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特許7592577転がり軸受異常検出装置および転がり軸受異常検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】転がり軸受異常検出装置および転がり軸受異常検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/04 20190101AFI20241125BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
G01M13/04
G01H17/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021212423
(22)【出願日】2021-12-27
(65)【公開番号】P2023096572
(43)【公開日】2023-07-07
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】金井 啓太
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
(72)【発明者】
【氏名】山口 和郎
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/092845(WO,A1)
【文献】特開2021-071322(JP,A)
【文献】特開2020-159945(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171630(WO,A1)
【文献】特開2012-026481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/04
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受で生じる振動を振動データとして検出する振動検出部と、
前記振動検出部で検出した振動データの周波数スペクトルを求めるスペクトル処理部と、
前記スペクトル処理部で求めた周波数スペクトルから、異常発生時に周波数スペクトル上にピークをもたらす理論周波数を含む所定の周波数範囲内でピークを示す周波数をピーク周波数として検出するピーク周波数検出部と、
前記ピーク周波数の基準として予め設定された基準周波数と前記ピーク周波数検出部で検出したピーク周波数との差分を経時周波数変化量として求める周波数変化量処理部と、
前記周波数変化量処理部で求めた経時周波数変化量に基づいて前記転がり軸受における異常の有無を判定する異常判定部と、
前記異常判定部で前記転がり軸受の異常有りと判定した場合に、第1態様で警告を外部に報知する警告報知部を備え、
前記異常判定部は、前記周波数変化量処理部で求めた経時周波数変化量と所定の基準周波数とに基づいて経時周波数変化を求め、前記求めた経時周波数変化と、異常の有無を判定する第1閾値±Th1、および、異常の予兆を判定する、絶対値で前記第1閾値より小さい第2閾値±Th2それぞれとを比較し、前記経時周波数変化率が前記第1閾値+Th1を上まわらない場合において、前記経時周波数変化率が前記第2閾値+Th2を上まわる場合に、異常の予兆有りと判定し、前記経時周波数変化率が前記第1閾値-Th1を下まわらない場合において、前記経時周波数変化率が前記第2閾値-Th2を下まわる場合に、異常の予兆有りと判定し、前記経時周波数変化率が前記第1閾値+Th1を上まわる場合に、異常有りと判定し、前記経時周波数変化率が前記第1閾値-Th1を下まわる場合に、異常有りと判定し、
前記警告報知部は、さらに、前記異常判定部で前記転がり軸受の異常の予兆有りと判定した場合に、前記第1態様と異なる第2態様で警告を外部に報知する、
転がり軸受異常検出装置。
【請求項2】
前記転がり軸受における異常の有無を判定することによって前記転がり軸受を監視する異常監視モードと、前記異常監視モードで監視する対象のピーク周波数を監視ピーク周波数として設定する監視ピーク周波数設定モードとを備え、
前記ピーク周波数検出部は、前記監視ピーク周波数設定モードにおいて、前記ピーク周波数を設定用ピーク周波数として検出し、
前記監視ピーク周波数設定モードにおいて、前記ピーク周波数検出部で検出した設定用ピーク周波数が経時変化した場合に、前記設定用ピーク周波数を前記監視ピーク周波数として設定する監視対象設定部をさらに備え、
前記ピーク周波数検出部は、前記異常監視モードにおいて、前記監視対象設定部で設定された監視ピーク周波数を検出する、
請求項1に記載の転がり軸受異常検出装置。
【請求項3】
前記ピーク周波数検出部は、さらに、前記監視ピーク周波数設定モードにおいて、前記設定用ピーク周波数に対する整数倍の周波数でピークを示す1または複数の周波数を1または複数の整数倍設定用ピーク周波数として検出し、
前記監視対象設定部は、さらに、前記ピーク周波数検出部で検出した1または複数の整数倍設定用ピーク周波数が前記設定用ピーク周波数の経時変化と同期して経時変化する場合に、前記1または複数の整数倍設定用ピーク周波数のうちの少なくとも1つを前記監視ピーク周波数に設定して追加する、
請求項2に記載の転がり軸受異常検出装置。
【請求項4】
前記振動検出部は、複数であり、
前記ピーク周波数検出部は、前記複数の振動検出部で検出した複数の振動データうちの少なくとも2個に対し、前記設定用ピーク周波数として検出できる周波数を前記監視ピーク周波数として最終的に設定する、
請求項2または請求項3に記載の転がり軸受異常検出装置。
【請求項5】
前記監視対象設定部は、前記ピーク周波数検出部で検出したピーク周波数が互いに異なる複数の時点で、複数回、経時変化した場合に、前記設定用ピーク周波数を前記監視ピーク周波数として設定する、
請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の転がり軸受異常検出装置。
【請求項6】
転がり軸受で生じる振動を振動データとして検出する振動検出工程と、
前記振動検出工程で検出した振動データの周波数スペクトルを求めるスペクトル処理工程と、
前記スペクトル処理工程で求めた周波数スペクトルから、異常発生時に周波数スペクトル上にピークをもたらす理論周波数を含む所定の周波数範囲内でピークを示す周波数をピーク周波数として検出するピーク周波数検出工程と、
前記ピーク周波数の基準として予め設定された基準周波数と前記ピーク周波数検出工程で検出したピーク周波数との差分を経時周波数変化量として求める周波数変化量処理工程と、
前記周波数変化量処理工程で求めた経時周波数変化量に基づいて前記転がり軸受における異常の有無を判定する異常判定工程とを備え、
前記異常判定工程は、前記周波数変化量処理工程で求めた経時周波数変化量と所定の基準周波数とに基づいて経時周波数変化を求め、前記求めた経時周波数変化と、異常の有無を判定する第1閾値±Th1、および、異常の予兆を判定する、絶対値で前記第1閾値より小さい第2閾値±Th2それぞれとを比較し、前記経時周波数変化率が前記第1閾値+Th1を上まわらない場合において、前記経時周波数変化率が前記第2閾値+Th2を上まわる場合に、異常の予兆有りと判定し、前記経時周波数変化率が前記第1閾値-Th1を下まわらない場合において、前記経時周波数変化率が前記第2閾値-Th2を下まわる場合に、異常の予兆有りと判定し、前記経時周波数変化率が前記第1閾値+Th1を上まわる場合に、異常有りと判定し、前記経時周波数変化率が前記第1閾値-Th1を下まわる場合に、異常有りと判定する、
転がり軸受異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に生じた異常を検出する転がり軸受異常検出装置および転がり軸受異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、例えば玉やころ等の転動体を2つの部材(軸および軌道輪)の間に置くことで荷重を支持する装置であり、回転体を備える様々な用途の装置に備えられている。この転がり軸受は、例えば、摩滅(すり減りやきず)、変形による疲労および圧力による融合等の異常によって、スムーズな転がりが阻害され、前記装置の故障等を生じる虞がある。このため、例えば、特許文献1に提案されているように、転がり軸受の異常が監視される。
