(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20241125BHJP
【FI】
B23Q11/00 D
(21)【出願番号】P 2022560544
(86)(22)【出願日】2020-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2020041226
(87)【国際公開番号】W WO2022097208
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【氏名又は名称】村上 智司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 靖隆
(72)【発明者】
【氏名】五味 英一郎
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/027283(WO,A1)
【文献】特開2020-062700(JP,A)
【文献】特開2001-255921(JP,A)
【文献】特開2010-257010(JP,A)
【文献】特開昭61-270048(JP,A)
【文献】特開2003-091302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/416
B25J 1/00-21/02
B23Q 15/00-15/28
B23B 1/00-25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク又は工具を保持して回転駆動される主軸を含む主軸装置と、ワーク及び工具の互いの位置関係を変更する送り装置と、前記工具によるワークの加工を補助する加工補助装置とを搭載した工作機械本体と、
前記工作機械本体に付設され、前記ワークの加工に付随する所定の工程動作を実行する付設装置と、
前記工作機械本体に設けられた前記主軸装置、前記送り装置、及び前記加工補助装置、並びに、前記付設装置の作動を制御する制御装置と、
前記工作機械本体及び前記付設装置をNCプログラムに基づく自動運転より又は手動操作により作動させるための機械運転操作部を有し、該機械運転操作部の操作信号を前記制御装置に入力する主操作盤と、
前記付設装置を手動操作により作動させるための装置操作部を有し、該装置操作部の操作信号を前記制御装置に入力する副操作盤とを備えた工作機械であって、
前記副操作盤は、前記工作機械本体にて発生した所定異常を回避するための異常回避用動作を、前記工作機械本体に実行させるための異常回避操作部をさらに有していて、該異常回避操作部の操作信号を前記制御装置に入力するよう構成されており、
前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、
前記副操作盤の前記装置操作部が操作されることで前記副操作盤より前記異常回避操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく、該操作信号に応じて、前記主軸装置、前記送り装置、及び前記加工補助装置の少なくとも一つの作動状態を変更することで
前記工作機械本体において前記異常回避用動作を実現可能に構成されていることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記異常回避操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく且つ前記主軸の回転を停止せずに、該操作信号に応じて、前記主軸装置、前記送り装置、及び前記加工補助装置の少なくとも一つの作動状態を変更することで前記異常回避用動作を実現可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載の工作機械。
【請求項3】
前記異常回避操作部は、前記工作機械本体の前記主軸の回転数を変更するための第1操作部を含んでおり、
前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記第1操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく且つ前記主軸の回転を停止せずに、該操作信号に応じて、前記主軸装置に前記主軸の回転数の変更動作を実行させることで前記異常回避用動作を実現可能に構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の工作機械。
【請求項4】
前記異常回避操作部は、前記送り装置の送り速度を変更するための第2操作部を含んでおり、
前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記第2操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく且つ前記主軸の回転を停止せずに、該操作信号に応じて、前記送り装置に送り速度の変更動作を実行させることで前記異常回避用動作を実現可能に構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の工作機械。
【請求項5】
前記異常回避操作部は、前記送り装置の送り駆動を停止するための第3操作部を含んでおり、
前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記第3操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく且つ前記主軸の回転を停止せずに、前記送り装置に送り駆動の停止動作を実行させることで前記異常回避用動作を実現可能に構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の工作機械。
【請求項6】
前記異常回避操作部は、前記送り装置に前記ワーク及び前記工具の互いの位置関係を変更する動作を実行させるための第4操作部を含んでおり、
前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記第4操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく且つ前記主軸の回転を停止せずに、該操作信号に応じて前記送り装置を作動させることで前記異常回避用動作を実現可能に構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の工作機械。
【請求項7】
前記加工補助装置は、前記工具又はワークに向けてクーラントを吐出するクーラント装置であり、
前記異常回避操作部は、前記クーラント装置の作動状態を変更するための第5操作部を含んでおり、
前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記第5操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく且つ前記主軸の回転を停止せずに、該操作信号に応じて、前記加工補助装置である前記クーラント装置の作動状態を変更することで前記異常回避用動作を実現可能に構成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の工作機械。
【請求項8】
前記副操作盤は、優先操作モードを設定可能な設定操作部を有しており、
前記制御装置は、前記副操作盤の設定操作部を介して前記優先操作モードが設定されているか否かを判定して、該優先操作モードが設定されていると判定した場合において、前記副操作盤からの異常回避操作部の操作信号と、当該操作信号とは相容れない前記主操作盤からの操作信号とを同時に受信した場合には、該主操作盤からの操作信号を無視するように構成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の工作機械。
【請求項9】
前記主操作盤は、情報を表示する表示部を有しており、
前記制御装置は、前記副操作盤にて前記優先操作モードが設定されていると判定した場合には、その旨を前記表示部に表示させるように構成されていることを特徴とする請求項8記載の工作機械。
【請求項10】
ワーク又は工具を保持して回転駆動される主軸を含む主軸装置と、ワーク及び工具の互いの位置関係を変更する送り装置と、前記工具によるワークの加工を補助する加工補助装置とを搭載した工作機械本体と、
前記工作機械本体に付設され、前記ワークの加工に付随する所定の工程動作を実行する付設装置と、
前記工作機械本体に設けられた前記主軸装置、前記送り装置、及び前記加工補助装置、並びに、前記付設装置の作動を制御する制御装置と、
前記工作機械本体及び前記付設装置をNCプログラムに基づく自動運転より又は手動操作により作動させるための機械運転操作部を有し、該機械運転操作部の操作信号を前記制御装置に入力する主操作盤と、
前記付設装置を手動操作により作動させるための装置操作部を有し、該装置操作部の操作信号を前記制御装置に入力する副操作盤とを備えた工作機械であって、
前記副操作盤は、前記工作機械本体にて発生した所定異常を回避するための異常回避用動作を、前記工作機械本体に実行させるための異常回避操作部をさらに有していて、該異常回避操作部の操作信号を前記制御装置に入力するよう構成されており、
前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記異常回避操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく、該操作信号に応じて、前記主軸装置、前記送り装置、及び前記加工補助装置の少なくとも一つの作動状態を変更することで前記異常回避用動作を実現可能に構成され、
前記異常回避操作部は、前記送り装置に前記ワーク及び前記工具の互いの位置関係を変更する動作を実行させるための第4操作部を含んでおり、
