(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】運動分析装置、運動分析方法および運動分析プログラム
(51)【国際特許分類】
A63B 69/00 20060101AFI20241125BHJP
A63B 71/06 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
A63B69/00 C
A63B71/06 T
(21)【出願番号】P 2022556853
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2020039391
(87)【国際公開番号】W WO2022085070
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【氏名又は名称】村田 雄祐
(72)【発明者】
【氏名】平川 菜央
(72)【発明者】
【氏名】野村 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】熊巳 創
【審査官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-181040(JP,A)
【文献】特開2016-034481(JP,A)
【文献】特開2017-077403(JP,A)
【文献】特開2020-113117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 69/00
A63B 71/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動動作に関する測定データを運動中に変化する所定の基準データとともに記録したアクティビティデータを、前記基準データに基づいて複数のグループに分類するグループ分類部と、
前記各グループにおける前記アクティビティデータの代表データを生成する代表データ生成部と、
前記複数のグループにおける前記代表データの前記基準データに対する傾向を分析する傾向分析部と
を備え、
前記複数のグループは、前記基準データがその平均値から少なくとも1標準偏差以内の通常の範囲内であるグループと、前記基準データが前記通常の範囲を外れたグループとを含
み、当該二種類のグループ以外を含まない運動分析装置。
【請求項2】
前記傾向分析部は、前記複数の代表データと前記基準データとの間に成り立つ関係式を求める
請求項1に記載の運動分析装置。
【請求項3】
前記グループ分類部は、複数の運動に亘って記録した前記アクティビティデータを前記グループに分類する
請求項1または2に記載の運動分析装置。
【請求項4】
前記傾向分析部による分析に基づいて、運動動作の改善のための指導情報を生成する指導情報生成部を備える
請求項1から3のいずれかに記載の運動分析装置。
【請求項5】
前記傾向分析部による分析結果を表示させる表示制御部を備える
請求項1から4のいずれかに記載の運動分析装置。
【請求項6】
前記表示制御部は、前記複数の代表データと前記基準データとの間に成り立つ関係式を表示させる
請求項5に記載の運動分析装置。
【請求項7】
前記表示制御部は、前記傾向分析部による分析結果を前記グループ毎に視覚的に異なる態様で表示させる表示制御部
請求項5または6に記載の運動分析装置。
【請求項8】
運動動作に関する測定データを運動中に変化する所定の基準データとともに記録したアクティビティデータを、前記基準データに基づいて複数のグループに分類するグループ分類ステップと、
前記各グループにおける前記アクティビティデータの代表データを生成する代表データ生成ステップと、
前記複数のグループにおける前記代表データの前記基準データに対する傾向を分析する傾向分析ステップと
を備え、
前記複数のグループは、前記基準データがその平均値から少なくとも1標準偏差以内の通常の範囲内であるグループと、前記基準データが前記通常の範囲を外れたグループとを含
み、当該二種類のグループ以外を含まない運動分析方法。
【請求項9】
運動動作に関する測定データを運動中に変化する所定の基準データとともに記録したアクティビティデータを、前記基準データに基づいて複数のグループに分類するグループ分類ステップと、
前記各グループにおける前記アクティビティデータの代表データを生成する代表データ生成ステップと、
