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特許7592603液化ガスのための貯蔵及び/又は輸送システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】液化ガスのための貯蔵及び/又は輸送システム
(51)【国際特許分類】
   F17C 3/04 20060101AFI20241125BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241125BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20241125BHJP
   B63B 25/16 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
F17C3/04 Z
C22C38/00 302A
C22C38/60
B63B25/16 103
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2021542313
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2020051481
(87)【国際公開番号】W WO2020152207
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】19305077.0
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515220317
【氏名又は名称】ギャズトランスポルト エ テクニギャズ
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ローラン ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】レイデ ピエール-ルイ
(72)【発明者】
【氏名】エスコット マリエル
【審査官】植前 津子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-507085(JP,A)
【文献】特開2016-196703(JP,A)
【文献】特表2009-521596(JP,A)
【文献】特表2015-535916(JP,A)
【文献】特開2015-206385(JP,A)
【文献】特表2018-501439(JP,A)
【文献】特開昭62-270721(JP,A)
【文献】韓国公開実用新案第20-2018-0001313(KR,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00-13/12
C22C 38/00
C22C 38/60
B63B 25/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスと接触するコンテナ(4,6,34,40,50)を備えた、液化ガスのための貯蔵及び/又は輸送システムであって、
前記コンテナは基本的に、複数の金属プレートを密閉するように溶接接合したものから構成され、
前記金属プレートのうち少なくとも1つは、
25.0重量%≦Mn≦32.0重量%、
7.0重量%≦Cr≦14.0重量%、
0≦Ni≦2.5重量%、
0.05重量%≦N≦0.30重量%、
0.1≦Si≦0.5重量%、
オプションとして0.010重量%≦希土類≦0.14重量%、
を含み、残部は鉄と、製造により生じた残留元素である鉄-マンガンベースの合金から成る
ことを特徴とする貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項2】
前記鉄-マンガンベースの合金中の前記クロムの含有率は8.5重量%~11.5重量%である、
請求項1記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項3】
前記鉄-マンガンベースの合金中の前記ニッケルの含有率は0.5重量%~2.5重量%である、
請求項1又は2記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項4】
前記鉄-マンガンベースの合金中の前記窒素の含有率は0.15重量%~0.25重量%である、
請求項1から3までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項5】
前記希土類は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、イットリウム(Y)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、イッテルビウム(Yb)から選択された1つ又は複数の元素を含む、
請求項1から4までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項6】
前記鉄-マンガンベースの合金中におけるCe及びLaから選択された希土類の累積質量割合は100ppm~200ppmである、
請求項1から5までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項7】
全ての前記残留元素の累積含有率は0.8重量%未満である、
請求項1から6までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項8】
前記貯蔵及び/又は輸送システムは密閉断熱タンクの形態で製造されたものであり、
支持構造(1,2)と、当該支持構造と前記コンテナとの間に配置された断熱バリア(3,5)と、をさらに備えており、
前記コンテナは基本的に、前記断熱バリアの内表面に固定された金属メンブレン(4,6,34)の形態で製造されたものである、
請求項1から7までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項9】
前記金属メンブレンを形成する前記金属プレート(21,40)はコルゲート状であると共に、少なくとも一方向における前記金属メンブレンの弾性伸びを促進するための少なくとも1つの平行コルゲーション列を有する、
請求項8記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項10】
前記金属メンブレンを形成する前記金属プレート(21,40)は、
第1の方向に延在する第1の平行コルゲーション列(22,42)と、
交差する第2の方向に延在する第2の平行コルゲーション列(23,43)と、
を有し、
前記第2の方向は好適には前記第1の方向に直交する、
請求項9記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項11】
前記金属メンブレンのコルゲーションは、前記金属プレートを曲げ加工又はプレス加工することにより形成される、
請求項9又は10記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項12】
コルゲート状の前記金属プレートは前記鉄-マンガンベースの合金から成ると共に、ASTM E112-10に拠る測定で6~8の粒径を有する、
請求項9から11までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項13】
コルゲート状の前記金属プレートは前記鉄-マンガンベースの合金から成ると共に、20℃での弾性限界Rp0.2は350MPa未満、好適には300~350MPaである、
請求項9から12までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項14】
前記密閉断熱タンクは少なくとも1つの平面壁を有し、
前記平面壁の前記金属メンブレン(4,6)は、当該平面壁の長手方向に引張られたメンブレンの形態で製造されたものであり、
前記金属メンブレンを形成する前記金属プレートは、前記長手方向に延在する複数のストリップ(8)の形態で製造されたものであり、その中心部は、前記断熱バリア(3,5)の内表面に設置されるために平面となっている、
請求項8記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項15】
前記ストリップ(8)の形態で製造された前記金属プレートは、平面の前記中心部より前記密閉断熱タンクの内部に向かって突出する隆起した長手方向の縁部を有し、
前記縁部は、前記長手方向に対して垂直な横方向における前記金属メンブレンの弾性伸びを促進する膨張ベローズを形成するように2つずつ溶接されている、
請求項14記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項16】
前記平面壁の前記金属メンブレンはさらに溶接サポート(9)を有し、
