(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/447 20060101AFI20241125BHJP
F16J 15/44 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
F16J15/447
F16J15/44 B
(21)【出願番号】P 2022544516
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2021030382
(87)【国際公開番号】W WO2022044956
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2020144711
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021001866
(32)【優先日】2021-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 智弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】眞角 祐樹
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/155464(WO,A1)
【文献】特開平11-218231(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132832(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
F16J 15/44
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、前記回転軸が挿通される軸孔を有するハウジングとの間の環状隙間を封止する密封装置であって、
前記軸孔に対して固定されるケースと、
前記ケース内において、回転方向への移動が規制された状態で前記ケースに保持されて、装置使用時に高圧となる高圧側と、その反対側の低圧側との間を隔てるように配されるシールリングと、
前記ケース内において、前記回転軸との間に環状隙間が設けられ、かつ前記シールリングよりも前記低圧側に配されて、前記シールリングに接した状態で前記ケースに対して保持される振動抑制用リングと、
前記ケースと前記振動抑制用リングとの間の環状隙間を封止しつつ、前記振動抑制用リングを前記ケースに対して保持する弾性リングと、
を備え、
前記シールリングは、前記回転軸の外周面との間に環状隙間が設けられた状態で配置され、かつ、前記環状隙間は前記高圧側から低圧側に向かって進入する密封対象流体の流体圧力によりロマキン効果を奏する寸法により設定されることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記シールリングの内周面には、ラビリンスシール構造をなすラビリンス溝、及び前記環状隙間に進入した密封対象流体を前記高圧側に向かって戻すネジポンプ機能を発揮するネジポンプ溝のうちの少なくともいずれか一方が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記シールリングの内周面には、円柱面により構成される円柱面領域を有し、前記ラビリンス溝及びネジポンプ溝のうちの少なくともいずれか一方は、前記円柱面領域よりも前記低圧側に配されることを特徴とする請求項2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記シールリングを前記振動抑制用リングに向かって押圧する押圧部
材を備えることを特徴とする請求項1、2または3に記載の密封装置。
【請求項5】
前記シールリングは、前記振動抑制用リングよりも低硬度な材料により構成されることを特徴とする請求項
1~4のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項6】
前記シールリングはカーボン材料により構成され、かつ前記振動抑制用リングは金属材料又はセラミック材料により構成されることを特徴とする請求項5に記載の密封装置。
【請求項7】
前記ケースに装着され、かつ前記押圧部材を保持する保持部材を備えることを特徴とする請求項
4に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、回転軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する密封装置においては、回転軸に摺動した状態で接触するシールリングなどが設けられている。しかしながら、このような接触型の密封装置では、回転軸の回転速度に対応できる領域には限度がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、回転軸の回転速度が高い場合でも、安定的に密封機能を発揮することのできる密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0006】