前記複数のグループにおける前記代表データの前記基準データに対する傾向を分析する傾向分析ステップと
をコンピュータに実行させ、
前記複数のグループは、前記基準データがその平均値から少なくとも1標準偏差以内の通常の範囲内であるグループと、前記基準データが前記通常の範囲を外れたグループとを含
み、当該二種類のグループ以外を含まない運動分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動動作の分析を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等の携帯通信端末の軽量化が進んでおり、またスマートウォッチに代表されるいわゆるウェアラブルデバイスの開発も盛んに行われている。これらのデバイスは、ランニング等の運動中にも身に付けることができ、内蔵された加速度センサ等によって運動動作を測定することができる。その測定結果に基づいて運動動作の改善のための指導を行うサービスやアプリケーションも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、ランニングやウォーキング等の運動中に各種デバイスで測定されたデータを運動分析用のサーバに転送する際に、所望の抽出条件を設定することによってデータ転送量の低減と運動分析処理の高速化を図る技術が開示されている。抽出条件の例としては、「1km毎」等の距離に基づくもの、「5分毎」等の時間に基づくもの、「設定したペースの範囲を逸脱したとき」等のペース変化に基づくもの等が開示されている。このようにユーザの運動動作に影響を及ぼすと考えられる抽出条件を設定することにより、効率的な運動分析を行うことが意図されている。
【0005】
特許文献1に開示された技術では、抽出条件に合致する測定データのみが運動分析用のサーバに転送されるため、抽出された測定データの範囲においては適切な運動分析を行うことが可能である。しかしながら、その限定された範囲で行われた運動分析の結果が、抽出されなかった大半の測定データを含む運動全体に対しても合理的な内容になっている保証はない。特に、抽出された測定データが何らかの理由で運動全体の傾向と反する異常なデータになっている場合もあり得るが、その場合の運動分析結果はユーザの運動動作をむしろ悪化させうるものとなる。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、運動全体の傾向を踏まえて適切に運動動作を分析することができる運動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の運動分析装置は、運動動作に関する測定データを運動中に変化する所定の基準データとともに記録したアクティビティデータを、基準データに基づいて複数のグループに分類するグループ分類部と、各グループにおけるアクティビティデータの代表データを生成する代表データ生成部と、複数のグループにおける代表データの基準データに対する傾向を分析する傾向分析部とを備える。
【0008】
この態様によれば、運動中に記録された一連のアクティビティデータを複数のグループに分類し、その代表データのグループ間の傾向を分析することで、運動全体の傾向を踏まえて適切に運動動作を分析することができる。
【0009】
本発明の別の態様は、運動分析方法である。この方法は、運動動作に関する測定データを運動中に変化する所定の基準データとともに記録したアクティビティデータを、基準データに基づいて複数のグループに分類するグループ分類ステップと、各グループにおけるアクティビティデータの代表データを生成する代表データ生成ステップと、複数のグループにおける代表データの基準データに対する傾向を分析する傾向分析ステップとを備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、運動全体の傾向を踏まえて適切に運動動作を分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る運動分析装置を含むシステムの全体構成図である。
【
図2】運動分析装置のアクティビティデータの処理例を示す図である。
【
図3】傾向分析結果と指導情報の表示例を示す図である。
【
図4】傾向分析結果と指導情報の表示例を示す図である。
【
図5】傾向分析結果と指導情報の表示例を示す図である。
【
