(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】ハイブリッドポリアミド粒子で強化されたマトリックス樹脂
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20241125BHJP
【FI】
C08J5/04 CFC
C08J5/04 CFG
(21)【出願番号】P 2021578058
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 US2020039294
(87)【国際公開番号】W WO2021003047
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-06-15
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503308494
【氏名又は名称】ヘクセル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン、イェン - セイン
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/115844(WO,A1)
【文献】特表2020-508382(JP,A)
【文献】特表2016-505409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予備含浸複合材料であって、
A)強化繊維;
B)未硬化樹脂マトリックスであって、
a)エポキシ樹脂成分;
b)
ポリイミド粒子とハイブリッドポリアミド粒子
との混合物を含む熱可塑性粒子成分であって、前記ハイブリッドポリアミド粒子それぞれが、半結晶性ポリアミドと非晶質ポリアミドとの混合物を含み、前記非晶質ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して
60~80重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して20~
40重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミド及び非晶質ポリアミドが、1,10-デカンジカルボン酸と式
【化1】
を有するアミン成分とのポリマー縮合生成物で構成される、前記ポリアミドの異なる立体異性形態である、熱可塑性粒子成分、
c)ポリエーテルスルホンを含む熱可塑性強化剤、及び
d)硬化剤
を含む、未硬化樹脂マトリックス
を含む、予備含浸複合材料。
【請求項2】
前記非晶質ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して65~75重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して25~35重量%の量で存在する、請求項1に記載の予備含浸複合材料。
【請求項3】
前記非晶質ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して70±1重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して30±1重量%の量で存在する、請求項2に記載の予備含浸複合材料。
【請求項4】
前記強化繊維が、10,000~14,000の炭素フィラメントをそれぞれ含む複数の炭素繊維トウを含み、前記炭素トウそれぞれの長さ当たりの重量が0.2~0.6グラム/メートルであり、前記炭素トウそれぞれの引張強度が750~860キロポンド/平方インチであり、前記炭素トウそれぞれの引張弾性率が35~45メガポンド/平方インチである、請求項1に記載の予備含浸複合材料。
【請求項5】
前記硬化剤が、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン及び4,4’-ジアミノジフェニルスルホンからなる群から選択される芳香族アミンである、請求項1に記載の予備含浸複合材料。
【請求項6】
請求項1に記載の予備含浸複合材料を硬化させることによって形成された、複合部品又は複合構造体。
【請求項7】
前記複合部品又は複合構造体が、航空機の一次構造体の少なくとも一部を形成する、請求項
6に記載の複合部品又は複合構造体。
【請求項8】
硬化により複合部品を形成することができる予備含浸複合材料を作製する方法であって、
A)炭素繊維を含む強化繊維を提供するステップ;並びに
B)前記強化繊維に未硬化樹脂マトリックスを含浸させるステップであって、前記未硬化樹脂マトリックスが、
a)エポキシ樹脂成分;
b)
ポリイミド粒子とハイブリッドポリアミド粒子
との混合物を含む熱可塑性粒子成分であって、前記ハイブリッドポリアミド粒子それぞれが、半結晶性ポリアミドと非晶質ポリアミドとの混合物を含み、前記非晶質ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して
60~80重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して20~
40重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミド及び非晶質ポリアミドが、1,10-デカンジカルボン酸と式
【化2】
を有するアミン成分とのポリマー縮合生成物で構成される、前記ポリアミドの異なる立体異性形態である、熱可塑性粒子成分、
c)ポリエーテルスルホンを含む熱可塑性強化剤、及び
d)硬化剤
を含む、ステップ
を含む、予備含浸複合材料を作製する方法。
【請求項9】
前記非晶質ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して65~75重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して25~35重量%の量で存在する、請求項
8に記載の予備含浸複合材料を作製する方法。
【請求項10】
前記非晶質ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して70±1重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して30±1重量%の量で存在する、請求項
8に記載の硬化により複合部品を形成することができる予備含浸複合材料を作製する方法。
【請求項11】
前記強化繊維が、10,000~14,000の炭素フィラメントをそれぞれ含む複数の炭素繊維トウを含み、前記炭素トウそれぞれの長さ当たりの重量が0.2~0.6グラム/メートルであり、前記炭素トウそれぞれの引張強度が750~860キロポンド/平方インチであり、前記炭素トウそれぞれの引張弾性率が35~45メガポンド/平方インチである、請求項
8に記載の硬化により複合部品を形成することができる予備含浸複合材料を作製する方法。
【請求項12】
前記硬化剤が、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン及び4,4’-ジアミノジフェニルスルホンからなる群から選択される芳香族アミンである、請求項
8に記載の硬化により複合部品を形成することができる予備含浸複合材料を作製する方法。
【請求項13】
請求項
8に記載の予備含浸複合材料を提供するステップと、前記予備含浸複合材料を硬化させて複合部品又は複合構造体を形成するステップとを含む、複合部品又は複合構造体を作製する方法。
【請求項14】
前記複合部品又は複合構造体が、航空機の一次構造体の少なくとも一部を形成する、請求項
13に記載の複合部品又は複合構造体を作製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、航空宇宙部品としての使用にとりわけ適した高性能複合部品の作製に使用される予備含浸複合材料(プリプレグ)に関する。本発明は、熱可塑性材料によって強化され、そのようなプリプレグの樹脂マトリックスとして使用されるエポキシ樹脂に関する。より詳細には、本発明は、樹脂マトリックスを強化するために使用される熱可塑性材料の1つとしてポリアミド粒子を含むプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
複合材料は、典型的には、2つの主成分としての樹脂マトリックス及び強化繊維から構成される。複合材料は、複合部品の物理的限界及び特性が極めて重要である航空宇宙分野などの、要求が過酷な環境で機能することがよく要求される。
【0003】
予備含浸複合材料(プリプレグ)は、複合部品の製造に広く使用されている。プリプレグは、典型的には未硬化樹脂及び繊維強化材を含む組み合わせであり、最終複合部品への成形及び硬化の準備が整った形態である。繊維強化材に樹脂を予備含浸させることにより、製造者は、繊維網目に含浸される樹脂の量及び位置を慎重に制御し、必要に応じて樹脂を網目に確実に分布させることができる。複合部品中の繊維及び樹脂の相対量並びに繊維網目内の樹脂の分布が、部品の構造特性に影響を及ぼすことは周知である。
【0004】
プリプレグは、耐荷重部品又は一次構造部品、特に翼、胴体、隔壁及び操縦舵面などの航空宇宙一次構造部品の製造に使用するための好ましい材料である。これらの部品は、十分な強度、損傷許容性、並びにそのような部品及び構造体に対して日常的に確立されている他の要件を有することが重要である。
【0005】
航空宇宙用プリプレグで一般に使用される繊維強化材は、互いに平行に延在する繊維を含有する多方向織物又は一方向テープである。繊維は、典型的には、「トウ」 と呼ばれる多数の個々の繊維又はフィラメントの束の形態である。繊維又はトウを細断し、樹脂中でランダムに配向させて不織マットを形成することもできる。これらの様々な繊維強化材構造は、慎重に制御された量の未硬化樹脂と組み合わされる。得られたプリプレグは、典型的には、保管又は製造設備への輸送のために、保護層の間に配置されて巻き上げられる。炭素繊維とエポキシ樹脂マトリックスとの組み合わせは、航空宇宙用プリプレグの一般的な組み合わせになっている。
【0006】
プリプレグは、細断一方向テープの不織マットを形成するためにランダムに配向された、細断一方向テープの短セグメントの形態であってもよい。この種のプリプレグは、「準等方性細断」プリプレグと呼ばれる。準等方性細断プリプレグは、細断繊維ではなく、むしろ短い長さの細断一方向テープ(チップ)がマット内でランダムに配向されることを除いて、より伝統的な不織繊維マットプリプレグに類似している。この材料は、シート成形化合物として一般に使用されて、部品及び部品を製造する際に使用する金型を形成する。
【0007】
硬化複合部品の圧縮強度及び引張強度は、強化繊維及びマトリックス樹脂の個々の特性、並びにこれら2つの成分間の相互作用によって大きく左右される。さらに、繊維-樹脂体積比は重要な要素である。多くの航空宇宙用途では、複合部品が高い圧縮強度及び引張強度を示すことが望ましい。有孔圧縮(OHC)試験は、複合材料の圧縮強度の標準尺度である。有孔引張(OHT)試験はまた、複合材料の引張強度の標準尺度である。
【0008】
多くの航空宇宙用途では、複合部品は、室温/乾燥条件下及び高温/湿潤条件下の両方で、高い圧縮強度及び/又は引張強度を示すことが望ましい。しかし、圧縮強度及び引張強度を高く維持しようとすると、損傷許容性及び層間破壊靭性などの他の望ましい特性に悪影響を及ぶことが多い。
【0009】
