(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】相間移動触媒作用によるポリスルファンシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20241125BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241125BHJP
【FI】
C07F7/18 W
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2022537522
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2020086042
(87)【国際公開番号】W WO2021122484
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-02-07
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ユリア ヘアメーケ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート ドレーゲ
(72)【発明者】
【氏名】エフゲニー リャギン
(72)【発明者】
【氏名】ホルスト メルチュ
(72)【発明者】
【氏名】エリーザベト バウアー
(72)【発明者】
【氏名】ゲルト スマンズ
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第103772427(CN,B)
【文献】独国特許出願公開第19519793(DE,A1)
【文献】特開昭58-194855(JP,A)
【文献】特開2013-067604(JP,A)
【文献】SASSON Y.,Synthesis of quaternary ammonium salts,Handbook of Phase Transfer Catalysis,Chapter 3,1997年,p.111-134,ISBN 978-0-7514-0258-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
(R
1)
3-mR
2
mSi-R
3-S
x-R
3-SiR
2
m(R
1)
3-m I
[式中、
R
1は、同一であるかまたは異なり、C
1~C
10-アルコキシ基、フェノキシ基またはアルキルポリエーテル基-(R’-O)
rR’’であり、ここで、R’は、同一であるかまたは異なり、分岐または非分岐、飽和または不飽和、脂肪族、芳香族、または脂肪族/芳香族の混合型の二価C
1~C
30-炭化水素基であり、rは、1~30の整数であり、R’’は、非置換または置換、分岐または非分岐の一価のアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基であり、
R
2は、同一であるかまたは異なり、C
6~C
20-アリール基、C
1~C
10-アルキル基、C
2~C
20-アルケニル基、C
7~C
20-アラルキル基、またはハロゲンであり、
R
3は、同一であるかまたは異なり、分岐または非分岐、飽和または不飽和、脂肪族、芳香族、または脂肪族/芳香族の混合型の二価C
1~C
30-炭化水素基であり、
mは、同一であるかまたは異なり、0、1、2または3であり、
xは、2~10である]のポリスルファンシランの製造方法であって、式II
(R
1)
3-mR
2
mSi-R
3-Hal II
[式中、
R
1は、同一であるかまたは異なり、C
1~C
10-アルコキシ基、フェノキシ基またはアルキルポリエーテル基-(R’-O)
rR’’であり、ここで、R’は、同一であるかまたは異なり、分岐または非分岐、飽和または不飽和、脂肪族、芳香族、または脂肪族/芳香族の混合型の二価C
1~C
30-炭化水素基であり、rは、1~30の整数であり、R’’は、非置換または置換、分岐または非分岐の一価のアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基であり、
R
2は、同一であるかまたは異なり、C
6~C
20-アリール基、C
1~C
10-アルキル基、C
2~C
20-アルケニル基、C
7~C
20-アラルキル基、またはハロゲンであり、
R
3は、同一であるかまたは異なり、分岐または非分岐、飽和または不飽和、脂肪族、芳香族、または脂肪族/芳香族の混合型の二価C
1~C
30-炭化水素基であり、
mは、0、1、2または3であり、
Halは、Cl、BrまたはIである]の少なくとも1つのシランと、M(SH)
yおよび/またはM
