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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】二次電池電極用の組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20241125BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241125BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241125BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20241125BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241125BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20241125BHJP
   C08G 73/14 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/133
H01M4/134
H01M4/136
C08G73/14
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021577970
(86)(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2020068253
(87)【国際公開番号】W WO2021001315
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】19183739.2
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ビーソ, マウリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】コジョカル, パウラ
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/088929(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0140424(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極形成組成物であって、
(i)50モル%超の繰り返し単位RPAIを含み、当該PAI繰り返し単位のそれぞれが、
- 少なくとも1つの芳香環、
少なくとも1つのイミド基であって、そのままの、又はそのアミド酸形態での若しくはそのアミド酸形態の塩としての少なくとも1つのイミド基、
- イミド基のアミド酸形態には含まれない少なくとも1つのアミド基
を含む1種以上の芳香族ポリアミド-イミド(PAI)ポリマー;
(ii)1種以上の電気活性化合物;
(iii)1種以上の溶媒;
(iv)30℃未満のTg及び0~90J/gの融解エンタルピーを有するフルオロエラストマー及びSBRゴムから選択される、1種以上のコバインダー材料
を含む電極形成組成物。
【請求項2】
前記RPAI繰り返し単位は、以下の一般式:
【化1】
[式中:
- Arは、三価の芳香族基であり、以下の構造:
【化2】
及び対応する任意選択的に置換された構造からなる群から選択され、ここで、Xは、-O-、-C(O)-、-CH-、-C(CF-、-(CF-(nが1~5の整数である)、からなる群から選択され;
- Rは、二価の芳香族基であり、以下の構造:
【化3】
及び対応する任意選択的に置換された構造からなる群から選択され、ここで、Yは、-O-、-S-、-SO-、-CH-、-C(O)-、-C(CF-、-(CF-からなる群から選択され、「p」は、0~5の整数であり、
- 「Cat」は、アルカリ金属カチオン、プロトン化第一級、第二級又は第三級アンモニウムカチオン及び第四級アンモニウムカチオンから選択される一価のカチオンである
を有する単位からなる群から選択される、請求項1に記載の電極形成組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の電極形成組成物であって、当該組成物がアノード形成組成物であり、ここで、全RPAI繰り返し単位のモルで、RPAI-a単位は、0~50%を表し、RPAI-b単位は、0~50%を表し、RPAI-c単位は、50~100%を表す電極形成組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の電極形成組成物であって、当該組成物がアノード形成組成物であり、ここで、前記1種以上の溶媒は水を含み、前記1種以上の電気活性化合物は炭素系材料及び/又はケイ素系材料を含む電極形成組成物。
【請求項5】
請求項2に記載の電極形成組成物であって、当該組成物がカソード形成組成物であり、ここで、全RPAI繰り返し単位のモルで、RPAI-a単位は、50~100%を表し、RPAI-b単位は、0~50%を表し、RPAI-c単位は、0~50%を表す電極形成組成物。
【請求項6】
前記1種以上のコバインダー材料は、VDF、TFE及びHFPのコポリマーであるフルオロエラストマーを含む請求項1~のいずれか一項に記載の電極形成組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の電極形成組成物であって、
- 80重量%~99重量%の電気活性化合物
- 0.5重量%~10重量%のPAIポリマー、
- 0.1重量%~5重量%のコバインダー
を含み、
- コバインダーとバインダーとの間の重量比が、2以下であり、
ここで、全ての百分率は、本発明の前記電極形成組成物中の総「固形分」の重量百分率である、電極形成組成物。
【請求項8】
電極の製造プロセスであって、当該プロセスが、
(i)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供する工程と;
(ii)請求項1~のいずれか一項に記載の電極形成組成物を提供する工程と;
(iii)工程(i)において提供された前記金属基材の前記少なくとも1つの表面上に前記電極形成組成物を塗布し、それによって前記電極形成組成物で少なくとも1つの表面上にコートされた金属基材を含む組立体を提供する工程と;
(iv)工程(iii)において提供された前記組立体を乾燥させる工程と;
(v)任意選択的に、工程(iv)において得られた乾燥した組立体を硬化工程にかける工程と
を含むプロセス。
【請求項9】
工程(iii)下で、前記電極形成組成物は、キャスティング、印刷又はロールコーティングによって前記金属基材上に塗布される、請求項に記載のプロセス。
【請求項10】
金属基材と、
- 前記金属基材の少なくとも1つの表面上に直接接着させられた、
(i)50モル%超の繰り返し単位RPAIを含み、当該PAI繰り返し単位のそれぞれは、
- 少なくとも1つの芳香環、
少なくとも1つのイミド基であって、そのままの、又はそのアミド酸形態での若しくはそのアミド酸形態の塩としての少なくとも1つのイミド基、
- イミド基のアミド酸形態には含まれない少なくとも1つのアミド基
を含む1種以上の芳香族ポリアミド-イミドポリマー(PAI);
(ii)1種以上の電気活性化合物;