前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記第4操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく且つ前記主軸の回転を停止せずに、該操作信号に応じて前記送り装置を作動させることで前記異常回避用動作を実現可能に構成されていることを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械本体と、工作機械本体に付設された付設装置と、工作機械本体及び付設装置の作動を制御する制御装置と、主操作盤と、付設装置を手動操作するための副操作盤とを備えた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述した工作機械の一例として、特開2016-43462号公報(下記特許文献1)に開示された工作機械が知られている。
【0003】
この工作機械は、工作機械本体に付設される付設装置の一例として工具交換装置を有している。工作機械本体は、主軸装置及び送り装置を含む加工機構部と、補助装置としてのクーラント装置とを有している。主操作盤は、NCプログラムに基づく自動運転により又は手動操作により工作機械を作動させるための操作部を有していて、その操作信号を制御装置に入力する。副操作盤は、工具交換装置を手動操作により作動させるための操作部を有していて、その操作信号を制御装置に入力する。
【0004】
工具交換装置は、工具が保持される複数の工具保持部を有する工具マガジンと、この工具マガジンを駆動して、各工具保持部を工具交換位置に移動させるマガジン駆動機構部と、工作機械本体の主軸に装着された工具と工具交換位置に位置決めされた前記工具とを交換する工具交換機構部とを有している。
【0005】
このような工具交換装置では、オペレータが、工具保持部への工具の装着、及び当該工具保持部からの工具の取出し等の段取り作業を手作業で行うことができる。具体的には、オペレータが、副操作盤によって、作業対象の工具保持部を指定することで、指定された工具保持部を前記工具着脱位置に移動させるための操作信号が、副操作盤から制御装置に入力され、この制御装置による制御の下で、前記マガジン駆動機構部が駆動されて、指定された工具保持部が工具着脱位置に移動する。こうして、オペレータは意図する任意の工具保持部を工具着脱位置に呼び出すことができ、当該工具保持部への工具の装着や、当該工具保持部からの工具の取り出しを行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の工作機械では、オペレータが工具交換装置(付設装置)における工具の段取り作業を行っている最中に、工作機械本体にて異常音や異常振動等(所定異常)が発生した場合に、オペレータが迅速に対処することができないという問題がある。
【0008】
すなわち、所定異常が発生した際に、オペレータが主操作盤の近くにいれば、当該オペレータが主操作盤を操作して工作機械本体に所定異常を回避するための動作(異常回避用動作)を実行させることができる。しかし、所定異常が発生した際に、オペレータが工作機械に付設された工具交換装置(付設装置)にて段取り作業を行っていた場合、オペレータは、作業を中断して工作機械本体の主操作盤の前に移動した後に、該主操作盤を操作して工作機械に異常回避用動作を行わせる必要がある。このため、所定異常が発生してからオペレータにより主操作盤が操作されるまでの時間が長くなり、その間に異常が拡大するという問題がある。
【0009】
この問題を回避するべく、付設装置を手動操作するための副操作盤に非常停止ボタンを設けて、非常停止ボタンが操作された場合には、工作機械の電源を遮断することで主軸装置や送り装置を含む工作機械全体の動作を停止することが考えられる。
【0010】
しかし、非常停止ボタンの操作により工作機械の電源が遮断されると、例えば立型マシニングセンタ等では、ワーク又は工具を保持して重力軸方向に駆動可能な移動台が重力により僅かに落下する。この結果、ワークが工具と干渉して破損する虞がある。この問題を回避するべく、非常停止時に工作機械の送り装置により移動台を重力軸方向に僅かに引き上げる動作を実行する場合がある。しかし、この移動台の引き上げ動作は、非常停止ボタンが押されることにより突発的に行われるため、非常停止ボタンが押されるタイミングによってはワークが工具と干渉して破損する虞がある。
【0011】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであって、オペレータが付設装置にて作業を行っている最中に工作機械本体にて所定異常が発生した場合に、ワークを工具との干渉により破損させることなく所定異常を迅速に回避することができる工作機械を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための本発明の一局面では、
ワーク又は工具を保持して回転駆動される主軸を含む主軸装置と、ワーク及び工具の互いの位置関係を変更する送り装置と、前記工具によるワークの加工を補助する加工補助装置とを搭載した工作機械本体と、
前記工作機械本体に付設され、前記ワークの加工に付随する所定の工程動作を実行する付設装置と、
前記工作機械本体に設けられた前記主軸装置、前記送り装置、及び前記加工補助装置、並びに、前記付設装置の作動を制御する制御装置と、
前記工作機械本体及び前記付設装置をNCプログラムに基づく自動運転より又は手動操作により作動させるための機械運転操作部を有し、該機械運転操作部の操作信号を前記制御装置に入力する主操作盤と、
前記付設装置を手動操作により作動させるための装置操作部を有し、該装置操作部の操作信号を前記制御装置に入力する副操作盤とを備えた工作機械であって、
前記副操作盤は、前記工作機械本体にて発生した所定異常を回避するための異常回避用動作を、前記工作機械本体に実行させるための異常回避操作部をさらに有していて、該異常回避操作部の操作信号を前記制御装置に入力するよう構成されており、
前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記異常回避操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく、該操作信号に応じて、前記主軸装置、前記送り装置、及び前記加工補助装置の少なくとも一つの作動状態を変更することで前記異常回避用動作を実現可能に構成されている。
【0013】
この工作機械によれば、オペレータが主操作盤の機械運転操作部を操作すると、その操作信号が制御装置に入力され、該制御装置によって、工作機械本体及び付設装置がNCプログラムに基づく自動運転により又は手動操作により作動される。また、オペレータが副操作盤の装置操作部を操作すると、その操作信号が制御装置に入力され、該制御装置によって付設装置が手動操作により作動される。
【0014】
前記副操作盤には、付設装置を手動操作するための装置操作部に加えて異常回避操作部が設けられている。この異常回避操作部は、工作機械本体にて所定異常(例えば異常音や異常振動)が発生した場合に、副操作盤を介して工作機械本体に異常回避用動作を実行させるための操作部である。具体的には、オペレータがこの異常回避操作部を操作すると、その操作信号が副操作盤から制御装置に入力される。制御装置は、該操作信号を受信すると、前記工作機械の電源を遮断することなく、該受信した操作信号に応じて、主軸装置、送り装置及び加工補助装置の少なくとも一つの作動状態を変更する。したがって、オペレータが付設装置にて作業を行っている最中に、工作機械本体にて所定異常が発生したとしても、オペレータは主操作盤まで移動せずに、付設装置の手動操作用に設けられた副操作盤を介して、工作機械本体に設けられた主軸装置、送り装置及び加工補助装置の少なくとも一つの作動状態の変更を試みることで、工作機械本体に異常回避用動作を迅速に実行させることができる。
【0015】
また、この工作機械では、電源を遮断することなく工作機械に異常回避用動作を実行させるようにしているので、例えば非常停止ボタンを押して工作機械の電源を遮断した場合のように、ワーク(又は工具)が重力軸方向に意図せず移動して破損するのを防止することができる。
【0016】
前記工作機械において、異常回避用動作は、主軸装置による主軸の回転を停止せずに行われることが好ましい。これにより、ワークに工具が食い込んだまま工具の回転が停止するのを防止することができる。よって、ワークに工具が食い込むことによるワークの破損を防止し、延いては、所定異常が発生した際のワークの再利用率を高めて材料コストを低減することができる。
【0017】
前記工作機械において、前記異常回避操作部は、前記工作機械本体の前記主軸の回転数を変更するための第1操作部を含んでおり、前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記第1操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく且つ前記主軸の回転を停止せずに、該操作信号に応じて、前記主軸装置に前記主軸の回転数の変更動作を実行させることで前記異常回避用動作を実現可能に構成されていることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、NCプログラムに基づく工作機械の自動運転中に、オペレータが副操作盤の異常回避操作部である第1操作部を操作すると、その操作信号が制御装置に送信される。制御装置では、副操作盤から受信した操作信号に応じて、主軸装置に主軸の回転数の変更動作を実行させる。この変更動作は、主軸の回転数の増加側と減少側とのいずれの側であってもよい。
【0019】
したがって、例えば、前記所定異常として工作機械本体の異常振動が発生した場合には、オペレータが副操作盤の第1操作部を操作して、主軸の回転数を共振点からずらすことで所定異常(異常振動)を回避することができる。この場合、主軸の回転数を共振点からずらす動作が前記異常回避用動作に相当する。
【0020】
