(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】酪酸菌用プレバイオティクス組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20241125BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20241125BHJP
A61K 31/702 20060101ALI20241125BHJP
A61K 35/741 20150101ALI20241125BHJP
A61K 31/715 20060101ALI20241125BHJP
A61K 31/734 20060101ALI20241125BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20241125BHJP
A61P 1/12 20060101ALI20241125BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20241125BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20241125BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241125BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20241125BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20241125BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/135
A61K31/702
A61K35/741
A61K31/715
A61K31/734
A61P1/00
A61P1/12
A61P1/14
A61P1/04
A61P35/00
C12N1/20 E ZNA
C12N1/20 A
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2022568285
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2021044875
(87)【国際公開番号】W WO2022124295
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2020202884
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021089998
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 隆太
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第10272100(US,B2)
【文献】特開2005-145885(JP,A)
【文献】国際公開第20/138511(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159647(WO,A1)
【文献】LI, S. et al.,Unsaturated alginate oligosaccharides attenuated obesity-related metabolic abnormalities by modulating gut microbiota in hith-fat-diet mice,Food & Function,2020年05月07日,Vol.11,pp.4773-4784,DOI: 10.1039/ c9fo02857a
【文献】WAN, J. et al.,Alginic acid oligosaccharide accelerates weaned pig growth through regulating antioxidant capacity, immunity and intestinal development,RSC Advances,2016年,Vol.6,pp.87026-87035,DOI: 10.1039/c6ra18135j
【文献】WAN, J. et al.,Alginate oligosaccharide enhances intestinal integrity of weaned pigs through altering intestinal inflammatory responses and antioxidant status,RSC Advances,2018年,Vol.8,pp.13482-13492,DOI: 10.1039/c8ra01943f
【文献】尾島孝男,II-2.酵素作用を利用した健康機能成分の作出,Nippon Suisan Gakkaishi,2012年,Vol.78, No.5,p.1009
【文献】HAN, Zhen-Lian et al.,Evaluation of Prebiotic Potential of Three Marine Algae Oligosaccharides from Enzymatic Hydrolysis,marine drugs,2019年,Vol.17, No.173,pp.1-17,DOI:10.3390/md17030173
【文献】長島浩二,ブタ腸管由来細菌16SリボソームDNA配列のコンピュータ・シミュレーションによる末端制限酵素断片長多型(T-RFLP)解析およびブタと人の解析結果の比較,北海道立総合研究機構 食品加工研究センター 研究報告,No.9,2011年,pp.35-44
【文献】三石安,213 キシログルカンオリゴ9糖の大量調製法,平成9年度日本生物工学会大会講演要旨集,1997年,p.51
【文献】柏木豊,4.糖質,食品微生物バイオテクノロジー,農林統計協会,Vol.19,pp.314-327
【文献】CHAROENSIDDHI, S. et al.,Gut health benefits of brown seaweed Ecklonia radiata and its polysaccharides demonstrated in vivo in rat model,Journal of Functional Foods,2017年,Vol.37,pp.676-684,DOI:10.1016/j.jrr.2017.08.040
【文献】LI, M. et al.,In vitro fermentation of alginate and its derivatives by human gut microbiota,Anaerobe,2016年,Vol.39,pp.19-25,DOI:10.1016/j.anaerobe.2016.02.003
【文献】松浦 康,ヒト大便由来の Clostridium bytyricum-Clostridium beijerinckii group ならびに嫌気性腸内細菌によるペクチン酸の資化,Nippon Nogeikagaku Kaishi,1995年,Vol.69, No.1,pp.17-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-D-マンヌロン酸及び/又はα-L-グルロン酸から構成されるオリゴ糖又はその塩を含有
し、
前記オリゴ糖は、非還元末端にβ-D-マンヌロン酸残基又はα-L-グルロン酸残基の不飽和体を有
し、かつ重合度2~3のオリゴ糖を含む、酪酸菌増殖促進用組成物。
【請求項2】
前記不飽和体は4位と5位の炭素間に二重結合を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記酪酸菌がフィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属細菌である、請求項1
又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記フィーカリバクテリウム属細菌がフィーカリバクテリウム・プラスニッチ(Faecalibacterium prausnitzii)である、請求項
3に記載の組成物。
【請求項5】
大腸がんの予防のために用いられる、請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
飲食品である、請求項1~
5の何れか一項に記載の組成物。
【請求項7】
医薬品である、請求項1~
5の何れか一項に記載の組成物。
【請求項8】