(iii)20℃未満のTgを有する及び0~90J/gの融解エンタルピーを有するフルオロエラストマー及びSBRゴムから選択される、1種以上のコバインダー材料
を含む組成物からなる少なくとも1つの層と
を含む電極。
【請求項11】
前記電気活性化合物は、炭素系材料及び/又はケイ素系材料を含み、前記電極は負極である、請求項10に記載の電極。
【請求項12】
前記電気活性化合物は、リチウム含有化合物を含み、前記電極は正極である、請求項10に記載の電極。
【請求項13】
請求項1012のいずれか一項に記載の電極を含む電気化学デバイス。
【請求項14】
請求項13に記載の電気化学デバイスであって、前記電気化学デバイスが、
- 正極及び負極
を含む二次電池であり、
前記正極及び前記負極の少なくとも1つが、請求項1012のいずれか一項に記載の電極である、電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年7月1日出願の欧州特許出願第19183739.2号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、電極形成組成物に、電極の製造プロセスにおける前記電極形成組成物の使用に、前記電極に及び前記電極を含む二次電池などの電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
二次電池などの電気化学デバイスは、典型的には、正極、負極、セパレータ及び電解質を含む。
【0004】
二次電池用の電極は、通常、電極形成組成物を、「電流コレクタ」としても知れられる金属基材上へ塗布することによって製造される。電極形成組成物は、典型的には、バインダーを、粉末状の電気活性化合物並びに任意選択的に、溶媒、導電性を高める及び/又は粘度を制御するための材料などの他の原料と混合することによって形成される。バインダーは、電流コレクタへの及び電気活性化合物への良好な接着性を確保し、こうして必要に応じて電気活性材料が電子を移動させることを可能にしなければならないので、電極の重要な構成要素である。現在の市販の電池は、典型的には、黒鉛をアノードにおける電気活性化合物として使用し、ニッケル及びリチウムを含有する混合酸化物をカソードにおける電気活性化合物として使用している。電極形成組成物は、典型的には、電流コレクタ上に塗布され、乾燥させられる。得られたシートは、普通は、カレンダー加工されるか又はさもなければ機械的に処理され、圧延される。個々の電極が、次いで、このシートから切り取られる。
【0005】
バインダーの中で、芳香族ポリアミド-イミド(PAI)ポリマーが、正極及び負極の両方で使用される場合に興味ある特性を有する。特に、PAIポリマーは、カソードで使用される場合に、一般的に使用されるフルオロポリマーよりも強い電流コレクタへの接着性を示す。アノードで使用される場合、PAIポリマーは、電池製造における有機溶媒の使用量を著しく低減する水性プロセスを用いて組み入れることができ、同時に、アノード用の従来のバインダー(PVDF及び/又はSBRゴムをベースとする)を使用して結合するのが非常に困難であるケイ素含有電気活性材料などのある種の電気活性材料への良好な接着性を有する。
【0006】
バインダーとしてのPAIポリマーの適用を今までに制限してきた1つの要因は、それらの比較的低い可撓性である。電池の設計に応じて、製造中に、電極は折り曲げられ得る又は巻かれ得るし、完成電池もまた使用されているときに機械的ストレスを受け得るので、可撓性は、電極形成組成物にとって重要である。更にいくつかの電極組成物は、電池を充電する/放電するときに体積変化を招き得、それは電極材料内で機械的ストレスを引き起こし得る。ケイ素含有電気活性化合物に富む黒鉛アノードは、はるかにより高いエネルギー容量を提供することができる、より大きいリチウム濃度を組み入れるそれらの能力のために、極めて大きい注目を集めている。これらのアノード設計の欠点は、ケイ素含有電気活性化合物の粒子が、リチウム合金化のために、電池の充電/放電中に起こる極めて大きい体積変化に見舞われることである。この体積変化は、電気活性材料とバインダーとの間の界面で強い機械的ストレスを引き起こし得る。
【0007】
機械的ストレスを受けるときに、十分に可撓性ではない電極形成組成物は、電流コレクタから分離するか又は電極構造内に断絶若しくは割れ目を形成し、例えば、電気活性材料付近で構造の連続性を低減し、こうして電池の効率を全体的に低下させる。例えば、それは、深刻な粉状化を引き起こし、Si粒子と炭素導電剤との間の電気的接触を破壊し得る。それは、また、とりわけ高い電流密度において、不安定な固体電解質界面(SEI)形成を引き起こし、電極の劣化及び急激な容量低下をもたらし得る。
【0008】
依然として、PAIポリマーをバインダーとして使用する、そして電極製造中に起こる機械的ストレス並びに使用中に起こる及び、充電及び放電サイクル中の、特にケイ素含有電気活性材料を含むアノードにおける、電極材料の体積膨張及び収縮によって引き起こされる機械的ストレスに耐えることができる電極形成組成物が当技術分野において必要とされている。本発明は、PAIポリマーを含む及び機械的ストレスに耐えることができ、同時に、カソードに及びアノードに両方で使用された場合に驚くべき接着性能を示す新しい電極形成組成物を提供することによってこのニーズに対処するものである。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、電極形成組成物であって、
(i)50モル%超の繰り返し単位RPAIを含み、当該PAI繰り返し単位のそれぞれが、
- 少なくとも1つの芳香環、
少なくとも1つのイミド基であって、そのままの、又はそのアミド酸形態での若しくはそのアミド酸形態の塩としての少なくとも1つのイミド基、
- イミド基のアミド酸形態には含まれない少なくとも1つのアミド基
を含む1種以上の芳香族ポリアミド-イミド(PAI)ポリマー;
(ii)1種以上の電気活性化合物;
(iii)1種以上の溶媒;
(iv)30℃未満のTgを有する及び0~90J/gの融解エンタルピーを有するポリマーの中で選択される、1種以上のコバインダー材料を含む電極形成材料に関する。
【0010】
本発明の電極形成組成物(C)は、複合負極の、好ましくは電気化学デバイス用のケイ素含有複合負極の製造に特に好適である。
【0011】
更なる態様において、本発明は、記載されたような電極形成組成物を使用する電極の製造プロセスに関する。
【0012】
更なる態様において、本発明は、そのようなプロセスから得られる電極に関する。
【0013】
更なる態様において、本発明は、前記電極を含む電気化学デバイスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
当技術分野において公知であるように、電極形成組成物は、固体構成要素が液体中に溶解しているか又は分散している、組成物、典型的には流体組成物であって、金属基材上へ塗布し、その後乾燥させ、こうして、金属基材が電流コレクタとして働く電極を形成することができる組成物である。電極形成組成物は、典型的には、少なくとも電気活性材料と少なくともバインダーとを含む。
【0015】
バインダー
