(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】ボイラ制御システム及び発電プラント、並びにボイラ制御方法
(51)【国際特許分類】
F23N 5/24 20060101AFI20241125BHJP
F22B 35/00 20060101ALI20241125BHJP
F23N 5/00 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
F23N5/24 107Z
F22B35/00 A
F23N5/00 C
F23N5/00 J
(21)【出願番号】P 2021045836
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】椎井 貴之
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 和成
(72)【発明者】
【氏名】古里 龍治
(72)【発明者】
【氏名】木村 和樹
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-029133(JP,A)
【文献】特開2001-041403(JP,A)
【文献】特開2015-007511(JP,A)
【文献】特開平11-037437(JP,A)
【文献】特開平5-079622(JP,A)
【文献】特開2003-302025(JP,A)
【文献】特開平6-180116(JP,A)
【文献】特開2003-056809(JP,A)
【文献】特開2018-103065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23N 1/00-5/26
F22B 1/00-37/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラから排出されるガスの酸素濃度の現状値に基づいて、前記酸素濃度の目標値への応答性を規定する所定のパラメータを用いて前記ボイラへ供給される空気流量の制御を行う制御部と、
前記酸素濃度が前記目標値よりも高い切替閾値以上となる切替条件を満たした場合に、前記パラメータを、前記パラメータよりも応答性の早い高感度パラメータへ切り替える切替部と、
を備えるボイラ制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、PI制御を行い、前記パラメータは比例ゲイン及び積分ゲインである請求項1に記載のボイラ制御システム。
【請求項3】
前記高感度パラメータは、前記ボイラの負荷および/またはプロセス状態に基づく可変値である請求項1または2に記載のボイラ制御システム。
【請求項4】
前記切替部は、前記酸素濃度が前記切替閾値以上であり、入熱量を調整する燃焼量設定値の上昇が予め設定した所定値以上である切替条件を満たした場合に、前記パラメータを前記高感度パラメータへ切り替える請求項1から3のいずれか1項に記載のボイラ制御システム。
【請求項5】
前記切替部は、前記切替条件が継続して所定時間の間満たされた場合に、前記パラメータの切り替えを行う請求項1から4のいずれか1項に記載のボイラ制御システム。
【請求項6】
前記切替部は、前記切替条件を満たし、運転状態が、前記酸素濃度の所定値以上の変化が予期される状態として予め設定された制御状態でない場合に、前記パラメータの切り替えを行う請求項1から5のいずれか1項に記載のボイラ制御システム。
【請求項7】
前記制御状態とは、前記ボイラにおけるバーナが点火または消火の進行中である状態、及びボイラ負荷が変化中である状態の少なくともいずれか一方である請求項6に記載のボイラ制御システム。
【請求項8】
前記切替部は、前記パラメータを前記高感度パラメータへ切り替えた後に、前記酸素濃度の現状値が、前記切替閾値よりも前記目標値へ近い値に設定された閾値以下となる解除条件が満たされた場合に、前記高感度パラメータを前記パラメータへ切り替える請求項1から7のいずれか1項に記載のボイラ制御システム。
【請求項9】
前記切替部は、前記解除条件が継続して所定時間の間満たされた場合に、前記パラメータの切り替えを行う請求項8に記載のボイラ制御システム。
【請求項10】
ボイラから排出されるガスの酸素濃度の現状値に基づいて、前記酸素濃度の目標値への応答性を規定する所定のパラメータを用いて前記ボイラへ供給される空気流量の制御を行う制御部と、
運転状態が、前記酸素濃度の所定値以上の変化が予期される状態として予め設定された制御状態でない場合に、前記パラメータを、前記パラメータよりも応答性の早い高感度パラメータへ切り替える切替部と、
を備えるボイラ制御システム。
【請求項11】
ボイラと、
タービンと、
請求項1から10のいずれか1項に記載のボイラ制御システムと、
を備える発電プラント。
【請求項12】
ボイラから排出されるガスの酸素濃度の現状値に基づいて、前記酸素濃度の目標値への応答性を規定する所定のパラメータを用いて前記ボイラへ供給される空気流量の制御を行う工程と、
前記酸素濃度が前記目標値よりも高い切替閾値以上となる切替条件を満たした場合に、前記パラメータを、前記パラメータよりも応答性の早い高感度パラメータへ切り替える工程と、
を有するボイラ制御方法。
【請求項13】
ボイラから排出されるガスの酸素濃度の現状値に基づいて、前記酸素濃度の目標値への応答性を規定する所定のパラメータを用いて前記ボイラへ供給される空気流量の制御を行う工程と、
運転状態が、前記酸素濃度の所定値以上の変化が予期される状態として予め設定された制御状態でない場合に、前記パラメータを、前記パラメータよりも応答性の早い高感度パラメータへ切り替える工程と、
を有するボイラ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボイラ制御システム及び発電プラント、並びにボイラ制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電用ボイラなどの大型のボイラは、中空形状をなして鉛直方向に設置される火炉を有し、この火炉壁に複数のバーナが火炉の周方向に沿って配設されている。また、大型のボイラは、火炉の鉛直方向上方に煙道が連結されており、この煙道に蒸気を生成するための熱交換器が配置されている。そして、バーナが火炉内に燃料と空気(酸化性ガス)との混合気を噴射することで火炎が形成され、燃焼ガスが生成されて煙道に流れる。燃焼ガスが流れる領域に熱交換器が設置され、熱交換器を構成する伝熱管内を流れる水や蒸気を加熱して過熱蒸気が生成される。
【0003】