アルギン酸及び/若しくはその塩又はそれらの加水分解物にアルギン酸リアーゼを作用させてアルギン酸分解物を取得する工程
、及び重合度が2~3のオリゴ糖及び/又はその塩を回収する工程を含む、酪酸菌
増殖促進用組成物を製造する方法。
【請求項9】
前記アルギン酸リアーゼが、エンド型アルギン酸リアーゼ及び/又はエキソ型アルギン酸リアーゼである、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
アルギン酸及び/又はその塩を加水分解してアルギン酸加水分解物を取得する工程、及び前記アルギン酸加水分解物にアルギン酸リアーゼを作用させてアルギン酸分解物を取得
する工程を含む、請求項
8又は
9に記載の方法。
【請求項11】
前記酪酸菌がフィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属細菌である、請求項
8~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記フィーカリバクテリウム属細菌がフィーカリバクテリウム・プラスニッチ(Faecalibacterium prausnitzii)である、請求項
11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酪酸菌用プレバイオティクス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、腸内細菌と健康との関連性に注目が集まり、世界中で研究が行われている。腸内環境改善に関連する用語として知られる「プロバイオティクス」は、一般に腸内フローラのバランスを改善することにより人に有益な作用をもたらす生きた微生物を指し、ビフィズス菌等が一般的に知られている。また、かかるプロバイオティクスが資化するものとして「プレバイオティクス」がある。プレバイオティクスは、消化管上部で分解・吸収されず、大腸に共生する有益な細菌の選択的な栄養源となりそれらの増殖を促進し、大腸の腸内フローラ構成を健康的なバランスに改善し維持し、ヒトの健康の増進維持に役立つものを一般に意味する。
【0003】
大腸に共生する有益な細菌のひとつとして、酪酸菌がある。酪酸は、腸内に存在する短鎖脂肪酸のひとつであり、大腸細胞にエネルギーを提供する主要な栄養素としてだけでなく、宿主の遺伝子発現、細胞分化、腸組織発生、免疫調節、酸化ストレス低下、及び下痢コントロールなど、腸内のみならず種々の機能を調節する細胞メディエーターである(非特許文献1)。
健康のために酪酸を体内に取り込むことは有用であるが、酪酸は非常に強い不快臭を放つため、食品や医薬品等の形態で摂取することは現実的ではない。また、腸内に生息する主な酪酸菌は、酸素感受性が極端に高いためにin vitroでの培養が非常に困難であり、酪酸菌を製剤化して摂取することも難しい(非特許文献2)。
【0004】
そのため、酪酸菌を摂取することに替えて、腸内に生息する酪酸菌を増殖させることが提案されている。例えば、特許文献1には、アルギン酸及び/又はその塩が腸内でフィーカリバクテリウム・プラスニッチ(Faecalibacterium prausnitzii)等の酪酸菌を増殖させることができ、プレバイオティクスの有効成分となり得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2020/138511号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cell. 2016 Jun 2;165(6):1332-1345
【文献】Best. Pract. Res. Clin. Gastroenterol. 2017 Dec;31(6):643-648.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは酪酸菌用プレバイオティクス素材としてのアルギン酸及び/又はその塩について検討を進めたところ、腸内ではない環境、すなわち酪酸菌以外の菌の非存在下では、フィーカリバクテリウム・プラスニッチは一定以上の重合度のアルギン酸及び/又はその塩を資化できず増殖しないという知見を得た。
かかる状況に鑑み、本発明は、フィーカリバクテリウム・プラスニッチ等の酪酸菌をより効率的に増殖させるプレバイオティクスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、アルギン酸及び/若しくはその塩又はそれらの加水分解物にアルギン酸リアーゼを作用させて取得したアルギン酸分解物が、フィーカリバクテリウム・プラスニッチを含む酪酸菌を著しく増殖させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第一の態様は、β-D-マンヌロン酸及び/又はα-L-グルロン酸から構成されるオリゴ糖又はその塩を含有する、酪酸菌用プレバイオティクス組成物であって、前記オリゴ糖は、非還元末端にβ-D-マンヌロン酸残基又はα-L-グルロン酸残基の不飽和体を有する、組成物である。
本態様において好ましくは、前記不飽和体は4位と5位の炭素間に二重結合を有する。
本態様において好ましくは、前記オリゴ糖が重合度2~10のオリゴ糖を含む。
本態様において、前記酪酸菌はフィーカリバクテリウム属細菌であることが好ましく、フィーカリバクテリウム・プラスニッチであることがより好ましい。
また、本態様の別の側面として、β-D-マンヌロン酸及び/又はα-L-グルロン酸から構成されるオリゴ糖又はその塩を含有する組成物であって、前記オリゴ糖は、非還元末端にβ-D-マンヌロン酸残基又はα-L-グルロン酸残基の不飽和体を有し、体内の酪酸が増加することにより予防もしくは改善しうる疾患もしくは病態の対象者、又は体内の酪酸が減少することに起因する疾患もしくは病態の対象者に対して投与又は接種される、組成物も提供される。
本態様の組成物は、整腸、免疫調節、酸化ストレス低減、下痢の予防もしくは改善、炎症性腸疾患の予防もしくは改善、又は大腸がんの予防のために好ましく用いられる。
本態様の組成物は、好ましくは飲食品である。
本態様の組成物は、好ましくは医薬品である。
【0010】
また、本発明の第二の態様は、アルギン酸及び/若しくはその塩又はそれらの加水分解物にアルギン酸リアーゼを作用させてアルギン酸分解物を取得する工程を含む、酪酸菌用プレバイオティクス組成物を製造する方法である。
本態様の方法は、好ましくはアルギン酸及び/又はその塩を加水分解してアルギン酸加水分解物を取得する工程、及び前記アルギン酸加水分解物にアルギン酸リアーゼを作用させてアルギン酸分解物を取得する工程を含む。
本態様の方法は、好ましくはさらに重合度が2~3のオリゴ糖及び/又はその塩を回収する工程を含む。
本態様において好ましくは、前記アルギン酸リアーゼはエンド型アルギン酸リアーゼ及び/又はエキソ型アルギン酸リアーゼである。
本態様において、前記酪酸菌はフィーカリバクテリウム属細菌であることが好ましく、フィーカリバクテリウム・プラスニッチであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フィーカリバクテリウム・プラスニッチをより効率的に増殖させることができるプレバイオティクスが提供される。フィーカリバクテリウム・プラスニッチが産生する酪酸は、細胞メディエーターとして機能し健康を維持向上させるため、本発明は産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】試験例1において、各試料を添加した培地でフィーカリバクテリウム・プラスニッチを単独培養したときの、培養24時間後の培養液の濁度を示すグラフ(n=3)。
【
図2】試験例2において、各試料を添加した培養液でフィーカリバクテリウム・プラスニッチを単独培養したときの、培養24時間後の培地の濁度を示すグラフ(n=3)。
【
図3】試験例2において、培養前及び培養24時間後の培養液を展開したTLCプレートの写真。
【
図4】試験例3において、各試料を添加した培養液でフィーカリバクテリウム・プラスニッチを単独培養したときの、培養24時間後の培養液の濁度を示すグラフ(n=3)。
【
図5】試験例3において、培養前及び培養24時間後の培養液を展開したTLCプレートの写真。
【
図6】試験例4において、アルギン酸ナトリウムを加水分解処理及び/又はリアーゼ分解処理をした後の試料を展開したTLCプレートの写真。
【
図7】試験例5において、各試料を添加した培養液でフィーカリバクテリウム・プラスニッチを単独培養したときの、培養24時間後の培養液の濁度を示すグラフ(n=3)。
【