図6】運動分析装置による運動分析処理のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態では、ユーザの運動中に測定されたデータに基づいて、運動動作の分析と改善指導を行う。運動動作を分析する際に、測定データを速度等の基準データに基づいてグループ化する。例えば、速度が通常範囲内のときのグループ、速度が通常範囲よりも大きいときのグループ、速度が通常範囲よりも小さいときのグループ、の三つのグループに分類する。このとき、速度が通常範囲よりも大きい/小さいグループは、測定データ数が少なくなるが、各グループの代表データを使った分析を行うことで、各グループに含まれるデータ数の多寡によらず、各グループの傾向を的確に把握することができる。
【0014】
図1は、実施形態に係る運動分析装置100を含むシステムの全体構成図である。運動分析装置100は、ユーザのランニング中に測定デバイス20によって測定された測定データに基づいて運動動作を分析する。その分析結果は、運動動作の改善のための指導情報とともにユーザの使用する表示デバイス30に表示される。
【0015】
測定デバイス20は、例えば、ランニング中にユーザが身に付けることが可能なスマートウォッチ等のウェアラブルデバイスやスマートフォンであり、内蔵されたセンサによりランニング中の運動動作の測定を行う。しかしながら、本実施の形態において測定デバイス20はこれらに限定されるものではなく、ランニング中のデータ測定機能と、その測定データを運動分析装置100に伝達するための最低限のデータ伝達機能を備えたものであればどのようなものでもよい。例えば、測定デバイス20として、ランニング中のユーザを撮影するカメラ(撮影デバイス)を使用してもよい。この場合はカメラで撮影されたデータが測定データとして運動分析装置100に供給される。
【0016】
このように、測定デバイス20として様々なデバイスを使用することができるため、運動分析装置100は、ユーザのランニング中の運動動作に関する様々な測定データを取得することができる。
【0017】
例えば、測定デバイス20として、上記のようにウェアラブルデバイスやスマートフォンを使用する場合、これらのデバイスに内蔵されている加速度センサ、角速度センサ、位置センサ(GPS等)、磁気センサ等から、ユーザの位置や運動に関する基本的な物理量を測定データとして得ることができる。これらの測定データを適宜組み合わせて演算することにより、ランニング中のユーザの位置、速度、加速度といった基本的な情報だけでなく、ユーザの姿勢、腰や骨盤の回転角度、身体重心の上下動、蹴り出しの強さや角度、ピッチ、ストライド、接地時間、接地の位置や角度、身体のバネ係数、着地衝撃といった運動動作の詳細に関する生体力学的データも得ることができる。また、距離、高度、勾配といったランニングのコースに関する情報も得ることができる。
【0018】
さらに、測定デバイス20が、輝度等を測定する環境光センサ、温度センサ、湿度センサ等の外部環境を測定するセンサを備えている場合、運動分析装置100は、ランニング中の外部環境も踏まえて適切な分析を行うことができる。また、近年盛んに開発が行われている心拍等の生体信号を測定可能なウェアラブルデバイスを測定デバイス20として使用する場合、運動分析装置100は、ユーザの身体の状態も踏まえて適切な分析および改善指導を行うことができる。
【0019】
なお、測定デバイス20は、ユーザが運動中に身に付けるものである必要はなく、運動中のユーザを周囲から測定するものでもよい。上述したカメラによる撮影が典型的な例として考えられるが、それに限定されるものではない。例えば、トレッドミル等を使用してユーザが屋内の制限された範囲でランニングを行う場合は、持ち運びが困難な測定デバイス20も使用することができるので、利用可能な測定データの種類が飛躍的に増加する。
【0020】
以上で例を挙げて説明した様々な測定デバイス20は、一回の運動において複数を使用することもできる。例えば、第1の測定デバイス20としてのウェアラブルデバイスをユーザが身に付けて測定を行うと同時に、第2の測定デバイス20としてのカメラでユーザを撮影してもよい。運動分析装置100は、このような複数の測定デバイス20からの測定データに基づき、多面的にユーザの運動動作を分析することができ、その効果的な改善のための指導情報を生成することができる。
【0021】