ボイラから排出されるガスの酸素濃度(ボイラ出口排ガス酸素濃度)が設定値に近づくように、ボイラへ供給される空気流量が調整されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、ボイラに供給される燃料の発熱量(単位重量当たりの発熱量)が減少すると、燃料の燃焼に要する酸素量も減少し、ボイラから排出されるガスの酸素濃度(ボイラ出口排ガス酸素濃度)が設定値よりも大きくなる場合がある。すなわち、ボイラへ供給される空気流量が、必要とされる空気流量よりも大きくなり余剰空気が発生する場合がある。余剰空気が発生すると、ボイラ出口の排ガス量が増加し、ボイラから排出される熱量(排ガス損失)が増加する。その結果、燃料消費量が増加する可能性がある。
【0006】
一方、ボイラへ供給する空気流量の変化はボイラの燃焼状態への影響が大きく、従来では、ボイラの運転状態の急変を回避するため空気流量制御の応答性を遅くしており、その結果、余剰空気が発生しても、空気流量を抑制する処理に時間を要し、効果的に燃料消費量を抑制することが困難な場合があった。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、効果的に燃料消費量を抑制することのできるボイラ制御システム及び発電プラント、並びにボイラ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1態様は、ボイラから排出されるガスの酸素濃度の現状値に基づいて、前記酸素濃度の目標値への応答性を規定する所定のパラメータを用いて前記ボイラへ供給される空気流量の制御を行う制御部と、前記酸素濃度が前記目標値よりも高い切替閾値以上となる切替条件を満たした場合に、前記パラメータを、前記パラメータよりも応答性の早い高感度パラメータへ切り替える切替部と、を備えるボイラ制御システムである。
【0009】
本開示の第2態様は、ボイラから排出されるガスの酸素濃度の現状値に基づいて、前記酸素濃度の目標値への応答性を規定する所定のパラメータを用いて前記ボイラへ供給される空気流量の制御を行う工程と、前記酸素濃度が前記目標値よりも高い切替閾値以上となる切替条件を満たした場合に、前記パラメータを、前記パラメータよりも応答性の早い高感度パラメータへ切り替える工程と、を有するボイラ制御方法である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、効果的に燃料消費量を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態に係る石炭焚きボイラを表す概略構成図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る石炭焚きボイラに設けられた熱交換器を表す概略図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係るボイラ制御システムが備える機能を示した機能ブロック図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る切替閾値を比較した図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係る感度切替処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】本開示の一実施形態に係るタイマ処理の概念図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係るタイマ処理の概念図である。
【
図8】本開示の一実施形態に係る感度切替処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】本開示の一実施形態に係るボイラ制御システムの制御動作イメージを示した図である。
【
図10】本開示の一実施形態に係るボイラ制御システムのハードウェア構成の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、本開示に係る好適な実施形態を図面を参照して説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。以降の説明で、上や上方とは鉛直方向上側を示し、下や下方とは鉛直方向下側を示すものであり、鉛直方向は厳密ではなく誤差を含むものである。
【0013】
図1は、本実施形態の石炭焚きボイラ10を表す概略構成図である。
【0014】
本実施形態の石炭焚きボイラ10は、石炭(炭素含有固体燃料)を粉砕した微粉炭を微粉燃料として用い、この微粉燃料をバーナにより燃焼させ、この燃焼により発生した熱を給水や蒸気と熱交換して過熱蒸気を生成することが可能な石炭焚き(微粉炭焚き)ボイラである。
【0015】
本実施形態において、
図1に示すように、石炭焚きボイラ10は、火炉11と燃焼装置12と燃焼ガス通路13を有している。火炉11は、四角筒の中空形状をなして鉛直方向に沿って設置されている。火炉11を構成する火炉壁101は、複数の伝熱管とこれらを接続するフィンとで構成され、微粉燃料の燃焼により発生した熱を伝熱管の内部を流通する水や蒸気と熱交換して、火炉壁の温度上昇を抑制している。
【0016】
燃焼装置12は、火炉11を構成する火炉壁の下部側に設けられている。本実施形態では、燃焼装置12は、火炉壁に装着された複数のバーナ(例えば21,22,23,24,25)を有している。例えばバーナ21,22,23,24,25は、火炉11の周方向に沿って均等間隔で配設されたものが1セットとして、鉛直方向に沿って複数段(例えば、
図1では5段)配置されている。但し、火炉の形状や一つの段におけるバーナの数、段数、配置などはこの実施形態に限定されるものではない。
【0017】
バーナ21,22,23,24,25は、微粉炭供給管26,27,28,29,30を介して複数の粉砕機(ミル)31,32,33,34,35に連結されている。この粉砕機31,32,33,34,35は、例えば、粉砕機のハウジング内に粉砕テーブル(図示省略)が駆動回転可能に支持され、この粉砕テーブルの上方に複数の粉砕ローラ(図示省略)が粉砕テーブルの回転に連動回転可能に支持されて構成されている。石炭が、複数の粉砕ローラと粉砕テーブルとの間に投入されると、粉砕され、搬送用ガス(一次空気、酸化性ガス)により粉砕機のハウジング内の分級機(図示省略)に搬送されて、所定の粒径範囲内に分級された微粉燃料を、微粉炭供給管26,27,28,29,30から燃焼バーナ21,22,23,24,25に供給することができる。
【0018】
また、火炉11は、バーナ21,22,23,24,25の装着位置に風箱36が設けられており、この風箱36に空気ダクト(風道)37の一端部が連結されている。空気ダクト37は、他端部に押込通風機(FDF:Forced Draft Fan)38が設けられている。
【0019】
燃焼ガス通路13は、
図1に示すように、火炉11の鉛直方向上部に連結されている。燃焼ガス通路13は、燃焼ガスの熱を回収するための熱交換器として、過熱器102,103,104、再熱器105,106、節炭器107が設けられており、火炉11で発生した燃焼ガスと各熱交換器の内部を流通する給水や蒸気との間で熱交換が行われる。
【0020】
