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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】免疫刺激組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/64 20060101AFI20241125BHJP
   C12N 15/57 20060101ALI20241125BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241125BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20241125BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241125BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20241125BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20241125BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241125BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20241125BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241125BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241125BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
C12N9/64 Z
C12N15/57 ZNA
C12N15/12
A61P37/04
A61K48/00
A61K31/7088
A61K38/48
A61P35/00
A61P31/00
A61P43/00 121
A61K39/395 T
A61K38/19
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021560403
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 NL2020050225
(87)【国際公開番号】W WO2020204714
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】19166877.1
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521441663
【氏名又は名称】イミュネチューン・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イェルン・ファン・ベルヘン
(72)【発明者】
【氏名】ヘルベン・カロルス・マルティヌス・ゾンターク
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-500049(JP,A)
【文献】特表2003-528156(JP,A)
【文献】Nature Biotechnology,2001年,Vol.19, No.6,pp.543-547
【文献】Cancer Research,2003年,Vol.63, No.12,pp.3257-3262
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C12P 1/00-41/00
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
換されたp10及びp20ドメインを含む、構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1であって、G403(配列番号52)に対応するグリシンが、C136(配列番号52)に対応するシステインから0~10アミノ酸残基の距離に位置する、構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1
【請求項2】
ヒトカスパーゼである、請求項1に記載の構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1。
【請求項3】
交換されたp10及びp20ドメインはプロテアーゼ切断可能部位によって連結されている、請求項1又は2に記載の構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1。
【請求項4】
カスパーゼ動員ドメイン(CARD)を欠如している、請求項1から3のいずれか一項に記載の構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1
【請求項5】
p20-p10ドメイン間リンカー(IDL)を欠如している、請求項1から4のいずれか一項に記載の構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1
【請求項6】
構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1の配列は配列番号49又は配列番号50に対応する、請求項1から5のいずれか一項に記載の構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に規定される構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1をコードする発現構築物。
【請求項8】
個体における免疫応答を刺激する方法における使用のための組成物であって、請求項1から6のいずれか一項に記載の構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1又は請求項7に記載の発現構築物を含み、前記方法は、前記構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1を前記個体に投与することを含む、組成物
【請求項9】
前記免疫応答が、前記個体に存在する腫瘍又は感染症を対象としている、請求項8に記載の組成物
【請求項10】
前記カスパーゼが、前記個体の腫瘍に投与される、請求項8又は9に記載の組成物
【請求項11】
前記カスパーゼが、ワクチンのアジュバントとして全身的に投与される、請求項8から10のいずれか一項に記載の組成物
【請求項12】
前記カスパーゼが、免疫チェックポイント阻害剤及び/又はサイトカイン若しくはケモカイン等の更なる免疫刺激分子等の1つ又は複数のアクセサリー分子と組み合わせて投与される、請求項8から11のいずれか一項に記載の組成物
【請求項13】
前記アクセサリー分子がTable 3(表3)から選択される、請求項12に記載の組成物
【請求項14】
前記アクセサリー分子がIL-12及び/又はCSF2から選択される、請求項12又は13に記載の組成物
【請求項15】
請求項1から6のいずれか一項に記載の構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1又は請求項7に記載の発現構築物及び薬理学的に許容される賦形剤を含む、免疫刺激組成物。
【請求項16】
少なくとも1つの抗原又は抗原をコードする核酸分子を更に含む、請求項15に記載の免疫刺激組成物。
【請求項17】
免疫チェックポイント阻害剤及び/又はサイトカイン若しくはケモカイン等の更なる免疫刺激分子等のアクセサリー免疫刺激分子を更に含む、請求項15又は16に記載の免疫刺激組成物。
【請求項18】
腫瘍又は感染症に罹患している個体を治療する方法で使用するための、請求項15から17のいずれか一項に記載の免疫刺激組成物。
【請求項19】
個体における免疫応答を刺激するための医薬の製造における、請求項1から6のいずれか一項に記載の構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1又は請求項7に記載の発現構築物の使用
【請求項20】
個体における免疫応答の刺激において使用するための請求項15から17のいずれか一項に記載の組成物であって、前記免疫応答の刺激は、請求項15から17のいずれか一項に記載の組成物を提供する工程、及び前記組成物を前記個体に投与する工程を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的に、交換されたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ等のピロトーシス細胞死の誘導因子を含む、免疫刺激性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1.導入
がん及び病原体に対する効果的な免疫応答には、悪性に形質転換した、又は感染した細胞によって選択的に発現されるタンパク質断片(抗原)に特異的なT細胞の活性化が必要である。流入リンパ節(draining lymph node)で活性化されると、これらの活性化されたT細胞は循環に再び入り、影響を受けた組織に侵入して、健康ではない異常な細胞を取り除く。抗原と初めて遭遇した後、これらのT細胞の拡大したサブセットは持続し、より容易に活性化される。こうしてこれらの記憶T細胞は、同じ又は類似の病原体による再感染を受けにくくし、同様にがんの再発リスクを低下させることができる。抗原特異性及び記憶は、いずれも適応免疫系に特徴的な機能である。
【0003】
感染を予防するために、個体は、感染性病原体そのものから得られた、又はペプチド、タンパク質、mRNA、若しくはDNAの形態で合成的に生成された抗原製剤を投与することによって免疫することができる。ワクチン接種としても知られているこの手法は、がんの予防及び治療にも適用できる可能性がある。自然免疫系の活性化は、適応免疫応答の誘導に絶対に必要である。したがって、ワクチンの有効性のためには、特に合成ワクチンの場合、自然免疫系の細胞を活性化するアジュバントを含めることが不可欠である(McKee及びMarrack, 2017. Curr Opin Immunol 47: 44~51)。
【0004】
最もよく使用されるアジュバントは、アルミニウム塩からなるミョウバンである。ごく最近開発されたアジュバントは、自然免疫細胞上のパターン認識受容体(PRR)を標的とするために病原体関連分子パターン(PAMPS)を模倣する傾向がある(Kanzler等、2007. Nat Med 13: 552~9; Wu, 2016. Immunology 148: 315~25; Vasou等、2017. Viruses 9: pii: E186)。これらのアジュバントは、全般的にタンパク質やペプチドワクチンとは相性が良いが、RNA又はDNAからなる遺伝子ワクチンとは相性が悪い(Li及びPetrovsky, 2016. Expert Rev Vaccines 15: 313~29)。
【0005】
感染性病原体に由来する最初のワクチンが18世紀に作られたものであるのに対し、遺伝子ワクチンはもっと歴史が浅い。最初のDNAワクチンは20世紀の末期に向けて開発されたものであり、mRNAワクチンに関する最初の報告書は2004年のものである(Carralot等、2004. Cell Mol Life Sci 61: 2418~24)。現在、多くの遺伝子ワクチンの臨床試験が行われているが、ヒトへの使用が承認されたものは未だにない。この分野では、効果的なアジュバントの発見が大きな課題となっている。このようなアジュバントは通常、mRNA又はDNAと組み合わされ、サイトカイン、ケモカイン、最近ではPRRシグナル伝達経路の成分等の免疫刺激タンパク質をコードしている。これらのアジュバントのうち、これまでにヒトの臨床試験で有望とされたのは、サイトカインのIL-12及びGM-CSF(CSF2)の2つだけである(Li等、2017. Clin Vaccine Immunol 24: e00263~17; Richie等、2012. Hum Vaccin Immunother 8: 1564~84)。
【0006】
したがって、遺伝子ワクチン、すなわち核酸をベースにしたワクチンのアジュバントとして使用することができる、自然免疫応答の効率的な誘導因子を提供することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2014/037685号
【文献】米国特許出願公開第2018/311343号
【文献】国際公開第2018/049014号パンフレット
【文献】国際公開第2018/106753号パンフレット
【文献】国際公開第99/42077号パンフレット
【文献】国際公開第06/040153号パンフレット
【文献】国際公開第06/122825号パンフレット
【文献】米国特許第5888809号
【文献】国際公開第2011128704号パンフレット
【文献】国際公開第2015034820号パンフレット
【文献】国際公開第2015034820号パンフレット
【文献】国際公開第2014/151634号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【文献】McKee及びMarrack, 2017. Curr Opin Immunol 47: 44~51
【文献】Kanzler等、2007. Nat Med 13: 552~9
【文献】Wu, 2016. Immunology 148: 315~25
【文献】Vasou等、2017. Viruses 9: pii: E186
【文献】Li及びPetrovsky, 2016. Expert Rev Vaccines 15: 313~29
【文献】Carralot等、2004. Cell Mol Life Sci 61: 2418~24
【文献】Li等、2017. Clin Vaccine Immunol 24: e00263~17
【文献】Richie等、2012. Hum Vaccin Immunother 8: 1564~84
【文献】Wallach等、2016. Science 352: 51~58
【文献】Yatim等、2015. Science 350: 328~334
【文献】Aaes等、2016. Cell Rep 15: 274~278
【文献】van Hoecke等、2018. Nat Commun 9: 3417
【文献】Amarante-Mendes等、2018. Front Immunol 9: 2379~97
【文献】Chen等、2016. Cell Res 26: 1007~20
【文献】Ren等、2017. Sci Rep 7: 7625
【文献】Koraka等、2018. Vaccine 10.1016/j.vaccine.2018.04.002
【文献】Yang等、(2018) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 115: 6792~6797
【文献】Yamada等、2018. Cell Rep 25: 487~500.e6
【文献】Taslimi等、2016. Nature Chem Biol 12: 425~430
【文献】Kohler及びBertozzi、2003. Chem Biol 10: 1303~11
【文献】Banaszynski等、2006. Cell 126: 995~1004
【文献】Riedl等、2008, Nat Methods. 5: 605
