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特許75926902サイクル内燃エンジン及びエンジン作業機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】2サイクル内燃エンジン及びエンジン作業機
(51)【国際特許分類】
   F02B 25/16 20060101AFI20241125BHJP
   F02M 61/14 20060101ALI20241125BHJP
   F02M 69/04 20060101ALI20241125BHJP
   F02D 41/30 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
F02B25/16 D
F02B25/16 H
F02M61/14 310Z
F02M69/04 Z
F02D41/30
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022505094
(86)(22)【出願日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2021005491
(87)【国際公開番号】W WO2021177010
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2024-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2020034899
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】100133411
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 龍郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067677
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 彰司
(72)【発明者】
【氏名】野口 祐則
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-260373(JP,A)
【文献】国際公開第2007/077826(WO,A1)
【文献】特開2000-213356(JP,A)
【文献】実開昭59-152159(JP,U)
【文献】特開2000-283008(JP,A)
【文献】国際公開第98/057053(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 25/00-25/28
F02M 61/14
F02M 69/04
F02D 41/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室を画成し且つ排気ポートと吸気ポートを有するシリンダと、前記燃焼室の混合気に点火する点火装置と、前記燃焼室での燃焼膨張により前記シリンダ内を往復動するピストンと、前記シリンダの内部と連通するクランク室と、該クランク室内に配設されて前記ピストンと作動上連結されるクランクシャフトと、前記クランク室内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記ピストンの作動時の負圧によって空気のみを吸入する吸気通路と、前記クランク室と前記燃焼室とを連通する掃気通路と、を備え、前記吸気通路を通過する空気が前記掃気通路に導入され、吸気の終了時に前記掃気通路内に滞留する空気が掃気に関与する2サイクル内燃エンジンであって、前記ピストンの下端と前記吸気ポートの下端との間に、前記吸気通路と前記クランク室とを連通させる連通部を備える、2サイクル内燃エンジン
【請求項2】
前記ピストンは、ピストン溝を備え、前記吸気ポートと前記掃気通路は前記ピストン溝を介して連通される、請求項1に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項3】
前記ピストン溝に、前記クランク室と連通する孔が設けられる、請求項2に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項4】
前記ピストンの下端に切欠きを備え、該切欠きによって前記連通部が形成される、請求項1,2又は3に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項5】
前記吸気ポートの下端に下方への拡大部を備え、該拡大部によって前記連通部が形成される、請求項1,2又は3に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項6】
前記掃気通路は、掃気ポートよりも前記クランク室寄りの位置に、前記ピストン溝と連通する分岐通路を有する、請求項2に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項7】
前記燃料噴射弁は、前記クランク室への空気の流入を阻害しない方向に燃料を噴射する、請求項1からのいずれか一項に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項8】
前記燃料噴射弁が、電動燃料ポンプと、前記クランクシャフトの回転により動作するポンプの、少なくとも一つに燃圧を享受される高圧式燃料噴射弁である、請求項1からのいずれか一項に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項9】
前記燃料噴射弁が、前記シリンダ内又は前記クランク室内の要冷却部位に向けて高圧で燃料を噴射する、請求項に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項10】