前記工作機械において、前記異常回避操作部は、前記送り装置の送り速度を変更するための第2操作部を含んでおり、前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記第2操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく且つ前記主軸の回転を停止せずに、該操作信号に応じて、前記送り装置に送り速度の変更動作を実行させることで前記異常回避用動作を実現可能に構成されていることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、NCプログラムに基づく工作機械の自動運転中に、オペレータが副操作盤の異常回避操作部である第2操作部を操作すると、その操作信号が制御装置に送信される。制御装置では、副操作盤から受信した操作信号に応じて、前記送り装置に対して送り速度の変更動作を実行させる。この変更動作は、送り速度の増加側と減少側とのいずれの側であってもよい。
【0022】
したがって、例えば、前記所定異常として工具及びワーク間のびびり振動が発生した場合に、オペレータは副操作盤の第2操作部を操作して、送り装置の送り速度を、びびり振動が生じないような速度に調整することで所定異常を回避することができる。この場合、送り装置の送り速度を、びびり振動が生じない速度に変更する動作が異常回避用動作に相当する。
【0023】
前記工作機械において、前記異常回避操作部は、前記送り装置の送り駆動を停止するための第3操作部を含んでおり、前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記第3操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく且つ前記主軸の回転を停止せずに、前記送り装置に送り駆動の停止動作を実行させることで前記異常回避用動作を実現可能に構成されていることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、NCプログラムに基づく工作機械の自動運転中に、オペレータが副操作盤の異常回避操作部である第3操作部を操作すると、その操作信号が制御装置に送信される。制御装置では、第3操作部の操作信号を受信すると、送り装置に送り駆動の停止動作を実行させる。
【0025】
これによれば、工作機械本体にて所定異常が発生した場合に、オペレータが前記副操作盤の第3操作部を操作して送り装置の送り駆動を停止することで、工具がワークに接触するのを未然に防止したり、工具とワークとが接触した状態でワークの加工がそれ以上進行しないようにすることができる。送り駆動を停止した後は、例えば故障が生じている可能性がある機器を停止する等して異常を回避すればよい。この場合において、送り駆動を停止する動作は、異常を回避するための異常回避用動作に相当する。
【0026】
前記工作機械において、前記異常回避操作部は、前記送り装置に前記ワーク及び前記工具の互いの位置関係を変更する動作を実行させるための第4操作部を含んでおり、前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記第4操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく且つ前記主軸の回転を停止せずに、該操作信号に応じて、前記送り装置を作動させることで前記異常回避用動作を実現可能に構成されていることが好ましい。
【0027】
この構成によれば、NCプログラムに基づく工作機械の自動運転中に、オペレータが副操作盤の異常回避操作部である第4操作部を操作すると、その操作信号が制御装置に送信される。制御装置では、第4操作部の操作信号を受信すると、その操作信号に応じて、送り装置を作動させる。したがって、オペレータは、工作機械本体にて所定異常が発生した場合に、前記副操作盤の第4操作部を操作することで、主軸の回転を停止することなく、送り装置を作動させて工具とワークとを離間させることができる。これにより、工具とワークとの接触が解除されるので、例えばワーク及び工具間で発生するびびり振動等の所定異常を迅速に回避することができる。この場合、送り装置によって工具とワークとを離間させる動作が異常回避用動作に相当する。
【0028】
前記加工補助装置は、前記工具又はワークに向けてクーラントを吐出するクーラント装置であり、前記異常回避操作部は、前記クーラント装置の作動状態を変更するための第5操作部を含んでおり、前記制御装置は、前記NCプログラムに基づく前記自動運転中に、前記副操作盤より前記第5操作部の操作信号を受信した場合には、前記工作機械の電源を遮断することなく且つ前記主軸の回転を停止せずに、該操作信号に応じて、前記加工補助装置である前記クーラント装置の作動状態を変更することで前記異常回避用動作を実現可能に構成されていることが好ましい。
【0029】
この構成によれば、NCプログラムに基づく工作機械の自動運転中に、オペレータが副操作盤の異常回避操作部である第5操作部を操作すると、その操作信号が制御装置に送信される。制御装置では、第5操作部の操作信号を受信すると、該操作信号に応じて、加工補助装置であるクーラント装置の作動状態を変更する。クーラント装置の作動状態の変更とは、例えば、クーラント装置のオン/オフ状態の切替えや、クーラントの吐出圧の変更等を含む。クーラントの作動状態を変更することで、工具の発熱や切屑の排出性の悪化に伴い発生する所定異常(切削不良による異常振動や異常音等)を回避することができる。この場合、クーラントの作動状態の変更動作が異常回避用動作に相当する。
【0030】
前記工作機械において、前記副操作盤は、優先操作モードを設定可能な設定操作部を有しており、前記制御装置は、前記副操作盤の設定操作部を介して前記優先操作モードが設定されているか否かを判定して、該優先操作モードが設定されていると判定した場合において、前記副操作盤からの前記異常回避操作部の操作信号と、当該操作信号とは相容れない前記主操作盤からの操作信号とを同時に受信したときには、該主操作盤からの操作信号を無視するように構成されていることが好ましい。
【0031】
この構成によれば、副操作盤にて優先操作モードが設定されている場合に、制御装置において、副操作盤からの異常回避操作部の操作信号と、当該操作信号とは相容れない主操作盤からの操作信号とを同時に受信したときには、主操作盤からの操作信号が無視される。この結果、制御装置は、副操作盤からの異常回避操作部の操作信号に基づいて工作機械に異常回避用動作を実行させる。よって、オペレータは付設装置にて作業を行っている間は、前記副操作盤の設定操作部を介して優先操作モードを設定しておくことで、工作機械本体にて所定異常が発生した際に、主操作盤からの操作に邪魔されることなく、副操作盤の異常回避操作部を介して前記工作機械本体に異常回避用動作を迅速に実行させることができる。
【0032】
前記工作機械において、前記主操作盤は、情報を表示する表示部を有しており、前記制御装置は、前記副操作盤にて前記優先操作モードが設定されていると判定した場合には、その旨を前記表示部に表示させるように構成されていることが好ましい。
【0033】
この構成によれば、副操作盤にて優先操作モードが設定されている場合には、制御装置による制御の下、主操作盤の表示部にその旨(副操作盤の優先操作モードが設定されている旨)が表示される。したがって、オペレータは、主操作盤の操作が無視された場合であっても、主操作盤の表示部に、副操作盤の優先操作モードが設定されている旨が表示されていれば、この表示を見て副操作盤の操作が優先された可能性を容易に推測することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明に係る工作機械によれば、付設装置を操作するための副操作盤に異常回避操作部を設けて、該異常回避操作部が操作されると、制御装置によって、工作機械の電源を遮断することなく、副操作盤からの操作信号に応じて、主軸装置、送り装置及び加工補助装置の少なくとも一つの作動状態を変更して、工作機械本体に異常回避用動作を実行させることができるようにしたことで、オペレータが付設装置にて作業を行っている最中に工作機械本体にて所定異常が発生した場合に、ワークを工具との干渉により破損させることなく該所定異常を迅速に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、実施形態に係る工作機械を示す正面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る工作機械を示す
図1の左側から見た側面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る工作機械の制御ブロック図である。
【
図4】
図4は、NC操作盤の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、マガジン操作盤の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
《実施形態》
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1及び
図2に示すように、本例の工作機械1は、立形のマシニングセンタであり、工作機械本体10、工具交換装置20、NC操作盤30、マガジン操作盤40及び制御装置100(
図3参照)を備えている。
【0037】
工作機械1は、ワークの加工エリアを区画するとともにその外観形状を形成するスプラッシュガードGをさらに有している。スプラッシュガードGにおける機械正面側(
