(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを使用する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20241125BHJP
A23K 20/121 20160101ALI20241125BHJP
A23K 20/24 20160101ALI20241125BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241125BHJP
A23L 33/16 20160101ALI20241125BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20241125BHJP
A61K 31/085 20060101ALI20241125BHJP
A61K 31/351 20060101ALI20241125BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20241125BHJP
A61K 33/06 20060101ALI20241125BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241125BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
A23L33/10
A23K20/121
A23K20/24
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L33/16
A61K31/05
A61K31/085
A61K31/351
A61K31/7048
A61K33/06
A61P21/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021566067
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2020063330
(87)【国際公開番号】W WO2020229539
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-05-11
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】デ マルキ, ウンベルト
(72)【発明者】
【氏名】ホルカジャダ, マリー ノエル
(72)【発明者】
【氏名】ファイギ, ジェローム
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-161459(JP,A)
【文献】特表2022-533036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)筋細胞におけるミトコンドリアカルシウム取り込みの改善、(ii)筋細胞におけるカルシウムの利用の改善、(iii)筋細胞におけるミトコンドリアエネルギーの増加、(iv)筋機能、筋パフォーマンス、又は筋力のうちの少なくとも1つの改善、(v)筋疲労の減少
、及び(vii)カルシウムの枯渇又は欠乏に関連する筋障害の治療、からなる群から選択される少なくとも1つの結果を達成するための方法
に用いられる組成物であって、
前記方法が、前記組成物を個体に経口投与することを含み、
前記組成物が、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの有効量の組み合わせを
含有し、
前記オレウロペインの代謝産物が、オレウロペインアグリコン、ヒドロキシチロソール、ホモバニリルアルコール、イソホモバニリルアルコール、これらのグルクロン酸抱合形態、これらのサルフェート形態、及びこれらの混合物からなる群から選択され、
前記カルシウムの投与量が、1日当たり0.1g~1.0gである、組成物。
【請求項2】
前記個体が、老齢の対象;高齢の対象;筋疲労又は筋力低下がある対象;運動障害がある対象;フレイルの対象;プレフレイルの対象;サルコペニアの対象;プレフレイル、フレイル、サルコペニア、又は運動障害から回復中の対象;身体のリハビリテーションを受けている対象;スポーツマン;及びペットからなる群から選択される、請求項1に記載の
組成物。
【請求項3】
前記筋細胞のうちの少なくとも一部分が、腓腹筋、脛骨筋、ヒラメ筋、長趾伸筋(EDL)、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋、大殿筋、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される骨格筋の一部である、請求項1又は2に記載の
組成物。
【請求項4】
前記方法が、前記組成物を、少なくとも1週間、毎日投与する
ことを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項5】
前記組成物が、食品組成物、ダイエタリー・サプリメント、栄養組成物、飲料、ニュートラシューティカルズ、摂取前に水又はミルクで再構成される粉末栄養製品、食品添加物、医薬、ドリンク、ペットフード、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される組成物
である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項6】
タンパク質、炭水化物、脂肪、及びこれらの混合物からなる群から選択される成分を更に含む食品製品である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項7】
前記オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つの投与量が、1日当たり0.001mg~1.0gである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを含む単位剤形であって、
前記単位剤形が、(i)筋細胞におけるミトコンドリアカルシウム取り込みの改善、(ii)筋細胞におけるカルシウムの利用の改善、(iii)筋細胞におけるミトコンドリアエネルギーの増加、(iv)筋機能、筋パフォーマンス、又は筋力のうちの少なくとも1つの改善、(v)筋疲労の減少
、及び(vii)カルシウムの枯渇又は欠乏に関連する筋障害の治療、からなる群から選択される少なくとも1つの結果に有効な量の前記組み合わせを含み、
前記オレウロペインの代謝産物が、オレウロペインアグリコン、ヒドロキシチロソール、ホモバニリルアルコール、イソホモバニリルアルコール、これらのグルクロン酸抱合形態、これらのサルフェート形態、及びこれらの混合物からなる群から選択され、
前記カルシウムの投与量が、1日当たり0.1g~1.0gである、単位剤形。
【請求項9】
前記オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つの投与量が、1日当たり0.001mg~1.0gである、請求項8に記載の単位剤形。
【請求項10】
賦形剤、及び、カルシウムとオレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの前記組み合わせを含む、請求項
8又は9に記載の単位剤形。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物の製造方法であって、
カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの有効量の組み合わせを、タンパク質、炭水化物、及び脂肪からなる群から選択される少なくとも1つの原材料に添加することを含む、方法。
【請求項12】
酸味料、増粘剤、pH調整用緩衝剤又はpH調整用試剤、キレート剤、着色剤、乳化剤、賦形剤、香料、ミネラル、浸透剤、医薬的に許容される担体、防腐剤、安定化剤、糖、甘味料、調質剤、ビタミン、ミネラル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される食品添加物を、前記少なくとも1つの原材料に添加することを更に含む、請求項
11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001]本開示は、全般的に、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを使用する、組成物及び方法に関する。より具体的には、本開示は、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせにより、バイオエナジェティックス及びミトコンドリア機能を高め、ミトコンドリアのカルシウム輸送を増強し、ひいては筋収縮及び筋パフォーマンスを高めることで、筋機能を改善、維持、又はその低下を低減することができる、組成物及び方法に関する。
【0002】
[0002]サルコペニアは、加齢に伴う筋量及び筋機能(筋力及び歩行速度を含む)の低下として定義される。筋機能及び身体能力は筋量の低下に伴い衰える。筋機能障害は、高齢での寝たきり、能力低下、及び死亡の発生についての高度な予測指標となる。高齢者人口の増加に伴い、サルコペニアの有病率は高まっており、米国高齢者集団の45%が中等度から重度の症状を有する。米国におけるサルコペニアに起因する直接的及び間接的な医療コストは190億ドル近くに上る。したがって、サルコペニアの予防及び/又は治療は、我々の社会の公衆衛生及びクオリティ・オブ・ライフ、ひいては医療経済に多大な影響を及ぼし得る。残念ながら、サルコペニアの病因及び生理病理学的機序は未だほとんど解明されておらず、予防又は治療のための有効な対策が困難となっている。
【0003】
[発明の概要]
