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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】捺染用水性分散液
(51)【国際特許分類】
   D06P 1/44 20060101AFI20241125BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20241125BHJP
   D06P 1/90 20060101ALI20241125BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20241125BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
D06P1/44 F
C09D11/54
D06P1/44 J
D06P1/44 H
D06P1/90
C08L33/06
C08L75/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021056198
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022153120
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂口 彰啓
(72)【発明者】
【氏名】福田 樹
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-008455(JP,A)
【文献】特開2021-014516(JP,A)
【文献】特開2016-050277(JP,A)
【文献】特開2012-251062(JP,A)
【文献】特開2013-060513(JP,A)
【文献】特開2019-172842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 1/00- 7/00
C09D11/00- 13/00
D06M13/00- 15/715
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位、及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位を含み、前記カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が全構成単位に対して5.5質量%以上10質量%以下であり、前記カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体が、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、ジメチロールアクリルアミド、ジメチロールメタクリルアミド、及びジアセトンアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種であるアクリル樹脂の粒子と、
ウレタン樹脂の粒子と、
界面活性剤と、
水性媒体と、
を含み、
界面活性剤の含有量が、前記アクリル樹脂100質量部に対して0質量部を超えて1質量部未満であり、
前記アクリル樹脂の粒子の平均粒子径が、前記ウレタン樹脂の粒子の平均粒子径よりも大きい捺染用水性分散液。
【請求項2】
前記アクリル樹脂のガラス転移温度が10℃~80℃である請求項1に記載の捺染用水性分散液。
【請求項3】
前記アクリル樹脂が、シアン化ビニル単量体に由来する構成単位を含む請求項1又は請求項2に記載の捺染用水性分散液。
【請求項4】
前記ウレタン樹脂の粒子の含有量に対する前記アクリル樹脂の粒子の含有量の比が、質量基準で、60/40~90/10である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の捺染用水性分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、捺染用水性分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクを使用して布に印刷する技術が知られている。一般に、布への印刷に使用される水性インク(所謂、捺染用水性インク)は、バインダー樹脂として水性樹脂を含む。バインダー樹脂としての水性樹脂は、捺染用水性インクを調製する際に、水性樹脂の粒子を分散させた水性分散液、又は、水性樹脂を溶解させた水性溶液の形態で配合される。水性樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が多用されており、これらの水性樹脂を含む水性分散液又は水性溶液(所謂、バインダー液)の開発がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アクリロニトリルと、炭素原子数2~8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、オキシエチレン基を有する反応性界面活性剤と、を水中で乳化重合した繊維素繊維加工用水性樹脂分散体が開示されている。
また、特許文献2には、ウレタン樹脂を含む水分散液とシリコンエマルションとを混合してなる顔料捺染用バインダー組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-119620号公報
【文献】特開平2-91280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、捺染用水性インクに使用されるバインダー液(以下、単に「バインダー液」ともいう。)には、洗濯の際に剥落し難い(即ち、耐洗濯性に優れる)印捺画像の形成を実現できることが求められる。また、バインダー液には、擦れによって他のものに色移りし難い(即ち、摩擦堅牢性に優れる)印捺画像の形成を実現できることが求められる。さらに、捺染用水性インクの調製では、インクの発色性を高める観点から、様々な添加剤が配合されるため、バインダー液には、各種添加剤と混合した場合でも、不溶物を生じさせたり、インクの粘度を上昇させたりしない、所謂、インク配合用添加剤との混和安定性に優れることが求められる。
【0006】
一般に、アクリル樹脂の粒子を分散させた水性分散液は、ウレタン樹脂の粒子を分散させた水性分散液と比較して、形成される印捺画像の耐洗濯性及び摩擦堅牢性に劣る傾向がある。アクリル樹脂の粒子を分散させた水性分散液において、ウレタン樹脂の粒子を分散させた水性分散液と同様の効果を奏させるためには、高密度の架橋構造が形成されるような樹脂設計を行うことが考えられる。高密度の架橋構造を有する樹脂によれば、高い強度を有するインク膜(所謂、印捺画像)を形成できるためである。しかし、アクリル樹脂の粒子を分散させた水性分散液は、布に対する濡れ性があまり良好ではない傾向があり、アクリル樹脂の架橋構造を高密度化することでインク膜の強度を高めたとしても、インク膜の布への密着性が不足するため、形成される印捺画像の耐洗濯性及び摩擦堅牢性の改善には至らない。
一方、ウレタン樹脂の粒子は、布に対する濡れ性が良好であるため、ウレタン樹脂の粒子を含むインク膜は、布への密着性に優れる傾向がある。しかし、ウレタン樹脂の粒子は、濡れ性が高いという性質を有するが故に、インク配合用添加剤との間で凝集体を形成しやすい傾向がある。凝集体の発生は、インクの流動性を低下させる要因となり、印捺画像の形成に影響を及ぼす。
以上のように、水性樹脂を分散させた捺染用水性分散液において、耐洗濯性及び摩擦堅牢性に優れる印捺画像の形成を実現させるとともに、インク配合用添加剤との優れた混和安定性を実現させることは、従来困難であった。
【0007】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、耐洗濯性及び摩擦堅牢性に優れる印捺画像を形成することができ、かつ、インク配合用添加剤との混和安定性に優れる捺染用水性分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> (メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位、及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位を含み、上記カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が全構成単位に対して5質量%以上であるアクリル樹脂の粒子と、
ウレタン樹脂の粒子と、
界面活性剤と、
水性媒体と、
を含み、
界面活性剤の含有量が、上記アクリル樹脂100質量部に対して0質量部を超えて1質量部未満であり、
上記アクリル樹脂の粒子の平均粒子径が、上記ウレタン樹脂の粒子の平均粒子径よりも大きい捺染用水性分散液。
<2> 上記アクリル樹脂のガラス転移温度が10℃~80℃である<1>に記載の捺染用水性分散液。
<3> 上記アクリル樹脂が、シアン化ビニル単量体に由来する構成単位を含む<1>又は<2>に記載の捺染用水性分散液。
<4> 上記ウレタン樹脂の粒子の含有量に対する上記アクリル樹脂の粒子の含有量の比(即ち、アクリル樹脂の粒子の含有量/ウレタン樹脂の粒子の含有量)が、質量基準で、60/40~90/10である<1>~<3>のいずれか1つに記載の捺染用水性分散液。
【0009】
本開示の一実施形態によれば、耐洗濯性及び摩擦堅牢性に優れる印捺画像を形成することができ、かつ、インク配合用添加剤との混和安定性に優れる捺染用水性分散液が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の捺染用水性分散液について、詳細に説明する。以下に記載する要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施することができる。
【0011】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0012】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、捺染用水性分散液中の各成分の量は、捺染用水性分散液中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、捺染用水性分散液中に存在する上記複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
本開示において、「アクリル樹脂」とは、(メタ)アクリロイル基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、全構成単位〔即ち、アクリル樹脂の全構成単位〕の50質量%以上である樹脂を意味する。
【0014】