zSおよび/またはM
gS
h
[ここで、
y=1または2であり、y=1の場合、M=NaまたはKであり、y=2の場合、M=CaまたはMgであり、
z=1または2であり、z=1の場合、M=CaまたはMgであり、z=2の場合、M=NaまたはKであり、
g=1または2であり、g=1の場合、M=CaまたはMgであり、g=2の場合、M=NaまたはKであり、
h=1~10の自然数である]および/または硫黄とを、塩基、水相、および式III
【化1】
[式中、
Yは、第5主族の元素であり、
R
4、R
5、R
6およびR
7は、同一であるかまたは異なり、-(CH
2)
kCH
3アルキル基[ここで、k=0~9である]であるか、または基R
4、R
5、R
6およびR
7から選択される2つの置換基の間には、1つもしくは2つの閉環部-(CH
2)
n-[ここで、n=2~5、好ましくはn=4である]が存在し、
X
-は、F
-、I
-、Cl
-、Br
-、ClO
4
-、PF
6
-、BF
4
-、(C
6H
5)
4B
-、H
2PO
4
-、CH
3SO
3
-、C
6H
5SO
3
-、HSO
4
-、NO
3
-、または1/2SO
4
2-である]の相間移動触媒の存在下で反応させることによる方法であって、相間移動触媒の分解生成物の除去のために反応の間または後に少なくとも1つのキャリア蒸気蒸留および/またはオゾン処理を行うことを特徴とする、方法。
【請求項2】
R
1はエトキシであり、m=0であり、かつR
3は(CH
2)
3であることを特徴とする、請求項1記載の式Iのポリスルファンシランの製造方法。
【請求項3】
Hal=Clであることを特徴とする、請求項1または2記載の式Iのポリスルファンシランの製造方法。
【請求項4】
M=Naであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の式Iのポリスルファンシランの製造方法。
【請求項5】
塩基として、M
3-wCO
3、M(OH)
w、M
3-w(HPO
4)、M(H
2PO
4)
w、M
3(PO
4)
wを使用し、ここで、w=1または2であり、w=1の場合、M=NaまたはKであり、w=2の場合、M=CaまたはMgであることを特徴とする、請求項1記載の式Iのポリスルファンシランの製造方法。
【請求項6】
塩基として、Na
2CO
3またはNaOHを使用することを特徴とする、請求項5記載の式Iのポリスルファンシランの製造方法。
【請求項7】
前記反応を、25℃~200℃の温度で実施することを特徴とする、請求項1記載の式Iのポリスルファンシランの製造方法。
【請求項8】
前記水相に、前記式IIIの相間移動触媒および前記式IIのシランを添加することを特徴とする、請求項1記載の式Iのポリスルファンシランの製造方法。
【請求項9】
さらに、炭素による後処理を行うことを特徴とする、請求項1記載の式Iのポリスルファンシランの製造方法。
【請求項10】
M(SH)
yおよび/またはM
zSおよび/またはM
gS
hを、MOH[ここで、M=NaまたはKである]および硫黄からその場で製造することを特徴とする、請求項1記載の式Iのポリスルファンシランの製造方法。
【請求項11】
相間移動触媒の分解生成物は、アルシン、ホスフィンまたはアミ
ンである
ことを特徴とする、請求項1記載の式Iのポリスルファンシランの製造方法。
【請求項12】
請求項1記載のポリスルファンシランの製造方法の間に製造される相間移動触媒の分解生成物を除去するための、キャリア蒸気蒸留および/またはオゾン処理の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、相間移動触媒作用によるポリスルファンシランの製造方法である。
【0002】
米国特許第5,405,985号明細書、米国特許第5,583,245号明細書および米国特許第5,663,396号明細書から、相間移動触媒作用による式Z-Alk-Sn-Alk-Zの化合物の製造が知られている。
【0003】
さらに、米国特許第5,468,893号明細書から、ハロゲン化アルカリまたは硫酸アルカリの存在下での相間移動触媒作用によるポリスルファンシランの製造が知られている。
【0004】
米国特許第6,384,255号明細書および米国特許第6,448,426号明細書から、相間移動触媒作用における添加順序の変更が知られている。
【0005】
米国特許第6,384,256号明細書では、予備反応においてMOHの存在下でM2SnまたはMSHと硫黄とを反応させる。
【0006】
さらに、米国特許第6,740,767号明細書および米国特許第6,534,668号明細書から、相間移動触媒作用における緩衝剤の添加が知られている。