表示デバイス30は、測定デバイス20からの測定データに基づき運動分析装置100が生成した運動分析の結果と運動動作の改善のための指導情報を表示するデバイスである。例えば、スマートフォンが測定デバイス20として使用された場合は、それが分析結果と指導情報を表示する表示デバイス30としても機能する。また、表示機能を持たないカメラ等の測定デバイス20が使用された場合は、ユーザの保有する別のデバイス、例えばスマートフォン、タブレット、ウォッチ、スマートグラス、コンピュータなどが表示デバイス30として使用される。
【0022】
運動分析装置100は、通信ネットワークを介して測定デバイス20および表示デバイス30と通信可能なサーバ上に構成される。なお、通信ネットワークを介さず、持ち運び可能な記憶媒体を介して、運動分析装置100と測定デバイス20/表示デバイスの間のデータの授受を行うように構成してもよい。運動分析装置100は、アクティビティデータ記録部110と、グループ分類部120と、代表データ生成部130と、傾向分析部140と、指導情報生成部150と、表示制御部160を備える。
【0023】
アクティビティデータ記録部110は、運動動作に関する測定データを運動中に変化する所定の基準データとともに記録したアクティビティデータを記録する。ここで、運動動作に関する測定データとは、運動分析装置100による分析および指導情報生成の対象となるパラメータの実測値であり、上記で挙げた各種の生体力学的データ(ユーザの姿勢、腰や骨盤の回転角度、身体重心の上下動、蹴り出しの強さや角度、ピッチ、ストライド、接地時間、接地の位置や角度、身体のバネ係数、着地衝撃等)が例示される。また、基準データとは、後段のグループ分類部120でのグループ分類処理において基準として用いられるデータであり、上記の運動動作に関する測定データと併せて運動中に測定される。基準データの例としては、運動中の時間、ステップ数、距離、位置、速度、加速度、高度、勾配、輝度、気温、湿度、心拍等の生体信号等が挙げられる。このように基準データは、運動の進行に応じて単調に変化する時間、ステップ数、距離、位置のようなものに限らず、運動中に増減する速度、加速度、高度、勾配、輝度、気温、湿度、心拍のようなものも利用することができる。
【0024】
アクティビティデータ記録部110は、上記のような運動動作に関する測定データと、運動中に変化する基準データを組にして関連付けたものをアクティビティデータとして記録する。このとき、アクティビティデータ記録部110は、単一または複数の運動に亘ってアクティビティデータを記録することができる。最も単純な例として、測定データと基準データがそれぞれ一つのパラメータのみである場合、アクティビティデータは、基準データをx軸とし、測定データをy軸とするxy平面上の点として表される。
【0025】
図2(A)は、基準データとして「ペース」(単位距離当たりの所要時間(速度の逆数))を、測定データとして「骨盤の回転角度」を選択した場合の、アクティビティデータの記録例を示す。この例は約20回のランニングに亘ってアクティビティデータを記録したものであり、横軸であるx軸はペースを表し、縦軸であるy軸は骨盤の回転角度を表す。この図に示されるように、運動中に記録された一連のアクティビティデータは、基準データと測定データをそれぞれ座標軸とする座標空間内にプロットされる点による散布図を構成する。
【0026】
これを一般化すれば、測定データがn個のパラメータ(y1、y2、・・・、yn)で表され、基準データがm個のパラメータ(x1、x2、・・・、xm)で表される場合、アクティビティデータはm+n個のパラメータを座標軸とするm+n次元の座標空間内にプロットされる点による散布図を構成することになる。以下、本実施形態では、単純化のために
図2(A)で示された二次元の例(m、n=1)について説明を行う。
【0027】
グループ分類部120は、アクティビティデータ記録部110によって単一又は複数の運動に亘って記録されたアクティビティデータを一括して、基準データに基づいて複数のグループに分類する。
図2(B)は、
図2(A)のアクティビティデータに対するグループ分類の例を示す。この例では、基準データとしてのペースに対するアクティビティデータの分布が正規分布に近いものであると想定し、全アクティビティデータの基準データの平均値μと、その標準偏差σに基づき、以下の三つのグループにアクティビティデータを分類する。
【0028】