【文献】Schulz等、2018, Cell Reports 24: 419~428
【文献】cDC1s; Ahrens等、2012, Immunity 36: 635~645
【文献】Zhang等、2012. Immunity 36: 646~657
【文献】Boucher等、2018. J Exp Med 215: 827~840
【文献】Srinivasula等、1998. J Biol Chem 273: 10107~11
【文献】Joosten等、2005. J Biotechnol 120: 347~359
【文献】Rahbarizadeh等、2006. J Biotechnol 43: 426~435
【文献】Thomas及びSmart、2005. J Pharmacol Toxicol Methods 51: 187~200
【文献】Lin等、2015. PLOS ONE 10: e0123562
【文献】Berthold及びWalter、1994. Biologicals 22: 135~150
【文献】Chatterjee, 2006. Cur Opin Biotech 17, 353~358
【文献】Running Deer及びAllison, 2004. Biotechnol Prog 20: 880~889
【文献】Riviere等、1995. PNAS 92: 6733~6737
【文献】Swift等、2001. Curr Protoc Immunol, Chapter 10: Unit 10 17C
【文献】Loew等、2010. Gene Therapy 17: 272~280
【文献】Schucht等、2006. Mol Ther 14: 285~92
【文献】Brehony等、2015. Euro Surveill 20: 10.2807/1560~7917.ES.2015.20.49.30084
【文献】van Pinxteren等、2000. Clin Diagn Lab Immunol 7: 155~160
【文献】Sakhatskyy等、2008. Virology 371: 98~107
【文献】Zhou等、2017. R Soc Open Sci 4: 170050
【文献】Bais等、2017. Bioinformatics, 33: 3110~3112
【文献】Hundal等、2016. Genome Medicine 8:11
【文献】Kiwala等、2018. Cancer Genetics 226~227: 45~46
【文献】Winzler等、1997. J Exp Med 185: 317~328参照
【文献】Srinivasula等、1998. J Biol Chem 273: 10107~11
【文献】Park等、2006. Biochem Biophys Res Commun 347: 941~8
【文献】Boucher等、2018. J Exp Med 215: 827~840
【文献】Aglietti及びDueber、2017. Trends Immunol 38: 261~271
【文献】Evavold等、2018. Immunity 48: 35~44
【文献】Heilig等、2018. Eur J Immunol 48: 584~592
【文献】Monteleone等、2018. Cell Rep 24: 1425~1433
【文献】Kardani等、2016, Vaccine 34: 413~423
【文献】Poeck等、2010, Nature Immunology 11: 63~69
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
2.発明の簡単な説明
本発明は、構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼを個体に投与することを含む、個体における免疫応答、好ましくはT細胞性免疫応答を刺激する方法における使用のための構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
感染した、又は形質転換した細胞は、それらが死滅する方法によって免疫系に警告することができる。アポトーシス細胞は炎症性シグナルを発せず、マクロファージによって迅速に取り除かれるため、アポトーシスは免疫学的に静かな傾向がある。対照的に、炎症性細胞死を起こしている細胞は免疫活性化を誘導する。ピロトーシス及びネクロトーシスは、損傷関連分子パターン(DAMPS;Wallach等、2016. Science 352: 51~58)の放出を引き起こす、プログラムされたネクローシスの最近発見された形態である。これらのDAMPSには、生細胞において非炎症機能を果たす細胞内分子(例えば、ATP、高移動度グループボックス1(HMGB1))、並びにIL-1β、IL-18、及びIL-33等のサイトカインが含まれる。ピロトーシス及びネクロトーシスDAMPSは、細胞外環境に放出されるために膜破壊が必要であり、細胞外環境でパターン認識受容体(PRR)及び/又はサイトカイン受容体に結合して自然免疫細胞を活性化することができる。
【0011】
ネクロトーシスが起きている細胞は、抗腫瘍免疫を惹起することが知られている。ネクロトーシス細胞をマウスに注射すると、これらの細胞内に含まれる腫瘍抗原に特異的なIFNγ、TNF、及びIL-2産生T細胞が活性化される。これらのT細胞には細胞毒性があり、腫瘍細胞を効率的に排除することができる(Yatim等、2015. Science 350: 328~334; Aaes等、2016. Cell Rep 15: 274~278)。更に、腫瘍細胞におけるネクロトーシスエフェクター分子である混合系統キナーゼドメイン様(MLKL)の強制発現は、その腫瘍を取り除くのを助ける腫瘍特異的T細胞を活性化する(van Hoecke等、2018. Nat Commun 9: 3417)。抗腫瘍免疫におけるネクロトーシスの重要性は、MLKLのすぐ上流にあるこの経路の主要な担い手である受容体相互作用プロテインキナーゼ3(RIPK3)の発現が腫瘍細胞で減少していることが多いという事実によっても強調される。活性なMLKLは細胞膜に細孔を形成し、浸透によって細胞が「破裂」すると、大量のDAMPが放出される。したがって、ネクロトーシスは、抗ウイルス免疫に通常使用される免疫応答の一種である、炎症誘発性サイトカインIFNγ及びTNFを特徴とする細胞毒性応答を誘発することによって、抗腫瘍免疫を刺激することができる。
【0012】
一方、ピロトーシスは主に、サルモネラ菌等の細菌、真菌、及び一部のウイルスに曝露したマクロファージで生じる。ピロトーシスに特有なのは、炎症誘発性サイトカインIL18及びIL1βの放出、並びに細胞膜におけるガスダーミンD(GSDMD)孔の形成である(Amarante-Mendes等、2018. Front Immunol 9: 2379~97)。GSDMDは、浸透圧によって誘発される細胞膨張や破裂がない状態でピロトーシス体を形成することを特徴とする形態学的に独特な種類の細胞死を誘導する(Chen等、2016. Cell Res 26:1007~20)。サイトカイン産生及び細胞死はいずれも、炎症誘発性カスパーゼ、特にカスパーゼ-1の活性化に依存している。カスパーゼ-1を欠如したマウスはインフルエンザ感染しにくく(Ren等、2017. Sci Rep 7: 7625)、カスパーゼ-1の阻害は狂犬病ウイルスに感染した後のマウスの生存を延長させた(Koraka等、2018. Vaccine 10.1016/j.vaccine.2018.04.002)ので、この経路はウイルス感染に対抗するのに有害であり得る。したがって、ネクロトーシスとは対照的に、ピロトーシスは、細胞の限られたサブセット(マクロファージ)において抗菌応答として現れ、異なる特徴のサイトカインプロファイル(IL18、IL1β)及び形態を有する。したがって、ウイルス又はがんに対する免疫応答を刺激するためにこの経路を標的にすることは理にかなっていない。
【0013】
米国特許出願公開第2014/037685号、米国特許出願公開第2018/311343号、国際公開第2018/049014号パンフレット、及び国際公開第2018/106753号パンフレットを含むいくつかの文書は、ピロトーシスの誘導因子が免疫応答を刺激することができることを示唆している。このピロトーシスの誘導因子は、好ましくは、CARD(ASC)を含有するアポトーシス関連スペックタンパク質、カスパーゼ-1等の炎症性カスパーゼ、ガスダーミン-D又はガスダーミン-E等のガスダーミン、及び/又はこれらのタンパク質のいずれか1つのバリアントから選択されるタンパク質であるか、又はそのタンパク質をコードする。しかし、これらの文書のいずれも、ドメインスワッピングによって生成された構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼについては記載もしていなければ示してもいない。
【0014】
本発明による構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ、好ましくはヒトの構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、プロテアーゼ切断可能部位によって任意選択で連結された、交換されたp20及びp10ドメインを含む。本発明による前記構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、好ましくは構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1である。本発明による構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、好ましくはカスパーゼ動員ドメイン(CARD)を欠如している。
【0015】
本発明による構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ、好ましくはヒトカスパーゼ-1は、好ましくはG401に対応するグリシンを含み(配列番号1)、これはC135(配列番号1)に対応するシステインから最大40アミノ酸残基の距離、好ましくは0~2アミノ酸残基等の10アミノ酸残基未満の距離に位置している。本発明による好ましい構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、好ましくはG403に対応するグリシンを含み(配列番号52)、これはC136(配列番号52)に対応するシステインから0から40アミノ酸残基の距離、好ましくは0~2アミノ酸残基等の0~10アミノ酸残基の距離に位置している。これにより、p20ドメインの最大16個のN末端アミノ酸及びp10ドメインの最大1個のC末端アミノ酸が効果的に除去又は置換される。
【0016】
本発明による構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、好ましくはタンパク質のN末端部分のp20-p10ドメイン間リンカー(IDL)を欠如している。したがって、IDLの残遺物であるカスパーゼp10ドメインのN末端領域は、好ましくは15アミノ酸より短く、好ましくは7アミノ酸より短く、より好ましくは2アミノ酸より短く、最も好ましくは存在しない。
【0017】
好ましい免疫応答は、個体に存在する腫瘍若しくは感染を対象とするか、又は個体における腫瘍若しくは感染の発生若しくは再発を予防するために誘導される。したがって、ピロトーシスの前記誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼの投与は、予防的及び/又は治療的投与のためである。
【0018】
一実施形態では、ピロトーシスの前記誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、好ましくは腫瘍内注射によって個体の腫瘍に投与される。
【0019】
一実施形態では、ピロトーシスの前記誘導因子、好ましくは、シャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、ワクチンのアジュバントとして局所的及び/又は全身的に投与される。
【0020】
ピロトーシスの前記誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、好ましくは免疫チェックポイント阻害剤及び/又はケモカイン若しくはサイトカイン等の更なる免疫刺激分子等の1つ又は複数のアクセサリー分子、好ましくはTable 3(表3)に例示されるような1つ又は複数のアクセサリー分子と組み合わせて投与される。好ましいアクセサリー分子は、PD1又はそのリガンドに対する抗体、CTLA-4に対する抗体等の免疫チェックポイント阻害剤、及び/又はインターロイキン-12(IL12)及び/若しくは顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(CSF2)等のサイトカインである。
【0021】
一実施形態では、ピロトーシスの前記誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは発現分子として提供され、好ましくはTable 1~2(表1~2)のいずれか1つに挙げたピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼを発現する。
【0022】
本発明は、ピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ、並びに薬理学的に許容される賦形剤を含む免疫刺激組成物を更に提供する。
【0023】
本発明による前記免疫刺激組成物は、好ましくは少なくとも1つの抗原又は抗原をコードする核酸分子を更に含む。前記免疫刺激組成物は、免疫チェックポイント阻害剤並びに/又はサイトカイン及び/若しくはケモカイン等の更なる免疫刺激分子等のアクセサリー免疫刺激分子を更に含んでいてもよい。好ましいアクセサリー分子は、Table 3(表3)に提示した1つ又は複数の分子であるか、又はそれらを含む。
【0024】
本発明による免疫刺激組成物中の、ピロトーシスの前記誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、好ましくはTable 1~2(表1~2)のいずれか1つに示された分子から選択される。
【0025】
本発明は、腫瘍又は感染症に罹患している個体を治療する方法で使用するための、本発明による免疫刺激組成物を更に提供する。
【0026】
本発明は、個体における免疫応答、好ましくはT細胞性免疫応答を刺激する方法であって、本発明の組成物を提供する工程、前記組成物を個体に投与する工程を含む、方法を更に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】カスパーゼ-1構築物を示した図である。CASP1_WT(配列番号1)構築物は、マウス(Mus musculus)Casp1の野生型配列全体をコードするが、CASP1_C285G(配列番号2)では、Casp1の活性部位のシステイン(284位)がグリシンで置換されており、この部位は酵素的に不活性になっている。CASP1_RV(配列番号3)及びCASP1_RV2(配列番号4)では、C末端p10ドメイン(配列番号5)がN末端に移動し、下向き矢印で示したIl1b(配列番号7)のカスパーゼ-1切断部位によってCARD-p20リンカー配列(配列番号6)から分離されている。CASP1_RVは、CASP1_RV2で除去されたp20の小部分(5個のC末端アミノ酸)をN末端に保持している。最後に、iCASP1(配列番号8)では、CARDのないカスパーゼ-1変種が小さなSGGGSリンカー(配列番号9)によってFKBPのAP1903誘導性二量体化ドメイン(F36V-FKBP、配列番号10)に連結している。dCASP1(配列番号12)のF36M-FKBP(配列番号11)は自発的な二量体化を誘導する。