前記燃料噴射弁が、前記ピストンの作動過程における前記クランク室の最高内圧下においても燃料を噴射可能な高圧式燃料噴射弁である、請求項8又は9に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項11】
前記吸気通路は一か所のみの吸気ポートに開口する、請求項1から10のいずれか一項に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項12】
前記クランク室と前記燃焼室とを連通するブースター通路が前記掃気通路とは別に配設され、前記燃料噴射弁による燃料供給タイミングが制御装置で制御されることにより、全負荷運転時には均質燃焼が行われる一方、軽負荷運転時には、前記ブースター通路を介して燃料が前記燃焼室に流入して成層燃焼が行われる、請求項1から11のいずれか一項に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項13】
前記クランク室と前記ブースター通路とを連通させる下死点側ブースターポートと、前記燃料噴射弁から供給される燃料を軽負荷運転時に前記下死点側ブースターポートの近傍に導入する燃料供給構成と、を備える、請求項12に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項14】
前記燃料供給構成は、前記燃料噴射弁が前記下死点側ブースターポートの近傍に配置される第一構成と、前記下死点側ブースターポートの近傍に滞留可能な噴射圧で前記燃料噴射弁から燃料が噴射される第二構成と、を共に備える、請求項13に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項15】
前記燃料供給構成は、前記下死点側ブースターポートに向けて燃料が噴射されるように前記燃料噴射弁が配置される第一構成と、前記下死点側ブースターポートに到達可能な噴射圧で前記燃料噴射弁から燃料が噴射される第二構成と、を共に備える、請求項13に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項16】
全負荷運転時には、前記ピストンが上死点側付近に位置するタイミングで前記燃料噴射弁から燃料が供給され、軽負荷運転時には、前記ピストンが下死点付近に到達する直前のタイミングで前記燃料噴射弁から燃料が供給される、請求項12から15のいずれか一項に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項17】
前記掃気通路と前記燃焼室とを連通させる掃気ポートが前記シリンダの内周面に一対配設され、該一対の掃気ポート間における一方の円弧面側に前記排気ポートが配設され、前記燃焼室と前記ブースター通路とを連通させる上死点側ブースターポートが、前記一対の掃気ポート間における他方の円弧面側に配設される、請求項12から16のいずれか一項に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項18】
前記吸気通路に逆止弁を備える、請求項1から17のいずれか一項に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載の2サイクル内燃エンジンを動力源として備えるエンジン作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2サイクル内燃エンジンと、2サイクル内燃エンジンを動力源とするエンジン作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
刈払機、チェーンソー、パワーブロアなどの携帯式作業機には、動力源として2サイクル内燃エンジンが多用されている。2サイクル内燃エンジンにおいては、気化器で燃料と空気により混合気が生成され、この混合気がクランク室へと吸入される。2サイクル内燃エンジンは、クランク室と燃焼室とを連通する掃気通路を有する。シリンダ内をピストンが作動することにより、クランク室で予圧縮された混合気が掃気通路を通じて燃焼室に導入され、この混合気によって掃気が行われる。
【0003】
2サイクル内燃エンジンは、周知の「混合気(新気)の吹き抜け」の問題を有する。すなわち、燃焼室に導入される掃気用の混合気がそのままシリンダの排気口から排出されてしまうことである。混合気の吹き抜けは燃料の無駄使いであり、大気汚染の原因にもなる。
【0004】
この問題を解消するため、シリンダに導入する気体を、空気、混合気の順となるように構成した、いわゆる「層状掃気式2サイクルエンジン」が知られている(再表98/057053)。この技術では、空気供給用吸気通路と混合気供給用吸気通路とをそれぞれ備え、シリンダ内を往復動するピストンの動作によって、掃気通路の上部に空気を、クランクケースに混合気を充填する。これによって掃気通路の上部に滞留した空気を掃気に関与させ、所謂、先導空気により吹き抜けを軽減する。
【0005】
この構成においては、先導空気と混合気の双方の供給量とタイミングが、燃焼室内に発生する負圧や掃気通路の上部に滞留した空気の量によって従属的に定まってしまい、精密なコントロールができない。一案として、先導空気と混合気の供給配分を規定するために、それぞれの吸気通路の断面積を適宜に設定し空気と混合気の吸気割合を調整する等の対策案も採用できる。しかし、このような対策であっても、広い回転数領域の全ての運転領域で最適な供給配分を実現するような精密な制御はできない。また、エンジンへの損傷を回避するためには、全ての回転数領域で運転の確実性を保つことのできる、混合気供給量を優先した(濃い目の)設定にならざるを得なかった。
【0006】
また、2サイクル内燃エンジンは携帯型作業機に広く用いられるが、その特性上、高回転、高負荷域だけでなく、低回転から高回転への加減速や中間的な回転数、軽負荷領域も頻繁に使用される。このような2サイクル内燃エンジンにおいても、エンジンの運転状態に最も適する先導空気および混合気を燃焼室へ供給することが望ましい。より詳細には、上述のようなさまざまな運転状態において、先導空気量と混合気量のそれぞれを正確にコントロールすること、エンジンの各運転領域に要求される混合気の供給量に依存せずに、充分な先導空気供給量を設定すること、エンジンのコンパクト性を維持すること、等が求められる。
