(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】送信装置、送信方法、受信装置及び受信方法
(51)【国際特許分類】
H04L 27/26 20060101AFI20241125BHJP
H04H 20/28 20080101ALI20241125BHJP
H04H 20/95 20080101ALI20241125BHJP
H04J 99/00 20090101ALI20241125BHJP
【FI】
H04L27/26 111
H04H20/28
H04H20/95
H04J99/00
H04L27/26 114
(21)【出願番号】P 2021084611
(22)【出願日】2021-05-19
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小畑 晴香
(72)【発明者】
【氏名】古川 剛志
(72)【発明者】
【氏名】大野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 逸平
(72)【発明者】
【氏名】多田 康崇
(72)【発明者】
【氏名】多賀 昇
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆史
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-192052(JP,A)
【文献】特開2020-184666(JP,A)
【文献】特開2020-191537(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0375706(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/26
H04H 20/28
H04H 20/95
H04J 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電力レベルの第1信号と、前記第1電力レベルより低い第2電力レベルの第2信号とを加算することにより送信信号を生成し、前記送信信号を送信する送信装置であって、
前記第1信号は、第1既知信号を含み、
前記第2信号は、第2既知信号を含み、
前記第1既知信号の一部に前記第2既知信号を多重し、
前記第1既知信号の残りの少なくとも一部にヌル信号を多重する、送信装置。
【請求項2】
前記第1信号は、周波数軸方向及び時間軸方向に配列される複数の第1伝送シンボルを含み、
前記第1既知信号は、前記複数の第1伝送シンボルの中の周波数軸方向に第1周期で離散する複数の第1シンボルにそれぞれ挿入された複数の第1スキャッタードパイロット信号を含み、
前記第2信号は、周波数軸方向及び時間軸方向に配列される複数の第2伝送シンボルを含み、
前記第2既知信号は、前記複数の第2伝送シンボルの中の周波数軸方向に第2周期で離散する複数の第2シンボルにそれぞれ挿入された複数の第2スキャッタードパイロット信号を含み、
前記第2周期は前記第1周期より長い、請求項1記載の送信装置。
【請求項3】
前記第2周期は前記第1周期の2倍である、請求項2記載の送信装置。
【請求項4】
前記第1既知信号は、前記複数の第1伝送シンボルの中の時間軸方向に第3周期で離散する複数の第3シンボルに挿入された複数の第3スキャッタードパイロット信号を含み、
前記第2既知信号は、前記複数の第1伝送シンボルの中の時間軸方向に第4周期で離散する複数の第4シンボルに挿入される複数の第4スキャタードパイロット信号を含み、
前記第4周期は前記第3周期より長い、請求項2記載の送信装置。
【請求項5】
前記第4周期は前記第3周期の2倍である、請求項4記載の送信装置。
【請求項6】
前記第1既知信号と前記第2既知信号を正規化してから加算し、
前記第2既知信号の位相は、前記第1既知信号の位相と異なる、請求項1乃至請求項5のいずれか一項記載の送信装置。
【請求項7】
前記第2既知信号の位相は、前記第1既知信号の位相と90度異なる、請求項6記載の送信装置。
【請求項8】
前記第1信号は、周波数軸方向及び時間軸方向に配列された複数の第1伝送シンボルを含む第1データセグメントを含み、
前記第1既知信号は、前記第1データセグメントの周波数帯域とは異なる第1周波数の第1連続パイロット信号を含み、
前記第2信号は、周波数軸方向及び時間軸方向に配列された複数の第2伝送シンボルを含む第2データセグメントを含み、
前記第2既知信号は、前記第2データセグメントの周波数帯域とは異なる第2周波数の第2連続パイロット信号を含む、請求項1記載の送信装置。
【請求項9】
前記第2既知信号は、前記第1既知信号と同じ周波数帯域の信号であり、前記第2既知信号の位相は、前記第1既知信号と位相と異なる、請求項8記載の送信装置。
【請求項10】
第1電力レベルの第1信号と、前記第1電力レベルより低い第2電力レベルの第2信号とを加算することにより送信信号を生成し、前記送信信号を送信する送信方法であって、
前記第1信号は、少なくとも2つの第1既知信号を含み、
前記第2信号は、第2既知信号を含み、
前記第1既知信号の一部に前記第2既知信号を多重し、
前記第1既知信号の他の一部にヌル信号を多重する、送信方法。
【請求項11】
第1電力レベルの第1信号と、前記第1電力レベルより低い第2電力レベルの第2信号とを加算することにより生成された送信信号を受信する受信装置であって、
前記第1信号は、第1既知信号を含み、
前記第2信号は、第2既知信号を含み、
前記第1既知信号の一部に前記第2既知信号が多重され、
前記第1既知信号の他の一部にヌル信号が多重された、受信装置。
【請求項12】
前記送信信号に対応する第1受信信号の伝搬路の第1周波数特性の劣化を前記第1既知信号の前記他の一部に基づき補償する第1処理と、
前記第1処理により前記第1周波数特性の劣化が補償された前記第1受信信号を受信処理して前記第1信号を得る第2処理と、
前記第1処理により前記第1周波数特性の劣化が補償された前記第1受信信号から前記第1信号を減算して得られた第2受信信号の伝搬路の第2周波数特性の劣化を前記第2既知信号に基づき補償する第3処理と、
前記第3処理により前記第2周波数特性の劣化が補償された前記第2受信信号を受信処理して前記第2信号を得る第4処理と、を実行する、請求項11記載の受信装置。
【請求項13】
前記送信信号に対応する第1受信信号の伝搬路の第1周波数特性の劣化を前記第1既知信号の前記他の一部に基づき補償する第1処理部と、
前記第1処理部により前記第1周波数特性の劣化が補償された前記第1受信信号を受信処理して前記第1信号を得る第2処理部と、
前記第1処理部により前記第1周波数特性の劣化が補償された前記第1受信信号から前記第1信号を減算して得られた第2受信信号を入力する入力端子と、前記第2受信信号を出力する第1出力端子及び第2出力端子を有する切り替え部と、
前記切り替え部の第2出力端子に接続され、前記第2受信信号の伝搬路の第2周波数特性の劣化を前記第2既知信号に基づき補償する第3処理部と、
前記切り替え部の第1出力端子及び前記第3処理部の出力端子に接続され、前記切り替え部の第1出力端子から出力された前記第2受信信号または前記第3処理部により前記第2周波数特性の劣化が補償された前記第2受信信号を受信処理して前記第2信号を得る第4処理部と、を具備し、