前記溶接サポート(9)は長手方向において、引張された当該金属メンブレンの2つのストリップ間に配置されており、
前記溶接サポート(9)は、引張された前記金属メンブレンを前記断熱バリアに保持するために前記断熱バリアに接続されており、
前記2つの各ストリップ(8)の隆起した縁部は、前記膨張ベローズのうち1つを形成するように前記溶接サポートに溶接されている、
請求項15記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項17】
2つの前記ストリップ(8)及び前記溶接サポート(9)は前記鉄-マンガンベースの合金から成る、
請求項16記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項18】
前記密閉断熱タンクは、前記平面壁の少なくとも1つの長手方向端縁に沿って、前記支持構造(1,2)に取り付けられた接続ビーム(15)を有し、
前記接続ビーム(15)には、前記長手方向において、引張された前記金属メンブレンにおける引張力を吸収するために、引張された前記金属メンブレン(4,6)の1つの縁部が溶接されており、
前記接続ビームは前記鉄-マンガンベースの合金から成る、
請求項14から17までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項19】
前記ストリップ(8)の形態で製造された前記金属プレートは前記鉄-マンガンベースの合金から成ると共に、ASTM E112-10に拠る測定で8.5~12の粒径を有する、
請求項14から18までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項20】
前記ストリップ(8)の形態で製造された前記金属プレートは前記鉄-マンガンベースの合金から成ると共に、20℃での弾性限界Rp0.2は350MPaを超え、好適には350~450MPaである、
請求項14から19までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項21】
前記コンテナは二次メンブレン(4,34)であり、前記断熱バリアは二次断熱バリアであり、
前記密閉断熱タンクは、前記二次メンブレンに設置された一次断熱バリア(5)と、前記一次断熱バリアに固定された一次メンブレン(6)と、をさらに備えており、
前記一次メンブレン(6)は好適には、コルゲート状のステンレス鋼の一次メンブレンである、
請求項8から20までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項22】
前記コンテナは一次メンブレン(6)であり、前記断熱バリアは一次断熱バリア(5)であり、
前記密閉断熱タンクは、前記一次断熱バリアと前記支持構造との間に配置された二次メンブレン(4,34)をさらに備えており、
前記二次メンブレン(4,34)は、当該二次メンブレンと前記支持構造(1,2)との間に配置された二次断熱バリアに固定されている、
請求項8から20までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項23】
二重船体(72)と、当該二重船体に組み付けられた請求項8から22までのいずれか1項に記載の貯蔵及び/又は輸送システム(71)と、を備えた浮体構造物(70)であって、
前記浮体構造物の内部船体が前記支持構造を構成する
ことを特徴とする浮体構造物(70)。
【請求項24】
液化ガス輸送船の形態、とりわけメタンタンカーの形態で製造されている、
請求項23記載の浮体構造物(70)。
【請求項25】
前記液化ガス貯蔵及び/又は輸送システム(71)は、前記浮体構造物の推進のための燃料タンクを構成する、
請求項23記載の浮体構造物(70)。
【請求項26】
請求項23から25までのいずれか1項記載の浮体構造物(70)と、
前記二重船体(72)に設置された前記密閉断熱タンク(71)を浮体式又は陸上貯蔵設備(77)に接続するように配置された断熱パイプ(73,79,76,81)と、
前記浮体式又は陸上貯蔵設備から前記密閉断熱タンク(71)へ又は前記密閉断熱タンク(71)から前記浮体式又は陸上貯蔵設備へ前記断熱パイプ内を通る液化ガスの流れを駆動するよう構成されたポンプと、
を備えていることを特徴とする積込み又は積降ろしシステム。
【請求項27】
請求項23から25までのいずれか1項記載の浮体構造物(70)の積込み又は積降ろし方法であって、
液化ガスの流れを断熱パイプ(73,79,76,81)を通って浮体式又は陸上貯蔵設備(77)から前記密閉断熱タンク(71)へ又は前記密閉断熱タンク(71)から浮体式又は陸上貯蔵設備へ送る
ことを特徴とする方法。
【請求項28】
陸上貯蔵設備の形態で製造されている、
請求項8から22までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項29】
前記コンテナは自己支持タンク(50)の形態で製造されている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項30】
前記コンテナはパイプの形態で製造されている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の貯蔵及び/又は輸送システム。
【請求項31】
液化ガスと接触し当該液化ガスを貯蔵、移送及び/又は輸送するためのコンテナ(4,6,34,40,50)を製造するための方法であって、
鉄-マンガンベースの合金から成る複数の金属プレート又はストリップを供給するステップを有し、
前記鉄-マンガンベースの合金は、
25.0重量%≦Mn≦32.0重量%、
7.0重量%≦Cr≦14.0重量%、
0≦Ni≦2.5重量%、
0.05重量%≦N≦0.30重量%、
0.1≦Si≦0.5重量%、
オプションとして0.010重量%≦希土類≦0.14重量%、
を含み、残部は鉄と、製造により生じた残留元素である鉄-マンガンベースの合金から成り、
前記方法はさらに、前記金属プレート又はストリップを密閉するようにコンテナの形態に溶接接合するステップをさらに有する
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガスの貯蔵及び輸送の分野に関し、とりわけ、液化ガス等の低温流体を貯蔵、移送又は輸送するために適した密閉金属コンテナに関する。
【0002】
本発明は特に、金属プレートを密閉するように溶接接合して作製された液化ガスの輸送、移送及び貯蔵のための密閉金属メンブレンを扱う。
【背景技術】
【0003】
密閉金属メンブレンを備えた密閉断熱タンクは特に、常圧かつ約-162℃で貯蔵されることがある液化天然ガス(LNG)を貯蔵するために用いられる。かかるタンクは、陸上構造物又は浮体構造物に設置することができる。浮体構造物の場合、タンクは液化天然ガスの輸送用タンク、又は、当該浮体構造物推進用の燃料として供される液化天然ガスを受けるためのタンクとすることができる。
【0004】
上述のような密閉金属メンブレンにおける熱に由来する応力を制限するためには、インバー(登録商標)として知られているニッケル含有率が高い合金を用いることが標準的な実務となっており、これは熱膨張係数が顕著に低いものである。しかし、ニッケルの比率が高いとその合金のコストが比較的高騰する。その上、他の合金に対する当該合金の溶接性は常に満足するものという訳ではなく、特に異種溶接の機械的強度に関して満足しないことがある。
【0005】
韓国ポスコ社から、低温専用の炭素及びマンガンも含む鉄ベース合金が販売されている。この合金は、
0.35重量%~0.55重量%
22.0重量%≦Mn≦26.0重量%
3.0重量%≦Cr≦4.0重量%
0≦Si≦0.3重量%
を含み、残部は鉄と、製造により生じた残留元素である。しかし、この合金は完全には満足するものではない。
【0006】
実際、上記の合金が熱膨張係数や常温と極低温(-196℃)とにおける衝撃強度の観点から満足するものであっても、本願の発明者は、現在のインバー(登録商標)及び304Lステンレス鋼合金より高温割れ感受性が高いことを発見した。
【0007】
さらに本願発明者は、上記の鋼の腐食感受性が高いことも観察した。ここで、耐食性が良好であることは、上述の用途、特に薄いストリップの場合、とりわけ、上記の合金から作製された部品や構造の応力下での破断又は疲労破断のリスクを抑えるために重要である。
【0008】
耐食性が良好であることは、液化ガスの貯蔵及び輸送用の部品やアセンブリにおいて特に重要である。実際には、上述のような部品やアセンブリを組み付けた液化ガス輸送用の船舶を製造する造船所や、液化ガス輸送管を嵌める場所が、通常は沿岸に位置するため、当該部品やアセンブリは比較的深刻な大気腐食を生じるおそれがある。ここで、臨界深度を超える深度まで腐食すると、特に周期的な冷却及び加熱と関連する疲労破断のリスクが上昇し、又は、上記合金から作製された部品や構造物の応力下の破断のリスクが上昇する。よって上記の合金は、上述の用途に完全に適している訳ではない。