図8】試験例6において、アルギン酸ナトリウムを加水分解処理した後にリアーゼ分解処理をした後の試料を展開したTLCプレートの写真。
【
図9】試験例7において、アルギン酸カリウムのリアーゼ処理物のNF膜透過前後の試料に含まれるオリゴ糖量を重合度別に示すグラフ。前記試料のHPLCチャートにおける各ピーク面積を対応する重合度のオリゴ糖量とした。
【
図10】試験例7において、アルギン酸カリウムのリアーゼ処理物のNF膜透過前後の試料を展開したTLCプレートの写真。
【
図11】試験例8において、アルギン酸カリウムのリアーゼ処理物をNF膜処理した透過物を用いて中和培養したときの、フィーカリバクテリウム・プラスニッチの腸内細菌全体に占める割合の経時変化を示すグラフ(n=4)。
【
図12】試験例9において、アルギン酸カリウムのリアーゼ処理物をNF膜処理した透過物を添加した培養液でフィーカリバクテリウム・プラスニッチを単独培養したときの、培養24時間後の培養液の濁度を示すグラフ(n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
本明細書において、「~」で示される数値範囲は、特に断りのない限り、「~」の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
【0014】
本発明の組成物は、β-D-マンヌロン酸及び/又はα-L-グルロン酸から構成されるオリゴ糖又はその塩を含有する。かかるオリゴ糖は、通常は、ピラノース環がβ1→4でグリコシド結合した直鎖であるが、特に限定されない。オリゴ糖の構成糖は、全てがβ-D-マンヌロン酸であってもよく、全てがα-L-グルロン酸であってもよく、β-D-マンヌロン酸とα-L-グルロン酸とが任意の並び順及び構成比であってもよい。
本発明の組成物は、本発明にかかるオリゴ糖又はその塩以外のオリゴ糖を含んでいてもよい。
【0015】
本発明に係るオリゴ糖は、非還元末端にβ-D-マンヌロン酸残基又はα-L-グルロン酸残基の不飽和体を有する。係る不飽和体は、通常は、非還元末端糖の4位と5位の炭素間に二重結合を有するものである。
後述の実施例に示されるように、アルギン酸の加水分解物であってリアーゼ処理をしていないもの、すなわち不飽和末端を持たないβ-D-マンヌロン酸及び/又はα-L-グルロン酸から構成されるオリゴ糖に比べて、本発明に係るオリゴ糖は酪酸菌により資化されやすいことから、オリゴ糖がその非還元末端に不飽和体を有することが、酪酸菌の資化性を向上させると推測される。
【0016】
本発明に係るオリゴ糖の重合度は、好ましくは2~10であり、より好ましくは2~6であり、さらに好ましくは2~5であり、特に好ましくは2~3である。なお、本発明の組成物におけるオリゴ糖は重合度2~10のものを含むことが好ましいが、重合度11以上のものも含まれることは妨げられない。
後述の実施例に示されるように、重合度が小さいオリゴ糖、特に重合度が2~3のオリゴ糖は酪酸菌に資化されやすい。そのため、本発明の組成物に含まれるオリゴ糖又はその塩全体に対して、重合度が2~3のオリゴ糖及び/又はその塩が30質量%以上含まれることが好ましく、50質量%以上含まれることがより好ましく、90質量%以上含まれることがさらに好ましい。
【0017】
オリゴ糖の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。本発明においては特に限定されないが、ナトリウム塩及びカリウム塩が水溶性の観点から好ましい。
【0018】
本発明に係るオリゴ糖は、市販のものを用いることができる。例えば、「アルギン酸オリゴ糖(AOS)」として、北海道三井化学株式会社、Shandong社、Runxin社等から販売されている。
【0019】
また、本発明に係るオリゴ糖はアルギン酸及び/若しくはその塩又はそれらの加水分解物をリアーゼにより酵素分解することにより取得することもできる。
すなわち、本明細書はアルギン酸及び/若しくはその塩又はそれらの加水分解物にアルギン酸リアーゼを作用させてアルギン酸分解物を取得する工程を含む、酪酸菌用プレバイオティクス組成物を製造する方法を開示する。
【0020】
アルギン酸は、コンブやワカメ等の海藻に含まれる多糖類であり、増粘安定剤として食品への適用を含め広く利用されている。アルギン酸はβ-D-マンヌロン酸とα-L-グルロン酸とがβ1→4結合してなる直鎖構造を有する。アルギン酸の重合度は由来によりさまざまであるが、通常は分子量が約4万~数百万である。
アルギン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。本発明においては特に限定されないが、ナトリウム塩及びカリウム塩が水溶性の観点から好ましい。
本発明の製造方法に用いるアルギン酸及び/又はその塩としては、海藻等から抽出して取得することができる他、市販のものとして、例えば「I-S(分子量約300万~400万)」「I-5(分子量約280万)、「ULV-L3(分子量4万~6万)」、「IL-6(分子量約4万~6万)」(いずれも株式会社キミカ製)等を入手して用いることができる。
【0021】
前述のように、重合度が小さいオリゴ糖の方が酪酸菌に資化されやすいため、アルギン酸及び/又はその塩を原料として本発明に係るオリゴ糖を製造する場合は、重合度の小さいものを取得するために、アルギン酸及び/又はその塩に対するリアーゼによる分解処理の前に加水分解処理を行うことが好ましい。
好ましい態様としては、アルギン酸及び/又はその塩の加水分解物にアルギン酸リアーゼを作用させてアルギン酸分解物を取得する工程により、本発明に係るオリゴ糖を製造する。また、好ましい態様としては、アルギン酸及び/又はその塩を加水分解してアルギン酸加水分解物を取得する工程、及び前記アルギン酸加水分解物にアルギン酸リアーゼを作用させてアルギン酸分解物を取得する工程を行うことにより、本発明に係るオリゴ糖を製造する。
アルギン酸リアーゼの酵素反応の至適温度は40度付近であるため、酵素反応を行っている間に食品に好ましくない微生物が増殖し易い。アルギン酸及び/又はその塩の加水分解物にアルギン酸リアーゼを作用させてアルギン酸分解物を取得する工程を含む態様、又は、アルギン酸及び/又はその塩を加水分解してアルギン酸加水分解物を取得する工程、及び前記アルギン酸加水分解物にアルギン酸リアーゼを作用させてアルギン酸分解物を取得する工程を含む態様とすることで、アルギン酸リアーゼを作用させる時間を短縮することが可能であり、微生物の増殖を抑制することが可能である。
【0022】
なお、加水分解処理はリアーゼによる分解処理の後に行うことも妨げられないが、リアーゼによる分解処理の前に行う方が好ましい。
これは、得られるオリゴ糖全体のうち、本発明に係るオリゴ糖、すなわち非還元末端にβ-D-マンヌロン酸残基又はα-L-グルロン酸残基の不飽和体を有するオリゴ糖の割合を高める観点からである。後述の実施例で示される通り、アルギン酸ナトリウムに対して先に加水分解処理をした後にリアーゼによる分解処理を行って得たオリゴ糖は、フィーカリバクテリウム・プラスニッチにより資化されやすく、その増殖を促進させることができる。
【0023】
アルギン酸リアーゼ処理に供するアルギン酸及び/又はその塩の加水分解物は、重合度が好ましくは20以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下、特に好ましくは5以下のオリゴ糖であってもよい。あるいは、以下の条件で行うHPLC法で測定したときの重量平均分子量が好ましくは10000以下、より好ましくは8000以下、さらに好ましくは7000以下、特に好ましくは5000以下であってよい。
測定機器: Ultimate3000(Thermo社製)
検出:Refracto Max 521検出器(Thermo社製)、
カラム:TSKgel G3000PW(東ソー社製)
移動相:0.1M硝酸ナトリウム水溶液
流速:0.3mL/min
カラム温度:40℃
スタンダード:STANDARD P-82(Shodex社製)
なお、上記条件で行うHPLCで測定される分子量は、現実の重合度から算出される「真の」分子量とはずれが生じうる「みかけの」値である。重合度4~5のアルギン酸オリゴ糖は、上記条件で測定した場合に通常は分子量約3500とされる。
【0024】
アルギン酸及び/又はその塩を加水分解する方法としては、酸加水分解法が好ましく挙げられるが、特に限定されない。
酸加水分解は、具体的には、アルギン酸及び/又はその塩の水溶液のpHを3~5程度にして、例えば100℃以上の高温に数時間加熱することにより行われ、pHの調整には酢酸等の弱酸の添加により行われるが、これに限られない。例えば、分子量4万~6万の市販のアルギン酸ナトリウムを3質量%含有する0.3v/v%酢酸水溶液を、104℃、7.5時間のオートクレーブ処理することにより酸加水分解すると、重量平均分子量約6000の加水分解物を取得できる。