本開示において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の両方を包含する用語であり、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を包含する用語であり、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両方を包含する用語である。
【0015】
本開示において、「ウレタン樹脂」とは、ウレタン結合を含む樹脂を意味する。
【0016】
本開示において、「n-」はノルマルを意味し、「i-」はイソを意味し、「s-」はセカンダリーを意味し、「t-」はターシャリーを意味する。
【0017】
本開示において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0018】
[捺染用水性分散液]
本開示の捺染用水性分散液(以下、単に「水性分散液」ともいう。)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位、及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位を含み、上記カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が全構成単位に対して5質量%以上であるアクリル樹脂の粒子(以下、「アクリル樹脂粒子」ともいう。)と、ウレタン樹脂の粒子(以下、「ウレタン樹脂粒子」ともいう。)と、界面活性剤と、水性媒体と、を含み、界面活性剤の含有量が、上記アクリル樹脂100質量部に対して0質量部を超えて1質量部未満であり、上記アクリル樹脂の粒子の平均粒子径が、上記ウレタン樹脂の粒子の平均粒子径よりも大きい水性分散液である。
本開示の水性分散液は、耐洗濯性及び摩擦堅牢性に優れる印捺画像を形成することができ、かつ、インク配合用添加剤との混和安定性に優れる。
本開示の水性分散液がこのような効果を奏し得る理由については明らかでないが、本発明者らは以下のように推測している。但し、以下の推測は、本開示の水性分散液を限定的に解釈するものではなく、一例として説明するものである。
【0019】
本開示の水性分散液は、捺染に用いられる水性分散液であり、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位、及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位を含み、上記カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が全構成単位に対して5質量%以上であるアクリル樹脂の粒子と、ウレタン樹脂の粒子と、が少量の界面活性剤を含む水性媒体中に分散した状態で存在している。
本開示の水性分散液は、捺染用水性インクの原料(所謂、バインダー)として、好適に使用できる。
【0020】
本開示の水性分散液は、アクリル樹脂粒子及びウレタン樹脂粒子を含み、アクリル樹脂粒子の平均粒子径がウレタン樹脂粒子の平均粒子径よりも大きい。このため、本開示の水性分散液を含む水性インクを布の表面に塗布すると、ウレタン樹脂粒子は、アクリル樹脂粒子よりも布の繊維の奥に入り込みやすい。その結果、布の表面及びその付近には、アクリル樹脂粒子がより多く存在し、布の表面から離れた繊維の奥には、ウレタン樹脂粒子がより多く存在する状態の印捺画像が形成される。
本開示の水性分散液に含まれるアクリル樹脂粒子は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と、カルボキシ基を有する単量体と、特定量以上のカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体と、が共重合して形成された樹脂の粒子であり、高密度の架橋構造を有する。このため、アクリル樹脂粒子がより多く存在する布の表面及びその付近のインク層は高い強度を示す。一方、本開示の水性分散液に含まれるウレタン樹脂粒子は、布に対する濡れ性が良好であるため、ウレタン樹脂粒子がより多く存在するインク層は、布への密着性に優れる傾向がある。本開示の水性分散液によれば、布の表面及びその付近では、高い強度を示すインク層が形成され、布の表面から離れた繊維の奥では、布への密着性に優れるインク層が形成される。また、これらの層は、樹脂粒子の平均粒子径の差によって形成されるため、これらの層の間に明確な界面は存在しないことから、層分離が生じない。このため、本開示の水性分散液によれば、耐洗濯性及び摩擦堅牢性のいずれにも優れる印捺画像の形成を実現できると推測される。また、本開示の水性分散液は、界面活性剤の含有量が少ないため、形成される印捺画像に含まれる界面活性剤の含有量も少ない。印捺画像に含まれる界面活性剤の含有量が少ないと、再乳化に起因する耐水性の低下が生じ難いため、印捺画像の耐洗濯性が向上すると推測される。
ウレタン樹脂粒子は、濡れ性が高いという性質を有するが故に、インク配合用添加剤との間で凝集体を形成しやすい傾向がある。本開示の水性分散液は、アクリル樹脂粒子及びウレタン樹脂粒子を含むため、凝集体の形成の要因となるウレタン樹脂粒子のバインダー樹脂に占める割合が、従来のウレタン樹脂粒子の水性分散液と比較して少ない。このため、本開示の水性分散液は、インク配合用添加剤との混和安定性に優れると推測される。
【0021】
〔アクリル樹脂の粒子〕
本開示の水性分散液は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位、及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位を含み、上記カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が全構成単位に対して5質量%以上であるアクリル樹脂の粒子(即ち、アクリル樹脂粒子)を含む。
まず、アクリル樹脂の構成単位について説明する。
【0022】
<(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位>
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を含む。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位は、形成される印捺画像の靭性の向上に寄与し得る。
【0023】
本開示において、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位」とは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が付加重合して形成される構成単位を意味する。
本開示における「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体」には、カルボキシ基を有する単量体に該当する単量体、及び、カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に該当する単量体は、包含されない。
【0024】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の種類は、特に限定されない。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、無置換の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体であることが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のいずれであってもよい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体のアルキル基の炭素数は、例えば、1~18であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、1~6であることが更に好ましい。
【0025】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、i-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、i-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、n-ブチルアクリレート(n-BA)とメチルメタクリレート(MMA)との組み合わせが好ましい。
【0026】
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0027】
アクリル樹脂における(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の含有率は、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂の全構成単位に対して、40質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
アクリル樹脂における(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の含有率が、アクリル樹脂の全構成単位に対して40質量%以上であると、カルボキシ基を有する単量体及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体との共重合性が低下することによるアクリル樹脂の分子量の低下がより生じ難くなるため、形成される印捺画像の摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。
また、アクリル樹脂における(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の含有率は、例えば、アクリル樹脂の全構成単位に対して、94.9質量%以下であることが好ましく、94質量%以下であることがより好ましく、93質量%以下であることが更に好ましい。
アクリル樹脂における(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の含有率が高いほど、相対的にカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が低くなるため、形成される膜の架橋密度が低下する傾向にある。
アクリル樹脂における(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の含有率が、アクリル樹脂の全構成単位に対して94.9質量%以下であると、形成される膜の架橋密度がカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位の含有率の低下の影響をより受け難くなるため、形成される印捺画像の摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。
【0028】
<カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位>
アクリル樹脂は、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位を含む。
カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位は、形成される印捺画像の摩擦堅牢性の向上に寄与し得る。
【0029】
本開示において、「カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位」とは、カルボキシ基を有する単量体が付加重合して形成される構成単位を意味する。
【0030】
カルボキシ基を有する単量体の種類は、特に限定されない。
カルボキシ基を有する単量体としては、例えば、1分子中に少なくとも1つのカルボキシ基とエチレン性不飽和基とを有する単量体が挙げられる。
エチレン性不飽和基は、特に限定されない。
エチレン性不飽和基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ビニルフェニル基、(メタ)アクリルアミド基、及び(メタ)アクリロイル基が挙げられる。
エチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0031】
カルボキシ基を有する単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、グルタコン酸、シトラコン酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート〔例えば、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート〕、コハク酸エステル(例えば、2-アクリロイルオキシエチル-コハク酸)、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及びネオデカン酸ビニルが挙げられる。
これらの中でも、カルボキシ基を有する単量体としては、アクリル酸(AA)及びメタクリル酸(MAA)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、メタクリル酸(MAA)がより好ましい。
【0032】
アクリル樹脂は、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0033】
アクリル樹脂におけるカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位の含有率は、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂の全構成単位に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましい。
アクリル樹脂におけるカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、アクリル樹脂の全構成単位に対して0.1質量%以上であると、形成される印捺画像の摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。また、アクリル樹脂におけるカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、アクリル樹脂の全構成単位に対して0.1質量%以上であると、樹脂粒子の分散性がより良好となる傾向がある。
また、アクリル樹脂におけるカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位の含有率は、例えば、アクリル樹脂の全構成単位に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましい。
アクリル樹脂におけるカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、アクリル樹脂の全構成単位に対して10質量%以下であると、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体との共重合性が低下することによるアクリル樹脂の分子量の低下がより生じ難くなるため、形成される印捺画像の摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。
【0034】
<カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位>
アクリル樹脂は、カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位を含み、上記構成単位の含有率が全構成単位に対して5質量%以上である。
カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位は、形成される印捺画像の摩擦堅牢性の向上に寄与し得る。
【0035】
本開示において、「カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位」とは、カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体が付加重合して形成される構成単位を意味する。
【0036】
カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体の種類は、特に限定されない。
カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体としては、例えば、1分子中に少なくとも1つのカルボキシ基以外の架橋性官能基とエチレン性不飽和基とを有する単量体が挙げられる。
【0037】
カルボキシ基以外の架橋性官能基としては、架橋剤との架橋反応により架橋構造を形成し得る官能基又は架橋性官能基同士の反応により架橋構造を形成し得る官能基であって、カルボキシ基以外の官能基であれば、特に限定されない。
カルボキシ基以外の架橋性官能基の具体例としては、メチロール基、ケトン基、水酸基、及びアミド基が挙げられる。
これらの中でも、カルボキシ基以外の架橋性官能基としては、メチロール基及びケトン基から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0038】
エチレン性不飽和基は、特に限定されない。
エチレン性不飽和基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ビニルフェニル基、(メタ)アクリルアミド基、及び(メタ)アクリロイル基が挙げられる。
エチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0039】
カルボキシ基以外の架橋性官能基としてメチロール基を有する単量体の具体例としては、N-メチロールアクリルアミド(NMAM)、N-メチロールメタクリルアミド、ジメチロールアクリルアミド、及びジメチロールメタクリルアミドが挙げられる。
これらの中でも、メチロール基を有する単量体としては、N-メチロールアクリルアミド(NMAM)が好ましい。
【0040】
カルボキシ基以外の架橋性官能基としてケトン基を有する単量体の具体例としては、ジアセトンアクリルアミド(DAAD)が挙げられる。
【0041】
アクリル樹脂は、カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0042】
アクリル樹脂におけるカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位の含有率は、アクリル樹脂の全構成単位に対して、5質量%以上であり、5.5質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることがより好ましい。
アクリル樹脂におけるカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、アクリル樹脂の全構成単位に対して5質量%以上であると、形成される印捺画像の摩擦堅牢性が優れる傾向を示す。
また、アクリル樹脂におけるカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位の含有率の上限は、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂の全構成単位に対して、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。
アクリル樹脂におけるカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が、アクリル樹脂の全構成単位に対して20質量%以下であると、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と十分に共重合することで、アクリル樹脂の重合度が良好に保持されるため、形成される印捺画像の摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。
【0043】
<シアン化ビニル単量体に由来する構成単位>
本開示におけるアクリル樹脂は、シアン化ビニル単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
アクリル樹脂がシアン化ビニル単量体に由来する構成単位を含むと、例えば、形成される印捺画像の膜厚を厚くした場合であっても、シアン化ビニル単量体のビニル骨格に由来する高い弾性率により、印捺画像が優れた摩擦堅牢性を示す傾向がある。
【0044】
本開示において、「シアン化ビニル単量体に由来する構成単位」とは、シアン化ビニル単量体が付加重合して形成される構成単位を意味する。
【0045】
シアン化ビニル単量体の具体例としては、アクリロニトリル(AN)及びメタクリロニトリルが挙げられる。
これらの中でも、シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル(AN)が好ましい。
【0046】
アクリル樹脂は、シアン化ビニル単量体に由来する構成単位を含む場合、シアン化ビニル単量体に由来する構成単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0047】
アクリル樹脂がシアン化ビニル単量体に由来する構成単位を含む場合、アクリル樹脂におけるシアン化ビニル単量体に由来する構成単位の含有率は、特に限定されない。
アクリル樹脂におけるシアン化ビニル単量体に由来する構成単位の含有率は、例えば、アクリル樹脂の全構成単位に対して、5質量%以上であることが好ましく、6.5質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることが更に好ましい。