【発明の概要】
【0009】
本発明の背景にある1つの思想は、液化ガスの貯蔵及び輸送用途において、低温においてオーステナイト相の安定化剤としてニッケルと置き換わるのに十分であり、上記用途において他の満足する特性を有する、高マンガン含有率の合金製のプレートを用いることである。
【0010】
本発明の背景にある他の1つの思想は、
-常温からの冷却に対する熱収縮が低いこと、
-低温での延性を維持するため、稼働中のオーステナイト相の安定性、
-耐食性、
-炭素鋼及びステンレス鋼との異材溶接性を含めた溶接性、
-溶接部の機械的強度、ひいては高温割れの不存在、
-低温時の衝撃強度、
-機械的疲労強度及び機械的熱サイクル強度
に関する累積要件を満たすことである。
【0011】
こうするために本発明は、液化ガスを貯蔵及び/又は輸送するためのシステムを提供し、当該システムは、液化ガスと接触するコンテナを備えており、前記コンテナは基本的に、複数の金属プレートを密閉するように溶接接合したものから構成されている。前記金属プレートのうち1つ、一部又は全部は、
25.0重量%≦Mn≦32.0重量%、
7.0重量%≦Cr≦14.0重量%、
0≦Ni≦2.5重量%、
0.05重量%≦N≦0.30重量%、
0.1≦Si≦0.5重量%、
オプションとして0.010重量%≦希土類≦0.14重量%、
を含み、残部は鉄と、製造により生じた残留元素とを含む鉄-マンガンベースの合金から成る。
【0012】
特定の実施形態では、前記合金は以下の構成のうち1つ又は複数を、単独又は任意の技術的に可能な組み合わせで具備する:
-クロム含有率は8.5重量%~11.5重量%である。
-ニッケル含有率は0.5重量%~2.5重量%ある。
-窒素含有率は0.15重量%~0.25重量%である。
-希土類は、ランタン、セリウム、イットリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム及びイッテルビウムから選択された1つ又は複数の元素を含む。
-上記の鉄-マンガン合金の-180℃~0℃における平均熱膨張係数CTEは8.5×10-6/℃以下である。
-上記の鉄-マンガンベースの合金のニール温度TNeelは40℃以上である。
-上記の鉄-マンガンベースの合金は、3mm以下の薄いストリップ厚として製造された場合、
-極低温(-196℃)での3mm厚の小さい試験片でのKCV衝撃強度が80J/cm以上、例えば100J/cm以上であること、
--196℃での弾性限界Rp0.2が700MPa以上であること、
-常温(20℃)での弾性限界Rp0.2が300MPa以上であること、
のうち少なくとも1つの構成を具備する。
-上記の鉄-マンガンベースの合金は、極低温及び常温ではオーステナイトである。
【0013】
上記の合金中の各種化学元素の機能は、大まかに以下の通りである。
【0014】
マンガンMnは、低温時に変形可能なオーステナイト相を安定化することにより延性を促進する。よってマンガンは、延性の損失を生じることなく双晶化により硬化を有利に行うことができ、これにより破断時伸びを大きくすることができる。
【0015】
クロムCrは、耐大気腐食性を保証する。クロムと窒素とを組み合わせることにより、表面パッシベーション層を得ることができる。しかしながらクロムの含有率は、不所望の相(σ相)の形成を防ぐために制限しなければならない。
【0016】
オプションとして、少量のニッケルNiを用いることにより、例えば-163℃等の低温でオーステナイト相を安定化し、これにより、冷却及び歪み硬化による遷移相の不存在を保証することもできる。
【0017】
窒素Nはオーステナイト相の安定化剤として供され、また耐食機能も有する。合金の耐孔食指数(PREN)は好適には11~15である。この指数は以下のように定義される:
PREN=[Cr]+3.3×[Mo]+16×[N]
ここで[X]は、化学元素Xの重量割合を百分率で表したものである。
【0018】
炭素Cはクロムとの親和性を有し、これにより炭化物の沈殿物を生じるおそれがあるため、少量に留めなければならない。炭素により引き起こされる硬化は、溶接性にとって好ましくないものにもなり得る。しかしながら、炭素は機械的強度を改善し、弾性限界Reを増大して降伏強さRmを増大する。
【0019】
シリコンSiは製造の結果物であり、溶接性を保つために制限しなければならない。しかしながら、シリコンは安定剤の役割を果たす。
【0020】
希土類等の金属元素、とりわけセリウムCe及びランタンLa及びイットリウムYは、合金の溶接性を顕著に改善する。
【0021】
上述の合金は高マンガンオーステナイト鋼である。これは常温及び極低温(-196℃)でオーステナイト合金である。
【0022】
「製造により生じた残留元素」とは、合金を製造するために使用される原材料中に存在する元素、又は、合金の製造に用いられる装置に由来する元素、例えば炉の耐火材料等に由来する元素をいう。かかる残留元素は、合金に対して冶金学的影響を及ぼさない。
【0023】
残留元素は特に、炭素(C)、アルミニウム(Al)、セレニウム(Se)、硫黄(S)、リン(P)、酸素(O)、コバルト(Co)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、錫(Sn)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、チタン(Ti)及び鉛(Pb)のうち1つ又は複数の元素を含む。
【0024】
全ての残留元素の累積最大含有率は0.8重量%未満、好適には0.5重量%未満である。
【0025】
上掲の各残留元素の最大含有率は、好適には以下のように選択される:
C≦0.05重量%、好適にはC≦0.035重量%。
Al≦0.02重量%、好適にはAl≦0.005重量%。
Se≦0.02重量%、好適にはSe≦0.01重量%、さらに有利にはSe≦0.005重量%。
S≦0.005重量%、好適にはS≦0.001重量%。
P≦0.04重量%、好適にはP≦0.02重量%
O≦0.005重量%、好適にはO≦0.002重量%。
Co,Cu,Moの各元素≦0.2重量%。
Sn,Nb,V,Tiの各元素≦0.02重量%。
Pb≦0.001重量%。
【0026】
とりわけセレニウム含有率を上記の範囲に制限するのは、合金中のセレニウムが過剰に存在することにより生じ得る高温割れ問題を防ぐことを目的とする。鉄-マンガンベースの合金中における化学元素Seの重量割合は、有利には10ppm未満、好適には5ppm未満である。
【0027】
鉄-マンガンベースの合金はとりわけ、
--180℃~0℃の平均熱膨張係数CTEが8.5×10-6/℃以下であり、
-ニール温度TNeelが40℃以上であり、
また、鉄-マンガンベースの合金が3mm以下の厚さの薄いストリップとして製造された場合、
-極低温(-196℃)での3mm厚の小さい試験片でのKCV衝撃強度が80J/cm以上、例えば100J/cm以上であり、
--196℃での弾性限界Rp0.2が700MPa以上であり、
-常温(20℃)での弾性限界Rp0.2が300MPa以上である。
【0028】
その結果この合金は、熱膨張、衝撃強度、及び機械的強度の特性が上述の用途での使用、特に極低温、例えば極低温流体の輸送及び貯蔵等での使用を満足するものとなる。
【0029】
鉄-マンガンベースの合金はさらに、HSO(2mol.l-1)媒質中の臨界腐食電流が厳密には230mA/cm未満であり、基準電位である標準水素電極(SHE)を基準として測定されるNaCl(0.02mol.l-1)媒質中の孔食電位がV厳密には40mV未満であることによって特徴付けられる耐食性も有する。よって、鉄-マンガンベースの合金は、インバー(登録商標)M93の耐食性以上の耐食性を有する。なお、ここでいうインバー(登録商標)M93は、上記の用途で、特に極低温で慣用されている材料である。
【0030】
鉄-マンガンベースの合金も、満足する溶接性と、特に高温割れに対する良好な耐性と、を有する。特に以下で説明するように、鉄-マンガンベースの合金の割れ長さは、バレストレイン試験で3%塑性変形の場合7mm以下である。よって、鉄-マンガンベースの合金は、従来のFe-Mn合金で観察される耐割れ性より格段に高い耐割れ性を有する。
【0031】
マンガンは、鉄-マンガンベースの合金中の含有率が32.0重量%以下である場合、-180℃~0℃で8.5×10-6/℃未満の平均熱膨張係数を達成することができる。この熱膨張係数は、想定される用途で当該合金を使用するためには十分であり、特に極低温用途において十分である。
【0032】
