dを補正した検量線Eを取得する。
【0054】
なお、例えば、所定の演算式は、初期校正時に得られたスパン電圧(Ds0)と補正時に得られたスパン電圧(Ds1)との差や比に基づいて、初期校正時の検出値(D1、D2)を算出して補正値(E1、E2)を求めるものであってもよく、予め行われた実験により求められた値をパラメータとして有するものとしてもよい。また、使用される血液回路の材質又は径寸法に応じて検量線Dを補正するための演算式又はそのパラメータを変更するようにしてもよい。このように、本実施形態によれば、血液ポンプ4の駆動量を低下又は停止させたときの荷重センサ18の検出値に基づいて検量線Dを補正して適切な検量線Eを取得することができる。
【0055】
しかるに、図14に示すように、判断部28により第1の検出部の検出値が適切でないと判断され、且つ、初期校正時の検量線Dを用いた場合、血液ポンプ設定流量で推移していても、血液ポンプ設定流量より低い値の流量(Na)が検出されてしまうのに対し、判断部28により第1の検出部の検出値が適切でないと判断され、且つ、補正後の検量線Eを用いた場合、血液ポンプ設定流量で推移していれば、血液ポンプ設定流量と略等しい値の流量(Nb)を検出することができる。なお、同図中の符号Ncは、荷重センサ18の検出値を示している。
【0056】
次に、本実施形態に係る血液浄化装置の制御内容について、図15のフローチャートに基づいて説明する。
透析治療(血液浄化治療)の開始前において、先ず液置換工程S1を行い、透析装置本体内の配管内を透析液で充填させるとともに、配管の漏れ診断やテスト等の自己診断を実施する。その後、透析準備工程S2に進み、透析条件の設定、動脈側血液回路1における被しごきチューブ1aの血液ポンプ4への取付け、及び血液回路や補液回路のプライミング(置換液の充填作業)等を行う。なお、透析準備工程S2と並行して、ダイアライザ3の透析液流路側のプライミング(ガスパージ)も行わせる。
【0057】
かかる透析準備工程S2が終了すると、校正工程S3に移行する。かかる校正工程S3においては、図5に示す状態とするとともに、上述したように、制御部26により検出位置を特定の流量(流量比)又は圧力としたときの荷重センサ18による検出値を取得し、当該特定の流量又は圧力と取得した検出値との関係に基づいて荷重センサ18及び算出部25の校正(初期校正)のための検量線Dを検量線作成部27にて作成して取得することで校正が行われる。
【0058】
その後、図9に示すように、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを患者に穿刺するとともに、血液ポンプ4を駆動してローラ10を回転駆動させることで脱血を開始(脱血開始S4)させ、患者の血液を動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2を介して体外循環させる。これにより、体外循環過程の血液がダイアライザ3にて浄化され、透析治療(血液浄化治療)がなされることとなる。
【0059】
そして、脱血開始後において、校正工程(S3)にて校正がなされた荷重センサ18及び算出部25により流量比又は脱血圧が算出され(S5)、その流量比又は脱血圧がモニタ等に表示されて監視されることとなる。その後、S6にて、静脈圧が安定する時間経過後(例えば1分後)の静脈圧に対して、所定値を減算した値を基準点として設定する。
【0060】
S6にて基準点が設定され、S7に進み、S5にて算出された流量比又は脱血圧が予め設定された設定値を超えたか否かが判定されるとともに、設定値を超えて低下した場合は、S8に移行して静脈圧がS6で設定された基準点以下か否か判定される。なお、S7にて設定値を超えて低下しない場合、S8~S11は行われず、治療が継続されることとなる。S8にて静脈圧が基準点以下でないと判断されると、判断部28により第1の検出部の検出値が適切でないと判断されてS9に進み、報知部29による所定の報知(第1の検出部の検出値が適切でない旨又はその示唆の報知)を行わせる。