アクリル樹脂におけるシアン化ビニル単量体に由来する構成単位の含有率が、アクリル樹脂の全構成単位に対して5質量%以上であると、例えば、形成される印捺画像の膜厚を厚くした場合であっても、シアン化ビニル単量体のビニル骨格に由来する高い弾性率により、印捺画像が優れた摩擦堅牢性を示す傾向がある。
また、アクリル樹脂におけるシアン化ビニル単量体に由来する構成単位の含有率は、例えば、アクリル樹脂の全構成単位に対して、30質量%以下であることが好ましく、28質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが更に好ましい。
アクリル樹脂におけるシアン化ビニル単量体に由来する構成単位の含有率が、アクリル樹脂の全構成単位に対して30質量%以下であると、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と十分に共重合することで、アクリル樹脂の重合度が良好に保持されるため、形成される印捺画像の摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。
【0048】
<その他の構成単位>
アクリル樹脂は、本開示の水性分散液の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、既述の構成単位、即ち、必須の構成単位である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位、カルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位、及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位、並びに、任意の構成単位であるシアン化ビニル単量体に由来する構成単位以外の構成単位(所謂、その他の構成単位)を含んでいてもよい。
【0049】
その他の構成単位を構成する単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、p-クロロスチレン、クロロメチルスチレン、及びビニルトルエンに代表される芳香族モノビニル、並びに、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及びバーサチック酸ビニルに代表されるビニルエステルが挙げられる。また、これらの単量体の各種誘導体が挙げられる。
【0050】
アクリル樹脂は、その他の構成単位を含む場合、その他の構成単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0051】
アクリル樹脂がその他の構成単位を含む場合、アクリル樹脂におけるその他の構成単位の含有率は、特に限定されず、本開示の水性分散液の効果を損なわない範囲で、適宜設定できる。
【0052】
<<アクリル樹脂粒子の平均粒子径>>
アクリル樹脂粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、50nm~300nmであることが好ましく、60nm~280nmであることがより好ましく、70nm~250nmであることが更に好ましい。
アクリル樹脂粒子の平均粒子径が50nm以上であると、例えば、アクリル樹脂の固形分濃度を高めた場合であっても、水性分散液の粘度を低く保ちやすい。このため、本開示の水性分散液の工業的生産性がより向上し得る。
アクリル樹脂粒子の平均粒子径が300nm以下であると、水性分散液中でアクリル樹脂粒子が沈降し難くなり、分散状態を良好に保ちやすい。このため、本開示の水性分散液の経時での分散安定性がより向上し得る。
【0053】
本開示において「アクリル樹脂粒子の平均粒子径」は、日本化学会編「新実験化学講座4 基礎技術3 光(II)」第725頁~第741頁(昭和51年7月20日丸善(株)発行)に記載された動的光散乱法により測定された値である。具体的な方法は、以下のとおりである。
アクリル樹脂粒子の水性分散液(以下、「水性分散液X」ともいう。)を蒸留水で希釈し、十分に撹拌混合した後、10mm角のガラスセル中にパスツールピペットを用いて5mL採取し、これを動的光散乱光度計〔例えば、シスメックス(株)製のゼータサイザー 1000HS〕にセットする。減衰率(Attenuator)の設定値をx16(16倍)に設定し、減衰率のCount Rateが150kCps~200kCpsになるように、水性分散液Xの希釈液の濃度を調整した後、測定温度25℃±1℃、及び光散乱角90°の条件で測定した結果をコンピュータ処理することにより、水性分散液X中のアクリル樹脂粒子の平均粒子径を求める。また、平均粒子径の値は、Z平均の値を用いる。
【0054】
本開示の水性分散液に含まれるアクリル樹脂粒子の平均粒子径は、後述のウレタン樹脂粒子の平均粒子径よりも大きい。
本開示の水性分散液に含まれるアクリル樹脂粒子の平均粒子径が、ウレタン樹脂粒子の平均粒子径よりも大きいと、形成される印捺画像の耐洗濯性及び摩擦堅牢性が優れる傾向を示す。
【0055】
<<アクリル樹脂のガラス転移温度>>
アクリル樹脂のガラス転移温度(以下、「Tg」ともいう。)は、特に限定されないが、例えば、10℃~80℃であることが好ましく、20℃~70℃であることがより好ましく、30℃~50℃であることが更に好ましい。
アクリル樹脂のガラス転移温度が上記範囲内であると、形成される摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。
【0056】
本開示において、「アクリル樹脂のガラス転移温度」は、示差走査熱量計(DSC:Differential scanning calorimetry)を用い、下記の方法により測定される値である。
剥離紙上に、アクリル樹脂を、4ミル(101.6μm)のアプリケーターを用いて塗布する。次いで、塗布したアクリル樹脂を乾燥(乾燥温度:105℃、乾燥時間:10分間)させ、アクリル樹脂の乾燥物を得る。この得られた乾燥物を測定用サンプルとする。次いで、測定用サンプルである乾燥物10mgをアルミ製のサンプルパン〔商品名:Tzero Pan、TA Instrument(株)製〕に詰め、アルミ製の蓋〔商品名:Tzero Hermetic Lid、TA Instrument(株)製〕で封をした後、示差走査熱量計を用いて、ガラス転移温度を測定する。測定条件を以下に示す。測定は、同一サンプルについて2回行い、2回目の測定で得られる値をアクリル樹脂のガラス転移温度として採用する。
示差走査熱量計としては、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製の示差走査熱量計(商品名:DSC6220)を用いることができる。
【0057】
-測定条件-
雰囲気条件:大気下
測定温度範囲:-90℃~100℃
昇温速度:20℃/分
標準物質:空のサンプルパン
【0058】
<<アクリル樹脂粒子の含有率>>
本開示の水性分散液におけるアクリル樹脂粒子の含有率は、特に限定されないが、例えば、水性分散液の全質量に対して、20質量%~60質量%であることが好ましく、25質量%~55質量%であることがより好ましく、30質量%~50質量%であることが更に好ましい。
本開示の水性分散液におけるアクリル樹脂粒子の含有率が、水性分散液の全質量に対して、上記範囲内であると、本開示の水性分散液の工業的生産性がより良好となる傾向がある。
【0059】
〔ウレタン樹脂の粒子〕
本開示の水性分散液は、ウレタン樹脂の粒子(即ち、ウレタン樹脂粒子)を含む。
ウレタン樹脂粒子は、形成される印捺画像の耐洗濯性及び摩擦堅牢性の向上に寄与し得る。
ウレタン樹脂の種類は、特に限定されない。
ウレタン樹脂としては、例えば、ポリオール骨格にエーテル結合を含むポリエーテルポリオール型ウレタン樹脂、ポリオール骨格にエステル結合を含むポリエステルポリオール型ウレタン樹脂、及びポリオール骨格にカーボネート結合を含むポリカーボネートポリオール型ウレタン樹脂が挙げられる。
【0060】
ウレタン樹脂は、膜を形成した場合の最大抗張力が、例えば、0.3MPa以上であることが好ましく、0.6MPa以上であることがより好ましく、1.0MPa以上であることが更に好ましい。
ウレタン樹脂の膜を形成した場合の最大抗張力が0.3MPa以上であると、形成される印捺画像の摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。理由としては、布に印刷された印捺画像に対して、布から剥離される方向に力が働いた際に、印捺画像中に存在するウレタン樹脂が十分に抗張するためと考えられる。
ウレタン樹脂の膜を形成した場合の最大抗張力の上限は、特に限定されないが、例えば、100MPa以下であることが好ましい。
【0061】
また、ウレタン樹脂は、膜を形成した場合の伸度が、例えば、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、110%以上であることが更に好ましい。
ウレタン樹脂の膜を形成した場合の伸度が50%以上であると、印捺画像の耐洗濯性がより優れる傾向を示す。理由としては、布に印刷された印捺画像に対して、布から剥離される方向に力が働いた際に、印捺画像中に存在するウレタン樹脂が十分に伸長し、印捺画像の凝集破壊が生じ難いためと考えられる。
ウレタン樹脂の膜を形成した場合の伸度の上限は、特に限定されないが、例えば、1500%以下であることが好ましい。
【0062】
本開示において、ウレタン樹脂の膜を形成した場合の最大抗張力及び伸度は、下記の方法により測定される値である。
水平に固定した離型紙(大きさ:250mm×300mm)上に、ドクターブレードを用いて、乾燥後のフィルムの平均厚さが50μm~100μmの範囲に入るように、ウレタン樹脂粒子の水性分散液を塗布し、塗布膜を形成した。フィルムの平均厚さは、任意に選択した5箇所のフィルム厚さを、膜厚計〔商品名:デジタルマイクロメータ M-30、ソニー(株)製〕を用いて測定した後、測定値を算術平均し、求めた値である。
次いで、形成した塗布膜を、室温(23℃)にて10分間乾燥させた後、設定温度140℃の熱風循環式乾燥器内で10分間熱処理し、試験用フィルム片を作製した。作製した試験用フィルム片は、雰囲気温度23℃、65%RHの環境下に3時間以上静置した後、引張試験を行い、引張応力-伸度曲線を作成した。そして、作成した引張応力-伸度曲線から、最大抗張力(単位:MPa)及び伸度(単位:%)を求めた。
引張試験は、島津卓上型精密万能試験機〔商品名:オートグラフ AGS-50NX、(株)島津製作所製〕及びフィルム保持用冶具(幅:10mm)を用い、つかみ間隔10mm及び引張速度100mm/分の条件にて行った。
【0063】
ウレタン樹脂粒子の平均粒子径は、既述のアクリル樹脂の平均粒子径よりも小さければ、特に限定されない。
ウレタン樹脂粒子の平均粒子径は、例えば、10nm~200nmであることが好ましく、20nm~150nmであることがより好ましく、30nm~100nmであることが更に好ましい。