さらに、含有率25.0重量%以上のマンガンと、含有率14.0重量%以下のクロムとを併用することにより、常温及び極低温(-196℃)において合金の良好な寸法安定性を達成することができる。特に、当該合金のニール温度は厳密には40℃を上回り、当該合金を用いる通常の温度では、この温度に達するおそれは無い。ここで、ニール温度を超える温度で合金を用いると、常温で溶接された部品やアセンブリの膨張に大きな変動が生じるリスクが存在する。実際、上記の高マンガン鋼の膨張係数は、ニール温度以下の温度で8×10-6/℃のオーダであり、これに対してニール温度を超える温度では、膨張係数は16×10-6/℃のオーダとなる。
【0033】
クロムは、14.0重量%以下の含有量では、3mm厚の小さい試験片で極低温(-196℃)の場合に良好なKCV衝撃強度を達成することができ、特に、-196℃で50J/cm以上のKCV衝撃強度を達成することができる。これに対して、本願発明者は、クロム含有率が厳密には14.0重量%を超えると、極低温での合金の脆性が過度に大きくなるおそれが生じるとの知見を得た。
【0034】
さらに、クロムは含有率が7.0重量%以上になると、合金の良好な溶接性を達成することができる。本願発明者は、クロム含有率が厳密には7.0重量%を下回ると、溶接性が落ちる傾向にあるとの知見を得た。クロムもまた、合金の耐食性の改善に寄与する。
【0035】
クロム含有率は、好適には8.5重量%~11.5重量%である。クロム含有率がこの範囲に含まれることにより、高いニール温度と高い耐食性との間で一層良好な妥協線を見出すことができる。
【0036】
ニッケルは、含有率が2.5重量%以下である場合、-180℃~0℃で8.5×10-6/℃以下の平均熱膨張係数を達成することができる。この熱膨張係数は、想定される用途で当該合金を使用するためには十分であり、特に上述のような極低温用途において十分である。これに対して、本願発明者は、ニッケル含有率が厳密には2.5重量%を超えると熱膨張係数の劣化を生じるおそれが存在するとの知見を得た。
【0037】
ニッケル含有率は、好適には0.5重量%~2.5重量%である。実際、ニッケル含有率が0.5重量%以上になると、極低温(-196℃)での合金の衝撃強度をさらに改善することができる。
【0038】
窒素は、含有率が0.05重量%以上になると、耐食性の改善に寄与する。しかし、極低温(-196℃)において満足する衝撃強度と満足する溶接性とを確保するためには、窒素の含有率を0.30重量%に制限する。
【0039】
窒素含有率は、好適には0.15重量%~0.25重量%である。窒素含有率がこの範囲に含まれることにより、機械的特性と耐食性との間で一層良好な妥協線を達成することができる。
【0040】
シリコンは、0.1重量%~0.5重量%の含有率で合金中に含まれる場合、合金において脱酸剤として作用する。
【0041】
合金はオプションとして、0.010重量%~0.14重量%の含有率の希土類を含む。この希土類は好適には、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)及びイッテルビウム(Yb)又はこれらの元素のうち1つ若しくは複数の混合物から選択されたものである。特殊な一例では、希土類はセリウムとランタン又はイットリウムとの混合物を含み、単独で、又はセリウム若しくはランタンと混合して用いられる。
【0042】
希土類は特にランタン及び/又はイットリウムから構成され、ランタン及びイットリウムの含有率の合計は0.010重量%~0.14重量%である。
【0043】
代替的に、希土類はセリウムから構成され、セリウムの含有率は0.010重量%~0.14重量%である。
【0044】
鉄-マンガンベースの合金中、Ce及びLaから選択された1つ又は複数の金属元素の累積質量割合は、好適には100ppm~200ppmである。
【0045】
代替的に、希土類はランタンとイットリウムとネオジムとプラセオジムとの混合物から構成され、ランタンとイットリウムとネオジムとプラセオジムとの含有率の合計は0.010重量%~0.14重量%である。この場合、希土類は例えばミッシュメタルの形態で、0.010重量%~0.14重量%の含有率で添加される。ミッシュメタルは、Ce:50%、La:25%、Nd:20%及びPr:5%の比率で、セリウムとランタンネオジムとプラセオジムとを含有する。
【0046】
希土類、特にセリウムとランタン又はイットリウムとの混合物が上記の含有率で含まれることにより、高温割れに対して非常に良好な耐性を有し、これにより一層改善された溶接性を有する合金を得ることができる。
【0047】
例えば、希土類の含有率は150ppm~800ppmである。
【0048】
鉄-マンガンベースの合金は、有利には以下の構成を有する:
-0℃~-180℃の温度範囲にわたって平均熱膨張係数が9.5×10-6-1未満、好適には8.5×10-6-1であり、
-ニール温度TNeelが40℃以上であり、
-鉄-マンガンベースの合金が3mm以下の厚さの薄いストリップとして製造された場合、
--196℃での3mm厚の小さい試験片での衝撃強度が80J/cmを超え、好適には100J/cmを超え、
--196℃での弾性限界Rp0.2が700MPaを超え、
--163℃での降伏強さRmが1000MPa以上であり、
--163℃での破断時伸びが40%を超え、かつ、
-常温(20℃)での弾性限界Rp0.2が300MPa以上であること。
【0049】
鉄-マンガンベースの合金の製造は、下記にて説明するステップを含むことができる。
【0050】
例えば、鉄-マンガンベースの合金は電気アーク炉で製造され、その後取鍋で通常の手法(脱炭処理、脱酸素処理及び脱硫処理)により精製され、これは特に減圧ステップを含むことができる。代替的に、鉄-マンガンベースの合金は炉で真空下で、低残渣のd原材料から製造される。
【0051】
その後、例えば、上述のようにして製造された合金からストリップが高温又は低温で製造される。
【0052】
例えば、上述のようなストリップを高温又は低温で製造するために、以下の手法が用いられる。
【0053】
合金を例えばインゴット、再溶融電極(remelt electrode)、スラブ、とりわけ200mm未満の厚さの薄いスラブ、とりわけ連続キャスティングにより得られるスラブ、又はビレット等の半完成品の形態でキャスティングする。
【0054】
合金を再溶融電極の形態でキャスティングする場合、有利には、再溶融電極を真空下又は導電性スラグ下で再溶融することにより、より良好な純度かつより均質な半完成品を得る。
【0055】
このようにして得られた半完成品はその後、950℃~1220℃の温度で熱間圧延加工され、これにより熱間圧延加工されたストリップを得る。
【0056】
この熱間圧延加工されたストリップの厚さは、特に2mm~6.5mmである。
【0057】
一実施形態では、熱間圧延加工の前に、30分~24時間にわたって950℃~1220℃の温度で化学的均質化熱処理を行う。この化学的均質化処理は、特にスラブで、とりわけ薄いスラブで用いられる。
【0058】
熱間圧延加工されたストリップは常温まで冷却されて冷却済みストリップを形成し、その後この冷却済みストリップを巻回してスプールにする。
【0059】
その際、冷却済みストリップをオプションとして冷間圧延加工することにより、最終的な厚さを有する冷間圧延加工されたストリップを得る。この最終的な厚さは、有利には0.5mm~2mmである。冷間圧延加工は、1回の製造フロー又は複数回の連続する製造フローで行われる。
【0060】
オプションとして、冷間圧延加工された最終厚さのストリップに、700℃超の温度で10分~数時間にわたって静的炉内で再結晶熱処理を施す。代替的に、連続焼鈍炉で900℃超の温度で数秒~約1分にわたり当該炉の維持ゾーンにおいて冷間圧延加工されたストリップに再結晶熱処理を施し、-50℃~-15℃の結霜温度でN/H(30%/70%)の保護雰囲気下で処理を施す。この結霜温度により、熱処理雰囲気中に含まれる水蒸気の分圧が定まる。
【0061】
再結晶熱処理は冷間圧延加工と同じ条件下で、初期厚さ(熱間圧延加工されたストリップの厚さに相当する)と最終厚さとの間の中間厚さで行うことができる。例えば、冷間圧延加工されたストリップの最終厚さが0.7mmである場合、中間厚さは1.5mmに選択することができる。
【0062】
上述の合金の製造方法及びこの合金の熱間圧延加工及び冷間圧延加工されたストリップの製造方法は、あくまで一例である。
【0063】
ストリップの厚さは特に6.5mm以下、好適には3mm以下である。
【0064】
このようなストリップは例えば、上述の方法により製造された冷間圧延加工ストリップ、又は、上述の方法の熱間圧延加工ステップ後に得られる熱間圧延加工されたストリップである。
【0065】
冷間圧延加工は1つ又は複数のステップで実施することができ、微細構造結晶粒の粒径を調整するため、当該各ステップ後に再結晶焼鈍処理を行うことができる。冷間圧延加工ステップ時に再結晶焼鈍処理を行うことにより、弾性限界を調整して溶接性を改善することができる。