本発明の電極形成組成物は、バインダーとして機能する1種以上の芳香族ポリアミド-イミド(PAI)ポリマーを含む。用語「芳香族ポリアミド-イミドポリマー」は、50モル%超の繰り返し単位RPAIを含む任意のポリマーであって、前記繰り返し単位RPAIが、少なくとも1つの芳香環、少なくとも1つのイミド基(そのままの、そのアミド酸の形態での、又はそのアミド酸形態の塩として)、及びイミド基のアミド酸形態中に含まれない少なくとも1つのアミド基を含む、ポリマーを意味することを意図する。好ましくは、本発明のPAIポリマーは、2000~10000ダルトンに含まれる数平均分子量を有する。
【0016】
繰り返し単位(RPAI)は、好ましくは、一般式(RPAI-a)(RPAI-b)及び(RPAI-c):
【化1】
[式中:
- Arは、三価の芳香族基であり;好ましくは、Arは、以下の構造:
【化2】
及び対応する任意選択的に置換された構造からなる群から選択され、ここで、Xは、-O-、-C(O)-、-CH-、-C(CF-、nが1~5の整数である、-(CF-からなる群から選択され、
より好ましくは、Arは、
【化3】
であり、
- Rは、二価の芳香族基であり;好ましくは、Rは、以下の構造:
【化4】
及び対応する任意選択的に置換された構造からなる群から選択され、ここで、Yは、-O-、-S-、-SO-、-CH-、-C(O)-、-C(CF-、-(CF-(pは、0~5の整数である)からなる群から選択され、
より好ましくは、Rは、
【化5】
であり、
- 「Cat」は、アルカリ金属カチオン、プロトン化第一級、第二級若しくは第三級アンモニウムカチオン、及び第四級アンモニウムカチオンから好ましくは選択される一価のカチオンであり、より好ましくはNa、K及びLiから選択され、更に好ましくはLiである]
のいずれかの単位からなる群から選択される。
【0017】
全ての式において、浮遊結合は、環上の浮遊結合に最も近い炭素のいずれかに置換基が結合していることができることを示す。言い換えれば、
【化6】
は、各式において両方:
【化7】
を表す。
【0018】
繰り返し単位(RPAI)は、好ましくは、それらのアミド-イミド(RPAI-a)、アミド-アミド酸(RPAI-b)又はアミド、アミド酸塩(RPAI-c)形態での、繰り返し単位(l)、(m)及び(n)から選択される。繰り返し単位(l)、(m)及び(n)は、本明細書では以下、簡潔さのために、それらのアミド-イミド形態(RPAI-a)でのみ表され、他の形態(RPAI-b)及び(RPAI-c)は、当業者には容易に導き出せる。
【化8】
【0019】
最も好ましくは、ポリマー(PAI)は、90モル%超の繰り返し単位(RPAI)を含む。更により好ましくは、それは、繰り返し単位(RPAI)以外の繰り返し単位を全く含有しない。
【0020】
本発明の組成物がアノード形成組成物である場合、PAIポリマーにおいて、総RPAI繰り返し単位のモルで、RPAI-a単位は、0~50%、好ましくは0~10%を表し、RPAI-b単位は、0~50%、好ましくは0~10%を表し、RPAI-c単位は、50~100%、好ましくは80~100%を表すことが好ましい。
【0021】
本発明の組成物がカソード形成組成物である場合、PAIポリマーにおいて、総RPAI繰り返し単位のモルで、RPAI-a単位は、50~100%、好ましくは80~100%を表し、RPAI-b単位は、0~50%、好ましくは0~10%を表し、RPAI-c単位は、0~50%、好ましくは0~10%を表すことが好ましい。
【0022】
ポリマー(PAI)は、とりわけ、商標名TORLON(登録商標)でSolvay Specialty Polymers USA,L.L.C.によって商業化されている。
【0023】
コバインダー
本発明の電極形成組成物は、また、1種以上のコバインダー材料を含む。コバインダーの機能は、可撓性を完成電極に付与すること、並びに電流コレクタへの及び電気活性化合物への組成物の接着性を増加させることである。これらの2つの効果は、組み合わせて、多くの電池構成でのこれらのPAI系電極の使用を可能にする、機械的ストレスに対する増加した耐性を本発明の電極に提供し、ここで、コバインダーなしのPAI系電極組成物は、電流コレクタ又は電気活性化合物からの電極組成物の破砕又は分離をもたらすであろう。
【0024】
本発明のためのコバインダーは、+30℃未満、好ましくは-50℃~+20℃、より好ましくは-40℃~0℃に含まれる(DSCによって測定されるような)Tgを有する、及び0~90J/g、好ましくは0~50J/g、より好ましくは0~30J/gの(DSCによって測定されるような)融解エンタルピーを有するポリマーの中で選択される。
【0025】
好ましくは、コバインダー材料は、フルオロエラストマー及び/又はSBRゴムから選択される。
【0026】
別の実施形態において、組成物がフルオロエラストマーをコバインダー材料として含む場合、組成物は、SBRゴムを含まない。
【0027】
本発明に好適なフルオロエラストマーは、上で定義されたようなTg及び融解エンタルピーを有する部分的に及び完全にフッ素化されたフルオロエラストマーの中で選択することができる。用語「フルオロエラストマー」は、真のエラストマーを得るための主構成成分として機能するフルオロポリマー樹脂であって、前記フルオロポリマー樹脂が、10重量%超、好ましくは30重量%超の、少なくとも1個のフッ素原子を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー(本明細書では以下、フッ素化モノマー)に由来する繰り返し単位と、任意選択的に、フッ素原子を含まない少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー(本明細書では以下、含水素モノマー)に由来する繰り返し単位とを含むフルオロポリマー樹脂を示すことを意図する。
【0028】
真のエラストマーは、ASTM,Special Technical Bulletin,No.184標準により、室温でそれらの固有長さの2倍まで伸張させることができ、且つ、5分間張力下にそれらを保持した後に解放した時点で、同時にそれらの初期長さの10%以内まで復帰する材料として定義されている。
【0029】
一般にフルオロエラストマーは、少なくとも1つのフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位を含み、ここで、前記フッ素化モノマーは、一般に、
- テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン、及びヘキサフルオロイソブチレンなどの、C~Cフルオロ-及び/又はパーフルオロレフィン;
- フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)及びトリフルオロエチレン(TrFE)などの、C2~C8含水素モノフルオロオレフィン;
- 式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~C(パー)フルオロアルキル又は1つ以上のエーテル基を有するC~C(パー)フルオロオキシアルキルである)に従う(パー)フルオロアルキルエチレン;
- クロロトリフルオロエチレン(CTFE)のような、クロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン;
- 式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cフルオロ-若しくはパーフルオロアルキル、例えば、-CF、-C、-Cである)に従うフルオロアルキルビニルエーテル;