【0003】
この特許文献1に開示された機械設備の評価方法は、回転体が静止部材に対して相対的に回転する機械設備における異常の有無及び異常箇所を特定する機械設備の評価方法であって、前記機械設備の発生する音又は振動を検知して該検知した音又は振動に応じた電気信号を出力する検出工程と、前記電気信号に対して周波数分析を行い、スペクトルデータを得る演算処理工程と、前記スペクトルデータから極大値を抽出する極大値抽出工程と、前記スペクトルデータから前記極大値を除いた有効スペクトルデータに基づいて、ベースラインを求めるベースライン算出工程と、前記極大値と前記ベースラインとの差が、所定の大きさよりも大きいピーク周波数を抽出するピーク周波数抽出工程と、前記機械設備の複数の機械要素毎に、前記回転体の回転情報から異常発生時に周波数スペクトル上にピーク値をもたらす理論周波数を所定の次数まで算出する理論周波数算出工程と、前記複数の機械要素間の前記理論周波数の差が最小となる最小周波数差を、少なくとも1つの次数求め、検知範囲係数を0.5以下として、いずれかの次数の前記最小周波数差×前記検知範囲係数を検出周波数範囲とする検出周波数範囲決定工程と、前記ピーク周波数が、前記理論周波数±前記検出周波数範囲の範囲内であるか否かを判別する判別工程と、前記判別工程の結果に基づいて、前記機械要素の異常箇所を特定する異常診断工程と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-101954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に開示された機械設備の評価方法は、極大値とベースラインとの差が所定の大きさよりも大きいピーク周波数を抽出し、前記ピーク周波数が理論周波数±検出周波数範囲の範囲外である場合には正常と判断し、前記ピーク周波数が前記理論周波数±前記検出周波数範囲の範囲内である場合には異常と判断している(前記特許文献1の[0048]段落参照)。ところで、転がり軸受けにおける異常に起因する振動の大きさは、前記転がり軸受けを備える装置の構造によって様々であるため、ピーク周波数を抽出するための閾値の設定によっては異常を見落としてしまう可能性がある。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、転がり軸受の異常を適切に検知できる転がり軸受異常検出装置および転がり軸受異常検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる転がり軸受異常検出装置は、転がり軸受で生じる振動を振動データとして検出する振動検出部と、前記振動検出部で検出した振動データの周波数スペクトルを求めるスペクトル処理部と、前記スペクトル処理部で求めた周波数スペクトルから、異常発生時に周波数スペクトル上にピークをもたらす理論周波数を含む所定の周波数範囲内でピークを示す周波数をピーク周波数として検出するピーク周波数検出部と、前記ピーク周波数の基準として予め設定された基準周波数と前記ピーク周波数検出部で検出したピーク周波数との差分を経時周波数変化量として求める周波数変化量処理部と、前記周波数変化量処理部で求めた経時周波数変化量に基づいて前記転がり軸受における異常の有無を判定する異常判定部とを備える。好ましくは、上述の転がり軸受異常検出装置において、前記基準周波数は、前記転がり軸受の健全時における前記ピーク周波数である。
【0008】
このような転がり軸受異常検出装置は、ピーク周波数に関する経時周波数変化量に基づいて前記転がり軸受における異常の有無を判定するので、前記転がり軸受けを備える装置の構造によって様々である振動の大きさを用いないから、転がり軸受の異常を適切に検知できる。そして、異常発生時に周波数スペクトル上にピークをもたらす理論周波数は、計算式から論理的に算出可能である。上記転がり軸受異常検出装置は、ピーク周波数を検出するための所定の周波数範囲を、この論理的に算出可能な理論周波数に基づいて設定するので、より適切に前記所定の周波数範囲を設定できる。
【0009】
他の一態様では、上述の転がり軸受異常検出装置において、前記異常判定部で前記転がり軸受の異常有りと判定した場合に、警告を外部に報知する警告報知部をさらに備える。
【0010】
このような軸受異常検出装置は、警告報知部をさらに備えるので、転がり軸受の異常有りにかかる警告を外部に報知できる。この外部に報知された警告を認識することで、ユーザは、転がり軸受の異常有りを認識できる。
【0011】
他の一態様では、これら上述の転がり軸受異常検出装置において、前記転がり軸受における異常の有無を判定することによって前記転がり軸受を監視する異常監視モードと、前記異常監視モードで監視する対象のピーク周波数を監視ピーク周波数として設定する監視ピーク周波数設定モードとを備え、前記ピーク周波数検出部は、前記監視ピーク周波数設定モードにおいて、前記ピーク周波数を設定用ピーク周波数として検出し、前記監視ピーク周波数設定モードにおいて、前記ピーク周波数検出部で検出した設定用ピーク周波数が経時変化した場合に、前記設定用ピーク周波数を前記監視ピーク周波数として設定する監視対象設定部をさらに備え、前記ピーク周波数検出部は、前記異常監視モードにおいて、前記監視対象設定部で設定された監視ピーク周波数を検出する。
【0012】
転がり軸受には、実際には、転がり軸受の振動の他に、例えば歯車の噛合いやそのサイドバンドや軸回転の倍数成分(高調波成分)等の、様々な複数の振動が存在する。一方、転がり軸受における振動の周波数は、摩滅等により経時変化する。本発明は、この点に着目して為された発明である。上記転がり軸受異常検出装置は、設定用ピーク周波数が経時変化した場合に、前記設定用ピーク周波数を監視ピーク周波数として設定するので、適切に転がり軸受の振動を検知できる。
【0013】
他の一態様では、上述の転がり軸受異常検出装置において、前記ピーク周波数検出部は、さらに、前記監視ピーク周波数設定モードにおいて、前記設定用ピーク周波数に対する整数倍の周波数でピークを示す1または複数の周波数を1または複数の整数倍設定用ピーク周波数として検出し、前記監視対象設定部は、さらに、前記ピーク周波数検出部で検出した1または複数の整数倍設定用ピーク周波数が前記設定用ピーク周波数の経時変化と同期して経時変化する場合に、前記1または複数の整数倍設定用ピーク周波数のうちの少なくとも1つを前記監視ピーク周波数に設定して追加する。
【0014】
このような転がり軸受異常検出装置は、前記設定用ピーク周波数に対する整数倍の周波数でピークを示す1または複数の整数倍設定用ピーク周波数のうちの少なくとも1つを前記監視ピーク周波数に設定して追加するので、より適切に転がり軸受の振動を検知できる。
【0015】
他の一態様では、これら上述の転がり軸受異常検出装置において、前記振動検出部は、複数であり、前記ピーク周波数検出部は、前記複数の振動検出部で検出した複数の振動データうちの少なくとも2個に対し、前記設定用ピーク周波数として検出できる周波数を前記監視ピーク周波数として最終的に設定する。
【0016】
このような転がり軸受異常検出装置は、少なくとも2個の振動検出部で検出できるピークの周波数を監視ピーク周波数に設定するので、監視ピーク周波数のピークが低い場合でも、前記監視ピーク周波数のピークとノイズとを区別し易くなり、適切に転がり軸受の振動を検知できる。
【0017】
他の一態様では、これら上述の転がり軸受異常検出装置において、前記監視対象設定部は、前記ピーク周波数検出部で検出したピーク周波数が互いに異なる複数の時点で、複数回、経時変化した場合に、前記設定用ピーク周波数を前記監視ピーク周波数として設定する。