ウレタン樹脂粒子の平均粒子径が10nm以上であると、インク配合用添加剤との混和安定性により優れる水性分散液を実現し得る。
ウレタン樹脂粒子の平均粒子径が200nm以下であると、ウレタン樹脂粒子よりも平均粒子径が大きいアクリル樹脂粒子の製造がより容易となる傾向がある。
ウレタン樹脂粒子の平均粒子径は、既述のアクリル樹脂粒子の平均粒子径と同様の方法により測定される値である。
【0064】
ウレタン樹脂粒子としては、市販品を使用できる。
ウレタン樹脂粒子の市販品としては、第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス 150」、及び「スーパーフレックス 210」、宇部興産(株)製の「ETERNACOLL(登録商標) UW-1005D-C1」、及び「ETERNACOLL(登録商標) ST-053D」、並びに、ADEKA(株)製の「アデカボンタイター(登録商標) HUX-320」が挙げられる。
【0065】
<<ウレタン樹脂粒子の含有量に対するアクリル樹脂粒子の含有量の比>>
ウレタン樹脂粒子の含有量に対するアクリル樹脂粒子の含有量の比(即ち、アクリル樹脂粒子の含有量/ウレタン樹脂粒子の含有量)は、特に限定されないが、例えば、質量基準で、50/50~90/10であることが好ましく、60/40~90/10であることがより好ましく、70/30~90/10であることが更に好ましく、70/30~80/20であることが特に好ましい。
ウレタン樹脂粒子の含有量に対するアクリル樹脂粒子の含有量の比が、質量基準で、50/50以上であると、インク配合用添加剤との混和安定性により優れる水性分散液を実現し得る。
ウレタン樹脂粒子の含有量に対するアクリル樹脂粒子の含有量の比が、質量基準で、90/10以下であると、形成される印捺画像の耐洗濯性及び摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。
【0066】
〔水性媒体〕
本開示の水性分散液は、水性媒体を含む。
本開示の水性分散液に含まれる水性媒体は、樹脂粒子(即ち、アクリル樹脂粒子及びウレタン樹脂粒子;以下、同じ。)の分散媒として機能し得る。
水性媒体は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択できる。
水性媒体の具体例としては、水、及び水とアルコール系溶剤との混合液が挙げられる。
水性媒体としては、例えば、樹脂粒子の分散性の観点から、水が好ましい。
本開示の水性分散液における水性媒体の含有率は、特に限定されないが、例えば、水性分散液の全質量に対して、35質量%~85質量%であることが好ましく、45質量%~80質量%であることがより好ましく、55質量%~75質量%であることが更に好ましい。
本開示の水性分散液における水性媒体の含有率が、水性分散液の全質量に対して上記範囲内であると、本開示の水性分散液の工業的生産性がより良好となる傾向がある。また、本開示の水性分散液における水性媒体の含有率が、水性分散液の全質量に対して上記範囲内であると、樹脂粒子の分散性がより良好となる傾向がある。
【0067】
〔界面活性剤〕
本開示の水性分散液は、界面活性剤を含み、水性分散液における界面活性剤の含有量は、アクリル樹脂100質量部に対して、0質量部を超えて1質量部未満である。
界面活性剤は、樹脂粒子の分散性の向上に寄与し得る。
【0068】
界面活性剤の種類は、特に限定されない。
界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0069】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウムに代表されるポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムに代表されるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、及びアルキルリン酸エステル塩が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、及びポリオキシエチレンラウリルエーテルに代表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、並びに、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルに代表されるポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテルが挙げられる。
【0070】
界面活性剤としては、市販品を使用できる。
界面活性剤の市販品の例としては、第一工業製薬(株)製の「ハイテノール(登録商標) NF-08」、「ハイテノール(登録商標) NF-13」、及び「ノイゲン(登録商標) EA-197D」が挙げられる。
【0071】
本開示の水性分散液は、界面活性剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0072】
本開示の水性分散液における界面活性剤の含有量は、アクリル樹脂100質量部に対して、0質量部を超えて1質量部未満であり、0質量部を超えて0.8質量部未満であることが好ましく、0質量部を超えて0.6質量部未満であることがより好ましい。
本開示の水性分散液における界面活性剤の含有量が、アクリル樹脂100質量部に対して0質量部を超えると、樹脂粒子を分散させることができる。
本開示の水性分散液における界面活性剤の含有量が、アクリル樹脂100質量部に対して1質量部未満であると、印捺画像が水に触れた場合でも、印捺画像において再乳化現象が起こり難い。このため、形成される印捺画像の耐洗濯性が優れる傾向を示す。
【0073】
〔架橋剤〕
本開示の水性分散液は、架橋剤を含むことが好ましい。
本開示の水性分散液が架橋剤を含むと、形成される印捺画像に樹脂粒子同士が架橋剤によって架橋した、より高密度の架橋構造を有する架橋体が含まれることになるため、形成される印捺画像の強度がより高まるとともに、形成される印捺画像が布からより剥がれ難くなる。このため、形成される印捺画像の摩擦堅牢性及び耐洗濯性がより優れる傾向を示す。
【0074】
架橋剤の種類は、特に限定されない。
架橋剤としては、例えば、ヒドラジド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、ブロックイソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤、及びカルボジイミド系架橋剤が挙げられる。
これらの中でも、架橋剤としては、ヒドラジド系架橋剤及びオキサゾリン系架橋剤から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0075】
ヒドラジド系架橋剤としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)、セバシン酸ジヒドラジド(SDH)、ドデカンジオヒドラジド(DDH)、イソフタル酸ジヒドラジド(IDH)、サリチル酸ヒドラジド(SAH)等のヒドラジド基を有する化合物が挙げられる。
【0076】
オキサゾリン系架橋剤としては、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、5-メチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4,4-ジメチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4,4-ジメチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4-アクリロイル-オキシメチル-2,4-ジメチル-2-オキサゾリン、4-メタクリロイルオキシメチル-2,4-ジメチル-2-オキサゾリン、4-メタクリロイルオキシメチル-2-フェニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-(4-ビニルフェニル)-4,4-ジメチル-2-オキサゾリン、4-エチル-4-ヒドロキシメチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4-エチル-4-カルボエトキシメチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等のオキサゾリン基を有する化合物が挙げられる。また、オキサゾリン系架橋剤としては、上記オキサゾリン基を有する化合物に由来する構成単位を含むポリマー組成物も挙げられる。
【0077】
架橋剤としては、市販品を使用できる。
架橋剤の市販品の例としては、ヒドラジド系架橋剤である(株)日本ファインケム製の「ADH(商品名)」、並びに、オキサゾリン系架橋剤である(株)日本触媒製の「エポクロス(登録商標) WS-300」及び「エポクロス(登録商標) WS-500」が挙げられる。
【0078】
本開示の水性分散液は、架橋剤を含む場合、架橋剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0079】
本開示の水性分散液が架橋剤を含む場合、水性分散液における架橋剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることが更に好ましい。
本開示の水性分散液における架橋剤の含有量が、アクリル樹脂100質量部に対して0.1質量部以上であると、形成される印捺画像の耐洗濯性及び摩擦堅牢性がより向上する傾向を示す。
また、本開示の水性分散液における架橋剤の含有量は、アクリル樹脂100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましい。
水性分散液中に架橋剤が多量に含まれると、過度に高い密度の架橋構造を有する印捺画像が形成されるため、印捺画像の伸縮性(可撓性)が低下し、印捺画像の摩擦堅牢性が低下する場合がある。本開示の水性分散液における架橋剤の含有量が、アクリル樹脂100質量部に対して10質量部以下であると、水性分散液中に架橋剤が多量に含まれることに起因する印捺画像の摩擦堅牢性の低下が生じ難い傾向がある。
【0080】
〔その他の成分〕
本開示の水性分散液は、その効果を損なわない範囲において、必要に応じて、既述した成分以外の成分(所謂、その他の成分)を含んでいてもよい。
その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、pH調整剤、消泡剤等の各種添加剤が挙げられる。
【0081】
本開示の水性分散液がその他の成分を含む場合、その他の成分の含有量は、本開示の水性分散液の効果を損なわない範囲において、適宜設定できる。
【0082】
[水性分散液のpH]
本開示の水性分散液のpHは、例えば、水性媒体中における樹脂粒子の分散性の観点から、2~10が好ましい。
本開示の水性分散液のpHの測定方法は、特に限定されない。