燃焼ガス通路13は、
図1に示すように、その下流側に熱交換を行った燃焼ガスが排出される煙道14が連結されている。煙道14は、空気ダクト37との間にエアヒータ(空気予熱器)42が設けられ、空気ダクト37を流れる空気と、煙道14を流れる燃焼ガスとの間で熱交換を行い、バーナ21,22,23,24,25に供給する燃焼用空気を昇温することができる。
【0021】
また、煙道14は、エアヒータ42より上流側の位置に脱硝装置43が設けられている。脱硝装置43は、アンモニア、尿素水等の窒素酸化物を還元する作用を有する還元剤を煙道14内に供給し、還元剤が供給された燃焼ガス中の窒素酸化物と還元剤との反応を、脱硝装置43内に設置された脱硝触媒の触媒作用により促進させることで、燃焼ガス中の窒素酸化物を除去、低減するものである。煙道14に連結されるガスダクト41は、エアヒータ42より下流側の位置に、電気集塵機などの集塵装置44、誘引通風機(IDF:Induced Draft Fan)45、脱硫装置46などが設けられ、下流端部に煙突50が設けられている。
【0022】
一方、複数の粉砕機31,32,33,34,35が駆動すると、生成された微粉燃料が搬送用ガス(一次空気、酸化性ガス)と共に微粉炭供給管26,27,28,29,30を通してバーナ21,22,23,24,25に供給される。また、煙道14から排出された排ガスとエアヒータ42で熱交換することで、加熱された燃焼用空気(二次空気、酸化性ガス)が、空気ダクト37から風箱36を介してバーナ21,22,23,24,25に供給される。バーナ21,22,23,24,25は、微粉燃料と搬送用ガスとが混合した微粉燃料混合気を火炉11に吹き込むと共に燃焼用空気を火炉11に吹き込み、このときに微粉燃料混合気が着火することで火炎を形成することができる。火炉11内の下部で火炎が生じ、高温の燃焼ガスがこの火炉11内を上昇し、燃焼ガス通路13に排出される。なお、酸化性ガスとして、本実施形態では空気を用いる。空気よりも酸素割合が多いものや逆に少ないものであってもよく、燃料流量との適正化を図ることで使用可能になる。
【0023】
また、火炉11は、バーナ21,22,23,24,25の装着位置より上方にアディショナル空気ポート39が設けられている。アディショナル空気ポート39に空気ダクト37から分岐したアディショナル空気ダクト40の端部が連結されている。従って、押込通風機38により送られた燃焼用空気(二次空気、酸化性ガス)を空気ダクト37から風箱36に供給し、この風箱36から各燃焼バーナ21,22,23,24,25に供給することができると共に、押込通風機38により送られた燃焼用追加空気(アディショナル空気)をアディショナル空気ダクト40からアディショナル空気ポート39に供給することができる。
【0024】
火炉11は、下部の領域Aにて、微粉燃料混合気と燃焼用空気(二次空気、酸化性ガス)とが燃焼して火炎が生じる。ここで火炉11は、空気の供給量が微粉炭の供給量に対して、理論空気量未満となるように設定されることで、内部が還元雰囲気に保持される。即ち、微粉炭の燃焼により発生した窒素酸化物(NOx)が火炉11の領域Bで還元され、その後、アディショナル空気ポート39から燃焼用追加空気(アディショナル空気)が追加供給されることで微粉炭の酸化燃焼が完結され、微粉炭の燃焼によるNOxの発生量が低減される。
【0025】
その後、燃焼ガスは、
図1に示すように、燃焼ガス通路13に配置される第2過熱器103、第3過熱器104、第1過熱器102、(以下単に過熱器と記載する場合もある)、第2再熱器106、第1再熱器105(以下単に再熱器と記載する場合もある)、節炭器107で熱交換した後、脱硝装置43により窒素酸化物が還元除去され、集塵装置44で粒子状物質が除去され、脱硫装置46にて硫黄酸化物が除去された後、煙突50から大気中に排出される。なお、各熱交換器は燃焼ガス流れに対して、必ずしも前記記載順に配置されなくともよい。
【0026】
次に、熱交換器として、燃焼ガス通路13に設けられた過熱器102,103,104、再熱器105,106、節炭器107について詳細に説明する。
図2は、石炭焚きボイラ10に設けられた熱交換器を表す概略図である。
なお、
図1では燃焼ガス通路13内の各熱交換器(過熱器102,103,104、再熱器105,106、節炭器107)の位置を正確に示しているものではなく、各熱交換器の燃焼ガス流れに対する配置順も
図1の記載に限定されるものではない。
【0027】
図2に示すように、本実施形態の発電プラント1は、石炭焚きボイラ10に設けられた熱交換器(過熱器102,103,104、再熱器105,106、節炭器107)と、石炭焚きボイラ10が生成した蒸気によって回転駆動される蒸気タービン110と、蒸気タービン110に連結され蒸気タービン110の回転によって発電を行う発電機115とを備える。
【0028】
ボイラ10で生成した蒸気により回転駆動される蒸気タービン110は、例えば、高圧タービン111と中圧タービン112と低圧タービン113とから構成され、後述する再熱器からの蒸気が中圧タービンに流入したのちに低圧タービンに流入する。低圧タービン113には、復水器114が連結されており、低圧タービン113を回転駆動した蒸気が、この復水器114で冷却水(例えば、海水)により冷却されて復水となる。復水器114は、給水ラインL1を介して節炭器107に連結されている。給水ラインL1には、例えば、復水ポンプ(CP)121、低圧給水ヒータ122、ボイラ給水ポンプ(BFP)123、高圧給水ヒータ124が設けられている。低圧給水ヒータ122と高圧給水ヒータ123には、蒸気タービン111,112,113を駆動する蒸気の一部が抽気されて、抽気ライン(図示省略)を介して高圧給水ヒータ124と低圧給水ヒータ122に熱源として供給され、節炭器107へ供給される給水が加熱される。
【0029】
例えば、石炭焚きボイラ10が貫流ボイラの場合について、説明をする。節炭器107は、火炉壁101の各蒸発管に連結されている。節炭器107で加熱された給水は、火炉壁101を構成する蒸発管を通過する際に、火炉11内の火炎から輻射を受けて加熱され、汽水分離器126へと導かれる。汽水分離器126にて分離された蒸気は、過熱器102,103,104へと供給され、汽水分離器126にて分離されたドレン水は、ドレン水ラインL2を介して復水器114へと導かれる。
【0030】
また、貫流ボイラの起動時や低負荷運転時等においては、節炭器107から供給される給水が火炉壁101を構成する蒸発管を通過する際に全量が蒸発せず、その結果、汽水分離器126に水位が存在する運転状態(ウエット運転状態)となることがある。このウエット運転状態においては、汽水分離器126にて分離されたドレン水は、ボイラ循環ポンプ(BCP)128を用いて循環ラインL6により、給水ラインL1の途中に合流させることで、節炭器107から火炉壁101を構成する蒸発管へと循環して供給してもよい。
【0031】