【0018】
このような転がり軸受異常検出装置は、互いに異なる複数の時点で、複数回、経時変化した場合に、設定用ピーク周波数を監視ピーク周波数として設定するので、一時的に経時変化した場合を除くことができるから、より適切に監視対象の監視ピーク周波数を設定できる。
【0019】
本発明の他の一態様にかかる転がり軸受異常検出方法は、転がり軸受で生じる振動を振動データとして検出する振動検出工程と、前記振動検出工程で検出した振動データの周波数スペクトルを求めるスペクトル処理工程と、前記スペクトル処理工程で求めた周波数スペクトルから、異常発生時に周波数スペクトル上にピークをもたらす理論周波数を含む所定の周波数範囲内でピークを示す周波数をピーク周波数として検出するピーク周波数検出工程と、前記ピーク周波数の基準として予め設定された基準周波数と前記ピーク周波数検出工程で検出したピーク周波数との差分を経時周波数変化量として求める周波数変化量処理工程と、前記周波数変化量処理工程で求めた経時周波数変化量に基づいて前記転がり軸受における異常の有無を判定する異常判定工程とを備える。
【0020】
このような転がり軸受異常検出方法は、ピーク周波数に関する経時周波数変化量に基づいて前記転がり軸受における異常の有無を判定するので、前記転がり軸受けを備える装置の構造によって様々である振動の大きさを用いないから、転がり軸受の異常を適切に検知できる。そして、上記転がり軸受異常検出方法は、ピーク周波数を検出するための所定の周波数範囲を、前記論理的に算出可能な理論周波数に基づいて設定するので、より適切に前記所定の周波数範囲を設定できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる転がり軸受異常検出装置および転がり軸受異常検出方法は、転がり軸受の異常を適切に検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態における転がり軸受異常検出装置の構成を示すブロック図である。
図2】転がり軸受を備える機械設備を説明するための図である。
図3】設定用ピーク周波数の特定の手法を説明するための模式図である。
図4】複数の振動検出部を用いる場合における、設定用ピーク周波数の特定の手法を説明するための模式図である。
図5】監視ピーク周波数の設定の第1手法を説明するための模式図である。
図6】監視ピーク周波数の設定の第2手法を説明するための模式図である。
図7】異常判定の手法を説明するための図である。
図8】監視ピーク周波数設定モードに関する前記転がり軸受異常検出装置の動作を示すフローチャートである。
図9】異常監視モードに関する前記転がり軸受異常検出装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0024】
実施形態における転がり軸受異常検出装置は、転がり軸受で生じる振動を振動データとして検出する振動検出部と、前記振動検出部で検出した振動データの周波数スペクトルを求めるスペクトル処理部と、前記スペクトル処理部で求めた周波数スペクトルから、異常発生時に周波数スペクトル上にピークをもたらす理論周波数を含む所定の周波数範囲内でピークを示す周波数をピーク周波数として検出するピーク周波数検出部と、前記ピーク周波数の基準として予め設定された基準周波数と前記ピーク周波数検出部で検出したピーク周波数との差分を経時周波数変化量として求める周波数変化量処理部と、前記周波数変化量処理部で求めた経時周波数変化量に基づいて前記転がり軸受における異常の有無を判定する異常判定部とを備える。以下、より具体的に説明する。
【0025】
図1は、実施形態における転がり軸受異常検出装置の構成を示すブロック図である。図2は、転がり軸受を備える機械設備を説明するための図である。図3は、設定用ピーク周波数の特定の手法を説明するための模式図である。図3の上段は、理論周波数ftの周波数範囲における周波数スペクトルを示し、図3の上段は、理論周波数ftに対する周波数範囲ft-dft~ft+dftにおける周波数スペクトルを示し、図3の中段は、理論周波数ftの2倍に対する周波数範囲2*ft-2*dft~2*ft+2*dftにおける周波数スペクトルを示し、図3の下段は、理論周波数ftの3倍に対する周波数範囲3*ft-3*dft~3*ft+3*dftにおける周波数スペクトルを示す。各図の横軸は、周波数であり、それらの縦軸は、レベル(大きさ)である。図4は、複数の振動検出部を用いる場合における、設定用ピーク周波数の特定の手法を説明するための模式図である。図4Aは、設定用ピーク周波数が特定できる第1ケースを示し、図4Bは、設定用ピーク周波数が特定できない第2ケースを示す。図4Aおよび図4Bにおいて、紙面左から右へ順に、第1振動検出部1-1の振動データから求められた周波数スペクトル、第2振動検出部1-2の振動データから求められた周波数スペクトル、および、第3振動検出部1-3の振動データから求められた周波数スペクトルであり、上段、中段および下段は、それぞれ、図3と同様であり、これら各図の横軸および縦軸も図3と同様である。図5は、監視ピーク周波数の設定の第1手法を説明するための模式図である。図5Aは、新設やオーバーホールの直後における周波数スペクトル(転がり軸受の健全時における周波数スペクトル)を示し、図5Aに示す場合から、1年後における周波数スペクトル(経年変化後の周波数スペクトル、所定の期間経過後の周波数スペクトル)を示す。上段、中段および下段は、それぞれ、図3と同様であり、これら各図の横軸および縦軸も図3と同様である。図6は、監視ピーク周波数の設定の第2手法を説明するための模式図である。図6の横軸は、経過時間であり、その縦軸は、ピーク周波数の変化率である。図7は、異常判定の手法を説明するための図である。図7の横軸は、経過時間であり、その縦軸は、監視ピーク周波数の変化率である。
【0026】
実施形態における転がり軸受異常検出装置VDは、例えば、図1に示すように、振動検出部1(1-1~1-3)と、制御処理部2と、入力部3と、出力部4と、インターフェース部(IF部)5と、記憶部6とを備える。
【0027】
振動検出部1は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って転がり軸受で生じる振動を振動データとして検出する装置である。振動検出部1は、1個であってよいが、本実施形態では、複数、一例では、3個の第1ないし第3振動検出部1-1~1-3である。これら第1ないし第3振動検出部1-1~1-3は、異常を検出する対象である、転がり軸受を備える例えば機械設備等の装置に配置される。
【0028】
前記機械設備は、転がり軸受を備える装置の一例であり、転がり軸受を備えれば、任意の設備であってよい。例えば、前記機械設備Mは、図2に示す減速機Mであり、大略、第1ないし第3転がり軸受BE-1~BE-3と、第1および第2回転軸AX-1、AX-2と、第1および第2ギヤGA-1、GA-2と、これら第1ないし第3転がり軸受BE-1~BE-3、第1および第2回転軸AX-1、AX-2ならびに第1および第2ギヤGA-1、GA-2を収容する図略の筐体(ハウジング)とを備える。第1回転軸AX-1は、第1ギヤGA-1に固定され、この第1ギヤGA-1の回転軸であり、第1転がり軸受BE-1によって支持される。第2回転軸AX-2は、第2ギヤGA-2に固定され、この第2ギヤGA-1の回転軸であり、第2および第3転がり軸受BE-2、BE-3によって支持される。第1ギヤGA-1と第2ギヤGA-2とは、歯合し、例えば、第1回転軸AX-1の回転による回転力が第1および第2ギヤGA-1、GA-2を介して第2回転軸AX-2に伝達され、第2回転軸AX-2が回転する。
【0029】