【0025】
前述の通り、本発明に係るオリゴ糖を製造する方法は、アルギン酸及び/若しくはその塩又はそれらの加水分解物にアルギン酸リアーゼを作用させてアルギン酸分解物を取得する工程を含む。
アルギン酸リアーゼは、アルギン酸のβ1→4グリコシド結合を解裂させて、分解物の非還元末端のβ-D-マンヌロン酸残基又はα-L-グルロン酸残基の4位と5位の炭素間に二重結合を生成させる。したがって、本発明の製造方法におけるアルギン酸分解物(アルギン酸リアーゼ処理物ともいう)が、本発明の組成物に係るオリゴ糖となり得る。
本発明の製造方法により製造されるオリゴ糖あるいはアルギン酸分解物における、β-D-マンヌロン酸残基及びα-L-グルロン酸の構成比は、原料とするアルギン酸の由来に拠る。
【0026】
本発明の製造方法におけるアルギン酸リアーゼは、エンド型アルギン酸リアーゼ、エキソ型アルギン酸リアーゼ、及びこれらの混合物のいずれを用いてもよい。
かかる酵素としては、市販のものを入手でき、例えば「アルギン酸リアーゼS」(ナガセケムテックス社製)、「HULKアルギン酸分解酵素」(ニッポン・ジーン社製)等が挙げられ、これらから1種又は2種以上の酵素を選択して用いてもよい。
【0027】
アルギン酸及び/若しくはその塩又はそれらの加水分解物に対するアルギン酸リアーゼの使用量は、特に限定されず、基質濃度、酵素力価、反応温度及び反応時間等により適宜調整すればよいが、一般的には、アルギン酸及び/若しくはその塩又はそれらの加水分解物1g当り20~100活性単位の割合で添加することが好ましい。
【0028】
酵素反応系のpHは、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の食品上使用可能な塩類を用いて、使用酵素の至適pHに調整してもよい。例えば、反応溶液のpHは、好ましくは5~8、より好ましくは6~7に調整する。
【0029】
アルギン酸リアーゼの反応温度は、使用酵素の最適温度の範囲で行うことが好ましく、好ましくは30~50℃、より好ましくは40~45℃で行う。
アルギン酸リアーゼの反応時間は、適宜調整すればよく、例えば0.5~24時間で行うことが可能であり、好ましくは0.5~12時間、より好ましくは0.5~6時間である。
アルギン酸リアーゼによる分解反応は、当該酵素を加熱して失活させて終了させればよい。例えば、100℃以上(好適には110~130℃)で失活させる場合には1~3秒間、60℃以上100℃未満で失活させる場合には3~40分間で行うことが好適である。
酵素分解終了後、必要に応じてアルギン酸分解物溶液のpHを、好ましくは6~8程度に調整してもよい。
【0030】
本発明の製造方法において、アルギン酸リアーゼ反応により得られるアルギン酸分解物は重合度2~10のオリゴ糖を分解物全体の、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含む。このような範囲になるように、アルギン酸リアーゼによる分解反応を進行させることが好ましく、またそのために反応条件を適宜調整することが好ましい。
【0031】
酵素反応後のアルギン酸分解物は、未精製のままの状態で使用してもよいが、さらに、適宜公知の分離精製を行ってもよい。例えば、得られたアルギン酸分解物に対して膜分離、分子量分画、エタノール沈殿等を行い、適当な重合度又は分子量のオリゴ糖の分画を得ることができる。
本発明の製造方法の好ましい態様は、重合度が2~3のオリゴ糖及び/又はその塩を回収する工程をさらに含む。本発明の製造方法において、この回収工程を行う順番は特に限定されないが、通常はアルギン酸リアーゼによる分解工程の後に行われる。
なお、この回収工程により重合度が2~3のオリゴ糖及び/又はその塩のオリゴ糖全体に対する割合が、回収工程前に比べて高まればよく、回収工程後のオリゴ糖に重合度が4以上のオリゴ糖が含まれることは妨げられない。
回収工程に用い得る膜分離としては、NF(ナノろ過)膜、RO(逆浸透)膜等を透過させる方法が採用でき、かかる膜の透過物として重合度が2~3のオリゴ糖及び/又はその塩を回収することができる。なお、膜分離処理の条件(圧力、流速等)は、所望の回収が可能である限り特に限定されず、適宜調整して行えばよい。
回収工程に用い得る分子量分画としては、例えば、HPLC等の方法が採用でき、これにより不要な分子量のオリゴ糖や未分解のアルギン酸を除くことができる。
さらに、脱塩や不純物を除去したり、純度を高めたりするために、公知の分離精製方法(例えば、イオン交換樹脂等)を用いてもよい。
【0032】
本発明の組成物における前述のオリゴ糖及び/又はその塩の量は、組成物の態様により適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、好ましくは組成物全体の0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上とするのがよい。含有量の上限は特に制限されないが、例えば組成物全体の100質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下であってよい。なお、これらの数値は、オリゴ糖の塩の場合は、オリゴ糖に換算した値である。また、これらの含有量は、本発明の組成物の製造時の値、流通時の値、又は摂取(投与)時の値のいずれかであってよい。
【0033】
本発明の組成物は、酪酸菌用プレバイオティクスとして用いられる。すなわち、酪酸菌により資化されその増殖を促進させることができる。ここで促進とは、本発明に係るオリゴ糖を非摂取のときに比べて酪酸菌の量又は増殖速度が増大することをいう。
【0034】
なお、酪酸菌とは、酪酸を産生する細菌の総称である。本発明における酪酸菌は、特に限定されないが、例えばフィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属が挙げられ、より具体的にはヒト腸内に存在する、フィーカリバクテリウム・プラスニッチ(Faecalibacterium prausnitzii)等が挙げられる。
【0035】
本発明の組成物は、体内の酪酸が増加することにより予防又は改善しうる疾患や病態、あるいは体内の酪酸が減少することに起因する疾患や病態の対象者に対して、有用となり得る。例えば、整腸用、免疫調節用、酸化ストレス低減用、又は下痢の予防・改善用、炎症性腸疾患用、大腸がんの予防用等とすることができる。
【0036】
本発明の別の態様は、酪酸菌用プレバイオティクス組成物の製造における、β-D-マンヌロン酸及び/又はα-L-グルロン酸から構成され、非還元末端にβ-D-マンヌロン酸残基又はα-L-グルロン酸残基の不飽和体を有するオリゴ糖又はその塩の使用である。
本発明の別の態様は、酪酸菌の増殖促進における、β-D-マンヌロン酸及び/又はα-L-グルロン酸から構成され、非還元末端にβ-D-マンヌロン酸残基又はα-L-グルロン酸残基の不飽和体を有するオリゴ糖又はその塩の使用である。
本発明の別の態様は、酪酸菌の増殖を促進させるために用いられる、β-D-マンヌロン酸及び/又はα-L-グルロン酸から構成され、非還元末端にβ-D-マンヌロン酸残基又はα-L-グルロン酸残基の不飽和体を有するオリゴ糖又はその塩である。
β-D-マンヌロン酸及び/又はα-L-グルロン酸から構成され、非還元末端にβ-D-マンヌロン酸残基又はα-L-グルロン酸残基の不飽和体を有するオリゴ糖又はその塩を動物に投与することを含む、酪酸菌の増殖を促進させる方法である。ここで、動物は、特に限定されないが、通常はヒトである。
【0037】
本発明の組成物の摂取(投与)時期は、特に限定されず、投与対象の状態に応じて適宜選択することが可能である。
【0038】
本発明の組成物の摂取(投与)量は、摂取(投与)対象の年齢、性別、状態、その他の条件等により適宜選択される。本発明に係るオリゴ糖の量として、好ましくは1~300mg/kg/日、より好ましくは、20~50mg/kg/日の範囲となる量を目安とするのがよい。
なお、摂取(投与)の量や期間にかかわらず、組成物は1日1回又は複数回に分けて投与することができる。
【0039】
本発明の組成物の摂取(投与)経路は、経口又は非経口のいずれでもよいが、通常は経口である。また、非経口摂取(投与)としては、直腸投与等が挙げられる。
【0040】
