(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】ビニルエーテルとビニルリンの共重合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 230/02 20060101AFI20241125BHJP
C08F 216/14 20060101ALI20241125BHJP
C08G 18/62 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
C08F230/02
C08F216/14
C08G18/62 091
(21)【出願番号】P 2021049146
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000157603
【氏名又は名称】丸善石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 勇太
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-296151(JP,A)
【文献】特開平08-041415(JP,A)
【文献】特開平06-179790(JP,A)
【文献】特開平03-056502(JP,A)
【文献】特表2003-527456(JP,A)
【文献】特開2019-131764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 230/02
C08F 216/14
C08G 18/00- 18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエーテルとビニルリンの共重合体
(但し、原料モノマーとしてフッ素含有モノマーを用いた共重合体を除く)であって、
前記ビニルエーテルが、下記一般式(1):
【化1】
(一般式(1)中、R
1は、直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状の、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基または炭素数3~7のエーテルから2個の水素原子を除いた基を表し、nは1~5の整数を示す。)
で表され、
前記ビニルリンが、下記一般式(2):
【化2】
(一般式(2)中、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のアリールオキシ基を示す。また、R
2およびR
3は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
で表される、共重合体。
【請求項2】
前記共重合体の数平均分子量(Mn)が、500~10000の範囲内である、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
前記ビニルエーテルが、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、およびジエチレングリコールモノビニルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の共重合体。
【請求項4】
前記一般式(2)中、R
2およびR
3が、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数6~12のアリールオキシ基、または炭素数6~12のアリール基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項5】
前記ビニルリンが、ビニルホスホン酸ジメチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ジフェニル、ジフェニルビニルホスフィンオキシド、および9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ビニル-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項6】
前記共重合体が、熱硬化性樹脂用モノマーと10~30℃で相溶する、請求項1~5のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂用モノマーが、ジイソシアネートである、請求項6に記載の共重合体。
【請求項8】
前記ジイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、およびトルエンジイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の共重合体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の共重合体と、熱硬化性樹脂用モノマーとを含む、難燃性熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
ビニルエーテルとビニルリンの共重合体
(但し、原料モノマーとしてフッ素含有モノマーを用いた共重合体を除く)の製造方法であって、
下記一般式(1):
【化3】
(一般式(1)中、R
1は、直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状の、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基または炭素数3~7のエーテルから2個の水素原子を除いた基を表し、nは1~5の整数を示す。)
で表されるビニルエーテルと、
下記一般式(2):
【化4】
(一般式(2)中、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のアリールオキシ基を示す。また、R
2およびR
3は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
