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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】センサ素子
(51)【国際特許分類】
   G01P 5/12 20060101AFI20241125BHJP
   G01F 1/69 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
G01P5/12 C
G01F1/69 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021085160
(22)【出願日】2021-05-20
(65)【公開番号】P2022178388
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】鐘ヶ江 敏志
(72)【発明者】
【氏名】三浦 克哉
(72)【発明者】
【氏名】永坂 功
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-109221(JP,A)
【文献】実開平7-26725(JP,U)
【文献】特開昭63-210666(JP,A)
【文献】特開昭61-133866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 5/00-5/26
G01F 1/68-1/699
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体の表面全体に形成された温度変化により電気抵抗値が変化する感温膜と、
前記感温膜の両端に接続される配線部材と、を有し、
前記感温膜は、前記配線部材との接続領域と、各接続領域から前記基体の中央に向けて延出するパターンと、を備え、
前記パターンの断面積は、前記基体の中央に比べて前記接続領域側で小さく形成されており、
前記基体は、球体であり、
前記球体の中央に延出したパターンは、前記接続領域側のパターンよりも幅が広い、ことを特徴とするセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、風速を計測可能なセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱した流量検知用抵抗素子を流体に曝し、その際の放熱作用に基づいて流体の流量を検出する熱式のセンサ素子が知られている。例えば、特許文献1、2には、断面円形状の筐体の表面に、外気と熱伝導により熱交換することで外気から熱的影響を受ける複数の感温素子を分散して貼り付け、筐体の周囲に流れる風の向き及び速さを計測する風状態計測装置が開示されている。特許文献1、2では、感温素子を加熱するために筐体内部にヒータを具備している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-8370号公報
【文献】特開2020-3354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2の構成では、複数の感温素子を筐体の表面に貼り付けた構成であり、風が感温素子に当たる領域しか流量測定ができず、センシング範囲が限られる。
【0005】
また、特許文献1、2の構成では、筐体の表面に配置した多数の感温素子の全ての配線を、筐体の下端に引き出しており、放熱が下端付近で大きくなる。このため、筐体の下端近くに配置された感温素子の温度が、筐体の下端から上方に離れて配置された感温素子よりも低下しやすい。この結果、各感温素子の温度分布の偏りが大きくなった。以上により、センサ感度が、筐体の下端付近と上端付近とでばらつきやすい問題があった。
【0006】
