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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20241125BHJP
   A61M 1/22 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
A61M1/16 111
A61M1/16 115
A61M1/22 505
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021031940
(22)【出願日】2021-03-01
(65)【公開番号】P2022133083
(43)【公開日】2022-09-13
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】吉永 一貴
(72)【発明者】
【氏名】秋田 邦彦
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-188170(JP,A)
【文献】特開2012-192102(JP,A)
【文献】国際公開第2006/106916(WO,A1)
【文献】特開2015-136513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
A61M 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の浄化膜を介して血液流路及び透析液流路が形成された積層型の血液浄化器、及び血液回路を通じて患者の血液を体外循環させ、前記血液を浄化する血液浄化装置であって、
前記血液浄化器に透析液を導入する透析液導入ライン、及び前記血液浄化器から排液を排出する排液排出ラインを有する配管部と、
前記血液回路及び配管部の一方に配設され、流路において圧力変化を付与する圧力変化付与部と、
前記血液回路及び配管部の他方に配設され、前記圧力変化付与部で付与された前記圧力変化を検知する圧力変化検知部と、
前記血液浄化器の透析液流路に透析液を流通させた状態として前記圧力変化付与部による圧力変化を付与する圧力変化付与工程を実行する制御部と、
前記圧力変化付与工程が行われている過程において、前記圧力変化検知部による前記圧力変化の検知結果に応じて前記血液浄化器における前記血液流路の閉塞状態を判定する判定部と、
を具備し、前記制御部は、プライミング工程が行われる前において、血液浄化装置に取り付けられた前記血液浄化器が積層型である場合に限り、前記圧力変化付与工程を実行する血液浄化装置。
【請求項2】
前記圧力変化付与部は、前記血液回路及び配管部の一方に配設された送液ポンプから成るとともに、前記圧力変化検知部は、前記血液回路及び配管部の他方に配設された圧力センサから成る請求項1記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記圧力変化付与部は、前記透析液導入ライン及び排液排出ラインに跨がって配設された複式ポンプから成るとともに、前記圧力変化検知部は、前記血液回路の静脈側血液回路に配設された静脈圧センサ又は動脈側血液回路の入口圧センサから成る請求項2記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記圧力変化付与部は、前記血液回路の動脈側血液回路に配設された血液ポンプから成るとともに、前記圧力変化検知部は、前記透析液導入ライン及び排液排出ラインに配設された透析液圧センサから成ることを特徴とする請求項2記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記圧力変化付与工程時、前記制御部は、前記血液浄化器における前記血液流路に送液するとともに、前記判定部により前記血液浄化器の前記血液流路の閉塞状態が解消されたと判定された場合、前記圧力変化付与工程を終了させる請求項1~4の何れか1つに記載の血液浄化装置。
【請求項6】