本開示の水性分散液のpHは、pHメータを用い、JIS Z 8802:2011に準拠した方法により、液温25℃の条件にて測定した値を採用する。測定装置としては、例えば、(株)堀場製作所製のpHメータ(商品名:F-51)を用いることができる。
【0083】
<用途>
本開示の水性分散液は、捺染用として好適である。
本開示の水性分散液は、耐洗濯性及び摩擦堅牢性に優れる印捺画像を形成することができ、かつ、インク配合用添加剤との混和安定性に優れるため、例えば、捺染用の水性インクに使用されるバインダー液として、好ましく用いることができる。
【0084】
[水性分散液の製造方法]
本開示の水性分散液の製造方法は、既述の水性分散液を製造できればよく、特に限定されない。本開示の水性分散液を製造する方法としては、例えば、水性分散液を製造しやすいとの観点から、以下で説明する製造方法(以下、「本実施形態に係る製造方法」ともいう。)が好ましい。
【0085】
本実施形態に係る製造方法は、水性媒体及び界面活性剤の存在下、少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、カルボキシ基を有する単量体、及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体を、重合開始剤を用いて重合させて、アクリル樹脂の粒子を含む水性分散液Xを得る工程(以下、「乳化重合工程」ともいう。)と、アクリル樹脂の粒子を含む水性分散液Xとウレタン樹脂の粒子を含む水性分散液Yとを混合する工程(以下、「混合工程」ともいう。)と、を含む。
【0086】
以下、本実施形態の製造方法における各工程について説明するが、既述の水性分散液と共通する事項、例えば、水性分散液に含まれる成分の詳細については、説明を省略する。
【0087】
<乳化重合工程>
乳化重合工程は、水性媒体及び界面活性剤の存在下、少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、カルボキシ基を有する単量体、及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体を、重合開始剤を用いて重合させて、アクリル樹脂の粒子を含む水性分散液Xを得る工程である。
乳化重合工程では、少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と、カルボキシ基を有する単量体と、カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体と、の共重合により形成されたアクリル樹脂の粒子が、水性媒体中に分散している水性分散液Xを得ることができる。
【0088】
重合方法としては、特に限定されないが、例えば、以下に示す(1)~(3)の方法が挙げられる。
(1)温度計、撹拌棒、還流冷却器、滴下ロート等を備えた反応容器内に、少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と、カルボキシ基を有する単量体と、カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体と、界面活性剤と、水性媒体(例えば、水)と、を仕込み、反応容器内を昇温させた後、適宜、重合開始剤、還元剤等を加えて、乳化重合反応を進行させる方法(所謂、一括仕込み方式)
(2)温度計、撹拌棒、還流冷却器、滴下ロート等を備えた反応容器内に、少なくとも界面活性剤と水性媒体(例えば、水)と、を仕込み、反応容器内を昇温させた後、単量体成分〔少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、カルボキシ基を有する単量体、及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体〕を滴下し、適宜、重合開始剤、還元剤等を加えて、乳化重合反応を進行させる方法(所謂、モノマー滴下法)
(3)単量体成分〔少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、カルボキシ基を有する単量体、及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体〕を予め、少なくとも界面活性剤と水性媒体(例えば、水)と、を用いて乳化させ、プレエマルションを得た後、得られたプレエマルションを、温度計、撹拌棒、還流冷却器、滴下ロート等を備えた反応容器内に滴下し、適宜、重合開始剤、還元剤等を加えて、乳化重合反応を進行させる方法(所謂、乳化モノマー滴下法)
これらの中でも、重合方法としては、例えば、工業的生産性の観点から、上記(3)の乳化モノマー滴下法が好ましい。
【0089】
重合温度は、例えば、50℃~80℃であり、好ましくは50℃~70℃である。
重合時間は、例えば、3時間~10時間であり、好ましくは3時間~8時間である。
【0090】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の使用量は、例えば、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して、40質量部以上であることが好ましく、55質量部以上であることがより好ましく、70質量部以上であることが更に好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して40質量部以上であると、例えば、カルボキシ基を有する単量体及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体との共重合性が低下することによるアクリル樹脂の分子量の低下がより生じ難くなるため、形成される印捺画像の摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の使用量は、例えば、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して、94.9質量部以下であることが好ましく、94質量部以下であることがより好ましく、93質量部以下であることが更に好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が多いほど、相対的にカルボキシ基を有する単量体及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体の使用量が少なくなるため、形成される膜の架橋密度が低下する傾向にある。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して94.9質量部以下であると、形成される膜の架橋密度がカルボキシ基を有する単量体及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体の使用量の減少の影響をより受け難くなるため、形成される印捺画像の摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。
【0091】
カルボキシ基を有する単量体の使用量は、例えば、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることが更に好ましい。
カルボキシ基を有する単量体の使用量が、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して0.1質量部以上であると、形成される印捺画像の摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。また、カルボキシ基を有する単量体の使用量が、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して0.1質量部以上であると、樹脂粒子の分散性がより良好となる傾向がある。
また、カルボキシ基を有する単量体の使用量は、例えば、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましい。
カルボキシ基を有する単量体の使用量が、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して10質量部以下であると、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体及びカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体との共重合性が低下することによるアクリル樹脂の分子量の低下がより生じ難くなるため、形成される印捺画像の摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。
【0092】
カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体の使用量は、例えば、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して、5質量部以上であり、5.5質量部以上であることが好ましく、6質量部以上であることがより好ましい。
カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体の使用量が、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して5質量部以上であると、形成される印捺画像の摩擦堅牢性が優れる傾向を示す。
また、カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体の使用量は、例えば、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが更に好ましい。
カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体の使用量が、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して20質量部以下であると、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と十分に共重合することで、アクリル樹脂の重合度が良好に保持されるため、形成される印捺画像の摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。
【0093】
乳化重合工程において、シアン化ビニル単量体を使用する場合、シアン化ビニル単量体の使用量は、例えば、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、6.5質量部以上であることがより好ましく、8質量部以上であることが更に好ましい。
シアン化ビニル単量体の使用量が、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して5質量部以上であると、例えば、形成される印捺画像の膜厚を厚くした場合であっても、シアン化ビニル単量体のビニル骨格に由来する高い弾性率により、印捺画像が優れた摩擦堅牢性を示す傾向がある。