前記切り替え部は、前記第2受信信号を前記第1出力端子から前記第4処理部に供給した時に前記第4処理部により前記第2信号が得られない場合、前記第2受信信号を前記第2出力端子から前記第3処理部に供給する、請求項
11記載の受信装置。
【請求項14】
前記送信信号に対応する第1受信信号の伝搬路の第1周波数特性の劣化を前記第1既知信号の前記他の一部に基づき補償する第1処理部と、
前記第1処理部により前記第1周波数特性の劣化が補償された前記第1受信信号を受信処理して前記第1信号を得る第2処理部と、
前記第1処理部により前記第1周波数特性の劣化が補償された前記第1受信信号から前記第1信号を減算して得られた第2受信信号を入力する入力端子と、前記第2受信信号を出力する第1出力端子及び第2出力端子を有する切り替え部と、
前記切り替え部の第2出力端子に接続され、前記第2受信信号の伝搬路の第2周波数特性の劣化を前記第2既知信号に基づき補償する第3処理部と、
前記切り替え部の第1出力端子及び前記第3処理部の出力端子に接続され、前記切り替え部の第1出力端子から出力された前記第2受信信号または前記第3処理部により前記第2周波数特性の劣化が補償された前記第2受信信号を受信処理して前記第2信号を得る第4処理部と、を具備し、
前記第1処理
部は、前記第1周波数特性を求め、
前記第3処理
部は、前記第2周波数特性を求め、
前記切り替え部は、前記第1処理
部により求められた前記第1周波数特性と前記第3処理
部により求められた前記第2周波数特性が同等でない場合、
前記第2受信信号を前記第2出力端子から前記第3処理部に供給し、前記第1処理
部により求められた前記第1周波数特性と前記第3処理
部により求められた前記第2周波数特性が同等である場合、
前記第2受信信号を前記第1出力端子から前記第4処理部に供給する、請求項
11記載の受信装置。
【請求項15】
第1既知信号が挿入された第1電力レベルの第1信号と、第2既知信号が挿入され、前記第1電力レベルより低い第2電力レベルの第2信号と、が加算された送信信号であって、前記第1既知信号の一部に前記第2既知信号が多重され、前記
第1既知信号の他の一部にヌル信号が多重された送信信号を受信する受信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複数の信号を多重化して送信する送信装置及び送信方法並びに上記の送信装置から送信された信号を受信する受信装置及び受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線信号の送信方式として、階層分割多重(Layered Division Multiplexing:LDM)方式が提案されている。LDM方式では、異なる信号、例えば2つの信号が異なる電力で多重化される。これにより、異なる信号が同時刻に同帯域で送信され、周波数利用効率が向上する。
【0003】
サービス統合地上デジタル放送(Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial:ISDB-T)方式と称される現行の地上デジタルテレビジョン放送の次世代規格の検討において、周波数利用効率の向上または現行方式との共存を可能とするため、LDM方式の利用が提案されている。一例として、ISDB-T方式に準拠する信号(以下、ISDB-T信号と称される)を高電力階層とし、ISDB-T方式を高度化させた次世代地上デジタルテレビジョン放送方式(例えば、4K8K方式、あるいはスーパーハイビジョン(SHV)方式)に準拠する信号(以下、SHV信号と称される)を低電力階層とした合成信号を送信することが考えられている。伝搬路推定のための既知信号であるパイロット信号はISDB-T信号のみに挿入される。
【0004】
受信装置は、低電力階層のSHV信号を雑音とみなして合成信号を復調することより、ISDB-T信号を得る。受信装置は、合成信号からISDB-T信号をキャンセルした信号を復調することにより、SHV信号を得る。受信装置は、ISDB-T信号もSHV信号も同じ伝搬路を介して受信するので、ISDB-T信号のパイロット信号で、伝搬路を推定する。
【0005】
SHV方式の普及にあたり、一度の全ての送信局がLDM方式に対応できるようになるとは考えにくい。一部の送信局(親局と称される)がLDM方式でISDB-T信号とSHV信号を送信し、他の送信局(子局と称される)は親局と同期してISDB-T信号のみを送信することが予想される。親局のサービスエリアと子局のサービスエリアは一部重なる。両局のサービスエリアが重なっている地域では、受信装置は、親局からのISDB-T信号とSHV信号と、子局からのISDB-T信号の3つの信号を受信する。つまり、ISDB-T信号は親局と子局からの信号が合成されて受信され、SHV信号は親局からの信号のみとなる。これはISDB-T信号とSHV信号の伝搬路が異なることを意味する。前述したように、伝搬路推定のための既知信号であるパイロット信号はISDB-T信号のみに挿入されることが想定されているため、ISDB-T信号に対応する伝搬路しか推定できない。したがってSHV信号の伝搬路が推定できず等化が困難となり、SHV信号が復調できない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】岡田寛正、外1名、「地上デジタルTV放送に対するLDM方式の適用に関する一考察」、映像情報メディア学会技術報告、2016年10月21日、Vol.40、No.35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、受信装置がLDM方式に対応した送信装置からの信号に加えてLDM方式に対応していない送信装置からの信号を受信しても、受信装置が信号を復調することができることを可能とする信号を送信する送信装置及び送信方法を提供することである。
本発明の他の目的は、LDM方式に対応した送信装置からの信号に加えてLDM方式に対応していない送信装置からの信号を受信しても、LDM方式で受信した信号を復調することができる受信装置及び受信方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態による送信装置は、第1電力レベルの第1信号と前記第1電力レベルより低い第2電力レベルの第2信号を加算することにより送信信号を生成し、送信信号を送信する。第1信号は第1既知信号を含む。第2信号は第2既知信号を含む。第1既知信号の周波数は第2既知信号の周波数と異なる。
実施形態による受信装置は、第1電力レベルの第1信号と、第1電力レベルより低い第2電力レベルの第2信号とを加算することにより生成された送信信号を受信する。第1信号は、第1既知信号を含み、第2信号は、第2既知信号を含み、第1既知信号の一部に前記第2既知信号が多重され、第2既知信号の他の一部にヌル信号が多重されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態によるLDM方式で伝送される信号の概略を示す図。
【