【発明の開示】
【0007】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたもので、掃気時の混合気の吹き抜けを防止可能であり、且つ、エンジンの運転状態に適した混合気を燃焼室に供給可能な2サイクル内燃エンジンを提供しようとするものである。
【0008】
本発明はまた、前記2サイクル内燃エンジンを動力源とするエンジン作業機を提供しようとするものである。
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係る2サイクル内燃エンジンは、燃焼室を画成し且つ排気ポートと吸気ポートを有するシリンダと、前記燃焼室の混合気に点火する点火装置と、前記燃焼室での燃焼膨張により前記シリンダ内を往復動するピストンと、前記シリンダの内部と連通するクランク室と、該クランク室内に配設されて前記ピストンと作動上連結されるクランクシャフトと、前記クランク室内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記ピストンの作動時の負圧によって空気のみを吸入する吸気通路と、前記クランク室と前記燃焼室とを連通する掃気通路と、を備え、前記吸気通路を通過する空気が前記掃気通路に導入され、吸気の終了時に前記掃気通路内に滞留する空気が掃気に関与する2サイクル内燃エンジンであって、前記ピストンの下端と前記吸気ポートの下端との間に、前記吸気通路と前記クランク室とを連通させる連通部を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、燃料噴射弁によってクランク室内に燃料が噴射される。また、吸気通路を通過する空気が掃気通路に導入される。掃気通路に導入される空気はクランク室に吸入される。吸気の終了時には掃気通路に空気が滞留する。掃気通路を介してクランク室内に導入された空気は燃料と混合して混合気となる。クランク室内の混合気は、ピストンの作動によって掃気通路を通って燃焼室へと導入される。燃焼室の混合気は、ピストンによって圧縮され、点火装置によって点火されて燃焼膨張する。この燃焼膨張でピストンが押し戻される過程で、掃気と排気が行われる。すなわち、掃気通路内に滞留する空気が、燃焼室へと圧送されて掃気に関与し、この掃気により、排気口から燃焼ガスが排出される。
【0011】
以上のように、本発明によれば、燃料噴射弁によってクランク室内に燃料が供給されるので、燃料供給のタイミングの制御が容易となり、エンジンの運転状態に適した混合気の供給が可能となる。また、吸気通路は空気のみを吸入し、且つ、吸気通路を通過する空気は掃気通路に導入されるので、吸気通路を簡易に形成することができる。吸気通路が空気のみを吸入することで、吸入空気の制御が容易となるほか、空気制御の信頼性の向上にも貢献できる。吸気の終了時には掃気通路に空気が滞留し、この空気が掃気に関与するので、掃気時の混合気の吹き抜けが防止され、排気ガスの成分が改善される。また、連通部を通して吸気ポートからクランク室へも空気が流入するので、クランク室への給気量を増大させることができる。
【0012】
また、本発明によれば、吸気側には空気通路のみを配置すればよいため、従来の層状掃気式エンジンにおいて設けられていた混合気供給用の吸気通路及び吸気ポートが不要となることから、シリンダ、マニーホールド等も簡易に形成することができる。この構成により、空気制御弁を簡素化でき吸入空気量制御の容易化・信頼性の向上にも貢献できる。シリンダの構成についてより詳細には、従来、空気ポート及び混合気ポートを上下ないし周方向に並べて配置する必要があったところ、本発明では混合気供給用のポートが不要になることから、シリンダにおけるポート開口の設計自由度が格段に向上する。
【0013】
実施の一形態として、前記ピストンは、ピストン溝を備え、前記吸気ポートと前記掃気通路は前記ピストン溝を介して連通される態様としてもよい。この場合、ピストンによって吸気ポートが開閉されるので、逆止弁を配設する必要がない。
【0014】
実施の一形態として、前記ピストン溝に、前記クランク室と連通する孔が設けられる態様としてもよい。この場合、孔を通して吸気ポートからクランク室へも空気が流入するので、クランク室への給気量を増大させることができる。
【0016】
実施の一形態として、前記ピストンの下端に切欠きを備え、該切欠きによって前記連通部が形成される態様としてもよい。この場合、切欠きを通して吸気ポートからクランク室へ空気が流入する。
【0017】
実施の一形態として、前記吸気ポートの下端に下方への拡大部を備え、該拡大部によって前記連通部が形成される態様としてもよい。この場合、拡大部を通して吸気ポートからクランク室へ空気が流入する。
【0018】
実施の一形態として、前記掃気通路は、前記掃気ポートよりも前記クランク室寄りの位置に、前記ピストン溝と連通する分岐通路を有する態様としてもよい。この場合、吸気ポートから分岐通路を通してクランク室へ空気が流入するので、クランク室への給気量を増大させることができる。
【0019】
実施の一形態として、前記燃料噴射弁は、前記掃気通路から前記クランク室への空気の流入を阻害しない方向に燃料を噴射する態様としてもよい。
【0020】
実施の一形態として、前記燃料噴射弁が、電動燃料ポンプと、前記クランクシャフトの回転により動作するポンプの、少なくとも一つに燃圧を享受される高圧式燃料噴射弁である態様としてもよい。このようにすれば、狙ったところに燃料を噴射できる。
【0021】
実施の一形態として、前記燃料噴射弁が、前記シリンダ内又は前記クランク室内の要冷却部位に向けて高圧で燃料を噴射する態様としてもよい。このようにすれば、燃料噴射弁から高圧で噴射される燃料により、要冷却部位が効果的に冷却される。
【0022】