- 式CH=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cフルオロ-若しくはパーフルオロアルキル、例えば、-CF、-C、-Cである)に従うヒドロフルオロアルキルビニルエーテル;
- 式CF=CFOX(式中、Xは、1つ以上のエーテル基を有するC~C12オキシアルキル、又はC~C12(パー)フルオロオキシアルキルである)に従うフルオロ-オキシアルキルビニルエーテル;特に式CF=CFOCFORf2(式中、Rf2は、C~Cフルオロ-若しくはパーフルオロアルキル、例えば、-CF、-C、-Cであるか又は-C-O-CFのような、1つ以上のエーテル基を有するC~C(パー)フルオロオキシアルキルである)に従う(パー)フルオロ-メトキシ-ビニルエーテル;
- 式CF=CFOY(式中、Yは、C~C12アルキル若しくは(パー)フルオロアルキル、又はC~C12オキシアルキル若しくはC~C12(パー)フルオロオキシアルキルであり、前記Y基は、カルボン酸基又はスルホン酸基を、その酸、酸ハライド若しくは塩形態で含む)に従う官能性フルオロ-アルキルビニルエーテル;
- 式:
【化9】
(式中、互いに等しいか若しくは異なる、Rf3、Rf4、Rf5、Rf6のそれぞれは、独立して、フッ素原子、C~Cフルオロ-若しくはパー(ハロ)フルオロアルキル(1個以上の酸素原子を任意選択的に含む)、例えば-CF、-C、-C、-OCF、-OCFCFOCFである)の(パー)フルオロジオキソール
からなる群から選択される。
【0030】
含水素モノマーの例は、とりわけ、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどの、含水素アルファ-オレフィン、ジエンモノマー、スチレンモノマーであり、アルファ-オレフィンが典型的に使用される。
【0031】
フルオロエラストマーは、一般に、非晶質生成物又は低い程度の結晶化度(20体積%未満の結晶相)を有する生成物である。
【0032】
本発明においてコバインダーとして使用するためのフルオロエラストマーは、
(1)VDF系コポリマーであって、VDFが、
(a)テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)などの、C~Cパーフルオロレフィン;
(b)フッ化ビニル(VF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、ヘキサフルオロイソブテン(HFIB)、式CH=CH-R(式中、Rは、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレンなどの、水素含有C~Cオレフィン;
(c)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などの、ヨウ素、塩素及び臭素の少なくとも1つを含むC~Cフルオロオレフィン;
(d)式CF=CFOR(式中、Rは、C~C(パー)フルオロアルキル基、好ましくは、CF、C、Cである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル(PAVE);
(e)式CF=CFOX(式中、Xは、カテナリー酸素原子を含むC~C12((パー)フルオロ)-オキシアルキル、例えばパーフルオロ-2-プロポキシプロピル基である)の(パー)フルオロ-オキシ-アルキルビニルエーテル;
(f)式:
【化10】
(式中、互いに等しいか若しくは異なる、Rf3、Rf4、Rf5、Rf6のそれぞれは、フッ素原子、及びC~C(パー)フルオロアルキル基(1個又は2個以上の酸素原子を任意選択的に含む)、例えばとりわけ-CF、-C、-C、-OCF、-OCFCFOCFからなる群から独立して選択される)
を有する(パー)フルオロジオキソール;好ましくはパーフルオロジオキソール;
(g)式:
CF=CFOCFORf2
[式中、Rf2は、C~C(パー)フルオロアルキル;C~C環状(パー)フルオロアルキル;及び少なくとも1個のカテナリー酸素原子を含む、C~C(パー)フルオロオキシアルキルからなる群から選択され;Rf2は、好ましくは-CFCF(MOVE1);-CFCFOCF(MOVE2);又は-CF(MOVE3)である]
を有する(パー)フルオロ-メトキシ-ビニルエーテル(本明細書では以下、MOVE);
(h)C~C非フッ素化オレフィン(Ol)、例えばエチレン及びプロピレン
からなる群から選択される少なくとも1つの追加のコモノマーと共重合させられている、VDFベースのコポリマー;並びに
(2)TFEベースのコポリマーであって、TFEが、上で詳述されたような(c)、(d)、(e)、(g)、(h)及び(i)からなる群から選択される少なくとも1つの追加のコモノマーと共重合させられているTFEベースのコポリマー
の中で好ましくは選択される。
特に好ましいフルオロエラストマーは、VDFと、TFEとHFPとのコポリマーである。
【0033】
任意選択的に、本発明のためのフルオロエラストマーは、また、一般式:
【化11】
[式中、互いに等しいか若しくは異なる、R、R、R、R、R及びRは、H又はC~Cアルキルであり;Zは、好ましくは少なくとも部分的にフッ素化された、酸素原子を任意選択的に含有する、線状若しくは分岐C~C18炭化水素基(アルキレン若しくはシクロアルキレン基を含む)、又は1つ以上のカテナリーエーテル結合を含む(パー)フルオロ(ポリ)オキシアルキレン基である]を有するビス-オレフィン[ビス-オレフィン(OF)]に由来する繰り返し単位を含み得る。
【0034】
ビス-オレフィン(OF)は、好ましくは、式(OF-1)、(OF-2)及び(OF-3):
(OF-1)
【化12】
(式中、jは、2~10、好ましくは4~8の整数であり、互いに等しいか若しくは異なる、R1、R2、R3、R4は、H、F、又はC1~5アルキル若しくは(パー)フルオロアルキル基である);
(OF-2)
【化13】
[式中、互いに及び出現ごとに等しいか若しくは異なる、Aのそれぞれは、F、Cl、及びHから独立して選択され;互いに及び出現ごとに等しいか若しくは異なる、Bのそれぞれは、F、Cl、H及びOR(ここで、Rは、部分的に、実質的に又は完全にフッ素化又は塩素化されていることができる分岐又は直鎖アルキル基である)から独立して選択され;Eは、エーテル結合が挿入されていてもよい、任意選択的にフッ素化された、2~10個の炭素原子を有する二価基であり;好ましくは、Eは、mが3~5の整数である、-(CF-基であり;(OF-2)型の好ましいビス-オレフィンは、FC=CF-O-(CF-O-CF=CFである];
(OF-3)
【化14】
(式中、E、A及びBは、上で定義されたものと同じ意味を有し;互いに等しいか若しくは異なる、R5、R6、R7は、H、F又はC1~5アルキル若しくは(パー)フルオロアルキル基である)
に従うものからなる群から好ましくは選択される。
【0035】
本発明の目的に好適なフルオロエラストマーの具体的な組成の中に、以下の組成(モル%単位)を有するフルオロエラストマー:
(i)フッ化ビニリデン(VDF)35~85%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)10~45%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~30%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0~15%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