図2】実施形態によるLDM方式の階層多重化の概念を示す図。
【
図4】実施形態によるISDB-T信号のOFDMセグメントの一例を示す図。
【
図5】実施形態によるSHV信号のOFDMセグメントの一例を示す図。
【
図6】実施形態によるSHV信号のOFDMセグメントの一例を拡大して示す図。
【
図7】実施形態においてISDB-T信号に挿入されるパイロット信号とSHV信号に挿入されるパイロット信号の一例を示す図。
【
図8】実施形態によるISDB-T信号とSHV信号の伝送スペクトルの例を示す図。
【
図9】実施形態によるISDB-T信号の伝送スペクトルの他の例を示す図。
【
図10】実施形態によるSHV信号の伝送スペクトルの他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、実施形態を説明する。以下の説明は、実施形態の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、実施形態の技術的思想は、以下に説明する構成要素の構造、形状、配置、材質等に限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る変形は、当然に開示の範囲に含まれる。説明をより明確にするため、図面において、各要素のサイズ、厚み、平面寸法又は形状等を実際の実施態様に対して変更して模式的に表す場合もある。複数の図面において、互いの寸法の関係や比率が異なる要素が含まれることもある。複数の図面において、対応する要素には同じ参照数字を付して重複する説明を省略する場合もある。いくつかの要素に複数の呼称を付す場合があるが、これら呼称の例はあくまで例示であり、これらの要素に他の呼称を付すことを否定するものではない。また、複数の呼称が付されていない要素についても、他の呼称を付すことを否定するものではない。なお、以下の説明において、「接続」は直接接続のみならず、他の要素を介して接続されることも意味する。
【0011】
以下、図面を参照しながら本実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
先ず、実施形態の前提として、LDM方式について説明する。
図1は、LDM方式で伝送される信号の概略を示す。LDM方式では、同一または異なる方式により変調された高電力階層(上位階層(UL)とも称される)信号と低電力階層(下位階層(LL)とも称される)信号の2つの異なる信号が多重化され、同時刻に同帯域で送信される。UL信号の例はISDB-T信号であってもよく、LL信号の例はSHV信号であってもよい。UL信号の電力レベルはLL信号の電力レベルより高く、2つの階層間の電力比は、インジェクションレベルと称される。インジェクションレベルの例は、23dB又は15dBである。なお、2つの異なる信号の多重化に限らず、同じ信号の多重化でもよい。例えば、ISDB-T信号を送信せずに、SHV信号を上位階層と下位階層で送信してもよい。また、2つの階層に限らず、3つ以上の階層の信号を多重化して送信してもよい。以下では、UL信号をISDB-T信号とし、LL信号をSHV信号として説明する。
【0013】
図2はLDM方式の階層多重化の概念の一例を示す。LDM方式は、多重化する信号を正規化してから多重化する方式と、正規化しないで多重化する方式を含む。
図2は、多重化する信号を正規化する方式の例を示す。時間領域のISDB-T信号Txiが電力調整部2に入力される。電力調整部2は、ISDB-T信号Txiの電力レベルを正規化係数βに基づいて調整する。時間領域のSHV信号Txsが電力調整部4に入力される。電力調整部4は、SHV信号Txsの電力レベルを正規化係数βとスケーリング係数αの積に基づいて調整する。電力調整部2、6の出力が加算部5において加算され、ISDB-T信号とSHV信号の合成信号が送信される。合成信号Txを式1に示す。
Tx=βTxi+αβTxs 式1
インジェクションレベルは、SHV信号Txsの平均電力に対するISDB-T信号Txiの平均電力の比を表わす値である。インジェクションレベルは受信装置の設定の際に決定される。インジェクションレベルが大きいほど合成信号におけるISDB-T信号Txiの電力割合が大きく、インジェクションレベルが小さいほど合成信号におけるISDB-T信号Txiの電力割合が小さくなる。電力調整の係数である正規化係数βとスケーリング係数αはインジェクションレベルに応じて定められる。
【0014】
多重化する信号を正規化しないで多重化する方式の場合、合成信号Tx1は式1Bに示すようになる。
Tx1=ATxi+BTxs 式1B
A、Bは任意の係数である。係数A、Bを調整することにより、下位階層と上位階層の信号の振幅を任意に変化させて多重できる。
【0015】
LDM方式により多重化された合成信号を受信する受信装置は、逐次除去復号(Successive Interference Cancellation:SIC)方式を採用してもよい。SIC方式を用いる受信装置は、受信した合成信号の復調の際、LL信号をノイズと見做すことができる。このため、受信装置は、合成信号を復調することによりUL信号のみを得る。受信装置は、このUL信号を変調し、UL信号の変調信号の推定信号(推定変調信号)を求める。受信装置は、受信した合成信号から推定変調信号を減算し、この減算結果を復調することにより、LL信号を得る。
【0016】
実施の形態では、信号の変調方式の一例は、直交周波数分割多重化(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:OFDM)変調である。
【0017】
同期方式のLDM方式では、ISDB-T信号のOFDM変調器とSHV信号のOFDM変調器が共通のクロックで動作され、ISDB-T信号のOFDMシンボルと、SHV信号のOFDMシンボルが同一のタイミングで送信される。同期方式のLDM方式では、両信号のシンボル長が等しく、OFDMシンボルの切り替わりタイミングも等しいので、制御が簡単である。
【0018】
図3は実施形態による送信装置の一例を示すブロック図である。上位階層(UL)情報ビット生成部11と下位階層(LL)情報ビット生成部21が設けられる。UL情報ビット生成部11とLL情報ビット生成部21は送信装置の上位レイヤの装置により実現されてもよい。UL情報ビット生成部11はUL信号(ISDB-T信号)の情報ビット列を生成し、LL情報ビット生成部21はLL信号(SHV信号)の情報ビット列を生成する。
【0019】
先ず、上位階層について説明する。ISDB-T信号の情報ビット列は、符号化部12に入力される。符号化部12は外符号化部とも称される。符号化部12は、例えばリードソロモン(Reed Solomon:RS)符号化方式を採用することができる。以下、符号化部12はRS符号化部12と称される。RS符号化部12は、例えば短縮化RS符号化を行う。短縮化RS符号化では、204バイト中8バイトまでのランダム誤りを訂正可能である。
【0020】
RS符号化部12から出力される符号化ビット列は、エネルギー拡散部13に入力される。エネルギー拡散は、疑似ランダム符号系列PRBSを用いて行われる。PRBS生成回路の生成多項式を式2に示す。
g1(x)=x15+x14+1 式2