前記圧力変化付与工程時、前記判定部により前記血液浄化器の前記血液流路が閉塞されていると判定された場合、前記制御部は、前記血液流路を拡張させる開放動作を行わせる請求項1~4の何れか1つに記載の血液浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の血液を浄化して血液浄化治療を施すための血液浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透析治療などで用いられる血液浄化装置としての透析装置は、通常、患者から血液を採取する動脈側穿刺針が先端に取り付けられた動脈側血液回路と、患者に血液を戻す静脈側穿刺針が先端に取り付けられた静脈側血液回路とを有するとともに、これら動脈側血液回路と静脈側血液回路との間に血液浄化器としてのダイアライザを介在して接続させるようになっている。そして、動脈側血液回路及び静脈側血液回路にて患者の血液を体外循環させつつダイアライザにて透析治療(血液浄化治療)を行わせることができる。
【0003】
ところで、血液浄化器としてのダイアライザは、中空糸を用いた中空糸型の血液浄化器の他、所謂積層型と称される積層型の血液浄化器がある。この積層型のダイアライザは、例えば特許文献1にて開示されているように、血液浄化を施すためのシート状の血液浄化膜を内在するとともに当該血液浄化膜を介して血液が流通する血液流路と透析液が流通する透析液流路とが形成され、血液流路内を流れる流体の液圧に応じて当該血液流路が拡張又は縮小し得るものとされている。このような積層型のダイアライザを用いれば、血液流路が液圧に応じて拡張及び収縮するので、治療中において患者の血圧を下がりにくくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-273693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、積層型の血液浄化器は、血液浄化装置に取り付けられた後、長時間経過すると、透析液流路側の圧力や血液流路側の液体の自重等によって血液流路が閉塞してしまうことがあり、その場合、プライミングや脱血開始前のテスト(例えば、オーバーフローラインの閉止を確認するテスト)等を円滑に行うことができない虞があるという課題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、積層型の血液浄化器における血液流路の閉塞状態を把握することができる血液浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一実施形態の血液浄化装置は、シート状の浄化膜を介して血液流路及び透析液流路が形成された積層型の血液浄化器、及び血液回路を通じて患者の血液を体外循環させ、前記血液を浄化する血液浄化装置であって、前記血液浄化器に透析液を導入する透析液導入ライン、及び前記血液浄化器から排液を排出する排液排出ラインを有する配管部と、前記血液回路及び配管部の一方に配設され、流路において圧力変化を付与する圧力変化付与部と、前記血液回路及び配管部の他方に配設され、前記圧力変化付与部で付与された前記圧力変化を検知する圧力変化検知部と、前記血液浄化器の透析液流路に透析液を流通させた状態として前記圧力変化付与部による圧力変化を付与する圧力変化付与工程を実行する制御部と、前記圧力変化付与工程が行われている過程において、前記圧力変化検知部による前記圧力変化の検知結果に応じて前記血液浄化器における前記血液流路の閉塞状態を判定する判定部とを具備し、前記制御部は、プライミング工程が行われる前において、血液浄化装置に取り付けられた前記血液浄化器が積層型である場合に限り、前記圧力変化付与工程を実行するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、圧力変化付与工程が行われている過程において、圧力変化検知部による圧力変化の検知結果に応じて血液浄化器における血液流路の閉塞状態を判定するので、積層型の血液浄化器における血液流路の閉塞状態を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る血液浄化装置を示す模式図
図2】同血液浄化装置の制御内容を示すフローチャート