また、シアン化ビニル単量体の使用量は、例えば、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、28質量部以下であることがより好ましく、25質量部以下であることが更に好ましい。
シアン化ビニル単量体の使用量が、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して30質量部以下であると、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と十分に共重合することで、アクリル樹脂の重合度が良好に保持されるため、形成される印捺画像の摩擦堅牢性がより優れる傾向を示す。
【0094】
界面活性剤の使用量は、例えば、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して、0質量部を超えて1質量部未満であり、0質量部を超えて0.8質量部未満であることがより好ましく、0質量部を超えて0.6質量部未満であることが更に好ましい。
界面活性剤の使用量が、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して0質量部を超えると、単量体を乳化重合させることができる。
界面活性剤の使用量が、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して1質量部未満であると、形成される印捺画像の耐洗濯性が優れる傾向を示す。
【0095】
乳化重合工程では、例えば、重合開始剤、還元剤、連鎖移動剤、pH調整剤等の各種添加剤を用いてもよい。
【0096】
重合開始剤は、通常の乳化重合に使用できるものであれば、特に限定されない。
重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸カリウムに代表される過硫酸塩、t-ブチルヒドロパーオキサイド及びクメンヒドロパーオキサイドに代表される有機過酸化物、並びに過酸化水素が挙げられる。
乳化重合工程において重合開始剤を使用する場合、重合開始剤を1種のみ使用してもよく、2種以上使用してもよい。
【0097】
重合開始剤は、通常用いられる量で使用される。
重合開始剤の使用量は、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して、例えば、0.1質量部~2質量部であり、好ましくは0.3質量部~1.5質量部である。
【0098】
乳化重合工程では、既述の重合開始剤とともに、還元剤を使用してもよい。
還元剤としては、例えば、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム(「二亜硫酸ナトリウム」ともいう。)、ピロリン酸ナトリウム、チオグリコール酸、チオ硫酸ナトリウム、L-アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、及びブドウ糖が挙げられる。
乳化重合工程において還元剤を使用する場合、還元剤を1種のみ使用してもよく、2種以上使用してもよい。
【0099】
還元剤は、通常用いられる量で使用される。
還元剤の使用量は、アクリル樹脂の原料である単量体の総量100質量部に対して、例えば、0.1質量部~2質量部であり、好ましくは0.3質量部~1.5質量部である。
【0100】
<混合工程>
混合工程は、アクリル樹脂の粒子を含む水性分散液Xとウレタン樹脂の粒子を含む水性分散液Yとを混合する工程である。
混合工程では、アクリル樹脂の粒子とウレタン樹脂の粒子とが水性媒体中に分散している本開示の水性分散液を得ることができる。
【0101】
混合手段としては、特に限定されず、公知の混合手段を用いることができる。
混合手段の具体例としては、撹拌機を用いる機械的撹拌、撹拌棒を用いる手撹拌等の混合手段が挙げられる。
【0102】
水性分散液Xと水性分散液Yとの混合比は、特に限定されない。
水性分散液Xと水性分散液Yとは、例えば、混合により得られる本開示の水性分散液におけるウレタン樹脂の粒子の含有量に対するアクリル樹脂の粒子の含有量の比(即ち、アクリル樹脂の粒子の含有量/ウレタン樹脂の粒子の含有量)が、質量基準で、50/50~90/10となるように混合することが好ましく、60/40~90/10となるように混合することがより好ましく、70/30~90/10となるように混合することが更に好ましく、70/30~80/20となるように混合することが特に好ましい。
【0103】
<他の工程>
本実施形態の製造方法は、必要に応じて、乳化重合工程及び混合工程以外の工程(所謂、他の工程)を有していてもよい。
他の工程としては、例えば、乳化重合工程において得られたアクリル樹脂の粒子を含む水性分散液XのpHを調製する工程が挙げられる。
【0104】
既述の本実施形態の製造方法では、アクリル樹脂の粒子を得る方法として、乳化重合法を一例として挙げたが、本開示において、アクリル樹脂の粒子を得る方法は、上記の乳化重合法に限定されるものではなく、例えば、懸濁重合法であってもよい。
【実施例
【0105】
以下、本開示の水性分散液を実施例により更に具体的に説明する。本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、アクリル樹脂粒子の平均粒子径、アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)、及び水性分散液のpHは、既述の方法により測定した。また、測定装置には、既述の方法において、例として記載したものと同様のものを使用した。
【0106】
[水性分散液の製造]
〔実施例1〕
温度計、撹拌棒、還流冷却器、及び滴下ロートを備えた反応容器内に、脱イオン交換水70.0質量部を仕込み、反応容器内を窒素置換しながら60℃に昇温させた。
一方、別の容器に、脱イオン交換水34.0質量部と、界面活性剤である「ハイテノール(登録商標) NF-08」[第一工業製薬(株)製]0.5質量部と、を入れて撹拌し、界面活性剤水溶液を調製した。次いで、調製した界面活性剤水溶液に、ジアセトンアクリルアミド(DAAD)[カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体]1.5質量部を入れて撹拌した後、更に、n-ブチルアクリレート(n-BA)[(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体]32.5質量部と、メチルメタクリレート(MMA)[(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体]60.0質量部と、メタクリル酸(MAA)[カルボキシ基を有する単量体]1.0質量部と、N-メチロールアクリルアミド(NMAM)[カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体]5.0質量部と、を入れて撹拌することで、プレエマルションを調製した。
次に、反応容器の内温を60℃に保ちながら、4.0質量%の過硫酸アンモニウム水溶液[重合開始剤]1.2質量部と、3.0質量%の二亜硫酸ナトリウム水溶液[還元剤]1.2質量部と、を反応容器内に添加した後、上記にて調製したプレエマルションの全量を、4時間にわたって均一に逐次添加するとともに、2.0質量%の過硫酸アンモニウム水溶液[重合開始剤]7.0質量部と、1.5質量%の二亜硫酸ナトリウム水溶液[還元剤]7.0質量部と、を4時間30分にわたって均一に逐次添加し、乳化重合させた。
次に、プレエマルションの逐次添加終了の1時間30分後から、1.5質量%のt-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液[商品名:パーブチル(登録商標)H、日油(株)製、重合開始剤]7.6質量部と、1.5質量%のロンガリット(所謂、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物)7.6質量部と、を30分にわたって均一に逐次添加し、乳化重合物を得た。
得られた乳化重合物を60℃で30分熟成させてから室温まで冷却し、5.0質量%のアンモニア水1.8質量部を加えた後、架橋剤である「アジピン酸ジヒドラジド(ADH)」[ヒドラジド系架橋剤、(株)日本ファインケム製、固形分濃度:98質量%]の30質量%分散液を2.5質量部加え、pH7.6のアクリル樹脂エマルションを得た。得られたアクリル樹脂エマルションの固形分濃度は、40質量%であった。
得られたアクリル樹脂エマルション251.5質量部と、ポリウレタン水分散体[商品名:スーパーフレックス 150、固形分濃度:30質量%、第一工業製薬(株)製]64.0質量部と、を混合し、実施例1の水性分散液を得た。得られた水性分散液の固形分濃度は、38質量%であった。
【0107】
「アクリル樹脂エマルションの固形分濃度」とは、アクリル樹脂エマルションに占める、アクリル樹脂粒子の質量割合を意味する。
「水性分散液の固形分濃度」とは、水性分散液に占める、アクリル樹脂粒子及びウレタン樹脂粒子の合計質量割合を意味する。
【0108】
〔実施例2~実施例20〕
実施例2~実施例20では、アクリル樹脂の単量体組成、架橋剤の種類及び量、界面活性剤の種類及び量、ウレタン樹脂の種類、並びに、含有質量比[アクリル樹脂粒子/ウレタン樹脂粒子]を、表1に記載のとおりにしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2~実施例20の各水性分散液を得た。
実施例2~実施例20における各アクリル樹脂エマルションの固形分濃度、及び、実施例2~実施例20の各水性分散液の固形分濃度を以下に示す。
【0109】
-アクリル樹脂エマルションの固形分濃度-
実施例2:40質量%、実施例3:40質量%、実施例4:40質量%、実施例5:35質量%、実施例6:30質量%、実施例7:40質量%、実施例8:40質量%、実施例9:40質量%、実施例10:40質量%、実施例11:35質量%、実施例12:40質量%、実施例13:40質量%、実施例14:40質量%、実施例15:40質量%、実施例16:40質量%、実施例17:40質量%、実施例18:35質量%、実施例19:40質量%、実施例20:40質量%
【0110】
-水性分散液の固形分濃度-
実施例2:38質量%、実施例3:38質量%、実施例4:38質量%、実施例5:34質量%、実施例6:30質量%、実施例7:37質量%、実施例8:36質量%、実施例9:38質量%、実施例10:38質量%、実施例11:34質量%、実施例12:38質量%、実施例13:38質量%、実施例14:38質量%、実施例15:38質量%、実施例16:38質量%、実施例17:38質量%、実施例18:34質量%、実施例19:35質量%、実施例20:38質量%