で表されるビニルリンとを、溶媒存在下または無溶媒で、ラジカル重合開始剤を用いて重合させる工程を含む、製造方法。
【請求項11】
前記ラジカル重合開始剤が、アゾ系重合開始剤および過酸化物系重合開始剤からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ラジカル重合開始剤が、エステル型アゾ化合物およびニトリル型アゾ化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記溶媒が、有機溶媒である、請求項10~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記有機溶媒が、アルコール、エステル、ケトン、エーテル、塩素系溶媒、炭化水素溶媒、および芳香族炭化水素からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記有機溶媒が、エタノール、ブタノール、酢酸ブチル、およびトルエンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項13または14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルエーテルとビニルリンの共重合体に関する。また、本発明は、ビニルエーテルとビニルリンの共重合体の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
有機リン化合物は、例えば、難燃剤、可塑剤、殺虫剤、医農薬、金属錯体の配位子等の様々な製品に幅広く使用されている化学物質である。近年、有機リン化合物は、機能性材料として金属表面処理剤、及び難燃性樹脂等の構成材料や電子材料分野においても、工業的に特に注目されている。
【0003】
近年、有機リン化合物の機能性材料としては様々な化学品が提案されている。例えば、特許文献1では、接着強化添加剤として、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとビニルホスホン酸のコポリマーを使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとビニルホスホン酸のコポリマーは、ジイソシアネート等の熱硬化性樹脂用モノマーと室温で相溶せず、ポリウレタンの原料であるポリオールとして利用するためには、コポリマーとモノマーを相溶させるための溶媒が必要であった。そのため、溶媒の除去などの工程が必要となり、製造工程の観点で不適であった。したがって、本発明の目的は、熱硬化性樹脂用モノマーと室温で相溶するリン原子含有共重合体を提供することである。また、本発明の目的は、熱硬化性樹脂用モノマーと室温で相溶するリン原子含有共重合体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のビニルエーテルおよび特定のビニルリンの共重合体が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] ビニルエーテルとビニルリンの共重合体であって、
前記ビニルエーテルが、下記一般式(1):
【化1】
(一般式(1)中、R
1は、直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状の、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基または炭素数3~7のエーテルから2個の水素原子を除いた基を表し、nは1~5の整数を示す。)
で表され、
前記ビニルリンが、下記一般式(2):
【化2】
(一般式(2)中、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のアリールオキシ基を示す。また、R
2およびR
3は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
で表される、共重合体。
[2] 前記共重合体の数平均分子量(Mn)が、500~10000の範囲内である、[1]に記載の共重合体。
[3] 前記ビニルエーテルが、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、およびジエチレングリコールモノビニルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の共重合体。
[4] 前記一般式(2)中、R
2およびR
3が、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数1~8のアリールオキシ基、または炭素数5~12のアリール基である、[1]~[3]のいずれかに記載の共重合体。
[5] 前記ビニルリンが、ビニルホスホン酸ジメチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ジフェニル、ジフェニルビニルホスフィンオキシド、および9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ビニル-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載の共重合体。
[6] 前記共重合体が、熱硬化性樹脂用モノマーと10~30℃で相溶する、[1]~[5]のいずれかに記載の共重合体。
[7] 前記熱硬化性樹脂用モノマーが、ジイソシアネートである、[6]に記載の共重合体。
[8] 前記ジイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、およびトルエンジイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1種である、[7]に記載の共重合体。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の共重合体と、熱硬化性樹脂用モノマーとを含む、熱硬化性樹脂組成物。