すなわち、本発明の密封装置は、
回転軸と、前記回転軸が挿通される軸孔を有するハウジングとの間の環状隙間を封止する密封装置であって、
前記軸孔に対して固定されるケースと、
前記ケース内において、回転方向への移動が規制された状態で前記ケースに保持されて、装置使用時に高圧となる高圧側と、その反対側の低圧側との間を隔てるように配されるシールリングと、
前記ケース内において、前記回転軸との間に環状隙間が設けられ、かつ前記シールリングよりも前記低圧側に配されて、前記シールリングに接した状態で前記ケースに対して保持される振動抑制用リングと、
前記ケースと前記振動抑制用リングとの間の環状隙間を封止しつつ、前記振動抑制用リングを前記ケースに対して保持する弾性リングと、
を備え、
前記シールリングは、前記回転軸の外周面との間に環状隙間が設けられた状態で配置され、かつ、前記環状隙間は前記高圧側から低圧側に向かって進入する密封対象流体の流体圧力によりロマキン効果を奏する寸法により設定されることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、シールリングと回転軸の外周面と間には環状隙間が設けられつつも、ロマキン効果によって、回転軸とシールリングとの間で調心効果が得られるため、環状隙間は安定的に保たれる。これにより、シールリングと回転軸が接してしまう(摺動してしまう)ことを抑制することができる。また、ロマキン効果を奏する寸法により設定される環状隙間は微小な隙間とすることができるため、密封機能を発揮させることができる。また、回転軸の振動に伴って、調心効果により、前記シールリングが径方向に移動しようとする場合には、シールリングと振動抑制用リングとの間で摩擦が生じ、シールリングの移動が抑制される。これにより、シールリングによる調心効果によって、回転軸自体の振動が抑制される。また、振動抑制用リングは弾性リングによって保持されるため、弾性リングによる振動吸収効果によって、各部材の振動が抑制される。
【0008】
前記シールリングの内周面には、ラビリンスシール構造をなすラビリンス溝、及び前記環状隙間に進入した密封対象流体を前記高圧側に向かって戻すネジポンプ機能を発揮するネジポンプ溝のうちの少なくともいずれか一方が設けられているとよい。
【0009】
これにより、上記の調心効果と相俟って、安定的に密封機能が発揮される。更に、上記の通り、環状隙間が安定的に保たれることで、回転軸の回転速度の密封機能への影響を抑制することができる。
【0010】
前記シールリングの内周面には、円柱面により構成される円柱面領域を有し、前記ラビリンス溝及びネジポンプ溝のうちの少なくともいずれか一方は、前記円柱面領域よりも前記低圧側に配されるとよい。なお、円柱面領域における内径と、ラビリンス溝及びネジポンプ溝が設けられる領域の内径は、同一となるように設定してもよいし、異なるように設定してもよい。
【0011】
このような円柱面領域を設けることで、より確実にロマキン効果(調心効果)を安定的に発揮させることができる。
【0012】
前記シールリングを前記振動抑制用リングに向かって押圧する押圧部材を備えるとよい。
【0013】
このような構成を採用することで、押圧部材によって、シールリングは振動抑制用リングに向かって押圧されるため、シールリングと振動抑制用リングとの間に隙間が形成されてしまうことを抑制することができ、この隙間から密封対象流体が漏れてしまうことを抑制することができる。
【0014】
前記シールリングは、前記振動抑制用リングよりも低硬度な材料により構成されるとよい。例えば、前記シールリングはカーボン材料により構成され、かつ前記振動抑制用リングは金属材料又はセラミック材料により構成されると好適である。
【0015】
また、前記ケースに装着され、かつ前記押圧部材を保持する保持部材を備えることも好適である。
【0016】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、回転軸の回転速度が高い場合でも、安定的に密封機能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は本発明の実施例1に係る密封装置の一部破断断面図である。
【
図2】
図2は本発明の実施例1に係る密封構造の模式的断面図である。
【
図3】
図3は本発明の実施例1に係る密封装置の模式的断面図である。
【
図4】
図4は本発明の実施例2に係る密封装置の一部破断断面図である。
【
図5】
図5は本発明の実施例2に係る密封構造の模式的断面図である。
【
図6】
図6は本発明の実施例3に係る密封装置の正面図である。
【
図7】
図7は本発明の実施例3に係る密封装置の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0020】
(実施例1)
図1~
