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特許7592549導電性弾性体、電子写真用部材、プロセスカートリッジ並びに電子写真画像形成装置
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  • 特許-導電性弾性体、電子写真用部材、プロセスカートリッジ並びに電子写真画像形成装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】導電性弾性体、電子写真用部材、プロセスカートリッジ並びに電子写真画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/02 20060101AFI20241125BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20241125BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20241125BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20241125BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
G03G15/02 101
G03G15/00 550
C08L21/00
C08K5/09
C08L71/00 Y
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021083966
(22)【出願日】2021-05-18
(65)【公開番号】P2021189445
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2024-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2020094677
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】伏本 康宏
(72)【発明者】
【氏名】教學 正文
(72)【発明者】
【氏名】日野 哲男
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/203238(WO,A1)
【文献】特開2010-282140(JP,A)
【文献】特開2004-133287(JP,A)
【文献】特開2016-145967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/02
G03G 15/00
G03G 15/16
G03G 15/08
C08L 21/00
C08K 5/09
C08L 71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のイオン導電性ゴムの架橋物と、
該第1のイオン導電性ゴムとは異なる第2のイオン導電性ゴムの架橋物と、
脂肪酸及び脂肪酸金属塩のいずれか一方もしくは両方と、を含む導電性弾性体であって、
該第1のイオン導電性ゴムの架橋物を含むマトリックスと、
該第2のイオン導電性ゴムの架橋物を含むドメインと、を有し、
該第2のイオン導電性ゴムの架橋物は、ポリエーテル骨格を有し、
該ドメインの電気抵抗は、該マトリックスの電気抵抗よりも低く、
該弾性体の小角X線散乱法により温度24℃で測定した散乱プロファイルを波形分離して得られる波形分離プロファイルにおいて、該脂肪酸に由来のピークをP1、該脂肪酸金属塩に由来のピークをP2、該第2のイオン導電性ゴムの架橋物由来のピークをP3としたとき、
P1およびP2の各々のピークトップは1.40nm-1から1.60nm-1の範囲に存在し、
P3のピークトップは1.85nm-1から1.95nm-1の範囲に存在し、P1およびP2のピーク面積の総和をA1、P3のピーク面積をA2とし、
該弾性体における該第2のイオン導電性ゴムの架橋物の含有量をC1(質量%)とし、該脂肪酸及び該脂肪酸金属塩の含有量をC2(質量%)としたとき、
該A2と、該A1が、下記式(1)で示される関係を満たす導電性弾性体:
0.005≦(A2×C2/A1×C1)≦0.030 (1)。
【請求項2】
前記弾性体の任意の9箇所からサンプリングされる、一辺が9μmの第1の立方体形状のサンプルのうち、少なくとも8個のサンプルは、下記条件(1)を満たす、請求項1に記載の導電性弾性体:
条件(1)
1個のサンプルを、27個の、一辺が3μmの単位立方体に区分し、該単位立方体の各々に含まれる前記ドメインの体積Vdを求めたとき、27個のVdの平均値と比較し、±2.7μm内に入る単位立方体の数が少なくとも20個であること。
【請求項3】
前記第2のイオン導電性ゴムがエピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル3元共重合体及びポリエーテル系合成ゴムからなる群より選ばれる1種以上の重合体である、請求項1または2に記載の導電性弾性体。
【請求項4】
前記第1のイオン導電性ゴムがアクリロニトリル-ブタジエンゴム、エピクロルヒドリンゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロプレンゴム、これらの変性ゴム及び水添物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上のゴムである、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性弾性体。
【請求項5】
前記脂肪酸及び前記脂肪酸金属塩が、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、及びステアリン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1つである請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性弾性体。
【請求項6】
前記導電性弾性体の温度15℃、相対湿度10%における体積抵抗率が、1.0×10Ω・cm~1.0×1010Ω・cmである請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性弾性体。
【請求項7】
前記マトリックスの温度15℃、相対湿度10%における体積抵抗率が、1.0×10Ω・cm以上、1.0×1013Ω・cm以下である請求項1~6のいずれか一項に記載の導電性弾性体。
【請求項8】
前記ドメインの温度15℃、相対湿度10%における体積抵抗率が、1.0×10Ω・cm以上、1.0×10Ω・cm以下である請求項1~7のいずれか一項に記載の導電性弾性体。
【請求項9】
前記マトリックスの体積抵抗率が、前記ドメインの体積抵抗率の5倍以上である請求項1~8のいずれか一項に記載の導電性弾性体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の導電性弾性体の製造方法であって、
(1)該第1のイオン導電性ゴムと、該第2のイオン導電性ゴムと、脂肪酸及び脂肪酸金属塩のいずれか一方もしくは両方とを含むゴム混合物に対して伸長せん断を付加しつつ混練して未加硫ゴム混合物を得る工程、及び
(2)該未加硫ゴム混合物を硬化させる工程、
を有することを特徴とする導電性弾性体の製造方法。
【請求項11】
導電性の基体と、該基体上の導電性の弾性層とを有し、
該弾性層が、請求項1~9のいずれか一項に記載の導電性弾性体を含むことを特徴とする電子写真用部材。
【請求項12】
請求項11に記載の電子写真用部材の製造方法であって、
(1)該第1のイオン導電性ゴムと、該第2のイオン導電性ゴムと、脂肪酸及び脂肪酸金属塩のいずれか一方もしくは両方とを含むゴム混合物に対して伸長せん断を付加しつつ混練して未加硫ゴム混合物を得る工程、
(2)該基体上に、工程(1)で得られた未加硫ゴム混合物の層を形成する工程、及び
(3)該未加硫ゴム混合物の層を硬化させる工程、
を有することを特徴とする電子写真用部材の製造方法。
【請求項13】
電子写真画像形成装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジであって、請求項11に記載の電子写真用部材を具備することを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項14】
請求項11に記載の電子写真用部材を具備することを特徴とする電子写真画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は導電性弾性体、電子写真用部材、プロセスカートリッジ並びに電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置においては、導電性部材が様々な用途、例えば、帯電ローラ、転写ローラ、現像ローラ、現像ブレードなどの導電性ローラおよびブレードとして使用されている。
特許文献1は、電子写真装置に配設され、被帯電体面を電圧が印加された状態で帯電処理する帯電部材を開示している。該帯電部材は導電性弾性体層を具備し、該導電性弾性体層は、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル3元共重合体と、極性ゴムとを混合加硫して得られるものである。この導電性弾性体層は、高分子化合物であるポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル3元共重合体によって電気抵抗値が調整されているため、導電剤の移行による汚染や電気抵抗値の経時変化が抑制されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-296930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一態様は、安定した導電性を示す導電性弾性体の提供に向けたものである。本開示の一態様は、高品位な電子写真画像の安定的な形成に資する電子写真用部材の提供に向けたものである。また、本開示の一態様は、高品位な電子写真画像を安定的な形成に資するプロセスカートリッジの提供に向けたものである。また、本開示の一態様は、高品位な電子写真を安定して形成することができる電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。さらに、本開示の一態様は、安定した導電性を示す導電性弾性体の製造方法の提供に向けたものである。さらにまた、本開示の一態様は、高品位な電子写真画像の安定的な形成に資する電子写真用部材の製造方法の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、