【0061】
その後、S11にて補正処理が行われ、初期校正で取得した検量線Dを補正して補正後の検量線Eを取得するとともに、以後の透析治療においては、かかる補正後の検量線Eが用いられることとなる。また、S8にて静脈圧が基準点以下であると判断されると、判断部28により第1の検出部の検出値が適切であると判断されてS10に進み、報知部29による所定の報知(第1の検出部の検出値に基づいた警報の報知)を行わせる。なお、S10における報知が行われると、報知の原因を除去(例えば血液回路の折れ曲がりの解消)が行われた後、治療が継続されることとなる。報知の原因が除去された後、静脈圧基準点をリセットするようにしてもよい。
【0062】
そして、S11の補正処理又はS10の報知が行われた後、S12に移行し、透析治療が終了したか否かが判定され、透析治療が終了していないと判定されると、S5に戻り、補正後の検量線Eを用いた流量比又は脱血圧の監視が引き続き行われる。一方、S12にて透析治療が終了したと判定されると、返血工程S13(血液回路内の血液を患者の体内に戻す工程)を経てダイアライザ3の液抜きを行う排液工程S14が行われ、一連の制御が終了することとなる。上記一連の工程を経ることにより、透析治療(血液浄化治療)において、透析治療中に流量比又は脱血圧をリアルタイムで検出することができ、流量比又は脱血状態を監視することができる。
【0063】
次に、本実施形態に係る血液浄化装置の実験結果について、図16、17のグラフに基づいて説明する。
血液ポンプ4の駆動速度(送液量)R1を一定に設定するとともに、荷重センサ18及び算出部25で算出された推定血流量R2、静脈圧R3並びに透析液圧R4をそれぞれ監視したところ、荷重センサ18及び算出部25で算出された推定血流量Rが適正でない場合、図16に示すように、推定血流量R2及び荷重センサ18の出力電圧が低下する一方、静脈圧R3及び透析液圧R4が低下せず一定とされる。
【0064】
また、荷重センサ18及び算出部25で算出された推定血流量Rが適正である場合、図17に示すように、推定血流量R2及び荷重センサ18の出力電圧が低下するのに伴い静脈圧R3及び透析液圧R4が変化(低下)する。したがって、第1の検出部(荷重センサ18及び算出部25)の検出値(推定血流量や推定脱血圧)が所定の閾値を超えて変化するのに伴って第2の検出部(本実験の場合、静脈圧センサ7及び透析液圧センサ20)で検出された圧力が変化した場合、第1の検出部の検出値が適切であると判断できるとともに、第1の検出部の検出値が所定の閾値を超えて変化するのに伴って第2の検出部で検出された圧力が変化しない場合、第1の検出部の検出値が適切でないと判断することができる。
【0065】
なお、第2の検出部を入口圧センサ8とした場合も、静脈圧センサ7及び透析液圧センサ20と同様の傾向を示すことから、第1の検出部(荷重センサ18及び算出部25)の検出値(推定血流量や推定脱血圧)が所定の閾値を超えて変化するのに伴って第2の検出部としての入口圧センサ8で検出された圧力が変化した場合、第1の検出部の検出値が適切であると判断できるとともに、第1の検出部の検出値が所定の閾値を超えて変化するのに伴って入口圧センサ8で検出された圧力が変化しない場合、第1の検出部の検出値が適切でないと判断することができる。
【0066】
本実施形態によれば、第1の検出部の検出値が所定の閾値を超えて変化したとき、第2の検出部で検出された圧力の変化と比較し、第1の検出部の検出値の適否を判断するので、血液浄化治療の経過に伴って検出位置の可撓性チューブの反力(弾力により生じる反発力)が低下して誤検出したのか否か判別することができ、第1の検出部の検出値が変化した際の対応を円滑に行わせることができる。
【0067】
また、血液ポンプ4は、血液回路の被しごき部(被しごきチューブ1a)をしごき部(ローラ10)によって径方向に圧縮しつつ長手方向にしごいて送液するしごき型ポンプから成り、第1の検出部は、しごき部でしごかれる部位より上流側(動脈側血液回路1の先端側)の検出位置において径方向の変位を検出するので、設定血流量に対する実血流量の不足や脱血圧の不足を精度よく推定することができる。