弾性率がより高い樹脂を選択することは、複合材の圧縮強度を向上させる有効な方法であり得る。しかし、これは衝撃後圧縮(CAI)強度などの圧縮特性の低下によって、典型的に測定される損傷許容性を低下させる傾向を生じ得る。したがって、損傷許容性に悪影響を及ぼさずに、圧縮強度及び/又は引張強度の両方を同時に上昇させることは困難であり得る。
【0010】
積層構造を有する複合部品を形成するために、複数層のプリプレグが一般に使用される。このような複合部品の層間剥離は、重要な破損モードである。層間剥離は、二つの層が互いにはがれるときに発生する。重要な設計限界の要因には、層間剥離を開始するのに必要なエネルギー及びそれを伝播するのに必要なエネルギーの両方が含まれる。層間剥離の開始及び増大は、モードI及びモードII破壊靭性を調べることにより求められることが多い。破壊靭性は、通常、一方向繊維配向を有する複合材料を使用して測定される。複合材料の層間破壊靭性は、G1c(ダブルカンチレバービーム:Double Cantilever Beam)及びG2c(エンドノッチフレックス:End Notch Flex)試験を使用して定量される。モードIでは、予備亀裂積層破壊は、剥離力により支配され、モードIIでは、亀裂は、せん断力により伝播する。
【0011】
炭素繊維/エポキシ樹脂プリプレグから作製された部品の層間破壊靭性を向上させる1つの手法は、プリプレグの層間のインターリーブとして熱可塑性シートを導入することであった。しかし、この手法は、使用しにくい剛性不粘着性材料を生じる傾向がある。別の手法は、熱可塑性粒子をエポキシ樹脂に添加して、熱可塑性粒子を含有する樹脂中間層が最終部品の繊維層の間に形成されるようにすることであった。このような熱可塑性粒子としてポリアミドが使用されている。エポキシ樹脂中に熱可塑性強化剤を含むことも公知である。ポリエーテルスルホン(PES)又はポリエーテルイミド(PEI)などの強化剤は、炭素繊維への適用前にエポキシ樹脂に溶解される。熱可塑性強化粒子及び熱可塑性強化剤の両方の組み合わせを含む熱可塑性強化エポキシ樹脂は、航空宇宙用プリプレグを作製するために炭素繊維と組み合わせて使用されてきた。
【0012】
エポキシ樹脂マトリックスは、1種類以上のエポキシ樹脂を含み得る。異なる種類のエポキシ樹脂の様々な組み合わせによって、最終複合部品の特性に大きな変化をもたらし得ることが公知である。エポキシ樹脂マトリックスの硬化に使用される硬化剤も、最終複合部品の特性に実質的に影響を及ぼすことができる。航空宇宙用プリプレグの樹脂マトリックスとして使用するためにエポキシ樹脂を配合する場合、エポキシ樹脂の種類と硬化剤との新たな組み合わせによって、航空宇宙部品に必要な特性の所望の組み合わせが与えられるか否かを予測することは困難である。このことはとりわけ、熱可塑性強化剤及び熱可塑性粒子がエポキシ樹脂配合物の一部を形成する場合に当てはまる。したがって、樹脂が航空宇宙用プリプレグの樹脂マトリックスとしての使用に好適か否かを判定するために、新たな熱可塑性強化エポキシ樹脂を配合しようとする場合には、多くの試験が必要となる。
【0013】
既存の航空宇宙用プリプレグは、強力で損傷耐性のある複合部品を提供するという所期の使用に適切であるが、高レベルの損傷許容性(CAI)及び層間破壊靭性(G1c及びG2c)を維持しながら、高い引張強度及び圧縮強度(OHC及びOHT)の望ましい組み合わせを示す複合部品を作製するために使用され得る航空宇宙用プリプレグを提供することが、なお引き続き求められている。
【発明の概要】
【0014】
本発明によれば、高レベルの強度を有し、高レベルの損傷許容性及び層間破壊靭性も有する複合部品を形成するために成形可能な予備含浸複合材料(プリプレグ)が提供される。
【0015】
本発明の予備含浸複合材料は、強化繊維及び未硬化樹脂マトリックスから構成される。未硬化樹脂マトリックスは、1種以上のエポキシ樹脂、熱可塑性強化剤及び硬化剤からなる樹脂成分を含む。未硬化樹脂マトリックスは、ポリアミド粒子を含む熱可塑性粒子成分をさらに含む。好ましい実施形態では、ポリアミド粒子は、半結晶性及び結晶性ポリアミドの混合物からそれぞれ構成されるハイブリッドポリアミド粒子である。
【0016】
本発明は、プリプレグを作製する方法及びプリプレグを多種多様な複合部品に成形する方法も含む。本発明は、改良プリプレグを使用して作製された複合部品も含む。
【0017】
上記のようなマトリックス樹脂配合物を有する樹脂を使用して、予想外に高いレベルの層間破壊靭性を有する複合部品を形成するために成形可能なプリプレグを形成できることが判明している。
【0018】
本発明の上記並びに多くの他の特徴及び付随する利点は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって、より良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明による複合材料を使用して作製できる例示的な一次航空機構造を示す、航空機の斜視図である。
【0020】
【
図2】本発明による複合材料を使用して作製できる例示的な一次航空機構造を示す、ヘリコプターのロータブレードの部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による未硬化エポキシ樹脂組成物は、熱可塑性強化エポキシ樹脂マトリックスが望ましい多種多様な状況で使用され得る。未硬化エポキシ樹脂組成物は、単独で使用され得るが、一般に、繊維支持体と組み合わせて、繊維支持体及び樹脂マトリックスで構成される複合材料を形成するマトリックス樹脂として使用される。複合材料は、プリプレグ、部分硬化プリプレグ、又は完全硬化最終部品の形態であり得る。「未硬化」 という用語は、プリプレグ;繊維支持体への含浸前の樹脂;繊維質支持体の樹脂による含浸時に形成される樹脂マトリックス;又は複合材料に関連して本明細書で使用される場合、多少硬化されているかもしれないが、最終複合部品又は構造体を形成するほど完全には硬化されていない品目を対象とするものである。
【0022】
未硬化複合材料は、任意の所期の目的に使用され得るが、民間及び軍用航空機などの航空宇宙用機体の部品を製造する際に使用されることが好ましい。例えば、未硬化複合材料は、非一次(二次)航空機構造体の作製に使用され得る。しかし、未硬化複合材料は、一次航空機構造などの構造用途に使用されることが好ましい。一次航空機構造又は部品は、飛行中に大きな応力を受け、航空機が制御された飛行を維持するために不可欠な、固定翼又は回転翼航空機のいずれかの要素である。未硬化複合材料はまた、一般に耐荷重部品及び構造体を作製するために他の構造用途でも使用され得る。
【0023】
図1は、本発明による未硬化複合材料を使用して作製され得る、いくつかの例示的な一次航空機構造及び部品を含む固定翼航空機を10で示す。例示的な一次部品又は構造体には、翼12、胴体14、及び尾部組立体16が含まれる。翼12は、補助翼18、前縁20、翼スラット22、スポイラ24、後縁26、及び後縁フラップ28などのいくつかの例示的な一次航空機部品を含む。尾部組立体16は、ラダー30、フィン32、水平安定板34、昇降舵36、及び尾部38などの、いくつかの例示的な一次部品も含む。
図2は、一次航空機構造体として翼桁42及び外面44を含む、ヘリコプターのロータブレード40の外側端部を示す。他の例示的な一次航空機構造体は、翼桁、並びに一次構造を形成するために一次部品を共に連結する様々なフランジ、クリップ、及びコネクタを含む。
【0024】
本発明の予備含浸複合材料(プリプレグ)は、航空宇宙産業並びに高い構造強度及び損傷許容性が要求される任意の他の用途での複合部品の形成に使用されている、既存のプリプレグの代わりに使用され得る。本発明は、プリプレグを作製するために使用されている既存の樹脂を、本発明の樹脂配合物で置き換えることを含む。したがって、本発明の樹脂配合物は、従来のプリプレグ製造及び硬化プロセスにおけるマトリックス樹脂としての使用に好適である。
【0025】
本発明の予備含浸複合材料は、強化繊維及び未硬化樹脂マトリックスから構成される。強化繊維は、プリプレグ及び複合材シート成形産業で使用される従来の繊維構成のいずれにすることもできる。強化繊維としては、炭素繊維が好ましい。
【0026】
樹脂マトリックス(マトリックス樹脂)を形成するために使用される好ましい樹脂は、3官能性エポキシ樹脂及び任意に4官能性エポキシ樹脂と組み合わせた炭化水素エポキシノボラック樹脂からなる樹脂成分を含む。マトリックス樹脂は、ハイブリッド熱可塑性粒子成分、熱可塑性強化剤及び硬化剤をさらに含む。
【0027】
炭化水素エポキシノボラック樹脂は、好ましくはジシクロペンタジエン骨格を有し、Huntsman Corporation(テキサス州ウッドランズ)からTACTIX 556として市販されている。この種の炭化水素ノボラック樹脂は、本明細書ではジシクロペンタジエンノボラックエポキシ樹脂と呼ばれる。TACTIX 556の化学式は以下の通りである
【化1】
【0028】
TACTIX 556は、4.25~4.65eq/kgのエポキシ指数(ISO 3001)及び215~235g/eqのエポキシ当量(ISO 3001)を有する、琥珀色から暗色の半固体炭化水素エポキシノボラック樹脂である。79℃におけるTACTIX 556の粘度(ISO 9371B)は2250mPa・sである。TACTIX 556以外のジシクロペンタジエンエポキシノボラック樹脂は、それら樹脂が同じ化学式及び特性を有する限り、TACTIX 556の代わりに使用され得る。例えば、別の好適なジシクロペンタジエンエポキシノボラック樹脂は、日本化薬株式会社(東京都千代田区)から市販されているXD-1000-2Lである。TACTIX 556は、本発明に従って使用するための好ましい炭化水素エポキシノボラック樹脂である。
【0029】
4官能性エポキシ樹脂が好ましい樹脂成分に含まれる場合、未硬化樹脂中に存在する炭化水素エポキシノボラック樹脂の量は、未硬化樹脂マトリックスの総重量に対して8~20重量%まで変化し得る。好ましくは、未硬化樹脂は、10~17重量パーセントのジシクロペンタジエン炭化水素エポキシノボラック樹脂を含有する。13~15重量パーセントのジシクロペンタジエン炭化水素エポキシノボラック樹脂を含有する未硬化樹脂配合物が、特に好ましい。本明細書でDEN/TRIF/TETFマトリックス樹脂と呼ばれる、本発明のこの実施形態では、未硬化樹脂成分は、ジシクロペンタジエンエポキシノボラック樹脂、3官能性エポキシ樹脂及び4官能性エポキシ樹脂からなる。
【0030】
DEN/TRIF/TETFマトリックス樹脂において、好ましい例示的な3官能性エポキシ樹脂は、トリグリシジルパラ-アミノフェノールである。トリグリシジルパラ-アミノフェノールは、Huntsman Advanced Materials(テキサス州ウッドランズ)からAraldite MY0510の商品名で市販されている。別の適切な3官能性エポキシ樹脂は、トリグリシジルメタ-アミノフェノールである。トリグリシジルメタ-アミノフェノールは、Huntsman Advanced Materials(テキサス州ウッドランズ)からAraldite MY0600の商品名で、及び住友化学株式会社(日本、大阪)から商品名ELM-120で市販されている。トリグリシジルパラ-アミノフェノール又はトリグリシジルメタ-アミノフェノールの特性と同じ又は類似の特性を有するならば、他の3官能性エポキシ樹脂が使用してされ得る。
【0031】