本発明の組成物は、本発明に係るオリゴ糖とともに酪酸菌を含有する態様でもよい。また、本発明の組成物は、酪酸菌又は酪酸菌を含有する製剤と併用して摂取されてもよい。かかる態様により、腸内における酪酸菌増殖促進効果、及びそれによる酪酸増加効果がより期待できる。
なお、これらの態様の場合、酪酸菌は生菌であることが好ましい。
【0041】
本発明の組成物を経口摂取される組成物とする場合は、飲食品の態様とすることが好ましい。
【0042】
飲食品としては、本発明の効果を損なわず、経口摂取できるものであれば形態や性状は特に制限されず、本発明に係るオリゴ糖又はその塩を含有させること以外は、通常飲食品に用いられる原料を用いて通常の方法によって製造することができる。
前述のように通常、本発明の製造方法により得られたオリゴ糖及び/又はその塩を飲食品原料に添加する工程を含む方法により、酪酸菌用プレバイオティクス飲食品を製造することもできる。
【0043】
飲食品としては、液状、ペースト状、ゲル状固体、粉末等の形態を問わず、例えば、錠菓;流動食(経管摂取用栄養食);パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等の小麦粉製品;即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品、その他の即席食品等の即席食品類;農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等の農産加工品;水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等の水産加工品;畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等の畜産加工品;加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、クリーム、その他の乳製品等の乳・乳製品;バター、マーガリン類、植物油等の油脂類;しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等の基礎調味料;調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等の複合調味料・食品類;素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等の冷凍食品;キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、ゼリー、その他の菓子などの菓子類;炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等の嗜好飲料類、ベビーフード、ふりかけ、お茶漬のり等のその他の市販食品等;育児用等の調製乳(粉乳、液状乳等を含む);経腸栄養食;機能性食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、栄養補助食品等が挙げられる。
【0044】
また、飲食品の一態様として飼料とすることもできる。飼料としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。
飼料の形態としては特に制限されず、本発明に係るオリゴ糖又はその塩の他に例えば、アルギン酸又はその塩、本発明に係るオリゴ糖以外のオリゴ糖、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、マイロ等の穀類;大豆油粕、ナタネ油粕、ヤシ油粕、アマニ油粕等の植物性油粕類;フスマ、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;魚粉、脱脂粉乳、ホエイ、イエローグリース、タロー等の動物性飼料類;トルラ酵母、ビール酵母等の酵母類;第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;単体アミノ酸;糖類等を含有するものであってよい。
【0045】
本発明の組成物が飲食品(飼料を含む)の態様である場合、酪酸菌用プレバイオティクスであることや腸内の酪酸菌の増殖を促進させるという用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。
【0046】
かかる「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本発明の「表示」行為に該当する。
また、「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0047】
一方、表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0048】
また、「表示」には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、栄養補助食品、医薬用部外品等としての表示も挙げられる。この中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、若しくは機能性表示食品に係る制度、又はこれらに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示等を挙げることができ、より具体的には、健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令(平成二十一年八月三十一日内閣府令第五十七号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が典型的な例である。
かかる表示としては、例えば、「おなかの中の酪酸菌を増やしたい方」、「フィーカリバクテリウム属細菌を増やしたい方」、「酪酸で整腸作用」、「酪酸菌を増やして免疫力アップ」等と表示することが挙げられる。
【0049】
本発明の組成物は、医薬品の態様とすることもできる。
医薬品の投与経路は、経口又は非経口のいずれでもよいが経口が好ましい。また、非経口摂取(投与)としては、直腸投与等が挙げられる。
医薬品の形態としては、投与方法に応じて、適宜所望の剤形に製剤化することができる。例えば、経口投与の場合、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。また、非経口投与の場合、座剤、軟膏剤、注射剤等に製剤化することができる。
製剤化に際しては、本発明に係るオリゴ糖又はその塩の他に、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。また、他の薬効成分や、公知の又は将来的に見出されるプレバイオティクスなどを併用することも可能である。
加えて、製剤化は剤形に応じて適宜公知の方法により実施できる。製剤化に際しては、適宜、製剤担体を配合して製剤化してもよい。
【0050】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
【0051】
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等が挙げられる。
【0052】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
【0053】
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ビーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
【0054】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
【0055】
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
なお、経口投与用の液剤の場合に使用する担体としては、水等の溶剤等が挙げられる。
【0056】
本発明の医薬品を摂取するタイミングは、例えば食前、食後、食間、就寝前など特に限定されない。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
試験例2以降では、特に断りのない場合は、試験例1で用いた原料、試薬と同じものを用いた。
【0058】
<試験例1>フィーカリバクテリウム・プラスニッチ単独培養1
(1)培地の調製
99.7mLのMilliQ水に0.3mLの酢酸(国産化学株式会社)を添加して、104℃、7.5時間のオートクレーブ処理にかけた。その後、得られた滅菌水をスピードバックに供して酢酸及び水分を完全に除去し、そこに40mLのMilliQ水を加え、再度スピードバックに供して水分を完全に除去した。再度MilliQ水を64.7mL添加して、培地調製用水溶液を得た。