【0111】
〔比較例1~比較例8〕
比較例1~比較例8では、アクリル樹脂の単量体組成、架橋剤の種類及び量、界面活性剤の種類及び量、ウレタン樹脂の種類、並びに、含有質量比[アクリル樹脂粒子/ウレタン樹脂粒子]を、表2に記載のとおりにしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例1~比較例8の各水性分散液を得た。
比較例1~比較例5及び比較例8における各アクリル樹脂エマルションの固形分濃度、並びに、比較例1~比較例8の各水性分散液の固形分濃度を以下に示す。
【0112】
-アクリル樹脂エマルションの固形分濃度-
比較例1:40質量%、比較例2:40質量%、比較例3:40質量%、比較例4:30質量%、比較例5:35質量%、比較例8:35質量%
【0113】
-水性分散液の固形分濃度-
比較例1:38質量%、比較例2:38質量%、比較例3:38質量%、比較例4:30質量%、比較例5:35質量%、比較例6:30質量%、比較例7:30質量%、比較例8:34質量%
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
表1及び表2中、「-」は、該当成分を配合していないことを意味する。
表1及び表2に示す界面活性剤の量は、有効成分換算値である。
表1及び表2中、「アクリル大」とは、アクリル樹脂粒子の平均粒子径がウレタン樹脂粒子の平均粒子径よりも大きいことを意味し、「ウレタン大」とは、ウレタン樹脂粒子の平均粒子径がアクリル樹脂粒子の平均粒子径よりも大きいことを意味する。
【0117】
表1及び表2に記載の各成分の詳細は、以下に示すとおりである。
<(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体>
「n-BA」n-ブチルアクリレート
「MMA」メチルメタクリレート
<カルボキシ基を有する単量体>
「AA」アクリル酸
「MAA」メタクリル酸
<カルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体>
「NMAM」N-メチロールアクリルアミド[架橋性官能基:メチロール基]
「DAAD」ジアセトンアクリルアミド[架橋性官能基:ケトン基]
<シアン化ビニル単量体>
「AN」アクリロニトリル
【0118】
<ウレタン樹脂>
「SF-150」[商品名:スーパーフレックス 150、固形分濃度:30質量%、ウレタン樹脂の最大抗張力:45.0MPa、ウレタン樹脂の破断時伸度:330%、ウレタン樹脂粒子の平均粒子径:50nm、第一工業製薬(株)製]
「UW-1005D」[商品名:ETERNACOLL(登録商標) UW-1005D-C1、固形分濃度:30質量%、ウレタン樹脂の最大抗張力:1.2MPa、ウレタン樹脂の破断時伸度:130%、ウレタン樹脂粒子の平均粒子径:100nm、宇部興産(株)製]
なお、「SF-150」及び「UW-1005D」に含まれるウレタン樹脂の最大抗張力及び破断時伸度は、既述の方法により測定した値である。
【0119】
<架橋剤>
-ヒドラジド系架橋剤-
「ADH」[商品名:ADH、化学名:アジピン酸ジヒドラジド、固形分濃度:98質量%、(株)日本ファインケム製]
-オキサゾリン系架橋剤-
「WS-500」[商品名:エポクロス(登録商標) WS-500、固形分濃度:39質量%、(株)日本触媒製]
【0120】
<界面活性剤>
「NF-08」[商品名:ハイテノール(登録商標) NF-08、有効成分:ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、有効成分濃度:95質量%、アニオン性界面活性剤、第一工業製薬(株)製]
「NF-13」[商品名:ハイテノール(登録商標) NF-13、有効成分:ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、有効成分濃度:95質量%、アニオン性界面活性剤、第一工業製薬(株)製]
「EA-197D」[商品名:ノイゲン(登録商標) EA-197D、有効成分:ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、有効成分濃度:60質量%、ノニオン性界面活性剤、第一工業製薬(株)製]
【0121】
[試験シートの作製]
1.捺染糊の調製
下記の組成に示す成分を混合し、捺染糊を調製した。なお、下記の組成に示す評価用水性分散液は、上記にて得られた実施例1~実施例20及び比較例1~比較例8の各水性分散液に対し、脱イオン水を加えて、固形分濃度を30質量%に調整したものである。また、下記の組成に示すレデューサーは、ミネラルターペン65質量部を、ノニオン性界面活性剤[商品名:DKS-NL-70、第一工業製薬(株)製]4質量部用いて、脱イオン水31質量部中に乳化分散させたものである。
【0122】
-捺染糊の組成-
・レデューサー 63.5質量部
・評価用水性分散液 30.0質量部
・5質量%アンモニア水 1.5質量部
・顔料ペースト 5.0質量部
[商品名:BLUE FL2B Conc、青色顔料、大日精化工業(株)製]
【0123】
2.試験シートの作製
上記にて調製した捺染糊を用い、綿ブロード(24cm×36cm)に対し、300メッシュのシルクスクリーンを用いて、幅10mm、長さ約160mmの縞模様を間隔10mmで10本施す捺染加工を行った後、雰囲気温度23℃、65%RHの室内にて24時間乾燥を行い、試験シートとした。
【0124】
[評価]
1.耐洗濯性
40L(リットル;以下、同じ。)容量のうず巻き反転式家庭用洗濯機に、40℃の温水30Lと、洗剤[商品名:トッププラチナクリア、ライオン(株)製]120gと、負荷布としての新品の綿製のタオル1kgと、試験シートを縫い付けた綿製のタオル1枚と、をいれ、「洗濯15分間、すすぎ5分間、脱水1分間、及び室温乾燥」を1サイクルとして、合計5サイクルの洗濯を行った。洗濯後の試験シートを目視にて観察し、下記の評価基準に従って、耐洗濯性を評価した。結果を表3及び表4に示す。
下記の評価基準において、「2」及び「3」は、実用上問題ないレベルであり、「3」であることが最も好ましい。
【0125】
-評価基準-
3:試験シートに損傷がほとんど確認されなかった。
2:試験シートに損傷が少し確認された。
1:試験シートの損傷が目立つ。
【0126】
2.摩擦堅牢性
試験シートを水に10分間浸漬した後、学振型摩擦堅牢度試験機[商品名:RT-200、(株)大栄科学精器製作所製]にセットし、下記の摩擦条件にて試験を行った。試験後、摩擦子を被覆した金巾を観察し、下記の評価基準に従って、摩擦堅牢性を評価した。結果を表3及び表4に示す。
下記の評価基準において、「3」及び「4」は、実用上問題ないレベルであり、「4」であることが最も好ましい。
【0127】
-摩擦条件-
摩擦子:45R(水で十分に濡らした金巾で被覆したもの)
荷重:200g
摩擦回数:100回
【0128】
-評価基準-
4:摩擦子への色落ちが殆どない。
3:摩擦子への色落ちが少しある。
2:摩擦子への色落ちがやや多い。
1:摩擦子への色落ちが多い。
【0129】
3.混和安定性
50mL容量のビーカーに、エチレングリコールモノブチルエーテル(以下、「ブチルセロソルブ」ともいう。)200gを量り取った。次いで、量り取ったブチルセロソルブを、回転子を用いて撹拌し、撹拌しているブチルセロソルブ中に、評価用水性分散液100g(固形分換算量:30g)を、ピペットを用いて滴下した。滴下終了後、目視にて、液の状態及び不溶物の有無を確認した。また、滴下終了後の液を、ステンレス製の金網(金網のメッシュ数:400)を用いて濾過し、ブチルセロソルブ及び評価用水性分散液の合計質量(300g)に対する不溶物の割合を測定した。さらに、滴下終了後の液の粘度を、B型粘度計[英弘精機(株)製]を用い、JIS Z 8803:2011に準拠した方法〔測定温度:25℃、回転速度:20rpm(revolutions per minute)〕により測定した。そして、下記の評価基準に従って、インク配合用添加剤との混和安定性を評価した。結果を表3及び表4に示す。
下記の評価基準において、「3」、「4」、及び「5」は、実用上問題ないレベルであり、「5」であることが最も好ましい。
【0130】
-評価基準-
5:不溶物が発生せず、かつ、液がほとんど増粘しなかった。
(詳細には、濾過によって濾物が確認されず、かつ、液の粘度が評価用水性分散液の粘度に対して10倍未満であった。)
4:不溶物は発生しなかったが、液が僅かに増粘した。
(詳細には、濾過によって濾物は確認されなかったが、液の粘度が評価用水性分散液の粘度に対して10倍以上であった。)
3:不溶物が僅かに発生した。
(詳細には、濾過によって1質量%未満の濾物が確認された。)
2:不溶物が多く発生した。
(詳細には、濾過によって1質量%以上の濾物が確認された。但し、「1」に該当するものを除く。)
1:液が分離した。
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
表3に示すように、実施例1~実施例20の水性分散液により形成された印捺画像は、耐洗濯性及び摩擦堅牢性に優れていた。また、実施例1~実施例20の水性分散液は、インク配合用添加剤の1種であるブチルセロソルブとの混和安定性に優れていた。
【0134】
一方、表4に示すように、界面活性剤の含有量がアクリル樹脂100質量部に対して1質量部以上である比較例1の水性分散液を用いて形成された印捺画像は、実施例の水性分散液により形成された印捺画像と比較して、耐洗濯性に劣る傾向を示した。
アクリル樹脂におけるカルボキシ基以外の架橋性官能基を有する単量体に由来する構成単位の含有率がアクリル樹脂の全構成単位に対して5質量%未満である比較例2及び比較例3の水性分散液を用いて形成された印捺画像は、実施例の水性分散液により形成された印捺画像と比較して、摩擦堅牢性に劣る傾向を示した。
アクリル樹脂の粒子の平均粒子径がウレタン樹脂の粒子の平均粒子径よりも小さい比較例4の水性分散液を用いて形成された印捺画像は、実施例の水性分散液により形成された印捺画像と比較して、摩擦堅牢性に劣る傾向を示した。また、比較例4の水性分散液は、実施例の水性分散液と比較して、インク配合用添加剤の1種であるブチルセロソルブとの混和安定性に劣る傾向を示した。
ウレタン樹脂粒子を含まない比較例5の水性分散液を用いて形成された印捺画像は、実施例の水性分散液により形成された印捺画像と比較して、耐洗濯性及び摩擦堅牢性に劣る傾向を示した。
アクリル樹脂粒子を含まない比較例6及び比較例7の水性分散液は、実施例の水性分散液と比較して、インク配合用添加剤の1種であるブチルセロソルブとの混和安定性に劣る傾向を示した。
アクリル樹脂がカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位を含まない比較例8の水性分散液を用いて形成された印捺画像は、実施例の水性分散液により形成された印捺画像と比較して、摩擦堅牢性に劣る傾向を示した。