このような構成の減速機Mに対し、第1ないし第3振動検出部1-1~1-3は、それぞれ、第1ないし第3転がり軸受BE-1~BE-3の各外周上に配置される。なお、振動検出部1は、転がり軸受BEに限らず、例えば、前記筐体に配置されてもよい。要は、転がり軸受BEに起因する振動が伝播する箇所に、振動検出部1(1-1~1-3)が配置される。このような振動検出部1(1-1~1-3)は、例えば、加速度センサやAE(Acoustic Emission)センサ等であり、検出対象の振動の周波数に応じて適宜なセンサが利用される。振動検出部1(1-1~1-3)は、検出結果を振動データとして制御処理部2へ出力する。
【0030】
入力部3は、制御処理部2に接続され、例えば、動作モードを指示するコマンドや、監視ピーク周波数の特定開始を指示するコマンドや、異常の検出開始(監視開始)を指示するコマンド等の各種コマンド、および、検出対象(監視対象)の機械設備名等の転がり軸受異常検出装置VDを動作させる上で必要な各種データを転がり軸受異常検出装置VDに入力する機器であり、例えば、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチやキーボードやマウス等である。出力部4は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、入力部3から入力されたコマンドやデータ、および、振動データ等を出力する機器であり、例えばCRTディスプレイ、液晶ディスプレイおよび有機ELディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0031】
なお、入力部3および出力部4からいわゆるタッチパネルが構成されてもよい。このタッチパネルを構成する場合において、入力部3は、例えば抵抗膜方式や静電容量方式等の操作位置を検出して入力する位置入力装置であり、出力部4は、表示装置である。このタッチパネルでは、前記表示装置の表示面上に前記位置入力装置が設けられ、前記表示装置に入力可能な1または複数の入力内容の候補が表示され、ユーザが、入力したい入力内容を表示した表示位置を触れると、前記位置入力装置によってその位置が検出され、検出された位置に表示された表示内容がユーザの操作入力内容として転がり軸受異常検出装置VDに入力される。このようなタッチパネルでは、ユーザは、入力操作を直感的に理解し易いので、ユーザにとって取り扱い易い転がり軸受異常検出装置VDが提供される。
【0032】
IF部5は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、外部機器との間でデータの入出力を行う回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS-232Cのインターフェース回路、Bluetooth(登録商標)規格を用いたインターフェース回路、IrDA(Infrared Data Asscoiation)規格等の赤外線通信を行うインターフェース回路、および、USB(Universal Serial Bus)規格を用いたインターフェース回路等である。また、IF部5は、外部機器との間で通信を行う回路であり、例えば、データ通信カードや、IEEE802.11規格等に従った通信インターフェース回路等であってもよい。
【0033】
記憶部6は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、制御処理プログラムが含まれ、前記制御処理プログラムには、転がり軸受異常検出装置VDの各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御する制御プログラムや、振動検出部1(1-1~1-3)で検出した振動データの周波数スペクトルを求めるスペクトル処理プログラムや、前記スペクトル処理プログラムで求めた周波数スペクトルから、異常発生時に周波数スペクトル上にピークをもたらす理論周波数を含む所定の周波数範囲内でピークを示す周波数をピーク周波数として特定するピーク周波数検出プログラムや、前記ピーク周波数の基準として予め設定された基準周波数と前記ピーク周波数検出プログラムで検出したピーク周波数との差分を経時周波数変化量として求める周波数変化量処理プログラムや、前記周波数変化量処理プログラムで求めた経時周波数変化量に基づいて前記転がり軸受における異常の有無を判定する異常判定プログラムや、前記異常判定プログラムで前記転がり軸受の異常有りと判定した場合に、警告を出力部4から出力することによって前記警告を外部に報知する警告報知プログラムや、監視ピーク周波数を設定する監視ピーク周波数設定モードにおいて、前記ピーク周波数検出プログラムで検出した設定用ピーク周波数が経時変化した場合に、前記設定用ピーク周波数を前記監視ピーク周波数として設定する監視対象設定プログラム等が含まれる。前記各種の所定のデータには、例えば、振動検出部1(1-1~1-3)で検出した振動データや、理論周波数や、前記ピーク周波数検出プログラムで検出したピーク周波数や、前記監視対象設定プログラムで設定した監視ピーク周波数等の、これら各プログラムを実行する上で必要なデータが含まれる。このような記憶部6は、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。そして、記憶部6は、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる制御処理部2のワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。なお、記憶部6は、比較的大容量となる学習データを記憶するために、大容量を記憶可能なハードディスク装置を備えてもよい。
【0034】
制御処理部2は、転がり軸受異常検出装置VDの各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、転がり軸受の異常(転がり軸受を備える機械設備の異常)を検出するための回路である。制御処理部2は、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部2には、前記制御処理プログラムが実行されることによって、制御部21、スペクトル処理部22、ピーク周波数検出部23、監視対象設定部24、周波数変化量処理部25、異常判定部26および警告報知部27が機能的に構成される。
【0035】
制御部21は、転がり軸受異常検出装置VDの各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、転がり軸受異常検出装置VD全体の制御を司るものである。制御部21は、転がり軸受異常検出装置VDの動作モードに応じて制御する。本実施形態では、転がり軸受異常検出装置VDは、監視ピーク周波数を設定してから、転がり軸受けの異常の有無を判定するので、前記動作モードは、前記転がり軸受における異常の有無を判定することによって前記転がり軸受(前記転がり軸受けを備える機械設備)を監視する異常監視モードと、前記異常監視モードで監視する対象のピーク周波数を監視ピーク周波数として設定する監視ピーク周波数設定モードとを備える。制御部21は、振動検出部1(1-1~1-3)で検出した振動データを検出時刻と対応付けて記憶部6に記憶する。より具体的には、制御部21は、所定のサンプリング間隔で、振動検出部1(1-1~1-3)の検出結果を取得し、この取得した検出結果を検出時刻と対応付けて記憶部6に記憶する。なお、前記検出結果は、減速機Mの回転数に依存するので、本実施形態では、減速機Mの回転数を計測する図略の回転計(例えばパルスジェネレータ(ロータリエンコーダ)等)が減速機Mに配置され、制御部21は、振動検出部1(1-1~1-3)の検出結果と同期して前記回転計の出力を取得し、これら取得した検出結果および前記回転計の出力と検出時刻と対応付けて記憶部6に記憶する。監視ピーク周波数設定モードでは、ピーク周波数の経時変化(本実施形態では監視ピーク周波数設定モードにおける後述の設定用ピーク周波数の経時変化)を観測するので、制御部21は、振動検出部1(1-1~1-3)の検出結および前記回転計の出力を、前記サンプリング間隔で、所定時間の間(所定時間長)、取得する処理を、所定の期間(第1期間)を空けて、少なくとも2回、実施する。