図3】同血液浄化装置の制御内容を示すフローチャート
図4】同血液浄化装置を示す模式図
図5】同血液浄化装置に適用される積層型の血液浄化器を示す模式図
図6】同積層型の血液浄化器の作用を説明するための模式図
図7】本発明の他の実施形態に係る血液浄化装置の制御内容を示すフローチャート
図8】本発明の実験結果を示すグラフ
図9】本発明の実験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る血液浄化装置は、体外循環する患者の血液を浄化して透析治療(血液浄化治療)する血液透析装置1に適用されたもので、図1に示すように、動脈側血液回路2a及び静脈側血液回路2bを有する血液回路2と、積層型の血液浄化器としてのダイアライザ3と、透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2等の配管を有する配管部Dと、制御部11と、判定部12と、入力部13とを有して構成されている。
【0011】
動脈側血液回路2aは、その先端にコネクタcが接続されており、当該コネクタcを介して動脈側穿刺針aが接続可能とされるとともに、途中にしごき型の血液ポンプ4及び動脈側エアトラップチャンバ5が配設されている。一方、静脈側血液回路2bは、その先端にコネクタdが接続されており、当該コネクタdを介して静脈側穿刺針bが接続可能とされるとともに、途中に静脈側エアトラップチャンバ6が接続されている。
【0012】
静脈側エアトラップチャンバ6には、静脈側血液回路2b内の液圧に基づいて静脈圧を検出可能な静脈圧センサP1が接続されており、かかる静脈圧センサP1にて体外循環する血液の液圧(静脈圧)を検出し得るよう構成されている。これにより、血液回路2にて体外循環する血液の静脈圧を監視し、治療中における患者の容態変化を把握し得るようになっている。
【0013】
また、動脈側エアトラップチャンバ5には、動脈側血液回路2a内の液圧に基づいてダイアライザ3に対する入口圧を検出可能な入口圧センサP2が接続されており、かかる入口圧センサP2、静脈圧センサP1及び透析液圧センサP3の検出値に基づいてダイアライザ差圧及び膜間圧力差(TMP)を検出可能とされている。
【0014】
ダイアライザ3(積層型の血液浄化器)は、血液浄化治療を施すためのシート状の血液浄化膜を内在するとともに当該血液浄化膜を介して血液が流通する血液流路と透析液が流通する透析液流路とが形成され、血液流路内を流れる流体の液圧に応じて血液流路が拡張又は縮小し得るものである。具体的には、ダイアライザ3は、図5に示すように、筐体F内に複数層の固定板3aが形成され、その固定板3aの間にシート状の血液浄化膜3b(濾過膜)を挟んで配設させるとともに、当該血液浄化膜3bの間を血液が流れる血液流路αとし、血液浄化膜3bと固定板3aとの間を透析液が流れる透析液流路βとしたものである。
【0015】
また、ダイアライザ3は、積層された複数のシート状の血液浄化膜3b(濾過膜)を有して成るものとされ、血液流路α内において通常の液圧で液体(プライミング液や血液等)が流通する場合(図6(a)参照)、高い液圧で液体が流通する場合(同図(b)参照)、及び低い液圧で液体が流通する場合(同図(c)参照)とで血液浄化膜3b間の流路容積が異なるよう構成されている。このようなダイアライザ1を用いれば、血液流路αが液圧に応じて拡張及び収縮するので、治療中において患者の血圧を下がりにくくすることができる。
【0016】
さらに、ダイアライザ1は、その筐体Fにおいて、血液を血液流路αに導入する血液導入口及び血液流路αから血液を導出する血液導出口が形成されるとともに、透析液を透析液流路βに導入する透析液導入口及び透析液流路βから排液を排出する透析液排出口が形成されており、血液浄化膜3bを介して血液流路αの血液と透析液流路βの透析液とを接触させて血液を浄化し得るようになっている。
【0017】