グループ1には、μからのずれが±2σ以内のアクティビティデータが分類される。アクティビティデータが正規分布に完全に従う場合は、グループ1には全アクティビティデータの約95.4%が分類される。
グループ2には、μからのずれが-2σを超えるアクティビティデータが分類される。アクティビティデータが正規分布に完全に従う場合は、グループ2には全アクティビティデータの約2.3%が分類される。
グループ3には、μからのずれが+2σを超えるアクティビティデータが分類される。アクティビティデータが正規分布に完全に従う場合は、グループ3には全アクティビティデータの約2.3%が分類される。
【0029】
なお、上記の±2σは例示であり、他の値もグループ分類の基準として用いることができる。上記の例と同様に標準偏差σを用いる場合は、任意の正数kに対して±kσをグループの基準幅として採用することができる。また、上記では単純化のために三つのグループに分類する例を示したが、より細かいグループに分類することも可能である。例えば、μ-2σ、μ-σ、μ+σ、μ+2σの四つの値を区切りとして五つのグループに分類してもよい。
【0030】
なお、本発明はこのような統計的な分類の方法に限定されず、ユーザやコンピュータが任意に各グループの境界を設定できる。例えば、基準データに対する測定データの全体の分布を任意次元の関数で近似し、その変曲点をグループ分けの基準にしてもよい。また、回帰分析、決定木などの教師あり学習による分類や教師なし学習によるクラスタリングを用いてもよい。クラスタリングの手法としては、ウォード法などの階層型クラスタリングを用いてもよいし、k-means法などの非階層型クラスタリングを用いてもよい。
【0031】
図2(B)の例において、グループ1は、基準データが通常の範囲内であるグループであり、グループ2および3は、基準データが通常の範囲を外れたグループである。ここでは基準データとしてペースが採用されているため、グループ1はペースが通常(約290-400sec/km)時のアクティビティデータ群からなり、グループ2はペースが通常よりも速い(約290sec/kmより小さい)時のアクティビティデータ群からなり、グループ3はペースが通常よりも遅い(約400sec/kmより大きい)時のアクティビティデータ群からなる。上記の通り、通常範囲のグループ1に大半(約95.4%)のアクティビティデータが属することになるが、それと区別した形でグループ2および3をそれぞれ形成することで、これらの各グループに属する少ない(各々約2.3%)アクティビティデータも見落とすことなく適切な運動分析を行うことができる。
【0032】
代表データ生成部130は、各グループにおけるアクティビティデータの代表データを生成する。
図2(C)は、
図2(A)および(B)のアクティビティデータの代表データの生成例を示す。グループ1~3のそれぞれの代表データR1~R3は、それぞれのグループに属する全アクティビティデータの平均値を計算することで求められる。より具体的には、各グループに属するi番目のアクティビティデータが(xi、yi)と表される場合、代表データのx座標はxiの平均値であり、代表データのy座標はyiの平均値である。なお、ここでは代表データとして平均値を例示したが、中央値や最頻値等のその他の代表値を利用してもよい。また、大量のデータがある程度均等に分布している通常範囲のグループ1においては、基準データxiの平均は求めずにグループ幅の中央を代表データのx座標としてもよい。
【0033】
傾向分析部140は、複数のグループにおける代表データの基準データに対する傾向を分析する。具体的には、傾向分析部140は、複数の代表データと基準データとの間に成り立つ相関関係を求める。
図2(D)は、
図2(A)~(C)のアクティビティデータの傾向分析の例を示す。傾向分析部140は、各グループ1~3の代表データR1~R3に対して回帰分析を行う。図示される回帰直線Lは、回帰分析の結果として求められる回帰式が表す直線である。
【0034】
ここで、比較例として示される回帰直線L0は、グループに関係なく全アクティビティデータに対して行った回帰分析によって求められるものである。これらの二つの回帰直線L0とLを比較すると、回帰直線L0は傾きがほぼゼロで、基準データであるペースの変化に対して特段の傾向が見られないのに対し、回帰直線Lは負の傾きを有し、図中で右から左に向かってペースが増加するにつれて測定データである骨盤の回転角度が増加していることが分かる。このように本実施形態によれば、全体の回帰分析(L0)では捉えることのできなかった傾向を捉えることができるので、より精度の高い運動分析と改善指導を行うことができる。