【0007】
Handbook of Phase Transfer Catalysis (ISBN 978-0-7514-0258-2), Chapter 3, p. 123-127から、第四級アンモニウム相間移動触媒、例えばtert-ブチルアンモニウムブロミドからトリブチルアミンへの分解が知られている。
【0008】
ポリスルファンシランを製造するための既知のPTCプロセスの欠点は、最終生成物に触媒の部分的に毒性のまたは健康に有害な分解生成物が含まれることである。
【0009】
本発明の主題は、式I
(R
1)
3-mR
2
mSi-R
3-S
x-R
3-SiR
2
m(R
1)
3-m I
[式中、
R
1は、同一であるかまたは異なり、C
1~C
10-アルコキシ基、フェノキシ基またはアルキルポリエーテル基-(R’-O)
rR’’であり、ここで、R’は、同一であるかまたは異なり、分岐または非分岐、飽和または不飽和、脂肪族、芳香族、または脂肪族/芳香族の混合型の二価C
1~C
30-炭化水素基であり、rは、1~30の整数であり、R’’は、非置換または置換、分岐または非分岐の一価のアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基であり、
R
2は、同一であるかまたは異なり、C
6~C
20-アリール基、C
1~C
10-アルキル基、C
2~C
20-アルケニル基、C
7~C
20-アラルキル基、またはハロゲンであり、
R
3は、同一であるかまたは異なり、分岐または非分岐、飽和または不飽和、脂肪族、芳香族、または脂肪族/芳香族の混合型の二価C
1~C
30-炭化水素基であり、
mは、同一であるかまたは異なり、0、1、2または3であり、
xは、2~10、好ましくは2~4である]のポリスルファンシランの製造方法であって、式II
(R
1)
3-mR
2
mSi-R
3-Hal II
[式中、Halは、Cl、BrまたはIであり、好ましくはClである]の少なくとも1つのシランと、M(SH)
y、好ましくはNaSH、および/またはM
zS、好ましくはNa
2S、および/またはM
gS
h
[ここで、
y=1または2であり、y=1の場合、M=NaまたはKであり、y=2の場合、M=CaまたはMgであり、
z=1または2であり、z=1の場合、M=CaまたはMgであり、z=2の場合、M=NaまたはKであり、
g=1または2であり、g=1の場合、M=CaまたはMgであり、g=2の場合、M=NaまたはKであり、
h=1~10の自然数である]および/または硫黄とを、塩基、水相、および式III
【化1】
[式中、
Yは、第5主族の元素であり、好ましくはN、PまたはAsであり、特に好ましくはNまたはPであり、非常に特に好ましくはNであり、
R
4、R
5、R
6およびR
7は、同一であるかまたは異なり、-(CH
2)
kCH
3アルキル基[ここで、k=0~9である]であるか、または基R
4、R
5、R
6およびR
7から選択される2つの置換基の間には、1つもしくは2つの閉環部-(CH
2)
n-[ここで、n=2~5、好ましくはn=4である]が存在し、
X
-は、F
-、I
-、Cl
-、Br
-、ClO
4
-、PF
6
-、BF
4
-、(C
6H
5)
4B
-、H
2PO
4
-、CH
3SO
3
-、C
6H
5SO
3
-、HSO
4
-、NO
3
-、または1/2SO
4
2-である]の相間移動触媒の存在下で反応させることによる方法であって、該反応の間または後に少なくとも1つのキャリア蒸気蒸留および/またはオゾン処理を行うことを特徴とする方法である。
【0010】
好ましくは、R1はエトキシであり、m=0であり、かつR3は(CH2)3であってよい。
【0011】
好ましくは、Hal=Clであってよい。
【0012】
好ましくは、式Iのポリスルファンシランは、以下のものであってよい:
【化2】
【0013】
好ましくは、式IIのシランとして、
3-クロロブチル(トリエトキシシラン)、3-クロロブチル(トリメトキシシラン)、3-クロロブチル(ジエトキシメトキシシラン)、3-クロロプロピル(トリエトキシシラン)、3-クロロプロピル(トリメトキシシラン)、3-クロロプロピル(ジエトキシメトキシシラン)、2-クロロエチル(トリエトキシシラン)、2-クロロエチル(トリメトキシシラン)、2-クロロエチル(ジエトキシメトキシシラン)、1-クロロメチル(トリエトキシシラン)、1-クロロメチル(トリメトキシシラン)、1-クロロメチル(ジエトキシメトキシシラン)、3-クロロプロピル(ジエトキシメチルシラン)、3-クロロプロピル(ジメトキシメチルシラン)、2-クロロエチル(ジエトキシメチルシラン)、2-クロロエチル(ジメトキシメチルシラン)、1-クロロメチル(ジエトキシメチルシラン)、1-クロロメチル(ジメトキシメチルシラン)、3-クロロプロピル(エトキシジメチルシラン)、3-クロロプロピル(メトキシジメチルシラン)、2-クロロエチル(エトキシジメチルシラン)、2-クロロエチル(メトキシジメチルシラン)、1-クロロメチル(エトキシジメチルシラン)、1-クロロメチル(メトキシジメチルシラン)