【0068】
さらに、血液回路は、患者から脱血する動脈側血液回路1及び患者に返血する静脈側血液回路2を有して構成されるとともに、第2の検出部は、動脈側血液回路1に配設されてダイアライザ3の入口圧を検出する入口圧センサ8、静脈側血液回路2に配設されて静脈圧を検出する静脈圧センサ7、又は排液排出ラインL2の透析液の液圧を検出する透析液圧センサ20から成るので、血液浄化治療に必要なセンサを流用して第2の検出部として用いることができる。
【0069】
またさらに、判断部28は、第1の検出部の検出値が所定の閾値を超えて変化するのに伴って第2の検出部で検出された圧力が変化した場合、第1の検出部の検出値が適切であると判断するとともに、第1の検出部の検出値が所定の閾値を超えて変化するのに伴って第2の検出部で検出された圧力が変化しない場合、第1の検出部の検出値が適切でないと判断するので、第1の検出部の検出値の適否を精度よく且つ迅速に判断することができる。
【0070】
加えて、判断部28により第1の検出部の検出値が適切であると判断された場合、第1の検出部の検出値に基づいた警報を報知するとともに、判断部28により第1の検出部の検出値が適切でないと判断された場合、第1の検出部の検出値が適切でない旨又はその示唆を報知する報知部29を具備したので、誤検出の可能性が高い場合、その旨及び示唆を報知することができ、第1の検出部の検出値が変化した際の対応をより迅速に行わせることができる。
【0071】
また、血液回路にて血液を体外循環させて血液浄化治療を行う前に、第1の検出部を初期校正して検量線Dを得るとともに、判断部28により第1の検出部の検出値が適切でないと判断された場合、初期校正で得られた検量線Dを補正するので、検量線Dの補正後における第1の検出部による検出を精度よく行わせることができる。特に、血液ポンプ4の駆動量を低下又は停止させたときの第1の検出部の検出値に基づいて検量線Dを補正するので、血液浄化治療中において血液回路に過度な陰圧を発生させてしまうのを回避することができる。
【0072】
なお、血液ポンプ4は、当該血液ポンプ4に取り付けられた被しごきチューブ1aを把持するための把持部(上流側把持部12及び下流側把持部13)を具備するとともに、第1の検出部としての荷重センサ18は、上流側把持部12で把持された部位の径方向の変位を検出可能とされたので、血液ポンプ4に対して被しごきチューブ1aを取り付けて上流側把持部12にて把持させることにより検出装置に対する被しごきチューブ1aの取り付けがなされることとなり、医療従事者等による作業負担を低下させることができる。
【0073】
さらに、上流側把持部12は、被しごきチューブ1aを径方向に押圧して把持し得る把持片14と、該把持片14を被しごきチューブ1a側に付勢するねじりバネ15とを有するとともに、第1の検出部としての荷重センサ18は、当該ねじりバネ15の固定端15a側に付与される荷重を検出し、当該検出された荷重に基づいて被しごきチューブ1aの径方向の変位を検出するので、血液ポンプ4におけるねじりバネ15が被しごきチューブ1aに対する把持力を生じさせる機能と、動脈側血液回路1の圧力を検出する機能とを兼ね備えることができる。
【0074】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば図18、19に示す血液ポンプ4を用いてもよい。かかる血液ポンプ4は、同図に示すように、ステータ8と、当該ステータ8内で回転駆動可能なロータ9と、該ロータ9に形成されたローラ10と、上下一対のガイドピン11と、上流側把持部12と、下流側把持部13と、第1の検出部としての圧力トランスデューサ30とから主に構成されている。
【0075】
上流側把持部12は、血液ポンプ4におけるステータ8の取付凹部Gaに取り付けられた被しごきチューブ1aのうち上流側(動脈側血液回路1の先端側が接続される部位)を把持するためのもので、図19に示すように、被しごきチューブ1aを径方向に押圧して把持し得る把持片14と、該把持片14を被しごきチューブ1a側に付勢するねじりバネ15とを有する。