図2】CASP1_RV及びCASP1_RV2が細胞死を誘導することを示した図である。B16F10細胞を、GFPプラスミド(配列番号13、標識されたp53)25ngと混合した指示したプラスミド(配列番号14~20)25ngでトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、細胞を回収し、死細胞のマーカーである7-AADで染色した。(A)カスパーゼ-1構築物。(B)対照構築物。関連のない小さなペプチドReps1(配列番号20)をコードする発現ベクターは陰性対照とし、GSDMD_NTER(配列番号14)は陽性対照とした。DExD/H-Boxヘリカーゼ58(Ddx58;FLAG_RIGI_NTER、配列番号19)のN末端を表す構築物も細胞死を誘導することに注意すること。
図3】CASP1_RV2は、pro-IL-1βプロセシング及びIL-1β分泌を誘導することを示した図である。B16F10細胞を、空のベクター、pro-IL1β(配列番号21、IL1B_FL、カスパーゼ-1依存性)、又は成熟IL-1β(配列番号22、IL1B_WT、カスパーゼ-1非依存性)10ngと混合した指示したプラスミド0.6ngでトランスフェクトした。指示に応じて、トランスフェクションの1日後に細胞をAP1903 10nMで処理した。トランスフェクションの2日後、IL-1βELISA及びLDH放出の測定のために上清を回収した。これらの実験条件下では、著しいLDH放出は引き起こされなかったので、トランスフェクションのいずれも細胞死を引き起こさなかったことに注意すること(データは示していない)。
図4】CASP1_RV2が、T細胞応答及び抗腫瘍免疫を向上させることを示した図である。C57BL/6マウスに、ポリエピトープワクチン(配列番号23、10μg)を、空のベクター対照、CASP1_RV2(配列番号4)、又は参照アジュバントCSF2(配列番号24、10μg)と一緒に、0日目に皮内にワクチン接種した。ワクチン接種後6日目(A)、9日目(B)、13日目(C)、及び44日目(D)に、OVA特異的CD8T細胞応答を四量体染色によって評価した。29日目にマウスにB16-OVA細胞を負荷し、その後腫瘍の増殖を更に3か月間追跡した。E.無腫瘍生存率。
図5】Ddx58(RIG-I)及びGsdmdc1(GSDMD)の活性型は、CD8T細胞免疫を向上しないことを示した図である。C57BL/6マウスに、ポリエピトープワクチン(黒い記号)又は空のベクター(白い記号)10μgを、空のベクター対照(-)又はDdx58(配列番号19、FLAG_RIGI_NTER)、カスパーゼ-1(配列番号4、CASP1_RV2)、Gsdmdc1(配列番号14、GSDMD_NTER)、若しくはCsf2(配列番号24、CSF2)の活性型をコードするプラスミド10μgと一緒に皮内にワクチン接種した。ワクチン接種後8日目に、OVA特異的CD8T細胞応答を四量体染色によって評価した。
図6】構成的に活性なマウスカスパーゼ-1のN末端を徐々に切断すると、最適なCASP1_RV活性のためにN末端にp20-p10ドメイン間リンカー(IDL)の一部を保持する必要性が明らかになることを示した図である。(A)CASP1_RVのN末端バリアントの概略図。p10ドメインの上流のN末端配列は、MVLLKDSVRDSEEDFLTDAIFEDD(CASP1_RV、配列番号3)、MSEEDFLTDAIFEDD(CASP1_RV2、配列番号4)、及びM(CASP1_RV2_NTR、配列番号38)である。B16-F10細胞に、指示したカスパーゼ-1(又はGSDMD N末端、配列番号14)0.5又は10ng/ウェル(100μl)及びIL-1βDNAプラスミド10ng/ウェルをコトランスフェクトし、2日後に(B)IL-1β(カスパーゼ-1 0.5ng/ウェル)及び(C)LDH活性(カスパーゼ-1 0.5及び10ng/ウェル)を上清で測定した。
図7】構成的に活性なマウスカスパーゼ-1(CASP1_RV2)は、野生型カスパーゼ-1(CASP1_WT)よりも約30倍強力であることを示した図である。B16-F10細胞は、100μl当たりpro-IL1βプラスミド10ngと一緒に指示した量のカスパーゼ-1プラスミド(アッセイで一定のプラスミド総量を維持するためにインサートの無いプラスミドで段階希釈した)でコトランスフェクトし、2日後に上清中の(A)IL-1β及び(B)LDH活性を評価した。CASP1_RV2(配列番号4)及びCASP1_WT(配列番号1)の活性部位変異体は、それぞれCASP1_RV2_C305G(配列番号39)及びCASP1_C285G(配列番号2)であった。
図8】293細胞に、空のベクタープラスミドで段階希釈して総DNA濃度を一定に維持した指示した濃度のヒトカスパーゼ-1(hCASP1)バリアント(配列番号35、44、49~52)を、(A)pro-IL1β(配列番号37)又は(B)ヒトGSDMD(配列番号53)のいずれかをコードするプラスミド10ng/ウェルと一緒にコトランスフェクトした。2日後、上清を回収して、(A)IL1β濃度又は(B)LDH活性を測定した。
図9A】ヒトカスパーゼ-1の結晶構造を示した図である。p10ドメイン(アミノ酸317~404)のC末端に位置するGly403とp20ドメイン(アミノ酸135~297)のN末端Leu135が近接していることに注意すること。出典、Yang等、(2018) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 115: 6792~6797。
図9B】ヒト及びマウスの炎症誘発性カスパーゼの配列アラインメントを示した図である。mCasp1-C135/hCASP1-C136(hCASP1-L135の隣)及びmCasp1-G401/hCASP1-G403アミノ酸残基の保存に注意すること。
【発明を実施するための形態】
【0028】
4.発明の詳細な説明
4.1 定義
本明細書で使用される「細胞死」という用語は、生物学的細胞がその機能を実行するのを停止する事象である。これは、自然のプロセスの結果の場合もあれば、疾患、局所的な傷害、又は細胞を取り巻く有機体の死等の要因の結果の場合もある。アポトーシス及びピロトーシスを含む様々な種類の細胞死は、形態学的基準によって定義されることが多い。
【0029】
本明細書で使用される「プログラム細胞死」という用語は、能動的な予め運命づけられた分子機構が関与する任意の種類の細胞死を意味する。
【0030】
本明細書で使用される「アポトーシス」という用語は、細胞の丸み(rounding-up)、仮足の退縮、細胞体積の減少(核濃縮)、クロマチン凝縮、核断片化(核崩壊)、及び原形質膜のブレブ形成を伴う細胞死を意味する。
【0031】
本明細書で使用される「ネクローシス」という用語は、細胞損傷又は病原体による浸潤によるプログラムされていない細胞死を意味する。ネクローシスは、細胞体積の増加、細胞小器官の膨潤、原形質膜の破裂、及びその後の細胞内内容物の喪失を特徴とする。
【0032】
本明細書で使用される「ネクロトーシス」という用語は、偽キナーゼ(MLKL)のような混合系統キナーゼドメインの活性化及び原形質膜の急性透過を含む、カスパーゼ非依存的様式によるプログラムされた形態の細胞死を意味する。ネクロトーシスは抗ウイルス防御機構として機能することができ、ウイルスカスパーゼ阻害剤の存在下で細胞に「細胞自殺」を起こさせ、それによってウイルス複製を制限する。
【0033】
本明細書で使用される「ピロトーシス」という用語は、炎症性カスパーゼの活性化がガスダーミンの切断及び細胞膜の透過を引き起こす、プログラムされた形態の細胞死を意味する。更に、活性化されたカスパーゼは、プロインターロイキン1ベータ(proIL1β)及びpro-IL18等のプロサイトカインを生物学的に活性な形態に切断することができ、その後生物学的に活性な形態は細胞透過の結果として放出される。ピロトーシスは、細胞内病原体に感染すると生じる。ピロトーシスは、細胞内複製微小環境を除去し、宿主の防御応答を強化することによって、様々な細菌及びウイルス感染の迅速な解消を促進する。
【0034】
本明細書で使用される「T細胞性免疫応答」という用語は、細胞内病原体、例えば、ウイルス又は細菌に感染した細胞を検出し破壊することに関与する防御機構を意味する。T細胞性免疫応答は腫瘍細胞の破壊にも関与することができる。主要な担い手はCD4+及びCD8+T細胞であり、これらはインターフェロンガンマ(IFN-γ)及び腫瘍壊死因子(TNF)等の炎症性サイトカインを産生する。更に、CD8+T細胞は、感染細胞及び/又は形質転換細胞のアポトーシスを誘導する能力を有する。
【0035】
本明細書で使用される「CARDを含有するアポトーシス関連スペック様タンパク質(ASC)」という用語は、2つのタンパク質-タンパク質相互作用ドメイン:N末端PYRIN-PAAD-DAPINドメイン(PYD)及びC末端カスパーゼ動員ドメイン(CARD)から構成されるアダプタータンパク質(ヒトタンパク質UniProt:Q9ULZ3)を意味する。ASCをコードするヒト遺伝子はPYCARD(HGNC:16608;Entrez Gene:29108;Ensembl:ENSG00000103490)と称される。活性化したASCはピロトーシスの重要なメディエータであり、カスパーゼ-1等の炎症性カスパーゼの活性化の足場として機能する。
【0036】
本明細書で使用される「カスパーゼ-1」という用語は、システイン-アスパラギン酸プロテアーゼ(カスパーゼ)ファミリーのメンバーであるタンパク質(ヒトタンパク質UniProt:P29466)を意味する。カスパーゼは、保存されたアスパラギン酸残基でタンパク質分解プロセシングを受けて、大小2つのサブユニットを生成し、二量体化して活性酵素を形成する、不活性なプロ酵素として存在している。カスパーゼ-1をコードするヒト遺伝子は、CASP1(HGNC:1499;Entrez Gene:834;Ensembl:ENSG00000137752)と称される。
【0037】
本明細書で使用される「ガスダーミンD」という用語は、炎症性カスパーゼによってN末端部分及びC末端部分に切断されるタンパク質を意味する。切断後、N末端部分は原形質膜に移動し、そこで細孔を形成し、こうして成熟したインターロイキン(IL)1B及びIL18の放出を促進し、ピロトーシスを誘発する。完全長ガスダーミンDは484個のアミノ酸(ヒトタンパク質 UniProt:P57764)を含み、そのうちアミノ酸残基1~275がN末端部分を構成し、アミノ酸残基276~484がC末端部分を構成する。ガスダーミンDをコードするヒト遺伝子は、GSDMD(HGNC:25697;Entrez Gene:79792;Ensembl:ENSG00000104518)と称される。
【0038】
本明細書で使用される「炎症性カスパーゼ」という用語は、ピロトーシスを誘導することができるカスパーゼを意味する。前記炎症性カスパーゼは、好ましくはカスパーゼ-1、カスパーゼ-4、カスパーゼ-5、及びカスパーゼ-12のうちの1つ又は複数から選択される。
【0039】
本明細書で使用される「タンパク質バリアント」という用語は、内因性タンパク質と同様の活性を有するタンパク質を意味する。タンパク質バリアントは、タンパク質の活性部分、又は相同であるが同一ではないタンパク質、又はそれらの一部であってもよい。前記相同タンパク質又はその一部は活性があり、好ましくは対応するヒトタンパク質と70%超同一であり、より好ましくは対応するヒトタンパク質と少なくとも80%同一であり、例えば、90%超同一、95%超同一、又は99%超同一である。
【0040】
当業者によって理解されるように、「%同一性」という用語は、タンパク質バリアントがタンパク質の活性部分を意味する場合を除いて、タンパク質の全長に対して決定される%同一性を意味する。
【0041】
好ましいタンパク質バリアントは、活性又は誘導性タンパク質である。ASC、カスパーゼ-1、及びガスダーミンDの好ましいタンパク質バリアントをTable 1及び2(表1及び2)に示す。
【0042】
本明細書で使用される「活性又は誘導性タンパク質」という用語は、活性化を必要とせずに顕著な活性があるか、又は、例えば、過剰発現、転写活性化、若しくは二量体化によって活性を誘導することができるタンパク質を意味する。誘導性転写活性化の1例は、テトラサイクリン制御遺伝子発現系である(Yamada等、2018. Cell Rep 25: 487~500.e6)。誘導性二量体化の1例は、細菌及び植物のフィトクロム及びクリプトクロムの相互作用ドメインに基づいた光学二量体系である。このような相互作用するドメインの例は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のクリプトクロム2(CRY2)及びCRY2と相互作用する塩基性ヘリックスループヘリックス(CIB1; Taslimi等、2016. Nature Chem Biol 12: 425~430)、並びにラパマイシンによって誘導されて二量体化することができるFK506結合タンパク質(FKBP)及びmTORのFKBP-ラパマイシン結合(Frb)ドメイン(Kohler及びBertozzi、2003. Chem Biol 10:1303~11)並びにShield 1(Banaszynski等、2006. Cell 126: 995~1004)等のそれらのバリアントである。市販の系には、iDimerize Inducible Homodimer System(Takara社、草津、日本)が含まれる。
【0043】
本明細書で使用される「抗原」という用語は、適応免疫系によって、すなわち、B細胞及び/又はT細胞によって特異的に認識され得る分子を意味する。抗体又はT細胞受容体が結合する抗原内の配列は、エピトープと呼ばれる。好ましい抗原には、ネオエピトープを含むがんに特異的な、又はがんで高度に発現される1つ又は複数のエピトープ、細菌及びウイルス等の病原体の1つ又は複数のエピトープ、及び/又は自然界には存在しない1つ又は複数の合成エピトープが含まれる。本明細書で使用される「ネオエピトープ」という用語は、アミノ酸コード配列を変化させる非同義の体細胞DNA変異によって生じるエピトープを意味する。好ましいT細胞エピトープは8~20アミノ酸残基を含み、より好ましくは8~13アミノ酸残基を含む。好ましい抗原は、好ましくはそれぞれが8~40アミノ酸残基の配列内に含まれる、2~50、好ましくは5~25の個々のエピトープを含むポリエピトープであるか、又はこのポリエピトープを含む。ポリエピトープ中の個々のエピトープには、好ましくは1~10アミノ酸残基のスペーサー配列が交互に入っていてもよい。
【0044】
前記抗原は、好ましくは、GGVADLIKKFESISKEE等のG-アクチン、又はF-アクチン結合配列も含む(Riedl等、2008, Nat Methods. 5:605)。アクチンは死にかけている細胞によって遊離され、交差提示CD8 T細胞応答に重要な(Schulz等、2018, Cell Reports 24:419~428)、従来の1型DC上の樹状細胞ナチュラルキラーレクチングループ受容体1(DNGR-1)に結合する(cDC1s; Ahrens等、2012, Immunity 36: 635~645; Zhang等、2012. Immunity 36: 646~657)。したがって、アクチン又はアクチン結合配列を含めると、cDC1によるCD8T細胞のより効率的な交差提示が引き起こされて、こうして免疫応答がより効果的に刺激される可能性がある。