【0066】
<実施例1>
表1に示すように、特定の成分の含有率を変えて合金A,B,C及びDを作製した。表2はこれらの合金で測定した物理的特性を示す。冷却後の相は、微細構造分析により特定された。γはオーステナイト相を示し、εはマルテンサイト相を示す。-163℃での降伏強さRm、-163℃での弾性限界Rp0.2、及び-163℃での破断時伸びAは、引張試験により測定された。衝撃強度は、シャルピー試験片を用いて測定された。
【0067】
これらの測定結果により、合金C及びDは、例えば液化ガス等の極低温液体を閉じ込める用途に非常に有利な特性を有することが分かった。
【0068】
合金B,C及びDについてバレストレイン試験も行い、これにより高温割れのリスクが無いことが判明した。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
ここで機械的強度Rm、Rp0.2及びAは、全ての合金で同一の粒径で比較することにより得られたものである。これらの特性は、熱処理によって変更することができる。
【0072】
<実施例2>
表3に示す組成(重量比)で合金を作製した。
【0073】
【表3】
【0074】
このようにして得られた3.5mm厚の初期のプレートは、1mmの厚さに冷間圧延加工される。850℃で10分間の再結晶処理を行うことにより、非常に小さい粒径(4μm)が得られると共に、500MPa前後の非常に高い弾性限界を得ることができる。メンブレンの成形中に形状の効果的な反復性を実現するために、流れプラトーが高信頼性で形成される。粒径を変化させるため、再結晶焼鈍パラメータを調査した。対応する粒径Gが表4に記載されており、これはASTM E112-10規格に基づいて測定されたものである。
【0075】
【表4】
【0076】
鉄-マンガン合金製の2つの部品間の同種溶接、又は、鉄-マンガン合金とは異なる合金製の部品と鉄-マンガン合金製の部品との間の異材溶接の機械的強度を、特に304Lステンレス鋼とM93インバー(登録商標)について、引張試験により調査した。この試験は、鉄-マンガン合金として表6の例16の合金を用いて行われた。
【0077】
より具体的には、同種溶接部は、表6の例16の鉄-マンガン合金製のストリップから採取した2つの試料を突合せ溶接することにより作製される。また異材溶接部は、表6の例16の合金製のストリップから採取された試料を、M93インバー(登録商標)製のストリップから採取された試料又は304Lステンレス鋼製のストリップから採取された試料に突合せ溶接することによって作製された。
【0078】
さらに比較対照で、M93インバー(登録商標)製のストリップから採取された2つの試料を突合せ溶接接合することにより同種溶接部を作製すると共に、M93インバー(登録商標)製のストリップから採取された試料と、304Lステンレス鋼製のストリップから採取された試料とを突合せ溶接することにより異材溶接部を作製した。
【0079】
その結果を表5に示す。
【表5】
表5:引張試験の結果
【0080】
引張試験は、溶接評価試験で通常行われるように常温で行われた。
【0081】
上記試験により、鉄-マンガンベースの合金はステンレス鋼及びインバー(登録商標)に対して満足する溶接性を有することが分かった。
【0082】
<実施例3>
本願発明者はラボラトリにおいて、上記にて定義した組成を有する合金と、上記の組成とは異なる組成を有する比較用の合金のキャスティングを行った。
【0083】
これらの合金は真空下で作製された後、熱間圧延加工されて35mm幅及び4mm厚のストリップが得られた。
【0084】
その後、これらのストリップを機械加工して、高温酸化の無い表面を得た。
【0085】
試験対象となった各ストリップの合金組成を、下記の表6に示す。
【0086】
本願発明者は、欧州規格FD CEN ISO/TR 17641-3に基づき得られたストリップについて3.2%塑性変形を加えてバレストレイン試験を行い、高温割れに対するこれらストリップの耐性を評価した。本願発明者は、試験中に生じた割れの全長を測定し、ストリップを以下の3つのカテゴリに分類した:
-試験後の割れの全長が2mm以下であるストリップは、高温割れに対して優れた耐性を有するとみなした。
-試験後の割れの全長が2mm~7mmであるストリップは、高温割れに対して良好な耐性を有するとみなした。
-それに対して、割れの全長が厳密には7mmを超えるストリップは、高温割れに対して耐性が不十分であるとみなした。
【0087】
上記試験の結果は、下記の表の「バレストレイン試験」の欄に示されている。同欄において、
「1」は、ストリップが高温割れに対して優れた耐性を有することを示し、
「2」は、ストリップが高温割れに対して良好な耐性を有することを示し、
「3」は、ストリップの高温割れに対する耐性が不十分であることを示す。
【0088】
高温割れに対する耐性は合金の溶接性の重要な一観点であり、耐割れ性が高いほど溶接性が良好になる。
【0089】
本願発明者はまた、ポテンショメータ試験を行うことにより耐食性試験も行った。この耐食性試験のために、本願発明者は以下の試験を行った:
-HSO(2mol.l-1)媒質中の臨界腐食電流Jsteel Mnを測定し、この電流と、インバー(登録商標)M93製のストリップにおいて測定された電流(JInvar M93~230mA/cm)とを比較することにより、全域的な腐食を評価し、
-NaCl(0.02mol.l-1)媒質中の孔食電位Vを測定し、この電位Vと、インバー(登録商標)M93の電位(VInvar M93/ESHE~40mV)とを比較することにより、局所的な腐食を評価した。ここでESHEは、標準水素電極に係る参照電位である。
【0090】
インバー(登録商標)M93は、以下の組成を有する:
35重量%≦N≦36.5重量%
0.2重量%≦Mn≦0.4重量%
0.02重量%≦C≦0.04重量%
0.15重量%≦Si≦0.25重量%
オプションとして、
0≦Co≦20重量%
0≦Ti≦0.5重量%
0.01重量%≦Cr≦0.5%
残部は鉄と、製造により生じた残留元素である。
【0091】
steel Mn<JInvar M93、かつVsteel Mn/ESHE>VInvar M93/ESHEである場合、試験対象の鋼の耐食性はインバーM93より高いと判断される。
【0092】
steel Mn>JInvar M93、又はVsteel Mn/ESHE<VInvar M93/ESHEである場合、試験対象の鋼の耐食性はインバーM93より低いと判断される。
【0093】
上述の試験の結果は、下記の表6の「耐食性」の欄に示されている。同欄において、
-「>インバー」は、Jsteel Mn<JInvar M93かつVsteel Mn/ESHE>VInvar M93/ESHEであるストリップに対応し、
-「<インバー」は、Jsteel Mn>JInvar M93又はVsteel Mn/ESHE<VInvar M93/ESHEであるストリップに対応し、
-「~インバー」は、Jsteel Mn≒JInvar M93又はVsteel Mn/ESHE≒VInvar M93/ESHEであるストリップに対応する。
【0094】
本願発明者はまた、NF EN ISO 148-1規格に従って、小さい試験サンプル(厚さ~3.5mm)について-196℃で衝撃強度試験を行い、ストリップの衝撃切断エネルギー(KCV)を測定した。その切断エネルギーは、J/cmで表される。これは、ストリップの衝撃強度を反映するものである。上記試験の結果は、下記の表における「-196℃でのKCV」の欄に示されている。
【0095】
本願発明者はまた、以下の膨張率試験も行った:
-合金の平均熱膨張係数を求めるための-180℃~0℃の膨張率試験、
-合金のニール温度TNeelを求めるための20℃~500℃の膨張率試験。
ニール温度は、それを超えると反強磁性材料が常磁性になる温度である。
【0096】
平均熱膨張係数はより具体的には、0℃において長さが50mmである試験サンプルの-180℃~0℃におけるμm単位での長さの変動を測定することにより求められる。その後、平均熱膨張係数は以下の式を適用することにより得られる:
【数1】
ここで、L-Lは0℃~-180℃におけるμm単位での長さの変動を表し、Lは0℃における試験サンプルの長さを表し、T=0℃であり、T=-180℃である。
【0097】
ニール温度は、L(T)を測定して傾きdL/dTを算出することにより求められる。ここで、Lは温度Tにおけるサンプルの長さである。ニール温度は、温度の曲線の傾きが変化する温度である。
【0098】
上記の各試験の結果は、下記の表の「CTE[-180℃~0℃]」及び「TNeel」の欄にそれぞれ示されている。
【0099】
最後に、本願出願人は-196℃で機械的平面引張試験を行い、-196℃で0.2%伸びにおける弾性限界Rp0.2を測定した。その試験の結果は、下記の表における「-196℃でのRp0.2」の欄にまとめられている。