[10] ビニルエーテルとビニルリンの共重合体の製造方法であって、
下記一般式(1):
【化3】
(一般式(1)中、R
1は、直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状の、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基または炭素数3~7のエーテルから2個の水素原子を除いた基を表し、nは1~5の整数を示す。)
で表されるビニルエーテルと、
下記一般式(2):
【化4】
(一般式(2)中、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のアリールオキシ基を示す。また、R
2およびR
3は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
で表されるビニルリンとを、溶媒存在下または無溶媒で、ラジカル重合開始剤を用いて重合させる工程を含む、製造方法。
[11] 前記ラジカル重合開始剤が、アゾ系重合開始剤および過酸化物系重合開始剤からなる群から選択される少なくとも1種である、[10]に記載の製造方法。
[12] 前記ラジカル重合開始剤が、エステル型アゾ化合物およびニトリル型アゾ化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、[10]または[11]に記載の製造方法。
[13] 前記溶媒が、有機溶媒である、[10]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14] 前記有機溶媒が、アルコール、エステル、ケトン、エーテル、塩素系溶媒、炭化水素溶媒、および芳香族炭化水素からなる群から選択される少なくとも1種である、[13]に記載の製造方法。
[15] 前記有機溶媒が、エタノール、ブタノール、酢酸ブチル、およびトルエンからなる群から選択される少なくとも1種である、[13]または[14]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ジイソシアネート等の熱硬化性樹脂用モノマーと室温で相溶するリン原子含有共重合体を提供することができる。さらに、本発明によれば、このような共重合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例9の共重合体のMALDI-MSスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ビニルエーテルとビニルリンの共重合体]
本発明による共重合体は、下記の特定のビニルエーテルと下記の特定のビニルリンとの共重合体である。また、このような共重合体は、室温(例えば、10~30℃)で液状~ガラス状物質であり、熱硬化性樹脂用モノマーと室温で相溶し易い。例えば、このような共重合体は、ジイソシアネート等の熱硬化性樹脂用モノマーと室温で相溶するため、ポリウレタンの原料であるポリオールとして有用である。なお、本発明による共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、および交互共重合体のいずれであってもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0011】
本発明による共重合体の分子量及び分子量分布は、その用途に応じて適宜設定され得るものであり特に限定されない。例えば、低粘度性の点から数平均分子量(Mn)が500~10000の範囲内であることが好ましく、600~10000の範囲内であることがより好ましく、800~8000の範囲内であることがより好ましく、1000~6000の範囲内であることが特に好ましい。また、重量平均分子量(Mw)は、1000~30000の範囲内であることが好ましく、1200~25000の範囲内であることが好ましく、1500~15000の範囲内であることがさらに好ましい。さらに、分子量分布(Mw/Mn)は4.0未満であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましく、3.0未満であることがさらに好ましく、2.0未満であることがさらにより好ましい。さらにまた、低粘度性の点で、分子量分布(Mw/Mn)が1.1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。
なお、本明細書中、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による測定値であり、後述する測定条件にて測定することができる。
【0012】
(ビニルエーテル)
本発明による共重合体の原料モノマーであるビニルエーテルは、下記一般式(1)で表される。
【化5】
(一般式(1)中、R
1は、直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状の、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基または炭素数3~7のエーテルから2個の水素原子を除いた基を表し、nは1~5の整数を示す。)
【0013】
一般式(1)中、R1で示される炭素数1~10の脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキレン基または炭素数5~10の脂環式炭化水素から2個の水素原子を除いた基が挙げられる。炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。炭素数5~10の脂環式炭化水素としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、デカヒドロナフタレン等が挙げられる。
【0014】