【0045】
本明細書で使用される「アクセサリー分子」という用語は、免疫チェックポイント阻害剤並びにケモカイン及び/又はサイトカイン等の更なる免疫刺激分子を含む、T細胞性免疫応答を促進することができる分子を意味する。
【0046】
本明細書で使用される「免疫チェックポイント阻害剤」という用語は、免疫細胞とその他の細胞又はサイトカインとの間の阻害相互作用を遮断し、それによってがん細胞の死滅を増加させることができる分子を意味する。チェックポイント相互作用分子の例は、PD-1/PD-L1及びCTLA-4/B7-1/B7-2である。好ましい免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1とPD-L1の間の相互作用を遮断する分子である。PD-1とPD-L1との間の相互作用を遮断する前記分子は、好ましくはPD1に対する抗体及び/又はPDL1に対する抗体である。
【0047】
本明細書で使用される「更なる免疫刺激分子」という用語は、細胞傷害性Tリンパ球誘導等のT細胞性免疫応答を促進する分子を意味する。このような分子には、Table 3(表3)に挙げたような炎症誘発性サイトカイン、例えば、IL-1β、IL-6、IL-12等のインターロイキン(IL-)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(CSF2)、及び腫瘍壊死因子(TNF)、単球走化性タンパク質又はMCP-1等のケモカインが含まれる。好ましい別の免疫刺激分子は、IL-12、IL-23、IL-27及び/若しくはIL-35等のIL-12ファミリーメンバー並びに/又はCSF2である。
【0048】
本明細書で使用される「遺伝子ワクチン(genetic vaccine)」又は遺伝子ワクチン(gene vaccine)という用語は、免疫応答が対象とするべき抗原をコードする1つ又は複数のRNA又はDNA核酸配列を含むワクチンを意味する。細胞性免疫応答を誘導する遺伝子ワクチンは、例えば、弱毒化された病原性細菌又はウイルスに関連するリスクを回避しながら、特定の細胞性応答を起こす手段となる。
【0049】
本明細書で使用される「ワクチン」という用語は、分子に対する免疫応答を刺激する免疫刺激分子、好ましくは抗原を意味する。前記免疫応答は、好ましくは免疫系を刺激して作用物を攻撃することによって、前記免疫刺激分子を含む、及び/又は発現する作用物に対する能動免疫をもたらす。ワクチンという用語には、免疫刺激分子及びアジュバントを含む組成物が含まれる。
【0050】
本明細書で使用される「全身投与」という用語は、例えば、静脈内、腹腔内、鼻腔内、皮内、経皮、又は筋肉内投与等の非経口投与を意味する。
【0051】
本明細書で使用される「局所投与」という用語は、例えば、皮膚、目、粘膜への投与等の体表面への局所投与又は吸入による局所投与を意味する。
【0052】
本明細書で使用される「交換された」とも称される「シャッフルされた」という用語は、保存されたドメインの順序が変更された組換えタンパク質を意味する。シャッフル又は交換されたp10及びp20ドメインを含むカスパーゼは、p10ドメインがp20ドメインのN末端にある組換えカスパーゼである。
【0053】
4.2 ピロトーシスの誘導因子としてのタンパク質
一実施形態では、ピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、任意選択でプロテアーゼ切断可能部位が連結しており、宿主細胞で発現されるタンパク質としてもたらされる。構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、好ましくは構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1である。
【0054】
ヒトカスパーゼ-1配列(UniProt受入コードP29466)に基づいて、カスパーゼ-1はプロペプチドとして生成される。ヒトカスパーゼ-1(配列番号52)は、アミノ酸残基1からアミノ酸残基92までのカスパーゼ動員ドメイン(CARD;配列番号54)を含有する。残基93~119は、CARDドメインリンカーとしても知られる、CARDとp20ドメインの間のリンカー(CDL;配列番号55)を構成する。p20サブユニットドメイン(配列番号56)は、アミノ酸残基120からアミノ酸残基297まで及び、Cys285の周りに酵素的に活性な部位を含有する。p20ドメインには、アミノ酸残基298からアミノ酸残基316までの小さなp20-p10ドメイン間リンカー(IDL;配列番号57)、及びアミノ酸残基317からアミノ酸残基404までのp10サブユニット(配列番号58)が続く。
【0055】
N末端CARDドメインを有する活性なカスパーゼにはCARDドメインが必要であることが示唆されている(Boucher等、2018. J Exp Med 215: 827~840)。驚くべきことに、シャッフルされたp10及びp20ドメインを含む本発明による好ましい構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、好ましくはカスパーゼ動員ドメイン(CARD)が欠如している。
【0056】
構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、ヒトアポトーシス誘導実行カスパーゼ-3及び-6の構成的に活性な変種に基づいていた(Srinivasula等、1998. J Biol Chem 273: 10107~11)。この文書で記載されたように、例えば、活性なカスパーゼ-3の設計では、N末端p20ドメインとC末端p10ドメインが交換され、短い(8AA)カスパーゼ-3切断部位によって分離された。少しのp20アミノ酸を含む、p10の上流の配列の一部も、この交換によって移動した。したがって、得られた活性なカスパーゼのN末端は4個のp20アミノ酸で始まり、その後に小さなp20-p10ドメイン間リンカー(IDL)及びp10が続いた(Srinivasula等、1998. J Biol Chem 273: 10107~11)。
【0057】
酵素的に不活性なプロカスパーゼ-3は既に安定した二量体であり、ドメイン間リンカー(IDL)の切断時に立体構造が変化し、IDLを切断するとひずみが開放され、酵素を活性な立体構造に再編成させる、ばね仕掛けの機構が示唆されることに注意すること。対照的に、カスパーゼ-1は活性化のためにIDLの切断及び二量体化を必要とする。したがって、構成的に活性なカスパーゼ-1がp10及びp20ドメインのシャッフリングによって生成され得るかどうかを調べた。
【0058】
構成的に活性なマウス炎症性カスパーゼ1(CASP1_RV、配列番号3)はSrinivasula等、1998(Srinivasula等、1998. J Biol Chem 273: 10107~11)に記載されたように生成した。したがって、マウスCASP1_RVのN末端は5個のp20アミノ酸及びIDLで開始した。しかし、このN末端を徐々に欠如した3つのCASP1_RVバリアントを試験すると、CASP1_RV2(配列番号4)のN末端p20残遺物を除去することによってCASP1_RVの活性は増加したが、CASP1_RV2_NTR(配列番号38)のIDLを更に除去すると活性は減少することが示された。言い換えると、最も活性なCASP1_RV2バリアントは、そのN末端に負に強く荷電したIDL配列SEEDFLTDAIFEDDのほとんどを保持していた。野生型マウスカスパーゼ-1(CASP1_WT)と比較して、CASP1_RV2はインビトロアッセイで約30倍強力であった。したがって、カスパーゼ-1のCARDドメインの存在及び活性化機構の違い等、ヒトカスパーゼ-3とマウスカスパーゼ-1との違いにも関わらず、Srinivasulaのアプローチによって構成的に活性なマウスカスパーゼ-1が実際に生成された。
【0059】
構成的に活性なヒトカスパーゼ-1バリアント(hCASP1_RV2、配列番号35)の設計は、マウスCASP1_RV2に基づいていたため、同様にドメイン間リンカーGNLSLPTTEEFEDDの14アミノ酸から開始した。驚くべきことに、そしてマウスCASP1_RV2とは非常に対照的に、p10の上流の全N末端残基を除去すると(hCASP1_RV2_NTR、配列番号49)、その活性が大幅に増加した。
【0060】
したがって、シャッフルされたp10及びp20ドメインを含む好ましい構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、P10ドメインの前のIDL配列中の1つ又は複数の負に帯電したアミノ酸残基D及びEを欠如した、好ましくはドメイン間リンカーSVGVSGNLSLPTTEEFEDD、好ましくはドメイン間リンカーSVGVSGNLSLPTTEEFEDDを完全に欠如した、シャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ-1である。
【0061】
シャッフルされたp10及びp20ドメインを含む好ましい構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼにおいて、開始コドンATGは、好ましくはp10配列の前に、好ましくはp10配列の直前に配置される。
【0062】
シャッフルされたp10ドメインとp20ドメインとの間に介在する配列は可撓性があるようである。カスパーゼ-1の活性な立体構造の結晶構造(Yang等、2018. Proc Natl Acad Sci USA 115:6792~6797)は、p10ドメインのC末端とp20ドメインのN末端との間の距離が短いことを示唆しているようである。シャッフルされたp10及びp20ドメインを含むマウス及びヒトカスパーゼ-1のこの領域のアスパラギン酸プロテアーゼ部位を除去しても(配列番号40~43、45~47)、pro-IL1βを処理する能力に影響を及ぼさず、自己タンパク質分解はその活性に寄与していないことを示唆している(データは示していない)。むしろ、この領域は単に可撓性のあるリンカーとして機能するようであった。実際に、リンカーのサイズを9アミノ酸に縮小することは、予想通りに差し障りのない事象ではなかったが、小さいリンカー中に自己タンパク質分解標的部位が存在するかどうかに関係なく、驚くべきことにhCASP1_NTRの活性を増加させた。野生型ヒトカスパーゼ-1と比較して、得られたhCASP1_NTR_GSL(配列番号50)はインビトロアッセイで約30倍強力であった。したがって、またマウスのカスパーゼ-1とは対照的に、p10ドメインとp20ドメインを交換しても、ヒトカスパーゼ-1の活性はあまり増加しなかった。しかし、N末端のIDL残遺物を除去し、交換されたp10ドメインとp20ドメインとの間のリンカーのサイズを縮小すると、予期せぬことに構成的に活性なヒトカスパーゼ-1が生成された。
【0063】
シャッフルされたp10及びp20ドメインを含む好ましい構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、C135に対応するシステインから0から40アミノ酸残基の距離(配列番号1)、好ましくは1~10アミノ酸残基の距離に位置するG401に対応するグリシンを含む(配列番号1)。本発明による最も好ましい構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、G401とC135残基との間の距離が短く、したがって、p10とp20との間のリンカーを欠如している。
【0064】
配列番号1はマウスカスパーゼ-1配列に対応する。当業者は、本明細書で上記で使用した「対応する」という用語は、異なるカスパーゼ-1配列中の同等のアミノ酸残基が、異なるカスパーゼ中の同じ位置にあるアミノ酸残基でなくてもよいことを示すことを意味しているのを理解するであろう。例えば、マウスC135はヒトC136に対応する。同様に、マウスにおけるG401はヒトG403に対応する。したがって、シャッフルされたp10及びp20ドメインを含む好ましい構成的に活性なヒト炎症誘発性カスパーゼ-1は、C136に対応するシステインから0から40アミノ酸残基の距離、好ましくは0~10アミノ酸残基の距離に位置するG403に対応するグリシンを含む。本発明による最も好ましい構成的に活性なヒト炎症誘発性カスパーゼ-1は、G403とC136残基との間の距離が短く、したがって、シャッフルされたp10とp20ドメインとの間のリンカーを欠如している。
【0065】
前記リンカーは、約1アミノ酸残基から約40アミノ酸残基、最も好ましくは約35アミノ酸残基まで、例えば30アミノ酸残基、20アミノ酸残基、15アミノ酸残基、10アミノ酸残基まで、例えば2アミノ酸残基を含むリンカーポリペプチドであってもよい。このようなリンカーポリペプチド配列の一部の好ましい例には、例えば、国際公開第99/42077号パンフレットに記載されたような(Glyx Sery)z型のGly-Serリンカー、例えば、(Gly4 Ser)3、(Gly4 Ser)7、又は(Gly3 Ser2)3等、並びに、例えば、国際公開第06/040153号パンフレット及び国際公開第06/122825号パンフレットに記載されたGS30、GS15、GS9、及びGS7リンカーが含まれる。
【0066】
異種タンパク質産生に一般的に使用される発現系には、大腸菌(E.coli)、バキュロウイルス、酵母、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、ヒト胎児腎臓(HEK)細胞、並びにHEK293T、HEK293E、HEK-293F、及びHEK-293FT等のHEK293細胞を含むその誘導体(Creative Biolabs社、NY、USA)、並びにPER.C6(登録商標)細胞(Thermo Fisher Scientific社、MA、USA)が含まれる。異種系における組換えタンパク質の発現効率は、転写レベル及び翻訳レベルの両方の多くの要素に左右される。
【0067】
ピロトーシスの前記誘導因子、例えば、ASC、カスパーゼ-1、及び/又はガスダーミンDから選択されるタンパク質又はそのバリアント、好ましくは活性又は誘導性バリアント、より好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、原核細胞、好ましくは大腸菌(E.coli)、真菌、最も好ましくは糸状菌若しくはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及びピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母、又は真核細胞、好ましくはHEK細胞及びその誘導体等の哺乳類細胞を使用して産生してもよい。哺乳類細胞で発現させるための市販の系、例えば、Expi293哺乳類一過性タンパク質発現系(Thermo Fisher Scientific社、Waltham (MA) USA)が利用可能である。
【0068】
糸状菌におけるピロトーシスの誘導因子の産生は、好ましくは、Joosten等、2005. J Biotechnol 120:347~359に記載されているように実施され、これは参照により本明細書に含まれている。