第1のイオン導電性ゴムの架橋物と、該第1のイオン導電性ゴムとは異なる第2のイオン導電性ゴムの架橋物と、脂肪酸及び脂肪酸金属塩のいずれか一方もしくは両方とを含む導電性弾性体であって、該第1のイオン導電性ゴムの架橋物を含むマトリックスと、該第2のイオン導電性ゴムの架橋物を含むドメインと、を有し、該第2のイオン導電性ゴムの架橋物は、ポリエーテル骨格を有し、該ドメインの電気抵抗は、該マトリックスの電気抵抗よりも低く、該弾性体の小角X線散乱法により温度24℃で測定した散乱プロファイルを波形分離して得られる波形分離プロファイルにおいて、該脂肪酸に由来のピークをP1、該脂肪酸金属塩に由来のピークをP2、該第2のイオン導電性ゴムの架橋物由来のピークをP3としたとき、P1およびP2の各々のピークトップは1.40nm-1から1.60nm-1の範囲に存在し、P3のピークトップは1.85nm-1から1.95nm-1の範囲に存在し、P1およびP2のピーク面積の総和をA1、P3のピーク面積をA2とし、該弾性体における該第2のイオン導電性ゴムの架橋物の含有量をC1(質量%)とし、該脂肪酸及び該脂肪酸金属塩の含有量をC2(質量%)としたとき、該A2と、該A1が、下記式(1)で示される関係を満たす導電性弾性体が提供される:
0.005≦(A2×C2/A1×C1)≦0.030 (1)。
【0006】
本開示の他の態様によれば、上記の導電性弾性体の製造方法であって、
(1)該第1のイオン導電性ゴムと、該第2のイオン導電性ゴムと、脂肪酸及び脂肪酸金属塩のいずれか一方もしくは両方とを含むゴム混合物に対して伸長せん断を付加しつつ混練して未加硫ゴム混合物を得る工程、及び
(2)該未加硫ゴム混合物を硬化させる工程、を有する導電性弾性体の製造方法が提供される。
【0007】
本開示の他の態様によれば、導電性弾性層を有する電子写真用部材であって、導電性の基体と、該基体上の導電性の弾性層とを有し、該弾性層が上記の導電性弾性体を含む弾性層とを有する電子写真部材が提供される。
【0008】
本開示の他の態様によれば、上記の電子写真用部材の製造方法であって、
(1)該第1のイオン導電性ゴムと、該第2のイオン導電性ゴムと、脂肪酸及び脂肪酸金属塩のいずれか一方もしくは両方とを含むゴム混合物に対して伸長せん断を付加しつつ混練して未加硫ゴム混合物を得る工程、
(2)該基体上に、工程(1)で得られた未加硫ゴム混合物の層を形成する工程、及び
(3)該未加硫ゴム混合物の層を硬化させる工程、
を有する電子写真用部材の製造方法が提供される。
【0009】
本開示の他の態様によれば、電子写真画像形成装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジであって、上記の電子写真用部材を具備するプロセスカートリッジが提供される。本開示の更に他の態様によれば、上記の電子写真用部材を具備する電子写真画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、安定した導電性を示す導電性弾性体を得ることができる。本開示の一態様によれば、高品位な電子写真画像の安定的な形成に資する電子写真用部材を得ることができる。また、本開示の一態様によれば、高品位な電子写真画像を安定的な形成に資するプロセスカートリッジを得ることができる。また、本開示の一態様によれば、高品位な電子写真を安定して形成することができる電子写真画像形成装置を得ることができる。さらに、本開示の一態様によれば、安定した導電性を示す導電性弾性体の製造方法を得ることができる。さらにまた、本開示の一態様によれば、高品位な電子写真画像の安定的な形成に資する電子写真用部材の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示に係る導電性弾性体中のキャリアの流れの説明図である。
図2図2(a)は、本開示の一態様に係る電子写真用の導電性部材の一例を示す図である。図2(b)は、本開示の一態様に係る導電性弾性体中のドメインの存在状態の評価に用いる立方体及び単位立方体の説明図である。
図3図3(a)は、本開示に係る導電性弾性体の製造に用い得る、ゴム混合物に伸長せん断力を付与するための伸長せん断力付与装置の一態様の概略断面図である。図3(b)は、本開示に係る導電性弾性体の製造に用い得る、ゴム混合物に伸長せん断力を付与するための伸長せん断力付与装置の一態様の概略断面図である。
図4】本開示の一態様に係る電子写真画像形成装置を示す構成図である。
図5】本開示の一態様に係るプロセスカートリッジを示す図である。
図6】導電性弾性体の電気抵抗測定装置の一態様の説明図である。
図7】実施例1及び比較例1のSAXSプロファイルベースライン処理後のスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に係る導電性弾性体層は、周囲の環境変化による電気抵抗値の変化の抑制効果については未だ改善の余地があった。
【0013】
そこで本発明者らは、環境変化に対する導電性の変化が少ない導電性弾性体を得るべく検討を重ねた。その結果、以下の構成を備えた導電性弾性体が、導電性の環境依存性をより小さくし得ることを見出した。
【0014】
<構成>
第1のイオン導電性ゴムの架橋物と、該第1のイオン導電性ゴムとは異なる第2のイオン導電性ゴムの架橋物と、脂肪酸及び脂肪酸金属塩のいずれか一方もしくは両方と、を含み、該第1のイオン導電性ゴムの架橋物を含むマトリックスと、該第2のイオン導電性ゴムの架橋物を含むドメインと、を有し、該第2のイオン導電性ゴムの架橋物は、ポリエーテル骨格を有し、該ドメインの電気抵抗は、該マトリックスの電気抵抗よりも低く、該弾性体の小角X線散乱法により温度24℃で測定した散乱プロファイルを波形分離して得られる波形分離プロファイルにおいて、該脂肪酸に由来のピークをP1、該脂肪酸金属塩に由来のピークをP2、該第2のイオン導電性ゴムの架橋物由来のピークをP3としたとき、P1およびP2の各々のピークトップは1.40nm-1から1.60nm-1の範囲に存在し、P3のピークトップは1.85nm-1から1.95nm-1の範囲に存在し、P1およびP2のピーク面積の総和をA1、P3のピーク面積をA2とし、該弾性体における該第2のイオン導電性ゴムの架橋物の含有量をC1(質量%)とし、該脂肪酸及び該脂肪酸金属塩の含有量の総和をC2(質量%)としたとき、該A2と、該A1が、下記式(1)で示される関係を満たす:
0.005≦(A2×C2/A1×C1)≦0.030 (1)。
【0015】
小角X線散乱法を用いて、温度24℃で該弾性体を測定して得られる散乱プロファイルを波形分離して得られる波形分離プロファイルにおいて、ピークトップが1.85nm-1から1.95nm-1の範囲に存在するピークP3の存在は、ドメインを構成している第2のイオン導電性ゴムが有するポリエーテル骨格によって形成された結晶構造(以降、「ポリエーテル骨格に起因する結晶構造」ともいう)の存在を示すものである。ここで、本発明者らは、当該ピークP3のピーク面積A2が、弾性体中におけるポリエーテル骨格に起因する結晶構造の発達の程度を表すパラメータとなり得ると考えた。そこで、本発明者らは、弾性体中に含まれる脂肪酸及び脂肪酸金属塩を用いて当該ピークP3のピーク面積A2について、以下のようにして規格化することにより、弾性体中の第2のイオン導電性ゴムに対する該第2のイオン導電性ゴムのポリエーテル骨格によって構成された結晶構造の割合を表すパラメータとした。
【0016】
すなわち、加硫助剤としての機能を有する脂肪酸や脂肪酸金属塩は、未加硫のゴム混合物においては実質的に必須の成分であるため、硬化後のゴムにおいても必ず含有されているものである。そこで、本開示においては、脂肪酸および脂肪酸金属塩を基準物質と見做して、波形分離プロファイルにおけるピークP3のピーク面積A2を、脂肪酸に由来するピークP1のピーク面積と脂肪酸金属塩に由来するピークP2のピーク面積との総和A1で除すること(A2/A1)によって、脂肪酸及び脂肪酸金属塩に対する結晶構造の量を規定した。次いで、導電性弾性体における脂肪酸及び脂肪酸金属塩の総量の導電性弾性体に対する割合をC2(wt%)、導電性弾性体における第2のイオン導電性ゴムの架橋物の量の導電性弾性体に対する割合をC1(wt%)としたとき、(A2/A1)を(C1/C2)で除することで導電性弾性体中の第2のイオン導電性ゴムに対する第2のゴムのポリエーテル骨格による結晶構造の比率を求めた。ここで述べたことを式で表すと、以下のように表される。
[(A2/A1)]/[(C1/C2)]=(A2×C2)/(A1×C1)
【0017】
上記したように脂肪酸や脂肪酸金属塩を基準物質として、P3のピーク面積を規格化した「(A2×C2)/(A1×C1)」は、弾性体中の第2のイオン導電性ゴムの絶対量に依存しないパラメータとなる。
そして、本発明者らは、「(A2×C2)/(A1×C1)」の値が、0.005以上、0.030以下である場合に、導電性弾性体の導電性の環境依存性をより小さくできることを見出した。なお、「(A2×C2)/(A1×C1)」の値は、好ましくは、0.007以上、0.020以下である。
【0018】
本発明者らは、本開示に係る導電性弾性体によれば、導電性の環境依存性が小さくできる理由を以下のように考察している。すなわち、上記した通り、本開示に係る弾性体のドメイン内では、小角X線散乱測定(SAXS)の結果から第2のイオン導電性ゴムのポリエーテル骨格に起因する結晶構造が形成されていると考えられる。
【0019】
そして、第2のイオン導電性ゴムが有するポリエーテル骨格に起因する結晶構造を有するドメイン11が、該ドメインよりも電気抵抗が高いマトリックス中に分散して存在していることにより、図1中、矢印で示すようにマトリックス-ドメイン(以降、「MD」とも記す)の界面に沿ってキャリアが移動し易くなっていると考えられる。
一般に低温低湿(Low-temperature / Low-humidity、以下「LL」)環境においては、イオン導電剤は、媒質中における移動度が低下するため、導電性が低下する。しかしながら、本開示に係る構成においては、ドメインが結晶構造を有することにより、MD界面がより明確となっており、キャリアのMD界面に沿った移動が、周囲の環境やポリマーの劣化の影響を受けにくくなっていると考えられる。その結果、低温低湿環境下や通電劣化時であっても導電性の低下が生じにくいと考えられる。なお、図1は、本開示の一態様に係る導電性の弾性体層の厚み方向の断面に現れたMD構造の説明図である。
【0020】