図1の紙面垂直方向の手前側)には、加工エリアにアクセスするための開閉扉(図示省略)がX軸方向にスライド可能に取付けられている。NC操作盤30は、工作機械1の正面の右側寄りに配置されていて工作機械本体10に支持アーム19を介して支持されている。オペレータは、NC操作盤30を介して工作機械1を自動運転により又は手動操作により作動させることができる。また、工作機械1の左側(正面側から見て左側)にはマガジン操作盤40が配置されている。オペレータはマガジン操作盤40を介して工具交換装置20を手動操作により作動させることができる。NC操作盤30及びマガジン操作盤40の詳細は後述する。
【0038】
工作機械本体10は、ベッド11と、このベッド11上に立設されたコラム12と、このコラム12に支持され、上下方向(Z軸方向)に移動可能となった主軸頭13と、この主軸頭13によってその軸中心に回転在に支持された主軸14を含む主軸装置17(
図1及び
図3参照)と、この主軸14の下方のベッド11上に配設されたテーブル15と、主軸頭13及びテーブル15を駆動する送り装置16と、クーラント装置18とを有している。
【0039】
前記テーブル15は水平な直交2軸方向であるX軸-Y軸方向に移動可能に構成され、また、前記主軸頭13はX軸及びY軸と直交する鉛直方向であるZ軸方向に移動可能になっている。
【0040】
送り装置16は、前記テーブル15をX軸及びY軸方向に駆動し、また前記主軸頭13をZ軸方向に駆動する。そうして、送り装置16は、テーブルにセットされたワークと、該主軸頭13に支持された主軸14に取付けられた工具Tとの互いの位置関係(相対的な位置関係)を三次元空間内で変更可能になっている。送り装置16は、例えば、X軸、Y軸及びZ軸回りに出力軸を回転させる三つのサーボモータ、及び、各サーボモータの回転運動をそれぞれの軸方向の直線運動に変換するボールネジ機構等により構成される。
【0041】
主軸装置17は、主軸14と、該主軸14をその軸線回り(Z軸回り)に回転駆動する主軸モータ(図示省略)とを有しており、主軸モータは例えばサーボモータにより構成される。
【0042】
クーラント装置18は、ワークの加工中に工具Tの先端付近にクーラントを吹付けることで工具Tの発熱を抑制するとともに切屑の排出を促す。クーラント装置18は、例えば、主軸頭13にマニホールドを介して固定されたフレキシブルノズルや、クーラントタンク内のクーラントを汲み上げてマニホールドに供給するクーラントポンプ等を有している。
【0043】
工具交換装置20は、主軸頭13の側方に配設された工具マガジン21と、この工具マガジン21の下端部に設けられ、主軸14に取り付けられた工具Tと工具マガジン21の工具ポット22に格納された工具Tとを交換する工具交換機構部23とを有している。工具交換装置20が、工作機械本体10に付設されて所定の工程動作(本例では工具交換動作)を実行する付設装置に相当する。
【0044】
前記工具マガジン21は、工具Tが保持される複数の工具ポット(工具保持部)22と、この複数の工具ポット22を、外周部に一定間隔で保持した円板状の保持プレート24と、工具ポット22と保持プレート24とを取り囲むように配設されるとともに、下部に開口部25aが形成されたカバー体25とから構成される。前記保持プレート24は、マガジン駆動機構部26によって中心軸周りに回転駆動されるようになっており、このマガジン駆動機構部26により保持プレート24を回転させることによって、保持プレート24に保持された工具ポット22の中から所望の工具ポット22を、前記カバー体25の開口部25aに移送することができるようになっている。以下では、この開口部25aが形成された位置を「着脱位置」という。工具ポット22の配置形状は、本例では
図1及び
図2のように円形状とされている。尚、後述する
図3では、図示の便宜上、工具ポット22の配置形状を円形では無く楕円形としている。
【0045】
前記着脱位置に割り出された工具ポット22は、旋回機構(図示せず)によって適宜、垂直面内で旋回され、主軸14に対して平行な姿勢となる待機位置に移動するようになっており、この待機位置に移動した工具ポット22は、前記旋回機構により、再度、垂直面内で旋回されることによって、前記着脱位置(
図1の二点鎖線参照)に復帰するようになっている。
【0046】
前記工具交換機構部23は、
図1に示すように、前記主軸14と前記待機位置に移送された工具ポット22との中間位置に、その軸線が主軸14の軸線と平行となるように配設され回転軸27と、カム機構28を介して回転軸27を軸中心に回転させる駆動モータMと、工具Tを把持する把持部が両端に形成され、前記回転軸27の下端部に固設された交換アーム29などから構成される。
【0047】
そして、前記回転軸27は、駆動モータMからカム機構28に回転動力が伝達されることにより、その軸中心に回転するとともに、その軸方向に昇降するようになっており、交換アーム29は回転軸27とともに動作して、回転動作と昇降動作とを実行することにより、主軸14に装着された工具Tと、待機位置の工具ポット22に保持された工具Tとを交換する。
【0048】
[制御装置の構成]
図3に示すように、前記制御装置100は、主制御部101、NCプログラム記憶部102、NCプログラム実行部103、送り制御部104、主軸制御部105、クーラント制御部106、工具交換制御部107、工具情報記憶部108及び表示制御部109を有している。
【0049】
これらのうち、前記NCプログラム記憶部102、NCプログラム実行部103、送り制御部104及び主軸制御部105は、例えばCNCユニット(computerized numerical control unit)によって実現され、主制御部101は、例えばPLCユニット(Programmable Logic Controller unit)によって実現される。
【0050】
また、制御装置100には、NC操作盤30(主操作盤の一例)及びマガジン操作盤40(副操作盤の一例)がそれぞれ接続されている。尚、これら制御装置100、NC操作盤30及びマガジン操作盤40は、CPU、RAM、ROMなどを含むコンピュータから構成されている。以下では、先ずNC操作盤30の操作に関連する制御系の機能説明を行い、その後、マガジン操作盤40の操作に関連する制御系の機能説明を行う。
【0051】
[NC操作盤の操作に関連する制御系の機能説明]
図3及び
図4に示すように、NC操作盤30は、表示部31、NC入力操作部32、及び機械運転操作部33を備えている。
【0052】
表示部31は、例えばタッチパネル31aにより構成されていて、NCプログラム記憶部102に格納されたNCプログラムや、NCプログラム実行部103における実行状況、送り装置16及び主軸装置17の動作状況などを表示可能になっている。
【0053】
NC入力操作部32はキーボード32aを有している。オペレータは、このキーボード32aを指で操作することで、NCプログラム記憶部102にNCプログラムを格納する処理や、主制御部101を介して工具情報記憶部108に工具情報等を格納する処理を行えるようになっている。この工具情報には、工具マガジン21を構成する各工具ポット22の番号と、各工具ポット22に装着された工具Tの工具番号との対応情報等が含まれている。
【0054】
機械運転操作部33は、工作機械1を自動運転により又は手動操作により作動させるための操作部である。具体的には、機械運転操作部33は、
図4に示すように、運転モード切替スイッチ33a、サイクル起動ボタン33b、フィードホールドボタン33c、切削送りオーバーライドスイッチ33d、回転数オーバーライドスイッチ33e、ジョグ送り操作部33f、クーラントオン/オフボタン33g、クーラント圧設定スイッチ33h、及び工具交換操作部33iを有している。機械運転操作部33には、この他にも周知の手動パルスハンドル(手動パルス発生器)や、工作機械1の電源を遮断するための非常停止ボタン等が設けられている。
【0055】
運転モード切替スイッチ33aは、工作機械1の運転モードを自動運転モードと手動運転モードとに切替えるためのスイッチである。自動運転モードは、NCプログラム記憶部102に記憶されたNCプログラムにしたがって工作機械1を自動運転させるためのモードである。手動運転モードは、オペレータの手動操作によって工作機械1の各機器を動作させるためのモードである。
【0056】
サイクル起動ボタン33bは、自動運転モードにおいて、工作機械1にNCプログラムに基づく自動運転を開始させるためのボタンである。
【0057】
フィードホールドボタン33cは、NCプログラムに基づく自動運転中の工作機械1をフィードホールド状態に切替えるためのボタンである。フィードホールド状態では、送り装置16の送り動作は停止される一方、主軸装置17による主軸14の回転、及びクーラント装置18の作動は継続される。尚、フィードホールド状態においてサイクル起動ボタン33bが再度押されると、中断していた前記工作機械1の自動運転が再開される。
【0058】
切削送りオーバーライドスイッチ33dは、工作機械1の自動運転時における送り装置16の送り速度を調整するためのスイッチである。切削送りオーバーライドスイッチ33dは、例えば回転式の調整ダイヤルにより構成され、NCプログラムにて指定された送り速度に対する速度倍率として例えば0~200%の倍率を指定可能になっている。尚、切削送りオーバーライドスイッチ33dを0%に設定することで、フィードホールドボタン33cを押したのと同等の機械動作を実現することができる。
【0059】
回転数オーバーライドスイッチ33eは、工作機械1の自動運転時における主軸14の回転数を調整するためのスイッチである。回転数オーバーライドスイッチ33eは、例えば回転式の調整ダイヤルにより構成され、NCプログラムにて指定された主軸14の回転数に対する速度倍率として例えば0~200%の倍率を指定可能になっている。
【0060】
ジョグ送り操作部33fは、主軸頭13及びテーブル15をジョグ送りによって移動させるための操作部であって、例えば、X軸+、X軸-、Y軸+、Y軸-、Z軸+、Z軸-のジョグ送り方向を入力する六個のキーを有する。
【0061】