(ii)フッ化ビニリデン(VDF)50~80%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)5~50%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~20%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
(iii)フッ化ビニリデン(VDF)20~30%、C~C非フッ素化オレフィン(Ol)10~30%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)及び/又はパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)18~27%、テトラフルオロエチレン(TFE)10~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
(iv)テトラフルオロエチレン(TFE)50~80%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)20~50%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
(v)テトラフルオロエチレン(TFE)45~65%、C~C非フッ素化オレフィン(Ol)20~55%、フッ化ビニリデン0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
(vi)テトラフルオロエチレン(TFE)32~60%、C~C非フッ素化オレフィン(Ol)10~40%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)20~40%、フルオロビニルエーテル(MOVE)0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
(vii)テトラフルオロエチレン(TFE)33~75%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)15~45%、フッ化ビニリデン(VDF)5~30%、ヘキサフルオロプロペンHFP 0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
(viii)フッ化ビニリデン(VDF)35~85%、フルオロビニルエーテル(MOVE)5~40%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0~30%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~40%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
(ix)テトラフルオロエチレン(TFE)20~70%、フルオロビニルエーテル(MOVE)30~80%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0~50%、ビス-オレフィン(OF)0~5%
を挙げることができる。
【0036】
フルオロエラストマーは、乳化重合又はマイクロエマルション重合、懸濁重合又はミクロ懸濁重合、バルク重合及び溶液重合などの、任意の公知の方法によって調製することができる。
【0037】
上で定義されたようなフルオロエラストマーは、好ましくは0.001~10マイクロメートル、より好ましくは0.01~1マイクロメートルのISO 22412に従って動的光散乱によって測定されるような平均粒径の微粉化された粒子の水性懸濁液として本発明によるアノードを形成するための電極形成組成物中に好ましくは導入することができる。フルオロエラストマー懸濁液は、典型的には、本発明の電極形成組成物への懸濁液の導入前に10重量%~50重量%の懸濁液を含む。
【0038】
本発明によるカソードを形成するための電極形成組成物の場合には、フルオロエラストマーは、PAIポリマーを溶解させるために使用する溶媒に溶解させる又は懸濁させることができる。好ましい溶媒は、溶媒セクションにおいて下で記載される。
【0039】
本発明に好適なSBRゴムは、上で記載されたような所要のTg及び融解エンタルピーを有するものである。SBRゴムは、2つのタイプ:乳化重合SBR及び溶液重合SBRに分類され、両タイプとも本発明に好適である。乳化重合SBRの例としては、乾燥させられ、及び乾燥ゴムとして使用され得るラテックスとしてそれを得ることが挙げられる。溶液重合SBRの例としては、スチレンとブタジエンとの共重合の異なるタイプを有する、ランダムSBR、ブロックSBR、及び対称ブロックSBRが挙げられる。SBRには、また、スチレンの高い組成比及び高いガラス転移温度(Tg)を有する、高スチレンゴムが含まれる。更に、SBRには、不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリル化合物と共重合させられている、変性SBRが含まれる。これらのタイプのSBRは、物理的特性(例えば、接着特性、強度及び熱的特性)の点で互いにわずかに異なり、その差は、共重合タイプ及びスチレン/ブタジエンの共重合比に起因する。本発明の電極形成組成物の調製に用いられるSBRのタイプは、電極の調製のために用いられる電極活性材料のタイプに従って適切に選択することができる。
【0040】
前述のタイプのSBRの中で、乳化重合又は溶液重合SBRを水に分散させることによって調製された水性懸濁液が、負極を形成する場合に本発明の電極形成組成物の調製での使用に好適である。
【0041】
本発明のSBRの水性懸濁液に用いられるSBRの平均粒径は、ISO 22412に従って動的光散乱によって測定されるように0.01~1マイクロメートルの範囲に好ましくは含まれる。
【0042】
SBR懸濁液は、典型的には、本発明の電極形成組成物への懸濁液の導入前に水懸濁液中に30重量%~60重量%のSBRを含む。
【0043】
電気活性化合物:
本発明の電極形成組成物は、1種以上の電気活性化合物を含む。本発明の目的のためには、用語「電気活性化合物」は、電気化学デバイスの充電段階及び放電段階中にアルカリ若しくはアルカリ土類金属イオンをその構造中に組み入れる又は挿入する及びそれから実質的に放出することができる化合物を意味することを意図する。電気活性化合物は、好ましくは、リチウムイオンを組み入れる又は挿入する、及び放出することができる。
【0044】
本発明の電極形成組成物における電気活性化合物の性質は、前記組成物が正極(カソード)又は負極(アノード)の製造に使用されるかどうかに依存する。
【0045】
リチウムイオン二次電池用の正極を形成する場合、電気活性化合物は、リチウム含有化合物を含み得る。一実施形態において、リチウム含有化合物は、式LiMQ(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びVなどの遷移金属から選択される少なくとも1つの金属であり、Qは、O又はSなどのカルコゲンである)の金属カルコゲナイドであることができる。これらの中で、式LiMO(式中、Mは、上で定義されたものと同じものである)のリチウム系金属酸化物を使用することが好ましい。それらの好ましい例としては、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1~x(0<x<1)及びスピネル構造化LiMnが挙げられ得る。