本開示に係る導電性弾性体の体積抵抗率としては、該導電性弾性体の用途に応じて、適宜調整すればよい。例えば、該導電性弾性体を帯電部材の導電性の弾性層に用いる場合、LL環境下では、好ましくは、1.0×10Ω・cm~1.0×1010Ω・cm、特には好ましくは、1.0×10Ω・cm~6.0×10Ω・cmの範囲内となるように調整する。導電性は、例えば、第1及び第2のイオン導電性ゴムの種類、第1のイオン導電性ゴムと第2のイオン導電性ゴムの混合比率で調整し得る。
【0021】
導電性弾性体の体積抵抗率は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて次のような方法によって測定できる。まず、導電性弾性体からマニュピレータを用いて一辺が9μmの立方体形状のサンプルを切り出す。該サンプルの6つある面のうちの一つの面に白金を蒸着する。白金を蒸着した面に直流電源を接続し、電圧を印加して、白金を蒸着した面と対向する面の任意の点にカンチレバーの自由端を接触させてAFM本体を通して電流像を得る。このようにして、白金を蒸着した面と対向する面の任意の100点における電流値を測定する。測定された電流値の上位10個のデータと、白金蒸着面と白金蒸着面と対向する面との間の厚みとカンチレバーの接触面積とから体積抵抗率を算出する。
【0022】
また、導電性基体の外周面上に本開示に係る導電性弾性体を含む弾性層が設けられてなる電子写真用ローラの場合、以下の方法によっても弾性層の体積抵抗率を測定できる。即ち、電子写真用ローラの任意の位置に直径30mm、幅20mmの円柱状の銅製の回転電極を一定圧力で圧接し、電子写真用ローラを回転させ、電子写真用ローラの回転運動に伴い該回転電極を従動回転させる。さらに、電子写真用ローラの導電性軸芯体に外部電源を用いて直流電圧を印加した状態で、回転電極に直列に接続した基準抵抗の両端の電圧を測定する。これにより、電子写真用ローラの導電性弾性層のうち、回転電極と電子写真用ローラの接触面で規定された領域を流れる電流値が得られる。接触面の面積は、導電性弾性層の硬度にもよるが、0.05~0.2cm程度である。
【0023】
電子写真用ローラの回転数を30rpm、データのサンプリング周波数は20Hz、基準抵抗の電気抵抗値は、例えば、1kΩに設定する。また、印加電圧は、例えば、電流値が0.1mAになるように、10~200Vの間で固定電圧を設定する。そして、ローラの長手方向に回転電極を順次移動させていき、同様にして、電子写真用ローラを回転させながら、複数の領域で電流計測を行う。そして、測定される電流値、電子写真用ローラと回転電極との接触面積、電子写真用ローラの弾性層の厚み、及び、弾性層に印加した電圧から、各領域の体積抵抗率(Ω・cm)を算出し、次いで、各領域の体積抵抗率の算術平均値を求める。
【0024】
以下、電子写真用部材を例に本開示に係る導電性弾性体について詳細に説明する。但し、本開示に係る導電性弾性体の用途は、電子写真用部材に限定されるものではない。また、該電子写真用部材として、ローラ形状を有する帯電部材(以降、「帯電ローラ」ともいう)を例に説明するが、本開示に係る電子写真用部材は、帯電部材に限定されるものでもなく、中間転写ベルトに用いられる電子写真用ベルトや現像部材の如き、導電性を有する弾性層を具備し得る電子写真用部材に適用し得る。
【0025】
<電子写真用部材>
本開示の一態様に係る帯電ローラ1は、図2にその断面図を示す通り、導電性基体(導電性軸芯体)21の周面に、導電性弾性層22(以下、単に弾性層ということがある)を有する。該弾性層は、前記した導電性弾性体を含む。なお、該弾性層の上には、必要に応じて、表面層の如き他の層を更に設けてもよい。
【0026】
帯電ローラの体積抵抗率(以下、単に抵抗率ということがある)は、好ましくは、1×10Ω・cm~1×10Ω・cmの範囲に制御する。1×10Ω・cm以上であると、電流の制動性をより改善できる。また、1×10Ω・cm以下であると帯電ローラとして機能させるうえで十分な電流を流すことができる。
【0027】
<導電性の基体>
導電性の基体としては、本開示の効果を得られるものであれば、電子写真用の導電性部材の分野で公知なものから適宜選択して用いることができる。例えば、導電性軸芯体である場合には、炭素鋼合金の表面に5μm程度の厚さのニッケルメッキを施した円柱である。また、基体には、導電接着剤(粘着剤)が塗布されていても良い。
【0028】
<弾性層>
弾性層は、被帯電体を均一に帯電させるために、均一な半導電性を有することに加え、感光体への均一な接触を確保するために、低硬度(例えば、該弾性層の弾性率が1MPa以上、100MPa以下)であることが好ましい。また、イオン導電性を得るためには分子運動性がある方が好ましく、そのためパルスNMR測定において、温度50℃における水素核スピン-スピン緩和時間が400μs以上、1000μs以下であることが好ましい。
【0029】
〔マトリックス〕
(第1のイオン導電性ゴム)
弾性層は、第1のイオン導電性ゴムの架橋物(以下、単に「第1のゴム」という)を含むマトリックスを有する。第1のゴムとしては、後述する第2のイオン導電性ゴムと所定の比率でブレンドすることにより、第1のゴムを含むマトリックスを形成し得るものであれば、特に限定されるものではない。第1のゴムは、所望の物性により電子写真用の導電性部材の分野において公知のゴム組成物を好適に用いることができる。例えば、天然ゴムやこれを加硫処理したもの、合成ゴムを挙げることができる。
【0030】
合成ゴムとしては、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エピクロルヒドリンゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロプレンゴム、これらの変性ゴム及び水添物からなる群から選ばれる1種以上のゴムが挙げられる。中でも、主鎖に2重結合を含むジエン系ゴム自身は通電に対して良好であるため、NBRやその変性ゴム、クロロプレンゴムが好適に用いられる。また、NBRは、混練時の熱による劣化が少ないため、特に好適に用い得る。
【0031】
これらのゴムには、本開示の効果を損なわない範囲で、ゴムの配合剤として一般的に用いられている充填剤、軟化剤、加工助剤、粘着付与剤、粘着防止剤、分散剤、発泡剤、導電助剤、粗し粒子等を含有させることができる。また、加硫剤や加硫助剤、加硫促進剤も添加することができる。マトリックス用のゴムへのこれらの配合剤の含有量としては、選択する原料ゴムにもよるが、第1のゴム原料100質量部に対して、0.1質量部以上、100質量部以下が好ましい。
【0032】
(マトリックスの電気抵抗(体積抵抗率))
マトリックスの体積抵抗率は、温度15℃、相対湿度10%の環境(以降、「LL環境」)の下では、好ましくは、1.0×10Ω・cm以上、1.0×1013Ω・cm以下である。このような体積抵抗率の範囲は、MD界面のキャリアの良好な移動に資する。
【0033】
(マトリックスの体積抵抗率の測定方法)
マトリックスの体積抵抗率は、導電性弾性体からマトリックス・ドメイン構造を含む所定の厚さの薄片を切り出し、当該薄片中のマトリックスに走査型プローブ顕微鏡(SPM)や原子間力顕微鏡(AFM)の微小探針を接触させることにより測定することができる。具体的には、弾性体から、弾性体の全厚み方向の断面が表れた、厚さ1μmの薄片を鋭利なカミソリ、ミクロトーム、集束イオンビーム(FIB)などで切り出す。切り出した薄片を金属プレート上に、該薄片の該断面に相当する一方の面が金属プレートの表面と接するように設置する。そして、該薄片の金属プレートの表面と接している面とは反対側の面のうち、マトリックスに該当する箇所にSPMのカンチレバーを接触させる。次いで、カンチレバーに例えば+50Vの電圧を印加し、電流値を測定する。また、SPMで当該薄片の表面形状を観察し、得られた高さプロファイルから測定箇所の厚さを算出する。さらに、表面形状の観察結果からカンチレバーの接触部の凹部の面積を算出する。当該厚さと当該凹部面積とから体積抵抗率を算出する。この操作を導電性弾性体の任意の位置から切り出した20個の薄片について行って、各薄片から算出した体積抵抗率の算術平均値をもって、導電性弾性体のマトリックスの体積抵抗率とする。
【0034】
〔ドメイン〕
(第2のイオン導電性ゴム材料)
弾性層は、第2のイオン導電性ゴムの架橋物(以下、単に「第2のゴム」という)を含むドメインを有する。第2のゴムの原料としては、第1のゴムの原料と所定の比率でブレンドすることにより、第2のゴムを含むドメインを形成し得ること、及び、ポリエーテル骨格を有するイオン導電性ゴムであれば、特に限定されるものではない。例えば、第1のゴム材料と非相溶であれば、上記「〔マトリックス〕(第1のイオン導電性ゴム)」の項に示したゴム材料にポリエーテル骨格を導入したゴム材料などを用いることができる。
例えば、第2のゴム材料としてエピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル3元共重合体(大阪ソーダ社製、「エピクロマー」シリーズ)やポリエーテル系合成ゴム(日本ゼオン社製、「Zeospan」シリーズ)などから選ばれる1種以上の重合体が挙げられる。
【0035】
なお、第2のゴム原料として液状ゴム(例えば、液状NBR(商品名:NIPOL1312、JSR社製))を適宜配合することで材料粘度を調整することもできる。また、ドメインを形成する第2のゴム材料には、本開示の効果を損なわない範囲で、第1のゴム材料の場合と同様に、上述したゴムの配合剤を含有させることもできる。また、加硫剤や加硫助剤、加硫促進剤も添加することができる。
【0036】
(第1のイオン導電性ゴムと第2のイオン導電性ゴムとの組合せについて)
マトリックスが含む第1のイオン導電性ゴムと、ドメインが含む第2のイオン導電性ゴムとの組合せとして、NBRとエピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル3元共重合体との組み合わせは特に好ましい。マトリックスがNBRを含み、ドメインがエピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル3元共重合体を含む本開示に係る導電性弾性体は、長期に亘って直流電圧を印加し続けた場合であっても体積抵抗率の変動がより生じにくい。そのため、本開示に係る導電性弾性体を含む導電性の弾性層を備えた帯電部材は、長期に亘って電子写真画像の形成に供した場合であっても電子写真画像の品位の変化をより良く抑えられる。
【0037】
(ドメインの電気抵抗(体積抵抗率))
ドメインの体積抵抗率は、MD界面での円滑にキャリアを移動させるために、LL環境下では、1.0×10Ω・cm以上、1.0×10Ω・cm以下であることが好ましい。ドメインの電気抵抗は第2のイオン導電性ゴムの種類、ポリエーテル構造の分子内における割合、および含有量などで適宜調整することができる。
【0038】
(ドメインの体積抵抗率の測定方法)