【化3-1】
【0014】
【0015】
式IIIの相間移動触媒は、以下のものであってよい:
【化4-1】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
塩基として、M3-wCO3、M(OH)w、M3-w(HPO4)、M(H2PO4)w、M3(PO4)wを使用することができ、ここで、w=1または2であり、w=1の場合、M=NaまたはKであり、w=2の場合、M=CaまたはMgである。好ましくは、塩基として、Na2CO3またはNaOHを使用することができる。
【0027】
本発明による式Iのポリスルファンシランの製造方法は、25℃~200℃、好ましくは70℃~160℃の温度で実施することが可能である。
【0028】
本発明による式Iのポリスルファンシランの製造方法において、水溶液/水性懸濁液中のM(SH)y、好ましくはNaSH、および/またはMzS、好ましくはNa2S、および/またはMgSh、塩基、好ましくはNaOHまたはNa2CO3および硫黄によって製造される水相に式IIIの相間移動触媒、次いで式IIのシランを添加することができる。
【0029】
本発明による式Iのポリスルファンシランの製造方法において、M(SH)yおよび/またはMzSおよび/またはMgShは、MOHおよび硫黄からその場で製造することが可能である。
【0030】
使用される式IIのシランと使用されるNaSHとのモル比は、0.35~1.0、好ましくは0.45~0.55であってよい。
【0031】
使用される式IIのシランと塩基とのモル比は、0.35~1.0、好ましくは0.45~0.60であってよい。
【0032】
使用される式IIのシランと硫黄とのモル比は、0.4~3.0、好ましくは0.5~1.5であってよい。
【0033】
使用される式IIのシランと式IIIの相間移動触媒とのモル比は、0.001~0.1、好ましくは0.003~0.05であってよい。
【0034】
本発明による式Iのポリスルファンシランの製造方法は、有機溶媒を使用せずに実施することができる。使用する水相は、予備バッチのプロセス塩を含んでもよい。水相の製造中、式IIIの相間移動触媒の量を部分的または完全に添加することができる。式IIIの相間移動触媒を部分的に添加する場合、式IIのシランの計量供給中に、残りの量を分けて添加してもよいし連続的に添加してもよいが、好ましくは連続的に添加することができる。式Iのポリスルファンシランの製造に使用されるM(SH)yおよび/またはMzSおよび/またはMgShは、反応前に製造してもよいし、反応中に製造してもよい。
【0035】
反応時に、水相を式IIのシランと混合することができる。ここで、水相を式IIのシランに計量供給してもよいし、式IIのシランを水相に計量供給してもよい。式IIのシランを水相に計量供給することが好ましい。反応中、式IIのシランを、分けて添加してもよいし連続的に添加してもよいが、好ましくは連続的に添加することができる。
【0036】
本発明による方法は、大気開放型の反応容器でも密閉型の反応容器でも実施することができる。反応容器の内容物を、混合することができる。反応容器の内容物の混合に適しているのは、外部循環、ガスによる反応容器の内容物の撹拌、または撹拌機、好ましくは撹拌機である。本方法は、連続的に行うことも非連続的に行うこともできる。
【0037】
式IIIの相間移動触媒の、場合により存在し得る残りの部分量は、反応中に分けて添加してもよいし連続的に添加してもよいが、好ましくは連続的に添加することができる。
【0038】
反応転化後、水相と有機相とを分離することができる。
【0039】
キャリア蒸気蒸留のためのキャリア蒸気生成は、その場で行ってもよいし外部で行ってもよいが、好ましくは外部で行うことができる。キャリア蒸気蒸留時のキャリア物質としては、窒素、水蒸気、アルコール、または前述の物質の組み合わせを使用することができる。
【0040】
キャリア蒸気蒸留は、単段蒸留、例えば釜、または多段蒸留、例えば、複数の釜、もしくはトレイや不規則充填物を備えた塔、もしくは充填塔、好ましくは充填塔であってよい。
【0041】
キャリア蒸気蒸留は、連続的に行うことも非連続的に行うこともできるが、好ましくは連続的に行うことができる。