【0069】
ピキア・パストリス(Pichia pastoris)におけるピロトーシスの誘導因子の産生は、好ましくは、Rahbarizadeh等、2006. J Biotechnol 43:426~435に記載されているように実施され、これは参照により本明細書に含まれている。
【0070】
HEK細胞及び/又はその誘導体におけるピロトーシスの誘導因子の産生は、好ましくは、Thomas及びSmart、2005. J Pharmacol Toxicol Methods 51: 187~200及び/又はLin等、2015. PLOS ONE 10: e0123562に記載されているように実施される。
【0071】
ピロトーシスの前記誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、好ましくはピロトーシスの前記誘導因子をコードする核酸を目的の細胞にもたらすことによって産生される。前記核酸、好ましくはDNAは、好ましくは、当業者に知られているように、ポリメラーゼ、制限酵素、及びリガーゼの使用を含めた組換え技術によって産生される。或いは、前記核酸は、当業者に知られているように、人工遺伝子合成によって、例えば、部分的若しくは完全に重複するオリゴヌクレオチドの合成によって、又は有機化学と組換え技術の組合せによってもたらされる。前記核酸は、好ましくは、選択された細胞又は細胞株におけるピロトーシスの誘導因子の発現を増強するためにコドン最適化されている。更なる最適化には、好ましくは、潜在的なスプライス部位の除去、潜在的なポリAテイルの除去、及び/又はmRNAの好ましくない折り畳みを引き起こす配列の除去が含まれる。スプライス部位に隣接したイントロンの存在は、真核細胞の核からの排出を促進する可能性がある。更に、核酸は、好ましくは、ピロトーシスの誘導因子を細胞から原核生物の周辺質又は増殖培地に分泌するためのタンパク質排出シグナルをコードしており、ピロトーシスの誘導因子の効率的な精製を可能にする。
【0072】
ピロトーシスの誘導因子を精製するための方法は当技術分野では知られており、一般的に、混入物を除去するためのイオン交換等のクロマトグラフィーに基づいている。混入物に加えて、分解生成物及び凝集物等の生成物自体の望ましくない誘導体を除去する必要がある場合もある。適切な精製方法工程は、Berthold及びWalter、1994に記載されている(Berthold及びWalter、1994. Biologicals 22: 135~150)。
【0073】
別の方法として、又は更に、ピロトーシスの組換え誘導因子に遺伝子操作によって特定のタグを付けて、タンパク質をタグに特異的なカラムに結合させ、したがって不純物から単離することができる。次に、精製されたタンパク質は、アフィニティーカラムからデカップリング試薬で交換される。この方法は、組換えタンパク質の精製にますます適用されている。ヒスチジンタグ等のタンパク質の従来のタグは、タグを特異的に捕捉するアフィニティーカラム(例えば、ヒスチジンタグではNi-IDAカラム)で使用され、タンパク質をその他の不純物から単離する。次に、タンパク質は特定のタグに応じたデカップリング試薬(例えば、ヒスチジンタグではイミダゾール)を使用してカラムから交換される。この方法は従来の精製方法と比較するとより特異的である。適切な更なるタグには、Chatterjee, 2006. Cur Opin Biotech 17, 353~358に示されたように、c-mycドメイン、血球凝集素タグ、及びマルトース結合タンパク質、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、FLAGタグペプチド、ビオチン受容体ペプチド、ストレプトアビジン結合ペプチド、及びカルモジュリン結合ペプチドが含まれる。これらのタグを使用するための方法は当技術分野で知られており、ピロトーシスの誘導因子を精製するために使用することができる。
【0074】
4.3 ピロトーシスの誘導因子の発現構築物
本発明によれば、ピロトーシスの誘導因子、好ましくは、シャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼをコードする発現構築物を更に提供する。前記発現構築物は、好ましくは、例えばウイルス起源(例えば、ヒトサイトメガロウイルス)の強力なプロモーター又は哺乳類細胞等の細胞で高度に発現する遺伝子に由来するプロモーター等の高発現レベルのための手段を含む(Running Deer及びAllison, 2004. Biotechnol Prog 20: 880~889;米国特許第5888809号)。この構築物は、好ましくは、当業者に知られているように、例えば、適切なレシピエント細胞におけるベクターの増幅のためのグルタミン合成酵素の発現又はジヒドロ葉酸レダクターゼの発現等の選択系を含む。
【0075】
前記構築物は、ウイルスベクター、好ましくは分裂及び非分裂がん細胞を形質導入することができるウイルスベクターであってもよい。前記ウイルスベクターは、好ましくは、組換えアデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスをベースにしたベクター、国際公開第2011128704号パンフレットに記載されている改変ワクシニアアンカラをベースにしたベクター等のポックスウイルスをベースにしたベクター、又はヒト免疫不全ウイルスをベースにしたベクター等のレンチウイルスをベースにしたベクターである。前記ウイルスベクターは、最も好ましくは、ヒト免疫不全ウイルスをベースにしたベクター等のレンチウイルスをベースにしたベクター等のレトロウイルスをベースにしたベクター、又はモロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)、骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)、又はマウス幹細胞ウイルス(MSCV)をベースにしたベクター等のガンマレトロウイルスをベースにしたベクターである。好ましいレトロウイルスベクターはSFGガンマレトロウイルスベクターである(Riviere等、1995. PNAS 92: 6733~6737)。
【0076】
ガンマレトロウイルスをベースにしたベクターを含むレトロウイルスは、抗原群ポリプロテイン(Gag)-ポリメラーゼ(Pol)及び/又はエンベロープ(Env)タンパク質を提供する適切な補完細胞にパッケージ化することができる。適切なパッケージング細胞はヒト胚性腎由来の293T細胞、フェニックス細胞(Swift等、2001. Curr Protoc Immunol, Chapter 10: Unit 10 17C)、PG13細胞(Loew等、2010. Gene Therapy 17: 272~280)、及びFlp293A細胞(Schucht等、2006. Mol Ther 14: 285~92)である。
【0077】
好ましい発現構築物は、ピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼのインビボ発現のための非ウイルス性発現構築物である。非ウイルス性ベクターには、環状又は直鎖状のDNA分子、及びメッセンジャーRNA等のRNA分子が含まれる。非ウイルス性発現構築物は、リポソーム、リポプレックス、又はポリプレックスにパッケージ化され、及び/又は分子コンジュゲートとして提供され得る。プラスミド細菌DNA配列を含まない小環状DNA分子又は直鎖状DNA分子はインビトロで生成することができ、インビボにおいて高レベルでピロトーシスの誘導因子を発現することができる。
【0078】
前記発現構築物は、サイトカイン等の別の免疫刺激分子をコードする核酸を更に含んでいてもよい。
【0079】
別の方法として、又は更に、前記発現構築物は、別の免疫刺激分子をコードする発現構築物と組み合わせることができる。
【0080】
4.4 誘導したピロトーシスの適用
本発明は、ピロトーシスの誘導因子を個体に投与することを含む、個体における免疫応答、好ましくはT細胞性免疫応答を刺激する方法における使用のためのピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼを提供する。ピロトーシスの前記誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、好ましくは、疾患に罹患した、又は疾患に罹患するリスクのあるヒトに予防的又は治療的に投与するために使用される。前記疾患には、限定はしないが、麻疹、風疹、コレラ、髄膜炎菌性疾患、インフルエンザ、ジフテリア、流行性耳下腺炎、破傷風、A型肝炎、B型肝炎、E型肝炎、百日咳、結核、肺炎球菌性疾患、腸チフス、急性灰白髄炎、ダニ媒介性脳炎、インフルエンザb型、狂犬病、水痘及び帯状疱疹(帯状疱疹)、ヒトパピローマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、呼吸器多核体ウイルス、サイトメガロウイルス、ロタウイルス胃腸炎、黄熱病、日本脳炎、マラリア、デング熱、ジカウイルス関連の小頭症、炭疽菌、ペスト、Q熱、天然痘、又はがん等の非感染性疾患が含まれる。
【0081】
一実施形態では、前記疾患はがんである。前記個体は、限定はしないが、癌腫、腺腫、黒色腫、肉腫、白血病、生殖細胞がん、芽細胞腫、及び/又はリンパ腫を含むがんに罹患していてもよく、或いはこれらの再発を予防するために治療されていてもよい。
【0082】
前記癌腫には、腺癌、扁平上皮細胞癌、腺扁平上皮癌、未分化癌、大細胞癌、及び小細胞癌が含まれ、膀胱がん、乳がん、腎がん、膵がん、卵巣がん、肺がん、肝臓がん、頭部及び頸部がん、扁平上皮癌、結腸直腸がん、子宮頸がん、腎細胞癌、胃がん、前立腺がん、黒色腫、脳がん、甲状腺がん、子宮がん、食道がんが含まれる。
【0083】
前記肉腫には、アスキン腫瘍、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性シュワン細胞腫、骨肉腫、及び軟部肉腫が含まれ、線維肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、及び横紋筋肉腫が含まれる。
【0084】
前記白血病には、バーキット白血病等のリンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病(AML)及び慢性骨髄性白血病(CML)等の骨髄性白血病、ヘアリー細胞白血病(HCL)、T細胞性前リンパ球性白血病、大顆粒リンパ球性白血病、成人T細胞白血病、並びにクローン性好酸球増加症を含む急性及び慢性白血病が含まれる。
【0085】
前記胚がんには、胚細胞腫、未分化胚細胞腫、及びセミノーマ等のジャーミノーマ又はセミノーマ胚細胞腫、並びに奇形腫及び多胎芽腫等の非ジャーミノーマ又は非セミノーマ胚細胞腫瘍が含まれる。
【0086】
前記芽細胞腫には、肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽細胞腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽細胞腫、多形膠芽腫、及び性腺芽腫が含まれる。
【0087】
前記リンパ腫には、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、濾包性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、小リンパ球性リンパ腫、及びリンパ形質細胞性リンパ腫が含まれる。
【0088】
4.5 腫瘍内投与
本発明の実施形態における好ましいがんは、肉腫、胚がん、及び癌腫等の腫瘤を形成するがんである。ピロトーシスの誘導因子、例えば、ASC、カスパーゼ-1、及び/又はガスダーミンDから選択された活性な、又は誘導可能なタンパク質、より好ましくは、シャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、がんに罹患している個体に局所的に、好ましくは腫瘍内に投与することができる。結果として生じるがん細胞のピロトーシスは、損傷に関連した分子パターンをがん特異的抗原、好ましくはがんネオエピトープと一緒に放出し、腫瘍特異的T細胞を活性化して、残存するがん細胞の攻撃を開始し、最終的にはがんを除去することもできる。
【0089】
ピロトーシスの前記誘導因子、例えば、ASC、カスパーゼ-1、及び/又はガスダーミンDから選択された活性な、又は誘導可能なタンパク質、より好ましくは、シャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、タンパク質、又は好ましくはがん細胞においてピロトーシスの前記誘導因子を発現する発現構築物として腫瘍内に投与することができる。ピロトーシスの誘導因子の腫瘍への前記投与は、当業者に知られているように、好ましくは腫瘍内注射、好ましくは注射又はエレクトロポレーションによる。前記エレクトロポレーションは、インビトロで、又は好ましくはインビボで、単離された細胞に適用することができる。腫瘍内投与されるタンパク質としてのピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼの有効量は、がんの症状を改善させるか、更には消してしまうほどの所望する効果をもたらすために十分多い投与量である。治療有効量は有害な副作用を引き起こさないことが好ましい。一般的に、治療有効量は、個体の年齢、状態、及び性別、並びに疾患の範囲によって変動させることができ、当技術者が決定することができる。いかなる合併症が発生した場合でも、個々の医師が投与量を調整することができる。治療有効量は、1日又は複数日にわたって、1回又は反復用量の投与で、約1マイクログラムから約100ミリグラム、好ましくは約10マイクログラムから約10ミリグラム、最も好ましくは約0.1ミリグラムから約1ミリグラムまで変動させることができる。
【0090】
がん細胞等の細胞をタンパク質で形質導入するために適したトランスフェクション試薬には、Saint-PROTEIN(登録商標)トランスフェクション試薬(Synvolux社、Leiden、オランダ)が含まれる。
【0091】
タンパク質としてのピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼの前記有効量は、5から9の間、好ましくは6から8の間のpH値を有することが好ましい緩衝溶液として好ましくは提供される。前記緩衝溶液は、例えば、リン酸塩、ヒスチジン、又はコハク酸塩をベースにした緩衝液、ポリソルベート、トレハロース二水和物、及び/又はメチオニンを含んでいてもよい。
【0092】
ピロトーシスの誘導因子、好ましくは、シャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼを発現する非ウイルス性発現構築物等の発現構築物は、それらを必要とする個体に有効量で投与することができる。がんを治療するためにがんに対する免疫応答を効果的に誘導するために、2日から5日以上連続して反復投与する等の反復投与が好ましい。
【0093】