ドメインの体積抵抗率は、カンチレバーの接触位置をドメインとすること以外は、上記したマトリックスの体積抵抗率の測定方法と同様にして測定することができる。また、本開示に係るドメインの体積抵抗率は、薄片内の20個のドメインを任意に選択し、該ドメインの各々について体積抵抗率を測定して、その算術平均値を導電性弾性体のドメインの体積抵抗率とする。
【0039】
(マトリックスとドメインの電気抵抗の比較に関して)
上述したように、マトリックスはドメインよりも高い電気抵抗を有する。具体的には、マトリックスの体積抵抗率は、マトリックス内でなくドメインとの界面においてキャリアを流れやすくするために、ドメインの体積抵抗率の5倍以上が好ましく、特には、10倍以上が好ましい。
【0040】
(ドメインの均一分散性について)
一般に低温低湿環境において導電性ゴム部内部においてキャリアが流れにくくなる。しかし、本開示に係る弾性体においては、MD界面に沿ってキャリアを移動可能な構成とすることで、導電性の環境依存性を低減し得る。かかる効果は、弾性体中にドメインが均一に存在しているほどより良く発現させることができる。そして、本開示においては、以下の方法で弾性体層中のドメインの存在状態の均一性を評価した。
【0041】
(ドメインの存在状態の均一性の評価方法)
ドメインの体積分率は、弾性体から採取したサンプルについて複数枚の断面画像を、例えば、FIB-SEMを用いて取得し、当該断面画像を用いて再構築した当該サンプルの3次元画像から求められる。なお、FIB-SEMとはFIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)装置と、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)とからなる複合装置である。
具体的には、弾性体の任意の9箇所から一辺が9μmの第1の立方体形状23のサンプルを採取する。例えば、ローラ形状の弾性体層の場合、周方向に直交する方向の長さをLとしたとき、一方の端部から(1/4)L、(2/4)L及び(3/4)Lの3箇所において、周方向に120°毎の位置から1個、合計9個のサンプルを採取することができる。次いで、各サンプルについて、FIBを用いた断面の露出と、露出した断面のSEM画像の撮影とを繰り返してスライス画像群を得る。スライス間隔は例えば60μmとする。得られたスライス画像群を、3D可視化・解析ソフトウェアを用いて3次元画像を再構築する。3D可視化・解析ソフトウェアの例としては、例えば、「Avizo」(商品名、エフ・イー・アイ社製)が挙げられる。次いで、得られた3次元画像から、一辺が9μmの第1の立方体形状23のサンプル中に含まれる27個の一辺が3μmの単位立方体24に分割し(図2(b)参照)、各単位立方体中に含まれるドメインの体積Vdを算出する。
そして、各単位立方体についてのVdの算術平均値Vd(avg)を求め、Vdが、Vd(avg)の±2.7μm内に入る単位立方体の個数を求める。そして、当該個数が25個以上であれば、ドメインが弾性体層中に極めて均一に存在しているといえる(ランクI)。当該個数が22~24個であれば、ドメインが弾性体層中に均一に存在しているといえる(ランクII)。当該個数が20~21個であれば、ドメインが弾性体層中に比較的均一に存在しているといえる(ランクIII)。また、当該個数が15個以下の場合、ドメインの弾性体層中における存在状態は均一であるとはいえない(ランクIV)。
【0042】
すなわち、本開示においては、弾性体層から採取した一辺が9μmの立方体形状のサンプルを27個の一辺が3μmの単位立方体に区分し、各単位立方体に含まれるドメインの体積Vdの平均値Vd(avg)を算出したとき、VdがVd(avg)の±2.7μm以内である単位立方体の数が20個以上であることが好ましい。この条件を満たすことで、弾性体の導電性をより均一とすることができる。
【0043】
(ドメインのサイズ)
本開示に係る導電性弾性体においては、キャリアがMD界面を移動することで環境依存性の少ない安定した導電性が発現すると考えられる。そのため、マトリックスとドメインとの界面は多いことが好ましい。そのためには、ドメインのサイズは、より小さいことが好ましい。例えば、導電性弾性体の単位体積に、半径rの真球状のドメインが100個あったと仮定する。ドメイン一つあたりの表面積は、半径をrとすると4πrとなる。ドメインの半径がr/2となった場合、立方体内に存在し得るドメインの個数は8倍の800個(=8×100個)となる。そのため、界面の面積の総和は2倍(1/2×1/2×8)となる。また、ドメインの数が多くなることにより必然的にドメイン間距離も小さくなる。つまり、微細なドメインを単位体積内に均一に存在させることが導電性弾性体の高導電化、均一化を図るうえで有効である。
【0044】
本開示において、ドメインのサイズは、以下の方法により求めたドメインの最大フェレ径とする。まず、弾性体から弾性体の厚み方向の断面を含むサンプルを採取する。得られた各々のサンプルの該断面に相当する面に白金を蒸着する。次いで、白金蒸着面を走査型電子顕微鏡(商品名:S-4800、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて倍率5000倍で撮影し、SEM画像を得る。SEM画像の各々を画像処理ソフトウェア(商品名:ImageProPlus、Media Cybernetics社製)を用いて8ビットのグレースケールに変換し、256階調のモノクロ画像を得る。次いで、当該モノクロ画像内のドメイン相当部分が白くなるように画像の白黒を反転させ、画像の輝度分布に対して大津の判別分析法のアルゴリズムに基づき2値化の閾値を設定して2値化画像を得る。得られた2値化画像について、任意の3箇所に一辺が15μmの正方形の観察領域を置き、該観察領域内に存在するドメインから任意に50個のドメインを指定し、上記画像処理ソフトウェアのカウント機能を用いて最大フェレ径を算出する。各観察領域から求めた最大フェレ径の平均値をドメインのサイズとする。なお、弾性体からのサンプルの採取は、複数個所から行っても良く、その場合は、全ての観察領域から求まる最大フェレ径の算術平均値を当該弾性体のドメインのサイズとする。
【0045】
具体的には、断面におけるドメインのサイズが、好適には0.1~2μm以下であり、より好適には、1μm以下であり、さらに好適には0.5μm以下である。特に、0.4μm以下である場合には本開示における極めて高い効果が期待できる。なお、0.1μm未満の場合には、相溶性が高く界面効果が十分でないので不適である。なお、ドメインのサイズは円相当径における直径を指す。また、平均ドメインサイズは、面積加重平均のドメインサイズを示す。
【0046】
ここで、2種の非相溶のゴムを混合してマトリックス・ドメイン構造を形成させる場合において、ドメインのサイズは、例えば下記の理論式で表し得ることが知られている。
【0047】
D =[Cσ/η0γ ・]・f(η0/η)
D:分散粒径(ドメインの粒径)、σ:界面張力、η0:マトリックス粘度、η:分散相の粘度(ドメインの粘度)、C:定数、γ ・:せん断速度
【0048】
つまり、本開示において、ドメインのサイズを小さくして、均一に分散させる方法として、例えば以下の3つが挙げられる。
(方法A)第1のゴムと第2のゴムとして、両者の界面張力が低減するような組み合わせを選択する。
(方法B)第1のゴムと第2のゴムとして、両者の粘度が近づくような組み合わせを選択する。
(方法C)第1のゴムへの第2のゴムの分散時のせん断速度を増加させる。
【0049】
・方法A:ドメインをマトリックス中に均一に分散させるためには、第1のゴムと第2のゴムの溶解度定数(Solubility Parameter:SP値)の差が小さくなる組み合わせを選択することが好ましい。また、界面張力を低減させる方法としては、相溶化剤を添加することが挙げられる。なお、SP値差が小さすぎる場合には、相溶性が高くなりすぎて、マトリックス・ドメイン構造が安定的に形成されない場合がある。
・方法B:ドメインをマトリックス中に均一に分散させるためには、第1のゴム及び第2のゴムとして、それらを混合する際の温度における粘度が互いに近い材料の組み合わせを選択することが好ましい。ここでは、ドメイン形成用の第2のイオン導電性ゴムの一部に液状ニトリルゴムなどを用いることも効果的である。
・方法C:ドメインをマトリックス中に均一に分散させるためには、2種のゴムを混合する際のせん断速度を増加させ、また、せん断時間を長くすることが有効である。また後述する通り、ドメイン内の結晶構造を発達させ、MD界面をキャリアがより良く移動できるようにするために、2種のゴムの混合時に、伸長せん断法を用いることが有効である。
【0050】
〔導電性弾性体の製造方法〕
これまで説明してきた本開示に係る導電性弾性体の製造方法について説明する。
まず、未加硫の第1のイオン導電性ゴムと、未加硫の第2のイオン導電性ゴムとを用意する。ここで、第1のゴム及び第2のゴムは、例えば、前記したドメインのサイズの調整するための方法A~Cに従って、各々のSP値や、混練時の粘度を考慮して適宜選択することができる。また、第2のゴムとしては、分子内にポリエーテル骨格を有するものを用いる必要がある。そして、該第1のイオン導電性ゴムと、第2のイオン導電性ゴムと、脂肪酸及び脂肪酸金属塩のいずれか一方もしくは両方とを含む原料ゴム混合物に伸長せん断を付加する工程を含む。これにより、該第1のイオン導電性ゴムのマトリックス中に第2のイオン導電性ゴムのドメインが分散され、かつ、該ドメインに第2のイオン導電性ゴムが有するポリエーテル骨格に由来する結晶構造が形成されたMD構造を有する未加硫のゴム混合物を得ることができる。次いで、該第1のイオン導電性ゴム及び第2のイオン導電性ゴムを硬化させることによって、本開示に係る導電性弾性体が作製される。
【0051】
未加硫の第1のイオン導電性ゴムと未加硫の第2のイオン導電性ゴムの配合割合は、好ましくは、10:90~90:10(質量部)、より好ましくは20:80~80:20(質量部)である。なお、該第1のイオン導電性ゴムと該第2のイオン導電性ゴムの原料の合計は100質量部である。
【0052】
脂肪酸及び脂肪酸金属塩は、成形助剤(主に滑材)、あるいは加硫助剤としてゴム材料分野において使用されているものが使用できる。好ましくは長鎖脂肪酸及びその金属塩であり、中でもステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどがより好ましい。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの配合量は、上記の第1及び第2のイオン導電性ゴムの原料の合計量を100質量部としたとき、好ましくは、0.1~10質量部、特に好ましくは0.5~5質量部の範囲とすることができる。その他、前記した各種ゴムの配合剤を配合することができる。