図3を参照して、本発明の実施例1に係る密封装置について説明する。
図1は本発明の実施例1に係る密封装置の一部破断断面図であり、密封装置を外周面側から見た状態で、密封装置の中心軸線を含む面で一部を切断した断面図を図中上側に示している。
図2は本発明の実施例1に係る密封構造の模式的断面図であり、密封装置については、上記の中心軸線を含む面で密封装置を切断した断面図を示している。
図3は本発明の実施例1に係る密封装置の模式的断面図であり、上記の中心軸線に垂直な面で密封装置を切断した断面図を示している。なお、密封装置は、一部を除き、回転対称形状である。
【0021】
<密封構造>
特に、
図2を参照して、本実施例に係る密封装置が適用された密封構造について説明する。本実施例に係る密封構造は、回転軸50と、回転軸50が挿通される軸孔を有するハウジング60と、回転軸50とハウジング60との間の環状隙間を封止する密封装置10とを備える。密封装置10は、ハウジング60に対して固定され、回転軸50との間には隙間が設けられるように構成されている。密封装置10によって、回転軸50とハウジング60との間の環状隙間が隔てられて、密封対象流体の漏れを抑制することができる。なお、
図2中、密封装置10を介して左側に密封対象流体が密封されており、装置の使用時においては高圧になる。以下、適宜、密封装置10を介して左側を高圧側(H)と称し、その反対側(右側)を低圧側(L)と称する。なお、本実施例に係る密封装置10は、例えば、自動車の補機類におけるガスシール(密封対象流体が高圧ガス)として、好適に利用することができる。
【0022】
<密封装置>
本実施例に係る密封装置10について、より詳細に説明する。密封装置10は、ケース100と、ケース100に保持されるシールリング200及び振動抑制用リング300と、振動抑制用リング300をケース100に保持するための弾性リング400と、シールリング200を振動抑制用リング300に向かって押圧する押圧部材としてのコイルスプリング500とを備えている。シールリング200は、振動抑制用リング300よりも低硬度な材料により構成される。
【0023】
ケース100は、金属などにより構成される環状の部材である。このケース100は、ハウジング60の軸孔の内周面に圧入などにより固定される大径部110と、大径部110よりも低圧側(L)に配され、かつ大径部110よりも外径の小さな小径部120とを備えている。また、大径部110の端部には内向きフランジ部111が設けられ、かつ、大径部110の周方向の少なくとも一か所には、シールリング200の回転方向への移動を規制するための回り止め用の凸部112が設けられている。そして、小径部120の端部にも内向きフランジ部121が設けられている。
【0024】
シールリング200は、カーボン材料などにより構成される環状の部材である。このシールリング200には、外周面側に径方向外側に突出する環状の突出部210が設けられている。この環状の突出部210の外周面には、周方向の少なくとも一か所に、ケース100に設けられた凸部112が入り込む凹部211が設けられている。このように、凹部211に凸部112が入り込むことで、シールリング200の回転方向への移動が規制される。なお、
図3においては、凹部211に凸部112が入り込んだ部位における断面図を示している。この図においては、凸部112と凹部211が周方向の一か所にのみ設けられる場合の構成を示している。ただし、このような凸部と凹部については、周方向の複数個所に設けてもよい。
【0025】
シールリング200は、回転軸50の外周面との間に環状隙間が設けられた状態で配置される。この環状隙間は、高圧側(H)から低圧側(L)に向かって進入する密封対象流体の流体圧力によりロマキン効果を奏する寸法により設定される。また、シールリング200の内周面には、円柱面により構成される円柱面領域220が設けられている。この円柱面領域220は、シールリング200の内周面のうち高圧側(H)に設けられている。そして、シールリング200の内周面には、円柱面領域220よりも低圧側(L)に、少なくとも一つの溝230が設けられている。なお、
図1,2においては、隣り合う溝230の間の部分の内径が、円柱面領域220の内径と同一となるように図示しているが、これらの内径は同一であってもよいし異なっていてもよい。この溝230は、ラビリンスシール構造をなすラビリンス溝、及び上記の環状隙間に進入した密封対象流体を高圧側(H)に向かって戻すネジポンプ機能を発揮するネジポンプ溝のうちの少なくともいずれか一方により構成される。ラビリンス構造については、公知技術であるので、その詳細な説明は省略するが、例えば、直通形と呼ばれるラビリンス構造を採用することができる。すなわち、適切な深さの溝を少なくとも1か所に設けることで、溝内部に渦を生じさせて、密封対象流体の漏れを抑制することが可能となる。また、ネジポンプ溝についても、公知技術であるので、その詳細な説明は省略するが、少なくとも一つの螺旋状の溝、又は少なくとも一つの軸線方向に対して傾斜する溝を設けることで、回転軸50の回転方向に応じて、高圧側(H)に向かって密封対象流体を戻すような動圧を発生させることが可能となる。