そこで本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、広いセンシング領域を得ることができるとともに、センシング領域での温度分布の偏りを抑制し、略一定のセンサ感度を得ることができるセンサ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明におけるセンサ素子は、基体と、前記基体の表面全体に形成された温度変化により電気抵抗値が変化する感温膜と、前記感温膜の両端に接続される配線部材と、を有し、前記感温膜は、前記配線部材との接続領域と、各接続領域から前記基体の中央に向けて延出するパターンと、を備え、前記パターンの断面積は、前記基体の中央に比べて前記接続領域側で小さく形成されており、前記基体は、球体であり、前記基体の中央に延出したパターンは、前記接続領域側のパターンよりも幅が広い、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセンサ素子においては、基体の表面全体に感温膜を形成した。感温膜には、両端に位置する接続領域から基体の中央に向けてパターンが延出しており、パターンの断面積を、基体の中央に比べて接続領域側で小さく形成した。これにより、接続領域付近での発熱を大きくできる。以上により、センシング領域を広くできるとともにセンシング領域での温度分布の偏りを改善でき、略一定のセンサ感度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態におけるセンサ素子の側面図である。
図2図1に示すセンサ素子の断面図である。
図3】本実施の形態におけるセンサ素子の正面図である。
図4図1に示すセンサ素子に被覆膜を設けた状態のセンサ素子の側面図である。
図5】本実施の形態のセンサ素子の回路図(一例)である。
図6図7(a)のシミュレーション実験で用いた図1とは別の実施の形態(実施例2)におけるセンサ素子の側面図である。
図7】比較例におけるセンサ素子の側面図である。
図8】(a)は、実施例1、2及び比較例の温度分布のシミュレーション結果(計算値)であり、(b)は、実施例1の実測値である。
図9】本実施の形態におけるセンサ素子の変形例を示す側面図である。
図10】本実施の形態におけるセンサ素子の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、以下で説明する図面では、説明の便宜上、一部の寸法比を変えている。
【0011】
<本実施の形態におけるセンサ素子1の概要>
本実施の形態のセンサ素子1は、熱式の流量センサ素子であり、図1図2に示すように、電気絶縁性の基体2と、基体2の表面全体に形成された感温膜3と、感温膜3に接続された第1の配線部材4及び第2の配線部材5と、を具備して構成される。
【0012】
本実施の形態の基体2は、例えば、球状である。基体2は、電気的に絶縁物であれば特に材質を問うものではない。一例を示すと、基体2は、例えば、セラミックスで形成される。また、基体2の直径を限定するものでなく、使用用途により種々調整することができる。一例を示すと、基体2の直径は4mm程度にできる。
図2に示すように、基体2には、X1-X2方向にかけて貫通する貫通孔9が形成される。
【0013】
基体2の表面全体に形成された感温膜3は、温度変化により電気抵抗値が変化する。感温膜3は、配線部材4、5間の導通により温度が高い状態に保持されており、風が当たると感温膜3の温度が低くなることで、感温膜3の電気抵抗値が変化するよう制御されている。
【0014】
感温膜3の材質を限定するものではないが、白金(Pt)膜であることが好ましい。白金膜を使用することで、経時劣化を少なくできる。これにより、白金からなる耐久性に優れた感温膜3を、基体2の表面全体に形成できる。また、他にもニッケル(Ni)膜を選択できる。
【0015】
図2図3に示すように、第1の配線部材4は、基体2の貫通孔9に通され、第1の配線部材4におけるX1側の端部4aと、感温膜3とが、導電膜13を介して電気的に接続される。導電膜13は、例えば、導電性接着剤である。また、図2に示すように、第2の配線部材5は、基体2のX2側にて、感温膜3に、導電膜13を介して電気的に接続される。図2に示すように、第1の配線部材4は、X1側の端部4aにて、感温膜3に接続され、貫通孔9を通って、第2の配線部材5とともに、X2側に引き出される。
【0016】
例えば、第1の配線部材4及び第2の配線部材5は、リード線であり、電気伝導性であれば材質を限定するものではないが、例えば、銅系やニッケル系の線材が錫メッキにより表面処理された被覆銅線や白金系の線材、白金クラッドされたニッケル系の線材を好ましく使用できる。
【0017】