これによって、各検出時刻と対応付けられ、サンプリング間隔で時系列に連続する振動検出部1(1-1~1-3)の各検出結果が振動データとして、少なくとも2個、取得され、各検出時刻と対応付けられ、サンプリング間隔で時系列に連続する前記回転計の各出力が回転数データとして、少なくとも2個、取得される。すなわち、制御部21は、前記サンプリング間隔で、前記所定時間長、振動検出部1(1-1~1-3)の検出結果および前記回転計の出力を取得し、前記サンプリング間隔で時系列に連続する各検出結果および各出力を振動データおよび回転数データとして検出時刻と対応付けて記憶部6に記憶する。前記第1期間は、例えば、3ヶ月や6ヶ月や12ヶ月等に適宜に設定される。異常監視モードでは、基準周波数に対するピーク周波数の経時周波数変化量(本実施形態では異常監視モードにおける後述の基準周波数に対する監視ピーク周波数の経時周波数変化量)を観測するので、制御部21は、振動検出部1(1-1~1-3)の検出結および前記回転計の出力を、互いに同期して前記サンプリング間隔で取得し、これら取得した振動検出部1(1-1~1-3)の検出結果および前記回転計の出力と検出時刻と対応付けて記憶部6に記憶する。そして、後述のように、異常を判定するタイミングで、記憶部6に記憶され現時点から所定時間(例えば1日、3日、1週間等)だけ過去の、前記サンプリング間隔で時系列に連続する各検出結果および各出力が振動データおよび回転数データとして取り出され、異常の判定に用いられる。
【0036】
なお、センサレスの場合(回転計を用いない場合)、振動データから減速機Mの回転数変化に起因する振動成分が抽出され、この抽出した振動成分から回転数データが生成されてもよい。
【0037】
スペクトル処理部22は、振動検出部1(1-1~1-3)で検出した振動データの周波数スペクトルを求めるものである。より具体的には、スペクトル処理部22は、前処理として、回転数データに基づいて振動データから回転数の変化の影響を公知の常套手段により除去(補正)して、減速機Mが所定の回転数で一定に回転している場合の振動データを求め、この求めた振動データを例えば高速フーリエ変換することによって前記振動データの周波数スペクトルを求める。監視ピーク周波数設定モードでは、周波数スペクトルは、前記第1期間だけ開けて取得された各振動データごとに求められる。異常監視モードでは、異常を判定するタイミングでの振動データについて求められる。
【0038】
ピーク周波数検出部23は、スペクトル処理部22で求めた周波数スペクトルから、異常発生時に周波数スペクトル上にピークをもたらす理論周波数を含む所定の周波数範囲内でピークを示す周波数をピーク周波数として検出するものである。ピーク周波数検出部23は、前記監視ピーク周波数設定モードにおいて、前記ピーク周波数を設定用ピーク周波数として検出して特定する。すなわち、前記監視ピーク周波数設定モードにおいて、スペクトル処理部22で求めた周波数スペクトルから、異常発生時に周波数スペクトル上にピークをもたらす理論周波数を含む所定の周波数範囲内でピークを示す周波数が前記設定用ピーク周波数としてピーク周波数検出部23によって検出される。本実施形態では、ピーク周波数検出部23は、さらに、前記監視ピーク周波数設定モードにおいて、前記設定用ピーク周波数に対する整数倍の周波数でピークを示す1または複数の周波数を1または複数の整数倍設定用ピーク周波数として検出して特定する。例えば、2倍の周波数でピークを示す2倍ピーク周波数および3倍の周波数でピークを示す3倍ピーク周波数が検出され特定される。なお、整数倍の周波数は、これに限らず、例えば2倍、3倍および4倍の各周波数や、3倍および4倍の各周波数や、2倍および4倍の各周波数や、3倍および5倍の各周波数等で、適宜に設定される。そして、本実施形態では、ピーク周波数検出部23は、前記複数の振動検出部1で検出した複数の振動データうちの少なくとも2個に対し、前記ピーク周波数として設定できる周波数を前記ピーク周波数として最終的に設定する。
【0039】
異常発生時に周波数スペクトル上にピークをもたらす前記理論周波数ftは、公知であり、転がり軸受の損傷(軸受損傷)が生じる部位に応じて異なり、例えば、次表1の通りである。前記軸受損傷の部位は、例えば、内輪、外輪、転動体および保持器である。ここで、ftiは、内輪で軸受損傷が生じた場合の理論周波数であり、ftoは、外輪で軸受損傷が生じた場合の理論周波数であり、ftbは、転動体で軸受損傷が生じた場合の理論周波数であり、ftmは、保持器で軸受損傷が生じた場合の理論周波数である。dは、転動体の径であり、Dは、転動体のピッチサークル径であり、Zは、転動体の個数であり、αは、接触角である。
【0040】
【表1】
【0041】
このような理論周波数ft(fti、fto、ftb、ftm)に対する、ピーク周波数(前記監視ピーク周波数設定モードでは設定用ピーク周波数、前記異常監視モードでは監視ピーク周波数)を検出するための前記周波数範囲は、例えば、理論周波数ftを中心とした±dftであり、1~n倍までについて、次表2のように設定される。なお、演算子*は、乗算の演算子である。例えば、軸受損傷が外輪で生じる場合の1倍、2倍および3倍の各理論周波数に対する各周波数範囲は、fto-dft~fto+dft、2*fto-2*dft~2*fto+2*dft、および、3*fto-3*dft~3*fto+3*dftである。
【0042】
【表2】
【0043】
前記監視ピーク周波数設定モードにおいて、設定用ピーク周波数および整数倍設定用ピーク周波数を特定する場合、理論周波数に対する周波数範囲における周波数スペクトルおよび理論周波数の整数倍に対する周波数範囲における周波数スペクトルに共通に存在するピークの周波数が設定用ピーク周波数としてピーク周波数検出部23によって検出され特定される。例えば、1個の振動検出部1において、その振動データから図3に示す各周波数スペクトルが求められた場合、理論周波数ftに対する周波数範囲ft-dft~ft+dftにおける周波数スペクトル(上段)に存在するピークの周波数f1に対する、2倍の周波数2*f1および3倍の周波数3*f1に、理論周波数ftの2倍に対する周波数範囲2*ft-2*dft~2*ft+2*dftにおける周波数スペクトル(中段)、および、理論周波数ftの3倍に対する周波数範囲3*ft-3*dft~3*ft+3*dftにおける周波数スペクトル(下段)には、ピークが存在しないので、ピーク周波数検出部23は、周波数f1を設定用ピーク周波数として検出して特定しない。一方、理論周波数ftに対する周波数範囲ft-dft~ft+dftにおける周波数スペクトル(上段)に存在するピークの周波数f2に対する、2倍の周波数2*f2および3倍の周波数3*f2に、理論周波数ftの2倍に対する周波数範囲2*ft-2*dft~2*ft+2*dftにおける周波数スペクトル(中段)、および、理論周波数ftの3倍に対する周波数範囲3*ft-3*dft~3*ft+3*dftにおける周波数スペクトル(下段)にも、ピークが存在するので、ピーク周波数検出部23は、周波数f2を設定用ピーク周波数として検出して特定する。このような特定処理を、例えば、理論周波数ftに対する周波数範囲ft-dft~ft+dftにおける周波数スペクトルに存在する各ピーク(例えば所定の閾値以上のレベルを持つピーク)ごとに実行することによって、設定用ピーク周波数および整数倍設定用ピーク周波数が特定できる。
【0044】