実施の一形態として、前記燃料噴射弁が、前記ピストンの作動過程における前記クランク室の最高内圧下においても燃料を噴射可能な高圧式燃料噴射弁とされる態様としてもよい。このようにすれば、クランク室内への燃料噴射のタイミングが最適化できるため、掃気通路の滞留空気への燃料混合を抑止するなど排気ガスの成分を改善できる。
【0023】
実施の一形態として、前記吸気通路は一か所のみの吸気ポートに開口する態様としてもよい。このようにすれば、従来の、混合気ポートおよび2か所の空気用ポートを設ける構成に比して吸気通路を簡易に形成することができ、作業機のコンパクト性に大いに寄与できる。
【0024】
実施の一形態として、前記クランク室と前記燃焼室とを連通するブースター通路が前記掃気通路とは別に配設され、前記燃料噴射弁による燃料供給タイミングが制御装置で制御されることにより、全負荷運転時には均質燃焼が行われる一方、軽負荷運転時には、前記ブースター通路を介して燃料が前記燃焼室に流入して成層燃焼が行われる態様としてもよい。この場合、全負荷運転時には均質燃焼が行われ、軽負荷運転時には成層燃焼が行われる。これにより、全負荷運転時に加えて軽負荷運転時の熱効率も改善される。
【0025】
実施の一形態として、前記クランク室と前記ブースター通路とを連通させる下死点側ブースターポートと、前記燃料噴射弁から供給される燃料を軽負荷運転時に前記下死点側ブースターポートの近傍に位置させる燃料供給構成と、を備える態様としてもよい。この場合、燃料噴射弁から供給される燃料が軽負荷運転時に下死点側ブースターポートの近傍に導入される(流入する)ので、燃料がブースター通路を介して燃焼室へと流入しやすい。一方、空気は掃気通路から燃焼室に導入されており、空気と混合気が別の通路から導入されることによって、軽負荷運転時の成層燃焼に適する。
【0026】
実施の一形態として、前記燃料供給構成は、前記燃料噴射弁が前記下死点側ブースターポートの近傍に配置される第一構成と、前記下死点側ブースターポートの近傍に滞留可能な噴射圧で前記燃料噴射弁から燃料が噴射される第二構成と、を共に備える態様としてもよい。
【0027】
実施の一形態として、前記燃料供給構成は、前記下死点側ブースターポートに向けて燃料が噴射されるように前記燃料噴射弁が配置される第一構成と、前記下死点側ブースターポートに到達可能な噴射圧で前記燃料噴射弁から燃料が噴射される第二構成と、を共に備える態様としてもよい。
【0028】
実施の一形態として、全負荷運転時には、前記ピストンが上死点側に位置するタイミングで前記燃料噴射弁から燃料が供給され、軽負荷運転時には、前記ピストンが下死点に到達する直前のタイミングで前記燃料噴射弁から燃料が供給される態様としてもよい。このようにすれば、全負荷運転時には、クランク室内での混合気の均質性が向上するので、均質燃焼に適する。一方、軽負荷運転時には、燃料噴射弁から供給された燃料がクランク室内に充填する空気と混ざる前に、ブースター通路を介して燃焼室へと流入する。クランク室内に充填した空気には燃料が混合されずに掃気通路から燃焼室へと導入されるので、成層燃焼に適する。
【0029】
実施の一形態として、前記掃気通路と前記燃焼室とを連通させる掃気ポートが前記シリンダの内周面に一対配設され、該一対の掃気ポート間における一方の円弧面側に前記排気ポートが配設され、前記燃焼室と前記ブースター通路とを連通させる上死点側ブースターポートが、前記一対の掃気ポート間における他方の円弧面側に配設される態様としてもよい。この場合、軽負荷運転時には、ブースター通路を介して燃焼室に燃料が流入すると共に、一対の掃気ポートから燃焼室に空気が流入する。掃気通路とは別に設けられた、混合気供給のためのブースターポートから濃い混合気が燃焼室内の空気と混合することにより、点火装置の点火部付近に濃い混合気が形成される。これにより、軽負荷運転時の成層燃焼の確実性が向上する。
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、2サイクル内燃エンジンの高回転、高負荷域だけでなく、低回転から高回転への加減速や中間的な回転数、軽負荷領域においても、エンジンの運転状態に最も適する先導空気および混合気を燃焼室へ供給することができる。また、燃料噴射装置の配置、タイミング制御、指向性のそれぞれを組み合わせることで先導空気量と混合気量のそれぞれを正確にコントロールすることができる。なお、シリンダには空気を吸入する空気用の空気ポートのみが開口するため、充分な先導空気供給量を設定することが可能であり、かつ、エンジンの吸気側(反排気側)の構造簡素化、コンパクト性にも寄与できる。
【0031】
実施の一形態として、前記吸気通路に逆止弁を備える態様としてもよい。逆止弁を設けることにより、前回サイクルにおける燃焼室からの吹き返しが吸気通路に混入せず、次のサイクルでの空気供給量および燃料噴射量をより精密に管理できる。
【0032】
実施の一形態として、前記2サイクル内燃エンジンを動力源として備えるエンジン作業機を提供してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施の一形態に係る2サイクル内燃エンジンの概略図である。
図2図1のエンジンの作動行程の説明図である。
図3図1のエンジンにおける空気と燃料の流れを示すブロック図である。
図4】本発明の他の実施の一形態に係る2サイクル内燃エンジンの概略図である。
図5】本発明の他の実施の一形態に係る2サイクル内燃エンジンの概略図である。
図6】本発明の他の実施の一形態に係る2サイクル内燃エンジンの概略図である。
図7】本発明の他の実施の一形態に係る2サイクル内燃エンジンの概略図である。
図8】本発明の他の実施の一形態に係る2サイクル内燃エンジンの全負荷運転時の説明図であり、(a)は、前記エンジンの概略正面図、(b)は、前記エンジンの全負荷運転時の燃料供給タイミングを表す図、(c)は、前記エンジンの概略平面図である。