クーラントオン/オフボタン33gは、クーラント装置18のオン/オフを手動で切替えるためのボタンである。本例では、クーラントオン/オフボタン33gを一回押す度にクーラント装置18をオン状態とオフ状態とに交互に切替え可能になっている。
【0062】
クーラント圧設定スイッチ33hは、クーラント装置18によるクーラントの吐出圧を設定するためのスイッチである。クーラント圧設定スイッチ33hは、例えば回転式のダイヤルによって構成され、クーラント装置18の最大吐出圧に対する倍率を0~100%の範囲で指定可能になっている。
【0063】
工具交換操作部33iは、工具マガジン21を回転させることにより作業対象の工具ポット22を前記工具着脱位置に呼出す動作、及び、該工具ポット22に装着された工具Tと主軸14に装着された工具Tとを工具交換機構部23によって交換する動作を実行するための操作部である。工具交換操作部33iは、着脱位置に呼び出すべき工具ポット22の番号を入力するための工具呼出しキーや、工具交換機構部23を作動させる作動ボタン(いずれも図示省略)を有している。
【0064】
前記主制御部101は、NC操作盤30及び後述するマガジン操作盤40から入力された操作信号を基に、又は後述するNCプログラム実行部103からの指令を基に、予めROM内に記憶されたシーケンスプログラムにしたがって所定の処理を実行する。
【0065】
例えば、工作機械1が自動運転モードにあるときに、NC操作盤30にてサイクル起動ボタン33bが操作されると、主制御部101は、NC操作盤30より入力された操作信号に応じて、NCプログラム実行部103に対してNCプログラムを実行させるための実行指令を行う。NCプログラム実行部103は、主制御部101よりNCプログラムの実行指令を受信した場合には、NCプログラム記憶部102に記憶されたNCプログラムを一ブロック(行)ずつ読込んでその指令(NCコード)を解釈し、送り装置16及び主軸装置17の動作に関する指令については送り制御部104及び主軸制御部105にそれぞれ送信し、該送り制御部104及び主軸制御部105によって送り装置16及び主軸装置17を作動させる一方、その他の機器に関する指令(クーラント吐出指令や工具交換指令)については主制御部101に送信する。
【0066】
そして、主制御部101は、NCプログラム実行部103がNCプログラムを実行する中で、該NCプログラムに規定されたクーラントの動作に係る指令を受信した場合には、クーラント制御部106に対してその指令(オン/オフ指令等)を行う。また、主制御部101は、NCプログラム実行部103がNCプログラムを実行する中で、該NCプログラムに規定された工具交換に係る指令を受信した場合には、工具交換制御部107に対して該工具交換指令を行う。そうして、主制御部101は、NCプログラム実行部103と協働して工作機械1の自動運転動作を実現する。
【0067】
主制御部101は、工作機械1の自動運転中に、NC操作盤30よりフィードホールドボタン33cの操作信号を受信した場合には、NCプログラム実行部103に対して工作機械1をフィードホールド状態に切替えるためのフィードホールド指令を行う。NCプログラム実行部103は、NCプログラムの実行中に、主制御部101よりフィードホールド指令を受信した場合には、NCプログラムの実行を中断して、送り制御部104に対して送り動作を停止する停止指令を行う一方、主軸制御部105に対して主軸14の回転を維持する動作指令を行うとともに、クーラント制御部106に対してクーラントの吐出を継続する指令を行う。これにより、工作機械1は、主軸14を回転させつつ送り動作を停止するフィードホールド状態となる。
【0068】
一方、主制御部101は、工作機械1が手動運転モードにあるときに、NC操作盤30よりジョグ送り操作部33fの操作信号を受信した場合には、送り制御部104に対して、送り装置16のジョグ送り動作を実行させるジョグ送り指令を送信する。
【0069】
主制御部101は、工作機械1が手動運転モードにあるときに、NC操作盤30よりクーラントオン/オフボタン33gの操作信号を受信した場合には、クーラント制御部106に対して、クーラント装置18のオン/オフ状態を切替える指令を行う。
【0070】
主制御部101は、工作機械1が手動運転モードにあるときに、NC操作盤30よりクーラント圧設定スイッチ33hの操作信号を受信した場合には、クーラント制御部106に対して、該受信した操作信号に応じたクーラント吐出圧でクーラント装置18を作動させる指令を行う。
【0071】
また、主制御部101は、工作機械1が手動運転モードにあるときに、工具交換操作部33iの操作信号を受信した場合には、工具交換制御部107に対して、該操作信号に応じた工具呼出し動作及び工具交換動作を実行させる指令を行う。
【0072】
さらに、主制御部101は、受信した操作信号又はNCプログラム実行部103からの指令に応じて適宜、表示制御部109に対して、NC操作盤30の表示部31及びマガジン操作盤40の表示部41の表示内容を変更する指令を行う。
【0073】
また、主制御部101は、NC操作盤30における切削送りオーバーライドスイッチ33d及び回転数オーバーライドスイッチ33eの指定値(操作信号)、並びに、後述するマガジン操作盤40における切削送りオーバーライドスイッチ43b及び回転数オーバーライドスイッチ43cの指定値(操作信号)を基に、NCプログラムに基づく工作機械1の自動運転時における切削送りオーバーライド値及び主軸14の回転数オーバーライド値を決定して送り制御部104及び主軸制御部105にそれぞれ送信する。各オーバーライド値の決定処理の詳細は後述する。
【0074】
前記送り制御部104は、送り装置16の作動を制御する機能部である。送り制御部104は、工作機械1が自動運転モードにあるときに、NCプログラム実行部103より動作指令を受信した場合には、NCプログラムに規定された送り装置16の送り速度(各軸方向の送り速度)と、主制御部101より受信した前記切削送りオーバーライド値とを掛合わせて各軸方向の目標送り速度を算出し、送り装置16を該算出した目標送り速度で作動させる。
【0075】
また、送り制御部104は、工作機械1が手動運転モードにあるときに、主制御部101よりジョグ送り動作指令を受信した場合には、送り装置16を予め定めた各軸方向の目標ジョグ送り速度で作動させる。
【0076】
主軸制御部105は、主軸装置17の作動を制御する機能部である。主軸制御部105は、工作機械1が自動運転モードにあるときに、NCプログラム実行部103より動作指令を受信した場合には、NCプログラムに規定された主軸14の回転数と、主制御部101より受信した回転数オーバーライド値とを掛合わせて主軸14の目標回転数を算出して、主軸14が該算出した目標回転数で回転するように主軸装置17(詳しくは主軸装置17の主軸モータ)を作動させる。
【0077】
クーラント制御部106は、クーラント装置18の作動を制御する機能部である。クーラント制御部106は、主制御部101より受信したクーラント装置18の作動指令、停止指令又は吐出圧変更指令に応じた駆動信号をクーラント装置18(詳しくはクーラント装置18のポンプ駆動モータ)に出力する。
【0078】
工具交換制御部107は、工具交換装置20の作動を制御する機能部である。工具交換制御部107は、主制御部101より受信した工具交換指令に応じて、マガジン駆動機構部26を駆動,制御して、当該工具交換指令に係る工具Tを保持した工具ポット22を待機位置に移動させるとともに、工具交換機構部23を駆動,制御して、当該工具交換機構部23に工具交換動作を実行させる。
【0079】
[マガジン操作盤の操作に関連する制御系の機能説明]
図3及び
図5に示すように、前記マガジン操作盤40は、表示部41、マガジン操作部42、異常回避操作部43、及び優先モードボタン44を有している。マガジン操作盤40は、その操作面がスプラッシュガードGから外部に露出するように配置されている(
図1び
図2参照)。マガジン操作盤40は、
図2において、工具マガジン21を覆うカバー体25に形成された開口部25aの左側に配置されている。
図2において開口部25aの紙面手前側は、オペレータが工具Tの着脱作業を行うための作業位置であり、マガジン操作盤40はこの作業位置に隣接して配置されている。
【0080】
前記表示部41は、例えばタッチパネル41aにより構成されていて、前記工具情報記憶部108に格納された前記工具情報などを表示する。
【0081】
前記マガジン操作部42(装置操作部の一例)は、段取りモード設定ボタン42aと、工具呼出しキー42bと、マガジン駆動ボタン42cとを有している。段取りモード設定ボタン42aは、工具交換装置20を通常運転モードと段取りモードとに選択的に切替えるためのスイッチである。本例では、段取りモード設定ボタン42aを一回押す度に、通常運転モードと段取りモードとを交互に切替え可能になっている。工具呼出しキー42bは、工具交換装置20が段取りモードにあるときに、呼出し対象の工具Tの工具番号を入力するためのキーである。マガジン駆動ボタン42cは、工具呼出しキー42bによる入力を確定させて工具マガジン21を駆動させるためのボタンである。
【0082】
通常運転モードは、NCプログラムに基づいて工具交換装置20を工作機械本体10と協働させて自動運転させるモードである。段取りモードは、オペレータが工具交換装置20を手動で作動させて工具Tの段取り作業を行うためのモードである。段取りモードが設定されると、NC操作盤30を介した工具情報の編集操作及び工具交換装置20の駆動操作が無効化される一方、マガジン操作盤40を介した工具交換装置20の手動操作が可能になる。
【0083】
具体的には、工具交換装置20が段取りモードにあるときに、マガジン駆動ボタン42cが押されると、主制御部101は、工具交換制御部107に対して、工具呼出しキー42bにて指定された工具番号に対応する工具ポット22を工具着脱位置に移動させる指令を行う。工具交換制御部107は、この指令を受けてマガジン駆動機構部26を駆動,制御して、工具マガジン21に工具呼び出し動作を実行させる。