DEN/TRIF/TETFマトリックス樹脂の実施形態において、例示的な4官能性エポキシ樹脂は、Huntsman Advanced Materials(テキサス州ウッドランズ)からAraldite MY720及びMY721として、又は住友化学工業株式会社(東京都中央区)からELM 434として市販されている、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(TGDDM)である。N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタンの特性と同じ又は類似の特性を有するならば、他の4官能性エポキシ樹脂が使用され得る。
【0032】
DEN/TRIF/TETFマトリックス樹脂では、3官能性及び4官能性エポキシ樹脂の総量は、未硬化樹脂の総重量に対して35~45重量%で変化し得る。3官能性樹脂と4官能性樹脂との重量比は、1.0:1.5~1.5:1.0であることが好ましい。3官能性樹脂と4官能性樹脂との重量比は、1.1:1.0~1.3:1.0であることが特に好ましい。
【0033】
本発明の別の好ましい実施形態では、樹脂成分は、ジシクロペンタジエンノボラックエポキシ樹脂及びトリグリシジルアミノフェノールエポキシ樹脂のみを含有する。本明細書でDEN/TRIFマトリックス樹脂と呼ばれるこの実施形態の樹脂成分では、ジシクロペンタジエンノボラックエポキシ樹脂は、未硬化樹脂マトリックスの総重量に対して4重量%~30重量%の範囲で存在する。好ましくは、ジシクロペンタジエンノボラックエポキシ樹脂は、未硬化樹脂マトリックスの総重量に対して17重量%~27重量%の範囲で存在する。より好ましくは、ジシクロペンタジエンノボラックエポキシ樹脂は、未硬化樹脂マトリックスの総重量に対して、20重量%~24重量%の範囲で存在する。
【0034】
DEN/TRIFマトリックス樹脂において、トリグリシジルアミノフェノールエポキシ樹脂は、未硬化樹脂マトリックスの総重量に対して20重量%~55重量%の範囲で存在する。好ましくは、トリグリシジルアミノフェノールエポキシ樹脂は、未硬化樹脂マトリックスの総重量に対して26重量%~36重量%の範囲で存在する。より好ましくは、トリグリシジルアミノフェノールエポキシ樹脂は、未硬化樹脂マトリックスの総重量に対して29重量%~33重量%の範囲で存在する。トリグリシジルメタ-アミノフェノールは、DEN/TRIFマトリックス樹脂用のトリグリシジルアミノフェノールエポキシ樹脂の好ましい種類である。
【0035】
DEN/TRIFマトリックス樹脂において、トリグリシジルアミノフェノールエポキシ樹脂とジシクロペンタジエンノボラックエポキシ樹脂との重量比は、1:1~10.5:1で変化し得る。トリグリシジルアミノフェノールエポキシ樹脂とジシクロペンタジエンノボラックエポキシ樹脂との好ましい重量比範囲は、1.2:1~2.5:1である。最も好ましいのは、約2.0:1の、トリグリシジルアミノフェノールエポキシ樹脂とジシクロペンタジエンノボラックエポキシ樹脂との重量比である。
【0036】
本発明による未硬化樹脂マトリックスは、1種以上の熱可塑性粒子を含有する熱可塑性粒子成分も含む。例示的な熱可塑性粒子は、メチル誘導体を含むビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンと、デカンジカルボン酸及びドデカンジカルボン酸からなる群から選択される脂肪族ジカルボン酸とのポリマー縮合生成物から形成されるポリアミド粒子である。ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン及びそのメチル誘導体は、本明細書では「アミン成分」 と呼ばれる。ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンは、4,4’-ジアミノシクロヘキシルメタンとしても公知である。この種のポリアミド粒子及びその製造方法は、米国特許第3,936,426号及び第5,696,202号に記載されていて、その内容は参照により本明細書に組み入れられている。
【0037】
ポリマー縮合生成物のアミン成分の式は、
【化2】
であり、式中、R
2は水素であり、R
1はメチル又は水素のいずれかである。
【0038】
式AC-Gにおいて、R
1がメチルであり、R
2が水素である場合、ポリマー縮合生成物の得られたモノマー単位の式は、以下のように表され得る:
【化3】
【0039】
ポリマー縮合生成物の分子数は14,000~20,000の範囲であり、約17,000の分子数が好ましい。
【0040】
ポリアミド粒子は、100ミクロン未満の粒径を有するべきである。粒径は、5~60ミクロン、より好ましくは10~30ミクロンの範囲であることが好ましい。平均粒径は、15~25ミクロンであることが好ましい。ポリアミド粒子の形状は、規則的又は不規則的であり得る。例えば、粒子は実質的に球形であり得るか、又はギザギザ形状の粒子であり得る。
【0041】
1つの例示的なポリアミド粒子は、ポリマー縮合生成物のアミン成分が、R1が両方ともメチルであり、R2が両方とも水素である、上記式(AC-G)を有するポリアミドから作製される。このようなポリアミド粒子は、3,3’-ジメチル-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-メタンと1,10-デカンジカルボン酸とのポリマー縮合生成物から作製され得る。ポリアミド粒子は、1,10-デカンジカルボン酸13,800グラム及び3,3’-ジメチル-ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン12,870グラムを、50%リン酸水溶液30グラム、安息香酸150グラム及び水101グラムと、加熱した収容容器中で化合させることによって作製する。混合物を均一になるまで加圧オートクレーブ内で撹拌する。圧縮、減圧及び脱気段階の後、ポリアミド縮合生成物をストランドとして押し出し、冷水中を通過させ、造粒して、ポリアミド粒子を形成する。R1が両方ともメチルであり、R2が両方とも水素であるポリアミド粒子は、EMS-Chime(サウスカロライナ州、サムター)から市販されているGRILAMID TR90から作製することもできる。GRILAMID TR90は、3,3’-ジメチル-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-メタンと1,10-デカンジカルボン酸とのポリマー縮合生成物である。
【0042】
別の例示的なポリアミド粒子は、ポリマー縮合生成物のアミン成分が、R
1及びR
2が両方とも水素である、上記式(AC-G)を有するポリアミドから作製される。このようなポリアミド粒子は、ポリアミドがビス(4-アミノシクロヘキシル)-
メタンと1,10-デカンジカルボン酸とのポリマー縮合生成物であることを除いて、上記と同様にして作製され得る。この好ましいポリマー縮合生成物のアミン成分の式は、以下の通りである。
【化4】
式AC-Iは、R
1及びR
2が水素である、前述の一般式(AC-G)に対応する。さらに、一般式(AC-G)で暗に示されるシクロヘキサン基の2、5及び6位に存在する水素基は、式AC-Iで具体的に示される。
【0043】
アミン成分がビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン(式AC-I)である場合、AC-Iと1,10-デカンジカルボン酸のポリマー縮合生成物のモノマー単位の式は、各シクロヘキシル基又は環上の3位又はメタ位に結合したメチル基が、式IIに示すように水素で置換されることを除いて、上記の式Iと同じである。
【化5】
【0044】
モノマー単位IIから形成されたポリマー縮合生成物の分子数は14,000~20,000の範囲であり、約17,000の分子数が好ましい。このポリマー縮合生成物から形成されたポリアミド粒子も、100ミクロン未満の粒径を有するべきである。粒径は、3~60ミクロン、より好ましくは10~30ミクロンの範囲であることも好ましい。平均粒径は、15~25ミクロンであることも好ましい。ポリアミド粒子の形状も、規則的又は不規則的であり得る。例えば、粒子は実質的に球形であり得るか、又はギザギザ形状の粒子であり得る。
【0045】
式IIに対応するモノマー単位は、シクロヘキシル環に結合した窒素基がシス-シス配向、シス-トランス配向又はトランス-トランス配向である立体異性体の形態であり得る。モノマーIIから形成されたポリアミドは、1種、2種又は3種全ての立体異性体を含み得る。3種全てのモノマー立体異性体の混合物を含有するポリアミドは非晶質である傾向があるが、1種の立体異性体から主に構成されるポリアミドは半結晶性である傾向がある。処理条件は、立体異性体の所望の混合物を与えるように制御される。トロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9704は、式IIの3種の異性体型全ての混合物である、例示的な非晶質ポリアミドである。トロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9704は、Evonik(アラバマ州モービル)から入手できる。トロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9705は、主に式IIのトランス-トランス異性体型から構成される例示的な半結晶性ポリアミドである。トロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9705は、Evonik(アラバマ州モービル)から入手できる。
【0046】
好ましいポリアミド粒子は、各ハイブリッドポリアミド粒子が上記非晶質ポリアミド及び半結晶性ポリアミドの混合物を含有する、ハイブリッドポリアミド粒子である。ハイブリッドポリアミド粒子は、所望の量の非晶質ポリアミド及び半結晶性ポリアミドをエチレングリコールなどの好適な溶媒に溶解させてハイブリッド混合物を形成することによって作製される。次いで、ハイブリッド混合物を従来のポリアミド加工手順に従って押出し及び/又は加工して、溶媒を除去し、非晶質ポリアミド及び半結晶性ポリアミドの混合物をそれぞれ含有する所望のハイブリッド粒子を形成する。
【0047】
ハイブリッドポリアミド粒子は、100ミクロン未満の粒径を有するべきである。ハイブリッドポリアミド粒子の粒径は、3~60ミクロン、より好ましくは10~30ミクロンの範囲であることが好ましい。平均ハイブリッドポリアミド粒子の粒径は、15~25ミクロンであることが好ましい。ハイブリッドポリアミド粒子の形状も、規則的又は不規則的であり得る。例えば、ハイブリッドポリアミド粒子は実質的に球形であり得るか、又はギザギザ形状の粒子であり得る。
【0048】
ハイブリッドポリアミド粒子は、得られたハイブリッドポリアミド粒子がそれぞれ、ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して20~80重量%の非晶質ポリアミドと、ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して20~80重量%の半結晶性ポリアミドを含有するような量の非晶質ポリアミド及び半結晶性ポリアミドを含有するハイブリッド混合物から作製される。好ましくは、各ハイブリッドポリアミド粒子は、ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して、65~75重量%の非晶質ポリアミド及び25~35重量%の半結晶性ポリアミドを含有する。ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して、それぞれ70±1重量%の非晶質ポリアミド及び30±1重量%の半結晶性ポリアミドを含有するハイブリッドポリアミド粒子が最も好ましい。