[0003]ミトコンドリアは、哺乳動物細胞における有酸素エネルギー生成の主要な源であり、また、内膜を隔てて大きなCa2+勾配を維持し、当該分子のシグナル伝達電位を提供する。更に、ミトコンドリアのCa2+は、ミトコンドリアにおいてATP生成の調節に働き、細胞代謝恒常性のオーケストレーションに寄与している可能性がある。(Glancy,B.and R.S.Balaban(2012).「Role of mitochondrial Ca2+ in the regulation of cellular energetics.」Biochemistry 51(14):2959-2973)。
【0004】
[0004]本発明者らは、加齢に、筋肉の機能、能力、及び反応性の漸進的な低下が含まれることに留意した。例えば、50歳のヒトでは、筋肉領域が約10%減少し、筋力は、60歳及び70歳で10年ごとに約15%低下し、結果として約30%低下する。加齢性の筋肉質量の減少は、中高年における疲労の増加を伴うストレングス及び活力の低下のほぼ全ての要因である。この減少は、生活習慣、筋肉の構造変化、及び代謝変化という、互いに関係する因子によるものである。
【0005】
[0005]本発明者らは、この問題を認識し、オレウロペイン及びその代謝産物が、細胞外カルシウムとの組み合わせによりミトコンドリアカルシウムを活性化する生物活性物質であるという驚くべき発見によって対処した。カルシウムは骨格筋収縮に必須であるが、バイオエナジェティックスに影響を与えるよう、天然の生物活性物質によりミトコンドリアカルシウム取り込みを増加させるためには、非常に限定された解決策しかない。したがって、理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせが、バイオエナジェティックス及びミトコンドリア機能を高め、ミトコンドリアのカルシウム輸送を増強し、ひいては筋収縮及び筋パフォーマンスを高めることにより、筋機能を改善、維持、又はその低下を低減することができると考えている。
【0006】
[0006]したがって、全般的な実施形態では、本開示は、(i)筋細胞におけるミトコンドリアカルシウム取り込みの改善、(ii)筋細胞におけるカルシウムの利用の改善、(iii)筋細胞におけるミトコンドリアエネルギーの増加、(iv)筋機能、筋パフォーマンス、又は筋力のうちの少なくとも1つの改善、(v)筋疲労の減少、(vi)可動性の向上、及び(vii)カルシウムの枯渇又は欠乏に関連する筋障害の治療又は予防(例えば、発症率及び/又は重症度の低下)からなる群から選択される少なくとも1つの結果を達成する方法を提供する。本方法は、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの有効量の組み合わせを、個体に経口投与することを含む。
【0007】
[0007]一実施形態では、個体は、老齢の対象;高齢の対象;筋疲労又は筋力低下がある対象、運動障害がある対象;フレイルの対象;プレフレイルの対象;サルコペニアの対象;プレフレイル、フレイル、サルコペニア、又は運動障害から回復中の対象;身体のリハビリテーションを受けている対象(例えば、筋肉、骨、靱帯、又は神経系のうちの1つ以上への傷害からの);スポーツマン;及びペットからなる群から選択される。
【0008】
[0008]一実施形態では、筋細胞のうちの少なくとも一部分は、腓腹筋、脛骨筋、ヒラメ筋、長趾伸筋(EDL)、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋、大殿筋、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される骨格筋の一部である。
【0009】
[0009]一実施形態では、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1ヶ月間、毎日経口投与する。
【0010】
[0010]一実施形態では、オレウロペインの代謝産物は、オレウロペインアグリコン、ヒドロキシチロソール、ホモバニリルアルコール、イソホモバニリルアルコール、これらのグルクロン酸抱合形態、これらのサルフェート形態、これらの誘導体、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0011】
[0011]一実施形態では、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを、食品組成物、ダイエタリー・サプリメント、栄養組成物、飲料、ニュートラシューティカルズ、摂取前に水又はミルクで再構成される粉末栄養製品、食品添加物、医薬、ドリンク、ペットフード、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される組成物で投与する。
【0012】
[0012]一実施形態では、カルシウム及びオレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つを、同じ組成物で一緒に投与する。
【0013】
[0013]一実施形態では、カルシウムを、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとは異なる組成物で別々に投与する。
【0014】
[0014]一実施形態では、カルシウム及びオレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つを、タンパク質、炭水化物、脂肪、及びこれらの混合物からなる群から選択される成分を更に含む食品製品で一緒に投与する。
【0015】
[0015]別の実施形態では、本開示は、(i)筋機能、筋パフォーマンス、又は筋力のうちの少なくとも1つの障害、(ii)筋疲労又は筋力低下、(iii)プレフレイル、フレイル、サルコペニア、又は運動障害、及び(iv)カルシウムの枯渇又は欠乏に関連する筋障害からなる群から選択される少なくとも1つの状態を、これらの治療を必要としている個体において治療する方法、又はこれらのリスクがある個体において予防(例えば、発症率及び/又は重症度の低下)する方法を提供する。本方法は、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの有効量の組み合わせを、前記治療を必要としている個体又は前記リスクがある個体に経口投与することを含む。
【0016】
[0016]別の実施形態では、本開示は、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを含む単位剤形を提供し、単位剤形は、(i)筋細胞におけるミトコンドリアカルシウム取り込みの改善、(ii)筋細胞におけるカルシウムの利用の改善、(iii)筋細胞におけるミトコンドリアエネルギーの増加、(iv)筋機能、筋パフォーマンス、又は筋力のうちの少なくとも1つの改善、(v)筋疲労の減少、(vi)可動性の向上、及び(vii)カルシウムの枯渇又は欠乏に関連する筋障害の治療又は予防(例えば、発症率及び/又は重症度の低下)からなる群から選択される少なくとも1つの結果に有効な量の組み合わせを含む。
【0017】
[0017]一実施形態では、単位剤形は、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを本質的に含む。
【0018】
[0018]一実施形態では、単位剤形は、賦形剤、及び、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを含む。
【0019】
[0019]別の実施形態では、本開示は、(i)筋細胞におけるミトコンドリアカルシウム取り込みの改善、(ii)筋細胞におけるカルシウムの利用の改善、(iii)筋細胞におけるミトコンドリアエネルギーの増加、(iv)筋機能、筋パフォーマンス、又は筋力のうちの少なくとも1つの改善、(v)筋疲労又は筋力低下の減少、(vi)可動性の向上、及び(vii)カルシウムの枯渇又は欠乏に関連する筋障害の治療又は予防(例えば、発症率及び/又は重症度の低下)からなる群から選択される少なくとも1つの結果を達成するための組成物の製造方法を提供する。本方法は、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの有効量の組み合わせを、タンパク質、炭水化物、及び脂肪からなる群から選択される少なくとも1つの原材料に添加することを含む。
【0020】
[0020]一実施形態では、本方法は、酸味料、増粘剤、pH調整用緩衝剤又はpH調整用試剤、キレート剤、着色剤、乳化剤、賦形剤、香料、ミネラル、浸透剤、医薬的に許容される担体、防腐剤、安定化剤、糖、甘味料、調質剤、ビタミン、ミネラル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される食品添加物を、少なくとも1つの原材料に添加することを更に含む。
【0021】
[0021]更なる特徴及び利点が本明細書において記述されており、以下の図面、及び発明を実施するための形態から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
[0022]
【
図2】文献に報告されている知見に基づいて、哺乳動物酵素及び微生物酵素によるオレウロペイン代謝について推定されている経路を示す。
【
図3A】ホモバニリルアルコールの化学構造を示す。
【
図3B】ホモバニリルアルコールの異性体(3-ヒドロキシ-4-メトキシフェンエタノール又は3-ヒドロキシ-4-メトキシフェネチルアルコール)を示す。
【
図4】刺激中に、オレウロペインがHeLa細胞におけるミトコンドリアカルシウムの上昇を増大させることを示すグラフである。100μMのヒスタミンにより惹起された、統合されたミトコンドリアカルシウム上昇に対するオレウロペイン(10μM、黒色)の効果の統計的評価である。グラフは、3つの独立した実験の平均を示している。結果を平均±SEMとして表す。
*は、対照細胞(白色)に対するP<0.05(スチューデントt検定)での統計的有意差を示す。
【
図5】ヒト骨格筋筋芽細胞(HSMM)から分化し、カフェインで刺激された筋管におけるミトコンドリアカルシウムを、オレウロペインが強化することを示すグラフである。5mMのカフェインにより惹起された、統合されたミトコンドリアカルシウム上昇に対するオレウロペイン(10μM、黒色)の効果の統計的評価である。グラフは、6つの独立した実験の平均を示している。結果を平均±SEMとして表す。