そして、動脈側血液回路2aの先端に接続された動脈側穿刺針a及び静脈側血液回路2bの先端に接続された静脈側穿刺針bを患者に穿刺した状態で、血液ポンプ4を駆動させると、患者の血液は、動脈側エアトラップチャンバ5で除泡(気泡の除去)がなされつつ動脈側血液回路2aを通ってダイアライザ3に至り、当該ダイアライザ3によって血液浄化治療が施された後、静脈側エアトラップチャンバ6で除泡(気泡の除去)がなされつつ静脈側血液回路2bを通って患者の体内に戻るようになっている。これにより、患者の血液を血液回路2の動脈側血液回路2aの先端から静脈側血液回路2bの先端まで体外循環させつつダイアライザ3にて浄化することができる。
【0018】
また、動脈側血液回路2aにおける血液ポンプ4の配設位置より上流側(動脈側血液回路2aの先端側)には、電磁弁Vcにて流路が開閉可能とされた供給ラインLaが接続されており、当該供給ラインLaの先端には、所定量の生理食塩液(プライミング液)を収容した収容バッグCが接続されている。そして、プライミング工程において、電磁弁Vcを開状態とすることにより、収容バッグC内の生理食塩液を血液回路2内に供給し得るようになっている。
【0019】
さらに、静脈側エアトラップチャンバ6の上部には、液体又は気体を配管部D側に排出させ得るオーバーフローラインLbが接続されており、プライミング工程時に供給された生理食塩液等のプライミング液をオーバーフローラインLbを介して配管部Dまで排出可能とされている。なお、動脈側血液回路2aの先端部(コネクタc近傍)及び静脈側血液回路2bの先端部(コネクタd近傍)には、開閉によって流路を閉塞又は開放可能なクランプ手段Va、Vbがそれぞれ取り付けられている。
【0020】
一方、配管部Dは、ダイアライザ3に透析液を導入する透析液導入ラインL1、及びダイアライザ3から排液を排出する排液排出ラインL2を有した透析装置本体から成る。透析液導入ラインL1及び排液排出ラインL2には、所定濃度に調製された透析液をダイアライザ3に送液しつつ、当該ダイアライザ3から透析液と共に老廃物等(排液)を排出させる複式ポンプ7が接続されている。すなわち、透析液導入ラインL1及び排液排出ラインL2に跨って複式ポンプ7が配設されており、かかる複式ポンプ7を駆動させることにより、ダイアライザ3に対して透析液導入ラインL1から透析液を導入及び排液排出ラインL2から透析液(排液)を排出させ得るよう構成されているのである。
【0021】
また、透析液導入ラインL1には、電磁弁V1、V3、V11及び濾過フィルタF1、F2が接続されており、ダイアライザ3に導入する透析液を濾過フィルタF1、F2にて濾過し得るとともに、電磁弁V1、V3、V11にて任意タイミングで流路を遮断又は開放可能とされている。なお、透析液導入ラインL1は、バイパスラインL4、L5、L8にて排液排出ラインL2と接続されており、これらバイパスラインL4、L5、L8には、電磁弁V4、V5、V8がそれぞれ接続されている。
【0022】
さらに、排液排出ラインL2には、複式ポンプ7を迂回する迂回ラインL3、L6が接続されており、迂回ラインL6には電磁弁V6が接続されるとともに、迂回ラインL3には除水ポンプ8が接続されている。これにより、血液回路2にて患者の血液を体外循環させる過程で除水ポンプ8を駆動させることにより、ダイアライザ3の血液流路αを流れる血液から水分を取り除いて除水し得るようになっている。
【0023】
また、排液排出ラインL2における複式ポンプ7より上流側(図1中右側)には、当該複式ポンプ7における排液排出ラインL2の液圧調整を行う加圧ポンプ9が接続されており、当該加圧ポンプ9と複式ポンプ7との間からは、脱ガスチャンバ10を介して迂回ラインL7が延設されている。そして、排液排出ラインL2及びそこから分岐する迂回ラインL7には、電磁弁V2、V12、V7がそれぞれ接続されており、任意タイミングで透析液の流路を遮断又は開放可能とされている。
【0024】
さらに、迂回ラインL7とバイパスラインL8との間には、接続ラインL9が接続されており、その接続ラインL9には、静脈側エアトラップチャンバ6から延設されたオーバーフローラインLbの先端が接続されている。なお、接続ラインL9におけるオーバーフローラインLbの接続部より上流側及び下流側には、それぞれ電磁弁V10、V9が接続されており、任意タイミングで流路を遮断又は開放可能とされている。またさらに、排液排出ラインL2における電磁弁V2より下流側(バイパスラインL5の接続位置より上流側)には、透析液圧センサP3が接続されており、排液の液圧を検出し得るようになっている。