上記調製した培地調製用水溶液全量に、市販のアルギン酸リアーゼ処理物1(「アルギン酸オリゴ糖」(北海道三井化学株式会社製))を1g添加し、さらに糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、アルギン酸リアーゼ処理物1含有培地を取得した。
上記調製した培地調製用水溶液全量に、市販のアルギン酸ナトリウム素材(「ULV-L3(分子量4万~6万)」(株式会社キミカ製))を1g添加し、さらに糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、アルギン酸ナトリウム含有培地を取得した。
市販のアルギン酸ナトリウム素材(「ULV-L3(分子量4万~6万)」(株式会社キミカ製))1gを99.7mLのMilliQ水で溶解し、0.3mLの酢酸を添加して、104℃、7.5時間のオートクレーブ処理にかけた。その後、スピードバックに供して酢酸及び水分を完全に除去し、そこに40mLのMilliQ水を加え、再度スピードバックに供して水分を完全に除去した。再度MilliQ水を64.7mL添加してアルギン酸加水分解物の水溶液を取得した。ここに、糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、アルギン酸加水分解物含有培地を取得した。
上記調製した培地調製用水溶液全量に、グルコース0.2g、マルトース0.2g、及びセロビオース0.2g(いずれもナカライテスク株式会社製)を添加し、さらに糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、陽性対照培地を取得した。
上記調製した培地調製用水溶液全量に、糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、陰性対照培地を取得した。
【0059】
(2)単独培養
(1)で調製した各YCFA培地に無菌的にフィルター滅菌処理したビタミン液とシステイン液を添加し、被験糖の終濃度が1%(w/v)となる培養液を調製した。培養液を5mLチューブ352063 (Falcon社製)に2mLずつ分注した。その後、Coy嫌気チャンバー(Coy社製)内に前記5mLチューブを一晩静置し培養液を嫌気状態に置換した。これに培養実験に供する24時間前にフィーカリバクテリウム・プラスニッチ MCC2041(2019年9月20日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292-0818、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、受託番号NITE BP-03027で国際寄託された)を接種し37℃で嫌気培養を行った前培養液を60μLずつ培養液に接種し24時間、37℃で嫌気培養を行った。
培養液の波長600nmにおける濁度を下方蛍光測定器(日立ハイテクサイエンス社製、SH9000-Lab)を用いて測定した。
【0060】
(3)結果
図1に、培養24時間後の培養液の濁度(OD
600)を示す。フィーカリバクテリウム・プラスニッチは、アルギン酸ナトリウムは資化できずほとんど増殖しなかったが、アルギン酸加水分解物では資化が認められ、さらにアルギン酸リアーゼ処理物1では著しい増殖が認められた。
【0061】
<試験例2>フィーカリバクテリウム・プラスニッチ単独培養2
(1)培地の調製
MilliQ水64.7mLに、試験例1で用いたアルギン酸リアーゼ処理物1、アルギン酸リアーゼ処理物2(「アルギン酸オリゴ糖」(Shandong社製))、又はアルギン酸リアーゼ処理物3(「アルギン酸オリゴ糖」(Runxin社製))をそれぞれ1g添加し、さらに糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、アルギン酸リアーゼ処理物1~3含有培地を取得した。
MilliQ水64.7mLに、市販のアルギン酸ナトリウム素材を1g添加し、さらに糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、アルギン酸ナトリウム含有培地を取得した。
MilliQ水64.7mLに、市販のグアーガム加水分解物(「サンファイバー」(太陽化学株式会社製))を1g添加し、さらに糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、グアーガム加水分解物含有培地を取得した。なお、グアーガム加水分解物は、腸内でフィーカリバクテリウム・プラスニッチ増殖能を有することが既に知られている。
MilliQ水64.7mLに、グルコース0.2g、マルトース0.2g、及びセロビオース0.2g(いずれもナカライテスク株式会社製)を添加し、さらに糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、陽性対照培地を取得した。
MilliQ水64.7mLに、糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、陰性対照培地を取得した。
【0062】
(2)単独培養
(1)で調製した各YCFA培地を用いて、試験例1と同様に、フィーカリバクテリウム・プラスニッチ MCC2041を培養した。
【0063】
(3)フィーカリバクテリウム・プラスニッチ資化画分の分析
薄層クロマトグラフィー(TLC)により、フィーカリバクテリウム・プラスニッチに資化されたオリゴ糖の重合度を分析した。
(2)の培養前及び培養24時間後の培養液を、それぞれ13000×g、4℃で3分間遠心分離して各上清を回収しサンプルとした。
薄層クロマトグラフィー用アルミプレート silica gel 60(Merck社製)に各サンプルを1μLずつスポットし、展開溶媒(ギ酸:1-ブタノール:蒸留水=6:4:1)で展開した。ジフェニルアミン・アニリン・リン酸試薬(100mLアセトン、1gジフェニルアミン、1mLアニリン、10mLリン酸)を噴霧した後、加熱し糖を呈色した。
【0064】
(4)結果
図2に、培養24時間後の培養液の濁度(OD
600)を示す。フィーカリバクテリウム・プラスニッチは、アルギン酸ナトリウムやグアーガム加水分解物を資化できずほとんど増殖しなかった。一方、アルギン酸リアーゼ処理物1~3ではいずれも、フィーカリバクテリウム・プラスニッチの著しい増殖が認められた。
図3に呈色後のTLCプレートを示す。アルギン酸リアーゼ処理物1~3含有培地では、重合度2~6のオリゴ糖に相当するスポットが、培養後に薄くなるか消失したことが認められた。このことから、フィーカリバクテリウム・プラスニッチは、アルギン酸リアーゼ処理物のうち特に重合度2~6のオリゴ糖を資化したことが分かる。
【0065】
<試験例3>フィーカリバクテリウム・プラスニッチ単独培養3
(1)培地の調製
市販のアルギン酸ナトリウム素材5gを96mLのMilliQ水で溶解した。そこに5mg/mLアルギン酸リアーゼS(ナガセケムテックス社製)水溶液を4mL添加し、40℃、24時間で酵素反応させた。次いで80℃で60分間加熱して酵素を失活させた。反応液を8000×gで20分間遠心し、上清を回収して、5%アルギン酸リアーゼ処理物4水溶液を得た。このアルギン酸リアーゼ処理物4水溶液20mLと2.24倍量のMilliQ水とを混合し、さらに糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、アルギン酸リアーゼ処理物4含有培地を取得した。
アルギン酸リアーゼS(ナガセケムテックス社製)の0.02質量%水溶液を、40℃、24時間インキュベートした後、80℃で60分間加熱して酵素を失活させた。水溶液を8000×gで20分間遠心し、上清を回収した。上清20mLと2.24倍量のMilliQ水とを混合して、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、培地調製用水溶液を得た。
上記調製した培地調製用水溶液全量に、アルギン酸ナトリウム素材を1g添加し、さらに糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、アルギン酸ナトリウム含有培地を取得した。
上記調製した培地調製用水溶液全量に、市販のグアーガム加水分解物(「サンファイバー」(太陽化学株式会社製))を1g添加し、さらに糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、グアーガム加水分解物含有培地を取得した。
