IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電産コパル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-振動デバイス 図1
  • 特許-振動デバイス 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】振動デバイス
(51)【国際特許分類】
   F03G 7/06 20060101AFI20241125BHJP
   B06B 1/02 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
F03G7/06 C
F03G7/06 E
B06B1/02 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021051382
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149301
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001225
【氏名又は名称】ニデックプレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沼田 理志
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 恭生
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-162328(JP,A)
【文献】特開2016-120462(JP,A)
【文献】特開2017-210911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 7/06
B06B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な第1対向面を備える第1部材と、
前記第1対向面と対向する平坦な第2対向面を備える第2部材と、
長手方向両端間の間隔変化が制限された状態で、前記第1対向面と前記第2対向面との間に配置される帯状の形状記憶合金と、を有し、
前記形状記憶合金は、所定温度を上回ると、収縮して平坦な記憶形状になり、所定温度を下回ると、伸長して波形形状になる、振動デバイス。
【請求項2】
前記形状記憶合金の長手方向両端は、前記第1部材に固定されている一対の保持部材にそれぞれ固定されている、請求項1に記載の振動デバイス。
【請求項3】
前記保持部材は導電性を有し、前記保持部材を介して前記形状記憶合金に対する通電が行われる、請求項2に記載の振動デバイス。
【請求項4】
前記第2部材は、当該第2部材と前記保持部材との間に設けられた軸受により、前記第1部材に対して移動可能に支持されている、請求項2又は3に記載の振動デバイス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の振動デバイスを有する、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、振動を発生させるデバイスが様々な機器に搭載されている。例えば、携帯電話には、着信を知らせるための振動を発生させる振動デバイスが搭載されている。また、ゲーム機器には、遊戯性を高めるための振動を発生させる振動デバイスが搭載されている。このような振動デバイスの1つであるアクチュエータが特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載されているアクチュエータは、固定子,可動子,SMA(Shape Memory Alloy)及びバイアス材を有する。SMAは、線状であって、互いに対向する固定子及び可動子の間に配置されている。SMAを挟んで対向する固定子及び可動子の対向面は、互いに嵌合可能な波状に形成されている。
【0004】
上記SMAは、温度が所定温度を下回ると弛緩して伸長し、温度が所定温度を上回ると収縮して記憶形状に戻る。固定子と可動子との間に配置されているSMAが伸長すると、バイアス材の付勢によって可動子が固定子に近接する。この結果、可動子及び固定子の波状の対向面同士が互いに嵌合する。これに対し、固定子と可動子との間に配置されているSMAが収縮すると、バイアス材の付勢に抗して可動子が固定子から離間する。この結果、可動子と固定子の対向面同士の嵌合が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-210911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているアクチュエータでは、SMAを挟んで対向する固定子及び可動子の対向面が波状に形成されている。この結果、固定子及び可動子は、それぞれの表面に形成されている波の高さ以上の厚みを備えている。別の見方をすると、固定子及び可動子がある程度以上の厚みを有していないと、表面を波形に形成することはできない。一方、振動デバイスが搭載される機器の小型化を実現するために、振動デバイスの小型化、特に薄型化が求められている。