一般式(1)中、R1で示される炭素数3~7のエーテルとしては、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、メチルイソプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルイソプロピルエーテル、メチルブチルエーテル、エチルブチルエーテル、メチルsec-ブチルエーテル、エチルsec-ブチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、エチルtert-ブチルエーテル等が挙げられる。
【0015】
一般式(1)中、脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~7であり、より好ましくは1~5であり、エーテルから2個の水素原子を除いた基の炭素数は、好ましくは3~6であり、より好ましくは3~5である。
一般式(1)中、nは、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~3であり、さらに好ましくは1~2である。
【0016】
一般式(1)で表されるビニルエーテルとしては、例えば、ヒドロキシメチルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、5-ペンチルビニルエーテル、3-ヒドロキシ-2-メチル-プロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-1-メチルエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-1-メチルプロピルビニルエーテル、1-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、3-ヒドロキシ-3-メチルプロピルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;2-ヒドロキシシクロペンチルビニルエーテル、3-ヒドロキシシクロペンチルビニルエーテル、2-ヒドロキシシクロへキシルビニルエーテル、3-ヒドロキシシクロへキシルビニルエーテル、4-ヒドロキシ-シクロへキシルビニルエーテル、4-(ヒドロキシメチル)シクロへキシルビニルエーテル、4-(2-ヒドロキシエチル)シクロへキシルビニルエーテル、2-ヒドロキシシクロへプチルビニルエーテル、2-ヒドロキシシクロオクチルビニルエーテル、4-ヒドロキシシクロオクチルビニルエーテル、2-ヒドロキシシクロデカニルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテル;ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、2-ヒドロキシ-1-メトキシエチルビニルエーテル、1-ヒドロキシ-2-メトキシエチルビニルエーテル、2-(ヒドロキシメトキシ)エチルビニルエーテル、1-(ヒドロキシメトキシ)エチルビニルエーテル、3-ヒドロキシ-1-メトキシプロピルビニルエーテル、3-ヒドロキシ-1-エトキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシ-1-エトキシブチルビニルエーテル、2-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルエチルビニルエーテル等のアルコキシビニルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、ラジカル重合性の点で、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、およびジエチレングリコールモノビニルエーテルが好ましい。
【0017】
(ビニルリン)
本発明による共重合体の原料モノマーであるビニルリンは、下記一般式(2)で表される。
【化6】
(一般式(2)中、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のアリールオキシ基を示す。また、R
2およびR
3は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
【0018】
一般式(2)中、上記R2およびR3のアルキル基の炭素数は、好ましくは1~8であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~4である。アルコキシ基の炭素数は、好ましくは1~8であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~4である。シクロアルキル基の炭素数は、好ましくは4~12であり、より好ましくは5~10であり、さらに好ましくは6~10である。アラルキル基の炭素数は、好ましくは6~12であり、より好ましくは6~10である。アリール基の炭素数は、好ましくは6~12であり、より好ましくは6~10である。アリールオキシ基の炭素数は、好ましくは6~12であり、より好ましくは6~10である。なお、上記炭素数に置換基の炭素数は含まれない。
【0019】
例えば、R2およびR3としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、フェノキシ基等のアリールオキシ基が挙げられる。
【0020】
一般式(2)中、R2およびR3が有してもよい置換基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、複素環基、アルキリデン基、シリル基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、およびオキソ基等が挙げられる。また、置換基に含まれる炭素数は好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4であり、さらに好ましくは1~3である。