【0035】
回帰直線L0とLの間に上記のような差異が生じる理由は、L0を求める単純な回帰分析においては、大半(約95.4%)のアクティビティデータが属するグループ1の影響が支配的となるため、グループ2および3の影響がほとんど現れないからである。これに対して、本実施形態では、まず各グループの代表データを生成し、その代表データに対して回帰分析を行うため、データ量が少ないグループ2および3の傾向も見落とすことがなくなる。特に、ランニング等の運動分析においては、通常よりも速い/遅いペースで走っている時や、通常よりも長い/短い距離を走っている時のように、通常範囲を外れた運動を行っている際に、フォームの乱れや身体各部への無理な負担が現れる場合も多いため、そのような通常範囲から外れたグループの傾向を捉えて、改善指導に結びつけることが極めて重要である。
【0036】
なお、上記の例では、傾向分析部140が行う回帰分析は、回帰直線を求める線形回帰分析としたが、適当な非線形モデルを用いて回帰曲線を求める非線形回帰分析を行うようにしてもよい。
【0037】
指導情報生成部150は、傾向分析部140による分析に基づいて、運動動作の改善のための指導情報を生成する。
図2(D)の例において、ペースの増加に伴って骨盤の回転角度に増加が見られるものの、より速く走るためにはさらに骨盤回転量を多くすべきである場合(すなわち
図2(D)の直線Lの傾きの絶対値をさらに大きくすべき場合)、特にペースが速いときに骨盤の回転を強く意識させる指導情報を生成することができる。
【0038】
表示制御部160は、傾向分析部140による分析結果と、指導情報生成部150による指導情報を、ユーザの使用する表示デバイス30に表示させる。表示制御部160は、傾向分析部140による分析結果を表示させるに当たり、複数の代表データR1~R3と基準データとの間に成り立つ回帰直線Lを表示させる。例えば、
図2(D)の内容を分析結果として表示させるとともに、それと併せて指導情報の文言を表示させる。このとき、
図2(D)に示されている比較例としての回帰直線L0は表示する必要はない。また、代表データR1~R3の基となった各アクティビティデータの点は表示せずに、代表データR1~R3と、その回帰直線Lのみを表示するようにしてもよい。
【0039】
表示制御部160は、傾向分析部140による分析結果を表示させるに当たり、グループ毎に視覚的に異なる態様で表示させるようにしてもよい。例えば、
図2(D)における各代表データR1~R3を表す点の色や形をグループ毎に変えることができる。また、各代表データR1~R3の基となった各アクティビティデータの点が表示される場合は、それらの点をグループ毎に異なった色や形で表示させることができる。また、
図2(D)で示されているように、グループ毎に「通常」「速い」「遅い」等の異なるラベルを付すことも、異なる態様で表示させることに含まれる。このようにグループ毎に表示態様を変えることにより、特に改善が求められるグループを強調できる等のメリットがある。
【0040】
図3~5は、傾向分析部140による分析結果と指導情報生成部150による指導情報の具体的な表示例を示す。これら三つの表示例30A、30B、30Cはユーザの使用する表示デバイス30の表示画面に表示される画像を表す。
【0041】
図3に示される画面30Aは、ユーザが分析結果と指導情報を得るためのパーソナルコーチングのホーム画面である。ユーザは画面下部に設けられている二つのボタン31B、31Cを押す操作を行うことで、それぞれに対応する画面30B(
図4)、30C(
図5)に遷移することができる。ボタン31Bには「より速く走る」と記載されており、ランニング中のペースを基準データとした分析結果と、そこから導出された指導情報を遷移先の画面30Bで確認することができる。ボタン31Cには「長い距離を走る」と記載されており、ランニング中の距離を基準データとした分析結果と、そこから導出された指導情報を遷移先の画面30Cで確認することができる。
【0042】
「より速く走る」ボタン31Bから遷移する画面30Bの上部の分析結果表示領域には、ランニング中のペースを基準データとした分析において、改善すべき課題が特定された測定データが「注目スコア」として表示される。図示の例では、注目スコアとしてユーザの姿勢に関する「左右対称性」の分析結果が示されている。