上記調製した培地調製用水溶液全量に、グルコース0.2g、マルトース0.2g、及びセロビオース0.2gを添加し、さらに糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、陽性対照培地を取得した。
上記調製した培地調製用水溶液全量に、糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分間のオートクレーブ処理にかけて、陰性対照培地を取得した。
【0066】
(2)単独培養
(1)で調製した各YCFA培地を用いて、試験例1と同様に、フィーカリバクテリウム・プラスニッチ MCC2041を培養した。
培養液の波長600nmにおける濁度を、試験例1と同様に測定した。
【0067】
(3)フィーカリバクテリウム・プラスニッチ資化画分の分析
試験例2と同様に、TLCにより、フィーカリバクテリウム・プラスニッチに資化されたオリゴ糖の重合度を分析した。
【0068】
(4)結果
図4に、培養24時間後の培養液の濁度(OD
600)を示す。フィーカリバクテリウム・プラスニッチは、アルギン酸ナトリウムやグアーガム加水分解物を資化できずほとんど増殖しなかった。一方、アルギン酸リアーゼ処理物4では、フィーカリバクテリウム・プラスニッチの著しい増殖が認められた。
図5に呈色後のTLCプレートを示す。アルギン酸リアーゼ処理物4含有培地では、重合度2~6のオリゴ糖に相当するスポットが、培養後に薄くなるか消失したことが認められた。このことから、フィーカリバクテリウム・プラスニッチは、アルギン酸リアーゼ処理物4のうち特に重合度2~6のオリゴ糖を資化したことが分かる。
【0069】
<試験例4>アルギン酸ナトリウムに対する加水分解処理及びアルギン酸リアーゼ処理による分解度の検討
(1)試料の調製
試薬については、特に記載のない場合は試験例1と同じものを用いた。
市販のアルギン酸ナトリウム素材3gを99.7mLのMilliQ水で溶解しアルギン酸ナトリウム溶液を調製した。アルギン酸ナトリウム溶液に0.3mLの酢酸を添加後ただちに4NのNaOH溶液を添加してpHを6.2±0.1に調整して、酢酸含有アルギン酸ナトリウム溶液(試料a’)を得た。
酢酸含有アルギン酸ナトリウム溶液(試料a’)100mLに、6mg/mLのアルギン酸リアーゼS(ナガセケムテックス社製)水溶液を1mL添加し、40℃、3時間酵素反応させた。次いで80℃30分間加熱して酵素を失活させて、アルギン酸リアーゼ処理物溶液(試料b’)を得た。
アルギン酸リアーゼ処理物溶液(試料b’)に、酢酸を添加し pHを4.2±0.1に調整し、104℃、7.5時間のオートクレーブ処理した。その後、4NのNaOH溶液を加え、pHを6.2±0.1に調整し、アルギン酸リアーゼ処理物加水分解物溶液(試料c)の最終試料とした。
上記調製したアルギン酸ナトリウム溶液に0.3mLの酢酸を添加してpHを4.2±0.1に調整し、104℃、7.5時間のオートクレーブ処理にかけアルギン酸加水分解物溶液(試料d’)を得た。
アルギン酸加水分解物溶液(試料d’)に4NのNaOH溶液を加え、pHを6.2±0.1に調整した。試料b’の調製と同様の手順にて、アルギン酸加水分解物溶液(試料d’)のリアーゼ処理反応を行い、アルギン酸加水分解物リアーゼ処理物溶液(試料e’)を得た。
酢酸含有アルギン酸ナトリウム溶液(試料a’)、アルギン酸リアーゼ処理物溶液(試料b’)、アルギン酸加水分解物溶液(試料d’)、及びアルギン酸加水分解物リアーゼ処理物溶液(試料e’)それぞれに酢酸を添加してただちに4NのNaOH溶液を加え、pHを6.2±0.1に調整して、各最終試料(試料a、b、d、e)とした。各試料を得るために行った処理を表1に示す。
【0070】
【0071】
(2)各試料の分解度の分析
薄層クロマトグラフィー(TLC)により、試料a~eを分析した。
(1)で取得した各試料をMilliQ水で希釈した3%(w/v)希釈溶液をTLCサンプルとした。また、試験例1で用いたアルギン酸リアーゼ処理物1の1%(w/v)溶液を試料Mとして用いた。
TLCは試験例2と同様の手順にて行った。
【0072】
(3)結果
図6に呈色後のTLCプレートを示す。アルギン酸ナトリウムに対して、酵素分解を行う前又は後に加水分解を行うことにより、分解度が高まり、重合度の小さいオリゴ糖が得られやすいことが分かった。
【0073】
<試験例5>フィーカリバクテリウム・プラスニッチ単独培養4
(1)培地の調製
YCFA培地組成粉末に規定量の8割体積になるようにMilliQ水を加えて混合し、115℃、15分間、オートクレーブ処理にかけてYCFA培地調製液を得た。試験例4で取得した試料a~eの各溶液を115℃、15分でオートクレーブ処理にを行った。YCFA培地調製液にその体積の1/4量のオートクレーブ処理後の試料a~eを加えて、0.6質量%糖含有YCFA培地を調製した。
MilliQ水に、市販のグアーガム加水分解物(「サンファイバー」(太陽化学株式会社製))を添加して、さらに糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて115℃、15分でオートクレーブ処理を行い、0.6質量%グアーガム加水分解物含有培地を取得した。
MilliQ水64.7mLに、糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分でオートクレーブ処理を行いて陰性対照培地を取得した。
【0074】
(2)単独培養
(1)で調製した各YCFA培地を用いて、試験例1と同様に、フィーカリバクテリウム・プラスニッチ MCC2041を培養した。
【0075】
(3)フィーカリバクテリウム・プラスニッチ資化画分の分析
試験例2と同様に、TLCにより、フィーカリバクテリウム・プラスニッチに資化されたオリゴ糖の重合度を分析した。
培養液の波長600nmにおける濁度を、試験例1と同様に測定した。
【0076】
(4)結果
TLCの結果から、試料b~e含有培地では、2~6糖のオリゴ糖に相当するスポットが、培養後に薄くなったことが認められた。このことから、フィーカリバクテリウム・プラスニッチは、アルギン酸リアーゼ処理物のうち特に重合度2~6のオリゴ糖を資化したことが分かる。
図7に、培養24時間後の培養液の濁度(OD
600)を示す。フィーカリバクテリウム・プラスニッチは、アルギン酸ナトリウム(試料a)やグアーガム加水分解物を資化できずほとんど増殖しなかった。一方、アルギン酸リアーゼ処理物(試料b)では、フィーカリバクテリウム・プラスニッチの増殖が認められた。また、アルギン酸ナトリウムを加水分解した後にリアーゼ処理したアルギン酸加水分解物リアーゼ処理物(試料e)では、フィーカリバクテリウム・プラスニッチの著しい増殖が認められた。
アルギン酸ナトリウムをリアーゼ処理した後に加水分解したアルギン酸リアーゼ処理物加水分解物(試料c)では、試料bよりも重合度の小さいオリゴ糖量が多いにも関わらず(
図6参照)、フィーカリバクテリウム・プラスニッチの生育は鈍化した。これは、リアーゼ処理後の加水分解により飽和体のオリゴ糖が生成し、フィーカリバクテリウム・プラスニッチに資化されやすい非還元末端に不飽和体を有するオリゴ糖が相対的に少なくなったためと考えられる。
【0077】
<試験例6>アルギン酸ナトリウムに対する加水分解処理及びアルギン酸リアーゼ処理による分解度の検討
(1)試料の調製
50℃に保温したMilliQ水に市販のアルギン酸ナトリウム素材(「I-5(分子量約280万)」(株式会社キミカ製))を溶解して3質量%のアルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。酢酸(国産化学株式会社)を0.3質量%となるように添加してpHを4.2±0.1に調整した後、104℃、3.5時間又は7.5時間のオートクレーブ処理にかけアルギン酸加水分解物溶液を得た。さらに4NのNaOH溶液を加え、pHを6.2±0.1に調整した後に、アルギン酸リアーゼS(ナガセケムテックス社製)を当初のアルギン酸ナトリウム素材100gに対して0.2g添加し、40℃で、0.5、1、2又は3時間酵素反応させた。次いで80℃30分間加熱して酵素を失活させて、アルギン酸加水分解物リアーゼ処理物溶液を得た。
【0078】
(2)各試料の分解度の分析
薄層クロマトグラフィー(TLC)により、アルギン酸加水分解物リアーゼ処理物溶液を分析した。TLCは試験例2と同様の手順にて行った。
【0079】
(3)結果
図8に呈色後のTLCプレートを示す。アルギン酸ナトリウムに対して、酵素分解を行う前に加水分解を行うことにより、分解度が高まり、重合度の小さいオリゴ糖が得られやすいことが分かった。