*は、対照細胞(白色)に対するP<0.05(スチューデントt検定)での統計的有意差を示す。
【
図6】オレウロペインの代謝産物が、カフェインで刺激されたHSMM筋管においてミトコンドリアカルシウムを増強することを示すグラフである。5mMのカフェインにより惹起された、統合されたミトコンドリアカルシウム上昇に対する、オレウロペイン及びその代謝産物の効果の、10μMの濃度での統計的評価である。グラフは、6つの独立した実験の平均を示している。右が、選択された代謝産物である。結果を平均±SEMとして表す。
*は、対照細胞(白色)に対するP<0.05(一元配置ANOVA検定)での統計的有意差を示す。
【
図7】Ca
2+の補給が、C2C12由来筋管における用量/応答様式におけるミトコンドリアのCa
2+上昇を強化することを示すグラフである。5mMのカフェインにより惹起された、統合されたミトコンドリアカルシウム上昇に対する、細胞外カルシウムの存在量による影響の統計的評価である。右が、培地中のカルシウム濃度(mM)である。グラフは、3つの独立した実験からの12回の測定結果の平均を示している。結果を平均±SEMとして表す。
*は、培地(白色)中0.5mMのカルシウム濃度に対するP<0.05(一元配置ANOVA検定)での統計的有意差を示す。
【
図8】オレウロペインが、C2C12由来筋管において、カルシウム欠乏状態下でのミトコンドリア活性化を救援することを示すグラフである。5mMのカフェインにより惹起された、統合されたミトコンドリアカルシウム上昇に対する50μMのオレウロペインの効果の統計的評価である。右が、培地中のカルシウム濃度(mM)である。グラフは、3つの独立した実験からの12回の測定結果の平均を示している。結果を平均±SEMとして表す。
*は、培地(白色)中0.5mMのカルシウム濃度に対するP<0.05(一元配置ANOVA検定)での統計的有意差を示す。
【
図9】ヒト骨格筋(HSM)筋芽細胞から分化した筋管における刺激中、オレウロペイン及びヒドロキシチロソールが、呼吸のATPシンターゼ依存性成分を増強することを示すグラフである。10μMのエピバチジンで刺激し、挿入部分でのデータから計算した、HSM筋管における呼吸のATPシンターゼ依存性成分に対する10μMのヒドロキシチロソール(灰色バー)又は10μMのオレウロペイン(黒色バー)の効果の統計的評価である。挿入部分は、ヒト骨格筋筋管の呼吸プロファイルである。化合物は、ヒドロキシチロソール又はオレウロペインである。オリゴマイシンを使用して、エピバチジン刺激筋管における呼吸のATPシンターゼ依存性成分を決定した。グラフは、8つの実験の平均を示している。結果を平均±SEMとして表す。
*は、対照(白色バー)に対するP<0.05(一元配置ANOVA検定)での統計的有意差を示す。
【
図10】カフェインにより刺激されたC2C12由来筋管において、オレウロペインがATP産生を増加させることを示すグラフである。筋管をオレウロペインと共に15分間インキュベートし、次いで5mMのカフェインで10分間刺激した。グラフは、8つの実験の平均を示している。結果を平均±SEMとして表す。
*は、対照細胞(白色)に対するP<0.05(スチューデントt検定)での統計的有意差を示す。
【
図11】HeLa細胞における刺激中、オレウロペインがCa
2+と相乗作用し、ミトコンドリアカルシウム上昇を増強することを示すグラフである。挿入部分は、100μMのヒスタミンにより惹起された、統合されたミトコンドリアカルシウム上昇に対するオレウロペイン(10μM、黒色)、カルシウム(1.5mM)、及び10μMのオレウロルペイン+1.5mMのカルシウムの組み合わせの効果を示す。カルシウムを添加していない(例えば、培地中の混入カルシウムのみの)培地で、ミトコンドリアカルシウムを測定した。挿入部分でのデータから計算された主グラフは、カルシウム補給、オレウロペイン補給、及びカルシウム+オレウロペインの補給の組み合わせの、ミトコンドリアカルシウム上昇に関する対照細胞に対して測定された効果を示す。カルシウムとオレウロペインとの総和の理論的効果を、同じ組み合わせの測定された効果と比較し、相乗効果を推論する。データは、4つの実験の平均である。結果を平均±SEMとして表す。
*は、ミトコンドリアカルシウムにおける理論的差異に対する測定差異のP<0.05(スチューデントt検定)での統計的有意差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[0033]定義
[0034]以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0024】
[0035]本明細書に記載する全ての百分率は、別途記載のない限り、組成物の総重量によるものである。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは参照数字の-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数又は分数を含むと理解されるべきである。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項をサポートすると解釈されたい。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートするものと解釈されたい。
【0025】
[0036]本開示及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「1つの」、すなわち「a」、「an」及び「the」には、別段の指示がない限り、複数の参照物も含まれる。したがって、例えば、「(a)代謝産物」又は「(the)代謝産物」への言及は、1つの代謝産物を含むが、2つ以上の代謝産物も含む。
【0026】
[0037]用語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含んでいる(comprising)」は、排他的なものとしてではなく他を包含し得るものとして解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは他を包含し得るものであると解釈される。しかしながら、本明細書に開示されている組成物は、本明細書において具体的に開示されていない要素を含まない場合がある。したがって、「含む/備える(comprising)」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている構成成分「を本質的に含む(consisting essentially of)」実施形態、及び「を含む(consisting of)」実施形態の開示を含む。
【0027】
[0038]本明細書で使用するとき、「カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを本質的に含む組成物」は、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせ以外に、ミトコンドリアカルシウム輸送に影響するいかなる追加の化合物も含まない。特定の非限定的な実施形態では、組成物は、賦形剤、及び、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを含む。
【0028】
[0039]「X及び/又はY」という文脈で使用される用語「及び/又は」は、「X」又は「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。同様に、「X又はYのうちの少なくとも1つ」は、「X」又は「Y」又は「X及びYの両方」と解釈されるべきである。例えば、「オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つ」は、「オレウロペイン」又は「オレウロペインの代謝産物」又は「オレウロペイン及びその代謝産物の両方」を意味する。
【0029】
[0040]本明細書において使用する場合、用語「例」及び「例えば~など(such as)」は、その後に用語の列挙が続くときは特に、単に例示的かつ説明的なものにすぎず、排他的又は網羅的なものとみなされるべきではない。本明細書で使用するとき、「関連する(associated with)」及び「関係する(linked with)」は、同時に発生することを意味し、好ましくは、同じ基礎状態によって引き起こされることを意味し、最も好ましくは、特定された状態のうちの1つが、他の特定された状態によって引き起こされることを意味する。
【0030】
[0041]用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取が意図され、かかる個体に対して少なくとも1種の栄養素を提供する、製品又は組成物を意味する。本明細書に記載されている多くの実施形態を含む本開示の組成物は、本明細書に開示されている要素、並びに本明細書に記載されている又は記載されていなくとも食生活において有用である任意の追加の又は任意選択の成分、構成成分又は要素を含む、それらからなる、又はそれらから本質的になることができる。
【0031】
[0042]本明細書で使用するとき、「治療する」及び「治療」という用語は、ある状態を有する対象に対して、その状態に関連する少なくとも1つの症状を減弱、低減若しくは改善することを目的として、かつ/又はその状態の進行を遅延、低下若しくは阻止することを目的として、本明細書に開示される組成物を投与することを意味する。用語「治療」及び「治療する」には、抑止的又は予防的治療(標的とする病的状態又は障害を予防する及び/又は発症若しくは進行を遅らせる治療)と、治癒的治療、治療的治療、又は予防維持治療(disease-modifying treatment)との両方が含まれ、例えば、診断された病的状態又は障害の治癒、遅延、症状の軽減、及び/又は進行の停止のための治療的手段、並びに、罹患する危険性がある患者、又は罹患した疑いのある患者、及び体調不良の患者、又は疾患若しくは医学的状態に罹患していると診断された患者の治療が含まれる。用語「治療」及び「治療する」は、対象が全快するまで治療することを必ずしも意味するものではない。「治療」及び「治療する」という用語はまた、疾患に罹患してはいないが不健康な状態を招きやすい可能性のある個体の健康を維持及び/又は促進することも指す。用語「治療」及び「治療する」はまた、1つ以上の主たる予防又は治療手段の相乗作用、又はそうでない場合強化を含むことも目的としている。非限定的な例として、治療は、患者、介護者、医師、看護師、又は別の医療専門家によって行うことができる。