【0053】
未加硫の第1のゴム及び未加硫の第2のゴムを混練する。このとき、未加硫の第2のゴムに強いせん断力を加えて、ポリエーテル骨格を配向させることが重要である。すなわち、ポリエーテル骨格を有するイオン導電性ゴムに対して、せん断をかけることによってポリマー鎖が配向し、該ポリエーテル骨格に由来する結晶構造を生成させることができる。その結果、第1のイオン導電性ゴムのマトリックス中に第2のイオン導電性ゴムのドメインが分散されてなり、かつ、該ドメイン中にポリエーテル骨格由来の結晶構造が生成してなる導電性弾性体を得ることができる。
【0054】
ここで、ポリエーテル骨格に由来の結晶構造は、熱、とりわけせん断による熱によって容易に非晶状態に戻り、又はゲル化し得る。すなわち、第2のゴムへのせん断力の付与による結晶構造の生成量は、例えば、下記数式(2)で表すことができる。
【0055】
【数1】
【0056】
A:結晶構造の量、
F(Q):単位時間当たりの結晶構造生成関数、
G(T(t)-T0):単位時間当たりの結晶構造消滅関数、
H(T0):単位時間当たりの結晶構造消滅補正関数、
T(t):時間t時のポリマー温度、
T0:初期設定温度、
Q(t):時間t時のせん断応力、
t:時間、
なお積分範囲は0:練り開始時間~tf:練り終了時間までの間となる。またAがマイナスになる場合は、結晶構造は形成されないことを意味する。
【0057】
従って、ポリエーテル骨格に由来する結晶構造を含むドメインを含むMD構造を形成させるためには、第1のイオン導電性ゴムと第2のイオン導電性ゴムとを含む未加硫ゴム混合物を、発熱を抑えつつ、強いせん断をかけながら混合することが好ましい。この点で、伸長すると冷えるというゴム特有のエントロピー弾性の観点から伸長せん断工程を含む混合方法を用いることが特に好ましい。以下詳述する。
【0058】
<混練法の検討>
(単純せん断による分散化装置と伸長せん断による分散化装置についての比較)
未加硫の第1のイオン導電性ゴムと、未加硫の第2のイオン導電性ゴムとの混練過程に用いる混合装置として、例えば、単純せん断によるゴム混合装置(例えば、加圧型ニーダー、オープンロール等)、及び、より大きなせん断力を印加することができる二軸混練押し出し機が知られている。しかしながら、本開示に係る導電性弾性体を作製するうえでは、これらの装置では、第2のイオン導電性ゴムに対して、ポリエーテル骨格を配向させて十分な量の結晶構造を生成させるためのせん断力を加えることが困難である。また、たとえ十分なせん断力を加えられたとしても、付随して発生する熱への対応が必要となる。一方、伸長せん断を加えることができる、伸長せん断スクリュウを備えた混練機は、第2のイオン導電性ゴムを第1のイオン導電性ゴムに細かく分散させ得るとともに、第2のゴムに対してポリエーテル骨格に由来する結晶構造を形成させ得る十分なせん断力を付加し得る。
【0059】
一般的な加圧型ニーダー、オープンロール及び二軸混練押し出し機によってゴム混合物に加えられるせん断は、所謂「単純せん断」であり、材料を徐々に細かく砕いて分散させる方法である。一方、伸長せん断は、材料を細く引き伸ばして分裂させながら混練する方法である。そのため、伸長せん断工程を含む混合方法を用いることで、微細でかつ、均一なサイズのドメインがマトリックス中に分散してなるMD構造を得られやすい。また、ゴムはエントロピー弾性を示すために、伸長せん断工程では、ゴムが引き伸ばされることにより吸熱する。その結果、混練によっても発熱が生じにくく、伸長せん断によって形成されるポリエーテル骨格に由来する結晶構造が熱によって非晶状態に変化することを有効に抑制し得る。一方、単純せん断工程を含む混合方法であっても、単純せん断により発生する熱を適切に除去することで、ポリエーテル骨格に起因する結晶構造を形成させることは可能である。
【0060】
ここで、本発明者らは、単純せん断によるゴム混合に用いられる加圧型ニーダーやオープンロールでは達成困難な高いせん断速度を実現できる、2軸混練押し出し機を用いて本開示に係るMD構造を作製することを検討した。具体的には、2軸混練押し出し機にはテクノベル社製の「KZW15TW-4MG-NH(-6000)(製品名)を用いた。しかしながら、このような2軸混練押し出し機であってもゴムのゲル化や再凝集が生じ、第2のイオン導電性ゴムのドメインをマトリックス中に微分散化できず、また、第2のイオン導電性ゴムのポリエーテル骨格に由来の結晶構造を生成させることが困難であった。
【0061】
上述したように、伸長せん断と、単純せん断のメカニズムは大きく異なる。つまり、単純せん断における、せん断流動は速度勾配によって材料が引きちぎられる流れである。一方、伸長せん断における伸長流動は、主応力方向に材料が引き伸ばされる流れである。雑誌「成形加工、Vol.23、No.2、pp.72-77(2011))」において、梶原らは、ニュートン流体/ニュートン流体の分散系において、次の結果を報告している。すなわち、単純せん断流動場では粘度比は1程度が好ましいが、伸長流動では粘度比によらず液滴は引き伸ばされて分裂し、粘度比が約5以上も離れた系でも微分散化が達成できる。言い換えると、「材料の粘度比が離れていても伸長せん断では分散しやすい」ということである。本開示における粘弾性体のブレンド材料系においても上記の「分断しやすい」効果が同様に作用することにより、第2のゴムの原料が、第1のゴムの原料のマトリックスに均一に分散させ得るものと考えられる。
【0062】
伸張せん断工程を含む混合には、図3に示すような伸長せん断力付与装置を備えた混練装置を用いることが好ましい。図3(a)及び図3(b)に伸長せん断力付与装置の二つの態様の概略断面図を示す。図3(a)に示す伸長せん断力付与装置3aは、スクリュウ31の内部に細管32を有する。伸長せん断力付与装置3aは、所謂、バッチ循環方式の混練に用いられる。また、図3(b)に示す伸長せん断力付与装置3bは、スクリュウ31の下流側に、スクリュウ31に隣接して細管32を備える。伸長せん断力付与機構3bは、所謂、連続方式の混練に用いられる。
伸長せん断力付与装置3aを備えた混練装置においては、ゴム混合物はスクリュウ31の先端(図3(a)における右端)まで到達した後、スクリュウ31の先端の細管の穴32を通ってスクリュウ31の後端部まで戻される。そのため、ゴム混合物は細管32を繰り返し通過し、その過程で、ゴム混合物は、細管32内で伸長せん断力が付与される。また、ゴム組成物を継続的に伸長せん断場に滞留させることができるため、短時間で大きなせん断力を付与することが可能となる。一方、伸長せん断付与機構3bを備えた混練装置では、スクリュウ31において混練されたゴム混合物が、引き続いて細管32に導入され、細管32内を通過する過程でゴム混合物に伸長せん断力が付与される。
【0063】
細管32の直径は、例えば、0.5mmより大きく、5.0mm以下であることが好ましい。特に好ましくは、1.0~3.0mmである。ゴム混合物により確実に伸長せん断力を加えることができる。なお、細管の穴の数は所望のドメインの均一分散化が実現できれば特に限定されない。また、ここでは、伸長せん断力を付与する具体的な手段の例として細管を挙げたが、同様に伸長せん断効果が得られる構成であれば、細管に限定されるものでなく、例えば、二重円筒形の構成を用いることもできる。バッチ循環方式を採用した混練装置の例としては、伸長せん断装置(微量せん断装置:井元製作所製)や高速せん断装置(ニイガタマシンテクノ製)が挙げられる。また、連続方式の装置としては、上記バッチ循環方式の装置の伸長せん断付与機構3aを、伸長せん断付与機構3bに改造した装置が挙げられる。また、BANDO TECHNICAL REPORT No.18/2014 第4~7ページ4-7に記載の装置なども適宜用いることができる。
【0064】
なお、ゴム混合物の混練及び伸長せん断工程においては、ゴム混合物の温度を170℃以下に管理することが好ましい。第2のゴムの原料の第1のゴムの原料への微細かつ均一な分散、及び第2のゴムの原料が有するポリエーテル骨格に由来の結晶構造の形成及び維持に資するためである。なお、ゴム混合物の混練時の温度を熱電対で測定した場合、赤外温度センサよりも低く計測される傾向がある。そのため、精密な材料温度測定機能(IRセンサー)を用いてゴム混合物の温度を精密に制御することが好ましい。また、ゴム混合物の混練時の発熱に対して、室温以下-20℃まで温度制御可能なチラーを混練装置に付加することも好ましい。
【0065】
以上述べてきた通り、本開示に係る導電性弾性体の製造においては、ゴム混合物に対して伸長せん断を付加する工程を含めることが好ましい。すなわち、本開示に係る導電性弾性体の特に好ましい製造方法は、下記工程(1)及び(2)を含む製造方法である。
(1)該第1のイオン導電性ゴムと、該第2のイオン導電性ゴムと、脂肪酸及び脂肪酸金属塩のいずれか一方もしくは両方とを含むゴム混合物に対して伸長せん断を付加しつつ混練して未加硫ゴム混合物を得る工程;
(2)該未加硫ゴム混合物を硬化させる工程。
【0066】
但し、本開示に係る導電性弾性体の製造方法は、上記の方法に限定されるものではない。例えば、従来の加圧式ニーダーを用いる方法であっても、ブレードの回転数や混練時間の調整することで第2のイオン導電性ゴムに対して伸長せん断力を付与して、第2のイオン導電性ゴムが有するポリエーテル骨格に起因する結晶構造を形成することができる。また、混練時のゴム混合物の温度を170℃以下に管理することで、一旦形成された当該結晶構造を維持することができる。その結果として、加圧式ニーダーを用いることによっても本開示に係る導電性弾性体を形成することができる。
【0067】
<電子写真用部材の製造方法>
本開示に係る電子写真用部材は、
(1)該第1のイオン導電性ゴムと、該第2のイオン導電性ゴムと、脂肪酸及び脂肪酸金属塩のいずれか一方もしくは両方とを含むゴム混合物に対して伸長せん断を付加しつつ混練して未加硫ゴム混合物を得る工程、
(2)該基体上に、工程(1)で得られた未加硫ゴム混合物の層を形成する工程、及び
(3)該未加硫ゴム混合物の層を硬化させる工程、を経ることにより製造することができる。
【0068】
<電子写真画像形成装置>
本開示の一態様に係る電子写真画像形成装置(以下単に「電子写真装置」という)は、本開示の一態様に係る電子写真用の導電性部材を具備する。該電子写真装置の一例を図4の概略構成図に示す。被帯電体である感光体41は、アルミニウムなどの導電性を有する導電性支持体41bと、その上に感光層41aが積層されたドラム形状を有し、支軸41cを中心に図上、時計方向に所定の周速度をもって回転駆動される。
【0069】