燃焼ガスが燃焼ガス通路13を流れるとき、この燃焼ガスは、過熱器102,103,104、再熱器105,106、節炭器107で熱回収される。一方、ボイラ給水ポンプ(BFP)123から供給された給水は、節炭器107で予熱された後、火炉壁101を構成する蒸発管を通過する際に加熱されて蒸気となり、汽水分離器126に導かれる。汽水分離器126で分離された蒸気は、過熱器102,103,104に導入され、燃焼ガスによって過熱される。過熱器102,103,104で生成された過熱蒸気は、蒸気ラインL3を介して高圧タービン111に供給され、高圧タービン111を回転駆動する。高圧タービン111から排出された蒸気は、蒸気ラインL4を介して、再熱器105,106に導入されて再度過熱される。再度過熱された蒸気は、蒸気ラインL5を介して、中圧タービン112を経て低圧タービン113に供給され、中圧タービン112および低圧タービン113を回転駆動する。各蒸気タービン111,112,113の回転軸は、発電機115を回転駆動して、発電が行われる。低圧タービン113から排出された蒸気は、復水器114で冷却されることで復水となり、給水ラインL1を介して、再び、節炭器107に送られる。
【0032】
また、燃焼ガス通路13には、過熱器102,103,104、再熱器105,106、節炭器107など各熱交換器の伝熱管の間隙、または各熱交換器の間隙に図示しないスーツブロワ(除灰装置)が配置されていてもよい。スーツブロワは、燃焼ガス通路13の壁面に対して略垂直な方向に延在して配置される。スーツブロワは、燃焼ガス通路13の壁面に対して垂直方向を軸方向として、軸方向に直交する方向に蒸気(気体)を噴射し、また噴射方向も変動することができる噴射装置である。スーツブロワから過熱器102,103,104、再熱器105,106、節炭器107など熱交換器に向けて噴射された蒸気は、熱交換器の各伝熱管の表面に付着・堆積した燃焼灰を除去し、熱交換器の各伝熱管における熱交換効率の低下を抑制する。
【0033】
上述した実施形態では、本開示のボイラを石炭焚きボイラとしたが、燃料としては、バイオマス燃料や石油精製時に発生するPC(石油コークス:Petroleum Coke)燃料、石油残渣などの固体燃料を使用するボイラであってもよい。また、燃料として固体燃料に限らず、重油、軽油、重質油などの石油類や工場廃液などの液体燃料も使用することができ、更には、燃料として気体燃料(天然ガス、副生ガスなど)も使用することができる。さらに、これら燃料を組み合わせて使用する混焼焚きボイラにも適用することができる。
【0034】
次に、ボイラ制御システム70について説明する。
例えば、ボイラ10へ供給する燃料の発熱量(単位重量当たりの発熱量)が減少することで、ボイラ10へ投入される熱量が減少する。このため、蒸気を作るための入熱量が不足する。この不足分を補うために、燃焼量指令が増加され、ボイラ10へ供給する燃料量を増加する動作となる。特定の燃料(発熱量)の使用を仮定して、燃料供給量に対して空気流量が設定されており、燃料量の増加と共に、比例的にボイラ10へ供給される空気流量が増加される。空気流量が増加されるものの、設定に用いた燃料(発熱量)よりも燃料の発熱量が減少しているため、燃焼によって消費される燃料を完全燃焼する際に必要な酸素量(理論空気量)も減少しており、燃焼で消費される酸素量が少なくなる。すると、燃料量の増加に対して空気流量の増加分が多いこととなり、余剰空気が発生して出口排ガスの酸素濃度が上昇する。
酸素濃度が上昇している間は、余剰空気によりボイラ10から排出される排ガス量が増えるため、排出される熱量(排ガス損失)も増え、その結果、燃料消費量を増加させてしまう。余剰空気の抑制に時間がかかると燃料消費量を抑制することができないため、本実施形態に係るボイラ制御システム70では、余剰空気を速やかに抑制する機能を有している。
【0035】
図3は、ボイラ制御システム70が備える機能を示した機能ブロック図である。
図3に示されるように、ボイラ制御システム70は、酸素濃度設定部71と、差分演算部72と、制御部73と、切替部74と、空気流量設定部75と、修正部76と、条件部77とを主に備えている。ボイラ制御システム70には、燃焼量指令が入力される。燃焼量指令とは、ボイラ入力指令(発電プラント1の外部にある給電指令所などから送信される発電量指令に、ボイラ主蒸気圧力による補正を加えたもの)に基づいて設定される燃料供給量の指令である。また、ボイラ制御システム70には、ボイラ10から排出されたガス(ボイラ出口排ガス)の酸素濃度の測定値(現状値)が入力される。例えば、煙道14を流れるガスの節炭器107の出口近傍における酸素濃度が計測される。酸素濃度の測定値(現状値)については、測定された値でもよいし、他の測定結果等から推定された値を用いることとしてもよい。以下の説明では、ボイラ10から排出されたガスの酸素濃度を、単に「酸素濃度」と記載して説明する。
【0036】
酸素濃度設定部71は、燃焼量指令に基づいて、ボイラ出口排ガスの酸素濃度の目標値を設定する。例えば、ボイラの各負荷(燃焼量)における燃焼状態が好適となるよう、燃焼量指令と酸素濃度の目標値とが予め対応付けられている。燃焼量指令から酸素濃度の目標値を演算する方法はこれに限定されず、例えば、現状の燃焼状態を検知して好適な酸素濃度の目標値を設定してもよい。
【0037】
差分演算部72は、酸素濃度の目標値と、測定値との差分を算出する。具体的には、目標値から測定値を減算して、差分を演算する。
【0038】
制御部73は、ボイラ10から排出されるガスの酸素濃度の測定値に基づいて、酸素濃度の目標値への応答性を規定する所定のパラメータを用いてボイラ10へ供給される空気流量の制御を行う。具体的には、制御部73は、差分演算部72において演算された差分に基づいてPI制御を行う。具体的には、差分がなくなるように(酸素濃度が目標値へ近づくように)、制御を実行する。そして、制御部73は、後述する空気流量設定部75において設定された空気流量の目標値を修正するための修正値(余剰空気分修正値)を算出する。すなわち制御部73では修正値を演算することで空気流量の制御している。
【0039】
PI制御では、比例制御(P制御)及び積分制御(I制御)が行われる。比例制御では比例ゲインが用いられ、積分制御では積分ゲインが用いられる。比例ゲインとは、比例制御において、目標値への追従性を調整可能なパラメータである。例えば比例ゲインを大きく設定することで目標値へ早く追従させることができる。しかし、比例ゲインが大きすぎると、オーバーシュートが発生したり、ハンチング(目標値を挟んだ変動が継続すること)が発生する場合がある。すなわち、比例制御だけでは定常偏差(目標値に対して一定の偏差が継続すること)が発生する可能性があるため、これを積分制御で補完する。すなわち、積分ゲインを適切に調整することで、定常偏差を抑制することができる。
【0040】