図9図8の2サイクル内燃エンジンの軽負荷運転時の説明図であり、(a)は、前記エンジンの概略正面図、(b)は、前記エンジンの軽負荷運転時の燃料供給タイミングを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0035】
本発明に係る2サイクル内燃エンジン(以下、単に「エンジン」という。)は、主に携帯式のエンジン作業機に動力源として搭載される空冷式のものである。本発明のエンジンが用いられる作業機としては、チェーンソー、刈払機、動力カッター、ヘッジトリマー、パワーブロワ等の、手持式、肩掛式又は背負式等の携帯式作業機が挙げられる。
【0036】
図1に示すように、本発明の実施の一形態に係るエンジン1は、シリンダブロック2と、このシリンダブロック2を構成するシリンダ3内を往復摺動するピストン4と、を備える。シリンダブロック2の一端側を構成するシリンダヘッド5とピストン4とによって燃焼室6が画成され、シリンダブロック2の他端側を構成するクランクケース7とピストン4とによってクランク室8が画成される。シリンダヘッド5には点火装置を構成する点火プラグ9が固着され、この点火プラグ9は燃焼室6に突入している。クランクケース7内にはクランクシャフト10が回動自在に支持され、このクランクシャフト10とピストン4のピストンピン4aとが連接棒11によって連結される。燃焼室6での燃焼膨張(爆発)によりピストン4がシリンダ3内を往復摺動することにより、連接棒11を介してクランクシャフト10が回転駆動され、クランクシャフト10に繋がる図示しない出力軸に回転駆動力が出力される。
【0037】
シリンダ3の内壁には、排気ポート12と少なくとも一つの掃気ポート14が開口しており、これらのポート12,14がピストン4の往復動によって所定のタイミングで開閉制御される。排気ポート12は排気管15を介してマフラ15aに連通する。掃気ポート14は、掃気通路18を介してクランク室8に連通する。
【0038】
エンジン1は、空気供給用の吸気通路17を備える。吸気通路17は、ピストン4の作動時の負圧によって空気のみを吸入する。吸気通路17内にはバタフライ式等のスロットルバルブ19が配設され、スロットルバルブ19の上流側にはエアクリーナ20が配設される。スロットルバルブ19の開度は、作業者が作業機の出力操作部材(スロットルトリガやスロットルレバー等)を操作することで調整される。
【0039】
吸気通路17は掃気通路18に連通される。吸気通路17上には、掃気通路18からの空気の逆流を防止する逆止弁23が配設される。吸気通路17は、掃気通路18の掃気ポート14側の端部に形成される吸気ポート24に連結される。そして、吸気通路17は、エアクリーナ20で浄化された空気を掃気通路18へと導く。吸気通路17は、一か所のみの吸気ポート24に開口する。
【0040】
エアクリーナ20で浄化された空気は、クランク室8が負圧となる吸入行程で、吸気通路17から逆止弁23、吸気ポート24、掃気通路18の順に通過して、クランク室8へと吸入される。吸入行程の終了時には、掃気通路18に空気が滞留する。この滞留空気は、掃気行程において、クランク室8内の混合気に先立って、掃気ポート14からシリンダ3内へと流入する。この空気先導式の掃気により、燃焼室6の燃焼ガスが排気ポート12から排出される。
【0041】
エンジン1は、クランク室8内に燃料を供給するための燃料噴射弁25を備える。燃料は、クランク室8内で空気と混合して混合気となる。図示例では、クランクケース7の下部に燃料噴射弁25が配設されている。
【0042】
燃料噴射弁25には、燃料タンク26と燃料ポンプ27が連結される。燃料ポンプ27の作動によって燃料タンク26内の燃料が燃料噴射弁25に供給され、燃料噴射弁25の開閉によって燃料の噴射が制御される。
【0043】
燃料噴射弁25は、マイクロコンピュータを含む制御装置28によって開閉制御される。制御装置28には、エンジン1の運転状況を検知する少なくとも一つのセンサ29(29a~29g)の検知信号が入力される。制御装置28は、センサ29の検知に基づいて、燃料噴射弁25によるクランク室8への燃料供給を制御する。
【0044】
少なくとも一つのセンサ29を例示すると、例えば、吸気温度を検知して信号を発する吸気温度センサ29a、吸気圧を検知して信号を発する吸気圧センサ29b、スロットルバルブ19の開度を検知して信号を発するスロットルバルブ開度センサ29c、クランク室8の圧力を検知して信号を発するクランク室圧力センサ29d、クランク室8の温度を検知して信号を発するクランク室温度センサ29e、エンジン1の回転数を検知して信号を発するエンジン回転数センサ29f、クランク角を検知して信号を発するクランク角センサ29gが挙げられる。これらのセンサ29a~29gの信号は制御装置28に入力される。
【0045】
制御装置28は、センサ29a~29gからの種々の信号に基づき、所定のプログラムにしたがって、燃料噴射弁25へと適宜のタイミングで燃料噴射信号を発し、また、点火装置を構成する点火プラグ9へと所定のタイミングで点火信号を発する。これにより、クランク室8への燃料供給と、燃焼室6の混合気への点火が行われる。
【0046】
次に、図2を参照して、図1のエンジン1の動作について説明する。図2において、(a)は掃気時、(b)は吸入及び圧縮時、(c)は燃焼膨張(爆発)時、(d)は排気時の説明図である。なお、クランク室8への燃料噴射は適時に行われればよいが、一例として、吸入行程の終盤に行われるものとする。
【0047】
図2(a)、(b)を参照して、ピストン4が下死点から上昇する過程でピストン4により掃気ポート14が閉じると、ピストン4の上昇によりクランク室8内が負圧になる。これにより、吸気通路17から吸気ポート24と掃気通路18とを通ってクランク室8へと空気が吸入される。一例として、吸入行程の終盤で燃焼噴射弁25から燃料が噴射される。燃焼室6では、ピストン4が上死点に達するまで混合気の圧縮が行われる。ピストン4が上死点に達すると、クランク室8への空気の吸入が終了する。この時点で、クランク室8内には燃料と空気が混合した混合気が充満し、掃気通路18内には空気が滞留する。