【0007】
本発明の目的は、振動デバイスの薄型化を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係る振動デバイスは、平坦な第1対向面を備える第1部材と、前記第1対向面と対向する平坦な第2対向面を備える第2部材と、長手方向両端間の間隔変化が制限された状態で、前記第1対向面と前記第2対向面との間に配置される帯状の形状記憶合金と、を有する。前記形状記憶合金は、所定温度を上回ると、収縮して平坦な記憶形状になり、所定温度を下回ると、伸長して波形形状になる。
【0009】
他の一実施形態に係る振動デバイスでは、前記形状記憶合金の長手方向両端が前記第1部材に固定されている一対の保持部材にそれぞれ固定される。
【0010】
他の一実施形態に係る振動デバイスでは、前記保持部材が導電性を有し、前記保持部材を介して前記形状記憶合金に対する通電が行われる。
【0011】
他の一実施形態に係る振動デバイスでは、前記第2部材が、当該第2部材と前記保持部材との間に設けられた軸受により、前記第1部材に対して移動可能に支持される。
【0012】
一実施形態に係る電子機器は、前記振動デバイスのいずれかを有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、振動デバイスの薄型化が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)は、振動デバイスの構造を模式的に示す断面図である。(b)は、(a)中のX-X線に沿う振動デバイスの断面図である。
図2】(a)は、形状記憶合金が収縮したときの振動デバイスを模式的に示す断面図である。(b)は、形状記憶合金が伸長したときの振動デバイスを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の一例について図面を参照しながら詳細に説明する。尚、実施形態を説明するための全ての図面において、同一の構成や要素には同一の符号を用い、原則として再度の説明は行わない。
【0016】
<全体構成>
図1(a)は、本実施形態に係る振動デバイス1Aの構造を模式的に示す断面図である。図1(b)は、図1(a)に示されているX―X線に沿う振動デバイス1Aの断面図である。別の見方をすると、図1(a)には、振動デバイス1Aの垂直断面が模式的に示されており、図1(b)には、振動デバイス1Aの水平断面が模式的に示されている。
【0017】
振動デバイス1Aは、第1部材10、第2部材20、形状記憶合金30、一対の保持部材40a,40b、電源回路50などを有する。第1部材10及び第2部材20は、それらの間に配置されている形状記憶合金30の形状変化に伴って相対移動する。図1(a)に示されている第2部材20に着目すると、当該第2部材20は、第1部材10に近接する方向と第1部材10から離間する方向とに移動する。そこで、以下の説明では、第1部材10を“固定子10”と呼び、第2部材20を“可動子20”と呼ぶ場合がある。
【0018】
ここで、説明の便宜上の理由により、図1(a)に示されている可動子20の移動方向を上下方向と定義する。さらに、可動子20が固定子10に近接する方向を下方と定義し、可動子20が固定子10から離間する方向を上方と定義する。また、上下方向と直交する2方向のうち、固定子10及び可動子20の長手方向と平行な方向を左右方向と定義し、固定子10及び可動子20の長手方向と直交する方向を前後方向と定義する。
【0019】
<固定子及び可動子>
可動子20は、固定子10の上に重ねて配置されている。この結果、固定子10の上面11と可動子20の下面21とは互いに対向している。互いに対向している固定子10の上面11及び可動子20の下面21は、どちらも平坦である。つまり、固定子10の上面11は、本発明の第1対向面に相当する。また、可動子20の下面21は、本発明の第2対向面に相当する。
【0020】
<保持部材>
保持部材40a,40bは、固定子10の左右両端にそれぞれ固定され、互いに対向している。固定子10の左右両端には、他の部分よりも一段低い段付き部12がそれぞれ形成されている。保持部材40aは右端の段付き部12に固定され、保持部材40bは左端の段付き部12に固定されている。
【0021】
それぞれの保持部材40a,40bと可動子20との間には、軸受60が設けられている。軸受60はマクロベアリングであり、可動子20を上下動可能に支持している。別の見方をすると、可動子20は、軸受60によって固定子10に対して移動可能に支持されている。