【0032】
[0043]ヒトと動物の両方の治療が本開示の範囲内である。好ましくは、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせは、治療有効量又は予防有効量の組み合わせを提供する1サービング又は単位剤形で投与する。
【0033】
[0044]「予防する」及び「予防」という用語は、その状態の症状を何ら示していない対象に対して、その状態に関連する少なくとも1つの症状の発症を低減又は予防するために本明細書に開示される組成物を投与することを意味する。更に、「予防」には、状態又は障害のリスク、発症率、及び/又は重症度の低減が含まれる。
【0034】
[0045]本明細書で使用するとき、「有効量」とは、個体における、欠乏を治療若しくは防止する、疾患若しくは医学的状態を治療若しくは防止する、又は、更に一般的には、個体に対して、症状を軽減する、疾患の進行を管理する、若しくは栄養学的、生理学的若しくは医学的利益を提供する量である。
【0035】
[0046]相対的用語「改善された」、「増加/向上/増大した/高めた」、「増強/強化された」などは、本明細書に開示される組成物、すなわち、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを含む組成物の、カルシウム又はオレウロペイン/オレウロペイン代謝産物のうちの1つを欠くこと以外同一の組成物の同じ期間にわたる投与と比較した効果を指す。
【0036】
[0047]本明細書で使用するとき、「投与する」は、個体が組成物を摂取することができるように、別の個体が、言及された組成物を個体に提供することを含み、また単に、言及された組成物を摂取する個体自体の動作も含む。
【0037】
[0048]「動物」としては、限定されるものではないが、齧歯類、水棲哺乳動物、イヌ、ネコ、及び他のペットなどの家庭内動物、ヒツジ、ブタ、ウシ及びウマなどの家畜、並びにヒトを含むがこれらに限定されない、哺乳動物が挙げられる。「動物」、「哺乳動物」、又はこれらの複数形が使用される場合、これらの用語はまた、一節の状況、例えば、ミトコンドリアカルシウム輸送の改善からの動物の受益により、示される又は意図する効果が示されることが可能な任意の動物にも適用される。用語「個体」又は「対象」は、本明細書において多くの場合にヒトを指すのに用いられるが、本開示はそのように限定されない。したがって、用語「個体」又は「対象」は、本明細書に開示される方法及び組成物から利益を得ることができる任意の動物、哺乳動物又はヒトを指す。
【0038】
[0049]用語「ペット」とは、本開示により提供される組成物から恩恵を得られる、又はかかる組成物を堪能することのできる、任意の動物を意味する。例えば、ペットは、鳥類、ウシ科動物、イヌ科動物、ウマ科動物、ネコ科動物、ヤギ、オオカミ科動物、ネズミ、ヒツジ又はブタといった動物であってもよいが、ペットは任意の好適な動物であり得る。用語「コンパニオンアニマル」とは、イヌ又はネコを意味する。
【0039】
[0050]用語「高齢」は、ヒトに関連して、少なくとも60歳、好ましくは63歳超、より好ましくは65歳超、最も好ましくは70歳超の年齢を意味する。非ヒト動物の文脈において、「高齢者」とは、その寿命の60%、いくつかの実施形態では、その寿命の少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%に達した可能性が高い非ヒト対象を意味する。寿命の決定は、保険数理の表、計算又は推定を基準にしてもよく、かつ、過去、現在及び未来の影響、又は寿命にプラス若しくはマイナスに作用することが知られている因子を考慮してもよい。寿命を判定するときには、種、性別、体格、遺伝的因子、環境因子及びストレス因子、現在及び過去の健康状態、過去及び現在の栄養状態、並びにストレス因子が考慮され得る。
【0040】
[0051]ヒトの文脈での「中高年者(older adult)」という用語は、45歳以上、好ましくは50歳より上、より好ましくは55歳より上の出生後年齢を意味し、高齢の個体を含む。
【0041】
[0052]「可動性」は、1つの場所から別の場所まで独力で安全に移動する能力である。
【0042】
[0053]サルコペニアは、加齢に伴う筋肉量及び筋機能(筋力及び歩行速度を含む)の低下として定義される。
【0043】
[0054]本明細書で使用するとき、「フレイル」は、加齢に伴い複数の生理学的システムにわたって予備能及び機能が低下することに起因して、脆弱性が高まった結果、日常的又は急性のストレッサーに対処する能力が損なわれる、臨床的に認識可能な状態として定義される。確立された定量的基準が存在しないため、フレイルは、Fried et al.によって、エネルギー低下を示す5つの表現型基準のうち3つに合致することとして運用上定義されている:(1)筋力低下(weakness)(性別及び体格指数で補正して、ベースラインで集団の下位20%の握力)、(2)持久力及びエネルギーの低下(VO2 maxと関連する自己申告による疲労)、(3)歩行速度の低下(slowness)(15フィートの歩行時間を基準とし、性別及び身長で補正して、ベースラインで集団の下位20%)、(4)身体活動の低下(ベースラインで一週間当たりの摂取キロカロリーの重みつき得点、性別ごとに特定された身体活動の五分位のうち最下位;例えば、男性については383kcal/週未満、女性については270kcal/週未満)、及び/又は意図しない体重減少(過去1年間で10ポンド)。Fried LP,Tangen CM,Walston J,et al.,”Frailty in older adults:evidence for a phenotype.”J.Gerontol.A.Biol.Sci.Med.Sci.56(3):M146-M156(2001)。これらの基準のうちの1つ又は2つが存在するプレフレイル段階は、フレイルに進行するリスクが高いものとして特定される。
【0044】
[0055]「筋疲労」とは、筋線維内の基質不足及び/又は筋線維内の代謝産物の蓄積による、1つ以上の筋肉における収縮力の低下を意味し、これは、カルシウムの放出、又はカルシウムの筋収縮を刺激する能力のいずれかを阻害する。
【0045】
[0056]「筋力低下」は、筋肉により発揮される力が、見込まれ得る力よりも弱い状態である。筋力低下及びその重症度の特定には、米国医療研究評議会(U.S. Medical Research Council)による筋力についての評価システムが広く使用されている。詳細には、試験官は、正常な範囲であると見込まれる感覚を経験から身につけている試験官により与えられるレジスタンスに対して、筋肉を動かす患者の能力を評価する。評価は、被検者の基礎となる体格及び状態などにより、患者間で異なり得る。十分に訓練を積んでいる運動選手は、小柄な個体、あまり運動をしない個体、又は体力の低下している個体とは結果が異なることが予想できる。見込まれる筋力は、消耗性疾患を有する患者における萎縮度に対しても調整されなければならない。
【0046】
[0057]患者の試行を0~5のスケールで評価する。本明細書で使用するとき、「筋力低下」は、グレード0~4のいずれかを指す。
グレード5:最大レジスタンスに対して正常に筋収縮。
グレード4:筋力は低下しているものの、レジスタンスに対して筋収縮により関節を動かすことができる。
グレード3:筋力が更に低下しており、試験官によるレジスタンスが全く加えられていない状況下で、重力に対してのみ関節を動かすことが可能である。例えば、腕を身体の脇におろした状態から開始して、肘を完全進展の状態から完全屈曲の状態に可動できる。
グレード2:重力によるレジスタンスが存在していない場合にのみ筋肉を可動である。例えば、腕を水平面で維持された場合にのみ肘を完全に曲げることができる。
グレード1:筋肉において極僅かな(a trace)若しくはふるえるような(flicker)動きが見られる若しくは感じられる、又は筋肉に線維束性収縮が観察される。
グレード0:動きが観察されない。
【0047】
[0058]本明細書で使用するとき、「スポーツマン」は、1)レジスタンス運動、2)無酸素運動若しくは反復スプリント型運動、又は3)持久運動のうちの少なくとも1つに参加する個体である。
【0048】
[0059]レジスタンス運動は、対象が、荷重の瞬発的移動を行い、長期間休止するときのものであり、主にクレアチンリン酸及び解糖のエネルギー系によって動く。レジスタンス運動では、素早くエネルギーを生成することができるが、対象は早く疲労する。主な翻案としては、反復荷重持ち上げトレーニングにより筋肉断面積を増加させることによって筋量を増加(肥大)させることが挙げられる。Hakkinen K.1989.Neuromuscular and hormonal adaptations during strength and powher training.J.Sports Med.Phys.Fitness.29:9-26;and Hakkinen K.et.al.1987.Relationships between training vulolume,physhical performance capashity,and serum hormone concentrations during prolonged training in elite wheight lifters.Int.J.Sports Med.8 Suppl 1:61-65.