複数の振動検出部1が用いられる場合に、設定用ピーク周波数および整数倍設定用ピーク周波数を検出して特定する場合、転がり軸受BEで生じた振動は、回転軸AXやギヤGAや前記筐体等を伝播し、複数の振動検出部1で検出されるから、前記複数の振動検出部1で検出した複数の振動データうちの少なくとも2個に対し、理論周波数に対する周波数範囲における周波数スペクトルおよび理論周波数の整数倍に対する周波数範囲における周波数スペクトルに共通に存在するピークの周波数が設定用ピーク周波数としてピーク周波数検出部23によって検出され特定される。例えば、3個の第1ないし第3振動検出部1-1~1-3において、その各振動データから図4Aおよび図4Bに示す各周波数スペクトルが求められた場合、まず、図4Bの場合では、第1振動検出部1-1において、理論周波数ftに対する周波数範囲ft-dft~ft+dftにおける周波数スペクトル(上段)における周波数f4のピークは、理論周波数ftの2倍に対する周波数範囲2*ft-2*dft~2*ft+2*dftにおける周波数スペクトル(中段)における周波数2*f4、および、理論周波数ftの3倍に対する周波数範囲3*ft-3*dft~3*ft+3*dftにおける周波数スペクトル(下段)における周波数3*f4にもピークが存在するので、周波数f4は、設定用ピーク周波数の候補となるが、第2および第3振動検出部1-2、1-3において、各理論周波数ftに対する各周波数範囲ft-dft~ft+dftにおける各周波数スペクトル(各上段)、各理論周波数ftの2倍に対する各周波数範囲2*ft-2*dft~2*ft+2*dftにおける各周波数スペクトル(各中段)、および、各理論周波数ftの3倍に対する各周波数範囲3*ft-3*dft~3*ft+3*dftにおける各周波数スペクトル(各下段)には、ピークが存在しないので、ピーク周波数検出部23は、周波数f4を設定用ピーク周波数として最終的に検出して特定しない。一方、図4Aの場合では、第1振動検出部1-1において、理論周波数ftに対する周波数範囲ft-dft~ft+dftにおける周波数スペクトル(上段)における周波数f3のピークは、理論周波数ftの2倍に対する周波数範囲2*ft-2*dft~2*ft+2*dftにおける周波数スペクトル(中段)における周波数2*f3、および、理論周波数ftの3倍に対する周波数範囲3*ft-3*dft~3*ft+3*dftにおける周波数スペクトル(下段)における周波数3*f3にもピークが存在するので、周波数f3は、設定用ピーク周波数の候補となり、さらに、第2および第3振動検出部1-2、1-3において、各理論周波数ftに対する各周波数範囲ft-dft~ft+dftにおける各周波数スペクトル(各上段)、各理論周波数ftの2倍に対する各周波数範囲2*ft-2*dft~2*ft+2*dftにおける各周波数スペクトル(各中段)、および、各理論周波数ftの3倍に対する各周波数範囲3*ft-3*dft~3*ft+3*dftにおける各周波数スペクトル(各下段)にも、ピークが存在するので、ピーク周波数検出部23は、周波数f3を設定用ピーク周波数として最終的に検出して特定する。このような特定処理を、例えば、第1振動検出部1-1で検出した振動データの周波数スペクトルにおいて、理論周波数ftに対する周波数範囲ft-dft~ft+dftに存在する各ピーク(例えば所定の閾値以上のレベルを持つピーク)ごとに実行することによって、設定用ピーク周波数を最終的に検出して特定し、設定用ピーク周波数および整数倍設定用ピーク周波数が特定できる。図4Aに示す場合では、3個の第1ないし第3振動検出部1-1~1-3全てで共通にピークが存在したが、上述のように、少なくとも2個でよい。
【0045】
監視対象設定部24は、前記監視ピーク周波数設定モードにおいて、ピーク周波数検出部23で検出して特定した設定用ピーク周波数が経時変化した場合に、前記設定用ピーク周波数を監視対象の監視ピーク周波数として設定するものである。本実施形態では、監視対象設定部24は、さらに、ピーク周波数検出部23で検出して特定した1または複数の整数倍設定用ピーク周波数が前記設定用ピーク周波数の経時変化と同期して経時変化する場合に、前記1または複数の整数倍設定用ピーク周波数のうちの少なくとも1つを前記監視ピーク周波数に設定して追加する。
【0046】
例えば、図5Aに示すように、減速機Mの新設やオーバーホールの直後では、第1設定用ピーク周波数a[Hz]および第1整数倍設定用ピーク周波数2*a、3*a[Hz]、ならびに、第2設定用ピーク周波数b[Hz]および第2整数倍設定用ピーク周波数2*b、3*b[Hz]が検出され特定された場合に、その1年後では、図5Bに示すように、第2設定用ピーク周波数b[Hz]および第2整数倍設定用ピーク周波数2*b、3*b[Hz]の各ピークは、経時変化しない一方、第1設定用ピーク周波数a[Hz]および第1整数倍設定用ピーク周波数2*a、3*a[Hz]は、それぞれ、同期して△c、2*△c、3*△cだけ経時変化した場合、監視対象設定部24は、第1設定用ピーク周波数a[Hz]および第1整数倍設定用ピーク周波数2*a、3*a[Hz]それぞれを、監視ピーク周波数として設定する。
【0047】
上述のように1回の経時変化で監視ピーク周波数が設定されてもよいが、本実施形態では、複数回の経時変化で監視ピーク周波数が設定される。すなわち、監視対象設定部24は、前記ピーク周波数検出部23で検出して特定した設定用ピーク周波数が互いに異なる複数の時点で、複数回、経時変化した場合に、前記設定用ピーク周波数を監視対象の監視ピーク周波数として設定する。
【0048】
例えば、ピーク周波数検出部23で検出して特定した設定用ピーク周波数を、監視ピーク周波数設定モードを実施して監視ピーク周波数を設定するための監視ピーク周波数設定期間の間、所定の期間(第2期間、経過観察期間)ごとに、複数回、観測した結果が図6に示されている。図6に示すように、監視ピーク周波数設定期間(この例では1年間)において複数回(この例では1ヶ月の経過観察期間ごとに12回)、観測すると、図5を用いて上述した第2設定用ピーク周波数b[Hz](△)は、各回でそのままで変化がない。一方、図5を用いて上述した第1設定用ピーク周波数a[Hz](●)は、各回で徐々に経時変化し、複数回の経時変化がある。前記周波数の変化は、増大だけでなく、減少、または不連続に増減する場合もある。このように複数回、経時変化し、各回で徐々に変化する傾向を観測した第1設定用ピーク周波数a[Hz]を、監視対象設定部24は、監視対象の監視ピーク周波数として設定する一方、各回で略経時変化しない第2設定用ピーク周波数b[Hz]を、監視対象設定部24は、監視対象の監視ピーク周波数として設定しない。
【0049】
そして、ピーク周波数検出部23は、前記異常監視モードにおいて、監視対象設定部24で設定された監視ピーク周波数を検出する。すなわち、スペクトル処理部22で求めた周波数スペクトルから、異常発生時に周波数スペクトル上にピークをもたらす理論周波数を含む所定の周波数範囲内でピークを示す周波数であって監視対象設定部24で設定された周波数が前記監視ピーク周波数としてピーク周波数検出部23によって検出される。
【0050】
周波数変化量処理部25は、前記ピーク周波数の基準として予め設定された所定の基準周波数とピーク周波数検出部23で検出したピーク周波数との差分を経時周波数変化量として求めるものである。本実施形態では、監視ピーク周波数設定モードで異常監視モードで用いる監視対象の監視ピーク周波数が設定されるので、前記基準周波数とピーク周波数検出部23で検出した監視ピーク周波数との差分が前記経時周波数変化量として周波数変化量処理部25によって求められる。前記所定の基準周波数は、例えば、前記転がり軸受の健全時における前記監視ピーク周波数である。前記転がり軸受の健全時とは、例えば転がり軸受(前記転がり軸受を備える機械設備)を新設した直後(新設時)や転がり軸受(前記転がり軸受を備える機械設備)をオーバーホールした直後(オーバーホール時)等の、転がり軸受(前記転がり軸受を備える機械設備)に異常が無いと認められる時である。
【0051】