【0084】
前記異常回避操作部43は、工作機械本体10において所定異常(異常振動や異常音等)が発生した際に、工作機械1の電源を遮断することなく工作機械本体10に該所定異常を回避するための異常回避用動作を実行させるための操作部である。
【0085】
具体的には、異常回避操作部43は、フィードホールドボタン43a、切削送りオーバーライドスイッチ43b、回転数オーバーライドスイッチ43c、及びジョグ送り操作部43dを有している。
【0086】
フィードホールドボタン43aは、NCプログラムに基づく工作機械1の自動運転中に、マガジン操作盤40側から送り装置16の送り駆動を停止して、工作機械1をフィードホールド状態に切替えるためのボタンである。フィードホールド状態の定義は上述した通りであるため説明を省略する。フィードホールドボタン43aは、送り装置16の送り駆動を停止するための第3操作部として機能する。
【0087】
切削送りオーバーライドスイッチ43bは、NCプログラムに基づく工作機械1の自動運転時における送り装置16の送り速度をマガジン操作盤40側から調整するためのスイッチである。切削送りオーバーライドスイッチ43bは、例えば回転式の調整ダイヤルにより構成され、NCプログラムにて指定された送り速度に対する速度倍率として例えば0~200%の倍率を指定可能になっている。尚、切削送りオーバーライドスイッチ43bを0%に切替えることで、上述したフィードホールドボタン33cを押したのと同等の機械動作を実現することができる。そうして、切削送りオーバーライドスイッチ43bは、前記第3操作部、又は送り装置16の送り速度を変更するための第2操作部として機能する。
【0088】
回転数オーバーライドスイッチ43cは、NCプログラムに基づく工作機械1の自動運転時における主軸14の回転数をマガジン操作盤40側から調整するためのスイッチである。回転数オーバーライドスイッチ43cは、例えば回転式の調整ダイヤルにより構成されており、その調整範囲は前記NC操作盤30に設けられた回転数オーバーライドスイッチ33eとは異なり、例えば50%~100%とされている。本例では、下限値は50%とされているが、これに限ったものではなく、例えば主軸14がワークからの切削抵抗により停止しない範囲で50%を超えてもよいし50%未満であってもよい。回転数オーバーライドスイッチ43cは、主軸14の回転数を変更するための第1操作部として機能する。
【0089】
ジョグ送り操作部43dは、工作機械本体10の主軸頭13及びテーブル15をマガジン操作盤40側からジョグ送りにより駆動するための操作部であって、例えば、X軸+、X軸-、Y軸+、Y軸-、Z軸+、Z軸-のジョグ送り方向を入力する六個のキーを有する。本例では、NCプログラムに基づく工作機械1の自動運転中に、ジョグ送り操作部43dを押すと、工作機械1の自動運転が中断して、ジョグ送り操作部43dの操作が自動的に有効化されるようになっている。ジョグ送り操作部43dは、送り装置16にワーク及び工具Tの互いの位置関係を変更する動作を実行させるための第4操作部として機能する。
【0090】
優先モードボタン44(設定操作部の一例)は、マガジン操作盤40を優先操作モードに設定するためのボタンである。本例では、優先モードボタン44を一回押す毎に優先操作モードの設定及び解除を交互に切替え可能になっている。ここで、優先操作モードとは、マガジン操作盤40の異常回避操作部43の操作を有効化するとともに、マガジン操作盤40の異常回避操作部43の操作と、該操作とは相容れないNC操作盤30の操作とが同時に行われた場合にマガジン操作盤40の操作を優先させるモードである。上述の相容れない操作が生じるケースの一例として、NC操作盤30とマガジン操作盤40とで異なるオーバーライド値が同時に選択操作されるケースや、NC操作盤30とマガジン操作盤40とで異なるジョグ送り方向が同時に選択操作されるケース等が挙げられる。尚、本例では、マガジン操作盤40にて優先操作モードが設定されている場合であっても、このような相容れない操作に該当しない限り、NC操作盤30からの操作も有効に機能するようになっている。
【0091】
主制御部101は先ず、マガジン操作盤40からの優先モードボタン44の操作信号を基に、現時点でマガジン操作盤40の優先操作モードが設定されているか否かを判定する。
【0092】
そして、主制御部101は、マガジン操作盤40の優先操作モードが設定されていると判定した場合には、NC操作盤30の表示部31に「マガジン操作盤にて優先操作モードが設定されています。相容れない操作についてはマガジン操作盤からの操作が優先されます。」というメッセージを表示する。尚、表示するメッセージはこれに限ったものではなく、マガジン操作盤40にて優先操作モードが設定されている旨を報知できる内容であれば如何なるものであってもよい。
【0093】
そして、主制御部101は、マガジン操作盤40の優先操作モードが設定されていると判定した場合において、マガジン操作盤40の異常回避操作部43の操作信号を受信したときには、当該操作信号に基づいて工作機械1の運転制御を行う。
【0094】
具体的には、主制御部101は、優先操作モードが設定されていると判定した場合において、マガジン操作盤40よりフィードホールドボタン43aの操作信号を受信したときには、NCプログラム実行部103に対してフィードホールド指令を行うとともに、クーラント制御部106に対してクーラント吐出指令を継続する。NCプログラム実行部103は、主制御部101よりフィードホールド指令を受信した場合には、NC操作盤30にてフィードホールドボタン33cが押された場合と同様に、NCプログラムの実行を中断するとともに主軸制御部105に対して主軸14の回転を維持する指令を行う。これにより工作機械1が前記フィードホールド状態になる。
【0095】
また、主制御部101は、優先操作モードが設定されていると判定した場合において、マガジン操作盤40よりジョグ送り操作部43dの操作信号を受信した場合には、送り制御部104を介して送り装置16を予め定めた目標ジョグ送り速度で作動させる。尚、NCプログラムに基づく工作機械1の自動運転中に、マガジン操作盤40よりジョグ送り操作部43dの操作がなされた場合には、主制御部101は、NCプログラム実行部103に対してフィードホールド指令を行った後に、ジョグ送り操作部43dからの操作信号に応じて送り装置16にジョグ送り動作を実行させる。
【0096】
一方、主制御部101は、マガジン操作盤40の優先操作モードが設定されていないと判定した場合(優先操作モードが解除されていると判定した場合)において、マガジン操作盤40から異常回避操作部43の操作信号を受信したときには、これを無視することで該異常回避操作部43を無効化する一方、NC操作盤30より操作信号を受信したときには、上述の「NC操作盤の操作に関連する制御系の機能説明」の項で説明した通り、受信した操作信号に応じて所定の処理を実行する。
【0097】
[主制御部におけるオーバーライド値の決定処理]
次に、主制御部101において優先操作モードの設定及び解除に伴って実行されるオーバーライド値の決定処理を説明する。
【0098】
主制御部101は、マガジン操作盤40の優先操作モードが設定されていない場合には、NC操作盤30の切削送りオーバーライドスイッチ33dの指定値を、現時点の切削送りオーバーライド値として決定し、NC操作盤30の回転数オーバーライドスイッチ33eの指定値を、現時点の回転数オーバーライド値として決定する。
【0099】
主制御部101は、マガジン操作盤40が優先操作モードに切り替わった後であっても、マガジン操作盤40の切削送りオーバーライドスイッチ43b又は回転数オーバーライドスイッチ43cが操作されない限り、前記NC操作盤30の操作に基づいて決定した各オーバーライド値(切削送りオーバーライド値及び回転数オーバーライド値)を維持する。
【0100】
主制御部101は、マガジン操作盤40が優先操作モードに切り替わった後において、マガジン操作盤40の切削送りオーバーライドスイッチ43b及び回転数オーバーライドスイッチ43cの一方又は両方が操作された場合には、その操作により変更されたオーバーライドスイッチ43b,43cの指定値によって、対応するオーバーライド値を変更(更新)する。
【0101】
優先操作モードにおいてマガジン操作盤40の各オーバーライドスイッチ43b,43cを介してオーバーライド値を変更(更新)した後、該優先操作モードが解除された場合には、主制御部101は、新たにNC操作盤30の各オーバーライドスイッチ33d,33eが操作されるまでは、現時点のオーバーライド値を維持する。そして、新たにNC操作盤30の各オーバーライドスイッチ33d,33eが操作された場合には、該各オーバーライドスイッチ33d,33eの指定値によって、対応するオーバーライド値を変更(更新)する。尚、NC操作盤30を介したオーバーライド値の変更は、前記優先操作モードが設定された状態でも行うことができる。
【0102】
実際の操作例について説明すると、NC操作盤30の回転数オーバーライドスイッチ33eが100%の位置にある状態で、前記優先操作モードを設定して、マガジン操作盤40の回転数オーバーライドスイッチ43cを40%の位置に変更すると、主制御部101により回転数オーバーライド値が40%と決定される。その後、NC操作盤30の回転数オーバーライドスイッチ33eを100%の位置から90%の位置に変更すると、主制御部101により回転数オーバーライド値が90%と決定される。ここでは、回転数オーバーライド値の決定手順の一例を説明したが、切削送りオーバーライド値についても同様の手順で決定される。
【0103】
そうして、主制御部101により決定された切削送りオーバーライド値及び回転数オーバーライド値は、前記送り制御部104及び主軸制御部105にそれぞれ送信されて、上述したようにNCプログラムにて規定された送り速度及び主軸回転数の補正に使用される。