【0042】
キャリア蒸気蒸留は、真空下で、好ましくは100mbar(絶対)未満の圧力で実施することができる。
【0043】
反応生成物は、キャリア蒸気蒸留の前に相分離により水相と分離することができる。反応生成物は、キャリア蒸気蒸留の前にろ過することで、固形物、例えばNaClと分離することができる。
【0044】
反応生成物は、キャリア蒸気蒸留の前に、蒸留により精製することができる。
【0045】
キャリア蒸気蒸留の塔頂生成物をさらに精製して、ケイ素含有成分を回収することができる。その際に、式IIIの相間移動触媒の分解生成物を、塔頂生成物のケイ素含有成分から部分的にまたは完全に除去することができる。
【0046】
キャリア蒸気蒸留の塔頂生成物からの式IIIの相間移動触媒の分解生成物の除去は、任意の順序でのオゾンによる処理および/または蒸留によって実施することができる。
【0047】
キャリア蒸気蒸留の塔頂生成物から式IIIの相間移動触媒の分解生成物を除去するために蒸留を行う場合、その蒸留として、さらなるキャリア蒸気蒸留を用いてもよい。
【0048】
塔頂生成物を精製するための蒸留は、別個の蒸留として実施することも、キャリア蒸気蒸留の一部として実施することもできる。
【0049】
蒸留による塔頂生成物の精製は、その凝縮の前に行っても後に行ってもよい。蒸留による塔頂生成物の精製は、凝縮の下流で相分離した後に行ってもよい。
【0050】
式IIIの相間移動触媒の分解生成物が部分的または完全に除去された塔頂生成物は、プロセス外で使用することも、キャリア蒸気蒸留の上流のいずれかのステップで使用することもできる。
【0051】
オゾン処理には、純粋なオゾンを使用することも、他のガス、例えば空気、酸素または窒素、好ましくは空気で希釈したオゾンを使用することもできる。
【0052】
オゾン処理は、連続的に行うことも非連続的に行うこともできるが、好ましくは連続的に行うことができる。
【0053】
オゾンは、オゾン発生装置により生成することができる。
【0054】
反応生成物は、オゾン処理前に相分離により水相と分離することができる。反応生成物は、オゾン処理前にろ過により固形物、例えばNaClと分離することができる。
【0055】
反応生成物は、オゾン処理前に蒸留により精製することができる。
【0056】
オゾン処理の易揮発性分解生成物は、蒸留によって生成物から除去することができる。
【0057】
オゾン処理による易揮発性分解生成物の留去には、連続的な蒸留プロセスを使用することも非連続的な蒸留プロセスを使用することもできる。特に、連続的な蒸留プロセスには薄膜式蒸発装置を使用することができる。
【0058】
キャリア蒸気蒸留および/またはオゾン処理のプロセスステップにより、PTCプロセスで形成された式IIIの相間移動触媒の分解生成物、例えばアルシン、ホスフィンまたはアミン、好ましくはトリブチルアミンを分離または分解することができる。
【0059】
さらに、炭素による後処理を行うことができる。炭素による後処理には、活性炭を使用することができる。炭素による後処理は、キャリア蒸気蒸留の後および/またはオゾン処理の後に行うことができる。
【0060】
炭素による後処理は、式Iのポリスルファンシランに炭素を添加し、次いでろ過することにより行うことも、炭素を含む固定床に式Iのポリスルファンシランを通すことにより行うこともできる。
【0061】
式IIIの相間移動触媒の分解生成物、例えばトリブチルアミンを除去するためのさらなる後処理は、ヨウ素、クロロシラン、過酸化物またはヨウ化メチルを用いて行うことができる。
【0062】
本発明のさらなる主題は、相間移動触媒の分解生成物を除去するための、キャリア蒸気蒸留および/またはオゾン処理の使用である。
【0063】
相間移動触媒、好ましくは式IIIの相間移動触媒の分解生成物を除去するためのキャリア蒸気蒸留および/またはオゾン処理の使用は、硫黄含有有機シラン、好ましくはポリスルファンシラン、チオシアナトシラン、ブロックおよび非ブロックメルカプトシランの製造において用いることができる。
【0064】
キャリア蒸気蒸留および/またはオゾン処理の後に、活性炭処理を行うことができる。
【0065】
本発明による方法の利点は、最終生成物中の式IIIの相間移動触媒の部分的に毒性のまたは健康に有害な分解生成物が除去され、その結果、貯蔵安定性(色およびS分布)が改善されることである。
【0066】
反応混合物および純物質のガスクロマトグラフィー(GC)分析は、ASTM D 6843-02に準拠して、Agilent社製7820A型ガスクロマトグラフで実施した。
【0067】