【0049】
[0060]反復スプリント型トレーニングは無酸素であり、回復期間が限定された高強度運動を伴い、筋肉グリコーゲンにおける大きな分解(解糖エネルギー生成)によるほとんど純粋な炭水化物代謝を伴う。高強度速度トレーニング又は反復スプリントを伴うスポーツなどの無酸素エネルギー生成のこれらの状況中、筋肉への負荷増加は、IIa型線維の発射増加によって達成される。最後に、非常に高い作業負荷で、IIb型解糖筋線維が活性化され、高需要量のエネルギー供給を無酸素エネルギー供給により維持する。しかし、これらの状況中、高速度の無酸素エネルギー生成は、ミトコンドリア内で有酸素酸化され得る速度を超え、これは、これらの型のトレーニング状況において見られる極端なレベルの乳酸産生につながる。Spriet L L,Howlett R A,and Heigenhauser G J.2000.An enzymatic approach to lactate production in human skeletal muscle during exercise.Med.Sci.Sports Exerc.32:756-763.
【0050】
[0061]持久トレーニングは、長期間(例えば、>15分)にわたって低強度トレーニングを行う個体によって特徴付けられる。持久トレーニングの場合に示されるエネルギー系は有酸素系を含み、これは、主に脂肪及び炭水化物の有酸素代謝を使用し、十分な酸素が存在するときにミトコンドリア内で必要なエネルギーを生成する。主な翻案としては、脂肪酸化の増加、乳酸動態の強化、並びに、筋肉面積当たりのI型線維の拡大及び毛細血管及びミトコンドリア密度の増加をはじめとする形態変化による、筋グリコーゲン貯蔵及び最大下作業負荷でのグリコーゲン節約の増加が挙げられる。Holloszy J O,and Coyle E F.1984.Adaptations of skeletal muscle to endurance exercise and their metabolic consequences.J.Appl.Physiol.56:831-838;and Holloszy J O,Rennie M J,Hickson R C,Conlee R K,and Hagberg J M.1977.Physiological consequences of the biochemical adaptations to endurance exercise.Ann.N.Y.Acad.Sci.301:440-450.
【0051】
[0062]用語「サービング」又は「単位剤形」は、本明細書で使用するとき、互換可能であり、ヒト及び動物対象のための一体型用量として好適な物理的に別個の単位を指し、各単位は、本明細書に開示されるように、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを含む、所定量の組成物を、好ましくは医薬的に許容される希釈剤、担体、又はビヒクルを伴い、所望の効果をもたらすのに十分な量で含有する。単位剤形の仕様は、使用される具体的な化合物、達成しようとする効果、及びホスト体内の各化合物に関連する薬力学によって決まる。一実施形態では、単位剤形は、ボトルなどの容器内に収容された所定量の液体であり得る。
【0052】
[0063]「経口栄養補助食品」すなわち「ONS」は、少なくとも1つの主要栄養素及び/又は少なくとも1つの微量栄養素を含む組成物であり、例えば、無菌液体、半固体又は粉末の形態であり、食品からの栄養摂取などの他の栄養摂取を補うことを意図している。市販のONS製品の非限定例としては、MERITENE(登録商標)、BOOST(登録商標)、NUTREN(登録商標)、及びSUSTAGEN(登録商標)が挙げられる。いくつかの実施形態では、ONSは、液体を更に添加せずとも摂取され得る、例えば、液量が組成物の1サービング分である、液体形態の飲料とすることができる。
【0053】
[0064]本明細書で使用するとき、「準完全栄養(incomplete nutrition)」とは、好ましくは、栄養製品が含有している主要栄養素(タンパク質、脂肪及び炭水化物)又は微量栄養素が、この栄養製品を投与される動物のための唯一の栄養源とするのに十分なレベルのものではない、栄養製品を指す。用語「完全栄養」は、対象の唯一の栄養源となることが可能な製品を指す。個体は、その栄養必要量を、完全栄養素組成物から100%摂取することができる。
【0054】
[0065]用語「キット」は、1つ以上の容器中の又は容器を伴うキットの構成要素が、物理的に関連付けられており、製造、配送、販売、又は使用のための1つのユニットとして考えられることを意味している。入れ物としては、袋、箱、カートン、ボトル、任意の種類、設計若しくは材料の包装、上包装、シュリンク包装、添付された構成要素(例えば、ステープルで留められたもの、又は接着されたものなど)、又はこれらの組み合わせのパッケージが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
[0066]実施形態
[0067]オレウロペインは、モクセイ(Oleaceae)科に属する植物、特にオリーブ(Olea europaea)の、果実、根、幹、及びより具体的には葉に見出されるポリフェノールである。
図1は、オレウロペインの化学構造を示す。オレウロペインは、3,4-ジヒドロキシフェニルエタノール(ヒドロキシチロソールとしても既知、
図1では「A」とラベルされる)と、グルコースの分子(
図1では「C」とラベルされる)を含有するエレノール酸(
図1では「B」とラベルされる)とのヘテロサイドエステル(heterosidic ester)である。
図2は、文献に報告されている所見に基づいて、哺乳動物及び微生物酵素によるオレウロペインの提案されている代謝経路を示す。
【0056】
[0068]本開示の別の態様は、(i)筋細胞におけるミトコンドリアカルシウム取り込みの改善、(ii)筋細胞におけるカルシウムの利用の改善、(iii)筋細胞におけるミトコンドリアエネルギーの増加、(iv)筋機能、筋パフォーマンス、又は筋力のうちの少なくとも1つの改善、(v)筋疲労又は筋力低下の減少、(vi)可動性の向上、及び(vii)カルシウムの枯渇又は欠乏に関連する筋障害の治療又は予防(例えば、発症率及び/又は重症度の低下)からなる群から選択される少なくとも1つの結果を達成するための方法である。本方法は、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの有効量の組み合わせを、個体に経口投与することを含む。
【0057】
[0069]本開示の別の態様は、(i)筋機能、筋パフォーマンス、又は筋力のうちの少なくとも1つの障害、(ii)筋疲労又は筋力低下、(iii)プレフレイル、フレイル、サルコペニア、又は運動障害、及び(iv)カルシウムの枯渇又は欠乏に関連する筋障害からなる群から選択される少なくとも1つの状態を、治療を必要としている個体において治療する方法、又はこれらのリスクがある個体で予防する方法である。本方法は、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの有効量の組み合わせを、前記治療を必要としている個体又は前記リスクがある個体に経口投与することを含む。
【0058】
[0070]これはまた、個体における活力及び/又はエネルギーの改善をもたらす。
【0059】
[0071]カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせの有効量は、特定の組成、服用者の年齢及び状態、並びに治療される特定の障害又は疾患によって変化する。それにもかかわらず、全般的な実施形態では、1日当たり0.001mg~1.0gのオレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つ、好ましくは1日当たり0.01mg~0.9gのオレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つ、より好ましくは1日当たり0.1mg~750mgのオレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つ、より好ましくは1日当たり0.5mg~500mgのオレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つ、最も好ましくは1日当たり1.0mg~200mgのオレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つの代謝産物を、個体に投与することができる。
【0060】
[0072]カルシウムの少なくとも一部分は、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、又はこれらの混合物など、1つ以上のカルシウム塩であってもよい。全般的な実施形態では、1日当たり0.1g~1.0gのカルシウム、好ましくは1日当たり125mg~950gのカルシウム、より好ましくは1日当たり150mg~900mgのカルシウム、より好ましくは1日当たり175mg~850mgのカルシウム、最も好ましくは1日当たり200mg~800mgのカルシウムを、個体に投与する。