【0026】
また、シールリング200は、低圧側(L)に向かって突出する環状の突出部240も備えている。この突出部240の先端は振動抑制用リング300に対して面接触するように構成されている。
【0027】
以上のように構成されるシールリング200が、回転方向への移動が規制された状態でケース100に保持されて、装置使用時に高圧となる高圧側(H)と、その反対側の低圧側(L)との間を隔てるように配されることで、密封機能が発揮される。
【0028】
振動抑制用リング300は、金属材料やセラミック材料などにより構成される円環状の部材である。この振動抑制用リング300は、回転軸50との間に環状隙間が設けられ、かつシールリング200よりも低圧側(L)に配されて、シールリング200に接した状態でケース100に対して保持される。振動抑制用リング300は、その内周面側については密封機能を発揮する役割を担っていない。従って、シールリング200と回転軸50との間の隙間は微小であるのに対して、振動抑制用リング300と回転軸50との間の環状隙間は微小にする必要はない。また、振動抑制用リング300におけるシールリング200との接触面は、シールリング200が振動した場合に、シールリング200と振動抑制用リング300との間で摩擦抵抗が生じ、かつ、これらの間の隙間から密封対象流体が漏れないように、平坦な面かつ表面粗さとなるように構成されている。従って、そのような面が得られるように、振動抑制用リング300の材料を採用し、かつ表面加工を施すとよい。
【0029】
以上のように構成される振動抑制用リング300は、ゴムなどの弾性体により構成される弾性リング400により保持される。そして、この弾性リング400によって、ケース100と振動抑制用リング300との間の環状隙間が封止されるように構成されている。すなわち、弾性リング400は、振動抑制用リング300の外周面とケース100における小径部120の内周面との間の隙間に配される円筒状部410を備えている。なお、この円筒状部410の外周面側には小径部120の内周面に圧縮した状態で配される環状凸部411を備えている。また、弾性リング400は、振動抑制用リング300とケース100における内向きフランジ部121の端面間の隙間に配される内向きフランジ部420を備えている。このように構成される弾性リング400によって、振動抑制用リング300が保持されることで、振動抑制用リング300は、軸線方向と径方向の双方に対して位置決めされた状態で、ケース100に保持される。
【0030】
コイルスプリング500は、金属などにより構成される。このコイルスプリング500は、その一端がケース100における内向きフランジ部111に接し、他端がシールリング200における環状の突出部210の高圧側(H)の端面に接するように配される。これにより、シールリング200は、低圧側(L)、すなわち、振動抑制用リング300に向かって押圧される。これにより、シールリング200の軸線方向の位置決めがなされる。また、シールリング200は、振動抑制用リング300との間で摩擦抵抗が作用することも相俟って、コイルスプリング500により押圧されることで、径方向に対しても位置決めされ、自重により下方に位置ずれしてしまうことも抑制される。
【0031】
<本実施例に係る密封装置の優れた点>
本実施例に係る密封装置10によれば、シールリング200と回転軸50の外周面と間には環状隙間が設けられつつも、ロマキン効果によって、回転軸50とシールリング200との間で調心効果が得られるため、環状隙間は安定的に保たれる。すなわち、高圧側(H)から低圧側(L)に向かって、上記の環状隙間に密封対象流体が入り込むと、圧力損失が生じる。そして、シールリング200に対して回転軸50の偏心が生じると、環状隙間においては、周方向において、隙間が拡がる部分と狭まる部分が生じる。隙間が拡がる部分では圧力損失が増大し圧力が低下し、隙間が狭まる部分では圧力損失が減少し、圧力が高まる。これにより、偏心をなくす方向に、シールリング200に対する回転軸50の傾きが調整され、調心効果が発揮される。なお、このような調心効果は、回転軸50が回転していなくても、差圧が生じている限り発揮される。
【0032】
このように、本実施例に係る密封装置10によれば、ロマキン効果(調心効果)が発揮されるため、シールリング200と回転軸50が接してしまう(摺動してしまう)ことを抑制することができる。また、ロマキン効果を奏する寸法により設定される環状隙間は微小な隙間とすることができるため、密封機能を発揮させることができる。
【0033】
そして、シールリング200の内周面には、ラビリンス溝及びネジポンプ溝のうちの少なくともいずれか一方が設けられている。そのため、上記の調心効果と相俟って、安定的に密封機能が発揮される。更に、上記の通り、環状隙間が安定的に保たれることで、回転軸50の回転速度の密封機能への影響を抑制することができる。従って、本実施例に係る密封装置10によれば、回転軸50の回転速度が高い場合でも、安定的に密封機能を発揮させることができる。