硫黄化合物の分析分離および硫黄鎖長の決定は、ASTM D 6844-02に準拠して、Agilent Technologies社製HPLC分析装置Series 1260 Infinity IIで実施した。
カラム:Bakerbond C18(RP)、5μm、4.6×250mm、流量1.50ml/min、λ=254nm、カラム温度30℃、移動相:テトラブチルアンモニウムブロミド溶液(テトラブチルアンモニウムブロミド400mgを1lの脱イオン水に溶解して製造)200mlと、エタノール450mlと、メタノール1350mlとの混合物。平均硫黄鎖長および試料成分S2~S10を、ASTM D 6844に記載の分析および評価により決定した。
【0068】
実施例:
比較例1:ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンの製造
相間移動触媒プロセスによりビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンを製造するために、炭酸ナトリウム(189g、1.8モル、1.2当量)と、硫化水素ナトリウム(225g、1.6モル、1.0当量、40.0%水溶液)と、水(572g、32モル、21当量)との混合物を72℃に加熱した。この混合物をまず72℃で10分間撹拌した後、この混合物に硫黄(55g、1.7モル、1.1当量)を加え、72℃でさらに45分間撹拌した。この反応混合物に、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(20g、0.03モル、0.02当量、50%水溶液)および(3-クロロプロピル)トリエトキシシラン(743g、3.1モル、2.0当量)を70~80℃で順次添加した。この懸濁液を75℃で3時間撹拌した(1時間後のGC転化率=98%)。反応終了後に水(589g)を加え、71℃で相分離させた。粗生成物(793g)を黄色液体として得た。その後、140℃、10mbar(絶対)で薄膜式蒸発装置により低沸点物質を除去して、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンを底部生成物として単離し、次いでろ過した。
【0069】
比較例2:ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンの製造
相間移動触媒プロセスによりビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンを製造するために、水酸化ナトリウム(81g、1.0モル、1.0当量)と、硫化水素ナトリウム(284g、2.0モル、2.0当量、40.0%水溶液)と、水(158g、8.8モル、4.2当量)との混合物を70℃に加熱した。この反応混合物をまず70℃で10分間撹拌した後、この混合物に硫黄(184g、5.7モル、2.8当量)を加え、72℃でさらに15分間撹拌した。この反応混合物に、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド(17g、0.03モル、0.01当量、50%水溶液)および(3-クロロプロピル)トリエトキシシラン(999g、4.2モル、2.0当量)を70~80℃で順次添加した。この懸濁液を75℃で2時間撹拌した(2時間後のGC転化率=98%)。反応終了後に水(249g)を加え、71℃で相分離させた。粗生成物(1.1kg)を黄色液体として得た。その後、140℃、10mbar(絶対)で薄膜式蒸発装置により低沸点物質を除去して、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンを底部生成物として単離し、次いでろ過した。
【0070】
実施例1:ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンのキャリア蒸気蒸留
比較例1で得られたビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンを97℃に予熱し、160℃に加熱して20mbar(絶対)に排気した塔に30ml/minで上部から供給した。向流で、塔の下部から水蒸気および窒素を供給し、これを塔の上部で蒸留ブリッジを経由して留去した。留出液はトリブチルアミンに富んでおり、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンを、精製された底部生成物として単離した。
塔データ:充填高さ75cm、内径=25mm、磁器製サドル充填物(直径6mm)を充填
蒸留前GC:0.54%トリブチルアミン(PTC触媒の分解生成物)
蒸留後GC:0.01%トリブチルアミン
【0071】