【0025】
ここで、本実施形態に係る血液浄化装置1は、血液回路2及び配管部Dの一方に配設され、流路において圧力変化を付与する圧力変化付与部と、血液回路2及び配管部Dの他方に配設され、圧力変化付与部で付与された圧力変化を検知する圧力変化検知部とを具備している。より具体的には、本実施形態に係る圧力変化付与部は、透析液導入ラインL1及び排液排出ラインL2に跨がって配設された複式ポンプ7から成るとともに、圧力変化検知部は、血液回路2の静脈側血液回路2bに配設された静脈圧センサP1から成る。
【0026】
制御部11は、血液浄化装置1に配設された複式ポンプ7、除水ポンプ8及び電磁弁(Va~Vc、V1~V12)等を制御し得るマイコン(プログラムに沿った動作又は演算を行わせる半導体チップ)等から成るもので、本実施形態においては、ダイアライザ3の透析液流路βに透析液を流通させた状態として複式ポンプ7(圧力変化付与部)による圧力変化を付与する圧力変化付与工程を実行するよう構成されている。
【0027】
本実施形態に係る圧力変化付与工程は、図4に示すように、血液回路2側の電磁弁Va、Vbを閉状態、且つ、電磁弁Vcを開状態とするとともに、配管部D側の電磁弁V4、V5、V7~V10を閉状態、且つ、電磁弁V1~V3、V6、V11、V12を開状態として行われる。そして、複式ポンプ7を駆動させてダイアライザ3の透析液流路βに透析液を流通させた状態とするとともに、血液ポンプ4を駆動させて収容バッグC内の生理食塩液を血液回路2に導入することによりダイアライザ3における血液流路αに送液して圧力変化付与工程が行われる。
【0028】
判定部12は、血液浄化装置1に配設されたマイコン(プログラムに沿った動作又は演算を行わせる半導体チップ)等から成るもので、圧力変化付与工程が行われている過程において、静脈圧センサP1による圧力変化の検知結果(本実施形態においては検知の有無)に応じてダイアライザ3における血液流路αの閉塞状態を判定するものである。すなわち、圧力変化付与工程において、複式ポンプ7の駆動により圧力変化(脈動に伴う圧力変化)が付与されると、ダイアライザ3における血液流路αが閉塞している場合、付与された圧力変動を静脈圧センサP1にて検知しないので、判定部12は、血液流路αが閉塞していると判定する。一方、圧力変化付与工程において、複式ポンプ7の駆動により圧力変化が付与されると、ダイアライザ3における血液流路αが閉塞していない場合、付与された圧力変動を静脈圧センサP1にて検知するので、判定部12は、血液流路αが閉塞していないと判定する。
【0029】
また、本実施形態においては、圧力変化付与工程時、制御部11は、血液ポンプ4を駆動させることによりダイアライザ3における血液流路αに生理食塩液を送液するとともに、判定部12によりダイアライザ3の血液流路αの閉塞状態が解消されたと判定された場合、圧力変化付与工程を終了させるようになっている。具体的には、静脈圧センサP1が複式ポンプ7の駆動に伴う圧力変化を検知しない間、圧力変化付与工程が継続して行われるとともに、静脈圧センサP1が複式ポンプ7の駆動に伴う圧力変化を検知した時点で圧力変化付与工程を終了させるよう制御される。
【0030】
入力部13は、血液浄化治療の条件等を予め入力し得るもので、例えばタッチパネル等にて構成される。かかる入力部13により、血液浄化装置1に取り付けられた血液浄化器の種類(例えば、中空糸を血液浄化膜とした中空糸型の血液浄化器、或いは既述の積層型の血液浄化器等)を医療従事者等が入力可能とされている。
【0031】
次に、本実施形態に係る血液浄化装置1による制御内容について、図2、3のフローチャートに基づいて説明する。
先ず、積層型のダイアライザ3が取り付けられた後、プライミング工程が行われる前において、圧力変化付与工程S1が行われる。かかる圧力変化付与工程S1は、図3に示すように、血液浄化装置1に取り付けられたダイアライザ(入力部13にて入力されたダイアライザの種類)が中空糸型の血液浄化器であるか否か判断され(Sa1)、中空糸型の血液浄化器である場合、Sa2~Sa4をスキップして次工程へ進む。