【表6】
表6:合金の組成及び試験の結果
【0100】
上記の表6において「n.d.」は、その値が測定されなかったことを意味する。
【0101】
さらに、本発明に係る試験には下線を付している。
【0102】
同表中、
-元素C,Al,Se,S,P,Oについて「min」は、
C<0.05重量%、
Al<0.02重量%、
Se<0.001重量%、
S<0.005重量%、
P<0.04重量%、
O<0.002重量%
を意味し、
-「その他」と記載されている元素にはCo,Cu,Mo,Sn,Nb,V,Ti及びPbが含まれ、同欄において「min」は、
-Co,Cu,Mo<0.2重量%、
-Sn,Nb,V,Ti<0.02重量%、及び
-Pb<0.001重量%
を意味する。
【0103】
窒素について「min」は、N<0.03重量%を意味する。この含有量では、窒素は残留元素とみなされる。
【0104】
Ce,La及びYの希土類については、「min」は、合金中に含まれるこれらの元素が最大でもトレース量であること、好適にはこれらの各元素の含有率が1ppm以下であることを意味する。
【0105】
番号6,8,10,12,15~17,19及び20が付された試験は、本発明に係るものである。
【0106】
上記試験により作製されたストリップは、高温割れに対して良好あるいは優れた耐性を有し(バレストレイン試験欄を参照のこと)、ひいては良好な溶接性を有することが分かった。
【0107】
さらに、これらのストリップの耐食性はインバーM93の耐食性以上であり、-180℃~0℃における平均熱膨張係数CTEは8.5×10-6/℃以下であり、ニール温度は40℃以上であり、-196℃における衝撃強度KCVは80J/cm以上であり、-196℃における弾性限界Rp0.2は700MPa以上である。
【0108】
よって、鉄-マンガンベースの合金製のストリップは、温度変動の際、特に極低温において、高い寸法安定性が必要とされる用途で使用される場合に、熱膨張、衝撃強度及び機械的強度に関して満足する特性を有する。
【0109】
番号1~5の試験の合金は、クロム含有率が厳密には7.0重量%未満である。これらに対応するストリップは、高温割れに対する耐性が不足するため、あまり満足する溶接性を有しないことが分かった。さらに試験1及び3では、高温割れに対するこのような低い耐性は、炭素を添加しても、比較的高い含有率で添加したとしても、補償されないという結果になった。
【0110】
試験11の合金は、クロム含有率が厳密には14.0重量%を超えるものである。これに対応するストリップは極低温における脆性が高く、これにより衝撃強度KCVが厳密には50J/cmを下回ることが分かった。また、当該合金のニール温度は厳密には40℃を下回ることも分かった。
【0111】
番号13の試験の合金は、ニッケル含有率が厳密には2.5重量%を超える。これに対応するストリップは、-180℃~0℃における平均熱膨張係数CTEが厳密には8.5×10-6/℃を超えることが分かった。
【0112】
試験7と試験8とを比較すると、他の全ての項目を等しくして窒素含有率を増加させることにより、耐食性を改善できることが分かった。さらに、番号9の試験の合金は窒素含有率が厳密には0.30重量%を超えるものであるが、その溶接性と-196℃における衝撃強度KCVは悪くなっていることが分かった。
【0113】
また、試験14と試験15とを比較すると、マンガン含有率を減少させて全ての他の項目を等しくすることにより、ニール温度が低下することが分かった。
【0114】
また、試験14,17,19及び20のストリップは、希土類の比率が0.010重量%~0.14重量%であるが、その耐高温割れ性は優れており、割れ長さが2mm未満であることが分かった。それに対して、試験18及び21のストリップは希土類含有率が厳密には0.14重量%であるが、これらのストリップの溶接性は悪くなっていることが分かった。
【0115】
鉄-マンガンベースの合金は有利には、特に極低温分野又は電子分野等、良好な耐食性及び良好な溶接性と共に良好な寸法安定性が望まれるあらゆる用途において使用することができる。
【0116】
これらの特性を兼ね備えた上記構成の合金は有利には、極低温用の溶接されたアセンブリを製造するため、特に液化ガスを輸送又は貯蔵するためのタンク又は管を製造するために使用することができる。
【0117】
上記のように選択されたFe-Mn合金は液化ガス貯蔵及び輸送用、特に「メンブレン」としても知られている例えば厚さ3mm以下、好適には2mm以下又は1mm以下の比較的薄い閉じ込めシステムを製造するために、特に適している。
【0118】
これに対応する一実施形態では、貯蔵及び/又は輸送システムは、密閉断熱タンクの形態で製造されたものであり、支持構造と、当該支持構造と前記コンテナとの間に配置された断熱バリアと、をさらに備えている。このようなタンクでは、コンテナは基本的に、前記断熱バリアの内表面に固定された金属メンブレンの形態で製造されたものである。
【0119】
上記の閉じ込めシステムの一実施形態では、前記金属メンブレンを形成する金属プレートはコルゲート状であると共に、少なくとも一方向における前記金属メンブレンの弾性伸びを促進するための少なくとも1つの平行コルゲーション列を有する。かかるコルゲーションは、金属メンブレンの内表面又は外表面で突出することができる。
【0120】
上述のコルゲーションは種々の形状に製造することができる。一実施形態では、第1の平行コルゲーション列が第1の方向に延在すると共に、交差する第2の方向に第2の平行コルゲーション列が交差し、前記第2の方向は好適には前記第1の方向に直交する。複数の実施形態では、これら2つのコルゲーション列のコルゲーションは交差することができ、又は交差しないことが可能である。
【0121】
前記金属メンブレンのコルゲーションは、特に前記金属プレートを曲げ加工又はプレス加工することにより形成することができる。曲げ加工処理では特に、金属プレートを有意に伸ばすことなく金属プレートの1つの縁部から他の縁部まで延在するコルゲーションを形成することができ、これにより機械的な耐疲労性を維持することができる。金属プレートを組み付ける際には、タンク壁の一部又は全部にわたって延在する連続した流路を金属メンブレンの内表面又は外表面に形成するように、上記のコルゲーションを並べて配置することができる。このような連続した流路は、タンク壁内に中性ガスを循環させるために用いることができる。プレス加工処理では特に、金属プレートの1つの縁部から他の縁部までは延在しない比較的短いコルゲーションを形成することができ、これによって、長い流路の形成が制限又は阻止される。
【0122】
一実施形態では、コルゲート状の金属プレートは前記鉄-マンガンベースの合金から成ると共に、ASTM E112-10に拠る測定で6~8の粒径を有する。これは、比較的大きな粒径を指定する標準化された粒径であり、弾性限界に影響を及ぼす。よって例えば、鉄-マンガンベースの合金製のコルゲート状の金属プレートの20℃での弾性限界Rp0.2は350MPa未満であり、好適には300~350MPaである。このような弾性限界は、合金の成形性に有利である。
【0123】
閉じ込めシステムの一実施形態では、前記密閉断熱タンクは少なくとも1つの平面壁を有し、前記平面壁の前記金属メンブレンは、当該平面壁の長手方向に引張られたメンブレンの形態で製造されたものであり、前記金属メンブレンを形成する前記金属プレートは、前記長手方向に延在する複数のストリップの形態で製造されたものであり、その中心部は、前記断熱バリアの内表面に設置されるために平面となっている。
【0124】
その際には、前記ストリップの形態で製造された前記金属プレートは、平面の前記中心部より前記密閉断熱タンクの内部に向かって突出する隆起した長手方向の縁部を有することができ、前記縁部は、前記長手方向に対して垂直な横方向における前記金属メンブレンの弾性伸びを促進する膨張ベローズを形成するように2つずつ溶接されている。
【0125】
その際に好適なのは、前記平面壁の前記金属メンブレンがさらに溶接サポートを有し、前記溶接サポートが長手方向において、引張された当該金属メンブレンの2つのストリップ間に配置されており、前記溶接サポートが、引張された前記金属メンブレンを前記断熱バリアに保持するために前記断熱バリアに接続されており、前記2つの各ストリップの隆起した縁部が、前記膨張ベローズのうち1つを形成するように前記溶接サポートに溶接されていることである。
【0126】
一実施形態では、前記密閉断熱タンクは、前記平面壁の少なくとも1つの長手方向端縁に沿って、前記支持構造に取り付けられた接続ビームを有し、前記接続ビームには、前記長手方向において、引張された前記メンブレンにおける引張力を吸収するために、引張された前記メンブレンの1つの縁部が溶接されている。前記接続ビームは有利には、前記鉄-マンガンベースの合金から成る。接続ビームはインバー(登録商標)から成ることもできる。