実施例2:ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンのキャリア蒸気蒸留
比較例2で得られたビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンを97℃に予熱し、160℃に加熱して20mbar(絶対)に排気した塔に30ml/minで上部から供給した。向流で、塔の下部から水蒸気および窒素を供給し、これを塔の上部で蒸留ブリッジを経由して留去した。留出液はトリブチルアミンに富んでおり、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンを、精製された底部生成物として単離した。
塔データ:充填高さ75cm、内径=25mm、磁器製サドル充填物(直径6mm)を充填
蒸留前GC:0.33%トリブチルアミン(PTC触媒の分解生成物)
蒸留後GC:<0.01%トリブチルアミン
【0072】
実施例3:ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンのキャリア蒸気蒸留
比較例1に従って製造したビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンの複数のバッチを120℃に予熱し、120℃に加熱して35mbar(絶対)に排気した塔に20kg/hで上部から供給した。向流で、塔の下部から水蒸気(4kg/h)および窒素(1NL/min)を供給し、これを塔の上部で蒸留ブリッジを経由して留去した。留出液はトリブチルアミンに富んでおり、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンを、精製された底部生成物として単離した。
塔データ:DN80精留塔:補償加熱部を備えたガラス製の4×1m塔セクションを使用した。これに、Montz社製A3-500メッシュ充填物を充填した。
蒸留前GC:0.56%トリブチルアミン(PTC触媒の分解生成物)
蒸留後GC:<0.01%トリブチルアミン
【0073】
実施例4:ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンのキャリア蒸気蒸留
比較例2に従って製造したビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンの複数のバッチを140℃に予熱し、140℃に加熱して35mbar(絶対)に排気した塔に25kg/hで上部から供給した。向流で、塔の下部から水蒸気(3kg/h)および窒素(0.5NL/min)を供給し、これを塔の上部で蒸留ブリッジを経由して留去した。留出液はトリブチルアミンに富んでおり、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンを、精製された底部生成物として単離した。
塔データ:DN80精留塔:補償加熱部を備えたガラス製の4×1m塔セクションを使用した。これに、Montz社製A3-500メッシュ充填物を充填した。
蒸留前GC:0.38%トリブチルアミン(PTC触媒の分解生成物)
蒸留後GC:<0.01%トリブチルアミン
【0074】
実施例5:ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンのオゾン処理
比較例1で得られたビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファン150gを瓶状の250mL反応装置に装入し、室温で撹拌した。オゾン発生装置で生成したオゾン成分約260mgのオゾン-空気混合液を、チューブで2時間かけて粗生成物に通した。その後、低沸点物質を薄膜式蒸発装置で140℃、13mbar(絶対)で除去し、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンを底部生成物として単離した。
オゾン発生装置出力:空気中約130mg/h
オゾン処理前GC:0.1%エタノール、0.16%トリブチルアミン(PTC触媒の分解生成物)
オゾン処理後GC:0.1%エタノール、<0.01%トリブチルアミン
薄膜式蒸発装置後GC:0.02%エタノール、<0.01%トリブチルアミン
【0075】
実施例6:ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンのオゾン処理