すなわち、PRBS生成回路は直列に接続された15個のD型フリップフロップからなる。入力側から数えて14番目のフリップフロップの出力x14と15番目のフリップフロップの出力x15が加算され、1番目のフリップフロップに入力される。
【0021】
同期バイトを除く信号とPRBS系列との間でビット単位の排他的論理和が取られる。PRBS生成回路の各フリップフロップの初期値は、入力側から“100101010000000”とされ、OFDMフレーム毎に初期化される。
【0022】
エネルギー拡散部13の出力ビット列は、バイトインターリーブ(バイトIL)部14に入力される。バイトIL部14は、204バイトの信号に対して畳み込みバイトインターリーブを行う。インターリーブの深さは、例えば12バイトとする。バイトIL部14は、12のパスを有する。パス0は遅延量0である。パス1のFIFOシフトレジスタの容量は17バイトであり、パス2のFIFOシフトレジスタの容量は17×2=34バイトであり、以下同様に、パス11のFIFOシフトレジスタの容量は17×11=187バイトである。入力と出力は、1バイト毎にパス0、パス1、パス2、…パス11、パス0、パス1、…と順次巡回的に切り替えられる。
【0023】
バイトIL部14の出力ビット列は、畳み込み符号化部15に入力される。畳み込み符号化部15は内符号化部とも称される。畳み込み符号化部15は、例えば、高速長k=7、符号化率1/2をマザーコードとするパンクチャード畳み込み符号化を行う。マザーコードの生成多項式は、X出力に関してはG1=171(10進数)、Y出力に関してはG2=133(10進数)とする。畳み込み符号化部15も誤り訂正符号化を行う。
【0024】
畳み込み符号化部15から出力される符号化ビット列は、ビットインターリーブ(ビットIL)部16に入力される。ビットIL部16の出力は、時間・周波数インターリーブ(時間・周波数IL)部17に入力される。先ず、時間・周波数IL部17は、変調シンボル単位(I軸、Q軸単位)のセグメント内時間インターリーブ処理を行う。次に、時間・周波数IL部17は、キャリアローテション処理とキャリアランダマイズ処理を行うことによりセグメント内インターリーブ処理を行う。
【0025】
時間・周波数IL部17の出力は、パイロット付加部18に入力される。パイロット付加部18は、ISDB-T信号のOFDMセグメントにパイロット信号を付加する。パイロット信号は既知信号である。OFDMセグメントにパイロット信号を挿入することにより、受信装置が伝搬路を推定し、推定した結果に応じて伝搬路の特定の劣化を補償することができる。パイロット信号は、周波数方向(キャリア方向)に分散して配置されるスキャッタードパイロット信号(SP信号と称される)と、時間方向に連続して配置されるコンティニュアルパイロット信号(連続パイロット信号、CP信号とも称される)を含む。なお、SP信号は時間方向(OFDMシンボル方向)にも分散して配置されてもよい。
【0026】
SP信号を利用するパイロット信号の挿入例を
図4に示す。
図4は、ISDB-T信号の1個のOFDMセグメントの一例を示す。
図4では1キャリア毎の変調方式としては、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(16 Quadrature Amplitude Modulation)又は64QAMが想定される。
図4の例では、1個のOFDMセグメントは108個のキャリアを含む。OFDMセグメントのキャリア数はこの例に限らず、216個のキャリア又は432個のキャリアからなることもある。ここでは、108個のキャリアシンボルは纏めてシンボルグループと称される。13個のOFDMセグメント(13×108)はOFDMシンボルと称される。204個のOFDMシンボルはOFMDフレームと称される。Si,j(i=0~95、j=0~203)は、インターリーブ後のデータセグメントのキャリアシンボルを表わす。キャリアシンボルは伝送シンボルとも称される。パイロット付加部18は、周波数(キャリア番号)方向において、12個のキャリアシンボル毎にSP信号をOFDMセグメントに1回挿入する。周波数方向におけるSP信号の挿入周期は、第1周期(12個のキャリア)である。パイロット付加部18は、時間(OFDMシンボル番号)方向において、4個のキャリアシンボル毎にSP信号を1回挿入する。時間方向におけるSP信号の挿入周期は、第2周期(4個のキャリアシンボル)である。
【0027】
例えば、パイロット付加部18は、シンボル番号0のシンボルグループの中のキャリア番号0、12、…のキャリアシンボルにSP信号を挿入する。
パイロット付加部18は、シンボル番号1のシンボルグループの中のキャリア番号3、15、…のキャリアシンボルにSP信号を挿入する。
以下、同様に、パイロット付加部18は、シンボルグループ毎に、隣接するシンボルグループとは異なるキャリア番号のキャリアシンボルにSP信号を挿入する。
なお、SP信号が挿入されるキャリアシンボルのキャリア番号は、数シンボルグループ毎に同じでも構わない。例えば、パイロット付加部18は、シンボル番号4のシンボルグループについては、シンボル番号0のシンボルグループの場合と同様に、キャリア番号0、12、…のキャリアシンボルにSP信号を挿入する。
【0028】
SP信号は、PRBS生成回路の出力ビット列Wiに対し、OFDMセグメントのキャリア番号iに相当するWiに関係づけられたBPSK(Binary Phase Shift Keying)信号である。ビット列g2(x)を生成するPRBS生成回路の生成多項式を式3に示す。
g2(x)=x11+x9+1 式3
すなわち、PRBS生成回路は直列に接続された11個のD型フリップフロップからなる。9番目のフリップフロップの出力x9と11番目のフリップフロップの出力x11(=Wi)が加算され、1番目のフリップフロップに入力される。PRBS生成回路の初期値は、OFDMセグメント毎に決まっている。
【0029】
パイロット付加部18は、TMCC(Transmission and Multiplexing Configuration Control)信号とAC(Auxiliary Channel)信号もOFDMセグメントに挿入する。TMCC信号は、制御情報を伝送するための信号である。制御信号は、階層構成や各データセグメントの伝送パラメータ等、受信装置の復調動作に関わる情報である。AC信号は放送に関する付加情報を伝送するための拡張用信号である。TMCC信号とAC信号のキャリアは、マルチパスによる伝搬路特性の周期的なディップの影響を軽減するために、周波数方向にランダムに配置されている。
【0030】
図3の送信装置の説明に戻り、パイロット付加部18の出力は、マッピング部19に入力される。マッピング部19は、指定された多値数のマッピングを周波数領域で行う。マッピング部19はキャリア変調を行う。キャリア変調は次のいずれかの方式を採用してもよい。
【0031】
QPSK変調:入力信号が2ビット/シンボルとされ、QPSKのマッピングが行われ、複数ビットのI軸データ及びQ軸データが出力される。
【0032】