【0104】
[作用効果]
以上のように構成された工作機械1において、オペレータが工具交換装置20の工具マガジン21にて段取り作業(工具Tの着脱作業)を行う際には、先ず、マガジン操作盤40の段取りモード設定ボタン42aを操作して、工具交換装置20を段取りモードに設定する。そして、オペレータは、マガジン操作盤40の工具呼出しキー42b及びマガジン駆動ボタン42cを操作して、作業対象の工具ポット22を工具着脱位置に呼び出す。そして、オペレータは、工具ポット22に取付けられた摩耗した工具T交換したり、加工ワークの機種変更に備えて工具ポット22に異なる工具Tを装着する等の作業を行う。
【0105】
ところで、工具Tの段取り作業は、工作機械1の稼働率を高めるために、NCプログラムに基づく工作機械1の自動運転中に行われることが多い。
【0106】
しかし、工作機械1の自動運転中に工具交換装置20にて段取り作業を行う場合、例えば一人のオペレータしかいないと、工作機械本体10側にて所定異常が発生した際に迅速に対処するこができず異常が拡大する虞がある。
【0107】
これに対して、本実施形態では、工具交換装置20の段取り作業時に手動操作されるマガジン操作盤40に異常回避操作部43を設けて、該異常回避操作部43を介して工作機械本体10に異常回避用動作を実行させることができるようにした。したがって、工具交換装置20の段取り作業中に、工作機械本体10にて所定異常が発生したとしても、オペレータがNC操作盤30の前まで移動することなく、マガジン操作盤40の異常回避操作部43を操作して所定異常を迅速に回避することができる。
【0108】
具体的には、オペレータは、工作機械1の自動運転中に工作機械本体10にて例えば異常振動(所定異常の一例)が発生した場合には、異常回避操作部43の一例である回転数オーバーライドスイッチ43cを操作して、主軸装置17による主軸14の回転数を増加又は減少させることで、主軸14の回転数を共振点からずらして異常振動を回避することができる。
【0109】
しかも、本実施形態では、回転数オーバーライドスイッチ43cにより指定可能なオーバーライド値の下限値は0より大きい値(本例では50%)であるため、回転数オーバーライドスイッチ43cの操作によって主軸14の回転が停止することはない。よって、主軸14の回転が停止して工具Tの切削力が失われた状態で工具Tとワークとが接触するのを回避することができる。延いては、工具Tがワークに食い込んでワークが破損するのを防止し、異常発生時のワークの再利用率を高めて材料コストを低減することができる。
【0110】
また、オペレータは、工作機械1の自動運転中に工作機械本体10にて工具T及びワーク間のびびり振動(所定異常の一例)が発生した場合には、異常回避操作部43の一例である切削送りオーバーライドスイッチ43bを操作して、送り装置16の送り速度を増加又は減少させて適切な速度に調整することでびびり振動を回避することができる。
【0111】
また、オペレータは、工作機械1の自動運転中に工作機械本体10にて所定異常(異常音、異常振動等)が発生した場合には、異常回避操作部43の一例であるフィードホールドボタン43aを押すことで、送り装置16による送り動作を停止して、工具Tがワークに接触するのを未然に防止したり、工具Tとワークとが接触した状態でワークの加工がそれ以上進行しないようにすることができる。これにより、所定異常の回避のための一連の動作(後述するワークと工具Tとの離間動作)を円滑に行うことができる。
【0112】
ここで、フィードホールドボタン43aを押すと送り装置16の駆動は停止するが、主軸装置17による主軸14の回転は停止しないので、送り駆動の停止時にワークが工具Tとの干渉により破損するのを防止し、延いては、ワークの再利用率を高めることができる。
【0113】
また、オペレータは、工作機械1の自動運転中に工作機械本体10にて所定異常が発生した場合には、マガジン操作盤40のジョグ送り操作部43dを操作することで、主軸14を回転させたまま、送り装置16にX軸、Y軸及びZ軸の任意の軸に沿って任意の送り量でジョグ送り動作を実行させることができる。これにより、ワーク及び工具Tの相対的な位置関係を変更して、ワーク及び工具Tを互いに離間させることができる。よって、ワークと工具Tとが接触したまま放置されてワークが破損するのを防止することができる。
【0114】
また、本実施形態のマガジン操作盤40は、異常回避操作部43の他に、優先操作モードを設定するための優先モードボタン44を有しており、制御装置100は、マガジン操作盤40にて優先操作モードが設定されているか否かを判定して、該優先操作モードが設定されていると判定した場合において、マガジン操作盤40からの異常回避操作部43の操作信号と、当該操作信号とは相容れないNC操作盤30からの操作信号とを同時に受信したときには、該NC操作盤30からの操作信号を無視するように構成されている。
【0115】
これによれば、マガジン操作盤40の異常回避操作部43とNC操作盤30とで相容れない操作が同時に実行されたとしても、マガジン操作盤40にて優先操作モードが設定されていれば、常にマガジン操作盤40の異常回避操作部43の操作が優先される。したがって、オペレータは、工具交換装置20にて段取り作業を行う際に、マガジン操作盤40にて優先操作モードを設定しておくことで、NC操作盤30からの操作に邪魔さることなく、マガジン操作盤40側からの操作によって工作機械本体10に異常回避用動作を迅速に実行させることができる。
【0116】
また、制御装置100は、マガジン操作盤40にて優先操作モードが設定されていると判定した場合には、その旨をNC操作盤30の表示部31に表示させるように構成されている。
【0117】
この構成によれば、例えば、マガジン操作盤40を操作しているオペレータとは別のオペレータが、NC操作盤30の機械運転操作部33を操作しようとした際に、その操作が効かなかったとしても、表示部31にマガジン操作盤40の優先操作モードが設定されている旨の表示がされていれば、この表示を目で確認することで、NC操作盤30の故障ではなくマガジン操作盤40の操作が優先された可能性を容易に推測することができる。
【0118】
《変形例》
図6は、前記実施形態の変形例を示す
図5相当図である。この変形例では、マガジン操作盤40の異常回避操作部43の構成が前記実施形態とは異なっている。尚、
図6において、
図5と同じ構成部分には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0119】
すなわち、本変形例では、異常回避操作部43は、フィードホールドボタン43a、切削送りオーバーライドスイッチ43b、回転数オーバーライドスイッチ43c、及びジョグ送り操作部43dに加えて、クーラント圧設定スイッチ43e及びクーラントオン/オフボタン43fを有している。このクーラント圧設定スイッチ43e及びクーラントオン/オフボタン43fは、クーラント装置18の作動状態を変更するための第5操作部として機能する。
【0120】
クーラント圧設定スイッチ43eの構成及び機能は、NC操作盤30に設けられたクーラント圧設定スイッチ33hと同様であるため詳細な説明を省略する。また、クーラントオン/オフボタン43fの構成及び機能は、NC操作盤30に設けられたクーラントオン/オフボタン33gと同様であるため説明を省略する。
【0121】
主制御部101は、クーラント圧設定スイッチ43e及びクーラントオン/オフボタン43fの操作信号に応じた駆動信号をクーラント制御部106に出力し、該クーラント制御部106を介してクーラント装置18のオン/オフ状態及びクーラント吐出圧(クーラント装置18の作動状態)を変更可能に構成されている。
【0122】
したがって、例えば、工作機械1の自動運転中に、工具T及びワークの発熱異常やクーラントの過剰供給等に起因して工作機械本体10の異常振動や異常音(所定異常の一例)が発生した場合には、オペレータは、クーラント圧設定スイッチ43e又はクーラントオン/オフボタン43fを操作してクーラントの供給状態を変更して所定異常を回避することができる。
【0123】
《他の実施形態》
前記実施形態及び変形例では、マガジン操作盤40にて優先操作モードが設定されている場合に、マガジン操作盤40の異常回避操作部43とNC操作盤30とで相容れない操作が同時に実行されたときには、NC操作盤30の操作を無視してマガジン操作盤40の異常回避操作部43の操作を優先するようにしているが、これに限ったものではない。例えば、優先操作モードを、マガジン操作盤40の異常回避操作部43の操作を有効化するためだけのモードと位置づけて、前記相容れない操作がなされた場合にマガジン操作盤40の異常回避操作部43とNC操作盤30とのいずれの操作を優先するかについては、予め定めた優先操作条件に基づいて判断するようにしてもよい。
【0124】
この優先操作条件の一例として、より安全側の操作信号を優先するという条件が考えられる。この場合、主制御部101において、回転数オーバーライド値を10%に下げる旨のNC操作盤30からの操作信号と、回転数オーバーライド値を0%に下げる旨のマガジン操作盤40からの操作信号とを同時に受信した際には、低い方のオーバーライド値である0%を安全側の操作信号として優先し、他方のオーバーライド値である10%については無視するようにすればよい。ここで、「安全側」の定義は、例えばROM内のシーケンスプログラムに予め記憶しておけばよく、例えばオーバーライド値が高いほど安全側であるという定義を行うことも可能である。尚、マガジン操作盤40における異常回避操作部43以外の操作について、NC操作盤30との間で相容れない操作が同時にされた場合には、上述のように優先操作条件に依らず、段取りモードが設定されていればマガジン操作盤40からの操作を優先し、段取りモードが解除されていればNC操作盤30からの操作を優先する等すればよい。
【0125】