【0034】
また、本実施例に係るシールリング200の内周面には、円柱面により構成される円柱面領域220を有している。従って、より確実にロマキン効果(調心効果)を安定的に発揮させることができる。すなわち、本実施例に係るシールリング200においては、内周面全体によって、ロマキン効果が発揮されるものの、円柱面領域220によって、より確実にロマキン効果を発揮させつつ、溝230によって、より確実に密封対象流体の漏れを抑制させることができる。
【0035】
また、本実施例に係る密封装置10においては、回転軸50の振動に伴って、調心効果により、シールリング200が径方向に移動しようとする場合には、シールリング200と振動抑制用リング300との間で摩擦が生じ、シールリング200の移動が抑制される。これにより、シールリング200による調心効果によって、回転軸自体の振動が抑制される。つまり、調心効果によって、回転軸50に対してシールリング200が移動しようとしても、その移動が規制されることで、シールリング200によって、逆に回転軸50に対して調心効果が作用して、回転軸50の振動が抑制される。
【0036】
また、振動抑制用リング300は弾性リング400によって保持されるため、弾性リング400による振動吸収効果によっても、各部材の振動が抑制される。また、コイルスプリング500によって、シールリング200は振動抑制用リング300に向かって押圧されるため、シールリング200と振動抑制用リング300との間に隙間が形成されてしまうことを抑制することができ、この隙間から密封対象流体が漏れてしまうことを抑制することができる。
【0037】
なお、密封機能を高めるためには、シールリング200の内周面における軸線方向の長さが長いほどよい。本実施例においては、シールリング200の軸線方向の中央付近に環状の突出部210を設けて、この突出部210の高圧側(H)の端面に対してコイルスプリング500が接するように配されている。これにより、配置スペースを有効に活用することで、シールリング200の内周面における軸線方向の長さが極力長くなるようにしている。
【0038】
(実施例2)
図4及び
図5には、本発明の実施例2が示されている。上記実施例1では、シールリングの内周面に溝を設ける場合の構成を示したが、本実施例では、このような溝を設けない場合の構成を示す。また、本実施例においては、押圧部材を保持する保持部材を設ける場合の構成を示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0039】
図4は本発明の実施例2に係る密封装置の一部破断断面図であり、密封装置を外周面側から見た状態で、密封装置の中心軸線を含む面で一部を切断した断面図を図中上側に示している。
図5は本発明の実施例1に係る密封構造の模式的断面図であり、密封装置については、上記の中心軸線を含む面で密封装置を切断した断面図を示している。なお、密封装置は、一部を除き、回転対称形状である。
【0040】
<密封構造>
特に、
図5を参照して、本実施例に係る密封装置が適用された密封構造について説明する。本実施例に係る密封構造は、回転軸50と、回転軸50が挿通される軸孔を有するハウジング60と、回転軸50とハウジング60との間の環状隙間を封止する密封装置10Aとを備える。密封装置10Aは、ハウジング60に対して固定され、回転軸50との間には隙間が設けられるように構成されている。密封装置10Aによって、回転軸50とハウジング60との間の環状隙間が隔てられて、密封対象流体の漏れを抑制することができる。なお、
図5中、密封装置10Aを介して左側に密封対象流体が密封されており、装置の使用時においては高圧になる。以下、適宜、密封装置10Aを介して左側を高圧側(H)と称し、その反対側(右側)を低圧側(L)と称する。なお、本実施例に係る密封装置10Aは、例えば、自動車の補機類におけるガスシール(密封対象流体が高圧ガス)として、好適に利用することができる。
【0041】
<密封装置>
本実施例に係る密封装置10Aについて、より詳細に説明する。密封装置10Aは、ケース100と、ケース100に保持されるシールリング200A及び振動抑制用リング300と、振動抑制用リング300をケース100に保持するための弾性リング400と、シールリング200Aを振動抑制用リング300に向かって押圧する押圧部材としてのスプリング500Aとを備えている。また、本実施例においては、ケース100に装着され、かつスプリング500Aを保持する保持部材150を備えている。なお、シールリング200Aは、振動抑制用リング300よりも低硬度な材料により構成される。
【0042】