なお、用いたアルギン酸ナトリウム素材「I-5」の水溶液は非常に粘度が高く、そのままではフィーカリバクテリウム・プラスニッチの培養や、アルギン酸リアーゼ処理に供するのに適さないところ、加水分解処理を行うことにより、アルギン酸リアーゼによる分解反応を行いやすくなる。その結果、フィーカリバクテリウム・プラスニッチに資化されやすくなり、その増殖を促進することができるプレバイオティクスとなり得る。
【0080】
<試験例7>ナノろ過膜(NF膜)処理によるアルギン酸リアーゼ処理物の分画
(1)アルギン酸オリゴ糖の入手及び分画
市販のアルギン酸カリウム素材(「KULV-L3(分子量4万~6万)」(株式会社キミカ製))400gを7.6Lの逆浸透膜透過水(RO水)を用いて溶解した。そこに1.6gのアルギン酸リアーゼS(ナガセケムテックス社製)を添加し、40℃にて6時間の酵素反応を行った。次いで85℃で10分間加熱して酵素を失活させアルギン酸カリウムリアーゼ処理物(以下、「AOSK」とも記載する。)を得た。得られたAOSKに12LのRO水を加え希釈し、該希釈溶液20LをNF膜(NTR7450、日東電工社製)に10kgf/cm3の圧力で通過させ分画した。NF膜透過液を回収しAOSKのNF膜透過物溶液を得た。該透過物溶液を凍結乾燥機(RL-B04型)を用いて凍結乾燥し、乾燥粉末(以下、「AOSK-NF」とも記載する。)17.02gを得た。
【0081】
(2)NF膜処理前後でのオリゴ糖含有割合の比較
(1)で取得したAOSKとAOSK-NFに含まれる重合度2~6のオリゴ糖の各存在量をHPLCにて測定した。AOSK水溶液及びAOSK-NF水溶液を調製し(各1質量%)、0.22μmフィルター(メルクミリポア社製)に通過させた後にHPLCに供した。システムはUltimate3000(Thermo社製)、検出はダイオードアレイ検出器(Thermo社製)、及びカラムはNH2P-50 4E(昭光サイエンス社製)を用いた。移動相は0.3Mリン酸二水素ナトリウムを溶解した蒸留水を用いて、イソクラティックで90分間測定した。流速は1.0mL/min、カラムオーブン温度は40℃に設定し、検出は235nmの吸収で行った。標品Mにはアルギン酸リアーゼ処理物1(「アルギン酸オリゴ糖」(北海道三井化学社製))の1%(w/v)溶液を使用した。
図9に、HPLCチャートにおける各ピーク面積を、対応する重合度のオリゴ糖ごとに、NF膜処理前後のアルギン酸カリウムリアーゼ処理物に含まれるオリゴ糖量として示す。NF膜処理で分画することにより、試料中のオリゴ糖に占める重合度2又は3のオリゴ糖の含有量が増加し、重合度4~6のオリゴ糖の含有量が減少したことが確認できた。
【0082】
(3)オリゴ糖重合度の分析
(1)で取得したAOSKとAOSK-NFに含まれるオリゴ糖の重合度をTLCにより分析した。
AOSK水溶液及びAOSK-NF水溶液を調製し(各1質量%)、TLC分析に用いた。TLCは試験例2と同様の手順にて行った。
図10に呈色後のTLCプレートを示す。AOSK-NFではAOSKに比べて重合度2又は3のオリゴ糖に相当するスポットが濃く、重合度4以上のオリゴ糖に相当するスポットが薄かった。このことから、NF膜処理で分画することにより、試料中のオリゴ糖に占める重合度2又は3のオリゴ糖の含有量が増加し、四糖~六糖の含有量が減少したことが確認できた。
【0083】
<試験例8>中和培養
(1)中和培養
糖を含有しないYCFA培地を100mL作成し、pHコントロール可能な培養装置Bio Jr.8(株式会社バイオット社製、BJR-25NA1S-8M)のベッセルに入れ、試験例7で取得したAOSK又はAOSK-NFを1g添加した。各培地をベッセルごと、115℃20分間のオートクレーブ処理にかけた。その後、無菌的にフィルター滅菌処理したビタミン液とシステイン液を添加し、被験試料の終濃度が1%(w/v)となる培養液を調製した。その後、窒素置換を一晩行うことで嫌気状態とし、生理食塩水で10%(w/v)に予め調整しておいた糞便溶液100μLを添加し、pHが6以下にならないよう1MのNa2CO3液でコントロールしながら68時間37℃で嫌気培養を行った。培養開始から0、16、20、24、48、及び68時間後に培養液を1mLずつ回収した。
なお、前記糞便は、通常の食餌を継続している健康なヒト(n=4;40歳代男性1名、30歳代男性2名、及び20歳代男性1名)から提供されたものである。
【0084】
(2)腸内細菌の解析
(1)で回収した培養液を15,000gで10分間遠心して沈殿を得た。前記沈殿を、450μLの抽出液(100mM Tris/HCl, 4mM EDTA, pH9.0)に懸濁した後、10%SDS溶液50μL、0.1mm径のガラスビーズ300mg、500μLのTE飽和フェノール(和光純薬)と混合し、FastPrep FP 100A(フナコシ社製)にてパワーレベル5、30秒の破砕処理を行った。次いで、14,000gで5分間遠心後400μLの上清を取り、250μLのフェノール・クロロホルム溶液(和光純薬)を加えて混合し、14,000gで5分間遠心後、250μLの上清を取得した。さらに2-プロパノールを250μL加えて得た沈殿を200μLのTris-EDTAバッファー(pH8.0)で溶解し、鋳型DNA溶液とした。
【0085】
次に細菌の16S rRNA遺伝子の第3~4可変領域を増幅させるための1stプライマーセット(配列番号1及び2)と、次世代シーケンサーMiseq (イルミナ社製)にて解析するために必要な2ndプライマーセット(配列番号3及び4、なおnは1度の解析で複数サンプルを処理するための任意の塩基配列(インデックス領域))を設計し、Life Technologies社のオリゴプライマー作成サービスによりプライマーを合成した。
鋳型DNA溶液及び1stプライマーセットを含む総液量を25μLとした反応液をTaKaRa Ex Taq HS kit(タカラバイオ社製)を用いて調製した。Veriti 200(Life Technologies社製)により、94℃3分の後、94℃30秒、50℃30秒、及び72℃30秒を20回、72℃10分のPCR反応を行った。得られたPCR産物を1%アガロースゲルにて電気泳動し、バンドパターンを確認した。続いて得られたPCR産物1μLを鋳型とし、2ndプライマーセットを用いて上述した条件と同様にPCRを実施した。PCRのサイクル数は15回とした。得られたPCR産物を1%アガロースゲルにて電気泳動し、バンドパターンを確認後、QIAquick 96 PCR Purification Kit(キアゲン社製)にて精製を行い、Quant-iT PicoGreen dsDNA Assay kit (Life Technologies社製)にて濃度を測定した。同濃度のDNA溶液を混合したものをMiseq v2 Reagent kit(イルミナ社製)に供し、Miseqにてシークエンス解析を実施した。
得られたペアエンド配列をQIIME software(version 2.0)(http://qiime.org/)にて腸内細菌叢の構成を解析し、その中の最優勢酪酸菌(フィーカリバクテリウム・プラスニッチ)の腸内細菌全体に占める割合をそれぞれ算出し、全被験試料の平均を求めた。
【0086】
図11にフィーカリバクテリウム・プラスニッチの腸内細菌全体に占める割合の経時変化を示す。NF膜処理で分画することで試料中のオリゴ糖に占める重合度2又は3のオリゴ糖の含有量を高めたことで、フィーカリバクテリウム・プラスニッチの増殖が促進し、腸内細菌全体における占有率が増加したことが認められた。
【0087】
<試験例9>フィーカリバクテリウム・プラスニッチ単独培養5
(1)培地の調製
YCFA培地組成粉末に規定量の8割体積になるように調整したMilliQ水を加えて混合し、115℃、15分でオートクレーブ処理にかけてYCFA培地調製液を得た。試験例6で取得したAOSK又はAOSK-NFをMilliQ水にそれぞれ添加して3%(w/v)オリゴ糖水溶液を調製し、115℃、15分でオートクレーブ処理した。YCFA培地調製液にその体積の1/4量のオリゴ糖含有水溶液を加えて、0.6質量%糖含有YCFA培地を調製した。また、MilliQ水64.7mLに、糖以外のYCFA培地組成粉末を規定量加えて、115℃、15分でオートクレーブ処理して陰性対照培地を取得した。
【0088】
(2)単独培養
(1)で調製した各YCFA培地を用いて、試験例1と同様に、フィーカリバクテリウム・プラスニッチ MCC2041を嫌気培養した。
図12に、培養24時間後の培養液の濁度(OD
600)を示す。フィーカリバクテリウム・プラスニッチは、AOSKよりもAOSK-NFにより増殖が促進されたことが分かる。
【配列表】