16QAM変調:入力信号が4ビット/シンボルとされ、16QAMのマッピングが行われ、複数ビットのI軸データ及びQ軸データが出力される。
【0033】
64QAM変調:入力信号が6ビット/シンボルとされ、64QAMのマッピングが行われ、複数ビットのI軸データ及びQ軸データが出力される。
次に、下位階層について説明する。SHV信号の情報ビット列は、エネルギー拡散部22に入力される。エネルギー拡散部22は、エネルギー拡散部13と同様に、疑似ランダム符号系列PRBSを用いてエネルギー拡散を行う。
【0034】
エネルギー拡散部22の出力ビット列は、符号化部に入力される。符号化部は、畳み込み符号化方式、BCH(Bose Chaudhuri Hocquenghem)符号化方式、BCC(Block Check Character)符号化方式、LDPC(Low Density Parity Check)符号化方式等を採用することができる。ここでは、BCH符号化方式とLDPC符号化方式が採用される。そのため、エネルギー拡散部22の出力ビット列は、BCH符号化部23に入力され、BCH符号化部23の出力ビット列は、LDPC符号化部24に入力される。BCH符号化部23もLDPC符号化部24も誤り訂正符号化を行う。
【0035】
図3は、上位階層と下位階層の符号化方式を異なる方式を示したが、上位階層と下位階層の符号化方式を同じ方式としてもよい。上位階層と下位階層の符号化方式を同じ方式とした場合、上位階層と下位階層の符号化方式の誤り訂正能力や符号長は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0036】
LDPC符号化部24から出力される符号化ビット列は、ビットインターリーブ(ビットIL)部25に入力される。ビットIL部25の出力は、時間・周波数IL部26に入力される。時間・周波数IL部26は時間・周波数IL部17と同様な処理を行う。なお、上位階層と下位階層のインターリーブ長は同じでもよいし、異なってもよい。
【0037】
時間・周波数IL部26の出力は、パイロット付加部27に入力される。パイロット付加部27は、データキャリアにパイロット信号とTMCC信号とAC信号を付加する。
【0038】
SP信号を利用するパイロット信号の挿入例を
図5に示す。
図5は、SHV信号の1個のOFDMセグメントの一例を示す。SHV信号のセグメント構成は、
図4に示したISDB-T信号のOFDMセグメントのセグメント構成と同じである。パイロット付加部27は、SHV信号のOFDMセグメントにTMCC信号とAC信号を挿入する。TMCC信号とAC信号の挿入位置は、ISDB-T信号のOFDMセグメントにおけるTMCC信号とAC信号の挿入位置と同じである。なお、パイロット付加部27は、TMCC信号とAC信号を挿入せず、代わりにヌル信号を挿入してもよい。
図6は、
図5の一部の拡大図である。
図6では、キャリアシンボルSi,jは空白の四角で示され、SP信号は実線のハッチング付きの四角で示され、ヌル信号は破線のハッチング付きの四角で示される。
【0039】
パイロット付加部27は、SHV信号のOFDMセグメントにおけるSP信号がISDB-T信号のOFDMセグメントにおけるSP信号の一部に多重化されるように、SP信号をSHV信号のOFDMセグメントに挿入する。パイロット付加部27は、ヌル信号がISDB-T信号のOFDMセグメントにおけるSP信号の残りの少なくとも一部に多重化されるように、ヌル信号をSHV信号のOFDMセグメントに挿入する。すなわち、ISDB-T信号用のSP信号には、SHV信号用のSP信号又はヌル信号が多重化される。なお、ISDB-T信号用のSP信号は、SHV信号用のSP信号及びヌル信号ではない信号が多重化されるSP信号を含んでもよいし、全く信号が多重化されないSP信号を含んでもよい。
【0040】
SHV信号用のSP信号が多重化されたISDB-T信号用のSP信号は、ISDB-T信号の伝搬路を推定する際に、干渉となる。したがって、ISDB-T信号用のSP信号に多重化されるSHV信号用のSP信号が多いと、既存のISDB-T受信機は、ISDB-T信号の伝搬路を正しく推定できず、性能が劣化する。干渉を防止するため、実施形態による受信装置は、SHV信号用のSP信号が多重化されたISDB-T信号用のSP信号を利用せずにISDB-T信号の伝搬路を推定することもできる。その場合、ISDB-T信号のOFDMセグメントにおけるSP信号の中でSHV信号用のSP信号が多重化されるSP信号の割合が多いと、SHV信号の伝搬路推定の精度が向上するが、ISDB-T信号の伝搬路推定に時間が係る。ISDB-T信号の伝搬路推定に時間が係ると、伝搬路に時間変動がある場合、伝搬路推定の精度が下がる。ISDB-T信号のOFDMセグメントにおけるSP信号の中でSHV信号用のSP信号が多重化されるSP信号の割合は、要求される上位階層の復調精度と下位階層の復調精度に応じて決定される。以下、一例として、ISDB-T信号のOFDMセグメントにおけるSP信号の中でSHV信号用のSP信号が多重化されるSP信号の割合が50%の場合を説明する。
【0041】
ISDB-T信号のOFDMセグメントにおいて、SP信号は、周波数方向において12個のキャリア毎に1回挿入されているので、パイロット付加部27は、周波数方向において、24個のキャリア毎にSP信号をSHV信号のOFDMセグメントに1回挿入する。周波数方向におけるSP信号の挿入周期は、第3周期(24個のキャリア)である。第3周期は、ISDB-T信号のOFDMセグメントにおけるSP信号の周波数方向の挿入周期である第1周期(12個のキャリア)の2倍である。周波数方向において、SHV信号のOFDMセグメントについてのSP信号の挿入個数は、ISBD-T信号のOFDMセグメントについてのSP信号の挿入個数の半分である。
【0042】
ISDB-T信号のOFDMセグメントにおいて、SP信号は、時間方向において4個のキャリアシンボル毎に1回挿入されているので、パイロット付加部27は、時間方向において、8個のキャリアシンボル毎にSP信号をSHV信号のOFDMセグメントに1回挿入する。時間方向におけるSP信号の挿入周期は、第4周期(8個のキャリアシンボル)である。第4周期は、ISDB-T信号のOFDMセグメントにおけるSP信号の時間方向の挿入周期である第2周期(4個のキャリアシンボル)の2倍である。時間方向において、SHC信号のOFDMセグメントについてのSP信号の挿入個数は、ISDB-T信号のOFDMセグメントについてのSP信号の挿入個数の半分である。
【0043】
例えば、パイロット付加部27は、シンボル番号0のシンボルグループの中のキャリア番号0、24、…のキャリアシンボルにヌル信号を挿入し、キャリア番号12、36、…のキャリアシンボルにSP信号を挿入する。
パイロット付加部27は、シンボル番号1のシンボルグループでは、キャリア番号3、27、…のキャリアシンボルにSP信号を挿入し、キャリア番号15、39、…のキャリアシンボルにヌル信号を挿入する。
パイロット付加部27は、シンボル番号2のOシンボルグループでは、キャリア番号6、30、…のキャリアシンボルにヌル信号を挿入し、キャリア番号18、42、…のキャリアシンボルにSP信号を挿入する。