【0046】
別の実施形態において、リチウムイオン二次電池用の正極を形成する場合に更に、電気活性化合物は、式M(JO1~f(式中、Mはリチウムであり、それは、M金属の20%未満を表す別のアルカリ金属によって部分的に置換されていてもよく、Mは、Fe、Mn、Ni又はそれらの混合物から選択される+2の酸化レベルでの遷移金属であり、それは、+1~+5の酸化レベルでの及びM金属の35%未満を表す1つ以上の追加の金属によって部分的に置換されていてもよく、JOは、任意のオキシアニオンであり、ここで、JはP、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組合せのいずれかであり、Eは、フルオリド、ヒドロキシド又はクロリドアニオンであり、fは、一般に0.75~1に含まれる、JOオキシアニオンのモル分率である)のリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電気活性材料を含み得る。
【0047】
上で定義されたようなM(JO1~f電気活性材料は、好ましくは、ホスフェート系であり、規則正しい又は変性されたかんらん石構造を有し得る。
【0048】
より好ましくは、正極を形成する場合の電気活性化合物は、式Li3~xM’M’’2~y(JO(式中、0≦x≦3,0≦y≦2であり、M’及びM’’は、同じ又は異なる金属であり、それらの少なくとも1つは、遷移金属であり、JOは、好ましくは、別のオキシアニオンで部分的に置換され得るPOであり、ここで、Jは、S、V、Si、Nb、Mo又はこれらの組合せのいずれかである)を有する。更により好ましくは、電気活性化合物は、式Li(FeMn1~x)PO[式中、0≦x≦1であり、ここで、xは好ましくは1である(すなわち、式LiFePOのリチウム鉄ホスフェートである)]のホスフェート系の電気活性材料である。
【0049】
別の実施形態において、正極用の電気活性化合物は、一般式(I)
LiNiM1M2 (I)
(式中、M1及びM2は、互いに同じものであるか若しくは異なり、Co、Fe、Mn、Cr及びVから選択される遷移金属であり、0.5≦x≦1であり、ここで、y+z=1~xであり、Yは、好ましくはO及びSから選択される、カルコゲンである)
のリチウム含有複合金属酸化物から選択される。
【0050】
この実施形態における電気活性化合物は、好ましくは、YがOである式(I)の化合物である。更なる好ましい実施形態において、M1はMnであり、M2はCoであるか又はM1はCoであり、M2はAlである。
【0051】
そのような活物質の例としては、LiNiMnCo(本明細書では以下、NMCと言われる)、及びLiNiCoAl(本明細書では以下、NCAと言われる)が挙げられる。
【0052】
具体的には、LiNiMnCoに関して、マンガン、ニッケル、及びコバルトの含量比を変動させて、電池の電力及びエネルギーの性能を調整することができる。
【0053】
本発明の特に好ましい実施形態において、化合物EAは、上で定義されたような式(I)(式中、0.5≦x≦1、0.1≦y≦0.5、及び0≦z≦0.5である)の化合物である。
【0054】
式(I)の正極用の好適な電気活性化合物の非限定的な例としては、とりわけ:
LiNi0.5Mn0.3Co0.2
LiNi0.6Mn0.2Co0.2
LiNi0.8Mn0.1Co0.1
LiNi0.8Co0.15Al0.05
LiNi0.8Co0.2
LiNi0.8Co0.15Al0.05
LiNi0.6Mn0.2Co0.2
LiNi0.8Mn0.1Co0.1
LiNi0.9Mn0.05Co0.05
が挙げられる。
化合物:
LiNi0.8Co0.15Al0.05
LiNi0.6Mn0.2Co0.2
LiNi0.8Mn0.1Co0.1
LiNi0.9Mn0.05Co0.05
が特に好ましい。
【0055】
リチウムイオン二次電池用の負極を形成する場合に、電気活性化合物は、好ましくは、1種以上の炭素系材料及び/又は1種以上のケイ素系材料を含み得る。
【0056】
いくつかの実施形態において、炭素系材料は、天然若しくは人工黒鉛などの、黒鉛、グラフェン、又はカーボンブラックから選択され得る。これらの材料は、単独で又はそれらの2つ以上の混合物として使用され得る。炭素系材料は好ましくは黒鉛である。
【0057】
ケイ素系化合物は、クロロシラン、アルコキシシラン、アミノシラン、フルオロアルキルシラン、ケイ素、塩化ケイ素、炭化ケイ素及び酸化ケイ素からなる群から選択される1つ以上であり得る。より具体的には、ケイ素系化合物は、酸化ケイ素又は炭化ケイ素であり得る。
【0058】
電気活性化合物中に存在する場合、ケイ素系化合物は、電気活性化合物の総重量に対して1~60重量%、好ましくは5~20重量%の範囲の量で含まれる。
【0059】
溶媒
本発明の電極形成組成物は、1種以上の溶媒を含む。アノード形成生成物用の溶媒は、水を含み得るし、好ましくは水であることができる。これは、結果として生じるコストの削減、可撚物の低減及び環境影響の低減ありで、有機溶媒の全体使用の低減を可能にする。当業者に公知であるように、カソードを形成するための電極形成組成物は、カソード電極活性材料とのその不適合性のために水を含むことができない。カソード形成組成物中の溶媒は、1種以上の有機溶媒、好ましくは極性溶媒を含み、その例としては:N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、トリエチルホスフェート、及びトリメチルホスフェートが挙げられ得る。これらの有機溶媒は、単独で又は2つ以上の化学種の混合物で使用され得る。
【0060】
本発明の電極形成組成物は、典型的には、0.5重量%~10重量%、好ましくは0.8重量%~5重量%のPAIポリマー、0.1重量%から5重量%、好ましくは0.5重量%~3重量%のコバインダーを含む。コバインダーとバインダーとの間の重量比は、2以下、好ましくは1以下である。組成物は、また、80重量%~99重量%の電気活性化合物を含む。全ての百分率は、総「固形分」の重量百分率である。「固形分」とは、「溶媒を除いて本発明の電極形成組成物の原料全て」を意図する。
【0061】
一般に、本発明の電極形成組成物中で、溶媒は、組成物の総量の10重量%~90重量%である。特にアノード形成組成物については、溶媒は、組成物の総量の好ましくは25重量%~75重量%、より好ましくは30重量%~60重量%である。カソード形成組成物については、溶媒は、組成物の総量の好ましくは5重量%~60重量%、より好ましくは15重量%~40重量%である。
【0062】
任意選択の導電剤
1種以上の任意選択の導電剤が、本発明の組成物から作られる結果として生じる電極の導電性を改善するために添加され得る。電池用の導電剤は、当技術分野において公知である。
【0063】
それらの例としては:カーボンブラック、黒鉛微粉末 カーボンナノチューブ、グラフェン、若しくは繊維などの炭素質材料、又はニッケル若しくはアルミニウムなどの金属の微粉末若しくは繊維が挙げられ得る。任意選択の導電剤は、好ましくは、カーボンブラックである。カーボンブラックは、例えば、ブランド名、Super P(登録商標)又はKetjenblack(登録商標)で入手可能である。
【0064】
存在する場合、導電剤は、上記の炭素系材料とは異なる。