比較例2で得られたビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン150gを瓶状の250mL反応装置に装入し、室温で撹拌した。オゾン発生装置で生成したオゾン成分約130mgのオゾン-空気混合液を、チューブで1時間かけて粗生成物に通した。その後、低沸点物質を薄膜式蒸発装置で140℃、13mbar(絶対)で除去し、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンを底部生成物として単離した。
オゾン発生装置出力:空気中約130mg/h
オゾン処理前GC:0.2%エタノール、0.15%トリブチルアミン(PTC触媒の分解生成物)
オゾン処理後GC:0.04%エタノール、<0.01%トリブチルアミン
薄膜式蒸発装置後GC:0.03%エタノール、<0.01%トリブチルアミン
【0076】
実施例7:ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンの活性炭処理
ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンを、実施例1によるキャリア蒸気蒸留を伴う本発明による方法によって処理した。次いで、実施例1で得られたビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンを1%または2%の活性炭とそれぞれ室温で混合した後、ろ過した。
活性炭前GC:0.01%トリブチルアミン
1%活性炭後GC:<0.01%トリブチルアミン
2%活性炭後GC:<0.01%トリブチルアミン
【0077】
実施例8:ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンの活性炭処理
ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンを、実施例2によるキャリア蒸気蒸留を伴う本発明による蒸留によって処理した。次いで、実施例2で得られたビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンを1%または2%の活性炭とそれぞれ室温で混合した後、ろ過した。
活性炭前GC:0.01%トリブチルアミン
1%活性炭後GC:<0.01%トリブチルアミン
2%活性炭後GC:<0.01%トリブチルアミン
【0078】
実施例9:0.28%のトリブチルアミンを有するビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンの安定性試験:
比較例2を、長期貯蔵安定性試験に供した。ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンを、所定の時間間隔でHPLCにより分析した。S2およびS3含有量は、製造後に安定でない。
約1日後のHPLC:S2含有量:17重量%、S3含有量:31重量%、S4~S10含有量:52重量%
約7ヶ月後のHPLC:S2含有量:16重量%、S3含有量:32重量%、S4~S10含有量:52重量%
約15ヶ月後のHPLC:S2含有量:15重量%、S3含有量:33重量%、S4~S10含有量:52重量%
【0079】
実施例10:<0.01%のトリブチルアミンを有するビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンの安定性試験:
本発明による実施例2を、長期貯蔵安定性試験に供した。ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンを、所定の時間間隔でHPLCにより分析した。S2およびS3含有量は、製造後に安定である。
約1日後のHPLC:S2含有量:18重量%、S3含有量:31重量%、S4~S10含有量:51重量%
約1ヶ月後のHPLC:S2含有量:18重量%、S3含有量:31重量%、S4~S10含有量:51重量%
約6ヶ月後のHPLC:S2含有量:18重量%、S3含有量:31重量%、S4~S10含有量:51重量%
【0080】
実施例11:<0.01%のトリブチルアミンを有するビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンの安定性試験:
本発明による実施例5を、長期貯蔵安定性試験に供した。ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンを、所定の時間間隔でHPLCにより分析した。S2およびS3含有量は、製造後に安定である。
約1日後のHPLC:S2含有量:17重量%、S3含有量:31重量%、S4~S10含有量:52重量%
約5ヶ月後のHPLC:S2含有量:17重量%、S3含有量:31重量%、S4~S10含有量:52重量%
約23ヶ月後のHPLC:S2含有量:17重量%、S3含有量:31重量%、S4~S10含有量:52重量%