ピロトーシスの誘導因子、好ましくは、シャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼを発現する非ウイルス性発現構築物等の発現構築物は、好ましくは腫瘍への注射又はエレクトロポレーションによって投与される。腫瘍内投与のための調製物には、滅菌水溶液又は非水性溶液懸濁液、及びエマルジョンを含めることができる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、及びオレイン酸エチル等の注射可能な有機エステルである。腫瘍内投与のための調製物には、好ましくは緩衝剤及び塩を任意選択で含む水、塩化ナトリウム溶液等の生理食塩水、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、又は乳酸リンゲル液等の水性担体が含まれる。例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガス等の保存剤及びその他の添加剤が存在していてもよい。
【0094】
非ウイルス性発現構築物等のピロトーシスの誘導因子を発現する発現構築物の治療有効量は、約0.001mgから約100mg、好ましくは約0.01mgから約10mg、最も好ましくは約0.1mgから約1mgまで変動させることができる。
【0095】
本発明は、がんに罹患している個体を改善及び/若しくは治療する方法、及び/又はがんの再発を予防する方法を更に提供し、この方法は、がんのネオエピトープに対する個体の免疫応答を刺激し、それによって前記個体を改善及び/又は治療するために、有効量のピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼを前記個体に対して投与することを含む。
【0096】
細胞、特にがん細胞を非ウイルス性発現構築物等の発現構築物でトランスフェクト又は形質導入するのに適したトランスフェクション試薬には、ポリエチレンイミン等のカチオン性ポリプレックス、DOTAP又はSaint-DNA及びSaint-mRNAトランスフェクション試薬(Synvolux社、Leiden、オランダ)等のピリジニウムをベースにした脂質等のカチオン性脂質を含むリポソーム又はリポプレックスが含まれる。
【0097】
4.6 全身投与
本発明は、ピロトーシスの誘導因子を個体に投与することを含む、個体における免疫応答、好ましくはT細胞性免疫応答を刺激する方法における使用のためのピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼであって、ピロトーシスの前記誘導因子はワクチン、好ましくは遺伝子ワクチンのアジュバントとして全身投与される、ピロトーシスの誘導因子を提供する。
【0098】
治療適用の場合、ピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、本明細書で記載したように、がん等の疾患又は感染症に罹患している個体に、疾患を少なくとも部分的に停止させるため、好ましくは疾患を治癒させるため、及び/又は疾患に関連する合併症を軽減又は停止させるために十分な量で投与される。これを達成するのに十分な量は、「治療上有効な用量」として定義される。この使用に有効な量は、疾患の重症度及び個体の全般的健康状態及び投与方法に応じて左右される。ピロトーシスの誘導因子は、必要に応じて、患者によって耐容される投与量及び頻度に応じて、単回又は複数回で投与してもよい。
【0099】
予防適用の場合、ピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、本明細書で記載したように、疾患の確立又は再発に対する防御を助けることができる免疫応答を誘導するために個体に投与される。
【0100】
ピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼを発現する非ウイルス性発現構築物等の発現構築物は、緩衝剤、塩化ナトリウム等の生理食塩水、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液又は不揮発性油を含む水性溶液として製剤化してもよい。例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガス等の保存剤及びその他の添加剤も存在していてもよい。
【0101】
非ウイルス性発現構築物等のピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼを発現する発現構築物の治療有効量は、約0.001mgから約100mg、好ましくは約0.01mgから約10mg、最も好ましくは約0.1mgから約1mgまで変動させることができる。
【0102】
前記ワクチン、好ましくは遺伝子ワクチンは、1つ又は複数の抗原、すなわち、それに対して防御的又は治療的免疫応答が所望される特定のタンパク質又はその一部をコードする。前記1つ又は複数の抗原は、病原体、例えば、麻疹、風疹、コレラ、髄膜炎菌性疾患、インフルエンザ、ジフテリア、流行性耳下腺炎、破傷風、A型肝炎、B型肝炎、E型肝炎、百日咳、結核、肺炎球菌性疾患、腸チフス、急性灰白髄炎、ダニ媒介性脳炎、インフルエンザb型、狂犬病、水痘及び帯状疱疹(帯状疱疹)、ヒトパピローマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、呼吸器多核体ウイルス、サイトメガロウイルス、ロタウイルス胃腸炎、黄熱病、日本脳炎、マラリア、デング熱、ジカウイルス関連の小頭症、炭疽菌、ペスト、Q熱、及び天然痘から選択される疾患の原因となる病原体に由来するか、又はがんによって発現される。
【0103】
任意選択で遺伝子ワクチンによってコードされる抗原の例には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)エンベロープタンパク質(gp160)、HIV-Nef、麻疹赤血球凝集素糖タンパク質、麻疹融合糖タンパク質、麻疹ヌクレオカプシドタンパク質、風疹E1タンパク質、風疹E2タンパク質、風疹キャプシドタンパク質、コレラ毒素、コレラBサブユニットタンパク質、髄膜筋炎NadA D、NHBA D、FHBP D、PorA VR1 D、PorA VR2 D及び/又はそれらのサブバリアント(Brehony等、2015. Euro Surveill 20: 10.2807/1560~7917.ES.2015.20.49.30084)、インフルエンザウイルス赤血球凝集素、インフルエンザウイルス核タンパク質、ジフテリア毒素、流行性耳下腺炎ウイルスエンベロープタンパク質、流行性耳下腺炎ウイルス赤血球凝集素ノイラミニダーゼ、流行性耳下腺炎ウイルス溶血細胞融合物(F)糖タンパク質、流行性耳下腺炎ウイルスマトリクスエンベロープタンパク質、破傷風毒素、A型肝炎ウイルス表面抗原、B型肝炎ウイルス表面抗原、E型肝炎ウイルス表面抗原、百日咳毒素、百日咳繊維状赤血球凝集素、百日咳パータクチン、結核ESAT-6、結核CFP10(van Pinxteren等、2000. Clin Diagn Lab Immunol 7: 155~160)、肺炎球菌カプセル抗原、チフス菌(Salmonella Typhi)O抗原、チフス菌(Salmonella Typhi)H抗原、チフス菌(Salmonella Typhi)50kDa外膜タンパク質、ポリオウイルスD抗原、ポリオウイルスC抗原、ダニ媒介性脳炎ウイルスドメインIII、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)a型抗原、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)b型抗原、狂犬病ウイルス糖タンパク質、水痘帯状疱疹ウイルス糖タンパク質E、ヒトパピローマウイルスL1キャプシドタンパク質、ロタウイルスE1A糖タンパク質、黄熱病ウイルスエンベロープ(E)糖タンパク質、日本脳炎ウイルスエンベロープタンパク質ドメインIII、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)グルタミン酸脱水素酵素、ヒスチジンリッチタンパク質II、乳酸脱水素酵素、及び/又はフルクトース2リン酸アルドラーゼタンパク質、デング熱ウイルス抗原(DEN-1からDEN-4)、ジカウイルス非構造タンパク質1、炭疽菌毒素、ペスト菌(Yersinia pestis)画分1カプセル抗原、ペスト菌(Yersinia pestis)画分Vカプセル抗原、Q熱ウイルス27kDa外膜タンパク質(Com1)、ワクシニアウイルスA30、B7及びF8抗原(Sakhatskyy等、2008. Virology 371: 98~107)、及びそれらの任意の断片又は組合せが含まれる。
【0104】
遺伝子ワクチンによってコードされ得る抗原の好ましい例は、がんネオエピトープ又はその他の腫瘍関連抗原である。前記がんネオエピトープは、がん細胞における前記ネオエピトープをコードするオープンリーディングフレームにおける非同義の変異、挿入、又は欠失の結果であり、健康な細胞のエピトープと比較してアミノ酸が変化している。前記がんネオエピトープは、様々ながんと個々の患者との間で異なる可能性がある。したがって、前記がん抗原は、好ましくは個別化がんワクチンとして開発されている。このために、がん細胞及び対応する健康な細胞が患者から単離され、その後ゲノムDNA及び/又は転写されたmRNAの配列分析が行われる。がん細胞及び対応する健康な細胞から得られた配列を比較すると、対応する健康な細胞と比較した場合、がん細胞において変化した配列が特定される。
【0105】
前記個別化がんワクチンを開発するために、がんの体細胞変異を検出し、潜在的な腫瘍特異的ネオエピトープを予測するソフトウェアツールが開発された。前記ソフトウェアツールには、限定はしないが、TSNAD:がんの体細胞変異及び腫瘍特異的ネオエピトープ検出のための総合ソフトウェア(Zhou等、2017. R Soc Open Sci 4: 170050);CloudNeo:患者特異的腫瘍ネオエピトープを同定するためのクラウドパイプライン(Bais等、2017. Bioinformatics, 33: 3110~3112);pVAC-Seq:腫瘍ネオエピトープを同定するためのゲノムガイドインシリコアプローチ(Hundal等、2016. Genome Medicine 8:11)、並びにpVACtools:個別化がんワクチン設計のためのネオエピトープのコンピュータ選択及び可視化(Kiwala等、2018. Cancer Genetics 226~227: 45~46)が含まれる。
【0106】
前記がんネオエピトープは、ペプチド/タンパク質として製剤化するか、又はRNA若しくはDNA分子にコードすることができる。RNA及びDNAワクチンは、単一分子にいくつかのエピトープをコードすることができる。好ましい遺伝子ワクチンは、がんネオエピトープをコードするDNAを宿主細胞に導入し、そこでDNAは発現し、最終的にはT細胞へのエピトープの提示を引き起こす。
【0107】
細胞性免疫応答を刺激するために、例えば、がんネオエピトープを含む抗原は、好ましくは8から20残基のペプチドにプロセシングされ、CD8+及び/又はCD4+T細胞による認識のためにそれぞれ主要組織適合複合体(MHC)クラスI及び/又はクラスII分子にロードされる。8から20アミノ酸残基の前記ペプチドは、好ましくはプロテアーゼによって1つ又は複数のがんネオエピトープにプロセシングされる、ポリエピトープとも呼ばれるプレタンパク質をコードするDNA発現構築物としてもたらされる。
【0108】
前記プレタンパク質は、好ましくは2~50個の個々のがんネオエピトープ、より好ましくは2~40個、より好ましくは3~30個、より好ましくは5~25個の個々のがんネオエピトープを包含している。個々の前記がんネオエピトープ、又は前記ネオエピトープを含む配列は、追加のアミノ酸が隣接して、好ましくは1~10アミノ酸残基、好ましくは1~5アミノ酸残基、例えば2アミノ酸残基、3アミノ酸残基、又は4アミノ酸残基の小さなスペーサー配列によって分離されていてもよい。
【0109】
遺伝子ワクチンは、RNA又はDNA発現構築物からの1つ又は複数の前記抗原の発現を対象とする。DNA発現構築物からの抗原発現は、ウイルスプロモーター等の転写活性プロモーターによって駆動される。前記プロモーターは、好ましくはSV40プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、及び最も好ましくは、当業者に知られているように、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーターから選択される。発現率を改善するための改変には更に、真核細胞での発現のためのコドン使用の最適化、プロモーターエンハンサー配列の挿入;合成イントロンの挿入;アデノウイルス3要素リーダー(tripartite leader, TPL)配列又はウッドチャック転写後調節因子(WPRE)等の5'UTR及び/又は3'UTR配列の存在、並びにウシ成長ホルモン又はウサギベータグロビンポリアデニル化配列等の強力なポリアデニル化/転写終結シグナルを含めるためのポリアデニル化及び転写終結配列の改変が含まれる。
【0110】
前記遺伝子ワクチンは、サイトカイン等の別の免疫刺激分子をコードする核酸を更に含んでいてもよい。非限定的な例がTable 1~2(表1~2)に挙げられているピロトーシスの誘導因子、例えば、ASC、カスパーゼ-1、及び/又はガスダーミンDから選択される活性な、又は誘導性のタンパク質、より好ましくは本明細書で上記の4.3に詳述されているような発現構築物は、本明細書で上記に記載したようにワクチン、好ましくは遺伝子ワクチンと組み合わせた個体における免疫応答を刺激する方法での使用のためであってもよく、ピロトーシスの前記誘導因子はサイトカイン、ケモカイン、アゴニスト抗体、並びに/又は、限定はしないが、アンタゴニスト抗体及び/若しくは可溶性リガンドを含む免疫抑制分子の阻害剤等の別の免疫刺激分子等の1つ又は複数のアクセサリー分子と組み合わせて投与される。前記アクセサリー分子は、低分子、タンパク質、又は発現構築物として、ピロトーシスの誘導因子及びワクチン、好ましくは遺伝子ワクチンの投与と同時に、別々に、又は連続して投与することができる。
【0111】
好ましいアクセサリー分子は、Table 3(表3)に挙げた別の免疫刺激分子、好ましくはIL-12、IL-2、IL-4、CSF2、インターフェロン、IL-18、TNF、及び/又はOx-40、最も好ましくはIL-12及び/又はCSF2、アゴニストFlt3抗体、及び/又はPD1若しくはPD-L1ブロッカー等の免疫チェックポイント阻害剤、例えば、ペムブロリズマブ(Merck社)、ニボルマブ(Bristol-Myers Squibb社)、ピディリズマブ(Medivation/Pfizer社)、MEDI0680(AMP-514;AstraZeneca社)、及びPDR001(Novartis社);PD-L2 Fc融合タンパク質(AMP-224;GlaxoSmithKline社)等の融合タンパク質;アテゾリズマブ(Roche/Genentech社)、アベルマブ(Merck/Serono社及びPfizer社)、デュルバルマブ(AstraZeneca社)、BMS-936559(Bristol-Myers Squibb社);及びPD-1/PD-L1阻害剤1(国際公開第2015034820号パンフレット;(2S)-1-[[2,6-ジメトキシ-4-[(2-メチル-3-フェニルフェニル)メトキシ]フェニル]メチル]ピペリジン-2-カルボン酸)、BMS202(PD-1/PD-L1阻害剤2;国際公開第2015034820号パンフレット;N-[2-[[[2-メトキシ-6-[(2-メチル[1,1'-ビフェニル]-3-イル)メトキシ]-3-ピリジニル]メチル]アミノ]エチル]-アセトアミド)、及びPD-1/PD-L1阻害剤3(国際公開第2014/151634号パンフレット;(3S,6S,12S,15S,18S,21S,24S,27S,30R,39S,42S,47aS)-3-((1H-イミダゾール-5-イル)メチル)-12,18-ビス((1H-インドール-3-イル)メチル)-N,42-ビス(2-アミノ-2-オキソエチル)-36-ベンジル-21,24-ジブチル-27-(3-グアニジノプロピル)-15-(ヒドロキシメチル)-6-イソブチル-8,20,23,38,39-ペンタメチル-1,4,7,10,13,)等の低分子阻害剤から選択される。更なる抗PD1分子にはラジラツズマブ ベドチン(Seattle Genetics社)が含まれる。