【0032】
Sa1にて中空糸型の血液浄化器でないと判断された場合、血液浄化装置1に取り付けられたダイアライザ(入力部13にて入力されたダイアライザの種類)が積層型の血液浄化器であるか否か判断され(Sa2)、積層型の血液浄化器でない場合、Sa3、Sa4をスキップして次工程へ進む。一方、血液浄化装置1に取り付けられたダイアライザ(入力部13にて入力されたダイアライザの種類)が積層型の血液浄化器である場合、Sa3に進み、図1で示す状態(血液ポンプが動作していない状態)で複式ポンプ7を駆動させることにより圧力変化を付与し、閉塞状態の有無を確認する。
【0033】
このとき、複式ポンプ7の駆動に伴う圧力変化(脈動による圧力変化)を静脈圧センサP1が検知したか否かが判定される(Sa4)。そして、静脈圧センサP1にて圧力変化が検知された場合、ダイアライザ3の血液流路αの閉塞状態がないと判断するとともに、静脈圧センサP1にて圧力変化が検知されない場合、ダイアライザ3の血液流路αの閉塞状態があると判断し、圧力変化付与工程を終了して次工程へ進む。
【0034】
その後、図2に示すように、プライミング工程S2が行われる。かかるプライミング工程においては、収容バッグCの生理食塩液を血液回路2に充填させるとともに、電磁弁V9が開状態とされており、静脈側エアトラップチャンバ6をオーバーフローした生理食塩液がオーバーフローラインLbを介して配管部Dの排液排出ラインL2に流動して排出され得るようになっている。このプライミング工程S2においては、圧力変化付与工程S1にてダイアライザ3の血液流路αの閉塞状態がないと判断された場合、当該閉塞状態の解消のための動作が不要となり、生理食塩液の使用量を抑制することができる。
【0035】
そして、プライミング工程S2が終了した後、S3にて入力部13を構成する脱血キーが操作されたか否か判定され、操作された場合、S4にてプライミング工程S2が終了してから脱血キーが操作されるまで所定時間経過したか否かが判断される。S4にて所定時間経過したと判断された場合、S5にて、圧力変化付与工程が行われるとともに、所定時間経過していないと判断された場合、S5をスキップしてS6に進む。S5における圧力変化付与工程は、後述する他の実施形態のように、血液流路αの閉塞状態を解消するための動作を行うようにしてもよい。
【0036】
S6においては、オーバーフローラインテスト工程が行われる。かかるオーバーフローラインテスト工程は、オーバーフローラインLbの流路が鉗子等のクランプmにて閉止されているか否かテストする工程であり、例えば図4に示す状態において、血液ポンプ4を駆動することにより行われる。そして、静脈圧センサP1で検出される圧力が上昇する場合、クランプmによる閉止が確実に行われていると判断することができ、静脈圧センサP1で検出される圧力が上昇しない場合、クランプmによる閉止が行われていない或いは閉止が不十分であると判断することができる。このように、オーバーフローラインテスト工程S6が終了した後、S7にて脱血が開始されて血液浄化治療が行われることとなる。
【0037】
本実施形態によれば、圧力変化付与工程(S1、S5)(但し、S1は閉塞の検知のみを行い、S5は閉塞の検知に加えその閉塞の解消動作を行うものであり、動作が異なる)が行われている過程において、静脈圧センサP1による圧力変化の検知の有無に応じてダイアライザ3における血液流路αの閉塞状態を判定するので、積層型の血液浄化器における血液流路αの閉塞状態を把握することができる。また、圧力変化付与部は、透析液導入ラインL1及び排液排出ラインL2に跨がって配設された複式ポンプ7から成るとともに、圧力変化検知部は、血液回路2の静脈側血液回路2bに配設された静脈圧センサP1から成るので、血液浄化治療に必要とされる構成部品を流用して血液流路αの閉塞状態を判定することができる。
【0038】