感温膜3は、基体2のX1-X2方向の両側に位置する接続領域8と、各接続領域8から基体2の中央に向けて延出するパターン7と、を備える。パターン7は、トリミングにより基体2の表面をX1側からX2側に向けて周回するように、螺旋状で形成される。符号6がトリミングラインである。したがって、このトリミングライン6を通して基体2の表面が現れる。トリミング処理には、レーザ処理やエッチング処理などを挙げることができる。また、パターン7を、フォトリソグラフィ技術にて形成することも可能である。なお、下記で示すように、図1のパターン7は、第1のパターン7a~第3のパターン7cに分けられるが、単に「パターン7」と表記する場合は、第1のパターン7a~第3のパターン7cを区別せずにパターン全体を指すものとする。
【0018】
図1図2に示すように、パターン7の幅は、基体2の中央に比べてX1-X2方向の両側のほうが狭い。図1に示す実施の形態では、パターン7の幅は、3段階で変化しており、最も接続領域8寄りに位置して幅が最も狭い第1のパターン7aと、基体2の中央に位置して幅が最も広い第2のパターン7bと、第1のパターン7aと第2のパターン7bの間に位置して、幅が第1のパターン7aより広く第2のパターン7bより狭い第3のパターン7cと、で構成される。各パターン7a~7cは、一体的につながっており、一連の螺旋状で形成される。
【0019】
パターン7の形成方法の一例であるが、図1に示すように、感温膜3に対して、X1側とX2側の接続領域8に連続して最も幅の狭い第1のパターン7aをトリミングにより形成した後、第1のパターン7aよりも幅が広い第3のパターン7cを第1のパターン7aに連続して形成し、感温膜3が所定の電気抵抗値を示した時点で、トリミングを終了する。このとき、基体2の中央には、最も幅が広い第2のパターン7bが残る。
【0020】
また、パターン7の幅は、図1に示すX1-X2方向(基体2の直径方向)の幅で定義される。したがって、幅の測定は、図1に示す側面視に現れる平面画像内で行うものとする。すなわち、図1のように、例えば、第1のパターン7aが2ターンで形成されるとき、基体2の曲面に沿って幅を測定すると、第1のパターン7aのうち最も接続領域8寄りに位置する1ターン目の第1のパターン7aは、その隣に位置する2ターン目の第1のパターン7aより多少、幅広になる。しかしながら、本実施の形態では、パターンの幅は、基体の表面に沿う方向の幅でなく、X1-X2方向に平行な方向の幅である。X1-X2方向に平行な方向にて測定すると、図1に示す各第1のパターン7aの幅は略同一である。第3のパターン7cに関しても同様のことがいえる。
【0021】
図1図3では、説明の便宜上、センサ素子1から被覆膜の図示を省略したが、実際には、図4に示すように、基体2の表面に形成された感温膜3の表面には、電気絶縁性の保護膜10が形成されていることが好ましい。例えば、保護膜10を、塗装やスパッタ等で形成できる。また、保護膜10は、電気絶縁性の材質であれば特に材質を限定するものではないが、一例を示すと、例えば、エポキシ系樹脂を挙げることができる。
【0022】
また、図4に示すように、基体2のX2側から同一方向(図示右方向)に延出した第1の配線部材4と第2の配線部材5とは、夫々、ステー11により一体として固定されている。なお、ステー11は、例えば、接着剤で固定されている。図4に示すように、第1の配線部材4及び第2の配線部材5の右側端部(X2側の端部)は、ステー11から露出しており、図示しない制御装置に電気的に接続されている。
【0023】
図5は、本実施の形態のセンサ素子1を含む流量装置の回路図である。図5に示すように、センサ素子1と、温度補償用抵抗素子14と、抵抗器26、27とでブリッジ回路28を構成している。図5に示すように、センサ素子1と抵抗器26とで第1の直列回路29を構成し、温度補償用抵抗素子14と抵抗器27とで第2の直列回路30を構成している。そして、第1の直列回路29と第2の直列回路30とが、並列に接続されてブリッジ回路28を構成している。
【0024】
図5に示すように、第1の直列回路29の出力部31と、第2の直列回路30の出力部32とが、夫々、差動増幅器(アンプ)33に接続されている。ブリッジ回路28には、差動増幅器33を含めたフィードバック回路34が接続されている。フィードバック回路34には、トランジスタ(図示せず)等が含まれる。
【0025】