また、前記実施形態及び変形例では、優先操作モードにおいてマガジン操作盤40側からオーバーライド値を変更した後、NC操作盤30にて各オーバーライドスイッチ33d,33eが操作されると、主制御部101において、該操作後の各オーバーライドスイッチ33d,33eの指定値を現時点のオーバーライド値として決定するようにしているが、これに限ったものではい。例えば、以下のようにNC操作盤30の各オーバーライドスイッチ33d,33eを有効化させるための所定操作を予め決めておいて、該所定操作がされない限り、NC操作盤30の各オーバーライドスイッチ33d,33eの操作がされてもオーバーライド値を変更しないようにしてもよい。この所定操作の一例として、NC操作盤30の各オーバーライドスイッチ33d,33eの指定値を一旦、マガジン操作盤40の各オーバーライドスイッチ33d,33eを介して決定されたオーバーライド値に一致させる操作が挙げられる。これによれば、NC操作盤30を操作するオペレータは、NC操作盤30の各オーバーライドスイッチ33d,33eの指定値を、現時点の各オーバーライド値に合わせた後でないと、該各オーバーライドスイッチ33d,33eを有効化することができない。すなわち、オペレータは、各オーバーライドスイッチ33d,33eの指示値と現時点の各オーバーライド値とのずれを頭で認識してそのずれを補正する操作を行った後でなければ、NC操作盤30の各オーバーライドスイッチ33d,33eを有効化することができない。よって、NC操作盤30の各オーバーライドスイッチ33d,33eの指示値と実際のオーバーライド値とが一致しない状態が生じた場合でも、オペレータは、この所定操作を行うことで感覚のずれを補正してその後の操作を混乱なく行うことができる。
【0126】
尚、実際の操作例について説明しておくと、例えば、NC操作盤30の回転数オーバーライドスイッチ33eが元々100%の位置に設定されている状態で、優先操作モードを設定して、マガジン操作盤40の回転数オーバーライドスイッチ43cを40%の位置に変更すると、主制御部101において現時点の回転数オーバーライド値が40%と決定される。その後、NC操作盤30側で回転数オーバーライド値を100%に変更する際には、一旦、NC操作盤30の回転数オーバーライドスイッチ43cを40%の位置まで回し、その後100%の位置に回すようにすればよい。
【0127】
前記実施形態及び変形例では、フィードホールド状態は、主軸14を回転させつつ送り動作を停止した状態としているが、これに限ったものではなく、主軸14の回転及び送り動作の双方が停止した状態としてもよい。また、フィードホールド状態において、クーラントの吐出を継続するか否かはいずれでもよい。
【0128】
前記実施形態及び変形例では、マガジン操作盤40の回転数オーバーライドスイッチ43cによるオーバーライド値の設定範囲の下限値が0%よりも大きい値(前記実施形態では50%)である例を説明したが、これに限ったものではなく下限値が0%であってもよい。
【0129】
前記実施形態及び変形例では、マガジン操作盤40の切削送りオーバーライドスイッチ43b及び回転数オーバーライドスイッチ43cを回転式の調整ダイヤルで構成した例を説明したが、これに限ったものではなく、例えば、現時点のオーバーライド値に対する増減量を示したボタンであってもよい。このボタンは、例えば「オーバーライド:-10%」、「オーバーライド:0%」といった表示がされたボタンを採用することができる。
【0130】
これらのボタンは、例えばマガジン操作盤40のタッチパネル41aに常に表示するようにしてもよいし、工作機械本体10に設置した振動センサによって異常振動(例えば振幅が所定以上又は周波数が所定範囲外の振動)が検出された場合にのみタッチパネル41aに表示するようにしてもよい。このボタンの表示制御は、例えば主制御部101からの指令を受けた表示制御部109によって行われる。尚、これらのボタンは、好ましくは、オーバーライド値を安全側に変更するボタンのみで構成されている。安全側に変更するボタンの一例として、オーバーライド値を下げる方向のボタンが挙げられる。マガジン操作盤40のタッチパネル41aにオーバーライド値を下げる方向のボタンのみを表示した場合には、マガジン操作盤40からオーバーライド値を上げる方向の操作を行うことはできない。オーバーライド値を上げる方向の操作や、サイクルスタート(サイクル起動)させる操作は、NC操作盤30からのみ行えるようにすることが好ましい。
【0131】
前記実施形態及び変形例では、マガジン操作盤40にて優先操作モードを設定可能になっているが、これに限ったものではなく、例えば優先モードボタン44を廃止して、該優先操作モードの機能を段取りモードに含めるようにしてもよい。この場合、段取りモードが設定されることで、工具交換装置20の手動操作が可能になるとともに、異常回避操作部43が有効化され、マガジン操作盤40の異常回避操作部43とNC操作盤30とで相容れない操作が同時に操作されたときにはマガジン操作盤40の操作が優先される。尚、NC操作盤30とマガジン操作盤40とのいずれの操作を優先するかについては、上述のように予め定めた優先操作条件に基づいて決定するようにしてもよい。
【0132】
前記実施形態及び変形例では、付設装置の一例として工具交換装置20を挙げて説明したが、これに限ったものではない。付設装置は、例えばワークが装着されるパレットの交換工程動作を実行するパレットチェンジャー等であってもよい。
【0133】
前記実施形態及び変形例では、加工補助装置の一例としてクーラント装置18を挙げて説明した、これに限ったものではない。加工補助装置は、例えば工具Tによるワークの加工中にその加工部位にエアーを供給するエアー供給装置であってもよい。この場合、エアー供給装置は、加工部位に作用するエアーにより切屑を吹き飛ばすことでワークの加工を補助する。また、加工補助装置は、セミドライ加工にて使用されるオイルミスト発生装置であってもよい。この場合、オイルミスト装置は、ワークの加工部位に作用するオイルミストにより工具Tの発熱を抑えてワークの加工を補助する。
【0134】
前記実施形態及び変形例では、工作機械1は、縦型のマシニングセンタにより構成されているが、これに限ったものではなく、例えば横型のマシニングセンタであってもよい。また、工作機械1は、マシニングセンタに限らず、回転駆動される主軸にワークを保持しながら当該ワークに工具Tを作用させて旋盤加工等を行うターニングセンタ等であってもよい。
【0135】
前記実施形態及び変形例では、制御装置100の一例として
図3に示すブロック図の構成を示したが、これに限ったものではない。制御装置100は、マガジン操作盤40の異常回避操作部43の操作によって、工作機械1の電源を遮断することなく、送り装置16、主軸装置17、及びクーラント装置18の少なくとも一つを作動させて異常回避用動作を実現できるものであれば如何なる構成であってもよい。
【0136】
前記実施形態及び変形例では、NC操作盤30が工作機械本体10の正面側に配置され、マガジン操作盤40が、工作機械本体10の正面側から見てその左側に配置されている例を示したが、これに限ったものではない。マガジン操作盤40は、例えば工作機械本体10の右側又は正面側に配置されていてもよい。
【0137】
前記実施形態及び変形例では、マガジン操作盤40に設けられる異常回避操作部43の一例として、
図5及び
図6に示すブロック図の構成を示したが、これに限ったものではなく、異常回避操作部43は、送り装置16、主軸装置17、及びクーラント装置18の少なくとも一つの作動状態を変更して異常回避用動作を実現できるものであれば、如何なる構成であってもよい。また、異常回避操作部43は、ハードキーに限らず、例えばタッチパネルに表示したソフトキーで構成されていてもよい。
【0138】
また、前記実施形態及び変形例において、マガジン操作盤40に異常回避操作部43とは別に非常停止ボタンをさらに設けるようにしてもよい。主制御部101は、非常停止ボタンの操作信号を受信した場合には、工作機械1の電源を遮断して主軸装置17による主軸14の回転を含む工作機械1の全ての動作を停止させる。非常停止ボタンは、例えば主軸装置17の故障等により主軸14の回転異常が生じた場合に有効である。
【0139】
前記実施形態及び変形例において、異常回避操作部43には送り装置16を手動操作するためのジョグ送り操作部43dを設けるようにしているが、例えば、手動パルスハンドル(手動パルス発生器)を設けるようにしてもよい。
【0140】
また、前記実施形態及び変形例において、異常回避操作部43の一例であるジョグ送り操作部43dによってワークと工具Tとの相対的な位置関係を任意に変更できるようにしているが、これに限ったものではない。例えば、主制御部101において、ジョグ送り操作部43dが最初に操作された時の操作信号が、ワークと工具Tとが近づく方向(工具Tがワークに食い込む方向)の操作信号であった場合には、当該信号を無視するとともに、マガジン操作盤40の表示部41にその旨の警告メッセージとして表示するようにしてもよい。これにより、回転する工具Tによってワークが意図せず切削されるのを防止し、延いてはワークの再利用率を高めることができる。
【符号の説明】
【0141】
T 工具
1 工作機械
10 工作機械本体
14 主軸
16 送り装置
17 主軸装置
18 クーラント装置(加工補助装置)
20 工具交換装置(付設装置)
30 NC操作盤(主操作盤)
31 表示部(主操作盤の表示部)
33 機械運転操作部
40 マガジン操作盤(副操作盤)
41 表示部(副操作盤の表示部)
43 異常回避操作部
43a フィードホールドボタン(第3操作部)
43b 切削送りオーバーライドスイッチ(第2操作部、第3操作部)
43c 回転数オーバーライドスイッチ(第1操作部)
43d ジョグ送り操作部(第4操作部)
43f クーラント圧設定スイッチ(第5操作部)
43g クーラントオン/オフボタン(第5操作部)
44 優先モードボタン(設定操作部)
100 制御装置