【0022】
<形状記憶合金>
形状記憶合金30は、左右方向を長手方向とし、前後方向を幅方向とし、上下方向を厚み方向とする帯状に形成されている。別の見方をすると、形状記憶合金30の平面形状は、左右方向を長辺方向とし、前後方向を短辺方向とする長方形(短冊形)である。
【0023】
図1(a),(b)から分かるように、形状記憶合金30の厚みは、長さ及び幅に対して非常に小さい(薄い)。つまり、形状記憶合金30は、帯状であるとともにシート状でもある。
【0024】
形状記憶合金30は、固定子10の上面11と可動子20の下面21との間に配置されている。また、形状記憶合金30の長手方向両端は、保持部材40a,40bにそれぞれ固定されている。具体的には、形状記憶合金30の右端は保持部材40aに半田接合されており、形状記憶合金30の左端は保持部材40bに半田接合されている。ここで、保持部材40a,40bは、金属などの導線性材料によって形成されている。つまり、形状記憶合金30は、導線性を有する保持部材40a,40bと電気的に導通している。また、保持部材40a,40bには電源回路50が接続されている。したがって、保持部材40a,40bを介して形状記憶合金30に通電することができる。別の見方をすると、保持部材40a,40bは、形状記憶合金30に電圧を印加するための電極として機能する。また、保持部材40a,40bは、形状記憶合金30と電源回路50とを接続する接続端子として機能する。
【0025】
形状記憶合金30の長手方向一端が固定されている保持部材40aは、固定子10に固定されている。また、形状記憶合金30の長手方向他端が固定されている保持部材40bも固定子10に固定されている。この結果、形状記憶合金30は、長手方向両端間の間隔変化が制限された状態にある。
【0026】
形状記憶合金30は、Ni-Ti系の合金である。形状記憶合金30に通電すると、ジュール熱による加熱(抵抗加熱)によって形状記憶合金30の温度が上昇する。一方、形状記憶合金30に対する通電を停止すると、放熱によって形状記憶合金30の温度が低下する。形状記憶合金30は、温度が所定温度(変態点)を上回ると、収縮して記憶形状になる(記憶形状に戻る。)。一方、形状記憶合金30は、温度が所定温度(変態点)を下回ると、弛緩して伸長する。本実施形態の形状記憶合金30の記憶形状は、凹凸のない平坦な形状である。
【0027】
<動 作>
図1(a),(b)に示されている振動デバイス1Aを作動させるときには、保持部材40a,40bを介して形状記憶合金30に通電する。より特定的には、電源回路50が接続されている保持部材40a,40bを介して形状記憶合金30に電圧を印加する。既述のとおり、通電によって温度が上昇した形状記憶合金30は、収縮して記憶形状に戻る。一方、通電停止によって温度が低下した形状記憶合金30は、弛緩して伸長する。
【0028】
図2(a)には、形状記憶合金30が収縮しているときの振動デバイス1Aが示されている。一方、図2(b)には、形状記憶合金30が伸長しているときの振動デバイス1Aが示されている。
【0029】
通電の停止によって図2(a)に示されている形状記憶合金30の温度が低下すると、当該形状記憶合金30は、長手方向に伸長しようとする。しかし、形状記憶合金30の長手方向両端は保持部材40a,40bに固定されている。つまり、形状記憶合金30は、長手方向への伸長が制限された状態にある。このため、形状記憶合金30の伸び分は、厚み方向(上下方向)に逃げる。この結果、形状記憶合金30は、図2(b)に示されるような波形形状になり、可動子20を押し上げる。一方、通電によって図2(b)に示されている形状記憶合金30の温度が上昇すると、当該形状記憶合金30は、平坦な記憶形状に戻る。この結果、それまで形状記憶合金30によって押し上げられていた可動子20が自重によって降下する。このようにして可動子20が上下動することにより、振動が発生する。
【0030】
これまでの説明から、形状記憶合金30にパルス電圧を印加すれば、連続振動が得られることがわかる。例えば、所定のパルス幅を有するパルス電圧を所定の周期で形状記憶合金30に印加すれば、連続振動が得られる。また、パルス幅や周期を変化させることにより、振動の特性を変化させることもできる。これにより、振動デバイス1Aが発生する振動が人間の触覚に与える影響を変化させることができる。
【0031】
尚、固定子10及び可動子20は、高抵抗の材料(形状記憶合金30の電気抵抗よりも大きな電気抵抗を有する材料)や絶縁性の材料によって形成されている。よって、形状記憶合金30に電圧が印加されても、形状記憶合金30に接している固定子10や可動子20に電流が通ることはないか、通ったとしてもその電流量は極めて少ない。
【0032】