【0049】
本明細書において、ハイブリッドポリアミド粒子は、各ハイブリッドポリアミド粒子中に存在する非晶質ポリアミド及び半結晶性ポリアミドの相対量によって確認される。例えば、70重量%のCX9704ポリアミド(非晶質)と30重量%のCX9705ポリアミド(半結晶性)との混合物を含有するハイブリッドポリアミド粒子は、ハイブリッドポリアミド粒子70A/30SCとして確認され、30重量%のCX9704ポリアミド(非晶質)と70重量%のCX9705(半結晶性)ポリアミドとの混合物を含有するハイブリッドポリアミド粒子は、ハイブリッドポリアミド粒子30A/70SCとして確認される。
【0050】
示差走査熱量測定(DSC)は、ポリマーの結晶性及び非晶質性を測定するために使用される標準試験である。表Aは、例示的な非晶質ポリアミド(トロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9704)、例示的な半結晶性ポリアミド(トロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9705)並びにトロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9704及びトロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9705の混合物から構成され、ハイブリッドポリアミド粒子70A/30SC及び30A/70SCを作製するために使用された、例示的なハイブリッドポリアミドのDSC試験結果を示す。
【表1】
【0051】
ハイブリッドポリアミド粒子であるポリアミド粒子を含むポリアミド成分に関する前述の説明は、式IIのモノマー単位を有するポリアミドに限定されない。エポキシ樹脂の強化に使用され、非晶質及び半結晶性形態で作製することができるいずれのポリアミドを使用しても、ハイブリッドポリアミド粒子が形成され得る。
【0052】
熱可塑性粒子成分は、例えばポリアミド(PA)11、PA6、PA12、PA6/PA12コポリマー、PA4、PA8、PA6.6、PA4.6、PA10.10、PA6.10及びPA10.12を含む熱可塑性強化エポキシ樹脂に典型的に使用される、1種以上の他の種類のポリアミド粒子も含み得る。
【0053】
例示的な熱可塑性粒子成分は、架橋ポリアミドを含有しない第1のポリアミド粒子群と、架橋ポリアミドを含有する第2のポリアミド粒子群とを含有する。
【0054】
第1のポリアミド粒子群は、上述のようなハイブリッドポリアミド粒子、又は架橋ポリアミドを含有せず、熱可塑性強化エポキシ系プリプレグに典型的に使用されるポリアミド粒子のいずれかであり得る。このような粒子は、ポリアミド(PA)11、PA6、PA12、PA6/PA12コポリマー、PA4、PA8、PA6.6、PA4.6、PA10.10、PA6.10及びPA10.12から構成され得る。非架橋ポリアミド粒子は、いくつかの供給元から市販されている。好適な非架橋ポリアミド12粒子は、Kobo ProductsからSP10Lの商品名で入手できる。SP10L粒子は、98重量%超のPA12を含有する。粒径分布は7ミクロン~13ミクロンであり、平均粒径は10ミクロンである。粒子の密度は1g/cm3である。PA12粒子は、水分含有量を除いて、少なくとも95重量%のPA12であることが好ましい。ハイブリッドポリアミド粒子は、水分含有量を除いて、少なくとも95重量%の非晶質ポリアミド及び半結晶性ポリアミドであることも好ましい。
【0055】
他の好適な非架橋粒子は、Orgasol 1002粉末及びOrgasol 3803粉末の商品名でArkema(フランス、コロンブ)から入手できる。Orgasol 1002粉末は、20ミクロンの平均粒径を有する100%のPA6粒子で構成される。Orgasol 3803は、80%のPA12と20%のPA6とのコポリマーである粒子で構成され、平均粒径は17~24ミクロンである。Orgasol 2002は、第1の粒子群にも使用され得る非架橋PA12粒子で構成される粉末である。
【0056】
第1の熱可塑性粒子群に好ましい非架橋ポリアミド粒子はポリアミド11粒子であり、ポリアミド11粒子もいくつかの供給元から市販されている。ポリアミド11粒子は、Arkema(フランス、コロンブ)から商品名Rislan PA11で入手できる。これらの粒子は、98重量%超のPA11を含有し、15ミクロン~25ミクロンの粒径分布を有する。平均粒径は20ミクロンである。Rislan PA11粒子の密度は1g/cm3である。PA11粒子は、水分含有量を除いて、少なくとも95重量%のPA11であることが好ましい。
【0057】
第2の熱可塑性ポリアミド粒子の群は、粒子の表面、粒子の内部、又はその両方に架橋ポリアミドを含む粒子である。架橋ポリアミド粒子は、粒子形成前に架橋されたポリアミドから作製され得るか、又は非架橋ポリアミド粒子を好適な架橋剤で処理して架橋ポリアミド粒子を製造してもよい。
【0058】
好適な架橋粒子は、架橋PA11、PA6、PA12、PA6/PA12コポリマー、PA4、PA8、PA6.6、PA4.6、PA10.10、PA6.10及びPA10.12を含有する。ポリアミドを架橋するために一般に使用される架橋剤のいずれも好適である。架橋剤の例は、エポキシ系架橋剤、イソシアナート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アシルラクタム系架橋剤及びオキサゾリン系架橋剤である。好ましい架橋粒子は、エポキシ架橋剤で架橋されたPA12を含有するPA12粒子である。ポリアミドを含む熱可塑性ポリマーを架橋するために使用される手順は公知である。例えば、米国特許第6399714号、米国特許第8846818号及び米国特許出願公開第2016/0152782 A1号を参照のこと。これら3つの参考文献の内容は、参照により本明細書に組み入れられている。
【0059】
架橋PA12粒子は、CG352としても公知であるORGASOL 2009ポリアミド粉末の商品名で、Arkema(フランス、コロンブ)から市販されている。ORGASOL 2009ポリアミド粉末中に存在するPA12粒子は、エポキシ系架橋剤で架橋された少なくとも40%のPA12で構成されている。ORGASOL 2009架橋ポリアミド粒子は、14.2ミクロンの平均粒径を有し、粒子の0.2%のみが30ミクロンを超える直径を有する。ORGASOL 2009架橋粒子の融点は180℃である。ORGASOL 2009粒子の比表面積は1.9であり、粒子の水分含有量は0.34%である。
【0060】
架橋ポリアミド粒子はそれぞれ40~70%の架橋ポリアミドを含有すべきである。好ましくは、架橋ポリアミド粒子はそれぞれ40~60%の架橋ポリアミドを含有すべきである。
【0061】
好ましくは、非架橋及び架橋ポリアミド粒子の両方が100ミクロン未満の粒径を有するべきである。粒径は、5~60ミクロン、より好ましくは5~30ミクロンの範囲であることが好ましい。平均粒径は、5~20ミクロンであることが好ましい。粒子の形状は、規則的又は不規則的であり得る。例えば、粒子は実質的に球形であり得るか、又はギザギザ形状の粒子であり得る。非架橋粒子の平均粒径は、架橋粒子の平均粒径より大きいことが好ましい。好ましくは、非架橋粒子の平均粒径は15~25ミクロンの範囲であり、架橋粒子の平均粒径は10~20ミクロンの範囲である。
【0062】
熱可塑性粒子成分は、未硬化樹脂マトリックスの総重量に対して5重量%~20重量%の範囲で存在する。好ましくは、7~17重量%の熱可塑性粒子成分が存在する。架橋粒子と非架橋粒子との組み合わせを使用する場合、非架橋粒子と架橋粒子との相対量は変化し得る。非架橋粒子の架橋粒子に対する重量比は、4:1~1.5:1の範囲であり得る。好ましくは、非架橋粒子の架橋粒子に対する重量比は、3.5:1~2.5:1の範囲である。ハイブリッドポリアミド粒子と架橋粒子との組み合わせは、DEN/TRIFマトリックス樹脂の実施形態で使用するための好ましい熱可塑性粒子成分である。
【0063】
ハイブリッドポリアミド粒子は、熱可塑性成分での使用に好ましい粒子である。ハイブリッドポリアミド粒子は、DEN/TRIF及びDEN/TRIF/TETFエポキシ樹脂成分以外の、多種多様なエポキシ樹脂成分と組み合わせて使用され得る。例えば、ハイブリッドポリアミド粒子は、エポキシ樹脂成分の全部又は一部として2官能性エポキシ樹脂を含む、エポキシ樹脂を強化するために使用され得る。2官能性エポキシ樹脂は、2個のエポキシ官能基を有する任意の好適なエポキシ樹脂を含む。2官能性エポキシ樹脂は、飽和、不飽和、脂環式、脂環族、又は複素環式であり得る。2官能性エポキシは単独で又は多官能性エポキシ樹脂と組み合わせて使用されて、樹脂成分を形成し得る。多官能性エポキシのみを含有する樹脂成分も可能である。
【0064】
一例として、2官能性エポキシ樹脂としては、(任意に臭素化された)ビスフェノールF、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、フェノール-アルデヒド付加物のグリシジルエーテル、脂肪族ジオールのグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、Epikote、Epon、芳香族エポキシ樹脂、エポキシ化オレフィン、臭素化樹脂、芳香族グリシジルアミン、複素環式グリシジルイミジン及びアミド、グリシジルエーテル、フッ素化エポキシ樹脂、又はそれらの任意の組み合わせに基づくものが挙げられる。2官能性エポキシ樹脂は、好ましくは、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ジグリシジルジヒドロキシナフタレン、又はそれらの任意の組み合わせから選択される。最も好ましいのはビスフェノールFのジグリシジルエーテルである。ビスフェノールFのジグリシジルエーテルは、Huntsman Advanced Materials(ユタ州ソルトレイクシティ)からAraldite GY 281及びGY 285の商品名で、Ciba-Geigy(ニューヨーク州タリータウン)からLY 9703の商品名で市販されている。
【0065】
ハイブリッドポリアミド粒子は、前述のもの以外の3官能性及び/又は4官能性エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂成分を強化するために使用され得る。多官能性エポキシ樹脂は、飽和、不飽和、脂環式、脂環族、又は複素環式であり得る。好適な多官能性エポキシ樹脂は、一例として、フェノール及びクレゾールエポキシノボラック、フェノール-アルデヒド付加物のグリシジルエーテル;ジ脂肪族ジオールのグリシジルエーテル;ジグリシジルエーテル;ジエチレングリコールジグリシジルエーテル;芳香族エポキシ樹脂;ジ脂肪族トリグリシジルエーテル、脂肪族ポリグリシジルエーテル;エポキシ化オレフィン;臭素化樹脂;芳香族グリシジルアミン;複素環式グリシジルイミジン及びアミド;グリシジルエーテル;フッ素化エポキシ樹脂又はそれらの任意の組み合わせに基づくものが挙げられる。
【0066】