【0061】
[0073]一実施形態において、オレウロペインの少なくとも一部は、抽出によって、例えば、モクセイ科に属する植物、好ましくは、オリーブ(オリーブツリー)、イボタノキ(Ligustrum)属の植物、ハシドイ(Syringa)属の植物、トネリコ(Fraximus)属の植物、ソケイ(Jasminum)属の植物、モクセイ(Osmanthus)属の植物などのモクセイ科に属する植物の茎、葉、果実、又は核のうちの1つ以上などの植物からの抽出によって得られる。追加的に又は代替的に、オレウロペインの少なくとも一部は、化学合成によって得ることができる。
【0062】
[0074]オレウロペインの好適な代謝産物の非限定的な例としては、オレウロペインアグリコン、ヒドロキシチロソール、ホモバニリルアルコール、イソホモバニリルアルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。
図3Aは、ホモバニリルアルコールの化学構造を示す。
図3Bは、その異性体(3-ヒドロキシ-4-メトキシフェンエタノール又は3-ヒドロキシ-4-メトキシフェネチルアルコール)を示す。
【0063】
[0075]いくつかの実施形態では、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つは、組成物中の唯一のポリフェノール、及び/又は個体に投与される唯一のポリフェノールである。
【0064】
[0076]いくつかの実施形態では、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを、老齢の対象;高齢の対象、筋疲労又は筋力低下がある対象;運動障害がある対象;フレイルの対象;プレフレイルの対象;サルコペニアの対象;プレフレイル、フレイル、サルコペニア、又は運動障害から回復中の対象;身体のリハビリテーションを受けている対象(例えば、筋肉、骨、靱帯、又は神経系のうちの1つ以上への傷害からの);スポーツマン;及びペットからなる群から選択される個体に投与する。いくつかの実施形態では、個体は健康である。いくつかの実施形態では、個体には、サルコペニア、フレイル、筋疲労若しくは筋力低下、又は筋機能、筋パフォーマンス、若しくは筋力のうちの1つ以上の障害があるが、任意選択的に、そうでなければ健康である。
【0065】
[0077]例えば、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを、運動前、運動中、及び/又は運動後に、例えば、運動前2時間未満、又は運動前1時間未満、及び運動後2時間未満、又は運動後1時間未満で、スポーツマンに投与することができる。
【0066】
[0078]一実施形態では、筋細胞のうちの少なくとも一部分は、腓腹筋、脛骨筋、ヒラメ筋、長趾伸筋(EDL)、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋、大殿筋、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される骨格筋の一部である。
【0067】
[0079]カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを、ヒト及び/又は動物の摂取に好適な任意の組成物で投与することができる。好ましい実施形態では、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを、経口的又は経腸的に(例えば、経管栄養)個体に投与する。例えば、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを、飲料、食品製品、カプセル、錠剤、粉末、又は懸濁液で個体に投与することができる。
【0068】
[0080]好適な組成物の非限定的な例としては、食品組成物、ダイエタリー・サプリメント、ダイエタリー・サプリメント(例えば、液体ONS)、完全栄養組成物、飲料、医薬品、ニュートラシューティカルズ、摂取前に水又はミルクで再構成される粉末栄養製品、食品添加物、薬剤、ドリンク、ペットフード、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0069】
[0081]本発明による食品製品としては、発酵乳製品、例えばヨーグルト、バターミルクなどの乳製品;アイスクリーム;コンデンスミルク;ミルク;乳クリーム;フレーバーミルクドリンク;ホエイベースのドリンク;トッピング;コーヒークリーマ-;チョコレート;チーズベースの製品;スープ;ソース;ピューレ;ドレッシング;プリン;カスタード;乳児用食品;栄養処方物、例えば、幼児、小児、ティーンエイジャー、成人、高齢者、又は重病の者のための完全栄養処方物;例えばシリアル及びシリアルバー;を挙げることができる。
【0070】
[0082]ドリンクとしては、例えば、乳又はヨーグルトベースのドリンク、発酵乳、タンパク質ドリンク、コーヒー、茶、エネルギードリンク、大豆ドリンク、果物及び/又は野菜ドリンク、果物及び/又は野菜ジュースを挙げることができる。
【0071】
[0083]カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを、タンパク質、炭水化物、脂肪、及びこれらの混合物からなる群から選択される成分を更に含む食品製品で投与することができる。
【0072】
[0084]経口投与又は経腸投与が不可能又は推奨されない場合、組成物を非経口投与することができる。
【0073】
[0085]好ましくは、本明細書に開示される方法によって改善することができる筋機能には、筋力、歩行速度、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される特性が含まれる。筋機能は、典型的には、付属肢の骨格筋質量の、単位当たり又は筋肉体積当たりの強度として定義される。
【0074】
[0086]本明細書に開示される方法によって治療することができるカルシウムの枯渇又は欠乏に関連する筋障害の非限定的な例としては、筋ジストロフィー、先天性コアミオパチー、及びミトコンドリアミオパチーが挙げられる。特定の非限定的な例としては、バース症候群;慢性進行性外眼筋麻痺(cPEO);カーンズ・セイヤー症候群(KSS);リー症候群;ミトコンドリアDNA枯渇症候群(MDDS);ミトコンドリア脳筋症と乳酸アシドーシスと脳卒中様発作(MELAS);ミトコンドリア神経胃腸脳筋症(MINGIE);赤色ぼろ線維によるミオクローヌスてんかん(MERRF):ニューロパシーとアタキシアと網膜色素変性症(NARP);及びピアソン症候群が挙げられる。
【0075】
[0087]個体には、障害若しくは状態(例えば、サルコペニア、フレイル、筋疲労若しくは筋力低下、又は筋機能、筋パフォーマンス、若しくは筋力のうちの1つ以上の障害)のリスクがあることがあり、その場合、組成物の有効量は、予防に有効な用量であり、又は個体には、障害若しくは状態があることがあり、その場合、組成物の有効量は、治療に有効な用量である。いくつかの実施形態において、本方法は、投与前に、状態を有するものとして又は状態のリスクがあるものとして個体を識別することを含む。
【0076】
[0088]別の実施形態では、本開示は、中高年者における運動障害を治療又は予防する方法を提供する。本方法は、有効量の、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを、中高年者に経口投与することを含む。中高年者は、高齢の個体であってもよい。いくつかの実施形態では、サルコペニア、骨粗鬆症、変形性関節炎、栄養不良から回復中の、栄養不良のリスクがある、リハビリテーションを受けている、翌年内にリハビリテーションを受ける予定である、及びこれらの組み合わせの中高年者には、フレイル、プレフレイル、サルコペニアからなる群から選択される状態がある。
【0077】
[0089]状態が個体においてまだ現れていない場合、フレイル又はサルコペニアを発症するリスクを少なくとも部分的に低減するのに十分な量で、及び/又は、プレフレイル、フレイル、サルコペニア、若しくは運動障害の重症度を少なくとも部分的に低減するのに十分な量で、組成物を、中高年者に投与することができる。かかる量は「予防に有効な用量」と定義される。この場合もまた、正確な量は、体重、健康状態及び筋機能(例えば筋力、歩行速度など)がどの程度低下しているかなど、個体に関連するいくつもの要因によって異なる。
【0078】
[0090]一実施形態では、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを、少なくとも1ヶ月、好ましくは少なくとも2カ月、より好ましくは少なくとも3カ月、4カ月、5カ月又は6カ月、最も好ましくは少なくとも1年の期間にわたって個体に投与する。期間中、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを、個体に1週間当たり少なくとも1日、好ましくは1週間に少なくとも2日、より好ましくは1週間に少なくとも3日、4日、5日又は6日、最も好ましくは、1週間に7日、個体に投与できる。カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを、1日当たり1回の用量で、又は1日当たり複数の別個の用量で投与することができる。