感光体41に、帯電ローラ1の導電性軸芯体21の両端が押圧手段(不図示)により押圧され、導電性軸芯体を介して電源42と摺擦電源43aにより直流(DC)バイアスが印加された導電性弾性層が接触配置される。感光体41の回転に伴い帯電ローラが従動回転することにより、感光体41は所定の極性・電位に一様に帯電(一次帯電)される。
【0070】
次いで、露光器44から目的画像情報の露光(レーザービーム走査露光、原稿画像のスリット露光など)を受けた感光体の周面に目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。感光体上の静電潜像は、現像部材45により供給されるトナーが付着されてトナー画像に形成される。次いで、給紙部(不図示)から転写材47が、感光体41の回転と同期して感光体41と転写部材46との間の転写部に搬送され、転写材の裏面からトナー画像と逆極性に印加された転写部材が押圧され、トナー画像が転写材47上に順次転写される。
【0071】
トナー画像の転写を受けた転写材47は、感光体41から分離されて不図示の定着手段へ搬送されてトナー画像が定着され、画像形成物として出力される。裏面にも像形成する電子写真装置においては、再搬送手段により再度の画像形成を行うために、感光体41と転写部材46との間へ転写材47が再搬送される。
【0072】
像転写後の感光体41の周面は、前露光器48による前露光を受けて感光体上の残留電荷が除去(除電)される。この前露光器48には公知の手段を利用することができ、例えばLEDチップアレイ、ヒューズランプ、ハロゲンランプおよび蛍光ランプなどを好適に例示することができる。除電された感光体41の周面は、クリーニング部材49で転写残りトナーなどの付着汚染物の除去を受けて洗浄面化されて、繰り返して画像形成に供される。
【0073】
電子写真装置において、帯電ローラ1は感光体41に従動駆動させてもよく、また非回転としてもよく、感光体41の面移動方向に順方向または逆方向に所定の周速度をもって積極的に回転駆動させるようにしてもよい。露光は、電子写真装置を複写機として使用する場合には、原稿からの反射光や透過光、また、原稿を読み取り信号化し、この信号に基づいてレーザービームを走査したり、LEDアレイを駆動したり、または液晶シャッターアレイを駆動してもよい。
本開示の電子写真装置としては、複写機、レーザービームプリンター、LEDプリンター、あるいは、電子写真製版システムなどの電子写真応用装置等が挙げられる。
【0074】
<プロセスカートリッジ>
本開示の一態様に係るプロセスカートリッジは、本開示の一態様に係る電子写真用の導電性部材を具備し、電子写真画像形成装置の本体に着脱可能に構成されている。該プロセスカートリッジの一例を、図5の構成図に示す。このプロセスカートリッジは、本開示の一態様に係るローラ形状の導電性部材を、帯電ローラ51として具備している。ドラム形状の電子写真感光体(以下、「電子写真感光ドラム」ともいう)53は、帯電ローラ51によって帯電可能なように配置されている。ここでは、具体的には、帯電ローラ51が、電子写真感光ドラム53に押圧されて接触している。また、電子写真感光ドラム53の表面に形成された静電潜像を現像するための現像剤を供給するための現像ローラ55、電子写真感光体ドラム53の周面に残留している現像剤を除去するクリーニングブレード57が設けられている。
【実施例
【0075】
以下に実施例によって本開示を更に詳細に説明するが、これらは、本開示を何ら限定するものではない。なお、以下特に明記しない限り、「部」は「質量部」を意味しており、試薬等は特に指定のないものは市販の高純度品を用いた。
【0076】
実施例におけるA練りゴム組成物(混合物)とは架橋剤や加硫促進剤を添加していない未加硫ゴム組成物(混合物)を指し、B練りゴム組成物(混合物)とは架橋剤や加硫促進剤を添加した未加硫ゴム組成物(混合物)を指す。
【0077】
<実施例1>
(未加硫ゴム混合物の調製)
該第1のイオン導電性ゴムの原料として、ニトリルブタジエンゴム(NBR、商品名:Nipol DN631、日本ゼオン社製)70部、該第2のイオン導電性ゴムの原料としてエピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル3元共重合体(商品名:エピクロマーON301、大阪ソーダ社製)30部、加工助剤としてステアリン酸1部を加圧型ニーダー(商品名:TD6-15MDX、トーシン社製)を用い、充填率70%、ブレード回転数30rpm、混合時間16分の条件で混合してA練りゴム組成物を得た。
【0078】
次に、図3(a)に示した、伸長せん断力付与装置を備えた加工機(商品名:NHSS8-28、ニイガタマシンテクノ製)を用いて、前記A練りゴム組成物に伸長せん断力を付与しつつ混練した。ここで、伸長せん断力付与装置であるスクリュウの細管の穴は2.0mmとした。また、可塑化部温度100℃、混練部温度150℃、スクリュウ回転数を1000rpmに設定し、A練りゴム組成物の混練時間は5秒間とした。こうして、伸長せん断力が付加されたA練りゴム組成物を得た。なお、伸長せん断加工中のせん断発熱を低減するために、冷却機構を用いて、混練中のA練りゴム組成物の温度が170℃を超えないように制御した。
【0079】
次に加硫剤として硫黄(商品名:PMC、鶴見化学工業社製)1.2部、加硫助剤としてジベンゾチアゾリルジスルフィド(商品名:ノクセラーDMP、大内新興化学社製)1部、テトラメチルチウラムモノスルフィド(商品名:ノクセラーTS、大内新興化学社製)1部、をオープンロールにて混合し、B練りゴム組成物を得た。
【0080】
・導電性ローラの作製
快削鋼の表面に無電解ニッケルメッキ処理を施した全長252mm、外径6mmの丸棒を用意した。次に前記丸棒の両端部各11mmを除く長さ230mmの範囲に全周にわたって、接着剤を塗布した。接着剤は、導電性のホットメルトタイプのものを使用した。また、塗布にはロールコータ―を用いた。この接着剤を塗布した丸棒を導電性基体とした。
【0081】
次に、導電性基体の供給機構、未加硫ゴムローラの排出機構を有するクロスヘッド押出機を用意し、クロスヘッドには内径12.5mmのダイスを取付け、押出機とクロスヘッドを80℃に、導電性軸芯体の搬送速度を60mm/secに調整した。この条件で、前記B練りゴム組成物を混練押出機より供給して、クロスヘッド内にて導電性基体の外周面にB練りゴム組成物の層を形成して、未加硫ゴムローラを得た。次に、温度170℃の熱風加硫炉中に、得られた未加硫ゴムローラを投入し、60分間加熱してB練りゴム組成物の層を硬化した。その後、硬化したゴム層の端部を切除し、ゴム層の周方向に直交する方向の長さを230mmとした。最後に、ゴム層の表面を回転砥石で研磨して、中央部から両端部側へ各90mmの位置における各直径が8.4mm、中央部直径が8.5mmであるクラウン形状を有する導電性ローラを得た。これを実施例1に係る電子写真用ローラとした。
【0082】
<評価>
得られた電子写真用部材を以下のようにして評価した。
なお、特記しない限りは、ミクロトームとしては、「Leica EM UC7」(商品名、ライカ社製)、イオンミリングとしては「Leica EMTIC3X」(商品名、ライカ社製)、走査型電子顕微鏡(SEM)としては、「Ultraplus」(商品名、カールツァイス社製)を用いた。また、3次元の立体画像の構築には、FIB-SEM「クライオFIB/SEM、Helios G4 UC」(商品名、エフ・イー・アイ社製)を使用した。
【0083】
<評価1:MD構造の確認>
弾性層から薄片を作成し、該薄片の断面を観察して、弾性層中のMD構造の存在を確認した。まず、ミクロトームを用いて弾性層の周方向と平行な断面が表れている試験片を切り出した。次いで、該試験片の、該弾性層の断面に相当する面をSEMを用いて倍率10000倍で観察し、SEM画像を得た。得られたSEM画像からMD構造の有無を確認した。なお、本評価の結果、実施例1に係る弾性層のMD構造は、図1に示すように複数個のドメイン11が、マトリックス12中に分散されていた。
【0084】
<評価2:ドメインの最大フェレ径の測定>
本実施例に係る導電性ローラの弾性層からミクロトームを用いて弾性層の厚さ方向の断面が含まれるようにサンプルを切り出した。サンプルは、導電性ローラの周方向に直交する方向の長さをLとしたとき、一方の端部から(1/4)L、(2/4)L及び(3/4)Lの3箇所から1個、合計3個を切り出した。
得られた3個のサンプルの各々について、弾性層の断面に相当する面を、SEMを用いて倍率10000倍で撮影し、SEM画像を得た。得られたSEM画像を画像処理ソフトウェア(商品名:ImageProPlus、MediaCybernetics社製)を用いて8ビットのクレースケールに変換して256階調のモノクロ画像を得た。次いで、該モノクロ画像内のドメインが白くなるように画像の白黒を反転させ、画像の輝度分布に対して大津の判別分析法のアルゴリズムに基づいて2値化の閾値を設定し、2値化像を得た。得られた2値化像の任意の3箇所に一辺が15μmの正方形の観察領域を置き、次いで該観察領域に存在するドメインから任意に選択した50個について上記画像処理ソフトウェアのカウント機能を用いて最大フェレ径を求めた。3つのサンプルの3つの観察領域からの9つの最大フェレ径の算術平均値を求め、断面における平均ドメインサイズとして表2に記載した。
【0085】
<評価3:小角X線散乱(Small Angle X-ray Scattering:SAXS)による評価>
弾性層から採取した試料の小角X線散乱による散乱プロファイルを以下のようにして得た。まず、小角X線散乱装置(製品名:NANO-Viewer RIGAKU社製)を用意し、以下の観察条件を設定した。
・波長/カメラ長:λ=0.154nm(CuKα)/0.580m
・測定領域:0.16nm-1<q<2.85nm-1 (2nm<d<40nm)
・ビーム径/スリット径/BS径:0.9mmφ/0.5mmφ-0.3mmφ-0.7mmφ/4mmφ
【0086】
試料への露光時間を30分×2回とし、試料にX線を照射することで得られたSAXSプロファイルから空気散乱を差引くことで試料の散乱によるプロファイルを得た。そこからバックグラウンド除去およびピーク分離を実施してゴム成分由来のピークを抽出し、ポリエーテル骨格に由来の結晶構造のサイズとピーク強度を算出した。特に具体的なスペクトルの評価方法は以下とした。
試料の測定と同じ条件でブランクの測定を行った。これが空気散乱に相当し、空気散乱に由来するブランクのピークを差し引くことでゴム試料測定時のバックグラウンドが除去され、ゴム試料由来の散乱プロファイルを得た。
【0087】