【0127】
一実施形態では、2つの前記ストリップ及び前記溶接サポートは前記鉄-マンガンベースの合金から成る。溶接サポートは他の金属、例えばステンレス鋼又はインバー(登録商標)で製造することもできる。
【0128】
一実施形態では、前記ストリップの形態で製造された前記金属プレートは前記鉄-マンガンベースの合金から成ると共に、ASTM E112-10に拠る測定で8.5~12の粒径を有する。比較的小径の結晶粒を定める上述の標準化された粒径は、弾性限界に影響を及ぼす。例えば、ストリップの形態で製造された金属プレートは鉄-マンガンベースの合金から成ると共に、20℃における弾性限界Rp0.2は350MPa超、好適には350~450MPaである。その際に好適なのは、-163℃における弾性限界が750~950MPaであることである。
【0129】
上述のような密閉断熱タンクは種々の態様で製造することができ、例えば1つの密閉バリアを有するように、又は複数の連続した密閉バリアを有するように製造することができる。複数のバリアを有するタンクでは、鉄-マンガンベースの合金は二次バリアメンブレン及び/又は一次メンブレンに用いることができる。ここで留意すべき点は、二次メンブレンとは一次メンブレンの周囲に配置される密閉メンブレンをいい、一次メンブレンの疲労又は破断が生じた場合に液化ガスを封じ込めることを意図したものであることである。
【0130】
対応する一実施形態では、前記コンテナは二次メンブレンであり、前記断熱バリアは二次断熱バリアであり、前記密閉断熱タンクは、前記二次メンブレンに設置された一次断熱バリアと、前記一次断熱バリアに固定された一次メンブレンと、をさらに備えており、前記一次メンブレンは好適には、コルゲート状のステンレス鋼のメンブレン、例えば304Lステンレス鋼のコルゲート状のメンブレンである。
【0131】
他の一実施形態では、前記コンテナは一次メンブレンであり、前記断熱バリアは一次断熱バリアであり、前記密閉断熱タンクは、前記一次断熱バリアと前記支持構造との間に配置された二次メンブレンをさらに備えており、前記二次メンブレンは、当該二次メンブレンと前記支持構造との間に配置された二次断熱バリアに固定されている。
【0132】
上述のような密閉断熱タンクは、例えばLNGを貯蔵するため等の陸上貯蔵設備、又は沿岸用若しくは深海用の浮体構造物に設置される貯蔵設備、とりわけメタンタンカー船、浮体式貯蔵再ガス化設備(FSRU)、浮体式生産貯蔵積出施設(FPSO)等、の一部を構成することができる。上述のようなタンクは種々の幾何学的形態をとることができ、例えば角柱形、円柱形、球形等とすることができる。
【0133】
一実施形態では本発明は、二重船体を備えた浮体構造物も提供し、上記の貯蔵及び/又は輸送システムは前記二重船体に組み付けることができる。その際には、前記浮体構造物の内部船体が前記支持構造を構成する。
【0134】
例えば、浮体構造物は特にメタンタンカー等の液化ガス輸送船の形態をとる。
【0135】
一実施形態では、液化ガス用の前記貯蔵及び/又は輸送システムは、前記浮体構造物の推進のための燃料タンクを構成する。
【0136】
一実施形態では本発明は、上述の浮体構造物と、前記二重船体に設置された前記密閉断熱タンクを浮体式又は陸上貯蔵設備に接続するように構成された断熱パイプと、前記浮体式又は陸上貯蔵設備から前記密閉断熱タンクへ又は前記密閉断熱タンクから前記浮体式又は陸上貯蔵設備へ前記断熱パイプ内を通る液化ガスの流れを駆動するよう構成されたポンプと、を備えた積込み又は積降ろしシステムも提供する。
【0137】
一実施形態では本発明はさらに、上述の浮体構造物の積込み又は積降ろし方法であって、液化ガスの流れを断熱パイプを通って浮体式又は陸上貯蔵設備から前記密閉断熱タンクへ又は前記密閉断熱タンクから浮体式又は陸上貯蔵設備へ送る方法も提供する。
【0138】
他の一実施形態では、液化ガス用の貯蔵及び/又は輸送システムは陸上貯蔵システムの形態をとる。コンテナは、自己支持タンク又はパイプの形態で製造することもできる。かかる自己支持タンクは種々の幾何学的形態を有することができ、例えば角柱形、円柱形、球形等とすることができる。
【0139】
本発明はまた、液化ガスと接触し当該液化ガスを貯蔵、移送及び/又は輸送するためのコンテナを製造するための方法も提供し、当該方法は、
上述の鉄-マンガンベースの合金から成る複数の金属ストリップ又はプレートを供給するステップと、
前記金属ストリップ又はプレートを密閉するようにコンテナの形態に溶接接合するステップと、
を有する。
【0140】
「液化ガス」とは、常温常圧の条件下では蒸気状態である物質を冷却して液相にしたものをいう。上述のようなシステムに貯蔵できる各種液化ガスは、例えばLNG、LPG、エチレン等である。
【0141】
本発明の複数の具体的な実施形態の添付図面を参照する以下の説明を読めば、本発明をより良好に理解することができると共に、本発明の奥的、詳細、構成及び利点がより分かりやすくなる。当該図面の実施形態はあくまで例示であり、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0142】
図1】第1の実施形態のメンブレンタンク壁を抜粋した斜視図である。
図2】第2の実施形態のメンブレンタンク壁を抜粋した斜視図である。
図3】第3の実施形態のメンブレンタンク壁を抜粋した斜視図である。
図4】プレス加工されたプレートから構成されたコルゲート状の密閉メンブレンの概略的な斜視図である。
図5】船舶の船体に設けられた自己支持タンクの概略的な断面図である。
図6】メタンタンカー船タンクと、当該タンクの積込み/積降ろしを行うためのターミナルとを抜粋した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0143】
図1は、角柱形のタンクの密閉断熱壁のうち、底壁と横壁との間のコーナ部の位置における部分を抜粋した概略的な斜視図である。同図では、タンクの支持構造は二重船体船の内部船体により構成され、そのうち底壁1と、船の内部船体内の区画を画定する横方向仕切壁2と、が示されている。支持構造の各壁にはタンクの各対応する壁が、二次断熱層3と、二次密閉メンブレン4と、一次断熱層5と、一次密閉メンブレン6と、を順次重ねていくことにより作製されている。
【0144】
2つの壁間のコーナ部の位置では、当該2つの壁の二次密閉メンブレン4及び当該2つの壁の一次密閉メンブレン6が正方形断面のビームの形態の接続リング15によって接続されている。この接続リング15は、海上の船体の熱収縮や変形及び貨物の運動に起因して密閉メンブレンに生じた引張力を吸収できるようにするものである。仏国特許出願公開第2549575号明細書に、接続リング15の1つの可能な構造が詳細に記載されている。
【0145】
ここでは、二次密閉メンブレン4及び一次密閉メンブレン6は引張されたメンブレンである。これら各メンブレンは、隆起した縁部を有する複数の平行なストレーキ8の列によって構成され、これらは長片の溶接サポート9と共に交互に配置されている。溶接サポート9はそれぞれその下の断熱層によって固定され、例えば、断熱材料が充填された箱のカバープレートに形成された溝7に入れられることにより固定される。このような交互の構造は壁の表面全部にわたって形成され、これにより、非常に大きい長さを必要とし得る。かかる大きい長さにわたって、ストレーキの隆起した縁部と、当該隆起した縁部間に介在する溶接サポートと、の間の密閉溶接部は、壁に平行な矩形の溶接ビードの形態で形成することができる。
【0146】
上記のFe-Mn合金を用いて、インバー(登録商標)より低コストでストレーキ8を作製することができる。ストレーキ8の厚さは例えば0.5~1.5mm、好適には約0.7mmである。
【0147】
上記のFe-Mn合金を用いて、インバー(登録商標)より低コストで溶接サポート9を作製することもできる。溶接サポート9の厚さは例えば0.5~1.5mmである。
【0148】
最後に、上記のFe-Mn合金を用いて、インバー(登録商標)より低コストで接続リング15を作製することもできる。接続リング15を構成するプレートの厚さは、例えば0.5~1.5mmである。Fe-Mn合金製のストレーキ8は、インバー(登録商標)製の接続リング15に溶接することも可能であり、これら2つの金属の溶接性は良好である。
【0149】
隆起した縁部を有し長片の溶接サポート9と共に交互に配置された平行なストレーキ8は、自動誘導溶接機を用いて溶接することができる。その溶接部の作製についての詳細は、国際公開第2012/072906号に記載されている。
【0150】
図2の実施形態では、図1の実施形態の構成要素と同一又は類似する構成要素には、同一の符号を付している。
【0151】