抵抗器26、27は、センサ素子1、及び温度補償用抵抗素子14よりも抵抗温度係数(TCR)が小さい。センサ素子1は、例えば、所定の周囲温度よりも所定値だけ高くなるように制御された加熱状態で、所定の抵抗値Rs1を有し、また、温度補償用抵抗素子14は、例えば、前記の周囲温度にて、所定の抵抗値Rs2を有するように制御されている。なお、抵抗値Rs1は、抵抗値Rs2よりも小さい。限定するものではないが、例えば、抵抗値Rs2は、抵抗値Rs1の数倍~十数倍程度である。センサ素子1と第1の直列回路29を構成する抵抗器26は、例えば、センサ素子1の抵抗値Rs1と同様の抵抗値R1を有する固定抵抗器である。また、温度補償用抵抗素子14と第2の直列回路30を構成する抵抗器27は、例えば、温度補償用抵抗素子14の抵抗値Rs2と同様の抵抗値R2を有する固定抵抗器である。
【0026】
センサ素子1に風が当たると、発熱抵抗であるセンサ素子1の感温膜3の温度は低下し、センサ素子1が接続された第1の直列回路29の出力部31の電位が変動する。これにより、差動増幅器33により差動出力が得られる。そして、フィードバック回路34では、差動出力に基づいて、センサ素子1に駆動電圧を印加する。センサ素子1は、センサ素子1の加熱に要する電圧の変化に基づいて風速を換算し出力できる。風速が変化すると、それに伴い、感温膜3の温度が変化するため、風速を検知できる。
【0027】
本実施の形態におけるセンサ素子1は、以下の特徴的な構成を有している。
(1) 感温膜3が、基体2の表面全体に形成されること。
(2) 感温膜3は、配線部材4、5との接続領域8と、各接続領域8から基体2の中央に向けて延出するパターン7と、を備えること。
(3) パターン7の断面積は、基体2の中央に比べて接続領域8側で小さく形成されること。
【0028】
本実施の形態では、上記(1)の構成により、基体2の表面の略全域をセンシング領域にできる。実際には、各配線部材4、5が接続される両端部付近を除いてセンシング領域にできる。本実施形態では、各配線部材4、5が延出するX1-X2方向の軸周り360度における無指向性を得ることが可能である。
本実施の形態では、上記(2)(3)の構成により、センシング領域における温度分布の偏りを抑制できるが、この点について、以下で詳しく説明する。
【0029】
<パターン7の幅について>
本実施の形態では、図1に示すように、基体2の中央に位置する第2のパターン7bの幅T2に比べて、接続領域8側の第1のパターン7aの幅T1及び第2のパターン7bの幅T3のほうが狭い。更に、接続領域8により近い側の第1のパターン7aの幅T1のほうが、第1のパターン7aより基体2の中央寄りの第3のパターン7cの幅T3に比べて狭い。なお、各パターン7a~7cの幅T1~T3は、トリミングライン6間の間隔(ピッチ)と捉えることもできる。
【0030】
なお、基体2が球体であるため、図3の正面図において、忠実に幅を表現すると、貫通孔9の開口から離れるほど、パターン7a、7cの幅は実際の幅よりも狭く見えるが、見えるトリミングライン6を減らし、第3のパターン17cを第1のパターン7aより広く見えるよう図示した。
【0031】
図1に示すように、第1のパターン7a及び第3のパターン7cは、夫々、複数ターンで形成されており、複数の第1のパターン7aは、全て、幅T1で形成されており、また、複数の第3のパターン7cは、全て、幅T3で形成されている。そして、基体2の中央には、最も幅T2が広い第2のパターン7bが形成されている。
【0032】
また、図6に示す別の実施の形態では、パターン7を、基体2のX1-X2方向の両側に分けて形成された幅T1の第1のパターン7aと、基体2の中央に位置する幅T2の第2のパターン7bとで構成した。このように、図6に示す実施の形態では、パターン7の幅を接続領域8側から基体2の中央に向けて2段階で構成した。
【0033】
これに対して、図7に示す比較例では、感温膜3の全体に一定の幅T4のパターン12を形成した。比較例では、全体に、一定幅T4のパターン12を形成したことで、各パターン12の断面積(幅方向に沿って厚み方向に切断した際に現れる面積)は略同一であり、単位長さ当たりの発熱量は、略均一である。このため、放熱の主経路である各配線部材4、5の接続付近では、感温膜3の温度が下がりやすい。よって、図7に示す比較例では、センシング領域での温度分布の隔たりが大きい状態で熱平衡状態になった。
【0034】