このように、PI制御においては、比例ゲインと積分ゲインが、目標値への応答性を規定するパラメータとなる。以下の説明では比例ゲイン及び積分ゲインを「感度パラメータ」と表現して説明する。
【0041】
制御部73は、通常感度制御部81と、高感度制御部82とを含んでいる。
【0042】
通常感度制御部81は、通常感度パラメータを用いて、PI制御を行う。通常感度パラメータとは、ボイラ10の通常運転時に対応して予め設定された比例ゲインと積分ゲインである。通常運転(通常運転モード)とは、例えば、酸素濃度が目標値に対して大きく乖離していない(例えば後述する切替閾値未満)状態である。
【0043】
高感度制御部82は、高感度パラメータを用いて、PI制御を行う。高感度パラメータとは、通常感度パラメータよりも応答性(制御即応性)が早い(高い)パラメータである。具体的には、高感度パラメータとは、高感度運転時に対応して予め設定された比例ゲインと積分ゲインである。高感度パラメータにおける比例ゲインは、通常感度パラメータにおける比例ゲインよりも大きな値に設定されており、高感度パラメータにおける積分ゲインは、通常感度パラメータにおける積分ゲインよりも積分時間が短くなる値に設定されている。すなわち、応答性が早い(高感度)ということとなる。
【0044】
高感度パラメータについては、通常感度パラメータよりも応答性が早ければ(感度が高ければ)設定方法は限定されない。例えば、通常感度パラメータに対して所定値だけ高感度パラメータを大きくしてもよい。また、ボイラの運転状態に基づいて、高感度パラメータの値を設定することとしてもよい。例えば、ボイラ負荷(燃焼量)に応じて、通常感度パラメータよりも大きな値として高感度パラメータを設定することで、ボイラの運転状態が比較的安定している高負荷帯ほど、高感度となるようにしてもよい。また、高感度パラメータは、ボイラ負荷および/またはプロセス状態に基づく可変値としてもよい。例えば、高感度パラメータは、ボイラ負荷および/またはプロセス状態に対して設定された関数値を用いて算出される可変値としてもよい。可変値にする方法については、関数を用いる方法に限定されない。なお、プロセス状態とは酸素濃度の目標値と測定値の差分やボイラに供給される燃料種などである。
【0045】
なお、本実施形態では、制御部73は通常感度制御部81と高感度制御部82とを含んで切り替え可能な構成として説明したが、PI制御を行う構成をまとめて1つとし、感度パラメータのみ切り替える構成としてもよい。すなわち、感度パラメータを切り替えて制御が行われば、構成は限定されない。
【0046】
切替部74は、切替条件を満たした場合に、通常感度パラメータを、高感度パラメータへ切り替える。すなわち、切替部74は、通常運転モードと高感度運転モードとの切り替えを行い、具体的には切替条件を満たした場合に、通常運転モードから高感度運転モードへ切り替えを行う。
【0047】
切り替えは、通常感度制御部81からの入力と、高感度制御部82からの入力とのいずれか一方を出力側へ出力することで行われる。すなわち、切替部74は、通常感度制御部81の出力と、高感度制御部82の出力のいずれか一方を選択して切り替えを行う。
【0048】
切り替えの条件である切替条件は、後述する条件部77において判断され、切替部74は条件部77からの指令により切り替えを実行する。
【0049】
空気流量設定部75は、燃焼量指令に基づいて、ボイラ10へ供給される空気流量の目標値を設定する。例えば、計画燃料条件(燃料の発熱量、理論空気量等)を設定し、燃焼量指令と酸素濃度目標値の関係に基づき、燃焼量指令と空気流量の目標値が予め対応付けられている。燃焼量指令から空気流量の目標値を演算する方法はこれに限定されず、例えば、現状の燃焼状態を検知して好適な空気流量の目標値を設定してもよい。
【0050】
修正部76は、空気流量設定部75において設定された空気流量の目標値を、制御部73において演算した修正値に基づいて修正する。具体的には、空気流量の目標値に対して修正値を加算することによって修正を行う。例えば、酸素濃度の測定値が目標値よりも大きい場合、空気流量設定部75において設定された空気流量の目標値は、低下する方向に修正される。そして、修正部76は、空気流量指令を出力する。これによって、空気流量指令には、燃焼量指令だけでなく、酸素濃度の測定値も加味されることとなる。
【0051】
条件部77は、切替条件が満たされているか否かを判定して、切替部74を制御する。具体的には、条件部77は、切替条件が満たされていない場合には、通常運転モードを選択するよう制御し、切替条件が満たされている場合には、高感度運転モードを選択するように制御する。
【0052】
本実施形態では、切替条件として、条件A-1、条件A-2、及び条件Bを説明する。各条件については、いずれか1つを用いることとしてもよいし、組み合わせることも可能である。好ましくは、
図5または
図8のフローで説明するが、条件A-1and条件B、または条件A-2and条件Bがより好ましい。
【0053】
まず、条件A-1について説明する。
条件A-1は、酸素濃度の測定値が目標値よりも高い切替閾値以上となること、且つ、ボイラ10への入熱量を調整する燃焼量指令(燃焼量設定値)の上昇が予め設定した所定値以上であることである。
ボイラ出口排ガスの酸素濃度の測定値が目標値よりも高い切替閾値以上となっている場合には、ボイラ10の好適な燃焼を得るために設定された目標値に対して、酸素濃度が過剰に高い状況である。このような状況では、ボイラ10への空気流量が多く、余剰空気が発生していることが想定される。余剰空気とは、燃料の理論空気量やボイラ出口排ガス酸素濃度の設定値から規定される必要空気量からの増加分である。酸素濃度の測定値と切替閾値を比較する場合には、その時点での酸素濃度の目標値に応じた切替閾値を設定して酸素濃度の測定値と比較することとしてもよいし、酸素濃度の測定値と目標値との差分に対して切替閾値を設定することとしてもよい。
燃焼量指令の上昇が予め設定した所定値以上となっている場合には、蒸気を作るためのボイラ10への入熱量の不足分を補うために燃料量を増やす指令(燃焼量指令増)がされている状況である。このような状況では、ボイラ10への空気流量が増加されて、余剰空気が発生していることが想定される。燃焼量指令の上昇は、例えば上昇率(単位時間当たりの上昇量)と所定値を比較することにより判断される。
【0054】
次に、条件A-2について説明する。
条件A-2は、酸素濃度の測定値が目標値よりも高い切替閾値以上となることである。すなわち、条件A-2は、条件A-1の前半部分と等しい思想であるが、切替閾値を変えることとしてもよい。
【0055】
例えば、
図4は、条件A-1の切替閾値と、条件A-2の切替閾値を比較した図である。
図4では、縦軸を、差分とし、横軸を時間として示している。縦軸が0(零)の点は、酸素濃度の測定値と目標値が一致していることを示している。切替閾値は、酸素濃度の測定値と目標値との差分に対して設定されている。
【0056】