ケース100,振動抑制用リング300及び弾性リング400の構成については、上記実施例1と同様であるので、その説明は省略する。なお、保持部材150は、ケース100における内向きフランジ部111に沿うように、大径部110の内周面に対して嵌合などにより装着される。保持部材150には、内周面側に円筒状の部分が設けられており、この円筒状の部分によって、スプリング500Aを保持する(位置決めする)ことができる。
【0043】
シールリング200Aは、カーボン材料などにより構成される環状の部材である。このシールリング200Aには、実施例1と同様に、外周面側に径方向外側に突出する環状の突出部210が設けられている。この環状の突出部210の外周面には、周方向の少なくとも一か所に、ケース100に設けられた凸部112が入り込む凹部211が設けられている。このように、凹部211に凸部112が入り込むことで、シールリング200の回転方向への移動が規制される。
【0044】
シールリング200Aは、回転軸50の外周面との間に環状隙間が設けられた状態で配置される。この環状隙間は、高圧側(H)から低圧側(L)に向かって進入する密封対象流体の流体圧力によりロマキン効果を奏する寸法により設定される。また、本実施例の場合、シールリング200Aの内周面は、円柱面により構成される円柱面領域220Aにより構成されており、実施例1のような溝230は設けられていない。
【0045】
また、シールリング200Aは、実施例1と同様に、低圧側(L)に向かって突出する環状の突出部240も備えている。この突出部240の先端は振動抑制用リング300に対して面接触するように構成されている。
【0046】
以上のように構成されるシールリング200Aが、回転方向への移動が規制された状態でケース100に保持されて、装置使用時に高圧となる高圧側(H)と、その反対側の低圧側(L)との間を隔てるように配されることで、密封機能が発揮される。
【0047】
スプリング500Aは、金属などにより構成される。このスプリング500Aは、その一端が保持部材150に保持され、他端がシールリング200Aにおける環状の突出部210の高圧側(H)の端面に接するように配される。これにより、シールリング200Aは、低圧側(L)、すなわち、振動抑制用リング300に向かって押圧される。これにより、シールリング200Aの軸線方向の位置決めがなされる。また、シールリング200Aは、振動抑制用リング300との間で摩擦抵抗が作用することも相俟って、スプリング500Aにより押圧されることで、径方向に対しても位置決めされ、自重により下方に位置ずれしてしまうことも抑制される。
【0048】
以上のように構成される本実施例に係る密封装置10Aにおいても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。なお、本実施例に係るシールリング200Aの内周面には、ラビリンス溝及びネジポンプ溝は設けられていない分、実施例1の場合に比べて密封性は低い。しかしながら、溝を形成しない分だけ、シールリング200Aの加工コストを抑制できるため、要求される密封性がそれほど高くない場合には、本実施例に係る密封装置10Aを採用することは有効である。また、ロマキン効果は、実施例1の場合よりも高くなる。
【0049】
また、本実施例においては、保持部材150が設けられているので、押圧部材としてのスプリング500Aを、より正確に位置決めさせることができる。なお、本実施例においても、シールリング200Aの軸線方向の中央付近に環状の突出部210を設けて、この突出部210の高圧側(H)の端面に対してスプリング500Aが接するように配されている。これにより、配置スペースを有効に活用することで、シールリング200Aの内周面における軸線方向の長さが極力長くなるようにしている。
【0050】
(実施例3)
図6及び
図7には、本発明の実施例3が示されている。本実施例においては、ケースに対するシールリングの回転方向への移動を規制する構造が上記実施例1とは異なる場合の構成を示す。また、本実施例においては、押圧部材を保持する保持部をケースに設ける場合の構成を示す。その他の基本的な構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0051】
図6は本発明の実施例3に係る密封装置の正面図である。
図7は本発明の実施例3に係る密封装置の模式的断面図であり、
図6中のAA断面図に相当する。なお、密封装置は、一部を除き、回転対称形状である。
【0052】
本実施例に係る密封装置10Bが適用された密封構造については、上記実施例1及び実施例2と同様であり、密封装置10Bは、ハウジング60に対して固定され、回転軸50との間には隙間が設けられるように構成される。
【0053】
本実施例に係る密封装置10Bについて説明する。密封装置10Bは、ケース100Bと、ケース100Bに保持されるシールリング200B及び振動抑制用リング300と、振動抑制用リング300をケース100に保持するための弾性リング400と、シールリング200Bを振動抑制用リング300に向かって押圧する押圧部材としてのスプリング500Bとを備えている。なお、シールリング200Bは、振動抑制用リング300よりも低硬度な材料により構成される。