【0048】
図2(c)を参照して、ピストン4が上死点に達した時に点火プラグ9による点火が行われる。これにより燃焼室6で混合気が燃焼膨張(爆発)し、ピストン4が下死点へと押し下げられることで、クランクシャフト10が回転して動力が発生する。ピストン4の下降により、クランク室8内の混合気が予圧縮される。このとき、逆止弁23が作用するので、吸気ポート24から空気が流出することはない。
【0049】
図2(d)を参照して、ピストン4の下降により排気ポート12が開くと、燃焼ガスが排気管15へと流出する。続いて、図2(a)に示すように掃気ポート14が開き、予圧縮されたクランク室8内の混合気が掃気通路18を通って燃焼室6へと送り込まれる。このとき、クランク室8内の混合気に先立って、掃気通路18内に滞留していた空気が先導エアとして燃焼室6へと流入し、排気ポート12へと燃焼ガスを追い出す。このため、掃気時における混合気の吹き抜けが低減される。ピストン4は、クランクシャフト10の回転により再び上死点へ向けて移動し、以後、同様の作用が繰り返される。
【0050】
なお、図1のエンジン1における空気と燃料の流れを簡潔に示すと、図3のブロック図のようになる。
【0051】
本実施の一形態のエンジン1によれば、燃料噴射弁25によってクランク室8内に燃料が供給されるので、燃料供給のタイミングの制御が容易となり、エンジン1の運転状態に適した混合気の供給が可能となる。また、吸気の終了時には掃気通路18に空気が滞留し、この滞留空気が先導エアとして掃気に関与するので、掃気時の混合気の吹き抜けが防止され、排気ガスの成分が改善される。吸気通路17が空気のみを吸入するように構成されていることで、吸入空気の制御が容易となるほか、空気制御の信頼性の向上にも貢献できる。また、吸気通路17が逆止弁23を介して掃気通路18に連通するので、ピストン4や掃気通路18の簡素化に貢献できる。
【0052】
なお、燃料噴射弁25の配設態様や種類は、例えば次のようにしてもよい。
【0053】
好適な実施の一形態として、燃料噴射弁25は、掃気通路18へ燃料が向かわない方向に向けて燃料を噴射する態様としてもよい。このようにすれば、掃気通路18の滞留空気に燃料が混入しにくい。
【0054】
好適な実施の一形態として、燃料噴射弁25は、電動燃料ポンプと、クランクシャフト10の回転により動作するポンプの、少なくとも一つに燃圧を享受される高圧式燃料噴射弁としてもよい。このようにすれば、狙ったところに燃料を噴射できる。例えば、エンジン1の焼き付きが起こりやすい場所へ狙って噴射することも可能である。
【0055】
好適な実施の一形態として、燃料噴射弁25は、シリンダ3内又はクランク室8内の要冷却部位に向けて高圧で燃料を噴射する態様としてもよい。このようにすれば、燃料噴射弁25から高圧で噴射される燃料により、要冷却部位が効果的に冷却される。要冷却部位として、例えば、連接棒11とピストンピン4aとの連結部や、連接棒11とクランクシャフト10との連結部等の、摩擦熱の発生部位が挙げられる。また、ピストン4を冷却するために、ピストン4の内壁に高圧で燃料を噴射してもよい。
【0056】
2サイクル内燃エンジンの燃料は、ガソリンに潤滑用オイルを混合した混合燃料である。このため、クランク室8内に燃料(混合燃料)が供給されると、燃料に含まれる潤滑用オイルにより、ピストン4とシリンダ3との潤滑が即応的且つ迅速に行われる。これによって、エンジン1の焼き付きが防止される。この場合に、温度信号、回転数信号、吸気圧信号、及び開度信号の少なくとも一つを利用して燃料を噴射してエンジン1の焼き付きを防止してもよい。例えば、高速運転時に高温を検知した際に燃料を噴射すればよい。また、高速運転時に急停止する際にも燃料を噴射して焼き付きを防止することも考えられる。
【0057】
好適な実施の一形態として、燃料噴射弁25は、ピストン4の作動過程におけるクランク室8の最高内圧下においても燃料を噴射可能な高圧式燃料噴射弁としてもよい。このようにすれば、クランク室内への燃料噴射のタイミングが最適化できるため、先導エアへのガソリン混合を抑止するなど排気ガスの成分を改善できる。
【0058】
好適な実施の一形態として、図1に示すように、燃料噴射弁25は、シリンダ3の軸線Xとクランクシャフト10の軸線Yとを含む平面に対して、燃料タンク26が配置される側に設置されてもよい。この構成により、燃料タンク26と燃料噴射弁25の位置が近くなるので、相互間の配管が短くて済み、作業機の小型化、軽量化に貢献できる。また、燃料噴射弁25の燃料入口25cが燃料タンク26へ向くように燃料噴射弁25を配設することで、燃料タンク26から燃料噴射弁25への配管の形成が容易となる。また、この場合、燃料タンク26と燃料噴射弁25との距離が短いので、燃料噴射弁25に早急に燃料を送ることができ、エンジン1の始動が良好に行える。特に、燃料タンク26内に電動の燃料ポンプが設置された高圧式燃料噴射弁の場合に、電動の燃料ポンプと燃料噴射弁25との距離が近いので、早急に燃料を送ることができ、エンジン1の始動が良好に行える。
【0059】
好適な実施の一形態として、燃料噴射弁25aは、後端に燃料入口25cを備え、上側に向けて燃料を噴射し、燃料タンク26はクランク室8の下側に配置されてもよい。この場合も、前記と同様の作用効果が得られる。
【0060】
燃料噴射弁25は、電気的に制御可能なもののほか、機械的に制御されるものを採用してもよい。後者の場合には、例えば、機械的に開閉可能な燃料噴射弁をクランクシャフト10に作動上連結し、ピストン4の作動行程における所定のタイミングで燃料噴射弁が開閉されるようにしてもよい。
【0061】
次に、図4を参照して、図1の変形例を説明する。以下の説明において、図1の例と同一又は均等な構成要素については、図1と同様の符号を付して、重複する説明を省略する。図4(a)は、ピストンが上死点にある状態、図4(b)は、ピストンが下死点にある状態を示している。
【0062】