次に、散乱プロファイルのピークが観測された波数領域で波形分離を実施し、波形分離プロファイルを得た。今回は、3成分(ベースラインと構造ピーク2つ)を設定し、ベースラインは3次関数、2つの構造ピークは各々フォークト関数でフィッティングした。ピーク分離のためのグラフ処理ソフトウェアとしては、「IGOR PRO」(商品名:WaveMetrics社製)を用いた。なお、波形分離してピーク面積を数値化できる機能があれば、他のソフトウェアでも同様に使用できる。
【0088】
次にピーク強度比の算出方法について説明する。波形分離プロファイルにおけるポリエーテル骨格由来の結晶構造に由来するピーク(P3)の面積(A2)を、脂肪酸及び脂肪酸金属塩のピーク(P1、P2)の各々の面積の総和(A1)で除することで規格化した値(A2/A1)をピーク強度比とした。
【0089】
図7に実施例1及び後述する比較例1に係る弾性層から採取した試料のSAXSによって得られた散乱プロファイルのベースライン処理後のスペクトル図を示す。当該スペクトル図に示すように、実施例1では1.40nm-1から1.60nm-1の範囲にステアリン酸のピークP1が現れている(ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩のピークP2も同様の範囲に現れる。)。また、1.85nm-1から1.95nm-1の範囲に第2のゴムのピークP3が現れている。一方、比較例1では、ピークP1は見られるものの、ピークP3はほとんど見られない。なお、波形分離プロファイルからのピーク面積A1及びA2の算出は、波形分離プロファイルを、上記グラフ処理ソフトウェアを用いて5点の単純移動平均法によりスムージング処理したプロファイルから算出した。
【0090】
<評価4:弾性層におけるドメインの均一分散性の評価>
ドメインの分散状態は、弾性体層から採取したサンプルについて複数枚の断面画像を、例えば、FIB-SEMを用いて取得し、当該断面画像を用いて再構築した当該サンプルの3次元画像から求めた。
【0091】
具体的には、本実施例に係る導電性ローラの周方向に直交する方向の長さをLとしたとき、一方の端部から(1/4)L、(2/4)L及び(3/4)Lの3箇所において、周方向に120°毎の任意の位置から1個、合計9箇所からサンプルを弾性層からミクロトームを用いて切り出した。サンプルは、一辺が9μmの立方体形状とした。次いで、各サンプルについて、FIBを用いた断面の露出と、露出した断面のSEM画像の撮影とを繰り返してスライス画像群を得た。スライス間隔は60nmとした。得られたスライス画像群を、3D可視化・解析ソフトウェアを用いて3次元画像を再構築した。3D可視化・解析ソフトウェアの例としては、「Avizo」(商品名、エフ・イー・アイ社製)を用いた。次いで、得られた3次元画像から、一辺が9μmの立方体中に含まれる27個の一辺が3μmの単位立方体に分割し(図2(b)参照)、各単位立方体中に含まれるドメインの体積Vdを算出した。そして、各単位立方体についてのVdの算術平均値Vd(avg)を求め、Vdが、Vd(avg)の±2.7μm内に入る単位立方体の個数を求めた。そして、以下の基準に従って評価した。
【0092】
ランクI:当該個数が25個以上
ランクII:当該個数が22~24個
ランクIII:当該個数が20~21個
ランクIV:当該個数が15個以下
【0093】
本実施例においては、弾性層から採取した一辺が9μmの立方体形状のサンプルを27個の一辺が3μmの単位立方体に区分し、各単位立方体に含まれるドメインの体積Vdの平均値Vd(avg)を算出したとき、VdがVd(avg)の±2.7μm以内である単位立方体の数が20個以上(ランクI~ランクIII)である場合、当該サンプル中にドメインが均一に分散しているものと判定した。そして、9個のサンプル中、ランクI~IIIであるサンプルが8個以上である場合に、弾性層中にドメインが均一に分散しているものと評価し、表2において「Y」と表示した。また、上記評価基準を満たさない場合を「N」と表示した。
【0094】
<評価5:弾性層の体積抵抗率の測定>
以下に詳述する電気抵抗測定装置を用いて、電子写真用ローラの部分的な領域に流れる電流値を測定した。本装置では、電子写真用ローラの任意の位置に直径30mm、幅20mmの円柱状の銅製の回転電極を一定圧力で圧接し、電子写真用ローラを回転させ、電子写真用ローラの回転運動に伴い該回転電極を従動回転させた。さらに、電子写真用ローラの導電性軸芯体に外部電源を用いて直流電圧を印加した状態で、回転電極に直列に接続した基準抵抗の両端の電圧を測定した。これにより、電子写真用ローラの導電性弾性層のうち、回転電極と電子写真用ローラの接触面で規定された領域を流れる電流値を得た。接触面の面積は、0.05~0.2cmの範囲内となるように当接圧を調整した。電子写真用ローラの回転数を30rpm、データのサンプリング周波数は20Hz、基準抵抗の電気抵抗値は1kΩに設定した。また、印加電圧は、電流値が0.1mAになるように、10~200Vの間で固定電圧を設定した。以上の条件で、電子写真用ローラの外表面を周方向に0.6mm毎に、一周につき12個の領域の計測を行った。そして、電子写真用ローラの長手方向に回転電極を順次移動させて、同様に、導電性ローラを回転させながら、計140個の領域の電流値を計測した。そして、測定された電流値、電子写真用ローラと回転電極の接触面積、測定箇所の弾性層の厚み、及び、印加電圧から、140個の測定領域の平均体積抵抗率(Ω・cm)を算出した。なお、電流値は、温度15℃、相対湿度10%のLL環境下、及び温度30℃、相対湿度80%のHH環境下で測定した。
【0095】
<評価6:マトリックス、ドメインの体積抵抗率の測定>
マトリックスの体積抵抗率を走査型プローブ顕微鏡(SPM)(商品名:Q-Scope250、Quesant Instrument Corporation社製)を用いてコンタクトモードで以下のようにして測定した。なお、測定環境はLL環境とした。
まず、電子写真用ローラの弾性層からミクロトーム(商品名:Leica EM FCS、ライカマイクロシステムズ社製)を用いて切削温度-100℃にて、該弾性層の厚み方向の断面があらわれるようにして、厚み2μmの切片を切り出した。次に該切片を金属プレート上に、該切片の、該弾性層の厚み方向の断面に相当する面が金属プレートの表面と接するように置いた。そして、該切片の、金属プレートの表面と接している側とは反対側の面のうち、マトリックスに該当する箇所にSPMのカンチレバーを接触させた。そして、該カンチレバーに電圧50Vを印加し、電流値を測定した。また、SPMで当該切片の表面形状を観察し、得られた高さプロファイルから測定箇所の厚みを算出した。さらに、表面形状の観察結果から、カンチレバーの接触部の凹部の面積を算出した。測定された電流値、当該厚み、及び当該凹部の面積を用いて体積抵抗率を算出した。当該切片は、電子写真用ローラの周方向に直交する方向に5等分し、周方向に4等分した計20箇所の領域から各々1つ採取した。そして各々の切片から算出した体積抵抗率の算術平均値を求め、測定対象に係る弾性体のマトリックスの体積抵抗率とした。
ドメインの体積抵抗率は、カンチレバーの接触位置を切片のドメインに該当する箇所に変え、印加電圧を1Vとした以外は、上記マトリックスの体積抵抗率の測定方法と同様にして測定し、算出した。
【0096】
<評価7:電子写真用ローラのLL環境下での導電性変化の測定>
図6に概略を示す電気抵抗測定装置を用いて、電子写真用ローラに流れる電流値を測定した。本装置では、電子写真用ローラの導電性基体11の両端部を不図示の押圧手段で直径30mmの円柱状の金属ドラム61に圧接し、金属ドラム61を回転駆動させ、電子写真用ローラ1を従動回転させた。さらに、電子写真用ローラ1の導電性基体11に外部電源62から直流電圧を印加した。なお、導電性基体11と金属ドラム61との間には、直流20~100Vの間で設定した一定の電圧値とした。この状態で、金属ドラム61に直列に接続した基準抵抗63の両端の電圧を測定した。電子写真用ローラ1を流れる電流値は、基準抵抗63の電気抵抗値および基準抵抗63の両端の電圧を基に算出した。金属ドラム61の回転数は30rpm、基準抵抗63の電気抵抗値は100Ω~1kΩの間の所定の値に設定した。また、データのサンプリング周波数は20Hzに設定し、10秒間の計測値の平均値を電子写真用ローラ1に流れる電流値とした。このときの値を初期電流値Iとした。
次いで、導電性基体11と金属ドラム61との間に、上記一定の直流電圧を10分間継続して印加し続けた後、上記と同様にして電流値を求めた。この電流値を耐久電流値Iとした。そして、Iに対するIの割合を電流維持率(%)とした。そして、下記の基準で評価した。
【0097】
ランクA:維持率が90%以上
ランクB:維持率が80%以上90%未満
ランクC:維持率が70%以上80%未満
ランクD:維持率が60%以上70%未満
ランクE:維持率が50%以上60%未満
ランクF:維持率が50%未満
【0098】
<評価8:画像評価>
実施例1に係る電子写真用ローラを帯電ローラとして装着した電子写真画像形成装置を用いて以下の評価を行った。
まず、電子写真画像形成装置として、レーザープリンター(商品名:Laserjet M608dn、HP社製)を用意した。上記レーザープリンターは、高速プロセスにおける評価が可能なように、単位時間当たりのA4サイズの画像の出力枚数が、75枚/分となるように改造した。なお、その際の紙の出力スピードは370mm/秒、画像解像度は1200dpiとした。
次に、実施例1に係る電子写真用ローラ、電子写真画像形成装置の本体、及び該本体に装填するプロセスカートリッジを、温度15℃、相対湿度10%の低温低湿(LL)環境に48時間放置し、LL環境に馴染ませた。次いで、電子写真用ローラを、プロセスカートリッジに帯電ローラとして装着した。そして、上記と同じ環境下で、外部電源(Trek615 トレックジャパン社製)によって、電子写真用ローラに-900Vの直流電圧を印加して、A4サイズの紙上に形成されたハーフトーン画像を1枚出力した。ハーフトーン画像とは、電子写真感光ドラムの回転方向と直交する方向に幅1ドットの線を間隔2ドットで描く画像である。この画像を「1枚目のハーフトーン画像」と称する。次いで、A4サイズの紙上に、サイズが14ポイントのアルファベット「E」の文字が、印字濃度1%となるように形成された電子写真画像を2500枚出力した。引き続いて、A4サイズの紙上にハーフトーン画像が形成された電子写真画像を1枚出力した。この画像を「2501枚目のハーフトーン画像」と称する。そして、1枚目のハーフトーン画像、及び2501枚目のハーフトーン画像を目視で観察し、それらの粒状性を下記の基準に基づき評価した。
ランクA:粒状性が認められない
ランクB:粒状性がかすかに認められる
ランクC:粒状性が認められる
ランクD:粒状性が顕著に認められる
【0099】