パイロット付加部27は、シンボル番号3のシンボルグループでは、キャリア番号9、33、…のキャリアシンボルにSP信号を挿入し、キャリア番号21、45…のキャリアシンボルにヌル信号を挿入する。
以下、同様に、パイロット付加部18は、シンボルグループ毎に、隣接するシンボルグループとは異なるキャリア番号のキャリアシンボルにSP信号を挿入する。
【0044】
なお、SP信号が挿入されるキャリア番号は、数シンボルグループ毎に同じでも構わない。例えば、パイロット付加部18は、シンボル番号8のシンボルグループでは、シンボル番号0のシンボルグループと同様に、キャリア番号0、24、…のキャリアシンボルにヌル信号を挿入し、キャリア番号12、36、…のキャリアシンボルにSP信号を挿入する。
【0045】
言い換えると、パイロット付加部27は、SHV信号のOFDMセグメントに対して、ISDB-T信号のOFDMセグメントにおいてSP信号が挿入されたキャリアシンボルの半分にSP信号を挿し、残りの半分のキャリアシンボルにヌル信号を挿入する。なお、ISDB-T信号のOFDMセグメントにおいて、SP信号もヌル信号も多重化されていないキャリアシンボルが存在してもよい。
【0046】
図3の送信装置の説明に戻り、パイロット付加部27の出力は、マッピング部28に入力される。マッピング部28は、指定された多値数のマッピングを周波数領域で行う。ビットIL部25とマッピング部28はキャリア変調部を構成する。キャリア変調は、QPSK変調、16QAM変調、64QAM変調のいずれかの方式を採用してもよい。
【0047】
マッピング部19、28の出力はLDM多重化部31に入力される。LDM多重化部31は、
図2に示すように構成され、ISDB-T信号を上位階層、SHV信号を下位階層とし、下位階層の信号の電力レベルを上位階層の信号の電力レベルより低くして、両階層の信号に電力差を付けて加算して合成信号を生成する。
【0048】
LDM多重化部31は、下位階層と上位階層のOFDMシンボルの多重化と、下位階層と上位階層のSP信号の多重化を異ならせてもよい。LDM多重化部31は、式1に示すように、上位階層と下位階層のOFDMシンボルを正規化してから多重してもよい。この場合、LDM多重化部31は、下位階層と上位階層のSP信号も式4に示すように、正規化してから多重してもよい。
P1=βPi+sqrt(-1)αβPi 式4
P1は多重化されたパイロット信号、PiはSP信号、αはスケーリング係数、βは正規化係数である。式4は、LDM多重化部31は、上位階層に挿入されたSP信号はその位相のまま、下位階層に挿入されたSP信号はその位相が90度変化させてから(この場合は、進めてから)多重することを示す。その結果、下位階層のSP信号は、上位階訂正版を層のSP信号に対して位相が90度ずれる(この場合は、進む)。
【0049】
図7は、式4に従うSP信号の多重化の一例を示す。SP信号101、102は、ISDB-T信号のOFDMセグメントに挿入されたパイロット信号である。SP信号201、202は、IDSB-T信号用のSP信号101、102に対して、IDSB-T信号用のSP信号101、102の位相を90度変化し、振幅を係数αに応じて変化したSHV信号用のSP信号が多重化された信号を示す。
【0050】
なお、上位階層と下位階層のSP信号の位相差は90度に限らず、他の任意の角度でもよい。他の角度の例は、45度である。上位階層と下位階層のSP信号の位相差を任意の角度θとする場合、LDM多重化部31は、下位階層と上位階層のSP信号を式5に示すように多重する。
P1=βPi+αβPi×exp(-jθ) 式5
さらに、LDM多重化部31は、下位階層と上位階層のSP信号を正規化しないで多重してもよい。この場合、多重化されたパイロット信号P2は式6に示すようになる。
P2=CPi+DPi×exp(-jθ) 式6
C、Dは任意の係数である。係数C、Dを調整することにより、下位階層と状階層のSP信号の振幅を任意に変化させて多重できる。
【0051】
LDM多重化部31から出力される合成信号は、逆高速フーリエ変換(IFFT)部38に入力される。IFFT部38は、合成信号のOFDMセグメントをIFFT処理して、時間領域のビット列を求める。
【0052】
IFFT部38の出力は、ガードインターバル付加(GI付加)部40に入力される。GI付加部40は、IFFT後の出力データのうち、時間的に後側から、指定された時間長のデータ(GI)をOFDMシンボルの前にそのまま付加するものである。
【0053】
GI付加部40の出力は図示しない送信回路、送信アンテナ等を介して送信される。
【0054】
上述の例では、パイロット信号はSP信号を利用した。次に、CP信号を利用するパイロット信号の挿入例を説明する。
【0055】
ISDB-T信号とSHV信号の伝送スペクトルは1チャネル(伝送帯域)に13個のOFDMセグメントを使って伝送される。
【0056】
図8は、ISDB-T信号とSHV信号の伝送スペクトルの一例を示す。ISDB-T信号とSHV信号のいずれでも、13個のOFDMセグメントSG0-SG12が周波数方向に配置されている。中央のセグメントSG0は、部分受信部のセグメントである。セグメントSG0の両側に差動変調部がセグメント番号順に配置され、さらにその外側に同期変調部がセグメント番号順に配置される。
【0057】
一番右端(最も周波数が高い)セグメントSG12の右側に連続キャリアであるISDB-T信号用のコンティニアルパイロット信号CP1と、SHV信号用のコンティニアルパイロット信号CP2が挿入される。信号CP1と信号CP2の周波数は同じである。
【0058】
LDM多重化部31は、式4、式5又は式6に示すように、パイロット信号CP1、CP2を多重化する。信号CP1の位相は、式3に示すBPFK生成回路のg2(x)で規定される。信号CP2の位相は、信号CP1の位相とは異なる。位相差は任意の角度でよく、90度でもよいし、45度でもよい。
【0059】
図9は、ISDB-T信号の伝送スペクトルの他の例を示す。一番右端のセグメントSG12の右側に連続キャリであるコンティニアルパイロット信号CP1が挿入される。
【0060】
図10は、SHV信号の伝送スペクトルの他の例を示す。一番右端のセグメントSG12の右側に連続キャリであるコンティニアルパイロット信号CP2が挿入される。CP2信号の周波数は、CP1信号の周波数と異なる。例えば、CP2信号の周波数はCP1信号の周波数より高い。SHV信号では拡張帯域が認められているので、ISDB-T信号より帯域を拡大して、CP2信号をCP1信号よりも高い周波数位置に挿入することができる。
【0061】
背景技術の欄で説明したように、上位階層にのみパイロット信号を挿入するLMD方式に対応している親局のサービスエリアとLMD方式に対応していない子局のサービスエリアが一部重なっている地域では、上位階層と下位階層で伝搬路が異なり、受信装置は、上位階層のパイロット信号を用いて下位階層の信号の周波数等化を行うことができない。しかし、実施形態によれば、LDM多重化信号において、上位階層と下位階層にそれぞれパイロット信号を挿入し、上位階層のパイロット信号の一部に下位階層のパイロット信号を多重化し、上位階層のパイロット信号の他の一部にヌル信号を挿入することにより、受信装置が上位階層も下位階層もそれぞれに挿入されたパイロット信号を用いて伝搬路を推定し、上位階層と下位階層それぞれの受信信号の周波数等化をおこなうことができる。