【0021】
一般式(2)で表されるビニルエーテルとしては、例えば、ビニルホスホン酸ジメチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ジフェニル、ジフェニルビニルホスフィンオキシド、および9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ビニル-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等が挙げられる。
【0022】
(ビニルリンの合成方法)
上記一般式(2)で表されるビニルリンは、例えば、下記一般式(3)で表されるリン化合物のヒドロホスホリル化反応により得ることができる。具体的には、原料物質である下記一般式(3)で表されるリン化合物とアセチレンとを、触媒の存在下で、ヒドロホスホリル化反応によって、ビニルリンを合成することができる。
【化7】
(一般式(3)中、R
2およびR
3は、一般式(2)中のR
2およびR
3と同義である。)
また、R
2およびR
3の好ましい態様については、上述の通りである。
【0023】
ヒドロホスホリル化反応の原料物質の一般式(3)で表されるリン化合物とアセチレンの物質量比は、リン化合物の物質量を1としたときのアセチレンの物質量の比は、好ましくは0.01~1000であり、より好ましくは0.1~100であり、さらに好ましくは1~15である。
【0024】
ヒドロホスホリル化反応の反応温度は、特に限定されないが、反応効率や反応速度、副生成物を考慮して、好ましくは-20~60℃であり、より好ましくは-15~40℃であり、さらに好ましくは-10~10℃である。反応温度が上記範囲であれば、ヒドロホスホリル化反応の反応速度を向上させ、原料のリン化合物のビニルリンへの転化率を向上させることができる。
【0025】
ヒドロホスホリル化反応の反応時間は、特に限定されないが、反応効率や反応速度、副生成物を考慮して、好ましくは30分~1000分間であり、より好ましくは60分~900分間であり、さらに好ましくは120分~800分間である。反応時間が上記範囲であれば、ヒドロホスホリル化反応を十分に進行させ、原料のリン化合物のビニルリンへの転化率を向上させることができる。
【0026】
ヒドロホスホリル化反応においては、有機溶媒下および無溶媒下のいずれで行ってもよいが、無溶媒下で行うことが好ましい。無溶媒法を用い、穏やかな加熱を行うことでヒドロホスホリル化反応を進行させることができる。無溶媒であることで、反応終了後の溶媒除去工程を省略し、製造コストを低減することができる。なお、有機溶媒は、特に限定されないが、例えば、芳香族炭化水素、その他の炭化水素、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類等が挙げられる。
【0027】
ヒドロホスホリル化反応は、反応効率や反応速度、副生成物を考慮して、不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等を用いることが好ましい。
【0028】
[ビニルエーテルとビニルリンの共重合体の製造方法]
本発明による共重合体の製造方法は、下記一般式(1):
【化8】
(一般式(1)中、R
1は、直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状の、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基または炭素数3~7のエーテルから2個の水素原子を除いた基を表し、nは1~5の整数を示す。)
で表されるビニルエーテルと、
下記一般式(2):
【化9】
(一般式(2)中、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のアリールオキシ基を示す。また、R
2およびR
3は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
で表されるビニルリンとを、溶媒存在下または無溶媒で、ラジカル重合開始剤を用いて重合させる工程を含むものである。なお、一般式(1)中のR
1ならびに一般式(2)中のR
2およびR
3の好ましい態様については、上述の通りである。
【0029】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾ系重合開始剤および過酸化物系重合開始剤が挙げられる。アゾ系重合開始剤としては、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオナート)(MAIB)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルブチラート)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルペンタノアート)等のエステル型アゾ化合物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のニトリル型アゾ化合物;2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド等の酸アミド型アゾ化合物等が挙げられる。
【0030】