さらに、本実施形態においては、圧力変化付与工程時、制御部11は、ダイアライザ3における血液流路αに送液するとともに、判定部12によりダイアライザ3の血液流路αの閉塞状態が解消されたと判定された場合、圧力変化付与工程を終了させるので、閉塞状態の確認に加え、閉塞状態の解消を圧力変化付与工程時に行わせることができる。また、制御部11は、ダイアライザ3が積層型である場合に限り、圧力変化付与工程を実行するので、血液流路が閉塞しない他の形態のダイアライザにおいて圧力変化付与工程が行われてしまうのを回避することができる。
【0039】
しかるに、本実施形態においては、圧力変化付与部として配管部Dに配設された複式ポンプ7が用いられるとともに、圧力変化検知部として血液回路2に配設された静脈圧センサP1が用いられているが、圧力変化付与部として血液回路2及び配管部Dの一方に配設されて圧力変化を付与する他の構成部品を用いるとともに、圧力変化検知部として血液回路2及び配管部Dの他方に配設され、圧力変化付与部で付与された圧力変化を検知する他の構成部品を用いるようにしてもよい。
【0040】
圧力変化付与部は、血液回路2及び配管部Dの一方に配設された送液ポンプから成るとともに、圧力変化検知部は、血液回路2及び配管部Dの他方に配設された圧力センサから成るものとすることができる。具体的には、圧力変化付与部は、配管部2に配設された複式ポンプ7及び加圧ポンプ9の他、血液回路2に配設された血液ポンプ4を用いることができるとともに、圧力変化検知部は、血液回路2に配設された静脈圧センサP1の他、入口圧センサP2及び配管部Dに配設された透析液圧センサP3を用いることができる。
【0041】
すなわち、圧力変化付与部として血液回路2の動脈側血液回路2aに配設された血液ポンプ4を用いることができ、その場合、圧力変化検知部として排液排出ラインL2に配設された透析液圧センサP3を用いることができるのである。なお、透析液圧センサP3の他、透析液導入ラインL1に配設された液圧センサを圧力変化検知部として用いるようにしてもよい。
【0042】
次に、他の実施形態に係る血液浄化装置1による圧力変化付与工程の制御内容について、図7のフローチャートに基づいて説明する。なお、制御全般については、先の実施形態における図2の制御内容と同様である。
血液浄化装置1に取り付けられたダイアライザ(入力部13にて入力されたダイアライザの種類)が中空糸型の血液浄化器であるか否か判断され(Sb1)、中空糸型の血液浄化器である場合、Sb2~Sb6をスキップして次工程へ進む。
【0043】
Sb1にて中空糸型の血液浄化器でないと判断された場合、血液浄化装置1に取り付けられたダイアライザ(入力部13にて入力されたダイアライザの種類)が積層型の血液浄化器であるか否か判断され(Sb2)、積層型の血液浄化器でない場合、Sb3~Sb6をスキップして次工程へ進む。一方、血液浄化装置1に取り付けられたダイアライザ(入力部13にて入力されたダイアライザの種類)が積層型の血液浄化器である場合、Sb3に進み、図4で示す状態として複式ポンプ7を駆動させることにより圧力変化を付与する。
【0044】
このとき、判定部12によって、複式ポンプ7の駆動に伴う圧力変化(脈動による圧力変化)を静脈圧センサP1が検知したか否かが判定される(Sb4)。そして、静脈圧センサP1にて圧力変化が検知された場合、ダイアライザ3の血液流路αの閉塞状態がないと判断し、Sb5にて開放動作が不要であることを示すフラグを立てるとともに、静脈圧センサP1にて圧力変化が検知されない場合、ダイアライザ3の血液流路αの閉塞状態があると判断し、Sb6にて開放動作が必要であることを示すフラグを立てる。
【0045】
このように、フラグを立てた後、圧力変化付与工程が終了するとともに、開放動作が不要であるフラグを有する場合、その後のプライミング工程S2やオーバーフローラインテスト工程S6において開放動作を行わせないようにする。一方、開放動作が必要であるフラグを有する場合、その後のプライミング工程S2やオーバーフローラインテスト工程S6において、開放動作を行わせる。この開放動作は、ダイアライザ3の血液流路αを開放させるための動作であり、例えば除水ポンプ8を駆動させてシート状の血液浄化膜3bを透析液流路β側に引っ張って拡張する動作とすることができる。
【0046】