そこで、図1図6に示す各実施の形態では、各配線部材4、5の接続領域8側と、基体2の中央とでパターン7の幅を変え、すなわち、接続領域8側では幅T1が狭い第1のパターン7aで形成し、基体2の中央では幅T2が広い第2のパターン7bで形成した。これにより、各配線部材4、5の接続領域8側でのパターン7の断面積を、基体2の中央より小さくできる。以上により、各配線部材4、5の接続付近での単位長さ当たりの発熱量を大きくでき、熱平衡状態では、センシング領域の温度分布の偏りを図7の比較例に比べて抑制でき、略一定のセンサ感度を得ることができる。なお、センシング領域は、少なくとも、パターン7が形成された領域を含み、接続領域8に関しては、導電膜13が広がった端部付近は少なくともセンシング領域に含めないことが好ましい。
【0035】
図1に示す実施の形態では、パターン7の幅を3段階、図6に示す実施の形態では、パターン7の幅を2段階で変化させたが、幅を4段階以上で変化させてもよい。また、各配線部材4、5の接続領域8側から基体2の中央に向けて、漸次的に、パターンの幅が広がるように形成してもよい。
【0036】
<実施例と比較例の温度分布の実験>
以下、実施例1、2と比較例における感温膜の温度分布の対比を行った。実施例1には、図1に示すセンサ素子を用い、実施例2には、図6に示すセンサ素子を用い、比較例には、図7に示すセンサ素子を用いた。実施例1では、図1の両端に近い側の第1のパターン7aの幅T1を0.15mmとし、第1のパターン7aを複数ターンで形成した。また、第1のパターン7aに続く第3のパターン7cの幅T3を0.3mmとし、第3のパターン7cを複数ターンで形成し、感温膜3が所定の電気抵抗値になるよう調整した。抵抗調整後、両側の第3のパターン7c間には、最も幅T2が広い第2のパターン7bを残した。
【0037】
また、実施例2では、図6の両端に近い側の第1のパターン7aの幅T1を0.15mmとし、第1のパターン7aを複数ターンで形成し、感温膜3が所定の電気抵抗値になるよう調整した。抵抗調整後、両側の第1のパターン7a間には、最も幅T2が広い第2のパターン7bを残した。
また、比較例では、パターン12の幅T4を0.15mmとして、複数ターンで形成し、パターン12を、基体2の表面の略全面に形成した。
【0038】
図8(a)は、実施例1、2及び比較例の温度分布のシミュレーション結果(計算値)である。横軸は、測定点であり、図1図6及び図7に示すX1-X2方向に該当する。
【0039】
図8(a)に示すように、一定幅T4のパターン12を全体的に形成した比較例では、温度分布が大きくなり、特に、温度が、センシング領域の両側(X1-X2方向の両側付近)で、急激に低下することがわかった。一方、実施例1、2では、比較例に比べてセンシング領域での温度分布を改善できた。特に、パターンの幅を、接続領域8側で最も狭くし、基体2の中央で最も広くし、接続領域寄りの第1のパターン7aと基体2の中央の第2のパターン7bの間に、中間の幅を有する第3のパターン7cを形成した図1に示す実施例1では、実施例2よりもセンシング領域での温度分布を、ほぼ一定にできた。なお、接続領域8側で幅が狭い第1のパターン7aを形成し、中央で幅が広い第2のパターン7bを形成した実施例2でも、特に、測定点の中央付近での温度分布を、比較例よりも抑えることができることがわかった。
【0040】
次に、実施例1を用いて、X1-X2方向に至る感温膜の温度分布を測定した。温度分布の測定には、サーモトレーサCPA-T530scを用いた。実験では、配線部材4、5間に24mWの電力を印加し、サーモトレーサにて、感温膜3の温度分布を測定した。その実験結果が図8(b)に示されている。図8(b)に示すように、センシング領域での温度分布を、ほぼ一定にできるとがわかった。
【0041】
以上により、配線部材4、5の接続領域8に近い側を狭い幅T1の第1のパターン7aで形成し、基体2の中央を幅T1よりも広い幅T2の第2のパターン7bで形成することで、比較例のように、全体的に一定の幅T4のパターン12を形成するよりも、センシング領域の温度分布を略一定にできるとがわかった。このように、センシング領域での温度分布の偏りを改善でき、センシング領域にて均一なセンサ感度を得ることができる。
【0042】
以上により、本実施の形態のセンサ素子1では、上記した(1)~(3)の構成を備えることで、センシング領域を広くできるとともに、センシング領域での温度分布の偏りを改善でき、略一定のセンサ感度を得ることができる。特に、本実施の形態では、軸周り360度(X1-X2方向の周囲360度)のどの方向から風が吹いても風速の検知が可能であるとともに、略一定のセンサ感度を得ることができ、軸周り360度における無指向性の向上を図ることができる。