過酸化物系重合開始剤としては、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等のケトンパーオキシド類;ベンゾイルパーオキシド、デカノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類;ジクミルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド類;1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類;t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、ジ-t-ブチルパーオキシアゼレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシトリメチルアジペート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート等のアルキルパーオキシエステル類;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロプルカーボネート等のパーオキシカーボネート類等が挙げられる。
【0031】
上記のラジカル重合開始剤の中でも、分子量再現性の点でアゾ系重合開始剤が好ましく、アゾエステル化合物およびニトリル型アゾ化合物がより好ましく、アゾエステル化合物がさらに好ましく、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオナート)(MAIB)がさらにより好ましい。
【0032】
ラジカル重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、ラジカル重合開始剤の使用量は、反応温度やラジカル重合開始剤の種類、原料であるビニルエーテルおよびビニルリンの種類および組成、得られる共重合体の分子量等によって適宜調節することができる。例えば、原料モノマーの全量に対して好ましくは0.1~10mol%であり、より好ましくは0.5~5mol%である。
【0033】
重合溶媒としては、有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル;ジクロロメタン、トリクロロメタン等の塩素系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン等の芳香族炭化水素等を用いることができる。これらの有機溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、エタノール、ブタノール、および酢酸ブチル、およびトルエンからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0034】
(重合方法)
重合方法は特に制限されないが、例えば、予め反応器に原料モノマーとラジカル重合開始剤と、必要に応じて重合溶媒とを仕込んでおき、昇温することによって重合を開始させることができる。原料モノマーである一般式(1)で表されるビニルエーテルと一般式(2)で表されるビニルリンとの混合量のモル比は、好ましくは95:5~5:95であり、より好ましくは80:20~20:80である。
【0035】
また、加熱した原料モノマー又は原料モノマー溶液に、ラジカル重合開始剤を添加して重合を開始してもよい。ラジカル重合開始剤の添加は逐次添加でも一括添加でもよい。また、これらを組み合わせて、予めラジカル重合開始剤の一部を反応器に仕込んでおき、その後残部を反応系に逐次添加してもよい。逐次添加の場合、操作は煩雑になるが重合反応を制御しやすい。
【0036】
更に、発熱による温度上昇が懸念される場合や、複数の原料モノマーの反応速度が大きく異なる場合は、原料モノマー又は原料モノマー溶液を分割して、又は連続的に添加してもよい。この場合、原料モノマー又は原料モノマー溶液の一部を反応器に添加した時点で反応温度まで昇温し、その後残部を分割して、又は連続的に添加してもよいし、反応器に予め溶媒を仕込んでおき、加熱された溶媒中に原料モノマー又は原料モノマー溶液を分割して、又は連続的に添加してもよい。また、ラジカル重合開始剤は予め反応器に仕込んでおいてもよいし、単量体と合わせて、又は別々に系内に添加してもよいし、予めラジカル重合開始剤の一部を反応器に仕込んでおき、その後残部を反応系に逐次添加してもよい。このような方法は、発熱による温度上昇を抑制できるので、重合反応を制御しやすい。
【0037】
反応終了後、生成されるビニルエーテルとビニルリンの共重合体は、公知の操作、処理方法(例えば、中和、溶媒抽出、水洗、分液、溶媒留去、再沈殿など)により後処理されて単離される。
【0038】
重合温度は、ラジカル重合開始剤の種類に応じて適宜選択すればよく、段階的に温度を変えて反応させてもよい。一般的には50~180℃の範囲内であることが好ましく、60~170℃の範囲内であることが特に好ましい。反応温度が50℃以上であれば反応速度を保つことができ、反応温度が180℃以下であればラジカル重合開始剤の分解を抑制して効率的に重合を行うことができる。
【0039】
重合時間は、試薬の種類、量、反応温度によって異なるが、好ましくは2~90時間であり、より好ましくは2~50時間であり、更に好ましくは3~30時間である。
【0040】
[難燃性熱硬化性樹脂組成物]
本発明による難燃性熱硬化性樹脂組成物は、上記の共重合体と、熱硬化性樹脂用モノマーとを含むものであり、他の成分をさらに含んでもよい。上記の共重合体には、難燃成分としてリン原子が含まれている。熱硬化性樹脂用モノマーとして上記の共重合体(ポリオール)と重合付加反応できる化合物を用いることで、共重合体と熱硬化性樹脂用モノマーが反応して得られた樹脂中に難燃成分(リン原子)が化学的に結合して取り込まれる。そのため、樹脂から難燃成分がブリードアウトせず、共重合体の少量添加で高い難燃効果を得ることができる。さらに、本発明による難燃性熱硬化性樹脂組成物は、上記の共重合体が熱硬化性樹脂用モノマーと室温(例えば、10~30℃)で相溶するため、取り扱いが容易である。
【0041】
熱硬化性樹脂用モノマーとしては、上記の共重合体(ポリオール)と重合付加反応できるものが好ましく、ジイソシアネートであることがより好ましい。ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。これらのジイソシアネートは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、およびトルエンジイソシアネートが好ましい。