3官能性エポキシ樹脂は、化合物の骨格中のフェニル環上にパラ又はメタ配向で直接又は間接的に置換された3個のエポキシ基を有する。4官能性エポキシ樹脂は、化合物の骨格中のフェニル環上にメタ又はパラ配向で直接又は間接的に置換された4個のエポキシ基を有する。
【0067】
フェニル環は、他の好適な非エポキシ置換基でさらに置換され得る。好適な置換基としては、一例として、水素、ヒドロキシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、アリール基、アリールオキシル基、アラルキルオキシル基、アラルキル基、ハロ基、ニトロ基又はシアノ基が挙げられる。好適な非エポキシ置換基は、パラ位若しくはオルト位でフェニル環に結合され得るか、又はエポキシ基によって占められていないメタ位で結合され得る。適切な4官能性エポキシ樹脂としては、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン(三菱ガス化学株式会社(日本、東京都千代田区)からTetrad-Xの名称で市販)及びErisys GA-240(CVC Chemicals(ニュージャージー州モリスタウン)製)が挙げられる。
【0068】
好適な3官能性エポキシ樹脂は、一例として、フェノール及びクレゾールエポキシノボラック、フェノール-アルデヒド付加物のグリシジルエーテル;芳香族エポキシ樹脂;ジ脂肪族トリグリシジルエーテル、脂肪族ポリグリシジルエーテル;エポキシ化オレフィン;臭素化樹脂;芳香族グリシジルアミン及びグリシジルエーテル;複素環式グリシジルイミジン及びアミド;グリシジルエーテル;フッ素化エポキシ樹脂又はそれらの任意の組み合わせに基づくものが挙げられる。
【0069】
DEN/TRIFマトリックス樹脂の実施形態では、未硬化樹脂中のポリアミド粒子の総量は、未硬化樹脂の総重量に対して9~21重量%で変化し得る。好ましくは、未硬化樹脂中のポリアミド粒子の総量は、未硬化樹脂マトリックスの総重量に対して、11重量%~19重量%の範囲となる。より好ましくは、未硬化樹脂中のポリアミド粒子の総量は、未硬化樹脂マトリックスの総重量に対して、12重量%~17重量%の範囲となる。
【0070】
好ましい実施形態では、熱可塑性粒子成分は、ポリイミド粒子とハイブリッドポリアミド粒子との組み合わせを含む。この粒子の組み合わせは、DEN/TRIF/TETFマトリックス樹脂の実施形態で使用するための好ましい熱可塑性粒子成分である。
【0071】
好ましいポリイミド粒子は、HP Polymer GmbH(オーストリア、Lenzig)からP84ポリイミド成形粉末として市販されている。好適なポリアミド粒子はまた、Evonik Industries(オーストリア)から商品名P 84 NTで市販されている。粒子の作製に使用するポリイミドは、米国特許第3,708,458号に開示され、その内容は参照により本明細書に組み入れられている。ポリイミドは、ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物を、4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアナート)及びトルエンジイソシアナート(2,4-又は2,6-異性体)の混合物と組み合わせることによって作製される。アミン類似体は、芳香族イソシアナート及びジイソシアナートの代わりに使用され得る。ポリイミドのCAS登録番号は58698-66-1である。
【0072】
ポリイミド粒子は、繰り返しモノマー式:
【化6】
を有する芳香族ポリイミドからなり、式中、ポリマー全体におけるR基の10~90%は、式:
【化7】
を有する芳香族基であり、ポリマー中の残りのR基は、
【化8】
である。
【0073】
粉末中のポリイミド粒子の粒径は、典型的には2ミクロン~35ミクロンの範囲である。好ましいポリイミド粉末は、粒径が2~30ミクロンの範囲であり、平均粒径が5ミクロン~15ミクロンの範囲に及ぶ粒子を含有する。好ましくは、粉末中のポリイミド粒子の少なくとも90重量%は、2ミクロン~20ミクロンの粒径範囲にある。ポリイミド粒子の形状は、規則的又は不規則的であり得る。例えば、粒子は実質的に球形であり得るか、又はギザギザ形状の粒子であり得る。
【0074】
ポリイミド粒子は、少なくとも95重量パーセントのポリイミドを含有する。粒子の全体的な特性に悪影響を及ぼさない限り、少量(最大5重量%)の他の材料が粒子に含まれ得る。
【0075】
ポリイミド粒子のガラス転移温度(Tg)は約330℃であるべきであり、個々の粒子の密度は1.34グラム/立方センチメートルである。粒子の線熱膨張係数は50である。
【0076】
未硬化DEN/TRIF/TETFマトリックス樹脂の実施形態における熱可塑性粒子の総量は、好ましくは、未硬化樹脂の総重量に対して10~20重量パーセントである。高い層間剥離耐性を得るために、ハイブリッドポリアミド粒子とポリイミド粒子との重量比は、3.5:1.0~1.0:1.0の範囲であることができる。好ましくは、ハイブリッドポリアミド粒子とポリイミド粒子との間の重量比は、3.2:1.0~2.8:1.0の間である。特に好ましいDEN/TRIF/TETFマトリックス樹脂では、ハイブリッドポリアミド粒子の量は、未硬化樹脂の総重量の8~10重量%であり、ポリイミド粒子の量は、未硬化樹脂の総重量の2~4重量%である。
【0077】
未硬化樹脂マトリックスは、少なくとも1種の硬化剤を含む。好適な硬化剤は、本発明のエポキシ官能性化合物の硬化を促進し、特にそのようなエポキシ化合物の開環重合を促進するものである。特に好ましい実施形態では、そのような硬化剤としては、その開環重合においてエポキシ官能性化合物と重合する化合物が挙げられる。このような硬化剤を2種以上併用してもよい。
【0078】
好適な硬化剤としては、無水物、特にポリカルボン酸無水物、例えばナド酸無水物(NA)、メチルナド酸無水物(MNA-Aldrichから入手可能)、フタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物(HHPA-Anhydrides and Chemicals Inc.(ニュージャージー州ニューアーク)から入手可能)、メチルテトラヒドロフタル酸無水物(MTHPA-Anhydrides and Chemicals Inc.から入手可能)、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物(MHHPA-Anhydrides and Chemicals Inc.から入手可能)、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサクロロエンドメチレン-テトラヒドロフタル酸無水物(クロレント酸無水物-Velsicol Chemical Corporation(イリノイ州ローズモント)から入手可能)、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物、マレイン酸無水物(MA-Aldrichから入手可能)、コハク酸無水物(SA)、ノネニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物(DDSA-Anhydrides and Chemicals Inc.から入手可能)、ポリセバシン酸ポリ無水物、及びポリアゼライン酸ポリ無水物が挙げられる。
【0079】
さらに好適な硬化剤は、芳香族アミン、例えば1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、並びにポリアミノスルホン、例えば4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS、Huntsmanから入手可能)、4-アミノフェニルスルホン、及び3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)を含むアミンである。また、好適な硬化剤としては、エチレングリコール(EG-Aldrichから入手可能)、ポリ(プロピレングリコール)、及びポリ(ビニルアルコール)などのポリオール;並びにフェノール-ホルムアルデヒド樹脂、例えばそれぞれHRJ2210、HRJ-2255、及びSP-1068としてSchenectady Chemicals Inc.(ニューヨーク州、スケネクタディ)から入手可能である、平均分子量が約550~650のフェノール-ホルムアルデヒド樹脂、平均分子量が約600~700のp-t-ブチルフェノール-ホルムアルデヒド樹脂、及び平均分子量が約1200~1400のp-n-オクチルフェノール-ホルムアルデヒド樹脂が挙げられる。さらに、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂について、CTUグアナミンと、CG-125としてAjinomoto USA Inc.(ニュージャージー州、ティーネック)から市販されている、分子量が398のフェノール-ホルムアルデヒド樹脂との組み合わせも好適である。
【0080】
本発明における硬化剤として、各種の市販の組成物が使用され得る。そのような組成物の1つは、Ajinomoto USA Inc.から入手可能である、ジシアンジアミド型配合物であるAH-154である。好適な他のものとしては、ポリアミド、ジエチルトリアミン、及びトリエチレンテトラアミンの混合物であるAncamide 400、アミドアミン、イミダゾリン、及びテトラエチレンペンタアミンの混合物であるAncamide 506、並びに4,4’-メチレンジアニリン及び1,3-ベンゼンジアミンの混合物であるAncamide 1284が挙げられ、これらの配合物は、ペンシルベニア州アレンタウンのPacific Anchor Chemical,Performance Chemical Division,Air Products and Chemicals,Inc.から入手可能である。
【0081】
追加の好適な硬化剤としては、Sigma Aldrich(ミズーリ州セントルイス)から入手可能なイミダゾール(1,3-ジアザ-2,4-シクロペンタジエン)、Sigma Aldrichから入手可能な2-エチル-4-メチルイミダゾール、及びAir Products&Chemicals,Inc.から入手可能なAnchor 1170などの三フッ化ホウ素アミン錯体が挙げられる。
【0082】
なお別の好適な硬化剤としては、Ajinomoto USA Inc.から市販されている3,9-ビス(3-アミノプロピル-2,4,8,10-テトロキサスピロ [5.5] ウンデカン、並びにまたAjicure UDHとしてAjinomoto USA Inc.から市販されている脂肪族ジヒドラジド、及びLP540としてイリノイ州シカゴのMorton International,Inc.から市販されているメルカプト末端ポリスルフィドが挙げられる。
【0083】
硬化剤は、好適な温度でマトリックスの硬化をもたらすように選択される。マトリックスの適切な硬化をもたらすために必要な硬化剤の量は、硬化される樹脂の種類、所望の硬化温度及び硬化時間を含む、多くの要因に応じて変化する。硬化剤は、典型的には、シアノグアニジン、芳香族及び脂肪族アミン、酸無水物、ルイス酸、置換尿素、イミダゾール及びヒドラジンも含み得る。それぞれの特定の状況に必要な硬化剤の特定の量は、十分に確立された日常的な実験によって決定され得る。
【0084】