条件A-1では、酸素濃度の測定値が目標値よりも高い切替閾値以上となること、且つ、ボイラ10への入熱量を調整する燃焼量指令の上昇が予め設定した所定値以上であること、の2つを合わせて条件としている。このため、条件A-1の切替閾値は、条件A-2の切替閾値よりも低く設定することができる。これにより、条件A-1ではより早い段階で条件が成立する。一方で、条件A-2では、条件A-1よりも大きな差分が生じた場合に、燃焼量指令の上昇が所定値以上となっていない場合でも、条件が成立する。これにより、燃焼量指令の上昇を伴わない酸素濃度の変動に対しても対応が可能となる。
【0057】
次に、条件Bについて説明する。
条件Bは、ボイラ10の運転状態が、酸素濃度の所定値以上の変化が予期される状態として予め設定された制御状態でないことである。酸素濃度の所定値以上の変化が予期される状態として予め設定された制御状態とは、具体的には、ボイラ10におけるバーナ(例えば21,22,23,24,25)が点火または消火の進行中である状態、及びボイラ負荷(燃焼量指令)が変化中である状態の少なくともいずれか一方である。ここで、ボイラ負荷が変化中である状態とは、例えば定格負荷に対して10%以上(好ましくは5%以上)のボイラ負荷の変動がある場合である。なお、運転状態については、酸素濃度が所定値以上変化することが予期される状態であれば上記に限定されない。このような制御状態でない場合に、条件Bが成立する。
【0058】
条件Bは、換言すると、運転員の操作(すなわち意図的な制御)によって酸素濃度が変化し易い状態(制御状態)ではないことを判定するものである。バーナ(例えば21,22,23,24,25)の点火や消火は、運転員の操作によって進行が制御されるものである。また、ボイラ負荷(燃焼量指令)は、発電プラント1の外部にある中央給電指令所などからの発電出力の指令値に対応して変化する。すなわち、意図的な制御によって酸素濃度が変化している状態であれば条件Bは満たされないとして、高感度運転モードへの切り替えは行わない。
【0059】
このように、切替条件に基づいて、通常運転モードと高感度運転モードとが切り替えられることによって、切替条件が満たされる場合(余剰空気が発生していると想定される場合)には、高感度運転モードとなり、速やかに余剰空気の抑制が行われる。これによって、燃料消費量が抑制される。
【0060】
次に、上述のボイラ制御システム70による感度切替処理の一例について
図5を参照して説明する。
図5は、本実施形態に係る感度切替処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図5に示すフローは、例えば、ボイラ10が稼働している場合において所定の制御周期で繰り返し実行される。
図5では、条件A-1及び条件Bを採用する場合について説明する。
【0061】
ボイラ10が稼働している場合には、通常運転モードが選択されており、通常感度パラメータを用いて酸素濃度の制御が行われているものとする。通常感度パラメータでは、例えばボイラ10の燃焼状態が不安定とならないように、時間的に十分な余裕をもって制御が行われる。
【0062】
まず、条件A-1を満たすか否かを判定する(S101)。条件A-1が満たされない場合(S101のNO判定)には、処理を終了する。すなわち、通常感度パラメータを用いた制御が継続される。
【0063】
条件A-1が満たされた場合(S101のYES判定)には、タイマ処理を行う(S102)。S102では、所定時間の経過を処理する。すなわち、S102では、切替条件が継続して所定時間の間満たされたことが処理される。
【0064】
図6は、タイマ処理の概念図である。
図6に示すように、条件A-1が満たされてから、満たされた状態が所定時間継続された場合に、次の処理(S103)へ処理が進む。
【0065】
次に、条件Bを満たすか否かを判定する(S103)。条件Bが満たされない場合(S103のNO判定)には、処理を終了する。すなわち、通常感度パラメータを用いた制御が継続される。
【0066】
条件Bが満たされた場合(S103のYES判定)には、通常運転モードから高感度運転モードへ運転モードの切り替えを行う(S104)。これによって、高感度パラメータを用いた制御に切り替わる。すなわち、速やかに余剰空気の抑制が行われる。
【0067】
次に、酸素濃度の測定値が、閾値以下となる条件(解除条件)が満たされたか否かを判定する(S105)。閾値は、切替閾値よりも目標値へ近い値に設定される。すなわち、解除条件では、酸素濃度の差分(目標値に対する偏差)が小さくなったことを検出している。換言すると、S105は、酸素濃度の差分が所定値以下となったか否かを判定することと同義である。解除条件が満たされた場合は、余剰空気が十分に抑制されたことを意味している。
【0068】
解除条件が満たされない場合(S105のNO判定)には、S104へ戻る。すなわち、高感度パラメータを用いた制御が継続して実施される。
【0069】
解除条件が満たされた場合(S105のYES判定)には、タイマ処理を行う(S106)。S106では、所定時間の経過を処理する。すなわち、S106では、解除条件が継続して所定時間の間満たされたことが処理される。
【0070】
図7は、タイマ処理の概念図である。
図7に示すように、解除条件が満たされてから、満たされた状態が所定時間継続された場合に、次の処理(S107)へ処理が進む。
【0071】
次に、高感度運転モードから通常運転モードへ運転モードの切り替えを行う(S107)。
【0072】
このような処理によって、切替条件が満たされた場合(余剰空気が発生している場合)に、高感度パラメータを用いて処理を行うため、余剰空気の速やかな抑制を行うことができる。
【0073】
図5の例では、条件A-1及び条件Bを採用する場合について説明したが、条件A-2及び条件Bを採用することとしてもよい。この場合のフローは、例えば
図8となる。
図5のフローと共通する処理は説明を省略する。
図8では、S201として、条件A-2を満たすか否かを判定する。条件A-2が満たされない場合(S201のNO判定)には、処理を終了する。条件A-2が満たされた場合(S201のYES判定)には、タイマ処理を行う(S202)。S201は、S102と同じ処理としてもよい。しかし、条件A-1と条件A-2とが異なるため、S102とS201のタイマ処理は、所定時間を互いに異なることとしてもよい。例えば、S201の所定時間の方が、S102の所定時間よりも短いこととしてもよい。
【0074】
次に、上述の感度切替処理による効果について
図9を参照して説明する。
図9では、本実施形態におけるボイラ制御システム70の制御動作イメージをP1として示しており、参考例における制御動作イメージをP2として示している。
【0075】
参考例とは、切替条件に関わらず、通常感度パラメータのみを用いて制御を行う場合である。すなわち、参考例では、高感度パラメータを用いた制御は行われない。
【0076】