図4のエンジン40においては、シリンダ41の内壁に一か所のみの吸気ポート42が開口する。この吸気ポート42には、吸気通路17が連通する。吸気ポート42は、ピストン43によって開閉される。図4のピストン43は、周面にピストン溝44を備え、このピストン溝44を介して、所定のタイミングで吸気通路17と掃気ポート14とが連通する。
【0063】
図4のエンジン40によれば、上死点へ向けてピストン43が作動することでクランク室8が負圧になる。そして、ピストン43の上昇過程でピストン溝44と掃気ポート14とが重なったときに、クランク室8が、掃気通路18と掃気ポート14とピストン溝44と吸気ポート42とを介して、吸気通路17に連通する。このため、クランク室8の負圧により、空気が、吸気通路17と吸気ポート42とピストン溝44と掃気ポート14と掃気通路18とを通して、クランク室8に吸入される。吸入される空気がピストン43の周面に直接接触するので、ピストン43の冷却性能が向上する。また、吸気ポート42がピストン43で開閉されるので、図1のエンジン1とは異なり、吸気通路17上に逆止弁を配設する必要がない。
【0064】
次に、図5を参照して、図4の変形例を説明する。以下の説明において、図4の例と同一又は均等な構成要素については、図4と同様の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0065】
図5のエンジン50においては、ピストン51のピストン溝44に、クランク室8と連通する孔52が設けられる。そして、孔52を通して吸気ポート42からクランク室8へも空気が流入するので、クランク室8への給気量を増大させることができる。
【0066】
次に、図6を参照して、図4の変形例を説明する。以下の説明において、図4の例と同一又は均等な構成要素については、図4と同様の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0067】
図6のエンジン60においては、ピストン43の下端と吸気ポート42の下端との間に、吸気通路17とクランク室8とを連通させる連通部61を備える。この場合、ピストン43が上死点に達したときに、連通部61を通して吸気ポート42からクランク室8へも空気が流入するので、クランク室8への給気量を増大させることができる。
【0068】
連通部61の形成態様を例示すると、図6(a)に示すように、吸気ポート42の下端に下方への拡大部61aを備え、この拡大部61aによって連通部61が形成される態様としてもよい。この場合、拡大部61aを通して吸気ポート42からクランク室8へと空気が流入する。
【0069】
連通部61の他の例として、図6(b)に示すように、ピストン62の下端に切欠き61bを備え、この切欠き61bによって連通部61が形成される態様としてもよい。この場合、切欠き61bを通して吸気ポート42からクランク室8へと空気が流入する。
【0070】
次に、図7を参照して、図4の変形例を説明する。以下の説明において、図4の例と同一又は均等な構成要素については、図4と同様の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0071】
図7のエンジン70においては、掃気通路18が、掃気ポート14よりもクランク室8寄りの位置に、ピストン溝44と連通する分岐通路71を有する。この場合、分岐通路71は掃気ポート14より下方に位置するため、ピストン43の作動によるピストン溝44と分岐通路71の連通時間を長くすることができ、吸気量を増大させ出力を向上させることができる。
【0072】
次に、図8及び図9を参照して、本発明の他の実施の一形態を説明する。図8及び図9の例は、図1の変形例である図4のエンジン40の変形例をベースとする実施の一形態である。よって、図1図4の例と同一又は均等な構成要素については、それらと同様の符号を付して、重複する説明を省略する場合がある。
【0073】
図8及び図9のエンジン80も、燃焼室6を画成し且つ排気ポート12を有するシリンダ41と、燃焼室6の混合気に点火する点火装置(点火プラグ9)と、燃焼室6での燃焼膨張によりシリンダ41内を往復動するピストン43と、シリンダ41の内部と連通するクランク室8と、該クランク室8内に配設されてピストン43と作動上連結されるクランクシャフト10と、クランク室8内に燃料を噴射する燃料噴射弁25と、ピストン43の作動時の負圧によって吸入される空気のみを供給する吸気通路17と、クランク室8と燃焼室6とを連通する掃気通路18と、を備える。そして、吸気通路17を通過する空気が掃気通路18に導入され、吸気行程の後半に掃気通路18内に滞留する空気が掃気に関与する。
【0074】
図8(c)に示すように、エンジン80においては、掃気通路18が一対配設されている。その結果、掃気通路18,18と燃焼室6とを連通させる掃気ポート14が、シリンダ41の内周面上に一対存在する。吸気通路17は二つに分岐して二つの分岐路17a,17bとなり、各分岐路17a,17bは、シリンダ41に配設される一対の吸気ポート42,42のそれぞれに連通する。各吸気ポート42,42は、ピストン43の周面上に配設される二つのピストン溝44,44のそれぞれを介して、所定のタイミングで各掃気ポート14,14に連通する。
【0075】
図8(a)と図9(a)に示すように、エンジン80においては、クランク室8と燃焼室6とを連通するブースター通路81が一対の掃気通路18,18とは別に配設される。ブースター通路81は、シリンダ41に形成される上死点側ブースターポート81aを介して燃焼室6に連通し、クランクケース7に形成される下死点側ブースターポート81bを介してクランク室8に連通する。ブースター通路81は、エンジン80の軽負荷運転時にクランク室8内の燃料を燃焼室6へと流入させて、成層燃焼を実現するためのものである。すなわち、エンジン80の軽負荷運転時には、ピストン43の作動により、クランク室8内の燃料がブースター通路81を通って燃焼室6へと流入する。同時に、クランク室8内の空気が掃気通路18,18を通って燃焼室6へと流入する。このように、燃焼室6内へ空気と混合気とが別々に導入され、成層燃焼が行われる。