任意選択の導電剤の量は、好ましくは、電極形成組成物中の総固形分の0~30重量%である。特にカソード形成組成物については、任意選択の導電剤は、組成物内の固形分の総量の典型的には0重量%~10重量%、より好ましくは0重量%~5重量%である。
ケイ素系電気活性化合物を含まないアノード形成組成物については、任意選択の導電剤は、組成物内の固形分の総量の典型的には0重量%~5重量%、より好ましくは0重量%~2重量%であり、一方、ケイ素系電気活性化合物を含むアノード形成組成物については、より多い量の、組成物内の固形分の総量の典型的には5~20重量%の任意選択の導電剤組成物を導入することが有益であることが分かった。
【0065】
電極製造
本発明の電極形成組成物は、電極の製造プロセスにおいて使用することができ、前記プロセスは、
(i)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供する工程;
(ii)本発明による電極形成組成物を提供する工程;
(iii)電極形成組成物を金属基材の少なくとも1つの表面上に塗布し、それによって少なくとも1つの表面上に前記電極形成組成物でコートされた金属基材を含む組立体を提供する工程;
(iv)工程(iii)において提供された組立体を乾燥させる工程;
(v)任意選択的に、工程(iv)において得られた乾燥した組立体を硬化工程にかける工程
を含む。
【0066】
金属基材は、一般に、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又は銀などの、金属から作られた箔、メッシュ又はネットである。
【0067】
本発明のプロセスの工程(iii)の下で、電極形成組成物は、典型的には、キャスティング、印刷及びロールコーティングなどの任意の好適な手順によって金属基材の少なくとも1つの表面上に塗布される。
【0068】
任意選択的に、工程(iii)は、工程(ii)において提供される電極形成組成物を、工程(iv)において提供される組立体上に塗布することによって、典型的には1回以上繰り返され得る。
【0069】
本プロセスの工程(v)における硬化は、工程(iv)において得られた乾燥した組立体を、少なくとも130℃の、好ましくは少なくとも150℃の温度で、少なくとも30分間熱処理にかけることによって好適には実施される。
【0070】
工程(iv)で得られた乾燥した組立体又は工程(v)で得られた硬化した組立体は、電極の目標空隙率及び密度を達成するために、カレンダー加工プロセスなどの、圧縮工程を更に受け得る。
【0071】
好ましくは、工程(iv)で得られた乾燥した組立体又は工程(v)で得られた硬化した組立体は、ホットプレスされ、圧縮工程中の温度は、25℃~130℃に含まれ、好ましくは約90℃である。
【0072】
得られる電極にとって好ましい目標空隙率は、15%~40%、好ましくは25%~30%に含まれる。電極の空隙率は、電極の測定された密度と理論密度との間の比の一の補数として計算され、ここで:
- 測定される密度は、24mmに等しい直径及び測定された厚さを有する電極の円形部分の体積で割った質量で与えられ、
- 電極の理論密度は、電極の構成要素の密度に電極配合物中のそれらの質量比を掛けた積の合計として計算される。
【0073】
更なる場合に、本発明は、本発明のプロセスによって得られる電極に関する。
【0074】
それ故、本発明は、
- 金属基材と、
- 前記金属基材の少なくとも1つの表面上に直接接着させられた、
(i)50モル%超の繰り返し単位RPAIを含み、当該PAI繰り返し単位のそれぞれが
- 少なくとも1つの芳香環、
少なくとも1つのイミド基であって、そのままの、又はそのアミド酸形態での若しくはそのアミド酸形態の塩としての少なくとも1つのイミド基、
- イミド基のアミド酸形態には含まれない少なくとも1つのアミド基
を含む1種以上の芳香族ポリアミド-イミドポリマー(PAI);
(ii)1種以上の電気活性化合物;
(iii)20℃未満のTgを有する及び0~90J/gの融解エンタルピーを有するポリマーの中で選択される、1種以上のコバインダー材料
を含む組成物からなる少なくとも1つの層と
を含む電極に関する。
【0075】
前記金属基材の少なくとも1つの表面上へ直接接着させられた組成物は、電極の製造プロセス中に、例えば工程iii(乾燥工程)において及び/又は任意選択の硬化及び圧縮工程において溶媒が少なくとも部分的に除去されている本発明の電極形成組成物に相当する。それ故、本発明の電極形成組成物に関して記載される好ましい実施形態は全て、製造プロセス中に除去される溶媒を除いて、本発明の電極において、前記金属基材の少なくとも1つの表面上へ直接接着させられた組成物にも適用できる。
【0076】
本出願人は、意外にも、本発明の電極形成組成物が、電流コレクタへの及び電気活性化合物へのバインダーの良好な接着性を示すことを見出した。特に、本発明の組成物は、多数の充電/放電サイクルの後でさえも維持される、ケイ素系電気活性化合物への傑出した接着性を示す。当技術分野において公知であるように、PAI系電極形成組成物は、電流コレクタ材料上での傑出した接着性を有するが、それらはまた、比較的硬く、且つ、壊れやすく、その結果、外因(例えば、電池の曲げ)又は内因(例えばアノードにおけるシリコーン系化合物などの、例えば充電/放電サイクル中の電池の構成要素の体積変化)に由来する機械的ストレスは、電極形成組成物の分離の破壊による電池異常、又はシリコーン系材料との接触の低下を引き起こし得る。意外にも、本発明の電極形成組成物は、電流コレクタ材料及び電気活性材料、特に、電池中のそれらの体積変化のために接着するのが特に困難であるアノードにおけるシリコーン系化合物へのPAIの接着の傑出した特性を更に改善することが見出され、その結果、得られた電極は、損傷することなしに機械的ストレスに耐えることができる。
【0077】
本発明の電極は、電気化学デバイスでの、特に二次電池での使用に特に好適である。
【0078】
本発明の目的のためには、用語「二次電池」は、再充電可能な電池を意味することを意図する。本発明の二次電池は、好ましくは、アルカリ二次電池又はアルカリ土類二次電池である。本発明の二次電池は、より好ましくは、リチウムイオン二次電池である。本発明による電気化学デバイスは、当業者に公知の標準的な方法によって調製することができる。
【0079】
本発明は、これから、以下の実施例に関連して説明され、その目的は、単に例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない。
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が、それが用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【実施例
【0080】
原材料
以下の原材料を以下の実施例において使用した:
- 以下に記載されるように調製された、PAIポリマー水溶液(5.00重量%)
- Aldrichから入手可能なトリメリット酸クロリド(TMAC)、オキシジアニリン(ODA);
- VWR International又はSigma Aldrichから入手可能なN-メチルピロリドン(NMP);
- Sigma-Aldrichから入手可能な炭酸リチウム;
- 酸化ケイ素、信越製のKSC-1064、理論容量は、約2100mAh/gである;
- カーボンブラック、Imerys S.A製のSC45;
- 黒鉛、Imerys製のACTILION 2.