二次メンブレン4は同図でも図1と同様に引張されたメンブレンであるのに対し、一次メンブレン6は図2では、オーバーラップゾーン20の位置で重ね溶接(soudees a clin)された矩形プレート21から成るコルゲート状のメンブレンである。上述の矩形プレートは等間隔のコルゲーション22及び23の2つの列を有し、これらのコルゲーション列は、矩形プレートの縁部に対して平行な2つの直交する方向に延在する。コルゲーション22及び23は交差部24を有する。
【0152】
上記のFe-Mn合金を用いて、上記にて示した二次メンブレン4の全部又は一部を作製することができる。かかる場合、第1の実施形態では、一次メンブレン6の矩形プレート21は304Lステンレス鋼から成る。
【0153】
第2の実施形態では、上記のFe-Mn合金を用いて矩形プレート21を作製することもできる。プレート21の厚さは例えば0.5~1.5mm、好適には約1.2mmである。コルゲーション22及び23は、曲げ加工により形成することができる。
【0154】
ステンレス鋼に対する上記のFe-Mn合金の溶接性は良好であるため、ステンレス鋼を用いて部品を作製し、この部品にFe-Mn合金一次メンブレン6を局所的に溶接接合することができる。この部品は特に、一次断熱バリア5に固定されるアンカーストリップ28等であり、アンカーストリップ28は図2では省略され、図3に示されている。
【0155】
引張されたメンブレンとコルゲート状のメンブレンとではその働きが異なり、必要とする機械的特性も異なる。引張されたメンブレンでは熱収縮の効果は、長手方向に高い静的引張応力を生成することである。さらに、長手方向にプレートの実質的な運動が生じないようにすることができる。よって、ストレーキ8の弾性限界を非常に高くすることが望ましい。こうするためには、比較的小さい粒径、例えば8~12.5のGが好適である。
【0156】
コルゲート状のメンブレンでは、熱的負荷又は他の負荷に応答して、コルゲーションの変形や、メンブレンのコルゲーション間に位置するプレート部分の運動が生じる。よって、プレート21の弾性限界はそれほど高くする必要がない。本適用例では比較的高い粒径、例えば6~8のGが好適である。
【0157】
図3の実施形態では、図2の実施形態の構成要素と類似又は同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0158】
同図では、一次メンブレン6は矩形プレート21から構成されたコルゲート状のメンブレンであり、そのコルゲーションはタンクの内部に向かって突出している。
【0159】
二次メンブレン34は他のコルゲート状の金属メンブレンであり、この二次メンブレン34も、オーバーラップゾーンの位置において重ね溶接された矩形プレートにより構成されている。そのコルゲーション35はタンクの外部に向かって突出しており、二次断熱バリア3の内表面に形成された溝に収容されている。二次断熱バリア3の内表面に固定されたロッド36が二次メンブレン34を貫通しており、このロッド36は、一次断熱バリア5を構成する断熱パネルを固定するために用いられる。
【0160】
上記のFe-Mn合金を用いて、二次メンブレン34及び/又はコルゲート状の一次メンブレン6の全部又は一部を作製することができる。
【0161】
コルゲート状の矩形プレートは、可動の溶接トーチを含め、例えば欧州特許出願公開第0611217号明細書に記載されているような自動機械を用いて溶接することができる。
【0162】
図2及び図3のコルゲート状のメンブレン6及び34は、プレートの1つの側から他の側へ延在する連続したコルゲーションを有する。コルゲーションは他の幾何学的形態で形成することができる。
【0163】
図1~3に示されている支持構造に含まれるメンブレンタンクでは、上記の密閉メンブレンが、基本的に一次メンブレンにより構成された一次コンテナと、基本的に二次メンブレンにより構成された二次コンテナの2つの密閉コンテナを構成し、これら2つの密閉コンテナは互いに入れ子になっており、液化ガスを閉じ込める。しかし、一次コンテナ及び/又は二次コンテナの一部を他の部品によって、場合によってはメンブレン自体を構成するプレートより厚い部品によって作製することができる。かかる部品は例えば、公知の技術でタンクの2つの壁間の縁部の位置に配置され、例えば、上記の正方形断面ビームのように、縁部表面に隣接する2つの壁のメンブレンが接続されるコーナ部品の形態で設けられる。
【0164】
例として図4は、上記のFe-Mn合金で作製できる金属メンブレン40を示しており、これは、矩形プレートをオーバーラップゾーン41の位置で重ね溶接したものにより構成され、プレス加工されたコルゲーション42及び43を有する。プレス加工されたコルゲーション42及び43は、互いに距離を置いて途切れており、これにより交差部を有しない。金属メンブレン40は、唯一のメンブレン及び/又は一次メンブレン及び/又は二次メンブレンとして用いることができる。
【0165】
図5には自己支持タンク50の一部断面が示されており、この自己支持タンク50は上記のFe-Mn合金から作製することができる。自己支持タンク50は、例えば5~20mm等の厚さの比較的厚いプレートを互いに溶接接合したものから成り、横方向補強材52と長手方向補強材53である補強材と共に、例えば多面体形状等の密閉エンベロープ51を構成する。図示されている例では、自己支持タンク50は船舶の船体55内にある。これは、船体55の底壁上に支持部54によって支持されている。好適には、自己支持タンク50と船体55との間のスペース56に、図示されていない断熱部が挿入される。図中では断面図で示されている自己支持タンク50の三次元幾何学的形態は角柱形とすることができる。
【0166】
上記にて記載したタンクは、例えば陸上設備又はメタンタンカー船等の浮体構造物等の種々の種類の貯蔵設備で用いることができる。
【0167】
図6を参照すると、メタンタンカー船70の一部が、当該船の二重船体72に取り付けられた全体形状が角柱形の密閉断熱タンク71を示している。タンク71の壁は、当該タンクに入れられたLNGと接触する一次密閉バリアと、当該一次密閉バリアと船の二重船体72との間に配置された二次密閉バリアと、2つの断熱バリアと、を有し、前記2つの断熱バリアはそれぞれ、一次密閉バリアと二次密閉バリアとの間、及び二次密閉バリアと二重船体72との間に配置されている。
【0168】
自明の態様で、船の上甲板に配置された積込み/積降ろしパイプ73を適切な接続部を用いて海上又は港湾ターミナルに接続することができ、これによりLNGの貨物をタンク71から又はタンク71へ移送することができる。
【0169】
図6は海上ターミナルの一例を示しており、海上ターミナルは積込み積降ろしステーション75と、海中パイプ76と、陸上設備77と、を備えている。積込み積降ろしステーション75は沖合の据置設備であり、可動アーム74と、当該可動アーム74を支持するタワー78と、を備えている。可動アーム74は断熱可撓性の管束79を保持し、この管束79は積込み/積降ろしパイプ73に接続できるものである。方向調整可能な可動アーム74は、あらゆるメタンタンカーサイズに(a tous les gabarits de metaniers)対応する。タワー78内部には、図示されていない接続パイプが延在している。積込み積降ろしステーション75は、陸上設備77からメタンタンカー70への積込み及びメタンタンカー70から陸上設備77への積降ろしを行うためのものである。陸上設備77は液化ガスタンク80と、海中パイプ76を介して積込み又は積降ろしステーション75に接続されている接続パイプ81と、を備えている。海中パイプ76は積込み又は積降ろしステーション75と陸上設備77との間において液化ガスを、例えば5km等の長距離にわたり移送するためのものであり、これによりメタンタンカー船70を積込み作業や積降ろし作業中に沿岸から長距離に離した状態に維持することができる。
【0170】
船舶70に搭載されたポンプ及び/又は陸上設備77に設置されたポンプ及び/又は積込み積降ろしステーション75に設置されたポンプを用いて、液化ガスを移送するために必要な圧力を発生する。
【0171】
複数の特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は決してこれらの実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲に属する上記の手段の全ての技術的な均等態様及び組み合わせを含むことが明らかである。
【0172】
動詞「含む」又は「備える」及びその活用形を用いることは、請求項に記載の構成要素又はステップ以外の構成要素又はステップの存在を除外するものではない。
【0173】
請求項における括弧書きのいかなる符号も、当該請求項の限定と解釈すべきものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6