図9では、縦軸を酸素濃度の差分(目標値からの偏差)とし、横軸を時間としている。参考例では、差分が大きくなった場合には、通常感度パラメータを用いて制御が行われるため、
図9の例に示すように、差分は時間をかけて抑制される。
【0077】
一方で、本実施形態におけるボイラ制御システム70では、差分が増加すると、例えばT1のタイミングで切替条件が成立する。このため、T1で、通常運転モードから高感度運転モードへモード切り替えが行われる。これによって、速やかに差分が抑制される。そして、例えばT2のタイミングで解除条件が成立する。このため、T2で、高感度運転モードから通常運転モードへモード切り替えが行われる。T1からT2の期間において高感度運転モードとなるため、より速やかに酸素濃度が目標値へ追従する。
【0078】
なお、通常運転モードにおいても高感度パラメータを用いた場合には、制御が不安定化する可能性がある。例えば、ハンチングの発生が考えられる。このため、本実施形態のように、切替条件が満たされた場合に、高感度運転モードとすることがより好ましい。
【0079】
図10は、本実施形態に係るボイラ制御システム70のハードウェア構成の一例を示した図である。
図10に示すように、ボイラ制御システム70は、コンピュータシステム(計算機システム)であり、例えば、CPU1100と、CPU1100が実行するプログラム等を記憶するためのROM(Read Only Memory)1200と、各プログラム実行時のワーク領域として機能するRAM(Random0 Access Memory)1300と、大容量記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)1400と、ネットワーク等に接続するための通信部1500とを備えている。なお、大容量記憶装置としては、ソリッドステートドライブ(SSD)を用いることとしてもよい。これら各部は、バス1800を介して接続されている。
【0080】
また、ボイラ制御システム70は、キーボードやマウス等からなる入力部や、データを表示する液晶表示装置等からなる表示部などを備えていてもよい。
【0081】
なお、CPU1100が実行するプログラム等を記憶するための記憶媒体は、ROM1200に限られない。例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等の他の補助記憶装置であってもよい。
【0082】
後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラムの形式でハードディスクドライブ1400等に記録されており、このプログラムをCPU1100がRAM1300等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROM1200やその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0083】
以上説明したように、本実施形態に係るボイラ制御システム及び発電プラント、並びにボイラ制御方法によれば、ボイラ10から排出されるガスの酸素濃度の測定値が、目標値よりも高い切替閾値以上となった場合には、目標値への応答性がより速い高感度パラメータを用いて空気流量の制御が行われる。このため、該パラメータ(高感度パラメータでない)を用いる場合と比較して、空気流量の応答性を早めることができる。速やかにボイラ10へ供給される空気流量を制御することができるため、燃料性状の変化等によって余剰空気が発生する場合でも、空気流量を速やかに調整し、燃料消費量を抑制することができる。
【0084】
切替条件として、酸素濃度の測定値が切替閾値以上であることに加えて、ボイラ10への入熱量を調整する燃焼量指令の上昇が予め設定した所定値以上であることを判断することで、燃料性状の変化等に起因する余剰空気の発生をより正確に検知して、高感度パラメータへ切り替えることができる。
【0085】
切替条件が継続して所定時間の間満たされた場合に、パラメータの切り替えを行うことで、切り替え処理が頻発することを抑制することができる。
【0086】
運転状態が、酸素濃度の所定値以上の変化が予期される状態として予め設定された制御状態でない場合には、意図された制御動作によって酸素濃度が変化している状態ではないため、高感度パラメータに切り替えることで、速やかに空気流量を制御することができる。判定条件として、ボイラ10におけるバーナ(例えば21,22,23,24,25)が点火または消火の進行中である状態、及びボイラ負荷(燃焼量指令)が変化中である状態の少なくともいずれか一方とすることで、運転状態が、酸素濃度の所定値以上の変化が予期される制御状態であるかを判断することができる。
【0087】
本開示は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変形実施が可能である。
【0088】
以上説明した各実施形態に記載のボイラ制御システム及び発電プラント、並びにボイラ制御方法は例えば以下のように把握される。
本開示に係るボイラ制御システム(70)は、ボイラ(10)から排出されるガスの酸素濃度の現状値に基づいて、前記酸素濃度の目標値への応答性を規定する所定のパラメータを用いて前記ボイラ(10)へ供給される空気流量の制御を行う制御部(73)と、前記酸素濃度が前記目標値よりも高い切替閾値以上となる切替条件を満たした場合に、前記パラメータを、前記パラメータよりも応答性の早い高感度パラメータへ切り替える切替部(74)と、を備える。パラメータ(感度パラメータ)とは、例えば、比例ゲイン及び積分ゲインである。
【0089】
本開示に係るボイラ制御システム(70)によれば、ボイラ(10)から排出されるガスの酸素濃度が、目標値よりも高い切替閾値以上となった場合には、目標値への応答性がより速い高感度パラメータを用いて空気流量の制御が行われる。このため、該パラメータ(高感度パラメータでない)を用いる場合と比較して、空気流量の応答性を早めることができる。速やかに空気流量を制御することができるため、燃料性状の変化等によって余剰空気が発生する場合でも、空気流量を速やかに調整し、燃料消費量を抑制することができる。
【0090】
本開示に係るボイラ制御システム(70)は、前記制御部(73)は、PI制御を行い、前記パラメータは比例ゲイン及び積分ゲインであることとしてもよい。
【0091】
本開示に係るボイラ制御システム(70)によれば、PI制御における比例ゲイン及び積分ゲインをパラメータとすることで、応答性の切り替えを効果的に行うことができる。
【0092】
本開示に係るボイラ制御システム(70)は、前記高感度パラメータは、前記ボイラ(10)の負荷および/またはプロセス状態に基づく可変値であることとしてもよい。
【0093】
本開示に係るボイラ制御システム(70)によれば、ボイラ(10)の負荷やプロセス状態に応じて適切に高感度パラメータを設定することが可能となる。