【0076】
第1の検出部を構成する圧力トランスデューサ30は、被しごきチューブ1aにおける上流側把持部12で把持された部位の径方向の変位を検出可能なもので、本実施形態においては、被しごきチューブ1aを挟んで把持片14と対向した部位に配設され、当該把持片14にて押圧された被しごきチューブ1aの側面に付与される圧力を検出し、当該検出された圧力に基づいて被しごきチューブ1aの径方向の変位を検出するものとされている。
【0077】
すなわち、患者から血液を採取して動脈側血液回路1にて流動させる際、当該動脈側血液回路1の先端と血液ポンプ4との間で陰圧が生じると、被しごきチューブ1a内の液圧が低下し、当該被しごきチューブ1aにおける上流側把持部12で把持された部位が径方向に変位しようとする(扁平に変形して短軸側の径が小さくなろうとする)ので、圧力トランスデューサ30により検出される圧力が低下することとなる。かかる圧力の低下を検出することにより、動脈側血液回路1に陰圧が生じていることを検出することができるのである。
【0078】
本実施形態に係る圧力トランスデューサ30は、先の実施形態と同様、配線等が延設されて算出部25と電気的に接続されている。算出部25は、算出部25と共に第1の検出部を構成するとともに、例えば透析装置本体に配設されたマイコン等から成るもので、圧力トランスデューサ30で検出された被しごきチューブ1aの径方向の変位に基づいて、動脈側血液回路1(液体流路)の圧力や流量比を算出し得るよう構成されている。
【0079】
そして、検量線作成部27にて取得された検量線Dにより、圧力トランスデューサ30及び算出部25を校正し得るよう構成されている。なお、血液ポンプ4に取り付けられた荷重センサ18及び圧力トランスデューサ30に代えて、他の形態のセンサとしてもよく、血液ポンプ4とは別個の位置に取り付けられたセンサであってもよい。
【0080】
また、第2の検出部は、静脈圧センサ7、入口圧センサ8及び透析液圧センサ20に限定されるものではなく、第1の検出部の検出値の変化に応じて検出値が変化する他の圧力センサであってもよい。なお、第2の検出部は、血液回路における検出位置より下流側の液体及び配管部における透析液のいずれかの流量又は圧力を検出するものであれば足りる。さらに、他の形態の血液回路(ダイアライザ3に代えて他の形態の血液浄化器としたもの含む)及び透析装置本体(複式ポンプ21に代えてチャンバ方式等のものを含む)に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明と同様の趣旨であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 動脈側血液回路(液体流路)
1a 被しごきチューブ(被しごき部)
2 静脈側血液回路
3 ダイアライザ(血液浄化器)
4 血液ポンプ
5 動脈側エアトラップチャンバ
6 静脈側エアトラップチャンバ
7 静脈圧センサ
8 入口圧センサ
9 ロータ
10 ローラ(しごき部)
11 ガイドピン
12 上流側把持部
13 下流側把持部
14 把持片
15 ねじりバネ
16 把持片
17 ねじりバネ
18 荷重センサ(第1の検出部)
19 採取ポート
20 透析液圧センサ
21 複式ポンプ
22 除水ポンプ
23 濾過フィルタ
24 濾過フィルタ
25 算出部(第1の検出部)
26 制御部
27 検量線取得部
28 判断部
29 報知部
30 圧力トランスデユーサ
L1 透析液導入ライン(配管部)
L2 排液排出ライン(配管部)
L3 透析液供給ライン
L4 オーバーフローライン
L5~L8 バイパスライン
G ステータ
Ga 取付凹部
V1~V9 電磁弁
D 検量線(初期校正時)
E 検量線(補正後)
図1
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