【0112】
本明細書で前述したピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼの前記全身投与、並びに本明細書で前述した遺伝子ワクチンの同時、別々、又は連続投与は、好ましくは発現構築物、好ましくは非ウイルス性発現構築物として投与され、好ましくは、例えば、静脈内、腹腔内、鼻腔内、筋肉内、又は最も好ましくは皮内等の非経口的である。
【0113】
4.7 免疫刺激組成物
本発明は更に、ピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ、及び薬理学的に許容される賦形剤を含む免疫刺激組成物を提供する。ピロトーシスの前記誘導因子は、好ましくはTable 1~2(表1~2)に示した分子から選択され、より好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼである。
【0114】
薬学的に許容される前記賦形剤は、活性成分の生物学的活性の有効性を妨害しない非毒性物質である。「生理学的に許容される」という用語は、細胞、細胞培養物、組織、又は生物等の生物システムと適合性のある非毒性物質を意味する。担体の特徴は投与経路に左右される。生理学的及び薬学的に許容される賦形剤には、希釈剤、充填剤、塩緩衝剤、安定剤、可溶化剤、及び当技術分野で周知のその他の材料が含まれる。
【0115】
本発明による好ましい免疫刺激組成物は、遺伝子ワクチン、好ましくは本明細書で前述したような1~50のがんネオエピトープをコードする遺伝子ワクチンを更に含む。
【0116】
本発明の免疫刺激組成物中のピロトーシスの前記誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼ、並びに前記遺伝子ワクチンは、好ましくは非ウイルス性発現構築物から発現させる。非ウイルス性発現構築物には、mRNA又はプラスミドDNA及びインビトロで増幅したDNA等の裸のDNAが含まれる。非ウイルス性発現構築物は、リポソームにパッケージ化するか、及び/又は分子コンジュゲートとして提供してもよい。プラスミド細菌DNA配列を含まない小環状DNAベクターは、細菌において生成され、インビボにおいて高レベルでピロトーシスの誘導因子をコードする核酸を発現することができる。
【0117】
本発明は、がんの治療方法で使用するための本発明による免疫刺激組成物を更に提供する。
【0118】
本発明は、がんに罹患している個体を治療する方法を更に提供し、前記方法は、ピロトーシスの誘導因子、好ましくは、シャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼを含む免疫刺激組成物、並びに本発明による遺伝子ワクチンをそれを必要とする個体に提供し、それによって個体を治療することを含む。
【0119】
本発明は、ピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼを含む免疫刺激組成物、並びに本発明による遺伝子ワクチンの、がんに罹患している個体を治療するための医薬の調製における使用を更に提供する。
【0120】
ピロトーシスの前記誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼは、好ましくはIL-12及びCSF2等のサイトカイン等の別の免疫刺激分子と組み合わせて投与される。
【0121】
本発明は、個体における免疫応答、好ましくはT細胞性免疫応答を刺激する方法であって、ピロトーシスの誘導因子、好ましくはシャッフルされたp10及びp20ドメインを含む構成的に活性な炎症誘発性カスパーゼを提供する工程、並びにピロトーシスの前記誘導因子を個体に投与する工程を含む、方法を更に提供する。
【0122】
明確且つ簡潔に説明するために、特徴は、同じ又は別個の実施形態の一部として本明細書に記載しているが、本発明の範囲は、記載されている特徴の全て又は一部の組合せを有する実施形態を含むことができることが理解されよう。
【実施例
【0123】
5 実施例
(実施例1)
材料及び方法
DNA構築物
ピロトーシスのメディエータをコードするDNAを含有する発現構築物(Table 1(表1))は、ギブソンアセンブリによって生成した。簡単に説明すると、Pycard、Casp1、Gsdmdc1、Il1b、Il18、Ripk3、Mlkl(マウス)、CASP1、IL1B(ヒト)(の断片)はD1(C57BL/6起源の樹状細胞株、Winzler等、1997. J Exp Med 185: 317~328参照)cDNA、又は合成されたコドン最適化DNA(Pycard、Csf2、hCASP1_RV2;Integrated DNA Technologies社、Coralville、IA、USA)から増幅し、ギブソンアセンブリクローニングキット(New England Biolabs社、Ipswich、MA、USA)を使用してベクターpD2610-v10(ATUM社、Newark、CA、USA)にクローニングした。dasher GFP(配列番号13)、Reps1、小さな無関係なペプチド配列(配列番号20)、又はインサートを全て欠如しているものをコードする構築物を対照として用いた。
【0124】
ワクチン接種実験では、アジュバント又は対照プラスミドを、C57BL/6 MC38結腸癌細胞株由来の3つの腫瘍特異的抗原(Dpagt1、Reps1、Adpgk;配列番号25~27を参照)、及び3つのアラニンからなる「スペーサー配列」(配列番号30を参照)によって分離されたトリオボアルブミン由来の2つのモデル抗原(OT-II、OT-I;配列番号28及び29を参照)をコードするポリエピトープDNAワクチン(配列番号23)と組み合わせた。
【0125】
プラスミドは全て、大腸菌(E.coli)DH5α株を使用して増殖させ、Macherey-Nagel社(Dueren、ドイツ)エンドトキシンを含まない(EF)プラスミド精製キットを使用して精製した。ワクチン接種のために、プラスミドはNucleobondフィルターによる精製工程を更に行い、その後遠心分離(30分、10,000g、4℃)を行って残存する残屑を除去した。
【0126】
マウス及び細胞株
C57BL/6(Jico)マウスは、Jackson laboratory(Bar Harbor、ME、USA)から購入し、LUMC動物施設でFELASA準拠の条件下に収容した。C57BL/6起源のメラノーマ細胞株であるB16-F10は、8%のウシ胎児血清(Sigma-Aldrich社、Zwijndrecht、オランダ)を補給したIMDM(ThermoFisher-Gibco社、Waltham、MA、USA)からなる培地中で、L-グルタミン、ペニシリン、及びストレプトマイシン(全てThermoFisher-Gibco社製)の存在下で、加湿したCO2インキュベーター(37°C、5% CO2)内で維持した。B16-OVAは、オボアルブミンで安定的にトランスフェクトされたB16-F10細胞株であり、同じ状態下で培養した。
【0127】
トランスフェクション
B16-F10細胞を、96ウェル平底プレート内の100μlの培地中に2,000細胞/ウェルで播種した。1日後、カチオン性脂質をベースにしたトランスフェクション試薬であるSaint-DNA(Synvolux products社、Leiden、オランダ)と複合体を形成したDNA 10μlを添加することによってトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、細胞死及び/又はDAMPSの放出を、フローサイトメトリー、ELISA、又はLDHアッセイによって分析した。
【0128】
フローサイトメトリー
細胞上清を除去し、ウェルをPBSで濯ぎ、その後残存する付着細胞をトリプシン(ThermoFisher-Gibco社)で処理することによって、非付着細胞及び付着細胞を回収した。96ウェルV底プレート中で上清及びトリプシン処理細胞を混合して遠心分離した後、得られた細胞をFACS緩衝液(PBS、1%BSA、0.02%アジド)で洗浄し、膜の完全性を喪失した死細胞に入る色素である7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)(Biolegend社、San Diego、CA、USA)に曝露し、FACS緩衝液で15分間希釈した。次に、488nmレーザーを備えたGuava EasyCyte HTフローサイトメーター(Merck MilliPore社、Burlington、MA、USA)で細胞をすぐに分析した。
【0129】
IL-1β ELISA
IL-1βを測定するために、細胞上清を遠心分離して細胞残屑を除去し、供給業者(Biolegend社、San Diego、CA)によって提供された手順を使用してサンドイッチELISAで分析した。簡単に説明すると、96ウェルプレートを捕捉抗体で一晩コーティングした。結合していない抗体を洗い流した後(4回の洗浄工程)、50~1000倍に希釈した上清(及び、参照のために、滴定した組換えIL-1β)を添加し、震盪しながら室温で2時間インキュベートした。4回の洗浄工程の後、ビオチン化検出抗体を添加してRTで1時間インキュベートし、続いて更に4回の洗浄工程及びストレプトアビジン-HRPとの30分間のインキュベーションを行った。strep-HRPを洗い流した後、TMB基質溶液を添加した。Tecan Infinite F50(Tecan Group Ltd社、Mannedorf、スイス)で450nm及び570nmの吸光度を読み取った。
【0130】
LDHアッセイ
培地中に放出された乳酸脱水素酵素(LDH)を定量的に測定する比色アッセイ(LDH細胞毒性アッセイキット、ThermoFisher-Pierce社、Waltham、MA、USA)を使用して、細胞死を定量した。このアッセイは共役酵素反応に基づいている。第1に、LDHは、NAD+からNADHへの還元を介して乳酸からピルビン酸への変換を触媒する。第2に、ジアホラーゼはNADHを使用して、テトラゾリウム塩(INT)を赤いホルマザン生成物に還元する。したがって、ホルマザン形成のレベルは、培地中に放出されたLDHの量に正比例する。簡単に説明すると、反応混合物50μlを2倍希釈した培養上清50μlと混合した。暗所で室温で30分間インキュベートした後、停止溶液を添加し、続いて450nm及び620nmでの吸光度を読み取った。細胞毒性パーセンテージは以下の通りに算出した:((OD450-OD620)試料-(OD450-OD620)培地対照)/((OD450-OD620)陽性対照-(OD450-OD620)培地対照)×100%。
【0131】
マウスのワクチン接種及び腫瘍負荷
0日目に、雄のC57BL/6マウスに、ポリエピトープワクチン(配列番号23を参照)(又は空のベクター対照)10μg、アジュバント(又は空のベクター)10μg、及びアジュバント2(又は空のベクター)10μgからなるエンドトキシンを含まないプラスミドDNA 30μgを含有する0.9%NaCl溶液30μlを皮内注射した。ワクチン接種の数日後に採取した血液を赤血球溶解緩衝液で処理し、0.1%ウシ血清アルブミン及び0.02%アジ化ナトリウムを補給したPBS(PBS/BSA)中のPEコンジュゲートH2-Kb/SIINFEKL四量体(LUMC tetramer facility、Leiden、オランダ)で染色した。暗所で室温で30分間インキュベートした後、CD3、CD4、CD8に対する蛍光色素コンジュゲート抗体(Biolegend社、San Diego、CA、USA)を添加してT細胞サブセットを識別し、その後氷上で更に30分間置き、PBS/BSAで2回洗浄工程を行って結合していない四量体及び抗体を除去した。試料はBD LSRII(Becton Dickinson社、San Jose、CA、USA)で取得し、FlowJo(FlowJo LLC社)を使用して分析した。
【0132】
ワクチン接種して29日後に、マウスに50,000個の、オボアルブミンで安定的にトランスフェクトしたB16-F10黒色腫細胞である、B16-OVA細胞を皮下注射した。腫瘍の増殖を3~4日毎にモニターし、腫瘍のサイズを(長さ×幅×幅)/2として算出した。1000mm3を超える腫瘍又は出血性潰瘍を有するマウスは、CO2窒息によって安楽死させた。
【0133】
結果
構成的に活性なカスパーゼ-1バリアントの設計
ASC(配列番号31)、カスパーゼ-1(配列番号1~4、8、12)、ガスダーミンD(配列番号14~15)、ピロトーシスにおける指標シグナル伝達分子に基づいた一連の構築物では、cDNA配列が設計された(図1、Table 1, 2, 4(表1、2、4))。非炎症性カスパーゼを使用した研究(Srinivasula等、1998. J Biol Chem 273: 10107~11; Park等、2006. Biochem Biophys Res Commun 347: 941~8)では、野生型カスパーゼ-1と比較して順序が逆で(再シャッフルした)、IL-1βカスパーゼ-1切断部位によって結合している、カスパーゼ-1 p10及びp20ドメインからなるタンパク質は構成的に活性があることが示唆された。しかし、最近の研究では、カスパーゼ-1の活性形態にはN末端CARDドメインの存在も必要であることが示され(Boucher等、2018. J Exp Med 215: 827~840)、このような構築物(CASP1_RV及びCASP1_RV2、図1;それぞれ配列番号3及び4)は活性がないことが示唆されている。更なる構築物、誘導性(iCASP1、配列番号8)又は構成的(dCASP1、配列番号12)では、二量体化ドメインを、通常カスパーゼ-1を上流の活性化シグナル伝達カスケードに結び付けるN末端CARDドメインに置換した。最後に、変異した活性部位を有する対照構築物(CASP1_C285G、配列番号2)及び野生型対照(CASP1_WT、配列番号1)を生成した。
【0134】
構成的に活性なカスパーゼ-1バリアントCASP1_RV及びCASP1_RV2は細胞死を誘導する
活性化されると、カスパーゼ-1はガスダーミンDを切断することによってピロトーシス性細胞死を誘導する(Aglietti及びDueber、2017. Trends Immunol 38: 261~271)。これによって、ガスダーミンDのN末端ドメインが放出され、細胞の原形質膜に細胞毒性細孔の形成が引き起こされる。カスパーゼ-1バリアント(図1)が細胞死を誘導するかどうかを試験するために、B16F10細胞にGFPをコードするプラスミド(配列番号13)と一緒に対応するプラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、野生型カスパーゼ-1(CASP1_WT)及び活性部位変異体(CASP1_C285G)は、陰性対照(配列番号20)と比較してほとんど、又は全く細胞死を誘導しなかったが(<20% 7-AAD+細胞)、GSDMDのN末端ドメイン(配列番号14~15)は、事実上全て(>90%)の細胞を殺滅した(図2)。野生型及び点変異のカスパーゼ-1とは対照的に、「再シャッフル」されたカスパーゼ-1(CASP1_RV及びCASP1_RV2)バリアントは、B16F10細胞の大部分を殺滅した。更に、死んだ細胞のほとんどがGFPを発現しており、遺伝子ワクチンに活性なカスパーゼ-1が含まれていても、DNAワクチンによってコードされる抗原の発現を妨害しないことを示唆している。したがって、活性なカスパーゼ-1がCARDドメインを必要とすることを示した以前の報告(Boucher等、2018. J Exp Med 215: 827~840)とは対照的に、本発明のCARDを含まない「再シャッフル」した新規カスパーゼ-1構築物は、構成的に活性があることが示された。