【0076】
本実施の一形態では、少なくとも燃料噴射弁25による燃料供給タイミングが制御装置28で制御されることにより、図8(a)、(b)に示す全負荷運転時には均質燃焼が行われる。一方、図9(a)、(b)に示す軽負荷運転時には、ブースター通路81を介して燃料が燃焼室6に流入して成層燃焼が行われる。これにより、全負荷運転時に加えて軽負荷運転時の熱効率も改善される。
【0077】
燃料噴射弁25による燃料供給タイミングは、エンジン80の全負荷運転時と軽負荷運転時とで異なるように、制御装置28によって制御される。すなわち、エンジン80の全負荷運転時には、図8(b)に示すように、ピストン43が上死点側付近に位置するタイミングで燃料噴射弁25から燃料が供給される。この構成では、クランク室8内で混合されることにより生成された混合気が掃気通路18,18の下端側から燃焼室6へ導入される。これにより、全負荷運転時には、クランク室8内での混合気の均質性が向上するので、均質燃焼に適する。
【0078】
一方、エンジン80の軽負荷運転時には、図9(b)に示すように、ピストン43が下死点側に位置するタイミングで、より好ましくは、ピストン43が下死点付近に到達する直前のタイミングで、燃料噴射弁25から燃料が供給される。これにより、軽負荷運転時には、燃料噴射弁25から供給された燃料がクランク室8内で空気と混ざる前にブースター通路81を介して燃焼室6へと流入しやすい。この混合気の流れとは別に、掃気通路18,18からはクランク室8内に充填された空気が導入されて燃焼室6内に空気層と混合気層が生成され、成層燃焼が実現する。
【0079】
好ましくは、燃料噴射弁25による燃料噴射態様も、エンジン80の全負荷運転時と軽負荷運転時とで異なるように、制御装置28によって制御される。すなわち、エンジン80の全負荷運転時には、図8(a)に示すように、燃料噴射弁25から放射状に勢いよく燃料が噴射されることが好ましい。これにより、クランク室8内の全体に燃料が散乱しやすいので、クランク室8内の全域で燃料と空気とが均質に混合されやすい。
【0080】
一方、エンジン80の軽負荷運転時には、燃料が下死点側ブースターポート81bの近傍に位置するように、燃料噴射弁25から燃料が供給されることが好ましい。このような燃料供給を実現するために、エンジン80においては、燃料噴射弁25から供給される燃料をエンジン80の軽負荷運転時に下死点側ブースターポート81bの近傍に位置させる燃料供給構成82が備わっている。この燃料供給構成82により、エンジン80の軽負荷運転時には、燃料がブースター通路81を介して燃焼室6へと流入しやすい。よって、軽負荷運転時の成層燃焼に適する。
【0081】
燃焼供給構成82の具体例を挙げると、燃焼供給構成82は、図9(a)に示すように、燃料噴射弁25が下死点側ブースターポート81bの近傍に配置される第一構成82aと、燃料が下死点側ブースターポート81bの近傍に滞留可能な噴射圧で燃料噴射弁から燃料が噴射される第二構成82bと、を共に備える態様とすることができる。前述の通り、燃料噴射弁25の噴射圧は、制御装置28によって制御される。
【0082】
燃焼供給構成82の他の具体例として、図9(a)に仮想線で示すように、下死点側ブースターポート81bに向けて燃料が噴射されるように燃料噴射弁25が配置される第一構成82cと、燃料が下死点側ブースターポート81bに到達可能な噴射圧で燃料噴射弁25から燃料が噴射される第二構成82dと、を共に備える態様としてもよい。この場合にも、燃料噴射弁25の噴射圧は、制御装置28によって制御される。
【0083】
次に、排気ポートと二つの掃気ポートと上死点側ブースターポートの、好ましい配置関係について説明する。図8(c)に示すように、シリンダの内周面には、二つの掃気ポートが配設される。これら二つの掃気ポート間におけるシリンダの内周面の一方の円弧面側に、排気ポートが配設される。そして、上死点側ブースターポートは、二つの掃気ポート間におけるシリンダの内周面の他方の円弧面側に配設される。シリンダの軸線方向における上死点側ブースターポートの開口位置は、排気ポートよりも低い位置(下死点側)であればよく、掃気ポートとほぼ同一の高さ位置であってもよい。
【0084】
前記構成により、軽負荷運転時には、ブースター通路を介して燃焼室に燃料が流入すると共に、二つの掃気ポートから燃焼室に空気が流入する。ブースター通路を介して燃焼室に流入する燃料は、空気をほとんど含まない濃い燃料である。また、二つの掃気ポートから燃焼室に流入する空気には、燃料はほとんど含まれていない。図9(a)に示すように、上死点側ブースターポートから燃焼室に流入した燃料は、二つの掃気ポートから燃焼室に流入する空気によって、シリンダの内周面の前記他方の円弧面に沿ってシリンダヘッド方向へと運ばれる。このように、燃焼室6内へ空気と混合気とが別々に導入されることで、軽負荷運転時の成層燃焼の確実性が一層向上する。
【0085】
ブースター通路を設けると共に燃料噴射弁からの燃料供給タイミングを制御して、軽負荷運転時に成層燃焼を行わせる構成は、図8図9の実施の一形態に限らず、図1図7の実施の形態にも適用可能であることは勿論である。
【0086】
このようなエンジンにおいては、吸気通路から供給される空気と、燃料噴射装置によって供給される燃料成分を含む混合気との比率を、より精密に制御することが重要である。この目的のために、吸気通路中に、より好ましくは吸気ポート近傍に、周知の逆止弁(図1の逆止弁23参照)を備えることが望ましい。逆止弁を設けることにより、前回サイクルにおける燃焼室からの吹き返しが吸気通路に混入せず、次のサイクルでの空気供給量および燃料噴射量をより精密に管理できる。
【0087】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
図1
図2
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