例示的な好ましい硬化剤としては、どちらもHuntsman Corporation(テキサス州ウッドランズ)から市販されている、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)及び3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)が挙げられる。
【0085】
硬化剤は、未硬化樹脂マトリックスの10重量%~30重量%の範囲の量で存在する。DEN/TRIFマトリックス樹脂において、硬化剤は、17重量%~27重量%の範囲の量で存在する。より好ましくは、硬化剤は、未硬化樹脂マトリックスの21重量%~25重量%の範囲で存在する。DEN/TRIFマトリックス樹脂において、4,4’-DDSが好ましい硬化剤である。4,4’-DDSが20重量%~26重量%の範囲の量で唯一の硬化剤として使用されることが好ましい。所望であれば、少量(5重量%未満)の他の硬化剤、例えば3,3’-DDSを含めてもよい。
【0086】
DEN/TRIF/TETFマトリックス樹脂において、硬化剤は、未硬化樹脂の15重量%~30重量%の範囲の量で存在する。硬化剤は、20重量%~30重量%の範囲の量で存在することが好ましい。3,3’-DDSが好ましい硬化剤である。3,3’-DDSは、唯一の硬化剤として、未硬化樹脂の総重量に対して24~28重量%の範囲の量で使用されることが好ましい。所望であれば、少量(5重量%未満)の他の硬化剤、例えば4,4’-DDSを含めてもよい。
【0087】
硬化を増強又は促進するために促進剤も含まれ得る。好適な促進剤は、エポキシ樹脂の硬化に一般に使用されてきた任意のウロン化合物である。単独で又は組み合わせて使用され得る促進剤の具体例としては、N,N-ジメチル、N’-3,4-ジクロロフェニル尿素(ジウロン)、N’-3-クロロフェニル尿素(モヌロン)、好ましくはN,N-(4-メチル-m-フェニレンビス [N’,N’-ジメチル尿素](例えば、Degussaから入手可能なDyhard UR 500)が挙げられる。
【0088】
本発明の未硬化樹脂マトリックスは、熱可塑性強化剤も含む。任意の好適な熱可塑性ポリマーが強化剤として使用され得る。典型的には、熱可塑性ポリマーは、硬化剤の添加前に、加熱によって樹脂混合物に溶解する粒子として樹脂ミックスに添加される。熱可塑性剤が高温マトリックス樹脂前駆体(即ち、エポキシ樹脂のブレンド)に実質的に溶解したら、前駆体を冷却し、残りの成分(硬化剤及び不溶性熱可塑性粒子)を添加し、冷却した樹脂ブレンドと混合する。
【0089】
例示的な熱可塑性強化剤/粒子は、以下の熱可塑性物質:ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、高性能炭化水素ポリマー、エラストマー、及びセグメント化エラストマーのいずれかを単独で又は組み合わせて含む
【0090】
好適な強化剤は、一例として、商品名Sumikaexcel 5003Pで販売され、Sumitomo Chemicals(ニューヨーク州ニューヨーク)から市販されている微粒子ポリエーテルスルホン(PES)である。5003Pの代替物は、Solvay Chemicals(テキサス州ヒューストン)から市販されている、Solvayポリエーテルスルホン105RP、又はSolvay 1054Pなどの非ヒドロキシル末端グレードである。強化剤として高密度化PES粒子を使用してもよい。PESの形態は、PESが樹脂の形成中に溶解するため、特に重要ではない。高密度化PES粒子は、米国特許第4,945,154号の教示に従って作製することができ、その内容は参照により本明細書に組み入れられている。高密度化PES粒子はまた、Hexcel Corporation(カリフォルニア州ダブリン)から商品名HRI-1で市販されている。強化剤の平均粒径は、マトリックス中のPESの完全な溶解を促進及び確保するために100ミクロン未満であるべきである。
【0091】
DEN/TRIFマトリックス樹脂において、強化剤は、未硬化樹脂マトリックスの総重量に対して5重量%~15重量%の範囲で存在する。強化剤は、7重量%~12重量%の範囲で存在することが好ましい。強化剤は、8重量%~11重量%の範囲で存在することがより好ましい。
【0092】
DEN/TRIF/TETFマトリックス樹脂において、PES強化剤は、未硬化樹脂の総重量に対して5重量%~26重量%の範囲で存在する。強化剤は、7重量%~14重量%の範囲で存在することが好ましい。比較的低い最小粘度(25~45ポアズ)を有する樹脂の作製に使用するためのPESの好ましい量は、未硬化樹脂の総重量に対して7~9重量%である。比較的高い最小粘度(55~75ポアズ)を有する樹脂の製造に使用するためのPESの好ましい量は、未硬化樹脂の総重量に対して10~13重量%である。
【0093】
マトリックス樹脂は、性能向上剤又は改質剤などの追加の成分も、これらがプリプレグの粘着性及び寿命又は硬化複合部品の強度及び損傷許容性に悪影響を及ぼさない限り、含み得る。性能向上剤又は改質剤は、例えばコアシェルゴム、難燃剤、湿潤剤、顔料/染料、UV吸収剤、抗真菌化合物、充填剤、導電性粒子、及び粘度調整剤から選択され得る。
【0094】
例示的なコアシェルゴム(CSR)粒子は、架橋ゴムコア、典型的にはブタジエンのコポリマーと、スチレン、メチルメタクリラート、グリシジルメタクリラート及び/又はアクリロニトリルから構成されるシェルとから構成される。コアシェル粒子は、通常、エポキシ樹脂中に分散された粒子として提供される。粒径範囲は、典型的には50~150nmである。好適なCSR粒子は、米国特許出願公開第2007/0027233A1号に詳細に記載され、その内容は参照により本明細書に組み込まれている。好ましいコアシェル粒子は、Kane Ace(テキサス州パサデナ)から入手可能なMXコアシェル粒子である。DEN/TRIFマトリックス樹脂に包含させるための好ましいコアシェル粒子は、Kane Ace MX-418である。MX-418は、4官能性エポキシ樹脂中のコアシェル粒子の25重量%懸濁液として供給される。MX-418中のコアシェル粒子は、平均粒径が100ナノメートルのポリブタジエン(PBd)コアシェル粒子である。
【0095】
好適な充填剤としては、一例として、以下のいずれか:シリカ、アルミナ、チタニア、ガラス、炭酸カルシウム及び酸化カルシウムが単独で又は組み合わせて挙げられる。
【0096】
好適な導電性粒子としては、一例として、以下のいずれか:銀、金、銅、アルミニウム、ニッケル、導電グレードの炭素、バックミンスターフラーレン、カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーが単独で又は組み合わせて挙げられる。金属被覆フィラー、例えばニッケル被覆炭素粒子及び銀被覆銅粒子も使用され得る。
【0097】
ジャガイモ形状黒鉛(PSG)粒子は、好適な導電性粒子である。炭素繊維/エポキシ樹脂複合材におけるPSG粒子の使用は、米国特許出願公開第2015/0179298A1号に詳細に記載され、その内容は参照により本明細書に組み入れられている。PSG粒子は、NGS Naturgraphit(ドイツ)からSG25/99.95SC粒子として、又は日本パワーグラファイト株式会社(日本)からGHDR-15-4粒子として市販されている。これらの市販のPSG粒子は、10~30ミクロンの平均粒径を有し、GHDR-15-4粒子は、PSG粒子の外面に炭素の蒸着コーティングを有する。
【0098】
未硬化樹脂マトリックスは、少量(5重量%未満、好ましくは1重量%未満)の追加のエポキシ又は非エポキシ熱硬化性ポリマー樹脂を含み得る。DEN/TRIF/TETFマトリックス樹脂の場合、エポキシ樹脂成分は、少なくとも95重量%のDEN、TRIF及びTETF、より好ましくは少なくとも99重量%の3種類のエポキシ樹脂を含有する。DEN/TRIFマトリックス樹脂の場合、エポキシ樹脂成分は、少なくとも95重量%のDEN及びTRIF、より好ましくは少なくとも99重量%の2種類のエポキシ樹脂を含有する。好適な追加のエポキシ樹脂としては、2官能性エポキシ樹脂、例えばビスフェノールA及びビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられる。本発明に好適な非エポキシ熱硬化性樹脂材料としては、フェノールホルムアルデヒド、尿素-ホルムアルデヒド、1,3,5トリアジン-2,4,6トリアミン(メラミン)、ビスマレイミド、ビニルエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル、シアナートエステル樹脂又はそれらの任意の組み合わせの樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。追加の熱硬化性樹脂は、存在する場合、好ましくはエポキシ樹脂、シアナートエステル樹脂、ベンゾオキサジン及びフェノール樹脂から選択される。
【0099】
未硬化樹脂は、標準プリプレグマトリックス樹脂加工に従って作製される。一般に、炭化水素ノボラックエポキシ樹脂及び他のエポキシ樹脂は、室温にて共に混合されて樹脂ミックスが形成され、これに熱可塑性強化剤が添加される。次いで、この混合物を約120℃まで約1~2時間加熱して、熱可塑性強化剤を溶解させる。次いで、混合物を約80℃まで冷却し、残りの成分(存在する場合は、熱可塑性粒子成分、硬化剤及び他の添加剤)を樹脂に混合して、繊維強化材に含浸される最終的な未硬化樹脂マトリックスを形成する。
【0100】
未硬化樹脂は、公知のプリプレグ製造技術のいずれかに従って、繊維強化材に塗布されて未硬化樹脂マトリックスを形成する。繊維強化材は、未硬化樹脂によって完全に又は部分的に含浸され得る。代替の実施形態では、未硬化樹脂は、繊維強化材に近接及び接触しているが、繊維強化材に実質的に含浸しない別個の層として繊維強化材に塗布され得る。プリプレグは、セミプレグとも呼ばれ、早期硬化を避けるために、通常は両面が保護フィルムで被覆され、通常は室温より十分に低い温度で保管及び輸送のために巻き上げられている。実際の樹脂マトリックスは、セミプレグのさらなる加工まで形成されない。所望ならば、他のプリプレグ製造工程及び保管/出荷システムのいずれも使用され得る。
【0101】
プリプレグの繊維強化材は、任意のガラス繊維、炭素又はアラミド(芳香族ポリアミド)繊維から選択され得る。繊維強化材は、炭素繊維であることが好ましい。好ましい炭素繊維は、3,000~50,000の炭素フィラメント(3K~50K)を含有するトウの形態である。6,000又は24,000の炭素フィラメント(6K又は24K)を含有する市販の炭素繊維トウが好ましい。
【0102】
本発明の未硬化マトリックス樹脂は、炭素トウが6,000~24,000フィラメントを含有し、引張強度が750~860Ksiであり、引張弾性率が35~45Msiであり、破損歪みが1.5~2.5%であり、密度が1.6~2.0g/cm3であり、長さ当たりの重量が0.2~0.6g/mである場合に、高い強度特性及び損傷許容性を有する積層体を提供するのに特に有効である。6K及び12K IM7炭素トウ(Hexcel Corporationから入手可能)が好ましい。IM7 12K繊維は、820Ksiの引張強度を有し、引張弾性率は40Msiであり、破損歪みは1.9%であり、密度は1.78g/cm3であり、長さ当たりの重量は0.45g/mである。IM7 6K繊維は、800Ksiの引張強度を有し、引張弾性率は40Msiであり、破損歪みは1.9%であり、密度は1.78g/cm3であり、長さ当たりの重量は0.22g/mである。同様の特性を有するIM7繊維及び炭素繊維は、一般に中間弾性率炭素繊維であると考えられる。Hexcel Corporation(カリフォルニア州ダブリン)から市販されているIM8炭素繊維も、好ましい種類の中間弾性率炭素繊維である。