異常判定部26は、周波数変化量処理部25で求めた経時周波数変化量に基づいて前記転がり軸受における異常の有無を判定するものである。本実施形態では、異常判定部26は、前記基準周波数(上述の例では前記転がり軸受の健全時における前記監視ピーク周波数)を基準とする所定の閾値に基づいて前記転がり軸受における異常の有無を判定する。より具体的には、異常判定部26は、周波数変化量処理部25で求めた経時周波数変化量に基づき経時周波数変化率を求め、この求めた経時周波数変化率と所定の閾値とを比較することによって前記転がり軸受における異常の有無を判定する。前記経時周波数変化率△fは、監視ピーク周波数f1から基準周波数f0を減算した減算結果を基準周波数f0で除算することによって求められ、無次元とされる(△f=(f1-f0)/f0)。前記閾値は、前記基準周波数に基づいて適宜に設定されてよいが、例えば、基準周波数f0の場合を基準0として、例えば±0.3[%]や±0.6[%]等に設定される。異常判定部26は、前記経時周波数変化量が前記閾値を超えた場合に、異常有りと判定し、前記経時周波数変化量が前記閾値を超えない場合に、異常無しと判定する。
【0052】
図7に示す例では、前記閾値は、異常の有無を判定する第1閾値±Th1(例えば±0.6[%]等)に加え、異常の予兆を判定する第2閾値±Th2(例えば±0.3[%]等)も備え(基準0<|±Th2|<|±Th1|)、異常判定部26は、周波数変化量処理部25で求めた経時周波数変化量に基づく経時周波数変化率△fが前記第2閾値+Th2を上まわらない場合に(△f≦+Th2)、異常無しと判定し、前記経時周波数変化率△fが前記第2閾値-Th2を下まわらない場合に(△f≧-Th2)、異常無しと判定し、前記経時周波数変化率△fが前記第1閾値+Th1を上まわらない場合において(△f≦+Th1)、前記経時周波数変化率△fが前記第2閾値+Th2を上まわる場合に(△f>+Th2)、異常の予兆有りと判定し、前記経時周波数変化率△fが前記第1閾値-Th1を下まわらない場合において(△f≧-Th1)、前記経時周波数変化率△fが前記第2閾値-Th2を下まわる場合に(△f<-Th2)、異常の予兆有りと判定し、前記経時周波数変化率△fが前記第1閾値+Th1を上まわる場合に(△f>+Th1)、異常有りと判定し、前記経時周波数変化率△fが前記第1閾値-Th1を下まわる場合に(△f<-Th1)、異常有りと判定する。
【0053】
ここで、図7において、実線は、内輪にかかる監視ピーク周波数の経時周波数変化率Innであり、相対的に短い破線(・・・)は、外輪にかかる監視ピーク周波数の経時周波数変化率Outであり、相対的に長い破線(― ― -)は、転動体にかかる監視ピーク周波数の経時周波数変化率Rolであり、一点鎖線は、保持器にかかる監視ピーク周波数の経時周波数変化率Retである。
【0054】
警告報知部27は、異常判定部26で前記転がり軸受の異常有りと判定した場合に、警告を出力部4から出力することによって警告を外部に報知するものである。上述の例では、異常の予兆も判定するので、警告報知部27は、異常の有無を判定して異常有りと判定した場合に、異常の警告を出力部4から出力するだけでなく、予兆の有無を判定して予兆有りと判定した場合に、異常の予兆を出力部4から出力する。例えば、転がり軸受異常検出装置VDは、例えば1日や1週間等の、所定の時間間隔で、前記基準周波数に対する監視ピーク周波数の経時周波数変化量を求め、この求めた経時周波数変化量に基づく経時周波数変化率△fと第1および第2閾値±Th1、±Th2それぞれとを比較し、この比較の結果に基づき異常と判定すると、異常の警告を出力部4から出力し、前記比較の結果に基づき異常の予兆と判定すると、予兆の警告を出力部4から出力し、前記比較の結果に基づき異常無しあるいは異常の予兆無しと判定すると、異常無しあるいは予兆無しを出力部4から出力する。なお、異常無しおよび予兆無しを出力せずに、処理が終了されてもよい。前記異常の警告は、例えば、表示色(例えば赤色表示)、音声メッセージ(例えば「転がり軸受に異常があります」等)の音声出力およびテキストメッセージ(例えば「Danger」等)の表示によって行われる。前記予兆の警告は、例えば、異常の警告を表す表示色と異なる表示色(例えば黄色表示)、異常の警告を表す音声メッセージと異な音声メッセージ(例えば「転がり軸受に異常の予兆があります」等)の音声出力および異常の警告を表すテキストメッセージと異なテキストメッセージ(例えば「Warning」等)の表示によって行われる。このように前記異常の警告を出力する態様と、前記予兆の警告を出力する態様とは、互いに異なる態様で出力部4から出力される。
【0055】
これら制御処理部2、入力部3、出力部4、IF部5および記憶部6は、例えば、デスクトップ型やノート型やタブレット型等のコンピュータによって構成可能である。
【0056】
次に、本実施形態の動作について説明する。図8は、監視ピーク周波数設定モードに関する前記転がり軸受異常検出装置の動作を示すフローチャートである。図9は、異常監視モードに関する前記転がり軸受異常検出装置の動作を示すフローチャートである。
【0057】
このような構成の転がり軸受異常検出装置VDは、その電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。制御処理部2には、その制御処理プログラムの実行によって、制御部21、スペクトル処理部22、ピーク周波数検出部23、監視対象設定部24、周波数変化量処理部25、異常判定部26および警告報知部27が機能的に構成される。
【0058】
実施形態における転がり軸受異常検出装置VDは、上述したように、監視ピーク周波数を設定してから、転がり軸受けの異常の有無を判定する。このため、第1に、監視ピーク周波数設定モードにおける、監視ピーク周波数の設定に関する転がり軸受異常検出装置VDの動作について説明し、第2に、異常監視モードにおける、転がり軸受けの異常の有無を判定に関する転がり軸受異常検出装置VDの動作について説明する。
【0059】
例えばオーバーホール直後等の健全時に、図8に示す処理S1ないし処理S7の各処理が実行され、健全時におけるピーク周波数が設定用ピーク周波数や整数倍設定用ピーク周波数における経時変化の基準として記憶部6に記憶される。
【0060】
そして、例えば、前記監視ピーク周波数設定モードが指定され、その開始が入力部3に入力されると、図8に示す処理S1ないし処理S8の各処理が、監視ピーク周波数設定期間の間、経過観察期間ごとに、繰り返し実行される。
【0061】
図8において、転がり軸受異常検出装置VDは、まず、制御処理部2の制御部21によって、所定のサンプリング間隔で、所定時間の間、振動検出部1(1-1~1-3)の検出結果および前記回転計の出力を取得し、前記サンプリング間隔で時系列に連続する各検出結果および各出力を振動データおよび回転数データとして検出時刻と対応付けて記憶部6に記憶する(S1)。
【0062】
次に、転がり軸受異常検出装置VDは、制御処理部2のスペクトル処理部22によって、回転数データに基づいて振動データから回転数の変化の影響を除去(補正)して、減速機Mが所定の回転数で一定に回転している場合の振動データを求め、記憶部6に記憶する(S2)。
【0063】
次に、転がり軸受異常検出装置VDは、スペクトル処理部22によって、この求めた振動データの周波数スペクトルを求め、記憶部6に記憶する(S3)。
【0064】
次に、転がり軸受異常検出装置VDは、制御処理部2のピーク周波数検出部23によって、表1に示す、異常発生時に周波数スペクトル上にピークをもたらす理論周波数ftを求め、記憶部6に記憶する(S4)。なお、前記理論周波数ftは、予め求められ記憶部6に記憶され、これが用いられてもよい。
【0065】
次に、転がり軸受異常検出装置VDは、ピーク周波数検出部23によって、表2に示すような、設定用ピーク周波数を検出するための前記理論周波数ftを含む周波数範囲および整数倍設定用ピーク周波数を検出するための前記理論周波数ftの整数倍を含む周波数範囲を求め、記憶部6に記憶する(S5)。なお、これら各周波数範囲は、予め求められ記憶部6に記憶され、これらが用いられてもよい。
【0066】
次に、転がり軸受異常検出装置VDは、ピーク周波数検出部23によって、図3を用いて上述した処理によって、設定用ピーク周波数および整数倍設定用ピーク周波数を仮に特定し、記憶部6に記憶する(S6)。