本実施形態によれば、圧力変化付与工程時、判定部12によりダイアライザ3の血液流路αが閉塞されていると判定された場合、制御部11は、血液流路αを拡張させる開放動作を行わせるので、血液流路αが閉塞状態であると判定された場合、任意のタイミングでその閉塞状態を解消することができる。また、制御部11は、ダイアライザ3が積層型である場合に限り、圧力変化付与工程を実行するので、血液流路が閉塞しない他の形態のダイアライザにおいて圧力変化付与工程が行われてしまうのを回避することができる。
【0047】
次に、本発明の技術的優位性を示す実験について、図8、9のグラフに基づいて説明する。
図4の状態における血液浄化装置1において、複式ポンプ7及び血液ポンプ4を駆動させるとともに、静脈圧センサP1及び透析液圧センサP3による検出値を時間経過に伴ってプロットしたところ、図8に示すように、静脈圧センサP1の検出値A1が急激に上昇した時点t1が観測された。
【0048】
これは、ダイアライザ3の血液流路αの閉塞が解消することにより、静脈圧センサP1の検出値A1が上昇したと判断することができるので、判断部12は、かかる静脈圧センサP1における検出値A1の急激な上昇を検知することにより、血液流路αの閉塞が解消できたと判定することができる。なお、同図中、符号A2は、透析液圧センサP3の検出値、A3は、入口圧センサP2の検出値、A4は、血液ポンプ4による送液量を示している。
【0049】
さらに、図4の状態における血液浄化装置1において、血液回路2に空気が充填されている場合に圧力変化付与工程を行う実験を行った。この場合、図9に示すように、ダイアライザ3の血液流路αの閉塞が解消することにより、静脈圧センサP1の検出値A5(この場合、静脈圧センサP1で検出された静脈圧)が下降した(時点t2参照)と判断することができるので、判断部12は、血液回路2に生理食塩液等の液体がない場合であっても、静脈圧センサP1における検出値A5の急激な下降を検知することにより、血液流路αの閉塞が解消できたと判定することができる。
【0050】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば圧力変化付与工程は、プライミング工程S2の前及びオーバーフローライン工程S6の前の両方行うものに限らず、何れか一方のみ行うものであってもよい。また、本実施形態においては、プライミング工程S2の終了から脱血キー操作まで所定時間経過した場合、圧力変化付与工程S5を行っているが、所定時間経過していな場合も圧力変化付与工程S5を行うようにしてもよい。
【0051】
さらに、圧力変化付与部及び圧力変化検知部は、上記実施形態のものに限らず、血液浄化装置1が具備する他の構成部品であってもよく、血液流路αの閉塞状態を判定するために新たに設けられた部品であってもよい。なお、本実施形態においては、血液浄化器が積層型である場合に限り、圧力変化付与工程を実行するよう構成されているが、血液浄化器の種類に関わらず圧力変化付与工程を実行するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の趣旨と同等の血液浄化装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 血液浄化装置
2 血液回路
2a 動脈側血液回路
2b 静脈側血液回路
3 ダイアライザ(積層型の血液浄化器)
3a 固定板
3b 血液浄化膜
4 血液ポンプ
5 動脈側エアトラップチャンバ
6 静脈側エアトラップチャンバ
7 複式ポンプ
8 除水ポンプ
9 加圧ポンプ
10 脱ガスチャンバ
11 制御部
12 判定部
13 入力部
L1 透析液導入ライン
L2 透析液排出ライン
L4、L5、L8 バイパスライン
L3、L6 迂回ライン
L7 迂回ライン
L9 接続ライン
La 供給ライン
Lb オーバーフローライン
P1 静脈圧センサ
P2 入口圧センサ
P3 透析液圧センサ
D 配管部
F 筐体
C 収容バッグ
α 血液流路
β 透析液流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9