図2(D)の例のように、基準データ「ペース」と測定データ「左右対称性(姿勢)」の組からなるアクティビティデータが、ペースを基準として三つのグループ「遅い」「通常」「速い」に分類されている。そして、各グループの代表データによる回帰曲線が示すように、ペースが速くなるにつれて「左右対称性」のスコアが低下する傾向が見られる。
【0043】
そこで、画面30Bの下部の指導情報表示領域では、その改善のための指導情報を表示する。画面30Bの最下部には、異なる観点からの分析結果を示す三つのボタン「分析1」「分析2」「分析3」と、より詳細な指導情報を得ることができる「改善プラン」ボタンが配置される。図示の「左右対称性」の例は「分析1」の内容を示すものであるが、「分析2」「分析3」を押す操作を行うと、左右対称性以外の測定データ、例えば
図2(D)で示される「骨盤の回転角度」に関する分析結果と指導情報が表示される。このように、同一の基準データ「ペース」について、異なる測定データの分析結果と指導情報を表示させることができるので、ユーザは様々な観点から運動動作の改善を図ることができる。
【0044】
「長い距離を走る」ボタン31Cから遷移する画面30Cの上部の分析結果表示領域には、ランニング中の距離を基準データとした分析において、改善すべき課題が特定された測定データが「注目スコア」として表示される。図示の例では、注目スコアとして着地衝撃に関する「負担の少ない接地」の分析結果が示されている。
図2(D)の例のように、基準データ「距離」と測定データ「負担の少ない接地(着地衝撃)」の組からなるアクティビティデータが、距離を基準として二つのグループ「短い」「長い」に分類されている。図示の例で、グラフ中央部の中程度の距離の領域も含めてグループ「長い」に分類されているのは、これらの中距離領域と長距離領域とで注目スコアに有意な差が見られず同一グループとして扱えるためである。このように、本実施形態のグループ分類部120は、アクティビティデータの傾向を参照しながら、運動分析のための最適なグループ分類を行うことができる。
【0045】
これら二つのグループの代表データによる回帰直線が示すように、距離が長くなるにつれて「負担の少ない接地」のスコアが低下する傾向が見られる。そこで、画面30Cの下部の指導情報表示領域では、その改善のための指導情報を表示する。画面30Cの最下部には、画面30Bと同様に、異なる観点からの分析結果を示す三つのボタン「分析1」「分析2」「分析3」と、より詳細な指導情報を得ることができる「改善プラン」ボタンが配置される。
【0046】
以上のような表示画面を通じて、ユーザは、「ペース」「距離」といった様々な基準データについての分析結果を得ることができ、「左右対称性」「骨盤の回転角度」「負担の少ない接地」といった要改善項目についての的確なアドバイスを得ることができる。
【0047】
図6は、以上のような運動分析装置100による運動分析処理のフローを示す。以降の説明において「S」はステップを意味する。
【0048】
S10では、ユーザの運動中に測定デバイス20による測定を行う。上述したように、測定デバイス20は運動動作に関する測定データと、グループ分類部120におけるグループ分類の基準となる基準データの両方を測定する。
S20では、測定デバイス20が測定データ(運動動作に関する測定データと基準データ)を運動分析装置100に送信する。このとき、複数の測定デバイス20でS10における運動測定を行う場合は、全ての測定デバイス20の測定データが運動分析装置100に送信される。また、一つの測定デバイス20で複数のデータを測定する場合は、全ての測定データが運動分析装置100に送信される。
【0049】
S30では、アクティビティデータ記録部110が、運動動作に関する測定データを基準データと対応づけて、アクティビティデータとして記録する(
図2(A))。ここで、S30では、一回または複数回の運動に亘ってアクティビティデータを記録することができる。
S40では、グループ分類部120が、S30において一回または複数回の運動に亘って記録されたアクティビティデータを、基準データに基づいて複数のグループに分類する(
図2(B))。
【0050】
S50では、代表データ生成部130が、各グループにおけるアクティビティデータの代表データを生成する(
図2(C))。