本実施形態に係る振動デバイス1Aでは、固定子10の上面11と可動子20の下面21との間に形状記憶合金30が配置されている。そして、形状記憶合金30を挟んでいる固定子10の上面11及び可動子20の下面21は、双方とも平坦である。つまり、上面11や下面21を特定の形状にするために、固定子10や可動子20の厚みが制限を受けることはない。よって、固定子10及び可動子20の薄型化が可能であり、ひいては振動デバイス1Aの薄型化が可能である。
【0033】
また、固定子10と可動子20との間に配置されている形状記憶合金30は、帯状(シート状)である。帯状(シート状)の形状記憶合金30は、線状や糸状の形状記憶合金に比べ、固定子10と可動子20との間からはみ出したり、脱落したりし難い。図1(a),(b)を参照すると、形状記憶合金30は、前後に平行移動しない限り、固定子10と可動子20との間からはみ出したり、脱落したりしないことが分かる。このため、固定子10や可動子20の幅を形状記憶合金30の幅と同一幅まで狭めても、形状記憶合金30が固定子10から脱落することはない。つまり、図1(a),(b)に示されている固定子10や可動子20をさらに細くしても、形状記憶合金30の脱落やはみ出しを防止することができる。別の見方をすると、振動デバイス1Aの前後方向の寸法をさらに小さくすることができる。
【0034】
形状記憶合金30は、加熱されると平坦になり、冷却されると波形になる。したがって、加熱時の形状記憶合金30と固定子10及び可動子20との接触面積は、冷却時の形状記憶合金30と固定子10及び可動子20との接触面積よりも大きい(図2(a),(b)参照)。よって、形状記憶合金30に対する通電が停止されると(抵抗加熱が停止されると)、形状記憶合金30の熱が固定子10及び可動子20に速やかに伝達され、形状記憶合金30が冷却される。この結果、形状記憶合金30の熱サイクルが促進される。別の見方をすると、固定子10及び可動子20は、形状記憶合金30の放熱を促進させるヒートシンクとして機能する。よって、固定子10や可動子20を熱容量が大きな材料や熱伝導率が高い材料によって形成すれば、形状記憶合金30の熱サイクルをさらに促進させることができる。言い換えれば、振動デバイス1Aの応答性をさらに高めることができる。
【0035】
加えて、振動デバイス1Aは、永久磁石や電磁石などの磁力を帯びる部品を用いずに振動を発生させる。よって、振動デバイス1Aを機器に搭載するに際に磁力の影響を考慮する必要がない。このため、振動デバイス1Aが搭載される機器(特に、磁力の影響を受けやすい精密機器)の設計の自由度を高めることができる。
【0036】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、形状記憶合金と保持部材との固定方向は、半田接合に限られない。例えば、形状記憶合金の端部を保持部材に形成されているスリットに挟み込むことにより、形状記憶合金を保持部材に固定してもよい。もっとも、保持部材に形状記憶合金の端部を固定せず、突き当てるだけでも、形状記憶合金の長手方向両端間の間隔変化を制限することができる。
【0037】
保持部材やその他の部材を介さずに、形状記憶合金に電圧を印加してもよい。保持部材を電極や接続端子として利用しない場合には、保持部材を高抵抗の材料や絶縁性の材料によって形成してもよい。つまり、保持部材の材料は特定の材料に限定されない。また、保持部材を電極や接続端子として利用する場合であっても、導電性を確保する必要がある部分以外の部分には、酸化膜などの絶縁膜を形成してもよい。
【0038】
保持部材は、第1部材に固定されていなくともよい。例えば、第1部材及び保持部材が共通のベース部材にそれぞれ固定されていてもよい。また、形状記憶合金の長手方向両端は、保持部材以外の部材(例えば、第1部材)に固定されていてもよい。
【0039】
第1部材を第2部材に向けて常時付勢する力(弾性力や磁力など)を発生させる付勢部材を追加してもよい。もっとも、付勢部材が発生させる付勢力は、弛緩して伸長する形状記憶合金が第2部材を押し上げる力よりも小さい必要がある。
【0040】
本発明が適用された振動デバイスの用途は特に限定されない。本発明が適用された振動デバイスは、例えば、携帯型情報端末,家電用リモコン,照明スイッチ,眼鏡型告知フレーム,ウェアラブル端末,インシュリンポンプのような携帯型の精密機器などの電子機器に搭載することができる。本発明が適用された振動デバイスを何らかの機器に搭載する際には、PETフィルム等の樹脂フィルムで全体を覆うことにより、防塵性や防水性を高めることが好ましい。
【符号の説明】
【0041】
1A:振動デバイス、10:第1部材(固定子)、11:上面、12:段付き部、20:第2部材(可動子)、21:下面、30:形状記憶合金、40a,40b:保持部材、50:電源回路、60:軸受
図1
図2