【0103】
繊維強化材は、亀裂の入った(即ち、延伸破損した)若しくは選択的に不連続な繊維、又は連続繊維を含み得る。亀裂の入った繊維又は選択的に不連続な繊維を使用すると、完全に硬化される前の複合材料のレイアップが容易となり、その形状化能力が改善され得る。繊維強化材は、例えばシート成形コンパウンドを形成するために使用される準等方性細断プリプレグなどの、製織、非捲縮、不織、一方向又は多軸織物構造体形態であり得る。製織形態は、平織、繻子織、又は綾織スタイルから選択され得る。非捲縮形態及び多軸形態は、いくつかの層及び繊維配向を有し得る。そのようなスタイル及び形態は、複合材補強分野で周知であり、Hexcel Reinforcements(フランス、レ・ザヴニエール)を含むいくつかの会社から市販されている。
【0104】
プリプレグは、連続テープ、トウプレグ、ウェブ、又は細断長の形態であり得る(細断及びスリット操作は、含浸後の任意の時点で実施され得る)。プリプレグは、接着性フィルム又はサーフェシングフィルムであってもよく、さらに製織、製編、及び不織の両方の様々な形態の埋め込まれた担体を有し得る。プリプレグは、例えば硬化中の空気除去を容易にするために、完全に又は部分的にのみ含浸され得る。
【0105】
以下の例示的なDEN/TRIF/TETF樹脂配合物を繊維支持体に含浸させて、本発明による樹脂マトリックスが形成され得る(全ての重量パーセントは総樹脂重量に対する):
12重量%~16重量%のジシクロペンタジエンノボラックエポキシ樹脂(TACTIX(いずれかの国における登録商標)556又はXD-1000-2L);17重量%~21重量%のトリグリシジル-p-アミノフェノール(MY0510);16重量%~20重量%の4官能性エポキシ(MY721);10重量%~14重量%のポリエーテルスルホン(5003P);2重量%~4重量%のポリイミド粒子(P84HCM);7重量%~11重量%のハイブリッドポリアミド粒子;及び硬化剤としての24重量%~28重量%の3,3’-DDS。
【0106】
本発明のDEN/TRIFマトリックス樹脂の実施形態に関して、例示的なDEN/TRIFマトリックス樹脂は、34重量%~38重量%のトリグリシジル-m-アミノフェノール(MY0600);16重量%~20重量%の炭化水素ノボラックエポキシ樹脂(TACTIX 556又はXD-1000-2L);強化剤としての7重量%~11重量%のポリエーテルスルホン(5003P);2重量%~7重量%の架橋ポリアミド12粒子(ORGASOL 2009);9重量%~13重量%のハイブリッドポリアミド粒子であって、ハイブリッドポリアミド粒子対架橋ポリアミド12粒子の重量比が2.5:1.0~3.0:1、好ましくは2.7:1~2.8:1である、ハイブリッドポリアミド粒子;及び硬化剤としての20重量%~26重量%の4,4’-DDSを含む。
【0107】
別の例示的なDEN/TRIFマトリックス樹脂は、34重量%~38重量%のトリグリシジル-m-アミノフェノール(MY0600);16重量%~20重量%の炭化水素ノボラックエポキシ樹脂(TACTIX 556又はXD-1000-2L);強化剤としての7重量%~11重量%のポリエーテルスルホン(5003P);9重量%~13重量%のポリアミド11粒子(Rislan PA11);2重量%~4重量%のハイブリッドポリアミド粒子;及び硬化剤としての20重量%~26重量%の4,4’-DDSを含む。
【0108】
好ましいDEN/TRIFマトリックス樹脂は、34重量%~38重量%のトリグリシジル-m-アミノフェノール(MY0600);16重量%~20重量%の炭化水素ノボラックエポキシ樹脂(TACTIX 556又はXD-1000-2L);強化剤としての7重量%~11重量%のポリエーテルスルホン(5003P);13重量%~17重量%のハイブリッドポリアミド粒子;及び硬化剤としての20重量%~26重量%の4,4’-DDSを含む。
【0109】
プリプレグは、複合部品の形成に使用される標準的な技術のいずれかを使用して成形することができる。典型的には、プリプレグの1つ又は複数の層を適切な金型に配置し、硬化させて最終複合部品を形成する。当分野で公知の任意の好適な温度、圧力、及び時間条件を使用して、本発明のプリプレグは、完全に又は部分的に硬化され得る、典型的には、プリプレグは、オートクレーブ中で160℃~190℃の温度で硬化されることになる。複合材料は、マイクロ波放射、電子ビーム、ガンマ線、又は他の好適な熱放射若しくは非熱放射から選択される方法を使用して硬化され得る。
【0110】
本発明の改良されたプリプレグから製造された複合部品は、多く一次及び二次航空宇宙構造体(翼、胴体及び隔壁など)などの物品の製造に用途を見いだすが、高い圧縮強度、層間破壊靭性及び耐衝撃損傷性が必要とされる自動車、鉄道及び船舶用途を含む他の多くの高性能複合材用途にも有用である。
【0111】
本発明のDEN/TRIF/TETFマトリックス樹脂の実施形態に関する例である例1~2は、以下の通りである。
【0112】
例1
本発明による好ましい例示的な樹脂配合物を表1に示す。エポキシ成分を室温でポリエーテルスルホンと混合して樹脂ブレンドを形成し、これを60分間にわたって120℃まで加熱してポリエーテルスルホンを完全に溶解することによってマトリックス樹脂を調製した。混合物を80℃まで冷却し、残りの成分を添加し、十分に混入させた。
【0113】
以下の例で使用されるハイブリッドポリアミド粒子は、各粒子中に存在する非晶質(トロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9704)ポリアミド及び半結晶性(トロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9705)ポリアミドの重量パーセントに従って記載される。上述したように、70重量%のCX9704ポリアミドと30重量%とのCX9705ポリアミドの混合物を含有するハイブリッドポリアミド粒子は、ハイブリッド粒子「(70A/30SC)」と同定され、30重量%のCX9704ポリアミドと70重量%のCX9705ポリアミドとの混合物を含有するハイブリッドポリアミド粒子は、ハイブリッドポリアミド粒子「(30A/70SC)」と同定される。例で使用したハイブリッドポリアミド粒子、並びに比較例で使用した非晶質及び半結晶性粒子は、3ミクロン~10ミクロンの粒径範囲であり、平均粒径は6ミクロンであった。
【表2】
【0114】
例示的なプリプレグは、一方向炭素繊維の1つ以上の層に表1の樹脂配合物を含浸させることによって調製した。一方向炭素繊維(Hexcel Corporationから入手可能な12K IM7)を使用して、マトリックス樹脂が総未硬化プリプレグ重量の35重量パーセントであり、繊維面積重量が192グラム/平方メートル(gsm)であるプリプレグを作製した。標準プリプレグ製造手順を使用して、26層積層体を調製した。積層体をオートクレーブで177℃にて約2時間硬化させた。硬化した積層体に試験を行って、層間破壊靭性を求めた。
【0115】
G2cは、硬化積層体の層間破壊靭性の尺度を与える標準試験である。G2cは以下のようにして求めた。3インチのフルオロエチレンポリマー(FEP)フィルムを、クラックスターターとして作用させるために、繊維方向に対して垂直に、レイアップの中間面にて一端に沿って挿入して、26層一方向積層体を硬化させた。積層体をオートクレーブで177℃にて2時間硬化させ、公称厚さ3.8mmを得た。圧密化をC走査によって確認した硬化した積層体からG2c試料を機械切削した。G2cは、BSS7320に従って室温にて試験を行った。以下に記載するG2c値は、BSS7320による試験中に認められた第1及び第2の亀裂の平均である。
【0116】
硬化した試験積層体を標準試験に供して、損傷許容性(CAI)及び層間破壊靭性(G1c及びG2c)を求めた。衝撃後圧縮(CAI)は、32層の準等方性積層体に対する270 in-lb衝撃を使用して求めた。試験片は、BMS 8-276によるボーイング試験方法BSS7260に従って機械切削し、衝撃を与え、試験を行った。値は、0.18インチの公称硬化積層体厚さに正規化されている。
【0117】
「CAI」及び「G2c」という用語が硬化積層体が示す特性を定義するために本明細書で使用される場合、この用語は上記の試験手順によって測定されるような特性を意味する。
【0118】
硬化した26層積層体のG2cは12.6であった。CAIは46.0であった。有孔圧縮(OHT)及び有孔圧縮(OHC)も、室温にて標準手順に従って測定し、構造部品の許容限界を超えることが判明した。
【0119】
例2
表2に示す式を有するDEN/TRIF/TETR樹脂マトリックスを有する例示的なプリプレグを、例1と同様に調製した。
【表3】
【0120】
例1と同様に26層積層体を調製し、室温にて硬化させ、G2cについて試験を行った。G2cは11.8であり、CAIは43.6であった。OHT及びOHCのどちらもまた、構造部品の許容限界を超えていた。例2(ハイブリッド粒子30A/70SC)のG2c及びCAIの値は、粒子中の非晶質ポリアミドの量が半結晶性ポリアミドの量より実質的に多い例1(ハイブリッド粒子70A/30SC)よりも、予想外に低い。したがって、前述のように、ハイブリッドポリアミド粒子は、60重量%~80重量%の非晶質ポリアミド及び20重量%~40重量%の半結晶性ポリアミドを含有することが好ましい。
【0121】
第1の比較例は、例1及び2で使用したハイブリッドポリアミド粒子を、トロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9705ポリアミドから作製した半結晶性ポリアミド粒子で置き換えて実施した。例1と同様に、26層積層体を調製し、室温にて硬化させ、G2cについて試験を行った。G2cは9.0であった。CAIは43.0であった。同じポリアミドの半結晶形態及び非晶質形態の混合物を含有するハイブリッド粒子を、ポリアミドの半結晶形態のみを含有する粒子で置き換えた場合に、G2c及びCAIがより低くなることは予想外であった。
【0122】
第2の比較例は、例1及び2で使用したハイブリッドポリアミド粒子を、トロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9704ポリアミドから作製した非晶質ポリアミド粒子を置き換えて実施した。例1と同様に、26層積層体を調製し、室温にて硬化させ、G2cについて試験を行った。G2cは10.0であり、CAIは44.9であった。例1に記載したように、同じポリアミドの非晶質形態及び半結晶形態の70A/30SC混合物を含有するハイブリッド粒子を、非晶質形態のみを含有する粒子で置き換えた場合に、G2c及びCAIがより低くなることは予想外であった。例2に記載したように、同じポリアミドの非晶質形態及び半結晶性形態の30A/70SC混合物を含有するハイブリッド粒子を、非晶質形態のみを含む粒子で置き換えた場合に、第2の比較例のG2cがより低く、第2の比較例のCAIが例2よりも高かったことも予想外であった。
【0123】