【0135】
構成的に活性なカスパーゼ-1バリアントCASP1_RV及びCASP1_RV2はIL-1β分泌を誘導する
ピロトーシスの特徴の1つは、発熱性サイトカインであるIL-1βの分泌である。このサイトカインは細胞質ゾル前駆体(pro-IL-1β)として産生され、その放出にはpro-IL-1β及びガスダーミンDの両方のカスパーゼ-1による切断が必要である(Evavold等、2018. Immunity 48: 35~44; Heilig等、2018. Eur J Immunol 48: 584~592; Monteleone等、2018. Cell Rep 24: 1425~1433)。実際に、活性なカスパーゼ-1バリアントCASP1_RV及びCASP1_RV2は、pro-IL-1βでコトランスフェクトされたB16-F10細胞からのIL-1β(配列番号21、図3)放出を誘導したが、CASP1_WT及びCASP1_C285Gは誘導しなかった。同様に、AP1903(iCASP1)又は構成的(dCASP1)のいずれかによって誘導されたカスパーゼ-1二量体も、このアッセイでIL-1β分泌を生じた。
【0136】
CASP1_RV2は、T細胞応答及び抗腫瘍免疫を向上させる
カスパーゼ-1の構成的に活性な形態(CASP1_RV及びCASP1_RV2)は細胞死を誘導し、IL-1βのプロセシング及び分泌を誘導することができたので、次に遺伝子アジュバントとしての可能性を試験した。このために、ポリエピトープワクチン(配列番号23)をコードするプラスミド及び遺伝子アジュバントをコードするプラスミドの1:1混合物をマウスにワクチン接種した。ポリエピトープワクチンには、H-2Kb MHCクラスI分子に結合すると特定のT細胞によって認識されるオボアルブミン由来のCD8+T細胞エピトープSIINFEKLが含まれた。CASP1_RV2はCASP1_RVよりもわずかに活性が高かったため(図2図3)、前者を使用した。ワクチン接種直後、CASP1_RV2は、血液中に見いだされるSIINFEKL特異的T細胞の頻度を有意に増加させ(図4A)、参照アジュバントCSF2は増加させなかったが、その後になって、CASP1_RV2及びCSF2のアジュバント効果は同様であった(図4B図4C)。
【0137】
興味深いことに、B16-OVAをマウスに負荷すると、アジュバントを投与されていないマウスと比較して、CASP1_RV2アジュバント投与群の特異的T細胞免疫が大幅に増加し、CSF2(配列番号24、図4D)よりもはるかに大きくなった。このことは、このアジュバントが異種プライムブースト法で特にうまく機能することを示唆し得る(Kardani等、2016, Vaccine 34:413~423)。
【0138】
モックワクチンを接種したマウスでは、B16-OVA腫瘍は注射後3週間以内に例外なく増殖した(図4E)。ポリエピトープワクチンは腫瘍の増殖を顕著に遅らせたが、ほとんどのマウスは最終的に腫瘍を発症した。対照的に、CASP1_RV2アジュバントを与えたマウスの大部分は腫瘍がないままであった。したがって、カスパーゼ-1の新規の構成的に活性な形態は、T細胞免疫及び腫瘍防御の両方を著しく向上させた。
【0139】
RIG-I及びGSDMDの構成的に活性な形態はT細胞免疫を改善しない
カスパーゼ-1はインフラマソーム経路の中心的な部分である。したがって、この経路のその他の成分も遺伝子アジュバントとして機能できるはずであると推理した。この考えを試験するために、RIG-I(配列番号19)としても知られるDdx58及びGSDMD(配列番号14)としても知られるGsdmdc1の構成的に活性な変種を、C末端阻害ドメインを除去することによって生成した。RIG-Iはカスパーゼ-1の上流で作用してIL-1βのプロセシング及び放出を促進することができ(Poeck等、2010, Nature Immunology 11:63~69)、GSDMDは膜破壊に関与するカスパーゼ-1の下流標的である。これらの構築物はいずれも細胞死を誘導した(図2)。更に、試験したその他の全構築物とは対照的に、RIG-I構築物によるB16F10細胞のトランスフェクションは、IFNβ及びIL-6の産生を引き起こした(データは示していない)。しかし、驚くべきことに、ポリエピトープワクチンと組み合わせてアジュバント活性を試験すると、活性なカスパーゼ-1構築物のみがT細胞応答を改善した(図5)。
【0140】
(実施例2)
材料及び方法
DNA構築物
ピロトーシスのメディエータをコードするDNAを含有する発現構築物(Table 1(表1)及びTable 4(表4))は、ギブソンアセンブリによって生成した。簡単に説明すると、Casp1、Gsdmdc1、Il1b、(マウス)、IL1B、GSDMD(ヒト)(の断片)はD1(C57BL/6起源の樹状細胞株、Winzler等、1997. J Exp Med 185: 317~328参照)又は293cDNA、又は合成されたコドン最適化DNA(CASP1;Integrated DNA Technologies社、Coralville、IA、USA)から増幅し、ギブソンアセンブリクローニングキット(New England Biolabs社、Ipswich、MA、USA)を使用してベクターpD2610-v10(ATUM社、Newark、CA、USA)にクローニングした。これらの構築物の小さな変化(例えば、N末端又はリンカー配列での改変、単一アミノ酸置換)は、専用のプライマー及びギブソンアセンブリを使用して導入された。プラスミドは全て、大腸菌(E.coli)DH5α株を使用して増殖させ、Macherey-Nagel社(Dueren、ドイツ)エンドトキシンを含まない(EF)プラスミド精製キットを使用して精製した。
【0141】
細胞株
C57BL/6起源のメラノーマ細胞株であるB16-F10は、8%のウシ胎児血清(Sigma-Aldrich社、Zwijndrecht、オランダ)を補給したIMDM(ThermoFisher-Gibco社、Waltham、MA、USA)からなる培地中で、L-グルタミン、ペニシリン、及びストレプトマイシン(全てThermoFisher-Gibco社製)の存在下で、加湿したCO2インキュベーター(37°C、5% CO2)内で維持した。ヒト胚性腎細胞に由来する上皮細胞株である293(ATCC CRL-1573)は、同じ条件下で培養した。
【0142】
トランスフェクション
B16-F10細胞(2,000細胞/ウェル)又は293細胞(20,000細胞/ウェル)を、96ウェル平底プレート内の100μlの培地中に播種した。1日後、カチオン性脂質をベースにしたトランスフェクション試薬であるSaint-DNA(Synvolux products社、Leiden、オランダ)と複合体を形成したDNA 10μl(20~40ng)を添加することによってトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、細胞死及び/又はDAMPSの放出をLDHアッセイ又はELISAによって分析した。
【0143】
IL-1β ELISA
IL-1βを測定するために、細胞上清を遠心分離して細胞残屑を除去し、供給業者(Biolegend社、San Diego、CA)によって提供された手順を使用してサンドイッチELISAで分析した。簡単に説明すると、96ウェルプレートを捕捉抗体で一晩コーティングした。結合していない抗体を洗い流した後(4回の洗浄工程)、50~1000倍に希釈した上清(及び、参考のために、滴定した組換えIL-1β)を添加し、震盪しながら室温で2時間インキュベートした。4回の洗浄工程の後、ビオチン化検出抗体を添加してRTで1時間インキュベートし、続いて更に4回の洗浄工程及びストレプトアビジン-HRPとの30分間のインキュベーションを行った。strep-HRPを洗い流した後、TMB基質溶液を添加した。Tecan Infinite F50で450nm及び570nmの吸光度を読み取った(Tecan Group Ltd社、Mannedorf、スイス)。
【0144】
LDHアッセイ
LDH-Glo細胞毒性アッセイ(Promega社、Madison、WI、USA)を使用して、培養上清中のLDH活性を測定した。このアッセイでは、損傷した細胞から放出されたLDHが乳酸の酸化を触媒し、同時にNAD+がNADHに還元される。レダクターゼはNADH及びレダクターゼ基質を使用してルシフェリンを生成し、ルシフェリンはUltra-Glo(商標)rルシフェラーゼによって生物発光シグナルに変換される。生成された発光シグナルは、存在するLDHの量に比例する。簡単に説明すると、培養上清10μlをLDH保存緩衝液(200mM Tris-HCl(pH7.3)、10%グリセロール、1%BSA)90μlで希釈した。LDH保存緩衝液で更に10倍に希釈した後、100倍に希釈した上清50μlをLDH検出試薬50μlと混合し、暗所で室温でインキュベートし、その後Tecan Infinite F50(Tecan Group Ltd社、Mannedorf、スイス)で30及び60分後の発光を読み取った。データは相対光単位(RLU)として表された。
【0145】
結果
マウスCASP1_RV2機能は存在するN末端IDL配列に依存する
構成的に活性なマウス炎症性カスパーゼ-1(CASP1_RV、配列番号3)の初期の設計は、ヒトアポトーシス誘導型ヒト実行型カスパーゼ-3及び-6の構成的に活性な変種の設計によって導かれた(Srinivasula等、1998. J Biol Chem 273: 10107~11)。活性なカスパーゼ-3の設計では、例えば、N末端p20ドメインとC末端p10ドメインが交換され、短い(8AA)カスパーゼ-3切断部位によって分離された。いくつかのp20アミノ酸を含むp10の上流の配列の一部も、この交換によって移動し、得られた活性なカスパーゼのN末端は4個のp20アミノ酸で開始し、その後に小さな(6AA)p20-p10ドメイン間リンカー及びp10が続いた(Srinivasula等、1998. J Biol Chem 273: 10107-11)。したがって、マウスCASP1_RVのN末端は5個のp20アミノ酸及びIDLで開始した。CASP1_RV2(配列番号4)のp20残遺物の除去は、CASP1_RV(配列番号3、図2図3)と比較して活性を増加させると考えられたので、IDLを完全に欠如した更なるバリアントCASP1_RV2_NTR(配列番号38)を試験した。このN末端を徐々に欠如したこれら3つのCASP1_RVバリアントを試験すると、CASP1_RV2のN末端p20残遺物を除去することによってCASP1_RVの活性は増加したが、CASP1_RV2_NTRのIDLを更に除去するとCASP1_RVの活性が減少することが示された(図6)。言い換えると、最も活性なCASP1_RV2バリアントは、そのN末端に負に大きく荷電したIDL配列SEEDFLTDAIFEDDのほとんどを保持していた。野生型マウスカスパーゼ-1(CASP1_WT)と比較して、CASP1_RV2はインビトロアッセイで約30倍強力であった(図7)。したがって、カスパーゼ-1のCARDドメインの存在及び活性化機構の違い等、ヒトカスパーゼ-3とマウスカスパーゼ-1との間には重要な違いがあるも関わらず、Srinivasulaのアプローチは構成的に活性なマウスカスパーゼ-1を実際に生成した。
【0146】
ヒトCASP1_RV2機能は存在しないN末端IDL配列に依拠する
構成的に活性なヒトカスパーゼ-1バリアント(hCASP1_RV2、配列番号35)の設計は、マウスCASP1_RV2に基づいていたため、またドメイン間リンカー(IDL)の14アミノ酸:GNLSLPTTEEFEDDから開始した。しかし、hCASP1_RV2は、野生型ヒトカスパーゼ-1(hCASP1_WT、図8)よりも顕著な活性はなかった。したがって、マウスのカスパーゼ-1とは対照的に、Srinivasulaのアプローチに従ってもヒトカスパーゼ-1の活性はあまり増加しなかった。驚くべきことに、マウスCASP1_RV2とは非常に対照的に(図6)、酵素的に活性な部位からの距離にも関わらず(Yang等、2018. Proc Natl Acad Sci USA 115:6792~6797)、p10の上流の全N末端残基を除去すると(hCASP1_RV2_NTR、配列番号49)、その活性が大幅に増加した(図8)。
【0147】
p10-p20リンカーのサイズを縮小すると、構成的に活性なヒトカスパーゼ-1の効力が更に増加する
次に、p10とp20との間に介在する配列に注意を向けた。マウス及びヒトCASP1_RV2(配列番号40~43、45~47)のこの領域のアスパラギン酸プロテアーゼ部位の除去は、pro-IL1βを処理する能力に大きな影響を与えず、自己タンパク質分解はその活性に寄与していないことを示唆している(データは示していない)。むしろ、この領域は単に可撓性のあるリンカーとして機能するようであった。活性な立体構造のカスパーゼ-1の結晶構造(Yang等、2018. Proc Natl Acad Sci USA 115:6792~6797)は、p10ドメインのC末端とp20ドメインのN末端との間の距離がむしろ短いことを示した(図9)。実際に、リンカーのサイズを9アミノ酸に低減することは、予想通りに、差し障りのない事象ではなかったが、驚くべきことにhCASP1_NTRの活性を増加させることを発見した(図8B)。これは、この小さなリンカーにおける自己タンパク質分解標的部位の存在(hCASP1_NTR_CCSのAYVHDAPVR、配列番号51)又は非存在(hCASP1_NTR_GSLのGSGSGSGSG、配列番号50)とは無関係であった(図8B)。野生型ヒトカスパーゼ-1と比較して、hCASP1_NTR_GSL(配列番号50)はインビトロアッセイで約30倍強力であった(図8)。したがって、Srinivasulaアプローチは、ヒトカスパーゼ-1の活性をあまり増加させなかったが、N末端残基を除去し、リンカーのサイズをより小さな範囲まで縮小すると、予期せぬことに構成的に活性なヒトカスパーゼ-1が得られた。
【0148】
【表1】
【0149】
【表2A】
【0150】
【表2B】
【0151】
【表2C】
【0152】
【表2D】
【0153】
【表2E】
【0154】
【表2F】
【0155】
【表2G】
【0156】
【表2H】
【0157】
【表2I】
【0158】
【表2J】
【0159】
【表2K】
【0160】
【表2L】
【0161】
【表2M】
【0162】
【表3A】
【0163】
【表3B】
【0164】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
【配列表】
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