【0062】
次に、受信装置について説明する。実施形態による受信装置は、SIC方式を用いて下位階層のSHV信号を取り出す。受信装置は、先ず、LL信号(SHV信号)をノイズと見做し、受信合成信号を復調することによりUL信号(ISDB-T信号)を得る。受信装置は、ISDB-T信号を変調し、送信装置で生成されたISDB-T信号の変調信号の推定信号(推定変調信号)を求める。受信装置は、受信合成信号から推定変調信号を減算し、この減算結果を復調することによりSHV信号を得る。
【0063】
一方、受信装置は、受信合成信号の中からパイロット信号を取り出し、パイロット信号の振幅と位相の歪から伝搬路を推定し、推定結果に応じて受信合成信号及び減算結果の周波数等化処理を行い、伝搬路の特性の劣化を補償する。受信装置は、上位階層については、下位階層のパイロット信号が多重されていないパイロット信号を用いて伝搬路の推定、周波数等化を行い、下位階層については、下位階層のパイロット信号を用いて伝搬路の推定、周波数等化を行う。
【0064】
図11は実施形態による受信装置の構成の一例を示すブロック図を示す。この受信装置は、
図3に示すようにLMD方式に対応している親局のサービスエリアと、LMD方式に対応していない子局のサービスエリアとが一部重なっている地域に設置されるとする。
【0065】
図示しない受信アンテナ等により受信された合成信号は、GI除去部41に入力される。GI除去部41は、合成信号をISDB-T信号と見做し、合成信号からシンボル間のGIを除去する。
【0066】
GI除去部41の出力は高速フーリエ変換(FFT)部42に入力される。FFT部42は、入力信号をFFTサイズでFFT処理し、周波数領域の信号を得る。SHV信号の電力は小さいので、SHV信号をノイズと見做すことができるので、FFT部42の出力信号はISDB-T信号と見做すことができる。
【0067】
上位階層の周波数領域の送信信号Txiに対する周波数領域の伝搬路特性をH1、下位階層の周波数領域の送信信号Txsに対する周波数領域の伝搬路特性をH2とする。FFT後の受信信号Rxは下記のように表される。ここでは、雑音は無視して説明する。
【0068】
Rx=H1×Txi+H2×Txs 式7
FFT部42の出力は、伝搬路推定部43と周波数等化部44に入力される。
【0069】
伝搬路推定部43は、入力された上位階層の周波数領域の信号から下位階層のパイロット信号が多重されていない上位階層のパイロット信号を取り出し、取り出したパイロット信号に基づき上位階層の周波数領域の送信信号の伝搬路特性(周波数特性)H1を推定する。伝搬路推定部43の出力は、周波数等化部44に入力される。
【0070】
周波数等化部44は、伝搬路推定部43の推定結果に応じて合成信号に対して周波数等化処理を行い、伝搬路の周波数特性を補償した合成信号を得る。具体的には、周波数等化部44は、式8に示すように、FFT後の受信信号Rxを伝搬路の周波数特性H1で割り、周波数等化信号Reqを得る。
Req=Rx/H1=Txi+(H2/H1)×Txs 式8
周波数等化部44の出力Reqは、時間・周波数デインタリーブ(時間・周波数De-IL)部45に入力される。
【0071】
時間・周波数De-IL部45は、送信装置の時間・周波数IL部17のインターリーブ処理の逆処理に対応するデインタリーブ処理を行い、時間・周波数IL部17への入力、すなわちビットIL部16の出力に相当する信号を得る。時間・周波数De-IL部45の出力は、対数尤度比算出(Log-Likelihood Ratio:LLR算出)部46に入力される。
【0072】
LLR算出部46は、合成信号の下位階層のSHV信号成分を雑音とみなし、合成信号に対して送信装置のマッピング部19に対応する復調処理を行い、復調結果のLLRを算出する。LLR算出部46の出力は、ビットデインターリーブ(De-IL)部47に入力される。
【0073】
ビットDe-IL部47は、送信装置のビットIL部16のインターリーブ処理の逆処理に対応するデインタリーブ処理を行い、ビットIL部16の入力、すなわち畳み込み符号化部15の出力に相当する信号を得る。ビットDe-IL部47の出力は、ビタビ復号部48に入力される。
【0074】
ビタビ復号部48は、送信装置の畳み込み符号化部15の符号化処理の逆処理に対応する誤り訂正復号処理を行い、畳み込み符号化部15の入力、すなわちバイトIL部14の出力に相当する信号を得る。ビタビ復号部48の出力は、バイトデインターリーブ(De-IL)部49に入力される。
【0075】
バイトDe-IL部49は、送信装置のバイトIL部14のインターリーブ処理の逆処理に対応するデインタリーブ処理を行い、バイトIL部14の入力、すなわちエネルギー拡散部13の出力に相当する信号を得る。バイトDe-IL部49の出力は、エネルギー逆拡散部50に入力される。
【0076】
エネルギー逆拡散部50は、送信装置のエネルギー拡散部13のエネルギー拡散処理の逆処理に対応するエネルギー逆拡散処理を行い、エネルギー拡散部13の入力、すなわちRS符号化部12の出力に相当する信号を得る。エネルギー逆拡散部50の出力はRS復号部51に入力される。
【0077】
RS復号部51は、送信装置のRS符号化部12の符号化処理の逆処理に対応する誤り訂正RS復号処理を行い、RS符号化部12の入力、すなわち上位階層のISDB-T信号の情報ビット列を得る。RS復号部51の出力は、送信レプリカ生成部52に入力される。
【0078】
送信レプリカ生成部52は、送信装置のビットIL部16とマッピング部19からなるキャリア変調部と同様なキャリア変調処理を行い、送信装置のマッピング部19の出力に相当する推定変調ISDB-T信号Txi´を得る。
【0079】
送信レプリカ生成部52の出力Txi´は、レプリカキャンセル部60において、周波数等化部44の出力Req(式8)から減算される。受信装置は、上位階層の信号が非常に高い確率で復調できるという条件(キャリア対ノイズ比が高い)の下で使用することを想定しているので、Txi=Txi’と仮定でき、レプリカキャンセル部60の出力RrcCは式9のようになる。
【0080】
Rrc=Rx/H1-Txi’=(H2/H1)×Txs 式9
これにより、レプリカキャンセル部60は、SHV信号の受信信号を得る。
【0081】
レプリカキャンセル部60の出力は、切り替え制御部70に入力される。切り替え制御部70は、2個の出力端子を含む。切り替え制御部70は入力信号を第1出力端子又は第2出力端子から出力する。伝搬路推定部43の出力も切り替え制御部70に入力される。切り替え制御部70の切り替え手法は、後述する。
【0082】
切り替え制御部70の第1出力端子は、時間・周波数De-IL部84に接続される。切り替え制御部70の第2出力端子は、逆等化部81に接続される。
【0083】
伝搬路推定部43の出力も逆等化部81に入力される。
【0084】
逆等化部81は、式10に示すように、レプリカキャンセル部60の出力信号Rrc(式9)に上位階層の伝搬路の周波数特性H1を乗算することにより、逆等化を行う。