上記の例及び比較例は全て、同じモノマー単位(式II)を有するポリアミドから作製されたポリアミド粒子を使用する。同じポリマーの非晶質形態及び半結晶形態の混合物をそれぞれ含有するハイブリッドポリアミド粒子が、ポリアミドの非晶質形態又は半結晶形態のみを使用して達成できるよりも高いG2c及びCAI試験結果を提供できることは、予想外である。
【0124】
本発明のDEN/TRIFマトリックス樹脂の実施形態に関する実施の例である例3~5は、以下の通りである。
【0125】
例3
本発明による例示的なDEN/TRIF樹脂配合物を表3に示す。エポキシ成分を室温でポリエーテルスルホンと混合して樹脂ブレンドを形成し、これを60分間にわたって120℃まで加熱してポリエーテルスルホンを完全に溶解することによって未硬化マトリックス樹脂を調製した。例1~2と同様に、混合物を80℃まで冷却し、残りの成分を添加して、十分に混合した。
【表4】
【0126】
例示的なプリプレグは、表3の樹脂配合物を一方向炭素繊維の層に含浸させて、強化繊維及び未硬化樹脂マトリックスから構成されるプリプレグを形成することによって調製した。一方向炭素繊維は12K IM7であった。未硬化樹脂マトリックスは総未硬化プリプレグ重量の35重量%となり、未硬化プリプレグの繊維面積重量は、145グラム/平方メートル(gsm)であった。
【0127】
プリプレグを用いて、例1~2と同様に積層体を形成した。積層体を177℃のオートクレーブで約2時間硬化させて、硬化試験積層体を形成した。例1~2と同じ方法で、硬化試験サンプルをASTM D5528に従って試験に供し、G2c及びCAIを求めた。G2cは18.1と求められ、CAIは55.9であった。
【0128】
比較例は、例3で使用したハイブリッドポリアミド粒子を、トロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9705ポリアミドから作製した半結晶性ポリアミド粒子で置き換えて実施した。例1と同様に、26層積層体を調製し、室温にて硬化させ、CAI及びG2cについて試験を行った。CAIは50.0であり、G2cは12.4であった。同じポリアミドの半結晶形態及び非晶質形態の混合物を含有するハイブリッド粒子を、ポリアミドの半結晶形態のみを含有する粒子で置き換えた場合に、G2cがより低くなることは予想外であった。
【0129】
第2の比較例は、例3で使用したハイブリッドポリアミド粒子を、トロガミド(いずれかの国における登録商標)CX9704ポリアミドから作製した非晶質ポリアミド粒子で置き換えて実施した。例1と同様に、26層積層体を調製し、室温にて硬化させ、CAI及びG2cについて試験を行った。CAIは63.2であり、G2cは17.8であった。例1に記載したように、同じポリアミドの非晶質形態及び半結晶形態の混合物を含有するハイブリッド粒子を、非晶質形態のみを含有する粒子で置き換えた場合に、G2cがより低くなることは予想外であった。結果は、第1の比較例で認められた実質的に低いG2cを考慮すると、特に予想外である。
【0130】
上記の例及び比較例は全て、同じモノマー単位(式II)を有するポリアミドから作製されたポリアミド粒子を使用する。同じポリマーの非晶質形態及び半結晶形態の混合物をそれぞれ含有するハイブリッドポリアミド粒子は、ポリアミドの非晶質形態又は半結晶形態のみを使用して達成できるよりも高いG2c試験結果を提供できることは、予想外である。
【0131】
例4
表4に示す式を有するDEN/TRIF樹脂マトリックスを有する例示的なプリプレグを、例3と同様に調製した。
【表5】
【0132】
例1と同様に26層積層体を調製し、室温にて硬化させ、CAI及びG2cについて試験を行った。CAIは61.6であり、G2cは16.4であった。OHT及びOHCのどちらもまた、構造部品の許容限界を超えていた。
【0133】
例5
表5に示す式を有するDEN/TRIF樹脂マトリックスを有する例示的なプリプレグを、例3と同様に調製した。
【表6】
【0134】
例1と同様に26層積層体を調製し、室温にて硬化させ、CAI及びG2cについて試験を行った。CAIは61.2であり、G2cは16.5であった。OHT及びOHCのどちらもまた、構造部品の許容限界を超えていた。
【0135】
このように本発明の例示的な実施形態を説明してきたが、当業者は、開示の範囲が例示的なものにすぎず、本発明の範囲内で様々な他の変更、改造、及び修正を行えることに留意されたい。したがって、本発明は、上述の実施形態によって限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
なお、下記[1]から[20]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
予備含浸複合材料であって、
A)強化繊維;
B)未硬化樹脂マトリックスであって、
a)エポキシ樹脂成分;
b)ハイブリッドポリアミド粒子を含む熱可塑性粒子成分であって、前記ハイブリッドポリアミド粒子それぞれが、半結晶性ポリアミドと非晶質ポリアミドとの混合物を含み、前記非晶質ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して20~80重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して20~80重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミド及び非晶質ポリアミドが、1,10-デカンジカルボン酸と式
【化9】
を有するアミン成分とのポリマー縮合生成物で構成される、前記ポリアミドの異なる立体異性形態である、熱可塑性粒子成分、
c)ポリエーテルスルホンを含む熱可塑性強化剤、及び
d)硬化剤
を含む、未硬化樹脂マトリックス
を含む、予備含浸複合材料。
[2]
前記非晶質ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して65~75重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して25~35重量%の量で存在する、[1]に記載の予備含浸複合材料。
[3]
前記非晶質ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して70±1重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して30±1重量%の量で存在する、[2]に記載の予備含浸複合材料。
[4]
前記熱可塑性粒子成分が、ポリアミド11粒子をさらに含む、[1]に記載の予備含浸複合材料。
[5]
前記熱可塑性粒子成分が、架橋ポリアミド12粒子をさらに含む、[1]に記載の予備含浸複合材料。
[6]
前記熱可塑性粒子成分が、ポリイミド粒子をさらに含む、[1]に記載の予備含浸複合材料。
[7]
前記強化繊維が、10,000~14,000の炭素フィラメントをそれぞれ含む複数の炭素繊維トウを含み、前記炭素トウそれぞれの長さ当たりの重量が0.2~0.6グラム/メートルであり、前記炭素トウそれぞれの引張強度が750~860キロポンド/平方インチであり、前記炭素トウそれぞれの引張弾性率が35~45メガポンド/平方インチである、[1]に記載の予備含浸複合材料。
[8]
前記硬化剤が、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン及び4,4’-ジアミノジフェニルスルホンからなる群から選択される芳香族アミンである、[1]に記載の予備含浸複合材料。
[9]
[1]に記載の予備含浸複合材料を硬化させることによって形成された、複合部品又は複合構造体。
[10]
前記複合部品又は複合構造体が、航空機の一次構造体の少なくとも一部を形成する、[9]に記載の複合部品又は複合構造体。
[11]
硬化により複合部品を形成することができる予備含浸複合材料を作製する方法であって、
A)炭素繊維を含む強化繊維を提供するステップ;並びに
B)前記強化繊維に未硬化樹脂マトリックスを含浸させるステップであって、前記未硬化樹脂マトリックスが、
a)エポキシ樹脂成分;
b)ハイブリッドポリアミド粒子を含む熱可塑性粒子成分であって、前記ハイブリッドポリアミド粒子それぞれが、半結晶性ポリアミドと非晶質ポリアミドとの混合物を含み、前記非晶質ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して20~80重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して20~80重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミド及び非晶質ポリアミドが、1,10-デカンジカルボン酸と式
【化10】
を有するアミン成分とのポリマー縮合生成物で構成される、前記ポリアミドの異なる立体異性形態である、熱可塑性粒子成分、
c)ポリエーテルスルホンを含む熱可塑性強化剤、及び
d)硬化剤
を含む、ステップ
を含む、予備含浸複合材料を作製する方法。
[12]
前記非晶質ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して65~75重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して25~35重量%の量で存在する、[11]に記載の予備含浸複合材料を作製する方法。
[13]
前記非晶質ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して70±1重量%の量で存在し、前記半結晶性ポリアミドが、前記ハイブリッドポリアミド粒子の総重量に対して30±1重量%の量で存在する、[11]に記載の硬化により複合部品を形成することができる予備含浸複合材料を作製する方法。
[14]
前記熱可塑性粒子成分が、ポリアミド11粒子をさらに含む、[11]に記載の硬化により複合部品を形成することができる予備含浸複合材料を作製する方法。
[15]
前記熱可塑性粒子成分が、架橋ポリアミド12粒子をさらに含む、[11]に記載の硬化により複合部品を形成することができる予備含浸複合材料を作製する方法。
[16]
前記熱可塑性粒子成分が、ポリイミド粒子をさらに含む、[11]に記載の硬化により複合部品を形成することができる予備含浸複合材料を作製する方法。
[17]
前記強化繊維が、10,000~14,000の炭素フィラメントをそれぞれ含む複数の炭素繊維トウを含み、前記炭素トウそれぞれの長さ当たりの重量が0.2~0.6グラム/メートルであり、前記炭素トウそれぞれの引張強度が750~860キロポンド/平方インチであり、前記炭素トウそれぞれの引張弾性率が35~45メガポンド/平方インチである、[11]に記載の硬化により複合部品を形成することができる予備含浸複合材料を作製する方法。
[18]
前記硬化剤が、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン及び4,4’-ジアミノジフェニルスルホンからなる群から選択される芳香族アミンである、[11]に記載の硬化により複合部品を形成することができる予備含浸複合材料を作製する方法。
[19]
[11]に記載の予備含浸複合材料を提供するステップと、前記予備含浸複合材料を硬化させて複合部品又は複合構造体を形成するステップとを含む、複合部品又は複合構造体を作製する方法。
[20]
前記複合部品又は複合構造体が、航空機の一次構造体の少なくとも一部を形成する、[19]に記載の複合部品又は複合構造体を作製する方法。