【0067】
次に、転がり軸受異常検出装置VDは、ピーク周波数検出部23によって、図4を用いて上述した処理によって、最終的な設定用ピーク周波数を特定し、整数倍設定用ピーク周波数を特定し、記憶部6に記憶する(S7)。
【0068】
次に、転がり軸受異常検出装置VDは、制御処理部2の監視対象設定部24によって、図6を用いて上述した処理によって、監視ピーク周波数を設定し、記憶部6に記憶する(S8)。ここで、例えば、監視ピーク周波数設定期間の終了時の処理で設定された監視ピーク周波数が最終的に監視ピーク周波数として設定される。
【0069】
このような処理によって、転がり軸受を備える機械設備の実機に対し、監視ピーク周波数が設定され、カスタマイズされる。
【0070】
監視ピーク周波数の設定後、まず、オペレータ(ユーザ)によって第1および第2閾値Th1、Th2が設定され記憶され、例えば、前記異常監視モードが指定され、その開始が入力部3に入力されると、図9に示す処理S11ないし処理S14の各処理が、例えば1日8時間の稼動等ではその始動時や連続稼働(24時間稼動)では半日や1日ごとに、繰り返し実行される。
【0071】
第1および第2閾値Th1、Th2の設定では、健全時に、機械設備が一定の速度で回転され、監視ピーク周波数が求められ、第1および第2閾値±Th1、±Th2が設定されて記憶部6に記憶される。なお、上述の処理S8において、この処理S8で設定した監視ピーク周波数に対応する、上述のように、設定用ピーク周波数や整数倍設定用ピーク周波数における経時変化の基準として記憶部6に記憶された健全時におけるピーク周波数が、監視ピーク周波数f1とされてもよい。
【0072】
図9において、転がり軸受異常検出装置VDは、制御処理部2における制御部21、スペクトル処理部22およびピーク周波数検出部23によって、監視ピーク周波数を求め、制御処理部2の周波数変化量処理部25によって、経時周波数変化量を求める(S11)。より具体的には、制御部21は、第1ないし第3振動検出部1-1~1-3の各検出結果に基づき各振動データを求め、スペクトル処理部22は、各振動データの各周波数スペクトルを求め、ピーク周波数検出部23は、各周波数スペクトルから、監視ピーク周波数に対応する各ピークを探索し、周波数変化量処理部25は、これら探索した各ピークの各周波数に基づいて、例えば1倍の監視ピーク周波数から経時周波数変化量を求める。
【0073】
次に、転がり軸受異常検出装置VDは、制御処理部2の異常判定部26によって、処理S11で求めた経時周波数変化量に基づく経時周波数変化率△fが第1または第2閾値±Th1、±Th2を超えるか否かを判定する。この判定の結果、前記経時周波数変化率△fが第1または第2閾値±Th1、±Th2を超える場合(Yes、前記経時周波数変化率△fが第2閾値+Th2を上まわる場合、または、前記経時周波数変化率△fが第2閾値-Th2を下まわる場合、または、前記経時周波数変化率△fが第1閾値+Th1を上まわる場合、または、前記経時周波数変化率△fが第1閾値-Th1を下まわる場合)には、転がり軸受異常検出装置VDは、次に、処理S13を実行し、今回の本処理を終了する。一方、前記判定の結果、前記経時周波数変化率△fが第1±Th1を超えず、前記経時周波数変化率△fが第2±Th2も超えない場合(No、前記経時周波数変化率△fが第2閾値+Th2以下であって第2閾値-Th2以上である場合)には、転がり軸受異常検出装置VDは、次に、処理S14を実行し、今回の本処理を終了する。
【0074】
この処理S13では、転がり軸受異常検出装置VDは、前記経時周波数変化量が第2閾値±Th2を超え第1閾値±Th1を超えない場合(前記経時周波数変化量が第2閾値+Th2を上まわり第1閾値+Th1以下である場合、または、前記経時周波数変化量が第2閾値-Th2を下回り第1閾値-Th1以上である場合)、異常の予兆と判定し、制御処理部2の警告報知部27によって、予兆の警告を出力部4から出力して報知し、前記経時周波数変化量が第1閾値±Th2を超える場合(前記経時周波数変化量が第1閾値+Th2を上まわる場合、または、前記経時周波数変化量が第1閾値-Th1を下回る場合)、異常と判定し、制御処理部2の警告報知部27によって、異常の警告を出力部4から出力して報知する。
【0075】
前記処理S14では、転がり軸受異常検出装置VDは、警告報知部27によって、異常無しおよび予兆無し(許容範囲内)を出力部4から出力する。
【0076】
このような処理によって、転がり軸受(前記転がり軸受を備える機械設備)が監視され、その異常の予兆の有無および前記異常の有無が判定され、その判定結果が出力される。
【0077】
以上説明したように、本実施形態における転がり軸受異常検出装置VDおよびこれに実装された転がり軸受異常検出方法は、ピーク周波数に関する経時周波数変化量に基づいて転がり軸受における異常の有無を判定するので(上述の実施形態では、ピーク周波数に関する経時周波数変化量に基づく経時周波数変化率に基づいて転がり軸受における異常の有無を判定するので)、前記転がり軸受けを備える装置の構造によって様々である振動の大きさを用いないから、転がり軸受の異常を適切に検知できる。そして、異常発生時に周波数スペクトル上にピークをもたらす理論周波数は、計算式から論理的に算出可能である。上記転がり軸受異常検出装置VDおよび転がり軸受異常検出方法は、ピーク周波数を検出するための所定の周波数範囲を、この論理的に算出可能な理論周波数に基づいて設定するので、より適切に前記所定の周波数範囲を設定できる。
【0078】
上記転がり軸受異常検出装置VDおよび転がり軸受異常検出方法は、警告報知部27をさらに備えるので、転がり軸受の異常有りにかかる警告を外部に報知できる。この外部に報知された警告を認識することで、ユーザは、転がり軸受の異常有りを認識できる。
【0079】
転がり軸受には、実際には、転がり軸受の振動の他に、例えば歯車の噛合いやそのサイドバンドや軸回転の倍数成分(高調波成分)等の、様々な複数の振動が存在する。一方、転がり軸受における振動の周波数は、摩滅等により経時変化する。上記転がり軸受異常検出装置VDおよび転がり軸受異常検出方法は、設定用ピーク周波数が経時変化した場合に、前記設定用ピーク周波数を監視ピーク周波数として設定するので、適切に転がり軸受の振動を検知できる。
【0080】
上記転がり軸受異常検出装置VDおよび転がり軸受異常検出方法は、設定用ピーク周波数に対する整数倍の周波数でピークを示す1または複数の整数倍設定用ピーク周波数のうちの少なくとも1つを前記監視ピーク周波数に設定して追加するので、より適切に転がり軸受の振動を検知できる。このため、上記転がり軸受異常検出装置VDおよび転がり軸受異常検出方法は、転がり軸受における異常の有無をさらにより適切に判定できる。
【0081】
上記転がり軸受異常検出装置VDおよび転がり軸受異常検出方法は、少なくとも2個の振動検出部1で検出できるピークの周波数を監視ピーク周波数に設定するので、監視ピーク周波数のピークが低い場合でも、前記監視ピーク周波数のピークとノイズとを区別し易くなり、適切に転がり軸受の振動を検知できる。
【0082】
上記転がり軸受異常検出装置VDおよび転がり軸受異常検出方法は、互いに異なる複数の時点で、複数回、経時変化した場合に、設定用ピーク周波数を監視ピーク周波数として設定するので、一時的に経時変化した場合を除くことができるから、より適切に監視対象の監視ピーク周波数を設定できる。
【0083】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0084】
VD 転がり軸受異常検出装置
1(1-1~1-3) 振動検出部
2 制御処理部
21 制御部
22 スペクトル処理部
23 ピーク周波数検出部
24 監視対象設定部
25 周波数変化量処理部
26 異常判定部
27 警告報知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9