【0042】
他の成分としては、例えば、エポキシ化合物が挙げられる。エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、グリシジルメタアクリレート共重合系エポキシ樹脂、シクロヘキシルマレイミドとグリシジルメタアクリレートとの共重合エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
他の成分としては、エポキシ化合物以外にも、熱硬化性樹脂組成物に用いられる従来公知の添加剤が挙げられる、添加剤としては、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤、連鎖移動剤、熱安定剤、艶消し剤、希釈剤、可塑剤、および増粘剤等が挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
下記の実施例および比較例において、原料モノマーの転化率の分析および得られた共重合体の物性評価は以下の方法により行った。
(1)モノマー転化率の分析は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて行った。なお、「モノマー転化率」とは、重合開始前のモノマーに対する重合後のモノマーの消費率を、後述する測定条件でガスクロマトグラフィー(GC)により測定したモノマーのピーク面積から算出したものである
(GC条件)
カラム:DB-1(アジレントテクノロジー(株)製)
昇温プログラム:50℃5分保持→10℃/分で昇温→250℃5分保持
キャリアガス:窒素
カラム流速:0.95ml/分
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
(2)数平均分子量(Mn)重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)の分析は、後述する測定条件でゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて行った。
(GPC条件)
カラム:Shodex GPC LF804×3(昭和電工(株)製)
溶媒:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
流速:1.0ml/分
検量線:標準ポリスチレンスタンダード
(3)共重合体の化学構造の分析は、後述する測定条件でMALDI-MSを用いて行った。
(MALDI-MS条件)
分析装置:Bruker製rapiflex TOF/TOF型
マトリクス支援レーザー脱イオン化Reflector/Positiveモード
質量測定範囲:100~6000
マトリクス:ジトラノール
カチオン化剤:トリフルオロ酢酸ナトリウム
【0046】
<ビニルリンの合成例1>
1L三ツ口フラスコに塩化ニッケル3.71g、亜鉛2.18g、トリフェニルホスフィン30.3gを量り取り、容器内を窒素置換した。ここにトルエン42.0gを加え、95℃で6時間加熱攪拌し、ニッケル錯体と低極性添加物の混合物を得た。
【0047】
次に、亜リン酸ジメチル420gに、塩化亜鉛21.0g、触媒として上記で得られたニッケル錯体と低極性添加物の混合物を全量加え、アセチレンガスを吹き込んだところ、反応温度は25~28℃の間で変化し、660分かけて3.19molのガスを吸収し、ビニルホスホン酸ジメチル粗体を得た。この粗体を、減圧度1.0kPaで減圧蒸留し、沸点60~63℃の留分を285g回収し、ビニルホスホン酸ジメチルを得た。
【0048】
<ビニルリンの合成例2>
170L反応釜に9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(三光株式会社製HCA)にメタノール50.6kgを加え溶解した。釜内を窒素置換した後、テトラキス(トリメチルホスフィン)ニッケル(0)を0.3kg加え0℃で10分間攪拌した。ここにアセチレンを流速0.28kg/hで3.2時間吹き込んだ。反応液からメタノールを留去し、真空度0.3mmHg、175℃加熱で得られる留分を回収し、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ビニル-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドを得た。
【0049】
<共重合体の製造>
[実施例1]
ガラス製50mLシュレンクフラスコに中に、上記の合成例1で得られたビニルリン(以下、「P1M」と記載する)1.75g(12.9mmol)、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル(以下、「HEVE」と記載する)4.21g(4.8mmol)、2,2’-アゾビスイソ酪酸メチル(和光純薬工業(株)製「V-601」、以下、「MAIB」と記載する)0.046g(モノマー全量に対して1mol%)を加えて、70℃で18時間重合反応させ、共重合体を得た。得られた共重合体の収量は、5.02gであった。
【0050】
[実施例2]
HEVEの代わりにジエチレングリコールビニルエーテル(以下、「DEGV」と記載する)5.04g(3.8mmol)を添加した以外は、実施例1と同様にして重合反応させ、共重合体を得た。得られた共重合体の収量は、6.12gであった。
【0051】
[比較例1]
HEVEの代わりに2-ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、「HEMA」と記載する)5.00g(3.8mmol)を添加した以外は、実施例1と同様にして重合反応させ、共重合体を得た。得られた共重合体の収量は、6.70gであった。
【0052】
<共重合体の評価>
(相溶性)
上記の実施例1~2および比較例1で得られた各共重合体とヘキサメチレンジイソシアネートとを20℃で混合し、相溶性を目視にて確認した。