【0043】
上記の実施の形態では、パターン7の幅を変化させたが、パターン7の厚みを変えて、パターン7の断面積を、接続領域8側のほうが基体2の中央よりも小さくなるように調整してもよい。これにより、各配線部材4、5の接続付近での単位長さ当たりの発熱量を大きくできる。したがって、センシング領域における温度分布の偏りを抑制でき、センサ感度の略均一化を図ることが可能である。
【0044】
或いは、パターン7の幅及び厚みの双方を変えて、或いは、一部のパターン7の幅を変えるとともに、残りのパターン7の厚みを変えて、パターン7の断面積を、接続領域8側のほうが基体2の中央よりも小さくなるようにしてもよい。
【0045】
ただし、厚みの調整より幅の調整のほうが、確実かつ簡単であり、したがって、各配線部材4、5の接続領域8付近でのパターン7の幅が、基体2の中央のパターン7の幅より小さくなるように調整することが好ましい。
【0046】
また、本実施の形態では、基体2を球体としたことで、小型化を可能とし、応答性に優れ、また気流を乱しにくい効果もある。ただし、基体2は球体に限らない。例えば、基体2は楕円体や、図9に示す円柱状などであってもよい。図9に示す実施の形態では、円柱状の基体2の表面全体に感温膜3が形成されており、感温膜3には、配線部材4、5が接続する接続領域8と、接続領域から基体2の中央まで螺旋状に延出するパターン7とが形成される。パターン7の幅は、基体2の中央にくべて接続領域8側で狭くなっている。図9に示す実施の形態においても、図1と同様に、パターン7の幅を、接続領域8側で最も狭くし、基体2の中央で最も広くし、接続領域寄りの第1のパターン7aと基体2の中央の第2のパターン7bの間に、中間の幅を有する第3のパターン7cを形成した。これにより、センシング領域を広くできるとともに、配線部材4、5の接続箇所付近で発熱を大きくでき、センシング領域における温度分布の偏りを抑制でき、センサ感度の略均一化を図ることが可能である。特に、本実施の形態では、軸周り360度における無指向性の向上を図ることができる。
【0047】
図10に示す別の実施の形態では、図1と異なって、第1の配線部材4及び第2の配線部材5は、夫々、感温膜3のX1-X2方向の両端から外部に離れる方向に延出している。図10に示す実施の形態においても、感温膜3が基体2の表面全体に形成されるとともに、感温膜3はパターン7を有しており、パターン7の幅は、基体2の中央に比べて配線部材4、5の接続領域側で狭い。これにより、センシング領域を広くできるとともに、配線部材4、5の接続箇所付近での発熱を大きくでき、センシング領域における温度分布の偏りを抑制でき、センサ感度の略均一化を図ることが可能である。特に、軸周り360度(X1-X2方向の周囲360度)における無指向性の向上を図ることができる。また、図10に示す実施の形態では、図1に示す実施の形態と異なり、基体2に貫通孔9を設ける必要がない。
本実施の形態では、センサ素子1として風センサ素子を例に挙げたが、液体の流速検知が可能なセンサ素子であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、センシング領域における温度分布の偏りを抑制でき、無指向性で且つセンサ感度に優れたセンサ素子を製造できる。このため、流体の方向が一定でない用途に好ましく適用できる。本発明では、センサ素子を屋外及び屋内問わず使用できる。本発明のセンサ素子に、LED等の発光素子を配置して、風を検知した場合に発光するよう構成すれば、イルミネーション用などに適用できる。また、本発明のセンサ素子を実験用、分析用などに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 センサ素子
2 基体
3 感温膜
4 第1の配線部材
5 第2の配線部材
5 配線部材
6 トリミングライン
7 パターン
7a 第1のパターン
7b 第2のパターン
7c 第3のパターン
8 接続領域
9 貫通孔
10 保護膜
11 ステー
12 パターン
13 導電膜
14 温度補償用抵抗素子
17c 第3のパターン
26、27 抵抗器
28 ブリッジ回路
29 第1の直列回路
30 第2の直列回路
31、32 出力部
33 差動増幅器
34 フィードバック回路


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10