S60では、傾向分析部140が、複数のグループにおける代表データの基準データに対する相関関係を分析し、複数の代表データと基準データとの間に成り立つ関係式を求める(
図2(D))。
【0051】
S70では、指導情報生成部150が、S60における傾向分析に基づいて、運動動作の改善のための指導情報を生成する。
S80では、表示制御部160が、S60における傾向分析結果と、S70で生成された指導情報を、ユーザの使用する表示デバイス30に送信し、その表示画面に表示させる(
図3~5)。
【0052】
以上、本実施形態をその構成に即して説明したが、上記で説明した内容に加え、本実施形態は例えば以下の作用や効果を奏する。
本実施形態では、運動中に記録された一連のアクティビティデータを複数のグループに分類し、その代表データのグループ間の傾向を分析することで、運動全体の傾向を踏まえて適切に運動動作を分析し、その改善のための指導情報を生成することができる。
【0053】
本実施形態では、単一または複数の運動に亘って記録したアクティビティデータに基づいて運動分析を行うことができるので、その記録期間を通じて恒常的に現れる改善点を効果的に発見することができ、適切な改善指導を行うことができる。
【0054】
また、本実施形態で傾向分析部140が生成する回帰曲線Lによれば、データ量が少ないグループの傾向を適切に把握できるだけでなく、未だデータが存在しない領域まで先んじて推定し、それを踏まえた目標設定と運動指導に活かすことができる。例えば、距離に関して42.195kmのフルマラソンの完走を目標とする場合、現時点の最大走行距離が30kmだったとしても、回帰曲線Lを用いることにより、未走行の30kmから42.195kmの領域の測定データを推定し、そこから想定される課題の抽出と、その課題を未然に解決するための運動指導を行うことができる。また、フルマラソンを目標タイム4時間で完走するためには、1kmを5分より速いペースで走る必要があるが、現時点でその速いペースでのデータがない場合や著しく少ない場合は、目標達成のために速いペースでの練習を推奨できる。この際、上記の距離と同様に、ペースに関する回帰曲線Lを用いて、ペースの速い領域にデータが存在しない場合でも、想定課題の抽出と運動指導を行うことができる。
【0055】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0056】
本実施形態では、グループ分類を行う基準データとしてペースを用いたが、それ以外の一または複数の基準データを用いてもよい。本実施形態の中でも例示したように、時間、ステップ数、距離、位置、速度、加速度、高度、勾配、輝度、気温、湿度、心拍等の生体信号等の基準データを用いることができる。例えば、高度や勾配の情報を基準データとして用いれば、特定の高度や勾配で現れる運動動作上の課題を効果的に見つけることができる。また、心拍等の生体信号を基準データとして用いれば、ユーザの身体の状態に応じて現れる運動動作上の課題を効果的に見つけることができる。さらに、複数の基準データを用いれば、上記のような多角的な観点から、本質的な課題を見つけることができる。
【0057】
本実施形態では、グループ分類部120におけるグループ分類を平均値μ、標準偏差σ等の統計値に基づいて行ったが、統計値を用いずにグループ分類を行ってもよい。例えば、
図2(B)において、一律の所定幅、例えば100sec/kmごとに区切ってグループを構成してもよい。
【0058】
本実施形態では、運動の例としてランニングを挙げて説明したが、本発明はその他の運動にも適用することができる。例えば、各種の陸上競技、水泳、ジム、ロードバイク等におけるトレーニングやエクササイズ、ダンス、サッカー等の球技に適用することができる。
【0059】
なお、実施形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムやクラウドなどのサービスを利用できる。
【符号の説明】
【0060】
100・・・運動分析装置、110・・・アクティビティデータ記録部、120・・・グループ分類部、130・・・代表データ生成部、140・・・傾向分析部、150・・・指導情報生成部、160・・・表示制御部、20・・・測定デバイス、30・・・表示デバイス。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、運動動作の分析を行う運動分析装置に関する。