【0079】
[0091]上記の投与例は、間断のない連日投与を必要とするものではない。それよりむしろ、投与期間中の2~4日間の中断など、投与には何回かの短期間の中断があってもよい。本組成物の理想的な投与継続期間は当業者により決定され得る。
【0080】
[0092]一実施形態では、カルシウム及びオレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つを、同じ組成物、例えば、カルシウムと、オレウロペイン又はこれらの代謝産物のうちの少なくとも1つとの両方を含有する単位剤形で投与することができる。
【0081】
[0093]代替的な実施形態では、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとを、別個の組成物で連続的に投与することができる。用語「連続的に」とは、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つを、カルシウムなしで第1の時間に投与し、カルシウムを、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つなしで、第2の時間(第1の時間の前又は後)投与するよう、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとを逐次的に投与することを意味する。連続投与間の時間は、例えば、同じ日に1秒若しくは数秒、数分、若しくは数時間;同じ月に1日若しくは数日、若しくは数週間;又は同じ年に1か月若しくは数か月であってもよい。
【0082】
[0094]本開示の別の態様は、(i)筋細胞におけるミトコンドリアカルシウム取り込みの改善、(ii)筋細胞におけるカルシウムの利用の改善、(iii)筋細胞におけるミトコンドリアエネルギーの増加、(iv)筋機能、筋パフォーマンス、又は筋力のうちの少なくとも1つの改善、(v)筋疲労の減少、(vi)可動性の向上、及び(vii)カルシウムの枯渇又は欠乏に関連する筋障害の治療からなる群から選択される効果を達成するための組成物の製造方法である。
【0083】
[0095]本方法は、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを、タンパク質、炭水化物、脂質、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される原材料に添加することを含む。組成物(例えば、食品製品)は、投与前に作製され得(例えば、組成物は、作製され、パッケージ化され、次いで、組成物を自分自身若しくは別の個体に投与する消費者によって購入される)、又は投与と実質的に同時に作製され得る(組成物は、組成物を自分自身若しくは別の個体に投与する個体によって、投与前30分未満、好ましくは投与前15分未満、より好ましくは投与前10分未満、最も好ましくは投与前5分未満に作製される)。
【0084】
[0096]組成物は、有効量の、カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせを含んでもよい。例えば、組成物の単一のサービング又は投与量は、有効量の組み合わせを含んでもよく、パッケージは、1つ以上のサービング又は投与量を収容してもよい。
【0085】
[0097]組成物は、酸味料、増粘剤、pH調整用緩衝剤又はpH調整用試剤、キレート剤、着色剤、乳化剤、賦形剤、香料、ミネラル、浸透剤、医薬的に許容される担体、防腐剤、安定化剤、糖、甘味料、調質剤、ビタミン、ミネラル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される食品添加物を含むことができる。
【0086】
[0098]カルシウムと、オレウロペイン又はその代謝産物のうちの少なくとも1つとの組み合わせに加えて、組成物は、動物由来又は植物由来のタンパク質源、例えば、乳タンパク質、大豆タンパク質、及び/又はエンドウ豆タンパク質を更に含むことができる。好ましい実施形態において、タンパク質源は、ホエイタンパク質;カゼインタンパク質;エンドウ豆タンパク質;大豆タンパク質;小麦タンパク質;トウモロコシタンパク質;米タンパク質;マメ科植物、禾穀類及び穀粒類由来のタンパク質;及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。それに加えて又は代えて、タンパク質源は、堅果類及び/又は種子類由来のタンパク質を含み得る。
【0087】
[0099]タンパク質源は好ましくは、ホエイタンパク質を含む。ホエイタンパク質は加水分解を受けていてもいなくてもよい。ホエイタンパク質は任意のホエイタンパク質であってよく、例えばホエイタンパク質は、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、ホエイタンパク質ミセル、ホエイタンパク質加水分解物、酸ホエイ、スイートホエイ、変性スイートホエイ(カゼイノ-グリコマクロペプチドが除去されたスイートホエイ)、ホエイタンパク質の画分、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。好ましい実施形態において、ホエイタンパク質はホエイタンパク質分離物及び/又は変性スイートホエイを含む。
【0088】
[0100]上述のとおり、タンパク質源は動物又は植物由来であってもよく、例えば、乳タンパク質、大豆タンパク質、及び/又はエンドウ豆タンパク質であり得る。一実施形態において、タンパク質源はカゼインを含む。カゼインは任意の哺乳類から得ることができるが、好ましくは牛乳から、及び好ましくはカゼインミセルとして得られる。
【0089】
[0101]本組成物は1種以上の分枝鎖アミノ酸を含み得る。例えば、本組成物は、ロイシン、イソロイシン及び/又はバリンを含み得る。本組成物のタンパク質源は、遊離形態のロイシン、並びに/又はペプチド及び/又は乳タンパク質、動物性タンパク質若しくは植物性タンパク質などのタンパク質として結合したロイシンを含み得る。一実施形態において、本組成物は、組成物の乾燥物質の最大10重量%の量のロイシンを含む。ロイシンは、D-ロイシン又はL-ロイシンとして、好ましくはL型として存在し得る。本組成物がロイシンを含む場合、本組成物は、体重1kg当たり0.01~0.04gのロイシン、好ましくは体重1kg当たり0.02~0.035gのロイシンを提供する1日用量で投与することができる。かかる用量は、特に完全栄養組成物に適当なものであるが、当業者は、経口栄養補助食品(ONS)に合わせて用量を調節する方法を容易に認識するであろう。
【0090】
[0102]何らかのカルシウムに加え、1種以上のその他のミネラルを組成物に使用することができる。好適なミネラルの非限定的な例としては、ホウ素、クロム、銅、ヨウ素、鉄、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、リン、カリウム、セレン、ケイ素、スズ、バナジウム、亜鉛、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0091】
[0103]任意のものに追加される1種以上の他のビタミンを、組成物に使用することができる。好適なビタミンの非限定的な例としては、ビタミンA、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン又はナイアシンアミド)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(ピリドキシン、ピリドキサール、又はピリドキサミン、又は塩酸ピリドキシン)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(葉酸)、及びビタミンB12(様々なコバラミン;一般的には、ビタミンサプリメント中のシアノコバラミン)、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、葉酸及びビオチン)、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。「ビタミン」は、植物性食品及び動物性食品から天然に得られる又は合成される、プロビタミン、それらの誘導体、及びそれらの類似体などの化合物を含む。
【0092】