実施例1に係る電子写真用ローラの評価1~評価8の結果を表2に示す。なお、評価1については、(1)波形分離プロファイルにおけるピークP1またはP2の有無、(2)ピークP3の有無、(3)A2・C2/A1・C1、及び(4)A2/A1を記載した。
【0100】
<実施例2~8>
(A練りゴム組成物の作製)
処方を表1に記載したように変更した以外は、実施例1に係るA練りゴム組成物と同様にして、実施例2~8に係るA練りゴム組成物を調製した。そして、各実施例に係るA練りゴム組成物について、実施例1と同様にして伸長せん断力を付与した。こうして得られた、伸長せん断力を付与したA練りゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にしてB練りゴム組成物を調製した。次いで、各実施例に係るB練りゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2~8に係る電子写真用ローラを作製し、評価した。
実施例1~8の評価結果を表2に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1中、各材料の詳細は以下の通りである。
・DN631:NBR(商品名:Nipol DN631、日本ゼオン社製)
・N230SV:NBR(商品名:JSR N230SV、JSR社製)
・N1072:NBR(商品名:Nipol 1072、日本ゼオン社製)
・DN300:NBR(商品名:Nipol DN300、日本ゼオン社製)
・Z8010:ポリエーテルゴム(商品名:Zeospan 8010、日本ゼオン社製)
・CG102:エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル3元共重合体(商品名:エピクロマーCG102、大阪ソーダ社製)
・ON301:エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル3元共重合体(商品名:エピクロマーON301、大阪ソーダ社製)
・DMP:ジベンゾチアゾリルジスルフィド(商品名:ノクセラーDMP、大内新興化学社製)
・TS:テトラメチルチウラムモノスルフィド(商品名:ノクセラーTS、大内新興化学社製)
・硫黄:硫黄(商品名:PMC、鶴見化学工業社製)
【0103】
【表2】
【0104】
<実施例9>
スクリュウの回転数を750pmに変更した以外は、実施例1と同様にしてA練りゴム組成物に対して伸長せん断力を付与した。こうして得られた、伸長せん断力を付与したA練りゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にしてB練りゴム組成物を調製した。次いで、得られたB練りゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例9に係る電子写真用ローラを作製し、評価した。
【0105】
<実施例10~16>
(ゴム混合物の作製)
処方を表3に記載したように変更した以外は、実施例9に係るA練りゴム組成物と同様にしてA練りゴム組成物を調製した。そして、各実施例に係るA練りゴム組成物について、実施例9と同様にして伸長せん断力を付与した。こうして得られた、伸長せん断力を付与したA練りゴム組成物を用いた以外は、実施例9と同様にしてB練りゴム組成物を調製した。次いで、各実施例に係るB練りゴム組成物を用いた以外は、実施例9と同様にして、実施例10~16に係る電子写真用ローラを作製し、評価した。
【0106】
実施例9~16の評価結果を表4に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
表3中、材料の詳細は表1と同様である。
【0109】
【表4】
【0110】
<実施例17>
(A練りゴム組成物の調製)
A練りゴム組成物の調製に用いた加工機を加圧型ニーダー(商品名:TD6-15MDX、トーシン社製)に変えた。加圧型ニーダーによる混練の条件としては、充填率を70%、ブレード回転数を30rpmとした。また、せん断による発熱でゴム混合物の温度が50℃以上に昇温することを避けるため、混練を2分間継続した後、停止し、ゴム混合物が自然に冷却された後、再び2分間混練を継続するという操作を5回繰り返した。こうして、本実施例に係るA練りゴム組成物を調製した。
【0111】
こうして得られた、A練りゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にしてB練りゴム組成物を調製した。次いで、本実施例に係るB練りゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例17に係る電子写真用ローラを作製し、評価した。
【0112】
<実施例18~24>
(ゴム混合物の作製)
処方を表5に記載したように変更した以外は、実施例17に係るA練りゴム組成物と同様にして、実施例18~24に係るA練りゴム組成物を調製した。こうして得られた、伸長せん断力を付与したA練りゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にしてB練りゴム組成物を調製した。次いで、各実施例に係るB練りゴム組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例18~24に係る電子写真用ローラを作製し、評価した。
実施例17~24の評価結果を表6に示す。
【0113】
【表5】
【0114】
表5中、材料の詳細は表1と同様である。
【0115】
【表6】
【0116】
<実施例25~33>
処方を表7に記載したように変更し、また、伸長せん断力付与装置であるスクリュウの回転数を表7に記載したように変更した。それら以外は、実施例1に係るA練りゴム組成物と同様にして伸長せん断力が付加されたA練りゴム組成物を調製した。こうして得られた、伸長せん断力が付与されたA練りゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にしてB練りゴム組成物を調製した。次いで、各実施例に係るB練りゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例25~33に係る電子写真用ローラを作製し、評価1~評価7に供した。評価結果を表8に示す。
【0117】
【表7】
【0118】
表7中、材料の詳細は表1と同様である。
【0119】
【表8】
【0120】
<実施例34~42>
処方を表9に記載したように変更し、また、伸長せん断力付与装置であるスクリュウの回転数を表9に記載したように変更した。それら以外は、実施例1に係るA練りゴム組成物と同様にして伸長せん断力が付加されたA練りゴム組成物を調製した。こうして得られた、伸長せん断力が付与されたA練りゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にしてB練りゴム組成物を調製した。次いで、各実施例に係るB練りゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例34~42に係る電子写真用ローラを作製し、評価1~評価7に供した。実施例34~42の評価結果を表10に示す。
【0121】
【表9】
【0122】
表9中、材料の詳細は表1と同様である。
【0123】
【表10】
【0124】
<実施例43~50>
処方を表11に記載したように変更し、また、伸長せん断力付与装置であるスクリュウの回転数を表11に記載したように変更した。それら以外は、実施例1に係るA練りゴム組成物と同様にして伸長せん断力が付加されたA練りゴム組成物を調製した。こうして得られた、伸長せん断力が付与されたA練りゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にしてB練りゴム組成物を調製した。次いで、各実施例に係るB練りゴム組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例43~50に係る電子写真用ローラを作製し、評価1~評価7に供した。評価結果を表12に示す。
【0125】
【表11】
【0126】
表11中、B31以外の材料の詳細は表1と同様である。
B31:クロロプレンゴム(商品名:スカイプレンB31、東ソー社製)
【0127】
【表12】
【0128】
<比較例1~8>
表13に示したように、実施例17~24におけるA練りゴム組成物の調製の際の加圧型ニーダーによる連続混練時間を16分に変更した以外は、実施例17~24と同様にして、比較例1~8に係る電子写真用ローラを作製し、評価1~評価8に供した。
【0129】
【表13】
【0130】
<比較例9>
表14に示す材料をオープンロールを用いて混合して、未加硫ゴム混合物を調製した。こうして得られた未加硫ゴム混合物を、B練りゴム組成物の代わりに用いた以外は、実施例1と同様にして導電性ローラを作製し、評価1~評価8に供した。
比較例1~9の評価結果を表15に示す。
【0131】
【表14】
【0132】
表14中、以下の材料以外は、材料の詳細は表1と同様である。
・G1000:エピクロルヒドリンゴム(商品名:Gechron1000、日本ゼオン社製)
・Z8030:ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル3元共重合体(商品名:Zeospan 8030、日本ゼオン社製)
・LNR1312:液状ニトリルゴム(商品名:Nipol1312、日本ゼオン社製)
・ADCA:アゾジカルボイミド
・M:メルカプトベンゾチアゾール
・TRA:ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド
・MQDTC:6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート
【0133】
【表15】
【0134】
以上、本開示により環境に依存せずかつ高速プロセス下でもキャリアの移動をより効率的に行うことが可能であった。その結果、高速プロセス下においても通電劣化によって電気抵抗値が変化しににくく、細かな横スジ状の欠陥のない高品位な電子写真画像を安定的持続的に形成することのできる導電性弾性体、及びその製造方法を提供することができた。また本開示の一態様によれば、高速プロセス下でも高品位な電子写真画像を安定的に形成することのできる導電性弾性体から形成される電子写真用部材を得ることができた。
【符号の説明】
【0135】
11 ドメイン
12 マトリックス
1 電子写真用部材(帯電ローラ)
21 導電性基体(導電性軸芯体)
22 導電性弾性層
23 第1の立方体形状
24 単位立方体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7