- カルボキシメチルセルロース(CMC)、Nippon Paper製のMAC 350 HC;
- スチレン-ブタジエンゴム(SBR)懸濁液(水中38重量%)、ZEON Corporation製のZeon(登録商標)BM-480B;
- フルオロエラストマー:GPCによって測定される約500,000の重量平均分子量及び約4の多分散性を有する、Solvay Specialty Polymers Italy製のISO 22412に従って動的光散乱によって測定される400ナノメートルの平均粒径を有する粒子のコポリマー VDF 60モル% TFE 20モル% HFP 20モル%水性分散液(30.4重量%);
- エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=重量パーセントで1:1:BASF製のSelectilyteTM LP 30;
- Sigma Aldrich製のフルオロエチレンカーボネート(F1EC)
- Sigma Aldrich製のビニレンカーボネート。
【0081】
PAIポリマー5重量%水溶液の調製
【化15】
ODAモノマー(60.0g、0.3モル)を、オーバーヘッド機械攪拌機を備えた4口ジャケット付き丸底フラスコに装入した。NMP(250mL)をフラスコに装入し、混合物を窒素雰囲気下で弱く攪拌しながら10℃に冷却した。フラスコに加熱添加漏斗を取り付け、それにTMAC(64.0g、0.3モル)を装入し、最低100℃に加熱した。融解したTMACを、激しく撹拌しながら40℃を超えないのに十分な速度でNMP中のジアミンの溶液に添加した。添加が完了すると、外部加熱を適用して35~40℃に2時間維持した。追加のNMP(50mL)を添加し、反応混合物を500mLビーカー中へ排出した。ポリマー溶液を、ステンレス鋼高せん剪断ミキサー中の水(4000mL)にゆっくりと添加した。沈殿したポリマー(PAI樹脂)を濾過し、水で複数回洗浄して残留溶媒及び酸副生成物を除去し、20.7%固形分のスラリー/ウェットケーキを得た。酸価滴定によって測定されるように、イミド化度は、50モル%以下であった。
脱イオン水(175~250mL)を、オーバーヘッド機械攪拌機を備えた4口ジャケット付き丸底フラスコに装入した。必要量の炭酸リチウムを添加し、溶液を70℃に加熱した。激しく攪拌しながら、上記で得られたPAI樹脂(20.7%で60.5g固形分)を徐々に添加し、更に添加する前に各部分を溶解させた。全ポリマーを反応器に装入した後、加熱を1~2時間続行し、その時点で均質な溶液を排出した。溶液を水中5重量%まで更に希釈した。
【0082】
電極形成組成物及び負極の調製
電極形成組成物及び負極を、以下の装置を用いて下記に詳述されるように調製した:
機械的ミキサー:プラネタリーミキサー(Speedmixer)及び平らなPTFE軽量分散羽根車付きDispermat(登録商標)シリーズの高せん断機械的ミキサー;
フィルムコーター/ドクターブレード:Elcometer(登録商標)4340電動/自動フィルムアプリケーター;
真空炉:真空のBINDER APTラインVD 53;並びに
ロールプレス:精密4インチホットローリングプレス/100℃までカレンダー処理。
【0083】
PAI樹脂及びSBRを含む負極の調製例
40.00gの、水中のPAIの5.00重量%溶液、11.18gの脱イオン水、7.05gの酸化ケイ素、39.95gの黒鉛、及び0.50gのカーボンブラックを混合することによって水性組成物を調製した。混合物をプラネタリーミキサーにおいて10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで1時間の間800rpmでの高せん断ミキサーにおいて再混合した。1.32gのSBR分散液を混合物に添加し、次いで1hの間800rpmで再混合し、こうして電極形成組成物を得た。電極形成組成物を次いで、ドクターブレードで18.5μm厚さの銅箔上にコートし、60℃の温度で約60分間オーブン中で乾燥させた。乾燥したコーティング層の厚さは約64μmであった。次いで、乾燥したシートをロールプレスにおいて60℃でホットプレスして1.5g/ccの目標ローディングを達成した。得られた負極シートは、以下の組成を有した:14.1重量%の酸化ケイ素、79.9重量%の黒鉛、4重量%のPAI、1重量%のSBR及び1重量%のカーボンブラック。電極E1を、記載されたように調製された電極シートから20mm×150mmの長方形形状で切り取った。
【0084】
PAI樹脂及びフルオロエラストマーを含む負極の調製例
水中の、40.00gのPAI樹脂の5.00重量%溶液、10.86gの脱イオン水、7.05gの酸化ケイ素、39.95gの黒鉛及び0.50gのカーボンブラックを混合することによって水性組成物を調製した。混合物をプラネタリーミキサーにおいて10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで1hの間800rpmで高せん断ミキサーにおいて再混合した。1.64gのフルオロエラストマー懸濁液を混合物に添加し、次いで1hの間800rpmで再混合し、こうして電極形成組成物を得た。
【0085】
電極形成組成物を次いで、ドクターブレードで18.5μm厚さの銅箔上にコートし、60℃の温度で約60分間オーブン中で乾燥させた。乾燥したコーティング層の厚さは約65μmであった。次いで、乾燥したシートをロールプレスにおいて60℃でホットプレスして1.5g/ccの目標ローディングを達成した。得られた負極シートは、以下の組成を有した:14.1重量%の酸化ケイ素、79.9重量%の黒鉛、4重量%のPAI、1重量%のフルオロエラストマー及び1重量%のカーボンブラック。
電極E2を、記載されたように調製された電極シートから20mm×150mmの長方形形状で切り取った。
【0086】
比較例1:コバインダーなしの、PAIを含む負極
2.50gの脱イオン水の50.00gのPAI樹脂の5.00重量%溶液、7.05gの酸化ケイ素、39.95gの黒鉛、及び0.50gのカーボンブラックを混合することによって水性組成物を調製した。
混合物をプラネタリーミキサーにおいて10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで2hの間800rpmで高せん断ミキサーにおいて再混合し、こうして電極形成組成物を得た。
電極形成組成物を次いで、ドクターブレードで18.5μm厚さの銅箔上にコートし、60℃の温度で約60分間オーブン中で乾燥させた。乾燥したコーティング層の厚さは約61μmであった。次いで、乾燥したシートをロールプレスにおいて60℃でホットプレスして1.5g/ccの目標ローディングを達成した。得られた負極シートは、以下の組成を有した:14.1重量%の酸化ケイ素、79.9重量%の黒鉛、5重量%のPAI、及び1重量%のカーボンブラック。
電極C1を、記載されたように調製された電極シートから20mm×150mmの長方形形状で切り取った。
【0087】
負極に関する接着特性測定
金属箔上の電極組成物コーティングの接着性を評価するために、20℃で300mm/分の速度で標準ASTM D903に従うことによって、電極(E1)、電極(E2)、及び電極(C1)に関して剥離試験を行った。
結果を表1に示す。
結果は、意外にも、本発明による電極(E1)及び(E2)が、電極(C1)よりも高い接着性を示すことを示している。
【0088】
【表1】