【0085】
Rieq=H2×Txs 式10
逆等化部81の出力信号Rieqは、伝搬路推定部82に入力される。伝搬路推定部82は、逆等化部81の出力信号Rieqに含まれる下位階層の送信信号Txsから下位階層のパイロット信号を抽出し、抽出したパイロット信号に基づき下位階層の信号の伝搬路の周波数特性H2を推定する。
【0086】
伝搬路推定部82の出力信号H2は切り替え制御部70と周波数等化部83に入力される。逆等化部81の出力信号Rieq(式10)も周波数等化部83に入力される。
【0087】
周波数等化部83は、伝搬路の周波数特定H2に応じて逆等化部81の出力信号Rieqに対して周波数等化処理を行い、伝搬路の周波数特性を補償した下位階層の受信信号を得る。具体的には、周波数等化部83は、逆等化部81の出力信号Rieqを伝搬路の周波数特定H2で割り、Txsを得る。
【0088】
周波数等化部83の出力Tsxは、時間・周波数De-IL部84に入力される。時間・周波数De-IL部84は、切り替え制御部70の第2出力信号又は周波数等化部83の出力に対して、送信装置の時間・周波数IL部26のインターリーブ処理の逆処理に対応するデインタリーブ処理を行い、時間・周波数IL部26への入力、すなわちビットIL部25の出力に相当する信号を得る。時間・周波数De-IL部84の出力は、LLR算出部85に入力される。
【0089】
LLR算出部85は、下位階層の信号に対して、送信装置のビットIL部25とマッピング部28からなる変調処理の逆処理に対応する復調処理を行い、復調結果のLLRを算出する。LLR算出部85の出力は、ビットDe-IL部86に入力される。
【0090】
ビットDe-IL部86は、送信装置のビットIL部25のインターリーブ処理の逆処理に対応するデインタリーブ処理を行い、ビットIL部25の入力、すなわちLDPC符号化部24の出力に相当する信号を得る。ビットDe-IL部86の出力は、LDPC復号部87に入力される。
【0091】
LDPC復号部87は、送信装置のLDPC符号化部24の符号化処理の逆処理に対応する誤り訂正復号処理を行い、LDPC符号化部24の入力、すなわちBCH符号化部23の出力に相当する信号を得る。LDPC復号部87の出力は、BCH復号部88に入力される。
【0092】
BCH復号部88bは、送信装置のBCH符号化部23の符号化処理の逆処理に対応する誤り訂正復号処理を行い、BCH符号化部23の入力、すなわちエネルギー拡散部22の出力に相当する信号を得る。BCH復号部88の出力は、エネルギー逆拡散部89に入力される。
【0093】
エネルギー逆拡散部89は、送信装置のエネルギー拡散部22のエネルギー拡散処理の逆処理に対応するエネルギー逆拡散処理を行い、エネルギー拡散部22の入力、すなわち下位階層のSHV信号の情報ビット列を得る。
【0094】
エネルギー逆拡散部89の出力は切り替え制御部70に供給される。
【0095】
切り替え制御部70には、伝搬路推定部43の出力である周波数特性H1と、伝搬路推定部82の出力である周波数特性H2と、エネルギー逆拡散部89の出力であるSHV信号が入力される。切り替え制御部70の切り替え制御例を説明する。
【0096】
第1の切り替え制御例では、切り替え制御部70は、最初、入力信号を第1出力端から時間・周波数De-IL部84へ送信する。この時、下位階層の信号Txsは上位階層の周波数等化部44で周波数等化されている。下位階層の伝搬路の周波数特性が上位階層の伝搬路の周波数特性と等しい場合、エネルギー逆拡散部からはSHV信号が得られる。
【0097】
上位階層と下位階層の伝搬路が異なり、下位階層の伝搬路の周波数特性が上位階層の伝搬路の周波数特性と等しくない場合、エネルギー逆拡散部89からSHV信号が得られない。切り替え制御部70は、エネルギー逆拡散部89からSHV信号が得られないことを検出すると、入力信号を第2出力端から逆等化部81へ送信する。逆等化部81はFFT部42の出力と等価な信号を伝搬路推定部82へ送信する。伝搬路推定部82は、下位階層の信号のパイロット信号を抽出し、抽出したパイロット信号に基づき下位階層の信号の伝搬路の周波数特性H2を推定する。周波数等化部83は、伝搬路の周波数特定H2に応じて逆等化部81の出力信号Rieqに対して周波数等化処理を行い、伝搬路の周波数特性を補償した下位階層の受信信号を得て、この受信信号を時間・周波数De-IL部84へ送信する。これにより、伝搬路の周波数特性が正しく補償された下位階層の信号が復調されるので、エネルギー逆拡散部からSHV信号が得られる。
【0098】
切り替え制御部70は、エネルギー逆拡散部89からSHV信号が得られないことの検出結果の代わりに、LDPC復号部87及び/又はBCH復号部88の誤り訂正結果に基づいて入力信号を第2出力端から逆等化部81へ送信してもよい。下位階層の伝搬路の周波数特性が上位階層の伝搬路の周波数特性と等しくない場合、LDPC復号部87及び/又はBCH復号部88は誤り訂正を成功できない。あるいは、LDPC復号部87及び/又はBCH復号部88の誤り訂正量が大きくなる。
【0099】
第2の切り替え制御例では、切り替え制御部70は、伝搬路推定部43の出力である周波数特性H1と、伝搬路推定部82の出力である周波数特性H2とを比べて、両者が同等である(両者の相関が一定以上である)か否か判定する。周波数特性H1と周波数特性H2が同等であることは、上位階層の信号の伝搬路と下位階層の信号の伝搬路が同じであることを意味する。この場合、周波数等化部44が上位階層の伝搬路の周波数特性H1で受信信号Rxを周波数等化処理したことにより、下位階層の信号も周波数等化処理されたことになり、レプリカキャンセル部60の出力信号を周波数等化部83に送信する必要はない。このため、切り替え制御部70は、周波数特性H1と周波数特性H2が同等である場合、レプリカキャンセル部60の出力信号を時間・周波数De-IL部84に送信する。
【0100】
周波数特性H1と周波数特性H2が同等ではないことは、上位階層の信号の伝搬路と下位階層の信号の伝搬路が異なることを意味する。この場合、周波数等化部44が上位階層の伝搬路の周波数特性H1で受信信号Rxを周波数等化処理しても、下位階層の信号は周波数等化処理されたことにならない。このため、切り替え制御部70は、周波数特性H1と周波数特性H2が同等ではない場合、レプリカキャンセル部60の出力信号を逆等化部81に送信する。これにより、下位階層の信号は、下位階層の信号に挿入されたパイロット信号を用いて推定された伝搬路の周波数特性に基づいて周波数特性が補償される。伝搬路の周波数特性が正しく補償された下位階層の信号が復調されるので、エネルギー逆拡散部89からSHV信号が得られる。
【0101】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0102】
12…UL情報ビット生成部、14…RS符号化部、18…バイトIL部、22…畳み込み符号化部、24、52…ビットIL部、28、56…時間・周波数IL部、32、58…パイロット付加部、34、60…マッピング部、36…LDM多重化部、38…IFFT部、40…GI付加部