【0053】
(GPC分析)
上記の実施例1で得られた共重合体について、上記のGPC分析により、数平均分子量(Mn)重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
【0054】
上記の実施例1~2および比較例1の結果の一覧を表1に示した。
【0055】
<難燃性熱硬化性樹脂組成物の調製>
[実施例2]
フラスコに、上記で得られた共重合体(P1M-DEGV)1.0gとヘキサメチレンジイソシアネート0.47gとを20℃で添加し、難燃性熱硬化性樹脂組成物を得た。この難燃性熱硬化性樹脂組成物の外観は、均一な粘性液体であった。この難燃性熱硬化性樹脂組成物を110℃で2時間、重合付加反応させて、ポリウレタンを製造した。本発明による難燃性熱硬化性樹脂組成物は、ポリウレタン製造用のポリオールとして好適であった。
【0056】
[比較例1]
フラスコに、上記で得られた共重合体(P1M-HEMA)1.0gとヘキサメチレンジイソシアネート0.48gとを20℃で添加したが、均一に混合せず、固形樹脂と液体の混合物であった。そのため、比較例1で得られた共重合体は、ポリウレタン製造用のポリオールとしては不適であった。
【表1】
【0057】
<共重合体の製造>
[実施例3]
フラスコ中に、原料モノマーとしてP1M1.36g(10mmol)およびHEVE0.88g(10mmol)、重合開始剤としてMAIB46.1mg(モノマー全量に対して1mol%)、溶媒として酢酸ブチルを加えて、70℃で18時間重合反応させ、共重合体を得た。P1Mの転化率は100%であり、HEVEの転化率は54.7%であった。なお、モノマーの転化率は、上記の条件でGC-FIDで各成分を同定して、測定した。
【0058】
[実施例4]
HEVEの代わりにDEGV1.32g(10mmol)を添加し、溶媒を添加しなかった以外は、実施例3と同様にして重合反応させ、共重合体を得た。P1Mの転化率は87.9%であり、DEGVの転化率は79.7%であった。
【0059】
[実施例5]
HEVEの代わりに4-ヒドロキシブチルビニルエーテル(以下、「HBVE」と記載する)1.16g(10mmol)を添加し、溶媒を添加しなかった以外は、実施例3と同様にして重合反応させ、共重合体を得た。P1Mの転化率は100%であり、HBVEの転化率は35.6%であった。
【0060】
[実施例6]
P1Mの代わりにジフェニルビニルホスフィンオキシド(富士フィルム和光ケミカル(株)製、以下、「P4M」と記載する)0.457g(2mmol)を添加し、HEVEの使用量を1.94g(22mmol)酢酸ブチルの代わりにエタノールを添加した以外は、実施例3と同様にして重合反応させ、共重合体を得た。P4Mの転化率は56.0%であり、HEVEの転化率は58.7%であった。
【0061】
[実施例7]
P1Mの代わりに上記の合成例2で得られたビニルリン(以下、「P5M」と記載する)2.16g(10mmol)を添加し、溶媒を添加しなかった以外は、実施例3と同様にして重合反応させ、共重合体を得た。P5Mの転化率は100%であり、HEVEの転化率は68.3%であった。
【0062】
[実施例8]
MAIBの代わりに2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(以下、「AIBN」と記載する)0.033g(モノマー全量に対して1mol%)を添加した以外は、実施例3と同様にして重合反応させ、共重合体を得た。P1Mの転化率は87.3%であり、HEVEの転化率は77.3%であった。
【0063】
[実施例9]
P1M2.72g(20mmol)、HEVE1.76g(20mmol)、酢酸ブチルの代わりに2-ブタノール4.58gを加えた以外は、実施例3と同様にして重合反応させ、共重合体を得た。P1Mの転化率は100%であり、HEVEの転化率は66.7%であった。
【0064】
[実施例10]
P1M13.6g(100mmol)、HEVE8.8g(100mmol)、酢酸ブチルの代わりに2-ブタノール11.2gを加えた以外は、実施例3と同様にして重合反応させ、共重合体を得た。P1Mの転化率は100%であり、HEVEの転化率は56.9%であった。
【0065】
[実施例11]
酢酸ブチルの代わりにトルエンを用いた以外は、実施例3と同様にして重合反応させ、共重合体を得た。P1Mの転化率は100%であり、HEVEの転化率は75.4%であった。
【0066】
[実施例12]
AIBNの代わりにメチルエチルケトンパーオキシドを用いた以外は、実施例8と同様にして重合反応させ、共重合体を得た。P1Mの転化率は100%であり、HEVEの転化率は45.3%であった。
【0067】
<共重合体の評価>
(相溶性)
上記の実施例3~12で得られた各共重合体とヘキサメチレンジイソシアネートとを20℃で混合し、相溶性を目視にて確認した。
【0068】
(GPC測定)
上記の実施例3~5、8~12で得られた共重合体について、上記のGPC分析により、数平均分子量(Mn)重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。なお、実施例6、7で得られた共重合体は、分析溶媒に溶解しなかったため、測定しなかった。
【0069】
(MALDI-MS測定)
実施例9で得られた共重合体について上述のMALDI-MS測定を行った。得られたMALDI-MSスペクトルを
図1に示す。丸印でマークしたピークの位置からランダムにモノマーが導入されていると推定した。この結果に加え、GPC分析結果、モノマーの性質、反応時の経時モノマー変化結果、熱硬化物から原料のビニルリンの脱離が無いなどから総合的に判断すると、共重合体がランダム共重合体であることが分かった。他の実施例1~8および10~12で得られた共重合体も同様にランダム共重合体であると推察された。
【0070】
上記の実施例3~12の結果の一覧を表2に示した。
【表2】