【0054】
振動抑制用リング300及び弾性リング400の構成については、上記実施例1と同様であるので、その説明は省略する。
【0055】
ケース100Bは、上記実施例と同様に、金属などにより構成される環状の部材である。このケース100Bは、ハウジング60の軸孔の内周面に圧入などにより固定される円筒状の大径部110を備えている。本実施例においては、上記実施例とは異なり、ケース100Bには小径部は設けられていない。そして、本実施例に係るケース100Bは、大径部110の一端側と他端側に、それぞれ内向きフランジ部111,113が設けられている。使用時においては、内向きフランジ部111が高圧側(H)、内向きフランジ部113が低圧側(L)となるように、密封装置10Bは回転軸50とハウジング60との間の環状隙間内に配される。
【0056】
また、本実施例においては、ケース100Bの内向きフランジ部111の先端に3か所の折り曲げ部111aが設けられている。これらの折り曲げ部111aは、スプリング500Bを保持する役割を担っている。すなわち、本実施例においては、実施例2で示した保持部材150を、ケース100Bに一体に設けたような構造を採用している。更に、本実施例においては、ケース100Bの内向きフランジ部111の先端には、シールリング200Bの回転方向への移動を規制するための回り止め用の凹部111bが3か所に設けられている。
【0057】
シールリング200Bは、カーボン材料などにより構成される環状の部材である。このシールリング200Bには、実施例1と同様に、外周面側に径方向外側に突出する環状の突出部210Bと、使用時における低圧側(L)に向かって突出する環状の突出部240Bが設けられている。この突出部240Bの先端は、上記実施例と同様に、振動抑制用リング300に対して面接触するように構成されている。
【0058】
また、本実施例に係るシールリング200Bにおいては、突出部240Bとは反対側に周方向に間隔を空けて3か所の凹部251Bが設けられている。これにより、隣り合う凹部251Bの間にそれぞれ設けられる凸部252Bが、ケース100Bにおける内向きフランジ部111の先端に設けられた3か所の凹部111bに入り込むことで、ケース100Bに対するシールリング200Bの回転方向への移動が規制される。
【0059】
そして、本実施例においても、シールリング200Bは、回転軸50の外周面との間に環状隙間が設けられた状態で配置される。この環状隙間は、高圧側(H)から低圧側(L)に向かって進入する密封対象流体の流体圧力によりロマキン効果を奏する寸法により設定される。また、本実施例の場合、シールリング200Bの内周面は、円柱面により構成される円柱面領域220Bにより構成されており、実施例1のような溝230は設けられていない。
【0060】
以上のように構成されるシールリング200Bが、回転方向への移動が規制された状態でケース100Bに保持されて、装置使用時に高圧となる高圧側(H)と、その反対側の低圧側(L)との間を隔てるように配されることで、密封機能が発揮される。
【0061】
スプリング500Bは、金属などにより構成される。このスプリング500Bは、その一端がケース100Bにおける内向きフランジ部111の折り曲げ部111aに保持され、他端がシールリング200Bにおける環状の突出部21Bの高圧側(H)の端面に接するように配される。これにより、シールリング200Bは、低圧側(L)、すなわち、振動抑制用リング300に向かって押圧される。これにより、シールリング200Bの軸線方向の位置決めがなされる。また、シールリング200Bは、振動抑制用リング300との間で摩擦抵抗が作用することも相俟って、スプリング500Bにより押圧されることで、径方向に対しても位置決めされ、自重により下方に位置ずれしてしまうことも抑制される。
【0062】
以上のように構成される本実施例に係る密封装置10Bにおいても、上記実施例の場合と同様の効果を得ることができる。なお、本実施例においても、上記実施例1の場合と同様に、ラビリンス溝やネジポンプ溝を設ける構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0063】
10,10A,10B 密封装置
50 回転軸
60 ハウジング
100,100B ケース
110 大径部
111 内向きフランジ部
111a 折り曲げ部
111b 凹部
112 凸部
113 内向きフランジ部
120 小径部
121 内向きフランジ部
150 保持部材
200,200A,200B シールリング
210,210B 突出部
211 凹部
220,220A,220B 円柱面領域
230 溝
240,240B 突出部
251B 凹部
252B 凸部
300 振動抑制用リング
400 弾性リング
410 円筒状部
411 環状凸部
420 内向きフランジ部
500 コイルスプリング
500A スプリング