[0104]組成物は、炭水化物源及び/又は脂肪源も含有し得る。好適な脂肪の非限定的な例としては、キャノーラ油、コーン油、及び高オレイン酸ヒマワリ油が挙げられる。好適な炭水化物の非限定的な例としては、スクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、コーンシロップ固形物、マルトデキストリン、及びこれらの混合物が挙げられる。更に又は代替的に、食物繊維を添加してもよい。食物繊維は、酵素によって消化されずに小腸を通過し、天然の膨張性薬剤及び緩下剤として機能する。食物繊維は、可溶性又は不溶性のものであってよく、概して2種類のブレンドが好ましい。好適な食物繊維の非限定的な例としては、大豆、エンドウ豆、オーツ麦、ペクチン、グアーガム、部分加水分解されたグアーガム、アラビアガム、フラクトオリゴ糖、酸性オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、シアリルラクトース、及び動物乳に由来するオリゴ糖が挙げられる。好ましい繊維ブレンドは、イヌリンと比較的短鎖のフルクトオリゴ糖との混合物である。一実施形態において、繊維含量は組成物の2~40g/Lであり、例えば4~10g/Lである。
【0093】
[0105]モノ及びジグリセリドのジアセチル酒石酸エステル、レシチン、並びに/又はモノ及びジグリセリドなどといった、1種以上の、食品等級の乳化剤を組成物に組み込むことができる。好適な塩類及び安定化剤を含めることができる。
[0106]
【実施例】
【0094】
[0107]以下の非限定的な例は、本明細書に開示される組成物及び方法を裏付ける、実験データを示すものである。
【0095】
[0108]実施例1
[0109]生細胞におけるオレウロペイン、その代謝産物及びカルシウム補給/欠乏の効果を試験するために、本発明者らは、HeLa細胞でのミトコンドリアカルシウム上昇、並びにマウスC2C12細胞及びヒト初代成体筋細胞の両方から分化した筋管でのミトコンドリアカルシウム上昇を測定した。HeLa細胞及びC2C12細胞は、ATCCから購入した。ヒト骨格筋筋芽細胞(HSSM)は、Lonzaから購入した。HSMMは、健常ドナーの上腕又は脚の筋組織から単離されたものであり、2回めの継代後に使用した。HeLa細胞を、最小必須培地(DMEM、Gibco)、高グルコース、+10%ウシ胎児血清中、50000個/ウェルの密度で96ウェルプレートに播種した。C2C12細胞を、DMEM高グルコース(Gibco)+10%ウシ胎児血清中、8000個/ウェルの密度で96ウェルプレートに播種した。2%ウマ血清を含有するDMEM中、細胞を4日間増殖させることにより、筋管をC2C12細胞から分化させた。HSMMを、DMEM/F-12(Gibco)中、8000個/ウェルの密度で96ウェルプレートに播種した。2%ウマ血清を含有するSKM-M(ZenBio)中、細胞を4日間増殖させることにより、筋管をHSMMから分化させた。
【0096】
[0110]ミトコンドリアカルシウム測定は、ミトコンドリアを標的とするカルシウムセンサーのミトコンドリア変性エクオリンを発現するアデノウイルスに感染させたHeLa細胞又は筋管(Sirion biotech製)を使用して行った(Monteroら、2004)。エクオリン再構成のために、感染24時間後、細胞又は筋管を、標準培地(145mMのNaCl、5mMのKCl、1mMのMgCl2、1mMのCaCl2、10mMのグルコース、及び10mMのHepes)中、1μMの野生型セレンテラジンと共に、室温(22±℃)で2時間インキュベートした。
【0097】
[0111]処理のため、測定の2時間前に、細胞培養物又は筋管培養物に化合物を直接添加した。Cytation3細胞画像化リーダー(Bioteck)又はFLIPR Tetra Aequorin(Molecular Devixes)で発光を測定した。発光データのカルシウム濃度への変換(Calibration)を、前述のようなアルゴリズムを使用して行った(Alvarez&Montero、2002)。定量にはExcel(Microsoft)及びGhaphPad Prism7.02(GhaphPad)ソフトウェアに基づくカスタムモジュール分析を用いた。
【0098】
[0112]
図4に示すように、オレウロペインは、刺激中にHeLa細胞におけるミトコンドリアカルシウム上昇を増大させる。
図5に示すように、オレウロペインは、ヒト骨格筋筋芽細胞(HSMM)から分化した、カフェインで刺激された筋管においてミトコンドリアカルシウムを活性化する。
図6に示すように、オレウロペインのフェノール代謝産物は、カフェインで刺激したHSMM筋管においてミトコンドリアカルシウムを活性化する。
図7に示すように、Ca
2+の補給は、C2C12由来筋管における用量/応答様式で、ミトコンドリアのCa
2+上昇を活性化する。
図8に示すように、オレウロペインは、C2C12由来筋管におけるカルシウムの枯渇又は欠乏の状態におけるミトコンドリア活性化を救援する。
【0099】
[0113]実施例2
[0114]ミトコンドリア呼吸に対するオレウロペイン及びヒドロキシチロソールの効果を試験し、呼吸のATPシンターゼ依存性成分に対するこれらの化合物の効果を評価するために、本発明者らは、ヒト骨格筋筋管における酸素消費を測定した。呼吸実験のため、XF96器具(Seahorse Bioscienceis、MA)を使用して、酸素消費を筋管において測定した。ヒト筋管を、2日目及びその後に、ポリオルニチンコーティングしたSeahorse組織プレートに播種し、当該細胞を、140mMのNaCl、3.6mMのKCl、0.5mMのNaH2PO4、0.5mMのMgSO4、1.5mMのCaCl2、10mMのHEPES、5mMのNaHCO3、10mMのグルコースを含有するpH7.4のKrebs-Ringer重炭酸HEPES緩衝液(KRBH)で2回洗浄した。呼吸速度を、37℃で6分毎に測定した。ATPシンターゼ依存呼吸については、オリゴマイシンの添加前後の呼吸速度の差として計算した。実験を、37℃で行った。
【0100】
[0115]
図9に示すように、オレウロペイン及びヒドロキシチロソールは、刺激中に、ヒト骨格筋筋管における呼吸に関係するATPシンターゼ依存性成分を増強する。
【0101】
[0116]実施例3
[0117]ATP産生に対するオレウロペインの効果を試験するため、本発明者らは、C2C12細胞から分化した筋管におけるATPを測定した。ATPを、従来の発光系ルシフェリン/ルシフェラーゼ法により測定した。筋管をKRBH培地でインキュベートし、オレウロペインを15分かけて添加した。次いで、筋管を、5mMのカフェインで更に10分間刺激した。最後に、筋管を、溶解緩衝液中でルシフェリン/ルシフェラーゼと共にインキュベートし、存在するATPの量に比例する生物発光シグナルを、Cytation3細胞画像化リーダー(Bioteck)で測定した。
【0102】
[0118]
図10に示すように、カフェインにより刺激されたC2C12由来筋管において、オレウロペインは、ATP産生を増加させる。
【0103】
[0119]実施例4
ミトコンドリアカルシウム上昇に対するオレウロペイン+カルシウムの組み合わせ効果の相乗効果を試験するために、本発明者らは、前述([00108]及び[00109])のように、100μMのヒスタミンで刺激されたHeLa細胞におけるミトコンドリアカルシウム上昇を測定した。
図11の挿入部分に示すように、刺激中、標準的な培地(145mMのNaCl、5mMのKCl、1mMのMgSO
4、10mMのグルコース、及び10mMのHepes、pH7.4)において、添加された外部カルシウムの非存在下(例えば、培地中の混入カルシウムのみ)で、1.5mMのカルシウム、10μMのオレウロペイン、及び1.5mMのカルシウム+10μMのオレウロペインの組み合わせは、統合されたミトコンドリアカルシウム応答に対して明確な効果を促進した。主たる
図11に示すように、オレウロペイン+カルシウムの相乗効果を計算するため、2つの個々の化合物(オレウロペイン及びカルシウム)の総和の理論的効果を、組み合わせの測定された効果と比較した。
図11に示すように、オレウロペインはカルシウムと相乗作用して、刺激中、ミトコンドリアカルシウム上昇を促進する。
【0104】
[0120]参照文献
[0121]Alvarez,J.,& Montero,M.(2002).Measuring [Ca2+] in the endoplasmic reticulum whith aequorin.Cell Calcium,32(5-6),251-260.
【0105】
[0122]Montero,M.,Lobaton,C.D.,Hernandez-Sanmiguel,E.,Santodomingo,J.,Vay,L.,Moreno,A.,& Alvarez,J.(2004).Direct activation of the mitochondrial calcium uniporter by natural plant flavonoids.Biochem J,384(Pt1),19-24.doi:10.1042/BJ20040990.
【0106】
[0123]本明細書で説明されている現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び改変が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。かかる変更及び改変は、本発明の主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、行うことができる。それゆえ、そのような変更及び改変は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。