【0094】
本開示に係るボイラ制御システム(70)は、前記切替部(74)は、前記酸素濃度が前記切替閾値以上であり、ボイラ(10)への入熱量を調整する燃焼量設定値(燃焼量指令)の上昇が予め設定した所定値以上である切替条件を満たした場合に、前記パラメータを前記高感度パラメータへ切り替えることとしてもよい。
【0095】
本開示に係るボイラ制御システム(70)によれば、切替条件として、酸素濃度が切替閾値以上であることに加えて、入熱量を調整する燃焼量設定値の上昇が予め設定した所定値以上であることを判断することで、燃料性状の変化等に起因する余剰空気の発生をより正確に検知して、高感度パラメータへ切り替えることができる。
【0096】
本開示に係るボイラ制御システム(70)は、前記切替部(74)は、前記切替条件が継続して所定時間の間満たされた場合に、前記パラメータの切り替えを行うこととしてもよい。
【0097】
本開示に係るボイラ制御システム(70)によれば、切替条件が継続して所定時間の間満たされた場合に、パラメータの切り替えを行うことで、切り替え処理が頻発することを抑制することができる。
【0098】
本開示に係るボイラ制御システム(70)は、前記切替部(74)は、前記切替条件を満たし、運転状態が、前記酸素濃度の所定値以上の変化が予期される状態として予め設定された制御状態でない場合に、前記パラメータの切り替えを行うこととしてもよい。
【0099】
本開示に係るボイラ制御システム(70)によれば、運転状態が、酸素濃度の所定値以上の変化が予期される状態として予め設定された制御状態でない場合には、意図された制御動作によって酸素濃度が変化している状態ではないため、高感度パラメータとすることで、速やかに空気流量を制御することができる。
【0100】
本開示に係るボイラ制御システム(70)は、前記制御状態とは、前記ボイラ(10)におけるバーナ(例えば21,22,23,24,25)が点火または消火の進行中である状態、及びボイラ負荷(燃焼量指令)が変化中である状態の少なくともいずれか一方であることとしてもよい。
【0101】
本開示に係るボイラ制御システム(70)によれば、ボイラ(10)におけるバーナ(例えば21,22,23,24,25)が点火または消火の進行中である状態、及びボイラ負荷が変化中である状態の少なくともいずれか一方とすることで、運転状態として酸素濃度の所定値以上の変化が予期される状態であることを判断することができる。
【0102】
本開示に係るボイラ制御システム(70)は、前記切替部(74)は、前記パラメータを前記高感度パラメータへ切り替えた後に、前記酸素濃度の現状値が、前記切替閾値よりも前記目標値へ近い値に設定された閾値以下となる解除条件が満たされた場合に、前記高感度パラメータを前記パラメータへ切り替えることとしてもよい。
【0103】
本開示に係るボイラ制御システム(70)によれば、酸素濃度の現状値が、切替閾値よりも目標値へ近い値に設定された閾値以下となることを解除条件とすることで、余剰空気が低減されたことを検知して、パラメータを切り替えることができる。
【0104】
本開示に係るボイラ制御システム(70)は、前記切替部(74)は、前記解除条件が継続して所定時間の間満たされた場合に、前記パラメータの切り替えを行うこととしてもよい。
【0105】
本開示に係るボイラ制御システム(70)によれば、解除条件が継続して所定時間の間満たされた場合に、パラメータの切り替えを行うことで、切り替え処理が頻発することを抑制することができる。
【0106】
本開示に係るボイラ制御システム(70)は、ボイラ(10)から排出されるガスの酸素濃度の現状値に基づいて、前記酸素濃度の目標値への応答性を規定する所定のパラメータを用いて前記ボイラ(10)へ供給される空気流量の制御を行う制御部(73)と、運転状態が、前記酸素濃度の所定値以上の変化が予期される状態として予め設定された制御状態でない場合に、前記パラメータを、前記パラメータよりも応答性の早い高感度パラメータへ切り替える切替部(74)と、を備える。
【0107】
本開示に係るボイラ制御システム(70)によれば、運転状態が、酸素濃度の所定値以上の変化が予期される状態として予め設定された制御状態でない場合には、意図された制御動作によって酸素濃度が変化している状態ではないため、高感度パラメータとすることで、速やかに空気流量を制御することができる。
【0108】
本開示に係る発電プラントは、ボイラ(10)と、タービン(110)と、上記のボイラ発電システムと、を備える。
【0109】
本開示に係るボイラ制御方法は、ボイラ(10)から排出されるガスの酸素濃度の現状値に基づいて、前記酸素濃度の目標値への応答性を規定する所定のパラメータを用いて前記ボイラ(10)へ供給される空気流量の制御を行う工程と、前記酸素濃度が前記目標値よりも高い切替閾値以上となる切替条件を満たした場合に、前記パラメータを、前記パラメータよりも応答性の早い高感度パラメータへ切り替える工程と、を有する。
【0110】
本開示に係るボイラ制御方法は、ボイラ(10)から排出されるガスの酸素濃度の現状値に基づいて、前記酸素濃度の目標値への応答性を規定する所定のパラメータを用いて前記ボイラ(10)へ供給される空気流量の制御を行う工程と、運転状態が、前記酸素濃度の所定値以上の変化が予期される状態として予め設定された制御状態でない場合に、前記パラメータを、前記パラメータよりも応答性の早い高感度パラメータへ切り替える工程と、を有する。
【符号の説明】
【0111】
1 :発電プラント
10 :ボイラ
11 :火炉
12 :燃焼装置
13 :燃焼ガス通路
14 :煙道
21 :バーナ
26 :微粉炭供給管
31 :粉砕機
36 :風箱
37 :空気ダクト
38 :押込通風機
39 :アディショナル空気ポート
40 :アディショナル空気ダクト
41 :ガスダクト
42 :エアヒータ
43 :脱硝装置
44 :集塵装置
46 :脱硫装置
50 :煙突
70 :ボイラ制御システム
71 :酸素濃度設定部
72 :差分演算部
73 :制御部
74 :切替部
75 :空気流量設定部
76 :修正部
77 :条件部
81 :通常感度制御部
82 :高感度制御部
101 :火炉壁
102 :過熱器(第1過熱器)
103 :過熱器(第2過熱器)
104 :過熱器(第3過熱器)
105 :再熱器(第1再熱器)
106 :再熱器(第2再熱器)
107 :節炭器
110 :蒸気タービン
111 :高圧タービン
112 :中圧タービン
113 :低圧タービン
114 :復水器
115 :発電機
122 :低圧給水ヒータ
123 :高圧給水ヒータ
124 :高圧給水ヒータ
126 :汽水分離器
1100 :CPU
1200 :ROM
1300 :RAM
1400 :ハードディスクドライブ
1500 :通信部
1800 :バス
L1 :給水ライン
L2 :ドレン水ライン
L3 :蒸気ライン
L4 :蒸気ライン
L5 :蒸気ライン
L6 :循環ライン